説明

ガスタービンの性能診断システムにおける表示画面の表示方法

【課題】ガスタービンの性能診断において、保守を実施する毎に性能が回復している傾向を明らかにするガスタービンの性能診断システムにおける表示画面の表示方法を提供する。
【解決手段】ガスタービンの性能診断システムにおける表示画面の表示方法は、ガスタービンの発電出力、発電効率、圧縮機圧力比、燃料流量のいずれかである性能指標値を予め定めた吸気温度と吸気圧力における値とした標準化データを表示画面に表示し、表示された前記標準化データの稼働時間に対応させてガスタービンの保守が実施された時期を前記表示画面に表示するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガスタービンの性能診断システムにおける表示画面の表示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンの性能は、燃料流量などの操作条件だけでなく、吸気温度などの大気条件によっても大きく変化する。発電出力の計測値は吸気温度の年間変動によって年内周期で大きく波打っているだけでなく、運転時の負荷率の変動や吸気温度の日変動によっても変動しているため、常に大きい上下変動幅をもっており、このままでは性能の劣化の異常を全く判別できない。これに対応するため、従来、様々な診断方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、運転条件による性能の変動を除外するために、実機のデータを一定の共通条件に揃えて評価することを提案している。また、特許文献2は、いくつかの性能因子を特定の複数の運転条件と組み合わせてモデル化し、この結果に基づいて運転条件の変化による変動を除外する方法を提案している。また、特許文献3は、性能因子と運転条件を組み合わせてモデル化した上で、さらに変動の影響を除外するための移動平均処理方法を提案している。
【0004】
一方、多次元の情報の分布状態に基づいて、データの正常や異常などをグループ分けする方法として、マハラノビス・タグチ法(以下、MT法)がある(非特許文献1,2)。
MT法は、もともと、多次元の計測値について、予め基準となる正常データのグループを定め(このグループは単位空間と呼ばれる)、この正常データのグループ(単位空間)に対する評価対象データのマハラノビス距離を計算し、計算された統計距離がある一定のしきい値以下かどうかで、当該評価対象データが正常か異常かを判定する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−15516号公報
【特許文献2】特開2003−83089号公報
【特許文献3】特許第3538670号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】田口玄一:「MTシステムにおける技術開発」、日本規格協会、(2002)
【非特許文献2】鴨下隆志他:「おはなしMTシステム」、日本規格協会、(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の性能診断方法には、高精度化を目指すとデータの抽出率(抽出されるデータの割合)が低下するという課題がある。ガスタービンの性能は、負荷によって特性が大きく異なり、特に部分負荷での特性は非線形で複雑になる。このため、精度のよいモデルを構築して高精度に性能評価をするためには、ベースロード運転データ(部分負荷を除外した定格負荷近傍の運転データ)をいかに高精度に抽出するかが重要となる。
【0008】
しかし、これは、モデルの精度を高めるためにしきい値の範囲を狭めることになるためデータの抽出率が低下する。反対に、抽出率が低くならないようにしきい値の範囲を広げるとモデルの精度が低下する。データの抽出率が低下すると、以下に述べるような問題の原因になりうる。
(1)性能モデル構築のための運転条件やデータの点数が不足して、性能モデルの精度が低くなり、その結果、性能評価の精度が低下する。
(2)データの抽出状況にむらが発生し、抽出段階で除外されて評価できない時間が生じてくる。このような時間が増加し、性能評価できない運転期間が虫食い状に断続的に生じることになり、継続的な性能評価の支障になる。
(3)性能モデルを構築するのに必要な実機データの期間が長くなるため、性能評価システムを導入しても、実際に実機の性能モデルを構築して性能評価を開始するのに要する期間が長くなる。また、信頼性を確保して評価を確定するのに必要なデータ期間が長くなり、診断が遅くなる。
(4)診断結果のデータを利用して、さらに別の解析をしようとするときに、元になるデータ数が減少するために、詳細解析の十分な精度が確保できなくなる。
【0009】
本発明の目的は、ガスタービンの性能診断において、保守を実施する毎に性能が回復している傾向を明らかにするガスタービンの性能診断システムにおける表示画面の表示方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ガスタービンの運転データに基づいて、吸気温度を入力に含む関数として性能指標を特性モデル化する特性モデル化手段を備え、ガスタービンの運転データを前記特性モデル化手段へ入力して得られる出力値に基づいてガスタービンの性能を診断するガスタービンの性能診断システムにおいて、前記特性モデル化手段へ入力する運転データを以下の手段によって選択するようにしたものである。
【0011】
第1の発明は、時系列運転データの実測値又は該実測値に基づいて計算された少なくとも1種類以上の指標値を判定することによって、ガスタービンの性能特性をモデル化するための運転データを選択する手段であり、(1)前記時系列運転データの各時刻に対応して定められた参照期間から予め定められた方法で複数時刻の運転データを選択する手段と、(2)該複数時刻の運転データの実測値又は該実測値から計算された指標値の分布に対して、当該時刻運転データの前記指標値の統計距離を計算し、該統計距離が予め定められた上下限値のしきい値の範囲内にあるかどうかを判定し、範囲内にある場合に運転データを選択する手段と、(3)前記(1)、(2)の手段による処理を前記時系列データの各時刻に対して繰り返す手段を備えた運転データ選択手段を設ける。
【0012】
第2の発明は、前記第1の発明における、前記運転データ選択手段が備える前記(1)の複数時刻の運転データ選択手段として、(1)該時系列の運転データに含まれる前記参照期間中の各時刻の運転データに対して、前記少なくとも1種類以上の各指標値の値が予め設定された上下限のしきい値の範囲内にあるかどうかを判定して、全ての指標の判定結果が真である場合に該時刻の運転データを選択する手段と、(2)前記(1)の手段による処理を前記参照期間の時系列データに含まれる全時刻のデータに対して繰り返す手段を備えた運転データ選択手段を設ける。
【0013】
第3の発明は、時系列の運転データの各時刻(以下、当該時刻)に対応して、予め定められた期間内(以下、参照期間)から予め定められた方法で過去の複数時刻の運転データ(以下、参照データ)を選択し、前記時系列の運転データの各時刻における実測値又は実測値に基づいて計算された少なくとも1種類の指標値の値が、前記参照データの実測値又は実測値に基づいて計算された少なくとも1種類の指標値について設定された上下限のしきい値の範囲内にあるかどうかを判定し、全ての指標の判定結果が真である場合に該時刻の運転データを選択し、選択された該運転データを前記特性モデル化手段の入力とする運転データ選択手段を設ける。
【0014】
第4の発明は、前記第1、第2及び第3の発明における運転データ選択手段であって、少なくとも1種類以上の指標値を計算する以下の(1)または(2)の手段、すなわち、(1) 吸気温度Tciと吸気圧力Pciを入力に含み、発電出力Weを出力する、前記時系列運転データに基づいて同定された関数
We = f_We(Tci, Pci)
に各時刻の吸気温度Tciと吸気圧力Pciの運転データを代入して出力される該時刻の発電出力の予測値Wecalcに対する実測値Weactの比
Load = Weact/Wecalc
を計算する手段、あるいは、
(2) 前記指標値Loadの各時刻の値と、該時刻を含むある期間の移動平均値またはパーセンタイル値LoadAmavとの比
Load = Load/LoadAmav
を計算する手段を備えた運転データ選択手段を設ける。
【0015】
第5の発明は、前記第1、第2又は第3の発明における運転データ選択手段であって、少なくとも1種類以上の指標値を計算する以下の(1)または(2)の手段、すなわち、(1) 吸気温度Tciを入力に含み、このときの該ガスタービンの最大出力における排気温度またはタービンの中間段ガス温度、制御用の燃焼温度管理指標の上限値(以下まとめて排気温度指標値Tmxと記す)を出力する関数
Tmx = f_Tmx (Tci)
に各時刻の吸気温度Tciの運転データを代入して出力される、排気温度指標値の最大出力での予測値Tmxcalcに対する実測値Tmxactの偏差
ΔTmx = Tmxact − Tmxcalc
を計算する手段、あるいは、
(2) 前記指標値ΔTmxの各時刻の値と、該時刻を含むある期間の移動平均値またはパーセンタイル値ΔTmxAmavとの偏差
ΔTmx = ΔTmx − ΔTmxAmav
を計算する手段を備えた運転データ選択手段を設ける。
【0016】
第6の発明は、前記第1、第2又は第3の発明における運転データ選択手段であって、前記少なくとも1種類以上の指標値を計算する以下の(1)または(2)の手段、すなわち、
(1) 吸気温度Tciを入力に含み、ガスタービンの最大出力時の入力燃料エネルギー量または該ガスタービンの燃焼器への入力エネルギーの総量(以下、入熱量と総称)を出力する関数
GF = f_GF(Tci)
に各時刻の吸気温度Tciの運転データを代入して出力される、最大出力での入熱量の予測値GFcalcに対する実測値GFactの比
Load = GFact / GFcal
を計算する手段、あるいは、
(2) 前記指標値Loadの各時刻の値と、該時刻を含むある期間の移動平均値またはパーセンタイル値LoadAmavとの比
Load = Load / LoadAmav
を計算する手段を備えた運転データ選択手段を設ける。
【0017】
第7の発明は、前記第1〜第6の発明における運転データ選択手段と、
(1) ガスタービンの性能指標Yを、少なくとも1つ以上の運転条件x(i=1,2,…,n)のそれぞれを、予め定めた標準運転条件値xi0からのずれによる影響を補正する運転条件補正関数f_opr(x)と、標準条件値における性能値の累積稼働時間あるいは等価運転時間tに応じた経時的低下を表す経時低下関数f_dgr(t)の和として表した特性モデル式
Y = f_opr(x) + f_dgr(t)
における前記運転条件補正関数f_opr(x)と、経時低下関数f_dgr(t)を、前記運転データ選択手段で選択された運転データにもとづいて同定する性能特性モデル化手段と、
(2) 前記(1)で同定された前記運転条件補正関数f_opr(x)を使って次式Y = Y − f_opr(x
により、ガスタービンの運転データの性能指標値Yを予め定めた吸気温度と吸気圧力における値Y(標準化データ)に換算する標準条件換算手段からなるガスタービン診断システムとする。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、ガスタービンの性能診断において、保守を実施する毎に性能が回復している傾向を明らかにするガスタービンの性能診断システムにおける表示画面の表示方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による性能劣化診断装置を用いた診断システムの一例の構成図。
【図2】本発明のベースロード運転データ抽出方法における、統計距離の計算のための参照期間のデータの選択方法の一例を示すフロー図。
【図3】本発明のベースロード運転データ抽出方法における、参照期間のデータとの統計距離の計算方法の一例を示すフロー図。
【図4】本発明の性能劣化診断方法における、ベースロード運転データの抽出方法の一例を示す出力回帰法のフロー図。
【図5】本発明の性能劣化診断方法における、ベースロード運転データの抽出方法の一例を示す排気温度法のフロー図。
【図6】本発明の性能劣化診断方法における、ベースロード運転データの抽出方法の一例を示す入熱回帰法のフロー図。
【図7】本発明の性能劣化診断方法における、性能特性モデルの入出力の一例を示す図。
【図8】本発明の性能劣化診断方法における、性能特性モデルのモデル定数の同定手順の一例を示すフロー図。
【図9】本発明の性能劣化診断方法における、標準条件換算モデルの入出力の一例を示す図。
