説明

ガス増幅を用いた放射線検出器、及びガス増幅を用いた放射線の検出方法

【課題】放射線に入射角度に依存することなく当該放射線の入射方向を同定することができるとともに、検出感度の高い新規な構成のガス増幅を用いた放射線検出器を提供する。
【解決方法】1つの絶縁部材の一面に円形状の複数の開口部を有する第1の電極パターン、及び絶縁部材の他面上に形成されるとともに、絶縁部材を貫通し、第1の電極パターンの複数の開口部それぞれの中心部に先端が露出してなる複数の凸状部を有する第2の電極パターンを含み、第1の電極パターンの、複数の開口部及び第2の電極パターンの、複数の開口部それぞれに露出した複数の突状部によって複数のピクセル電極が形成されてなる検出電極を、所定の絶縁中間部材を介して当該部材の表裏に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピクセル型電極によるガス増幅を用いた放射線検出器、及びその放射線検出器を用いた検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス増幅を利用した放射線検出器として、従来、ピクセル型の放射線検出器が用いられてきた。この放射線検出器は、例えば両面プリント基板の表面に複数のストリップ状陰極電極が形成されて所定の電極パターンを形成するとともに、裏面に複数のストリップ状陽極が形成されて所定の電極パターンを形成し、各ストリップ状陰極電極には、一定間隔に開口部が形成され、開口部の中心には裏面の各ストリップ状陽極と接続されている円柱状陽極電極が突出し、上記ストリップ状陰極電極の開口部に露出した端面と上記ストリップ状陽極に接続された円柱状陽極電極とによって、いわゆるピクセル電極が形成されたような構成を採っている。
【0003】
なお、上記放射線検出器は、例えばHeとメタンとの混合ガス中に配置される。また、上記ピクセル電極、具体的には円柱状陽極電極には例えば+450〜800Vの電圧が印加されている。
【0004】
上記放射線検出器においては、所定の放射線が検出器内に入射すると、ガスが電離して電子を生成し、この電子は、上記ピクセル電極、具体的には円柱状陽極電極に印加された大電圧、及び上記ピクセル電極を構成する円柱状陽極電極の点電極としての形態(形状異方性)に起因して生成される強力な電場によって、電子雪崩増幅を引き起こす。一方、電子雪崩増幅によって生じた正イオンは、周囲のストリップ状陰極電極向けてドリフトする。
【0005】
この結果、対象となるピクセル電極のストリップ状陰極電極及び円柱状陽極電極には、それぞれ正孔と電子とがチャージされる。この電荷が生成されたピクセル電極の位置を検出することによって、放射線の検出器における入射位置を特定することができ、放射線の検出が可能となる(特許文献1)。また、放射線が放射線検出器における2以上のピクセル電極で検出されることによって、放射線の入射方向を知ることができる。
【0006】
しかしながら、上述した放射線検出器の構成から明らかなように、ピクセル電極は放射線検出器上において平面配置されているため、ピクセル電極に印加された電圧によって強力な電場が生成されるとしても、入射する放射線が2以上のピクセル電極によって検出されるためには、放射線によって電離したガスの電子がピクセル電極に十分に到達できるように、放射線の放射線検出器に対する入射角度が小さくなければならない。したがって、もし、放射線検出器に対する放射線の入射角度が大きい場合は、放射線検出器の2以上のピクセル電極で検出することができないため、放射線の入射方向を十分に知ることができない場合がある。
【0007】
また、放射線検出器におけるピクセル電極の配置密度が小さいと、入射した放射線の、ガス分離によって生成した電子がピクセル電極によって増幅(電子雪崩増幅)されずに、前記放射線は放射線検出器で検出されることなく、当該放射線検出器を透過してしまうような場合が生じる。
【0008】
さらに、一般的な放射線、例えば低エネルギーのγ線などの放射線は、ガス分離の度合いが小さいため、電子をほとんど生成しないか、生成したとしても僅かであり、ピクセル電極によって増幅(電子雪崩増幅)に供されないような場合が生じる。
【0009】
