説明

ガス絶縁電力機器の異常検出方法

【課題】内部の異常を高感度に検出する。スペーサにおける放電を他の異常と区別して検出する。
【解決手段】絶縁ガス1が封入された接地タンク2内に導体3をスペーサ8によって電気的に絶縁した状態で収容すると共に、接地タンク2内で発生した絶縁ガス1の分解ガスを吸着材4によって吸着除去するガス絶縁電力機器の異常検出方法であって、吸着材4を接地タンク2とは別の密閉容器5に収容すると共に、密閉容器5を接地タンク2に接続して密閉容器5内と接地タンク2内とを連通し、分解ガスを密閉容器5内に導いて吸着材4によって吸着除去する一方、異常検出を行う場合には、接地タンク2から吸着材4に至るまでの間の連通路9に設けた採取口13から吸着材4に接する前のガスを採取し、Cを含む分解ガスの検出に基づいてスペーサにおける放電を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばSFガスやSFガスを含む混合ガス等を主絶縁媒体あるいはアーク消弧媒体等として用いたガス絶縁電力機器、例えば、ガス絶縁開閉装置(GIS)、ガス遮断器(GCB)、キュービクル形ガス開閉装置(C−GIS)、ガス絶縁変圧器、管路気中ガス絶縁送電線路(GIL)などのガス絶縁電力機器の異常検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス絶縁電力機器は大気圧以上の絶縁ガスを絶縁媒体に使用するため、電気回路となる高電圧中心導体(主回路)を固体支持絶縁物(スペーサ)とともに金属製の接地タンク(機器外被)内に格納し、密閉構造を成している。そのため、外部環境の影響を受けない、機器のコンパクト化を図れる、保守面で安全であるなど種々の利点を有し、わが国では極めて多用されている。反面、機器外部からは内部の状態を監視しにくく、万一、主回路の導通や機器絶縁に異常が発生しても、その異常を検出しにくいとの問題がある。そこで、機器の内部の状態、特に絶縁性能を外部から検出する技術の開発が強く求められている。
【0003】
例えば、ガス絶縁開閉装置内でコロナ放電が発生すると電磁波が放射されることから、この電磁波を受信することでコロナ放電を検出する絶縁異常検出装置がある(特開平01−235865号公報)。この絶縁異常検出装置では、コロナ放電により生じる電磁波に対して受信感度が高い位置にコロナ放電検出用アンテナを配置すると共に、コロナ放電により生じる電磁波に対して受信感度が十分低い位置にノイズ検出用アンテナを配置し、コロナ放電検出用アンテナで受信された信号とノイズ検出用アンテナで受信された信号の差をとることにより、コロナ放電信号のみを取り出し異常を検出している。
【0004】
また、異常に起因した音を検出する部分放電検出装置がある(特開平5−45402号公報)。この部分放電検出装置では、電気機器を収容する密閉容器にAE(アコースティック・エミッション)センサを取り付け、AEセンサの出力をバンドパスフィルタ、プリアンプに入力している。AEセンサは、部分放電により発生するAE波の周波数スペクトルの強度が最大となる周波数に共振する特性を有しており、部分放電発生時に生じる音波を電気信号に変換する。この電気信号のうちAEセンサの共振周波数を中心としてプリアンプの内部雑音が最小となる周波数領域の電気信号だけをバンドパスフィルタで通過させ、外部からのノイズを除去して部分放電を検出するようにしている。
【0005】
さらに、通電異常や絶縁異常に伴う部分放電あるいはアーク放電によってSFガスから分解生成された各種の派生ガス(以下、分解ガスという)を化学的に検出する放電検出装置がある(特開昭50−129938号公報)。この放電検出装置では、SFを充満させたガス絶縁電気装置の密封容器の内部に、分解ガスと反応して抵抗値が低下するガラスエポキシ積層基板からなる検出素子を配置し、検出素子の抵抗値を監視する。放電が発生すると、SFが分解して活性ガスが生成され、検出素子がSF分解生成ガスと反応するため、検出素子の抵抗値の低下を測定することにより放電を検出することができる。
【0006】
しかしながら、上述の異常発生に伴う電磁波をアンテナで受信して異常を検出する手法や、異常発生に伴うAE波をAEセンサによって感知して異常を検出する手法は、ガス絶縁機器が設置されている変電所などの環境下では背景雑音の存在によってその性能を十分に発揮できていない。なぜなら、異常の検出感度を高めるために受信感度・センサ感度を高めても、背景雑音をも検出することになり、異常を示す真の情報と背景雑音の識別(いわゆるS/N比)を高めることは極めて困難だからである。ここで、上述の異常発生に伴う電磁波をアンテナで受信して異常を検出する絶縁異常検出装置では、ノイズ検出用アンテナを設けることで背景雑音のキャンセルを図っているが、コロナ放電検出用アンテナが設けられている場所の背景雑音を計測しているわけではないので、背景雑音の影響を完全に排除することはできないと考えられる。
