説明

ガス充填システム及び補正方法

【課題】ガスボンベ内の圧力と、圧力センサの出力電圧との関係を補正する。
【解決手段】(a)ガス充填前のガスボンベ内の第1の温度と、第1の圧力と、第1の圧力における圧力センサの第1の出力電圧とを取得する工程と、(b)ガスボンベの容積と、第1の温度と、第1の圧力と、を用いて前記ガスボンベ内の第1のガスの量を取得する工程と、(c)ガス充填後のガスボンベ内の第2のガスの量を取得する工程と、(d)ガス充填後のガスボンベ内の第2の温度と、第2の圧力と、第2の圧力における圧力センサの第2の出力電圧とを取得する工程と、(e)ガス充填後のガスボンベ内の第2のガスの量と、ガスボンベの容積と、第2の温度と、を用いてガスボンベ内のガスの第3の圧力を算出する工程と、(f)第1の圧力と第1の電圧及び第3の圧力と第2の電圧とを用いて、圧力センサの出力電圧とガスボンベ内の圧力との関係を補正する工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のガスボンベの内部のガスの圧力を圧力センサで測定する時における、圧力と圧力センサの出力電圧の関係を補正する補正のやり方に関する。
【背景技術】
【0002】
水素をエネルギー源として使用する車両には、水素ガス貯蔵タンクが搭載されている。水素ガス貯蔵タンクの圧力監視は、例えば圧力センサにより行われている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−325950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料電池車両における水素ガス貯蔵タンクは、圧力が70MPa程度以上の極めて高い圧力で水素を貯蔵する。このため、圧力センサとしては、例えば隔膜(ダイヤフラム)に加わる圧力を膜の変形として歪みセンサで検出し、歪み量に応じた出力電圧を発するものが使用される場合がある。このような圧力センサでは、圧力センサのダイヤフラムに水素が固溶し、ダイヤフラムが膨張する場合がある。かかる場合、圧力センサの出力電圧から水素ガス貯蔵タンクの圧力を正しく求めることが難しい場合があった。
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、水素ガス貯蔵タンク(ガスボンベ)内の圧力と、圧力センサの出力電圧との関係を補正することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
ガス充填システムであって、ガスステーションのガスタンクから供給されるガスを充填するガスボンベと、前記ガスタンクから前記ガスボンベに供給されるガスの量を測定するガス流量計と、前記ガスボンベ内のガスの温度を測定する温度センサと、前記ガスボンベ内のガスの圧力を測定し、圧力に応じて出力信号を発生する圧力センサと、前記圧力センサの圧力と前記出力信号の値との関係を補正する制御部と、を備え、前記制御部は、前記ガスを充填する前の前記ガスボンベ内のガスの第1の温度と、第1の圧力と、前記第1の圧力における前記圧力センサの第1の出力信号値とを取得し、前記ガスボンベの容積と、前記第1の温度と、前記第1の圧力と、を用いて前記ガスボンベ内の第1のガスの量を取得し、前記ガスを充填するときの前記ガス流量計の測定値を積算することにより、ガス充填後の前記ガスボンベ内の第2のガスの量を取得し、前記ガス充填後の前記ガスボンベ内のガスの第2の温度と、第2の圧力と、前記第2の圧力における前記圧力センサの第2の出力信号値とを取得し、前記ガスボンベの容積と、前記ガス充填後の前記ガスボンベ内の第2のガスの量と、前記第2の温度と、を用いて前記ガスボンベ内のガスの第3の圧力を算出し、前記第1の圧力と前記第1の出力信号値及び前記第3の圧力と前記第2の出力信号値とを用いて、前記圧力センサの出力信号と前記ガスボンベ内の圧力との関係を補正する、ガス充填システム。
この適用例によれば、第2の圧力を第3の圧力と補正することにより圧力センサの出力電圧との関係を補正し、出力電圧から正しい圧力を求めることが可能となる。
【0008】
[適用例2]
適用例1に記載のガス充填システムにおいて、前記制御部は、前記第2の圧力と前記第3の圧力との差が、前記第2の圧力に対して予め定められた第1の比率以上であって、予め定められた第2の比率未満である場合に、前記補正を行う、ガス充填システム。
