説明

ガスクロマトグラフ

【課題】オーブンの給排気口が閉じているか否かを簡単にチェックして無駄なエネルギー消費を少なくする。
【解決手段】記憶手段24に予め定めたヒータ12の標準消費電力を設定温度の関数として記憶しておき、ヒータ電力測定手段23により実測した任意の設定温度におけるヒータ消費電力の実測値と前記関数から求められる当該設定温度における標準消費電力とを比較して前者が後者を所定の超過限度を超えて上回るときはフラップ13の閉止不全と判定するフラップ閉止チェック手段25を備えてガスクロマトグラフを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータ制御されたガスクロマトグラフに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスクロマトグラフは分析用のカラムを収容してこれを分析所定の温度に加熱制御するオーブンを有する。オーブンはヒータを備え、温度調節器によりこのヒータへの供給電力が制御される。また、オーブンは冷却のため内部の熱気を排出する排気口と、外部の冷気を取り込む給気口とが設けられ(以下、これらを一括して給排気口と記す)、それぞれ開閉式の扉(以下、フラップと記す)を備え、パルスモータ等によりその開度が制御される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
オーブンの温度は一般に室温付近から400℃程度まで制御可能であるが、50℃程度以上の温度域では給排気口をほぼ閉じた状態で制御され、それ以下の室温近辺の温度域ではフラップを適度に開いて温度制御を行う。また、高温での分析後、次の分析に備えてオーブン温度を下げるときはフラップを全開する。
【0004】
フラップの開閉制御は一般にオープンループ制御であり、特許文献1にも記されているようにパルスモータ特有のバックラッシュの問題もあって、フラップの開閉を繰り返すうちにフラップの位置ずれが生じ、フラップが閉じるべきときに僅かに隙間が開いた状態が生じ、熱漏れが増加することがある。しかし、その状態でも、温度調節器が自動的にヒータ電力を増加させることにより設定温度が維持され、分析は支障なく行われることが多い。
【0005】
但し、設定温度が高温(例えば300℃以上)である場合にフラップが完全に閉じていないと、熱漏れのため設定温度まで昇温できないとか、設定温度に到達するまで非常に長時間を要する等の問題が起こる。こうした事態に対処するため、所定時間内に設定温度に達しない場合は、フラップが閉じていないと判断して警報を発する仕組みを備えた装置もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−139483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の如くフラップが完全に閉じていなくても、その程度が甚だしくない場合は分析遂行に殆ど支障がないので、オペレータもこれに気付かずそのまま分析を続けていることが多いのが実情である。しかし、この状態は、正常な場合に比べて消費電力が大きいので、運転コストが増大するばかりでなく、地球環境問題も絡めてエネルギー節減が求められる昨今の情勢に照らしても好ましいことではない。
【0008】
フラップを完全に閉ざすために、従来からフラップを強制閉止する手段が用意されている。これは「初期化」とも呼ばれる操作であって、フラップを駆動するパルスモータに、フラップが完全に閉じてパルスモータが負荷の増大により脱調を起こすまで駆動パルスを送り続ける方法である。この操作により、機構的不具合がない限りフラップを完全に閉ざすことは可能であるが、フラップが閉じているかどうかをチェックする手段が無いことが問題であった。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、オーブンの給排気口が閉じているか否かを簡単にチェックできる手段を備えたガスクロマトグラフを提供し、以てエネルギー節減の一助とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明になるガスクロマトグラフは上記課題を解決するために、ヒータの電力を実測する手段と、予め定めた前記ヒータの標準消費電力を設定温度の関数として記憶する記憶手段と、任意の設定温度における前記ヒータの電力の実測値と前記関数から求められる当該設定温度における標準消費電力とを比較して前者が後者を所定の超過限度を超えて上回るときは前記フラップの閉止不全と判定するフラップ閉止チェック手段を備えて構成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明は上記のように構成されているので、オペレータはフラップが閉じていないことを適時に掌握して、フラップの開閉を正常化するための手立てを講ずることが可能となり、これにより電力の浪費を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施例を示すブロック図である。
【図2】ヒータの標準消費電力の一例をグラフ化した図である。
【図3】フラップ閉止チェックの動作過程を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に、本発明の一実施例であるガスクロマトグラフの構成のうち、特に本発明に直接関わる部分のみをブロック図で示す。
