説明

ガス状被検物質の受動的捕集器

【課題】吸収剤含浸ろ紙をガス状被検物質の捕集体として用いることができ、ガス状被検物質の捕集量への風速による影響が少なく、かつ数時間から1日程度の曝露時間で分析に必要な捕集量を得ることができるガス状被検物質の受動的捕集器の提供。
【解決手段】支持体に、ガス状被検物質の捕集体と、気体分子が分子拡散の原理で通過する拡散体と、がこの順に積層固定されており、前記捕集体が、前記ガス状被検物質の吸収剤を含浸させたろ紙であり、前記拡散体が、樹脂粒子を焼結または溶結し、成形することにより得られる平面状多孔質体であり、前記拡散体において、焼結または溶結した前記樹脂粒子の間隙が、連続孔として該拡散体の厚さ方向につながっていることを特徴とするガス状被検物質の受動的捕集器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中のガス状被検物質、例えばガス状有害汚染物質を受動的に捕集する受動的捕集器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中または室内空気中のガス状有害汚染物質の捕集に、分子拡散を利用した受動的捕集器(パッシブ・サンプラー、拡散サンプラーなどとも呼ばれる)が広く用いられるようになってきた。受動的捕集器は、拡散層と吸収層を基本構成とし、拡散層を介して、被検空気および吸収層表面の間で、ガス状被検物質の濃度勾配を生じさせ、Fickの拡散法則に従って移動するガス状被検物質を定量的に捕集するものである。このような受動的捕集器は、動力を必要とせず、小型・軽量で容易に持ち運びが出来、簡単な操作で大気中または室内空気中のガス状有害汚染物質を捕集できるため、個人曝露濃度の測定や一般住宅の室内空気質測定などにも利用されている。
【0003】
吸収層の種類・形状は、ガス状被検物質の種類に応じて適宜選択される。従来、このような受動的捕集器において、ガス状被検物質として、大気中の酸性物質・塩基性物質を捕集する場合、安価であること、小型軽量であること、ガス状被検物質に応じた吸収層を作成するのが容易であること、吸収層が固体であるため取り扱い性に優れる等の理由から、適当な吸収剤を含浸したろ紙(以下、「吸収剤含浸ろ紙」と呼ぶ)が、吸収層として用いられてきた。例えば、二酸化窒素(NO2)、二酸化硫黄(SO2)、塩化水素(HCl)の捕集には、トリエタノールアミン含浸ろ紙、硫化水素(H2S)の捕集には、硝酸銀含浸ろ紙、ギ酸・酢酸などの有機酸の捕集には、水酸化カリウム水溶液含浸ろ紙、アンモニア(NH3)の捕集には、ホウ酸含浸ろ紙が吸収層として用いられている。ろ紙としては、一般にニトロセルロース製の定量用ろ紙、定性用ろ紙、クロマトグラフィー用ろ紙などが好適に使用されている。
【0004】
拡散層の形状は、吸収層の形状に応じて適宜選択される。吸収剤含浸ろ紙を吸収層とする場合、拡散層として、円筒を用いたPalmes tube(非特許文献1)が最もよく知られている。その他には、撥水性ろ紙(特許文献1)、樹脂膜(特許文献2)、樹脂製多孔栓(小川商会製オガワ・サンプラー、グリーンブルー社製HandySONOx)を用いた受動的捕集器が知られている。
【0005】
しかしながら、拡散層として、円筒を用いたPalmes tubeを使用した場合、曝露環境における風速の影響を強く受け、円筒の開口端における渦流の発生により有効拡散長が減少し、ガス状被検物質が過剰に捕集される傾向にある。また捕集速度が遅いために、充分な感度で分析・定量するためには1週間から1ヶ月程度の長期間の曝露を必要とし、また、ガス状被検物質がNO2である場合、拡散層内において、オゾンと一酸化窒素との反応によって生じるNO2による正の誤差も無視できない。
【0006】
拡散層として、撥水性ろ紙を使用した場合、ガス状被検物質の通り道となる空隙が狭く、その結果、拡散過程において、撥水性ろ紙とガス状被検物質との相互作用が生じ、例えば、ガス状被検物質が高い親水性を有している場合、湿度変動による吸収量の誤差が発生する。
【0007】
拡散層として、樹脂膜を使用した場合、通常厚さが0.5mm以下のものが使用され、高い物質移動係数を示すため、捕集時間を大幅に短縮することができるが、拡散層の厚さが0.5mm以下と薄いため、曝露環境における風速の影響を受けやすい。また、拡散層として、樹脂製多孔栓を用いた場合も同様に、風速の影響を指数関数的に受ける。