したがって、これらの場合には、放射線検出器の検出感度が劣化してしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−6047号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、放射線に入射角度に依存することなく当該放射線の入射方向を同定することができるとともに、検出感度の高い新規な構成のガス増幅を用いた放射線検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成すべく、本発明は、
第1の絶縁部材の、第1の面上に形成されるとともに、円形状の複数の開口部を有する第1の電極パターン、及び前記第1の絶縁部材の、前記第1の面と相対向する第2の面上に形成されるとともに、前記第1の絶縁部材を貫通し、前記第1の電極パターンの前記複数の開口部それぞれの中心部に先端が露出してなる複数の凸状部を有する第2の電極パターンを含み、前記第1の電極パターンの、前記複数の開口部それぞれに露出した複数の端面及び前記第2の電極パターンの、前記複数の開口部それぞれに露出した前記複数の突状部によって複数の第1のピクセル電極が形成されてなる第1の検出電極と、
前記第1の絶縁部材と絶縁中間部材を介して配置された第2の絶縁部材の、前記絶縁中間部材と相対する側に位置する第1の面上に形成されるとともに、円形状の複数の開口部を有する第3の電極パターン、及び前記第2の絶縁部材の、前記第1の面と相対向し、前記絶縁中間部材の側に位置する第2の面上に形成されるとともに、前記第2の絶縁部材を貫通し、前記第3の電極パターンの、前記複数の開口部それぞれの中心部に先端が露出してなる複数の凸状部を有する第4の電極パターンを含み、前記第3の電極パターンの、前記複数の開口部それぞれに露出した複数の端面及び前記第4の電極パターンの、前記複数の開口部それぞれに露出した前記複数の突状部によって複数の第2のピクセル電極が形成されてなる第2の検出電極と、
を具えることを特徴とする、ガス増幅を用いた放射線検出器に関する。
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を実施した。その結果、従来のガス増幅を用いた放射線検出器において、ピクセル電極を検出器の一面側に形成することに加えて、検出器の他面側に形成することにより、上記目的を達成することを見出した。
【0014】
すなわち、1つの絶縁部材の一面に円形状の複数の開口部を有する第1の電極パターン、及び絶縁部材の他面上に形成されるとともに、絶縁部材を貫通し、第1の電極パターンの複数の開口部それぞれの中心部に先端が露出してなる複数の凸状部を有する第2の電極パターンを含み、第1の電極パターンの、複数の開口部それぞれに露出した複数の端面及び第2の電極パターンの、複数の開口部それぞれに露出した複数の突状部によって複数のピクセル電極が形成されてなる検出電極を、所定の絶縁中間部材を介して当該部材の表裏に形成することにより、上述のような表裏にピクセル電極が形成された放射線検出器を得ることができる。
【0015】
この場合、放射線検出器に入射する放射線の入射角度が大きいような場合においても、当該放射線は、放射線検出器の一面側のピクセル電極及び他面側のピクセル電極によって検出できるようになるので、これら2つのピクセル電極間を結ぶ線分の角度を計測することにより、上記放射線の放射線検出器に対する入射角度、すなわち入射方向を同定することができるようになる。
【0016】
なお、放射線検出器に入射する放射線の入射角度が小さいような場合は、従来のように、一面側のピクセル電極によって、放射線の放射線検出器に対する入射角度、すなわち飛翔角度を同定することができるようになる。
【0017】
前者の放射線検出の方法は、本発明においては、以下に示すような検出方法として特徴づけることができる。
【0018】
すなわち、
第1の絶縁部材の、第1の面上に形成されるとともに、円形状の複数の開口部を有する第1の電極パターン、及び前記第1の絶縁部材の、前記第1の面と相対向する第2の面上に形成されるとともに、前記第1の絶縁部材を貫通し、前記第1の電極パターンの前記複数の開口部それぞれの中心部に先端が露出してなる複数の凸状部を有する第2の電極パターンを含む第1の検出電極の、前記第1の電極パターンにおける前記複数の開口部それぞれに露出した複数の端面及び前記第2の電極パターンにおける前記複数の開口部それぞれに露出した前記複数の突状部によって形成されてなる複数の第1のピクセル電極の少なくとも1つにおいて放射線を検出ステップと、