同図において、1はオーブンであって、その内部にカラム11が収容され、ヒータ12で分析所定の温度に加熱される。オーブン1の背面には給排気口を開閉する扉であるフラップ13が設けられ、フラップ駆動モータ14で開閉される。なお、実際にはフラップ13は、前述の通り給気用と排気用がそれぞれ設けられるが、この図では便宜上1個のフラップ13で代表させてある。
【0014】
2はこのガスクロマトグラフをコントロールする制御部であって、内蔵または外付のコンピュータで構成される。温度制御部21は、前述したヒータ12に供給する電力を制御してオーブン1の温度を所定値に保つ。フラップ制御部22は、温度制御部21からの信号を受けてフラップ駆動モータ14に駆動パルスを送ることでフラップ13の開度を調節する。ヒータ電力測定手段23は、ヒータ12に流れる電流を測定し、その電流値と既知のヒータ12の抵抗値からオームの法則によりヒータ12で消費される電力を算出する。
【0015】
ヒータ12の消費電力については、フラップ13の開閉制御が正常に行われている場合の標準的な値(標準消費電力)が予め設定温度のいくつかのポイントで実験的に定められている。その一例を図2に示す。同図は、横軸にオーブン1の設定温度、縦軸にヒータ12の消費電力をとった座標上に、一例として或るガスクロマトグラフ機種について実験的に定めた標準消費電力をプロットし、さらにプロットした各点間を直線で結んで補間したグラフである。
【0016】
各点間を結ぶ直線は一次関数で表わすことができる。例えば、図2における100℃から150℃までの区間では、標準消費電力Pは設定温度tの関数として
P=1.2t+50
と表わされ、その他の区間についても同様に関数化できる。以下、こうして関数化された全ての温度区間の関数を総合して、P(t)と表記する。
この関数P(t)は、記憶手段24に記憶されているので、これを呼び出すことにより任意の設定温度Taにおける標準消費電力Paを求めることができる。
【0017】
フラップ閉止チェック手段25は、上記したオーブン1の設定温度t、その温度におけるヒータ12の消費電力Pm、及び関数P(t)を用いてフラップ13の閉止チェックを行う。以下、その動作を図3に基づき順を追って説明する。
図3は、フラップ閉止チェックの動作過程を示すフロー図である。
(1)オーブン温度が或る設定温度Taで安定している状態で、フラップ閉止チェックコマンドを実行させる。
(2)このオーブンの設定温度Taにおけるヒータ12の消費電力Pmを測定する。
(3)記憶手段24に記憶されている関数P(t)を用いて設定温度Taにおける標準消費電力Paを算出する。
【0018】
(4)上記のPmとPaを比較し、Pm-Pa>Kであればフラップ閉止不全として、フラップ初期化(フラップの強制閉止)信号を発し、フラップ制御部22を介してフラップ13の強制閉止を試みる。
(5)ここで、Kは消費電力の超過限度であって、例えば、Paの10%と定める。
再度、ヒータ12の消費電力Pm´を測定し、Pm´とPaを比較し、なおもPm´-Pa>Kであれば、フラップ閉止不能、即ちフラップ開閉システムに何らかの故障ありと判断して警報表示する。
(6)上記(4)または(5)における比較の結果、Pm(またはPm´)-Pa<Kであれば、フラップ13の位置は正常と判断してその旨をランプ等で表示し、チェックを終了する。
【0019】
なお、より簡略化された手順として、上記(4)の段階で初期化信号を出さずに、図3に点線で示すように、直ちに警報を表示する構成でもよい。この場合、警報に従ってオペレータが手動で初期化を行い、また必要なメンテナンスを行えばよい。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明はガスクロマトグラフに利用できる。
【符号の説明】
【0021】
1 オーブン
2 制御部
11 カラム
12 ヒータ
13 フラップ
14 フラップ駆動モータ
21 温度制御部
22 フラップ制御部
23 ヒータ電力測定手段
24 記憶手段
25 フラップ閉止チェック手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラムを収容して設定温度に制御するオーブンと、該オーブンを加熱するための電力制御可能なヒータと、該オーブンの内外を連通する給排気口を開閉する開度制御可能なフラップとを備えて成るガスクロマトグラフにおいて、前記ヒータの消費電力を実測する手段と、予め定めた前記ヒータの標準消費電力を前記設定温度の関数として記憶する記憶手段と、任意の設定温度における前記ヒータの消費電力の実測値と前記関数から求められる当該設定温度における標準消費電力とを比較して前者が後者を所定の限度値を超えて上回るときは前記フラップの閉止不全と判定するフラップ閉止チェック手段を備えることを特徴とするガスクロマトグラフ。
【請求項2】
前記フラップ閉止チェック手段によりフラップの閉止不全と判定されたとき前記フラップを強制閉止させる手段を備えたことを特徴とする請求項1記載のガスクロマトグラフ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−95168(P2011−95168A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−251021(P2009−251021)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)