説明

ガラスロールおよびこれを用いた機能性膜付きガラス基板の製造方法

【課題】薄いガラスシートを巻芯に巻き取ったガラスロールを用いて、所定寸法の機能性膜付きガラス基板を連続的に製造することを可能にする。
【解決手段】連続するガラスシート(1)に切断用のスクライブライン(2)を形成し、その後、巻芯(6)に巻き取ってガラスロール(100)を作製する。このガラスロールから供給されるガラスシートのスクライブラインが形成されていない面に機能性膜を形成し、その後、スクライブラインに沿ってガラスシートを切断することにより、所定寸法の機能性膜付きガラス基板を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、表面に機能性膜を連続して形成する基板材料として使用されるガラスロールおよびそれを使用した機能性膜付きガラス基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フィルムの表面に機能性膜を形成した基板は、表示デバイス等に用いられる。機能性膜付き基板の製造方法として、例えば、PET等の高分子フィルムをロール状に巻き取り、ロール ツー ロール法を用いて機能性膜を形成する方法が知られている。ロール ツー ロール法は、生産性においては優れている。尤も、この方法においては、基板として耐熱性が必ずしも十分でない高分子フィルムを使用することから、得られる機能性膜付き基板(ひいては、これを使用したデバイスの性能)には限界がある。
【0003】
これに対し、ガラスは材料の熱的安定性が高いために、高性能な機能性膜を形成する基板材料として確固たる地位を築いている。ガラスを使用する場合には、パネル状のガラス基板に機能性膜を形成し、機能性膜を形成したパネルをそのまま1つの部材として使用する、あるいはパネルを複数個に分割して複数個の機能性膜付きガラス基板を得ることが行われている。即ち、機能性膜付きガラス基板は一般的にバッチ処理により製造される。具体的には、図13に示すように、大型パネル25を用意し、これに機能性膜を形成した後、スクライブライン(切溝)26を設け、機械的または熱的応力を加えてスクライブラインに沿ってブレイク(切断)することにより、所定寸法のガラス基板27を製造する。
【0004】
ガラス基板を切断する方法としては、特許第3478762号公報(特許文献1)に開示されているように、スクライブラインをガラス基板上に形成し、レーザー光を出射させてミューへの照射を行いアブレーション効果でミューにレーザー光の持つエネルギーを吸収させて、その原子間結合あるいは分子間結合を切ることでガラス基板をスクライブラインに沿ってブレイクする方法や、特許第3577492号公報(特許文献2)に開示されているように、ガラス基板にダイヤモンドや超硬合金製のホイールカッター等で母材表面を引っ掻いてスクライブラインを形成し、スクライブライン形成時に生じたガラスのひび割れを除去するケミカル処理を行った後、スクライブラインに機械的または熱的応力を加えてガラスを切断分離する方法がある。
【0005】
PETフィルムを使用する場合とは異なり、ガラス基板を使用する場合には、ロール ツー ロール法で長尺の機能性膜付きシートを製造することはない。ガラスシートをフィルムのごとく薄く形成してロール状に巻いたものそれ自体は、特表2002−544104号(特許文献3)に開示されている。具体的に、特許文献3は、フィルムガラス(すなわち、0.7mm未満、好ましくは0.4mm未満の厚さを有するガラス)をロール状に形成したガラスロールを開示している。特許文献3には、図14に示すように、フィルムガラス状に引き延ばされたガラスリボン28を、巻芯29に巻き取ることが開示されている。
【0006】
【特許文献1】特許第3478762号公報
【特許文献2】特許第3577492号公報
【特許文献3】特表2002−544104号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および2で説明されている方法は、大きなガラス板を用いて、バッチ式にガラス基板を切断して必要とする大きさの機能性膜付きガラス基板を得る方法である。したがって、これらの方法は、所定寸法の機能性膜付きデバイスを効率よく安価に連続生産するという点で、なお改善の余地を有している。例えば、特許文献1に開示されている方法では、カッティング装置に載置して、スクライブラインをガラス基板上に形成した後、レーザー光を出射させてミューへの照射を行い、アブレーション効果でミューにレーザー光の持つエネルギーを吸収させて、その原子間結合あるいは分子間接合を切ることでガラス基板をスクライブラインに沿ってブレイクするなど複雑な工程を経なければ良質の切断が出来ないという不都合がある。特許文献2に開示されている方法も、ガラスを切断する前に、スクライブライン形成時に生じたガラスのひび割れを除去するケミカル処理を要する点において、その実施は必ずしも容易ではない。さらに、上記特許文献1および2で開示された方法はいずれも、板状のガラスシートに適用されるものであり、特許文献3に開示されているようなガラスロールに適用することは困難である。