この適用例によれば、第2の圧力と第3の圧力との差が小さい場合には、補正をする必要がない。
【0009】
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載のガス充填システムにおいて、前記ガスボンベの前記ガスステーションと反対側に減圧弁が接続されており、前記圧力センサは、前記減圧弁の前記ガスボンベ側のガスの圧力を測定する第1の圧力センサと、前記減圧弁の前記ガスボンベと反対側のガスの圧力を測定する第2の圧力センサとを有し、前記制御部は、前記第1の圧力が予め定められた圧力よりも低く、前記減圧弁を通過した後の下流側の前記第2の圧力が、前記減圧弁を通過する前の上流側の前記第1の圧力と同じとなる場合には、前記第1の出力信号値として前記第1の圧力センサの出力信号値を用い、前記第1の圧力として前記第2の圧力センサから得られた圧力を用いて前記補正を行う、ガス充填システム。
この適用例によれば、第1の圧力を補正することにより圧力センサの出力電圧との関係を補正し、出力電圧から正しい圧力を求めることが可能となる。
【0010】
[適用例4]
適用例1から適用例3のいずれか一項に記載のガス充填システムにおいて、前記第2の圧力と前記第3の圧力との差が、前記第2の圧力に対してあらかじめ定められた第2の比率以上の場合には、前記制御部は、前記ガスボンベの容積と、前記第1の温度と、前記第1の圧力と、前記第1のガスの量と、前記第2の温度と、前記第2の圧力と、を用いて、前記第2のガス量を求め、前記ガス流量計の測定値を補正する、ガス充填システム。
この適用例によれば、第2の圧力と第3の圧力との差が大きい場合には、流量計の測定値を補正することができる。
【0011】
[適用例5]
ガスボンベに接続された圧力センサにかかる圧力と前記圧力センサの出力信号との関係を補正する補正方法であって、(a)ガスを充填する前の前記ガスボンベ内のガスの第1の温度と、第1の圧力と、前記第1の圧力における前記圧力センサの第1の出力信号値とを取得する工程と、(b)前記ガスボンベの容積と、前記第1の温度と、前記第1の圧力と、を用いて前記ガスボンベ内の第1のガスの量を取得する工程と、(c)前記ガスを充填するときの前記ガス流量計の測定値を積算することにより、ガス充填後の前記ガスボンベ内の第2のガスの量を取得する工程と、(d)前記ガス充填後の前記ガスボンベ内のガスの第2の温度と、第2の圧力と、前記第2の圧力における前記圧力センサの第2の出力信号値とを取得する工程と、(e)前記ガスボンベの容積と、前記ガス充填後の前記ガスボンベ内の第2のガスの量と、前記第2の温度と、を用いて前記ガスボンベ内のガスの第3の圧力を算出する工程と、(f)前記第1の圧力と前記第1の出力信号値及び前記第3の圧力と前記第2の出力信号値とを用いて、前記圧力センサの出力信号と前記ガスボンベ内の圧力との関係を補正する工程と、を備える、補正方法。
【0012】
本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、ガス充填装置の他、ガス充填方法、ガス充填におけるタンク内圧力検出値の補正方法等、様々な形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1の実施例にかかるガス充填システムの構成を示す説明図である。
【図2】圧力センサ270の構成を示す説明図である。
【図3】ガスボンベ200の内部の圧力が高くなった状態を示す説明図である。
【図4】ガスボンベ内のガスの充填量と圧力との関係を示す説明図である。
【図5】圧力とセンサ出力電圧の関係を示す説明図である。
【図6】第1の実施例における動作を示すフローチャートである。
【図7】第2の実施例の構成を示す説明図である。
【図8】第2の実施例における圧力と圧力センサの出力電圧の関係を示す説明図である。
【図9】第2の実施例の動作フローチャートである。
【図10】第3の実施例の動作フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1の実施例]
