説明

ガス処理方法

【課題】分解剤の長寿命化を実現でき、フッ素含有化合物のガスを効率よく処理可能なガス処理方法を提供する。
【解決手段】酸化物系触媒としてのγ−Alと固体アルカリ剤としてのCaOとの混合物からなる分解剤を充填した反応管3中に、酸素を含むキャリアガスと、処理対象となるフッ素含有化合物を含むガスとを、加熱しつつ通気させる。このようなガス処理方法によれば、分解剤の長寿命化を実現でき、フッ素含有化合物のガスを効率よく処理可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素含有化合物ガスを無害化処理するためのガス処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体分野では、エッチング剤、洗浄剤等として、PFC(パーフルオロカーボン)等のフッ素含有化合物のガスがよく用いられる。これらのフッ素含有化合物のガスは一般に地球温暖化効果を有するものも多いことが分かってきているため、使用後の排ガスを適切な方法で無害化処理することが重要な課題となっている。
【0003】
近年、固体のアルカリ剤に触媒を添加した分解剤により、従来よりも大幅に低温で、かつ水を用いない乾式処理で含ハロゲン化合物を分解できる技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−202091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のような技術では、分解剤である固体アルカリ剤の寿命があまり長くないため、分解剤を頻繁に交換しなければならず、処理効率が問題となっていた。
【0006】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、分解剤の長寿命化を実現でき、フッ素含有化合物のガスを効率よく処理可能なガス処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための手段として、本発明は、フッ素含有化合物を含むガスを無害化処理するためのガス処理方法であって、固体酸性を示す酸化物系触媒または鉱物系触媒と、固体アルカリ剤とを含む分解剤を充填した反応容器中に、酸素を含むキャリアガスと前記フッ素含有化合物を含むガスとを加熱しつつ通気させることにより、前記フッ素含有化合物を分解する分解工程を含むものである。
【0008】
ここで、処理対象となる「フッ素含有化合物」としては、例えばケイ素、炭素、窒素、硫黄、アルミニウム、およびリンのうち少なくとも1つとフッ素とを含む化合物を挙げることができ、より詳しくは、PFC(パーフルオロカーボン)、HCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)、HFC(ハイドロフルオロカーボン)等のフロン、あるいはCF(四フッ化炭素)、SF(六フッ化硫黄)等を挙げることができる。
【0009】
また、「酸素を含むキャリアガス」とは、例えば大気であってもよく、また、処理対象となるガスと反応しないガス(例えば窒素等の不活性ガス)に酸素を所望の割合で混合したものであってもよい。
【0010】
「固体酸性を示す酸化物系触媒または鉱物系触媒」のうち酸化物系触媒の例としては、例えばSiO,TiO,Al,ZrO,La,Y,Cr,ZnO,Sn,V,WO等の金属酸化物を挙げることができる。また、鉱物系触媒の例としては、ゼオライト系鉱物および粘土系鉱物を挙げることができる。これらの酸化物系触媒および鉱物系触媒は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用しても構わない。
また「固体アルカリ剤」としては、例えばアルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、炭酸化物が好ましく、より具体的には、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化ナトリウム、酸化リチウムを含むものを挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いても構わない。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、分解剤の長寿命化を実現でき、フッ素含有化合物のガスを効率よく処理可能なガス処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ガス処理装置の全体概略図
