説明

ガラス成形体の製造方法、及び光学素子の製造方法

【課題】流出する熔融ガラスのガラス組成にばらつきが生じてしまうのを防止して、高品質なガラスの製造に有用なガラス成形体の製造方法、及び光学素子の製造方法を提供する。
【解決手段】熔融ガラスが蓄積された容器から、熔融ガラスを導いて流出させる流路の少なくとも一部をなすガラス流出パイプの内周面に、熔融ガラスが内部を流動することによって攪拌される凹凸形状、より具体的には、長手方向に沿って螺旋状に形成された凹溝及び/又は凸条からなる凹凸形状を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス成形体の製造方法、及び光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学ガラスなどの高品質なガラスを量産する方法としては、例えば、特許文献1などに記載されているように、ガラス原料を高温で熔融し、得られた熔融ガラスをガラス流出パイプから流出して成形する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−7360
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年にあっては、高付加価値の光学素子材料として、高屈折率ガラスや、低分散ガラスの需用が高まっている。また、非球面レンズなど、従来の研磨法では莫大な手間とコストを要する光学素子の光学機能面を、研磨フリーで転写により形成することができる精密プレス成形法が脚光を浴びており、これに伴って、精密プレス成形法に適用するための低温軟化性を有する光学ガラスの需用も高まっている。
これらのガラスは新種系ガラスと呼ばれ、熔融ガラスを流出する際の粘性が低いという性質を有しており、また、これらのガラスを生産するに際しては、熔融ガラスを蓄積するルツボや、タンクなどの容器にガラス流出パイプを接続し、このガラス流出パイプにより、容器中に蓄積された熔融ガラスを導き、一定の流量で流出させつつ、所定形状のガラス成形体に成形している。
【0005】
しかしながら、容器中に蓄積された熔融ガラスは、攪拌棒などにより攪拌され、均質化されてからガラス流出パイプに流れ込むものの、ガラス流出パイプ内を流れる熔融ガラスの流速は、パイプの中心ほど大きく、パイプの内周面に近づくほど小さくなる。そして、前述したような低粘性ガラスでは、この流速分布がいっそう大きくなる傾向にある。
そのため、容器中からガラス流出パイプに同時に流れ込んだ熔融ガラスのうち、パイプ中心の流路に沿って流れるものの方が、パイプ内周面に近い流路に沿って流れるものよりもパイプ中の通過時間が短くなる。したがって、ガラス流出パイプの流出口から同時に流出する熔融ガラスは、ガラス流出パイプに同時に流れ込んだものではない。
【0006】
このように、容器中に蓄積された熔融ガラスを均質化したとしても、ガラス流出パイプの中心と、ガラス流出パイプの内周面付近における熔融ガラスの流速の違いにより、ガラス流出パイプ内を熔融ガラスが流れるうちに、ガラス流出パイプから流出する熔融ガラスのガラス組成にばらつきが生じてしまう。このガラス組成のばらつきは僅かなものではあるが、屈折率のばらつきとなり、成形したガラス成形体や光学素子に脈理となって現れることになる。光学ガラスのように非常に高い均質性が求められるガラスでは、この脈理の発生が品質を大きく損なうことになってしまう。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みなされたものであり、高品質な光学素子製造用のガラス成形体や光学素子の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るガラス成形体の製造方法は、ガラス原料を加熱、熔融して容器中に蓄積された熔融ガラスを、前記容器から流出させて光学素子製造用のガラス成形体に成形するガラス成形体の製造方法であって、前記容器から前記熔融ガラスを流出させる流路の少なくとも一部に、前記熔融ガラスが内部を流動することによって攪拌される凹凸形状が、内周面に設けられているガラス流出パイプを用いて、前記ガラス流出パイプの内部を流動する前記熔融ガラスを攪拌、均質化した後、前記ガラス流出パイプより前記熔融ガラスを流出させて成形する方法としてある。
【0009】
このような方法とすることで、流出される熔融ガラスを常に均質化し、ガラス成形体や、光学素子を製造するに際し、脈理などのガラス組成の不均一さに起因する不具合を有効に回避することができる。これにより、脈理などのガラス組成の不均一さに起因する不具合のない高品質なガラス成形体を製造することができ、また、このようなガラス成形体を用いて高品質な光学素子を製造することができる。
【0010】
また、本発明に係るガラス成形体の製造方法は、前記ガラス流出パイプとして、前記凹凸形状が、長手方向に沿って螺旋状に形成された凹溝及び/又は凸条からなるガラス流出パイプを用いることで、流路内を流動する熔融ガラスに抵抗を与え、熔融ガラスが螺旋状に流動して攪拌されるようにすることができる。
ここで、凸条とは、パイプ内周面に沿って延びる凸部を意味する。
【0011】
また、本発明に係るガラス成形体の製造方法は、ガラス原料を加熱、熔融して容器中に蓄積された熔融ガラスを、前記容器から流出させて光学素子製造用のガラス成形体に成形するガラス成形体の製造方法であって、前記容器から前記熔融ガラスを流出させる流路の少なくとも一部に、長手方向に沿って螺旋状に形成された凹溝及び/又は凸条からなる凹凸形状が、内周面に設けられているガラス流出パイプを用いて、前記ガラス流出パイプの内部を流動する前記熔融ガラスを攪拌、均質化した後、前記ガラス流出パイプより前記熔融ガラスを流出させて成形する方法とすることができる。
【0012】
また、本発明に用いるガラス流出パイプは、流路内を流動する熔融ガラスに抵抗を与えることができれば、前記凹凸形状は、一定間隔又は不定間隔で長手方向に沿って不連続に形成された凹溝及び/又は凸条からなっていてもよい。