【0008】
本発明者らは、特許文献3に開示されているガラスロールを、所定寸法を有する機能性膜付き基板の製造に使用することができれば、機能性膜を連続的に形成でき、ディスプレイ等のデバイスの大量生産がより容易になると考えた。さらに、ガラスロールを使用するためには、ガラスロールから繰り出されるガラスシートに機能性膜を形成した後、所定寸法に効率的に切断することが不可欠であると考えた。したがって、本発明は、効率的に切断可能なガラスロールを提供すること、およびこのガラスロールを用いて機能性膜付きガラス基板を効率的に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明は、ガラスシートが巻芯に巻き取られたガラスロールであって、ガラスシートがスクライブラインを有するガラスロールを提供する。ロールを構成するガラスシートは、1つのロールにおいて、一体の長尺物であり、そのようなガラスシートは「ガラスリボン」と称されることもある。また、ここで「ガラスシート」は、製造途中のガラスシートを含む意味で使用される。さらにまた、「スクライブライン」とは、溝状の凹部を指す。
【0010】
本発明のガラスロールは、ロール状に巻き取られたガラスシートがスクライブラインを有することを特徴とする。この特徴により、例えば、ロールから繰り出されるガラスシートに機能性膜を形成し、その後、スクライブラインに沿ってガラスシートを切断することにより、所定寸法の機能性膜付きガラス基板を容易に得ることが可能となる。
【0011】
ガラスシートに設けられるスクライブラインの少なくとも1つは、ガラスシートの幅方向(即ち、ガラスシートの長さ方向に対して垂直な方向)と平行に延びるように設けることが好ましい。即ち、スクライブラインは、ガラスシートの切断線がシートの幅方向と平行となるように、ガラスシートに設けることが好ましい。スクライブラインをガラスシートの幅方向と平行に延びるように設け、かつガラスシートの幅を所定寸法としたガラスロールを使用すれば、スクライブラインに沿って1回切断を実施するだけで、縦×横が所定寸法となるガラスシートを容易に得ることができる。
【0012】
本発明のガラスロールにおいて、スクライブラインはガラスシートの幅方向と平行な1本の仮想線上に破線状に設けてよい。その場合、破線状のスクライブラインは、ガラスシートの幅方向の両端に位置し、且つガラスシートの全幅の50%以上を占めることが好ましい。破線状にスクライブラインを形成すると、例えば、ガラスシートに引っ張り応力が加わった時の破断強度を大きくできるので、ガラスシートを巻芯に巻き取る工程あるいは巻き取られた状態におけるガラスシートの破断を防止できる。また、破線状にスクライブラインを形成すると、グラインダーを用いてスクライブラインを形成するときに生じる粉塵の量が少なくなり、ひいては、最終製品が粉塵で汚染される可能性がより低くなる。
【0013】
本発明のガラスロールにおいて、ガラスシートの幅方向と平行な方向に延びるスクライブラインは、その深さが、ガラスシートの幅方向において、両端部よりも中央部で深くなるよう形成されていることが好ましい。スクライブラインの両端部(即ち、ガラスシートの側縁部)は製造工程中に外からの力をより受けやすい部分であるから、両端部に位置するスクライブラインの深さを浅くすることにより、製造中にスクライブラインから異常割れが生じることを、より防止できる。
【0014】
本発明のガラスロールにおいて、巻芯から遠い側に位置し、ガラスシートの幅方向と平行に延びるスクライブラインの深さは、巻芯に近い側に位置し、ガラスシートの幅方向と平行に延びるスクライブラインの深さよりも深くなるように形成されていることが好ましい。巻き取り中にガラスシートに加わる力は巻芯に近い側と遠い側では異なるため、スクライブラインの深さを1つのロール内でこのように変化させることにより、巻芯に近い側でスクライブラインに沿って破損が生じることをより防止でき、安定したガラスロールを得ることができる。
【0015】
スクライブラインの形状はV字形状の溝であることが好ましい。スクライブラインがV字形状の溝であると、ガラスシートの切断がより容易となる。
【0016】
