説明

ガス圧式アクチュエータ

【課題】火薬の燃焼により発生する高圧ガスを駆動源とする火薬式アクチュエータにおいて、できるだけ重量化することなく、該火薬式アクチュエータの作動性能の向上を図る。
【解決手段】火薬式アクチュエータ(1)のシリンダ室(6)に、ガス発生器(3)に面する高圧室(6a)とピストンヘッド(2b)に面する減圧室(6b)とに区画する隔壁(8)を設け、隔壁(8)には高圧室(6a)と減圧室(6b)とを連通する連通孔(9)を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス発生剤の反応による高圧ガスによって駆動するガス圧式アクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ガス発生剤の反応による高圧ガスの噴出力を利用して対象物に力を作用させるガス圧式アクチュエータが知られている。そして、特許文献1には、ガス発生剤として火薬を用い、この火薬の燃焼による高圧ガスの噴出力を利用して対象物に力を作用させる火薬式アクチュエータが記載されている。
【0003】
この火薬式アクチュエータは、例えば、歩行者が自動車に衝突した際に、自動車のエンジンルームの上方に開閉可能に設けられたエンジンフードを強制的に持ち上げて、歩行者の二次衝突、つまり歩行者がエンジンフードを介してエンジンブロックに強く当たるのを緩和する安全装置として用いられている。
【0004】
図8は、従来の火薬式アクチュエータの縦断面図を示している。この火薬式アクチュエータ(31)は、シリンダ(35)と、該シリンダ(35)内を進退可能なピストンヘッド(32b)と該ピストンヘッド(32b)に連結されたピストンロッド(32a)とを有するピストン(32)とを備えている。又、該シリンダ(35)内には、上記シリンダ(35)とピストンヘッド(32b)により区画されたシリンダ室(36)が形成されている。そして、火薬の燃焼に伴って高圧ガスを噴出するガス発生器(33)が、上記シリンダ(35)の底壁(37)に固定されている。
【0005】
上記ガス発生器(33)は、火薬と、該火薬を収納する破裂可能な密閉容器と、該密閉容器に収納された火薬に着火するための着火機構(図示せず)とを備えている。上記着火機構により着火動作が行われると、密閉容器内の火薬が燃焼して高圧ガスが発生する。すると、密閉容器内に高圧ガスが充満するとともに、該密閉容器内の圧力が上昇する。密閉容器内の圧力が上昇して所定値以上になると、該密閉容器が破裂してシリンダ室(36)に高圧ガスが噴出する。そして、この噴出した高圧ガスが、シリンダ室(36)の圧力を上昇させて上記ピストン(32)をシリンダ(35)の外方(図8の上方)へ押し出す。これにより、ピストン(32)の先端部に設けられた押圧部(32c)がエンジンフードに接触して、該エンジンフードを持ち上げるように構成されている。
【0006】
ここで、上記ガス発生器(33)において、上記密閉容器を用いることにより、該密閉容器を用いない場合に比べて、より圧力の高い状態で火薬を燃焼することができる。このように、圧力の高い状態で火薬を燃焼することにより、燃焼を促進させて、上記ピストン(32)をシリンダ(35)の外方へ押し出す力を大きくして、火薬式アクチュエータ(31)の作動性能を向上させている。
【特許文献1】特開平2004−330913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、火薬式アクチュエータの作動性能をさらに向上させるためには、上記密閉容器の強度を上げて、より一層高い圧力で火薬を燃焼させることにより、火薬の燃え残り(以下、残渣という。)の少ない効率的な燃焼状態を実現する必要があるが、この密閉容器の強度を上げるのには限界がある。又、従来よりもさらに高い圧力で火薬を燃焼させた場合、より高い圧力の高圧ガスがシリンダ室に噴出されるため、該シリンダ室の圧力が急激に上昇する。したがって、火薬式アクチュエータを急激な圧力上昇に耐え得る強度にしなければならない。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ガス発生剤の反応により発生する高圧ガスを駆動源とするガス圧式アクチュエータにおいて、できるだけ重量化することなく、該ガス圧式アクチュエータの作動性能の向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、シリンダ(5)と、該シリンダ(5)内を進退可能なピストンヘッド(2b)とピストンロッド(2a)とを有するピストン(2)と、上記シリンダ(5)とピストンヘッド(2b)により区画形成されるシリンダ室(6)にガス発生剤の反応に伴って高圧ガスを噴出するガス発生器(3)とを備えたガス圧式アクチュエータを前提としている。