【図2】試験装置の全体外略図
【図3】アルミナ配合率が40%、50%および60%の場合における、キャリアガス中の酸素濃度とPFC分解能力との関係を示すグラフ
【図4】キャリアガスとして窒素を使用した場合、および窒素と酸素との混合ガスを使用した場合における、アルミナ配合率とPFC分解能力との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態を、図1を参照しつつ説明する。本実施形態では、半導体の製造工程で排出されるPFC14(パーフルオロメタン)を含むガスを処理する場合を例にとり説明する。
【0014】
まず、本実施形態のガス処理に使用されるガス処理装置1について説明する。ガス処理装置1の概略図を図1に示した。このガス処理装置1は、反応塔2を備えている。反応塔2は、円筒状に形成された反応管3(本願発明の反応容器に該当する)を縦置きに配したもので、その内部には粒状の分解剤が充填されている。分解剤としては、酸化物系触媒としてのγ−Alと固体アルカリ剤としてのCaOとの混合物を使用できる。γ−AlとCaOとの混合比率は、重量比でγ−Al:CaO=20:80〜80:20とすることが好ましく、さらに40:60〜70:30とすることがより好ましい。
【0015】
反応管3の周囲には上下一対の外部ヒータ4A、4Bが配され、また、反応管3の内部には内部ヒータ5が配設されている。これらのヒータ4A、4B、5によって、反応管3の内部を通過するガスを加熱できるようにされている。これらの反応管3およびヒータ4A、4B、5は、内側に断熱材6を張ったケーシング7の内部に収容されている。
【0016】
反応管3の上部の開口には、分解剤を反応管3の内部に供給する供給ホッパ8が接続されている。この供給ホッパ8の下部には、処理対象となるガスを反応管3の内部に供給するガス流入口9、およびキャリアガスを反応管3の内部に供給するキャリア流入口10が設けられている。ガス流入口9は半導体製造設備における排ガス排出用の配管に接続されている。またキャリア流入口10は配管を介して窒素および酸素のガスボンベ(図示せず)に接続されている。
【0017】
反応管3の下部の開口には、反応管3から排出される分解剤を一時的に貯留する排出ホッパ11が接続されている。この排出ホッパ11の周囲には水冷ジャケット12が設けられ、この水冷ジャケット12の内部には冷却水循環装置13によって冷却水が循環される。これにより、排出ホッパ11の内部を冷却できるようになっている。
【0018】
排出ホッパ11の下端部は、コンベア装置14の一端部に接続されており、排出ホッパ11に貯留された分解剤がコンベア装置14の内部に導かれるようになっている。コンベア装置14としては、例えばスクリューコンベアを使用できる。
【0019】
コンベア装置14の他端部には、分解剤排出口15が下方に向かって、ガス排出口16が上方に向かってそれぞれ設けられている。分解剤排出口15は貯留槽17に、ガス排出口16は集塵機18を介して排気管19に、それぞれ接続されている。
【0020】
次に、このように構成されたガス処理装置1を使用したガス処理方法について説明する。
【0021】
まず、コンベア装置14を停止させた状態で、供給ホッパ8から分解剤を投入する。分解剤は、反応管3および供給ホッパ8が概ねいっぱいになるまで投入する。次に、外部ヒータ4A、4Bおよび内部ヒータ5のスイッチを入れ、反応管3の内部を必要な分解温度にまで昇温させる。分解温度は、処理対象となるガスの種類にもよるが、通常600℃〜900℃程度とすることが好ましい。
【0022】
次に、コンベア装置14および冷却水循環装置13を稼動させ、半導体の製造工程で排出されるPFC14(パーフルオロメタン)を含むガス、およびキャリアガスである窒素と酸素との混合ガスをそれぞれガス流入口9、キャリア流入口10から反応管3の内部に導入する。
【0023】
反応管3の内部では、下記式(1)に示すようにPFC14とCaOとが反応し、PFC14が分解・無害化される。このときγ−Alは触媒としての役割を果たす。
【0024】
CF+2CaO→2CaF+CO・・・(1)
【0025】