また、スクライブラインは、ガラスシートの片面にのみに設けられることが好ましく、その場合、スクライブラインを形成した面が内側となるようにガラスシートが巻芯に巻き取られることが好ましい。スクライブラインを形成した面が外側になるようにガラスシートが巻芯に巻き取られると、スクライブラインが形成されている面内でスクライブラインに対して垂直方向に引っ張り応力が加わり、ガラスシートを巻芯に巻き取る工程あるいは巻き取られた状態においてガラスシートが破断する可能性が高くなるためである。また、スクライブラインをガラスシートの片面にのみ設け、かつ当該片面が内側となるようにガラスシートをロール状に巻き取ることにより、スクライブラインが形成されていない側の面に、例えば機能性膜を良好に形成できる。
【0017】
本発明のガラスロールにおいて、ガラスシートの厚さは、0.05〜0.20mmであってよい。そのような厚さのシートは、スクライブラインを形成し、かつロール状に巻き取るのに適している。
【0018】
本発明はまた、ガラスシートのスクライブラインが設けられていない面に機能性膜が形成されている、ガラスロールを提供する。「機能性膜」とは、それを構成する材料が有する特性に応じて所定の機能を奏する膜をいい、例えば、透明導電膜、導電性薄膜、および電磁波シールド膜等である。
【0019】
本発明はまた、上記本発明のガラスロールを使用して、機能性膜付きガラス基板を製造する方法を提供する。具体的には、本発明の製造方法は、スクライブラインを有するガラスシートが巻芯に巻き取られたガラスロールからガラスシートを供給し、その表面に機能性膜を連続して形成し、その後、スクライブラインに沿ってガラスシートを切断することを含む。この方法によれば、機能性膜付きガラス基板を、機能性膜を例えば常套の連続蒸着装置または連続塗布装置を使用して、効率的に製造することが可能となる。
【0020】
本発明の製造方法において、ガラスシートの幅方向と平行に延びるスクライブラインを有し、巻芯から遠い側に位置する当該スクライブラインの深さが巻芯に近い側に位置する当該スクライブラインの深さよりも深いガラスロールを使用する場合には、機能性膜を形成した後に、シートを巻芯に巻き取ることなく、スクライブラインに沿ってガラスシートを切断することが好ましい。巻芯に近い側と遠い側とでスクラブラインの深さに差が設けられている場合に、繰り出したガラスロールを再度ロールに巻き取ると、巻芯に近い側に深いスクライブラインが位置することとなり、ガラスシートの破損が生じることがある。
【0021】
本発明の製造方法においては、機能性膜を形成するときに、ガラスシートを熱処理に付してよい。ガラスシートを熱処理により加熱した状態としながら機能性膜を形成すると、機能性膜の種類によっては良好な特性を有する機能性膜を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のガラスロールは、長尺のガラスシートにスクライブラインを形成することを特徴とする。かかる特徴により、本発明のガラスロールは、ロール ツー ロール法で機能性膜を形成したガラス基板を連続的且つ効率的に生産することが可能となる。また、ガラスシートの幅方向と平行に延びるスクライブラインを適当な間隔をあけて形成することによって、一方向の切断処理を繰り返し行うだけで、所定寸法の機能性膜付きガラス基板を得ることができるので、例えば大判パネルから複数枚のシートを切断する場合と比較して、切断工程を容易に且つ安価に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
図1は、スクライブラインを有する長尺のガラスシート1を巻芯6に巻き取って得られるガラスロール100を模式的に示す。さらに、図1は、ガラスシート1の一部の拡大図を含む。拡大図には、ガラスシート1の幅方向と平行な方向に延びるように、ガラスシートの幅全体に亘って設けられたスクライブライン2が示されている。スクライブライン2はガラスシート1の長手方向において間隔を開けて設けられ、この間隔は所定の基本長さ5を有する基板(またはセル)が得られるように所望のデバイスの寸法に応じて適宜選択される。スクライブライン2はV字形状の溝であり、ガラスシート1の一方の面に設けられ、当該面が内側となるように巻芯に巻き付けられている。スクライブラインが設けられていないガラスシートの他方の面は、機能性膜形成面4として使用される。
【0024】
ガラスシート1は、例えば、高歪点ガラスであり、より具体的には、SiO・Alを主成分とするソーダライムガラスであって、歪点が520℃、膨張係数が86[10−6/K]であるガラスである。ガラスシート1の厚さは、巻芯6の外径をPET等の高分子フィルムを巻き付けるときに通常使用される巻芯の外径と同等の300mmとした場合、0.05〜0.20mmとすることが好ましい。ガラスシートが0.20mmより厚いと、巻芯に巻き取る際にガラス割れが生じやすく、0.05mmより薄いと、巻き取りは安定して行うことができるが、後の工程でガラスシートを取り扱うときにガラス割れが生じやすくなる。
【0025】