また、本発明に用いるガラス流出パイプは、少なくとも隣接する二つの所定範囲において、一方の範囲に形成された前記凹溝及び/又は凸条が、他方の範囲に形成された前記凹溝及び/又は凸条に対して、逆方向に回転する螺旋構造とされた構成とすることができる。
このような構成とすれば、流出させる熔融ガラスをより均質なものとすることができる。
【0013】
また、本発明に用いるガラス流出パイプは、内部を流動する熔融ガラスの攪拌効果を高める上で、中心軸に対して垂直な断面における複数の前記凸条の各頂部を通る仮想的な円の直径を内径をφとし、前記断面における複数の前記凹溝の各底部を通る仮想的な円の直径をφとしたときに、(φ−φ)/φが0.01〜0.25である構成とするのが好ましい。
【0014】
また、本発明に用いるガラス流出パイプは、前記凹凸形状が設けられた範囲において、長手方向に直交する断面における断面積が、ほぼ一定とされた構成とすることができる。
このような構成とすれば、凹凸形状を設けることが、熔融ガラスを導いて流出させる流路を温度調整する際の妨げにならないようにすることができる。例えば、パイプに通電してジュール熱を発生させてパイプの温度調整をする場合、上記断面におけるパイプの断面積がほぼ一定であれば、パイプの長手方向に沿って電気抵抗が一定となり、パイプの長手方向に沿い、通電によって発生するジュール熱も一定にすることができ、パイプの温度調整に好都合となる。また、パイプを高周波誘導加熱する場合も、均等な高周波誘導加熱を行えば、長手方向に沿ってパイプの発熱を一定にすることができる。したがって、パイプの温度調整が容易になる。
【0015】
また、本発明に用いるガラス流出パイプは、前記凹凸形状が、長手方向に沿って100mm以上の長さで、当該ガラス流出パイプの流出口に近い部分に設けられている構成とするのが好ましく、これにより、熔融ガラスが流出する直前に十分に攪拌されるようにすることができる。
【0016】
また、本発明に係るガラス成形体の製造方法は、より具体的には、流出させた前記熔融ガラスから熔融ガラス塊を分離し、前記熔融ガラス塊を冷却固化させる過程で精密プレス成形用プリフォームに成形する方法、流出させた前記熔融ガラスを鋳型に鋳込んでガラス成形体に成形する方法、流出させた前記熔融ガラスから熔融ガラス塊を分離し、前記熔融ガラス塊をプレス成形してガラス成形体に成形する方法とすることができる。
【0017】
また、本発明に係る光学素子の製造方法は、前述したような方法により精密プレス成形用プリフォームを製造し、製造された前記精密プレス成形用プリフォームを精密プレス成形する方法、前述したような方法によりガラス成形体を製造し、製造された前記ガラス成形体に対して、少なくとも研削、研磨を施して光学素子とする方法としてある。
【0018】
このような方法とした本発明に係る光学素子の製造方法によれば、脈理などのガラス組成の不均一さに起因する不具合のない高品質な光学素子を製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、熔融ガラスが蓄積された容器から、熔融ガラスを導いて流出させる流路において、その内部を流動することによって熔融ガラスが攪拌され、均質化することができるので、均質な熔融ガラスを流出することができる。その結果、高品質なガラス成形体を製造することができ、さらには、そのようなガラス成形品を用いることで、高品質な光学素子を製造することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に用いるガラス製造装置の実施形態を概念的に示す説明図である。
【図2】本発明に用いるガラス流出パイプの実施形態を概念的に示す説明図である。
【図3】ガラス流出パイプ内を流動する熔融ガラスが攪拌される様子を概念的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0022】
[ガラス流出パイプ、ガラス製造装置]
まず、本発明に用いるガラス流出パイプ、及びガラス製造装置の実施形態について説明する。
なお、図1は、本実施形態におけるガラス製造装置を概念的に示す説明図である。
【0023】
図示する例において、ガラス製造装置100は、バッチ原料と呼ばれる各種化合物を調合した原料を加熱、熔解してガラス化する熔解槽10と、熔解槽10で得られた熔融ガラスを清澄する清澄槽20と、清澄した熔融ガラスを攪拌棒31などで攪拌して均質化する作業槽30と、作業槽30中に蓄積された熔融ガラスを導いて流出させる流路としての流出パイプ40を備える。
【0024】
本実施形態において、ガラス製造装置100は、熔融ガラスを蓄積する容器と、この容器中に蓄積された熔融ガラスを導いて流出させる流路とを備えていればよく、具体的な各部の構成は、公知のガラス製造装置のものを適宜利用することができる。例えば、ガラス化したカレット原料を調合して、これを所定の容器に投入し、加熱、熔融、清澄、攪拌を一つの容器中で行い、このような容器に、熔融ガラスを導いて流出させる流路を接続したものであってもよい。
【0025】
熔融ガラスが蓄積された容器に接続され、熔融ガラスを導いて流出させる流路としての流出パイプ40には、少なくともその一部の内周面に、熔融ガラスが流出パイプ40の内部を流動することによって攪拌される凹凸形状が設けられている。このような凹凸形状は、例えば、長手方向に沿って螺旋状に形成された凹溝、又は凸条とすることができ、螺旋状に形成された凹溝や凸条は、流出パイプ40の同一内周面に混在していてもよい。
なお、凸条とは、前述のようにパイプ内周面に沿って延びる凸部を意味する。
【0026】
流出パイプ40の内周面に形成される螺旋状の凹溝や凸条は、流出パイプ40内を流動する熔融ガラスに抵抗を与え、熔融ガラスが流出パイプ40内を螺旋状に流動して攪拌されるようにすることができれば、長手方向に沿って連続して形成されたものに限らない。一定間隔又は不定間隔で長手方向に沿って不連続に形成されたものであっても、全体として螺旋状になっていればよい。さらに、このような凹溝や凸条は、流出パイプ40の内周面に複数条並んで形成されたものであっても、一条の螺旋が単独で形成されたものであってもよい。
