説明

ガラス溶融炉の堆積物除去方法

【課題】 装置構成を複雑化することなく堆積物を効率よく除去させる。
【解決手段】 溶融炉本体3内で高レベル放射性廃液6をガラス原料8と共に溶融ガラス10化させる処理を行うようにしてあるガラス溶融炉1にて、炉底部に白金族元素を含む堆積物15が堆積した状態のときに、ガラス溶融炉1の運転を継続したまま、亜鉛16を、チューブ17を通して炉底部へ供給する。ガラス溶融炉1の通常運転温度で溶融する亜鉛16を堆積物15の周囲の溶融ガラス10に取り込ませることで、溶融ガラス10の粘度を低下させ、この低粘度化された溶融ガラス10に、堆積物15を構成している白金族元素の懸濁物を拡散させる。その後、流下ノズル12を通して溶融ガラス10を排出することにより、堆積物15を形成していた白金族元素の懸濁物を一緒に排出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高レベル放射性廃液をガラス原料と共に溶融処理するために用いるガラス溶融炉にて、炉底部に堆積した白金族元素を含む堆積物を除去するために用いるガラス溶融炉の堆積物除去方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力発電における使用済み核燃料の再処理過程で発生する高レベル放射性廃液(HALW)は、非常に高い放射能を有する核分裂生成物を多く含むことから、物理的、化学的に安定なガラス固化体に処理するようにしてある。
【0003】
ガラス固化体の製造に使用するガラス溶融炉の1つとしては、直接通電加熱方式のガラス溶融炉があり、これは、金属製ケーシングに収納された耐火レンガ製の溶融炉本体内で、溶融ガラスに直接通電することにより、ジュール熱による加熱を行うことができるようにしてあり、この溶融炉本体内にて、高レベル放射性廃液をガラス原料と共に溶融して溶融ガラス化し、その後、上記溶融ガラスを、ガラス固化体を封入するためのキャニスタへ向けて排出させるようにしてある。
【0004】
ところで、上記高レベル放射性廃液中に含まれる金属元素のうち、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)の白金族元素はガラスマトリクスに溶解せず、酸化物等の形態で溶融ガラス中に懸濁する。
【0005】
これらの白金族元素の懸濁物はガラスよりも比重が大きいため、溶融炉本体内に存在する溶融ガラスの中で炉底部に沈降し易く、しかも粘性が高いために、圧密されることによって炉底部に堆積する。
【0006】
上記のようにして白金族元素を含む堆積物がガラス溶融炉の炉底部に堆積すると、該白金族元素を含む堆積物は溶融ガラスに比して電気抵抗が小さいために、電極より供給される電流が上記堆積物に集中して流れてしまい、ガラス溶融炉内の溶融ガラスに流れる電流が小さくなるために、溶融ガラスの通電加熱(ジュール熱による加熱)が阻害されて、溶融ガラスの加熱効率が低下してしまう。
【0007】
又、白金族元素を含む堆積物が炉底部に堆積することに伴って、溶融ガラスの流下ノズルへの安定した流動が阻害されるようになるため、流下ノズルからキャニスタへの溶融ガラスの排出速度が低下したり、流下ノズルの閉塞を引き起こす可能性もある。
【0008】
そのため従来は、ガラス溶融炉の炉底部に上記白金族元素を含む堆積物が堆積した場合は、ガラス溶融炉より溶融ガラスを一旦ドレンアウトさせた後、ガラス溶融炉の炉底部に堆積している白金族元素を含む堆積物を、はつり作業等で物理的に除去する手法が採られている。
【0009】
又、ガラス溶融炉の炉底部に堆積した白金族元素を含む堆積物を除去するための別の手法としては、ガラス溶融炉内の溶融ガラスを機械的撹拌や空気撹拌して、上記白金族を含む堆積物の流動性を高めるようにする手法が従来提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−37673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、ガラス溶融炉の炉底部に堆積した白金族元素を含む堆積物をはつりにより物理的に除去する手法を実施する場合は、ガラス溶融炉内の溶融ガラスのドレンアウトの後、該ガラス溶融炉の炉内の堆積物のはつり作業を開始する前に、予め炉内温度を冷却させる必要がある。又、炉内の堆積物のはつり作業が終了した後は、高レベル放射性廃液の処理を再開する前に、ガラス原料の投入、再加熱、規定量のガラス固化体製造という処理工程が必要になる。
