説明

ガス分解素子

【課題】多くの種類の悪臭ガスを、エネルギー効率よく、迅速に分解することができるガス分解素子を提供する。
【解決手段】触媒微粒子11を含む、酸化側の触媒電極6と、触媒電極と対をなす対向電極7と、触媒電極と対向電極とに挟まれた電解質11とを備え、電解質が非水系電解質であることを特徴とし、悪臭ガスであるアセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、エタノール、メタノールあるいはベンゼン、トルエンなどを分解、除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分解素子に関し、より具体的には、臭気ガスを電気化学反応によって分解し、無臭化するためのガス分解素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気中に含まれる臭気成分を電気エネルギーによって分解するために、水素イオン導電性の電解質層をはさむ一方のアノード電極にガス導入経路を設け、アノード−カソード電極間に電圧を印加することで臭気ガスを分解する臭気除去装置の提案がなされている(特許文献1)。上記の臭気除去装置によれば、両電極間に電圧を印加して、アノード反応によって、アセトアルデヒド等の臭気ガスを分解して無臭化することができる。この臭気除去装置において、電解質として、硫酸を用いた例や、水素イオン(プロトン)伝導性のイオン伝導性樹脂(固体電解質)を用いた例が、開示されている。ここで、電極は、多孔質炭素基板上に、炭素粉末に担持された白金、ルテニウム、イリジウム等の触媒微粒子を塗布し、焼成することによって形成されている。これによって、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、エタノール、メタノールなどの悪臭ガスを分解することができる。
【0003】
上記の硫酸は周知の電解液であり、またイオン伝導性樹脂は、「パーフルオロカーボン系(PFC系)陽イオン交換性ポリマー」の一般名で呼ばれる周知の高分子樹脂である。イオン交換基にスルホン酸基やカルボン酸基を用いたPFC系ポリマー膜として、デュポン社製の商品名(登録商標)「ナフィオン」等が知られている。これらPFC系ポリマーは、湿分がないとイオン導電性が失われることから、湿分は必須である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2701923号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の場合、電解質は、硫酸またはPFC系ポリマーを用いて、両電極間に0.8Vの電圧を印加する。この程度の電圧を電極間に印加することによって、上記ガス分解素子において、電解質の硫酸およびPFC系ポリマーは安定状態を維持し、悪臭ガスのアセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、エタノールおよびメタノールを分解することができる。エタノールの分解電圧は1.3Vであり、水の分解電圧1.23Vよりも高いが、両電極間に0.8Vの電圧印加することによって分解される。どの程度の電圧をアノード−カソード間に印加すれば対象ガスが分解するかは、対象ガスの種類によって変わり、電極や電解質の種類にも依存し、未だ完全に解明されていない。
【0006】
上記の臭気除去装置によるエタノールは、その分解電圧は水より高いが、両電極間の電圧を0.8Vとしても分解するため、湿分必須のPFC系ポリマーや水系電解質の硫酸に影響を及ぼすことなく分解することができる。しかし、悪臭ガスのなかには、ベンゼンやトルエンなど芳香族化合物の気体のように分解電圧がより高いものがあり、これらの悪臭ガスの分解には、より高い電圧を電極間に印加しなければならない場合が生じると考えられる。
【0007】