【0027】
また、流出パイプ40の内周面に螺旋状の凹溝や凸条を形成するにあたり、内径が比較的太いパイプに対しては、研削などの機械加工によって形成することができる。また、凸条を形成する場合は、流出パイプ40の外周面から凸条を形成するための部材を螺旋状に打ち込むなどすることによってもよい。
【0028】
一方、流出パイプ40の内径を比較的細径とする必要がある場合には、次のような加工手段をとることができる。
まず、流出パイプ40には、白金又は白金合金などを材料に用いて作製された細径のパイプを利用することができるが、一般に入手可能な白金製の細径のパイプには、その内周面に、図2(c)に示すような複数本の凸条41が長手方向に沿って直線状に形成されている。このような凸条41は、所望の内径よりも太いパイプをローラなどで絞って細径のパイプとする際に、絞りしわとして生じるものと考えられる。そして、このようなパイプを加熱して鈍しをとることによって軟らかくした後、図2(a)に示すように、中心軸周りに矢印tの方向に所望の角度でパイプ40を捻る捻り加工を施すと、パイプ40の内周面の凸条41も追随して、図2(d)に示すように螺旋状に捻られる。
後述するように、本実施形態では、流出パイプ40の内径をφ4mm以下とするが、このような加工手段によれば、内径φ4mm以下の細径の流出パイプ40であっても、その内周面に螺旋状の凹溝や凸条を形成することができる。
【0029】
ここで、図2(a)〜(c)は、捻り加工を施す前の流出パイプ40を概念的に示す説明図であり、図2(b)は、図2(a)のA−A断面図、図2(c)は、図2(b)のB−B断面図である。また、図2(d)は、捻り加工を施した後の流出パイプ40を概念的に示す説明図であり、図2(b)のB−B断面に相当する断面を示している。
【0030】
流出パイプ40の内周面に、螺旋状の凹溝や凸条を形成することにより、図3に矢印aで示すように、流出パイプ40内を流動する熔融ガラスには、螺旋状に旋回する渦状の流れが生じると考えられる。これとともに、内周面に沿って流動する熔融ガラスにあっては、その内周面に沿った流れが凸条41によって妨げられて、図3に矢印bで示すような乱流が生じると考えられる。
これにより、流出パイプ40の中心付近を流れる熔融ガラスと、流出パイプ40の内周面付近を流れる熔融ガラスとが十分に攪拌され、流出パイプ40からは、常に均質な熔融ガラスを流出させることができるようになる。
なお、図3は、流出パイプ40内を流動する熔融ガラスが攪拌される様子を概念的に示す説明図である。
【0031】
また、より均質な熔融ガラスを流出パイプ40から流出させるには、流出パイプ40の少なくとも隣接する二つの所定範囲において、一方の範囲に形成された凹溝や凸条が、他方の範囲に形成された凹溝や凸条に対して、逆方向に回転する螺旋構造とするのが好ましい。
このためには、流出パイプ40の一定に範囲について、前述したようにして鈍しをとって捻り加工を施した後に、他の範囲について逆方向に捻り加工を施すようにすればよい。また、所定長さの流出パイプ40について、逆方向に捻り加工を施したものを溶接などで接合してもよい。
【0032】
本実施形態において、流出パイプ40の内径は、φ4mm以下とする。低粘性の熔融ガラスの場合、パイプ内径を細くして流出量をコントロールする場合が多いため、内径がφ4mm以下のパイプが好適であり、φ3mm以下のパイプがより好適である。内径の下限は、熔融ガラスの安定した流れが得られる限り、特に制限されないが、φ1mmを目安とすればよく、多くの場合、φ1.5mmとすればよい。
ここで、パイプ内周面に凹溝や凸条があっても、パイプの中心軸に対して垂直に切ったパイプ内周面の断面形状は、略円形になっている。この場合、前記断面における複数の凸条の各頂部を通る仮想的な円の直径を内径と呼ぶ。また、前記断面における複数の凹溝の各底部を通る仮想的な円の直径をφとし、上記内径をφとしたときに、(φ−φ)/φを0.01〜0.25とすることが、内部を流動する熔融ガラスの攪拌効果を高める上から好ましい。また、捻り加工によって上記構造をパイプに付与する場合、捻り加工を容易に行う上から、前記凹溝及び/又は凸条を備える部分におけるパイプの最大肉厚が2mm以下とすることが好ましく、1.5mm以下とすることがより好ましい。最大肉厚の下限については、好ましくは0.5mm、より好ましくは1mmである。
【0033】
また、高い均質性が要求されるのは、熔融ガラスが流出パイプ40から流出するときである。したがって、流出パイプ40から熔融ガラスが流出する直前に、熔融ガラスが流出パイプ40内で十分に攪拌されるようにするのが好ましい。このような観点から、螺旋状に形成された凹溝や凸条を設ける部位は、流出パイプ40の流出口に近い部位とすることが好ましい。
【0034】
また、螺旋状に形成された凹溝や凸条を設ける範囲の長さは、熔融ガラスの攪拌が十分になされるように、長手方向に沿って100mm以上とすることが好ましい。ただし、流出パイプ40の全長にわたって、このような加工を施す必要もないので、成形したガラスの脈理の有無を見ながら、螺旋状に形成された凹溝や凸条を設ける部分の長さや、螺旋状に捻る捻れ具合を適宜調整すればよい。
螺旋状に形成された凹溝や凸条を設ける範囲の目安としては、その範囲の長さを長手方向に沿って300〜600mmとすることが好ましく、より好ましくは350〜550mmである。
【0035】
また、流出パイプ40から熔融ガラスを流出させるにあたり、その流出量を調整するために、通電加熱方式、高周波誘導加熱方式などの適宜手段により、流出パイプ40を加熱して、熔融ガラスの粘度を調整することが一般に行われる。このときの温度調整が容易となるように、流出パイプ40の長手方向に沿った断面の断面積がほぼ一定となっているのが好ましい。その理由は前述のとおりである。