【0012】
そのために、炉内の堆積物のはつり作業自体に時間がかかることに加えて、ガラス溶融炉における溶融ガラスのドレンアウトや、耐火レンガ製としてある溶融炉本体の冷却及び再加熱にも多くの時間を要するため、上記ガラス溶融炉の炉底部の堆積物の除去のために多大な時間を要し、ガラス溶融炉の運転停止期間が長期に亘るという問題がある。更に、運転の再開時に無駄なガラス固化体の製造が必要になるという問題もある。
【0013】
特許文献1に示された手法は、ガラス溶融炉内の溶融ガラスを機械的撹拌や空気撹拌により撹拌するようにしてあるが、このような撹拌では、ガラス溶融炉内の炉底部に沈降し、圧密されて粘性が高まっている白金族元素を含む堆積物を完全には浮き上がらせることが困難なため、すべての白金族元素を含む堆積物を流下、排出させることは難しい。そのため、炉底部の白金族元素を含む堆積物の量が徐々に多くなることを回避できないため、堆積物の量が多くなった時点で、前述したと同様の堆積物のはつりによる物理的な除去作業を実施しなければならない。
【0014】
しかも、上記特許文献1に示されたものでは、ガラス溶融炉の溶融炉本体内に、機械的撹拌や空気撹拌用の撹拌手段を装備しなければならないため、ガラス溶融炉の構造が複雑化してしまう。
【0015】
そこで、本発明は、ガラス溶融炉の構造の複雑化を招くことなく、ガラス溶融炉の炉底部に堆積した白金族元素を含む堆積物を容易に且つ効率よく除去することができるようにするためのガラス溶融炉の堆積物除去方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1に対応して、炉底部に白金族元素を含む堆積物がある状態の高レベル放射性廃液処理用のガラス溶融炉における上記炉底部に、上記高レベル放射性廃液とガラス原料の少なくとも一方に含まれている元素からなると共にガラス溶融炉の通常運転温度よりも低融点であり、且つ溶融ガラスに取り込まれて該溶融ガラスの粘度を低下させることが可能な性状を有するガラス粘度低下用化学物質を供給するようにして、ガラス溶融炉の通常運転温度で溶融する該ガラス粘度低下用化学物質を溶融ガラス中へ取り込ませることにより、該溶融ガラスの粘度を低下させ、該粘度の低下したガラス中へ上記ガラス溶融炉の炉底部に堆積している白金族元素を拡散させることで該堆積物を流動化させ、該流動化した堆積物を上記ガラス溶融炉の溶融ガラスの出口より排出させるようにするガラス溶融炉の堆積物除去方法とする。
【0017】
又、上記構成において、ガラス粘度低下用化学物質として、亜鉛、スズ、ユウロピウム、セリウムのいずれかを用いるようにする。
【0018】
更に、上記各構成において、ガラス粘度低下用化学物質を、ガラス溶融炉の運転中に供給するようにする。
【0019】
同様に、上記各構成において、ガラス粘度低下用化学物質を、ガラス溶融炉より溶融ガラスのドレンアウトをした後、該ガラス溶融炉に供給してガラス溶融炉の通常運転温度で溶融させるようにする。
【発明の効果】
【0020】
本発明のガラス溶融炉の堆積物除去方法によれば、以下のような優れた効果を発揮する。
(1)炉底部に白金族元素を含む堆積物がある状態の高レベル放射性廃液処理用のガラス溶融炉における上記炉底部に、上記高レベル放射性廃液とガラス原料の少なくとも一方に含まれている元素からなると共にガラス溶融炉の通常運転温度よりも低融点であり、且つ溶融ガラスに取り込まれて該溶融ガラスの粘度を低下させることが可能な性状を有するガラス粘度低下用化学物質を供給するようにして、ガラス溶融炉の通常運転温度で溶融する該ガラス粘度低下用化学物質を溶融ガラス中へ取り込ませることにより、該溶融ガラスの粘度を低下させ、該粘度の低下したガラス中へ上記ガラス溶融炉の炉底部に堆積している白金族元素を拡散させることで該堆積物を流動化させ、該流動化した堆積物を上記ガラス溶融炉の溶融ガラスの出口より排出させるようにしてあるので、ガラス溶融炉の炉底部へガラス粘度低下用化学物質を供給するという容易な操作のみで、ガラス溶融炉の炉底部に堆積した白金族元素を含む堆積物の除去を効率よく実施できる。このため、ガラス溶融炉に撹拌装置等の特別な装置を付加する必要はなく、よって、ガラス溶融炉の構造の複雑化を招くことはない。