PFC系ポリマーは、水系電解質の範疇に入るとは言いがたいが、上述のように、湿分がないとイオン導電性が失われることから、水の分解電圧以上の電圧を印加した場合、何らかの問題が生じるおそれがある。たとえば、芳香族化合物を含む多くの種類の悪臭ガスに対して、PFC系ポリマーを用い、両電極間に水の分解電圧以上の電圧を印加して分解を迅速に行うことに支障をきたすおそれがある。たとえば、PFC系ポリマーの電解質の場合、トルエン等の芳香族化合物を迅速に分解するために高い電圧を印加しなければならないにも拘わらず、長期間の使用の場合や乾燥環境では、アノード−カソード間の電圧を所定値以上高くできないなどの制約を受ける可能性がある。また、水系電解質や湿分が必須の電解質の場合、水の分解電圧以上の電圧を印加すると、投入した電気エネルギーがこれら水の分解に用いられ、エネルギー効率が低下し、また分解速度の低下をまねくことは避けられない。このような問題は、迅速な悪臭除去や高いエネルギー効率を確保する上で望ましくないことは明らかである。本発明は、多くの種類の悪臭ガスを、エネルギー効率よく、迅速に分解することができるガス分解素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のガス分解素子は、触媒微粒子を含む、酸化側の触媒電極と、触媒電極と対をなす対向電極と、触媒電極と対向電極とに挟まれた電解質とを備え、電解質が非水系電解質であることを特徴とする。
【0009】
上記の構成によれば、水の分解電圧を超える電圧に対して安定な非水系電解質を電解質に用いてMEA(Membrane Electrode Assembly)を形成するので、アノード−カソード間の印加電圧を拡大でき、多くの種類の臭気ガスを効率よく確実に分解することができる。なお、この場合、本ガス分解素子に配置される電圧源の出力電圧は、水の分解電圧より高いことは必要ない。水の分解電圧より低い出力電圧の電圧源を用いて、非水系電解質により安心して稼働させることができるからである。このガス分解素子では、水の分解電圧とは関係なく、印加する電圧を高めることで、ガス分解素子のガス分解速度を増大させることができる。また、対向電極層は、触媒機能をもつ金属微粒子を担持させた電極層としてもよいし、そのような触媒微粒子を持たない電極層としてもよい。
【0010】
上記の電解質層を、(1)常温で作動するイオン液体、または(2)加熱して作動させる、CsHSO、溶融塩、もしくは固体酸化物電解質、とすることができる。これによって、ガス分解素子の使用環境、要求される性能、要求される経済性などに応じて、電解質の選択肢を拡大することができる。たとえばCsHSOは100℃程度の低温で作動できるので、経済性と大きな分解能力が求められる用途に適している。イオン液体は、経済性よりも小型化、低電力などが重視される用途に適している。また、固体酸化物電解質は、300℃以上の高温に加熱することが必要であるが、大きな分解能力、耐久性、使用実績、経済性等が重視される用途に向いている。
【0011】
上記の電解質を、イオン液体を含む固体状膜とすることができる。これによって、MEAの構造を簡単化でき、また、液漏れなどに配慮しなくてよくなり、安全性や信頼性を向上することができる。イオン液体を含む固体状膜としては、イオン液体に樹脂原料を溶かして重合させることによって形成されたイオン液体を含有する高分子膜などがある。
【0012】
1.5V以上の電圧を印加することが可能な電圧源を備えることができる。これによって、分解電圧の高低によらず、多くの種類の悪臭ガスを迅速に除害できる。
【0013】
上記の触媒電極/対向電極間に、1.5V以上の電圧を印加することが可能な電圧源を備えることができる。これによって、芳香族化合物などの悪臭ガスを、迅速に分解することができる。とくに迅速な悪臭ガスの分解を求められる場合には、2.0V以上の電圧源を備えることが望ましい。なお、電圧源によって触媒電極/対向電極間に1.5V以上の電圧を印加した状態において、必ずしも、触媒電極/対向電極間に真に1.5V以上かからなくてもよい。上記の電圧の印加は、1.5V以上の出力電圧を持つ電圧源によって、触媒電極/対向電極間に電圧を印加するという操作をさすと解するのが妥当である。このような理解は、この分野では周知である。ガス分解素子では、電解質の電気抵抗、触媒電極/電解質/対向電極の各界面における電気抵抗は、大きく変動する。同じ製品であっても、製造機会、ロット間で変動する。電圧源の公称電圧が1.5V以上あっても、電圧印加したとき、触媒電極/対向電極間に真に印加される電圧は、各種の要因により、低くなる場合が多い。
【0014】
上記の触媒電極における触媒微粒子と接する導電性材料を、非共有結合の炭素材としないようにすることができる。これによって、昇温状態で、外部電圧を印加したとき、非共有結合性の炭素が分解されて一酸化炭素などのガスを発生するのを防止することができる。
【0015】