前記第1の絶縁部材と絶縁中間部材を介して配置された第2の絶縁部材の、前記絶縁中間部材と相対する側に位置する第1の面上に形成されるとともに、円形状の複数の開口部を有する第3の電極パターン、及び前記第2の絶縁部材の、前記第1の面と相対向し、前記絶縁中間部材の側に位置する第2の面上に形成されるとともに、前記第2の絶縁部材を貫通し、前記第3の電極パターンの、前記複数の開口部それぞれの中心部に先端が露出してなる複数の凸状部を有する第4の電極パターンを含む第2の検出電極の、前記第3の電極パターンにおける前記複数の開口部それぞれに露出した複数の端面及び前記第4の電極パターンにおける前記複数の開口部それぞれに露出した前記複数の突状部によって形成される複数の第2のピクセル電極の少なくとも1つにおいて前記放射線を検出するステップと、
前記放射線を検出した前記少なくとも1つの第1のピクセル電極及び前記少なくとも1つの第2のピクセル電極間を結ぶ線分の角度を計測することにより、前記放射線の入射方向を同定するステップと、
を具えることを特徴とする、ガス増幅を用いた放射線の検出方法である。
【0019】
また、本発明の放射線検出器においては、検出器の表裏にピクセル電極を設けるようにしているので、実質的にピクセル電極の配置密度が増大することになる。したがって、入射した放射線の、ガス分離によって生成した電子がピクセル電極によって増幅(電子雪崩増幅)される割合が増大するようになるので、前記放射線は放射線検出器で検出されることなく、当該放射線検出器を透過してしまうような場合を抑制することができる。
【0020】
さらに、低エネルギーのγ線などのガス分離の度合いが小さい放射線の場合でも、検出器の表裏において2度ガス分離を行うようになるので、生成する電子の割合が増大する。したがって、放射線が検出器の一面側から入射した場合において、当該放射線は検出器の一面側のみでなく他面側でもガス分離を行うようになるので、少なくとも検出器の他面側におけるガス分離による電子生成の割合が増大し、他面側に設けたピクセル電極によって電子雪崩増幅に供されて、検出できるようになる割合が増大する。
【0021】
したがって、本発明の放射線検出器によれば、放射線の検出感度を増大させることができる。
【0022】
なお、上記説明における放射線検出器の“表”及び“裏”なる表現は説明の便宜上用いたものであり、上述した本発明の放射線検出器においても、“表”及び“裏”なる文言を使用していないように、放射線検出器自体には表及び裏は存在せず、使用に関する便宜上の観点から適宜用いているに過ぎない。
【0023】
本発明の一態様において、第2の検出電極における各第2のピクセル電極の少なくとも一部は、第1の検出電極の、最も近接した4つの第1のピクセル電極の中心間を結ぶ線分によって画定される領域内に位置することが好ましく、さらには上記領域内の中央に位置することが好ましく、特には第2の検出電極における各第2のピクセル電極の外縁(第3の電極パターンの開口部に露出した端面)が、上記領域内において、最も近接した4つの第1のピクセル電極の外縁(第1の電極パターンの開口部に露出した端面)と重複するようにして位置することが好ましい。
【0024】
これらの場合、放射線検出器の一面側に設けた第1のピクセル電極の間隙に、他面側に設けた第2のピクセル電極が、順次に当該間隙をより完全に埋めるようにして配置されることになるので、放射線検出器の一面側のピクセル電極で検出できなかった放射線が、間隙を抜けて他面側のピクセル電極で検出されなくなる割合が低減し、当該他面側のピクセル電極でより完全に検出することができるようになる。したがって、本発明の放射線検出器による検出感度を向上させることができる。
【0025】
また、放射線検出器に入射する放射線の入射角度が極端に大きくないような場合において、当該放射線は、放射線検出器の一面側のピクセル電極及び他面側のピクセル電極によって確実に検出できるようになるので、上記放射線の放射線検出器に対する入射角度、すなわち入射方向をより確実に同定することができるようになる。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本発明によれば、放射線に入射角度に依存することなく当該放射線の入射方向を同定することができるとともに、検出感度の高い新規な構成のガス増幅を用いた放射線検出器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のガス増幅を用いた放射線検出器の一例における概略構成を示す上平面図である。
