説明

ガラス溶融炉の堆積抑制方法

【課題】 装置構成を複雑化することなく堆積物の堆積を抑制する。
【解決手段】 高レベル放射性廃液6をガラス原料8と共に溶融ガラス10化させる処理を行うようにしてあるガラス溶融炉1の溶融空間3aに高レベル放射性廃液6を供給するときに、予め、Te15を、高レベル放射性廃液6に含まれているPdの量に対して所定の割合となるように添加しておく。これにより、ガラス溶融炉1の溶融空間3aで高レベル放射性廃液6を溶融ガラス10化させるときに、白金族元素のうちのPdをTe15と反応させてガラス溶融炉1の通常運転温度で溶融するPd−Te合金とさせ、この溶融物が溶融ガラス10に分散、混合されることで、溶融ガラス10内で炉底部に沈降する白金族元素の懸濁物を低減させると共に、その粘性を低下させて、溶融ガラス10と一緒の排出を促進させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高レベル放射性廃液をガラス原料と共に溶融処理するために用いるガラス溶融炉にて、炉底部に白金族元素を含む堆積物が堆積することを抑制するために用いるガラス溶融炉の堆積抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電における使用済み核燃料の再処理過程で発生する高レベル放射性廃液(HALW)は、非常に高い放射能を有する核分裂生成物を多く含むことから、物理的、化学的に安定なガラス固化体に処理するようにしてある。
【0003】
ガラス固化体の製造に使用するガラス溶融炉の1つとしては、直接通電加熱方式のガラス溶融炉があり、これは、金属製ケーシングに収納された耐火レンガ製の溶融炉本体内で、溶融ガラスに直接通電することにより、ジュール熱による加熱を行うことができるようにしてあり、この溶融炉本体内にて、高レベル放射性廃液をガラス原料と共に溶融して溶融ガラス化し、その後、上記溶融ガラスを、ガラス固化体を封入するためのキャニスタへ向けて排出させるようにしてある。
【0004】
ところで、上記高レベル放射性廃液中に含まれる金属元素のうち、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)の白金族元素はガラスマトリクスに溶解せず、酸化物等の形態で溶解ガラス中に懸濁する。
【0005】
これらの白金族元素の懸濁物はガラスよりも比重が大きいため、溶融炉本体内に存在する溶融ガラスの中で炉底部に沈降し易く、しかも粘性が高いために、圧密されることによって炉底部に堆積する。
【0006】
上記のようにして白金族元素を含む堆積物がガラス溶融炉の炉底部に堆積すると、該白金族元素を含む堆積物は溶融ガラスに比して電気抵抗が小さいために、電極より供給される電流が上記堆積物に集中して流れてしまい、ガラス溶融炉内の溶融ガラスに流れる電流が小さくなるために、溶融ガラスの通電加熱(ジュール熱による加熱)が阻害されて、ガラス溶融炉における溶融ガラスの加熱性能が低下してしまう。
【0007】
又、白金族元素を含む堆積物が炉底部に堆積することに伴って、溶融ガラスの流下ノズルへの安定した流動が阻害されるようになるため、流下ノズルからキャニスタへの溶融ガラスの排出速度が低下したり、流下ノズルの閉塞を引き起こす可能性もある。
【0008】
そのため、従来は、ガラス溶融炉の炉底部に上記白金族元素を含む堆積物が堆積した場合は、ガラス溶融炉より溶融ガラスを一旦ドレンアウトさせた後、ガラス溶融炉の炉底部に堆積している白金族元素を含む堆積物を、はつり作業等で物理的に除去する手法が採られている。
【0009】