本実施形態では、流出パイプ40の内径を単に絞って熔融ガラスの流れに乱流を生じさせるのではなく、螺旋状に形成された凹溝や凸条のような凹凸形状を設けて、熔融ガラスが攪拌されるようにしているので、このような凹凸形状を設けた範囲にあっても、流出パイプ40の長手方向に沿った断面の断面積をほぼ一定にすることができ、流出パイプ40の温度調整の妨げにならない。
【0036】
さらに、ガラス製造装置100は、流出パイプ40から流出させた熔融ガラスを成形して、所定のガラス成形体とする成形装置50や、特に図示しないが、成形されたガラス成形体をアニールするアニール装置などを備えて構成することができる。
なお、図示する例において、成形装置50は、支持台52上に複数の受型51を備え、この受型51に流出パイプ40から流出した熔融ガラスを受けて、所定形状のガラス成形体を成形するようにしてあるが、成形装置50の構成は、これに限られるものではなく、後述するような鋳型などに置き換えてもよい。
【0037】
[ガラス成形体の製造方法]
次に、以上のようなガラス製造装置によりガラス成形体を製造する本発明に係るガラス成形体の製造方法の実施形態について説明する。
【0038】
本実施形態にあっては、例えば、流出パイプ40より流出する熔融ガラスから熔融ガラス塊を分離し、冷却固化する過程で、所定形状に成形されたガラス成形体としての精密プレス成形用プリフォームを製造する。
【0039】
精密プレス成形用プリフォームは、光学素子などの精密プレス成形品の重量とほぼ等しい重量のガラスを、精密プレス成形に適した形状に予め成形したものである。このような精密プレス成形用プリフォームには、精密プレス成形時に、プリフォームをなすガラスが、プレス成形型内に十分広がるようにするための機能を有する公知の各種膜や、離型性を高めるための公知の各種膜をプリフォームの全表面に形成することができる。
【0040】
精密プレス成形用プリフォームを製造するには、まず、通電加熱方式、高周波誘導加熱方式など、又はこれらの加熱方式を任意に組み合わせた加熱法で、所定温度に加熱した流出パイプ40から、一定流量で連続して熔融ガラスを流出する。そして、流出した熔融ガラスから、プリフォーム1個分の重量の熔融ガラス塊を分離する。
【0041】
熔融ガラス塊を分離するにあたっては、切断痕が残らないように、切断刃の使用を避けるのが好ましい。このためには、例えば、流出パイプ40から熔融ガラスを成形装置50の受型51に滴下させるか、又は、流出する熔融ガラスの先端を受型51に支持しつつ、目的重量の熔融ガラス塊が分離できるタイミングで受型51を急降下して、熔融ガラスの表面張力を利用して熔融ガラスの先端から熔融ガラス塊を分離するなどすればよい。
【0042】
分離した熔融ガラス塊は、受型51上においてガラスが冷却、固化する前に、所望形状に成形される。その際、プリフォーム(ガラス成形体)の表面にシワが生じたり、カン割れと呼ばれるガラスの冷却過程における破損が生じたりするのを防止するため、鉛直方向上向きに噴出する窒素などの不活性ガスにより、受型51上に熔融ガラス塊を浮上させた状態で成形するのが好ましい。所定形状に成形され、外力を加えても変形しない温度域にまで冷却されたプリフォームは、受型51から取り出されてアニールされる。
なお、受型を用いて熔融ガラス塊を成形する代わりに、次のようにしてもよい。ガラス流出パイプから熔融ガラス滴を滴下し、液体液面に落下させて前記液体中でガラス滴を成形する。あるいは、上記のように熔融ガラス滴を滴下し、落下中のガラス滴を空中で成形する。落下中に成形されたガラスは液体液面に落下して没し、液体中からガラス成形体を回収する。これらのガラス成形体はそのままプリフォームとしてもよいし、表面を研磨してプリフォームにしてもよい。研磨前にはガラス中の歪を低減させるためにアニールすることが望ましい。
【0043】
また、本実施形態では、ガラス成形体を製造するにあたり、流出する熔融ガラスを鋳型に鋳込んで、鋳型に応じた所定形状のガラス成形体とすることもできる。
【0044】
この場合には、まず、流出パイプ40から熔融ガラスを流出し、流出パイプ40の下方に配置した鋳型に流し込む。鋳型には、例えば、平坦な底部と、底部を囲むように直立する側壁を備え、一つの側壁には開口部が設けられたものを使用することができる。そして、底面の中央が流出パイプ40の鉛直下方に位置し、かつ、底面が水平になるように鋳型を配置、固定して、流出パイプ40から熔融ガラスを流し込む。次いで、側壁で囲まれた領域内に均一な厚みになるように、鋳型内に流し込まれた熔融ガラスを静置する。冷却後、固化したガラスを側壁に設けられた開口部から一定の速度で水平方向に引き出してアニールする。
このようにすれば、一定の幅と厚みを有する光学的に均質な板状のガラス成形体を得ることができる。
【0045】
また、鋳型としては、円柱状の貫通孔を有し、貫通孔の中心軸が鉛直方向と一致するように流出パイプ40の鉛直下方に配置、固定したものを用いてもよい。
この場合には、流出パイプ40から一定流量の熔融ガラスを鋳型の貫通孔内に流し込み、充填された熔融ガラスを静置する。冷却後、固化したガラスを貫通孔の下端開口部から一定速度で鉛直下方に引き出してアニールする。
このようにすれば、光学的に均質な円柱棒状のガラス成形体を得ることができる。
【0046】
上記のようにして成形された板状のガラス成形体や、円柱棒状のガラス成形体は、切断又は割断して複数のガラス片に分割し、これらのガラス片を研削、研磨することにより、目的重量の精密プレス成形用プリフォームに仕上げることができる。
また、バレル研磨などにより、切断又は割断されたガラス片を目的重量のプレス成形用ガラスゴブに仕上げることもできる。
【0047】
さらに、本実施形態では、流出する熔融ガラスから分離した熔融ガラス塊をプレス成形して、所定形状のガラス成形体とすることもできる。
【0048】
