説明

ガス遮断器

【課題】遮断時に高温のガスが小径側アーク接触子の先端部付近に溜まらないようにすることで、遮断性能を向上させることが可能なガス遮断器を提供すること。
【解決手段】固定アーク接触子1の先端部に、概ね回転放物形状をした絶縁突設部5を設ける。これにより、消弧時にアークにガス流を吹き付けたときに、固定アーク接触子1の先端部に高温のガスが溜まることを防ぐとともに、固定アーク接触子1から出るアークに流速の速いガス流を当て、アークを充分に冷却することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気回路を開閉するガス遮断器に関し、特に、電気回路を大地電位から絶縁する機能、閉路状態では負荷電流を通電する機能並びに健全時および事故時の電流を遮断する機能を有するガス遮断器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガス遮断器は、接触子間に発生するアークに消弧性のガスを吹付けて消弧を行う。ガスの吹付方法としては、機械的にガスを圧縮しガスの圧力を高めて吹き付ける機械パッファ方式や、アークによるアークエネルギーを取込むことによってガスの圧力を高めて吹き付ける熱パッファ方式があり、これらのパッファから発生したガス流を接触子間まで導き、そこから各接触子にガス流を当てている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載されているガス遮断器は、ガス流路を介して機械パッファからのガス流を接触子間まで導くように構成し、吹付口からガスを噴出してアークに吹付けている。吹付口に連通するガス流路はガス遮断器駆動軸に対して垂直となるように形成され、吹付口から噴出したガスは2方向に分かれて、アークを冷却しながら両側の固定接触子および可動接触子に向かって流れる。
【0004】
また、従来のガス遮断器の場合、固定側アーク接触子と可動側アーク接触子に対して、径が小さい側の接触子は例えば固定側アーク接触子であり、その先端部は絶縁性を考慮して鈍頭形状となっている。消弧時に、このような固定側アーク接触子に当ったガス流は、減速し固定側アーク接触子の先端部付近で淀む。特に、この先端部付近に流れてきたガスはアークによって熱せられており、高温のガスが溜まるようになる。
【0005】
【特許文献1】特開2002−25400号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来のガス遮断器には、以下に示すような問題点があった。
【0007】
消弧時にアークに吹き付けられたガス流は、固定側アーク接触子の先端部に当たり、減速されその先端部付近に高温のガスが溜まるようになるが、高温のガスは導電性が高いため、アークは可動側アーク接触子とこの高温部とで電気的につながることになる。そのため、固定側アーク接触子と可動側アーク接触子との間の絶縁距離が短くなり、絶縁性が低下する、という問題点があった。また、遮断器の遮断性能を左右するものはアークの冷却効果であり、アークを速やかに冷却してアーク空間の急速な絶縁回復を図ることであるが、流れが淀んでいるためアークは冷却されず、効率の良い遮断性能が得られない、という問題点があった。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、遮断時に高温のガスが小径側アーク接触子の先端部付近に溜まらないようにすることで、遮断性能を向上させることが可能なガス遮断器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかるガス遮断器は、消弧性ガスが充填された密閉容器と、この密閉容器内に設けられた第1のアーク接触子と、前記密閉容器内に設けられ前記第1のアーク接触子に接離可能であるとともに投入状態では前記第1のアーク接触子に挿嵌される第2のアーク接触子と、前記第1および第2のアーク接触子間に発生するアークを消弧するためのガス流を発生させるガス流発生部と、前記ガス流を前記アークへ導く絶縁ノズルと、を備えたガス遮断器において、前記第2のアーク接触子の先端部に固着され且つ絶縁部材からなる突設部を備え、前記突設部の固着面の面積を前記第2のアーク接触子の基部の断面積よりも小さくするように構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、第2のアーク接触子の先端部に絶縁性の突設部を設け、突設部の固着面の面積を第2のアーク接触子の基部の断面積よりも小さくするようにしたので、消弧時にアークにガス流を吹き付けたときに、第2のアーク接触子方向に流れるガス流は突設部に案内されて第2のアーク接触子の先端部から側面に沿って滑らかに流れる。