説明

ガラス粉砕物の溶融方法、ガラス溶融物及びガラス材料

【課題】エネルギーの消費を削減し、かつ固化した後のガラス材料の着色を防止するガラス粉砕物の溶融方法、ガラス溶融物及びガラス材料を提供する。
【解決手段】粉砕したガラスと炭酸ナトリウムとを含む混合物を溶融するガラス粉砕物の溶融方法であって、前記ガラスが溶融する最低の温度よりも低い温度で前記混合物を溶融する、溶融方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス粉砕物の溶融方法、ガラス溶融物及びガラス材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶テレビ、ノート型パソコン及び携帯電話等の液晶ディスプレイ(LCD)のディスプレイパネルには、無アルカリガラスなどのガラス材料が用いられている(以下、LCDのディスプレイパネルに用いられるガラス材料を「パネルガラス」という。)。これらの電子機器は普及の一途にあり、それに伴い、それらの電子機器の廃棄量も増加している。現在、パネルガラスは、廃棄物の処理施設において粉砕された後、埋め立て処理されたり、あるいは焼却処理されたりしている。しかしながら、環境保護の観点から、電子機器に用いられる各材料をリサイクルすることが要求されており、今後はパネルガラスもリサイクルして、資源として有効に活用することが求められている。
【0003】
パネルガラスをリサイクルする方法として、例えば特許文献1には、無アルカリガラスを破砕する破砕工程と、バッチ原料と混合することにより破砕された無アルカリガラスにNa2Oを添加する調合工程と、破砕された無アルカリガラスとバッチ原料との混合物を加熱溶融する溶融工程とを含む、無アルカリガラスのリサイクル方法が開示されている。このリサイクル方法によると、不要となった液晶パネルなどから回収された無アルカリガラスを容易に溶融加工でき、多様な用途へと有効に利用することが可能となる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−280425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の従来のリサイクル方法によると、溶融工程における溶融温度(加熱温度)は1200℃以上という高温が好ましいとされている。しかしながら、本発明者らが特許文献1に記載の技術を詳細に検討したところ、1200℃以上の溶融温度では、エネルギーの消費量及びコストが大きく、パネルガラスをリサイクルできたとしても、経済的な観点及び環境的な観点から優れた技術とはいい難いことが判明した。また、破砕された無アルカリガラスにNa2Oを添加して溶融すると、再び固化した後のガラス材料が着色してしまい、ガラス材料としてリサイクルする用途が限られる可能性もあることも知見した。
【0006】
そこで、本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、エネルギーの消費を削減し、かつ固化した後のガラス材料の着色を防止するガラス粉砕物の溶融方法、ガラス溶融物及びガラス材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ガラス粉砕物に特定の化合物を配合した状態で溶融することによって溶融温度を低下させる結果、エネルギーの消費を削減でき、かつ、固化した後のガラス材料の着色を防止することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記のとおりである。
[1]粉砕したガラスと炭酸ナトリウムとを含む混合物を溶融するガラス粉砕物の溶融方法であって、前記ガラスが溶融する最低の温度よりも低い温度で前記混合物を溶融する、溶融方法。
[2]粉砕したガラスと炭酸ナトリウムとを含む混合物を800℃超950℃未満の温度で溶融するガラス粉砕物の溶融方法であって、前記ガラスと前記炭酸ナトリウムとの合計量に対する前記炭酸ナトリウムの含有量が、前記混合物を前記温度で溶融できる量である、溶融方法。
[3]前記ガラスは、950℃未満のいずれの温度でも溶融しないガラスである、[1]又は[2]の溶融方法。
[4]前記ガラスは、アルカリ金属の含有量が酸化物換算で7質量%以下である無アルカリ又は低アルカリガラスである、[1]〜[3]のいずれか一つの溶融方法。