図1は、第1の実施例にかかるガス充填システムの構成を示す説明図である。ガス充填システムは、ガスを供給するガスステーション10と、ガスの供給を受ける車両20とを備える。ガスステーション10は、ガスタンク100と、弁110と、ノズル120と、ガス管130と、制御装置140と、通信機150と、流量計160と、を備える。車両20は、燃料タンク(「ガスボンベ」とも呼ぶ。)200と、減圧弁210と、レセプタクル220と、ガス管230と、充填通信用ECU240と、通信機250と、温度センサ260と、圧力センサ270と、燃料電池300と、を備える。
【0015】
ガスステーション10のガスタンク100と、ノズル120とは、ガス管130により接続されており、ガス管130には、弁110が設けられている。車両20のレセプタクル220には、ガスステーション10のノズル120が接続され、レセプタクル220は、ガス管230を介してガスボンベ200に接続されている。ガスボンベ200は、減圧弁を介して燃料電池300に接続されている。本実施例では、ガスタンク100内のガスは、弁110、ガス管130、ノズル120、レセプタクル220、ガス管230を経てガスボンベ200に充填される。
【0016】
ガスステーション10の流量計160は、ガス管130に接続されており、ガス管130を流れる単位時間当たりのガスの流量を測定する。車両20の温度センサ260は、ガスボンベ200の中のガスの温度を測定する。圧力センサ270は、ガスボンベ200の中のガスの圧力を測定する。
【0017】
車両20の充填通信用ECU240は、温度センサ260からガスボンベ200内のガスの温度を取得し、圧力センサ270からガスボンベ200内のガスの圧力を取得する。このとき、充填通信用ECU240が取得するのは、温度センサ260や圧力センサ270の出力電圧であり、充填通信用ECU240は、これらの出力電圧から温度や圧力を算出する。充填通信用ECU240はガスボンベ200内のガスの温度や圧力を、ガスボンベ200の容積を、通信機250及びガスステーション10の通信機150を介して、ガスステーション10の制御装置140に送る。通信機150と通信機250は、それぞれノズル120とレセプタクル220の傍に、赤外線発光部と赤外線発受光部とそれぞれ備えており、ノズル120とレセプタクル220とが結合されたときに、赤外線通信により通信を行ってもよい。ガスステーション10の制御装置140は、ガスボンベ200内のガスの温度や圧力を元に弁110の開閉を制御することにより、ガスタンク100からガスボンベ200へのガスの充填を制御する。また、流量計160からガスの流量を取得し、積算することにより、ガスタンク100からガスボンベ200に充填されたガスの量を算出する。
【0018】
図2は、圧力センサ270の構成を示す説明図である。圧力センサ270は、ステム271と、ガラス層274と、センサチップ276と、を備える。ステム271は、略円筒形の金属性の部材であり、頂部にダイヤフラム(薄膜部)272を備える。ガラス層274は、ダイヤフラム272に接するように配置され、センサチップ276はガラス層274に接するように配置されている。センサチップ276として、単結晶ピエゾ抵抗素子を用いることができる。圧力センサ270の内側の圧力が高くなると、ダイヤフラム272が外側に膨らみ、ガラス層274を介してセンサチップ276を変形させる。センサチップ276は、変形量に従って電圧を発生させる。充填通信用ECU240は、この電圧の値から圧力を求める。
【0019】
図3は、ガスボンベ200の内部の圧力が高くなった状態を示す説明図である。ガスボンベ200の圧力が高いと言うことは、ガスボンベ200内の水素分圧が高いことを意味する。かかる場合、水素の一部はダイヤフラム272に固溶する。その結果、ダイヤフラム272が膨張し、センサチップ276に対して、圧力に加えてダイヤフラム272の膨張による応力が作用する。したがって、充填通信用ECU240は、このセンサチップの出力電圧の値からガスボンベ200内のガスの圧力を求める場合にダイヤフラム272の膨張による応力を考慮して圧力の補正を行うことが必要となる。
【0020】
図4は、ガスボンベ内のガスの充填量と圧力との関係を示す説明図である。一般に、ガスの充填量が多くなると、圧力が増大し、またガスの温度が高いほど圧力は増大する。ガスボンベの容積をV[m3]、圧力をP[Pa]、温度をT[K]、ガスの量をn[mol]とすると、