なお、上記高レベル放射性廃液をガラス溶融炉へ供給する前段で、該高レベル放射性廃液に還元剤を添加して白金族元素のイオンを還元し、析出するものを磁気フィルタによって捕集することにより、上記高レベル放射性廃液より白金族元素を除去し、この予め白金属元素が除去された高レベル放射性廃液を、ガラス原料と共にガラス溶融炉へ供給して溶融ガラス化させる手法が従来提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−24816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、ガラス溶融炉の炉底部に堆積した白金族元素を含む堆積物をはつりにより物理的に除去する手法を実施する場合は、ガラス溶融炉内の溶融ガラスをドレンアウトさせた後、該ガラス溶融炉を冷却する必要があるが、上記ガラス溶融炉は溶融炉本体が耐火レンガ製としてあるため、冷却に時間がかかると共に、再起動時に上記溶融炉本体を昇温させる際にも時間を要するため、ガラス溶融炉の運転停止期間が長期に亘るという問題がある。
【0012】
特許文献1に示された手法によれば、高レベル放射性廃液をガラス溶融炉へ供給する前段で、該高レベル放射性廃液に含まれている白金族元素を予め除去するようにしているため、ガラス溶融炉では、炉底部に白金族元素を含む堆積物が堆積することが抑制されるようになると考えられる。
【0013】
しかし、高レベル放射性廃液に還元剤を添加するための手段や、該還元剤を添加した状態の高レベル放射性廃液を流通させるための磁気フィルタを、上記ガラス溶融炉に付設する必要がある。しかも、上記高レベル放射性廃液を取り扱うため、上記還元剤の添加や、白金族元素の除去に用いた磁気フィルタの洗浄等の処理は遠隔操作で行う必要があることから、上記ガラス溶融炉とその周辺機器による装置構成が複雑化してしまう。
【0014】
そこで、本発明は、ガラス溶融炉とその周辺機器の装置構成の複雑化を招くことなく、ガラス溶融炉の炉底部に対する白金族元素を含む堆積物の堆積を抑制するために用いるガラス溶融炉の堆積抑制方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1に対応して、高レベル放射性廃液をガラス原料と共に供給して溶融空間で溶融させることにより上記高レベル放射性廃液を溶融ガラス化させるようにしてあるガラス溶融炉における上記溶融空間へ高レベル放射性廃液を供給するときに、上記高レベル放射性廃液に含まれる白金族元素であるパラジウム、ルテニウム、ロジウムの少なくとも1つと反応してガラス溶融炉の通常運転温度よりも低い温度の融点を有する共晶をつくることが可能な低融点共晶形成用の元素を、上記溶融空間へ供給して、上記溶融空間にて高レベル放射性廃液を溶融ガラス化する際に、該高レベル放射性廃液に含まれていたパラジウム、ルテニウム、ロジウムの少なくとも1つを上記低融点共晶形成用の元素と反応させて、生成するガラス溶融炉の通常運転温度以下で溶融する共晶を、溶融ガラスに分散させて混合させるようにするガラス溶融炉の堆積抑制方法とする。
【0016】
又、上記構成において、低融点共晶形成用の元素として、テルルを用いるようにする。
【0017】
更に、上記構成において、テルルをガラス溶融炉へ供給するときに、ガラス溶融炉へ供給する高レベル放射性廃液に含まれているパラジウムの量と、上記ガラス溶融炉へ供給するテルルと上記高レベル放射性廃液に元々含まれているテルルの和の量との割合が、パラジウム:テルル=63:37〜50:50[at%]となるようにする。
【0018】
上述の構成において、ガラス溶融炉の溶融空間へテルルを供給するときに、高レベル放射性廃液に予め溶解させた状態のテルルを、該高レベル放射性廃液と共に供給するようにする。
【0019】
同様に、上述の構成において、ガラス溶融炉の溶融空間へテルルを供給するときに、テルル単体、二酸化テルル又はテルルガラスの状態で、ガラス原料と共に供給させるようにする。
【発明の効果】
【0020】