【0007】
この点、分解ガスを化学的に検出する手法はこのような背景雑音の問題はなく、しかも、部分放電などの異常が極めて軽微であっても、SFガスの分解ガスは通常蓄積されるため、次第に濃度が増えて検出が容易となる利点がある。ところが、SFガスの分解ガスの多くは金属を腐食するなど、機器に有害な影響を与えるものが多いため、通常は機器の内部に分解ガスを吸着・除去するための吸着材が封入され、機器に有害な影響を与えない程度の濃度に抑えるようにしている。
【0008】
【特許文献1】特開平01−235865号
【特許文献2】特開平5−45402号
【特許文献3】特開昭50−129938号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、ガス絶縁電力機器では、機器内部に分解ガスを吸着する吸着材が封入されているため、通電異常あるいは絶縁異常等をSFガスの分解ガスに基づいて検出しようとしても、検出素子等のセンサ類によって分解ガスを検出する前に分解ガスが吸着材に吸着されてしまい、分解ガスを良好に検出することができず、その実用化が難しい。つまり、吸着材に接触した後のガスに基づいてガス中の分解ガスを検出するので、分解ガスの検出感度に劣り、異常発生を良好に検出することが困難である。
【0010】
また、接地タンク内で発生する異常としては、スペーサにおける放電の他に、導体の表面で生じる部分放電や接地タンク内の塵等に起因して生じる部分放電等がある。これらの異常のうち、自己修復しないスペーサにおける放電の検出は保守管理上重要であり、他の異常と区別して検出したいとの要請がある。
【0011】
本発明は、内部の異常を高感度に検出することができ、しかもスペーサにおける放電を他の異常と区別して検出することができるガス絶縁電力機器の異常検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するために請求項1記載の発明は、絶縁ガスが封入された接地タンク内に導体をスペーサによって電気的に絶縁した状態で収容すると共に、接地タンク内で発生した絶縁ガスの分解ガスを吸着材によって吸着除去するガス絶縁電力機器の異常検出方法において、吸着材を接地タンクとは別の密閉容器に収容すると共に、密閉容器を接地タンクに接続して密閉容器内と接地タンク内とを連通し、分解ガスを密閉容器内に導いて吸着材によって吸着除去する一方、異常検出を行う場合には、接地タンクから吸着材に至るまでの間の連通路に設けた採取口から吸着材に接する前のガスを採取し、Cを含む分解ガスの検出に基づいてスペーサにおける放電を検出するものである。ここで、スペーサにおける放電としては各種の放電があるが、例えば部分放電、コロナ放電、ストリーマ放電、リーダ放電等がある。
【0013】
接地タンク内でスペーサにおける放電が発生すると、スペーサの表面が溶融し、スペーサを構成する元素が絶縁ガス中に放出される。スペーサはエポキシ樹脂等のCを含む絶縁材料で形成されている。一方、絶縁ガスはSFガスやSFガスを含む混合ガスであり、Cを含んでいない。このため、Cを含む分解ガスの検出に基づいてスペーサにおける放電を検出することができる。
【0014】
接地タンク内と密閉容器内とは連通されており、接地タンク内で発生した分解ガスは密閉容器内で吸着材によって吸着除去される。このため、接地タンク内の分解ガスの濃度は減少する。本発明では、吸着材に接する前のガスを採取口から採取するので、吸着材によってCを含む分解ガスが吸着除去される前にガスの採取を行なうことができる。また、接地タンク内を開放することはなく、接地タンク内の気密性を維持しながらガスを採取することができる。
【0015】
また、請求項2記載の発明は、絶縁ガスが封入された接地タンク内に導体をスペーサによって電気的に絶縁した状態で収容すると共に、接地タンク内で発生した絶縁ガスの分解ガスを吸着材によって吸着除去するガス絶縁電力機器の異常検出方法において、吸着材を接地タンクとは別の密閉容器に収容すると共に、密閉容器を接地タンクに切り離し可能に接続して密閉容器内と接地タンク内とを連通し、分解ガスを密閉容器内に導いて吸着材によって吸着除去する一方、異常検出を行う場合には、接地タンク側連通路を閉じた状態で接地タンクから密閉容器を切り離して吸着材の分析を行ない、Cを含む分解ガスの検出に基づいてスペーサにおける放電を検出するものである。