【数1】

の関係がある。この式(1)は、理想気体の状態方程式と呼ばれるものであり、定数Rは気体定数と呼ばれ、R=8.31JK-1mol-1である。気体の分子間には、分子間力が働き、また、分子の大きさは無視できないので、一般には、実在気体の状態方程式が用いられる。
【0021】
式(2)は、実在気体の状態方程式の一例(ファンデルワールスの状態方程式)を示すものである。
【数2】

式(2)において、第1項の+an2/V2は分子間力(ファンデルワールス力)を考慮したものであり、第2項の−nbは、分子の移動空間の減少分を考慮したものである。係数a、bは、ファンデルワールス係数と呼ばれる。ガスが水素の場合、ファンデルワールス係数aは、2.48×10-3Pam6mol-2であり、ファンデルワールス係数bは、26.7×10-63mol-1である。
【0022】
ガスボンベ200の容積をV、ガス充填前の圧力をP1、温度をT1、ガスのモル数をN1とすると、式(2)より、
【数3】

容積V、圧力P1、温度T1を取得し、式(3)に代入して解くことにより、モル数N1を求めることが出来る。
【0023】
ガス充填後の圧力をP3、温度をT2、ガスのモル数をN2とすると、式(2)より、
【数4】

が得られる、式(4)を変形すると、式(5)が得られる。
【数5】

ここでガス充填後のガスの量N2は、N1+ΔNである。N1は上述したガス充填前のガスボンベ200内のガスのモル数である。ΔNは、新たに充填されたガスの量であり、ガスステーション10の流量計160の測定値を積算することにより容易に求めることができる。温度T2は温度センサ260により測定することができる。したがって、式(5)より、圧力P3を算出することができる。
【0024】
なお、ガスボンベ200が金属などの材料で形成されている場合、温度によりガスボンベが膨張し、容積Vが大きくなる場合がある。したがって、式(5)において、温度によるガスボンベ200の膨張を考慮して圧力P3を求めてもよい。さらに、圧力P3は、大気圧よりも大きいので、ガスボンベ200は、内外圧力差により、膨張する可能性がある。かかる場合には、一旦、式(5)により圧力P3を求め、圧力P3と大気圧とからガスボンベ200の容積Vを補正し、補正後の容積Vを用いて再度式(5)を用いて圧力P3を求める。これを繰り返し、求めた圧力P3の変化が一定の範囲内に収束したときの圧力を圧力P3としてもよい。
【0025】
図5は、圧力とセンサ出力電圧の関係を示す説明図である。破線(点Q1、Q2を通る直線)が補正前であり、実線(点Q1、Q3を通る直線)が、本実施例で説明する補正を行った後の圧力とセンサ出力電圧の関係を示す。補正前では、ガス充填前のとき、ガスボンベ200の圧力はP1であり、そのときセンサ出力電圧はE1である(点Q1)。ガス充填後、センサ出力電圧がE2になったとする。圧力とセンサ出力電圧との関係を示すグラフから、ガス充填後の圧力P2を求めることができる(点Q2)。
【0026】
ここで、圧力P2とP3とがほぼ同じであれば、圧力を補正する必要がない。しかし、図3で説明したように、圧力が高くなると、センサ出力電圧から圧力を正しく求めることが出来なくなる。したがって、式(5)を用いて算出した圧力を用いて、センサ出力電圧と圧力の関係を補正する。具体的には、図5の高圧力側のポイントとして、圧力P3、出力電圧E2の点を用いる(点Q3)。なお、本実施例では、P3>P2となる例を示しているが、補正前の圧力とセンサ出力電圧との関係を示すグラフによっては、P3<P2となる場合もあり得る。このような補正を行うことにより、圧力と圧力センサ270の出力電圧の関係を示す式は、点Q1、Q3を通る直線となり、圧力センサ270の出力電圧からガスボンベ200内のガスの圧力を正しく求めることができる。このため、燃料電池(図示せず)の動作によりガスが消費された場合に、圧力センサ270の出力電圧からガスボンベ200内のガスの圧力を正しく判断することが可能となる。
【0027】