[5]前記ガラスと前記炭酸ナトリウムとの合計量に対する前記炭酸ナトリウムの含有量が、2〜10質量%である、[1]〜[4]のいずれか一つの溶融方法。
[6]前記粉砕したガラスは、液晶ディスプレイのディスプレイパネルに用いられガラスである、[1]〜[5]のいずれか一つの溶融方法。
[7]前記混合物を溶融する前記温度が820〜930℃である、[1]〜[6]のいずれか一つの溶融方法。
[8]前記混合物を溶融する前記温度が820〜880℃である、[1]〜[7]のいずれか一つの溶融方法。
[9]粉砕した前記ガラスの平均粒径が15μm以上50μm以下である、[1]〜[8]のいずれか一つの溶融方法。
[10][1]〜[9]のいずれか一つのガラス粉砕物の溶融方法によって得られるガラス溶融物。
[11][10]のガラス溶融物を固化して得られるガラス材料。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、エネルギーの消費を削減し、かつ固化した後のガラス材料の着色を防止するガラス粉砕物の溶融方法、ガラス溶融物及びガラス材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。
【0011】
本実施形態のガラス粉砕物の溶融方法は、粉砕したガラスと炭酸ナトリウムとを含む混合物を溶融するガラス粉砕物の溶融方法であって、上記ガラスが溶融する最低の温度よりも低い温度で上記混合物を溶融するものである。この溶融方法は、その混合物を上述のようにして溶融する工程を経てガラス溶融物を得るガラス溶融物の製造方法である。
【0012】
粉砕したガラス、すなわちガラス粉砕物は、不要となった(廃棄された)LCDなどから回収されたパネルガラスの粉砕物であってもよく、LCDの製造工程前又は製造工程中に破砕などして不良となったパネルガラス(例えばマザーガラス)の粉砕物であってもよく、LCDの製造工程において切断された端材(パネルカットガラス端材)の粉砕物であってもよく、もちろんこれらを混合したものであってもよい。LCDなどから回収されたパネルガラスには、カラーフィルタとして用いられる有機物薄膜、TFT(Thin Film Transistor)として用いられる金属薄膜及び無機物薄膜が接着されている場合もある。そのような膜は、例えば、手作業による剥離、カッターナイフなどの刃物による剥離、サンドブラスト及び回転研磨などの研磨手段による剥離、酸性溶液及び有機溶媒などを用いたエッチングによる剥離等、従来、知られている手法を単独で又は適宜組み合わせることで、除去することができる。
【0013】
ガラス粉砕物におけるガラスの種類としては、本発明による効果をより有効に発揮する観点から、950℃未満のいずれの温度でも溶融しないガラスであると好ましく、無アルカリガラス又は低アルカリガラス(以下、「無アルカリガラス等」という。)がより好ましい。無アルカリガラス等は、アルカリ金属酸化物を含まない又はその組成比が小さいものである。無アルカリガラス等の組成は、例えば、酸化物換算で、主成分であるSiO2が45質量%以上、B23が0〜20質量%、Al23が3〜20質量%、アルカリ土類金属酸化物(MgO+CaO+SrO+BaO)及びZnOの合計量が5〜30質量%、アルカリ金属酸化物(Na2O+K2O)が0〜10質量%である。アルカリ金属の含有量は、本発明による効果をより有効かつ確実に奏する観点から、酸化物換算で7質量%以下であると好ましい。無アルカリガラス等は、その他、SnO2、In23、ZrO2、及びFe23など、通常の無アルカリガラス等に含まれる金属酸化物を含んでもよい。
【0014】
下記表1に、従来知られている無アルカリガラス等の組成の例を示すが、本字嫉視形態にかかる無アルカリガラス等はこれらに限定されない。これらの無アルカリガラス等は1種を単独で又は2種以上を混合して用いられる。
【0015】
【表1】

【0016】
ガラス中のアルカリ金属酸化物は、網目修飾酸化物としてガラスに取り込まれることにより、ガラスの溶融温度(溶融する最低の温度)低下及び溶融時の粘度低下をもたらす。したがって、無アルカリガラス等は、ソーダ石灰ガラスと比較すると、溶融温度が高いが故に溶融するのに高いエネルギーを要すると共に、溶融時の粘度が大きいが故に加工性に劣る。そのため、ソーダ石灰ガラス用の溶融加工装置を用いて、無アルカリガラス等の溶融加工を行うことは、加熱機器の性能及び装置の耐熱性の観点からも不利である。
【0017】