【0010】
そして、上記ガス圧式アクチュエータのシリンダ室(6)を、上記ガス発生剤を含む第1室(6a)と該ガス発生剤から隔てられた第2室(6b)とに区画する隔壁(8)を有し、該隔壁(8)には上記第1室(6a)と第2室(6b)とを連通する連通孔(9)が設けられていることを特徴としている。
【0011】
第1の発明では、上記シリンダ室(6)に隔壁(8)を設けることにより、第1室(6a)と第2室(6b)とを区画形成することができる。そして、第1室(6a)を区画形成することにより、上記ガス発生器(3)のガス発生剤を高い圧力で反応することが可能な高圧領域、即ち高圧室を形成することができる。これにより、従来よりもさらにガス発生剤の反応を効率的に行うことができ、反応不足によるガス発生剤の残渣を抑えることができる。
【0012】
又、この第1室(6a)の高圧ガスは、上記連通孔(9)を通過する際に減圧されて第2室(6b)へ流れる。この第2室(6b)を区画形成することにより、上記ピストン(2)を第1室(6a)より圧力の低い状態で作動する減圧領域、即ち減圧室を形成することができる。
【0013】
第2の発明は、第1の発明において、上記連通孔(9)を塞ぐ閉塞部材(9a)を有し、
該閉塞部材(9a)は、上記ガス発生器(3)から噴出される高圧ガスにより、上記第1室(6a)が所定の圧力以上となった時に、該連通孔(9)を開口するように構成されていることを特徴としている。
【0014】
第2の発明では、上記第1室(6a)が所定の圧力以上となり、上記閉塞部材(9a)が上記連通孔(9)を開口するまでの間、高圧ガスが上記連通孔(9)を通過しないようにすることができる。したがって、上記閉塞部材(9a)が上記連通孔(9)を開口するまでの間、上記第1室(6a)の圧力が低下しないようにすることができる。
【0015】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、上記隔壁(8)は、シリンダ室(6)の内面に設けられていることを特徴としている。
【0016】
第4の発明は、第1又は第2の発明において、上記隔壁(8)は、シリンダ室(6)の内部に位置するように、上記ガス発生器(3)の端面に設けられていることを特徴としている。
【0017】
第3,4の発明では、上記隔壁(8)を、上記シリンダ室(6)の内面又は上記ガス発生器(3)の端面に設けることにより、確実にシリンダ室(6)を第1室(6a)と第2室(6b)とに区画することができる。
【0018】
第5の発明は、第1から第4の何れか一つの発明において、上記シリンダ(5)の端部に取り付けられて該ピストンロッド(2a)を摺動可能に保持するとともに該ピストンヘッド(2b)のストッパとして用いられるブッシュ(4)を備えていることを特徴としている。
【0019】
第5の発明では、上記第2室(6b)の圧力が第1室(6a)の圧力よりも低くなるので、上記ピストン(2)を押す力も小さくなり、該ピストン(2)の動きが緩やかになる。したがって、上記ピストン(2)のストッパとして用いられるブッシュ(4)の強度を下げることができる。
【0020】
第6の発明は、第1から第5の何れか一つの発明において、上記シリンダ(5)が、上部胴体(5a)と該上部胴体(5a)に接続された下部胴体(5b)とで形成され、上記上部胴体(5a)と上記下部胴体(5b)との間に上記隔壁(8)が設けられ、上記下部胴体(5b)に、上記第1室(6a)と上記ガス発生器(3)とが設けられていることを特徴としている。
【0021】
第6の発明では、上記下部胴体(5b)のみに高圧ガスの高い圧力がかかるようにすることができる。したがって、上部胴体(5a)の強度を下部胴体(5b)よりも下げることができる。
【0022】
第7の発明は、第6の発明において、上記上部胴体(5a)と下部胴体(5b)とが互いに異なる材料で形成され、該上部胴体(5a)が下部胴体(5b)よりも強度の低い材料で形成されていることを特徴としている。
【0023】
