説明

ガラス基板保持手段、およびそれを用いたEUVマスクブランクスの製造方法

【課題】EUVマスクガラス基板の位置ずれや脱離、ガラス基板の変形が生じることがなく、保持によるガラス基板への傷の発生や異物の付着を抑制できるガラス基板保持手段を提供する。
【解決手段】ガラス基板200の保持手段100Aは、ガラス基板の裏面を非接触で吸引する静電チャック機構と、ガラス基板の裏面の一部を支持する支持部材114とを有し、静電チャックの静電吸引力を発揮する作用面112の投影面積(mm2)と、ガラス基板の裏面の品質保証領域210の面積(mm2)と、の比(静電チャック機構の作用面の投影面積/ガラス基板の裏面の品質保証領域の面積)が0.5以上であり、静電チャック機構の作用面112と、ガラス基板200の裏面との距離が20μm超であり、支持部材114、ガラス基板200の裏面の品質保証領域210より外側(裏面外周部)をなす4辺のうち、少なくとも2辺を含む領域をのみを支持するガラス基板保持手段。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板保持手段に関する。本発明のガラス基板保持手段は、半導体製造等に使用されるEUV(Extreme Ultraviolet:極端紫外)リソグラフィ用反射型マスクブランクス(以下、本明細書において、「EUVマスクブランクス」という。)、若しくは該EUVマスクブランクス用の機能膜付基板の製造時にガラス基板を保持するのに好適である。
また、本発明は、本発明のガラス基板保持手段を用いたEUVマスクブランクス若しくはEUVマスクブランクス用の機能膜付基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体産業において、シリコン基板等に微細なパターンからなる集積回路を形成する上で必要な微細パターンの転写技術として、可視光や紫外光を用いたフォトリソグラフィ法が用いられてきた。しかし、半導体デバイスの微細化が加速している一方で、従来のフォトリソグラフィ法の限界に近づいてきた。フォトリソグラフィ法の場合、パターンの解像限界は露光波長の1/2程度であり、液浸法を用いても露光波長の1/4程度と言われており、ArFレーザ(193nm)の液浸法を用いても45nm程度が限界と予想される。そこで45nm以降の露光技術として、ArFレーザよりさらに短波長のEUV光を用いた露光技術であるEUVリソグラフィが有望視されている。本明細書において、EUV光とは、軟X線領域または真空紫外線領域の波長の光線を指し、具体的には波長10〜20nm程度、特に13.5nm±0.3nm程度の光線を指す。
【0003】
EUV光は、あらゆる物質に対して吸収されやすく、かつこの波長で物質の屈折率が1に近いため、従来の可視光または紫外光を用いたフォトリソグラフィのような屈折光学系を使用できない。このため、EUV光リソグラフィでは、反射光学系、すなわち反射型フォトマスクとミラーとが用いられる。
【0004】
マスクブランクスは、フォトマスク製造に用いられるパターニング前の積層体である。EUVマスクブランクスの場合、ガラス製等の基板上にEUV光を反射する反射層と、EUV光を吸収する吸収体層とがこの順で形成された構造を有している。反射層としては、低屈折層であるモリブデン(Mo)層と高屈折層であるケイ素(Si)層とを交互に積層することで、EUV光を層表面に照射した際の光線反射率が高められたMo/Si多層反射膜が通常使用される。
吸収層には、EUV光に対する吸収係数の高い材料、具体的にはたとえば、クロム(Cr)やタンタル(Ta)を主成分とする材料が用いられる。
【0005】
多層反射膜および吸収層は、イオンビームスパッタリング法やマグネトロンスパッタリング法を用いてガラス基板の光学面上に成膜される。多層反射膜および吸収層を成膜する際、ガラス基板は保持手段によって保持される。ガラス基板の保持手段として、機械的チャックおよび静電チャックがあるが、発塵性の問題から、多層反射膜および吸収層を成膜する際のガラス基板の保持手段、特に多層反射膜を成膜する際のガラス基板の保持手段としては、静電チャックによる吸着保持が好ましく用いられる。
【0006】
静電チャックは、半導体装置の製造プロセスにおいて、シリコンウェハの吸着保持に従来用いられている技術であり、平面形状が円形、矩形等の形状をした吸着保持面にシリコンウェハの中心部を接触させ、該吸着保持面をなす誘電体層の下に埋め込まれた電極部に電圧を印加することによって生じる静電吸引力によって吸着保持する。
ガラス基板の吸着保持に用いる場合も、電極部の形状が複雑にならない、十分な保持力を発揮することができる、吸着保持されたガラス基板が傾くことがない等の理由から、ガラス基板の中心部を含めた基板全体、具体的には、EUVマスクブランクスの製造時に多層反射膜や吸収層が形成されるガラス基板の成膜面に対する裏面全体(裏面の中心部を含めた該裏面全体)を静電チャックの吸着保持面と接触させて保持する(特許文献1〜9参照)。
ガラス基板の中心部を含めた基板全体を、静電チャックの吸着保持面と接触させて保持することは、装置設計の簡便さや、シリコンウェハの吸着保持に広く使用されている静電チャックを流用することでコストダウンができる点でも好ましいと従来は考えられていた。
以下、本明細書において、EUVマスクブランクスの製造時に多層反射膜や吸収層が形成されるガラス基板の面をガラス基板の「成膜面」といい、該成膜面に対する裏面をガラス基板の「裏面」という。
【0007】
しかしながら、ガラス基板の裏面の中心部を静電チャックの吸着保持面と接触させて保持した場合、該裏面の中心部に異物が付着したり、傷が発生するおそれがある。EUVマスクブランクスの製造に用いられるガラス基板の場合、裏面であってもその中心部は通常、品質保証領域として露光機等の装置ごとに指定され、異物の付着や傷が存在しないことが要求される部位である。ゆえに該裏面の中心部への異物の付着や傷の発生は重大な問題となりうる。
【0008】
裏面の中心部への異物の付着や傷の発生を防止するためには、品質保証領域を除いた裏面の外縁部を静電チャックの吸着保持面と接触させて保持すればよいと一見すると考えられる。
裏面の中心部への異物の付着や傷の発生の防止を目的とするものではないが、特許文献10には、非接触式静電チャックと、接触式静電チャックを使用して反射型マスクを保持する露光装置が開示されている。この露光装置では、反射型マスクの裏面の中心部と、非接触式静電チャックと、がある隙間で非接触状態となるとともに、反射型マスクの裏面の周辺の3点が接触式静電チャックにより把持される。反射型マスクの裏面中心部と、非接触式静電チャックと、の隙間は、20μm以下であることが望ましく、10μm以下だとなお良く、5μm以下であればさらに良いとされている。
【0009】
しかしながら、裏面の周辺を静電チャックの吸着保持面と接触させて保持した場合、静電チャックの吸着保持面と接触する部位(以下、本明細書において、ガラス基板の「被吸着保持部」ともいう。)の表面積が小さくなるため、ガラス基板を保持するのに十分な大きさの吸着保持力を発揮させた場合、被吸着保持部への単位面積当たりの圧力が高くなり、該被吸着保持部での傷の発生やそれによる異物の発生が問題となるおそれがある。また、該被吸着保持部に生じる静電場により、帯電した異物が多量に引き付けられるおそれがある。
