説明

ガス放電灯の製造方法

【課題】本発明は、陰極の電子放出性能を低下させることなく、該陰極の加工精度を高くし、また、陰極の局部蓄熱を防止するようにする。
【解決手段】陰極本体(31)の先端部に先端側が開口した収容室(32)を設け、該収容室(32)の底部側に粉状にした少なくとも易電子放射性物質粉末(33a)を充填し、前記収容室(32)の先端側にタングステン粉末または顆粒タングステン焼結体(34a)を充填し、これらを易電子放射性物質の溶融温度以上の温度で加熱して先端側に前記易電子放射性物質粉末(33a)の溶融物が含浸された多孔質焼結体(34)を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光源等に利用されるガス放電灯の陰極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガス放電灯の陰極として、陰極本体の先端部に先端側が開口した収容室を形成し、該収容室にタングステンの高融点金属粉末とアルカリ土類金属のエミッター粉末とを混合して収容し、これを焼結して焼結体を形成し、この焼結体から電子を放出させるようにしたものがあった。
【0003】
上記従来のものは、陰極本体の収容室に充填される焼結体の全体が、高融点金属粉末とエミッター粉末との混合物を焼成して形成されるようになっていたため、焼結体の結合強度が低く、加工精度を高くすることができなかった。また、高融点金属粉末の結合が不完全となって抵抗値が高くなり、局部蓄熱が発生するものであった。これは、焼結温度を上げて高融点金属粉末の結合強度を高くしようとすると、エミッター(易電子放射性物質)が蒸発して電子の放出性能が低下するため、該焼結温度をエミッターの蒸発温度以下にする必要があったことに起因する。
【特許文献1】特開平8−77967号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、電子を放出させる焼結体の先端部(表層部)をタングステン粉末または顆粒タングステン焼結体同士が直接接触して焼結する多孔質焼結体とし、該多孔質焼結体の空隙部に内層部で溶融した易電子放射性物質を含浸させることにより、製造容易にして高精度に加工できる新規なガス放電灯の製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、陰極本体の先端部に先端側が開口した収容室を設け、該収容室の底部側に粉状にした少なくとも易電子放射性物質粉末を充填し、前記収容室の先端側にタングステン粉末または顆粒タングステン焼結体を充填し、これらを易電子放射性物質の溶融温度以上の温度で加熱して先端側に前記易電子放射性物質粉末の溶融物が含浸された多孔質焼結体を形成する構成にしたものである。
請求項2に係る発明は、陰極本体の先端部に先端側が開口した収容室を設け、粉状にした少なくとも易電子放射性物質粉末と、タングステン粉末または顆粒タングステン焼結体を予め焼結した多孔質焼結体とを設け、前記易電子放射性物質粉末を前記収容室の底部側に収容し、前記多孔質焼結体を前記収容室の先端側に嵌合させ、これらを易電子放射性物質の溶融温度以上の温度で加熱して前記多孔質焼結体の空隙部に前記易電子放射性物質粉末の溶融物を含浸させる構成にしたものである。
請求項3に係る発明は、前記多孔質焼結体の先端部を山形または曲面にしたものである。
【発明の効果】
【0006】
請求項1に係る発明は、収容室の先端側に形成される多孔質焼結体は、タングステン粉末同士、または顆粒タングステン焼結体同士が直接接触して焼結されることになるので、これらの結合強度が高くなる。特に、顆粒タングステン焼結体は、比較的低い温度で焼結し易いので、易電子放射性物質を蒸発させない低い温度で焼成しても強固に結合することになる。また、多孔質焼結体内に形成される各空隙部は互いに連続して形成され、該各空隙部に、底部側に収容した易電子放射性物質粉末の溶融物が含浸されることになる。
【0007】
このため、陰極の先端部を山形あるいは曲面に加工する際に、この加工が高精度に行なえることになる。また、陰極の先端部は顆粒タングステン焼結体同士が直接結合するので抵抗値が低くなり、放熱が良好となって局部蓄熱が発生しなくなる。また、易電子放射性物質は、焼成による蒸発(劣化)が防止されるので、本来の機能が十分に発揮されることになる。
【0008】