この場合には、流出パイプ40の下方にプレス成形型を構成する下型を待機させ、流出する熔融ガラスの下端を下型成形面上に受ける。そして、下型と流出パイプ40の間の所定位置で、シアーと呼ばれる耐熱性の切断刃で熔融ガラスを切断し、下型成形面上に所望重量の熔融ガラス塊を得る。次に、この熔融ガラス塊を載せたまま、下型を流出パイプ40の下方から退避させ、下型と対向する上型を含むプレス成形型を用いて所定形状にプレス成形する。成形後、上型を上方へ退避させて、プレス成形品の上面を上型成形面から離型する。下型成形面上で、外力により変形しない温度にまでプレス成形品を冷却した後、下型からプレス成形品を取り出してアニールする。このとき、プレス成形品(ガラス成形体)を連続して製造するには、複数個の下型を用いて上記の操作を繰り返せばよい。
なお、このようなプレス成形は大気中で行うことができ、高温のガラスがプレス成形型に融着しないようにするために、粉末状の離型剤、例えば、窒化ホウ素粉末をプレス成形型の成形面に噴射塗布しておくのが好ましい。
【0049】
[光学素子の製造方法]
次に、本発明に係る光学素子の製造方法の実施形態について説明する。
【0050】
本実施形態において、前述したようにして得られた精密プレス成形用プリフォームに対しては、これを精密プレス成形することにより所望の光学素子を製造する。
精密プレス成形は、モールドオプティクス成形とも呼ばれる。光学素子において、光線を透過したり、屈折させたり、回折させたり、反射させたりする面を光学機能面(レンズを例にとると、非球面レンズの非球面や、球面レンズの球面などのレンズ面が、この光学機能面に相当する)というが、精密プレス成形によれば、プレス成形型の成形面を精密にガラスに転写することにより、プレス成形によって光学機能面を形成することができる。このため、光学機能面を仕上げるために研削や研磨などの機械加工を加える必要がない。
このような精密プレス成形は、レンズ、レンズアレイ、回折格子、プリズムなどの光学素子の製造に好適であり、特に、非球面レンズを高い生産性のもとに製造する方法として適している。
【0051】
精密プレス成形に使用するプレス成形型としては、公知のもの、例えば、炭化珪素、ジルコニア、アルミナなどの耐熱性セラミックスの型材の成形面に離型膜を設けたものを使用することができる。これらの中でも、炭化珪素製のプレス成形型が好ましい。また、離型膜としては、炭素含有膜などを使用することができるが、耐久性、コストの面から特にカーボン膜が好ましい。
【0052】
精密プレス成形では、プレス成形型の成形面を良好な状態に保つために、成形時の雰囲気を非酸化性ガスにするのが好ましい。非酸化性ガスとしては、窒素、窒素と水素の混合ガスなどが好ましい。精密プレス成形された光学素子は、プレス成形型より取り出され、必要に応じてアニールされる。成形品がレンズなどの光学素子の場合には、必要に応じて芯取り加工を行ったり、表面に光学薄膜をコートしたりしてもよい。
【0053】
上記方法は、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、携帯電話搭載カメラなどの撮像光学系を構成する各種レンズ、プロジェクタなどの投影光学系を構成する各種レンズ、光ディスクなどの情報記録媒体にデータを書き込んだり、前記媒体からデータを読み取ったりするための光学系を構成する各種レンズなどの製造に好適である。
【0054】
さらに、流出する熔融ガラスを鋳型に鋳込んで成形されたガラス成形体に対しては、前述したように精密プレス成形用プリフォームに仕上げるほか、目的重量のプレス成形用ガラスゴブに仕上げることができる。そして、このプレス成形用ガラスゴブを加熱、軟化し、プレス成形型でプレス成形することにより、研削、研磨によって除去される加工しろを有する以外は、得ようとする光学素子に近似させた形状のブランクを成形し、公知の研削、研磨法によって、アニールしたブランクから所望の光学素子を製造するようにしてもよい。
また、板状ガラス成形体や、円柱棒状のガラス成形体を切断又は割断し、所望の大きさのガラスブロックにし、これを研削、研磨して所望の光学素子を製造することもでき、流出する熔融ガラスから分離した熔融ガラス塊をプレス成形して得たガラス成形体を研削、研磨して、光学素子を製造することもできる。
このような研削、研磨により光学機能面を仕上げる態様は、球面レンズ、プリズム、フィルターなどの光学素子の製造に好適である。
【0055】
本発明において、製造するガラスの種類は特に限定されないが、屈折率などの光学特性が高精度に定められ、高い均質性が求められるガラス、すなわち、光学ガラス又は光フィルター用のガラスである場合に、特に好適である。
【0056】
光学ガラスとしては、流出時の粘度が低く、脈理が生じやすいガラス、例えば、酸化物基準でSiO含有量が、0〜20質量%のガラスの製造に好適である。SiOはガラスの粘性を高める成分であるが、SiOを多量に含むガラスは高屈折率化しにくい。近年、需用が高い高屈折率光学ガラスでは、SiO含有量を抑えなければならず、流出時のガラスの粘性が低下してしまう。本発明によれば、低粘性ガラスであっても流出パイプ40内を流動することにより、熔融ガラスが均質化されるので、製造されたガラス成形体や光学素子から脈理を排除、低減することができる。
【0057】
光学ガラスの具体例としては、SiO含有ガラス、BおよびLa含有ガラス、リン酸ガラス、フツリン酸ガラスなどを例示することができる。
以下、より詳細なガラスの組成を列挙するが、これらの成分量の表示はいずれも質量%表示とする。
【0058】
SiO2含有ガラスとしては、SiO:1〜20%、B:0〜65%、LiO:0〜12%、NaO:0〜12%、KO:0〜12%、MgO:0〜30%、CaO:0〜30%、SrO:0〜30%、BaO:0〜30%、ZnO:0〜40%、La:0〜50%、Gd:0〜40%、Y:0〜20%、ZrO:0〜15%、TiO:0〜20%、Ta:0〜30%、WO:0〜20%、Nb:0〜30%を含むガラスを例示することができる。
このガラスにおいて精密プレス成形により適するものは、LiOとZnOの合計含有量が1%以上のガラスであり、ガラス転移温度が610℃以下のガラスが好ましい。
【0059】
