説明

ガラス板の曲げ成形方法および曲げ成形装置

【課題】
ガラス板を自重法やプレス法などで曲げ成形する場合、曲げ成形されたガラス板の形状にばらつきが大きいと、窓にガラス板を固定するときなどに問題となる。本発明は、曲げ成形されたガラス板の形状のばらつきが少ない、曲げ成形方法の提供を課題とする。
【解決手段】
ガラス板曲げ成形装置が加熱炉と曲げ成形炉とを有し、該ガラス板曲げ成形装置を用いてガラス板を曲げ成形する方法において、ガラス板の厚みを用いて、加熱炉および/または曲げ成形炉の中にガラス板が滞留する時間(滞留時間)を変える

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板の曲げ成形方法および曲げ成形装置に関し、特に、曲げ成形されたガラス板の形状のばらつきを低減させるための、曲げ成形方法および曲げ成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用に用いられている曲面形状のガラス板は、平面形状のガラス板を軟化点温度近傍まで加熱し、自重あるいはプレスによって曲げ成形して得られる。さらに、曲げ成形されたガラスは、そのまま徐冷されてひずみの小さい曲面形状のガラスに曲げ成形されるか、あるいは、空気を吹き付けるなどして表面を急冷し、表面が圧縮応力のいわゆる強化ガラスとしての曲面形状のガラスとして曲げ成形される。
【0003】
前者のひずみの小さい曲面形状のガラス板は自動車のフロントガラスに、合わせガラスとして用いられ、また、後者の強化ガラスは、自動車のドアの窓やリヤーウインドウに多く用いられている。
【0004】
近年、曲げ成形したガラス板は、車体に直接、接着剤を用いて貼り付けるようにして、自動車に装着されるようになってきた。
【0005】
曲げ成形したガラス板を直接自動車に接着する場合、曲げ成形したガラス板の形状が自動車の形状と大きく異なると、曲げ成形したガラス板が装着できなかったり、あるいは、曲げ成形したガラス板が変形した状態で装着されて、強度的な問題が生じやすく、枠を用いて装着される場合に比べ、曲げ成形したガラスの形状の精度に対する要求が強くなった。
【0006】
曲げ成形したガラス板の形状は、曲げ成形時の温度で決定されるので、例えば、特許文献1には、所定のガラス曲面形状を得るために、プレス成形に用いる金型にガラス板の位置を検出するピンを設け、加熱炉で所定の位置にガラス板を位置させることが、開示されている。
【0007】
特許文献2には、ガラス板毎の形状のばらつきを低減させるため、曲げ成形するガラス板の形状を測定し、ガラス板の受容熱量を調整することが示されている。
【0008】
また、例えば特開文献3には、加熱炉の雰囲気温度を調整して、形状のばらつきを低減させることが開示されている。
【特許文献1】特開2000−302466
【特許文献2】特開2005−350286
【特許文献3】特開2006−083038
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、ガラス板の位置制御や、加熱温度を制御するだけでは、曲げ成形されたガラス板は、形状のばらつきが少なからず発生し、本発明は、形状のばらつきが、より少ない、曲げ成形方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のガラス板の曲げ成形方法は、ガラス板曲げ成形装置が加熱炉と曲げ成形炉とを有し、該ガラス板曲げ成形装置を用いてガラス板を曲げ成形する方法において、ガラス板の厚みを用いて、加熱炉および/または曲げ成形炉の中にガラス板が滞留する時間(滞留時間)を変えることを特徴とするガラス板の曲げ成形方法である。
【0011】
また、本発明のガラス板の曲げ成形装置は、前記ガラス板の曲げ成形方法に用いる曲げ成形装置であって、ガラス板の板厚を測定する板厚測定装置と、該板厚測定装置で測定されたガラス板の厚さを用いて滞留時間を制御する滞留時間制御装置とを有することを特徴とする板ガラス曲げ成形装置である。
【0012】
また、本発明のガラス板の曲げ成形装置は、前記ガラス板の曲げ成形装置において、板厚測定装置の測定値が、0.1mm〜0.01mmの精度で測定されていることを特徴とするガラス板の曲げ成形装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のガラス板の曲げ成形方法及び曲げ成形装置は、ガラス板の曲げ成形において、形状のばらつきが非常に小さい、ガラス板の曲げ成形方法および曲げ成形装置を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