【図2】図1に示すガス増幅を用いた放射線検出器のI−I線に沿った断面図である。
【図3】図1及び図2に示すガス増幅を用いた放射線検出器の、放射線検出方法を説明するための図である。
【図4】本発明のガス増幅を用いた放射線検出器の他の例における概略構成を示す上平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の特徴及びその他の利点について、発明を実施するための形態に基づいて説明する。
【0029】
(第1の実施形態)
図1は、本発明のガス増幅を用いた放射線検出器の一例における概略構成を示す上平面図であり、図2は、図1に示す放射線検出器のI−I線に沿って場合の断面図である。なお、上記放射線検出器を下方から見た場合の図は、図1に示す上平面図と同じであるので、ここでは省略する。
【0030】
図1に示すように、本実施形態のガス増幅を用いた放射線検出器10は、絶縁中間部材13を介して、その一方の側に第1の検出電極11が設けられ、その他方の側に第2の検出電極12が設けられている。
【0031】
第1の検出電極11は、第1の絶縁部材111の一面に、複数の第1のストリップ状電極112が互いに平行に配列されてなる第1の電極パターンを有するとともに、第1の絶縁部材111の他面に、複数の第2のストリップ状電極113が互いに平行かつ複数の第1のストリップ状電極112と直交するようにして配列されてなる第2の電極パターンを有している。
【0032】
複数の第1のストリップ状電極112には、それぞれ所定のピッチで複数の開口部112Aが形成されるとともに、複数の第1のストリップ状電極112の端面112Bは、それぞれ複数の開口部112Aに露出するようにしている。複数の第2のストリップ状電極113は、複数の開口部112Aそれぞれの中心部に先端が露出してなる複数の凸状部113Aを含んでいる。各開口部112Aに露出した各第1のストリップ状電極112の各端面112B及び各開口部112Aの中心に露出した凸状部113Aは第1のピクセル電極115を構成する。
【0033】
第2の検出電極12は、第1の検出電極11と同様に、第1の絶縁部材121の一面に、複数の第3のストリップ状電極122が互いに平行に配列されてなる第3の電極パターンを有するとともに、第2の絶縁部材121の他面に、複数の第4のストリップ状電極123が互いに平行かつ複数の第3のストリップ状電極122と直交するようにして配列されてなる第4の電極パターンを有している。
【0034】
複数の第3のストリップ状電極122には、それぞれ所定のピッチで複数の開口部122Aが形成されるとともに、複数の第3のストリップ状電極122の端面122Bは、それぞれ複数の開口部122Aに露出するようにしている。複数の第4のストリップ状電極123は、複数の開口部112Aそれぞれの中心部に先端が露出してなる複数の凸状部123Aを含んでいる。各開口部122Aに露出した各第3のストリップ状電極122の各端面122B及び各開口部122Aの中心に露出した凸状部123Aは第2のピクセル電極125を構成する。
【0035】
また、本実施形態では、第2の検出電極12における第2のピクセル電極125それぞれの少なくとも一部は、第1の検出電極11の、最も近接した4つの第1のピクセル電極115の中心115O間を結ぶ線分Sによって画定される領域D内の中央に位置している。
【0036】
なお、本実施形態では、第1の検出電極11における第1のストリップ状電極112と、第2の検出電極12における第3のストリップ状電極122とは、形成位置が互いにずれていることを除き、配列方向及び開口部112A及び122Aの大きさ、形状等は同一としている。また、第1の検出電極11における第2のストリップ状電極113と、第2の検出電極12における第4のストリップ状電極123とは、形成位置が互いにずれていることを除き、配列方向及び凸状部113A及び123Aの大きさ、形状等は同一としている。これによって、第1の検出電極11における検出感度及び第2の検出電極12における検出感度を互いに同一としている。
【0037】
但し、これらの要件は必須ではなく、必要に応じて、第1のストリップ状電極112及び第2のストリップ状電極113を密に配置及び形成し、第1の検出電極の検出感度を第2の検出電極の検出感度よりも増大させるようにすることもできるし、その逆も可能である。
