説明

ガスクロマトグラフ

【課題】応答速度を改善したにおい測定装置を検出器とするガスクロマトグラフを提供する。
【解決手段】ガスクロマトグラフにおける検出器として複数種のガスセンサ14から成るセンサ部13を備えたにおい測定装置10を用いると共に、センサ部13にカラム1からの流出ガスに加えて酸素および酸化性ガスを含むガスを供給するように構成する。
このように構成することにより、酸素がガスセンサ14を賦活すると共に、酸化性ガス(オゾン等)がガスセンサ14の表面に吸着されたにおい物質を酸化除去するので、ガスセンサ14の応答速度が、ガスクロマトグラフの検出器として実用可能な程度にまで改善される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガスクロマトグラフに関し、特に、従来のにおい嗅ぎガスクロマトグラフにおける人間の嗅覚による評価に代えてにおい測定装置を利用した人工におい嗅ぎガスクロマトグラフに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、においの測定法としてガスクロマトグラフを用いる成分分析による方法が知られている。これは、においを揮発性化学物質として捉える方法であるから、においの原因物質を特定するなどの目的には有効であるが、人間の嗅覚による官能値との相関を取ることは難しい。こうした欠点を補うため、ガスクロマトグラフににおい嗅ぎ装置を取り付けたにおい嗅ぎガスクロマトグラフが用いられた。これは、ガスクロマトグラフのカラムで分離されたにおい成分を検出器で検出するのと並行して、パネル(においを嗅ぐ人)がカラムから流出して来るガスのにおいを嗅ぎ、においの質や強さを評価するようにしたものである。
【0003】
一方、複数種のガスセンサを用い、各ガスセンサの試料ガスに対する応答値に多変量解析を行い人間の官能評価と対比することにより、においの質や強さを評価する技術の開発が進められ、近年、その技術を利用したにおい測定装置が実用化されるに至った(例えば、非特許文献1参照)。
このようなにおい測定装置は、においを成分に分離せずに混合臭として捉え、においの質の違いや強さを人間の嗅覚に換算した指標値として出力することが可能であって、云わば「人工の鼻」とも云うべき測定装置である。
【0004】
【非特許文献1】カタログ「島津におい識別装置FF−2A」島津製作所、2005年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記におい嗅ぎガスクロマトグラフにおいては人間の嗅覚を利用して測定するため、パネルの疲労を伴い、また嗅覚にはにおいに順応する特性があるので時間経過と共に評価値が変化する等の問題がある。さらにまた、試料が人体に有害な成分を含んでいる場合には適用できない。こうした問題点を解消するために、人間に代わって前記の「人工の鼻」を利用すること、即ち、ガスクロマトグラフの検出器としてにおい測定装置を用いることに想到する。しかし、におい測定装置のガスセンサは、ガスクロマトグラフで一般に用いられる水素炎イオン化検出器などに比べて応答速度が遅く、ガスクロマトグラフの検出器としての使用に耐えないことが問題点であった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、応答速度を改善したにおい測定装置を検出器とする実用的なガスクロマトグラフ、言い換えれば「人工におい嗅ぎガスクロマトグラフ」を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、ガスクロマトグラフにおける検出器として複数種のガスセンサから成るセンサ部を備えたにおい測定装置を用いると共に、センサ部にカラムからの流出ガスに加えて酸素および酸化性ガスを含むガスを供給するように構成する。
このように構成することにより、酸素がガスセンサを賦活すると共に、酸化性ガス(オゾン等)がガスセンサ表面に吸着されたにおい物質を酸化除去するので、ガスセンサの応答速度が、ガスクロマトグラフの検出器として実用可能な程度にまで改善される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、人間の嗅覚に頼っていたにおい嗅ぎ部を機械に置き換えた人工におい嗅ぎガスクロマトグラフを提供することができるので、複雑な混合臭を効率よく、且つ、客観的に測定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明が提供するガスクロマトグラフ装置の特徴はにおい測定装置のセンサ部に酸素および酸化性ガスを含むガスを供給するように構成された点である。
