説明

ガス成分計測装置

【課題】産業設備のプラントの現場における配管長が長い場合や、ガス吸収量が大きい場合においても、オンラインでガス成分の分析が可能なガス成分計測装置を提供する。
【解決手段】レーザ装置21から発振されたレーザ光(nm)22を第1のレーザ光(波長:226nm)22−1に波長変換する第1の波長変換部23と、発振されたレーザ光22を波長変換し、第2のレーザ光(波長:600nm)22−2とする第2の波長変換部24と、第1及び第2のレーザ光を導入するガス測定部25と、照射される第1のレーザ光22−1及び第2のレーザ光22−2により高い準位(E準位)に励起された励起分子が低い準位(C準位)に電子的に緩和する際、その準位が下がるときに発生する自然放射増幅光(ASE)14を計測する光検出器26とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザによる発光分析によるガス成分計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
産業設備のガスプラント内のガス配管内のガス濃度を計測する方法として、従来より半導体レーザ吸収法による方法が確立され、JIS化されている(JISB7993:非特許文献1)。
【0003】
この半導体レーザ吸収法によるレーザ装置の概略を図5に示す。
図5に示すように、ガス配管から分岐されたサンプル配管101に対し、レーザ装置110からレーザ光Lを照射し、被測定ガス102のガス成分を分析している。
ここで、符号101a、101bは石英窓、112は反射ミラー、113は第1の検出器であり、114は第2の検出器である。
前記第1の検出器113では、参照光(I0)を求め、第2の検出器114ではサンプル配管101内の透過した光(I)を求めており、透過率T=(I/I0)を求めている。この分析手法により、様々なガス成分濃度のオンライン分析が可能となってきている。
【0004】
【非特許文献1】JISB7993
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ガス成分の分析を行うに際して、図5のような配管から分岐されたサンプル配管101を用いて、半導体レーザ吸収法により計測する場合には、光の吸収の問題はないものの、図6に示すようなガス配管120の長さが長い場合、入射したレーザ光Lが散乱されることで、第2の検出器114で十分な光強度が検知されない、という問題がある。なお、図6中、符号121a、121bは石英窓である。
【0006】
また、ガス吸収量が大きい場合には入射したレーザ光が吸収されてしまい、十分な光強度が検知されない、という問題がある。
【0007】
そこで、産業設備の各種プラントの現場における配管長が長い場合や、ガス吸収量が大きい場合においても、入射光が吸収散乱されることなく、オンラインでガス成分の分析が可能な方法が切望されている。
【0008】
本発明は、前記問題に鑑み、産業設備のプラントの現場における配管長が長い場合や、ガス吸収量が大きい場合においても、オンラインでガス成分の分析が可能なガス成分計測装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、被測定ガスに対して照射されるレーザ光により高い準位に励起された励起分子が低い準位に電子的に緩和する際、準位が下がるときに発生する自然放射増幅光(Amplified Spontaneous Emission:ASE)から被測定ガス12中のガス成分を計測することを特徴とするガス成分計測装置にある。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、前記レーザ光が二種類の波長のレーザ光であることを特徴とするガス成分計測装置にある。
【0011】
第3の発明は、レーザ装置から発振されたレーザ光を第1のレーザ光に波長変換する第1の波長変換部と、発振されたレーザ光を波長変換し、第2のレーザ光とする第2の波長変換部と、第1及び第2のレーザ光を導入するガス測定部と、照射される第1のレーザ光及び第2のレーザ光により高い準位に励起された励起分子が低い準位に電子的に緩和する際、その準位が下がるときに発生する自然放射増幅光(Amplified Spontaneous Emission:ASE)を計測する光検出器とを具備することを特徴とするガス成分計測装置にある。
【0012】
第4の発明は、第3の発明において、前記ガス測定部が、レーザ光を導入する光導入ラインと、発生した自然放射増幅光(Amplified Spontaneous Emission:ASE)を放出する光放出ラインとを具備することを特徴とするガス成分計測装置にある。