また、無アルカリガラス等をリサイクルして用いる場合、リサイクルしていない無アルカリガラス等と対比すると、その電気的性能及び光学的性能が劣る。そのため、リサイクルした無アルカリガラス等は、建築用窓ガラス、ガラス繊維及び食器ガラスなどの汎用的な製品への適用が期待される。ところが、上述のとおり、無アルカリガラス等は、ソーダ石灰ガラスと比較すると、加工に高いエネルギーを必要とするため、エネルギー消費量の削減の観点からも不利となる。
【0018】
本実施形態の溶融方法によると、好ましくは無アルカリガラス等の950℃未満のいずれの温度でも溶融しないガラスと炭酸ナトリウムとを含む混合物を溶融することにより、その溶融温度を950℃未満まで下げることができ、しかも、溶融物を固化しても着色し難い。したがって、その溶融物から上述の汎用的な製品を作製する際のエネルギー消費を抑制でき、しかも、製品の美観を所望のとおりに維持することが可能となる。
【0019】
ガラスの粉砕には、従来知られている各種の粉砕方法を採用することができる。その粉砕に用いる装置としては、特に限定されず、例えば、ポットミル、ボールミル、及び二軸剪断式破砕機が挙げられ、これらのうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、粉砕する際には、水などの粉砕助剤を用いてもよい。
【0020】
ガラス粉砕物の粒径は特に限定されず、例えば平均粒径(体積平均径)で、5〜150μmであってもよい。混合物の溶融温度を更に低くする観点、及び、炭酸ナトリウムを配合しないガラス粉砕物に対して、炭酸ナトリウムの配合による溶融温度の低下効果をより有効に発揮する観点から、ガラス粉砕物の平均粒径は、15〜50μmであると好ましい。ガラス粉砕物の粒径は、ボールミルを用いる場合の粉砕メディアの大きさ及び量、粉砕時間及び粉砕速度(ボールミルを用いる場合の回転数)などにより制御することができる。また、粉砕後のガラス粉砕物を分級して粒径を調整してもよい。なお、ガラス粉砕物の粒径は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(例えば、堀場製作所製、商品名「LA−920」)により測定できる。
【0021】
上記混合物に含まれる炭酸ナトリウム(Na2CO3)は、ソーダ灰とも呼ばれるものであり、従来知られている方法により合成されたものであってもよく、市販品(例えばセントラル硝子社製)を入手してもよい。混合物中での分散性の観点から、炭酸ナトリウムは粉末の状態で混合物に含まれるのが好ましい。
【0022】
上記ガラスと炭酸ナトリウムとの合計量に対する炭酸ナトリウムの含有量は、その混合物を800℃超950℃未満の温度で溶融できる量であれば、特に限定されない。炭酸ナトリウムの含有量は、溶融温度と炭酸ナトリウムの含有量との関係を予備的な試験により求めることで予測することができる。ただし、混合物の溶融温度をできるだけ下げる観点、及び混合物を溶融する途中又は溶融した後の加工性、例えば混合物を溶融しながら発泡させて発泡ガラスを作製する場合の発泡性、を更に良好にする観点から、炭酸ナトリウムの含有量は、ガラスと炭酸ナトリウムとの合計量に対して、2〜10質量%であると好ましい。さらには、その下限は2.5質量%であるとより好ましく、3質量%であると更に好ましく、その上限は7質量%であるとより好ましく、5質量%であると更に好ましい。
【0023】
上記混合物には、本発明の効果を阻害しない範囲で任意の成分を添加してもよい。そのような成分は、従来、ガラスを溶融する際に添加されるものとして知られるものであってもよい。具体的には、例えば、鋳鉄スラグ、黒曜石が挙げられる。また、上記混合物は、粉砕したガラスと炭酸ナトリウムと必要に応じて任意の成分とを混合することにより得られる。炭酸ナトリウムを混合物の全体に分散させるために、混合物を振とうするなどして攪拌することが好ましい。
【0024】
粉砕したガラスと炭酸ナトリウムとの混合物を加熱溶融する際、その混合物を粉末の状態でるつぼ等の容器に入れて加熱溶融してもよく、あるいは、その混合物を従来知られているプレス成形などにより成形した後に加熱溶融してもよい。成形された混合物の形状は特に限定されない。
【0025】