【図10】実機を対象に、出力回帰法と、排気温度法、両立法、MT法の各ベースロード抽出方式を適用して、性能劣化評価を実施した際の、モデル予測精度とデータ抽出率の関係を比較した例。
【図11】出力回帰法と、排気温度法、両立法、MT法の各方式によるベースロードデータの抽出範囲を示す図。
【図12】出力回帰法と、排気温度法、両立法、MT法の各方式のベースロード判定のしきい値を変化させたときの、抽出率とモデル予測精度の変化の比較図。
【図13】出力回帰法、排気温度法、両立法、MT法の各方式における実際のしきい値の変化に対応する、抽出率とモデル予測精度の変化を示す図。
【図14】出力回帰、排気温度法、両立法、MT法の各方式を使って抽出したベースロードデータにより性能特性モデル化し、時系列の出力データを標準条件換算した結果を示すトレンド図。
【図15】ガスタービン性能(出力)の経時変化の生データを示すトレンド図。
【図16】本発明を用いた診断システムの表示画面例を示す図。
【図17】本発明の性能劣化診断方法における、ベースロード運転データの抽出方法の一例を示す両立法のフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に、本発明によるガスタービン診断システムの実施形態の1例を示す。
【0021】
本システムでは、ガスタービン101について一定時間周期で採取された時系列の運転データが、送信手段111から送信され、通信回線112を経て、受信手段113にて受信される。そして、受信された情報が計算手段102で処理され、性能の評価結果が出力手段103に出力される。
【0022】
ここで通信回線112と送信手段111及び受信手段113は、公知の情報伝送手段とその送受信手段であればよく、例えばインターネットや、有線・無線の情報回線とその送受信手段など任意の通信手段を用いることができる。
【0023】
計算手段102の内部構成と処理システムは以下に述べるようになっている。
【0024】
入力手段130は、前記受信手段113から受けた情報を次に示すベースロードデータ抽出手段131に受け渡す。
【0025】
ベースロードデータ抽出手段131は、前記入力手段130から入力された実機の運転データからベースロード運転データを抽出する。ベースロード運転データとは、ガスタービンの部分負荷を除いた、定格負荷近傍、即ち、ガスタービンの吸気温度・吸気圧力に応じた最大出力近傍の運転データを指す。ただし、対象ガスタービンの運転計画で負荷率が100%でなく、例えば負荷率90%で連続運転するような場合や、あるいは夜間は負荷率70%で運転するような場合は、これらの一定の負荷率近傍での運転データをベースロード運転データの代わりに抽出するものとする。本発明では、このような一定負荷率近傍の部分負荷データもベースロード運転データと総称する。
【0026】
このベースロードデータ抽出手段131は、典型的には同図に示すように、入力手段130から引き渡された時系列の運転データの中からベースロード運転データを選択するために見本のように参照する、過去の或る期間(以下、参照期間)のベースロードデータをどの期間から採用するか、予め定められた手順で決定する参照期間設定手段134を持っている。更に、こうして決められた参照期間から、予め定められた方法に従って参照用のベースロード運転データ(以下、参照データ)を識別して選択する参照データ選定手段135と、このように選定された参照データからなるグループに対して、評価対象となる時系列運転データの各時刻のデータが統計的にどの程度接近しているかを示す統計距離を計算する統計距離計算手段136と、このように各時刻の運転データに対して計算された統計距離が、予め定めたしきい値以下であれば当該運転データをベースロード運転データと判定して選択し、しきい値を超過すれば当該運転データはベースロード運転データでないと判定して選択しない処理をする判定・選択手段137を備えている。
【0027】
これらの参照期間決定手段134〜判定・選択手段137における具体的な処理方法の例は、後出の図2及び図3で詳述する。なお、参照期間設定手段134は図2の工程7、参照データ選定手段135は図3の工程21、統計距離計算手段136は図2の工程8及び図3の工程22、判定・選択手段137は図2の工程13に対応する。
【0028】
モデル化手段132は、ベースロードデータ抽出手段131で出力されたベースロード運転データを入力情報として受け、ガスタービンの性能特性をモデル化する。具体的には性能特性モデルのモデル定数を決定する。ここで、性能特性モデルは、ガスタービンの運転条件を入力として、性能の予測値を計算して出力する計算モデルであり(詳細は図7で後述)、プログラムモジュールとして実装されている。またモデル定数は、これらのプログラムモジュールにおいて設定される対象ガスタービンに固有の定数を指す。なお、本発明において、モデル及びモデル定数とは、以下同様に、データの入力を受けて計算し結果を出力するプログラムモジュールと、このプログラムモジュールで設定される定数を指す。
【0029】
また、ここでいう性能とは例えば、発電出力、発電効率、圧縮機又はタービンの圧力比、吸気流量又は排気流量、排熱利用効率、燃料流量などである。これらは、運転状態の変化にともなって値が変わって行くような指標全般をさし、ここに上げたものに限定されない。また、運転条件は、必要最小限として吸気の温度と圧力を含み、この他に吸気の湿度、燃料流量、燃焼器への蒸気や水の噴射量などの運転環境や運転操作の条件全般から適宜含められたものとする。
【0030】
性能評価手段133は、モデル化手段132で決定されたモデルとモデル定数に基づいて、ガスタービンの運転データを評価して、経時的な性能低下や、保守実施による性能回復などの推移を定量評価する。このような、性能の経時低下や、保守時の回復など推移の評価を、本発明では性能評価と呼ぶ。
【0031】
性能評価の方法は、標準条件に換算する方式と、実測と予測の差を計算する方式の2通りがある。
【0032】
標準条件に換算する方式では、ベースロードデータ抽出手段131で抽出したベースロード運転データの性能実測値を、標準条件に直したときの相当値(標準化データ)に変換する。標準条件とは、例えばISOで定められた標準大気条件(吸気の温度15℃,気圧1atm,相対湿度60%)などの一定に固定された運転条件のことである。これにより、実機の性能の時系列データを、運転条件の変動の影響を補正して、一定条件下に揃えたときの性能の時系列データに変換する。このようにして生成された標準化データの値の時系列的な減少量は劣化や異常による性能の低下量を示し、増加量は保守実施などによる性能の回復量を示す。
【0033】
この方法の長所は、年間の運転条件の変動にかかわらず、一定の運転条件での性能に換算していることより、季節性などのバイアスなしに、標準化データの上下変動をそのまま性能の上下変動とみなせることである。
【0034】
実測と予測の差を計算する方式では、ベースロードデータ抽出手段131で抽出されたベースロード運転データ中に含まれる運転条件のデータを、モデル化手段132でモデル定数が決定されたガスタービンの性能特性モデルに入力して、該運転条件に応じたガスタービンの性能を予測計算し、この予測結果に対する実測値の偏差を計算して、偏差の時系列の推移から、性能の低下状況や、保守による回復効果を評価する。例えば、偏差が拡大していれば該偏差の値により性能の低下量を、偏差が減少していれば、その減少量により性能の回復量を評価する。この方法の長所は、標準条件換算が不要で、簡便なことである。
【0035】
このように、ベースロードデータ抽出手段131でベースロード運転データだけを選定することにより、後続のモデル化手段132ではガスタービンの部分負荷性能の非線形性によるモデルの精度低下を回避して高精度にモデル化でき、性能評価手段133では高精度な評価結果が得られる。
【0036】
なお、以上のベースロードデータ抽出手段131とモデル化手段132及び性能評価手段133の機能は、ガスタービン101に付属するデータ採取手段から最終的な出力手段103に至る情報経路上の任意の場所に分散していてよい。例えば、ベースロード運転データを抽出するベースロードデータ抽出手段131を、送信手段111で情報を送信する前の段階に備えることが可能である。このようにすると、通信回線112を経て伝送される情報は抽出後のベースロードデータのみになるため情報通信量を軽減でき、また計算手段側でのベースロードデータ抽出手段131の実行が不要になるので計算負荷を下げることができる。
【0037】
以上のようにして計算手段102で処理された結果は、情報回線114を介して出力手段103に伝達されて出力される。出力手段103は具体的には、計算機のディスプレイなどの表示装置や、ハードディスクやメモリなどの電子データ格納手段、印刷機などの情報印字・描画手段など、公知の任意の手段を用いることができる。出力手段103における出力データは、標準化データの時系列の推移を示すトレンドグラフや、時系列レコードデータとして出力される。
【0038】
本例における、ガスタービン101、計算手段102、出力手段103の設置場所の位置関係は、計算手段102と出力手段103がガスタービン101の設置サイトとは別の場所にあるものとする。
【0039】
このようにすると、多数の設備の劣化状況を遠隔監視センターなどで集中的に監視して把握できる。また、計算手段102を自らの管理化において運用し、また、計算手段の新型機器への更新や計算方法の改良などが実機サイトの情報管理系統に変更を加えることなくできるため、長期的にみて柔軟かつ効率的に運用できる。
【0040】
ただし、これは一例にすぎず、設置場所の位置関係はこれに限らず、任意でよい。例えば、出力手段103をガスタービン101の設置サイトに設置してもよい。これは、ガスタービン101を設置しているサイトの事業者(ここではサイト事業者と呼ぶ)が、ガスタービン101についての性能診断サービスを別の事業者(診断事業者と呼ぶ)から受ける場合に好適な形態である。前記サイト事業者側では、計算手段102などの設備を自ら設置して維持管理することなく、最終的に必要な、劣化の診断結果の情報のみを入手することができる。
【0041】
あるいは例えば、出力手段103を、ガスタービン101の設置サイトとも、計算手段102の設置場所とも異なる別の場所、例えばガスタービン101の設置事業者(サイト事業者)の本社に配置してもよい。これは、ガスタービン101の劣化状況の診断結果情報にもとづく、保守計画の立案・検討を行う部署がサイト事業者の本社など、サイトと別の場所にある場合に好適である。
【0042】
図2に、前述の図1のベースロードデータ抽出手段131における内部処理手順を示す。大きく分けて、評価対象となる各時刻のデータが、参照期間のデータの分布に対して持つ統計距離を計算する統計距離計算工程4と、計算された各時刻の統計距離が一定のしきい値の範囲内にあるかどうかを判定して、範囲内にあればデータを選択するしきい値判定・データ選択工程5からなる。それぞれ以下に説明する。
【0043】
統計距離計算工程4は、評価対象期間の各時刻のデータに対する、工程6を起点とする繰返し処理となっており、該繰返し処理は、各時刻のデータの統計距離を計算するために参照する過去のデータの期間(参照期間)を設定する参照期間設定工程7と、該参照期間設定工程7で選択された過去のデータのグループに対して当該時刻のデータの統計距離を計算する工程8と、このようにして工程7,8で行った統計距離の計算を評価対象期間の運転データの全時刻に対して完了したかどうか判定する工程9と、未完了の場合に次の時刻のデータに進む工程10からなる。
【0044】
前記参照期間設定工程7における参照期間の設定方法は、予め定められた一定の方法であればよく、評価対象期間中における任意の時刻のデータに対して、当該時刻以前の或る期間の複数データを特定できるようなものであればよい。例としては、各時刻に対応して一定日数もしくは時間数分の過去のデータを参照期間として設定する方法がある。この場合の参照期間の長さは1週間程度がよい。ガスタービンの運転は発電需要が低下する週末には負荷が低めになることがあり、1週間は運用周期の1つの目安になるため、このようにすると後で統計距離を評価するという目的に対して好適である。あるいは同じように運用周期の目安から考えるならば、吸気温度や運転条件が一巡する参照期間の長さとして一日が設定されてもよい。あるいはまた、過去の一定期間のデータから、吸気温度や発電出力が予め定めた範囲内にあるデータを抽出するなどの方法であってもよい。また例えば、夜間は電力の需要が低下して、ガスタービンの負荷率も低下することがあるが、このような日変化特性を考慮して夜間を除外したり、あるいは日中の一定時刻のみを抽出したり、あるいは週末のデータを除外したりするなど、様々な選択基準を組み合わせて一定の選択条件を構成し、これによってデータを特定して選択するような方法であってもよい。