(2)又、上記ガラス粘度低下用化学物質は、元々、高レベル放射性廃液とガラス原料のいずれかに含まれている成分であるため、製造されるガラス固化体の性状が大きく変化する虞を防止できる。
(3)しかも、上記ガラス溶融炉の炉底部の堆積物の除去を、該ガラス溶融炉の炉内温度を冷却せずに実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のガラス溶融炉の堆積物除去方法の実施の一形態を示す概要図である。
【図2】本発明者等が実施した亜鉛濃度とガラス融点の関係についての試験結果を示す図である。
【図3】本発明の実施の他の形態を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0023】
図1及び図2は本発明のガラス溶融炉の堆積物除去方法の実施の一形態として、図1に示す如きガラス溶融炉に適用する場合を示すもので、以下のようにしてある。
【0024】
ここで、先ず、本発明を適用するガラス溶融炉の構成について概説すると、該ガラス溶融炉は、図1に符号1で示す如く、角筒形状として金属製ケーシング2に収納された耐火レンガ製の溶融炉本体3の内部にガラスの溶融処理を行うための溶融空間3aが形成してある。
【0025】
上記溶融炉本体3の上端部には、上記溶融空間3aに連通する原料供給ノズル4を設けて、該原料供給ノズル4に、高レベル放射性廃液6を供給するための廃液供給管5と、ガラス原料8を供給するための原料供給管7が接続してある。
【0026】
更に、上記金属製ケーシング2及び溶融炉本体3の側壁部には、上記溶融空間3aに露出する複数の電極9が貫通させて設けてある。これにより、上記溶融炉本体3の溶融空間3aに貯留した溶融ガラス10に対し上記電極9を介して直接通電することによって生じるジュール熱を熱源として、該溶融ガラス10を1000〜1200℃に加熱できるようにしてある。
【0027】
溶融炉本体3の上部位置には、間接加熱ヒータ11を備えて、ガラス溶融炉1の運転開始時に原料供給管7より原料供給ノズル4を通して溶融空間3aに投入されるガラス原料8を、該間接加熱ヒータ11による加熱によって通電可能な溶融状態とすることができるようにしてある。
【0028】
上記溶融炉本体3における溶融空間3aの下部は、たとえば、下向きの角錐形状として、その下端部に、誘導加熱コイルのような排出制御用の加熱手段13を備えた溶融ガラス10の出口としての流下ノズル12が設けてある。
【0029】
上記流下ノズル12の下端部には、図示しない結合装置を介してキャニスタ14を着脱自在に連結することができるようにしてある。
【0030】
上記構成としてある上記ガラス溶融炉1を運転する場合は、上記溶融炉本体3の溶融空間3aに、予め上記原料供給管7より供給されるガラス原料8を溶融させて形成した1000〜1200℃の溶融ガラス10を或る一定量貯留した状態で、上記廃液供給管5より供給される高レベル放射性廃液6と、上記原料供給管7より供給されるガラス原料8を、原料供給ノズル4を通して溶融空間に投入すると、上記高レベル放射性廃液6がガラス溶融炉1内で1000〜1200℃の高温に加熱されて、高レベル放射性廃液6に含まれる水分が蒸発させられ、蒸発後に残った高レベル放射性廃液6が、上記ガラス原料8と共に溶融ガラス化するようになる。
【0031】