およびLaを含有するガラスとしては、SiO:0〜20%、B:1〜65%、LiO:0〜12%、NaO:0〜12%、KO:0〜12%、MgO:0〜30%、CaO:0〜30%、SrO:0〜30%、BaO:0〜30%、ZnO:0〜40%、La:1〜50%、Gd:0〜40%、Y:0〜20%、ZrO:0〜15%、TiO:0〜40%、Ta:0〜30%、WO:0〜20%、Nb:0〜45%、Bi:0〜45%を含むガラスを例示することができる。
このガラスにおいて精密プレス成形により適するものは、LiOとZnOの合計含有量が1%以上のガラスであり、ガラス転移温度が630℃以下のガラスが好ましい。
【0060】
リン酸ガラスとしては、P:1〜50%、SiO:0〜20%、B:0〜35%、LiO:0〜12%、NaO:0〜12%、KO:0〜12%、MgO:0〜30%、CaO:0〜30%、SrO:0〜30%、BaO:0〜30%、ZnO:0〜40%、La:0〜20%、Gd:0〜20%、Y:0〜20%、ZrO:0〜15%、TiO:0〜30%、Ta:0〜20%、WO:0〜20%、Nb:0〜45%、Bi:0〜45%を含むガラスを例示することができる。
このガラスにおいて、LiOの量が0.1%以上であることがガラス転移温度を低下させ、プレス成形時の温度を低下させる上から好ましい。
【0061】
フツリン酸ガラスとしては、カチオン%表示にて、P5+:5〜50%、Al3+:0.1〜30%、Mg2+:0〜20%、Ca2+:0〜25%、Sr2+:0〜30%、Ba2+:0〜30%、Li:0〜30%、Na:0〜10%、K:0〜10%、Y3+:0〜10%、La3+:0〜5%、Gd3+:0〜5%を含有し、FとO2−の合計量に対するFの含有量、すなわちモル比F/(F+O2−)が0.25〜0.95であるガラスを例示することができる。このフツリン酸ガラスは低分散特性の実現に好適である。
【0062】
また、別のフツリン酸ガラスとしては、銅含有フツリン酸ガラスを例示することができる。このガラスは、近赤外線吸収によるフィルター機能を有し、CCDや、CMOSなどの半導体撮像素子の色感度補正機能を有する光学素子の材料となる。同様の機能を有するガラスとしては、銅含有リン酸ガラスを例示することができるが、耐候性の面から、銅含有フツリン酸ガラスは、銅含有リン酸ガラスよりも優れている。近赤外線吸収機能を有する半導体撮像素子の色感度補正用素子を構成する銅含有ガラスは、熔融温度が高すぎるとガラス中のCu2+が還元されてCuになるため、色感度補正機能が低下する。SiOの量が増加すると熔融温度が高くなるため、銅含有ガラスではSiO2を含まないことがより好ましい。
【0063】
上記各ガラスともSiOの量は0〜20%であり、SiOの含有量の好ましい範囲は上記のとおりである。
なお、リン酸ガラス、フツリン酸ガラスはSiOを含まないことがより好ましい。
【実施例】
【0064】
次に、具体的な実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
【0065】
[実施例1]
(ガラス製造装置)
白金製のパイプを、その外径よりも小さい内径を有するダイス孔に通して、内径が2.0mmになるようにパイプ径を絞り、内周面にパイプの長さ方向に沿って伸びる平行な複数の凹凸を設けた。次に、長さ250mmにわたってパイプを5回転捻った後、この捻りを加えた部分に隣接する長さ250mmの部分に、上記の回転方向とは逆方向に5回転捻りを加えた。
このようにして、長さ500mmにわたり、内周面に螺旋状の凹凸形状を有する内径2.0mmのパイプを作製し、得られたパイプを、熔解槽、清澄槽、作業槽、熔解槽と清澄槽を連結する連結パイプ、清澄槽と作業槽を連結する連結パイプを備えたガラス製造装置において、作業槽の底部に接続され、鉛直下方に伸びる流出パイプの下端に熔接により取り付けた。
【0066】
なお、熔解槽には、ガラス原料、例えば、バッチ原料と呼ばれる未ガラス化原料、又はカレット原料と呼ばれるガラス化した原料が投入され、加熱、熔融される。熔融によりガラス原料が完全に熔融ガラスになった後、熔解槽と清澄槽の連結パイプを開くことにより、熔融ガラスを清澄槽へ流し込む。清澄槽では、熔融ガラスの温度をより高めて内部の泡を抜く、脱泡処理が行われる。清澄槽で脱泡された熔融ガラスは作業槽へ送られ、流出に適した温度に下げられてから、攪拌されて均質化された後に、ガラス流出パイプ内を鉛直下方に流下して流出口から流出する。
【0067】
(熔融ガラスの調製)
ガラス成分として、B、SiO、La、LiO、ZnOなどを含み、屈折率ndが1.6935、アッベ数νdが53.2、ガラス転移温度が520℃の光学ガラスが得られるように調合したガラス原料を熔解槽内に投入した。そして、投入されたガラス原料を加熱、熔融し、清澄、攪拌して得られた熔融ガラスを作業層内に蓄積した。
【0068】
(成形工程)
パイプ流出口近傍の温度を940℃前後に調整し、作業槽内の熔融ガラスを流出させ、精密プレス成形用のプリフォームを次々に成形していった。プリフォームの成形は、流出する熔融ガラス流の先端から所望量の熔融ガラス塊を分離し、これを成形型の凹部で受け、熔融ガラス塊が冷却、固化する過程でプリフォームに成形する方法で行った。
なお、成形型の凹部にはガス噴出口を多数設け、これら噴出口からガスが噴出するようにした。噴出するガスによる風圧で熔融ガラス塊は凹部上で浮上し、成形型と非接触状態を保ちつつ、プリフォームに成形される。このような操作によれば、ガラス塊と成形型との熱融着を防止し、滑らかな表面を有するプリフォームを安定して生産することができる。
【0069】
このようにして、数日にわたりプリフォームを生産したが、生産したプリフォームには脈理の発生は認められなかった。
【0070】
[実施例2]
ガラス成分として、B、SiO、La、LiO、ZnO、Nbなどを含み、屈折率ndが1.8061、アッベ数νdが40.7、ガラス転移温度が560℃の光学ガラスが得られるように調合したガラス原料を使用した以外は、実施例1と同様にして精密プレス成形用のプリフォームを次々に成形した。
数日にわたりプリフォームを生産したが、生産したプリフォームに脈理の発生は認められなかった。