被吸着保持部は裏面の周辺に存在するため、傷や異物の発生による影響は裏面の品質保証領域で同様の問題が生じた場合に比べると小さいが、被吸着保持部で発生した異物や、該被吸着保持部に引きつけられた異物の一部が裏面の品質保証領域に転写されるおそれがある。また、被吸着保持部に傷が生じると、ガラス基板に製造したマスクブランクスの、後工程の際に、ガラス基板の保持力が低下するおそれがある。すなわち、EUVマスクブランクスから反射型マスクを作製する際のマスクパターニングプロセスの際や、EUVリソグラフィでの露光時の反射型マスクのハンドリングの際にも、ガラス基板の保持手段として、静電チャックによる吸着保持が用いられるが、被吸着保持部に段差をなす傷が存在すると、該被吸着保持部の平坦性が低下し静電チャックによる吸着保持力が低下するおそれがある。
一方、被吸着保持部での傷の発生や、該被吸着保持部に多量の異物が引きつけられるのを防止するため、静電チャックによる吸着保持力を小さくした場合、ガラス基板の吸着保持力が不十分となるおそれがある。EUVマスクブランクスの製造時、多層反射膜や吸収層の成膜は、通常、ガラス基板を回転させながら行われるうえ、成膜装置の構造によっては、成膜面が垂直になるようにガラス基板を縦置きに配置する場合もある。このような場合に、ガラス基板の吸着保持力が不十分であると、ガラス基板の位置ずれや脱離が起こるおそれがある。
【0010】
特許文献10には、反射型マスクの裏面の周辺を把持する手段として、静電吸着手段(すなわち、接触式静電チャック)以外に、真空吸着手段、電磁吸着手段およびメカニカル把持手段が挙げられている。しかしながら、電磁吸着手段については、接触式静電チャックを使用した場合と同様の問題がある。
真空吸着手段およびメカニカル把持手段についても、これらの手段とガラス基板とが接する部位の表面積が小さいので、ガラス基板を保持するのに十分な大きさの保持力を発揮させた場合、ガラス基板の被保持部位への単位面積当たりの圧力が高くなり、静電チャックの場合と同様に、ガラス基板の被保持部での傷の発生やそれによる異物の発生が問題となるおそれがある。さらに、真空吸着手段は、吸着力を十分に確保できない高真空状態、即ち、(吸着に必要な力)>(真空到達圧力)×(接触面積)となる状態では機能を発現できない。したがって、一般的に高真空状態とみなされる1Pa以下の真空状態において、真空吸着によってシリコンウェハやガラス基板を保持することは事実上不可能である。
【0011】
また、特許文献10では、反射型マスクの裏面中心部と、非接触式静電チャックと、の隙間は、20μm以下であることが望ましく、10μm以下だとなお良く、5μm以下であればさらに良いとされているが、ガラス基板の裏面中心部と、非接触式静電チャックと、の隙間が、このような狭い隙間だと、静電チャックからの静電吸引力に引き付けられた異物が隙間に挟まった場合、ガラス基板と静電チャック双方にキズが発生し、隙間を作ってもキズをなくすという課題の解決には至らない。
また、ガラス基板の裏面中心部と、非接触式静電チャックと、の隙間に異物が挟まることによって、ガラス基板が変形するおそれがある。ガラス基板が変形すると、多層膜や吸収層に生じる膜応力によって、ガラス基板の変形が悪化するおそれがある。
なお、特許文献10に記載の露光装置は、反射型マスクの裏面の中心部と、非接触式静電チャックと、をある隙間で非接触状態とすることで、反射型マスクの形状を変形させるが、EUVマスクブランクスの製造時におけるガラス基板の変形は上述したように好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2000−286191号公報
【特許文献2】特開2005−109332号公報
【特許文献3】特開2005−268524号公報
【特許文献4】特開2006−332519号公報
【特許文献5】国際公開WO2009/035002号
【特許文献6】特開2009−105238号公報
【特許文献7】特開2009−177126号公報
【特許文献8】特開2009−266886号公報
【特許文献9】特開2009−88558号公報
【特許文献10】特開2005−150527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決するため、EUVマスクブランクスの製造時において、ガラス基板の位置ずれや脱離、あるいは、ガラス基板の変形が生じることがなく、かつ、保持によるガラス基板への傷の発生や異物の付着を抑制できるガラス基板保持手段、および、それを用いたEUVマスクブランクス若しくはEUVマスクブランクス用の機能膜付基板の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記した目的を達成するため、本発明は、EUVリソグラフィ(EUVL)用反射型マスクブランクスの製造時に用いられるガラス基板の保持手段であって、
前記ガラス基板の保持手段は、静電吸引力によりガラス基板の裏面を非接触で吸引する静電チャック機構と、ガラス基板の裏面の一部を支持する支持部材と、を有し、
前記静電チャックの静電吸引力を発揮する作用面の投影面積(mm2)と、前記ガラス基板の裏面の品質保証領域の面積(mm2)と、の比(静電チャック機構の作用面の投影面積/ガラス基板の裏面の品質保証領域の面積)が0.5以上1.0以下であり、
前記静電チャック機構の作用面と、前記ガラス基板の裏面と、の距離が20μm超であり、
前記支持部材は、前記ガラス基板の裏面の品質保証領域より外側(裏面外周部)をなす4辺のうち、少なくとも2辺を含む領域のみを支持することを特徴とするガラス基板保持手段を提供する。
【0015】
本発明のガラス基板保持手段において、前記静電チャックの作用面と、前記ガラス基板の裏面と、の距離が30μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0016】
本発明のガラス基板保持手段において、前記支持部材は、前記ガラス基板よりも硬度が低い材料で作製されていることが好ましい。
【0017】
本発明のガラス基板保持手段において、前記支持部材は、前記ガラス基板の裏面の被支持部をファンデルワールス力で吸着することが好ましい。
【0018】
本発明のガラス基板保持手段において、前記ガラス基板の保持力が1960N以上であることが好ましい。
【0019】
また、本発明は、ガラス基板の一方の面にEUV光を反射する反射層が形成されたEUVリソグラフィ用(EUVL)用反射層付基板の製造方法であって、
乾式成膜法によって、前記ガラス基板上に前記反射層を形成する際に、本発明のガラス基板保持手段を用いてガラス基板を保持することを特徴とするEUVL用反射層付基板の製造方法を提供する。
【0020】
また、本発明は、ガラス基板の一方の面にEUV光を反射する反射層、および、EUV光を吸収する吸収層を少なくともこの順に形成されたEUVリソグラフィ(EUVL)用反射型マスクブランクスの製造方法であって、