上記の触媒電極の主構成材料の一つであって、ガス分解反応で生じる電子を導通させるために前記触媒微粒子と接する導電性材料を、金属および/または導電性ダイヤモンドに限ることができる。これによって、一酸化炭素の発生のおそれなく、既存の材料を用いて、効率よく悪臭成分ガスを分解することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のガス分解素子によれば、多くの種類の悪臭ガスを、エネルギー効率よく、迅速に分解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態1におけるガス分解素子の積層構造の概要図である。
【図2】図1に示すガス分解素子の具体例を示す断面図である。
【図3】図1に示すガス分解素子の触媒電極と電解質との界面付近を示す断面図である。
【図4】図1に示すガス分解素子とは別のガス分解素子の触媒電極と電解質との界面付近を示す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態2のガス分解素子の根拠を示す実験結果を示す図である。
【図6】図5における実験と同じガス分解素子を用いたアセトアルデヒドの分解速度に及ぼす印加電圧の影響を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態2のガス分解素子における触媒電極の導電性基体を示す図であり、(a)は金属繊維等の導電性基体を示し、(b)はカーボン繊維または金属繊維等に、導電性ダイヤモンド薄膜を被覆した状態を示す、図である。
【図8】本発明の実施の形態2のガス分解素子における触媒担持粉末を示す図であり、(a)は金属粉末に触媒微粒子を担持させたもの、(b)は非共有結合の炭素粉末、金属粉末、または絶縁粉末に導電性ダイヤモンド被覆処理を施した粉末に触媒微粒子を担持させたもの、を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1におけるガス分解素子10のMEA構造の模式図である。また、図2は、このMEA構造を用いた具体的なガス分解素子10を示す図である。このガス分解素子10のMEA構造は、高いイオン伝導性を有するイオン液体に樹脂原料のビニルモノマーなどを溶かして重合させることによって形成したイオン液体3を含有する高分子膜の電解質層(固体電解質)15を挟んで、触媒電極層6と対向電極層7とが配置されている。触媒電極層6および対向電極層7は、ともに白金等の触媒微粒子を含んでいる。触媒微粒子は、導電性の粉末(担体)に担持された形態で、上記の両電極に含まれていてもよいし、担体なしに、電極を形成する導電性基体である電極シートにめっき等によって、直接、付着(担持)させてもよい。触媒電極層6には、分解対象の臭気ガスが導入され、また分解反応(アノード反応または酸化反応)後の臭気ガスが排出される、多孔質のガス拡散層8が設けられる。多孔質のガス拡散層8は、住友電気工業株式会社製の多孔質金属であるセルメット(登録商標)などの導電性のものを用いるのがよい。また対向電極層7にも、酸素をカソード反応に与らせるために空気を導入して、カソード反応(還元反応)の結果、生じる水分を排出するために、やはりセルメットなどによる多孔質のガス拡散層9が設けられる。
【0019】
上記のガス分解素子10の特徴は、イオン液体3で電解質層15を形成した点にある。イオン液体は、イオン導電性が高く、従来のガス分解素子と異なり、水の分解電圧以上の電圧を印加してトルエンやベンゼンなどの安定な分子も効率よく分解することができる。その理由は、トルエンやベンゼン等の芳香族化合物は、水よりも大きい分解電圧Vdをもつが、イオン液体は、上記の分解電圧に対応する電位窓の酸化側もまた還元側もより外側まで安定なので、ガス分解素子のアノード−カソード間にVd以上の電圧を印加しても、安定状態を維持しながら、トルエンやベンゼンを分解することができる。イオン液体は、固体薄膜状態のものが好ましい。
【0020】
イオン液体は、リチウム電池、燃料電池等の電解質への適用が検討されているが、MEA構造のガス分解素子について適用が検討されたことは知られていない。それは、後で示すように(図6参照)、PFC系ポリマー(ナフィオン)を用いれば、水の分解電圧を超える電圧をアノード−カソード間に印加しても、見かけ上、不都合なく悪臭ガスの分解を遂行できるからとおもわれる。これまで提案実績のあるPFC系ポリマーを電解質に用いれば、2V程度の高い電圧を印加しても、問題なく悪臭ガスを分解することはできる。しかし、長時間の稼動や乾燥環境等では、PFC系ポリマーの電解質への使用は、次のような問題を生じると考えられる。すなわち、水の分解電圧を超える電圧の印加は、PFC系ポリマーに含まれる湿分の分解の際の無駄なエネルギー消費、および本来、ガス分解に使用されるはずであった電気エネルギーの湿分分解への使用によるガスの分解速度の低下をもたらす。