本実施形態の溶融方法において用いられる溶融装置は、上記混合物を溶融できるものであれば特に限定されず、従来、ガラスを溶融するために用いられている溶融装置(焼成装置)であってもよい。加熱温度は特に限定されないが、上述の混合物をより迅速かつ確実に溶融する観点、及び、エネルギーの消費を更に削減する観点から、800℃超950℃未満であると好ましく、820〜930℃であるとより好ましく、820〜880℃であると更に好ましい。また、溶融時間も特に限定されないが、上述の混合物をより迅速かつ確実に溶融する観点、及び、エネルギーの消費を更に削減する観点から、1分間〜1時間が好ましく、5分間〜45分間がより好ましい。また、上記加熱温度まで昇温する際の昇温時間は特に限定されず、例えば、10分間〜90分間であってもよい。混合物を溶融する際の雰囲気は、特に限定されず、空気及び酸素ガスなどの酸化雰囲気であっても、窒素ガス及び希ガスなどの不活性ガス雰囲気であってもよい。さらに、本実施形態の溶融方法において、溶融の際に炭酸ナトリウムなどの影響によりガラス溶融物が発泡してもよい。
【0026】
上述のようにして得られたガラス溶融物を適宜冷却し固化させることにより、ガラス材料が得られる。ガラス材料の比重は、溶融の進行度合いが高く、各種用途への応用が容易になる観点から、2.0以上であることが好ましい。本実施形態に係るガラス材料は、発泡ガラスとして緑化用資材及び土木建築用資材として用いられてもよく、更に溶融されて、建築用窓ガラス、ガラス繊維及び食器ガラスなどの汎用的なガラス製品に加工されてもよい。
【0027】
本実施形態によると、粉砕したガラスを1000℃以下、例えば800℃超950℃未満の温度で、溶融することが可能となるため、その溶融の際のエネルギー消費を削減することが可能となる。また、本実施形態によると、固化した後のガラス材料の着色を防止することもできる。
【0028】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【実施例】
【0029】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
(パネルガラスの粉砕1)
廃材となったパネルガラスとして、マザーガラス(200kg)及びパネルカットガラス端材(20kg)を準備した。これらをそれぞれ、セラミック製のポットミルにより乾式粉砕し(条件:10〜30mmのセラミックス球を使用し、6時間粉砕)、更に目の開きが150μmである篩により分級して、粒径が150μm以下である2種類のガラス粉砕物を得た。得られたガラス粉砕物について、蛍光X線分析(装置:リガク社製、商品名「3270E」)によりその組成を分析した。その結果、それぞれのガラス粉砕物の組成は、酸化物換算で表2に示したとおりであった。
【0031】
【表2】

【0032】
次に、それぞれのガラス粉砕物の粒度分布を、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(例えば、堀場製作所製、商品名「LA−920」)により測定により測定した。その結果、平均粒径(体積平均径)は、マザーガラスのガラス粉砕物で84μmであり、パネルカットガラス端材のガラス粉砕物で83μmであった。また、D50は、マザーガラスのガラス粉砕物で75μmであり、パネルカットガラス端材のガラス粉砕物で65μmであった。
【0033】
(ガラス粉砕物と各種添加剤との混合物の溶融1)
上記ガラス粉砕物に対して、炭酸ナトリウム(セントラル硝子社製、純度99%以上の軽灰、以下同様。)、フッ化カルシウム(森田化学工業社製、純度98%、以下同様。)、水酸化ナトリウム(東ソー社製、商品名「トーソーパール」、粒状苛性ソーダ、以下同様。)及び珪酸ナトリウム(日本化学工業社製、J珪酸ナトリウム3号、以下同様。)のいずれかの添加剤を、混合物の全量に対して、3質量%、5質量%、7質量%又は10質量%添加し十分に攪拌して得られた混合物、並びに、上記ガラス粉砕物単体を準備した。これらそれぞれに、水分を20質量%添加して30gとし、5分間混練した後に成形して、直径約40mm、厚さ約5mmのボタン状試料を得た。このボタン状試料を、焼成試験炉内で、大気雰囲気下、加熱温度800℃、850℃、900℃、又は950℃、加熱温度までの昇温時間40分間、及び、加熱温度での保持時間10分間の条件で加熱し、その後、自然冷却した。
【0034】