ここで、発明者らは、キャリアガスとして酸素を混合したものを使用することにより、分解剤の寿命を2倍以上向上可能であることを明らかにした。この理由は必ずしも明らかではないが、以下のように考えられる。
【0026】
すなわち、従来、分解剤の寿命が短くなっていた原因は、下記式(2)のようにγ−Alの一部がPFCと反応してAlFを生成し、触媒作用が低下することにあると考えられる。
【0027】
3CF+2Al→4AlF+3CO・・・(2)
【0028】
キャリアガスに酸素を添加することにより、この酸素が生成したAlFと反応してAlを再生成させるか、あるいは上記式(2)の反応が右方向へ進行することを平衡的に抑制することができ、これにより、分解剤の長寿命化を図ることができるものと考えられる。
【0029】
なお、本実施形態では処理対象となるガスがPFC14である場合を例にとり説明したが、例えばPFC116(パーフルオロエタン)、PFC218(パーフルオロプロパン)、PFC31−10(パーフルオロブタン)、PFC51−14(パーフルオロヘキサン)、PFCc318(パーフルオロシクロブタン)、PFC41−12(パーフルオロシクロペンタン)等の他のPFCを処理対象とする場合でも、同様の作用効果が得られる。また、HFC(ハイドロフルオロカーボン)、CFC(クロロフルオロカーボン)、HCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)等のフロン、あるいは四フッ化炭素、六フッ化硫黄等、他のハロゲン含有化合物を処理対象とする場合でも同様の作用効果が得られる。
【0030】
反応管3内部で分解剤により分解処理された処理済ガスは、排出ホッパ11の内部を通過する間に冷却され、次いでコンベア装置14の内部を通過してガス排出口16から集塵機18に至る。そして集塵機18で粉塵除去処理が行われた後、排気管19から外部へ排出される。
【0031】
また、反応管3の内部に充填された分解剤は、コンベア装置14の駆動により、反応管3の下側の開口から排出される。そして、排出ホッパ11の内部を通過する間に冷却され、次いでコンベア装置14の内部を通過して分解剤排出口15から貯留槽17に至り、ここで貯留される。反応管3の上部の開口からは供給ホッパ8により新たな分解剤が補充される。このようにして、反応管3の内部では常時分解剤が流動し、使用済みの分解剤が下方から排出され、新たな分解剤が上方から供給される。
【0032】
以上のように本実施形態によれば、酸化物系触媒としてのγ−Alと固体アルカリ剤としてのCaOとの混合物からなる分解剤を充填した反応管3中に、酸素を含むキャリアガスと、処理対象となるフッ素含有化合物のガスとを、加熱しつつ通気させる。このようなガス処理方法によれば、分解剤の長寿命化を実現でき、フッ素含有化合物のガスを効率よく処理可能である。
【実施例】
【0033】
1.試験方法
<試験例1−1>
図2に示す試験装置20を使用した。この試験装置20は、管状炉22の内部にムライトにより形成された炉心管22が設置され、炉心管22の内部には分解剤が充填されている。炉心管22の入り口側に配管を介して酸素、窒素およびPFC14のボンベB1、B2、B3が接続されている。また炉心管22の出口側には配管を介して吸収びん23が接続され、この吸収びん23の内部には水が貯留されている。
なお、管状炉としてはアドバンテック東洋(株)製 KT−1153R、炉心管としては日本化学陶業(株)製 HB−7(直径24mm、長さ800mm)を用いた。
【0034】
固体アルカリ剤としては、水酸化カルシウム(上田石灰製造製 特号水酸化カルシウム)と水を練り合わせ、電気炉(共和高熱工業(株)製 高温昇温小型タンカルスーパー炉 C−1)に投入して室温から900℃まで昇温時間1時間で昇温し、その後900℃で1時間保持して焼成し、冷却後、粉砕して粒径1〜2mmに調整した活性CaOを使用した。また酸化物系触媒としては、日産化学工業(株)製アルミナゾル200を電気炉(西宮電気炉製作所製)に投入して室温から昇温速度1℃/minで500℃まで昇温し、その後500℃で5時間保持して焼成し、冷却した後、粉砕して粒径1〜2mm調整したγ−Alを使用した。この活性CaOとγ−Alを50:50(wt%)で混合し、分解剤とした。
【0035】