乾式成膜法によって、前記ガラス基板上に、前記反射層、および、前記吸収層のうち、少なくとも1つを形成する際に、本発明のガラス基板保持手段を用いてガラス基板を保持することを特徴とするEUVL用反射型マスクブランクスの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、EUVマスクブランクスの製造時において、ガラス基板の位置ずれや脱離、あるいは、ガラス基板の変形が生じることがなく、かつ、保持によるガラス基板への傷の発生や異物の付着を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明のガラス基板保持手段の1実施形態を模式的に示した平面図であり、該ガラス基板保持手段上にはガラス基板が示されている。
【図2】図2は、図1の側面図である。但し、図面手前側および奥側の支持部材114は省略されている。
【図3】図3は、本発明のガラス基板保持手段の別の1実施形態の側面図である。但し、図面手前側および奥側の支持部材は省略されている。
【図4】図4は、本発明のガラス基板保持手段の別の1実施形態の側面図である。但し、図面手前側および奥側の支持部材は省略されている。
【図5】図5は、実施例2で使用したガラス基板保持手段を模式的に示した平面図であり、該ガラス基板保持手段上にはガラス基板が示されている。
【図6】図6は、実施例3で使用したガラス基板保持手段を模式的に示した平面図であり、該ガラス基板保持手段上にはガラス基板が示されている。
【図7】図7は、実施例4で使用したガラス基板保持手段を模式的に示した平面図であり、該ガラス基板保持手段上にはガラス基板が示されている。
【図8】図8は、比較例2で使用したガラス基板保持手段を模式的に示した平面図であり、該ガラス基板保持手段上にはガラス基板が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明のガラス基板保持手段を説明する。
図1は、本発明のガラス基板保持手段の1実施形態を模式的に示した平面図である。図2は図1に示すガラス基板保持手段100Aの側面図である。これらの図では、本発明のガラス基板保持手段によって、ガラス基板をどのように保持するかという点を明確にするため、ガラス基板保持手段100A上にはガラス基板200を示している。また、ガラス基板保持手段100Aの構造の理解を容易にするため、図2では、図面手前側および奥側の支持部材114が省略されている。
本発明のガラス基板保持手段は、静電吸引力によりガラス基板の裏面を非接触で吸引する静電チャック機構と、ガラス基板の裏面の一部を支持する支持部材と、を有しており、これらを用いてガラス基板を保持する。
【0024】
図1,2に示すガラス基板保持手段100Aにおいて、基材110の上面、より具体的には、上面の中央部には、電極部が埋め込まれた静電チャック機構の作用面112が存在する。
図1,2に示すガラス基板保持手段100Aにおいて、作用面112は、ガラス基板200の裏面と、の間には隙間が存在する。該作用面112が、静電吸引力を発揮することにより、ガラス基板200の裏面、具体的には、裏面中心部に存在する品質保証領域210を非接触で吸引する。ガラス基板200の裏面の品質保証領域210は、152.4mm角のガラス基板の場合、通常148mm角の領域である。
【0025】
上述したように、従来の静電チャックでは、ガラス基板の中心部、より具体的には、ガラス基板の裏面の中心部を、静電チャックの作用面と接触させることによって、ガラス基板を吸着保持していた。このため、ガラス基板の裏面中心部に存在する品質保証領域に異物が付着したり、傷が発生するおそれがあった。
これに対して本発明のガラス基板保持手段100Aでは、静電チャック機構の作用面112と、ガラス基板200の裏面の品質保証領域210と、が非接触であるので、該品質保証領域210に異物が付着したり、傷が発生するおそれがない。
【0026】
静電チャック機構の作用面112と、ガラス基板200の裏面の品質保証領域210と、が非接触の状態でガラス基板200を保持するためには、ガラス基板200の裏面の品質保証領域210より外側の部位(以下、本明細書において、「裏面外周部」という。)を何らかの手段で支持する必要がある。
本発明のガラス基板保持手段100Aでは、静電チャック機構の基材110の上面の外周部に設けられた凸部でガラス基板200の裏面外周部を支持することによって、作用面112と、品質保証領域210と、が非接触の状態でガラス基板200を保持する。該凸部が、ガラス基板保持手段100Aの支持部材114である。
【0027】
本発明のガラス基板保持手段100Aでは、支持部材114の高さによって、作用面112と、ガラス基板200の裏面の品質保証領域210と、の距離を調節することができる。
ここで、作用面112と、品質保証領域210と、の距離が小さいと、静電チャック機構の作用面112からの静電吸引力に引き付けられた異物が、作用面112と、品質保証領域210と、の隙間に挟まるおそれがある。
作用面112と、品質保証領域210と、の隙間に異物が挟まった場合、該品質保証領域210への異物の付着やそれによる傷の発生のおそれがある。
また、該隙間に異物が挟まることによって、ガラス基板200が変形するおそれがある。ガラス基板200が変形すると、多層膜や吸収層に生じる膜応力によって、ガラス基板200の変形が悪化するおそれがある。
【0028】
このような理由から、作用面112と、品質保証領域210と、の距離はある程度大きくする必要がある。
本発明のガラス基板保持手段100Aでは、作用面112と、品質保証領域210と、の距離が20μm超である。該距離が20μm超であれば、静電チャック機構の作用面112からの静電吸引力に引き付けられた異物が、作用面112と、品質保証領域210と、の隙間に挟まるおそれが低減される。
【0029】
本発明のガラス基板保持手段100Aにおいて、作用面112と、品質保証領域210と、の距離が30μm以上であることが好ましく、40μm以上であることがより好ましく、50μm以上であることがさらに好ましい。
【0030】
但し、作用面112と、品質保証領域210と、の距離が大きすぎると、作用面112からの静電吸引力が不十分となり、EUVマスクブランクスの製造時において、ガラス基板200の脱離や位置ずれが生じるおそれがある。
本発明のガラス基板保持手段100Aにおいて、作用面112と、品質保証領域210と、の距離が100μm以下であることが好ましい。該距離が100μm以下であれば、作用面112からの静電吸引力が十分大きくなるため、EUVマスクブランクスの製造時において、ガラス基板200の脱離や位置ずれを生じることがない。
本発明のガラス基板保持手段100Aにおいて、作用面112と、品質保証領域210と、の距離が90μm以下であることがより好ましく、80μm以下であることがさらに好ましい。
【0031】
上述したように、本発明のガラス基板保持手段100Aでは、作用面112と、品質保証領域210と、の距離が20μm超と比較的大きい。このような場合に、静電チャック機構の作用面112の投影面積が、ガラス基板200の裏面の品質保証領域210の面積に比べて小さすぎると、品質保証領域210の一部に局所的に静電吸引力が作用するため、ガラス基板200が変形するおそれがある。
