説明

ガスクロマトグラフ

【課題】ガスクロマトグラフにおける試料注入に際して、セプタムパージ流路からの試料の損失を抑えつつ、セプタムからのブリーディングの影響も極力抑制する。
【解決手段】キャリアガスは試料気化室1を貫流してカラム2へ流れ、その一部はセプタム5の近傍で分岐するセプタムパージ流路4から排出される。試料注入の直前にセプタムパージ流量を絞り、試料がカラム2に移行した後に本来のセプタムパージ流量に戻すようにプログラム流量制御手段11で制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガスクロマトグラフに関し、特にガスクロマトグラフの試料導入システムに関する。
【背景技術】
【0002】
図4は、ガスクロマトグラフにおける試料導入の概念を示す図である。
同図において、1は加熱された金属円筒から成る試料気化室であって、その頂部にはシリコンゴム等から成るセプタム5が装着され、底部にはカラム2が接続されている。キャリアガスはキャリアガス導入路9から流入して、その大部分は下方に向かいカラム2およびスプリット流路3へ流れる。キャリアガスの一部は上方へ向かって流れ、セプタム5の近傍で分岐して大気空間に通じるセプタムパージ流路4を通って排出される。
【0003】
上記構成において、試料の導入(サンプリング)は以下のように行われる。
試料は、セプタム5を刺通したシリンジ針(図示しない)を介して下向きのキャリアガスの流れUの中に注入される。試料はそこで気化しその蒸気の大部分はキャリアガスと共にスプリット流路3を通って排出され、残りの小量の試料蒸気がカラム2へ導入される。これはスプリット試料導入法と呼ばれ、カラム負荷量の小さいキャピラリカラムに適した方法であるが、分析に供される試料量が少ないため高感度を必要としない高濃度試料の分析に用いられる。
【0004】
スプリット分析では感度が足りない低濃度試料を分析する場合は、スプリットレス試料導入法が用いられる。この方法は、特許文献1にも従来技術として説明されているが、カラム2の初期温度を試料溶媒の沸点より少し低い温度に設定し、スプリット流路3を閉じてから試料を注入する。次に、気化させた試料のほとんどがカラム2に移行した後(サンプリング期間後)に、スプリット流路3を開いて試料気化室1内を掃気する(これにより溶媒ピークのテイリングを抑える)と共にカラム2の温度を上げてその中に凝縮された試料を再び気化させ分離を行う方法である。
【0005】
この他、スプリット流路3を閉止し、或いはスプリット流路3を持たない試料気化室1を用いて、注入した試料を全てカラム2に導入する全量試料導入法もある。
【0006】
セプタム5は、加熱に伴いその材質が分解することにより微量のガスを発生する。この現象はブリーディングと呼ばれ、これにより発生するガスがカラムに混入すると分析を妨害するゴーストピークを生じる。図4において上方に向かうキャリアガスの流れVは、ブリーディングによりセプタム5から発生するブリーディングガスをセプタムパージ流路4を経て大気空間に排出することによりゴーストピークを抑える役割を担う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平09−264887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の試料導入法、特にスプリットレス試料導入法において、気化室内で気化して体積が急速に膨張した試料蒸気は、その一部が逆流してセプタムパージ流路から溢出することがある。こうして試料の一部が失われることによりピークが小さくなる(感度低下)ばかりでなく、分析の再現性、定量性が劣化することが問題であった。これに対処するために、セプタムパージ流量を極力抑え、或いはセプタムパージを完全に止めてしまうこともあったが、その場合はゴーストピークの発生を受忍しなければならないというジレンマがあった。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、セプタムパージ流路からの試料の損失を抑えつつ、セプタムからのブリーディングの影響も極力抑制できるガスクロマトグラフを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために、試料注入の直前にセプタムパージ流量を絞り、試料がカラムに移行した後に本来のセプタムパージ流量に戻すようにプログラム制御する流量制御手段を備える。即ち、本発明装置は、試料注入時を挟む所定期間中はセプタムパージ流路を流れるガス流量を減少させるプログラム流量制御手段を備えたことを特徴とするガスクロマトグラフである。
【0011】
上記構成によって、注入された試料の蒸気が試料気化室内に存在する間(サンプリング期間内)はセプタムパージ流量を絞ることにより試料の損失を防ぎ、その期間経過後はセプタムパージ流量を増加させることによりセプタムからのブリーディングの影響を抑えることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は上記のように構成されているので、セプタムパージ流路からの試料の損失を抑えることで感度低下を防ぐと共に再現性、定量性を向上させることができ、しかもセプタムからのブリーディングに起因するゴーストピークも最小限度に抑えることができる。さらに溶媒ピークのテイリングも低減される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施例を示す図である。
【図2】本発明の効果を示す分析実例である。
【図3】本発明の効果を示す分析実例である。
【図4】試料導入の概念を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に本発明の一実施例を示す。
同図において、キャリアガスは流量制御部8で調節されキャリアガス導入路9を経て試料気化室1に導入され、試料気化室1を貫流してカラム2およびスプリット流路3へ流れている。キャリアガスの一部はセプタム5の近傍で分岐するセプタムパージ流路4から流量制御部7を経て大気空間に排出される。流量制御部6および7はプログラムコントローラ10により制御されて、それぞれスプリットガス、セプタムパージガスの流量を調節する。