【0008】
また、樹脂粒子を焼結又は溶結して得る多孔性材料により構成される容器若しくはフィルタに吸着剤が充填されたパッシブサンプリング用吸着装置が、特許文献3〜6に記載されており、特許文献7には、樹脂粒子を焼結又は溶結して作成・成形されたフィルタに吸着剤をコーティングしたパッシブサンプラーが記載されている。
【0009】
しかしながら、特許文献3〜6に記載の装置は、吸収層として粒子状の吸着剤(活性炭、ゼオライト、アルミナ等)を用いるパッシブサンプリング用吸着装置であるため、多孔性材料からなる容器内で吸着剤が動くことにより、捕集量にバラツキが生じる。また、振動等により容器内の吸着剤が破損する場合があり、破損した吸着剤の断片が容器の空隙に詰まるおそれや、その反対に、破損した吸着剤の断片が容器の空隙を通過して、容器外に漏れるおそれがある。
また、特許文献7に記載のパッシブサンプラーは、フィルタに吸着剤をコーティングした構造であるため、拡散層として樹脂膜や樹脂製多孔栓を用いた場合と同様に、暴露環境における風速の影響を受けやすい。また、吸着したガス状被検物質の分析に手間がかかるし、吸着剤をコーティングしたフィルタは、通常再利用できず、使い捨てとなる。
【0010】
【非特許文献1】Palmes,E.D.,Gunnison,A.F.,Dimattio,J.and Tomczyk,C.,1976.Personal sampler for nitrogen dioxide,Am.Ind.Hyg.Assoc.J.,37,570−577.
【特許文献1】実公昭58−30220号公報
【特許文献2】特許第3230150号公報
【特許文献3】特開2001−4609号公報
【特許文献4】特開2001−183263号公報
【特許文献5】特開2001−2042号公報
【特許文献6】特開2002−357517号公報
【特許文献7】特開2004−191120号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、上記した従来技術の問題点を解決するため、吸収剤含浸ろ紙をガス状被検物質の捕集体として用いることができ、ガス状被検物質の捕集量への風速による影響が少なく、かつ数時間から1日程度の曝露時間で分析に必要な捕集量を得ることができるガス状被検物質の受動的捕集器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明者らは、気体の分子拡散原理を利用した受動的捕集器について検討した結果、拡散体として、樹脂粒子を焼結または溶結することにより得られる、連続孔を有する平面状多孔質体を使用し、ガス状被検物質の捕集体として吸着剤含浸ろ紙を使用し、平面状多孔質体と、吸着剤含浸ろ紙とを積層固定することによって、ガス状被検物質の捕集量への風速の影響が少なく、かつ捕集速度が高い受動的捕集器が得られることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明は、支持体に、ガス状被検物質の捕集体と、気体分子が分子拡散の原理で通過する拡散体と、がこの順に積層固定されており、
前記捕集体が、前記ガス状被検物質の吸収剤を含浸させたろ紙であり、
前記拡散体が、樹脂粒子を焼結または溶結し、成形することにより得られる平面状多孔質体であり、
前記拡散体において、焼結または溶結した前記樹脂粒子の間隙が、連続孔として該拡散体の厚さ方向につながっていることを特徴とするガス状被検物質の受動的捕集器を提供する。
【0014】
本発明の受動的捕集器において、前記樹脂粒子が、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂およびポリエステルからなる群から選択される少なくとも1つの樹脂からなることが好ましい。
【0015】
本発明の受動的捕集器において、前記拡散体は、厚さが0.5〜2.0mmであり、前記連続孔の孔径が10〜100μmであり、および空孔率が20〜75%であることが好ましい。
【0016】
本発明の受動的捕集器において、前記支持体は、前記捕集体および前記拡散体を積層固定する部位の平面形状が、円形であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、捕集量への風速による影響が少なく、かつ数時間から1日程度の曝露時間で分析に必要な捕集量を得ることができるガス状被検物質の受動的捕集器を提供することが可能となり、大気中または室内におけるガス状有害汚染物質のパッシブモニタリングに利用することができる。