従って、最良の形態の基本的な構成はこれら検出器としてにおい測定装置を用いる構成とセンサ部に酸素および酸化性ガスを含むガスを供給する構成を具備するガスクロマトグラフ装置である。
【実施例1】
【0010】
図1に本発明の一実施例であるガスクロマトグラフの構成を示す。以下図示例に従って説明する。
同図において、キャリアガスボンベ4から供給されるキャリアガス(例えば、ヘリウム)は、流量制御部3で制御されてオーブン5内に設けられた試料導入部2とカラム1を経て検出器であるにおい測定装置10のセンサ部13を通過して流れる。におい測定装置10は、内部に複数種のガスセンサ14が配設されたセンサ部13と、ガスセンサ14の電気抵抗を測定し、その測定値に対して所定の演算を行う測定演算部12、およびこれらを予め設定したプログラムに従って制御する制御部11等で構成される。
【0011】
ガスセンサ14は、その表面がにおい成分を含むガスに曝されると電気抵抗が変化する。カラム1から流出するキャリアガスがにおい成分を含まないときの抵抗値(ベース抵抗値)とにおい成分が含まれるときの抵抗値(サンプル抵抗値)との比を測定演算部12で計算して出力信号とし表示記録部15で表示/記録する。
【0012】
センサ部13は、その内部を測定対象となる試料ガス(この場合は、カラム1から流出する試料を含むキャリアガス)が通過するように構成され、ガスセンサ14はこの試料ガスに曝される。センサ部13内での試料ガスの置換を促進して応答を改善するためのメークアップガスとして、ガス供給手段20からセンサ部13に空気が供給される。空気は図示しないポンプ等で加圧され流量制御器21で調節されて供給される。ガスセンサ14は酸素雰囲気中でその活性が維持されるので、メークアップガスとしては酸素を含むガスであることが必要であり、そのため空気を利用するのであるが、空気の代わりにボンベ入りの酸素と窒素を混合して供給するようにしてもよい。
【0013】
メークアップガスにはガス供給手段20においてオゾンが混合される。オゾンは図示しないボンベ等から供給され、流量制御器22で、例えば空気に対し0.1%程度の濃度となるように調節されて電磁弁23を経由して空気に混合される。これにより、電磁弁23が開いているときのメークアップガスは上記濃度のオゾンを含むが、電磁弁23が閉じているときのオゾン濃度は0となる。
【0014】
上記のように構成された本実施例装置は以下のように動作する。
試料導入部2から導入された試料はオーブン5内で所定温度に保たれたカラム1により成分に分離されて逐次センサ部13に導かれ、ガス供給手段20から供給されるメークアップガスと混合してガスセンサ14に接触し、ガスセンサ14はこれに応答して出力を生じる。
メークアップガスにオゾンが含まれないときのガスセンサ14の応答出力の一例を図3(A)に示す。同図に示すように、応答の立ち上がりは、メークアップガスの効果もあって十分に速いが、立ち下がりの遅れが著しい。立ち下がり応答の遅れの原因は、ガスセンサ14の表面に吸着されたにおい成分が容易に脱離しないためと考えられる。
【0015】
本実施例では、ガスセンサ14の応答出力がピークの頂点を過ぎた時点(同図中の矢印1)で制御部11を介して電磁弁23を開くことによりメークアップガスにオゾンを添加する。添加されたオゾンがガスセンサ14の表面に吸着されたにおい成分を酸化して除去するので、立ち下がり応答が速くなる。測定演算部12ではガスセンサ14の出力値のピーク値に対する比を刻々に算出し、その値が例えば20%まで下がった時点(同図中の矢印2)で制御部11を介して電磁弁23を閉じ、オゾンの供給を停止する。こうしてピークの立ち下がり期間だけセンサ部13の内部をオゾン雰囲気とすることで立ち下がり応答が改善される。図3(B)は、上記のようにピークの立ち下がり期間だけセンサ部13にオゾンを供給した場合のガスセンサ14の応答出力の一例を示す。この場合のオゾンを供給する期間は、ガスセンサ14の出力値がピークから約3%低下したときから約80%低下するまでの間である。
【0016】
図1の構成で電磁弁23を省き、オゾンを常時流すようにしても、ガスセンサ14の立ち下がり応答の改善効果はある。しかし、ガスセンサ14に感応する前のにおい成分の一部がオゾンで酸化されて消失することにより検出器としての感度が低下する可能性があるので、上記のようにピークの立ち下がり期間だけオゾンを供給する方がよい。