【0016】
接地タンク内でスペーサにおける放電が発生すると、スペーサの表面が溶融し、スペーサを構成する元素が絶縁ガス中に放出される。スペーサはエポキシ樹脂等のCを含む絶縁材料で形成されている。一方、絶縁ガスはSFガスやSFガスを含む混合ガスであり、Cを含んでいない。このため、Cを含む分解ガスの検出に基づいてスペーサにおける放電を検出することができる。
【0017】
接地タンク内と密閉容器内とは連通されており、接地タンク内で発生した分解ガスは密閉容器内で吸着材によって吸着除去される。このため、接地タンク内の分解ガスの濃度は減少し、吸着材に分解ガスが蓄積される。本発明では、密閉容器を接地タンクから切り離し、吸着材を取り出して分析を行なうことができる。接地タンク側連通路を閉じた状態で密閉容器を切り離すので、接地タンク内の気密性を維持できる。つまり、接地タンク内の気密性を維持しながら吸着材を取り出し分析にかけることができる。
【発明の効果】
【0018】
請求項1記載のガス絶縁電力機器の異常検出方法では、吸着材を接地タンクとは別の密閉容器に収容すると共に、密閉容器を接地タンクに切り離し可能に接続して密閉容器内と接地タンク内とを連通し、分解ガスを密閉容器内に導いて吸着材によって吸着除去する一方、異常検出を行う場合には、接地タンクから吸着材に至るまでの間の連通路に設けた採取口から吸着材に接する前のガスを採取し、Cを含む分解ガスの検出に基づいてスペーサにおける放電を検出するので、接地タンク内で発生する異常の中でもより重要度の高いスペーサにおける放電を、他の異常と区別して検出することができる。また、吸着材によってCを含む分解ガスが吸着除去される前にガスの採取を行なうことができるので、分解ガスの濃度が高い状態で検出を行うことができる。このため、Cを含む分解ガスの検出がより確実なものとなり、スペーサにおける放電をより確実に検出することができる。さらに、接地タンク内の気密性を維持しながらガスの採取を行なうことができるので、ガス絶縁電力機器の運転を止めずに接地タンク内で生じた異常を検出することができる。
【0019】
また、請求項2記載のガス絶縁電力機器の異常検出方法では、吸着材を接地タンクとは別の密閉容器に収容すると共に、密閉容器を接地タンクに切り離し可能に接続して密閉容器内と接地タンク内とを連通し、分解ガスを密閉容器内に導いて吸着材によって吸着除去する一方、異常検出を行う場合には、接地タンク側連通路を閉じた状態で接地タンクから密閉容器を切り離して吸着材の分析を行ない、Cを含む分解ガスの検出に基づいてスペーサにおける放電を検出するので、接地タンク内で発生する異常の中でもより重要度の高いスペーサにおける放電を、他の異常と区別して検出することができる。また、たとえCを含む分解ガスの濃度がわずかであっても、吸着材には吸着した分解ガスが蓄積されるので、分解ガスの検出がより確実なものとのなる。即ち、Cを含む分解ガスの検出がより確実なものとなり、スペーサにおける放電をより確実に検出することができる。さらに、接地タンク内の気密性を維持しながら吸着材を回収することができるので、ガス絶縁電力機器の運転を止めずに、接地タンク内で生じた異常を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の構成を図面に示す最良の形態に基づいて詳細に説明する。
【0021】
図1に、本発明のガス絶縁電力機器の異常検出方法の一例を実施するガス絶縁電力機器を示す。このガス絶縁電力機器は、絶縁ガス1が封入された接地タンク2内に導体3を電気的に絶縁した状態で収容すると共に、接地タンク2内で発生した絶縁ガス1の分解ガスを吸着材4によって吸着除去するものである。そして、吸着材4を接地タンク2とは別の密閉容器5に収容すると共に、密閉容器5を接地タンク2に接続して密閉容器5内と接地タンク2内とを連通させ、密閉容器5を切り離す場合に接地タンク側連通路28を閉じる第1の開閉弁を備えている。
【0022】