その後は、上記流下ノズル12の排出制御用加熱手段13により、該流下ノズル12内で固化している図示しないガラスによるプラグ(栓)を加熱し溶融させている間に、上記溶融炉本体3の溶融空間3aに貯留されている上記高レベル放射性廃液6を含有する溶融ガラス10の一部を、該流下ノズル12を通してその下端部に取り付けてあるキャニスタ14へ注入して、該キャニスタ14に封入することで、ガラス固化体(図示せず)を形成させるようにしてある。
【0032】
上記ガラス溶融炉1の運転を継続して行うと、図1に示すように、該ガラス溶融炉1の炉底部に、白金族元素を含む堆積物15の堆積が生じるようになる。
【0033】
そこで、本発明のガラス溶融炉の堆積物除去方法(以下、単に、本発明の堆積物除去方法と云う)を、上記のような炉底部に白金族元素を含む堆積物15の堆積が生じたガラス溶融炉1に対して、以下のようにして実施する。
【0034】
なお、ガラス溶融炉1の炉底部における白金族元素を含む堆積物15の堆積量は、ガラス溶融炉1の電極9より溶融ガラス10に通電するときの抵抗値の低下度や、電極9より溶融ガラス10に与える電力と該溶融ガラス10の温度との関係から求められる加熱効率の低下度から、推定可能であることが、本発明者等の経験則より判明している。
【0035】
本発明の堆積物除去方法は、上述したような溶融ガラス10の通電時における抵抗値の低下度や、加熱効率の低下度から、白金族元素を含む堆積物15が、炉底部に或る許容量以上の量で堆積していると推定される状態のガラス溶融炉1について、該ガラス溶融炉1の運転中に、上記ガラス原料8と高レベル放射性廃液6の少なくとも一方に含まれている元素からなると共にガラス溶融炉1の通常運転温度である1000〜1200℃よりも低融点であり、且つ溶融ガラス10に取り込まれて該溶融ガラス10の粘度を低下させることが可能な性状を有するガラス粘度低下用化学物質としての亜鉛(Zn)16を、上記ガラス溶融炉1の炉底部に堆積している上記白金族元素を含む堆積物15の付近に供給するようにする。
【0036】
具体的には、予め、インコネル(INCONEL(登録商標))等の耐熱性と耐蝕性を備えた合金によりチューブ17を製作し、該チューブ17を、上記ガラス溶融炉1における上記原料供給ノズル4の上端部より、該原料供給ノズル4と溶融炉本体3の溶融空間3aを通して配置すると共に、該チューブ17の下端部を炉底部付近に配置させた状態で吊り下げて設ける。更に、上記チューブ17における上記原料供給ノズル4の上端よりも上方に突出させた上端部(突出端部)に、外部のガラス粘度低下用化学物質供給装置としての亜鉛供給装置18を接続した構成としておく。これにより、上記亜鉛供給装置18の運転に伴って、該亜鉛供給装置18より供給される亜鉛16を、上記チューブ17を通してガラス溶融炉1の炉底部へ供給できるようにしてある。
【0037】
なお、上記ガラス溶融炉1の炉底部へ供給する亜鉛16の供給量は、ガラス溶融炉1内の溶融ガラス10における亜鉛濃度を、該ガラス溶融炉1へ供給されるガラス原料8に元々含まれている亜鉛の含有量より少なくとも0.1%(質量パーセント、本明細書における以降の%の記載も同様)以上増加させることができるように下限値を設定し、且つ上記溶融ガラス10を固化させることでガラス化させることが可能となる範囲に収まるように上限値が設定してある。
【0038】
上記のように亜鉛16の供給量の範囲の下限側を、溶融ガラス10の亜鉛濃度を上記ガラス原料8に元々含まれている亜鉛の含有量より0.1%以上増加させることができるように設定したのは、溶融ガラス10の亜鉛濃度と、ガラス原料8の元々の亜鉛含有量との差が0.1%よりも小さい範囲では、上記溶融ガラス10の粘度の低下が、後述する上記ガラス溶融炉1の炉底部に堆積している白金族元素を含む堆積物15の除去の効果に不十分になるためである。
【0039】
具体的には、SiOとZnO、及び、BとZnOがガラスを形成するためには、ZnOの量がそれぞれ56.3%以下、及び、67.2%以下である必要がある。そのため、上記ガラス原料8に、たとえば、60.0%のSiOと18.2%のBが含有されているとすると、該ガラス原料8を溶融させて形成する溶融ガラス10においては、該溶融ガラス10を固化させてガラス化が可能な範囲として、亜鉛濃度を酸化物換算で46.0%まで高めることが可能になる。