【0045】
前記の工程8(各時刻のデータの統計距離計算工程)での統計距離の計算方法としては、参照期間から選択された前記過去データのグループについての、ガスタービンの負荷状態を反映する少なくとも1つ以上の指標、例えば発電出力、発電効率、圧力比、燃料流量、排気温度、吸気流量、あるいは後述する図4、図5、図6の方法で計算された負荷指標のうちの少なくとも1つ以上の指標からなる多次元空間(例えば指標が4つなら4次元空間)の分布に対する、当該時刻のデータの統計学的距離、例えばマハラノビス距離が計算される。
【0046】
前記の工程9の判定結果が偽(False,未完了)となり、工程10で次の時刻のデータに進んだ場合は、再び工程7,8を繰り返す。これを繰り返して評価期間全体に対する処理が完了すると、工程9の判定は真(True)になり、処理は後半の工程5に移る。
【0047】
しきい値判定・データ選択工程5は、評価対象期間の各時刻のデータに対する、工程11を起点とする繰返し処理となっている。該繰返し処理は、統計距離計算工程4で計算された当該時刻のデータの参照期間データに対する統計距離があらかじめ定めた方法に基づいて設定したしきい値の上下限範囲内にあるかどうかを判定するしきい値判定工程12と、前記しきい値判定工程12の結果が真(TRUE)であれば当該時刻のデータを選択し、偽(FALSE)であれば選択しないようにする選択工程13と、このようなしきい値判定と判定結果に応じた選択が評価対象期間の運転データの全時刻に対して完了したかどうかを判定する判定工程14と、該判定の結果が偽(FALSE,未完了)の場合に次の時刻のデータに進む工程15からなる。
【0048】
前記判定工程14の判定結果が偽(FALSE,未完了)で、工程15で次の時刻のデータに進んだ場合、前記しきい値判定工程12の判定と、該判定結果が真の場合に選択する前記選択工程13が、全時刻のデータに対して終了するまで繰り返される。これが全時刻に対して終了すると、判定工程14の判定結果は真になり、データの抽出処理は終了となる。以上のしきい値判定・データ選択工程5の繰り返し処理において選択工程13で選択された時刻のデータのグループが、ベースロード運転データとして抽出されたデータになる。
【0049】
なお、しきい値判定工程12でのしきい値の設定方法としては、統計距離の上下限値が、あらかじめ設定された固定値に設定されていたり、あるいはデータのばらつきの関数として逐次的に計算して設定されたりする方式であってもよい。
【0050】
本方法では、このようにして、運転データの多次元の評価指標についての、過去の参照期間に対する統計距離についてしきい値判定がなされる。このように多次元の指標の統計距離を使うことにより、例えば、特定の1つの指標がノイズや突変的な値であったような場合に、他の指標との相関が統計的に考慮される。そして、その指標の変動や突変が他の指標においても同時に生起しているような相関性があるものの場合には統計距離は相対的に小さくなり、他の指標では生起していない当該指標だけのノイズの場合には統計距離が相対的に大きくなり、このようにして分布の中心への近さが複数指標のばらつきを考慮して定量化される。このため、しきい値判定工程12と選択工程13において、ベースロード運転データを統計的にばらつきの大きい部分を除外して変動の中心付近から選択できる。したがって、これらのデータに基づいて構築される性能モデルの精度が高くなり、性能の低下や回復の評価精度が高くなる。
【0051】
なお、以上の説明では、参照期間設定工程7における過去データ参照期間の決定のタイミングは、工程6〜9の繰返し処理のたびに実行しているが、このように参照期間を毎回更新せず、例えば、一定時間数ごとや日数ごと、あるいは、運転状態や環境の変化を評価する予め定めた関数の計算値が、事前に設定したしきい値を超過するかどうかによって更新のタイミングを決めてもよい。このようにすると、参照データの更新処理の演算量が削減されるので、診断の演算処理を高速化できる。
【0052】
図3に、各時刻のデータに対する統計距離の計算フローの1例を示す。これは前述の図2における各時刻の統計距離計算を行う工程8(或いは、図1の参照データ選定手段135及び統計距離計算手段136)の詳細手順例である。全体は、参照期間から複数時刻の過去データを選択する工程(単位空間設定工程21)と、該工程により選択されたデータのグループと当該時刻データの統計距離を計算する工程(各時刻データの参照期間から選択されたデータへの統計距離の計算工程22)からなる。工程21は図1の参照データ選定手段135に対応する。工程22は図1の統計距離計算手段136及び図2の工程8に対応する。それぞれ以下に説明する。
【0053】
参照期間から複数時刻の過去データを選択する工程(単位空間設定工程21)は、前述の参照期間設定工程7(図2)で選択された参照期間の各時刻のデータに対する工程23を起点とする繰り返し処理になっている。該繰返し処理は、以下に述べる工程24〜工程30にて行なわれる。まず、各時刻の対象データについて、ガスタービンの負荷状態を反映する少なくとも1つの指標、すなわち図2の工程8で設定された、発電出力、発電効率、圧力比、燃料流量、排気温度、吸気流量あるいは後述する図4、図5の方法で計算された負荷率指標などのうちの少なくとも1つの指標(以下、負荷率指標と総称する)の各々に対して、指標ごとに予め定めた上下限範囲内にあるかどうか真偽判定する(指標別しきい値判定工程24〜26)。該指標別しきい値判定工程24〜26で実行された各指標のしきい値判定結果に基づいて、これらの全指標の判定結果が真であるか、そうでないか(1つでも偽の指標であれば偽)を真偽判定する(全指標の論理積判定工程27)。全指標の論理積判定工程27の判定結果が真であれば、参照期間中のその時刻の運転データを選択する(選択工程28)。以上の工程24〜28まで(工程27の結果が偽の場合、工程28は無し)の処理が、過去の参照期間の全データ(すなわち前述の工程7の全データ)に対して実行されたか判定(完了判定工程29)し、該完了判定の結果が偽(FALSE、未完了)の場合に次の時刻のデータに進む(工程30)。
【0054】
記完了判定工程29の結果が偽(全データに対して完了しておらず)で、工程30で参照期間中の次の時刻データに進んだ場合は、工程24〜28(あるいは27)までの処理を、工程29の判定が真になるまで(参照期間の運転データの全時刻に対して完了するまで)繰り返す。このようにして工程29の判定が真になると、処理は次の工程22に移る。
【0055】
なお、前記指標別しきい値判定工程22〜24のしきい値判定は、図3では3個の指標の判定例を示したが、指標の数がn個の場合も同様にn個の指標に対してしきい値判定処理を実行する。
【0056】
また、前記選択工程28で選択されたデータのグループの分布は、MT法(マハラノビス・タグチ法)の単位空間に相当する。この点で、以下適宜、このグループのデータを単位空間と呼ぶ。
【0057】
続く工程22では、上の工程23〜29の繰り返し処理において工程28で選択されたデータのグループを参照し、このグループと評価対象時刻のデータの統計距離を計算する。統計距離の計算方法としては、公知のマハラノビス距離などを用いるとよく、なかでも好適な方法として、次の(1)式で示すタグチの定義によるマハラノビス距離Dがある。
【0058】
【数1】

【0059】
本方法には以下の効果がある。
【0060】
(ア) 工程24〜26のように複数指標からの観点を使って判定することにより、ベースロード判定の基準となる単位空間のデータを高精度に抽出できる。また、全指標の論理積判定工程27にて全指標での判定結果が真のデータのみを単位空間データに選択するため、単位空間のデータに含まれるデータは統計的に見た外れ値がきわめて少なくなる。
この結果、工程22で計算される距離は、ベースロード運転域に対する距離の高精度な評価値になり、後続のしきい値判定・データ選択工程5(図2)でのベースロードデータの抽出精度が高くなる。これにより、続くモデル化手段132(図1)の性能特性モデルが高精度化し、最終の性能評価手段133(図1)での性能の低下や回復の評価精度が高精度化する。
【0061】
(イ) 多次元の指標間の相関が高い場合に距離が小さく、相関が低い場合に距離が大きくなるマハラノビス距離の特性を利用しているので、単独の指標の判定では除外されるデータであっても、他の指標との相関が高い場合は、マハラノビス距離がしきい値の範囲内となり、ベースロードデータとして抽出することが出来る。この抽出範囲の広げ方は、多次元空間でのデータの分布状況、すなわち、密集しているか、ちらばっているか、あるいは密集はどのような方向に偏っているか、などの分布特性を考慮して、データが密集している重心付近から周囲方向に向かって、分布密度の濃い部分から薄い部分へと、濃さが等しい部分を均等に順次選択していくようになっている。したがって、抽出の精度を極端に落とすことなくほぼ同等に保ったまま、データ抽出率を増加させて行ける範囲が確保できる。
【0062】
(ウ) 本図で述べたように評価対象の各時刻のデータごとに、単位空間を逐次的に更新しているので、運転状態の季節性の変動や、経年劣化による性能特性の変動の影響を考慮できる。すなわち、これらの状態変化に追従して単位空間が設定されるため、ベースロードデータの抽出において、季節変動や経年劣化の影響を加味して、高精度な抽出が可能である。
【0063】
以上により、本発明では、高精度化を図るとデータ抽出率が低下するという問題を解決できる。また、複数のベースロード抽出方式を効果的に組み合わせてさらに高精度な抽出する方法を提供できる。
【0064】
図4に、前述の図3における工程24(または工程25,26)で判定される負荷率指標値の計算処理フローの1例を示す。この処理手順による計算方法を以下、出力回帰法と呼ぶ。その手順は、吸気温度と吸気圧力に応じた発電出力の変化を表す出力特性モデルを実機時系列運転データにもとづいて同定する出力特性モデル同定工程41と、該出力特性モデルに吸気温度と吸気圧力の実測値を代入して出力される発電出力の計算値と発電出力の実測値にもとづいて負荷率指標の値を計算する負荷率計算工程42と、該負荷率計算工程42で計算された負荷指標の値の変動を抑えるように変換する負荷率計算工程43からなる。各工程の詳細を以下に説明する。
【0065】
前記出力特性モデル同定工程41の出力特性モデルとは、吸気温度Tci、吸気圧力Pciを入力に含み、発電出力Weを出力する次式で示されるような関数である。
We = f_We(Tci, Pci) …(2−1)
この関数f_Weは具体的には例えば次式のようにすると好適である。
We = a×(Tci−Tci) + b×(Pci−Pci) +α×t + We …(2−2)
ここで、tは稼働時間を表し、Tci、Pciは吸気温度と吸気圧力の標準条件値である。稼動時間tは時間経過を表すものであればよく、例えばガスタービンの稼動時間に燃焼温度や起動停止による寿命への影響を考慮して変換した等価運転時間など、劣化に影響する要因を加味して補正した時間を使ってもよい。以下の説明においても稼働時間tはこのような換算時間を含むものとする。稼働時間tの項は、評価する時系列の運転データの期間において、経時劣化の影響が無視できるほど小さいと考えられる場合は省略可能であるが、前述したようにデータ収集期間中に経時的に性能劣化していることが無視できない場合は、この項を含めておくことが望ましい。
【0066】
経時劣化の影響がこの項とその係数αに分離されることにより、出力の運転条件特性の項a,bに経時劣化によるバイアスが含まれることを避けることができ、出力特性を高精度にモデル化できる。
【0067】
また、式(2−2)で、a、b、α、Weはモデル定数を示す。出力特性モデル同定工程41におけるモデル同定とは、これらのモデル定数値を決定することである。
、bは、吸気温度と圧力の標準条件からのずれによって、発電出力を補正する係数である。αは時間の経過tにともなう発電出力の低下率を示す(以下、劣化係数と呼ぶ)。劣化係数αは、出力特性モデル同定工程41で使う実機時系列運転データの期間中の性能劣化がほとんどないと考えられる場合は省略可能である。Weは、Tci、Pciが標準条件値のときの初期(期間中の劣化がはじまる前)の発電出力を示す。
【0068】
また、式(2−2)で計算される項目として、蒸気などの冷媒を噴射するガスタービン(以下、冷媒噴射型、蒸気噴射型などと記す)の場合は、冷媒噴射量Gsの標準条件での値Gsとの偏差に応じて補正する項C×(Gs−Gs)を加えたものであってもよい。ここでCはモデル定数である。このようにすると、冷媒噴射型のガスタービンで特に噴射される冷媒の流量や温度などの変化が大きい場合に、その影響を考慮して負荷率を高精度に定量化できる。
