説明

ガス吸着材料及びその使用方法

【課題】複数の構造体が集積した集積体により構成されるガス吸着材料におけるガス吸着速度を高める。
【解決手段】ガス吸着材料10は、複数のモノマー20が集積した集積体により構成されている。このモノマー20は、複数の錯体核金属22と、非結合性相互作用(例えばπ−πスタッキング)により他のモノマー20と集積する相互作用部25を有し錯体核金属22を取り囲むようにこの錯体核金属22に配位する複数のモノカルボン酸24と、を備えている。このガス吸着材料10は、その平均粒径が10μm以下に形成され、相互作用部25により複数のモノマー20間に空間を設けるよう複数のモノマー20が移動して吸着ガスを吸着する。このガス吸着材料10は、87Kでガスの吸着を開始し、次いで77K以下の温度に冷却して最終的な吸着を完了させることが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス吸着材料及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガス吸着材料としては、金属−有機骨格構造体(錯体)の一種であるZn4O(2,6−ナフタレンジカルボキシレートアニオン)3を、ジエチルホルムアミド(DEF)中で合成し、これをDEFごと耐圧容器へ導入したあと、DEFに比して揮発性が高く且つDEFと相分離を起こさない溶媒(クロロホルム)に置換し、クロロホルムを耐圧容器から排出することにより、Zn4O(2,6−ナフタレンジカルボキシレートアニオン)3を大気に曝すことなく耐圧容器に収容することができ、不要なガス(例えば水蒸気)が使用前に吸着してしまうのを防止することにより、錯体の水素ガス吸着能を向上させることができるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、金属−有機骨格構造体(錯体)の合成後に吸着ガス(例えば水素)は透過するが不要なガス(例えば水蒸気)は透過しない被膜を設けることにより、不要なガス(例えば水蒸気)が使用前に吸着してしまうのを防止することにより、錯体の水素ガス吸着能を向上させることができるものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2006−220168号公報
【特許文献2】特開2006−218349号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このように、この特許文献1,2では、金属−有機骨格構造体に不要な物質(例えば水蒸気など)を吸着してしまうのを防止することにより、錯体の水素ガス吸着能を向上させるものであるが、例えば、水素ガスステーションなどでガスタンクへ水素ガスを充填する際の充填時間を短縮するためなど、ガス吸着材料自体のガス吸着速度を高めることも望まれていた。
【0004】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、複数の構造体が集積した集積体により構成されるガス吸着材料におけるガス吸着速度を高めることができるガス吸着材料及びその使用方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、複数の構造体が集積した集積体により構成されるガス吸着材料の平均粒径や吸着温度を好適なものにすると、ガス吸着速度をより高めることができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明のガス吸着材料は、
複数の構造体が集積した集積体により構成されるガス吸着材料であって、
前記構造体は、複数の錯体核金属と、非結合性相互作用により他の構造体と集積する相互作用部を有し前記錯体核金属を取り囲むように該錯体核金属に配位する複数のモノカルボン酸と、を備え、
ガス吸着材料の平均粒径が10μm以下である、ものである。
【0007】
本発明のガス吸着材料の使用方法は、上述したガス吸着材料に所定の第1温度で所定のガスを吸着させる、又は所定の第1温度で該ガスの吸着を開始し次いで該第1温度よりも低い温度である第2温度へ冷却して所定のガスを吸着させるものである。
【0008】
あるいは、本発明のガス吸着材料の使用方法は、