なお、図1にも示す通り、流量制御部7とプログラムコントローラ10とを併せてプログラム流量制御手段11とする。
【0015】
図1の構成において、例えばスプリットレス試料導入は以下の手順で行われる。
(1)分析を開始できる状態に装置を準備する。即ち、カラム2の温度は昇温分析の初期温度に、キャリアガス、スプリットガス、セプタムパージガスの流量はそれぞれ分析の所定値に調節された状態とする。
(2)流量制御部6でスプリットガスを止め、同時に流量制御部7でセプタムパージガスを止めるかまたは流量を絞った後、セプタム5を通してシリンジ(図示しない)で液体試料を試料気化室1に注入する。
(3)試料気化室1内で気化した試料蒸気がカラム2に移行し終えたタイミング(通常、試料注入から1分程度)で、プログラムコントローラ10からの信号により流量制御部6および7の設定を(1)の状態に戻すプログラム制御を行う。
(4)カラム2の昇温をスタートさせ、分析を行う。
【0016】
上記(1)および(4)の過程では、試料気化室1内に試料が存在しないので試料の溢出を危惧することなく充分な流量でセプタムパージを行うことができるから、セプタム5から発生するブリーディングガスがカラム2に入ることはない。
一方、試料気化室1内に試料が存在する(2)(3)の過程では、セプタムパージの流量が0または微量に絞られているから試料の溢出は抑えられる。但し、この状態ではセプタム5から発生するブリーディングガスも試料と共にカラム2に導入されるが、この過程は時間的に僅か1分間程度であるから、その間にカラム2に入る量は微量であって殆ど分析に妨害を与えるには至らない。
【0017】
上記の如く、本発明はセプタムパージガスの流量をプログラム制御することによって、セプタムパージ流路4からの試料の溢出を抑えると共に、ゴーストピークの原因となるセプタム5からのブリーディングガスがカラム2に入ることも極力抑制するものである。
【0018】
図2および図3は、本発明の効果を示す分析結果である。
図2は、セプタムパージ条件を変えた場合の出力信号の変化を示すクロマトグラムである。図中、aは本発明装置においてセプタムパージに前述のプログラム制御を行った場合、bは、同一装置を用いながら従来と同様にセプタムパージにプログラム制御を行わずに所定量のセプタムパージガスを常時流し続けて分析した場合、また、cはセプタムパージを止めて行った場合の分析結果である。
【0019】
図2からわかるように、本発明によれば、常時セプタムパージを行う従来の場合に比べてピークが7%程高くなり、セプタムパージを止めた場合(試料の溢出がない場合)と殆ど変わらない。
【0020】
図3は、ゴーストピークの出現状況を見るために図2の横軸を縮小、縦軸を拡大したクロマトグラムであって、各図中で2〜3分に現れる幅広いピークは溶媒ピーク、8分付近の幅の狭いピークが図2にも示す主成分ピークである。同図(A)は本発明の場合、即ちセプタムパージに前述のプログラム制御を行った場合、(B)(C)は従来の場合で、それぞれセプタムパージガスを常時流し続けた場合、およびセプタムパージを止めた場合のクロマトグラムであり、いずれもセプタムパージ以外の分析条件は同一である。
【0021】
同図(C)からこの分析条件ではゴーストピークの原因となるブリーディングガスが発生していることがわかるが、本発明による場合(A)ではゴーストピークは殆ど認められず、常時セプタムパージを行う従来の場合(B)とほぼ同様のゴーストピーク抑制効果が得られることがわかる。
【0022】
図2および図3の分析例において、試料はヘキサン溶媒で濃度約50ppmに希釈したnテトラデカンを3μL注入した。セプタムパージ流量は10mL/min(常時)、および0.5mL/min(絞ったとき)であり、その他の分析条件は下記の通りである。
カラム:ZB−1 長さ30m 内径0.32mm
カラム温度:50〜200°C(昇温レート30°C/min)
気化室温度:280°C
キャリアガス:ヘリウム
検出器:FID
【0023】
なお、上記はスプリットレス試料導入法を例示して説明したが、本発明はスプリット試料導入法、または全量試料導入法にも適用することができる。即ち、スプリット試料導入法の場合は図1において流量制御部6の流量設定を一定値に保ち、全量試料導入法の場合はこれを0に保ちながら、セプタムパージに対してのみ前述のプログラム制御を行えばよい。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明はガスクロマトグラフに利用できる。
【符号の説明】
【0025】
1 試料気化室
2 カラム
3 スプリット流路
4 セプタムパージ流路
5 セプタム
6 流量制御部
7 流量制御部
8 流量制御部
9 キャリアガス導入路
10 プログラムコントローラ
11 プログラム流量制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セプタムを通して試料が注入される試料気化室を有し、キャリアガスが該試料気化室を貫流してカラムへ流れる流路が構成されると共に、前記セプタムの近傍で前記試料気化室から分岐して大気空間に連通するセプタムパージ流路を備えて成るガスクロマトグラフにおいて、試料注入時を挟む所定期間中は前記セプタムパージ流路を流れるガス流量を減少させる流量制御手段を備えたことを特徴とするガスクロマトグラフ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−122864(P2011−122864A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279179(P2009−279179)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)