【0021】
上記の問題は、PFC系ポリマーを用いたガス分解素子を単に製造したり、または使用したりするだけでは知りえない問題である。PFC系ポリマーのガス分解素子への使用において、図6に示すように、たとえ2V程度の電圧をアノード−カソード間に印加しても、印加電圧に応じた正常とおもえるガス分解が進行するからである。本発明者らは、しかしながら、PFC系ポリマーのイオン導電性発現の原理、長時間の連続使用において生じる問題の可能性を洞察した結果、上記のようなイオン液体の電解質への適用に想到するにいたった。次に図1および図2のガス分解素子10の各部分について説明する。
【0022】
(1)電解質15
電解質15を構成するイオン液体3は、低温溶融塩または室温溶融塩とも呼ばれる塩である。イオン性液体に明確な定義はないが、一般的に蒸気圧が殆どゼロで、難燃性であり、イオン性であるが低粘性で高い分解電圧を有する液体の塩を称している。典型的なものとして、カチオンとアニオンとに分けて示せば、次のものが代表例である。ただし、ここにあげていないものであってもよい。
カチオン:TMPA(トリメチルプロピルアンモニウム)、TMMMA(トリメチルメトキシメチルアンモニウム)、TMPhA(トリメチルフェニールアンモニウム)、TMHA(トリメチルヘキシルアンモニウム)、EMI(1エチル3メチルイミダゾリウム)、TES(トリエチルスルフォニウム)、BP(ブチルピリジニウム)、BMI(1ブチル3メチルイミダゾール)などの内から選ばれる1種類以上でなる。
アニオン:TFSI(トリフルオロメタンスルフォニルイミド)、FSI(フルオロスルフォニルイミド)、TSAC(トリフルオロスルフォニルアセチルイミド)、TFSM(トリフルオロメタンスルフォニルメチル)、TfO(トリフルオロメタンサルフェート)AlCl4(クロロアルミネート)、BF4(テトラフルオロボレート)、PF6(ヘキサフルオロフォスフェート)、F(フルオライド)、Cl(クロライド)、I(アイオダイド)、Br(ブロマイド)などの内より選ばれた1種類以上でなる。
【0023】
上記のカチオンとアニオンとの組み合わせの、入手容易なイオン液体によって、融点が低く、分解電圧が高く(電圧に安定)、イオン伝導性の高い電解質を得ることができる。たとえば、EMI+TFSI-はI+/I-に対して−2.1V(Li+/Li-に対して+1.1V)で還元され、非常に安定である。また、EMI+TFSI-、TMHA+Tf2N-のサイクリックボルタモグラムの測定では、電位窓は−3.0Vから+2.0V程度まであり、水に対する電位窓よりも非常に大きく安定である。このため、イオン液体を電解質に用いたガス分解素子は、たとえばトルエンの分解電圧2.5Vを少し超える電圧を印加しても、安定に機能することができる。当然のことであるが、分解電圧1.3Vのエタノール、分解電圧1.2Vのアセトアルデヒドなどは問題なく分解することができる。
【0024】
(2)イオン液体のゲル化
図1および図2の電解質層15は、イオン液体を含む高分子膜であってイオン導電性を備える。イオン液体を含む高分子膜は、たとえばイオン液体にビニルモノマーを溶かし、イオン液体のなかでラジカル重合を進行させることによって得ることができる。このとき高分子網目の中にイオン液体が閉じ込められ、イオン液体のイオン導電性が確保された状態が得られる。これが、上記イオン液体をゲル化した固体状膜である。ビニルモノマーにジビニルモノマーを加えて網目高分子を合成してもよく、またビニルモノマー、ジビニルモノマーに限らず、その他、重合によって網目高分子内にイオン液体を閉じ込め、イオン液体のイオン導電性を維持できる高分子であれば、どのような高分子であってもよい。
【0025】
(3)電極および触媒微粒子
触媒電極層6または触媒を含む対向電極7を構成する導電性基体としては、導電性を有し、かつ触媒微粒子を担持させることができる、層状の基体を用いることができる。たとえばニッケル細線、ニオビウム細線などを繊維状に加工した金属繊維からなる多孔質シート、セルメット等の金属多孔体(キャストされて多孔質とされた金属)、焼結金属、またはカーボンペーパーやカーボンフェルトなどのカーボン繊維を用いることができる。これら多孔質シートは、多孔質であるため、触媒微粒子を、直接、担持させることができるので、別に粉末等の担体を用意する必要がない。「粉末」の語は、製品の分類名称でもあるが、製品の分類名称から離れて触媒微粒子より確実に大きいサイズの粒子体という意味でも用いる。