ガラスシート1の幅は、得ようとするデバイス(例えば、ディスプレイおよびタッチパネル等)の大きさ等に応じて、基本長さ5とともに適宜選択される。ガラスシートの幅は、例えば、100〜300mm程度としてよく、基本長さ5は、例えば、50〜1000mm程度としてよい。
【0026】
スクライブライン2は、その深さ(V字形状の溝の場合はV字形状の先端の深さ)は、ガラスシート1の厚さの10%〜20%とすることが好ましい。スクライブライン2の深さがガラスシート1の厚さの10%未満であると、切断(ブレイク)時にスクライブラインに沿ってガラスが割れにくくなり、きれいにブレイクできない。また、スクライブラインの深さがガラスシートの厚さの20%を越えると、巻芯に巻き取る際にスクライブラインを起点に割れが生じることがある。
【0027】
次に、図1に示すガラスロールを製造する方法の一例を、図2を参照して説明する。図2は、ガラスロール100の製造方法を示す模式図である。図2には、スクライブライン2を形成したガラスシート1の一部を拡大した拡大図を合わせて示している。図2に示すように、ガラスロール100は、溶融窯7から長尺のガラスシート(またはガラスリボン)1を作製し、これに基本長さ5に対応する間隔でスクライブライン2を形成して、巻芯6に巻き取ることにより作製する。スクライブライン2は、ガラスシート1が冷却される前に、ガラスシートがガラスの軟化点以上の温度にあるときに、転写ローラ8と補助ローラ9との間を通過させることによりに形成する。転写ローラ8はV字形状の溝を形成できるようにくさび状の突出した部分(図示せず)を有する。転写ローラ8はガラスシート1の一方の面にのみ接して、ガラスシートの一方の面にのみスクライブライン2を形成する。転写ローラ8によるスクライブライン2の形成は、ガラスシート1の走行速度に応じて、基本長さ5に対応する間隔が設けられるように、一定時間ごとに実施される。具体的な一例としては、一定時間ごとに、転写ローラ8がガラスシート1と接触してスクライブライン2を形成し、それ以外の時間においては、転写ローラ8をガラスシート1と接触しないように移動させる。転写ローラ8によりスクライブライン2を形成した後、ガラスシート1は冷却されて、巻芯6に巻き取られる。転写ローラ8および補助ローラ9は、連続して走行するガラスシート1の幅方向と平行に延びるスクライブラインを形成するために、その位置を適宜制御してよい。
【0028】
転写ローラ8の突出部分の形状を変更することによって、図3に示すようにスクライブライン2をガラスシート1の全幅にわたって形成することができ、あるいは、図4に示すようにガラスシート1の幅と平行な方向において破線状のスクライブライン2を形成することができる。図4は、ガラスシート1の幅と平行な方向に、3つの短いスクライブライン2a−cが形成されて、全体としてこれらが通過する仮想線(図において点線で表示)に沿って切断可能なスクライブライン2を形成している。ここで。「短い」という用語は全幅にわたって形成したスクライブラインよりも短いという意味で使用している。
【0029】
図4に示すような、複数の短いスクライブライン2a−cから成る破線状のスクライブライン2を形成する場合には、ガラスシート1の両側縁部に短いスクライブラインを位置させることが好ましい。ガラスシートの両側縁部にスクライブラインが位置しないと、切断のためのガイドが無くなる事から、両サイドのエッジに異常割れが生じやすくなる。さらに、破線状のスクライブライン2を形成する場合には、スクライブライン2を構成する短いスクライブライン2a−cを合わせた長さを、ガラスシート1の全幅の50%以上にすることが好ましい。短いスクライブライン2a−cを合わせた長さがガラスシート1の全幅の50%未満であると、短いスクライブライン間の部分の距離が長くなり、当該部分において異常割れが生じやすくなる。
【0030】
ここで、幅150mm、厚さ0.1mmのガラスシート1に、種々の破線状のスクライブラインを形成したときのガラスロール製造中の異常割れ発生状況を示す。表1は、破線状のスクライブラインを、短いスクライブラインを合わせた長さがガラスシート1の全幅に占める割合がそれぞれ異なるように形成したときの異常割れ発生状況を示す。スクライブラインの深さは、いずれも、0.015mmとし、基本長さは200mmとした。
【0031】
【表1】

【0032】
表1からも明らかなように、破線状のスクライブラインの占める割合がガラスシート1の幅の50%未満であると、ガラスロール製造中に異常割れが生じた。破線状のスクライブラインの占める割合がガラスシート1の幅の50%以上であると、スクライブラインをガラスシート1の全幅に亘って設けた場合と同様に、良好に切断されることを確認した。したがって、スクライブライン部分におけるガラスシート1の強度を低下させないためには、破線状のスクライブラインをガラスシート1の幅の50%以上となるように形成することが好ましい。また、後述するように、ホイールカッターを使用してスクライブラインを形成する場合にも、切削により生じるガラス粉を減らすために、破線状のスクライブラインを形成することが好ましい。