また、作用面112と、品質保証領域210と、の隙間に異物が挟まることによって、ガラス基板200が変形するおそれがある。ガラス基板200が変形すると多層反射膜や吸収層に生じる膜応力によって、ガラス基板200の変形が悪化するおそれがある。
本発明のガラス基板保持手段100Aでは、作用面112の投影面積(mm2)と、品質保証領域210の面積(mm2)と、の比(作用面112の投影面積/品質保証領域210の面積)(以下、本明細書において、単に「作用面の面積比」という。)が0.5以上である。
作用面の面積比が0.5以上であれば、品質保証領域210全体に静電吸引力が作用するため、ガラス基板200が変形するおそれがない。
但し、本発明のガラス基板保持手段100Aは、作用面112からの静電吸引力によって、品質保証領域210を非接触で吸引するものであることから、作用面の面積比は1.0以下である。作用面の面積比が1.0超、すなわち、作用面112の投影面積が品質保証領域210の面積よりも大きいと、支持部材114によって支持されるガラス基板200の裏面外周部にも、作用面112からの静電吸引力が大きく作用し、該裏面外周部に帯電した異物が多量に引き付けられ、該裏面外周部に引きつけられた異物の一部が品質保証領域210に転写されるおそれがある。
本発明のガラス基板保持手段100Aにおいて、作用面の面積比が0.6〜0.95であることが好ましく、0.7〜0.9であることがより好ましく、0.8〜0.85であることがさらに好ましい。
【0032】
上述したように、作用面112には静電チャック機構の電極部が埋め込まれている。
静電チャック機構には、正極および負極のうち、いずれか一方のみの電極を有し、該電極から電圧を印加し、プラズマ等をアースとすることで、静電吸引力を発揮する単極型のものと、正極および負極の両方を有し、これらに同時に電圧を印加することで、静電吸引力を発揮する双極型のものと、がある。本発明の静電チャック機構は、保持する対象が絶縁体のガラス基板であることから双極型が好ましい。双極型の静電チャック機構では、電極部が正極および負極を有しており、これらが所定の電極パターンをなしている。正極および負極がなす電極パターンは特に限定されず、双極型の静電チャック機構の分野で公知の各種電極パターンを選択できる。但し、グラディエント力を効果的に発生させることにより、強い静電吸引力を発揮できることから、特開2006−066857号公報に記載の静電チャック機構のように、正極および負極がそれぞれくし歯型の形状を有し、たがいのくし歯が空隙をはさんで隣接するように配置された電極パターンをなしていることが好ましい。
【0033】
静電チャック機構の電極部を構成する材料には、導電性に優れた材料、具体的には、体積固有抵抗値が5×10-6Ωm以下の材料が用いられる。これを満たす材料の中でも、導電性に優れた金属材料、具体的には、金、銅、アルミニウムが、電極部を薄層化でき、かつ、所望の形状の電極パターンを形成するのが容易であることから好ましい。
これらの中でも、金および銅が導電性に優れることからより好ましく、安価であることから銅が特に好ましい。
【0034】
一方、電極部が埋め込まれる基材110は、絶縁性であることが求められる。このため、基材110の構成材料としては、例えば、酸化アルミニウム(Al23)、酸化イットリア(Y23)、酸化ケイ素(SiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化マグネシウム(MgO)、ムライト(3Al23・2SiO2)等の絶縁性に優れたセラミックス材料が好ましく用いられる。
【0035】
特許文献1〜9に記載の発明のように、ガラス基板の裏面全体を静電チャックの吸着保持面と接触させて保持する場合、吸着保持面に複数の凸部が設けられており、該凸部がガラス基板の裏面と接触する構造の静電チャック機構が好ましく用いられる。
しかしながら、本発明のガラス基板保持手段100Aでは、静電チャック機構の作用面112が、非接触で品質保証領域210を吸引するため、作用面112をこのような複数の凸部が設けられた構造とすることは、作用面112からの静電吸引力の低下につながること、吸引力のばらつきが生じ基板の変形を引き起こす可能性があることから、好ましくない。
したがって、本発明のガラス基板保持手段100Aでは、静電チャック機構の作用面112が平坦であることが好ましい。
本発明のガラス基板保持手段100Aでは、静電チャック機構の作用面112の平面度が10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることがさらに好ましい。
【0036】
上述したように、本発明のガラス基板保持手段100Aでは、基材110の上面の外周部に設けられた支持部材114でガラス基板200の裏面外周部を支持する。
本発明のガラス基板保持手段100Aは、作用面112からの静電吸引力によって、品質保証領域210を非接触で吸引するが、支持部材114によって支持されるガラス基板200の裏面外周部にも、作用面112からの静電吸引力がある程度作用し、裏面外周部に帯電した異物が引き付けられるおそれがある。
裏面外周部に引きつけられた異物が品質保証領域210に転写されるのを防止するためには、ガラス基板200の裏面外周部のうち、品質保証領域210+2mm角の領域より外側の部位(品質保証領域が148mm角の領域の場合は、150mm角の領域より外側の部位)を支持部材114で支持することが好ましい。
品質保証領域210+2mm角の領域より外側の部位を支持部材114で支持した場合、EUVマスクブランクスの製造時にガラス基板200を回転させた際に、ガラス基板200にかかる遠心力を抑制する効果が期待できる。
【0037】
図1に示すガラス基板保持手段100Aでは、作用面112と、品質保証領域210と、が非接触の状態でガラス基板200を保持するために、ガラス基板200の裏面外周部の外縁をなす4辺(すなわち、ガラス基板200の4辺)を含む領域を全て、支持部材114で支持している。
しかしながら、これに限定されず、本発明のガラス基板保持手段において、ガラス基板の裏面外周部をなす4辺のうち、少なくとも2辺を含む領域を支持部材で支持することで、静電チャック機構の作用面と、ガラス基板の裏面の品質保証領域と、が非接触の状態でガラス基板を保持できる。この点に関して、後述する実施例2では、図5に示すように、ガラス基板200の裏面外周部の外縁をなす4辺のうち、対向する2辺を含む領域を支持部材114で支持している。また、後述する実施例3では、図6に示すように、ガラス基板200の裏面外周部の外縁をなす4辺のうち、隣接する2辺を含む領域を支持部材114で支持している。また、後述する実施例4では、図7に示すように、互いに独立した3つの支持部材114を用いて、ガラス基板200の裏面外周部の外縁をなす4辺を含む領域全てを支持している。これらの実施例では、作用面112と、品質保証領域210と、が非接触の状態でガラス基板200を保持できた。
一方、後述する比較例2では、図8に示すように、ガラス基板200の裏面外周部の外縁をなす4辺のうち、1辺のみを含む領域を支持部材114で支持したところ、ガラス基板200が傾き、作用面112と、品質保証領域210と、が接触した。