本発明のガラス溶融炉の堆積抑制方法によれば、以下のような優れた効果を発揮する。(1)高レベル放射性廃液をガラス原料と共に供給して溶融空間で溶融させることにより上記高レベル放射性廃液を溶融ガラス化させるようにしてあるガラス溶融炉における上記溶融空間へ高レベル放射性廃液を供給するときに、上記高レベル放射性廃液に含まれる白金族元素であるパラジウム、ルテニウム、ロジウムの少なくとも1つと反応してガラス溶融炉の通常運転温度よりも低い温度の融点を有する共晶をつくることが可能な低融点共晶形成用の元素を、上記溶融空間へ供給して、上記溶融空間にて高レベル放射性廃液を溶融ガラス化する際に、該高レベル放射性廃液に含まれていたパラジウム、ルテニウム、ロジウムの少なくとも1つを上記低融点共晶形成用の元素と反応させて、生成するガラス溶融炉の通常運転温度以下で溶融する共晶を、溶融ガラスに分散させて混合させるようにしてあるので、ガラス溶融炉の溶融空間では、高レベル放射性廃液に含まれていた白金族元素のうち、酸化物等の形態で溶融ガラス中に懸濁するものが少なくなるため、上記溶融空間に貯留されている溶融ガラス中で炉底側へ沈降する白金族元素の懸濁物の量が少なくなる。これにより、炉底部で白金族元素の懸濁物の粘性が高まったり、圧密される現象が抑えられるようになるため、上記溶融空間より溶融ガラスの排出を行うときに、上記白金族元素の排出を促進させることができて、溶融ガラスと一緒に流動せずに炉底部に堆積する堆積物の発生を抑制することができる。
(2)よって、ガラス溶融炉のメンテナンスの期間を延長させることができると共に、ガラス溶融炉の長寿命化を図る効果が期待できる。
(3)更に、上記ガラス溶融炉における堆積物の堆積の抑制は、ガラス溶融炉の溶融空間へ高レベル放射性廃液を供給するときに、上記低融点共晶形成用の元素を一緒に供給するという簡単な操作のみで実施できるため、上記ガラス溶融炉とその周辺機器の装置構成が複雑化することを防止できる。
(4)しかも、上記低融点共晶形成用の元素は、高レベル放射性廃液に元々含まれている成分であるため、本発明のガラス溶融炉の堆積抑制方法を適用したガラス溶融炉で高レベル放射性廃液をガラス原料と共に溶融ガラス化した後、この溶融ガラスによりガラス固化体を製造しても、該ガラス固化体の性状が変化する虞を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のガラス溶融炉の堆積抑制方法の実施の一形態を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0023】
図1は本発明のガラス溶融炉の堆積抑制方法の実施の一形態として、図1に示す如きガラス溶融炉に適用する場合を示すもので、以下のようにしてある。
【0024】
ここで、先ず、本発明を適用するガラス溶融炉の構成について概説すると、該ガラス溶融炉は、図1に符号1で示す如く、角筒形状として金属製ケーシング2に収納された耐火レンガ製の溶融炉本体3の内部にガラスの溶融処理を行うための溶融空間3aが形成してある。
【0025】
上記溶融炉本体3の上端部には、上記溶融空間3aに連通する原料供給ノズル4を設けて、該原料供給ノズル4に、高レベル放射性廃液6を供給するための廃液供給管5と、ガラス原料8を供給するための原料供給管7が接続してある。
【0026】
更に、上記ケーシング2及び溶融炉本体3の側壁部には、上記溶融空間3aに露出する複数の電極9が貫通させて設けてある。これにより、上記溶融炉本体3の溶融空間3aに貯留した溶融ガラス10に対し上記電極9を介して直接通電することによって生じるジュール熱を熱源として、該溶融ガラス10を800〜1200℃に加熱できるようにしてある。
【0027】
上記溶融炉本体3における溶融空間3aの下部は、たとえば、下向きの角錐形状として、その下端部に、誘導加熱コイルのような排出制御用の加熱手段12を備えた溶融ガラス10の出口としての流下ノズル11が設けてある。
【0028】
上記流下ノズル11の下端部には、図示しない結合装置を介してキャニスタ13を着脱自在に連結することができるようにしてある。
【0029】
これにより、上記溶融炉本体3の溶融空間3aに、予め上記原料供給管7より供給されるガラス原料8を溶融させて形成した800〜1200℃の溶融ガラス10を或る一定量貯留した状態で、上記廃液供給管5より供給される高レベル放射性廃液6を、上記原料供給管7より供給されるガラス原料8と共に原料供給ノズル4を通して上記溶融空間3aへ投入することで、上記高レベル放射性廃液6を溶融ガラス10化させることができるようにしてある。