【0071】
[実施例3]
パイプ内径を2.5mmとした以外は、実施例1及び実施例2と同様にしてプリフォームを成形した。
数日にわたりプリフォームを生産したが、2種類のガラスとも脈理の発生は認められなかった。
【0072】
(光学素子の製造)
実施例1〜3で得られたプリフォームを精密プレス成形して、非球面レンズを得た。具体的には、プレス成形型を構成する下型及び上型の間にプリフォームをセットした後、窒素雰囲気中でプレス成形型とともに加熱し、プレス成形型内部の温度を成形されるガラスが10〜1010dPa・sの粘度を示す温度に昇温し、この温度を維持しつつ、上型を下降して成形型内にセットしたプリフォームをプレスした。プレスの圧力は8MPa、プレス時間は30秒とした。
プレス後、プレス圧力を解除し、プレス成形されたガラス成形品を下型及び上型と接触させたままの状態で、ガラスの粘度が1012dPa・s以上になる温度まで徐冷し、次いで、室温まで急冷してガラス成形品を成形型から取り出し非球面レンズを得た。得られた非球面レンズは、極めて高い面精度を有するレンズであった。
【0073】
このようにして得られた非球面レンズを、洗剤を用いて洗浄し、すすぎを十分してから乾燥させ、清浄なレンズを得た。得られたレンズを観察したところ、表面にクモリは見られず、内部にも失透や脈理などの欠陥は認められなかった。
なお、洗浄した非球面レンズには必要に応じて反射防止膜を設けてもよい。
【0074】
[実施例4]
実施例1と同様のガラス装置において、ガラス流出パイプの流出口下方に、成形型に替えて鋳型を配置し、この鋳型に熔融ガラスを連続して流し込み、板状ガラスを成形した。
なお、成形にあたっては、ガラス成分として、B、SiO、Laなどを含み、屈折率ndが1.8830、アッベ数νdが40.80の光学ガラスが得られるように調合したガラス原料を使用した。
【0075】
(成形工程)
鋳型としては、平坦な底部の周りを3方向から側壁で取り囲み、一方向の側方が開口している塵取りのような構造のものを使用した。三つの側壁のうち二つの側壁は互いに平行であり、板ガラスの幅を規制する。熔融ガラスは、鋳型上方から互いに平行な側壁の中間位置に流し込む。流し込まれた熔融ガラスは底面に沿って広がり側壁によって取り囲まれた部分に広がる。そして、鋳型により熱を奪われることで固化し、鋳型側方の開口部から一定スピードで水平方向に引き出される。熔融ガラスの鋳込みスピードと、成形した板ガラスの引き出しスピードを一定の比に維持することで鋳型内の熔融ガラス液位が一定に維持され、一定厚みの板ガラスを成形することができる。
鋳型から引き出した板ガラスを、メッシュベルトに載せて連続式アニール炉内へ運んでアニールし、アニール炉から出た板ガラスの先端を切り離して板ガラスを得たところ、板ガラスに脈理は認められなかった。
【0076】
また、得られた板ガラスを賽の目状に切断して、カットピースと呼ばれるガラス片を作製し、これらカットピースをバレル研磨した後、表面に窒化ホウ素粉末を均一の塗布、加熱、軟化してレンズに近似した形状にプレス成形した。得られたプレス成形品をアニールし、研削、研磨して球面レンズを作製した。
なお、カットピースを研削、研磨してレンズを作製してもよい。
【0077】
[実施例5]
実施例4の塵取りのような構造の鋳型を、円柱状の貫通孔が設けられた貫通孔構造の鋳型に取り替え、実施例4と同じガラス原料を使って棒状ガラスを成形した。
【0078】
(成形工程)
鋳型に設けられた貫通孔が鉛直方向を向くように、ガラス流出口下方に配置し、流出口から連続して流出する熔融ガラスを鋳型貫通孔内に一定流量で流し込んだ。流し込まれた熔融ガラスは貫通孔内に広がり、鋳型に熱を奪われて冷却、固化する。固化した円柱状のガラス棒を貫通孔下方の開口部から一定のスピードで引き出し、ガラス棒の内部と表面の温度差を近づけながら冷却する。こうして得られたガラス棒の下端を切り離してアニールした。得られたガラス棒に、脈理は認めらなかった。
【0079】
また、得られたガラス棒を中心軸に対して垂直に切断し、バレル研磨し、表面に窒化ホウ素粉末を均一の塗布、加熱、軟化してレンズに近似した形状にプレス成形した。得られたプレス成形品をアニールし、研削、研磨して球面レンズを作製した。
なお、ガラス棒を中心軸に対して垂直に切断して得たガラス片を研削、研磨して球面レンズを作ってもよい。
【0080】
[比較例1]
パイプに捻りを加えないものを用いた以外は、実施例1及び実施例2と同様にしてプリフォームの成形を行ったところ、2種類のガラスとも1日に一度の頻度で、脈理のあるプリフォームができてしまった。
【0081】
[比較例2]
実施例3と同じパイプ内径であるが、捻りを加えていないパイプを用いて、実施例1と同様にしてプリフォームの成形を行ったところ、2種類のガラスとも1日に一度の頻度で、脈理のあるプリフォームができてしまった。
【0082】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、上記した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
【0083】
例えば、前述した実施形態では、熔融ガラスが流出パイプ40内を流動することによって攪拌される凹凸形状として、長手方向に沿って螺旋状に形成された凹溝や凸条を挙げたが、このような凹凸形状に代えて、流出パイプ40の内径が、その長手方向に沿って周期的に拡大、縮小を繰り返す形状とすることもできる。内径が拡大した部分から縮小した部分に熔融ガラスが流れると、内周面に沿って流れるガラスは、パイプ中心方向に流れを変え、局所的な乱流が生じて熔融ガラスが攪拌されるものと考えられる。
【0084】
この場合、内径の拡大部分と縮小の部分の間隔、拡大部分における内径、縮小部分における内径、内径の拡大、縮小部分を設ける部位の長さは、熔融ガラスを流出してガラスを成形し、脈理の有無を見ながら、脈理が消失するように決めればよい。