複数のモノマーが集積した集積体により構成されるガス吸着材料であって、前記モノマーは、複数の錯体核金属と、非結合性相互作用により他のモノマーと集積する相互作用部を有し前記錯体核金属を取り囲むように該錯体核金属に配位する複数のモノカルボン酸と、を備えたガス吸着材料に所定の第1温度で該ガスの吸着を開始し次いで該第1温度よりも低い温度である第2温度へ冷却して該ガスを吸着させるものである。
【発明の効果】
【0009】
このガス吸着材料及びその使用方法では、ガス吸着速度を高めることができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推測される。例えば、複数の構造体が集積した集積体により構成されるガス吸着材料では、複数の構造体が移動することにより空間が生じたり、ガス吸着に適した形状の空間を元来有するなどし、この空間にガスを吸着することがある。このような吸着機構では、構造体の移動を伴うため、例えば多孔体の細孔にガスを吸着するものに比して吸着材料内へのガスの拡散が律速になり、その粒径が大きい場合には吸着速度が小さい傾向を示す。また、一般的に物理吸着では低温ほど吸着量が増大するが、複数の構造体が集積した集積体により構成されるガス吸着材料では、吸着温度を低下させる、即ちガス及び構造体のうち少なくとも一方の熱運動が小さいと複数の構造体の移動や構造体内部へのガスの拡散が抑制されることがある一方、吸着温度を上昇させる、即ちガス及び構造体のうち少なくとも一方の熱運動が大きいと吸着材料内部にガスが浸透しやすくなることがある。ここでは、ガス吸着材料の平均粒径を制御することによりガスとの接触確率を高めたり、吸着温度を好適な範囲として、ガス及び構造体のうち少なくとも一方の熱運動を好適なものとすることにより、ガス吸着速度を高めるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のガス吸着材料は、複数の構造体が集積した集積体により構成されている。この構造体は、複数の錯体核金属と、非結合性相互作用により他の構造体と集積する相互作用部を有し錯体核金属を取り囲むように錯体核金属に配位する複数のモノカルボン酸と、を備えている。ここで、「非結合性相互作用」とは、π−πスタッキング、CH−π相互作用や水素結合等の、個々の結合エネルギーが10kcal/mol以下の弱い結合又は分子間相互作用をいう。例えば、このガス吸着材料は、四配位の酸素(μ4−O)により四面体状に結合した4つの錯体核金属Mと、相互作用部としての官能基R1を有する6つのモノカルボン酸と、を備える次式(1)で表されるモノマーを構造体とし、集積体は、官能基R1によって3次元構造となるようモノマーを集積して構成されているものとしてもよい。官能基R1は、モノカルボン酸の置換基である。このモノマーは、隣接するモノマーの置換基R1間に生じる非結合性相互作用によって3次元的に集積化することで、ガス吸着材料を構成する。このように構成されたガス吸着材料は、吸着対象である所定のガス種(吸着ガスとも称する)に対して相互作用部により複数のモノマー間に空間を設けるようこの複数のモノマーが移動して吸着ガスを吸脱着する(後述図2参照)。若しくは、元来有するガス吸着に適した形状の空間に吸着ガスを吸脱着する。ここでは、説明の便宜のため、この複数のモノマーの移動を構造相転移と称するものとする。この構造相転移は、モノマー間の非結合性相互作用の柔軟性に起因して起こり、吸着ガスが接近することにより、より安定な吸着ガスを取り込んだ構造へ変化する場合に起こる。非結合性相互作用は、構造相転移を起こしやすいという観点から、π−πスタッキング、CH−π相互作用及び水素結合のうち少なくとも1以上であることが好ましい。
【化1】

【0011】
ガス吸着材料は、モノマーと有機分子とからなる集積体を加熱処理して有機分子を除去することにより得られたものであることが好ましい。この理由は、有機分子を一度取り込んだ後、除去することにより、ガス吸着材料の結晶内に多数の気孔や亀裂などが形成され、吸着ガスが取り込まれやすくなるためであると推察される。形成される気孔は、閉気孔、又は入口径が吸着するガス分子よりも小さい気孔であることが好ましい。こうすれば、吸着ガス以外を吸着しにくくなると考えられる。この除去される有機分子は、アセトニトリル、アセトン、メタノール、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミドであることが好ましい。このうち、揮発性が高く除去しやすく、取り扱いが容易なことから、アセトンとするのが好ましい。