本発明の受動的捕集器は、ガス状被検物質の捕集体として、吸収剤含浸ろ紙を使用するため、安価であること、小型軽量であること、ガス状被検物質に応じた捕集体を作成するのが容易であること、吸収剤含浸ろ紙のみを交換することで、速やかに別のガス状被検物質の捕集を行うことができる等の利点を有する。また、捕集されたガス状被検物質の分析に、従来から広く用いられている方法を変更することなく適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1に、本発明の受動的捕集器の実施形態の一例を示す。図1(a)は、本発明の受動的捕集器の側面図であり、図面右側には、受動的捕集器を右側から見た端面図を示している。図1(b)は受動的捕集器の斜視図である。理解を容易にするため、受動的捕集器は、その構成要素が分解された状態で示されている。
【0019】
図1(a)、(b)に示す受動的捕集器は、支持体1、ガス状被検物質の捕集体2、気体分子が分子拡散の原理で通過する拡散体3、および止め具4からなる。
支持体1は、円柱状である。捕集体2は、ガス状被検物質に応じて所望の吸収剤を含浸したろ紙(吸収剤含浸ろ紙)であり、平面形状が円形である。拡散体3は、詳しくは後述するが、樹脂粒子を焼結または溶結し、成形することにより得られる、連続孔を有する平面状多孔質体であり、その外形が円盤状である。止め具4は、両端が開口しており、略円筒形状である。なお、止め具4は、受動的捕集器の使用時、捕集体2および拡散体3を係止させて固定するため、支持体1から遠い側の開口部(図面右端の開口部)の径が、円筒の内径および左端の径に比べて小さくなっている(小径部位を有する)。
【0020】
受動的捕集器の使用時、捕集体2および拡散体3は、この順番に積層した状態で、支持体1上、より具体的には、円柱状の支持体1の一方の端面に設置され、止め具4を用いて固定される。この状態で受動的捕集器を空気中に一定時間放置すると、大気中のガス状有害汚染物質のような、ガス状被検物質が、拡散体3の連続孔を分子拡散の原理で通過した後、捕集体2にて受動的に捕集される。
【0021】
本願の受動的捕集器の各構成要素について、より具体的に説明する。
支持体1は、捕集体2が、大気や室内空気のような被検空気と直接接触することがないように、捕集体2および拡散体3を、この順に積層固定できる限り、その形状は特に限定されず、例えば、筒状、柱状、盤状であってよい。但し、捕集体2として使用する吸着剤含浸ろ紙の平面形状が、通常円形であるため、ガス状被検物質の捕集ムラを最小限にするため、支持体1において、捕集体2および拡散体3を積層固定する部位(端面)の平面形状が円形であることが好ましい。したがって、図1(a),(b)に示す支持体1のように、捕集体2および拡散体3を積層固定する部位(端面)の平面形状が円形となる円柱状の支持体1であることが好ましい。但し、捕集体2および拡散体3を積層固定する部位(端面)の平面形状が円形であればよいことから、支持体として円盤状のものも使用できる。但し、取り扱い性の点から、支持体の形状は円柱状であることが好ましい。
【0022】
支持体1の寸法は、特に限定されないが、捕集体2および拡散体3をこの順で積層固定可能な寸法であることが必要である。したがって、図1(a),(b)に示す支持体1の場合、円筒の直径が、捕集体2として使用する吸収剤含浸ろ紙の直径、および拡散体3として使用する円盤状の平面状多孔質体の直径と等しいか、これらの直径よりも大きくする必要がある。
支持体1の材質は、ガス状被検物質および捕集体2で使用する吸収剤に対して、著しい吸着性または反応性を有していなければ特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂、ポリエステル、ABS樹脂、ガラス、石英またはステンレス鋼であることが好ましい。
【0023】
捕集体2として使用するろ紙は、従来から捕集体として用いられているものを特に仕様変更することなく用いることができる。具体的には、一般にニトロセルロース製の定量用ろ紙、定性用ろ紙、クロマトグラフィー用ろ紙などが好適に使用されている。