【0030】
その後、上記流下ノズル11の排出制御用加熱手段12により、該流下ノズル11内で固化している図示しないガラスによるプラグ(栓)を加熱し溶融させている間、上記溶融炉本体3の溶融空間3aに貯留されている上記高レベル放射性廃液6を含有する溶融ガラス10の一部を、該流下ノズル11を通してその下端部に取り付けてあるキャニスタ13へ注入して、該キャニスタ13に封入することで、ガラス固化体(図示せず)を形成させるようにしてある。
【0031】
14は溶融炉本体3の上部位置に設けた間接加熱ヒータであり、ガラス溶融炉1の運転開始時に原料供給管7より原料供給ノズル4を通して溶融空間3aに投入されるガラス原料8を、該間接加熱ヒータ14による加熱によって通電可能な溶融状態とすることができるようにしてある。
【0032】
上記構成としてあるガラス溶融炉1において本発明のガラス溶融炉の堆積抑制方法(以下、単に、本発明の堆積抑制方法と云う)を実施する場合は、上記溶融炉本体3の溶融空間3aに貯留された溶融ガラス10に対して新たな高レベル放射性廃液6を供給するときに、高レベル放射性廃液6に含まれる白金族元素であるパラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)のうちの少なくとも1つと反応することにより、ガラス溶融炉1の通常運転温度である800〜1200℃よりも低い温度の融点を有する共晶(以下、低融点共晶と云う)をつくることが可能な元素(以下、低融点共晶形成用元素と云う)を、一緒に供給するようにする。この際、上記低融点共晶形成用元素の供給量は、上記ガラス溶融炉1へ新たに供給される高レベル放射性廃液6に含まれるPd、Ru、Rhのうちの上記低融点共晶の形成に利用される白金族元素の量と、該高レベル放射性廃液6と一緒に上記溶融空間3aへ供給される上記低融点共晶形成用元素の量の比が、上記低融点共晶における上記白金族元素であるPd、Ru、Rhと、低融点共晶形成用元素の化合比にほぼ一致するように設定するようにしてあるものとする。
【0033】
具体的には、たとえば、テルル(Te)は、高レベル放射性廃液6に含まれている元素であり、該TeはPdと共に、Pd:Te=63:37〜50:50[at%(アトミックパーセント)]の割合で、融点が500℃程度(776K)となる共晶をつくることが判明している。
【0034】
又、或る一定量、たとえば、1トンのウラン燃料の使用済み核燃料の再処理過程で発生する高レベル放射性廃液6に含まれる白金族元素であるパラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)のそれぞれの量は判明しており、又、上記再処理過程で発生した高レベル放射性廃液6の量は分かるため、該高レベル放射性廃液6の単位量あたりに含まれるPdの量は算出することができる。
【0035】
これらのことに鑑みて、本実施の形態では、上記低融点共晶形成用元素をTe15とし、該Te15を、酸化物又は硝酸塩の状態で、上記高レベル放射性廃液6中に添加して、該高レベル放射性廃液6中に溶解させておくものとする。この際、上記高レベル放射性廃液6に対する上記Te15の添加量は、該Te15が添加された状態で上記ガラス溶融炉1の溶融空間3aへ供給される時点での高レベル放射性廃液6に含まれるPdとTeが、Pd:Te=63:37〜50:50[at%]の割合となるように設定する。
【0036】
すなわち、上記高レベル放射性廃液6には元々Teが含まれているのであるから、この高レベル放射性廃液6に元々含まれているTeの量により、上記ガラス溶融炉1の溶融空間3aへの供給時に所望される所定のPdとTeの割合を補正することで、高レベル放射性廃液6に実際に添加するTe15の量を定めるようにすればよい。具体的には、たとえば、ガラス溶融炉1の溶融空間3aへ供給する時点での高レベル放射性廃液6に含まれるPdとTeの割合をPd:Te=63:37[at%]とすることが所望される場合は、高レベル放射性廃液6中に元々含まれているTeの量を考慮して、高レベル放射性廃液6の単位量あたりに含まれているPdの量(算出された量)に対し、Pd:Te=70:30[at%]の割合となる量のTe15を、高レベル放射性廃液6に添加するように設定するようにしてある。