有機分子を除去する加熱処理は、真空条件下によって行われることが好ましい。このガス吸着材料は、有機分子を除去する処理(活性化処理)を行った場合は、構造を変化させて安定構造に相転移し、目的以外のガスを吸着しにくい特性を示す。一方、吸着ガスが接近した場合は、構造を変化させて(構造相転移して)この吸着ガスをその構造内に取り込む。よって、本発明のガス吸着材料は、活性化処理を行っても目的以外のガスを吸着しにくく、また構造相転移によって構造の歪みを緩和し、安定化しているため、構造が崩壊しにくい。このガス吸着材料は、水素、メタン、アセチレン、二酸化炭素及びネオンのうちいずれかのガスを吸着するものとすることができるが、このうち水素を吸着するものが好ましい。
【0012】
このガス吸着材料は、その平均粒径が10μm以下である。平均粒径が10μm以下では、吸着ガスとガス吸着材料との接触確率が高まり、吸着速度が向上する。より接触確率を高めるという観点から、ガス吸着材料の平均粒径は、4μm以下であることがより好ましい。また、平均粒径の下限は特に限定されないが、複数の構造体が集積するという観点から、0.01μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であるものとしてもよい。この平均粒径の制御方法であるが、例えば、ガス吸着材料の合成時の条件(例えば濃度、pH、温度など)を調整することにより、より細かな粒子とすることができるし、あるいはガス吸着材料の作製後に、適した粒度となるように粉砕することにより行うことができる。粉砕する場合は、複数の構造体が集積したガス吸着材料の構造を破壊しない程度に行うことが重要である。構造が破壊された場合は、構造体の集積構造が崩壊し、吸着ガスに対して構造を変化させて吸着ガスを取り込むことができないためである。なお、構造が破壊されたか否かの判断は、このガス吸着材料の粉末X線回折パターンを測定することにより確認することができる。粉砕方法としては、乳鉢粉砕やボールミル、アトライタ、遊星ミルによる粉砕などが挙げられる。なお、平均粒径の算出方法であるが、SEM観察した範囲からランダムに選択した10個の粒子の長径及び短径を測定し、この測定値を各々平均して長径の平均値と短径の平均値とを求め、このうち短径の平均値は参考値とし、長径の平均値を平均粒径とするものとする。
【0013】
構造体に含まれる錯体核金属は、所望のガス吸着材料が得られやすいという観点から、Zn、Cu、Mg、Al、Mn、Fe、Co及びNiのうちいずれかであることが好ましく、このうちZnやCuなどがより好ましい。また、構造体に含まれる相互作用部は、非結合性相互作用を作用させるという観点から、モノカルボン酸に結合した官能基である、芳香環、アルキル基、水酸基、アミノ酸、ニトリル基、ハロゲン基のうちいずれかであることが好ましく、このうち芳香環であることがより好ましい。また官能基の構成は、官能基1つのみが含まれていてもよく、同一又は異種の官能基が複数含まれていてもよい。また、芳香環に関しては、単環であってもよく、多環であってもよく、それぞれが複素環であってもよい。さらに、オルト位、メタ位、パラ位等の置換位置が上述したような置換基によって置換されていてもよく、その置換位置が1箇所であっても複数個所であってもよい。
【0014】
図1は、ガス吸着材料を構成するモノマー20の一例を示す説明図であり、図2は、モノマー20により構成されたガス吸着材料10の水素吸着機構の説明図である。ここでは、図1に示すように、ガス吸着材料10を構成するモノマー20は、錯体核金属22がZnであり、モノカルボン酸24が有する相互作用部25がベンゼン環により構成されている。モノカルボン酸24は、モノカルボン酸24が有するカルボキシル基(−COO)と錯体核金属22とによる配位結合を介して2つの錯体核金属22と結合され、図1に示すような単分子のモノマーを形成する。
【0015】
このガス吸着材料10の吸着機構は、定かではないが、図2(a)〜(d)に示すように構造を変化させながら吸着するものと推測される。ガス吸着材料10は、図2(a)に示すように、複数のモノマー20が各々の相互作用部25により非結合性相互作用により集積した構造を有している。そして、吸着ガス(ここでは水素)が存在すると、吸着ガスの分子サイズより大きく開口させて吸着ガスを取り込んだ構造へ相転移する(図2(b))。更に吸着ガスの圧力が高くなると、より大きな構造相転移が起き、より多くの吸着ガスを取り込む(図2(c),(d))。ガス吸着材料10では、これらの構造相転移が可逆的に行われることにより吸着ガスの吸脱着が行われるものと考えられる。