自動車などの車両の窓に用いられるガラス板は、ほとんどが、3次元曲げ成形された曲面形状をしている。このような曲面形状のガラス板は、図1、図2に示すような構成の曲げ成形装置で製造される。図1は本発明による曲げ成形装置の構成であり、図2は従来技術の曲げ成形装置の構成である。
【0015】
図2に示す構成において、制御装置6は、曲げ成形装置内のガラス板の搬送の制御装置や加熱炉や成形炉内に設置されているヒーターの温度制御装置などで構成され、図1に示す滞留時間制御装置5は、制御装置6と一体化されていることが望ましい。
【0016】
図1の板厚測定装置1には、触針式の板厚測定装置や光学的な板厚測定装置を用いることができ、移動中のガラス板を連続的に測定するのには、光学的な板厚測定装置を用いることが好ましい。
【0017】
光学的な板厚測定装置としては、例えば特開平5−18716号公報や北海道立工業試験場報告No.290(1991)P165に記載されているような、レーザ光を用いる測定装置を用いることが望ましい。
【0018】
ガラス板の板厚の測定は、加熱炉2にガラス板を搬入する前に、ガラス板毎に測定することが好ましが、曲げ成形するガラス板の板厚をロット毎に測定し、ロット毎の板厚のデータを用いても良い。
【0019】
ガラス板の板厚が0.1mmよりも大きい測定精度で測定された場合、形状のばらつきを小さくする効果が低くなるおそれがあり、また、0.01mmよりも小さい測定精度で測定されても、ばらつきを少なくするための著しい効果が見られなくなる。
【0020】
従って、ガラス板の板厚は、曲げ成形の形状のばらつきを小さくするために、0.1mm〜0.01mmの精度で測定されることが望ましい。
【0021】
板厚測定装置1によって測定された板厚を用いて、曲げ成形装置に滞留する板ガラスの滞留時間を変化させる。
【0022】
曲げ成形装置に搬入されるガラス板は、加熱炉1で軟化点温度近傍以上に加熱される。軟化点温度近傍以上に加熱されたガラス板は、曲げ成形炉3で自重曲げあるいはプレス曲げなどの方法で、所定の曲げ形状に形成される。
【0023】
板厚測定装置1で測定された板厚の値を用いて、ガラス板が加熱炉や曲げ成形炉に滞留する滞留時間を滞留時間制御装置5によって変化させる。滞留時間制御装置5はCPU、演算装置、表示装置、入力装置、主記憶装置などで構成されるパーソナルコンピュータを用いることができる。
【0024】
滞留時間は、まず、試作段階で、所定の曲面形状が得られる板厚d0と滞留時間t0を求めておき、次いで、板厚d0よりも板厚の大きい板ガラスに対しては、滞留時間t0より滞留時間を長くし、板厚d0よりも板厚が小さい板ガラスに対しては、滞留時間t0より滞留時間を短くするようにして、変えることが望ましい。
【0025】
本発明では、板ガラスの板厚を用いて滞留時間を変えることを、滞留時間の制御と呼ぶ。
【0026】
滞留時間の制御は、加熱炉2の滞留時間のみ、曲げ成形炉3の滞留時間のみ、あるいは、加熱炉2と曲げ成形炉3のそれぞれの滞留時間に対して行うことができる。
【0027】
また、滞留時間は、ガラス板の板厚に基づいて、ガラス板の1枚ごとに設定することが好ましい。
【0028】
ガラス板の曲げ成形が、曲げ成形型枠にガラス板を載置し、この金属製の曲げ成形型枠をレールを用いて、ガラス板を搬送しながら行われる場合や、曲げ成形ロールなどを用い、ガラス板が搬送されながら曲げ成形が行われる間合いは、搬送速度を変えて、滞留時間を制御することができる。
【0029】
加熱炉2の中を、図示しないローラーコンベヤなどの搬送装置で、ガラス板が型枠に載置されていない状態で搬送され、ガラス板を曲げ成形炉3で、図示しない曲げ成形用の型枠に載置されてガラス板が曲げ成形炉3内に停留した状態で滞留する場合は、曲げ成形炉3内にガラス板が滞留する滞留時間を制御することが望ましい。
【実施例1】
【0030】
図3に示すガラス板曲げ成形装置10を用いて、ガラス板の曲げ成形を行った。ガラス板成形装置10は、トンネル状の加熱炉12を有し、ガラス板の板厚測定装置(図示せず)は板ガラス投入部11に設置した。
【0031】