第7の発明では、上記シリンダ(5)において、下部胴体(5b)のみに高圧ガスの高い圧力がかかるので、上記上部胴体(5a)を、下部胴体(5b)とは材料が異なり、且つ強度の低い材料で形成することができる。例えば、上記下部胴体(5b)を鉄で形成し、上記上部胴体(5a)をアルミニウム又は樹脂で形成してもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、上記シリンダ室(6)に第1室(6a)を区画形成することによりガス発生剤を高い圧力で反応させることが可能となる。したがって、ガス発生剤の反応が効率的に行われ、ガス圧式アクチュエータ(1)の作動性能が向上する。又、ガス発生剤の反応が効率的に行われるので、ガス発生剤の残渣を考慮してガス圧式アクチュエータ(1)の設計を行う必要がなく、ガス発生剤の量を従来よりも少なくしたり、該ガス圧式アクチュエータ(1)を小型軽量化することができる。
【0025】
又、第1室(6a)において、高い圧力でガス発生剤を反応させたとしても、上記ピストン(2)が作動する第2室(6b)において、第1室(6a)でのガス発生剤の反応に伴う急激な圧力の上昇を抑えることができる。したがって、該第2室(6b)の強度を第1室(6a)よりも下げることができる。これにより、上記第2室(6b)の小型軽量化を行うことができる。
【0026】
以上により、上記ガス圧式アクチュエータ(1)において、できるだけ重量化することなく、該ガス圧式アクチュエータの作動性能の向上を図ることができる。
【0027】
第2の発明によれば、上記閉塞部材(9a)を設けることにより、上記閉塞部材(9a)が上記連通孔(9)を開口するまでの間、上記第1室(6a)の圧力が低下しないようにすることができる。つまり、上記第1室(6a)の圧力が低下しない分だけ、ガス発生剤の反応が効率的に行われる時間を、上記閉塞部材(9a)を設けない場合に比べて長くすることができる。したがって、上記ガス発生剤の反応を確実に効率良く行うことができ、ガス発生剤の残渣を考慮してガス圧式アクチュエータ(1)の設計を行う必要がなく、該ガス圧式アクチュエータ(1)を確実に小型軽量化することができる。
【0028】
第3,4の発明によれば、上記隔壁(8)を、上記シリンダ室(6)の内面又は上記ガス発生器(3)の端面に設けることにより、シリンダ室(6)を第1室(6a)と第2室(6b)とに確実に区画することができる。したがって、上記第1室(6a)において、ガス発生剤の反応を確実に効率よく行うことができ、ガス発生剤の残渣を考慮してガス圧式アクチュエータ(1)の設計を行う必要がなく、該ガス圧式アクチュエータ(1)を確実に小型軽量化することができる。又、上記第2室(6b)において、第1室(6a)の急激な圧力上昇に起因して生じる急激な圧力上昇を確実に抑えることができ、第2室(6b)の強度を第1室(6a)よりも下げることができる。これにより、上記第2室(6b)の小型軽量化をさらに確実に行うことができる。
【0029】
第5の発明によれば、上記第2室(6b)の圧力が第1室(6a)の圧力よりも低くなるので、上記ピストン(2)を押す力も小さくなり、該ピストン(2)の動きが緩やかになる。したがって、上記ピストン(2)のストッパとして用いられるブッシュ(4)の強度を下げることができ、該ブッシュ(4)の小型軽量化を行うことができる。
【0030】
第6の発明によれば、上記下部胴体(5b)のみに高圧ガスの高い圧力がかかるようにすることができるので、上部胴体(5a)の強度を下部胴体(5b)よりも下げることができる。したがって、上記上部胴体(5a)の小型軽量化を行うことができる。
【0031】
第7の発明によれば、上記上部胴体(5a)を、下部胴体(5b)とは材料が異なり、且つ強度の低い材料で形成することができる。例えば、上記下部胴体(5b)を鉄で形成し、上記上部胴体(5a)をアルミニウム又は樹脂で形成してもよい。このように構成することで、上記上部胴体(5a)と下部胴体(5b)とを同一材料で形成する場合に比べて、小型軽量化を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0033】
本実施形態の火薬式アクチュエータ(ガス圧式アクチュエータ)(1)は、図1に示すように自動車(10)に搭載された安全装置(13)の要素機器を構成している。尚、上記安全装置(13)は、自動車(10)の前端部に衝突した歩行者の二次衝突、つまり歩行者がエンジンフード(11)を介してエンジンブロックに強く当たるのを緩和するためのものである。