【0038】
本発明のガラス基板保持手段100Aにおいて、支持部材114は、ガラス基板200の裏面外周部を支持した際に破損することがないよう、十分な硬度を有している必要がある。
しかしながら、支持部材114が、それによって支持されるガラス基板200よりも高い硬度を有していると、ガラス基板に傷が生じるおそれがある。
このため、支持部材114は、それによって支持されるガラス基板200よりも硬度が低い材料で作製されていることが好ましい。
支持部材114の硬度の目安としては、ビッカース硬さ(HV)が650未満であることが好ましく、100以下であることがより好ましく、30以下であることがさらに好ましい。
【0039】
また、図1に示すガラス基板保持手段100Aにおいて、支持部材114は、EUVマスクブランクスの製造時に実施される成膜プロセス下に置かれるため、成膜容器内の真空雰囲気下において、ガス成分を放出するものであってはならない。さらに、成膜装置ではガラス基板200などが熱を持つ場合があるため、支持部材114は、少なくとも約150℃程度まで化学的・物理的に耐熱性が求められる。
【0040】
以上の点を満たす必要から、支持部材114の構成材料としては、パーフロロエラストマー、フッ素ゴム、シリコーンゴム等のエラストマー材料や、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド、ポリベンゾイミダゾール(PBI)樹脂、フッ素樹脂等を使用できる。
これらの中でも、シリコーンゴムを用いた場合、支持部材114と、それによって支持されるガラス基板200の裏面外周部と、の間に発揮されるファンデルワールス力によって、該裏面外周部を吸着できる。
ファンデルワールス力による吸着は、特許文献10に記載の露光装置で、反射型マスクの裏面の周辺を把持する手段として用いられている接触式静電チャックのように、帯電した異物を引き付けることなしに、ガラス基板200の保持力を高められる。
【0041】
図2に示すガラス基板保持手段100Aにおいて、基材110の上面の外周部に支持部材114を設ける方法としては、例えば、セラミックス材料製の基材110の上面の外周部に、エラストマー材料製のテープやフィルムを貼りつけることによって、エラストマー材料製の凸部を形成すればよい。
但し、本発明のガラス基板保持手段において、基材上面の外周部に支持部材を設ける方法はこれに限定されない。
【0042】
図3は、本発明のガラス基板保持手段の別の1実施形態の側面図である。図3に示すガラス基板保持手段100Bでは、基材110上に、誘電材料の層(誘電層)111が形成されており、該誘電層111の上面の外周部に支持部材114が設けられている。なお、図3に示すガラス基板保持手段100Bでは、該誘電層111の上面の中央部に、電極部が埋め込まれた静電チャック機構の作用面112が設けられている。
図3に示すガラス基板保持手段100Bにおいて、セラミックス材料製の基材110の上面にポリイミドフィルムを貼り付けることで、該基材110上に誘電層111を形成できる。そして、エッチング加工やインプリント加工を用いて、該ポリイミドフィルム上面の外周部に凸部を形成することによって、誘電層111の上面の外周部に支持部材114を形成できる。
【0043】
図4は、本発明のガラス基板保持手段のさらに別の1実施形態の側面図である。図4に示すガラス基板保持手段100Cでは、基材110の側面に支持部材114が取り付けられている。図4に示すガラス基板保持手段100Cは、セラミックス材料製の基材110の側面に、ネジ固定や、該基材110への埋め込みにより、耐摩耗性に優れた材料製の支持部材114を取り付けた後、基材110上面からの支持部材114の突出高さが、所定の高さとなるように、該支持部材114の上面を機械研磨して作製できる。支持部材114に用いる耐摩耗性に優れた材料としては、たとえば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)のようなエンジニアリングプラスチックが例示される。
【0044】
本発明のガラス基板保持手段は、EUVマスクブランクスの製造時において、位置ずれや脱離が起こすことなくガラス基板を保持するために、ガラス基板の保持力が1960N以上であることが好ましい。
ここで言う、ガラス基板の保持力は、作用面112からの静電吸引力による、ガラス基板200の品質保証領域210の吸引によるものであるが、支持部材114がガラス基板200の裏面外周部をファンデルワールス力によって吸着する場合は、このファンデルワールス力による吸着によるものも含まれる。
本発明のガラス基板保持手段において、ガラス基板200の保持力は、2352N以上であることが好ましく、2744N以上であることがより好ましい。
【0045】
次に、本発明のEUVマスクブランクスの製造方法について説明する。
EUVマスクブランクスは、ガラス基板の成膜面にEUV光を反射する反射層、および、EUV光を吸収する吸収層がこの順に形成されたものを基本構成とする。EUVマスクブランクスの反射層としては、EUV波長域において高反射率を達成できることから、高屈折率膜と低屈折率膜とを交互に複数回積層させた多層反射膜が広く用いられている。
本発明の方法によって製造されるEUVマスクブランクスは、上記以外の各種機能層を有していてもよい。このような機能層の具体例としては、反射層の表面が酸化されるのを防止する目的で反射層上に必要に応じて形成される反射層の保護層、パターニングの際に反射層がダメージを受けるのを防止する目的で反射層と吸収層との間に必要に応じて形成されるバッファ層、マスクパターンの検査時のコントラストを向上させる目的で吸収層上に必要に応じて形成されるマスクパターンの検査光に対する低反射層が挙げられる。
また、ガラス基板の裏面には裏面導電膜を有していてもよい。
【0046】
本発明のEUVマスクブランクス製造方法では、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法といったスパッタリング法、CVD法、および、真空蒸着法といった乾式成膜法によって、ガラス基板の成膜面上に反射層および吸収層を形成する。
必要に応じて形成される上記の各種機能膜を有するEUVマスクブランクスを製造する場合には、乾式成膜法によってガラス基板の成膜面上に上記の各種機能膜を形成する。
これらの成膜法のうち、いずれを使用するかは形成する膜によって適宜選択できるが、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法といったスパッタリング法が、均質な膜厚を作製し易い点、タクトが短い点から好ましい。
【0047】
本発明のEUVマスクブランクス製造方法を用いて、上述した基本構成のEUVマスクブランクスを製造する場合、乾式成膜法によって反射層および吸収層のうち少なくとも1つを形成する際に、本発明のガラス基板保持手段を用いてガラス基板を保持する。
したがって、反射層および吸収層のうち、いずれか一方を形成する際のみ、本発明のガラス基板保持手段を用いてガラス基板を保持し、残りの一方を形成する際には他の保持手段(例えば、通常の静電チャック)を用いてガラス基板を保持してもよい。