【0013】
第5の発明は、第3の発明において、前記光導入ラインと、前記光放出ラインとが同一ラインからなることを特徴とするガス成分計測装置にある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ASEの赤外領域での発光分析によりガス成分を計測することができるので、産業設備における計測対象の配管長が長い場合や、ガス吸収量が大きい場合においても、ガス成分の濃度分析がオンラインで分析可能となる。
また、ASEは指向性のある光として発振するので、ASE発光成分を集光し易く、計測感度が高いものとなる。
さらに、ASEは赤外領域の光であるので、入射レーザ光(可視光線、紫外光)との分離が容易となり、シグナルノイズ比の高い検出が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0016】
本発明による実施例に係るガス成分計測装置について、図面を参照して説明する。
図1は、実施例1に係るガス成分計測装置の概略図である。図1に示すように、本実施例に係るガス成分計測装置10Aは、煙道15中の被測定ガス11に対して照射されるレーザ光22により高い準位に励起された励起分子が低い準位に電子的に緩和する際、準位が下がるときに発生する自然放射増幅光(Amplified Spontaneous Emission:ASE)から被測定ガス11中のガス成分を計測するものである。
【0017】
具体的な装置構成としては、図1に示すように、本実施例に係るガス成分計測装置10Aは、レーザ装置21から発振されたレーザ光(1064nm)22を第1のレーザ光(波長:226nm)22−1に波長変換する第1の波長変換部23と、発振されたレーザ光22を波長変換し、第2のレーザ光(波長:600nm)22−2とする第2の波長変換部24と、第1及び第2のレーザ光を導入するガス測定部25と、照射される第1のレーザ光22−1及び第2のレーザ光22−2により高い準位(E準位)に励起された励起分子が低い準位(C準位)に電子的に緩和する際、その準位が下がるときに発生する自然放射増幅光(Amplified Spontaneous Emission:以下「ASE」という)14を計測する光検出器26とを具備するものである。
図1中、15a、15bはレーザ光の透過する石英窓、29は分光器、31は集光レンズ、33は光フィルタ、34a〜34dはミラーを各々図示する。
【0018】
本発明のガス成分計測装置は、ASEの発光する原理を用いており、従来のような吸収分析と異なるので、被測定ガス11のガス吸収による影響がなくなるものとなる。
【0019】
次に、図2に示すNOのエネルギー準位の模式図を参照してASEの発光原理を説明する。
被測定ガス中の例えば一酸化窒素(NO)にレーザ光22を照射して、電子的に励起させると、図2に示すように、基底状態(X)から、励起状態に遷移(X準位→A準位→E準位)する。
【0020】
具体的には第1のレーザ光(226nm)22−1の励起波長ではX準位からA準位に励起され、次いで第2のレーザ光(600nm)22−2の励起波長ではA準位からE準位に励起される。
このとき、E準位の分子の数がC準位の分子の数よりも多い場合に、反転分布状態となり、E準位からC準位に自然放出され、これがきっかけとなり、E準位からC準位の誘導放出である1170〜1184nmの自然放射増幅光(ASE)が発生する。
【0021】
被測定ガス中の計測対象のガス成分としては、一酸化窒素(NO)以外に、例えば
一酸化炭素(CO)、水(H2O)、二酸化窒素(NO2)、メタン(CH4)、アンモニア、ベンゼン等を例示することができる。
【0022】
図3は一酸化炭素(CO)のエネルギー準位の模式図である。
図3に示すように、一酸化炭素(CO)では、基底状態から215nmの励起波長ではX準位からA準位に励起され、次いで215nmの励起波長ではA準位からE準位に励起される。
【0023】
このとき、E準位の分子の数がB準位の分子の数よりも多い場合に、反転分布状態となり、E準位からB準位に自然放出がされ、これがきっかけとなり、E準位からC準位の誘導放出である1.7μmの自然放射増幅光(ASE)が発生する。
【0024】
また、ASEは、赤外領域(例えばNOの場合には、1170〜1184nm)の波長であるので、可視領域や紫外領域と異なり、フィルタ33での分離が容易であり、計測精度が向上する。
【0025】
蛍光やラマン等の発光分析は等方発光で四方八方に光が拡がり、指向性が無いのに対し、ASEは指向性(レーザ光22の入射方向と出射方向のみASE14が発光する)があり、高感度での分離が可能となる。