【0026】
上記の金属繊維、セルメット等からなる多孔質シートは、この後で説明するように、常温より高温で、1.5V以上の電圧を触媒電極と対向電極間に印加してガス分解をはかる場合、一酸化炭素の発生を防止する上で好ましい。しかし、常温より高温にすることがなく、1.5V未満の電圧を両電極間に印加する場合には、一酸化炭素が発生するおそれがないので、非共有結合のカーボンペーパー、カーボンフェルト等のカーボン繊維からなる多孔質シートを用いてもよい。これらカーボン繊維からなる多孔質シートは、ガス分解反応によって発生するプロトンを含む強酸性雰囲気に対する耐性に優れている。
【0027】
触媒微粒子を含む導電性基体には、次のような構造を採用することができる。(1)図3に示すように、上記の多孔質の導電性基体6dの表面に、直接、触媒微粒子11を担持させる。導電性基体6dは、金属繊維、セルメット等でも、カーボン繊維でもよい。
(2)図4に示すように、触媒微粒子11を、たとえばニッケル、コバルト、銀、モリブデン等の導電性粉末(担体)21dの表面に担持させたものを、プロトン透過性をもつバインダー樹脂中に分散させ、導電性基体6dの表面に配設したもの、を用いることができる。粉末は上記の金属粉末のほかに、カーボンブラック、アセチレンブラックなどの導電性炭素粉末21dであってもよい。この導電性炭素粉末21dを担体として、当該担体に触媒微粒子11を担持させて、上記バインダー樹脂中に分散させて、導電性基体6dの表面に配設してもよい。
【0028】
上記の(1)の触媒電極層6(「触媒を含む対向電極7」も含まれるが、簡単化のために省略する)は、たとえば触媒微粒子11を構成する金属のイオンを含む溶液中に、導電性基体6dを浸漬した状態で、還元剤を用いて金属イオンを還元させて、当該金属から形成される触媒微粒子11を当該導電性基体6dに析出させる。上述のように導電性基体に多孔質シートを用いた場合には、多孔質の孔の内表面にも、触媒微粒子は析出する。このような析出において、触媒微粒子は導電性基体に担持される。
【0029】
上記の(2)の触媒電極層は、次のように形成される。たとえば、ニッケル、銀等の金属粉末21d、カーボンブラック等の導電性炭素粉末21dを準備する。そして、上記と同様に、これら導電性粉末21dを、触媒微粒子を形成する金属のイオンを含む溶液中に浸漬して、還元剤を用いて、当該導電性粉末の表面に金属を微粒子状に析出させる。この触媒担持粉末21d,11を、イオン透過性を有するバインダー樹脂の液中に配合して塗布液を調製した後、その塗布液を導電性基体の表面に塗布し、乾燥させて、上記の担体粉末が分散されたバインダー樹脂の膜を形成する。上記(2)の触媒電極層においては、導電性基体として、上述のように、ニッケル繊維、ニオビウム繊維等の多孔質の金属繊維、セルメット等の金属多孔体、焼結金属、カーボンペーパー等のカーボン繊維等を用い、かつ上記バインダー樹脂の膜は、電解質と接するように積層されている。
【0030】
上記の積層状態においては、多孔質の導電性基体によって、触媒微粒子と臭気成分との接触を維持しながら、触媒担持粉末を、プロトン透過性を有するバインダー樹脂からなる膜中に分散させて、その膜を導電性基体と固体電解質とで挟む。このため、触媒微粒子の脱落等を防止して、より長期にわたって触媒作用を確保することができる。
【0031】
触媒微粒子には、白金、ルテニウム、パラジウム、イリジウム、オスミウム等の希少金属、鉄、コバルト、ニッケル等の鉄族金属、またはバナジウム、マンガン、銀、金等の貴金属を用いるのがよい。特殊な機能を向上させるために、これらの金属を合金化した触媒微粒子であってもよい。たとえば、触媒機能の触媒毒に対する耐性を高めるために、白金とパラジウムの質量比Pt/Pd=7/3〜9/1程度の合金とすることができる。
【0032】
上記のガス分解素子10では、たとえば常温で1.5V程度の電圧を両電極間に印加することによって、アセトアルデヒド、エタノール、トルエン等の臭気ガスをエネルギー効率よく、迅速に分解することができる。たとえば、ナフィオン等のPFC系ポリマーを用いた電解質では、1.5Vの電圧を両電極間に印加すると水の電気分解が生じ、投入したエネルギーが水の電気分解に用いられエネルギー効率を低下させる。しかも、ナフィオン中の水を分解するので、イオン伝導に必須の湿分を適量未満に低下させ、イオン伝導性の劣化を生じ、ひいてはガス分解の停止のおそれを生じる。本実施の形態のガス分解素子のように、イオン液体を電解質に用いることによって、電圧印加に対して安定状態を維持することができる。また、イオン液体を含む高分子膜を用いることによって、固体電解質膜として取り扱うことができるので、ガス分解素子の製造も簡単化される。