【0033】
図4に示すような破線状のスクライブラインを形成する場合には、ガラスシート1の両側部に位置する短いスクライブライン2aおよび2cの深さは、中央部に位置する短いスクライブライン2bの深さよりも浅くすることが好ましい。そのようなスクライブラインを設けたガラスシートを幅に沿って切断した断面図を図5に示す。ガラスシート1の両側縁部は、中央部と比較して、巻芯に巻き付けるとき、およびロール ツー ロール法で機能性膜を形成するときに、外部からの力をより受けやすく、異常割れが生じやすい。そのため、ここに位置するスクライブライン2aおよび2cの深さ11を、スクライブライン2bの深さ12よりも小さくして、異常割れの発生をより防止することが好ましい。また、1つのスクライブラインにおいて、そのような深さの差を設けても、機械的応力または熱的応力を加えて切断するときに、スクライブラインに沿って精度良くガラスシートを切断できることを確認した。例えば、短いスクライブライン2aおよび2cの深さ11はガラスシート1の厚さ10の10〜15%とし、スクライブライン2bの深さ12はガラスシート1の厚さ10の15〜20%とすることが好ましい。
【0034】
図4に示すスクライブライン2は、3つの短いスクライブラインから構成されている。これは一例であり、破線状のスクライブラインは、4以上の短いスクライブラインから構成されてよく、または2つの短いスクライブラインから構成されてよい。
【0035】
別の形態において、ガラスシートの幅方向と平行に延びるスクライブラインは、図11に示すように、巻芯に近い側に位置するスクライブライン20の深さ21が、巻芯から遠い側に位置するスクライブライン22の深さ23よりも浅くなるように形成することが好ましい。ロールの中心部付近、すなわち巻芯側ではロールの外周部付近、すなわち巻き外側と比較すると、ロールを巻き取るときに加えられる引っ張り力がより大きくなる傾向にあり、また、巻芯に近い側のシートにはその外側に巻かれて積層体となっているシートによる圧力が加わる。そのため、ロールの巻芯に近い側では、いわゆる「巻き締まり」現象が発生し、スクライブラインでより大きな応力が生じて、スクライブラインからシートの破損が生じやすい。そこで、スクライブラインの深さを巻芯に近い側で浅くして、「巻き締まり」現象に起因するガラスシートの破損を防止することが好ましい。
【0036】
スクライブラインの深さは、前述した通り、ガラスシート1の厚さの10%〜20%とすることが好ましく、巻芯に近い側と遠い側とでスクライブラインの深さに差を設ける場合には、この範囲内で差を設けることが好ましい。スクライブラインの深さは、1つのロールにおいて、巻芯に近い側から遠い側に向かって連続的に深くしてよく、あるいは段階的に深くしてよい。
【0037】
図6および図7に、図4に示すような破線状のスクライブラインを形成する方法の一例を模式的に示す。図6は、溶融窯7から長尺のガラスシート1を作製し、これを冷却した後(冷却装置は図示せず)、ガラスシート1の一方の面にスクライブラインをホイールカッター13(または14)で形成する方法の概略を模式的に示している。図7(a)および図7(b)は、複数の短いスクライブラインを形成するための複数のホイールカッターの配置の例をそれぞれ示す模式図である。
【0038】
ホイールカッターは、例えば、ダイヤモンドまたは超合金から成る、ガラス加工用のホイールカッターとして常套的に使用されているものを使用できる。ホイールカッターの外径が小さく互いに干渉しない場合には、図7(a)に示すようにホイールカッター13a−cを一列に並べ、ガラスシート1の走行速度に応じて、所定時間ごとに同時に全てのカッター13a−cを動作させて、一直線上に並んだ短いスクライブライン2a−cを形成する。
【0039】
ホイールカッターの外径が大きく互いに干渉する場合、図7(b)に示すように溝用ホイールカッター14a−cをガラスシート1の進行方向において、一定間隔をあけてずらして配置する。このようにホイールカッター14a−cを配置する場合、これらの動作時間をガラスシート1の走行速度に応じて同時にする又はずらすことにより、一直線上に並んだ短いスクライブライン2a−cを形成することができる。例えば、ホイールカッター14a−cの間隔を基本長さ5と同じにする場合には、ホイールカッター14a−cは同時に動作させてよい。図7(b)において、各スクライブライン2aを形成するホイールカッターはガラスシートの進行方向において互いにずらして配置している。ホイールカッターが干渉しない限りにおいて、2以上のホイールカッター(図7(b)において、例えば、溝2aおよび2cを形成するホイールカッター)をガラスシート1の幅と平行な一直線上に並べて配置してよい。また、別の形成方法として、図2に示した転写ローラ8を用いるのと同様の方法で破線状のスクライブラインを形成することも可能である。