【0040】
一方、上記ガラス原料8には、或る量の亜鉛が元々含まれていると共に、該ガラス原料8の製造時には、亜鉛含有量は誤差が±0.01%オーダーで規定されている。そのため、たとえば、該ガラス原料8に元々含まれている亜鉛含有量が3.8%であるとすると、本発明の堆積物除去方法にてガラス溶融炉1へ供給する亜鉛16の供給量は、ガラス溶融炉1内の溶融ガラス10における亜鉛濃度(酸化物換算)をx[%]として、この値が、3.9≦x≦46.0[%]になるように設定すればよい。
【0041】
なお、本発明者等が亜鉛濃度とガラスの融点との相関について試験した結果によれば、図2に示すように、ガラスの融点は、亜鉛濃度が20.0%になるまでは、該亜鉛濃度の増加に伴って減少して行くことが判明した。このため、上記ガラス溶融炉1へ供給する亜鉛16の供給量は、3.9≦x≦20.0[%]となるように設定することがより望ましい。
【0042】
又、亜鉛濃度が40.0%となる条件においても、ガラス転移点は10.0%よりも低いことが判明した。よって、図2に基づく予測により、ガラス溶融炉1の炉底部に堆積している白金族元素を含む堆積物15を除去するのに有効な亜鉛濃度の上限側を、上記したように亜鉛16がガラスを形成可能な理論量の上限値である46.0%に設定することの妥当性が確認されている。
【0043】
したがって、上記したように、ガラス溶融炉1について、溶融ガラス10の通電時における抵抗値の低下度や、加熱効率の低下度から、白金族元素を含む堆積物15が、炉底部に或る許容量以上の量で堆積していると推定される状態となった場合は、該ガラス溶融炉1の運転中に、上記亜鉛供給装置18を運転して、該亜鉛供給装置18より上記チューブ17を通して供給される亜鉛16を、上記所定の供給量で上記ガラス溶融炉1の炉底部に堆積している上記白金族元素を含む堆積物15の付近に供給する。この際、上記亜鉛16は、通常運転温度が1000〜1200℃としてある上記ガラス溶融炉1の熱で溶融するため、上記チューブ17からは、この溶融状態の亜鉛16が、ガラス溶融炉1の炉底部に堆積している上記白金族元素を含む堆積物15の付近に供給されるようになる。
【0044】
これにより、上記溶融状態の亜鉛16が供給された炉底部では、該溶融状態の亜鉛16が炉底部の上記白金族元素を含む堆積物15の周囲に存在している溶融ガラス10に拡散して取り込まれるようになり、この亜鉛16の取り込みに伴って、該白金族元素を含む堆積物15の周囲に存在している溶融ガラス10の粘度が低下する。
【0045】
上記のようにして白金族元素を含む堆積物15の周囲の溶融ガラス10の粘度が低下すると、沈降によって該堆積物15を構成していた白金族元素の懸濁物が、上記低粘度となった周囲の溶融ガラス10に拡散するようになる。このため、該白金族元素の懸濁物の粘性が低下するようになると共に、上記白金族元素を含む堆積物15の圧密状態が軽減されるようになる。
【0046】
よって、この状態で、溶融炉本体3の溶融空間3aの下端部に設けてある溶融ガラス10の出口としての流下ノズル12の排出制御用加熱手段13により、該流下ノズル12内の図示しないガラスによるプラグ(栓)を加熱し溶融させて、上記溶融空間3aに貯留されている上記高レベル放射性廃液6を含有する溶融ガラス10の一部を、該流下ノズル12を通して流下させて、流下ノズル12の下端部に取り付けてあるキャニスタ14へ排出させるときに、上記粘度が低下した溶融ガラス10の流下する流れに上記堆積物15を形成していた白金族元素の懸濁物が巻き込まれるようになるため、該白金族元素の懸濁物を、上記粘度が低下した溶融ガラス10と一緒に上記流下ノズル12より上記キャニスタ14へ排出させることが可能になる。
【0047】
したがって、上記ガラス溶融炉1では、炉底部に形成されていた白金族元素を含む堆積物15の除去が行われるようになる。
【0048】