但し、上述したように、本発明のガラス基板保持手段でガラス基板を保持した場合、EUVマスクブランクスの製造時において、ガラス基板の位置ずれや脱離、あるいは、ガラス基板の変形が生じることがなく、かつ、保持によるガラス基板への傷の発生や異物の付着を抑制することができることから、これら全てを形成する際に、本発明のガラス基板保持手段を用いてガラス基板を保持することが好ましい。
必要に応じて形成される上記の各種機能膜を有するEUVマスクブランクスを製造する場合には、乾式成膜法によって上記各種機能膜を形成する際にも、本発明のガラス基板保持手段を用いてガラス基板を保持することが好ましい。
【0048】
上述した基本構成のEUVマスクブランクスの吸収層を形成する前の状態、すなわち、ガラス基板の成膜面上に反射層を形成したものが本発明の方法により製造されるEUVL用反射層付基板であり、EUVマスクブランクスの前駆体をなすものである。
本発明のEUVL用反射層付基板の製造方法では、ガラス基板の成膜面上に、乾式成膜法によって反射層を形成する際に、本発明のガラス基板保持手段を用いてガラス基板を保持する。
【0049】
以下、本発明の方法により製造されるEUVマスクブランクスの構成例を示す。
【0050】
ガラス基板は、EUVマスクブランクス用の基板としての特性を満たすことが要求される。
そのため、ガラス基板は、低熱膨張係数(0±1.0×10-7/℃であることが好ましく、より好ましくは0±0.3×10-7/℃、さらに好ましくは0±0.2×10-7/℃、さらに好ましくは0±0.1×10-7/℃、特に好ましくは0±0.05×10-7/℃)を有し、平滑性、平坦度、およびマスクブランクスまたはパターン形成後のフォトマスクの洗浄等に用いる洗浄液への耐性に優れたものが好ましい。ガラス基板としては、具体的には低熱膨張係数を有するガラス、例えばSiO2−TiO2系ガラス等を使用できる。
ガラス基板は、0.15nm rms以下の平滑な表面と100nm以下の平坦度を有すると、パターン形成後のフォトマスクにおいて高反射率および転写精度が得られるために好ましい。
ガラス基板の大きさや厚さなどはマスクの設計値等により適宜決定される。後で示す実施例では外形6インチ(152.4mm)角で、厚さ0.25インチ(6.3mm)のSiO2−TiO2系ガラスを用いた。
【0051】
ガラス基板の成膜面、特に成膜面の品質保証領域には欠点が存在しないことが好ましい。しかし、存在している場合であっても、凹状欠点および/または凸状欠点によって位相欠点が生じないように、凹状欠点の深さおよび凸状欠点の高さが2nm以下であり、かつこれら凹状欠点および凸状欠点の半値幅が60nm以下であることが好ましい。
成膜面外周部については、品質保証領域に転写される可能性のある、高さが2nmを超える、もしくは半値幅が60nmを超える凸状欠点が存在しないことが好ましい。
ガラス基板の裏面、特に裏面の品質保証領域については、高さが1μmを超える凸状欠点が存在しないことが好ましい。また、裏面外周部についても、裏面の品質保証領域に転写される可能性があるので、高さ1μm以上の凸状欠点は存在しないことが好ましい。
【0052】
EUVマスクブランクスの反射層に特に要求される特性は、高EUV光線反射率である。具体的には、EUV光の波長領域の光線を反射層表面に入射角度6度で照射した際に、波長13.5nm付近の光線反射率の最大値が60%以上が好ましく、65%以上がより好ましい。
【0053】
EUVマスクブランクスの反射層としては、EUV波長域において高反射率を達成できることから、低屈折率膜と高屈折率膜とを交互に複数回積層させた多層反射膜が広く用いられている。多層反射膜の具体例としては、低屈折率膜としてのMo膜と、高屈折率膜としてのSi膜とを交互に複数回積層させたMo/Si多層反射膜が挙げられる。
Mo/Si多層反射膜の場合に、EUV光線反射率の最大値が60%以上の反射層とするには、膜厚2.3±0.1nmのMo層と、膜厚4.5±0.1nmのSi層とを繰り返し単位数が30〜60になるように積層させればよい。
【0054】
なお、Mo/Si多層反射膜を構成する各層は、乾式成膜法、具体的にはマグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法などのスパッタリング法を用いて所望の厚さに成膜すればよい。例えば、イオンビームスパッタリング法を用いてMo/Si多層反射膜を形成する場合、ターゲットとしてMoターゲットを用い、スパッタガスとしてArガス(ガス圧1.3×10-2Pa〜2.7×10-2Pa)を使用して、イオン加速電圧300〜1500V、成膜速度0.03〜0.30nm/secで厚さ2.3nmとなるようにMo層を成膜し、次に、ターゲットとしてSiターゲットを用い、スパッタガスとしてArガス(ガス圧1.3×10-2Pa〜2.7×10-2Pa)を使用して、イオン加速電圧300〜1500V、成膜速度0.03〜0.30nm/secで厚さ4.5nmとなるようにSi層を成膜することが好ましい。これを1周期として、Mo層およびSi層を40〜50周期積層させることによりMo/Si多層反射膜が成膜される。
【0055】
吸収層に特に要求される特性は、EUV光線反射率が極めて低いことである。具体的には、EUV光の波長領域の光線を吸収体層表面に照射した際に、波長13.5nm付近の最大光線反射率が0.5%以下が好ましく、0.1%以下がより好ましい。
上記の特性を達成するため、EUV光の吸収係数が高い材料で構成されることが好ましい。EUV光の吸収係数が高い材料の具体例としては、タンタル(Ta)を主成分とする材料が挙げられる。
タンタル(Ta)を主成分とする材料で構成される吸収層の具体例としては、Ta、B、Siおよび窒素(N)を以下に述べる比率で含有する吸収層(TaBSiN膜)が挙げられる。
Bの含有率 1at%以上5at%未満、好ましくは1〜4.5at%、より好ましくは1.5〜4at%
Siの含有率 1〜25at%、好ましくは1〜20at%、より好ましくは2〜12at%
TaとNとの組成比(Ta:N) 8:1〜1:1
Taの含有率 好ましくは50〜90at%、より好ましくは60〜80at%
Nの含有率 好ましくは5〜30at%、より好ましくは10〜25at%
【0056】
上記組成の吸収層(TaBSiN膜)は、その結晶状態はアモルファスであり、表面の平滑性に優れている。
上記組成の吸収層(TaBSiN膜)であれば、吸収層表面の表面粗さを0.5nm rms以下にできる。吸収層表面の表面粗さが大きいと、吸収層に形成されるパターンのエッジラフネスが大きくなり、パターンの寸法精度が悪くなる。パターンが微細になるに従いエッジラフネスの影響が顕著になるため、吸収体表面は平滑であることが要求される。
吸収層表面の表面粗さが0.5nm rms以下であれば、吸収層表面が十分平滑であるため、エッジラフネスの影響によってパターンの寸法精度が悪化するおそれがない。
【0057】
吸収層の厚さは、50〜100nmが好ましい。
【0058】
上記組成の吸収層(TaBSiN膜)は、乾式成膜法、具体的にはマグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法などのスパッタリング法を用いて形成できる。マグネトロンスパッタリング法を用いる場合、下記(1)〜(3)の方法で吸収層(TaBSiN膜)を形成できる。