【0034】
具体的に、上記安全装置(13)は、衝突検知センサ(20)とコントローラ(30)と上記火薬式アクチュエータ(1)とが電気配線で接続されて構成されている。上記衝突検知センサ(20)は、自動車(10)の前端部に設けられており、該前端部への歩行者の衝突を感知すると、コントローラ(30)へ衝突感知信号を出力するものである。又、上記コントローラ(30)は、自動車(10)のエンジンルーム(12)内に設けられており、上記衝突検知センサ(20)から衝突感知信号が入力されると、直ちに作動信号を上記火薬式アクチュエータ(1)に出力するものである。
【0035】
上記火薬式アクチュエータ(1)は、自動車(10)のエンジンルーム(12)の上方に開閉可能に設けられたエンジンフード(11)の下方に設けられており、上記コントローラ(30)から作動信号が入力されると、図2に示すように、上記エンジンフード(11)を強制的に持ち上げるものである。こうすると、歩行者が自動車(10)に衝突しても、エンジンフード(11)の下の固いエンジンブロックに強く当たるのを緩和することができる。以下、上記火薬式アクチュエータ(1)について、詳細に説明する。
【0036】
上記火薬式アクチュエータ(1)は、図3に示すように、シリンダ(5)と、該シリンダ(5)内に設けられたピストン(2)と、上記シリンダ(5)及びピストン(2)により区画形成されたシリンダ室(6)と、上記シリンダ(5)の底壁(7)に貫通して設けられたガス発生器(3)とを備えている。
【0037】
上記シリンダ(5)は、円筒状に形成され、上端部が開口し下端部が閉塞されている。そして、上端部の開口部分にはブッシュ(4)が取り付けられている。このブッシュ(4)には、その長さ方向に貫通するブッシュ孔が形成されている。尚、このブッシュ(4)は、上記ピストン(2)が上記シリンダ(5)内を進退する際に、該シリンダ(5)から抜け落ちないようにするためのストッパを構成している。
【0038】
上記ピストン(2)は、上記シリンダ(5)の内径よりも小径の円柱状に形成されたピストンロッド(2a)と、該ピストンロッド(2a)の下端(図3の下側)に接続されたピストンヘッド(2b)と、該ピストンロッド(2a)の上端(図3の上側)に接続された押圧部(2c)とで構成されている。ここで、上記ピストンヘッド(2b)及び上記押圧部(2c)は、扁平な円柱状に形成されており、該ピストンヘッド(2b)は、その外周面がシリンダ(5)の内周面に摺接するように構成されている。
【0039】
そして、上記シリンダ(5)の内側に上記ピストンヘッド(2b)が、外側に上記押圧部(2c)がそれぞれ位置している。上記ピストンロッド(2a)がブッシュ孔に挿通されて、摺動自在に支持されることにより、上記ピストン(2)は、シリンダ(5)に対して進退可能に構成される。
【0040】
上記シリンダ室(6)は、ピストンヘッド(2b)の先端面とシリンダ(5)の内周面とに囲まれて形成されている。そして、このシリンダ室(6)には、隔壁(8)が設けられており、この隔壁(8)が、シリンダ室(6)を上記ガス発生器(3)に面する高圧室(第1室)(6a)(図3の下側)と、上記ピストンヘッド(2b)に面する減圧室(第2室)(6b)(図3の上側)とに区画する。又、この隔壁(8)には、上記高圧室(6a)と減圧室(6b)とを連通する連通孔(9)が設けられている。この連通孔(9)の孔径は、後述するガス発生器(3)における燃焼前の火薬の外形よりも小さく形成されている。これにより、燃焼時に、火薬が連通孔(9)を通過して減圧室(6b)に入り込まないようにすることができる。
【0041】
上記ガス発生器(3)は、破裂可能に形成された密閉容器と、該密閉容器に収納された火薬(ガス発生剤)と、該火薬を着火燃焼させるための着火装置とを備えている(図示省略)。そして、上記着火装置には、上記コントローラ(30)から延びる電気配線(図示せず)が接続されている。上記ガス発生器(3)は、火薬の燃焼に伴って、上記密閉容器が破裂して高圧ガスが高圧室(6a)に噴出されるように構成されている。
【0042】
−運転動作−
次に、上記火薬式アクチュエータ(1)の動作について説明する。
【0043】
上記安全装置(13)の衝突検知センサ(20)が歩行者の衝突を感知すると、上記コントローラ(30)から上記火薬式アクチュエータ(1)へ作動信号が入力される。尚、該作動信号は、上記ガス発生器(3)の着火装置に入力される着火信号である。