【0037】
上記のようにして低融点共晶形成用元素としてのTe15を上記所定の割合で添加した高レベル放射性廃液6は、ガラス溶融炉1の廃液供給管5より供給して、原料供給管7より供給されるガラス原料8と共に、原料供給ノズル4を通して800〜1200℃の溶融ガラス10を或る一定量貯留した状態としてある溶融空間3aへ供給(投入)する。
【0038】
これにより、上記Te15が添加された高レベル放射性廃液6は、上記溶融空間3aで溶融ガラス10と混合されるときに、該高レベル放射性廃液6に含まれていた水分が炉内の温度で蒸発するため固体となるが、このとき、高レベル放射性廃液6に含まれているPdに対してTe15が上記所定の割合で予め添加されて存在しているため、高レベル放射性廃液6中に含まれていたPdが、上記添加されたTe15及び高レベル放射性廃液6に元々含まれていたTeと共晶を形成して、融点が500℃程度(776K)のPd−Te合金となる。
【0039】
このPd−Te合金は、上記ガラス溶融炉1の通常運転温度である800〜1200℃で容易に溶融するため、上記溶融空間3aに貯留されている溶融ガラス10に容易に分散し、混合されるようになる。
【0040】
したがって、上記ガラス溶融炉1の溶融空間3aでは、上記高レベル放射性廃液6に含まれていた白金族元素のうち、Pdが酸化物等の形態で溶融ガラス10中に懸濁することがなくなるため、上記溶融空間3aに貯留されている溶融ガラス10中で炉底側へ沈降する白金族元素の懸濁物の量が少なくなる。これにより、炉底部で白金族元素の懸濁物の粘性が高まったり、圧密される現象が抑えられるようになるため、ガラス溶融炉1の流下ノズル11より溶融ガラス10をキャニスタ13内へ流下させるようにして該溶融ガラス10の排出を行うときに、上記白金族元素の懸濁物の流下、排出が促進されて、溶融ガラス10と一緒に流動せずに炉底部に堆積するようになる白金族元素の堆積物の発生が抑制されるようになる。
【0041】
このように、本発明の堆積物抑制方法によれば、高レベル放射性廃液6の溶融ガラス10化処理を行うようにしてあるガラス溶融炉1にて、炉底部に白金族元素を含む堆積物が堆積することを抑制することができる。よって、ガラス溶融炉1のメンテナンスの期間を延長させることができると共に、ガラス溶融炉1の長寿命化を図る効果が期待できる。
【0042】
しかも、上記ガラス溶融炉1における堆積物の堆積の抑制は、高レベル放射性廃液6に予め前述した所定の割合でTe15を添加するという簡単な操作のみで実施でき、装置構成としては、上記高レベル放射性廃液6の供給経路の途中に、上記Te15の酸化物又は硝酸塩を上記所定の割合で供給して溶解させるための手段を備えればよいため、上記ガラス溶融炉1とその周辺機器の装置構成が複雑化することはない。
【0043】
更には、上記Te15は、高レベル放射性廃液6に元々含まれている成分であるため、本発明の堆積抑制方法を適用したガラス溶融炉1で高レベル放射性廃液6をガラス原料と共に溶融ガラス10化した後、この溶融ガラス10をキャニスタ13に封入してガラス固化体(図示せず)を製造しても、該ガラス固化体の性状が変化する虞を回避できる。
【0044】
上記の実施の形態では、Te15を、酸化物又は硝酸塩の状態で高レベル放射性廃液6に予め添加して溶解させた状態でガラス溶融炉1の溶融空間3aへ供給するものとして示したが、高レベル放射性廃液6にTe15を添加することに代えて、図1に二点鎖線で示すように、テルルの単体、二酸化テルル又はテルルガラスのいずれかの粒状物を固体のテルル供給材16として、該テルル供給材16を、原料供給管7を通してガラス原料8と一緒に溶融空間3aへ投入させるようにしてもよい。
【0045】
