説明

ガラス繊維シート状物巻き取り装置及びガラス繊維シート状物回巻体の製造方法

【課題】ガラス繊維シート状物に損傷等を与えることなく、ガラス繊維シート状物回巻体を効率的に成形することができる巻き取り装置を提供する。
【解決手段】ロール24と巻き取り筒体22との間の隙間に入ったガラス繊維シート状物Sの先端部Sは、ロール24の駆動回転と巻き取り筒体22の従動回転により送られて、巻き取り筒体22の外周と誘導部材21のガイド面21aとの間の間隔部に入り、誘導部材21のガイド面21aにそって進み、巻き取り筒体22の外周に巻き付けられてゆく。そして、先端部Sは巻き取り筒体22の外周を周回した後、その上層に巻き取られるガラス繊維シート状物Sと巻き取り筒体22との間に挟持される。その後、誘導部材21が、退避手段によって駆動され、ガイド面21aがガラス繊維シート状物Sの巻き取り完了時の外周位置Zよりも外側に位置するように、巻き取り筒体22の半径方向に退避移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維よりなるシート状物を回巻体に形成するために使用されるガラス繊維シート状物巻き取り装置と、このガラス繊維シート状物巻き取り装置を使用するガラス繊維シート状物回巻体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスチョップドストランドマットやガラスコンティニュアスストランドマットのようなガラス繊維をシート状物として形成した加工品は、熱可塑性樹脂などの樹脂材を強化して、各種の複合強化材とすることによって構造材や機能材料などの様々な用途で使用されている。このようなガラス繊維シート状物は、一般にEガラス等の各種ガラス材質を有するガラス繊維より形成されたものであり、溶融状態からブッシング等の成形装置を使用して、厳しい管理の下で長繊維として製造されたガラス繊維を多様に加工することによって製造されている。例えば、ガラスチョップドストランドマットの場合であれば、溶融状態から引き出されて成形されたガラス繊維は、紙管等の周囲に巻き取られてケーキとされた後に乾燥され、その後ケーキから必要本数をまとめて引き出してガラス繊維切断装置によって所定長の寸法となるように切断される。このようにして切断されたチョップドストランドがコンベヤ上にランダムに堆積してシート状となった状態で、さらにその上から2次バインダーと呼ばれる樹脂剤を散布し、この状態で2次バインダーによりそれぞれのガラスチョップドストランド同士を接合するための加熱工程を経て、ガラスチョップドストランドマットが得られることとなる。そして製造されたガラスチョップドストランドマットは、搬送や保管の都合上巻き取られた形態、すなわち回巻体とされる。
【0003】
このようなガラスチョップドストランドマットについては、その作業性の向上や製造品位の向上を目的とした多様な発明がこれまでも行われている。例えば特許文献1には、円筒状に巻き取られた複数本のガラスチョップドストランドマットを基台上に複行複列で縦方向に積載してなる状態で、この周囲に15mm以上の幅の1本から4本の帯状体で緊締することで、従来の段ボール箱を必要とせず、環境面やコスト面で優れた梱包が開示されている。また特許文献2には、ガラスチョップドストランドマットを製造する際に、ストランド堆積物に結合剤を塗布する前に、水、蒸気、溶媒を塗布せずとも、堆積物に結合剤を効率良く付着させるために、チョップドストランドが切断されてコンベヤ上に堆積した上に結合剤、すなわち2次バインダーを散布する前にストランド堆積物を予熱するという発明が開示されている。特許文献3では、ガラスチョップドストランドマットとスチレンモノマー低含有硬化性樹脂を用いて凸部コーナー部を成形する場合に、型沿いせずに空隙が生じる欠陥、いわゆるスプリングバックを克服するためにガラスチョップドストランドマットのバインダーとしてビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物および/または水素化ビスフェノールAを含有し、且つその数平均分子量と重量平均分子量とを限定して改善することができる発明が開示されている。特許文献4では、ガラスストランドマットの輸送効率、保管スペースの効率化を計るため、ガラスストランドを綴ら折りし、さらに必要に応じて真空パックとする考案が開示されている。
【0004】
特許文献1に記載されているガラスチョップドストランドのようなガラス繊維シート材は、円筒状、すなわち回巻状に巻き取った形態として一般に流通している。しかしながらこのような形態とするためには、巻き取りの最初の段階で芯材の周囲にガラス繊維シートの端部を固定しないと円滑な巻き取り操作を行うことは困難である。このためガラス繊維シート状物の先端部に接着剤を塗布して芯材と接着するか、あるいはガラス繊維シート状物の先端部近傍に織り込み部を設け、その織り込み部の反発力を利用して、芯材の周囲を一周して巻き取られたガラス繊維シート状物と芯材との間に先端部の織り込み箇所を挟むことによって滑りにくくするということが行われている。この作業は人力によって手作業で行われるため、作業に危険が伴うことになる。