接地タンク2には、内部の真空引き及び絶縁ガス1の封入に使用する給排気管(ガス配管)6と、この給排気管6を開閉する開閉弁7が設けられている。本実施形態では、接地タンク側連通路28は接地タンク2の給排気管6であり、第1の開閉弁は給排気管6に設けられた開閉弁7である。つまり、接地タンク2に通常設けられている既存の給排気管6と開閉弁7を利用している。このため、密閉容器5の取り付けが容易である。また、既存の接地タンク2の設計変更を行わずにそのまま密閉容器5を取り付けることができ、特に、既に設置され運転されているガス絶縁電力機器に対しても後付けすることができる。さらに、後付けした密閉容器5を取り外すことでガス絶縁電力機器を元の状態に戻すことができる。なお、既に設置され運転されているガス絶縁電力機器に適用する場合には、接地タンク2内に設けられている吸着材を撤去しておく。
【0023】
密閉容器5には、密閉容器側連通路10と、密閉容器5を切り離す場合に密閉容器側連通路10を閉じる第2の開閉弁11が設けられている。密閉容器側連通路10は接地タンク側連通路28に接続されている。密閉容器側連通路10と接地タンク側連通路28とは、互いのフランジ10a,6aを突き合わせてボルトによって固定することで切り離し可能に接続されている。
【0024】
また、接地タンク2から吸着材4に至るまでの間の連通路9には吸着材4に接する前のガスを採取する採取口13が設けられている。本実施形態では、密閉容器5に採取口13が設けられている。ただし、採取口13を設ける位置は密閉容器5に限るものではなく、吸着材4に接する前のガスを採取できる位置であれば良い。採取口13を密閉容器5に設けることで、採取口13の設置が容易であると共に、一体化したユニットとして取り扱うことができるので、その扱いが容易である。採取口13には開閉弁14が設けられており、ガスを採取する時以外の時には採取口13を閉じておき、接地タンク2内及び密閉容器5内の気密性を確保している。
【0025】
導体(主回路)3は、例えば高電圧中心導体で、例えば円筒形状を成している。導体3は、例えば円筒形状を成す接地タンク(機器外被)2の中心位置に配置され、支持絶縁物(スペーサ)8によって支持されている。絶縁ガス1は、例えばSFガス、SFガスを含む混合ガス等である。ただし、これらのガスに限るものではなく、Cを含むガス以外のガスであれば使用可能である。Cを含むガス以外のガスとしては、例えばNガス等の使用が可能である。
【0026】
スペーサ8は例えばポストタイプのスペーサである。ただし、ポストタイプのスペーサに限るものではない。例えば、ディスクタイプのスペーサ、コーンタイプのスペーサ等でも良く、その他のタイプのスペーサでも良い。スペーサ8はエポキシ樹脂等のCを含む絶縁材料で形成されている。
【0027】
ガス絶縁電力機器の運転時には、第1及び第2の開閉弁7,11を開き、接地タンク2内と密閉容器5内とを連通させておく。また、開閉弁14を閉じておく。接地タンク2内で通電異常や絶縁異常等の異常が発生すると、絶縁ガス1から分解ガスが発生し、分解ガスの濃度が増加する。接地タンク2内と密閉容器5内とは連通されており、分解ガスは自然に拡散して密閉容器5内に到達し、吸着材4によって吸着除去される。このため、接地タンク2内の分解ガスの濃度を減少させることができる。分解ガスの多くは金属を腐食させる腐食性ガスである。吸着材4によって分解ガスを吸着除去するので、接地タンク2や導体3等を腐食させる程には分解ガスの濃度は高くならず、これらの腐食を防止することができる。
【0028】
密閉容器5を接地タンク2から切り離す場合、第1の開閉弁7によって接地タンク側連通路28を閉じることで接地タンク2内の気密性を維持できる。このため、ガス絶縁電力機器の運転を止めずに密閉容器5を切り離すことができ、吸着材4を取り出して交換や修理・再生を行うことができる。また、第2の開閉弁11によって密閉容器側連通路10を閉じることで密閉容器5内の気密性を維持することができ、後述するように吸着材4に吸着されているガスに基づいて異常の検出を行なう場合には、切り離した密閉容器5内の吸着材4を外気に接触させることなく分析にかけることができる。
【0029】
接地タンク2内での異常は、以下のようにして検出できる。即ち、本発明のガス絶縁電力機器の異常検出方法は、絶縁ガス1が封入された接地タンク2内に導体3をスペーサ8によって電気的に絶縁した状態で収容すると共に、接地タンク2内で発生した絶縁ガス1の分解ガスを吸着材4によって吸着除去するガス絶縁電力機器の異常検出方法であって、吸着材4を接地タンク2とは別の密閉容器5に収容すると共に、密閉容器5を接地タンク2に接続して密閉容器5内と接地タンク2内とを連通し、分解ガスを密閉容器5内に導いて吸着材4によって吸着除去する一方、異常検出を行う場合には、接地タンク2から吸着材4に至るまでの間の連通路9に設けた採取口13から吸着材4に接する前のガスを採取し、Cを含む分解ガスの検出に基づいてスペーサ8における放電を検出するものである。ここで、スペーサ8における放電としては各種の放電があるが、例えば部分放電、コロナ放電、ストリーマ放電、リーダ放電等がある。