図6は、第1の実施例における動作を示すフローチャートである。ステップS600では、車両20の充填通信用ECU240を起動する。この起動は、例えば、運転者あるいはガスステーション10の係員がレセプタクル220の蓋(図示せず)を開けることにより起動されてもよい。次いでステップS605において、充填通信用ECU240は、通信機250、温度センサ260、圧力センサ270を起動する。ステップS610では、ガスステーション10の係員は、ガスステーション10のノズル120を車両20のレセプタクル220に差し込む。これによりガスステーション10から車両20へのガスの充填が可能となる。また、ノズル120とレセプタクル220とが結合することにより、ガスステーション10の通信機150と、車両20の通信機250とは、通信が可能となる。
【0028】
ステップS615では、充填通信用ECU240は、温度センサ260、圧力センサ270から、ガスボンベ200の内部のガスの温度T1、圧力P1、出力電圧E1を取得し、ガスボンベ200の容積Vとともに、ガスステーション10の制御装置140に送信する。なおガスボンベ200の容積Vの値は、ガスボンベ200の設計データから予め求められており、例えば充填通信用ECU240に格納されている。
【0029】
ステップS620では、まず、ガスステーション10の制御装置140は、ガスボンベ200の内部のガスの温度T1、圧力P1、ガスボンベ200の容積Vから、ファンデルワールスの状態方程式を用いて、ガス充填前のガスボンベ200内のガスのモル数N1を求める((式)3)。そして、弁110を開けてガスボンベ200へのガスの充填を開始する。ステップS625では、制御装置140は、流量計160を用いて取得したガスの流量を取得して、ガスボンベに充填されたガスの充填量ΔNを取得する。ステップS630では、制御装置140は、弁110を閉じてガスボンベ200へのガスの充填を終了する。制御装置140は、ガス充填を終了する条件として、例えばガスの充填量ΔNが一定の量に達したとき、あるいは、圧力センサ270から得られるガスボンベ200内のガスの圧力が予め定められた値に達したとき、あるいは温度センサ260から得られるガスボンベ200内のガスの温度が予め定められた値に達したとき、など、様々な条件を採用することができる。
【0030】
ステップS635では、充填通信用ECU240は、ガス充填後のガスボンベ200の内部のガスの温度T2、圧力P2、出力電圧E2を取得し、ガスステーション10の制御装置140に送信する。なお、ガスボンベ200の容積Vは、すでにステップS615において送信済である。
【0031】
ステップS640では、ガスステーション10の制御装置140は、ガスボンベ200の内部のガスの温度T2、ガスボンベ200の容積Vおよびガス充填後のガスボンベ200内のガスの量N2(=N1+ΔN)から、ファンデルワールスの状態方程式を用いて、ガス充填後のガスボンベ200内のガスの圧力P3を算出する(式(5))。
【0032】
ステップS645では、制御装置140は、充填通信用ECU240から得た圧力P2と、ファンデルワールスの状態方程式から得た圧力P3とを比較しP2/P3がx1〜x2の範囲内か否かを判断する。ここでx1は1より小さい値であり、x2は1より大きい値であり、x1、x2は予め任意に定めることができる。圧力P3に対する圧力P2が5%以上異なるときに補正を実行するとすれば、x1=0.95、x2=1.05となる。x1<P2/P3<x2であれば、制御装置140は、処理をステップS650に移行し、補正を実行しない。一方、P2/P3≦x1あるいは、x2≦P2/P3であれば、制御装置140は、処理をステップS655に移行し、補正を実行する。具体的には、図5に示すように、出力電圧E2に対応する圧力をP2からP3に変更する。ステップS660では、制御装置140は、補正後の圧力と出力電圧の関係式を求め、車両20の充填通信用ECU240に送信する。この後、車両の充填通信用ECU240は、圧力センサ270の出力電圧から補正後の関係式を用いて、ガスボンベ200の圧力を取得することができる。
【0033】
以上、本実施例によれば、ガスの充填量から、ガスの圧力を補正するので、圧力センサ270に水素が固溶し、圧力センサ270のダイヤフラム272が膨張する場合であっても、圧力センサ270の出力電圧から圧力を正しく求めることが可能となる。
【0034】