【0016】
複数のモノマー20が移動することにより空間が生じこの空間に吸着ガスを吸着するガス吸着材料10では、モノマー20の移動(相転移)を伴うため、例えば多孔体の細孔に吸着ガスを吸着するものに比して吸着材料内への吸着ガスの拡散が律速になり、その粒径が大きい場合は吸着速度が小さい傾向を示すことが考えられる。また、このガス吸着材料10では、吸着温度を低下させる、即ち吸着ガス及び構造体のうち少なくとも一方の熱運動が小さいと複数のモノマー20の移動やモノマー20内部への吸着ガスの拡散が抑制されることがある一方、吸着温度を上昇させる、即ち吸着ガス及び構造体のうち少なくとも一方の熱運動が大きいと吸着材料に吸着ガスが浸透しやすくなると考えられる。ここでは、吸着温度を好適な範囲として、吸着ガス及び構造体のうち少なくとも一方の熱運動を好適なものとすることにより、ガス吸着速度を高めるのである。このように、吸着温度を好適なものとすると、ガス吸着材料の平均粒径を制御することにより吸着ガスとの接触確率を高めるようなことを行わなくとも、吸着速度を高めることもできる。このガス吸着材料10は、所定の第1温度で吸着ガスを吸着させるものとしてもよい。この第1温度は、吸着ガスの種類に応じて吸着に好適な範囲を定めるものとしてもよい。ガス吸着材料10は、吸着ガスが水素の場合、第1温度として196Kを下回る範囲の温度で吸着させることが好ましく、87K以下の所定の温度で吸着させることがより好ましく、冷媒の取扱い易さという観点から液化アルゴン温度である87Kが好適である。また、一般的に物理吸着では最大吸着量自体は低温ほど増大するため、好適な温度で効率よく吸着ガスを吸着させた後は、絶対的な吸着量を増大させるために、適宜冷却後、さらに吸着させてもよい。即ち、所定の第1温度で吸着ガスの吸着を開始し次いでこの第1温度よりも低い温度である第2温度へ冷却して吸着ガスを吸着させるものとしてもよい。ガス吸着材料10は、吸着ガスが水素の場合、第1温度として196Kを下回る温度より吸着を開始することが好ましく、87K以下の所定の温度より吸着を開始することがより好ましく、次いでこの開始温度から適宜冷却して最終的な吸着を完了させることがより好ましい。最終的な冷却温度は、第2温度として77K以下の所定の温度とするのが好ましく、冷媒の取扱い易さという観点から液化窒素温度である77Kがより好ましい。
【0017】
ガス吸着材料10は、その吸着特性を、例えば、吸着ガスの吸着等温線により評価することができる。この吸着等温線を測定する際に、所定の平衡状態が判定されると自動で所定の差圧を増加・減少させて容量法により測定する自動測定機を用いることができる。このガス吸着材料10では、構造相転移に伴いガス吸着が行われるため、平衡状態を判定する適切な条件を定めることが必要である。図3は、吸着速度と吸着等温線との関係を説明する説明図である。ここで、自動測定機による吸着等温線測定では、ある一定時間内に一定の圧力変化が見られないと吸着平衡に達したと判定し、次の測定点の測定に入ってしまう。このため、平衡吸着量が同じものであっても、吸着速度に差があると、図3に示すように、異なる結果となることが考えられる。自動測定機による測定結果は、測定条件によって、見掛けの吸着量の差を示す、即ち、吸着速度を反映したものとなっていると考えられる。このガス吸着材料10の吸着等温線を評価する際には、この点をも考慮することが重要である。
【0018】
以上詳述した本実施形態のガス吸着材料によれば、複数の構造体(モノマー)が集積した集積体により構成され、このモノマーは、複数の錯体核金属と、非結合性相互作用により他のモノマーと集積する相互作用部を有し錯体核金属を取り囲むように錯体核金属に配位する複数のモノカルボン酸と、を備え、相互作用部により複数のモノマー間に空間を設けるよう複数のモノマーが移動して吸着ガスを吸着するものであり、ガス吸着材料10の平均粒径が10μm以下であるため、吸着ガスとの接触確率が高く、また、87K以下の温度で吸着ガスを吸着させるため、吸着ガス及び構造体のうち少なくとも一方の熱運動を好適として、ガス吸着速度を高めることができる。