よって、本実施例では、前記ガス測定部25に対してレーザ光が導入する光導入ラインと、発生したASE14を放出するレーザ光の進行方向と同方向の光放出ラインとを具備している。
【0026】
この結果、産業設備における計測対象の配管長が長い場合や、ガス吸収量が大きい場合においても、ガス成分の濃度分析がオンラインで可能となる。
また、ASEは指向性のある光として発振するので、ASE発光成分を集光し易く、計測感度が高いものとなる。
さらに、ASEは赤外領域の光であるので、入射レーザ光(可視光線、紫外光)との分離が容易となり、シグナルノイズ比の高い検出が可能となる。
【実施例2】
【0027】
次に、実施例2において、本発明の他のガス成分計測装置について、図面を参照して説明する。
図4は、実施例2に係るガス成分計測装置の概略図である。図4に示すように、本実施例に係るガス成分計測装置10Bは、煙道15内に、レーザ光を吸収するダンパ41を設けており、ASE14をレーザ光22の入射ライン側に設けた光検出器26で計測するようにしている。
【0028】
本実施例では、前記光導入ラインと、前記光放出ラインとを同一ラインとしているので、実施例1のような煙道に石英窓を2つ設けることが無くなり、装置構成が簡素化されることとなる。
【0029】
本実施例では、レーザ光とASEとは波長域が異なるので、両者の分離が可能となり、フィルタ33を用いて赤外領域のみを透過させることで、光検出器26での計測が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上のように、本発明に係るガス成分計測装置によれば、発光分析によりガス成分を計測することができるので、産業設備における計測対象の配管長が長い場合や、ガス吸収量が大きい場合においても、ガス成分の濃度分析が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1に係るガス成分計測装置の概略図である。
【図2】NOのエネルギー準位の模式図である。
【図3】COのエネルギー準位の模式図である。
【図4】実施例2に係るガス成分計測装置の概略図である。
【図5】従来の半導体レーザ吸収法によるレーザ装置の概略図である。
【図6】煙道を半導体レーザ吸収法により計測する模式図である。
【符号の説明】
【0032】
10A、10B ガス成分計測装置
11 被測定ガス
14 ASE
21 レーザ装置
22 レーザ光
22−1 第1のレーザ光
22−2 第2のレーザ光
23 第1の波長変換部
24 第2の波長変換部
25 ガス測定部
26 光検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ガスに対して照射されるレーザ光により高い準位に励起された励起分子が低い準位に電子的に緩和する際、準位が下がるときに発生する自然放射増幅光(Amplified Spontaneous Emission:ASE)から被測定ガス中のガス成分を計測することを特徴とするガス成分計測装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記レーザ光が二種類の波長のレーザ光であることを特徴とするガス成分計測装置。
【請求項3】
レーザ装置から発振されたレーザ光を第1のレーザ光に波長変換する第1の波長変換部と、
発振されたレーザ光を波長変換し、第2のレーザ光とする第2の波長変換部と、
第1及び第2のレーザ光を導入するガス測定部と、
照射される第1のレーザ光及び第2のレーザ光により高い準位に励起された励起分子が低い準位に電子的に緩和する際、その準位が下がるときに発生する自然放射増幅光(Amplified Spontaneous Emission:ASE)を計測する光検出器とを具備することを特徴とするガス成分計測装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記ガス測定部が、レーザ光を導入する光導入ラインと、
発生した自然放射増幅光(Amplified Spontaneous Emission:ASE)を放出する光放出ラインとを具備することを特徴とするガス成分計測装置。
【請求項5】
請求項3において、
前記光導入ラインと、前記光放出ラインとが同一ラインからなることを特徴とするガス成分計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−133800(P2010−133800A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−309078(P2008−309078)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】