[第2の実施例]
図7は、第2の実施例の構成を示す説明図である。第2の実施例では、高圧における圧力補正だけではなく低圧における圧力補正も行う。第1の実施例では、車両20の減圧弁210の上流側に圧力センサ270を備えていたが、第2の実施例では、上流側に加えて下流側にも圧力センサを備える。以下、両圧力センサを区別するため、上流側を上流側圧力センサa270、下流側を下流側圧力センサb280と呼ぶ。
【0035】
図8は、第2の実施例における圧力と圧力センサの出力電圧の関係を示す説明図である。破線(点Q1、Q2を通る直線)が補正前であり、実線(点Q4、Q3を通る直線)が、本実施例で説明する補正を行った後の圧力とセンサ出力電圧の関係を示す。点Q1、Q2、Q3については、第1の実施例と同じであるので、点Q4について説明する。点Q4は、圧力Pb、出力電圧E1の点である。ここで、圧力Pbは、下流側圧力センサb280の示す圧力の値である。
【0036】
減圧弁210の上流側の一次圧が調圧値以下まで下がったときには、下流側の二次圧と上流側の一次圧は等しくなる。但し、上流側の圧力は、上流側圧力センサa270が測定しており、下流側の圧力は、下流側圧力センサb280が測定しているので、上流側圧力センサa270が示す出力電圧から求められる圧力値と、下流側圧力センサb280が示す出力電圧から求められる圧力値は、異なる場合がある。ここで、上流側圧力センサa270の圧力測定範囲は、ガスボンベ200にガスを充填したとき(高圧)からガスを消費したとき(低圧)まで広範囲が測定範囲である。これに対し、下流側圧力センサb280の圧力測定範囲は、減圧弁210の下流側であり、低圧のみである。したがって、低圧、特に減圧弁210の調圧値以下の低圧における測定の場合には、下流側圧力センサb280の方が上流側圧力センサa270よりも信頼度が高い。したがって、この特徴を用い、減圧弁の一次圧と二次圧とが等しくなる条件において、下流側圧力センサb280の指示値Pbをもとに上流側圧力センサa270の値Paを補正する(点Q1→点Q4)。補正前の圧力と出力電圧の関係を示す直線は、点Q1、Q2を通る直線であったが、補正後の圧力と出力電圧の関係を示す直線は、点Q3、Q4を通る直線となる。
【0037】
図9は、第2の実施例の動作フローチャートである。第2の実施例は、第1の実施例のステップS610とステップS615との間に低圧側の補正処理のステップ(ステップS900〜S920)が加わる点が異なる。
【0038】
ステップS900では、充填通信用ECU240は、上流側圧力センサa270を用いて、減圧弁210の上流側(一次側)圧力Pa(出力電圧E1)を測定する。ステップS905では、充填通信用ECU240は、圧力Paが調圧値以下か、否かを判断する。この調圧値は、例えば、実験により予め求めておくことができる。圧力Paが調圧値よりも大きい場合には、充填通信用ECU240は、処理をステップS615に移行し、低圧領域における補正を実行しない。圧力Paが調圧値以下の場合には、充填通信用ECU240は、処理をステップS910に移行し、低圧領域における補正を実行する。
【0039】
充填通信用ECU240は、ステップS910において、下流側圧力センサb280を起動し、ステップS915において、減圧弁210の下流側(二次側)圧力Pbを測定する。ステップS920では、充填通信用ECU240は、低圧側圧力を補正する。具体的には、充填通信用ECU240は、上流側圧力センサa270の出力電圧がE1であるときの圧力が圧力Pbであるとみなす。以後は、ステップS615〜ステップS660の処理が実行される。
【0040】
なお、ステップS660では、制御装置140は、制御装置140は、補正後の圧力と出力電圧の関係式(点Q3、Q4を通る)を求め、車両20の充填通信用ECU240に送信する。この後、車両の充填通信用ECU240は、圧力センサ270の出力電圧から補正後の関係式を用いて、ガスボンベ200の圧力を取得することができる。
【0041】
以上、本実施例によれば、高圧領域のみならず低圧領域においても、圧力と出力電圧の関係を補正するので、出力電圧から、圧力をより正しく求めることが可能となる。
【0042】
[第3の実施例]