【0024】
ろ紙の直径は5mm〜100mmである。受動的捕集器は、小型・軽量であること、および取扱いが簡便であることがポンプを用いた動的捕集器(アクティブサンプラー)に対する利点の一つとなっており、ろ紙の直径が上記の範囲内であると、取り扱い性が良好であり、また、ガス状被検物質が分子拡散の原理で通過する際の抵抗が小さいので、短時間、例えば数時間単位の捕集で十分な量のガス状被検物質を捕集することができ、十分な分析感度が得られる。
ろ紙の直径は、望ましくは10mm〜47mmである。
【0025】
捕集体として使用する吸収剤含浸ろ紙は、対象とするガス状被検物質に応じて適宜選択することができる。例えば、二酸化窒素(NO2)、二酸化硫黄(SO2)、塩化水素(HCl)の捕集には、トリエタノールアミン含浸ろ紙、硫化水素(H2S)、硫化カルボニル(COS)の捕集には、硝酸銀含浸ろ紙、ギ酸・酢酸などの有機酸の捕集には、水酸化カリウム含浸ろ紙、アンモニア(NH3)の捕集には、ホウ酸含浸ろ紙、オゾンの捕集には、ヨウ化カリウム含浸ろ紙、アルデヒド・ケトン類の捕集には、2,4−ジニトロフェニルヒドラジン含浸ろ紙、一酸化窒素(NO)の捕集には、2−フェニル−4,4,5,5−テトラメチルイミダゾリン−3−オキサイド−1−オキシル(PTIO)・トリエタノールアミン含浸ろ紙を用いることができる。
【0026】
拡散体3としては、樹脂粒子を焼結または溶結し、成形することにより得られる、連続孔を有する平面状多孔質体を用いる。平面状多孔質体において、焼結または溶結した樹脂粒子の間隙が連続孔として、平面状多孔質体の厚さ方向につながっている。受動的捕集器の使用時、ガス状被検物質が分子拡散の原理により連続孔を通過し、捕集体に到達する。
樹脂粒子としては、ガス状被検物質との相互作用が少ないものが好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂およびポリエステルからなる群から選択される少なくとも1つの樹脂からなることが好ましい。
【0027】
平面状多孔質体は、例えば、樹脂粒子を金型に均一に充填し、その金型を100〜250℃に加熱し、5〜20分間程度保温し、樹脂粒子を焼結又は溶結させ、冷却することによって製造することができる。加熱温度は、樹脂粒子の材質により好ましい温度が異なり、樹脂粒子にポリスチレンを使用する場合は80〜120℃程度、樹脂粒子にポリエチレンを使用する場合は140〜180℃程度、樹脂粒子にポリプロピレンを使用する場合は170〜210℃程度、樹脂粒子にフッ素樹脂を使用する場合は180〜250℃程度であることが好ましい。冷却方法としては、例えば、自然冷却、冷却ファンによる冷却等が挙げられる。
【0028】
平面状多孔質体の厚さは、0.5〜2.0mmであることが好ましい。平面状多孔質体の厚さが上記の範囲内であると、風速の影響を受けずにガス状被検物質を十分に捕集することができ、また、ガス状被検物質が分子拡散の原理で通過する際の抵抗が小さいので、短時間、例えば数時間単位の捕集で十分な量のガス状被検物質を捕集することができ、十分な分析感度が得られる。
平面状多孔質体の厚さは、望ましくは0.75〜1.5mmである。
【0029】
また、平面状多孔質体において、連続孔の平均孔径は、10〜100μmであることが好ましい。連続孔の平均孔径が上記の範囲内であると、風速の影響を受けずにガス状被検物質を十分に捕集することができ、また、ガス状被検物質が分子拡散の原理で通過する際の抵抗が小さいので、短時間、例えば数時間単位の捕集で十分な量のガス状被検物質を捕集することができ、十分な分析感度が得られる。
連続孔の平均孔径は、望ましくは20〜80μmである。
【0030】
また、平面状多孔質体の空孔率は、20〜75%であることが好ましい。平面状多孔質体の空孔率が上記の範囲内であると、風速の影響を受けずにガス状被検物質を十分に捕集することができ、また、ガス状被検物質が分子拡散の原理で通過する際の抵抗が小さいので、短時間、例えば数時間単位の捕集で十分な量のガス状被検物質を捕集することができ、十分な分析感度が得られる。
平面状多孔質体の空孔率は、望ましくは50〜70%である。
【0031】