【0069】
これらのモデル定数a、b、α、Weの決定方法としては、実機の時系列運転データに含まれる運転条件を式(2−2)の右辺に代入して計算される発電出力の時系列の計算結果と、実機時系列運転データに含まれる発電出力の時系列データとの誤差が、データの期間を通じて最小になるように決定するとよい。これは最小二乗法などの公知の手法によって求めることができる。このような方法の1例を後に図8で述べる。
【0070】
あるいは、モデル定数a、b、α、Weの設計値や計画仕様値、経験値(以下、先験値と総称する)がある場合はこれを使ってもよい。この方法は、運転開始後間もなく実機データ数が少ない場合や、部分負荷運転が多くベースロードデータの数が十分確保できない場合などには、不正確なモデル回帰をするよりも値が正確なことも多く、有効である。また、データ数が少ない運転開始後の初期はこのような先験値を設定し、その後運転データが一定量蓄積された時点でデータから回帰した値で更新したり、両者を運転開始後の時間数に応じて重み付け加重平均して、徐々に実機データからの回帰値に移行させたりする方法も有効である。なお、以後の説明においても、各種モデル定数の同定は最小二乗法などの公知の方法を例に説明するが、ここでの説明と同じように先験値があれば利用してもよい。
【0071】
なお、出力特性モデル同定工程41では、実機時系列運転データの代わりに、吸気温度などの運転条件を種々に変化させて採取した実機データを使用してもよい。この場合、データの採取期間が短期間であれば、上述したのと同様に劣化係数αは省略可能である。
【0072】
前記工程42(負荷率計算工程A)における負荷率指標の値の計算とは、式(3−1)に示すように、前記出力特性モデル同定工程41でモデル定数を決定した出力特性モデル(例えば式(2−2))に評価対象期間の実機運転条件(上の例では吸気温度と圧力の計測値)の時系列データを入力して出力される発電出力の予測値Wecalcに対して、実機の発電出力実測値Weactの比(負荷率Loadと呼ぶ)を計算することである。
Load = Weact / Wecalc …(3−1)
前記工程43(負荷率計算工程B)における負荷率指標の値の計算とは、式(3−2)に示すように、ある時刻での前記負荷率Loadの値を、当該時刻を含む或る期間の移動平均値ないし特定パーセンタイル値LoadAmavで除した比(負荷率Load)を計算することである。ここでいう、移動平均値とは、前記した、その時点を含む或る期間の値の単純移動平均値や重み付き移動平均値を指す。また、特定パーセンタイル値とは、その期間の値の分布における累積パーセント値を示す(例えば50%値(中央値)、下位からの累積70%値など)。以下、他の説明においても、これらの移動平均値やパーセンタイル値のことを総称して移動平均値と呼ぶ。このように移動平均値との比をとることにより、プラント性能の経時劣化と季節的な性能変動の影響を除外して、負荷率指標の誤差変動幅を十分小さくして、一定値を中心とした上下変動に変換できる。
Load = Load / LoadAmav …(3−2)
この場合の、移動平均期間の取り方としては、例えば対象となっている時刻までの直前の1週間、あるいは100−200点程度のデータ期間を取ると好適である。これには以下の理由がある。例えば、典型的な計測記録として1時間間隔の運転データを保存しているような場合、1日〜2日(24〜48点)の期間で移動平均化すると、例えば週末休日の土曜日・日曜日のように電力需要が低下して負荷率が下がるような場合に、移動平均期間の大半がこの間に含まれることになり、式(2−2)での負荷率の計算結果が過大評価になる危険性がある。このようになると、実際には週末に負荷率が低下しているのに、計算上は負荷率が低下していないことになり、負荷率を正確に評価できなくなる。反対に、1ヶ月以上の期間で移動平均化すると、期間が長すぎるために一週間単位での性能の低下を捉えられなくなる危険性がある。これらを考えると、1時間間隔のデータにもとづいて処理をする場合は、上述のような期間あるいはデータ点数で移動平均化すると、種々の運転条件変動や経時劣化の影響をほどよく反映することができ、好適である。
【0073】
このようにして前記工程42で計算されたLoadと前記工程43で計算されたLoadのうち、通常は、工程43で計算されたLoadを負荷率のしきい値判定(図3の工程24〜26)に使う。ただし、前記工程43については、工程42の式(2−1)による負荷率Loadの計算結果の変動幅が十分小さいか、負荷率Loadの値が1に十分近い場合などは省略可能である。この場合、負荷率Loadの値を負荷率指標値とするとよい。
【0074】
このようにして出力回帰法で計算された負荷率指標値を、前述の工程24(または工程25,26)でしきい値判定する際に、しきい値の設定は例えば次のようにするとよい。
すなわち、負荷率LoadまたはLoadの上下限値を100±P%と設定し(この場合、負荷率Loadの値が100−P%以上、100+P%以下の範囲が判定で真になる)、Pの値としてはベースロード運転時間帯が比較的多い産業用などのガスタービンでは1〜3%程度に、負荷率の変動が比較的大きい発電事業用ガスタービンでは最大10%程度にするとよい。あるいは上下限値をこのように100%の上下に対称に設定せず、例えば下限は97%、上限は102%、というように別々に設定してもよい。
【0075】
なお、前記工程42〜43で負荷率を計算するときの実機時系列データの期間と、前述の工程41でモデル定数を決定するときに使う実機時系列データの期間は異なっていてもよい。例えば、工程41では実機時系列データのうちの或る一定の期間で出力特性モデル(式(2−1),式(2−2))の定数を決定し、工程42〜43ではこのモデル定数を、負荷率を評価したい期間全体に適用することができる。このようにすると、劣化評価の対象期間の全データを使うことなく、少ないデータで効率的にモデル定数を決定できる。
【0076】
この出力回帰法の式(2−1)〜(3−2)で示した方法では、吸気温度、圧力、発電出力という3つの情報だけで負荷率を計算している。また式(2−2)では出力の運転条件補正と劣化による補正を分離している。したがって、運転条件の変動や経年劣化を加味した負荷率の算定を、少ない情報量と計算量で効率的に実施できる。また、出力回帰法では、負荷率を、予想される全負荷での発電出力(いわば期待される最大出力)に対する実際の出力の比として、運転結果から直接的に評価するので、負荷率指標を、プラントの出力指令や計画の観点でなく、出力結果の観点から定量化できる特徴がある。
【0077】
図5に、前述の図3における工程24(または工程25,26)で判定される負荷率指標値の計算処理フローの別の1例を示す。この処理手順による計算方法を以下、排気温度法と呼ぶ。排気温度方法では、負荷率の指標値を計算するために、ガスタービンの全負荷状態での排気温度またはタービンの中間段ガス温度、または制御用の燃焼温度管理指標の上限値を使う。以下これらをまとめて排気温度指標値Tmxと記す。排気温度法による負荷率指標の計算手順は、排気温度指標値の吸気温度との関係を表す特性モデルの定数を実機の時系列運転データにもとづいて決定する排気温度指標モデル同定工程44と、該排気温度指標モデル同定工程44に実機の吸気温度を入力して出力される排気温度指標値の予測値と実際の値から負荷率の指標値を計算する負荷率指標計算工程45と、該工程45で計算された負荷率指標値の変動を抑えるように変換する負荷率指標計算工程46からなる。各工程の詳細を以下に説明する。
【0078】
排気温度指標の特性モデル同定工程である排気温度指標モデル同定工程44における排気温度指標の特性モデルは、次式に示すように、吸気温度Tciを入力として、このときの排気温度指標値Tmxを或る関数関係に従って計算して出力するものである。
Tmx = f_Tmx (Tci) …(4−1)
この排気温度指標の特性モデルすなわち式(4−1)の関数f_Tmxは、一般にはガスタービンの運転制御ロジックに組み込まれている関係式を使うことができる。ガスタービンの運転制御は一般に、吸気温度と、燃焼器への冷媒噴射量などいくつかの運転条件が与えられたときに、サイクル最高温度が高温材料の耐熱温度を超えないよう保護するために管理する指標値がある。この指標値は、運転条件によらずに守られるべき上限温度が運転条件や計測値の関数として設定されている。そして、運転においては、指標値がこの上限値以下になるように燃料の投入量などが制御されている。従って、上限温度に対して実際の指標値がどれだけ近いかは、設備が最高運転温度にどれだけ近いか、すなわち全負荷状態にどれだけ近いか、言い換えると、ベースロード運転域にどれだけ近いかの目安になる。そこで、この関係式を式(4−1)のモデル式として使うと、実際の制御状態をそのまま反映して、正確にベースロード運転時の指標値を予測できる。これにより、より高精度にベースロード運転データを抽出でき、最終的に高精度に劣化診断ができる。
【0079】
また、排気温度指標の特性モデルとして、このように制御ロジックが利用できない場合は、単純に次式のように表して、実機運転データや計画仕様値などに基づいて排気温度をモデル化することで代替してもよい。
Tto = ato×(Tci−Tci) + bto×(Gs−Gs) +Tto …(4−2)
ここで、Gsは燃焼器への冷媒噴射量で、Gsはその標準条件(吸気条件として温度15℃、1気圧、相対湿度60%)での値である。但し、ガスタービンが冷媒噴射しない型式の場合、あるいは冷媒噴射の影響が吸気温度と比較して比較的小さい場合は、右辺第2項は省略される。また、吸気温度以外の運転操作条件として、排気温度への影響が強いものがあれば、Gsの代わりにこれを使うか、あるいはその項を第1、第2項と同様の標準条件からの偏差をモデル定数で補正する項として追加するとよい。このような条件の例としては、圧縮機出口温度、タービン中間段のガス温度などがある。また、上式のato、bto 、Ttoはモデル定数であり、とくにTtoは前記標準条件での排気温度である。これらのモデル定数は、複数の実機運転データ、あるいは計画仕様値、試験運転データなどにもとづいて、フィッティングして決定できる。すなわち、吸気温度と冷媒噴射量に応じた排気温度の複数組のデータを使って、右辺に吸気温度と冷媒噴射量を代入して計算した排気温度の値と、実データの排気温度との誤差の二乗和が最小になるように、これらのモデル定数の値を決めるとよい。これには最小二乗法などの公知の方法を使うことができる。本方法によれば、排気温度制御ロジックの情報がなくても、吸気温度と冷媒噴射量に応じた排気温度の変化についての、運転データや計画仕様値などの情報さえあれば簡単にモデル化が可能である。
【0080】
なお、式(4−2)は、さらに上述したように単純化して冷媒噴射量の項を省き、次式(4−3)のようにしてもよい。蒸気噴射ガスタービンであっても、燃料流量と蒸気噴射流量の比率を一定に保つ制御方式の設備では、この方式でも排気温度と吸気温度の関係を十分高精度にモデル化できる。この場合の利点は、より少ない変数で簡便に排気温度を推定できることである。
Tto = ato×(Tci−Tci) +Tto …(4−3)
前記工程45(負荷率指標計算工程)における負荷率の指標値の計算とは、工程44で特定された吸気温度Tciを入力に含み、排気温度指標値Tmxを出力する関数(式(4−1))に、評価対象期間における各時点の吸気温度Tciの運転データを代入して出力される排気温度指標値の予測値Tmxcalcと、これに対する実測値Tmxactの偏差ΔTmxの、次式による計算である。このΔTmxは負荷率の指標値となり、この値が0の場合は負荷率100%、値が正の場合は負荷率100%超、値が負の場合は負荷率100未満であることを示す。
ΔTmx = Tmxact − Tmxcalc …(5−1)
負荷率指標計算工程46における負荷率の指標値の計算とは、前の工程45で計算された負荷率指標値ΔTmxについての、評価対象期間中の各時点での値と、該時点を含む或る期間の移動平均値または特定パーセンタイル値ΔTmxAmavとの偏差の、次式による計算である。このΔTmxは、移動平均との偏差をとることにより、ΔTmxが周期的変動などを持つ場合に、この変動を除外して一定値の周辺の上下変動に変換したものとなる。なお、移動平均とパーセンタイル値については出力回帰法の手順と同様に設定される。
ΔTmx = ΔTmx − ΔTmxAmav …(5−2)