【0030】
接地タンク2内で通電異常や絶縁異常等の異常が発生すると、絶縁ガス1から分解ガスが発生する。接地タンク2内で発生する異常の中でもスペーサ8における放電は保守的観点からより重要度が高いものである。スペーサ8はエポキシ樹脂等のCを含む絶縁材料で形成されており、スペーサ8において放電が発生すると、その表面が溶融し絶縁ガス1中にCが放出される。一方、絶縁ガス1にはCは含まれていない。このため、Cを含む分解ガスが検出された場合、そのCはスペーサ8に由来するものであり、スペーサ8において放電が発生したと考えられる。したがって、本発明の異常検出方法では、外から見ることができないスペーサ8における放電を、他の異常とは区別して検出することができる。
【0031】
Cを含む分解ガスとしては、例えばCSガス、CFガス等が考えられる。ただし、これらに限るものではなく、Cを含む分解ガスであればその他のガスでも良い。
【0032】
この異常検出方法では、開閉弁14を開けて採取口13よりガスを採取することで、吸着材4に接する前のガスを採取することができる。このため、分解ガスをより多く含む状態のガスを使用してCを含む分解ガスの検出を行うことができ、スペーサ8における放電の発生をより確実に検出することができる。また、接地タンク2内を密閉したままガスを採取することができるので、ガス絶縁電力機器の運転を止めずにスペーサ8における放電を検出することができる。Cを含む分解ガスを検出するためのガスの採取は、例えば定期的に又は不定期に行なわれる。
【0033】
また、ガス絶縁電力機器の運転時には第1及び第2の開閉弁7,11を常時開いておき、吸着材4による分解ガスの吸着除去を行い続けるようにしても良いが、例えばガスの採取を行なう所定時間前に第1及び第2の開閉弁7,11を閉じておき、吸着材4による分解ガスの吸着除去をできないようにしておき、分解ガスの濃度を増加させておくようにしても良い。この場合には、Cを含む分解ガスの検出がより一層確実なものになる。
【0034】
また、接地タンク2内での異常を以下のようにして検出することもできる。即ち、本発明のガス絶縁電力機器の異常検出方法は、絶縁ガス1が封入された接地タンク2内に導体3をスペーサ8によって電気的に絶縁した状態で収容すると共に、接地タンク2内で発生した絶縁ガス1の分解ガスを吸着材4によって吸着除去するガス絶縁電力機器の異常検出方法であって、吸着材4を接地タンク2とは別の密閉容器5に収容すると共に、密閉容器5を接地タンク2に切り離し可能に接続して密閉容器5内と接地タンク2内とを連通し、分解ガスを密閉容器5内に導いて吸着材4によって吸着除去する一方、異常検出を行う場合には、接地タンク側連通路28を閉じた状態で接地タンク2から密閉容器5を切り離して吸着材4の分析を行ない、Cを含む分解ガスの検出に基づいてスペーサ8における放電を検出するものである。
【0035】
密閉容器5内の吸着材4によって発生した分解ガスを吸着除去することで、吸着材4には分解ガスが蓄積される。第1及び第2の開閉弁7,11を閉じて密閉容器5を接地タンク2から切り離し、外気を遮断した状態で吸着材4を取り出して分析する。吸着材4の分析によってCを含む分解ガスを検出し、これによって接地タンク2内での異常発生を検出する。吸着材4には分解ガスが蓄積されているので、たとえ接地タンク2内のCを含む分解ガスの濃度が低くても、Cを含む分解ガスの検出は容易であり、スペーサ8における放電の発生をより確実に検出することができる。
【0036】
ここで、ガスを分析するためには吸着材4に吸着されている分解ガスを放出させる必要があるが、吸着材4に吸着されているガスの放出は、例えば吸着材4を加熱することで行なわれる。吸着材4から放出されたガスを、例えばフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)、ガスクロマトグラフ等によって分析し、Cを含む分解ガス検出する。ただし、ガスを分析する装置としては、これらに限るものではなく、その他の装置を使用しても良い。
【0037】
なお、本実施形態では、上記2つの方法、即ち、吸着材4に接触する前のガスを採取して分析する方法と、吸着材4に吸着されたガスを分析する方法とを併用しているが、これら2つの方法のうち、いずれか一方のみを使用しても良い。
【0038】