【0019】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0020】
例えば、上述した実施形態では、ガス吸着材料は式(1)で示すモノマーの集積体として説明したが、複数の錯体核金属と、非結合性相互作用により他の構造体と集積する相互作用部を有し錯体核金属を取り囲むようにこの錯体核金属に配位する複数のモノカルボン酸と、を備えた構造体を、相互作用部により集積した集積体として構成され、平均粒径が10μm以下であるものであれば、特に限定されない。例えば、図4に示すように、ガス吸着材料は、2つの錯体核金属Mと、相互作用部としての官能基R2を有し平面状に錯体核金属と配位する4つのモノカルボン酸と、を備える次式(2)で表される構成単位により構成された1次元骨格を構造体とし、集積体は官能基R2によって3次元構造となるよう1次元骨格を集積して構成されているものとしてもよい。図4は、構成単位21により構成されたガス吸着材料10Bの説明図である。このガス吸着材料10Bは、複数の構成単位21が連続した1次元骨格12が、相互作用部25により集積した構造を有している。ここでは、構成単位21は、錯体核金属22BがCuであり、相互作用部25がベンゼン環であり、結合基R3が含窒素六員複素環式化合物(ピラジン)により構成されているものとする。なお、ガス吸着材料10Bにおいて、結合基R3を含窒素六員複素環式化合物としたが、結合基R3を二重結合のない含窒素環式化合物(ピペラジン)としてもよいし、結合基R3を含窒素環式化合物以外のものとしてもよいし、結合基R3がないものとしても構わない。このガス吸着材料10Bにおいても、平均粒径を10μm以下とすると、ガス吸着速度を高めることができる。また、ガス吸着材料に87Kの温度で水素ガスを吸着させると、ガス吸着速度を高めることができる。なお、官能基R2は、上述した官能基R1と同じものとしてもよいし、異なるものとしてもよい。
【化2】

【実施例】
【0021】
以下には、ガス吸着材料を具体的に製造した例を実験例として説明する。
【0022】
[実験例1]
市販の安息香酸亜鉛(Zn(C65COO)2)(関東化学製)の1.0gを、無酸硫酸マグネシウム(MgSO4)で乾燥したアセトン70mLに溶解させたあと、この溶液を50℃で30分加熱したところ、白色の析出物が沈殿した。この白色の析出物を吸引濾過により濾別し、濾別した析出物を常温により真空乾燥した。析出物の収量は、0.71gであった。得られた析出物を化学分析、赤外吸収スペクトル、X線回折などの測定を行い、図1に示したアセトンを含有した[Zn4O(C65COO)6](以下、Zbzと称する)であることが確認された。次に、得られたアセトン含有Zbzを150℃、4時間真空下で加熱処理することによりアセトンを除去し、実験例1のガス吸着材料を得た。なお、このアセトンの除去後のZbzの重量は、5.6重量%の減少があり、その収量は、0.67gであった。この重量減少は、モノマーZbzあたり1分子のアセトンが失われた値(5.5重量%)と略一致した。
【0023】
[実験例2]
作製した実験例1の粉体の0.5gを乳鉢に入れ、10分間、手粉砕を行い、実験例2のガス吸着材料を得た。
【0024】
[実験例3〜6]
実験例1の粉体0.5gをマグネット乳鉢粉砕機(アズワン製MN−T1)を用いて10分間、30分間、60分間、24時間粉砕して得た粉体をそれぞれ実験例3〜6のガス吸着材料とした。
【0025】
[電子顕微鏡観察]
実験例1〜6について、走査型電子顕微鏡(日本電子製JSM−5410)を用いてSEM写真を撮影した。また、SEM観察した範囲からランダムに選択した10個の粒子の長径及び短径を測定し、この測定値を各々平均して長径の平均値と短径の平均値とを求め、長径の平均値を平均粒径とした。
【0026】
[比表面積測定及び水素吸着特性測定]
実験例1〜6のガス吸着材料について、比表面積/細孔分布測定装置ASAP2020(マイクロメリティクス製)を用いて、窒素ガス、77Kでのガス吸着材料のBET比表面積測定を行った。また、実験例1〜6のガス吸着材料について、水素の吸着等温線測定を行った。この水素の吸着等温線測定は、実験例2,4.5,6については77及び298Kで行い、実験例1については77K,87K,298Kで行い、実験例3については、77K,87K,196K,298Kで行った。水素の吸着等温線測定は、ガス吸着材料を0.1g用い、30秒間に亘って測定圧力に0.01%以上の変化がなかったときに吸着平衡であると判定して差圧目標を38mmHgとする次の測定点の吸着を実行する測定条件で行った。