【0033】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2におけるガス分解素子の構造は、図1および図2に示すものと同じである。イオン液体3を電解質15に用いる点でも同じである。本実施の形態のガス分解素子10の特徴は、触媒電極6と対向電極7との間に1.5Vを超える電圧を印加した場合でも、一酸化炭素の発生のおそれがないように、触媒微粒子11に接する導電性材料に非共有結合の炭素材料を配置しない点にある。実施の形態1のガス分解素子10においても、触媒電極6の導電性基体に金属を用い、または触媒担体の粉末に金属を用いる限り、本実施の形態と同じである。しかし、本実施の形態では、一酸化炭素の発生のおそれがない構成を確実に得るために、非共有結合のカーボ繊維等に、直接、触媒微粒子を担持させる構成は排除するという点で、実施の形態1と相違する。
【0034】
図5は、本実施の形態のガス分解素子の根拠となる実験結果を示す図である。図5は、触媒微粒子に白金を、また触媒担体のカーボンブラックを、触媒電極の導電性基対にカーボンペーパーを、そして電解質にナフィオン(PFC系ポリマー)を用いたガス分解素子についての実験結果である。触媒担体のカーボンブラックおよび導電性基体のカーボンペーパーは、いずれも非共有結合である。図5によれば、80℃になり、電圧を1.5V、両電極間に印加すると、一酸化炭素が発生することを示している。また、常温でも電圧を2V印加すると一酸化炭素が発生する。一酸化炭素の発生の空気以外の原料は、上記の炭素材である。炭化水素に限らずガス分解が生じるのは、触媒微粒子11と、電極6(触媒担体を用いる場合は触媒担体21)と、電解質15とが、会合する箇所である。そして一酸化炭素が発生するのは、その会合する箇所に非共有結合のカーボンブラックまたはカーボンペーパーが位置する場合である。
【0035】
図6は、一酸化炭素の発生とは直接の関係はないが、図5に述べたガス分解素子を用い、アセトアルデヒドの分解速度に及ぼすアノード−カソード間の電圧の影響を示す図である。図6によれば、両電極間の電圧が、1V→1.5V→2Vと上昇するにつれて、アセトアルデヒドの濃度がより早期に減少することが分かる。なお、上述のように、このガス分解素子にはナフィオンが用いられているが、電圧2Vを印加しても、一見、問題のないガス分解の経過を示している。本発明者は、このようなガス分解の経過にもかかわらず、芳香族化合物のガスを分解対象とする場合、長期間の連続使用や乾燥環境では、イオン液体の電解質への使用が有益であると考えるにいたった。
【0036】
(本実施の形態における触媒電極および触媒微粒子)
触媒電極層を構成する導電性基体としては、導電性を有し、かつ触媒微粒子を担持させることができる、層状の基体を用いることができる。たとえば図7(a)に示すように、ニッケル細線、ニオビウム細線などの金属繊維、セルメット等の金属多孔体6mからなる多孔質シートが好ましい。これら金属繊維、金属多孔体等6mからなる多孔質シートは、上記のメカニズムによる一酸化炭素の発生を防止する上で、好ましい。
【0037】
また、図7(b)に示すように、非共有結合のカーボン繊維6gを骨格に用いたものであっても、ボロン等の不純物を高濃度に含む導電性ダイヤモンド30を表層とする導電性基体であれば問題はない。この導電性ダイヤモンド30では、炭素原子は互いに共有結合で結合されるので、強度が高いだけでなく外部電圧に対しても耐性が高く、非共有結合のカーボンブラック、グラファイト等よりも外部電圧に対して非常に安定である。導電性ダイヤモンド30の薄膜が形成される骨格は、上記の多孔質の金属繊維等6mでもよいし、カーボンペーパー、カーボンフェルト等の多孔質のカーボン繊維6gであってもよい。そして、多孔質の骨格に導電性ダイヤモンド30の薄膜を形成した後も、多孔質とすることが望ましい。上記の場合、触媒微粒子は、カーボンペーパー、カーボンフェルト等の非共有結合の炭素材に、直接、接しないようにする。
【0038】