(1)Taターゲット、BターゲットおよびSiターゲットを使用し、Arで希釈した窒素(N2)雰囲気中でこれらの個々のターゲットを同時に放電させることによって吸収層(TaBSiN膜)を形成する。
(2)TaB化合物ターゲットおよびSiターゲットを用いて、これらのターゲットをArで希釈したN2雰囲気中で同時放電させることによって吸収層(TaBSiN膜)を形成する。
(3)TaBSi化合物ターゲットを用いて、この3元素が一体化されたターゲットをArで希釈したN2雰囲気中で放電させることによって吸収層(TaBSiN膜)を形成する。
なお、上述した方法のうち、2以上のターゲットを同時に放電させる方法((1)、(2))では、各ターゲットの投入電力を調節することによって、形成される吸収層の組成を制御できる。
上記の中でも(2)および(3)の方法が、放電の不安定化や膜の組成や膜厚のばらつきを回避できる点で好ましく、(3)の方法が特に好ましい。TaBSi化合物ターゲットは、その組成がTa=50〜94at%、Si=5〜30at%、B=1〜20at%であることが、放電の不安定化や膜の組成や膜厚のばらつきを回避できる点で特に好ましい。
【0059】
上記例示した方法で吸収層(TaBSiN膜)を形成するには、具体的には以下の成膜条件で実施すればよい。
TaB化合物ターゲットおよびSiターゲットを使用する方法(2)
スパッタガス:ArとN2の混合ガス(N2ガス濃度3〜80vol%、好ましくは5〜30vol%、より好ましくは8〜15vol%。ガス圧1.0×10-1Pa〜10×10-1Pa、好ましくは1.0×10-1Pa〜5×10-1Pa、より好ましくは1.0×10-1Pa〜3×10-1Pa。)
投入電力(各ターゲットについて):30〜1000W、好ましくは50〜750W、より好ましくは80〜500W
成膜速度:2.0〜60nm/sec、好ましくは3.5〜45nm/sec、より好ましくは5〜30nm/sec
TaBSi化合物ターゲットを使用する方法(3)
スパッタガス:ArとN2の混合ガス(N2ガス濃度3〜80vol%、好ましくは5〜30vol%、より好ましくは8〜15vol%。ガス圧1.0×10-1Pa〜10×10-1Pa、好ましくは1.0×10-1Pa〜5×10-1Pa、より好ましくは1.0×10-1Pa〜3×10-1Pa。)
投入電力:30〜1000W、好ましくは50〜750W、より好ましくは80〜500W
成膜速度:2.0〜60nm/sec、好ましくは3.5〜45nm/sec、より好ましくは5〜30nm/sec
【実施例】
【0060】
以下に、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1では、152.4mm角のガラス基板200(厚さは6.3mm)を図1,2に示すガラス基板保持手段100Aで保持した。EUVマスクブランクスの基板として使用する場合、152.4mm角のガラス基板は、裏面の品質保証領域210が中央148mm角の領域である。ガラス基板200は、主成分をSiO2としたゼロ膨張ガラス(SiO2−TiO2系ガラス)製であり、22℃における熱膨張係数が0/℃であり、ビッカース硬さ(HV)が650である。
ガラス基板保持手段100Aにおいて、152.4mm角のセラミックス材料製の基材110の上面の中央部には、電極部が埋め込まれた静電チャック機構の作用面112が存在する。該作用面112の面積比は0.8である。
基材110の152.4mm角の上面のうち、作用面112外のエリア幅1mmの領域に、シリコーンゴム(ビッカース硬さ(HV)=30)製のテープを貼り付けて高さ50μmの凸部(支持部材114)を形成した。
ガラス基板200の保持力(作用面112による静電吸引力、支持部材114からのファンデルワールス力による吸着力)は、それぞれ以下の通りであった。
作用面112による静電吸引力:2156N
ファンデルワールス力による吸着力:490N
EUVマスクブランクス製造時に実施される成膜プロセス時の状況を再現するため、ガラス基板保持手段100Aを30rpmで回転させながら30分間保持した。
上記の手順の実施後、ガラス基板200の裏面における欠点数を以下の手順で測定した。
欠点数の測定方法
ガラス基板保持手段100Aから取り外したガラス基板200の裏面について、市販の欠陥検査装置(レーザーテック社製M1350)にて200nm以上の欠陥数を測定した。ここで、検査領域は裏面の152.4mm□の領域全体とし、基板中央の148mm□の領域(品質保証領域)と、該148mm□を除いた領域(裏面外周部)を対象に欠点数をそれぞれ評価した。その結果、品質保証領域および裏面外周部における200nm以上の欠陥数は0個であった。
【0061】
(実施例2)
実施例2では、図5に示すガラス基板支持手段100Dを使用した。図5に示すガラス基板支持手段100Dは、ガラス基板200の裏面外周部の外縁をなす4辺のうち、対向する2辺を含む領域を支持部材114で支持した。このとき、ガラス基板200の保持力(作用面112による静電吸引力、支持部材114からのファンデルワールス力による吸着力)は、それぞれ以下の通りであった。
作用面112による静電吸引力:2156N
ファンデルワールス力による吸着力:245N
また、それ以外は、実施例1と同様である。
品質保証領域および裏面外周部における200nm以上の欠陥数は0個であった。
【0062】
(実施例3)
実施例3では、図6に示すガラス基板支持手段100Eを使用した。図6に示すガラス基板支持手段100Eは、ガラス基板200の裏面外周部の外縁をなす4辺のうち、隣接する2辺を含む領域を支持部材114で支持した。このとき、ガラス基板200の保持力(作用面112による静電吸引力、支持部材114からのファンデルワールス力による吸着力)は、それぞれ以下の通りであった。
作用面112による静電吸引力:2156N
ファンデルワールス力による吸着力:245N
また、それ以外は、実施例1と同様である。
品質保証領域および裏面外周部における200nm以上の欠陥数は0個であった。
【0063】
(実施例4)
実施例4では、図7に示すガラス基板支持手段100Fを使用した。図7に示すガラス基板支持手段100Fは、互いに独立した3つの支持部材114を用いる以外は、実施例1と同様である。
このとき、ガラス基板200の保持力(作用面112による静電吸引力、支持部材114からのファンデルワールス力による吸着力)は、それぞれ以下の通りであった。
作用面112による静電吸引力:2156N
ファンデルワールス力による吸着力:490N
品質保証領域および裏面外周部における200nm以上の欠陥数は0個であった。
【0064】
(実施例5)
実施例5は、ガラス基板保持手段の作用面の面積比が0.5である以外は、実施例1と同様である。
このとき、ガラス基板の保持力(作用面による静電吸引力、支持部材からのファンデルワールス力による吸着力)は、それぞれ以下の通りであった。
作用面による静電吸引力:2156N
ファンデルワールス力による吸着力:490N
品質保証領域および裏面外周部における200nm以上の欠陥数は0個であった。