このようにして計算された前記工程45で計算されたΔTmxと前記工程46で計算されたΔTmxのうち、通常は工程46で計算されたΔTmxを負荷指標のしきい値判定(図3の工程24〜26)に使う。ただし、工程46については、工程45の式(5−1)による負荷率指標ΔTmxの計算結果の変動幅が十分小さいか、その値が0に十分近い場合(例えば変動が1℃以内の場合)などは省略可能である。この場合、負荷率指標ΔTmxの値を負荷率指標値とするとよい。
【0081】
このようにして計算された排気温度法の負荷率指標を用いて、前述の工程24(あるいは工程25,26)でしきい値判定をする場合、そのしきい値は、例えばΔTmxあるいはΔTmxの値が、−P℃以上+P℃以下の範囲内にあれば真、範囲外ならば偽と判定すればよく、Pの具体的な値としては標準的には1〜3℃程度が好適であるが、部分負荷運転時間が比較的多い場合や、計測データの精度やガスタービンサイクル・燃焼器の形式によっては最大10℃程度まで広げてもよい。また、特に負荷率指標の実測値が予測値よりも低い場合は、さらに偏差の許容範囲を狭くすると好適である。このような場合は、運転状態が出力低下や燃料発熱量の減少などにより部分負荷状態の側にあるためである。
このようにして部分負荷側のデータを極力除くと、負荷率100%近傍でより高精度に運転データを抽出でき、最終的により高精度に劣化を診断できる。
【0082】
また、工程46で使用する移動平均値ΔTmxAmavは、代わりに保守によって挟まれた運転期間ごとに一定の固定値を使用してもよい。このような期間毎の固定値は、プラント保守時の試運転調整時の設定情報に含まれていることも多く、取得可能な場合はこれを利用するとよい。取得できない場合は、各期間の排気温度指標値の実測値Tmxactの分布を取り、このなかの分布密度の最も高い値を選定するとよい。ベースロード運転時間が多い実機の場合、その値の目安は累積分布50%値付近である。夜間や週末に負荷が低下しているような場合は、例えば70%値、あるいは最大で90%値程度までの範囲で調整するとよい。
【0083】
本方法(排気温度法)の特徴としては、まず、ガスタービンの高温部品保護のための温度管理指標をそのまま使うため、比較的精度が高いことである。また、図4で説明した出力回帰法のように負荷率の複雑な特性を実機データからモデル化する必要がない。すなわち、出力回帰法による負荷率の計算モデルは、ガスタービンの100%負荷出力が、吸気温度や燃料流量、冷媒噴射量などの条件によって代わるため、モデル構築には一定の計算量と処理手順を要するものであったが、これに対して、排気温度法では、排気温度と吸気温度の関係が、通常は、制御ロジックや、制御に使われる簡単な関係式が定まっていることが多いため、工程44においては特別なモデルを独自に構築することなく、これらの既存の関係式を流用することが出来る。したがって、省力的にモデル構築でき、かつ、はじめから精度の高いモデル(実際に制御に使われているので、実機の運転データはその値通りに制御されて運用されているのが通常である)を使うことができる。また、これにより、診断システムを迅速に構築し、効率的に運用できる。
【0084】
また、式(4−1)〜式(5−2)で示した方法で使用する情報は、吸気温度と排気温度、あるいはさらに冷媒噴射量と、2〜3個だけである。この方法では、種々の運転条件のさまざまな違いが負荷率にどのように影響するかを、これら数個の条件で代表させて負荷率が定常負荷近傍にあるかどうかを判定できる。したがって、運転条件の違いを加味したベースロード運転データの抽出を、出力回帰法の場合とは別に少ない情報量と計算量で効果的に実施できる。
【0085】
排気温度法において、このように少ない変数量で、効果的にベースロード運転データを抽出できるのは、排気温度が次のような特性を持つためである。すなわち、排気温度は、熱力学的には、主として吸気流量と燃料流量と冷媒噴射流量という3つの要因によって決まっている。そして、これらの3要因は共通して、ガスタービンの排気温度制御の結果から決まっている。そして、排気温度制御はガスタービンの負荷率が最大近辺になるように制御されている。したがって、排気温度制御の主な入出力である吸気温度と排気温度の関係は、負荷率に影響する上記の3要因の影響を集約した入出力関係になっているといえる。排気温度法は、この特性に着目することによって、負荷率を判定するための入力変数を上記の2〜3項目に減らすことができている。このことにより、排気温度法は比較的安定的かつ高精度にガスタービンの負荷率状態を定量化できる。
【0086】
また、排気温度法は、排気温度管理指標(排気温度または制御指標)といういわば制御側の観点から、負荷率を評価している。このことは、劣化や季節条件などの運転条件変動の影響があるもとで、プラントがこれらの影響が反映された運転データに基づいてどのように制御されているか、という観点から負荷率を評価していることになる。この際に、排気温度指標の制御設定値(あるいは制御指令値を計測値から計算する関数)などは、劣化や吸気温度などの運転条件変動によらず、一定に保たれることが一般的である。このため、本方式による負荷率指標値は、劣化や季節条件などの運転条件変動の影響を受けず、一定値の周囲の上下変動として評価され、このため、負荷状態を比較的高精度に定量化できる長所がある。
【0087】
図6に、前述の図3における工程24(または工程25,26)で判定される負荷率指標値の計算処理フローの別の1例を示す。この処理手順による計算方法を以下、入熱回帰法と呼ぶ。その手順は吸気温度と吸気圧力に応じたガスタービンへの入熱量の変化を表す入熱特性モデルを実機時系列運転データに基づいて同定する入熱特性モデル同定工程47と、入熱特性モデルに実機の吸気温度と吸気圧力を代入して出力される入熱量の予測値と実際の入熱量に基づいて負荷指標の値を計算する負荷率計算工程48と、該工程48で計算された負荷指標の値の変動を抑えるように変換する負荷率計算工程49からなる。
【0088】
ここで、前記入熱量とは、ガスタービンへの投入燃料のエネルギーのことである。但し、ガスタービンに蒸気などの冷媒を噴射している場合は、この冷媒の熱量を含めた総入熱量を含むものであってもよい。あるいは燃料の発熱量や密度がほぼ一定と考えられる場合は、燃料の流量であってもよい。
【0089】
以下に前記工程47〜49の詳細を説明する。
【0090】
入熱特性モデル同定工程47の入熱特性モデルとは、吸気温度Tci、吸気圧力Pciを入力に含み、入熱量GFを出力する次式で示されるような関数である。
GF = f_GF(Tci, Pci) …(6−1)
この関数f_GFは具体的には例えば次式のようにすると好適である。
GF = a×(Tci−Tci) + b×(Pci−Pci) +α×t + GF …(6−2)
ここで、tは稼働時間を表し、Tci、Pciは吸気温度と吸気圧力の標準条件値である。稼働時間tの項は、評価する時系列の運転データの期間において、経時劣化の影響が無視できるほど小さいと考えられる場合は省略可能であるが、前述したようにデータ収集期間中に経時的に性能劣化していることが無視できない場合は、この項を含めておくことが望ましい。経時劣化の影響がこの項とその係数αに分離されることにより、出力の運転条件特性の項a,bに経時劣化によるバイアスが含まれることを避けることができ、入熱特性を高精度にモデル化できる。
【0091】
また、式(6−2)で、a、b、α、GFはモデル定数を示す。本工程47におけるモデル同定とは、これらのモデル定数値を決定することである。a、bは、吸気温度と圧力の標準条件からのずれによって、発電出力を補正する係数であり、αは時間の経過tにともなう発電出力の低下率を示す(以下、劣化係数)。劣化係数αは、本工程47で使う実機時系列運転データの期間中の性能劣化がほとんどないと考えられる場合は省略可能である。GFは、Tci、Pciが標準条件値における初期の(期間中に劣化がはじまる前の)入熱量を示す。
【0092】
また、式(6−2)で計算される項目として、蒸気などの冷媒を噴射するガスタービン(以下、冷媒噴射型、蒸気噴射型などと記す)の場合は、冷媒噴射量Gsの標準条件での値Gsとの偏差に応じて補正する項 C×(Gs−Gs)を加えたものであってもよい。ここでCはモデル定数である。このようにすると、冷媒噴射型のガスタービンで特に噴射される冷媒の流量や温度などの変化が大きい場合に、その影響を考慮して負荷率を高精度に定量化できる。
【0093】
これらのモデル定数a、b、α、GFの決定方法としては、実機の時系列運転データに含まれる運転条件を式(6−2)の右辺に代入して計算される発電出力の時系列の計算結果と、実機時系列運転データに含まれる発電出力の時系列データとの誤差が、データの期間を通じて最小になるように決定するとよい。これは最小二乗法などの公知の手法によって求めることができる。このような方法の1例を後に図8で述べる。あるいは、モデル定数a、b、α、GFの設計値や計画仕様値、経験値(以下、先験値と総称する)がある場合はこれを使ってもよい。この方法は、運転開始後間もなく実機データ数が少ない場合や、部分負荷運転が多くベースロードデータの数が十分確保できない場合などには、不正確なモデル回帰をするよりも値が正確なことも多く、有効である。また、データ数が少ない運転開始後の初期はこのような先験値を設定し、その後運転データが一定量蓄積された時点でデータから回帰した値で更新したり、両者を運転開始後の時間数に応じて重み付け加重平均して、徐々に実機データからの回帰値に移行させたりする方法も有効である。
【0094】
なお、前記工程47では、実機時系列運転データの代わりに、吸気温度などの運転条件を種々に変化させて採取した実機データを使用してもよい。この場合、データの採取期間が短期間であれば、上述したのと同様に劣化係数αは省略可能である。
【0095】
前記工程48(負荷率計算工程A)における負荷率指標の値の計算とは、式(7−1)に示すように、前記入熱特性モデル同定工程47でモデル定数を決定した入熱特性モデル(式(6−1)あるいは式(6−2))に評価対象期間の実機運転条件(上の例では吸気温度と圧力の計測値)の時系列データを入力して出力される入熱量の予測値GFcalcに対する実機の計測値から計算される入熱量GFactの比(負荷率Loadと呼ぶ)を計算することである。
Load = GFact / GFcalc …(7−1)
前記工程48(負荷率計算工程B)における負荷率指標の値の計算とは、式(7−2)に示すように、ある時刻での前記負荷率Loadの値を、当該時刻を含む或る期間の移動平均値ないし特定パーセンタイル値LoadAmavで除した比(負荷率Load)を計算することである。ここでいう移動平均値とは、図4の負荷率計算工程43で説明したのと同様に、その時点を含む或る期間の値の単純移動平均値や重み付き移動平均値を指す。また、特定パーセンタイル値とは、その期間の値の分布における累積パーセント値を示す。このように移動平均値との比をとることにより、プラント性能の経時劣化と季節的な性能変動の影響を除外して、負荷率指標の誤差変動幅を十分小さくして、一定値を中心とした上下変動に変換できる。
Load = Load / LoadAmav …(7−2)
この場合の、移動平均期間の取り方は、図4の負荷率計算工程43で説明したのと同様に、例えば1時間間隔のデータにもとづいて処理をする場合は、対象となっている時刻までの直前の1週間、あるいは100−200点程度のデータ期間をとると、種々の運転条件変動や経時劣化の影響をほどよく加味することができ、好適である。
【0096】
このようにして前記工程48で計算されたLoadと前記工程49で計算されたLoadのうち、通常は工程49で計算されたLoadを負荷指標のしきい値判定(図3の工程24〜26)に使う。ただし、工程49については、工程48の式(6−1)または式(6−2)による負荷率指標GFの計算結果の変動幅が十分小さいか、その値が1に十分近い場合(例えば0.95以上の場合など)は省略可能である。この場合、負荷率指標Loadの値を負荷率指標値とするとよい。
【0097】
このようにして負荷率指標を計算する入熱回帰法は、出力回帰法と同様に比較的少ないデータ項目に基づいてガスタービンの負荷状態を効率的に評価できる。また、出力回帰法による負荷状態の評価が、発電出力という出力側(運転結果側)の観点からの評価であったのに対して、入熱回帰法ではプラントへの入熱量といういわば入力側(運転指令側)の観点からの入力エネルギーを基準にした評価になっている。このため、入熱回帰法による負荷率評価では、プラントへの入力エネルギー状態の推移の観点から負荷率を評価できる特徴がある。ガスタービンの異常の発生時などにおいては、運転指令と実際の運転状態が異なることがあるために、このように出力側の出力回帰法と別に、入力側の入熱法の視点を活用できることは有用である。
