説明

ガスクロマトグラフ

【課題】吸気口7の直上に排気口8が配置されたオーブンの冷却時に、排気の逆流を抑えて冷却速度を向上したガスクロマトグラフを提供する。
【解決手段】オーブンの排気口8に排気流を斜め上方に向けて偏向する偏向手段を設ける。偏向手段の具体的な構成は、排気口8に付設した斜め上方に向けて排気を導く延長ダクト10である。これにより、オーブン冷却時に高温の排気が斜め上方に偏向されて排出されるので、排気の逆流入が抑えられ、冷却速度が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガスクロマトグラフのオーブンに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスクロマトグラフは、試料成分を分離する役割を担うカラムを収容しこれを所定温度にコントロールするオーブン(恒温槽)を備えている。一般的なガスクロマトグラフ用オーブンは前面に扉を有する箱形の断熱容器で構成される。
【0003】
図3に従来のガスクロマトグラフ用オーブンの構造の一例を断面図で示す。
同図に示すように、箱形のオーブン筐体2は、金属板の間に断熱材を挟んだ槽壁23で構成され、槽壁23と前面の扉1で囲われた内部空間である槽室24にカラム4が収められ、カラム4の後方(図では右方)には加熱用ヒータ(図示しない)と槽内空気を循環させるファン3が設けられる。ファン3を回すモータ31はオーブン筐体2の外部背面に設けられ、オーブン筐体2の上部には、分析すべき試料をカラム4に導入する試料導入部5とカラム4で分離された試料成分を検出し電気信号として取り出す検出器6が設けられる。
【0004】
ガスクロマトグラフィでは、所定のプログラムに従ってオーブンの温度を次第に上げながら分析する昇温分析法が広く行われるが、この場合、分析終了後に次の分析を始めるためにはオーブンの温度を下げる必要がある。オーブンを冷却するために、オーブン筐体2の背面に開口する吸気口7と排気口8とが設けられ、それぞれ吸気通路72、排気通路82を介して槽室24に連通している。冷却時には、吸気通路72、排気通路82の途中にそれぞれ設けた扉71、81を開いて、槽外の室温の空気をファン3の力で吸入し、且つ、槽内の高温の空気を排出することで急速な冷却を可能にする。
なお、図中の矢印はオーブン冷却時の空気の流れを模式的に示す。
【0005】
扉71、81は、特許文献1にも記されている通り、共通の垂直なヒンジ軸91を介してモータ9により同時に開閉される。この開閉機構からの位置的制約により、吸気口7と排気口8とは隣接して設けられ、且つ、上昇する熱気が吸気に混入することを避けるため、排気口8は吸気口7の直上に配置されるのが一般的である。
【特許文献1】特開平7−83896号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に加熱された空気中には乱流が生じるので、上記の従来構成においても、排気口8から排出される高温の空気は全体的には上昇するが、一部は乱流により下方にも回り込み、吸気口7から再び槽内に吸入される。この結果、冷却効率が低下し、冷却速度が遅くなる。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、オーブン冷却時に排気の逆流を抑え冷却速度を向上したガスクロマトグラフを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、オーブンの排気口に排気流を斜め上方に向けて偏向する偏向手段を設ける。偏向手段の具体的な構成は、排気口外に付設した斜め上方に向けて排気を導く延長ダクト、または、排気口外に付設した斜め上方に傾斜した偏向板、またはこの偏向板を複数枚平行に配列したルーバー、或いはまた、排気口直近で排気流の下流に向かって上り勾配となるオーブン筐体内の排気通路である。これにより、オーブン冷却時に高温の排気が斜め上方に排出されるので、排気の逆流入が抑えられ、冷却速度が向上する。
【発明の効果】
【0008】
本発明は上記のように構成されているので、ガスクロマトグラフ分析においてオーブンの冷却時間が短縮され、作業能率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、オーブンの排気口に排気流を斜め上方に向けて偏向する偏向手段を設けたガスクロマトグラフである。以下、実施例1に最良の実施形態を説明する。
【実施例1】
【0010】
図1に本発明の一実施例を示す。同図において図3と同符号を付したものは図3と同一物であるから、ここで再度の説明は省略する。本実施例が従来例と相違する点は、排気口8の外側に延長ダクト10を付設した点である。
