説明

ガス分析装置

【課題】ガスに含まれる複数の分子成分を互いに同時にPI法によるイオン化対象とする。例えば、ある瞬間に発生したガスに含まれる複数の分子成分をPI法に基づいてリアルタイムで正確に分析する。
【解決手段】試料室R0内の試料Sで発生したガスを分析室R1へ搬送するガス搬送装置4と、ガスをイオン化するイオン化装置19と、イオンを質量電荷比ごとに分離する四重極フィルタ21と、分離されたイオンを検出するイオン検出装置22とを有するガス分析装置である。イオン化装置19は、ガス搬送装置4のガス排出口の近傍に設けられたイオン化領域と、そのイオン化領域へ光を照射するランプ33Aとを有する。ランプ33Aは、光の指向性がレーザ光よりも低くて広がって進む光を放射するので、イオン化装置19内のイオン化領域へ入ったガスは広い範囲で光の照射を受け、その内部の複数のガス成分が同時にイオン化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスをイオン化して分析するガス分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス分析装置として、従来から、種々のものが知られている。例えば、ガスの圧力を検出する差圧圧力計や、ガスの密度を検出する気体密度計や、ガスの分子の振動を検出する赤外分光分析計や、ガスの質量数を検出する質量分析計や、その他各種の装置が知られている。
【0003】
ガス分析装置のうち、ガスをイオン化した後に所定の分析を行う装置が知られている。この種のガス分析装置は、空間内に存在するガスを分析することもあるし、試料から発生したガスを分析することもある。試料から発生したガスを分析するガス分析装置は、ガスをイオン化するイオン化部の前段に、試料を収容する試料室及び試料から発生したガスを搬送するガス搬送装置を有することがある。また、ガス分析装置の1つとして質量分析装置が知られている。この質量分析装置は、一般に、ガスをイオン化するイオン化部、発生したイオンを質量電荷比ごとに分離するイオン分離部、及びイオン強度を検出するイオン検出部を有する。
【0004】
ガス分析装置内のイオン化部を構成するための方法として、従来から、種々のものが知られている。例えば、電子イオン化法(EI法、Electron Ionization法)や、光イオン化法(PI法、Photo-ionization法)等が知られている。EI法は、加速された電子線を気体状の試料分子に照射してイオンを生成するイオン化法である。このEI法は電子衝撃イオン化法(Electron Impact Ionization法)と呼ばれることもある。また、PI法は、試料分子に光を照射したとき、その電磁波エネルギを吸収することによって分子がイオン化するというイオン化法である。
【0005】
イオン化部を用いたガス分析装置として、従来、特許文献1に開示された装置が知られている。この装置では、EI法とPI法とを選択的に実施することにより、試料の質量分析が行われている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−093152(第4頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された質量分析装置においては、PI法を実現する光源としてレーザ光が用いられている。レーザ光は周知の通り、指向性、単色性、及び高コヒーレンス性を有する人工光である。このレーザ光を用いてPI法を実施すると、イオン化部内の局所領域をイオン化できるが、流動性、広がり性という特性を持つガスの全てを短時間に十分にイオン化対象とすることが難しかった。このため、レーザ光を用いた従来のPI法では、ガスの中に広く分布して含まれる複数の分子成分を同時にイオン化して分析を行うことが難しかった。
【0008】
そのため、従来のPI法を用いた分析では、信頼性の高いガス分析を行うためには多量のガスを供給しつつ長い時間をかけてイオン化を行わなければならなかったり、イオン化部の前段にガスクロマトグラフを設置して予めガスの選別を行わなければならなかったりした。仮に、複数の分子成分を含むガスが試料から発生した場合に、従来のPI法を用いてそれらのガスをイオン化しようとすると、複数のガス分子成分を同時にイオン化することが難しく、従って、試料から発生した複数のガス分子成分を同時に、すなわちリアルタイムで分析することが難しかった。
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑みて成されたものであって、ガスに含まれる複数の分子成分の全てをPI法によって同時に且つ十分にイオン化することにより、複数の分子成分をPI法に基づいて同時に分析できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るガス分析装置は、光の指向性がレーザ光よりも低い光をイオン化領域へ向けて放射する光放出手段と、該光放出手段によってイオン化されたガスのイオンを質量電荷比に従って分離するイオン分離手段と、該イオン分離手段によって分離されたイオンを検出するイオン検出手段とを有することを特徴とする。イオン化領域とは、光放出手段からの光がガスをイオン化できる程度に十分な強度でガスを照射できる領域のことである。
【0011】
本発明のガス分析装置では、イオン化領域は光放出手段からの光の照射野の中に入るように設定され、そのイオン化領域内において光照射によってガスの光イオン化(PI)が行われる。本発明で用いる光放出手段は、レーザ光よりも指向性の低い光、すなわちレーザ光よりも広い角度範囲へ広がって進行する光を放射する光放出手段である。この光放出手段としては、例えば、ランプ、放電管、その他任意の構造の光放射機器を用いることができる。光放出手段がイオン化領域に近すぎるとイオン化可能領域が狭くなり、光放出手段がイオン化領域から離れすぎるとイオン化領域における光強度が低くなりすぎるので、光放出手段はイオン化領域に対して、十分なイオン化可能領域を確保でき且つ十分な光強度を確保できる位置に配置されることが望ましい。
【0012】
また、上記の「イオン分離手段」は任意の方法に基づく装置を用いることができる。例えば、(1)四重極に印加する高周波電圧の周波数を変化させながらイオンを分離する四重極分離方式や、(2)イオンを電場及び磁場を通すことによって分離する電磁場方式や、(3)イオンに所定の力を加えて該イオンを飛行させて検出器に到達するまでの時間によってイオンを分離する飛行時間方式や、(4)イオントラップ方式等といった各種のイオン分離方式を適用できる。イオントラップ方式は、例えば、四重極分離方式で用いる四重極にさらにイオントラップ用の電極を付加することにより、分離したイオンを所定時間トラップ、すなわち保持した後、質量数ごとに検出器へ送出する方式である。以上の各方式は、いずれも、分子の質量電荷比に従ってイオンを分離するものである。
【0013】
本発明に係るガス分析装置によれば、イオン化領域内にガスが入った場合、光放出手段からの光がガスに照射されて光イオン化(PI)が行われ、生成されたイオンがイオン分離手段によって質量電荷比ごとに分離され、分離された各イオンがイオン検出手段によって検出される。本発明では、レーザ光のような指向性の高い光ではなくて角度的に広がって進む光をイオン化領域内に放射することにした。ガスは、一般に、短時間に広がって拡散する性質を持っているので、レーザ光のように指向性の高い光はガスを局所的にはイオン化できるが、イオン化領域内に入って分散するガスの全てを短時間に十分にイオン化対象とすることは難しい。
【0014】
これに対し、本発明では、指向性が低くて広がる光をイオン化領域内に照射することにしたので、イオン化領域内で分散するガスの全てを短時間に十分にイオン化対象とすることができることになり、それ故、ガスに含まれる複数の分子成分の全てを短時間に十分にイオン化できる。このことは、例えば、ある場所で複数の分子成分を含むガスが発生したときに、そのガスをイオン化領域内へ短時間で搬送すれば、搬送したガスを短時間に十分にイオン化することにより、ガスの発生と同時にイオン化、イオン分離、及びイオン強度測定を行うことができるということ、いわゆるリアルタイム測定を行うことができるということである。
【0015】
次に、本発明に係るガス分析装置は、ガスをイオン化するための電子を発生する電子発生手段を必ずしも必須の構成要件とするものではないが、望ましくはその電子発生手段を有する。そして、前記電子発生手段は、前記イオン化領域へ向かう電子を通電によって発生する電子発生手段、及び前記イオン化領域へ向かう2次電子を前記光放出手段からの光照射によって発生する2次電子発生手段の少なくともいずれか一方であることが望ましい。通電によって電子を発生する電子発生手段としては、例えば、フィラメントがある。また、光放出手段からの光照射によって2次電子を発生する2次電子発生手段としては、例えば、フィラメントや、電極や、フィラメントや電極を収容したケーシングや、その他の構造物がある。一般に、フィラメントは線材によって形成されることが多いので、電極やケーシングに比べて容積が非常に小さく、従って、フィラメントが2次電子を発生する能力は、電極やケーシングに比べて、かなり小さいと思われる。
【0016】
本発明態様において、前記電子発生手段はEI法に基づいたイオン化を実現するための構成要件である。つまり、本発明態様によれば、PI法に基づいたイオン化とEI法に基づいたイオン化とを選択的に実施できる。EI法によれば、分子成分に電子が衝突することによりフラグメント(すなわち、解裂成分又は破片)が発生するので、フラグメント情報に基づいてガス成分種の分子構造の同定を行うことができる。一方、PI法によれば、フラグメントが発生しないので、親イオンの質量数を明確に観測できる。本発明態様によれば、それらEI法の長所とPI法の長所を希望に応じて選択できる。
【0017】
また、1つの発生ガスから同時に得られたEI法測定データとPI法測定データとを比較して分析を行うことができるので、1つの発生ガスを高い精度で分析することが可能である。
【0018】
次に、電子発生手段を有する本発明に係るガス分析装置に関しても、あるいは電子発生手段を有しないガス分析装置に関しても、それらのガス分析装置は、前記光放出手段の光放出部、前記イオン分離手段、及び前記イオン検出手段のイオン受取り部を収容した分析室と、試料が置かれる試料室と、前記試料室と前記分析室との間に設けられ前記試料で発生したガスを前記分析室へ搬送するガス搬送手段とを有することが望ましい。このガス分析装置は、試料室内において試料から発生したガスをイオン化領域へ搬送して分析する構成のガス分析装置である。
【0019】
試料室及びガス搬送手段を備えたガス分析装置によれば、試料で発生したガスがガス搬送手段によって分析室内のイオン化領域へ運ばれる。そして、イオン化領域内において光放出手段からの光がガスへ照射されて光イオン化(PI)が行われる。生成されたイオンはイオン分離手段によって質量電荷比ごとに分離され、イオン検出手段によって検出され、そして各質量電荷比ごとにイオン強度が求められる。
【0020】
ガス搬送手段によってイオン化領域へ運ばれたガスはイオン化領域において広く分散するが、本発明によれば光放出手段から放射された光が広く広がってイオン化領域へ供給されるので、イオン化領域内で分散するガスの広い範囲をイオン化対象とすることができる。このため、ガスの発生量が少ない場合でも、あるいは、ガスの発生が瞬時の場合でも、ガスを確実にイオン化できる。
【0021】
本発明のガス分析装置は、電子発生手段を用いる場合もあるし、電子発生手段を用いない場合もある。電子発生手段を用いない場合は、電子の衝突によるイオン化、すなわち電子イオン化は行われない。従って、光イオン化(PI)のみによって生成されたイオンの強度データを得ることができる。光イオン化(PI)は、フラグメントイオンを発生しないので、ガスに含まれる成分分子そのもののイオン強度を測定できる。
【0022】
ところで、従来のガス分析装置では、複合の成分ガスを含む発生ガスを成分ガスごとにリアルタイム(すなわち、ガス発生と同時)に分離して識別することができなかった。そのため、一旦、発生ガスを冷却トラップし、ガスクロマトグラフのカラムを介してガス種を分離し、その後、質量分析計にて定性分析を行わなければならなかった。しかしながら、この場合には、発生ガスに含まれる複数の成分ガスをリアルタイムに個々に出現させることが不可能であり、それ故、個々の成分ガスをリアルタイムに分析することが不可能であった。
【0023】
さらに、ガスクロマトグラフを用いた従来方法では、カラム内でガスを再加熱するときにガスが変性するおそれがあり、その場合には、正確な測定結果が得られないおそれがある。
【0024】
試料室及びガス搬送手段を備えた本発明に係るガス分析装置によれば、試料から発生した複数の生成ガスを含むガスをガス搬送手段によってイオン化領域へ同時に運ぶことができ、運ばれたガスに広く広がる光を照射することにより複数の生成ガスを同時にイオン化でき、複数の生成ガスのイオンをイオン分離手段によって質量電荷比ごとに分離した後に、個々の生成ガスに関するイオン強度を検出できる。つまり、試料室及びガス搬送手段を備えた本発明に係るガス分析装置によれば、光イオン化(すなわち、ソフトイオン化)で単成分の親イオンのみを計測することにより、同時に複数発生したガスを分子イオン情報に基づいて識別、特にリアルタイムで識別でき、さらに同定できる。また、試料から発生するガスをガスクロマトグラフを経由させることなく直接にイオン化領域へ導入することにより、生成種をガス変質させることなくそのまま高精度に分析できる。