【0038】
第1の検出電極11における第1の絶縁部材111及び第2の検出電極12における第2の絶縁部材121の厚さは、それぞれ例えば20μm〜100μmとすることができる。また、絶縁中間部材13の厚さは30μm〜800μmとすることができる。第1の検出電極11における第1のストリップ状電極112及び第2のストリップ状電極113、並びに第2の検出電極12における第3のストリップ状電極122及び第4のストリップ状電極123の厚さは、それぞれ5μm〜20μmとすることができる。
【0039】
また、第1のストリップ状電極112の開口部112Aの直径及び第3のストリップ状電極122の開口部122Aの直径は、それぞれ例えば80μm〜300μmとすることができ、第2のストリップ状電極113の凸状部113Aの端面及び第4のストリップ状電極123の凸状部123Aの端面と、第1のストリップ状電極112の開口部112Aの端面112B及び第2のストリップ状電極122の開口部122Aの端面122Bとの距離は、それぞれ例えば20μm〜130μmとすることができる。
【0040】
したがって、上述した第1のピクセル電極115及び第2のピクセル電極125の大きさは、開口部112A及び開口部122Aの直径によって画定されるので、それぞれ例えば80μm〜300μmとすることができる。
【0041】
第1のストリップ状電極112、第2のストリップ状電極113、第3のストリップ状電極122及び第4のストリップ状電極123は、銅、金、銀、ニッケル、アルミニウム等の導電性部材から構成することができる。また、第1の絶縁部材111、第2の絶縁部材121及び節煙中間部材13は、熱硬化性樹脂のフィルムあるいはシートから構成することができる。
【0042】
次に、図1及び図2に示す放射線検出器を用いた放射線の検出方法を従来の検出方法と比較して説明する。
【0043】
なお、放射線の検出に際しては、第1のストリップ状電極112及び第2のストリップ状電極113間、並びに第3のストリップ状電極122及び第4のストリップ状電極123間には所定の電圧、例えば600V程度の電圧を印加する。この場合、第1のストリップ状電極112及び第3のストリップ状電極122をカソードとし、第2のストリップ状電極113及び第4のストリップ状電極223をアノードとすることもできるし、第1のストリップ状電極112及び第3のストリップ状電極122をアノードとし、第2のストリップ状電極113及び第4のストリップ状電極223をカソードとすることもできる。
【0044】
但し、以下に説明する電子の電子雪崩増幅を引き起こすには、第2のストリップ状電極113の凸状部113A及び第4のストリップ状電極123の凸状部123Aの点電極としての形状が極めて重要な役割を果たすようになるので、第1のストリップ状電極112及び第3のストリップ状電極122をカソードとし、第2のストリップ状電極113及び第4のストリップ状電極223をアノードとすることが好ましい。したがって、後者の好ましい場合を前提に、放射線の検出方法について説明する。
【0045】
図3は、図1及び図2に示す放射線検出器を用いた放射線の検出方法を説明するための図である。
【0046】
図1及び図2に示す放射線検出器10は、例えばHeとメタンとの混合ガス雰囲気中に配置されているので、放射線検出器10に放射線Rが入射すると、放射線はガスと衝突することによってガスを電離し、電子を生成する。生成した電子は、放射線検出器10の第1の検出電極11における第2のストリップ状電極113の凸状部113A、すなわち第1のピクセル電極115で生成された大きな電場によって、電子雪崩を引き起こし、凸状部113Aに溜まるようになる。一方、電子雪崩によって生じた正イオンは、凸状部113Aから周囲の第1のストリップ状電極112の端面112Bに向けてドリフトする。
【0047】
この結果、第1のストリップ状電極112及び第2のストリップ状電極113の凸状部113Aにそれぞれ正孔と電子がチャージされるようになるので、凸状部113A、すなわち第1のピクセル電極115の位置を図示しない電荷検出回路で検出することによって、上記放射線の放射線検出器10の第1の検出電極11における入射位置を特定することができる。
【0048】