請求項2に係る発明は、収容室の先端側の多孔質焼結体は、タングステン粉末または顆粒タングステン焼結体を収容室に嵌合させる前に焼結させたので、易電子放射性物質に左右されることなく、高温で焼結させることができ、より結合強度の高い、かつ抵抗値の低い多孔質焼結体を得ることができる。また、陰極本体に形成した収容室の底部側に易電子放射性物質粉末を、先端側に上記多孔質焼結体を嵌合させた後、これらを加熱して易電子放射性物質粉末を溶融させ、これを上記多孔質焼結体に含浸させるようにしたので、上記加熱する温度は、専ら易電子放射性物質に適した温度に設定することができ、易電子放射性物質を効率よく多孔質焼結体に含浸させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基いて説明する。図面において、図1は本発明が適用されるガス放電灯の部分断面側面図、図2は本発明による陰極の部分断面側面図、図3〜図6は本発明による陰極の製造工程を示し、図3は易電子放射性物質粉末とタングステン粉末との混合物の充填工程を示す要部拡大断面図、図4は顆粒タングステン焼結体の充填工程を示す要部拡大断面図、図5は焼結工程を示す断面図、図6は加工工程を示す断面図、図7は他の実施例による収容室への多孔質焼結体の圧入状態を示す要部拡大断面図、図8は易電子放射性物質が含浸された多孔質焼結体の拡大断面図である。
【0010】
図1において、1はキセノンガスと水銀を発光させてファイバースコープ用、あるいは露光用の光源等に利用されるガス放電灯であり、バルブ2、陰極3、陽極4、陰極3及び陽極4に通電する導電箔5、及び口金6を主要部品として構成される。
【0011】
上記陰極3は、図2に示すようになっている。即ち、モリブデン製の陰極本体31の陰極本体31の先端部に先端側が開口した有底円筒状の収容室32が形成され、該収容室32の底部側に易電子放射性物質を有する複合焼結体33が収容され、先端側に易電子放射性物質が含浸された多孔質焼結体34が、上記複合焼結体33と一体的に結合されて収容されている。上記陰極3の先端部は円錐状に加工されて尖鋭とし、その頂部に上記多孔質焼結体34が露出し、この部からアークが安定して放電されるようになっている。
【0012】
上記陰極3は以下の如くして製造する。即ち、図3に示すように、収容室32を上向きにして陰極本体31をホルダー10に嵌合させ、電子放射性物質(エミッタ)のみの粉末、またはタングステン粉末と電子放射性物質の粉末とを体積比約5:5の割合で略均一に混合させた混合物33aを上記収容室32の底部側に収容し、該混合物33aをパンチ11により加圧して圧縮する。上記タングステン粉末は粒径約3μmの粉末となっており、また、上記電子放射性物質粉末はアルミン酸バリウムを含むアルミン酸アルカリ土類を還元活性処理されたものとなっている。
【0013】
次いで、図4に示すように、上記収容室32の上部(先端側)に顆粒タングステン焼結体34aを収容し、該顆粒タングステン焼結体34aをパンチ11により加圧して圧縮する。上記顆粒タングステン焼結体34a粒径約20μmの粉末となっている。次いで図5に示すように、上記混合物33a及び顆粒タングステン焼結体34aが充填された陰極本体31を炉(水素炉)12に収容し、易電子放射性物質の溶融温度となる約1700℃以上で加熱し、顆粒タングステン焼結体34aを焼成して多孔質焼結体34にするするとともに、底部側の易電子放射性物質を溶融させて該溶融物を多孔質焼結体34内に含浸させる。33は混合物33aが焼成された複合焼結体33であり、この部に残留した易電子放射性物質は、多孔質焼結体34内に含浸された易電子放射性物質の溶融物が消耗した際の補給用となる。
【0014】
次いで、図6に示すように、上記陰極本体31及び多孔質焼結体34の先端部を砥石13により研削して円錐状にし、図2に示すように頂部に尖鋭な多孔質焼結体34が露出する陰極3を得る。なお、前述した顆粒タングステン焼結体34aは、粒径約3μmのタングステン粉末としてもよい。
【0015】
図7は他の実施例を示す。図7において、10はホルダー、31は陰極本体31であり、これらは前述したものと略同構造となっている。34’は多孔質焼結体である。該多孔質焼結体34’は収容室32に収容する前に、タングステン粉末または顆粒タングステン焼結体34aを型に入れて焼成し、外径が収容室32の内径よりも若干大径となる円柱状に形成されたものである。この多孔質焼結体34’は、図7に示すように、収容室32の底部側に混合部33aを収容した後、パンチ11により加圧して上記収容室32の上部(先端側)に圧入する。該圧入した後は、前述した図5に示すように、炉(水素炉)12内に収容して約1700℃以上で加熱し、底部側の易電子放射性物質を溶融させて該溶融物を多孔質焼結体34’内に含浸させる。