【0025】
次に、試料室及びガス搬送手段を備えた本発明に係るガス分析装置は、前記試料を加熱する加熱手段を有することが望ましい。この加熱手段は任意の構造の加熱用機器を用いて構成できる。例えば、通電によって発熱する発熱線又は発熱体を熱源とする加熱装置を用いることができる。この発明態様によれば、加熱又は必要に応じて冷却によって試料の温度を変化させたときの発生ガス分析を行うことができる。すなわち、本発明態様によれば熱分析装置を構成できる。
【0026】
一般に、温度変化に起因して試料からガスが発生するのは瞬間的な現象である。本発明のように広がりを持った光をイオン化領域内へ供給することにすれば、ガスの発生が瞬間的であっても発生したガスの全てを十分にイオン化対象とすることができ、それ故、信頼性の高いガス分析を行うことができる。
【0027】
次に、本発明に係るガス分析装置は、電子を前記イオン化領域から離す方向へ加速する電位状態、又はゼロ電位状態をとることができる電極を有することが望ましい。電極がゼロ電位状態にある場合、イオン化領域の周辺に存在する電子を加速する力は発生しない。電極が電子をイオン化領域から離す方向へ加速する電位状態にある場合は、イオン化領域の周辺に存在する電子はそのイオン化領域から離れる方向へ加速される。
【0028】
本発明に係るガス分析装置において、光放出手段からの光によって光イオン化(PI)を行えば、単成分ガスの親イオンを計測することができる。しかしながら、このガス分析装置が2次電子発生手段を有する場合には、光放出手段から光が放出されたとき、その2次電子発生手段から2次電子が発生し、この2次電子が光イオン化に影響を及ぼして純粋な親イオンのみを計測できなくなるおそれがある。このことに対し、本発明態様のように、電子をイオン化領域から離す方向へ加速する電位状態、又はゼロ電位状態をとることができる電極を設けることにすれば、2次電子発生手段から発生した2次電子がイオン化領域へ進行することを防止でき、光イオン化が2次電子によって影響を受けることが無くなり、そのため、純粋に光イオン化(PI)のみを行うことができる。
【0029】
次に、本発明に係るガス分析装置は、電子を前記イオン化領域へ向けて加速する電位状態をとることができる電極を有することが望ましい。電極が電子を前記イオン化領域へ向けて加速する電位状態にある場合、イオン化領域の周辺に存在する電子はそのイオン化領域へ向けて加速される。この発明態様は、特に、2次電子発生手段を備えたガス分析装置に関して有効なものである。具体的には、2次電子発生手段から2次電子が発生した場合、その2次電子を電極の作用によりイオン化領域へ向けて加速させることができるので、電子イオン化(EI)を確実に実行できる。
【0030】
次に、前記電子発生手段及び前記電極を用いたガス分析装置においては、それらの電子発生手段及び電極は光を通過させることができる材料、又は光を通過させることができる構造であることが望ましい。こうすれば、EI法におけるイオン化領域にPI法における光放出手段からの光を供給できるので、EI法を実現するための電子発生手段及び電極を動かすことなくそのままに置いた状態でPI法を実現できる。このため、イオン化部の構成を簡単にすることができる。
【0031】
また、前記電子発生手段は線材を加工して成るフィラメントであり、前記一対の電極は網状電極と、螺旋形状電極と、板状電極の一部に光を透過できる開口部を設けた電極との中から選択される2つの電極の組み合わせを有することが望ましい。この構成によれば、電子発生手段及び一対の電極によって構成されたEI法装置の外部から内部へ、PI法の光放出手段の光を確実に供給できる。
【0032】
次に、本発明に係るガス分析装置において、前記光放出手段は紫外光又は真空紫外光を放射する光放出手段であることが望ましい。ランプ、放電管等といった光放出手段は出射光の波長を種々に設定できる。本発明者はPI法に基づくイオン化を実施するにあたって、どの波長の光が適切かを実験によって検討した。そしてその結果、光の波長は、波長が長い方から順に紫外光、真空紫外光、軟X線の領域が望ましいことを知見した。そしてさらに、紫外光又は真空紫外光が最も適していることを知見した。本発明において光の波長を紫外光領域又は真空紫外領域とすれば、拡散する傾向にあるガスの全てを短時間に十分にイオン化対象とすることができる。
【0033】
次に、本発明に係るガス分析装置において、前記光放出手段を放電管によって構成する場合は、その放電管内に封止されるガスは重水素ガス、クリプトンガス、又はアルゴンガスであることが望ましい。一般に、放電管から放射される光のエネルギは放電管に封止されるガスによって規定される。本発明者はPI法に基づくイオン化を実施するにあたって、どのエネルギの光が適切かを実験によって検討した。そしてその結果、重水素ガスが望ましいことを知見した。また、クリプトンガス、アルゴンガスも使用可能であることを知見した。なお、重水素ガスを用いた場合のエネルギは10.2eVである。
【0034】
次に、試料室及び分析室を有する本発明に係るガス分析装置においては、前記試料室内が高い圧力に設定され、前記分析室内が低い圧力に設定されることが多い。例えば、試料室が大気圧であり、分析室が真空状態に設定されることがある。この場合、本発明で用いる前記ガス搬送手段は、ガスを搬送する内管と、該内管を覆う外管と、内管と外管とによって形成される中間室の圧力を前記試料室内の圧力よりも低く前記分析室内の圧力よりも高く設定する圧力調整手段とを有することが望ましい。
【0035】
仮に、試料室と分析室とを径の大きな管によって単純に接続した場合には、両者の圧力差を個々に高精度に保持することが難しい。また、試料室と分析室とをキャピラリ(すなわち、細管)によって接続した場合には、試料室と分析室との圧力差をかなり十分に保持できるかもしれないが、試料から発生したガスを分析室内へ短時間に任意量を制御して送り込むことが難しくなる。これに対し、本発明によれば、その内部が中間的な圧力に設定された外管を設けることにより、試料室の圧力と分析室の圧力とを互いに異なる値に正確に保持しつつ、試料室内の試料で発生したガスを十分な量だけ分析室内へ運ぶことができることになった。
【0036】
さらに、試料室及び分析室を有する本発明に係るガス分析装置では、分析室内を真空状態に設定することにより、イオン化手段によるガスのイオン化を、ガス化分子の多い大気中ではなくて真空状態下で行うことができ、その場合には、ガスのイオン分子反応が起こり難く、それ故、精密なガス分析を行うことができる。
【0037】
次に、ガス搬送手段を有する本発明に係るガス分析装置は、前記内管及び前記外管の前記試料側の端部はオリフィスを有し、前記内管及び前記外管の前記イオン化手段側の端部はオリフィスでない普通の開口を有することが望ましい。ここで、オリフィスとは管内に設けられる細孔のことであり、管内を流れる流体の速度に変化を与えることができる十分に狭い孔のことである。
【0038】
本発明態様のように試料室側にオリフィスを設け、分析室側に普通の開口を設けることにすれば、試料で発生したガスの多くを内管内へ引き込むことができ、それ故、分析室内へ十分量のガスを供給できる。
【0039】
次に、試料室側にオリフィスを設け、分析室側に普通の開口を設けた本発明に係るガス分析装置においては、ガス流の断面積を試料室側から分析室側へ向けて小さく絞る部材を前記分析室側の開口の近傍に設けることが望ましい。こうすれば、発生したガスを分析室内のイオン化領域へ効率良く集めることができ、それ故、発生ガスの量が少ない場合でもガスを検出できることになる。つまり、ガスの検出感度を高めることができる。
【0040】
次に、本発明に係るガス分析装置において、前記圧力調整手段は、前記中間室を排気する排気ポンプと、その排気ポンプの前に設けられた流量調整器とを有することが望ましい。排気ポンプはそれほど高い真空度を獲得できないような排気ポンプであっても良く、例えば、ロータリーポンプを用いることができる。本発明態様によれば、中間室を排気ポンプで排気することにより、ガスを搬送する内管と試料室との間に中間圧力領域を形成する。これにより、試料室の圧力と分析室の圧力とを互いに異なる値に正確に保持しつつ、試料室内の試料で発生したガスを十分な量だけ分析室内へ運ぶことができる。
【0041】
さらに、本発明態様では、排気ポンプの前に流量調整器を設けたので、中間室内の圧力を希望に応じて変更でき、これにより、分析室内へのガスの導入量を制御できる。例えば、流量調整器から大気ガス流入量を増やせば、中間室内の圧力を高めることができ、これにより、分析室内へのガスの導入量を増やすことができる。
【0042】
本発明では、PI法に基づいたガスのイオン化が行われるのであるが、発明の態様によっては、PI法を実現するイオン化装置に加えてEI法を実現するイオン化装置を設けることもできる。この場合には、PI法に基づいたイオン化と、EIに基づいたイオン化とを選択的に実現できる。この場合、一般的には、PI法でイオン化を行うときは、EI法でイオン化を行うときに比べてイオン化の量が低下する傾向にある。このような場合に流量調整器を調節して分析室内へのガスの導入量を増やせば、相対的にイオン化されるガスの量を増加できる。
【0043】
次に、本発明に係るガス分析装置は、前記光放出手段と、通電によって電子を発生する電子発生手段と、電子を加速する電極とを有することが望ましく、さらに前記光放出手段、前記電子発生手段、及び前記電極の各動作を制御する制御手段を有することが望ましく、さらにその制御手段は、前記光放出手段や前記電子発生手段の制御状態に合わせて前記電極の電位状態を制御することが望ましい。電極の電位状態を光放出手段や電子発生手段の制御状態に合わせて制御することにすれば、イオン化領域の周辺に存在する電子(例えば、フィラメントからの熱電子や、紫外線照射によって発生する2次電子等)の動きを測定の目的に応じて電極によって制御できる。
【0044】
例えば、電極の電位状態の制御により、電子をイオン化領域へ向けて加速させたり、電子をイオン化領域から離れる方向へ加速させたり、電子を加速しない状態に保持したりすることができる。電子をイオン化領域へ向けて加速させることは、例えば、EIにおいてイオン化領域内で電子をガス分子に衝突させる上で好都合である。また、電子をイオン化領域から離れる方向へ加速させたり、電子を加速しない状態に保持したりすることは、例えば、PIを行っているときにイオン化領域内において2次電子によって不要なEIが生じることを防止又は抑制する上で好都合である。
【0045】
次に、本発明に係るガス分析装置は、前記光放出手段、通電によって電子を発生する電子発生手段、及び電子を加速する電極の動作を制御する制御手段を有し、該制御手段は、光イオン化モード(PIモード)と電子イオン化モード(EIモード)とを選択的に実施することが望ましい。そして、
(1)前記光イオン化モードでは、
前記光放出手段は光放出状態に、
前記電子発生手段は電子を発生しない電位状態に、且つ
前記電極はゼロ電位状態又は電子を前記イオン化領域から離す方向へ加速する電位状態に設定され、
(2)前記電子イオン化モードでは、
前記光放出手段は光を放出しない状態に、
前記電子発生手段は電子を発生する電位状態に、且つ
前記一対の電極は電子を前記イオン化領域へ向けて加速する電位状態に設定されることが望ましい。
この構成によれば、PI法のみに基づくイオン化と、EI法のみに基づくイオン化とを選択的に実施できる。
【0046】
なお、この発明形態において、前記制御手段は、前記光イオン化(PI)モードと前記電子イオン化(EI)モードとを時間分割で交互に実施することが望ましい。時間分割の態様としては、最初に一方のモードを実施し、残りの時間で他の一方のモードを実施する態様が考えられる。また、一方のモードと他方のモードを短時間ずつ交互に繰り返す態様も考えられる。本発明の態様のように、光イオン化モードと電子イオン化モードとを時間分割で交互に実施することにすれば、PI法のみの測定と、EI法のみの測定との両方を短時間で行うことができる。
【0047】
次に、本発明に係るガス分析装置は、前記光放出手段、通電によって電子を発生する電子発生手段、及び電子を加速する電極の動作を制御する制御手段を有し、該制御手段は、光イオン化モードと電子イオン化モードと光・電子イオン化モード(PI+EIモード)とを選択的に実施することが望ましい。そして、
(1)前記光イオン化モードでは、
前記光放出手段は光放出状態に、
前記電子発生手段は電子を発生しない電位状態に、且つ
前記一対の電極はゼロ電位状態又は電子を前記イオン化領域から離す方向へ加速する電位状態に設定され、
(2)前記電子イオン化モードでは、
前記光放出手段は光を放出しない状態に、
前記電子発生手段は電子を発生する電位状態に、且つ
前記一対の電極は電子を前記イオン化領域へ向けて加速する電位状態に設定され、