一方、放射線検出器10に入射した上記放射線は、ガスを電離して電子を生成した後、放射線検出器10を透過して放射線検出器10の第2の検出電極12側に至る。この場合も、第1の検出電極11の場合と同様に、放射線はガスと衝突して電離し、電子を生成する。そして、電子雪崩によって、第3のストリップ状電極122及び第4のストリップ状電極123の凸状部123Aにそれぞれ正孔と電子がチャージされるようになるので、第2のピクセル電極125の位置を図示しない電荷検出回路で検出することによって、上記放射線の放射線検出器10の第2の検出電極12における入射位置を特定することができる。
【0049】
したがって、上述のようにして、第1の検出電極11における放射線の入射位置及び第2の検出電極12における放射線の入射位置を特定できるので、第1の検出電極11における放射線が入射した(放射線を検出した)第1のピクセル電極115と、第2の検出電極12における放射線が入射した(放射線を検出した)第2のピクセル電極125とを結ぶ線分の角度を計測することにより、上記放射線の入射方向を同定することができる。
【0050】
これによって、従来困難であった、放射線検出器に入射する放射線の入射角度が大きいような場合においても、当該放射線は、放射線検出器の一面側のピクセル電極及び他面側のピクセル電極によって検出できるようになるので、上記放射線の放射線検出器に対する入射角度、すなわち入射方向を同定することができるようになる。
【0051】
なお、従来の放射線検出器では、例えば図1及び図2に示す放射線検出器10の第2の検出電極12がないために、放射線の入射角度が大きいような場合には、第1の検出電極11の1つのピクセル電極115での入射位置しか知ることができないので、放射線の入射角度、すなわち放射線の入射方向を十分に知ることができない。
【0052】
放射線検出器10に入射する放射線Rの入射角度が小さいような場合(図中の破線で示す)は、従来のように、一面側のピクセル電極、すなわち、例えば第1の検出電極11に形成された隣接する2つのピクセル電極115によって、放射線Rの放射線検出器10に対する入射角度、すなわち飛翔角度を同定することができるようになる。
【0053】
また、本実施形態の放射線検出器10では、中間絶縁部材13を介し、その両面に複数の第1のピクセル電極115を含む第1の検出電極11及び複数の第2のピクセル電極125を含む第2の検出電極12が形成されているので、放射線検出器10のピクセル電極の配置密度が実質的に増大することになる。したがって、入射した放射線Rの、ガス分離によって生成した電子がピクセル電極115及び125によって増幅(電子雪崩増幅)される割合が増大するようになるので、放射線Rが放射線検出器10で検出されることなく、当該放射線検出器10を透過してしまうのを抑制することができる。
【0054】
さらに、放射線Rがガス分離の度合いが小さい一般的な放射線、例えば低エネルギーのγ線などの放射線などの場合でも、放射線検出器10の表裏において2度ガス分離を行うようになるので、生成する電子の割合が増大する。したがって、放射線Rが放射線検出器10の、例えば第1の検出電極11側から入射した場合において、放射線Rは放射線検出器10の第2の検出電極12側でもガス分離を行うようになるので、少なくとも射線検出器10の第2の検出電極12側におけるガス分離による電子生成の割合が増大し、第2の検出電極12における第2のピクセル電極125による電子雪崩増幅に供されて、検出できるようになる割合が増大する。
【0055】
したがって、本実施形態の放射線検出器によれば、放射線の検出感度をも増大させることができる。
【0056】
なお、本実施形態の放射線検出器10では、第2の検出電極12の各ピクセル電極125が、第1の検出電極11の、最も近接した4つの第1のピクセル電極115の中心115O間を結ぶ線分Sによって画定される領域D内の中央に位置しているので、第1のピクセル電極115の間隙を、第2のピクセル電極125が埋めるようにして配置されている。したがって、放射線検出器10の第1のピクセル電極115、すなわち第1の検出電極11で検出できなかった放射線が、間隙を抜けて第2のピクセル電極125、すなわち第2の検出電極12で検出されなくなる割合が低減し、第2の検出電極12でより完全に検出することができるようになる。したがって、本実施形態の放射線検出器10による検出感度を向上させることができる。
【0057】