【0044】
上記火薬式アクチュエータ(1)において、上記着火装置に着火信号が送られると、該着火装置が作動して火薬が燃焼を開始する。すると、ガス発生器(3)の密閉容器内に高圧ガスが充満し、密閉容器内の圧力が上昇して該密閉容器が破裂し、高圧ガスが高圧室(6a)に向かって噴出する。そして、この噴出した高圧ガスにより、高圧室(6a)の圧力が上昇するとともに、該高圧ガスが、上記隔壁(8)の連通孔(9)を通過して減圧されて上記減圧室(6b)に流入する。すると、減圧室(6b)の圧力も上昇し、この圧力上昇に起因してピストンヘッド(2b)が押され、図4に示すように、シリンダ(5)の前端部からピストン(2)が突出する。そして、このピストン(2)の突出により、上記ピストン(2)の押圧部(2c)が自動車(10)のエンジンフード(11)に接触して、該エンジンフード(11)を持ち上げる。
【0045】
−実施形態の効果−
本実施形態によれば、上記シリンダ室(6)に上記高圧室(6a)を区画形成することにより、ガス発生器(3)の密閉容器が破裂した後でも火薬付近を一時的に高圧に保つことができる。したがって、密閉容器が破裂した後でも、火薬の燃焼状態を良好に保つことができ、該火薬の残渣を抑え、確実に燃焼させることができる。
【0046】
これにより、火薬の残渣が抑えられるので、残渣を考慮して火薬式アクチュエータ(1)の設計を行う必要がなく、火薬の量を従来よりも少なくしたり、該火薬式アクチュエータ(1)を従来よりも小型軽量化することができる。
【0047】
又、本実施形態によれば、上記隔壁(8)に連通孔(9)を設けることにより、上記高圧室(6a)の高圧ガスを減圧して、上記減圧室(6b)へ流入させることができる。したがって、火薬の燃焼に伴い、上記高圧室(6a)の圧力が急上昇したとしても、上記減圧室(6b)の圧力は急上昇しないので、該減圧室(6b)の強度を高圧室(6a)よりも下げることができる。これにより、上記減圧室(6b)の小型軽量化を行うことができる。
【0048】
又、本実施形態によれば、上記減圧室(6b)の圧力を、高圧室(6a)に比べて低くできるので、上記ピストン(2)を押す力も小さくなる。したがって、上記ピストン(2)の動きが緩やかになり、該ピストン(2)のストッパとして用いられるブッシュ(4)の強度を従来よりも下げることができ、該ブッシュ(4)の小型軽量化を行うことができる。
【0049】
−実施形態の変形例1−
図5は、実施形態の変形例1に係る火薬式アクチュエータ(21)を示す縦断面図である。
【0050】
本実施形態と、実施形態の変形例1との違いは、上記シリンダ(5)が分割したものを接続して形成されている点である。以下、変更点についてのみ説明する。
【0051】
上記シリンダ(5)は、上部シリンダ(上部胴体)(5a)と下部シリンダ(下部胴体)(5b)とが接続されて形成されている。そして、上記上部シリンダ(5a)には減圧室(6b)が設けられ、上記下部シリンダ(5b)には高圧室(6a)とガス発生器(3)とが設けられている。又、上記上部シリンダ(5a)と上記下部シリンダ(5b)との間には上記連通孔(9)を有する隔壁(8)が設けられている。
【0052】
実施形態の変形例1では、上記減圧室(6b)を有する上部シリンダ(5a)の強度を、高圧室(6a)を有する上記下部シリンダ(5b)よりも下げることができる。したがって、上記上部シリンダ(5a)の小型軽量化を行うことができる。尚、小型軽量化を行うにあたり、例えば、上記下部シリンダ(5b)を鉄で形成し、上記上部シリンダ(5a)をアルミニウム、又は樹脂で形成してもよい。
【0053】
−実施形態の変形例2−
図6は、実施形態の変形例2に係る火薬式アクチュエータ(20)を示す縦断面図である。
【0054】
本実施形態と、実施形態の変形例2との違いは、上記隔壁(8)の連通孔(9)が、閉塞板(閉塞部材)(9a)で塞がれている点である。尚、この閉塞板(9a)は、上記隔壁(8)よりも低い強度で形成されている。該閉塞板(9a)は、上記ガス発生器(3)から噴出した高圧ガスにより高圧室(6a)が所定の圧力以上となった時に破裂して、該連通孔(9)を開口するように構成されている。
【0055】