このように、本発明の堆積物除去方法によれば、ガラス溶融炉1に、ガラス粘度低下用化学物質としての亜鉛16を炉底部へ供給するためのチューブ17を設け、該チューブ17に、外部のガラス粘度低下用化学物質供給部としての亜鉛供給装置18を接続するという構成を用いて、ガラス溶融炉1の通常運転中に、必要に応じて上記亜鉛供給装置18を運転して上記チューブ17を通してガラス溶融炉1の炉底部へ亜鉛16を供給するという容易な操作のみで、ガラス溶融炉1の炉底部に堆積した白金族元素を含む堆積物15の除去を効率よく実施することが可能になる。
【0049】
したがって、ガラス溶融炉1の構造が特に複雑化することはない。
【0050】
しかも、上記ガラス溶融炉1の炉底部の堆積物15の除去を、該ガラス溶融炉1の運転中に行うことができるため、上記堆積物15の除去処理を行う際のガラス溶融炉1の溶融ガラス10のドレンアウトを実施する手間及び時間を不要にすることができる。又、上記ガラス溶融炉1より白金族元素を含む堆積物15を除去することを目的とした運転停止期間を不要にできる。
【0051】
又、上記ガラス粘度低下用化学物質として用いる亜鉛16は、元々、高レベル放射性廃液6と一緒に溶融ガラス化させるためのガラス原料8に含まれている成分であるため、製造されるガラス固化体の性状が大きく変化する虞はない。
【0052】
次に、図3は本発明の実施の他の形態を示すもので、以下に示す手順で実施するようにしてある。
【0053】
すなわち、図1に示したと同様のガラス溶融炉1にて、ガラス溶融炉1の炉底部における白金族元素を含む堆積物15の堆積が生じ、溶融ガラス10の通電時の抵抗値の低下度や、加熱効率の低下度から、上記堆積物15が許容量以上の堆積量になったと推定された段階で、上記ガラス溶融炉1より、溶融ガラス10のドレンアウトを実施する。
【0054】
次に、図1に示したと同様のガラス粘度低下用化学物質供給部としての亜鉛供給装置18を運転して、ガラス粘度低下用化学物質としての亜鉛16を、チューブ17を通して上記ガラス溶融炉1の炉底部へ供給する。
【0055】
なお、本実施の形態では、ガラス溶融炉1より溶融ガラス10はドレンアウトさせることに伴って、溶融ガラス10への直接通電によって生じるジュール熱を熱源とする加熱は一旦停止するが、ガラス溶融炉1の耐火レンガ製としてある溶融炉本体3に通常運転時の熱が保持されている状態のまま、上記亜鉛16の供給を行うようにする。これにより、上記ガラス溶融炉1へ供給された亜鉛16は、上記溶融炉本体3に残存する熱により溶融された状態で、上記溶融ガラス10がドレンアウトされた後のガラス溶融炉1の炉底部、すなわち、該炉底部に堆積している白金族元素を含む堆積物15の付近に溜まるようになる。
【0056】
ところで、本実施の形態では、上記したように亜鉛16の供給時には、ガラス溶融炉1より溶融ガラス10がドレンアウトさせてあるため、炉底部における上記堆積物15の周囲には、溶融ガラス10は存在していない状態となる。よって、本実施の形態では、上記ガラス溶融炉1の炉底部に堆積している堆積物15の量に応じて亜鉛16の供給量を定めるようにする。
【0057】
具体的には、たとえば、上記堆積物15中に白金族元素が15.0%含まれるとし、残り85.0%がガラス原料8と同組成のガラスであるとすると、本実施の形態における亜鉛16の供給量は、前述したようにガラス溶融炉1の電極9より溶融ガラス10に通電するときの抵抗値の低下度や、電極9より溶融ガラス10に与える電力と該溶融ガラス10の温度との関係から求められる加熱効率の低下度から予め推定しておいたガラス溶融炉1の炉底部における白金族元素を含む堆積物15の堆積量(重量)と、図1の実施の形態の場合の亜鉛16の供給量とを基に、上記堆積物15の堆積量(重量)に対する亜鉛濃度(酸化物換算)y[%]の値が、3.3≦y≦39.1[%]、より望ましくは、3.3≦y≦17.0[%](図1及び図2の実施の形態で設定した亜鉛濃度(酸化物換算)x[%]の範囲の上限値と下限値に、上記堆積物15中のガラスの割合をかけることで算出)となるように設定すればよい。
【0058】
上記のようにして所定の供給量での亜鉛16の供給を行った後は、上記ガラス溶融炉1に装備されている間接加熱ヒータ11により、上記炉底部に溜まった上記亜鉛16、及び、上記白金族元素を含む堆積物15を、ガラス溶融炉1の通常運転温度である1000〜1200℃に加熱する。