また、放射線検出器10に入射する放射線Rの入射角度が極端に大きくないような場合において、当該放射線Rは、放射線検出器10の第1の検出電極11の第1のピクセル電極115及び第2の検出電極12の第2の検出電極125によって確実に検出できるようになるので、放射線Rの放射線検出器10に対する入射角度、すなわち入射方向をより確実に同定することができるようになる。
【0058】
(第2の実施形態)
図4は、本発明のガス増幅を用いた放射線検出器の他の例における概略構成を示す上平面図である。
【0059】
図4に示すように、本実施形態のガス増幅を用いた放射線検出器20においては、第2の検出電極12の各ピクセル電極125が、第1の検出電極11の、最も近接した4つの第1のピクセル電極115の中心115O間を結ぶ線分Sによって画定される領域D内の中央に位置し、さらに各ピクセル電極125の外縁125S(第3の電極パターン、すなわち第3のストリップ状電極122の開口部122Aに露出した端面122B)が領域Dを画定する4つの第1のピクセル電極115の外縁115S(第1の電極パターン、すなわち第1のストリップ状電極112の開口部112Aに露出した端面112B)と重複するようにして形成されている。
【0060】
したがって、第1の実施形態における放射線検出器10に比較して、第1のピクセル電極115の間隙を、第2のピクセル電極125でより完全に埋めることができるので、第1の検出電極11で検出できなかった放射線が、間隙を抜けて第2のピクセル電極125、すなわち第2の検出電極12で検出されなくなる割合が低減し、第2の検出電極12でより完全に検出することができるようになる。したがって、本実施形態の放射線検出器20による検出感度をより向上させることができる。
【0061】
また、放射線検出器20に入射する放射線Rの入射角度が極端に大きくないような場合において、当該放射線Rは、放射線検出器20の第1の検出電極11の第1のピクセル電極115及び第2の検出電極12の第2の検出電極125によってより確実に検出できるようになるので、放射線Rの放射線検出器20に対する入射角度、すなわち入射方向をより確実に同定することができるようになる。
【0062】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいて、あらゆる変形や変更が可能である。
【0063】
例えば、上記実施形態では、第2の検出電極12における各第2のピクセル電極125を、第1の検出電極11の最も近接する4つの第1のピクセル電極115の中心115Oを結ぶ線分で画定された領域Dの中心に配置するようにしているが、各第2のピクセル電極125の少なくとも一部が領域D内に位置するようにすることにより、上述した作用効果を奏することはできる。しかしながら、上記実施形態で示したように、各第2のピクセル電極125を領域Dの中心に配置することによって、上述した作用効果をより顕著に奏することができる。
【符号の説明】
【0064】
10、20 ガス増幅を用いた放射線検出器
11 第1の検出電極
111 第1の絶縁部材
112 第1のストリップ状電極
112A 第1のストリップ状電極に形成された開口部
112B 第1のストリップ状電極の開口部に露出した端面
113 第2のストリップ状電極
113A 第2のストリップ状電極の凸状部
115 第1のピクセル電極
12 第2の検出電極
121 第2の絶縁部材
122 第3のストリップ状電極
122A 第1のストリップ状電極に形成された開口部
122B 第1のストリップ状電極の開口部に露出した端面
123 第4のストリップ状電極
123A 第4のストリップ状電極の凸状部
125 第2のピクセル電極
E 電界
R 放射線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の絶縁部材の、第1の面上に形成されるとともに、円形状の複数の開口部を有する第1の電極パターン、及び前記第1の絶縁部材の、前記第1の面と相対向する第2の面上に形成されるとともに、前記第1の絶縁部材を貫通し、前記第1の電極パターンの前記複数の開口部それぞれの中心部に先端が露出してなる複数の凸状部を有する第2の電極パターンを含み、前記第1の電極パターンの、前記複数の開口部それぞれに露出した複数の端面及び前記第2の電極パターンの、前記複数の開口部それぞれに露出した前記複数の突状部によって複数の第1のピクセル電極が形成されてなる第1の検出電極と、