受動的捕集器において、ガス状被検物質が拡散体を通過せず、直接捕集体に到達することがないように、捕集体および拡散体の寸法を設定する必要がある。このため、図1(a),(b)において、円盤状の拡散体3の直径は、捕集体2の直径と等しいか、捕集体2の直径よりも大きくする必要がある。
【0032】
止め具4の材質は、ガス状被検物質および捕集体2で使用する吸収剤に対して、著しい吸着性または反応性を有していなければ特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂、ポリエステル、ABS樹脂、ガラス、石英またはステンレス鋼であることが好ましい。
なお、図1(a),(b)に示す止め具4の場合、その内径および図面左端の開口部の径が、捕集体2として使用する吸収剤含浸ろ紙の直径、および拡散体3として使用する円盤状の平面状多孔質体の直径と等しいか、これらの直径よりも大きくする必要がある。一方、図面右端の開口部の径は、これらの直径よりも小さくする必要がある。
止め具は、受動的捕集器を使用しない場合、該止め具の開口部を閉じておくために蓋を有していてもよい。
なお、本発明の受動的捕集器において、止め具は必須の構成ではなく、別の手段または方法で、支持体に対して、捕集体および拡散体をこの順に積層固定できる場合、止め具を使用しなくてもよい。
また、止め具を使用する場合も、捕集体および拡散体を係止させて固定するための構造は、図1(a),(b)に示す止め具4のような小径部位に限定されず、例えば、図面右端の開口部に、捕集体および拡散体を係止させて固定するための爪状の構造を設けたのでもよい。
【0033】
本発明の受動体捕集器では、支持体に対して、捕集体および拡散体がこの順に積層固定されているため、特許文献3〜6に記載のパッシブサンプリング用吸着装置のように、容器内で吸収体が動くことにより、捕集量のバラツキが生じ、測定精度が低下するおそれがない。なお、特許文献3〜6に記載のパッシブサンプリング用吸着装置において、粒子状の吸着剤の代わりに、吸収剤含浸ろ紙を使用した場合、多孔質材料からなる容器に吸収剤含浸ろ紙が固定されていないため、容器内で吸収剤含浸ろ紙が移動することによって、容器と吸収剤含浸ろ紙との間に隙間が生じること、容器内の形状と吸収剤含浸ろ紙の形状とが一致しない等の原因で、捕集量にバラツキが生じ、測定精度が低下するおそれがある。
【0034】
本発明の受動的捕集器の使用手順は以下の通りである。
ガス状被検物質の測定を行う環境に受動的捕集器を設置し、受動的捕集器を該環境の空気に一定時間暴露する。その後、受動的捕集器から捕集体である吸収体含浸ろ紙を取り出し、ガス状被検物質を脱離溶出した後、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー−質量分析計、イオンクロマトグラフィ、吸光光度分析、蛍光光度分析等によってガス状被検物質の同定定量が行う。
【0035】
本発明の受動的捕集器は、ガス状被検物質に応じて、捕集体として使用する吸収剤含浸ろ紙を適宜選択することに、様々なガス状被検物質を捕集することができる。ガス状被検物質としては、例えば、大気中のガス状有害汚染物質として知られる酸性物質または塩基性物質が挙げられ、具体的には、一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO2)、二酸化硫黄(SO2)、硫化水素(H2S)、硫化カルボニル(COS)、塩化水素(HCl)、アンモニア(NH3)、ギ酸・酢酸のような有機酸が挙げられる。また、上記以外のガス状被検物質として、オゾンや、アルデヒド・ケトン類も挙げられる。
本発明の受動的捕集器では、上記手順で対象とするガス状被検物質を捕集した後、捕集体として使用する吸収剤含浸ろ紙を取り出し、別の吸収剤含浸ろ紙に交換することで、速やかに別のガス状被検物質の捕集を行うことができる。
なお、図1(a),(b)では、円柱状の支持体1の一方の端面に捕集体2および拡散体3を積層固定しているのが、円柱状の支持体の両端面に捕集体および拡散体を積層固定してもよい。この際、両端面に固定する捕集体として、互いに異なる吸収剤含浸ろ紙を使用すれば、異なるガス状被検物質を同時に捕集することができる。
【実施例】
【0036】
以下、参考例および実施例にて説明する。
[参考例]