【0040】
スクライブラインは、図示していない別の装置または方法を用いて形成してよい。例えば、スクライブラインはダイヤモンドスクライバー(ガラス切)を用いて形成してよく、あるいは超音波加工等により形成してよい。また、スクライブラインは、溶融窯から作製されるガラスシートを巻芯に一旦巻き取った後、ロールからシートを繰り出してホイールカッター等を用いて形成してよい。ガラスシートの長手方向と平行に延びるスクライブラインは、転写ローラまたはホイールカッター等を、その向きをガラスシートの長手方向と平行に1または複数配置し、ガラスシートを走行させながら所定の位置で連続的に動作させることにより形成できる。スクライブラインを形成した後、必要に応じて、スクライブラインを形成した面を洗浄してよい。
【0041】
図2および図6において、スクライブライン2を設けたガラスシート1は、スクライブライン2を設けた面が内側になるように巻芯6に巻き取って、ガラスロール100を得る。スクライブライン2を外側に向けて、例えば外径が300mm程度である巻芯6に巻き取ると、スクライブラインに引張り応力が集中し、スクライブラインを起点にガラスシートが割れてしまう不都合がある。
【0042】
次に、スクライブラインを設けたガラスシートを巻き取ったガラスロールを用いて、機能性膜付きガラスシートを作製する方法を、図8を参照して説明する。図8は、図1に示すガラスロール100を繰り出して供給し、ロール ツー ロール法で機能性膜をガラスシート1の表面に形成し、その後、巻芯15で巻き取って、機能性膜付きガラスシートのロール200を作製する方法を模式的に示す。図8において、図1で示す符号と同じ符号は、図1で説明した部材または要素と同じであるから、ここではその説明を省略する。
【0043】
機能性膜は、機能性膜付きシートの最終用途に応じて適宜選択され、例えば、ITO、ZnOまたはSnO等から成る、厚さ100nm程度の透明導電膜としてよい。透明導電膜は、例えば、蒸着法、スパッタリング法、またはCVD法等により形成される。透明導電膜の成膜条件は、従来技術の欄で説明したバッチ式にガラス基板を切断して機能性膜付き基板を得る方法において採用されている成膜条件と同じにしてよい。本発明のガラスロールを使用する場合には、連続的に成膜を実施でき、1本のロールへの成膜を完全自動化することも可能である。したがって、本発明のガラスロールを使用すれば、従来のバッチ式の成膜処理において必要であった、基板を取り替える工程および基板を取り替えるごとに真空引きを実施する工程が不要となり、機能性膜付き基板の生産性が向上する。
【0044】
図示するように、機能性膜16は、スクライブライン2を設けていない面に形成することが好ましい。スクライブライン2を設けていない面に、蒸着法、スパッタリング法、またはCVD法等で形成したITOやZnO等の透明導電膜は、スクライブライン2を設けた面に形成した透明導電膜よりも、高い付着強度で付着する傾向にあるからである。これは、スクライブライン2を設けた面は、洗浄不足のためにスクライブライン2内にガラスの切削屑等の汚れが残存しやすく、また、形成された機能性膜において圧縮応力等が生じて、機能性膜がスクライブライン2付近から剥離しやすいことによる。
【0045】
機能性膜付きシートのロール200を形成した後、このロールから機能性膜付きシートを繰り出し、スクライブライン2に機械的または熱的応力を加えて切断(ブレイク)を実施する。それにより、図9に示すような、例えば150mm×200mmの面を有するタッチパネル用のガラス基板17を得ることができる。
【0046】
図10を参照して、タッチパネル用の機能性膜付きガラス基板を製造する具体的な方法を説明する。まず、基板ロール6から供給されるガラスシート1をキャン18で加熱し、加熱したシート1の表面に、スパッタリング法でITO膜を形成し、巻芯15で巻き取って、ロール200を得る。スパッタリングは、ターゲット19を用いて実施する。ITO膜の形成の際に、キャン18の温度が300℃未満となると、必要とする抵抗値が得られない。即ち、膜を形成するときの温度が低すぎると、結晶性が悪くなり膜の抵抗値は下がらないため、キャンの温度は300℃以上に設定することが好ましく、350℃程度とすることが好ましい。
【0047】
キャン18の半径は、ガラスシート1の厚さの1000倍以上とすることが好ましい。したがって、例えば、ガラスシートの厚さ0.1mmである場合、キャン18の半径を100mm以上とすることが好ましい。キャン18の半径がガラスシート1の厚さの1000倍未満であると、ガラスシート1がキャン18にて小さい曲率半径で曲げられることとなり、割れが生じることがある。