触媒微粒子を含む導電性基体には、次のような構造を採用することができる。(1)導電性基体の表面に、直接に、触媒微粒子を担持させる。導電性基体の表層は導電性ダイヤモンドで形成してもよいし、金属繊維等のままであってもよい。
(2)図8(a)に示すように、触媒微粒子11を、たとえばニッケル、コバルト、銀、モリブデン等の金属粉末(担体または塊状担体)21mの表面に担持させたものを、プロトン透過性をもつバインダー樹脂中に分散させ、導電性基体の表面に配設したもの、を用いることができる。また、図8(b)に示すように、粉末は上記の金属粉末のほかに、カーボンブラック、アセチレンブラックなどの導電性炭素粉末21でもよく、この場合、その表層に導電性ダイヤモンド薄膜30を形成しなければならない。この(導電性炭素粉末21/導電性ダイヤモンド表層30)を担体として、当該担体に触媒微粒子を担持させて、上記バインダー樹脂中に分散させて、導電性基体の表面に配設することができる。また、図8(b)における担体の芯部21は絶縁粉末であってもよく、触媒電極6との導通は導電性ダイヤモンド膜30でとることができる。
【0039】
上記の(1)の触媒電極層6は、たとえば触媒微粒子を構成する金属のイオンを含む溶液中に、導電性基体を浸漬した状態で、還元剤を用いて金属イオンを還元させて、当該金属から形成される触媒微粒子を当該導電性基体に析出させる。上述のように導電性基体に多孔質シートを用いた場合には、多孔質の孔の内表面にも、触媒微粒子は析出する。このような析出において、触媒微粒子は導電性基体に担持される。
【0040】
上記の(2)の触媒電極層は、次のように形成される。たとえば、(イ)ニッケル、銀等の金属粉末、(ロ)金属粉末に導電性ダイヤモンド表層を形成した粉末、または(ハ)カーボンブラック等の導電性炭素粉末の表面に導電性ダイヤモンド薄膜を形成した複合炭素粉末、(ニ)絶縁粉末に導電性ダイヤモンド薄膜を形成した粉末、を準備する。そして、上記と同様に、これら導電性粉末を、触媒微粒子を形成する金属のイオンを含む溶液中に浸漬して、還元剤を用いて、当該導電性粉末の表面に金属を微粒子状に析出させる。この触媒担持粉末を、イオン透過性を有するバインダー樹脂の液中に配合して塗布液を調製した後、その塗布液を導電性基体の表面に塗布し、乾燥させて、上記の担体粉末が分散されたバインダー樹脂の膜を形成する。上記(2)の触媒電極層においては、導電性基体として、上述のように、ニッケル繊維、ニオビウム繊維等の多孔質の金属繊維等、その金属繊維等に導電性ダイヤモンド被覆を施した多孔質体、カーボンペーパー等のカーボン繊維に導電性ダイヤモンド薄膜被覆した多孔質体等を用い、かつ上記バインダー樹脂の膜は、電解質と接するように積層されている。
【0041】
上記の積層状態においては、多孔質の導電性基体によって、触媒微粒子と臭気成分との接触を維持しながら、触媒担持粉末を、プロトン透過性を有するバインダー樹脂からなる膜中に分散させて、その膜を導電性基体と固体電解質とで挟む。このため、触媒微粒子の脱落等を防止して、より長期にわたって触媒作用を確保することができる。
【0042】
本実施の形態におけるガス分解素子では、イオン液体を用いて電解質を構成するので、両電極間に水の分解電圧以上の電圧を印加しながらガス分解を行うことができ、そのとき一酸化炭素の発生のおそれを除去することができる。このため、安全性を確保した上で、トルエンやエタノール等を含む多くの種類の臭気ガスを、エネルギー効率よく迅速に分解することができる。
【0043】
実施の形態1および2のイオン液体に代えて、加熱して作動させる、CsHSO、溶融塩、もしくは固体酸化物電解質、を用いることができる。これによって、ガス分解素子の使用環境、要求される性能、要求される経済性などに応じて、電解質の選択肢を拡大することができる。たとえばCsHSOは100℃程度の低温で作動できるので、経済性と大きな分解能力が求められる用途に適している。イオン液体は、経済性よりも小型化、低電力などが重視される用途に適している。また、固体酸化物電解質は、300℃以上の高温に加熱することが必要であるが、大きな分解能力、耐久性、使用実績、経済性等が重視される用途に向いている。
【0044】
(電圧印加または電位について)