(3)前記光・電子イオン化モードでは、
前記光放出手段は光放出状態に、
前記電子発生手段は電子を発生しない電位状態に、且つ
前記一対の電極は電子を前記イオン化領域へ向けて加速する電位状態に設定されることが望ましい。
【0048】
この構成によれば、光イオン化モードにおいてPI法のみによるイオン化を行うことができ、電子イオン化モードにおいてEI法のみによるイオン化を行うことができ、光・電子イオン化状態においてPI法とEI法の両方によるイオン化を行うことができる。
【0049】
この発明形態においても、前記制御手段は、前記光イオン化(PI)モードと前記電子イオン化(EI)モードと前記光・電子イオン化(PI+EI)モードとを時間分割で交互に実施することが望ましい。時間分割の態様としては、最初に1つの試料に対して1つのモードを実施し、次に他の試料に対して他の1つのモードを実施し、その後にさらに他の試料に対して残りの1つのモードを実施する態様が考えられる。また、1つの試料を所定の昇温プログラムに従って昇温させる間に3つの制御モードを所定時間間隔で交互に連続して繰り返して実施する態様も考えられる。以上のように、光イオン化(PI)モードと電子イオン化(EI)モードと光・電子イオン化(PI+EI)モードを時間分割で交互に実施することにすれば、PI法のみの測定と、EI法のみの測定と、PI法及びEI法の両方同時の測定との3種類の測定を短時間で行うことができる。
【0050】
次に、本発明に係るガス分析装置は、前記光放出手段、通電によって電子を発生する電子発生手段、及び電子を加速する電極の動作を制御する制御手段を有し、該制御手段は、光イオン化モードと光・電子イオン化モードとを選択的に実施することが望ましい。そして、
(1)前記光イオン化モードでは、
前記光放出手段は光放出状態に、
前記電子発生手段は電子を発生しない電位状態に、且つ
前記一対の電極はゼロ電位状態又は電子を前記イオン化領域から離す方向へ加速する電位状態に設定され、
(2)前記光・電子イオン化モードでは、
前記光放出手段は光放出状態に、
前記電子発生手段は電子を発生しない電位状態に、且つ
前記一対の電極は電子を前記イオン化領域へ向けて加速する電位状態に設定されることが望ましい。
【0051】
この構成によれば、光イオン化モードにおいてPI法のみによるイオン化を行うことができ、光・電子イオン化モードにおいてPI法とEI法の両方によるイオン化を行うことができる。
【0052】
なお、この発明態様においても、前記制御手段は、前記光イオン化(PI)モードと前記光・電子イオン化(PI+EI)モードとを時間分割で交互に実施することが望ましい。時間分割の態様としても、上記と同様にして、最初に一方のモードを実施し、残りの時間で他の一方のモードを実施する態様が考えられる。また、一方のモードと他方のモードを短時間ずつ交互に繰り返す態様も考えられる。本発明の態様のように、光イオン化(PI)モードと光・電子イオン化(PI+EI)モードとを時間分割で交互に実施することにすれば、PI法のみの測定と、PI法及びEI法の両方同時の測定と、の両方を短時間で行うことができる。
【0053】
次に、光イオン化モード時におけるPI法のみによるイオン化と、光・電子イオン化モード時におけるPI法とEI法の両方によるイオン化と、の2種類のイオン化を行うことにした上記のガス分析装置は、前記イオン検出手段の出力信号に基づいてイオン強度を演算する演算手段をさらに有することが望ましい。そして、該演算手段は、前記光・電子イオン化モード時における前記イオン検出手段の出力信号から前記光イオン化モード時における前記イオン検出手段の出力信号の差分をとる演算を行うことが望ましい。
【0054】
この構成によれば、PI法のみによるイオン強度データと、PI法とEI法との同時イオン化に基づいたイオン強度データとを測定した上で、それらの差分を演算することにより、EI法のみによるイオン強度データを、実測することなく、演算によって求めることができる。
【0055】
次に、本発明に係るガス分析装置は、前記光放出手段、通電によって電子を発生する電子発生手段、及び電子を加速する電極の動作を制御する制御手段を有し、該制御手段は、電子イオン化モードと光・電子イオン化モードとを選択的に実施することが望ましい。そして、
(1)前記電子イオン化モードでは、
前記光放出手段は光を放出しない状態に、
前記電子発生手段は電子を発生する電位状態に、且つ
前記一対の電極は電子を前記イオン化領域へ向けて加速する電位状態に設定され、
(2)前記光・電子イオン化モードでは、
前記光放出手段は光放出状態に、
前記電子発生手段は電子を発生しない電位状態に、且つ
前記一対の電極は電子を前記イオン化領域へ向けて加速する電位状態に設定されることが望ましい。
【0056】
この構成によれば、電子イオン化モードにおいてEI法のみによるイオン化を行うことができ、光・電子イオン化モードにおいてPI法とEI法の両方によるイオン化を行うことができる。
【0057】
なお、この発明態様においても、前記制御手段は、前記電子イオン化(EI)モードと前記光・電子イオン化(PI+EI)モードとを時間分割で交互に実施することが望ましい。時間分割の態様としても、上記と同様にして、最初に一方のモードを実施し、残りの時間で他の一方のモードを実施する態様が考えられる。また、一方のモードと他方のモードを短時間ずつ交互に繰り返す態様も考えられる。本発明の態様のように、電子イオン化(EI)モードと光・電子イオン化(PI+EI)モードとを時間分割で交互に実施することにすれば、EI法のみの測定と、PI法及びEI法の両方同時の測定と、の両方を短時間で行うことができる。
【0058】
次に、電子イオン化モード時におけるEI法のみによるイオン化と、光・電子イオン化モード時におけるPI法とEI法の両方によるイオン化と、の2種類のイオン化を行うことにした上記のガス分析装置は、前記イオン検出手段の出力信号に基づいてイオン強度を演算する演算手段をさらに有することが望ましい。そして、該演算手段は、前記光・電子イオン化モード時における前記イオン検出手段の出力信号から前記電子イオン化モード時における前記イオン検出手段の出力信号の差分をとる演算を行うことが望ましい。
【0059】
この構成によれば、EI法のみによるイオン強度データと、PI法とEI法との同時イオン化に基づいたイオン強度データとを測定した上で、それらの差分を演算することにより、PI法のみによるイオン強度データを、実測することなく、演算によって求めることができる。
【0060】
次に、本発明に係るガス分析装置は、前記光放出手段に対して波長の異なる光を放射する他の光放出手段を前記光放出手段に加えて有することが望ましい。そしてこの場合には、前記イオン化領域内にあるガスを前記光放出手段又は前記他の光放出手段から放射された光によってイオン化することが望ましい。異なる光放出手段としては、例えば、重水素ガスを用いたランプ、クリプトンガスを用いたランプ、アルゴンガスを用いたランプ等が考えられる。
【0061】
このガス分析装置によれば、エネルギ量の大きい光とエネルギ量の小さい光のいずれかを選択してイオン化を行うことができる。つまり、エネルギ量の大小に関して選択枠を広げることができる。例えば、エネルギ量が小さいためにイオン化が不十分であった試料に対して、エネルギ量を大きくして十分なイオン化を行うことができる。
【0062】
次に、本発明に係るガス分析装置は、それ自身が前記光放出手段からの光照射により2次電子を発生する電極を有すると共に、通電によって電子を発生する電子発生手段は前記光放出手段と前記イオン化領域との間には設けられない構成とすることができる。この場合、前記電極は、電子を前記イオン化領域から離す方向へ加速する電位状態か、ゼロ電位状態か、又は電子を前記イオン化領域へ向けて加速する電位状態をとることができる電極であることが望ましい。
【0063】
この構成によれば、光放出手段から放射される光によってPI法を実現できると共に、電極から発生した2次電子によってEI法を実現できる。つまり、フィラメントのような通電によって2次電子を発生する要素を用いることなく、光放出手段の光照射領域内に2次電子発生手段である電極を配置するだけでEI法を行うことができる。これにより、PI法イオン化装置及びEI法イオン化装置を個別に設置する場合に比べて、イオン化装置、ひいてはガス分析装置を小型にでき、コストも低減できる。
【0064】
なお、本発明態様に係るガス分析装置は、前記電極に加えて、当該電極以外の2次電子発生手段を有することができる。このような2次電子発生手段としては、例えば、当該電極を支持する構造物や、その他の構造物が考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0065】
(ガス分析装置の第1実施形態)
以下、本発明に係るガス分析装置を実施形態に基づいて説明する。なお、本発明がこの実施形態に限定されないことはもちろんである。また、これ以降の説明では図面を参照するが、その図面では特徴的な部分を分かり易く示すために実際のものとは異なった比率で構成要素を示す場合がある。
【0066】
図1は、昇温脱離装置と質量分析装置とを組み合わせて成るガス分析装置に本発明を適用した場合の実施形態を示している。図1において、ガス分析装置1は、ガス発生装置である昇温脱離装置2と、ガスの分析を行う分析装置3とを有する。昇温脱離装置2と分析装置3とはガス搬送装置4によって接続されている。
【0067】
昇温脱離装置2は昇温脱離法に基づいた熱分析を行うためのガス発生部として用いられるものである。昇温脱離法とは、ガスが吸着している固体試料表面の温度を上昇させたときの脱離過程の解析から、ガスの吸着量やガスの吸着状態を知るための分析方法である。この昇温脱離装置2は、試料室R0を形成するケーシング6と、ケーシング6の周囲に設けられた加熱手段としての加熱炉7と、ケーシング6に装着された試料管8とを有する。試料管8は、矢印Aのようにケーシング6に対して着脱可能である。
【0068】
試料管8はその先端において試料Sを支持する。また、試料管8の後部にはガス供給源9が配管11によって接続されている。ガス供給源9はキャリヤガス、例えば不活性ガス、例えばヘリウム(He)ガスを放出する。加熱炉7は、例えば通電によって発熱する発熱線を熱源とする加熱装置によって構成されており、温度制御装置12からの指令に従って発熱する。試料室R0を冷却する必要があるならば、別途、冷却装置が試料室R0に付設される。温度制御装置12はコンピュータ、シーケンサ、専用回路等によって構成される。昇温プログラムは温度制御装置12内の記憶媒体内に記憶されている。
【0069】
温度制御装置12は主制御装置13からの指令に基づいて作動する。主制御装置13は、例えばコンピュータを含んで構成される。主制御装置13には入出力インターフェースを介してプリンタ14、ディスプレイ16、そして入力装置17が接続されている。プリンタ14は、静電転写プリンタ、インクジェットプリンタ、その他任意のプリンタによって構成できる。また、ディスプレイ16は、CRT(Cathode-ray Tube)ディスプレイ、フラットパネルディスプレイ(例えば、液晶ディスプレイ)、その他任意のディスプレイ機器によって構成できる。また、入力装置17は、キーボード式入力器、マウス式入力器、その他任意の入力機器によって構成される。
【0070】
次に、分析装置3は、分析室R1を形成するケーシング18と、分析室R1内に設けられたイオン化装置19と、イオン分離手段としての四重極フィルタ21と、イオン検出装置22と、質量分析制御装置23とを有する。質量分析制御装置23は主制御装置13に接続されており、イオン化装置19、四重極フィルタ21、及びイオン検出装置22の各要素の動作を制御する。また、質量分析制御装置23の中にはイオン検出装置22によって検出されたイオンの強度を演算するエレクトロメータ24が含まれている。なお、主制御装置13の中には、エレクトロメータ24によって求められたイオン強度に基づいて所定の演算を行うための演算部26が含まれている。この演算部26は、例えば、コンピュータの演算制御装置とソフトウエアとの組み合わせによって構成される。
【0071】
ケーシング18にはターボ分子ポンプ27及びロータリーポンプ28が付設されている。ロータリーポンプ28は分析室R1内の圧力を粗く減圧し、ターボ分子ポンプ27はロータリーポンプ28によって粗く減圧された分析室R1内を真空状態又はそれに近い減圧状態へとさらに減圧する。分析室R1内の圧力は圧力計であるイオンゲージ36によって検出され、その検出結果は電気信号として主制御装置13へ送られる。
【0072】
四重極フィルタ21は図2に示すように4つの電極29を有する。周波数が経時的に変化する高周波交流電圧と所定の大きさの直流電圧とが重畳された状態の走査用電圧がこれらの電極29に印加される。この高周波走査用電圧が四重極29に印加されることにより、それらの四重極29の間を通過するイオンが分子の質量電荷比ごとに分離され、分離された1つのイオンが後段のイオン検出装置22へ送られる。
【0073】
イオン検出装置22は、イオン偏向器31及び電子増倍管32を有する。四重極フィルタ21によって選択されたイオンはイオン偏向器31によって電子増倍管32へ集められた上で電気信号として出力され、その信号がエレクトロメータ24によって計数されてイオン強度信号として出力される。