【0098】
図17に、前述の図1における前記ベースロードデータ抽出手段131内部の計算処理フローの別の1例を示す。この処理手順による計算方法を以下、両立法と呼ぶ。その手順は、評価対象となる時系列データの各時刻に対する繰返し処理になっており、該繰返し処理は各時刻のデータに対して、ガスタービンの負荷状態を反映する少なくとも1つ以上の指標、すなわち図2の工程8で設定された、発電出力、発電効率、圧力比、燃料流量、排気温度、吸気流量あるいは後述する図4、図5の方法で計算された負荷率指標のうちの少なくとも1つ以上の指標(負荷率指標)の各々に対して、指標ごとに予め定めた上下限範囲内にあるかどうか真偽判定する指標別しきい値判定工程24〜26と、該判定工程24〜26で実行された各指標のしきい値判定結果にもとづいて、これらの全指標の判定結果が真か、そうでないか(1つでも偽の指標であれば偽)真偽判定する工程(全指標での論理積判定工程152)と、前記工程152の判定結果が真であれば、その時刻の運転データを選択する選択工程153と、以上の工程24〜26、工程152、工程153(工程152の判定が偽の場合、工程153は無し)の処理が、評価対象となる時系列データの全時刻のデータに対して実行されたか判定する完了判定工程154と、該完了判定の結果が偽(FALSE、未完了)の場合に次の時刻のデータに進む工程155からなる。
【0099】
前記完了判定工程154の判定結果が偽(FALSE、未完)となり、工程155で時系列データの次の時刻のデータに進んだ場合、前記工程24〜26から工程152を経て、工程152が真の場合はさらに選択工程153を経て、完了判定工程154に至るまでを再度実行する。この一連の処理を完了判定工程154での判定が真(TRUE,時系列データの全時刻に対して完了)になるまで繰り返す。
【0100】
このようにして前記完了判定工程154の判定が真(TRUE)となったときに、以上の繰返し処理の前記選択工程153で選択されていた運転データがベースロードとした抽出されたデータとなる。
【0101】
本方法には以下の効果がある。
【0102】
(ア) 工程24〜26のように複数指標の観点を使い、全指標の判定結果が真のデータのみをベースロードデータとして選択するため、ベースロードデータの抽出精度が高くなり、これにより、続くモデル化手段132(図1)の性能特性モデルが高精度化し、最終の性能評価手段133(図1)での性能の低下や回復の評価精度が高精度化する。
【0103】
(イ) 出力回帰法・排気温度法・入熱回帰法のうち最も高精度な方式と同等以上のベースロードデータの抽出精度が得られる。これは、両立法では、出力回帰法・排気温度法・入熱回帰法などの複数指標のAND条件(すべてを満たすかどうかの論理積)を取り、一指標でもしきい値判定を外れるデータは除外しており、これは各指標で抽出した範囲を重ね合わせ、重なる部分に抽出範囲を絞り込んでいることになっているためである(この具体例を後に図11に示す)。
【0104】
(ウ)出力回帰法と排気温度法と入熱回帰法のどの方法が適しているかの事前情報や、これを確かめるための手間が不要となるので、迅速かつ効率的に高精度な結果が得られる。例えば、出力回帰法と排気温度法と入熱回帰法のうち、どの方式のベースロード抽出の精度が高いかは、サイトの各計測項目の精度やガスタービンの機種型式によって異なる。
このようにどのベースロード抽出方式が適しているか事前に分からない場合、通常は、出力回帰法と排気温度法と入熱回帰法の全方式を実施し、精度を比較してから、いずれかの方式を選択する必要がある。しかし、両立法では、これらの複数方式をまとめて実施し、かつその結果を自動的に織り込んで、上述のようにこれらの方式の中で最も高精度な方式と同等以上の抽出精度を得ることができるためである。
【0105】
以下に、前述の図1のモデル化手段132における処理手順の例を説明する。モデル化手段132では、前述したように、ベースロードデータ抽出手段131で抽出されたベースロード運転データに基づいて、ガスタービンの性能特性モデルのモデル定数を決定する。
【0106】
この際、対象ガスタービンが、エネルギーサービス事業用に用いられているものや、経年機などの場合、設備の保有事業者や運転保守の実施事業者には、対象機の性能モデルやモデル定数が未知であることが一般的である。特にモデル定数は、メーカーの設計情報であり、一般にはほとんど開示されておらず、仮に開示されていても、経年機では度重なる保守や部品交換などによって、性能特性が当初の設計時とは異なっていることも多い。
【0107】
このような場合、性能特性モデルは実機の運転データから構築する必要がある。このためには、代表的な運転条件である吸気温度、すなわち大気温度の範囲が運転範囲の全体を含むようにデータを採取する必要がある。例えば、年間の最高・最低気温の範囲を含めるために、望ましくは1年周期、少なくとも最高気温と最低気温の間の期間として約半年程度の期間が必要になる。これは連続運転設備の場合、稼働時間が約4000〜8000時間に相当する。
【0108】
しかし、このような期間中にもガスタービンの性能は劣化する。例えば運転開始後の5000時間において発電出力が約3%低下することが典型例として報告されている(Harry G.Stoll,Creating Owner’s Competitive Advantage through Contractual Services,GE Power Systems,GER4208,P.10,(2001))。これによる問題点は、設備が劣化する前の正常状態のモデルを構築するために収集したデータのなかに劣化の影響が含まれてしまうことである。したがって、経時劣化の影響が含まれた実機運転データからでも、劣化前の性能特性モデルを同定できる方法が必要となる。
【0109】
これに対応するため、劣化の影響を加味して実機データの性能特性をモデル化した後に、このモデルから劣化の計算を除外することによって、劣化進行前の初期の性能特性モデルを同定する方法を以下に示す。
【0110】
図7は、初期性能特性モデルの同定に使う性能特性モデルの模式図である。この性能特性モデルは、大気条件などの運転条件64と設計条件によって決まる対象機固有のモデル定数62を性能特性モデル61に入力し、性能の計算結果(性能計算値65)を出力するものであり、この際に、劣化の進行を性能計算に反映させるためのモデル定数(以下、特に劣化係数63と呼ぶ)を入力に加えるようになっている。はじめに、前記運転条件64に、前述のベースロードデータ抽出手段131(図1)で抽出した実機のベースロード運転の時系列データに含まれる運転条件データを入力し、このときに性能特性モデル61から出力される性能計算値65が、同じベースロード運転の時系列データに含まれる性能の値との誤差が予め定めた許容範囲内になるように、最小二乗法などの公知の未知パラメータ決定手法により、前記モデル定数62と前記劣化係数63を同定する。このようにして同定された該性能特性モデル61から、劣化係数63及びこれを使った性能計算部分が除かれるようにし、これを性能劣化前の初期性能特性モデルとする。
【0111】
具体的な例を以下に示す。式(8−1)及び(8−2)、(8−3)は、本発明が提供するモデル化方法の1例である(以下、これらをまとめて式(8)と呼ぶ)。式(8−1)は、性能Yを、運転条件が標準条件のときの性能Yに、標準条件からのずれによる性能の補正量ΔYを加えて計算する。このさいに、式(8−2)は、補正量ΔYを、少なくとも1つ以上の運転条件x(i=1,2,…)の関数f_opr(以下、運転条件補正関数と呼ぶ)として計算する。この運転条件補正関数f_oprの中に使用される係数や定数項の中に前述の図7のモデル定数62が含まれる。また、式(8−3)は、標準条件での性能Yを、劣化の進行に応じて変えるように関数f_dgr(以下、経時低下関数と呼ぶ)によって計算する。経時低下関数f_dgrは、変数として稼働時間tを含み、この他に、劣化が起こる前の当初の性能値(標準条件での値であり、定数)と、稼働時間tの経過による性能低下の進行を模擬するための少なくとも1つ以上の定数係数(図7の劣化係数63)をモデル定数として含んでいる。
【0112】
ここで、性能Yは、例えば、発電出力、発電効率、圧縮機圧力比、燃料流量などである。Yはこれらに限定されるものではなく、性能が劣化すると値が変化するような運転データであれば対象となる。また、運転条件とは前述した大気温度・圧力などの環境条件や、燃料流量などの操作条件を示し、標準条件とは例えばISOで定められた標準大気条件や、この大気条件に対応する操作条件の値を示す。
Y = ΔY + Y …(8−1)
ΔY = f_opr(x) …(8−2)
= f_dgr(t) …(8−3)
これらの式(8)の特徴は、劣化による性能特性の変化の影響を、標準条件での性能を示す経時低下項(式(8−1)の右辺第2項、式(8−3))に集約したことである。厳密には、劣化による性能特性の変化は、補正項ΔY(式(8−1)の右辺第1項)の運転条件補正関数f_opr(式(8−2))にも及ぶ。しかし、発明者らはガスタービンの性能特性を分析した結果、補正項ΔYへの影響は、標準条件換算性能Yの経時変化への影響に比べて、相対的に小さいことを見出した。そこで、性能の経時劣化を、このように標準条件での性能値Yについて、値を劣化に応じて変化させる経時低下関数f_dgrのようにしてモデル化し、一方で、標準条件からのずれによって性能を補正する運転条件補正関数f_oprは劣化によらず一定とするモデル化方法を考案した。この方式は、ガスタービンの性能劣化の複雑な影響を、上のように標準条件での出力値の経時低下だけに着目してモデル化し、運転条件の違いによる性能補正への影響を省略している。この単純化によって、本方式では省力的かつ効率的に、ガスタービン性能の経時劣化と、運転条件による性能変化の複雑な特性を分離して評価できる。
【0113】
この式(8)の性能特性モデル61のモデル式についての具体的な一例を示すと次式(9−1)の通りである。この式で、xi0は少なくとも1つ以上の運転条件x(i=1,2,…,n)の標準条件での値を示す。記号Σは項a×(x−xi0)をi=1,2,…nまで加算することを示す(Σの説明は以下同様とする)。係数a(i=1,2,…)は、i番目の運転条件xの標準条件xi0との偏差に応じた、性能Yの補正係数である。αは稼働時間に応じた性能Yの劣化係数である。定数項Y00は標準条件での性能値Yについての、性能が劣化する前の当初の値を示す。なお、本発明で、性能劣化前の当初の値とは、対象期間中における当初の値を指すものである。
Y = Σa×(x−xi0) + (α×t + Y00 ) …(9−1)Y = Σa×(x−xi0) + Y00 …(9−2)
式(9−1)において、係数a(i=1,2,…)と定数項Y00は図7のモデル定数62に相当し、αは劣化係数63に相当する。これらa、α、Y00の値の決定方法としては、ベースロードデータ抽出手段132で抽出したベースロードの実機時系列運転データを使って、公知の重回帰分析の最小二乗法などで計算するとよい。
【0114】
式(9−1)において、このようにしてモデル定数を決定したら、式(9−2)に示すように経時劣化の項を取り去ることで、劣化進行前の性能特性を示すモデル式ができる。
この方式では、式(9−1)に示す極めて単純な形で、性能の経時劣化と、運転条件変動の項を分離していることにより、ガスタービンの運転条件変動と劣化による性能の変化を、簡便に模擬することができる。
【0115】
表1に、式(9−1)で性能特性をモデル化する際の性能評価指標Yと運転条件の変数xの好適な対応例を示す。表1で、二重丸印は対象となる性能指標をモデル化するための運転条件として特に使うことが望ましいもの、一重丸印はモデルの精度が不十分な場合にさらに追加して使うことができるものである。
【0116】
【表1】

【0117】
表1に示すように、性能指標Yのうち、発電出力、発電効率、燃料流量は次式のように表すことで十分高精度にモデル化できる。圧縮機圧力比は、変数xに吸気圧力を使わずに吸気温度のみの関数とすることでよいが、吸気温度と湿度の関数にするとさらに特性モデルを高精度化できる。
Y = a×(Tci−Tci) + a×(Pci−Pci) + α×t + Y00 …(9−3
なお、表1の一重丸印の変数の使い方としては、上述のようにモデル化の式に組み込むのではなく、前述のベースロードデータ抽出手段131のデータ抽出条件として組み合わせてもよい。すなわち、前述したベースロードデータ抽出手段131においてデータを抽出するかどうか判定する工程24〜26(図3)の判定は、これら一重丸印の変数の値についての上下限許容範囲の条件がさらに付け加えられたものであってもよい。このようにすると、性能指標の特性モデルに影響は及ぼすものの、支配的に影響はしないこれらの変数の変動による影響を、特性モデルを構築前のデータ抽出の段階(ベースロードデータ抽出手段131)で予め除外することができる。したがって、本モデル化手段132で性能特性をモデル化する際に、主要な影響を及ぼす運転条件に絞って、高精度にモデル化できる。