そのため、第2のアーク接触子の先端部に高温のガスが溜まることはなく、従って、第1のアーク接触子と第2のアーク接触子との間の絶縁距離が、滞留した高温のガスにより短くなることがないので、遮断時の絶縁性が向上する。また、アークは第2のアーク接触子の先端部における突設部近傍の導体部分から出ることになり、この周辺ではガス流は速くなるので、アークを速やかに且つ充分に冷却することができる。このように、アーク空間内の熱ガスの排出を促進し、アークに流速の速いガス流を当てることが可能となるので、遮断性能が向上するという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明にかかるガス遮断器の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0012】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1にかかるガス遮断器における消弧室の断面図であり、特に、開極状態における接触子近傍の断面構成を示している。本実施の形態にかかるガス遮断器は、消弧媒体である消弧性ガス(例えば、SFガス)で満たされた密閉容器(図示せず)内に、固定アーク接触子1、可動アーク接触子2、絶縁ノズル3、およびガス流生成部としてのパッファ(図示せず)を備えて構成されている。
【0013】
消弧室は消弧性ガスで満たされた密閉容器中に設置されており、この消弧室内には、固定アーク接触子1と可動アーク接触子2とが、同一軸9上に対向して配置されている。また、これらのアーク接触子を取り囲むように絶縁ノズル3が設けられている。可動アーク接触子2は絶縁ノズル3と共に、図示しない駆動装置により、軸9方向に往復運動するように構成されている。また、可動アーク接触子2には嵌合孔10が設けられており、投入状態では、この嵌合孔10に固定アーク接触子1が嵌入し、固定アーク接触子1と可動アーク接触子2とが接触状態となる。すなわち、本実施の形態においては、固定アーク接触子1は、可動アーク接触子2よりも小径となるように構成されている。なお、固定アーク接触子1と可動アーク接触子2とは相対移動して接離可能であればよいので、図1と同様の構成のもとで、固定アーク接触子1を可動とし、可動アーク接触子2を固定する構成も当然可能である。
【0014】
また、ガス流路4は、絶縁ノズル3と可動アーク接触子2とで囲まれた領域として形成されており、このガス流路4は図中左方で図示しないパッファと連結され、パッファ室内の消弧性ガスが圧縮され高い吹き付け圧力が形成されると、ガス流がガス流路4を経て消弧室に流出するようになっている。
【0015】
固定アーク接触子1の先端部の形状は、例えば概略半球状であり、この固定アーク接触子1の先端部には、可動アーク接触子2の方向に突出した絶縁部材からなる絶縁突設部5が固着されている。この固着面の面積は固定アーク接触子1の基部の断面積よりも小さくなるように構成されている。固着面の面積と固定アーク接触子1の基部の断面積との関係は、直径にすると、固着面の直径dが固定アーク接触子1の基部の直径Dの1/2〜2/3程度であることが好ましい。また、図1では、概略半球状の固定アーク接触子1の先端部における固着面は、軸9に対して垂直な面となるように形成されており、当該先端部の中心である固着面と軸9との交点からD/2よりも小さな半径で規定される領域内に固着面が形成されている。
【0016】
図1に示すように、絶縁突設部5の外面(すなわち、固着面以外の表面)の形状は、例えば回転放物面とすることができる。この回転放物形状の絶縁突設部5は、ガスの流れの上流側(図示例では、左側)に回転放物形状の先細部分を向け、下流側(図示例では、右側)の端面において固定アーク接触子1に軸芯を一致させて固定アーク接触子1の先端面に固着されている。
【0017】
絶縁ノズル3は、例えば四フッ化エチレン樹脂等の絶縁樹脂を主成分として形成されている。また、絶縁突設部5を、絶縁ノズル3と同じ絶縁材料で形成することができる。
【0018】