【0074】
次に、図1のイオン化装置19は、光放出手段としてのPI(Photo-ionization)用ランプ33Aと、EI(Electron Ionization)装置34とを有する。PI用ランプ33Aとしては、浜松ホトニクス株式会社製の放電管であるL2D2ランプ(タイプ:L7292)を使用するものとする。このランプの仕様は次の通りである。
放射光の波長:真空紫外線
使用ガス: 重水素ガス
始動時電圧: 10±1V
始動時電流: 0.8A
定格電圧: 2.5〜6.0V
定格電流: 0.3〜0.6A
光強度分布: 図4(a)
なお、図4(a)のランプ33Aは、片側約10°、両側約20°の角度的な広がりをもって発散する光を放出するランプである。このランプはレーザ光に比べて格段に広い角度で光を放射するランプである。また、重水素ガスの使用時に放射される光のエネルギは10.2eVである。
【0075】
ランプ33Aはケーシング18を貫通した状態でそのケーシング18に固定されている。その固定部は封止部材によって気密に封止されている。ランプ33Aの光放射面はEI装置34に対向している。また、ランプ33Aの光放射面と反対側の端部はケーシング18の外側に位置している。一般に、ランプ33A(特に、真空紫外光を発光するランプ)は、真空中において熱による寿命劣化が激しく使用が難しい。しかしながら、本実施形態のようにランプ33Aの一部を大気中に出しておけば、寿命劣化を抑制できる。
【0076】
EI装置34は図3(a)に示す平面構造及び図3(b)に示す側面構造を有している。このEI装置34は、通電によって電子を放出する電子発生手段としての一組のフィラメント37a,37bと、それらのフィラメントを包囲する外部電極38aと、外部電極38aと対を成す内部電極38bとを有する。外部電極38a及び内部電極38bは共に矢印C方向から入射する光を透過可能な構造になっている。具体的には、外部電極38aは網状に形成された電極であり、内部電極38bは螺旋形状の電極である。いずれの電極も、光を透過できる形状となっている。
【0077】
フィラメント37a及びフィラメント37bは共に直線のワイヤ状に形成されており電極40a及び40bによって外部へ引き出されている。中央の電極47はフィラメント37a及び37bに対する共通電極である。フィラメント37aとフィラメント37bは別々のフィラメントであり、それらは共通電極47から等価な距離に設けられている。このEI装置34に関しては、矢印B方向から測定対象(すなわち、イオン化の対象)であるガスが導入され、矢印C方向からPI用ランプ33A(図1参照)の出射光が当てられ、そしてイオンが矢印D方向へ取り出される。
【0078】
EI装置34の内部構造を示すと図2の左部分に示す通りである。フィラメント37a,37bは外部電極38aと内部電極38bとの間に形成される電界内に設けられている。内部電極38bの内部が、ガスをイオン化するための領域であるイオン化領域R3となっている。フィラメント37a又は37bに通電が成されるとそのフィラメントから電子が発生する。
【0079】
外部電極38aと内部電極38bとの間には所定の電子加速電圧Vaccが印加される。今、内部電極38bの電位をV1とし、外部電極38aの電位をV2とすると、Vacc=V2−V1である。V2>V1であればVaccはプラス電位状態(Vacc>0)であり、V2=V1であればVaccはゼロ電位状態(Vacc=0)であり、V2<V1であればVaccはマイナス電位状態(Vacc<0)である。
【0080】
Vacc>0(V2>V1)のとき、イオン化領域R3の内部及びその周辺の電子はイオン化領域R3から離れる方向へ加速される。Vacc<0(V2<V1)のとき、イオン化領域R3の周辺の電子はイオン化領域R3へ向けて加速される。Vacc=0のとき、イオン化領域R3の内部及びその周辺の電子は加速されない状態である。
【0081】
一方、測定対象であるガスは、矢印B方向から外部電極38a、フィラメント37a,37b、及び内部電極38bを通過してイオン化領域R3へ供給される。ガスがイオン化領域R3内へ供給されているとき、加速された電子がイオン化領域R3へ進入すると、その電子がガスに衝突することにより、そのガスがイオン化される。このようにして行われるガスのイオン化がEI(電子イオン化)である。こうして生成されたイオンは、引込み用電極39a,39bの電極間に所定の電圧を印加することにより、図中の矢印D方向にある四重極フィルタ21へ強制的に引き込まれる。
【0082】
次に、本実施形態において電子加速電圧Vaccを生成する一対の電極である外部電極38a及び内部電極38bについては、外部電極38aが網状電極によって形成され、内部電極38bが螺旋形状の電極によって形成されているので、PI用ランプ33Aが点灯して該ランプから光が放出された場合、その光は電極38a及び38bの開口部分を通過してイオン化領域R3へ供給される。PI用ランプ33Aからの光がイオン化領域R3へ供給されているときにそのイオン化領域R3内へ矢印B方向からガスが供給されれば、PI用ランプ33Aからの光によってガスがイオン化される。このイオン化がPI(光イオン化)である。こうして生成されたイオンも、引込み用電極39a,39bの電極間に所定の電圧を印加することにより、図中の矢印D方向にある四重極フィルタ21へ強制的に引き込まれる。
【0083】
本実施形態では、PI用ランプとしてレーザ光よりも指向性が低くて広がって進む光であって、波長が真空紫外領域の光を用い、この光を図1のガス搬送装置4のガス排出口の直ぐ後ろの領域であるイオン化領域R3に照射することにしたので、ガス排出口から出て速い速度で広がって進行するガスの全体を短時間で十分にイオン化することができる。
【0084】
次に、図1の質量分析制御装置23は、図2に示す回路構成を含んでいる。以下、この図を参照して質量分析制御装置23を説明する。質量分析制御装置23は、一組のフィラメント37a及び37bを切り替えるためのスイッチSW1を有している。このスイッチSW1を切り替えることにより、フィラメント37a又はフィラメント37bのいずれかを選択して電流を流すことができる。この技術は、フィラメント37a又はフィラメント37bのいずれか一方が故障によって点灯不能になったときに、単にスイッチSW1の切り替えだけでもう一方の正常なフィラメントを選択して電子の発生を継続させるためのものである。従って、そのような補償処理が必要ない場合は、フィラメントは1つであっても良い。
【0085】
質量分析制御装置23は、外部電極38aに電位V2を印加し、内部電極38bに電位V1を印加する。これにより、外部電極38aと内部電極38bとの間に電子加速電圧Vaccが印加される。本実施形態では、既述の通り、電子加速電圧Vaccとして、Vacc>0(プラス電位状態)、Vacc=0(ゼロ電位状態)、Vacc<0(マイナス電位状態)の3種類の極性状態が適宜に選択される。
【0086】
質量分析制御装置23は、一対の引込み用電極39aと39bとの間に引込み電圧Vifを印加する。この引込み電圧Vifとしては、標準の電圧と、それよりも高い電圧の少なくとも2種類が準備される。高い電圧はイオンを引込む力が大きくなる電圧である。標準の電圧はEIに好適な電圧であり、高電圧はPIに好適な電圧である。PI用を高電圧にするのは、PIによるイオン化量がEIによるイオン化量よりも小さくなる傾向にあるので、それを補償するためである。
【0087】
質量分析制御装置23は、直流電圧に高周波電圧を重畳した電圧(U/V)を四重極フィルタ21の各電極に印加する。この場合の高周波電圧は周波数が経時的に変化する電圧であり、この周波数変化により、イオンを1種類の質量電荷比ごとに分離して後段へ伝搬することができる。
【0088】
次に、図1に戻って、試料室R0と分析室R1とを接続するガス搬送装置4は、ガスを搬送する内管41と、その内管41を包囲する外管42と、外管42と内管41とによって形成される中間室R2を排気する排気手段としてのロータリーポンプ43とを有する。ロータリーポンプ43の前段には流量調整手段としてのマスフローメータ46が設けられている。ロータリーポンプ43の排気作用により、中間室R2の内部は試料室R0よりも低い圧力に設定できる。中間室R2内の圧力は圧力計であるクリスタルゲージ44によって検出される。この検出結果は電気信号として主制御装置13へ送られる。
【0089】
マスフローメータ46は、ロータリーポンプ43の排気路と外部圧力(本実施形態では大気圧)との間でガスを通流させる要素である。例えば、このマスフローメータ46によって大気ガスをロータリーポンプ43の排気路内へ導入すれば、ロータリーポンプ43で維持している中間室R2の圧力を増圧できる。例えば、当初は10Paに維持されていた圧力を10Paへ増圧できる。
【0090】
ガス搬送装置4に関する上記の構成により、外管42の外部(すなわち、試料室R0の内部)を高圧にし、中間室R2を中間の圧力にし、そして内管41の内部(すなわち、分析室R1の内部)を低圧に、それぞれ設定してそれらの圧力を保持することができる。例えば、試料室R0を10 Pa程度の大気圧に保持し、中間室R2内を10Pa程度の中間圧力に保持し、そして分析室R1の内部を10−3Pa程度の真空状態に保持することができる。このように、高圧力と低圧力との間を排気によって中間圧力とする構造は差動排気構造と呼ばれることがある。
【0091】
上記の差動排気構造は、互いに圧力が異なる試料室R0と分析室R1との間の圧力差を維持しつつ、試料室R0内で発生したガスを内管41によって分析室R1へ搬送するという機能を確実に達成するための構造である。なお、本実施形態では、内管41及び外管42の試料室R0側の端部をオリフィス(すなわち、微細孔)として形成し、それに対向する分析室R1側の端部をオリフィス効果を奏しない普通の大きさの開口として形成している。オリフィスの径は、例えば100μm程度である。このように、内管41及び外管42の試料室側をオリフィスとし、それと反対の分析室側を普通の開口としておけば、試料Sから発生したガスをオリフィスによって効率良く収集して、尚且つ、効率良く分析室R1へ搬送することができる。
【0092】
以下、上記構成より成るガス分析装置1の動作を説明する。本実施形態では、PI用ランプ33AのON/OFF、フィラメント37a又は37bへの通電のON/OFF、そして電極38a,38bへの電子加速電圧Vaccを適宜に制御することにより、PIのみのイオン化に基づいた発生ガス測定と、EIのみのイオン化に基づいた発生ガス測定と、PI+EI(すなわち、PIとEIの両方のイオン化)に基づいた発生ガス測定の3種類の測定を選択的に行うことができる。以下、それらの測定を個々に説明する。
【0093】
(EIのみのイオン化に基づいた測定)
まず、図1において、試料管8の先端に試料Sを装着し、試料管8をケーシング6に装着することにより、試料Sを試料室R0内の所定位置、すなわちガス搬送装置4のオリフィス部に近い位置に配置する。次に、分析室R1に付設されたロータリーポンプ28及びターボ分子ポンプ27を作動して分析室R1内を10−3Pa程度の真空状態に設定する。また、ガス搬送装置4に付設されたロータリーポンプ43を作動して中間室R2内の圧力を10Pa程度の中間圧力に設定する。そして、試料室R0内は大気圧、例えば10Pa程度に設定する。
【0094】
次に、イオン化装置19に関して、
(1)図2のPI用ランプ33AをOFFとして光を放射しない状態とし、
(2)フィラメント37a又は37bへの電流供給をONとして電子を放出する状態とし、そして
(3)電極38a,38bに印加する電子加速電圧VaccをVacc<0(V2<V1)とする。
Vacc<0(V2<V1)に設定することにより、フィラメント37a又は37bより発生した電子はイオン化領域R3へ向けて加速する。加速した電子はイオン化領域R3内でガスに衝突し、そのガスをイオン化する。つまり、以上の(1)〜(3)の条件設定により、EIのみのイオン化が実現できる。
【0095】
以上の条件設定が整った後、図1において、温度制御装置12の作用によって加熱炉7を所定のプログラムで発熱させて、試料Sを所定のプログラムで昇温させる。この昇温の条件は試料及び測定方法に応じて種々に変わるが、例えば、2℃/分〜10℃/分の温度勾配で30分〜2時間程度昇温させる。この昇温時に試料Sの特性に応じて試料Sからガスが脱離すると、そのガスは外管42及び内管41のそれぞれにオリフィス部を通して吸引されて内管41の内部へ流入し、さらに内管41の開口からイオン化装置19へ供給される。
【0096】
イオン化装置19へ供給されたガスは、図2においてイオン化領域R3内へ入り、フィラメント37a又は37bから発生して電子加速電圧Vaccで加速された電子の衝撃によってイオン化される。これがEI(電子イオン化)である。このイオン化の処理は、測定時間の間、継続して行われる。このEI時においては、電子の衝撃により成分ガスのイオンは衝撃の程度に応じて解裂し、その結果、フラグメント(すなわち、解裂成分又は破片)が発生する。
【0097】