【実施例2】
【0017】
図2は本発明の他の実施例を示す。同図においては図1と同機能の構成要素には同一符号を付してあるので、再度の説明を略す。
同図が図1と相違する点は、ガス供給手段20において空気の流路の一部を紫外線透過性の石英管25で構成し、これを透して紫外線ランプ24から紫外線を照射するようにしたことである。紫外線照射を受けた酸素の一部がオゾンに変化するので、ボンベ等のオゾン源を用意しなくてもメークアップガスにオゾンを加えることができる。ピークの立ち下がり期間だけ紫外線ランプ24を点灯するように制御部11から制御することにより、実施例1の場合と同様の作用効果が得られる。
【0018】
以上、実施例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の変形の可能性がある。例えば、ピークの立ち下がり期間を判定する方法としては、上記の対ピーク値比のレベルで判定する方法のほか、ガスセンサ14の応答値に微分演算を行い、微分値が負となる期間を立ち下がり期間とする方法もある。いずれの方法であってもガスセンサ14の応答値に対して或る演算を行いその結果に基づいてオゾン濃度を制御する点は共通である。
また、オゾン濃度の制御についても、電磁弁23でオンオフ制御するものに限らず、図1における流量制御器22として電子式流量制御器を用い、これを制御部11から電気信号で制御して濃度を多段階に、或いは連続的に変えるようにしてもよい。
さらにまた、オゾンの代わりに二酸化窒素等の酸化性ガスを用いる可能性もある。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明はにおいの測定に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施例を示す図である。
【図2】本発明の他の実施例を示す図である。
【図3】本発明装置の応答出力の一例を図である。
【符号の説明】
【0021】
1 カラム
2 試料導入部
3 流量制御部
4 キャリアガスボンベ
5 オーブン
10 におい測定装置
11 制御部
12 測定演算部
13 センサ部
14 ガスセンサ
15 表示記録部
20 ガス供給手段
21 流量制御器
22 流量制御器
23 電磁弁
24 紫外線ランプ
25 石英管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流量制御されたキャリアガスが流れるキャリアガス流路と、該キャリアガス流路に試料を導入する試料導入部と、導入された試料をその成分に分離するカラムと、分離された各成分を検出する複数種のガスセンサを備えたセンサ部と、該センサ部に試料を含むガスを流したときの各ガスセンサの応答値を解析してにおいを測定する測定演算部とを備えたガスクロマトグラフにおいて、前記センサ部に前記カラムから流出するガスに加えて酸素および酸化性ガスを含むガスを供給するガス供給手段を設けてなるガスクロマトグラフ。
【請求項2】
ガス供給手段が、供給するガス中の酸化性ガスの濃度を少なくとも2段階に制御する濃度制御手段を備えて構成されることを特徴とする請求項1に記載のガスクロマトグラフ。
【請求項3】
ガス供給手段が、酸素を含むガスに紫外線を照射する紫外線照射手段を備えて構成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガスクロマトグラフ。
【請求項4】
ガスセンサの応答値に対して前記測定演算部で行う所定の演算結果に基づいて作動するように前記濃度制御手段が構成されていることを特徴とする請求項2に記載のガスクロマトグラフ。
【請求項5】
ガスセンサの応答値に対して測定演算部で行う所定の演算が微分演算またはピーク値に対する比率演算であって、該演算の結果が所定レベルに達したときに前記濃度制御手段が作動するように構成されていることを特徴とする請求項4に記載のガスクロマトグラフ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−40725(P2007−40725A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−222302(P2005−222302)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)