上記のように調製した分解剤約60gを炉心管22の内部に充填した。次に、管状炉22の中心温度を800℃まで上昇させ、当該温度で一定に保持した。キャリアガスとしては窒素と酸素とを90:10(vol%)で混合したものを用い、このキャリアガスに反応ガスであるPFC14を濃度が1.5vol%となるように混合して流量500mL/minで炉心管22内にフローさせ、分解処理を行った。
【0036】
炉心管22から排出される処理済みガスを吸収びん23内の水に通気させた後、FT−IR(堀場製作所製 FG−110A)で残存PFC14の濃度を測定した。また、炉心管22から排出されるガスの一部を吸収びん23よりも上流側でテドラーパック24に捕集し、PFC分解の副生成物として処理済みガス中に含まれるHFの濃度を、ガス検知管を用いて測定した。ガス検知管としては、ガステック製 フッ化水素用#17を用いた。
【0037】
<試験例1−2>
キャリアガスとして、窒素と酸素とを80:20(vol%)で混合したものを用いた。その他は試験例1−1と同様にして試験を行った。
【0038】
<試験例1−3>
キャリアガスとして、窒素と酸素とを70:30(vol%)で混合したものを用いた。その他は試験例1−1と同様にして試験を行った。
【0039】
<試験例2−1>
分解剤として、活性CaOとγ−Alを40:60(wt%)で混合したものを用いた。また、キャリアガスとして、窒素と酸素とを80:20(vol%)で混合したものを用いた。その他は試験例1−1と同様にして試験を行った。
【0040】
<試験例2−2>
キャリアガスとして、窒素と酸素とを70:30(vol%)で混合したものを用いた。その他は試験例2−1と同様にして試験を行った。
【0041】
<試験例3−1>
分解剤として、活性CaOとγ−Alを60:40(wt%)で混合したものを用いた。また、キャリアガスとして、窒素と酸素を90:10(vol%)で混合したものを用いた。その他は試験例1−1と同様にして試験を行った。
【0042】
<試験例3−2>
キャリアガスとして、窒素と酸素とを80:20(vol%)で混合したものを用いた。その他は試験例3−1と同様にして試験を行った。
【0043】
<試験例4>
キャリアガスとして大気を用いた。その他は試験例1−1と同様にして試験を行った。
【0044】
<試験例5−1>
キャリアガスとして窒素を用いた。その他は試験例1−1と同様にして試験を行った。
【0045】
<試験例5−2>
キャリアガスとして窒素を用いた。また活性CaOとγ−Alを40:60(wt%)で混合した。その他は試験例1−1と同様にして試験を行った。
【0046】
<試験例5−3>
キャリアガスとして窒素を用いた。また活性CaOとγ−Alを30:70(wt%)で混合した。その他は、試験例1−1と同様にして、試験を行った。
【0047】
<試験例5−4>
キャリアガスとして窒素を用いた。また活性CaOとγ−Alを20:80(wt%)で混合した。その他は、試験例1−1と同様にして、試験を行った。
【0048】
2.結果
以下のi)、ii)のうちいずれか一方が検出された時点で分解剤が破過点に達したと判定し、PFC14のフロー開始から分解剤が破過点に達するまでの時間を破過時間とした。
i)FT−IRで測定された残存PFC14の濃度が95vol%以上
ii)テドラーパック24に捕集された処理済みガス中に含まれるHFの濃度が5ppm以上
【0049】
表1には、各試験例における、分解剤のアルミナ配合率(分解剤の全体重量に対するγ−Al重量の比率;wt%)、分解温度、使用したキャリアガスの種類および流量、キャリアガスとして窒素と酸素との混合気体を使用した場合の混合濃度(窒素と酸素との合計流量に対する酸素流量の比率;vol%)、PFCガスの流量および濃度(キャリアガスとPFC14との合計流量に対するPFC14流量の比率;vol%)、PFCガスの炉心管22内での滞留時間、炉心管22内に充填された分解剤の重量をそれぞれ示した。
【0050】
表2には、各試験例における、破過時間、PFC14処理量、分解剤のPFC分解能力、およびCaF転化率を示した。なお、PFC14処理量とは、PFC14のフロー開始から分解剤が破過点に達するまでのPFC14の総流量、およびそれをモル量に換算したものである。また、分解剤のPFC分解能力は、PFC14処理量(単位:L)を、炉心管22に充填された分解剤の重量(単位:kg)で除して算出した。また、CaF転化率は下記式(3)により算出した。