また、吸着材4に接触する前のガスを分析対象とする方法を使用しない場合等には採取口13を省略しても良い。
【0039】
また、接地タンク2から密閉容器5を切り離した場合に、吸着材4が外気に触れても良い場合等には、第2の開閉弁11を省略しても良い。
【0040】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0041】
例えば、図2に示すガス絶縁電力機器に適用しても良い。なお、上述のガス絶縁電力機器の部材と同一の部材には同一の符号を付し、それらの説明は省略する。
【0042】
このガス絶縁電力機器は、接地タンク2内と密閉容器5内とを連通する連通路9を往路15と復路16とを有する循環路にすると共に、接地タンク2内のガスを往路15から密閉容器5に導いて吸着材4に接触させた後、復路16から接地タンク2へと循環させる循環装置22を備えている。本実施形態では、往路15と復路16を二重管状に配置された内管17と外管18とによって構成している。
【0043】
二重管状の連通路9は、接地タンク2に既存の給排気管6を利用して形成されている。即ち、給排気管6内に内管27を挿入することで二重の管路を設けて接地タンク側連通路28とし、密閉容器側連通路10を内管19と外管29より構成される二重管によって構成し、給排気管6と外管29、内管27と内管19を切り離し可能に接続している。つまり、内管27と内管19とによって内管17を構成し、給排気管6と外管29とによって外管18を構成している。
【0044】
二重管の外管29は密閉容器5内の空間20に開口し、内管19は密閉容器5内の吸着材収容室21に開口している。また、吸着材収容室21の入口には、空間20内のガスを吸着材収容室21内に送り込む循環装置22が設置されている。循環装置22は、例えば図示しないモータによって駆動される電動ファンである。採取口13は、二重管の外管29の途中に設けられている。
【0045】
循環装置22を始動させると、密閉容器5内の空間20が負圧、吸着材収容室21内が正圧となり、強制的なガスの流れが形成される。接地タンク2内のガスは給排気管6と内管27の間の空間(以下、給排気管外側通路という)に吸い込まれ、二重管の外管29と内管19の間の空間(以下、二重管外側通路という)を通って密閉容器5内の空間20に吸引される。そして、循環装置22によって吸着材収容室21内に送り込まれ、吸着材4に接触した後、二重管の内管19内の空間(以下、二重管内側通路という)→給排気管6内の内管27の内側の空間(以下、給排気管内側通路という)→接地タンク2内へと強制的に循環される。接地タンク2内で発生した分解ガスは、この流れに乗って吸着材4に到達し、吸着除去される。
【0046】
このように、連通路を循環路とし、循環装置22を設けて強制的にガスを循環させるので、分解ガスが自然拡散により吸着材4に到達するのを待つ場合に比べ、素早く分解ガスを吸着除去することができると共に、接地タンク2内への分解ガスの残留防止を図ることができる。
【0047】
また、二重管外側通路には吸着材4に接触する前のガスが流れているので、採取口13より吸着材4に接触する前の状態のガスを採取することができる。
【0048】
なお、上述の説明では、給排気管外側通路と二重管外側通路を往路15とし、二重管内側通路と給排気管内側通路を復路16としているが、必ずしもこの構成にする必要はなく、二重管内側通路と給排気管内側通路を往路15とし、給排気管外側通路と二重管外側通路を復路16としても良い。
【0049】
また、上述の説明では、循環装置22を吸着材収容室21の入口に設けていたが、ガスの強制的な循環流を発生させることが可能な位置であれば循環装置22を他の位置に設けても良い。
【0050】
ここで、連通路9の二重管構造について説明する。連通路9の二重管構造としては、例えばガス絶縁電力機器の運転時等には二重管となっているが、接地タンク2から密閉容器5を切り離す場合には一重管となる構造の採用が考えられる。その一例を図3に示す。連通路9の内管17は、例えば可撓性のあるチューブで構成されている。密閉容器5内には、チューブ巻取装置23が設けられている。チューブ巻取装置23によって内管17を巻き取ることで、外管18内から内管17を引き抜くことができる。また、巻き取った内管17をチューブ巻取装置23によって外管18内に送り出すことができる。内管17が送り出されることで、連通路9は二重管構造となる。つまり、内管27と二重管の内管19を1本のチューブで構成している。
【0051】