前記第1の絶縁部材と絶縁中間部材を介して配置された第2の絶縁部材の、前記絶縁中間部材と相対する側に位置する第1の面上に形成されるとともに、円形状の複数の開口部を有する第3の電極パターン、及び前記第2の絶縁部材の、前記第1の面と相対向し、前記絶縁中間部材の側に位置する第2の面上に形成されるとともに、前記第2の絶縁部材を貫通し、前記第3の電極パターンの、前記複数の開口部それぞれの中心部に先端が露出してなる複数の凸状部を有する第4の電極パターンを含み、前記第3の電極パターンの、前記複数の開口部それぞれに露出した複数の端面及び前記第4の電極パターンの、前記複数の開口部それぞれに露出した前記複数の突状部によって複数の第2のピクセル電極が形成されてなる第2の検出電極と、
を具えることを特徴とする、ガス増幅を用いた放射線検出器。
【請求項2】
前記第2の検出電極における各第2のピクセル電極の少なくとも一部は、前記第1の検出電極の、最も近接した4つの第1のピクセル電極の中心間を結ぶ線分によって画定される領域内に位置することを特徴とする、請求項1に記載のガス増幅を用いた放射線検出器。
【請求項3】
前記第2の検出電極における各第2のピクセル電極は、前記領域内の中央に位置することを特徴とする、請求項2に記載のガス増幅を用いた放射線検出器。
【請求項4】
前記第2の検出電極における各第2のピクセル電極の外縁が、前記領域内において、前記最も近接した4つの第1のピクセル電極の外縁と重複するようにして位置することを特徴とする、請求項3に記載のガス増幅を用いた放射線検出器。
【請求項5】
第1の絶縁部材の、第1の面上に形成されるとともに、円形状の複数の開口部を有する第1の電極パターン、及び前記第1の絶縁部材の、前記第1の面と相対向する第2の面上に形成されるとともに、前記第1の絶縁部材を貫通し、前記第1の電極パターンの前記複数の開口部それぞれの中心部に先端が露出してなる複数の凸状部を有する第2の電極パターンを含む第1の検出電極の、前記第1の電極パターンにおける前記複数の開口部それぞれに露出した複数の端面及び前記第2の電極パターンにおける前記複数の開口部それぞれに露出した前記複数の突状部によって形成されてなる複数の第1のピクセル電極の少なくとも1つにおいて放射線を検出ステップと、
前記第1の絶縁部材と絶縁中間部材を介して配置された第2の絶縁部材の、前記絶縁中間部材と相対する側に位置する第1の面上に形成されるとともに、円形状の複数の開口部を有する第3の電極パターン、及び前記第2の絶縁部材の、前記第1の面と相対向し、前記絶縁中間部材の側に位置する第2の面上に形成されるとともに、前記第2の絶縁部材を貫通し、前記第3の電極パターンの、前記複数の開口部それぞれの中心部に先端が露出してなる複数の凸状部を有する第4の電極パターンを含む第2の検出電極の、前記第3の電極パターンにおける前記複数の開口部それぞれに露出した複数の端面及び前記第4の電極パターンにおける前記複数の開口部それぞれに露出した前記複数の突状部によって形成される複数の第2のピクセル電極の少なくとも1つにおいて前記放射線を検出するステップと、
前記放射線を検出した前記少なくとも1つの第1のピクセル電極及び前記少なくとも1つの第2のピクセル電極間を結ぶ線分の角度を計測することにより、前記放射線の入射方向を同定するステップと、
を具えることを特徴とする、ガス増幅を用いた放射線の検出方法。
【請求項6】
前記第2の検出電極における各第2のピクセル電極の少なくとも一部は、前記第1の検出電極の、最も近接した4つの第1のピクセル電極の中心間を結ぶ線分によって画定される領域内に位置させることを特徴とする、請求項5に記載のガス増幅を用いた放射線の検出方法。
【請求項7】
前記第2の検出電極における各第2のピクセル電極は、前記領域内の中央に位置させることを特徴とする、請求項6に記載のガス増幅を用いた放射線の検出方法。
【請求項8】
前記第2の検出電極における各第2のピクセル電極の外縁が、前記領域内において、前記最も近接した4つの第1のピクセル電極の外縁と重複するようにして位置させることを特徴とする、請求項7に記載のガス増幅を用いた放射線の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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