次に、本実施の形態の動作について説明する。なお、図1では、開極状態を示しているが、投入状態では可動アーク接触子2は右側に移動して固定アーク接触子1と接触している。以下では、投入状態から電流遮断を行うことにより開極状態に至る際の動作について説明する。電流遮断時は、投入状態から可動アーク接触子2が図1において左方に移動し、可動アーク接触子2と固定アーク接触子1とが離れて、両アーク接触子間にアークが発生する。この場合、固定アーク接触子1から出るアークは、絶縁突設部5の近傍の導体部分(例えば、図中記号B付近)から出ることになる。
【0019】
図示しないパッファが機械パッファの場合、その容積を圧縮して機械パッファ室の圧力を上昇させる。図示しないパッファが熱パッファの場合は、アーク周辺のガスがアークエネルギーにより加熱されて圧力が上昇し、その一部が熱パッファ室に流入し熱パッファ室の圧力が上昇する。何れの方式の場合も、電流が零点に近づいてくるとアーク周辺の加熱が減少するので圧力が下がり、パッファ室に蓄えられていた高圧のガスが絶縁ノズル3の誘導によりガス流路4を経てアークに吹付けられる。
【0020】
固定アーク接触子1側に吹付けられたガスは、アークを冷却しながら回転放物形状の絶縁突設部5に当る。絶縁突設部5は流れに対して流線形に近い形であるため、ガス流は絶縁突設部5の前面で淀むことなく絶縁突設部5に沿って流れる。従って、アークが出ているB付近も流速の速いガスが流れることになる。また、固定アーク接触子1の先端部の形状が概略半球状であるため、B付近での当該先端部の形状は滑らかであり、これも流速の速いガス流を形成することに寄与している。
【0021】
ここで、従来のガス遮断器におけるガスの流れについて説明する。図3は、従来のガス遮断器における消弧室の断面図であり、特に、接触子間近傍を拡大した図である。図3に示すように、従来のガス遮断器において、102は固定アーク接触子、107は可動アーク接触子、115は絶縁ノズルであり、径が小さい側の接触子は固定アーク接触子102となっている。また、固定アーク接触子102の先端部は絶縁性を考慮して鈍頭形状となっている。このような固定アーク接触子102に当ったガス流は、減速し図中記号A付近で淀む。特に、このA付近に流れてきたガスはアークによって熱せられており、高温のガスが溜まるようになる。高温のガスは導電性が高いため、アークは可動アーク接触子107とこの高温部とで電気的につながることになる。また、遮断器の遮断性能を左右するものはアークの冷却であり、アークを速やかに冷却してアーク空間の急速な絶縁回復を図ることであるが、従来の遮断器では、流れが淀んでいるためアークは冷却されず、効率の良い遮断性能が得ることが困難である。一方、本実施の形態では、高温のガスが滞留するA付近に絶縁突設部を設けることで、高温のガスが滞留することなく、速やかに排出される。
【0022】
以上説明したように、本実施の形態によれば、固定アーク接触子1の先端部に絶縁突設部5を設けることで、消弧時にアークにガス流を吹き付けたときに、固定アーク接触子1方向に流れるガス流は絶縁突設部5に案内されて固定アーク接触子1の先端部から側面に沿って滑らかに流れる。そのため、固定アーク接触子の先端部に高温のガスが溜まることはなく、従って、固定アーク接触子1と可動アーク接触子2との間の絶縁距離が、滞留した高温のガスにより短くなることがないので、遮断時の絶縁性が向上する。
【0023】
また、アークは図1のB付近の導体部分から出ることになるが、この周辺ではガス流は速くなるので、アークを速やかに且つ充分に冷却することができる。
【0024】
また、絶縁突設部5は、絶縁性部材により形成されているため、アークの熱による蒸発(いわゆるアブレーション)が発生する。特に、大電流が流れた場合はアークが絶縁突設部5を包むような状態となるため、アークの内部でガスが発生することになり、アークの内部からの流れによりアークを冷却することになり、冷却効果がさらに高まる。さらに、このような蒸発ガスは絶縁ノズル3においても発生するが、可動アーク接触子2が固定アーク接触子1から離れる開極初期においては、絶縁突設部5の蒸発によって発生したガスも加わってパッファに流入することになり、パッファの圧力を高める効果があり、電流遮断時により速いガス流を得ることにつながる。
【0025】
このように、固定アーク接触子1の近傍で流速の遅い高温のガスがなく、アークに直接流速の速いガス流が当るため、固定アーク接触子1近傍のアークの冷却を充分に行うことができ、ガスをアークに効率よく吹付けることができる。また、アブレーションによるパッファ圧の上昇につなげることができるので、高圧のガスを噴出することができる。従って、高遮断性能で信頼性の高いガス遮断装置を得ることができる。
【0026】
実施の形態2.