【0065】
(実施例6)
実施例6は、ガラス基板保持手段の作用面の面積比は1.0である以外は、実施例1と同様である。
このとき、ガラス基板の保持力(作用面による静電吸引力、支持部材からのファンデルワールス力による吸着力)は、それぞれ以下の通りであった。
作用面による静電吸引力:2156N
ファンデルワールス力による吸着力:490N
品質保証領域および裏面外周部における200nm以上の欠陥数は0個であった。
【0066】
(比較例1)
比較例1では、セラミックス材料製の基材の上面の142mm□〜144mm□の領域に、幅1mmのシリコーンゴム(ビッカース硬さ(HV)=30)製のテープを貼り付けて高さ50μmの凸部(支持部材)を形成した以外は実施例1と同様である。
このとき、ガラス基板の保持力(作用面による静電吸引力、支持部材からのファンデルワールス力による吸着力)は、それぞれ以下の通りであった。
作用面による静電吸引力:2156N
ファンデルワールス力による吸着力:490N
品質保証領域における200nm以上の欠陥数は約400個であった。
【0067】
(比較例2)
比較例2では、図8に示すガラス基板支持手段100Gを使用した。図8に示すガラス基板支持手段100Gは、ガラス基板200の裏面外周部の外縁をなす4辺のうち、1辺を含む領域のみを支持部材114で支持する以外は、実施例1と同様である。
このとき、ガラス基板200の保持力(作用面112による静電吸引力、支持部材114からのファンデルワールス力による吸着力)は、それぞれ以下の通りであった。
作用面112による静電吸引力:2156N
ファンデルワールス力による吸着力:122.5N
ガラス基板200を保持した際に、ガラス基板200が傾き、静電チャック機構の作用面112とガラス基板200の品質保証領域210と、が接触した。また、品質保証領域210における200nm以上の欠陥数は約100個であった。
【0068】
(比較例3)
比較例3は、ガラス基板保持手段の作用面の面積比が0.4である以外は、実施例1と同様である。
このとき、ガラス基板の保持力(作用面による静電吸引力、支持部材からのファンデルワールス力による吸着力)は、それぞれ以下の通りであった。
作用面による静電吸引力:2156N
ファンデルワールス力による吸着力:490N
品質保証領域の一部に局所的に静電吸引力が作用した結果、ガラス基板が変形し、ガラス基板保持手段から取り外したガラス基板の平坦性が損なわれた。品質保証領域および裏面外周部における200nm以上の欠陥数は0個であった。
【0069】
(比較例4)
比較例4は、152.4mm角のセラミックス材料製の基材の上面の外周部の幅50mmエリアに、電極部が埋め込まれた静電チャック機構の作用面が存在し、該作用面上に、幅1mmのシリコーンゴム(ビッカース硬さ(HV)=30)製のテープを貼り付けて高さ50μmの凸部(支持部材)を形成した以外は、実施例1と同様である。
このとき、ガラス基板の保持力(作用面による静電吸引力、支持部材からのファンデルワールス力による吸着力)は、それぞれ以下の通りであった。
作用面による静電吸引力:2156N
ファンデルワールス力による吸着力:490N
裏面外周部における200nm以上の欠陥数は約500個であった。また、品質保証領域における200nm以上の欠陥数は約30個であった。品質保証領域における欠陥は、裏面外周部から異物の転写によるものと思われる。
【0070】
(比較例5)
比較例5は、ガラス基板保持手段の支持部材の高さが10μmである以外は、実施例1と同様である。
このとき、ガラス基板の保持力(作用面による静電吸引力、支持部材からのファンデルワールス力による吸着力)は、それぞれ以下の通りであった。
作用面による静電吸引力:2156N
ファンデルワールス力による吸着力:490N
品質保証領域における200nm以上の欠陥数は約150個であった。ガラス基板と静電チャック機構の作用面との距離が10μmと小さいため、該作用面上に存在している異物が基板と接触することにより、さらに異物発生を誘発したり、静電気的な移動により異物が転写されたものと考えられる。
【符号の説明】
【0071】
100A,100B,100C,100D,100E,100F,100G:ガラス基板保持手段
110:基材
111:誘電層
112:作用面
114:支持部材
200:ガラス基板
210:品質保証領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
EUVリソグラフィ(EUVL)用反射型マスクブランクスの製造時に用いられるガラス基板の保持手段であって、
前記ガラス基板の保持手段は、静電吸引力によりガラス基板の裏面を非接触で吸引する静電チャック機構と、ガラス基板の裏面の一部を支持する支持部材と、を有し、
前記静電チャック機構の静電吸引力を発揮する作用面の投影面積(mm2)と、前記ガラス基板の裏面の品質保証領域の面積(mm2)と、の比(静電チャック機構の作用面の投影面積/ガラス基板の裏面の品質保証領域の面積)が0.5以上1.0以下であり、
前記静電チャック機構の作用面と、前記ガラス基板の裏面と、の距離が20μm超であり、
前記支持部材は、前記ガラス基板の裏面の品質保証領域より外側(裏面外周部)をなす4辺のうち、少なくとも2辺を含む領域をのみを支持するガラス基板保持手段。
【請求項2】
前記静電チャック機構の作用面と、前記ガラス基板の裏面と、の距離が30μm以上 100μm以下である請求項1に記載のガラス基板保持手段。
【請求項3】
前記支持部材は、前記ガラス基板よりも硬度が低い材料で作製されている請求項1または2に記載のガラス基板保持手段。
【請求項4】
前記支持部材は、前記ガラス基板の裏面の被支持部をファンデルワールス力で吸着する請求項1〜3のいずれかに記載のガラス基板保持手段。
【請求項5】
前記ガラス基板の保持力が1960N以上である請求項1〜4のいずれかに記載のガラス基板保持手段。
【請求項6】
ガラス基板の一方の面にEUV光を反射する反射層が形成されたEUVリソグラフィ用(EUVL)用反射層付基板の製造方法であって、
乾式成膜法によって、前記ガラス基板上に前記反射層を形成する際に、請求項1〜5のいずれかに記載のガラス基板保持手段を用いてガラス基板を保持するEUVL用反射層付基板の製造方法。
【請求項7】
ガラス基板の一方の面にEUV光を反射する反射層、および、EUV光を吸収する吸収層を少なくともこの順に形成されたEUVリソグラフィ(EUVL)用反射型マスクブランクスの製造方法であって、
乾式成膜法によって、前記ガラス基板上に、前記反射層、および、前記吸収層のうち、少なくとも1つを形成する際に、請求項1〜5のいずれかに記載のガラス基板保持手段を用いてガラス基板を保持するEUVL用反射型マスクブランクスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−4621(P2013−4621A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132462(P2011−132462)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】