電圧源の電圧Vをガス分解素子10に印加しても、アノードとカソードとの間に、そのまま電圧Vがかかるわけではない。(アノード/電解質/カソード)を一つの電気化学系とみたとき、この電気化学系には内部抵抗Rinがあり、電気化学系を稼働させて電流Iを流したとき、内部抵抗RinにおいてRin×Iの電圧降下を生じる。通常、内部抵抗となる箇所は複数あるので、それぞれの箇所で電圧降下を生じ、それらを全て加算したものが、Rin×Iである。この結果、電気化学系に実効的にかかる電圧Vefは、Vef=V−Rin×Iとなる。内部抵抗Rinは、電解質の材料、電解質の厚み、アノードおよびカソードと電解質との接触状態などによって大きく変動する。一つの型式の電気化学系であっても、製造機会、ロットごとに変動することもある。
(アノード/電解質/カソード)の各部における電位を測定することによって、すなわち電位分布を得ることによって、各部分の内部抵抗寄与分を知ることができる。また、電気化学系の電気化学反応に実効的に寄与する電圧Vefを知ることができる。電位の測定では、白金(Pt)または銀(Ag)などの参照電極を含んだポテンショスタットを用いる。さらに温度などの影響因子を標準条件に揃える必要がある。これによって、はじめて、他の測定データ(電位値)と比較して意味のある結果を得ることができる。したがって、「ガス分解素子に印加されている電圧」などは、軽々に、他の同様のデータと比較されるべきでない。これに対して、電源電圧Vは、少なくとも実用上、明確である。そして電圧源は、内部抵抗が法外に変動しない限り、電気化学系の実際の稼働を可能にすることを前提に、所定の性能(公称電圧)のものが備えられる。このため、電圧源の出力電圧または公称電圧は、他と比較する際、実用上、問題の少ない指標ということができる。
【0045】
上記において、本発明の実施の形態について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のガス分解素子によれば、多くの種類の臭気ガスを、エネルギー効率よく、迅速に分解でき、とくに電極材および/または触媒担体に非共有結合の炭素を用いないようにした場合には、一酸化炭素の発生のおそれなく高い電圧を両電極間に印加してガス分解速度の向上をはかることができる。
【符号の説明】
【0047】
3 イオン液体、6 触媒電極層、6d 触媒電極層の導電性基体、6m 金属繊維等の導電性基体、6g カーボン繊維の導電性基体、7 対向電極層(触媒電極層)、8,9 ガス拡散層、10 ガス分解素子、11 触媒微粒子、15 電解質層、21 担体(粉末)、21 導電性担体、21m 金属粉末、30 導電性ダイヤモンド。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒微粒子を含む、酸化側の触媒電極と、
前記触媒電極と対をなす対向電極と、
前記触媒電極と前記対向電極とに挟まれた電解質とを備え、
前記電解質が非水系電解質であることを特徴とする、ガス分解素子。
【請求項2】
前記電解質が、(1)常温で作動するイオン液体、または(2)加熱して作動させる、CsHSO、溶融塩、もしくは固体酸化物電解質、であることを特徴とする、請求項1に記載のガス分解素子。
【請求項3】
前記電解質が、イオン液体を含む固体状膜であることを特徴とする、請求項1または2に記載のガス分解素子。
【請求項4】
1.5V以上の電圧を印加することが可能な電圧源を備えることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のガス分解素子。
【請求項5】
前記触媒電極/対向電極間に、1.5V以上の電圧を印加することが可能な電圧源を備えることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のガス分解素子。
【請求項6】
前記触媒電極の主構成材料の一つであって、ガス分解反応で生じる電子を導通させるために前記触媒微粒子と接する導電性材料が、非共有結合の炭素材でないことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のガス分解素子。
【請求項7】
前記触媒電極における前記触媒微粒子と接する導電性材料が、金属および/または導電性ダイヤモンドに限られることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のガス分解素子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−269020(P2009−269020A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91099(P2009−91099)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】