フラグメントの元であるイオンは親イオンと呼ばれる。親イオンに対するフラグメントイオンの発生の割合は、電子が持っているエネルギ量に応じて変化する。具体的には、電子エネルギ量が少なければ、親イオンの量が多くフラグメントイオンの量が少ない。反対に、電子エネルギ量が多ければ、フラグメントイオンの量が多くなり親イオンの量が少なくなる。電子エネルギ量が極端に多い場合には、ほとんどがフラグメントイオンになって親イオンがほとんどなくなるときもある。
【0098】
以上のようにして発生した親イオン及びフラグメントイオンは、引込み電圧Vifによって引かれて四重極フィルタ21へ搬送される。四重極フィルタ21内の四重極29には周波数が時々刻々変化する高周波電圧が印加されており、個々の周波数に対応する質量電荷比のイオンだけが選択されてイオン検出装置22へ送り込まれる。つまり、質量電荷比ごとに分離されたイオンが質量電荷比ごとに時系列的にイオン検出装置22へ送り込まれる。
【0099】
イオン検出装置22においては、送り込まれてきたイオンをイオン偏向器31によって電子増倍管32へ集めて所定の増幅処理を行った後に電気信号として出力し、その出力信号に基づいてエレクトロメータ24によってイオン強度が質量電荷比ごとに求められる。高周波電圧の周波数を変化させる範囲及び周波数の変化のステップ幅は、測定を希望する質量電荷比に応じて決められる。例えば、四重極フィルタ21への高周波電圧の周波数の走査変化によってm/e=10〜200の質量電荷比の範囲でイオンを分離しようとするならば、5秒間程度の走査時間で質量数の希望範囲を周波数走査できる。本実施形態では、1周期の周波数走査を測定時間の間、連続して繰り返して実行する。
【0100】
このように、本実施形態では、図1の試料室R0内において、ある瞬間に試料Sからガスが発生した場合、そのガスはガスクロマトグラフ等といったガストラップ手段によってトラップされることなく、直接且つ同時にイオン化装置19へ運ばれて同時にイオン化され、そして四重極フィルタ21によって質量電荷比ごとに、すなわち成分イオンごと及び成分イオンから解裂したフラグメントごとに分離され、分離された個々の成分イオン等に関してイオン強度が求められる。
【0101】
つまり、本実施形態では、いくつかの成分ガスを含んだ発生ガスが試料Sからある瞬間に発生した場合、各成分ガスはガスの発生時にリアルタイムでイオン強度の測定処理に供されることになる。ここで、リアルタイムとは、ガスが発生した瞬間と同時にそのガスが質量分析部へ供給されると共に、発生ガスに含まれる複数の成分ガスが極めて短時間の間に連続してほぼ同時に質量分析に供されるということである。
【0102】
以上により、EIによりイオン化したガスに関してイオン強度が質量電荷比ごとに検出され、その検出結果が主制御装置13内のメモリ(すなわち、記憶媒体)内の所定領域に記憶される。主制御装置13はそのようにして記憶された試料Sについてのイオン強度データを所望の時点でメモリから読み出してプリンタ14によって印字したり、ディスプレイ16の画面上に映像として表示したりする。
【0103】
図5は、図1のディスプレイ16の画面16a上に測定結果の一例であるグラフを画像として表示した場合を例示している。この表示例は、低密度ポリエチレンを試料とした場合の測定結果を示している。画面16a内の上段の2つの表示(A)及び(B)がEIのみによってガスをイオン化した場合に得られた測定結果を示している。また、画面16a内の下段の2つの表示(C)及び(D)は後述するPI(光イオン化)のみによってガスをイオン化した場合に得られた測定結果を示している。図5ではEI法に基づいた測定結果とPI法に基づいた測定結果とを1つの画面上に同時に表示する場合を例示しているが、これに代えて、EI法に基づいた測定結果(A,B)と、PI法に基づいた測定結果(C,D)とをそれぞれ単独に表示しても良い。
【0104】
図5のEI測定結果(A,B)及びPI測定結果(C,D)のそれぞれにおいて、左側のグラフ(A,C)は、昇温過程の時々刻々に発生したガスの全体的なイオン強度の変化を示す総イオン強度線図を示すグラフである。このグラフにおいて、横軸は試料温度を示し、縦軸はイオン強度を示している。また、画面16aの右側のグラフ(B,D)は、ある1つの試料温度において試料から発生したガスに含まれる成分イオン又はそれらのフラグメントイオンの質量電荷比ごとのイオン強度を示すマススペクトルを示すグラフである。このグラフにおいて、横軸は質量電荷比を示し、縦軸はイオン強度を示している。
【0105】
EI法に基づいた質量分析(A,B)では、総イオン強度線図のグラフ(A)に示されるように、温度490℃のときに試料からガスが発生する。そして、その発生ガスに含まれる複数の成分ガスは、マススペクトルのグラフ(B)に示されるように試料に固有の質量電荷比の所にピークを持っている。既述の通りEI法に基づいてイオン化を行うとフラグメントが発生するので、マススペクトルは親イオンのピーク以外にフラグメントイオンのピークを含んでいる。マススペクトルのグラフ(B)からはどれが親イオンのピークでどれがフラグメントイオンかは分からない。また、親イオンのピークとフラグメントイオンのピークの発生の割合は、ガスに衝突する電子が持っているエネルギの量の大小に応じて変化する。
【0106】
(PIのみのイオン化に基づいた測定)
次に、PI法に基づいた測定について説明すれば、まず、EI法に基づいた測定の場合と同様に、図1の試料管8の先端に試料Sを装着し、試料管8をケーシング6に装着することにより、試料Sを試料室R0内の所定位置に配置する。次に、分析室R1、ガス搬送装置4の中間室R2、及び試料室R0内の圧力をEI法に基づいた測定の場合と同様に設定する。
【0107】
次に、イオン化装置19に関して、
(1)図2のPI用ランプ33AをONとして広い角度で広がる真空紫外光を放射する状態とし、
(2)フィラメント37a又は37bへの電流供給をOFFとして電子を放出しない状態とし、そして
(3)電極38a,38bに印加する電子加速電圧VaccをVacc=0(V2=V1)又はVacc>0(V2>V1)とする。
【0108】
以上の条件設定が整った後、図1において、温度制御装置12の作用によって加熱炉7を所定のプログラムで発熱させて、試料Sを所定のプログラムで昇温させる。この昇温時に試料Sの特性に応じて試料Sからガスが脱離すると、そのガスは外管42及び内管41のそれぞれにオリフィス部を通して吸引されて内管41の内部へ流入し、さらに内管41の開口からイオン化装置19へ供給される。
【0109】
イオン化装置19へ供給されたガスは、図2においてイオン化領域R3内へ入り、PI用ランプ33Aからの放射光(本実施形態では真空紫外光)によってPI法に基づいてイオン化される。このイオン化も測定の間、継続して行われる。イオン化領域R3内のガスに真空紫外光を当ててそのガスをイオン化する際、2次電子発生手段としての構造物である外部電極38a、内部電極38b、フィラメント37a及び37bに真空紫外光が当たって、それらの構造物から2次電子が発生する。この2次電子がイオン化領域R3内へ進行すると、真空紫外光によるガスのイオン化に加えて、2次電子がガスに衝突することによるイオン化(すなわち、EI)が発生する。この状態ではPI法イオン化のみに基づいた測定を正確に行うことができなくなる。
【0110】
2次電子がイオン化領域R3内に進入すると、試料分子に電子衝撃を与えてしまう。本来、PIは、EIではイオン化エネルギ−が高すぎるために試料分子が分解され、フラグメントイオン化されてしまうような試料分子の分子イオン(親イオン)を生成するための好適な方法であるが、前述のような2次電子によるEIによって、試料分子の一部がフラグメントイオンに変化してしまう。しかしながら、本実施形態によれば、イオン化領域R3において紫外光の照射によって発生した電子(すなわち、2次電子)を捕集できる外部電極38aをイオン化領域R3の外側の領域に設けたので、イオン化領域R3内への2次電子の進入を抑止し、PIにおけるフラグメントイオンの発生を低減できる。
【0111】
具体的には、本実施形態では、上記条件(3)のように、電子加速電圧VaccをVacc=0(V2=V1)又はVacc>0(V2>V1)に設定したので、仮に構造物から2次電子が発生しても、その2次電子はイオン化領域R3から離れる方向へ加速され、イオン化領域R3内へは進行せず、従って、イオン化領域R3内で電子衝撃によるイオン化は起こらない。このため、ランプ33Aからの真空紫外光だけによってイオン化が行われる。このPIによるイオン化においては、フラグメントイオンはほとんど発生することが無く、親イオンだけが発生する。
【0112】
以上のようにしてPI法のみによってイオン化されたガスのイオンは、EI法に基づいた測定の場合と同様にして、四重極フィルタ21によって質量電荷比ごとに分離された後、イオン検出装置22及びエレクトロメータ24によってイオン強度が求められる。このように、PI法に基づいた測定の場合も、図1の試料室R0において試料Sからガスがある瞬間に発生した場合、そのガスはガスクロマトグラフ等といったガストラップ手段によってトラップされることなく、直接且つ同時にイオン化装置19へ運ばれて同時にイオン化され、そして四重極フィルタ21によって質量電荷比ごとに、すなわち成分イオンごとに分離され、分離された個々の成分イオンに関してイオン強度が求められる。つまり、ガス発生に対してリアルタイムで各成分ガスの質量分析が行われる。
【0113】
以上により、PIによりイオン化したガスに関してイオン強度が質量電荷比ごとに検出され、その検出結果が主制御装置13内のメモリ内の所定領域に記憶される。主制御装置13はそのようにして記憶された試料Sについてのイオン強度データを所望の時点でメモリから読み出してプリンタ14によって印字したり、ディスプレイ16の画面上に映像として表示したりする。
【0114】
例えば、図5の下段の総イオン強度線図のグラフ(C)及び同じく下段のマススペクトルのグラフ(D)に示すような表示がPI法に基づいた測定の結果として表示される。PI法に基づいた質量分析では、総イオン強度線図のグラフ(C)に示されるように、温度490℃のときに試料からガスが発生し、その発生ガスに含まれる複数の成分イオンはマススペクトルのグラフ(D)に示されるように試料に固有の質量電荷比の所にピークを持っている。
【0115】
PI法に基づいてイオン化を行う場合には、EI法に基づいたイオン化の場合に見られたようなフラグメントの発生は大きく抑制される。従って、マススペクトルのグラフ(D)に示されているピークは、全て、親イオンに由来するピークであり、フラグメントイオンは全く含まれていない。従って、EI法マススペクトル(B)からは発生ガスの成分を知ることができない場合でも、PI法マススペクトル(D)を参照すれば、発生ガスの成分を質量電荷比から容易に知ることができる。一方、EI法マススペクトル(B)からは、親イオン情報だけでは判定できないフラグメントイオン情報に基づいた分析を行うことが可能である。
【0116】
本実施形態の装置によってPI法に基づいたイオン化を行う場合は、レーザ光のような指向性の高い光ではなくて角度的に広がって進む光をPI用ランプ33Aから放出して、ガス搬送装置4の開口を光によって広く覆うようにしている。ガスは、一般に、短時間に広がって拡散する性質を持っているので、レーザ光のように指向性の高い光はガスを局所的にはイオン化できるが、短時間に排出されるガスを十分にイオン化することは難しい。これに対し、本実施形態では、指向性が低くて分散して広がる光、特に真空紫外光をガス排出口の前に照射することにしたので、短時間に排出されるガスを十分にイオン化することができることになり、それ故、ガスに含まれる複数の分子成分を同時にイオン化することにより、複数の分子成分をリアルタイムで分析できるようになった。
【0117】
なお、PI法に基づいたイオン化を行った場合は、イオン化されたガス量がEI法に基づいたイオン化の場合よりも少ない傾向にある。従って、何等の措置も講じなければ、図1の四重極フィルタ21及びイオン検出装置22を用いたイオン強度の分析の精度がEI法の場合に比べて悪くなるおそれがある。この問題点を解消するため、本実施形態においてPI法に基づいた分析を行う場合には、ガス搬送装置4の中間室R2内の圧力を次のように調整することが望ましい。
【0118】
具体的には、当初、試料室R0が大気圧(例えば、10Pa)、分析室R1が真空状態(例えば10−3Pa)、そしてガス搬送装置4内の中間室R2が中間圧力(例えば10Pa)に設定された状態から、マスフローメータ46を操作してガスをリーク(すなわち、排気)することにより、中間圧力を10Paから例えば10Paへと増加させる。これにより、試料室R0から分析室R1へ入るガスの量を多くすることができ、測定に関して十分な量のイオンを得ることができる。
【0119】
(PI+EIのイオン化に基づいた測定)
次に、PIとEIの両方のイオン化に基づいた測定について説明すれば、まず、EI法及びPI法に基づいた測定の場合と同様に、図1において、試料管8の先端に試料Sを装着し、試料管8をケーシング6に装着することにより、試料Sを試料室R0内の所定位置に配置する。次に、分析室R1、ガス搬送装置4の中間室R2、及び試料室R0内の圧力をEI法に基づいた測定の場合と同様に設定する。