実施形態の変形例2では、上記閉塞板(9a)を設けることにより、該閉塞板(9a)が破裂して上記連通孔(9)が開口するまでの間、上記高圧室(6a)の圧力が低下しないようにすることができる。したがって、上記高圧室(6a)の圧力が低下しない分だけ、火薬の燃焼が効率的に行われる時間を、上記閉塞板(9a)を設けない場合に比べて長くすることができる。
【0056】
以上より、火薬の燃焼をさらに効率良く行うことができ、火薬の残渣を考慮して火薬式アクチュエータ(20)の設計を行う必要がなく、該火薬式アクチュエータ(20)を確実に小型軽量化することができる。
【0057】
−実施形態の変形例3−
図7は、実施形態の変形例3に係る火薬式アクチュエータ(25)を示す縦断面図である。
【0058】
本実施形態と、実施形態の変形例3との違いは、上記隔壁(8)が、上記シリンダ(5)の内面ではなく、上記ガス発生器(3)の端面に設けられている。ここで、上記ガス発生器(3)は、一部が開口した密閉容器(3c)と、該密閉容器(3c)内に収納された火薬(3a)と、該火薬(3a)の内部に挿入されて該火薬(3a)を着火するための電線(3d)とを備えている。又、上記密閉容器(3c)において、開口した一部を閉塞する閉塞板(3b)が設けられている。
【0059】
実施形態の変形例3では、上記隔壁(8)が必ずしも上記シリンダ(5)の内面に設ける必要はなく、上記ガス発生器(3)の端面に設けられてもよい。この場合、上記高圧室(6a)は、上記ガス発生器(3)の密閉容器(3c)内に区画形成され、上記減圧室(6b)は、上記密閉容器(3c)の外側であってシリンダ室内に区画形成される。このような構成であっても、本実施形態と同様の作用、及び効果を得ることができる。
【0060】
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0061】
本実施形態では、上記ガス発生器(3)において、ガス発生剤として火薬を用いたが、これに限定されず、反応によりガスを発生するものであればよい。
【0062】
本実施形態では、上記ピストン(2)において、ピストンロッド(2a)にピストンヘッド(2b)を接続しているが、必ずしも接続する必要はなく、該ピストンロッド(2a)とピストンヘッド(2b)とが別部材で接続されていないものであって、作動時にピストンヘッド(2b)がピストンロッド(2a)を押し出すように構成されているものであってもよい。
【0063】
本実施形態では、上記シリンダ(5)と上記隔壁(8)とが別部材で構成されているが、これに限定されず、該シリンダ(5)と隔壁(8)とが一体形成されてもよい。
【0064】
本実施形態では、上記隔壁(8)に連通孔(9)が一つだけ設けられているが、これに限定されず、複数の連通孔(9)を設けてもよい。尚、複数の連通孔(9)を設ける場合には、連通孔(9)を一つだけ設ける場合に比べて、孔径を小さくするのが好ましい。
【0065】
つまり、火薬がより通過しないようにするために、一つだけ設けられた連通孔(9)の孔径を小さくすると、高圧ガスの噴出開口面積が必要最小限の噴出開口よりも小さくなる可能性がある。しかしながら、上記連通孔(9)を複数設けることにより、各連通孔(9)の孔径を小さくしつつ、各連通孔(9)の噴出開口面積を合計したもので必要最小限の噴出開口面積に保つことができる。
【0066】
本実施形態の変形例2では、上記隔壁(8)と閉塞板(9a)とが別部材で構成されているが、これに限定されず、上記隔壁(8)と閉塞板(9a)とが一体形成されてもよい。この場合、連通孔(9)に相当する箇所の強度を意図的に低くして、高圧室(6a)が所定の圧力以上となった時に、その箇所が破裂して、上記高圧室(6a)と減圧室(6b)とが連通するように構成するのが好ましい。
【0067】
又、本実施形態の変形例2では、高圧ガスにおける所定の圧力で破裂するように形成された閉塞板(9a)で、上記隔壁(8)の連通孔(9)を塞いでいるが、必ずしもこれに限定する必要はなく、例えば、上記連通孔(9)を塞ぐものが、上記所定の圧力で連通孔(9)から外れるような蓋体又は栓体であってもよい。
【0068】
本実施形態では、上記シリンダ室(6)を上記高圧室(6a)と減圧室(6b)とに区画形成することにより、火薬式アクチュエータ(1)の小型軽量化を図っているが、これに限定する必要はなく、従来と同一の大きさで作動性能を向上させてもよい。