【0048】
スパッタリング時のガラスシート1の速度は、形成すべき機能性膜の厚さおよびスパッタリング時のパワー等に応じて適宜選択される。例えば、100nmの厚さのITO膜を形成するときには、ガラスシート1の速度を50m/secとすることも可能である。
【0049】
その後、機能性膜付きシートのロール200から、シートを繰り出して、スクライブラインに機械的または熱的応力を加えて、スクライブラインに沿ってシートを切断し、所定の大きさの機能性膜付きガラス基板を得る。得られた基板は、常套の手法によってタッチパネルに組み立てられる。具体的には、シートをエッチング処理に付して、機能性膜にパターンを付与する。次に、電極を機能性膜の表面に印刷により塗布し、焼成して形成する。電極を形成した機能性膜付き基板を、電極が対向するように、一定の隙間を設けて貼り合わせることにより、タッチパネルを得る。
【0050】
スクライブラインを設けたガラスシートのロールは、タッチパネル用の機能性膜付き基板以外に、液晶ディスプレイ、ELディスプレイ、およびPDP等の各種表示デバイスを構成するための機能性膜付き基板にも適用できる。
いずれの用途に使用する場合にも、図1に示す基本長さ5およびガラスシート1の幅を選択することにより、所定の寸法の機能性膜付き基板を製造できる。必要に応じて、ガラスシートの幅方向と平行な方向に延びるスクライブラインに加えて又はこれに代えて、ガラスシートの長さ方向と平行な方向に延びるスクライブラインを設けて、所定寸法の機能性膜付き基板が得られるようにしてよい。
【0051】
図12は、図11を参照して説明した、巻芯に近い側に位置するスクライブラインの深さが、巻芯から遠い側に位置するスクライブラインの深さよりも浅いガラスロールを用いて、所定寸法の機能性膜付き基板を製造する方法を模式的に示す。巻芯6に巻き取られたガラスロール100からガラスシート1が供給され、ガラスシート1を350℃に設定したキャン18で加熱しながら、これにスパッタリング法で機能性膜であるITO膜を形成する。スパッタリングは、ターゲット19を用いて実施する。次いで、引っ張りローラ24aおよび24bで機能性膜を形成したシートを挟んで、ガラスシートを引き抜き、その後、切断(ブレイク)を行って、機能性膜付きガラス基板17を得る。切断(ブレイク)の方法の一例として、スパッタリングと切断(ブレイク)を同一の真空槽内で実施し、切断されて完成した機能性膜付きガラス基板をストッカーにストックし、その後真空槽に隣接して設けた取り出し用真空槽(アンロードチャンバー)から取り出す方法を用いることができる。この製造方法によれば、機能性膜の形成からブレイクまでを連続して実施でき、さらに効率よく機能性膜付きガラス基板を得ることができる。また、巻芯から遠い側に位置するスクライブラインの深さが巻芯に近い側に位置するスクライブラインの深さよりも深いガラスロールを使用する場合に、機能性膜を形成した後にガラスシートを再度ロールに巻き取ると、深いスクライブラインが巻芯に近い側に位置することとなる。その結果、破損が生じやすくなるため、そのようなガラスロールを使用する場合には図12に示すような製造方法を採用することが好ましい。図12に示す製造方法は、図11に示すガラスロールにのみ適用されるものではなく、他のガラスロール(例えば図1および図4に示すガラスロール)に適用してよい。
【0052】
以上においては、スクライブラインを設けたガラスシートを巻芯に巻き取ったガラスロールを説明した。本発明は、他の脆性材料にも適用することができる。ここで脆性材料とは、破断までにほとんど塑性変形を伴わない材料をいう。ガラス以外の脆性材料として、例えば鋳鉄およびセラミック材料が挙げられる。脆性材料はスクライブラインを形成して切断するのに適しており、本発明を適用することにより、ガラス以外の脆性材料から成るロールが得られる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のスクライブラインを形成した長尺のガラスシートは、その表面に機能性膜を形成して、所定寸法の機能性膜付きガラス基板を製造するのに用いられ、機能性膜付きガラス基板は、タッチパネル、液晶ディルプレイ、ELディスプレイ、およびPDP等の各種表示デバイスに使用するガラス基板として使用するのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明のガラスロールの一例の模式図
【図2】本発明のガラスロールを構成するガラスシートにスクライブラインを形成する方法を示す模式図
【図3】本発明のガラスロールを構成するガラスシートの一例の平面図
【図4】本発明のガラスロールを構成するガラスシートの別の例の平面図
【図5】本発明のガラスロールを構成するガラスシートに形成されたスクライブラインの一例の深さを示す断面図