【0059】
これにより、上記亜鉛16が確実に溶融された状態で上記ガラス溶融炉1の炉底部に形成されている白金族元素を含む堆積物15と接するようになり、この溶融した亜鉛16が、上記白金族元素を含む堆積物15を構成しているガラスであって、且つ上記ガラス溶融炉1の通常運転温度である1000〜1200℃に加熱されて溶融状態となるガラスに拡散して取り込まれるようになる。このため、上記白金族元素を含む堆積物15では、該堆積物15を構成しているガラスの粘度が、上記溶融状態の亜鉛16の取り込みに伴って低下する。
【0060】
これにより、上記堆積物15を構成していた白金族元素の懸濁物同士の間に存在するガラスが、粘度の低下に伴って流動化するため、該堆積物15を構成している白金族元素の懸濁物も、上記ガラスの流動に伴われて流動化するようになる。
【0061】
よって、この状態で、溶融炉本体3の溶融空間3aの下端部に設けてある溶融ガラス10の出口としての流下ノズル12を、排出制御用加熱手段13により加熱して開放すると、上記亜鉛16の取り込みによって粘度が低下して流動化したガラスの流下する流れに、上記堆積物15を形成していた白金族元素の懸濁物が巻き込まれて、上記流下ノズル12より外部へ一緒に排出させることができるようになる。この排出される粘性が低下した亜鉛を含むガラス、及び、白金族元素の懸濁物は、キャニスタ14(図1参照)に受けるようにするか、あるいは、白金族元素が含まれている点に鑑みて、別の図示しない容器に回収してから、白金族元素の回収を行う処理設備に送るようにしてもよい。
【0062】
図3において、図1に示したものと同一のものには同一符号が付してある。
【0063】
このように、本実施の形態によっても、ガラス溶融炉1の炉底部に堆積した堆積物15を除去することができる。
【0064】
更に、溶融ガラス10をドレンアウトした後の溶融炉本体3内に亜鉛16を供給するようにしてあるため、炉底部の白金族元素を含む堆積物15に対し、溶融炉本体3に残存する熱や間接加熱ヒータ11による加熱で溶融させる亜鉛16を効率よく接触させることができる。このため、該堆積物15に含まれるガラスに上記溶融した亜鉛16を効率よく接触させて、該ガラスの粘度の低減化を効率よく実施できるため、上記堆積物15の粘性を低下させるのに要する時間を低減させる効果や、堆積物15の除去効率をより高める効果が期待できる。
【0065】
更に、本実施の形態の処理を実施する際には、ガラス溶融炉1の運転を一旦停止して、溶融炉本体3より溶融ガラス10のドレンアウトを実施する必要はあるが、該溶融ガラス10のドレンアウト後に上記亜鉛16を投入するときには、炉内温度を冷却する必要はなく、又、上記したように粘性が低下した亜鉛16を含むガラスと一緒に堆積物15を構成していた白金族元素の懸濁物を流下ノズル12を通して外部に排出させる際にも、炉内温度を冷却する必要はない。よって、ガラス溶融炉1の炉内温度の冷却及び再加熱を必要としないことから、上記堆積物15の除去処理に伴うガラス溶融炉1の運転停止期間を、従来のはつりによる堆積物15の除去処理を行う場合に比して、大幅に短縮させることが可能になる。
【0066】
なお、上記図1及び図2の実施の形態、並びに、図3の実施の形態においては、ガラス粘度低下用化学物質の一例として、亜鉛16を示したが、高レベル放射性廃液6とガラス原料8の少なくとも一方に含まれている元素からなると共にガラス溶融炉1の通常運転温度である1000〜1200℃よりも低融点であり、且つ溶融ガラス10に取り込まれて該溶融ガラス10の粘度を低下させることが可能な性状を有するガラス粘度低下用化学物質であれば、たとえば、高レベル放射性廃液6に含まれているスズ(Sn)、ユウロピウム(Eu)、セリウム(Ce)を用いるようにしてもよい。
【0067】
スズについては、酸化物はSnOを基準とし、以下濃度(質量パーセント)は酸化物換算とすると、ガラス溶融炉1内の溶融ガラス10に対する投入量が15.0〜57.0%となる濃度範囲において、ガラス溶融炉1の炉底部に形成されている白金族元素を含む