【0120】
次に、イオン化装置19に関して、
(1)図2のPI用ランプ33AをONとして、そのランプ33Aから広い角度で広がる真空紫外光が放射される状態とし、
(2)フィラメント37a又は37bへの電流供給をOFFとして、電子を放出しない状態とし、
(3)電極38a,38bに印加する電子加速電圧VaccをVacc<0(V2<V1)とする。
【0121】
本実施形態では、ランプ33Aからの真空紫外光がイオン化領域R3内でガス分子に当たることにより、PIが行われる。一方、フィラメント37a及び37bから電子が発生しないので、EIは行われないように思われる。しかしながら、ランプ33Aからの真空紫外光がフィラメント37a,37b等といった構造物に当たることにより2次電子が発生し、さらにその2次電子がVacc<0に設定された電子加速電圧Vaccによってイオン化領域R3へ向けて加速されるので、その加速された2次電子によってEIが行われる。つまり、EI装置34の構成要素であるフィラメント37a,37bに通電させないことにより電子を発生させない場合でも、PI用ランプ33Aを点灯し、さらに電子加速電圧をVacc<0とすれば、必然的にEIが行われるということである。以上の結果、イオン化領域R3内では、PIとEIの両方によるイオン化が行われる。
【0122】
なお、上記(2)の条件に代えて、フィラメント37a又は37bへの電流供給をONとして、それらのフィラメントから電子を放出する制御を行っても良い。この場合には、光に起因してフィラメント37a又は37bから出る2次電子に加えて、フィラメント自体から熱電子が放出されるので、イオン化領域R3へ供給される電子量を増大できる。
【0123】
以上の条件設定が整った後、PI法に基づいた測定及びEI法に基づいた測定の場合と同様に、図1において、温度制御装置12の作用によって加熱炉7を所定のプログラムで発熱させて、試料Sを所定のプログラムで昇温させる。この昇温時に試料Sの特性に応じて試料Sからガスが脱離すると、そのガスは外管42及び内管41のそれぞれにオリフィス部を通して吸引されて内管41の内部へ流入し、さらに内管41の開口からイオン化装置19へ供給される。
【0124】
イオン化装置19へ供給されたガスは、図2においてイオン化領域R3内へ入り、PI用ランプ33Aからの放射光によってPI法に基づいてイオン化される。そしてさらに、構造物から発生した2次電子によってEI法に基づいてイオン化される。つまり、PI法及びEI法の両方に基づいてイオン化が行われる。イオン化されたガスは、EI法のみに基づいた測定及びPI法のみに基づいた測定の場合と同様にして、四重極フィルタ21によって質量電荷比ごとに分離された後、イオン検出装置22及びエレクトロメータ24によってイオン強度が求められる。
【0125】
以上により、PI及びEIの両方によりイオン化したガスに関してイオン強度が質量電荷比ごとに検出され、その検出結果が主制御装置13内のメモリ内の所定領域に記憶される。主制御装置13はそのようにして記憶された試料Sについてのイオン強度データを所望の時点でメモリから読み出してプリンタ14によって印字したり、ディスプレイ16の画面上に映像として表示したりする。
【0126】
図5では、PI及びEIの両方に基づいた測定の結果は表示されていないが、PIとEIとを同時に行う方法を用いれば、1つの試料から全く同時にPIに基づく分析情報とEIに基づく分析情報とが得られ、その情報を画面上に表示できる。この情報の中には、親イオン情報とフラグメントイオン情報の両方が含まれるので、試料に対して高精度な分析を行うことができる。
【0127】
(差分演算)
以上、EIのみに基づく測定、PIのみに基づく測定、及びPI+EIに基づく測定を個々に説明した。実際の分析に際しては、それら3つの情報を得た上でそれらの情報を比較して観察しながら分析を行うことが、信頼性の高い分析を行う上で望ましい。しかしながら、3種類の測定を個別に行って上記3つの情報を得ることは時間の損失であり、また、測定間の誤差のために得られた結果に誤差が生じることも考えられる。そこで、本実施形態では、この問題を図1の主制御装置13での演算によって改善している。
【0128】
具体的には、PI+EIに基づく測定の結果からPIのみに基づく測定の結果を差し引く演算、すなわち差分をとる演算を演算部26によって行わせるためのプログラムを主制御装置13に持たせてある。PI+EIに基づく測定とPIのみに基づく測定の2種類の測定を行った後、演算部26によって上記の差分演算を行えば、EIのみに基づく測定結果を、実際にEIに基づく測定を行うことなく、演算によって求めることができる。これにより、3種類の測定を行う場合に比べて非常に時間を節約できる。また、測定結果に基づいて分析を行う際に、測定間での誤差の要因によって分析精度が低下することを改善できる。
【0129】
なお、上記はEIのみに基づく測定を省略してその情報を演算によって求めるものであるが、これに代えて、PI+EIに基づく測定とEIのみに基づく測定の2種類の測定を行った後、PIのみに基づく測定の情報を差分演算によって求めるようにしても良い。
【0130】
また、PI+EIに基づく測定とPIのみに基づく測定の2種類の測定を行った後、EIのみに基づく測定の結果を演算によって求める場合には、EIに基づく測定は実際には行われないのであるから、EIに基づく測定を行うための装置は必要がなくなる。その意味から、この場合には、図2においてEI装置34の構成要素であるフィラメント37a,37b及びそれを駆動するための回路構成は不要である。
【0131】
なお、同じくEI装置34の構成要素である電極38a,38bは不要とすることはできない。その理由は、第1に、PI用ランプ33Aから放出される光によって2次電子を発生する構造物として機能させる必要があるためである。また、第2に、EIを起こさせるためには電子加速電圧Vaccを発生させなければならないからである。
【0132】
(各イオン化法に基づく測定の実施タイミング)
以上の説明では、EIのみに基づく測定、PIのみに基づく測定、及びPI+EIに基づく測定の3種類の測定を個別に行う場合を前提とした。すなわち、図1の主制御装置13による電子イオン化モード(EIモード)、光イオン化モード(PIモード)、及び光・電子イオン化モード(EI+PIモード)の各制御モードを個別に実施することを前提とした。この場合には、第1の試料に対して昇温プログラムを実施して1つのイオン化法に基づく測定を実施し、それとは別に第2の試料に対して昇温プログラムを実施して他の1つのイオン化法に基づく測定を実施し、さらに、それらとは別に第3の試料に対して昇温プログラムを実施してさらに他の1つのイオン化法に基づく測定を実施することになる。
【0133】
このような測定形態の他に次のような測定形態も採用できる。すなわち、図1において、1つの試料Sを試料室R0内の所定位置に配置し、所定の昇温プログラムに従って試料Sを昇温させる。この昇温と同時にイオン化装置19によってイオン化処理を実行する。このイオン化処理においては、EIモード、PIモード、及びPI+EIモードが測定の初めから終わりまでの間、所定時間間隔で1つずつ連続的に繰り返して行われる。この場合、各イオン化モードの処理に割り当てられる時間は、四重極フィルタ21を用いて所定の質量電荷比範囲の高周波の走査が行われ、さらにイオン検出装置22によってイオン強度を求めるのに必要となる時間と同じ時間に設定される。例えば、質量電荷比の測定範囲に対応した高周波の波長走査によるイオンの分離処理と、分離したイオンに関するイオン強度の測定のために5秒間程度が必要となるならば、各イオン化モードにおいてイオン化装置19によって行われる各イオン化処理のための時間間隔も5秒間程度に設定される。
【0134】
(ガス分析装置の第2実施形態)
図6は、本発明に係るガス分析装置の他の実施形態を示している。ここに示すガス分析装置51は、ガス発生装置であるTG−DTA装置52と、ガスの分析を行う分析装置3と、それらの装置の間に設けられてガスの搬送を行うガス搬送手段としてのキャピラリチューブ(すなわち、細管)54を有する。分析装置3は、図1に示した実施形態において同じ符号を用いて示した分析装置と同じ装置である。このため、分析装置3についての説明は省略する。
【0135】
TG−DTA装置52は、TG(Thermogravimetry:熱重量)測定とDTA(Differential Thermal Analysis:示差熱分析)測定の両方を併せて行う装置である。このTG−DTA装置52は、試料室R0を形成するケーシング56と、ケーシング56の周囲に設けられた加熱手段としての加熱炉57と、ケーシング56の内部に設けられた天秤ビーム58とを有する。ケーシング56にはガス供給源59が配管61によって接続されている。ガス供給源59はキャリヤガス、例えば不活性ガス、例えばヘリウム(He)を放出する。
【0136】
加熱炉57は、例えば通電によって発熱する発熱線を熱源とする加熱装置によって構成されており、TG−DTA制御装置62からの指令に従って発熱し、さらに必要に応じて冷却される。TG−DTA制御装置62はコンピュータ、シーケンサ、専用回路等によって構成される。TG−DTA制御装置62は主制御装置63からの指令に基づいて作動する。主制御装置63は、例えばコンピュータを含んで構成される。
【0137】
TG−DTA装置52においては、試料Sが加熱炉57によって所定の昇温プログラムに従って加熱されて昇温する。昇温する試料Sがそれ自身の特性に従って熱的に変化(例えば、分解)すると、試料Sに重量変化が発生し、同時に試料Sからガスが発生する。TG−DTA制御装置62は天秤ビーム58を介して試料Sの重量変化を測定する。また、試料Sに隣接して配置された標準物質(図示せず)に対しての試料Sの温度変化が温度センサ(例えば、熱電対)によって測定される。
【0138】
試料Sからガスが発生した場合、そのガスはキャピラリチューブ54によって分析装置3内のイオン化装置19へ搬送される。分析装置3内のイオン化装置19、四重極フィルタ21、イオン検出装置22の各要素によって行われる処理は図1の実施形態の場合と同じであるので、ここでの説明は省略する。なお、キャピラリチューブ54は図1におけるガス搬送装置4のような2重の管構造や、差動排気構造等を持たない、単なる細管である。このキャピラリチューブ54は細管の長さと内径とによって分析室R1内の真空と試料室R0内の大気圧とを維持する。
【0139】
本実施形態のガス分析装置においても、PI法に基づいたイオン化を行う場合は、レーザ光のような指向性の高い光ではなくて角度的に広がって進む光をPI用ランプ33Aから放出して、キャピラリチューブ54のガス排出用の開口を光によって広く覆うようにしている。ガスは、一般に、短時間に広がって拡散する性質を持っているので、レーザ光のように指向性の高い光はガスを局所的にはイオン化できるが、短時間に排出されるガスを十分にイオン化することは難しい。これに対し、本実施形態では、指向性が低くて分散して広がる光、特に真空紫外光をガス排出口の前に照射することにしたので、短時間に排出されるガスを十分にイオン化することができることになり、それ故、ガスに含まれる複数の分子成分を同時にイオン化することにより、複数の分子成分をリアルタイムで分析できるようになった。
【0140】
(ガス分析装置の第3実施形態)
図7は、本発明に係るガス分析装置のさらに他の実施形態を示している。ここに示すガス分析装置71は、図1に示した先の実施形態に改変を加えたものである。ガス分析装置71が図1に示したガス分析装置1と異なる点は、ガス搬送装置4の内管41のガス排出開口に絞り部材72を設けたことである。その他の構成は図1の実施形態と同じであるので、その構成についての説明は省略する。
【0141】
絞り部材72は、イオン化装置19側の端面が小径で、ガス搬送装置4側の端面が大径である円錐筒形状(頂部が欠けた状態)を有している。この絞り部材72は、ガス搬送装置4からイオン化装置19へ向かって流れるガス流の断面積を、試料室R0側から分析室R1側へ向けて小さく絞る。この絞り機能により、図2のイオン化領域R3へ密度の高いガスを送り込むことができ、その結果、イオン化されるガスの量を増やすことができる。
【0142】
(イオン化装置の変形例)
図8は、イオン化装置の変形例を示している。ここに示すイオン化装置119は、ランプ133とEI装置134とを有する。EI装置134は、図3に示したEI装置34に代えて図1、図6、図7の分析装置3に用いられる。このEI装置134は、外部電極138aと、内部電極138bと、コレクタ電極140と、フィラメント137とを有する。符号139a,139bは引込み用電極を示している。内部電極138bの内部にイオン化領域が形成される。
【0143】
外部電極138aは、引込み用電極139aの側に側面のない直方体の箱状、すなわち角筒形状に形成されている。外部電極138aの各側面は、それぞれ、板状電極となっている。外部電極138aの内部は空間となっており、その空間内に内部電極138bが設けられている。外部電極138aのうち互いに対向する一対の側面に、試料導入用開口141a及び141bが設けられている。また、外部電極138aのうちの互いに対向する別の一対の側面に、電子通過用開口142a及び142bが設けられている。なお、これらの開口141a,141b,142a,142bは網状になっていても良い。また、外部電極138aは円筒形状であっても良い。