加熱炉12で搬送しながらガラス板を軟化点温度近傍以上に加熱し、曲げ成形部で図示しない曲げ成形金型にガラス板を載置し、自重曲げ成形を行った。
【0032】
滞留時間の制御は、ガラス板を曲げ成形金型に載置し、自重曲げ成形を行う時間を、板厚測定装置で測定された板厚を用いて、曲げ成形するガラス板1枚毎に変えるようにして行った。
【0033】
曲げ成形したガラス板は、冷却部に移動して急冷し、ガラス板の成形を終了させた。
【0034】
ガラス板のサイズは、下辺が約1200mm、上辺が約900mm、高さ70mmの、台形状のガラス板を用いた。
【0035】
ガラス板の曲げ成形の形状を示す値として、図4に示すダブリという値を用いた。ダブリの値は、ガラス板20の上辺の中央の点と下辺の中央の点とを結ぶ直線aと、直線aから曲げ成形されたガラス板20の面に、直線aに垂直な直線bを仮想し、直線aとガラス板20の面との間の直線bの長さで定義した。
【0036】
ガラス板の板厚の測定は、レーザー光を用いる光学的な測定装置を用いて、0.01mmの精度で測定した。
【0037】
ガラス板を曲げ成形型枠に載置している時間を、ガラス板の厚みによって、次のように変化させた。
【0038】
曲げ成形の目標値として、ダブりの目標値2mmが得られたときのガラス板の厚みに対して0.01mm厚くなる毎にガラス曲げ成形型枠に載置した時間を0.05秒増加させた。逆に0.01mm薄くなる毎に0.05秒短くした。
【0039】
前述の滞留時間の増減量は、ダブリと滞留時間との関係とを示すグラフAを作成し、さらに、目標のダブリとなる滞留時間に対して、ガラス板の厚みとダブリの関係を示すグラフBを作成し、グラフBからガラス板の厚みの差によるダブリの差を求め、ついで、グラフAから該ダブリの差に等しくなる滞留時間の差異を求め、この滞留時間の差異に基づいて決定した。
【0040】
曲げ加工を行ったガラスの厚みは、3.44〜3.51mmの範囲にあったが、ダブリの値は、図5に示すように、1.5mm〜2.3mmの間に収まり、後述する比較例よりも、形状のばらつきが非常に小さい曲げ成形ができた。
【0041】
比較例1
実施例と同じガラス板の曲げ加工を、ガラス板の曲げ成形型枠に載置した時間を固定して、曲げ加工を行った。
【0042】
曲げ加工を行ったガラスの厚みの範囲、3.44〜3.51mmに対し、ダブリの値は、図6に示すように、0.5mm〜2.8mmの間に大きくばらつく結果となった。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の板ガラスの曲げ成形装置の構成を示す図。
【図2】従来技術の板ガラスの曲げ成形装置の構成を示す図。
【図3】実施例に用いた曲げ成形装置の概観図。
【図4】ダブリの定義を示す概略図。
【図5】板厚で滞留時間を制御したときのダブりばらつきを示す図。
【図6】滞留時間を一定にしたときのダブりのばらつきを示す図。
【符号の説明】
【0044】
1 板厚測定装置
2 加熱炉
3 成形炉
4 強化部又は冷却部
5 滞留時間制御装置
6 制御装置
10 曲げ成形装置
11 ガラス投入部
12 加熱炉
13 成形炉
14 台車投入部
15 強化部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板曲げ成形装置が加熱炉と曲げ成形炉とを有し、該ガラス板曲げ成形装置を用いてガラス板を曲げ成形する方法において、ガラス板の厚みを用いて、加熱炉および/または曲げ成形炉の中にガラス板が滞留する時間の制御を行うことを特徴とするガラス板の曲げ成形方法。
【請求項2】
ガラス板の板厚を測定する板厚測定装置と、該板厚測定装置で測定されたガラス板の厚さを用いて、ガラス板曲げ成形装置に滞留する時間を制御する制御装置を有することを特徴とする請求項1に用いる板ガラスの曲げ成形装置。
【請求項3】
板厚測定装置が0.01mmの制度で測定可能であることを特徴とする請求項2に記載のガラス板の曲げ成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−156175(P2008−156175A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−348732(P2006−348732)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】