堆積物15の除去に有効な効果が得られる。すなわち、スズは、ホウ酸ガラスとは17.0〜88.0%で融点の低いガラスを形成する。又、スズは、ケイ酸ガラスに対してもホウ酸ガラスと同モルの反応に相当する19.0〜68.0%で融点の低いガラスを形成すると想定すると、スズのガラス固化処理で用いるホウケイ酸ガラス(B 18.2%,SiO 60.0%)に対する有効な投入量は15.0〜57.0%となる。
【0068】
ユウロピウム、及び、セリウムについては、それぞれ酸化物はEu及びCeOを基準とし、以下濃度(質量パーセント)は酸化物換算とすると、ガラス溶融炉1内の溶融ガラス10に対する投入量が、ユウロピウムは0.2〜39.0%、セリウムは1.2〜51.3%となる濃度範囲で、ガラス溶融炉1の炉底部に形成されている白金族元素を含む堆積物15の除去に有効な効果が得られる。なお、上記濃度範囲の上限の設定は、ホウケイ酸ガラスの架橋酸素数からガラスを形成できなくなる条件から設定したものである。一方、濃度範囲の下限は、高レベル放射性廃液6中の上記元素がガラスに取り込まれる濃度より設定したものである。
【0069】
上記ガラス粘度低下用化学物質として用いる亜鉛16、スズ、ユウロピウム、セリウムは単体の金属に限定されるものではなく、合金、あるいは、その硝酸塩や酸化物を用いるようにしてもよい。
【0070】
又、本発明は上記実施の形態のみに限定されるものではなく、亜鉛16をガラス溶融炉の炉底部付近へ供給するためのチューブ17は、図1、図3に示した以外の配置としてもよい。
【0071】
本発明の堆積物除去方法は、高レベル放射性廃液6をガラス原料8と共に溶融ガラス10化させるようにしてあるガラス溶融炉1であって、炉底部に堆積する白金族元素を含む粘性の高い堆積物15の除去が必要とされるガラス溶融炉1であれば、図示した以外のいかなる形式のガラス溶融炉1からの堆積物15の除去に適用してもよい。
【0072】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0073】
1 ガラス溶融炉
6 高レベル放射性廃液
10 溶融ガラス
12 流下ノズル(出口)
15 堆積物
16 亜鉛(ガラス粘度低下用化学物質)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉底部に白金族元素を含む堆積物がある状態の高レベル放射性廃液処理用のガラス溶融炉における上記炉底部に、上記高レベル放射性廃液とガラス原料の少なくとも一方に含まれている元素からなると共にガラス溶融炉の通常運転温度よりも低融点であり、且つ溶融ガラスに取り込まれて該溶融ガラスの粘度を低下させることが可能な性状を有するガラス粘度低下用化学物質を供給するようにして、ガラス溶融炉の通常運転温度で溶融する該ガラス粘度低下用化学物質を溶融ガラス中へ取り込ませることにより、該溶融ガラスの粘度を低下させ、該粘度の低下したガラス中へ上記ガラス溶融炉の炉底部に堆積している白金族元素を拡散させることで該堆積物を流動化させ、該流動化した堆積物を上記ガラス溶融炉の溶融ガラスの出口より排出させるようにすることを特徴とするガラス溶融炉の堆積物除去方法。
【請求項2】
ガラス粘度低下用化学物質として、亜鉛、スズ、ユウロピウム、セリウムのいずれかを用いるようにする請求項1記載のガラス溶融炉の堆積物除去方法。
【請求項3】
ガラス粘度低下用化学物質を、ガラス溶融炉の運転中に供給するようにする請求項1又は2記載のガラス溶融炉の堆積物除去方法。
【請求項4】
ガラス粘度低下用化学物質を、ガラス溶融炉より溶融ガラスのドレンアウトをした後、該ガラス溶融炉に供給してガラス溶融炉の通常運転温度で溶融させるようにする請求項1又は2記載のガラス溶融炉の堆積物除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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