図2は、実施の形態2にかかるガス遮断器における消弧室の断面図であり、特に、開極状態における接触子近傍の断面構成を示している。
【0027】
本実施の形態では、固定アーク接触子1、可動アーク接触子2、絶縁ノズル3、ガス流路4の構成は実施の形態1と同様であるが、固定アーク接触子1の先端には円柱状の絶縁突設部6が設けられている。
【0028】
この絶縁突設部6は、流れの上流側に長く伸びており、その先端面は開極完了状態でパッファからのガスの吹出口7の付近に位置している。また下流側の端面において固定アーク接触子1に軸芯を一致させて固着されている。固着面の面積は固定アーク接触子1の基部の断面積よりも小さく、また実施の形態1と比べても小さく、直径にすると固着面の直径dは固定アーク接触子1の基部の直径Dの1/2程度であることが好ましい。
【0029】
なお、本実施の形態のその他の構成は、実施の形態1の構成と同様であるため、同一の構成要素には同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0030】
次に、本実施の形態の動作について説明する。図2は開極状態を示しているが、投入状態では可動アーク接触子2は右側に移動して固定アーク接触子1と接触している。電流遮断時は、投入状態から可動アーク接触子2が図において左方に移動し、可動アーク接触子2と固定アーク接触子1とが離れて、両アーク接触子間にアークが発生する。この場合、固定アーク接触子1から出るアークは、絶縁突設部6の近傍の導体(図中記号C付近)から出ることになる。
【0031】
遮断の間、アーク空間には常に中心軸である軸9上に絶縁物があるため、アークのどの部位についてもアークが絶縁突設部6を取り囲むような状態となっている。図示しないパッファが機械パッファの場合、その容積を圧縮して機械パッファ室の圧力を上昇させる。図示しないパッファが熱パッファの場合は、アーク周辺のガスがアークエネルギーにより加熱されて圧力が上昇し、その一部が熱パッファ室に流入し熱パッファ室の圧力が上昇する。何れの方式の場合も、電流が零点に近づいてくるとアーク周辺の加熱が減少して圧力が下がり、パッファ室に蓄えられていた高圧のガスがガス流路4を経てアークに吹付けられる。
【0032】
固定アーク接触子1側に吹付けられたガスは、アークを冷却しながら絶縁突設部6に沿って流れ、流れが固定アーク接触子1のC付近に当たることになるが、この面は流れに対して角度が浅く、流れが淀むことなく固定アーク接触子1に沿って流れる。従って、アークが出ているC付近は流速の速いガスが流れることになる。
【0033】
以上説明したように、本実施の形態によれば、固定アーク接触子1の近傍で流速の遅い高温のガスがなく、アークに直接流速の速いガス流が当るため、固定アーク接触子1近傍のアークの冷却を充分に行うことが可能となり、高性能のガス遮断器を得ることができる。
【0034】
また、絶縁突設部6には、アークの熱による蒸発(いわゆるアブレーション)が発生する。これによりアークの内部でガスが発生することになり、アークの内部からの流れによりアークを冷却することになるので、冷却効果がさらに高まる。
【0035】
さらに、このような蒸発ガスは絶縁ノズル3においても発生するが、絶縁突設部6の蒸発によって発生したガスも加わってパッファに流入することになり、パッファの圧力を高める効果があり、電流遮断時により速いガス流れを得ることにつながる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上のように、本発明にかかるガス遮断器によれば、高い電流遮断性能を有するガス遮断器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施の形態1にかかるガス遮断器における消弧室の断面図である。
【図2】本発明の実施の形態2にかかるガス遮断器における消弧室の断面図である。
【図3】従来のガス遮断器における消弧室の断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1,102 固定アーク接触子
2,107 可動アーク接触子
3,115 絶縁ノズル
4 ガス流路
5,6 絶縁突設部
7 吹出口
9 軸
10 嵌合孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
消弧性ガスが充填された密閉容器と、
この密閉容器内に設けられた第1のアーク接触子と、
前記密閉容器内に設けられ前記第1のアーク接触子に接離可能であるとともに投入状態では前記第1のアーク接触子に挿嵌される第2のアーク接触子と、
前記第1および第2のアーク接触子間に発生するアークを消弧するためのガス流を発生させるガス流発生部と、
前記ガス流を前記アークへ導く絶縁ノズルと、
を備えたガス遮断器において、
前記第2のアーク接触子の先端部に固着され且つ絶縁部材からなる突設部を備え、
前記突設部の固着面の面積を前記第2のアーク接触子の基部の断面積よりも小さくするように構成したことを特徴とするガス遮断器。
【請求項2】
前記第2のアーク接触子の先端部は概略半球状をなし、前記突設部は前記先端部の中心から所定の径の領域内に固着されていることを特徴とする請求項1に記載のガス遮断器。
【請求項3】
前記突設部の外面を、回転放物面としたことを特徴とする請求項1または2に記載のガス遮断器。
【請求項4】
前記突設部の形状を、円柱としたことを特徴とする請求項1または2に記載のガス遮断器。
【請求項5】
前記突設部を、前記絶縁ノズルと同じ絶縁材料で形成したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載のガス遮断器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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