この場合も、上記原料供給管7より供給されるテルル供給材16と、廃液供給管5より供給される高レベル放射性廃液6が、原料供給ノズル4を通してガラス溶融炉1の溶融空間3aに投入される時点で、上記高レベル放射性廃液6に含まれているPdの量と、上記テルル供給材16に含まれるTeと高レベル放射性廃液6に元々含まれているTeとの和の量が、前述したPd:Te=63:37〜50:50[at%]の割合となるように、上記テルル供給材16の上記原料供給管7を介した溶融空間3aへの供給量を調整するようにすればよい。
【0046】
このようにしても、上記原料供給管7よりガラス原料8と共に供給されるテルル供給材16が、廃液供給管5より供給される高レベル放射性廃液6と共に原料供給ノズル4を通してガラス溶融炉1の溶融空間3aに投入されると、上記高レベル放射性廃液6に含まれていた水分が炉内の温度で蒸発して固体となるときに、該高レベル放射性廃液6中に含まれていたPdが、一緒に供給された上記テルル供給材16に由来するTe及び高レベル放射性廃液6に元々含まれていたTeが存在することにより、PdとTeの共晶を形成して融点が500℃程度(776K)のPd−Te合金となる。
【0047】
よって、このPd−Te合金が、上記ガラス溶融炉1の通常運転温度である800〜1200℃で容易に溶融して、上記溶融空要3aに貯留されている溶融ガラス10に容易に分散し、混合されるようになる。これにより、上記図1に示した実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0048】
又、この場合の上記ガラス溶融炉1における堆積物の堆積の抑制は、テルル単体、二酸化テルル又はテルルガラスといった固定のテルル供給材16を用いて、該テルル供給材16を、ガラス原料8と一緒にガラス溶融炉1の溶融空間3aへ供給するという簡単な操作のみで実施することができる。
【0049】
なお、上記各実施の形態においては、高レベル放射性廃液6をガラス溶融炉1の溶融空間3aへ供給する時点でのPdと、低融点共晶形成用元素としてのTe15又はテルル供給材16によって供給されるTe及び高レベル放射性廃液6に元々含まれているTeの和の量が、Pd:Te=63:37〜50:50[at%]の割合となるようにするものとして説明したが、Pd:Te=34:66[at%]の割合よりもTeの割合が大となるように、上記低融点共晶形成用元素としてのTe15又はテルル供給材16の供給量を設定するようにしてもよい。
【0050】
このようにすると、上記高レベル放射性廃液6に含まれていた水分がガラス溶融炉1の炉内の温度で蒸発して固体となるときに、該高レベル放射性廃液6中に含まれていたPdが、一緒に供給された上記低融点共晶形成用元素としてのTe15又はテルル供給材16に由来するTe、及び、高レベル放射性廃液6に元々含まれていたTeと共に、450℃程度(719K)の共晶点をとるPd−Te合金(PdTe)を形成するようになる。この際、ガラス溶融炉1の溶融空間3aに供給されたTeのうち、Pdと共に上記低融点共晶を形成する量よりも過剰となる分は、上記ガラス溶融炉1の溶融空間3aに貯留されている溶融ガラス10と共にテルルガラスとなって、該溶融ガラス10に取り込まれるようになる。
【0051】
したがって、この場合にも、上記のようにして生成したPd−Te合金は、上記ガラス溶融炉1の通常運転温度である800〜1200℃で容易に溶融するため、上記溶融空間3aに貯留されている溶融ガラス10に容易に分散し、混合されるようになることから、溶融ガラス10と一緒に流動せずに炉底部に堆積するようになる白金族元素の堆積物の発生を抑制することができるようになる。
【0052】
又、本発明は上記実施の形態のみに限定されるものではなく、高レベル放射性廃液6に低融点共晶形成用元素として添加するTe15は、酸化物又は硝酸塩の状態とすることが望ましいが、高レベル放射性廃液6に添加するTe15を溶解させることができれば、酸化物や硝酸塩以外の状態となっているTe15を用いるようにしてもよい。
【0053】