【0118】
なお、性能特性モデル式が式(9−1)〜(9−3)のように線形でない場合は、図8に示すような手順でモデル定数を決定するとよい。すなわち、前記モデル定数62(図7)と前記劣化係数63(図7)の初期値を、モデル定数と劣化係数の初期値設定工程71で設定し、つづいて、これらの初期値を設定した前記性能特性モデル61(図7)に前記運転条件64(図7)を入力して性能を計算した性能計算値65(図7)を性能計算工程72で出力し、該性能計算値65が実測値に対して予め定めた一定の誤差範囲内にあるか誤差判定工程73で真偽判定し、偽の場合は前記モデル定数62と前記劣化係数63を設定値修正工程74で修正して前記性能計算工程72を再度実行し、これを誤差判定工程73の判定結果が前記の許容誤差範囲内になるまで繰り返すとよい。誤差判定工程73の終了条件が満たされたときの前記モデル定数62と前記劣化係数63の値がそれぞれの最終的に決定される値である。このような場合は、前述したように設計値、計画仕様値、経験値などの先験値を前記工程71の初期値に使うと好適である。これにより、繰返し計算の収束が高速化するだけでなく、機械的な収束計算で生じることのある、現実にありえない値で解が探索される危険性を減らすことができる。
【0119】
図9を用いて、前述の図1の性能評価手段133における処理内容を説明する。ここでは、性能の時系列データを標準条件での値に換算する場合を例に説明する。
【0120】
これを行うモデル(以下、標準条件換算モデル82と呼ぶ)は、図9に示すように、モデル定数62と運転データ81の入力を受け、運転条件によって変動している実機の性能値を、前述したISOの標準条件に直したときの換算値(以下、標準化データ83、あるいは標準条件換算値と呼ぶ)を出力するものである。
【0121】
前記モデル定数62は前述のモデル化手段132で決定した値(図7、8)を使うことができる。前記運転データ81は、実機の運転条件64(図7)とこのときの実機性能Yの実測値からなるデータである。
【0122】
前記標準条件換算モデル82のモデル式は式(10−1)のようになり、標準化データYを、性能値Yと先に式(8−2)で述べた運転条件補正関数f_opr(X)に基づいて計算する。具体的には例えば、前述の式(9−1)に対応する形では式(10−2)のように、式(9−3)に対応する形では式(10−3)のようにするとよい。これらの場合、モデル定数aは、先に式(9−1)で求めたものを使うことができる。このようにすると、標準条件換算モデルを新たにはじめから作ることなく、前段階のモデル化手段132で決定したモデル定数12を使って効率的に標準条件換算を実行できる。
= Y − f_opr(X) …(10−1)
= Y − Σa×(x−xi0) …(10−2)
= Y − a×(Tci−Tci) − a×(Pci−Pci) …(10−3)
なお、以上で述べたモデル化手段132でのモデル定数決定に使う実機時系列データの期間と、性能評価手段133で実機データを標準条件に換算する実機時系列データの期間は異なっていてもよい。例えば、モデル化手段132では実機時系列データのうち一部の期間で性能特性モデルのモデル定数を決定し、性能評価手段133ではこのモデル定数を性能劣化や保守による性能回復の傾向を評価したい期間全体に適用することができる。このようにすると、劣化評価の対象期間の全データを使うことなく、少ないデータで効率的にモデル定数を決定できる。これは特に、保守によって性能が復帰しているときを含むような期間を評価するときに必須である。例えば、性能が経時的に低下している設備で保守を実施して、その直後から性能が一度に大幅に回復したような場合、性能の不連続期間を含む実機運転データにもとづいて性能特性をモデル化することになるため、モデルの精度が悪くなる。このような場合、例えば、保守実施の前(あるいは後)の期間で性能特性モデルのモデル定数を決定し(モデル化手段132)、性能を標準条件に換算(性能評価手段133)する際には、このモデル定数を保守実施の前後で値を変えず、同じ値を使って性能の標準化データを計算すると、保守による性能の回復効果を高精度に定量化できる。
【0123】
以下、図10〜14を用いて、先に図15で示した運転データの実機を対象に、出力回帰法と、排気温度法、両立法、MT法の4方式で性能劣化評価を実施した事例を述べる。
【0124】
図10は、先に図15で示した運転データを対象に、出力回帰法と、排気温度法、両立法、MT法の4方式で性能劣化評価を実施した場合の、モデル予測精度とデータ抽出率の関係を比較した例である。ここでMT法とは、前述の図2、図3で説明した方式であり、統計距離の計算は前述のマハラノビス・タグチ法(MT法)の式(1)によった。
【0125】
ここで、各ベースロード抽出方式のしきい値は以下のように設定した。出力回帰法と排気温度法は、抽出率が60−70%程度の範囲で、精度が同等になるしきい値を設定した。両立法は、これら両方式のしきい値をそのまま用いて、両方の判定で真となったものをベースロードデータと判定した。MT法は、両立法の選択データを単位空間とし、単位空間データの分布に対する対象データのマハラノビス距離をしきい値3で判定した。なお、MT法の単位空間は、過去1週間を参照期間として、時刻の進行に応じて逐次更新している。
【0126】
結果をみると、両立法は、出力回帰法と排気温度法のうちで精度の高い方の、排気温度法と同等の精度になっている。本実機データの例では、排気温度法が出力回帰法よりも精度が高いが、これら2方式のうちどちらの精度が高いかは、サイトの計測項目の精度や機種型式によって異なる。このような状況に対して、両立法では、これら両方式の精度を個別に確かめて比較することなく、自動的に精度の高い方の方式と同等以上の精度を得ることができる。これは、先に図17で説明したように、両立法での抽出範囲の決定は、排気温度法と出力回帰法の抽出範囲の重なり合う範囲への絞込みになっているためである。
【0127】
また、MT法については、他の3方式と同程度以上の精度を維持しながら、最も抽出率が高い結果となっている。とりわけ、両立法との比較では、両立法の抽出率が51%であるのに対して、MT法は73%と、データを約20%多く抽出し、かつ精度も同等である。また、排気温度法と比べてもMT法は精度が同等かつ抽出率が4%高い。このように、MT法では、出力回帰法や排気温度法を単独で実施したり、あるいは両立法のように単純に組み合わせたりするよりも、同じ精度でもより多くのデータを抽出できる。
【0128】
図11は、上述の図10の例における、各方式によるベースロードデータ抽出の様子を示している。図は、出力回帰法の負荷率指標である前記負荷率Loadと、排気温度法の負荷率指標ΔTmxをそれぞれ横軸・縦軸にプロットし、MT法による抽出範囲を他の3方式と対比して示している。
【0129】
出力回帰法では、しきい値は100±2%であり、図に示すこれらのしきい値の2本の実線(縦線)に挟まれた領域のデータがベースロードデータと判定される。
【0130】
排気温度法では、しきい値は0±1℃であり、図に示すこれらのしきい値の2本の実線(横線)に挟まれた領域のデータがベースロードデータと判定される。
【0131】
両立法では、出力回帰法と排気温度法の両方の条件を満たす長方形に囲まれた領域のデータがベースロードデータと判定される。両立法では、このように出力回帰法と排気温度法の抽出範囲の重なる領域に絞り込んで抽出しているため、元になる出力回帰法と排気温度法でどちらの精度が高いかにかかわらず、そのような事前情報がなくても、精度の高い方の方式と同等以上の精度が実現できる。
【0132】
MT法では、両立法の領域のデータを単位空間として、ここより楕円形状に分布の周辺へ拡張した範囲がベースロードデータと判定されている。図から、MT法は出力回帰法と排気温度法の相関を反映し、分布の中心から密度の低い方向へと、分布状況に応じて等価に均等に抽出されていることがわかる。これにより、MT法は、他の3方式と同等の精度を保ちつつ、より多くのデータを抽出できている(抽出率が高い)。
【0133】
なお、この例では、出力回帰法の方が排気温度法よりも精度が低いが、反対に排気温度法の方が出力回帰法よりも精度が低いような場合もある。このように単独の方式の良し悪しは、実機の型式や各項目の計測精度によって左右されるが、このいかんによらず高精度な結果が得られるのが両立法とMT法である。このうち両立法の精度が高い理由は上述の通りである。一方、MT法では、単独の各方式(出力回帰法、排気温度法)のうち精度の優れた方法で精度の劣る方法を補強し、かつ、それぞれ単独の場合よりも良い結果を得ることができる。すなわち、両方式の良さを生かして最も高精度かつ抽出率の高い結果を安定的に得ることができる。これは複数の負荷率指標についての分布の相関を考慮して、統計距離の近いところから抽出する、というMT法を使った方式の特性によるものである。
【0134】
図12は、前述の図11に対して各方式のベースロード判定のしきい値を変化させたときの、抽出率とモデル予測精度の変化を比較したものである(予測精度は平均誤差で示している)。この図ではしきい値は媒介変数となっているため、直接グラフには表示されていない。グラフは抽出率とモデル予測精度の関係を示している。
【0135】
結果について述べる前に、各方式を比較するためのしきい値の標準化と、各方式の設定を以下に記す。出力回帰法と排気温度法ではしきい値の単位が異なり、このままでは方式別に比較するには不便である。このため、それぞれの負荷率指標値について、平均値の周囲ばらつきを標準偏差σの定数倍として正規化した。すなわち、しきい値を変化させるときは、このように標準偏差で正規化したnを変化させた。
負荷率 100±nσ [%]
排気温度管理指標値偏差 0±nσ [%]
両立法のしきい値は、出力法と排気温度法の両方のしきい値に依存する。これらを同時に変化させる方法として、上述のように標準偏差で正規化したnを変化させて、各方式のしきい値を設定した。MT法では、単位空間には両立法でベースロードとして判定されたデータを用いた。MT法の元になる出力回帰法と排気温度法の各しきい値は、抽出率が各68%程度になる点を設定し、MT法のしきい値は式(1)で計算したマハラノビス距離をしきい値判定した。
【0136】
結果をみると、MT法はどの抽出率範囲においても安定的に他の3方式よりも、平均誤差率が低い。特に、抽出率が上昇するとともに誤差率が急激に増大しはじめる抽出率80%以上の領域でも、他の3方式よりも一貫して誤差率が低い。このように、MT法は抽出率の範囲によらず安定的に高い精度が得られる。
【0137】
これは上述したように、本発明で提案するMT法を応用した本方法では、仮負荷率と排気温度管理指標偏差という複数の指標の相関を考慮し、これらの分布の重心からの統計的なばらつき度合いが均等になるように、しきい値が定められるためである。このようにしきい値が設定されるため、しきい値を変化させた際にも、MT法では、負荷率指標の相関に沿って、より分布の中心に近い値が優先的に選択されることになる。その結果、同程度の抽出率であっても、出力回帰法や排気温度法などの単独の方法や、これを単純に組み合わせた両立法よりも、複数指標の観点から複眼的にみて、よりふさわしいと察せられるデータが選択されているといえる。
【0138】
図13は、前述の図11に対して、各方式の実際のしきい値の変化に対応する、抽出率とモデル予測精度の変化を個別に示している。
【0139】
結果をみると、出力回帰法、排気温度法、両立法の3方式では、正規化されたしきい値が1〜10の範囲で、抽出率が約80〜100%へと変化し、同時に95%誤差率が約1%前後から11%まで急激に上昇している。したがって、これら3方式においては、しきい値の設定がモデル予測精度に及ぼす影響の感度が大きく、しきい値の設定には注意が必要である。
【0140】
これに対して、MT法では、しきい値を1〜10まで変化させても、95%誤差率は約1%のまま大きな変化がなく、さらに10〜100まで変化させても、95%誤差率は約3%まで増加するが、その変化は緩やかである。
【0141】