第1、第2の実施例では、圧力センサ270の出力電圧と圧力の関係を補正する補正式を求め、新たな補正式を用いて、圧力センサ270の出力電圧から圧力を求めたが、第3の実施例では、出力電圧と圧力の関係を補正するのではなく、流量計160を補正する。なお、ガス充填システムの構成は、第1、第2の実施例と同じなので、説明を省略する。
【0043】
図10は、第3の実施例の動作フローチャートである。第3の実施例は、ステップS650までは、第1の実施例と同じ動作であるので、説明を省略する。ステップS645において、制御装置140は、P2/P3≦x1あるいは、x2≦P2/P3であれば、制御装置140は、処理をステップS1000に移行し、圧力の補正を行うか、あるいは、流量の補正を行うかを、判断する。
【0044】
ステップS1000では、P2/P3がy1〜y2の範囲内か否かを判断する。ここでy1はx1よりも小さい値であり、y2は、x2よりも大きい値である。このy1、y2の値は、例えば実験により予め求めておくことができる。y1<P2/P3<y2であれば、制御装置140は、処理をステップS655に移行し、高圧側の圧力の補正を実行する。ステップS66では、制御装置140は、補正後の圧力と出力電圧の関係式を求め、車両20の充填通信用ECU240に送信する。一方、P2/P3≦y1あるいは、y2≦P2/P3であれば、制御装置140は、処理をステップS1005に移行し、流量計160の補正を実行する。具体的には、実在気体の状態方程式(式(2))を用いて、ガスボンベ200に新たに充填されたガスの充填量ΔNを求め、これを、積算結果と比較することにより、流量計160の補正を実行する。計算により求めた圧力P3に対し、圧力センサの出力電圧と圧力の関係から求めた圧力P2とが、一定以上異なっている場合には、流量計の異常が考えられる。したがって、第3の実施例では、計算により求めた圧力P3に対し、圧力センサの出力電圧と圧力の関係から求めた圧力P2とが、一定以上異なっている場合には、流量計160を補正する。
【0045】
以上、第3の実施例によれば、圧力を補正するだけでなく、流量を補正することが可能となる。
【0046】
なお、上記各実施例では、ガスステーション10のガス容器としてガスタンク、車両20のガス容器としてガスボンベの用語を用いているが、これは、2つのガス容器を区別するために便宜上使い分けているだけある。
【0047】
上記各実施例では、ガスステーション10の制御装置140が圧力センサ270の出力電圧と圧力との関係を示す式を補正しているが、車両20の充填通信用ECU240が、制御装置140からガス充填量のモル数ΔNを取得し、式(5)を用いて圧力P3を算出し、圧力センサ270の出力電圧と圧力との関係を示す式を補正してもよい。
【0048】
本実施例では、実在気体の状態方程式として、ファンデルワールスの状態方程式を用いたが、他に、例えば、ビルアル方程式や、ペン−ロビンソンの状態方程式、ディーテリチの状態方程式などの他の状態方程式を用いることが可能である。また、制御装置140は、低圧と、高圧で異なる状態方程式を用いてもよい。例えばペン−ロビンソンの状態方程式は高圧下での計算に有効である。
【0049】
以上、いくつかの実施例に基づいて本発明の実施の形態について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることはもちろんである。
【符号の説明】
【0050】
10…ガスステーション
20…車両
100…ガスタンク
110…弁
120…ノズル
130…ガス管
140…制御装置
150…通信機
160…流量計
200…ガスボンベ
210…減圧弁
220…レセプタクル
230…ガス管
240…充填通信用ECU
250…通信機
260…温度センサ
270…圧力センサ
271…ステム
272…ダイヤフラム
274…ガラス層
276…センサチップ
300…燃料電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス充填システムであって、
ガスステーションのガスタンクから供給されるガスを充填するガスボンベと、
前記ガスタンクから前記ガスボンベに供給されるガスの量を測定するガス流量計と、
前記ガスボンベ内のガスの温度を測定する温度センサと、