【0051】
CaF転化率=(((PFC処理量(ml)/1000)/22.4)×2)/((分解剤重量(g)×((100-アルミナ配合率)/100))/56)×100・・・(3)
なお、式中22.4は標準状態における気体1molの体積、56はCaOの分子量である。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
図3には、アルミナ配合率が40%、50%および60%の場合における、キャリアガス中の酸素濃度とPFC分解能力との関係を示すグラフを示した。
また、図4には、キャリアガスとして窒素を使用した場合、および窒素と酸素との混合ガスを使用した場合における、アルミナ配合率とPFC分解能力との関係を示すグラフを示した。なお、図4において、アルミナ配合率と理論PFC14処理量との関係を併せて示した。理論PFC14処理量とは、分解剤に含まれるCaOが全てPFC14と反応したと仮定した場合の、分解剤1kgあたりのPFC14の処理容量(単位:L−PFC/kg−分解剤)である。
【0055】
3.考察
1)キャリアガスへの酸素の混合比率の違いによるPFC分解能力の違いについての考察
表1、表2および図3から分かるように、アルミナ配合率50%および60%の場合に、キャリアガスとして窒素を単独で使用した場合と比較して、酸素を10%、20%、または30%混合した場合の方が、PFC分解能力が向上するという結果が得られた。
また、今回の試験では、アルミナ配合率を40%とし、キャリアガスとして窒素を単独で使用した試験を行っていない。しかし、図4に示すように、キャリアガスとして窒素を単独で使用し、アルミナ配合率を50%〜80%の範囲で変動させた場合におけるPFC分解能力をグラフ上でプロットすると、データがほぼ一次直線上に乗っており、アルミナ配合率が増大するにつれてPFC分解能力が僅かずつ増大していることが分かる。このことより、アルミナ配合率を40%とし、キャリアガスとして窒素を単独で使用した場合のPFC分解能力は、アルミナ配合率を50%とし、キャリアガスとして窒素を単独で使用した場合のそれよりも僅かに低い程度と予測できる。したがって、アルミナ配合率40%の場合にも、キャリアガスとして窒素を単独で使用した場合と比較して、酸素を10%または20%混合した場合の方が、PFC分解能力が向上すると考えてよい。
このように、キャリアガスに酸素を混合することによってPFC分解能力が向上するという結果は、当業者にとって全く意外なことであった。従来、半導体プロセスでは、シリコンの酸化を防止するために酸素を遮断することが常識であり、そのプロセスからの排ガスを処理するにあたっても、キャリアガスに酸素を混合するということは容易に着想しうるところではないからである。
【0056】
また、全体として、アルミナ配合率が少なくなるほど、酸素濃度の増大に対して早い段階でPFC処理量が飽和する一方、PFC処理の飽和量が小さくなる傾向が見られた。
すなわち、アルミナ配合率40%の場合、酸素濃度を20%としてもPFC処理量は酸素濃度が10%の場合と比較して僅かに増大するだけであり、酸素濃度を30%に増やしても同様であると考えられる。したがって、酸素濃度20%で、PFC処理量はほぼ飽和状態に達していると推察される。
アルミナ配合率が50%の場合、酸素濃度を10%とすると、酸素を添加しない場合と比較してPFC処理量が大きく増大している。酸素濃度を20%とした場合、PFC処理量は酸素濃度10%の場合と比べて増大しているが、その伸びは酸素濃度を0%から10%に増やした場合と比較して緩やかである。さらに酸素濃度を30%とした場合、PFC処理量の増大は酸素濃度20%の場合と比べて僅かとなっており、ほぼ飽和状態に達していると推察される。
アルミナ配合率が60%の場合、酸素濃度を0%から30%まで増大させるに従い、PFC処理量も増大しており、酸素濃度30%でも飽和状態に達していないものと推察される。
図4には、キャリアガスとして窒素と酸素との混合ガスを使用した場合において、アルミナ配合率を40%、50%、60%とした場合の、PFC処理の飽和量をプロットした。すなわち、アルミナ配合率40%の場合には酸素濃度20%の場合のPFC処理量(試験例1−3)、アルミナ配合率50%の場合には酸素濃度30%の場合のPFC処理量(試験例2−2)をプロットした。アルミナ配合率60%の場合には、酸素濃度30%でもPFC処理量が飽和量に達しているか不明であるため、試験を実施した範囲でのPCF処理量の最大値(酸素濃度30%の場合:試験例3−2)をプロットした。データはほぼ右上がりの一次直線上に乗っており、アルミナ配合率が増大するほど、PFC処理の飽和量が大きくなっていた。