このようになっているのは、MT法ではしきい値を、負荷率指標のもとの尺度から、統計的ばらつきの尺度であるマハラノビス距離に変換しているためである。この変換では、値が密集している付近では統計距離が近く、密集度が薄まるにつれて距離の大きい割合で増大するようになっている。この結果、出力回帰法、排気温度法、両立法のようにもとの値の尺度を使う方法では、分布の密集部分から薄くなる部分への推移が短い区間で急激に変化しているのに対して、MT法では統計的ばらつき度合いの変化に応じてしきい値が変わるため、しきい値の変化に対する抽出率の傾きが他の3方式よりも緩やかになっている。このようにMT法は、統計距離を尺度に使うことにより、抽出率が大きく変化する区間を拡大して緩やかに捉えることができている。これにより、しきい値の設定による精度への影響が、急激にならず緩やかに抑えられている。
【0142】
以上のように、MT法はしきい値の設定による精度への影響の感度が低い。このため、ベースロード抽出の運用上も安定してしきい値設定ができる。
【0143】
図14は、先に図15で示した運転データを対象に、これら4方式をそれぞれ用いて劣化傾向を評価した結果である。
【0144】
ここで、各方式のしきい値は前述の図10、11とは異なり、以下に述べるようにして定めたものを用いている。
【0145】
すなわち、図10、図11では、出力回帰法と排気温度法のしきい値を、そのまま両立法のしきい値と、MT法の単位空間に用いた。しかし、図12で示したように各方式の抽出率と精度にトレードオフがある関係を考慮すると、方式ごとに最も適切なしきい値を設定する基準を統一する必要がある。このためにトレードオフの傾向をみると、図12の例では抽出率が0%からおよそ80%程度までの間は、精度はほぼ一定水準であるが、80%前後を越えると急激に精度が低下することがわかる。このことは、本例では、抽出率が0〜80%程度の領域では、運転データの選択範囲が、ベースロード運転域であり、その分布の中心から周縁方向に向かって選択範囲を拡大しているが、一方で、抽出率が80%前後を超えると部分負荷域のデータを含まれるようになっていることを示している。
【0146】
したがって、しきい値の選定基準として、抽出率をなるべく大きく取りながらも、部分負荷データが含まれて精度が低下する領域を避けることが望まれる。このような点は、図12のようなグラフ上では、精度がほぼ一定で誤差が低い水準を保って、横這いに推移しながら、抽出率が上がって或る点から誤差が上昇し始めるような直前の点である。このような点を以下、誤差率の変曲点と呼ぶ。ここでは平均誤差率についての各方式の変曲点でのしきい値設定による劣化度評価結果を示している。なお、図中の縦線は、エンジンや部品の交換などの保守が実施された時期を示している。
【0147】
結果をみると、いずれの方式でも、保守に挟まれた稼動期間では経時的に性能低下が進行するが、保守を実施する毎に性能が回復している傾向を明らかにすることができている。特に、図中(2)と(5)は、圧縮機・燃焼器・タービンを含むコアエンジン全体の交換保守であるが、このような全体的な交換では、図中(1)のタービン動翼交換、(3)の燃料制御弁交換、(4)の熱電対交換のような部分的な保守に比べて性能の回復幅が大きいことも確認できる。(なお、図中(6)は保守でなく点検のみのため、性能変動がない。また(6)付近以降では実機で特殊な負荷配分運転をしたため性能は変化している)。また、標準化データの時々刻々の上下変動幅も均等であるため、先に保守時の性能回復の例を述べたのと同じように経時的な性能低下についても識別可能といえる。先に示したもとの発電出力計測値の時系列推移(図15)では、吸気温度の年間変動と、運転時の負荷率の変動や吸気温度の日変動により、常に大きい上下変動幅があり、劣化の有無や、保守による回復効果を全く判別できなかったが、本発明の方式によりベースロードデータを抽出し、モデル化して標準条件に換算することにより、運転・保守状況に応じた性能の推移が明らかにできていることが分かる。
【0148】
さらに、これらの方式による結果を仔細に比較すると、本例では出力回帰法の精度が相対的に低く、排気温度法と比べて、分布の中央付近から外れた値が散見される。これに対して、両立法ではこのような分布を外れた値が少なくなっており、MT法ではさらに少なくなっている。
【0149】
これは、先に図11で述べたように、両立法では出力回帰法と排気温度法の抽出範囲の重なり合う領域に絞り込んで抽出し、重ならない領域を除外しているためであり、MT法は出力回帰法と排気温度法の相関を考慮し、これらの2次元分布からのはずれ値が除外しているためである。この例では、出力回帰法でいったん選択されたデータに対して、両立法では排気温度指標のしきい値判定で偽(予め定めた上下限範囲外)のデータが除外され、またMT法では排気温度指標との相関からみてはずれ値になるデータが、分布の周辺から除外されることにより、このようにはずれ値がより少ない結果が得られているといえる。
【0150】
図16に、本発明のガスタービン性能診断システムに備えておくと好適な表示画面の例を示す。
【0151】
表示画面140は、前記出力手段103(図1)を示す表示装置の1画面例である。この表示画面140は、前記性能指標についての、診断対象期間中の運転データ(前記元データ)の時系列変化を表示する元データグラフ41と、該表示画面上に配されたボタン又は表示メニューなどのオブジェクトで、画面上でクリックまたは選択されることにより、前記ベースロード運転データ抽出手段において元データからベースロード運転データの抽出が開始されるようなオブジェクト(以下、抽出実行ボタン142と呼ぶ)と、前記ベースロードデータ抽出手段131で抽出されたベースロード運転データ(以下、抽出データ)の時系列変化を表示する抽出データグラフ143と、あるいは前記元データグラフと前記抽出データグラフの代わりに、前記元データと抽出データを区別できるようにプロットの記号や色を変えて1つのグラフに重ねて表示したグラフ(以下、抽出重ねグラフ)と、あるいはさらに前記標準条件換算手段から出力された標準化データの時系列変化を表示するグラフ(標準化データグラフ144)を備えている。
【0152】
なお、前記抽出実行ボタン142は図では1個としたが、これに限る必要はなく、前述の出力回帰法や、排気温度法、両立法など、種々のベースロード運転データ抽出方法に対応する複数個のボタンを配置して、抽出方法を選択できるようにしてもよい。この際に、該複数個のボタンは、複数同時選択を許容するものとし、選択された複数通りの抽出方法に応じた各しきい値の値をユーザが入力して設定する画面が併せて表示されるものとする。また、複数通りのベースロードの抽出結果について、AND条件を組み合わせて、1つの結果に集約するかどうかユーザが指定できるオプションボタンが設けられているものとする。
【0153】
ベースロード運転データの抽出は、性能診断の精度に大きく影響するため極めて重要であり、このことは先行発明でも詳細に事例で説明した通りである。本表示画面140は、上述のように抽出実行ボタン142と、元データグラフ141、抽出データグラフ143、あるいは抽出重ねグラフを備えているので、診断にとって重要なベースロード運転データの抽出がどのようになされたか、ユーザが確認したいときに、迅速に表示して、結果を確認したり、新しい条件を試したりすることを効率的に支援できる。
【0154】
さらに標準条件に換算した標準化データグラフ144も備えられている場合は、ユーザが、ベースロード抽出の状況を、標準条件換算グラフに示される性能推移の状況と対比させて見ることができる。これによって、ユーザが、性能劣化の状況と、これに影響するベースロード抽出の状況を総合的に判断して、直観的かつ高精度に診断業務を遂行するのに役立つ。
【0155】
また、前述のように抽出実行ボタン142が、抽出方法に応じて複数個備えられている場合、本システムのユーザは、例えば、ベースロードデータの抽出状況を画面で観察していて好ましくないと判断した場合に、抽出の方法や組み合わせを変更したりできる。この変更に応じた抽出の結果と劣化診断結果はただちに抽出データグラフ143と標準化データグラフ144に反映されるので、ユーザは種々の抽出方法やその組み合わせを画面上で手軽に試して、表示される結果(抽出グラフ、標準化グラフ)を比較検討することができる。本システムはこのように、抽出方法に応じたベースロード抽出状況をユーザ入力に応じて対話的に表示できるので、最も精度の高い抽出方法をユーザが選定するのを効率的に支援できる。
【0156】
なお、以上の全実施例で述べたガスタービンの性能劣化の診断方法においては、さらに次のようにすることで診断の精度を向上することができる。すなわち、ベースロードデータ抽出手段131での処理において、事前に運転条件が一定の範囲内にあるデータに絞り込んで(AND条件で)から前述の抽出を実施するとよい。このような運転条件としては、例えば、排ガス中の窒素酸化物濃度の低減や発電出力の増大のために燃焼器に噴霧される蒸気や水などの冷媒の噴射流量またはその温度・圧力・熱量、あるいは再熱サイクルの温度・流量・圧力条件などの、ガスタービンのプロセスの入力に関わる条件が該当する。
【0157】
また、同様に、ベースロードデータ抽出手段131における出力回帰法の計算や、モデル化手段132における性能特性モデルの決定において、モデル化を複数の吸気温度条件範囲に分けて、実施することも有効な方法である。ガスタービンは吸気温度が低下すると出力が向上するが、実際には発電機の容量に併せて、吸気温度が低い領域での出力を抑える運転をすることも多く、このような場合に、この低吸気温度域では性能特性が変わることがある。本方法ではこのような特性変化に柔軟に対応することができる。
【符号の説明】
【0158】
4…統計距離計算工程、5…しきい値判定・データ選択工程、21…単位空間設定工程、22…各時刻データの参照期間から選択されたデータへの統計距離の計算工程、24〜26…指標別しきい値判定工程、27…全指標の論理積判定工程、41…出力特性モデル同定工程、42…負荷率計算工程、43…負荷率計算工程、44…排気温度指標モデル同定工程、45…負荷率指標計算工程、46…負荷率指標計算工程、47…入熱特性モデル同定工程、48…負荷率計算工程、49…負荷率計算工程、61…性能特性モデル、62…モデル定数、63…劣化係数、64…運転条件、65…性能計算値、71…モデル定数と劣化係数の初期値設定工程、72…性能計算工程、73…誤差判定工程、74…設定値修正工程、81…運転データ、82…標準条件換算モデル、83…標準化データ、101…ガスタービン、102…計算手段、103…出力手段、131…ベースロードデータ抽出手段、132…モデル化手段、133…性能評価手段、134…参照期間設定手段、135…参照データ選定手段、136…統計距離計算手段、137…判定・選択手段、140…表示画面、141…元データグラフ、142…抽出実行ボタン、143…抽出データグラフ、144…標準化データグラフ、152…全指標の論理積判定工程、153…選択工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスタービンの発電出力、発電効率、圧縮機圧力比、燃料流量のいずれかである性能指標値を予め定めた吸気温度と吸気圧力における値とした標準化データを表示画面に表示し、
表示された前記標準化データの稼働時間に対応させてガスタービンの保守が実施された時期を前記表示画面に表示することを特徴とするガスタービンの性能診断システムにおける表示画面の表示方法 。
【請求項2】
ガスタービンの発電出力、発電効率、圧縮機圧力比、燃料流量のいずれかである性能指標値を予め定めた吸気温度と吸気圧力における値とした標準化データを表示画面に稼働時間の時系列に表示し、
前記標準化データの時系列の変化量を表示するため前記表示画面の縦軸に目盛を表示することを特徴とするガスタービンの性能診断システムにおける表示画面の表示方法。
【請求項3】
請求項1に記載のガスタービンの性能診断システムにおける表示画面の表示方法において、前記表示画面に前記ガスタービンの保守が実施された時期は、前記標準化データの稼働時間を表示する横軸に対して、前記表示画面に縦線によって表示することを特徴とするガスタービンの性能診断システムにおける表示画面の表示方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−106467(P2011−106467A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41029(P2011−41029)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【分割の表示】特願2006−273937(P2006−273937)の分割
【原出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000233044)株式会社日立エンジニアリング・アンド・サービス (276)