ボタン状試料は、加熱前には表面に光沢がなく、かつ発泡が認められない。一方、加熱して溶融する場合は、まず、表面から溶融するため、その段階で加熱を止めると表面に光沢が認められる。更にボタン状試料を加熱していくと発泡するため、その段階で加熱を止めると表面に発泡に起因する凹凸が生じる。800℃に加熱した試料は、いずれも加熱前の試料と同様に、表面に光沢がなく、発泡も認められなかった。このことから、800℃で加熱した試料はいずれも溶融が進行しなかったことが分かった。850℃及び900℃に加熱した試料のうち、炭酸ナトリウム又は水酸化ナトリウムを添加した試料は、表面に光沢が生じるか発泡に基づく凹凸が認められ、溶融が進行していることを確認できた。ただし、水酸化ナトリウムを添加した試料は褐変等の着色が認められた。このような変色は、添加剤として水酸化ナトリウムを用いた場合だけでなく、酸化ナトリウムを用いた場合でも発生すると考えられる。一方、炭酸ナトリウムを添加した試料では着色が認められなかった。また、850℃及び900℃に加熱した試料のうち、ガラス粉砕物単体の試料、及び、フッ化カルシウム又は珪酸ナトリウムを添加した試料は、表面に光沢がなく、かつ発泡も認められないことから、溶融が進行しなかったことが分かった。950℃に加熱した試料は、表面に光沢が生じるか発泡に基づく凹凸が認められ、いずれも溶融が進行していることを確認した。
【0035】
(ガラス粉砕物と各種添加剤との混合物の溶融2)
上記ガラス粉砕物に対して、炭酸ナトリウム、フッ化カルシウム、水酸化ナトリウム及び珪酸ナトリウムのいずれかの添加剤を、混合物の全量に対して3質量%添加し十分に攪拌して得られた混合物を準備した。それらの混合物をそれぞれ、理研機器社製のプレス成形装置でプレス成形して、約100mm×約50mm×約15mmの直方体試料を得た。プレス条件は、Bench Press Capacityが10Ton・f、プレス面が約100mm×約50mmの面、プレス圧力が700kg/m2であった。この直方体試料を、焼成試験炉内で、大気雰囲気下、加熱温度850℃又は900℃、加熱温度までの昇温時間40分間、及び、加熱温度での保持時間30分間の条件で加熱し、その後、自然冷却した。
【0036】
加熱後の直方体試料の比重を、試料の質量と見掛け体積(直方体の3辺の長さから算出)より算出した。その結果を表3に示す。
【0037】
【表3】

【0038】
直方体試料の比重の大きさは、溶融の進行度合いを示す指標であり、比重が大きいほど、溶融が進行することを示す。表3に示す結果から、ガラス粉砕物がマザーガラス及びパネルカットガラス端材のいずれから得られたものであっても、また、加熱温度が850℃及び900℃のいずれであっても、炭酸ナトリウムを添加した試料が最も比重が大きくなり、溶融が進行していることが分かった。また、パネルカットガラス端材からのガラス粉砕物に水酸化ナトリウムを添加したものも、比重が大きくなったが、黄色への着色が認められた。さらに、加熱温度間で比較してみると、900℃での加熱の方が850℃での加熱よりも溶融が進行することが分かった。
【0039】
(パネルガラスの粉砕2)
廃材となったパネルガラスとして、パネルカットガラス端材を準備した。これを、ボールミル(マキノ社製、型式「BM−22.3」、容器内容積:22.3L、ライニング材質:鋼、粉砕媒体:鋼球(φ30)、粉砕媒体量:38kg、ガラス投入量:4.5kg、回転数:60rpm、モータ出力:0.75kW)を用いて粉砕し、約16μmの平均粒径を有するガラス粉砕物、及び約40μmの平均粒径を有するガラス粉砕物をそれぞれ得た。次いで、約16μmの平均粒径を有するガラス粉砕物を、目の開きが16μmである篩により分級して、平均粒径が16μmよりも小さなガラス粉砕物(以下、「ガラス粉砕物A」という。)、及び平均粒径が16μmよりも大きなガラス粉砕物(以下、「ガラス粉砕物B」という。)を得た。また、約40μmの平均粒径を有するガラス粉砕物を、目の開きが40μmである篩により分級して、平均粒径が40μmよりも小さなガラス粉砕物(以下、「ガラス粉砕物C」という。)、及び平均粒径が40μmよりも大きなガラス粉砕物(以下、「ガラス粉砕物D」という。)を得た。
【0040】
(ガラス粉砕物と炭酸ナトリウムとの混合物の溶融)
ガラス粉砕物A〜Dのそれぞれに対して、炭酸ナトリウムを混合物の全量に対して3質量%添加し十分に攪拌して得られた混合物、並びに、上記ガラス粉砕物A〜Dの単体を準備した。、それらをそれぞれ、理研機器社製のプレス成形装置でプレス成形して、約100mm×約50mm×約15mmの直方体試料を得た。プレス条件は、Bench Press Capacityが10Ton・f、プレス面が約100mm×約50mmの面、プレス圧力が700kg/m2であった。この直方体試料を、焼成試験炉内で、大気雰囲気下、加熱温度850℃又は900℃、加熱温度までの昇温時間40分間、及び、加熱温度での保持時間30分間の条件で加熱し、その後、自然冷却した。