【0057】
さらに、キャリアガスとして大気を使用した場合についても検討した。キャリアガスとして大気を使用した試験例4と、大気とほぼ同じ比率で窒素と酸素とを混合し、その他の条件を同様とした試験例2−1とを比較すると、窒素と酸素との混合ガスを使用した場合の方がPFC分解能力が高いという結果が得られている。この理由は必ずしも明らかではないが、以下のように考えられる。すなわち、大気中には、二酸化炭素が380ppm程度含まれているため、大気をキャリアガスとして使用した場合には、分解剤中のCaOが含まれる二酸化炭素と反応して消費されてしまう。これにより、PFC分解能力が若干低下すると考えられる。したがって、キャリアガスとして、窒素等の不活性ガスと酸素とを混合し、他に分解剤中の成分と反応する成分を含まないものを使用することで、このようなPFC分解能力の低下を抑制できるものと考えられる。
【0058】
2)分解剤の混合比率の違いによるPFC分解能力の違いについての考察
表1、表2および図4から分かるように、キャリアガスとして窒素を単独で使用した場合、キャリアガスとして窒素に酸素を混合した場合のいずれにおいても、アルミナ配合率を上げるにつれて分解剤のPFC分解能力が向上した。キャリアガスとして窒素を単独で使用した場合にはアルミナ配合率80%とした場合に、キャリアガスとして窒素と酸素との混合ガスを使用した場合にはアルミナ配合率70%とした場合に、ほぼ理論PFC14処理量に近いPFC14処理量を達成することができた。
【0059】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態では、反応管3の内部で常時分解剤が流動し、使用済みの分解剤が下方から排出され、新たな分解剤が上方から供給されるようにされていたが、分解剤が反応管3の内部で常時流動するようにされている必要は必ずしもなく、反応管3の内部に充填された分解剤を所定時間毎に入れ替えるようにされていても構わない。また、反応管として、分解剤を充填したカートリッジを用い、所定時間ごとに、このカートリッジごと分解剤を交換するようにしても構わない。
(2)上記実施形態では、反応管3の内部を加熱するためのヒータとして、上下一対の外部ヒータ4A、4Bと内部ヒータ5とが配されていたが、ヒータの構成は上記実施形態の限りではなく、例えば外部ヒータのみを使用する構成であっても構わない。
【符号の説明】
【0060】
3...反応管(反応容器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素含有化合物を含むガスを無害化処理するためのガス処理方法であって、
固体酸性を示す酸化物系触媒または鉱物系触媒と、固体アルカリ剤とを含む分解剤を充填した反応容器中に、酸素を含むキャリアガスと前記フッ素含有化合物を含むガスとを加熱しつつ通気させることにより、前記フッ素含有化合物を分解する分解工程を含む、ガス処理方法。
【請求項2】
前記フッ素含有化合物がフロンである、請求項1に記載のガス処理方法。
【請求項3】
前記フッ素含有化合物がパーフルオロカーボンである、請求項2に記載のガス処理方法。
【請求項4】
前記固体アルカリ剤が酸化カルシウムである、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のガス処理方法。
【請求項5】
前記酸化物系触媒として酸化アルミニウムを使用する、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のガス処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−55836(P2012−55836A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202238(P2010−202238)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【Fターム(参考)】