前記ガスボンベ内のガスの圧力を測定し、圧力に応じて出力信号を発生する圧力センサと、
前記圧力センサの圧力と前記出力信号の値との関係を補正する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記ガスを充填する前の前記ガスボンベ内のガスの第1の温度と、第1の圧力と、前記第1の圧力における前記圧力センサの第1の出力信号値とを取得し、
前記ガスボンベの容積と、前記第1の温度と、前記第1の圧力と、を用いて前記ガスボンベ内の第1のガスの量を取得し、
前記ガスを充填するときの前記ガス流量計の測定値を積算することにより、ガス充填後の前記ガスボンベ内の第2のガスの量を取得し、
前記ガス充填後の前記ガスボンベ内のガスの第2の温度と、第2の圧力と、前記第2の圧力における前記圧力センサの第2の出力信号値とを取得し、
前記ガスボンベの容積と、前記ガス充填後の前記ガスボンベ内の第2のガスの量と、前記第2の温度と、を用いて前記ガスボンベ内のガスの第3の圧力を算出し、
前記第1の圧力と前記第1の出力信号値及び前記第3の圧力と前記第2の出力信号値とを用いて、前記圧力センサの出力信号と前記ガスボンベ内の圧力との関係を補正する、ガス充填システム。
【請求項2】
請求項1に記載のガス充填システムにおいて、
前記制御部は、前記第2の圧力と前記第3の圧力との差が、前記第2の圧力に対して予め定められた第1の比率以上であって、予め定められた第2の比率未満である場合に、前記補正を行う、ガス充填システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のガス充填システムにおいて、
前記ガスボンベの前記ガスステーションと反対側に減圧弁が接続されており、
前記圧力センサは、前記減圧弁の前記ガスボンベ側のガスの圧力を測定する第1の圧力センサと、前記減圧弁の前記ガスボンベと反対側のガスの圧力を測定する第2の圧力センサとを有し、
前記制御部は、
前記第1の圧力が予め定められた圧力よりも低く、前記減圧弁を通過した後の下流側の前記第2の圧力が、前記減圧弁を通過する前の上流側の前記第1の圧力と同じとなる場合には、前記第1の出力信号値として前記第1の圧力センサの出力信号値を用い、前記第1の圧力として前記第2の圧力センサから得られた圧力を用いて前記補正を行う、ガス充填システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のガス充填システムにおいて、
前記第2の圧力と前記第3の圧力との差が、前記第2の圧力に対してあらかじめ定められた第2の比率以上の場合には、前記制御部は、前記ガスボンベの容積と、前記第1の温度と、前記第1の圧力と、前記第1のガスの量と、前記第2の温度と、前記第2の圧力と、を用いて、前記第2のガス量を求め、前記ガス流量計の測定値を補正する、ガス充填システム。
【請求項5】
ガスボンベに接続された圧力センサにかかる圧力と前記圧力センサの出力信号との関係を補正する補正方法であって、
(a)ガスを充填する前の前記ガスボンベ内のガスの第1の温度と、第1の圧力と、前記第1の圧力における前記圧力センサの第1の出力信号値とを取得する工程と、
(b)前記ガスボンベの容積と、前記第1の温度と、前記第1の圧力と、を用いて前記ガスボンベ内の第1のガスの量を取得する工程と、
(c)前記ガスを充填するときの前記ガス流量計の測定値を積算することにより、ガス充填後の前記ガスボンベ内の第2のガスの量を取得する工程と、
(d)前記ガス充填後の前記ガスボンベ内のガスの第2の温度と、第2の圧力と、前記第2の圧力における前記圧力センサの第2の出力信号値とを取得する工程と、
(e)前記ガスボンベの容積と、前記ガス充填後の前記ガスボンベ内の第2のガスの量と、前記第2の温度と、を用いて前記ガスボンベ内のガスの第3の圧力を算出する工程と、
(f)前記第1の圧力と前記第1の出力信号値及び前記第3の圧力と前記第2の出力信号値とを用いて、前記圧力センサの出力信号と前記ガスボンベ内の圧力との関係を補正する工程と、
を備える、補正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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