【0041】
加熱後の直方体試料の比重を試料の質量と見掛け体積(直方体の3辺の長さから算出)より算出した。その結果を表4に示す。
【0042】
【表4】

【0043】
表4に示す結果から、900℃の加熱温度では、最も粒径の小さなガラス粉砕物Aは、炭酸ナトリウムの添加の有無に関わらず溶融が進行していることが認められた。一方、ガラス粉砕物B、C及びDは、炭酸ナトリウムの添加により、溶融の進行度合いがより高くなることが認められ、特にガラス粉砕物B、Dではその傾向が顕著であった。850℃の加熱温度では、ガラス粉砕物A、Cは、炭酸ナトリウムの添加により、溶融の進行度合いがより高くなることが認められた。一方、ガラス粉砕物B、Dは、炭酸ナトリウムの添加の有無に関わらず溶融があまり進行していないことが認められた。
上述のことから、概して、ガラス粉砕物の平均粒径が小さい混合物の方が平均粒径が大きい混合物よりも、低温での溶融が進行することが分かった。また、同じ平均粒径を有する場合、ガラス粉砕物の粒度分布が広い方が、低温での溶融が進行するものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係るガラス材料は、発泡ガラスとして緑化用資材及び土木建築用資材として利用可能性があり、更に溶融及び加工されて、建築用窓ガラス、ガラス繊維及び食器ガラスなどの汎用的なガラス製品に利用可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉砕したガラスと炭酸ナトリウムとを含む混合物を溶融するガラス粉砕物の溶融方法であって、前記ガラスが溶融する最低の温度よりも低い温度で前記混合物を溶融する、溶融方法。
【請求項2】
粉砕したガラスと炭酸ナトリウムとを含む混合物を800℃超950℃未満の温度で溶融するガラス粉砕物の溶融方法であって、前記ガラスと前記炭酸ナトリウムとの合計量に対する前記炭酸ナトリウムの含有量が、前記混合物を前記温度で溶融できる量である、溶融方法。
【請求項3】
前記ガラスは、950℃未満のいずれの温度でも溶融しないガラスである、請求項1又は2に記載の溶融方法。
【請求項4】
前記ガラスは、アルカリ金属の含有量が酸化物換算で7質量%以下である無アルカリ又は低アルカリガラスである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の溶融方法。
【請求項5】
前記ガラスと前記炭酸ナトリウムとの合計量に対する前記炭酸ナトリウムの含有量が、2〜10質量%である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の溶融方法。
【請求項6】
前記粉砕したガラスは、液晶ディスプレイのディスプレイパネルに用いられガラスである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の溶融方法。
【請求項7】
前記混合物を溶融する前記温度が820〜930℃である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の溶融方法。
【請求項8】
前記混合物を溶融する前記温度が820〜880℃である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の溶融方法。
【請求項9】
粉砕した前記ガラスの平均粒径が15μm以上50μm以下である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の溶融方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のガラス粉砕物の溶融方法によって得られるガラス溶融物。
【請求項11】
請求項10に記載のガラス溶融物を固化して得られるガラス材料。

【公開番号】特開2012−106875(P2012−106875A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255214(P2010−255214)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(507201245)株式会社 リサイクルワン (2)
【Fターム(参考)】