【0144】
測定対象であるガスは、試料導入用開口141a,141bを介して矢印Eで示すように外部電極138aの内部に導入される。導入されたがガス化されなかったガスは、試料導入用開口141a,141bを介して外部へ排出される。ガスは、電子通過用開口142a,142bを介して導入及び排出されることもある。
【0145】
ランプ133は、その光放射面が試料導入用開口141aに対向するように配置されている。ランプ133から試料導入用開口141aを通って内部電極138b内のイオン化領域へ真空紫外光が照射される。フィラメント137は、電子通過用開口142aに対向して配置されている。コレクタ電極140は、もう1つの電子通過用開口142bに対向して配置されている。フィラメント137から放出される電子は矢印Fで示すように電子通過用開口142aを通過して内部電極138b内のイオン化領域へ導入される。ガス分子に電子衝撃を与えることなくイオン化領域を通過した電子は、その後矢印Gで示すように、電子通過用開口142bを通ってコレクタ電極140に収集される。
【0146】
本変形例に係るイオン化装置119は以上のように構成されているので、図3(a)及び図3(b)に示したEI装置34を用いたイオン化装置と同様に、フィラメント137から放射された電子によってEIが行われ、ランプ133から放射された真空紫外光によってPIが行われる。また、EI装置134においては外部電極138aが板状電極によって形成されているので、図3(a)及び図3(b)に示した網状電極を用いたEI装置34に比べて、外部電極138aの面積を大きくできるので、真空紫外光の照射による外部電極138aからの2次電子の放出量を多くすることができる。
【0147】
(ガス分析装置の第4実施形態)
図12は、本発明に係るガス分析装置のさらに他の実施形態を示している。ここに示すガス分析装置は、図2に示した先の実施形態に改変を加えたものであり、具体的には、図2に示すガス分析装置からフィラメント37a、フィラメント37b、及びそれらに付随する電気回路を削除したものである。つまり、本実施形態は、通電によって電子を発生する電子発生手段であると共に、ランプ33Aからの光照射によって2次電子を発生する2次電子発生手段としてのフィラメント37a,37bを削除したものである。
【0148】
本実施形態において、EI法イオン化に基づいた測定を行う場合には、外部電極38a(V2)と内部電極38b(V1)との間をVacc=V2−V1<0の電位状態に設定する。そして、ランプ33Aから光が放射され、光照射を受けた外部電極38a、内部電極38b、場合によってはその他の構造物から2次電子が発生し、発生した2次電子がVacc<0によって加速されてイオン化領域R3へ進行し、その加速された電子がイオン化領域R3内でガス分子に衝突してガス成分が電子イオン化される。電子イオン化が行われると、親イオンと共にフラグメントイオンが生成される。2次電子のエネルギが小さければ発生するフラグメントが少ないので親イオンの強度が強くなる。2次電子のエネルギが大きければ発生するフラグメントが多いので親イオンの強度が弱くなる。
【0149】
他方、PI法イオン化に基づいた測定を行う場合には、外部電極38a(V2)と内部電極38b(V1)との間をVacc=V2−V1=0の電位状態か、又はVacc=V2−V1>0の電位状態に設定する。そして、ランプ33Aから光が放射され、イオン化領域R3内においてガス分子が光を受けて光イオン化される。このとき、光照射を受けた外部電極38a、内部電極38b、場合によってはその他の構造物から2次電子が発生するが、発生した2次電子はVacc=0によって加速されないか、又はVacc>0によってイオン化領域R3から離れる方向へ加速されてイオン化領域R3への進行を阻止又は抑制される。そのため、2次電子が発生しても電子イオン化は発生せず、光イオン化のみが行われる。光イオン化のみのイオン化により、フラグメントイオンを含まない親イオンのみの情報を得ることができる。
【0150】
(その他の実施形態)
以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はその実施形態に限定されるものでなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々に改変できる。
例えば、図1の実施形態では試料室R0を昇温脱離装置2によって形成し、図6の実施形態では試料室R0をTG−DTA装置52によって形成した。しかしながら、試料室R0は他の任意の熱処理機器によって形成することができる。また、図1の実施形態ではイオン分離手段として四重極フィルタ21を例示したが、その他の原理に基づいた任意のイオン分離機器を用いることもできる。
【0151】
図1の実施形態ではPI用ランプ33Aとして図4(a)に示すランプ33Aを用いたが、これに代えて、図4(b)に示すランプ33Bを用いることもできる。このランプ33Bを用いた場合も発生ガスのイオン強度を求めることができた。換言すれば、このランプ33Bを用いてPIによってガスを十分にイオン化できた。
【0152】
PIランプ33Aは発光源Pから長い筒35が延びており、出射光の広がり角度が上下の片側10°、両側20°程度に抑えられている。これに対し、ランプ33Bの筒35は短くなっており、出射光の広がり角度が比較的広くなっている。具体的には、上下の片側で17°、両側で34°程度の広がりをもっている。このように、筒35の長さを変えることにより、出射光の広がり角度を調節することができる。
【0153】
次に、図1の実施形態では、イオン化装置19内に1種類のPI用ランプ33Aを設けることにした。しかしながら、ランプの数は2個以上とすることができる。また、その場合、複数のランプが互いに異なる波長の光を放出するランプであることが望ましい。こうすれば、希望するエネルギ量の光を選択してガスをイオン化できる。
【0154】
以上の実施形態では、光放出手段であるランプ33A等からの光照射によって2次電子を発生する2次電子発生手段として図2の外部電極38a,内部電極38b,フィラメント37a,37bを例示したが、2次電子発生手段はそれらのような通電によって機能する要素に限られず、通電されることのない単なる金属部材であっても良い。例えば、外部電極38a、内部電極38b、フィラメント37a,37bを収容するケーシングが用いられる場合には、そのケーシングが2次電子発生手段となることもある。
【実施例】
【0155】
(実施例1)
図1のガス分析装置1において、
(1)トルエンとイソプロピルアルコールの混合液を試料Sとして試料室R0内の所定位置に配置し、
(2)キャリヤガスとしてHe(ヘリウム)ガスを導入し、
(3)図2のPI用ランプ33Aから10.2eVのエネルギの真空紫外光を図4(a)の広がりをもってガス搬送装置4のガス排出開口の前のイオン化領域R3に供給し、
(4)図2のフィラメント37a及び37bに通電を行わず(すなわち、電子を発生させず)、
(5)外部電極38aと内部電極38bとの間に電子加速電圧Vaccとして、−15V、0V、+15Vの3種類を印加した。なお、電子加速電圧Vaccにおける−(マイナス)電位は図2において真空紫外光により発生した2次電子を外部電極38aから内部電極38bへ向かう方向へ加速する極性であり、+(プラス)電位は図2において真空紫外光により発生した2次電子を内部電極38bから外部電極38aに向かう方向へ加速する極性である。
【0156】
以上の条件の下、図1の試料Sの温度を徐々に昇温させながら試料Sから発生するガスのイオン強度を測定した。測定結果を画面表示したところ、図9に示す表示が得られた。図9(a)は電子加速電圧Vacc =−15Vのときの測定結果であり、図9(b)は電子加速電圧Vacc =0Vのときの測定結果であり、図9(c)は電子加速電圧Vacc =+15Vのときの測定結果である。
【0157】
この実験により、次のことが分かる。電子加速電圧がマイナスであると(図9(a))、10.2eVの真空紫外光ではイオン化しない分子であるHOと思われる質量電荷比(m/e)=18の信号を観測した。このことは、電子加速電圧が−(マイナス)であると、フィラメントから電子を発生させていないにもかかわらず、EIが生じたことが分かる。また、図9(b)及び図9(c)から分かるように、電子加速電圧が0又は+(プラス)であれば、EIが生じることなく、PIのみによってイオン化が行われたことが分かる。
【0158】
(実施例2)
図1のガス分析装置1において、
(1)揮発性の有機溶媒であるトルエンを試料Sとして試料室R0内の所定位置に配置し、
(2)キャリヤガスとしてHe(ヘリウム)ガスを導入し、
(3)図2のPI用ランプ33Aから10.2eVのエネルギの真空紫外光を図4(a)の広がりをもってガス搬送装置4のガス排出開口の前のイオン化領域R3に供給し、
(4)図2のフィラメント37a又は37bに通電を行わず(すなわち、電子を発生させず)、
(5)外部電極38aと内部電極38bとの間に電子加速電圧を印加しない(Vacc=0V)ことにした。
【0159】
以上の条件の下、試料Sを昇温させることなく(トルエンは昇温させなくてもガスを発生する)、試料Sから発生するガスのイオン強度を測定した。本実施例では、PI用ランプ33Aから放出された光が電極38a等といった構造物に衝突することによりその構造物から2次電子が発生すると思われるが、電子加速電圧Vacc が印加されないのでEIは起こらないと考えられる。測定結果を画面表示したところ、図10(a)に示す表示が得られた。
【0160】
図10(b)は、EI法に基づいた測定に対応するライブラリデータを示している。つまり、図10(b)のマススペクトルは、図2において、(1)PI用ランプ33AをOFFとし、(2)フィラメント37a,37bへ通電して電子を発生させ、(3)電子を外部電球38aから内部電極38bに向かう方向へ加速する所定値の電子加速電圧を印加した条件下で得られる測定結果に相当している。
【0161】
この実験により、次のことが分かる。図10(a)のマススペクトルにおいて質量数92が親イオンである。また、図10(a)においてフラグメントイオンが観測できないことから、試料はPIのみによってイオン化されたことが分かる。
【0162】
(実施例3)
本発明者は、トルエン以外の有機溶媒であるヘキサン、ベンゼン、アセトン、キシレン、エタノールの各物質に対して実施例2と同じ発生ガス分析を行った。その結果、PI用ランプ33AをONとして、且つ電子加速電圧Vaccを印加しないか又は+電位状態(Vacc>0)にすれば、親イオンのみが発生し、フラグメントイオンは発生しないことを確認した。
【0163】
(実施例4)
図1のガス分析装置1において、ポリメチルメタクリレートを試料Sとして2つ用意し、それらを個々に試料室R0内の所定位置に配置して、EI法に基づく測定とPI法に基づく測定を同じ測定条件で個別に行った。
【0164】
EI法に基づいた測定は次の条件下で行った。
(1)図2のPI用ランプ33AをOFFとしてPIを行わず、
(2)フィラメント37a又は37bをONとして電子を発生させ、
(3)電極38a,38bへマイナスの電子加速電圧(Vacc<0)を印加した。
【0165】
また、PI法に基づいた測定は次の条件下で行った。
(1)図2のPI用ランプをONとしてガスへ向けて光を放射し、
(2)フィラメント37a及び37bをOFFとして電子の発生を停止し、
(3)電極38a,38b間の電子加速電圧をVacc=0とした。
【0166】
以上の条件の下、試料Sの温度を徐々に昇温させながら試料Sから発生するガスのイオン強度を測定した。測定結果を画面表示したところ、図11に示す表示が得られた。図11(A)はEI法のみに基づいた測定の結果として得られた総イオン強度線図を示すグラフであり、図11(B)はEI法のみに基づいた測定の結果として得られたマススペクトルを示すグラフである。また、図11(C)はPI法のみに基づいた測定の結果として得られた総イオン強度線図を示すグラフであり、図11(D)はPI法のみに基づいた測定の結果として得られたマススペクトルを示すグラフである。
【0167】
この実験により、次のことが分かる。図11(D)のマススペクトルから分かるように、PI用ランプ33A(すなわち、広がりをもって進行する真空紫外光)を用いたPIによりガスを十分にイオン化できたことが分かる。また、図11(D)のマススペクトルはPIに基づくものなので得られているピークは発生ガスであるメチルメタクリレート(MMA)のピークであり、親イオンのピークである。図11(B)のマススペクトルはEIに基づくものであり、フラグメントイオンを含んでいることが分かる。また、質量電荷比(m/e)=100の親イオンの強度が非常に低いことから、解裂の程度が大きいことが理解される。
【図面の簡単な説明】
【0168】
【図1】本発明に係るガス分析装置の一実施形態を示す断面図及び電気ブロック図である。
【図2】図1の要部の構成及びそれに付随する回路構成を示す図である。