【図6】本発明のガラスロールを構成するガラスシートにスクライブラインを形成する方法を示す模式図
【図7】(a)および(b)はともに本発明のガラスロールを構成するガラスシートにスクライブラインを形成する方法を示す模式図
【図8】本発明のガラスロールを構成するガラスシートに機能性膜を形成する方法の一例を示す模式図
【図9】本発明のガラスロールを用いて作製した、機能性膜付きガラス基板の一例を示す斜視図
【図10】本発明のガラスロールを構成するガラスシートに機能性膜を形成する方法の別の例を示す模式図
【図11】本発明のガラスロールを構成するガラスシートに形成されたスクライブラインの別の例の深さを示す模式図
【図12】本発明のガラスロールを用いて機能性膜付きガラス基板を製造する方法の一例を示す模式図
【図13】従来のガラス基板の製造方法を示す模式図
【図14】従来のガラスロールの製造方法を示す模式図
【符号の説明】
【0055】
1 ガラスシート
2 スクライブライン
2a,2b,2c スクライブライン
4 機能性膜形成面
5 基本長さ
6 巻芯
7 溶融窯
8 転写ローラ
9 補助ローラ
10 ガラスシートの厚さ
11 スクライブラインの深さ
12 スクライブラインの深さ
13 ホイールカッター
13a,13b,13c ホイールカッター
14a,14b,14c ホイールカッター
15 巻芯
16 機能性膜
17 機能性膜付きガラス基板
18 キャン
19 ターゲット
20 スクライブライン
21 スクライブラインの深さ
22 スクライブライン
23 スクライブラインの深さ
24a 引っ張りローラ
24b 引っ張りローラ
25 大型パネル
26 スクライブライン
27 ガラス基板
28 ガラスシート
29 巻芯
100,200 ガラスロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスシートが巻芯に巻き取られたガラスロールであって、ガラスシートがスクライブラインを有するガラスロール。
【請求項2】
スクライブラインの少なくとも1つは、ガラスシートの幅方向と平行に延びるように設けられている、請求項1に記載のガラスロール。
【請求項3】
スクライブラインが、ガラスシートの幅方向と平行な1本の仮想線上に破線状に設けられており、スクライブラインがガラスシートの両端に位置し、かつスクライブラインの全長がガラスシートの幅の50%以上である、請求項2に記載のガラスロール。
【請求項4】
ガラスシートの幅方向と平行に延びるスクライブラインの深さが、ガラスシートの幅方向において、両端部よりも中央部で深い請求項2または3に記載のガラスロール。
【請求項5】
巻芯から遠い側に位置し、ガラスシートの幅方向と平行に延びるスクライブラインの深さが、巻芯に近い側に位置し、ガラスシートの幅方向と平行に延びるスクライブラインの深さよりも深い、請求項2に記載のガラスロール。
【請求項6】
スクライブラインがV字形状の溝である請求項1〜5のいずれか1項に記載のガラスロール。
【請求項7】
スクライブラインがガラスシートの片面にのみ設けられ、ガラスシートがスクライブラインが設けられた面を内側にして巻芯に巻き取られている、請求項1〜6のいずれか1項に記載のガラスロール。
【請求項8】
ガラスシートの厚さが0.05〜0.20mmである、請求項1〜7のいずれか1項に記載のガラスロール。
【請求項9】
ガラスシートのスクライブラインが設けられていない面に機能性膜が形成されている、請求項7に記載のガラスロール。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のガラスロールからガラスシートを供給し、ガラスシートの表面に機能性膜を連続的に形成すること、および機能性膜を形成した後にスクライブラインに沿ってガラスシートを切断することを含む、機能性膜付きガラス基板の製造方法。
【請求項11】
請求項5に記載のガラスロールからガラスシートを供給し、ガラスシートの表面に機能性膜を連続的に形成すること、および機能性膜を形成したガラスシートを巻芯に巻き取ることなくスクライブラインに沿ってガラスシートを切断することを含む、機能性膜付きガラス基板の製造方法。
【請求項12】
機能性膜を、ガラスシートを300℃以上の熱処理に付しながら形成する、請求項10または11に記載の機能性膜付きガラス基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−119322(P2007−119322A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−316363(P2005−316363)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】