【0016】
次いで、図6に示すように、上記陰極本体31及び多孔質焼結体34’の先端部を砥石13により研削して円錐状にし、図2に示すように頂部に尖鋭な多孔質焼結体34が露出する陰極3を得る。
【0017】
上記実施例によれば、収容室32の先端側に形成される多孔質焼結体34は、タングステン粉末または顆粒タングステン焼結体34a同士を直接接触させて焼成したので、図8に示すように、各顆粒タングステン焼結体34a同士が融着して強固に結合する。特に比較的低い温度で完全焼結し易い顆粒タングステン焼結体34aの場合は、易電子放射性物質を蒸発させない約1700℃であっても円滑に焼結することになり、結合強度が高くなって後工程で高精度に加工することができるとともに、陰極3の抵抗値が低くなり、放熱が良好となって局部蓄熱が発生しなくなる。しかも、各顆粒タングステン焼結体34a同士が融着により成される各空隙部は互いに連続することになり、この部に含浸された易電子放射性物質の溶融物33bは連続することになる。このため、陰極3の電子の放出性能が高くなる。
【0018】
さらに、収容室32の先端側に位置する多孔質焼結体34(34’)の空隙部に、収容室32の底部側に収容した混合物33aから易電子放射性物質の溶融物を含浸させるようにしたので、多孔質焼結体34(34’)への易電子放射性物質の含浸が容易かつ安定して行なえることになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明が適用されるガス放電灯の部分断面側面図である。
【図2】本発明による陰極の部分断面側面図である。
【図3】易電子放射性物質粉末とタングステン粉末との混合物の充填工程を示す要部拡大断面図である。
【図4】顆粒タングステン焼結体の充填工程を示す要部拡大断面図である。
【図5】焼結工程を示す断面図である。
【図6】加工工程を示す断面図である。
【図7】他の実施例による収容室への多孔質焼結体の圧入状態を示す要部拡大断面図である。
【図8】易電子放射性物質が含浸された多孔質焼結体の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0020】
1 ガス放電灯
2 バルブ
3 陰極
31 陰極本体
32 収容室
33 複合焼結体
33a 混合物
33b 溶融物
34(34’) 多孔質焼結体
34a 顆粒タングステン焼結体
4 陽極
5 導電箔
6 口金
10 ホルダー
11 パンチ
12 炉
13 砥石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極本体(31)の先端部に先端側が開口した収容室(32)を設け、該収容室(32)の底部側に粉状にした少なくとも易電子放射性物質粉末(33a)を充填し、前記収容室(32)の先端側にタングステン粉末または顆粒タングステン焼結体(34a)を充填し、これらを易電子放射性物質の溶融温度以上の温度で加熱して先端側に前記易電子放射性物質粉末(33a)の溶融物が含浸された多孔質焼結体(34)を形成したことを特徴とするガス放電灯の製造方法。
【請求項2】
陰極本体(31)の先端部に先端側が開口した収容室(32)を設け、粉状にした少なくとも易電子放射性物質粉末(33a)と、タングステン粉末または顆粒タングステン焼結体(34a)を予め焼結した多孔質焼結体(34’)とを設け、前記易電子放射性物質粉末(33a)を前記収容室(32)の底部側に収容し、前記多孔質焼結体(34’)を前記収容室(32)の先端側に嵌合させ、これらを易電子放射性物質の溶融温度以上の温度で加熱して前記多孔質焼結体(34’)の空隙部に前記易電子放射性物質粉末(33a)の溶融物を含浸させたことを特徴とするガス放電灯の製造方法。
【請求項3】
多孔質焼結体(34,34’)の先端部を山形または曲面にしたことを特徴とする請求項1または2記載のガス放電灯の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−114301(P2006−114301A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−299623(P2004−299623)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(504383704)ランプテクノロジー株式会社 (3)
【出願人】(503442640)ヒメジ理化株式会社 (7)
【Fターム(参考)】