【図3】イオン化装置の一例の外観を示す図であり、(a)は上面図であり、(b)は側面図である。
【図4】PIで用いるランプの光放出角度を示す図である。
【図5】本発明に係るガス分析装置を用いた測定結果の画像表示の一例を示す図である。
【図6】本発明に係るガス分析装置の他の実施形態を示す部分斜視図である。
【図7】本発明に係るガス分析装置のさらに他の実施形態を示す部分斜視図である。
【図8】イオン化装置の他の一例を示す斜視図である。
【図9】本発明に係るガス分析装置を用いた実験の結果を示すグラフである。
【図10】本発明に係るガス分析装置を用いた他の実験の結果を示すグラフである。
【図11】本発明に係るガス分析装置を用いた測定結果の画像表示の他の一例を示す図である。
【図12】本発明に係るガス分析装置のさらに他の実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0169】
1,51,71.ガス分析装置、 2.昇温脱離装置(ガス発生装置)、
3.分析装置、 4.ガス搬送装置、 6.ケーシング、 7.加熱炉、 8.試料管、
9.ガス供給源、 11.配管、 18.ケーシング、
19,119.イオン化装置(イオン化手段)、
21.四重極フィルタ(イオン分離手段)、
22.イオン検出装置(イオン検出手段)、 24.エレクトロメータ、
26.演算部、 29.電極、 31.イオン偏向器、 32.電子増倍管、
33A,33B.PI用ランプ(光放出手段)、 34,134.EI装置、
35.筒、 37a,37b,137.フィラメント(電子発生手段)、
38a,138a.外部電極(電極、2次電子発生手段)、
38b,138b.内部電極(電極、2次電子発生手段)、
39a,39b,139a,139b.引込み用電極、 41.内管、 42.外管、
46.マスフローメータ(流量調整器)、 52.TG−DTA装置(ガス発生装置)、
54.キャピラリチューブ(ガス搬送手段)、 56.ケーシング、
58.天秤ビーム、 59.ガス供給源、 61.配管、 72.絞り部材、
P.発光源、 Q.発光分布、 R0.試料室、 R1.分析室、 R3.イオン化領域


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の指向性がレーザ光よりも低い光をイオン化領域へ向けて放射する光放出手段と、
該光放出手段によってイオン化されたガスのイオンを質量電荷比に従って分離するイオン分離手段と、
該イオン分離手段によって分離されたイオンを検出するイオン検出手段と、
を有することを特徴とするガス分析装置。
【請求項2】
請求項1記載のガス分析装置において、ガスをイオン化するための電子を発生する電子発生手段を有することを特徴とするガス分析装置。
【請求項3】
請求項2記載のガス分析装置において、
前記電子発生手段は、前記イオン化領域へ向かう電子を通電によって発生する電子発生手段、及び前記イオン化領域へ向かう2次電子を前記光放出手段からの光照射によって発生する2次電子発生手段の少なくともいずれか一方である
ことを特徴とするガス分析装置。
【請求項4】
請求項1記載のガス分析装置において、
前記光放出手段の光放出部、前記イオン分離手段、及び前記イオン検出手段のイオン受取り部を収容した分析室と、
試料が置かれる試料室と、
前記試料室と前記分析室との間に設けられ前記試料で発生したガスを前記分析室へ搬送するガス搬送手段と、
を有することを特徴とするガス分析装置。
【請求項5】
請求項2又は請求項3記載のガス分析装置において、
前記光放出手段の光放出部、前記イオン分離手段、及び前記イオン検出手段のイオン受取り部を収容した分析室と、
試料が置かれる試料室と、
前記試料室と前記分析室との間に設けられ前記試料で発生したガスを前記分析室へ搬送するガス搬送手段と、
を有することを特徴とするガス分析装置。
【請求項6】
請求項4又は請求項5記載のガス分析装置において、前記試料を加熱する加熱手段を有することを特徴とするガス分析装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1つに記載のガス分析装置において、電子を前記イオン化領域から離す方向へ加速する電位状態又はゼロ電位状態をとることができる電極を有することを特徴とするガス分析装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1つに記載のガス分析装置において、電子を前記イオン化領域へ向けて加速する電位状態をとることができる電極を有することを特徴とするガス分析装置。
【請求項9】
請求項2を引用する請求項7又は請求項2を引用する請求項8記載のガス分析装置において、
前記電子発生手段及び前記電極は光を通過させることができる
ことを特徴とするガス分析装置。
【請求項10】
請求項9記載のガス分析装置において、
前記電子発生手段は線材から成るフィラメントであり、
前記電極は網状電極と、螺旋形状電極と、板状電極の一部に光を透過できる開口部を設けた電極との中から選択される2つの電極の組み合わせを有する
ことを特徴とするガス分析装置。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか1つに記載のガス分析装置において、前記光放出手段は紫外光又は真空紫外光を放射することを特徴とするガス分析装置。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれか1つに記載のガス分析装置において、
前記光放出手段はガスを封止して成る放電管であり、該ガスは重水素ガス、クリプトンガス、又はアルゴンガスであることを特徴とするガス分析装置。
【請求項13】
請求項4から請求項12のいずれか1つに記載のガス分析装置において、
前記試料室内は高い圧力であり、前記分析室内は低い圧力であり、
前記ガス搬送手段は、
ガスを搬送する内管と、
該内管を覆う外管と、
前記内管と前記外管とによって形成される中間室の圧力を前記試料室内の圧力よりも低く前記分析室内の圧力よりも高く設定する圧力調整手段とを有する
ことを特徴とするガス分析装置。
【請求項14】
請求項13記載のガス分析装置において、
前記内管及び前記外管の前記試料側の端部はオリフィスを有し、前記内管及び前記外管の前記イオン化手段側の端部は開口を有する
ことを特徴とするガス分析装置。
【請求項15】
請求項14記載のガス分析装置において、
ガス流の断面積を試料室側から分析室側へ向けて小さく絞る部材を前記開口の近傍に設けた
ことを特徴とするガス分析装置。
【請求項16】
請求項13から請求項15のいずれか1つに記載のガス分析装置において、
前記圧力調整手段は、前記中間室を排気する排気ポンプと、その排気ポンプの前に設けられた流量調整器とを有する
ことを特徴とするガス分析装置。
【請求項17】
請求項1記載のガス分析装置において、
通電によって電子を発生する電子発生手段と、
電子を加速する電極と、
前記光放出手段、前記電子発生手段、及び前記電極の動作を制御する制御手段を有し、
該制御手段は、(1)光イオン化モードと(2)電子イオン化モードとを選択的に実施し、
前記光イオン化モードでは、
前記光放出手段は光放出状態に、
前記電子発生手段は電子を発生しない電位状態に、且つ
前記電極はゼロ電位状態又は電子を前記イオン化領域から離す方向へ加速する電位状態に設定され、
前記電子イオン化モードでは、
前記光放出手段は光を放出しない状態に、
前記電子発生手段は電子を発生する電位状態に、且つ
前記電極は電子を前記イオン化領域へ向けて加速する電位状態に設定される
ことを特徴とするガス分析装置。
【請求項18】
請求項17記載のガス分析装置において、
前記制御手段は、(1)前記光イオン化モードと(2)前記電子イオン化モードとを時間分割で交互に実施する
ことを特徴とするガス分析装置。
【請求項19】
請求項1記載のガス分析装置において、
通電によって電子を発生する電子発生手段と、
電子を加速する電極と、
前記光放出手段、前記電子発生手段、及び前記電極の動作を制御する制御手段を有し、
該制御手段は、(1)光イオン化モードと(2)電子イオン化モードと(3)光・電子イオン化モードとを選択的に実施し、
前記光イオン化モードでは、
前記光放出手段は光放出状態に、
前記電子発生手段は電子を発生しない電位状態に、且つ
前記電極はゼロ電位状態又は電子を前記イオン化領域から離す方向へ加速する電位状態に設定され、
前記電子イオン化モードでは、
前記光放出手段は光を放出しない状態に、
前記電子発生手段は電子を発生する電位状態、且つ
前記電極は電子を前記イオン化領域へ向けて加速する電位状態に設定され、
前記光・電子イオン化モードでは、
前記光放出手段は光放出状態に、
前記電子発生手段は電子を発生しない電位状態に、且つ
前記電極は電子を前記イオン化領域へ向けて加速する電位状態に設定される
ことを特徴とするガス分析装置。
【請求項20】
請求項19記載のガス分析装置において、
前記制御手段は、(1)前記光イオン化モードと(2)前記電子イオン化モードと(3)前記光・電子イオン化モードとを時間分割で交互に実施する
ことを特徴とするガス分析装置。
【請求項21】
請求項1記載のガス分析装置において、
通電によって電子を発生する電子発生手段と、
電子を加速する電極と、
前記光放出手段、前記電子発生手段、及び前記電極の動作を制御する制御手段を有し、
該制御手段は、(1)光イオン化モードと(2)光・電子イオン化モードとを選択的に実施し、
前記光イオン化モードでは、
前記光放出手段は光放出状態に、
前記電子発生手段は電子を発生しない電位状態に、且つ
前記電極はゼロ電位状態又は電子を前記イオン化領域から離す方向へ加速する電位状態に設定され、
前記光・電子イオン化モードでは、
前記光放出手段は光放出状態に、
前記電子発生手段は電子を発生しない電位状態に、且つ
前記電極は電子を前記イオン化領域へ向けて加速する電位状態に設定される
ことを特徴とするガス分析装置。
【請求項22】
請求項21記載のガス分析装置において、
前記制御手段は、(1)前記光イオン化モードと(2)前記光・電子イオン化モードとを時間分割で交互に実施する
ことを特徴とするガス分析装置。
【請求項23】
請求項21又は請求項22記載のガス分析装置において、
前記イオン検出手段の出力信号に基づいてイオン強度を演算する演算手段をさらに有し、
該演算手段は、前記光・電子イオン化モード時における前記イオン検出手段の出力信号から前記光イオン化モード時における前記イオン検出手段の出力信号の差分をとる演算を行う
ことを特徴とするガス分析装置。
【請求項24】
請求項1記載のガス分析装置において、
通電によって電子を発生する電子発生手段と、
電子を加速する電極と、
前記光放出手段、前記電子発生手段、及び前記電極の動作を制御する制御手段を有し、
該制御手段は、(1)電子イオン化モードと(2)光・電子イオン化モードとを選択的に実施し、
前記電子イオン化モードでは、
前記光放出手段は光を放出しない状態に、
前記電子発生手段は電子を発生する電位状態に、且つ
前記電極は電子を前記イオン化領域へ向けて加速する電位状態に設定され、
前記光・電子イオン化モードでは、
前記光放出手段は光放出状態に、
前記電子発生手段は電子を発生しない電位状態に、且つ
前記電極は電子を前記イオン化領域へ向けて加速する電位状態に設定される
ことを特徴とするガス分析装置。
【請求項25】
請求項24記載のガス分析装置において、
前記制御手段は、(1)前記電子イオン化モードと(2)前記光・電子イオン化モードとを時間分割で交互に実施する
ことを特徴とするガス分析装置。
【請求項26】
請求項24又は請求項25記載のガス分析装置において、
前記イオン検出手段の出力信号に基づいてイオン強度を演算する演算手段をさらに有し、
該演算手段は、前記光・電子イオン化モード時における前記イオン検出手段の出力信号から前記電子イオン化モード時における前記イオン検出手段の出力信号の差分をとる演算を行う
ことを特徴とするガス分析装置。
【請求項27】
請求項1から請求項26のいずれか1つに記載のガス分析装置において、
前記光放出手段に対して波長の異なる光を放射する他の光放出手段を前記光放出手段に加えて有し、
前記イオン化領域内にあるガスを前記光放出手段又は前記他の光放出手段から放射された光によってイオン化する
ことを特徴とするガス分析装置。
【請求項28】
請求項1記載のガス分析装置において、
それ自身が前記光放出手段からの光照射により2次電子を発生する電極を有し、
通電によって電子を発生する電子発生手段は前記光放出手段と前記イオン化領域との間には設けられず、
前記電極は、電子を前記イオン化領域から離す方向へ加速する電位状態か、ゼロ電位状態か、又は電子を前記イオン化領域へ向けて加速する電位状態をとることができる電極である
ことを特徴とするガス分析装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−248333(P2007−248333A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−73916(P2006−73916)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】