第1の開閉弁7と第2の開閉弁11は、例えばバルブとして開路の状態で給排気管6又は外管29の断面と直線性が確保できるフルボアタイプのボールバルブである。第1及び第2の開閉弁7,11を開くことで外管29と給排気管6とで構成される外管18の中に内管17を送り出すことが可能になる。また、内管17を巻き取ることで、第1及び第2の開閉弁7,11を閉じることが可能になる。ただし、第1及び第2の開閉弁7,11として、フルボアタイプのボールバルブ以外のバルブを使用しても良い。
【0052】
ガス絶縁電力機器の運転時には、第1及び第2の開閉弁7,11を開き、内管17を外管18の中に送り出しておくことで、連通路9を往路15と復路16とからなる循環路にすることができる。そして、接地タンク2から密閉容器5を切り離す場合には、チューブ巻取装置23によって内管17を巻き取った後、第1及び第2の開閉弁7,11を閉じ、給排気管6から外管29を取り外せば良い。また、切り離した密閉容器5を接地タンク2に取り付ける場合には、絶縁ガス1雰囲気で給排気管6に外管29を接続した後、第1及び第2の開閉弁7,11を開き、チューブ巻取装置23によって内管17を外管18の中に送り出せばよい。
【0053】
なお、電動のチューブ巻取装置23は密閉容器5の外から遠隔操作される。ただし、電動のチューブ巻取装置23に代えて、手動のチューブ巻取装置23を使用しても良く、この場合には、ガスシールが施されたハンドルを操作してチューブ巻取装置23を駆動させる。
【0054】
また、内管17として可撓性のチューブの使用に代えて、蛇腹構造の内管17を使用し、伸縮させることで外管18の中に挿入したり引き抜いたりするようにしても良い。蛇腹構造の内管17を伸縮させる手段としては、例えば内管17内にロッドを挿入して先端同士を接続しておき、ロッド操作によって蛇腹構造の内管17を伸縮させることが考えられる。あるいは、内管17をテレスコープ形シリンダ構造、即ち直径が少しずつ異なる複数のパイプによって内管17を構成し、各パイプを順次隣のパイプ内に収納したり引き出したりすることで全体として伸縮できる構造にし、伸縮させることで外管18の中に挿入したり引き抜いたりするようにしても良い。この構造の内管17を伸縮させる手段としては、例えば内管17内にロッドを挿入して先端同士を接続しておき、ロッド操作によって内管17を伸縮させることが考えられる。
【0055】
また、伸縮可能な内管17に代えて、例えば金属製のパイプ等の伸縮しない内管17を使用してもよい。即ち、長尺の内管17をそのまま軸方向に引き抜くようにしても良い。この場合には、構造を簡単にすることができる。ただし、図3の矢印A方向に内管17を軸方向に引き抜くことができる空間を必要とするので、かかる空間が確保できる場合に有効である。
【0056】
また、連通路9の二重管構造としては、上述の接地タンク2から密閉容器5を切り離す場合に一重管にする構造の他に、一重管にすることができずに常時二重管となっている構造の採用も考えられる。この場合、第1及び第2の開閉弁7,11として、例えば図4に示すように、フルボアタイプのボールバルブのボール7a,11a内の貫通孔を連通路9の二重管と同一径で接続される二重構造として、往路15と復路16の両方を同時に開閉できる構造とすることが考えられる。
【0057】
また、上述の説明では、接地タンク2に既存の給排気管6を利用して連通路9を構成していたが、給排気管6とは別に連通路9を設けても良い。この例を図5に示す。この例では、接地タンク2に既設のハンドホールフランジ(開口フランジ)蓋24に孔を設けて接地タンク側連通路28となる二重管30を固着し、これに密閉容器側連通路10となる二重管31を連結している。この場合には、各二重管30,31の直径をある程度自由に選択できるため、連通路9の設計の自由度が向上し、連通路9の形成が容易である。ただし、二重管30の固着位置としては、ハンドホールフランジ蓋24に限るものではない。
【0058】
また、例えば、図6に示すガス絶縁電力機器に適用しても良い。なお、上述のガス絶縁電力機器の部材と同一の部材には同一の符号を付し、それらの説明は省略する。
【0059】
このガス絶縁電力機器は、往路15と復路16を別々に設けた配管25,26,32,33によって構成している。配管25,26は、例えばハンドホールフランジ蓋24に孔を設けて固着している。また、配管32,33は密閉容器5に固着している。配管32は配管25に、配管33は配管26にそれぞれ切り離し可能に接続されている。
【0060】