【0027】
[X線回折測定]
定性用X線回折装置(理学電機製RAD−1B)を用いて実験例3〜6の粉末X線回折パターンを測定した結果を図5に示す。実験例3〜5では、図5に示すように、略変わらない粉末X線回折パターンが得られ、同様な構造を有していることが分かった。一方、実験例6では、ブロードな粉末X線回折パターンが得られ、集積構造が崩壊していることが示唆された。なお、実験例3〜5では、水素吸着等温線の測定前後においてX線回折を測定したところ、水素を取り込む前と取り込み放出した後でX線回折の測定結果に大きな変化は見られなかった。また、水素を取り込み放出した後の実験例1の窒素吸着特性を測定したところ、窒素を吸着しなかった。以上のことから、このガス吸着材料は水素を取り込む前と取り込み放出した後で構造が変化しないと考えられる。
【0028】
[測定結果]
各実験例の平均粒径に対する水素吸着特性に関する測定結果を表1に示し、吸着温度に対する水素吸着特性に関する測定結果を表2に示す。図6は、実験例1〜6のSEM写真であり、図7は、実験例1〜6の77Kでの水素吸着等温線であり、図8は、実験例1の種々の吸着温度における水素吸着等温線であり、図9は、実験例3の種々の吸着温度における水素吸着等温線である。図6,7及び表1に示すように、粉砕時間の増加に伴いガス吸着材料の平均粒度が小さくなると、それに伴い水素吸着等温線の吸着量も増加する結果であった。ここで、自動測定機による吸着等温線測定では、ある一定時間内に一定の圧力変化が見られないと吸着平衡に達したと判定され、次の測定に入ってしまう。このため、厳密にはこれら実験例1〜5では、測定時間を無限に長くすればそれぞれ同程度の吸着等温線になることが推察される。図7の測定結果は、見掛けの吸着量の差を示す、即ち、吸着速度を反映したものとなっていると推察される。したがって、ガス吸着材料の平均粒度が小さくなると、それに伴い水素の見掛け上の吸着量が増加すると共に、水素の吸着速度が増加することが明らかとなった。なお、実験例6は、過剰な粉砕によりガス吸着材料の構造が破壊されたため、水素が吸着しなかった。図8,9及び表2に示すように、実験例1〜5は、吸着温度が77K〜87Kで好適な吸着量(吸着速度)を示した。ここで、実験例1(図7)と実験例3(図8)において、77Kと87Kで吸着量が逆転しているが、これは、実験例1では平均粒径が比較的大きいために、77Kでは吸着速度が遅く、吸着速度の速い87Kの方が見掛け上吸着量が多くなるが、実験例3では、平均粒径が小さく好適であるために、77Kでも十分な吸着速度があるため、本来の物理吸着の傾向通りに低温ほど吸着量が増大したためと推察される。このように、複数の構造体(モノマー)が集積した集積体により構成された構造が保たれ、且つ平均粒径が10μm以下、より好適には4μm以下であるとガス吸着速度を高めることができることが明らかとなった。また、例えば、水素ガスステーション等でガスタンクへ水素を充填する際などに、比較的高い87Kで水素の吸着を開始したのちに、比較的低い77Kで水素の吸着を完了させる吸着方法を行うものとすれば、一層好適なガス吸着速度及びガス吸着量となり、充填時間を短縮させることができることが推察された。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
なお、図4に示した、ガス吸着材料10Bを作製して上述した実験例1〜6と同様の測定を行ったところ、平均粒径が10μm以下とすると、窒素吸着測定において、吸着量に変化は無かったものの、吸着平衡に達する時間が短くなり、吸着測定時間が大幅に短縮されることが明らかとなった。この窒素吸着等温線は、ラングミュア型であった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、ガスの吸着材料の技術分野に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】ガス吸着材料を構成するモノマー20の一例を示す説明図である。
【図2】モノマー20により構成されたガス吸着材料10の水素吸着機構の説明図である。
【図3】吸着速度と吸着等温線との関係を説明する説明図である。
【図4】構成単位21により構成されたガス吸着材料10Bの説明図である。