但し、流出パイプ40の長手方向に直交する断面における断面積にばらつきがあると、前述したように、流出パイプ40の温度調整の妨げになるおそれがあるので、本態様は、このような不具合が生じない範囲で適用するのが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、高品質なガラス成形体や、光学素子を製造するのに好適なガラス流出パイプ、このようなガラス流出パイプを備えたガラス製造装置、さらには、このようなガラス流出パイプを使用したガラス成形体や光学素子の製造方法を提供する。
【符号の説明】
【0086】
10 熔解槽
20 清澄槽
30 作業槽
40 流出パイプ
41 凸条
50 成形装置
100 ガラス製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス原料を加熱、熔融して容器中に蓄積された熔融ガラスを、前記容器から流出させて光学素子製造用のガラス成形体に成形するガラス成形体の製造方法であって、
前記容器から前記熔融ガラスを流出させる流路の少なくとも一部に、前記熔融ガラスが内部を流動することによって攪拌される凹凸形状が、内周面に設けられているガラス流出パイプを用いて、前記ガラス流出パイプの内部を流動する前記熔融ガラスを攪拌、均質化した後、前記ガラス流出パイプより前記熔融ガラスを流出させて成形することを特徴とするガラス成形体の製造方法。
【請求項2】
前記ガラス流出パイプとして、前記凹凸形状が、長手方向に沿って螺旋状に形成された凹溝及び/又は凸条からなるガラス流出パイプを用いることを特徴とする請求項1に記載のガラス成形体の製造方法。
【請求項3】
ガラス原料を加熱、熔融して容器中に蓄積された熔融ガラスを、前記容器から流出させて光学素子製造用のガラス成形体に成形するガラス成形体の製造方法であって、
前記容器から前記熔融ガラスを流出させる流路の少なくとも一部に、長手方向に沿って螺旋状に形成された凹溝及び/又は凸条からなる凹凸形状が、内周面に設けられているガラス流出パイプを用いて、前記ガラス流出パイプの内部を流動する前記熔融ガラスを攪拌、均質化した後、前記ガラス流出パイプより前記熔融ガラスを流出させて成形することを特徴とするガラス成形体の製造方法。
【請求項4】
前記ガラス流出パイプとして、前記凹凸形状が、一定間隔又は不定間隔で長手方向に沿って不連続に形成された凹溝及び/又は凸条からなるガラス流出パイプを用いることを特徴とする請求項2又は3に記載のガラス成形体の製造方法。
【請求項5】
前記ガラス流出パイプとして、少なくとも隣接する二つの所定範囲において、一方の範囲に形成された前記凹溝及び/又は凸条が、他方の範囲に形成された前記凹溝及び/又は凸条に対して、逆方向に回転する螺旋構造とされたガラス流出パイプを用いることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載のガラス成形体の製造方法。
【請求項6】
前記ガラス流出パイプとして、中心軸に対して垂直な断面における複数の前記凸条の各頂部を通る仮想的な円の直径を内径をφとし、前記断面における複数の前記凹溝の各底部を通る仮想的な円の直径をφとしたときに、(φ−φ)/φが0.01〜0.25であるガラス流出パイプを用いることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載のガラス成形体の製造方法。
【請求項7】
前記ガラス流出パイプとして、前記凹凸形状が設けられた範囲において、長手方向に直交する断面における断面積が、ほぼ一定とされたガラス流出パイプを用いることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のガラス成形体の製造方法。
【請求項8】
前記ガラス流出パイプとして、前記凹凸形状が、長手方向に沿って100mm以上の長さで、当該ガラス流出パイプの流出口に近い部分に設けられているガラス流出パイプを用いることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のガラス成形体の製造方法。
【請求項9】
流出させた前記熔融ガラスから熔融ガラス塊を分離し、前記熔融ガラス塊を冷却固化させる過程で精密プレス成形用プリフォームに成形することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のガラス成形体の製造方法。
【請求項10】
流出させた前記熔融ガラスを鋳型に鋳込んでガラス成形体に成形することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のガラス成形体の製造方法。
【請求項11】
流出させた前記熔融ガラスから熔融ガラス塊を分離し、前記熔融ガラス塊をプレス成形してガラス成形体に成形することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のガラス成形体の製造方法。
【請求項12】
請求項9に記載の方法により精密プレス成形用プリフォームを製造し、製造された前記精密プレス成形用プリフォームを精密プレス成形することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項13】
請求項10又は11に記載の方法によりガラス成形体を製造し、製造された前記ガラス成形体に対して、少なくとも研削、研磨を施して光学素子とすることを特徴とする光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−31061(P2012−31061A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209318(P2011−209318)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【分割の表示】特願2007−236888(P2007−236888)の分割
【原出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)