ハンドホールフランジ蓋24は給排気管6よりも大径であり、連通路9を二重管構造とした場合に比べて、往路15と復路16との間を離して設置することができる。このため、接地タンク2内でガスをより効率よく循環させることができ、接地タンク2内の分解ガスの残留をより一層防止することができる。また、ハンドホールフランジ蓋24への配管25,26の固着は容易であり、ガス絶縁電力機器の製造は簡単である。なお、配管25,26をハンドホールフランジ蓋24以外の部分に固着させても良い。また、各配管25,26のいずれか一方を給排気管6を利用して構成しても良い。また、ガス絶縁電力機器の同一ガス区画に2ヵ所以上のハンドホールフランジ蓋24が設けられている場合には、別々のハンドホールフランジ蓋24に往路15となる配管25と復路16となる配管26を固着するようにしても良い。この場合には、往路15と復路16をさらに離すことができるため、接地タンク2内でガスをより一層効率よく循環させることができ、接地タンク2内の分解ガスの残留をさらに防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の異常検出方法を実施するガス絶縁電力機器の第1の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】本発明の異常検出方法を実施するガス絶縁電力機器の第2の実施形態を示す概略構成図である。
【図3】連通路の内管を伸縮させる構造の例を示す概略構成図である。
【図4】第1及び第2の開閉弁を示し、(A)は開路状態の断面図、(B)は閉鎖状態の断面図である。
【図5】図2のガス絶縁電力機器の変形例を示す概略構成図である。
【図6】本発明の異常検出方法を実施するガス絶縁電力機器の第3の実施形態を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0062】
1 絶縁ガス
2 接地タンク
3 導体
4 吸着材
5 密閉容器
6 接地タンク側連通路
8 スペーサ
9 連通路
13 採取口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁ガスが封入された接地タンク内に導体をスペーサによって電気的に絶縁した状態で収容すると共に、前記接地タンク内で発生した前記絶縁ガスの分解ガスを吸着材によって吸着除去するガス絶縁電力機器の異常検出方法において、前記吸着材を前記接地タンクとは別の密閉容器に収容すると共に、前記密閉容器を前記接地タンクに接続して前記密閉容器内と前記接地タンク内とを連通し、前記分解ガスを前記密閉容器内に導いて前記吸着材によって吸着除去する一方、異常検出を行う場合には、前記接地タンクから前記吸着材に至るまでの間の連通路に設けた採取口から前記吸着材に接する前のガスを採取し、Cを含む分解ガスの検出に基づいて前記スペーサにおける放電を検出することを特徴とするガス絶縁電力機器の異常検出方法。
【請求項2】
絶縁ガスが封入された接地タンク内に導体をスペーサによって電気的に絶縁した状態で収容すると共に、前記接地タンク内で発生した前記絶縁ガスの分解ガスを吸着材によって吸着除去するガス絶縁電力機器の異常検出方法において、前記吸着材を前記接地タンクとは別の密閉容器に収容すると共に、前記密閉容器を前記接地タンクに切り離し可能に接続して前記密閉容器内と前記接地タンク内とを連通し、前記分解ガスを前記密閉容器内に導いて前記吸着材によって吸着除去する一方、異常検出を行う場合には、接地タンク側連通路を閉じた状態で前記接地タンクから前記密閉容器を切り離して前記吸着材の分析を行ない、Cを含む分解ガスの検出に基づいて前記スペーサにおける放電を検出することを特徴とするガス絶縁電力機器の異常検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−67538(P2008−67538A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−243965(P2006−243965)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年3月15日 社団法人 電気学会発行の「平成18年電気学会全国大会 講演論文集[6]」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年6月 財団法人 電力中央研究所発行の「電力中央研究所報告」に発表
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】