【0069】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上説明したように、本発明は、ガス圧式アクチュエータについて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】実施形態に係る火薬式アクチュエータが設けられた自動車の前方部を示す側面図である。
【図2】自動車のエンジンフードが押し上げられた状態を示す側面図である。
【図3】実施形態に係る火薬式アクチュエータを示す縦断面図である。
【図4】実施形態に係る火薬式アクチュエータの動作状態を説明するための縦断面図である。
【図5】実施形態の変形例1に係る火薬式アクチュエータを示す縦断面図である。
【図6】実施形態の変形例2に係る火薬式アクチュエータを示す縦断面図である。
【図7】実施形態の変形例3に係る火薬式アクチュエータを示す縦断面図である。
【図8】従来の火薬式アクチュエータを示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0072】
1 火薬式アクチュエータ(ガス圧式アクチュエータ)
2 ピストン
2a ピストンロッド
2b ピストンヘッド
2c 押圧部
3 ガス発生器
4 ブッシュ
5 シリンダ
6 シリンダ室
6a 高圧室(第1室)
6b 減圧室(第2室)
8 隔壁
9 連通孔
10 自動車
11 エンジンフード
12 エンジンルーム
13 安全装置
20 衝突検出センサ
30 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ(5)と、該シリンダ(5)内を進退可能なピストンヘッド(2b)とピストンロッド(2a)とを有するピストン(2)と、上記シリンダ(5)とピストンヘッド(2b)により区画形成されるシリンダ室(6)にガス発生剤の反応に伴って高圧ガスを噴出するガス発生器(3)とを備えたガス圧式アクチュエータであって、
上記シリンダ室(6)を、上記ガス発生剤を含む第1室(6a)と該ガス発生剤から隔てられた第2室(6b)とに区画する隔壁(8)を有し、該隔壁(8)には上記第1室(6a)と第2室(6b)とを連通する連通孔(9)が設けられていることを特徴とするガス圧式アクチュエータ。
【請求項2】
請求項1において、
上記連通孔(9)を塞ぐ閉塞部材(9a)を有し、該閉塞部材(9a)は、上記ガス発生器(3)から噴出される高圧ガスにより、上記第1室(6a)が所定の圧力以上となった時に、該連通孔(9)を開口するように構成されていることを特徴とするガス圧式アクチュエータ。
【請求項3】
請求項1又は2において、
上記隔壁(8)は、シリンダ室(6)の内面に設けられていることを特徴とするガス圧式アクチュエータ。
【請求項4】
請求項1又は2において、
上記隔壁(8)は、シリンダ室(6)の内部に位置するように、上記ガス発生器(3)の端面に設けられていることを特徴とするガス圧式アクチュエータ。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一つにおいて、
上記シリンダ(5)の端部に取り付けられて該ピストンロッド(2a)を摺動可能に保持するとともに該ピストンヘッド(2b)のストッパとして用いられるブッシュ(4)を備えていることを特徴とするガス圧式アクチュエータ。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一つにおいて、
上記シリンダ(5)が、上部胴体(5a)と該上部胴体(5a)に接続された下部胴体(5b)とで形成され、
上記上部胴体(5a)と上記下部胴体(5b)との間に上記隔壁(8)が設けられ、
上記下部胴体(5b)に、上記第1室(6a)と上記ガス発生器(3)とが設けられていることを特徴とするガス圧式アクチュエータ。
【請求項7】
請求項6において、
上記上部胴体(5a)と下部胴体(5b)とが互いに異なる材料で形成され、該上部胴体(5a)が下部胴体(5b)よりも強度の低い材料で形成されていることを特徴とするガス圧式アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−63010(P2009−63010A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−228794(P2007−228794)
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】