本発明の受動的捕集器で拡散体として使用する平面状多孔質体を以下の手順で作成した。ポリエチレン樹脂粒子(粒径25μm)を溶結し、成形することにより、厚さが異なる2種類の平面状多孔質体(厚さ0.75mm、1mm)を作成した。平面状多孔質体は、直径13mmの円盤状であり、溶結したポリエチレン樹脂粒子の間隙が連続孔として平面状多孔質体の厚さ方向につながっている。平面状多孔質体は、連続孔の平均孔径および空孔率がそれぞれ以下の通りである。
【表1】

これらの平面状多孔質体を、それぞれ、ジエチルエーテルを満たしたガラス管(外径13mm内径12mm)の開口端に取り付け、風洞の風下に設置した。風洞内では乱流が発生しており、撹拌ファンの回転数を変化させてガラス管近傍の風速を変化させた。一定時間ごとにガラス管の全重量を測定し、ジエチルエーテルの蒸発に伴う重量変化に及ぼす風速の影響を調べた。同様にPalmes tube(Gradko社製)の拡散部、オガワ・サンプラー(小川商会製)の多孔栓についても同様の測定を行った。図2に結果を示す。
図2の横軸はガラス管近傍での風速を示しており、縦軸は各風速における重量変化M(g/h)を無風時の重量変化Mo(g/h)で除した値を示している。図2から明らかなように、Palmes tubeの拡散部、オガワ・サンプラーの多孔栓を用いた場合、重量変化が風速によって著しく変化した。これらを拡散体として使用した場合、ガス状被検物質の捕集量が風速による影響を受けやすいことを示している。一方、本発明の受動的捕集器で拡散体として使用する平面状多孔質体では風速2m/s付近でも有意な風速の影響は見られなかった。ここから、本発明の受動的捕集器の場合、ガス状被検物質の捕集量が風速による影響を受けにくいことがわかった。
【0037】
[実施例1]
ニトロセルロース製ろ紙(Whatman#1,13mmφ)を10%トリエタノールアミン/アセトン溶液に浸漬して引き上げ、フッ素樹脂製メッシュ上に30分間乾燥して捕集体を調製した。直径13mm長さ40mmの円柱状の支持体(ガラス製)の一方の端面に、この捕集体と、上記手順で作成した平面状多孔質体(厚さ0.75mm)とを、この順で積層させた状態で設置し、略円筒形状をした止め具を用いて固定し、図1(a),(b)に示す受動的捕集器を作成した(以下、「#0.75サンプラー」と呼ぶ)。この受動的捕集器をイギリス国・オックスフォード市内2箇所(High Street,Carfax)、および日本国・神奈川県内2箇所(秦野、伊勢原)においてNO2濃度自動測定機の試料採取口近傍に設置し、24時間空気中に曝露した(測定期間:オックスフォード市内:2004年9月11−19日、神奈川県内:2004年11月10−18日)。曝露後、受動的捕集器から捕集体を取り出し、捕集されたNO2をスルファニルアミド/NEDA法により分析した。図3に結果を示す。図3の横軸は自動測定機によって測定された大気中NO2濃度の24時間平均値を示しており、縦軸は受動的捕集器によって採取されたNO2捕集量を示している。両者には良好な直線関係が認められ、NO2濃度C(ppm)とNO2捕集量W(μg)の間には、捕集時間をt(h)とするとき、(1)式の関係が導かれた。
C=W/(1.3×t) …(1)
また、この係数α=1.3(μg/ppm/h)から、#0.75サンプラーでの、NO2捕集速度Sを(2)式から求めることができる。
【数1】

…(2)
ここでMWはNO2の分子量、Tは温度(℃)である。
(2)式によれば、25℃における捕集速度は12(ml/min)である。
【0038】
[実施例2]
ニトロセルロース製ろ紙(Whatman#1,13mmφ)を10%トリエタノールアミン/アセトン溶液に浸漬して引き上げ、フッ素樹脂製メッシュ上に30分間乾燥して捕集体を調製した。直径13mm長さ40mmの円柱状の支持体(ガラス製)の一方の端面に、この捕集体と、上記手順で作成した平面状多孔質体(厚さ1.0mm)とを、積層させた状態で設置し、略円筒形状をした止め具を用いて固定し、図1(a),(b)に示す受動的捕集器を作成した(以下、「#1.0サンプラー」と呼ぶ。)。この受動的捕集器をイギリス国・オックスフォード市内2箇所(High Street,Carfax)および日本国・神奈川県内2箇所(秦野、伊勢原)においてNO2濃度自動測定機の試料採取口近傍に設置し、24時間空気中に曝露した(測定期間:オックスフォード市内:2004年9月11−19日、神奈川県内:2004年11月10−18日)。曝露後、受動的捕集器から捕集体を取り出し、捕集されたNO2をスルファニルアミド/NEDA法により分析した。図4に結果を示す。横軸は自動測定機によって測定された大気中NO2濃度の24時間平均値、縦軸は受動的捕集器によって採取されたNO2捕集量である。両者には良好な直線関係が認められ、NO2濃度C(ppm)とNO2捕集量W(μg)の間には、捕集時間をt(h)とするとき、(3)式の関係が導かれた。