延長ダクト10は、槽内と排気口8とを連通する排気通路82を排気口8の外まで延長するダクト(導気管)であって、上方に傾斜して設けられた板金製の中空角筒である。これにより、オーブン冷却時の排気は排気口8を通過後、上方に偏向され、延長ダクト10の末端から斜め上方に排出されるので、下方への回り込みは従来例と比べて減少する。さらに、排気の出口(延長ダクト10の末端)から吸気口7までの距離が延びる効果も加わるので、排気の逆流入が抑えられる。
【0011】
なお、延長ダクト10の傾斜角度は、余り大きくすると排気抵抗が増加してかえって冷却効率を低下させるので、20〜45度が適当と考えられる。
また、点線で示すように、吸気口7にも別の延長ダクト10aを斜め下方に傾斜させて付加してもよい。但し、吸気側の延長ダクト10aの効果は限定的であり、吸気抵抗の増加というマイナス効果を勘案しながら設置する必要がある。
【0012】
図2に本発明の幾つかの変形例を示す。同図はいずれもオーブンの後方部分のみを示し、図示されない前方(図では左方)部分は図1または図3と同様である。
図2(A)は、図1における延長ダクト10を簡略化して、排気口8と吸気口7との境界に1枚の平らな金属板から成る偏向板11を斜め上方に傾けて装着したものである。排気は偏向板11に沿って斜め上方に排出され、しかも、下方への回り込みが偏向板11により妨げられるから吸気口7への逆流は減少する。
この構成は、図1の構成に比べて構造が簡単で、排気抵抗の増加も少ないことが特徴である。なお、偏向板11としては、平板に限らず、下に凸の弧を描いて湾曲させた板を用いてもよい。
【0013】
図2(B)は、同図(A)における偏向板11よりも幅の狭い複数の偏向板12を平行に配列してルーバーを形成した例である。(A)の場合と同様に、排気は偏向板12の作用で斜め上方に排出され、その上、ルーバーの整流作用で乱流が抑制されるから、下方への回り込みも抑えられる。
図1または図2(A)の構成と比べて、オーブン筐体2の後方への構造物の突出が少ない利点がある。
【0014】
図2(C)は、オーブン筐体2内の槽内から排気口8に至る排気通路82の排気口8直近の部分を排気の流れ方向に上り勾配となるように傾斜させた例である。この構成により
排気は排気通路82の上り勾配に沿って斜め上方に偏向されて排気口8から排出される。
この構成は、オーブン筐体2内に偏向手段が設けられているので、オーブン筐体2の外に突出する付加物が無い利点がある。
【0015】
なお、上記説明中の数値、材料名は例示であって、本考案をこれに限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明はガスクロマトグラフに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施例を示す図である。
【図2】本発明の変形実施例を示す図である。
【図3】従来の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0018】
1 扉
2 オーブン筐体
3 ファン
4 カラム
5 試料導入部
6 検出器
7 吸気口
8 排気口
9 モータ
10 延長ダクト
10a 延長ダクト
11 偏向板
12 偏向板
23 槽壁
24 槽室
31 モータ
71 扉
72 吸気通路
81 扉
82 排気通路
91 ヒンジ軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラムを収容して分析所定の温度に制御するオーブンを有し、前記オーブン内に外部から空気を取り込む吸気口と該吸気口の直上に位置しオーブン内の空気を外部に排出する排気口とを前記オーブンの背面外壁に備えたガスクロマトグラフにおいて、前記排気口に排気流を斜め上方に向けて偏向する偏向手段を設けたことを特徴とするガスクロマトグラフ。
【請求項2】
偏向手段が、排気口外に付設された、排気流を前記排気口から斜め上方に導く延長ダクトで構成される請求項1記載のガスクロマトグラフ。
【請求項3】
偏向手段が、排気口外に付設された、排気流の下流に向かって上に傾斜する偏向板、または、平行に配列された複数の前記偏向板で構成される請求項1記載のガスクロマトグラフ。
【請求項4】
偏向手段が、排気口直近で排気流の下流に向かって上り勾配となる、オーブン筐体内の排気通路である請求項1記載のガスクロマトグラフ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−66035(P2010−66035A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−230621(P2008−230621)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)