高レベル放射性廃液6に元々含まれている元素であって、且つ高レベル放射性廃液6に含まれる白金族元素であるパラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)のうちの少なくとも1つと反応することにより、ガラス溶融炉1の通常運転温度である800〜1200℃よりも低融点の低融点共晶をつくる低融点共晶形成用元素であれば、Teに代えて、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、セリウム(Ce)を用いるようにしてもよい。これらの元素を用いる場合は、白金族元素であるパラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)のうちのいずれかとガラス溶融炉1の通常運転温度である800〜1200℃よりも低い温度の融点を有する低融点共晶をつくる化合比と、対応する白金族元素の高レベル放射性廃液6の単位量あたりの含有量に応じて、ガラス溶融炉1の溶融空間3aへの供給量を適宜設定すればよい。又、取り扱いの容易さ等に応じて、高レベル放射性廃液6に予め添加して溶解させるか、又は、単体、酸化物、あるいは、ガラスに混入させた状態の固形物を、ガラス原料と一緒に供給させるようにするかを適宜選定すればよい。
【0054】
本発明の堆積抑制方法は、高レベル放射性廃液6をガラス原料8と共に溶融ガラス10化させるようにしてあるガラス溶融炉1であって、炉底部に白金族元素を含む粘性の高い堆積物の堆積が懸念されるガラス溶融炉1であれば、図示した以外のいかなる形式のガラス溶融炉1における堆積物の堆積抑制に適用してもよい。
【0055】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0056】
1 ガラス溶融炉
3a 溶融空間
6 高レベル放射性廃液
8 ガラス原料
10 溶融ガラス
15 テルル(低融点共晶形成用の元素)
16 テルル供給材(テルル単体、二酸化テルル、テルルガラス)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高レベル放射性廃液をガラス原料と共に供給して溶融空間で溶融させることにより上記高レベル放射性廃液を溶融ガラス化させるようにしてあるガラス溶融炉における上記溶融空間へ高レベル放射性廃液を供給するときに、上記高レベル放射性廃液に含まれる白金族元素であるパラジウム、ルテニウム、ロジウムの少なくとも1つと反応してガラス溶融炉の通常運転温度よりも低い温度の融点を有する共晶をつくることが可能な低融点共晶形成用の元素を、上記溶融空間へ供給して、上記溶融空間にて高レベル放射性廃液を溶融ガラス化する際に、該高レベル放射性廃液に含まれていたパラジウム、ルテニウム、ロジウムの少なくとも1つを上記低融点共晶形成用の元素と反応させて、生成するガラス溶融炉の通常運転温度以下で溶融する共晶を、溶融ガラスに分散させて混合させるようにすることを特徴とするガラス溶融炉の堆積抑制方法。
【請求項2】
低融点共晶形成用の元素として、テルルを用いるようにする請求項1記載のガラス溶融炉の堆積抑制方法。
【請求項3】
テルルをガラス溶融炉へ供給するときに、ガラス溶融炉へ供給する高レベル放射性廃液に含まれているパラジウムの量と、上記ガラス溶融炉へ供給するテルルと上記高レベル放射性廃液に元々含まれているテルルの和の量との割合が、パラジウム:テルル=63:37〜50:50[at%]となるようにする請求項2記載のガラス溶融炉の堆積抑制方法。
【請求項4】
ガラス溶融炉の溶融空間へテルルを供給するときに、高レベル放射性廃液に予め溶解させた状態のテルルを、該高レベル放射性廃液と共に供給するようにする請求項2又は3記載のガラス溶融炉の堆積抑制方法。
【請求項5】
ガラス溶融炉の溶融空間へテルルを供給するときに、テルル単体、二酸化テルル又はテルルガラスの状態で、ガラス原料と共に供給させるようにする請求項2又は3記載のガラス溶融炉の堆積抑制方法。

【図1】
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