C=W/(1.2×t) …(3)
また、この係数α=1.2(μg/ppm/h)から、#1.0サンプラーのNO2に対する捕集速度Sを(2)式から求めることができる。25℃における捕集速度は11(ml/min)となった。
【0039】
[実施例3]
実施例1、2と同様の手順で、#0.75サンプラー、および#1.0サンプラーを作成した。これらの受動的捕集器を日本国・神奈川県秦野においてNO2濃度自動測定機の試料採取口近傍に設置し、3、6、12および30時間空気中に曝露した(測定期間:神奈川県秦野2004年11月29−30日)。曝露後、受動的捕集器から捕集体を取り出し、捕集されたNO2をスルファニルアミド/NEDA法により分析した。図5に各測定時間における#0.75および#1.0サンプラーによるNO2濃度測定値と、自動測定機によるNO2濃度測定値とを比較して示す。#0.75および#1.0サンプラーによるNO2濃度測定値は、それぞれのNO2捕集量を(1)および(2)式によって濃度に換算したものである。図から明らかなように、これら受動的捕集器による測定値と自動測定機による値はよく一致しており、短い捕集時間(3時間)でも精度良くNO2濃度を測定することができた。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1(a),(b)は、本発明の受動的捕集器の実施形態の一例を示す。図1(a)は、本発明の受動的捕集器の側面図であり、図1(b)は受動的捕集器の斜視図である。
【図2】図2は、参考例の結果を示すグラフである。
【図3】図3は、実施例1の結果を示すグラフである。
【図4】図4は、実施例2の結果を示すグラフである。
【図5】図5は、実施例3の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0041】
1 支持体
2 捕集体(吸収剤含浸ろ紙)
3 拡散体(平面状多孔質体)
4 止め具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体に、ガス状被検物質の捕集体と、気体分子が分子拡散の原理で通過する拡散体と、がこの順に積層固定されており、
前記捕集体が、前記ガス状被検物質の吸収剤を含浸させたろ紙であり、
前記拡散体が、樹脂粒子を焼結または溶結し、成形することにより得られる平面状多孔質体であり、
前記拡散体において、焼結または溶結した前記樹脂粒子の間隙が、連続孔として該拡散体の厚さ方向につながっていることを特徴とするガス状被検物質の受動的捕集器。
【請求項2】
前記樹脂粒子が、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂およびポリエステルからなる群から選択される少なくとも1つの樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載のガス状被検物質の受動的捕集器。
【請求項3】
前記拡散体は、厚さが0.5〜2.0mmであり、前記連続孔の孔径が10〜100μmであり、および空孔率が20〜75%であることを特徴とする請求項1または2に記載のガス状被検物質の受動的捕集器。
【請求項4】
前記支持体は、前記捕集体および前記拡散体を積層固定する部位の平面形状が、円形であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のガス状被検物質の受動的捕集器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−107092(P2008−107092A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−287363(P2006−287363)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】