【図5】実験例3〜6の粉末X線測定結果を表す図である。
【図6】実験例1〜6のSEM写真である。
【図7】実験例1〜6の77Kでの水素吸着等温線である。
【図8】実験例1の種々の吸着温度における水素吸着等温線である。
【図9】実験例3の種々の吸着温度における水素吸着等温線である。
【符号の説明】
【0034】
10,10B ガス吸着材料、12 1次元骨格、20 モノマー、21 構成単位、22 錯体核金属、24 モノカルボン酸、25 相互作用部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の構造体が集積した集積体により構成されるガス吸着材料であって、
前記構造体は、複数の錯体核金属と、非結合性相互作用により他の構造体と集積する相互作用部を有し前記錯体核金属を取り囲むように該錯体核金属に配位する複数のモノカルボン酸と、を備え、
ガス吸着材料の平均粒径が10μm以下である、
ガス吸着材料。
【請求項2】
ガス吸着材料の平均粒径が4μm以下である、請求項1に記載のガス吸着材料。
【請求項3】
前記錯体核金属は、Zn、Cu、Mg、Al、Mn、Fe、Co及びNiのうちいずれかである、請求項1又は2に記載のガス吸着材料。
【請求項4】
前記相互作用部は、前記モノカルボン酸に結合した官能基である、芳香環、アルキル基、水酸基、アミノ酸、ニトリル基、ハロゲン基のうちいずれかである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のガス吸着材料。
【請求項5】
前記構造体は、酸素により四面体状に結合した4つの錯体核金属Mと、前記相互作用部としての官能基R1を有する6つの前記モノカルボン酸と、を備える次式(1)で表されるモノマーであり、
前記集積体は、前記官能基R1によって3次元構造となるよう前記モノマーを集積して構成されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載のガス吸着材料。
【化1】

【請求項6】
前記構造体は、2つの錯体核金属Mと、前記相互作用部としての官能基R2を有し平面状に前記錯体核金属と配位する4つの前記モノカルボン酸と、を備える次式(2)で表される構成単位により構成された1次元骨格であり、
前記集積体は、前記官能基R2によって3次元構造となるよう前記1次元骨格を集積して構成されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載のガス吸着材料。
【化2】

【請求項7】
前記集積体は、水素、メタン、アセチレン、二酸化炭素及びネオンのうちいずれかのガスに対して、前記モノマー間に設けられた空間に該ガスを吸着する、及び/又は前記相互作用部により複数の前記モノマー間に該ガスに適した空間を設けるよう該複数のモノマーが移動して該ガスを吸着する、請求項1〜6のいずれか1項に記載のガス吸着材料。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のガス吸着材料に所定の第1温度で所定のガスを吸着させる、又は所定の第1温度で該ガスの吸着を開始し次いで該第1温度よりも低い温度である第2温度へ冷却して所定のガスを吸着させる、
ガス吸着材料の使用方法。
【請求項9】
複数のモノマーが集積した集積体により構成されるガス吸着材料であって、前記モノマーは、複数の錯体核金属と、非結合性相互作用により他のモノマーと集積する相互作用部を有し前記錯体核金属を取り囲むように該錯体核金属に配位する複数のモノカルボン酸と、を備えたガス吸着材料に所定の第1温度で該ガスの吸着を開始し次いで該第1温度よりも低い温度である第2温度へ冷却して該ガスを吸着させる、
ガス吸着材料の使用方法。
【請求項10】
前記ガスが水素であり、前記第1温度が87K以下の温度であり、前記第2温度が77K以下の温度である、請求項8又は9に記載のガス吸着材料の使用方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−154129(P2009−154129A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−337722(P2007−337722)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】