このような観点から、このような手作業を行わずに作業を行うための巻き取り装置が提案されている。例えば特許文献5では、マット製品の先端を巻き込んでロール体とする装置において、マット製品の側面と接し、マット製品の巻回に従動するように自由回転可能なマット製品の側面部を規制する部材を設けたマット製品ロール体の形成装置が開示されている。また特許文献6では、繊維マットの供給に伴って、巻き上げ空間を囲む状態にそれらの搬送面を位置させていて、前記各搬送面を、これら搬送面に内接する円の半径方向一端側から前記巻き上げ空間内に供給されてくる帯状の繊維マットを前記内接円の円周に沿って順送りすることにより、繊維マットをロール状に巻き上げる複数のロールアップ用コンベヤを設けてある繊維マットのロールアップ装置であって、前記繊維マットの供給に伴って、前記巻き上げ空間内に供給された繊維マットの長さに比例して前記内接円の径が増大するように、前記搬送面を半径方向に位置変更させる機構を設けてなる繊維マットのロールアップ機構が開示されている。さらに特許文献7では、コンベアの下流末端に並設の接圧ローラと圧接ローラとで形成の窪み上を移動するマット上で、該ローラの回転に追動して逆回転する芯材にマットの先端辺を巻き込むガラス繊維マットの巻付装置において、回転する半円板状のカムに従節しその中間支点を軸として回動自在なスイングアームと、該スイングアームの端部と軸着して追動する遠隔シャフトの端部に、前記圧接ローラの両軸端に軸着、かつ該ローラの外周より先端部が突出しその一方の後端部と軸着する回動自在な巻付アームと、該巻付アーム先端部間に懸吊軸架しその軸周面上で前記接圧ロール側の上方に屈折の制御棒を固着した一体な巻付板と、前記圧接ローラの上方上流側に前記制御棒と当接し前記巻付アームの傾動と共に前記巻付板を回動せしめるストッパーとを設けたことを特徴とするガラス繊維マットの巻付装置が開示されている。
【特許文献1】特開平10−167272号公報
【特許文献2】特開平10−226951号公報
【特許文献3】特開2003−48255号公報
【特許文献4】実用新案登録第3048584号公報
【特許文献5】実公平1−41712号公報
【特許文献6】特開昭61−140446号公報
【特許文献7】実開平5−77151号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これまで行われてきた発明だけでは、より高品位のガラス繊維シート状物を製造するには十分なものではない。まず人力による作業は、危険を伴うばかりか、ガラス繊維のマット等にも悪影響を与える。なぜならば、織り込みを形成する場合にガラス繊維シート状物の先端部、あるいは末端までを完全に損傷のない状態で使用できるものとすることができないからである。すなわちシート状物の先端部に接着剤が付着している箇所や、織り込みによってガラス繊維シート状物が折れた箇所は、不要物が付着残留している場合もあり、ガラス繊維が切断された状態や傷が残った状態となっている場合もある。このため、このガラス繊維シート状物の末端に近い部分を複合材料として用いると、複合材料の強度等の性能に悪影響を及ぼす可能性があり、このガラス繊維シート状物の末端に近い部分は廃棄する以外にないため、資材を完全に使いきるという観点で経済的ではないものとなっている。またこのような状況では、人力を基準とした程度の低速での巻き取りしか行えず、製造効率を低い水準にしている。さらに特許文献5、6、7に示されたこれまでの自動巻き取り装置は、駆動機構が複雑であって、しかも大掛かりな設備投資を行わねばならず、製造コストを高いものとし、経済的にも問題があるものであった。
【0006】
さらに特許文献4に記載されたような綴ら折り形態を採用すれば、折りの曲率が小さい箇所では回巻状に巻き取った形態でガラス繊維シート状物先端部の近傍に形成された織り込み部と同様の欠陥を発生させる危険性が高く、高強度なFRP用途で使用されるガラス繊維シート材としては利用できないものとなってしまう。特許文献2、3のような各種の改善を行ったとしても、このように製造効率の低い状態で形成された回巻体では、製造原価を高いものなり、一層多くの用途でガラス繊維シート状物を利用する上での妨げとなるものである。
【0007】
本発明は、以上の問題点を解決するために提案されたもので、大規模な設備投資を行う必要がないと共に、ガラス繊維シート状物に損傷等を与えることなく、ガラス繊維シート状物回巻体を効率的に成形することができるガラス繊維シート状物巻き取り装置と、この装置を使用するガラス繊維シート状物回巻体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ガラス繊維シート状物回巻体を高速成形する方法に関わる研究を行う中で、人力に頼らなくてもガラス繊維シート状物回巻体を容易かつ効率良く、経済的にも問題なく形成することができ、しかもこうして得られたガラス繊維シート状物回巻体に従来のような損傷箇所が発生しないことを見出し、ここに従来にない新規なガラス繊維シート状物巻き取り装置とガラス繊維シート状物回巻体の製造方法を提示する。
【0009】
すなわち、本発明のガラス繊維シート状物巻き取り装置は、同方向に駆動回転する一対のロールと、一対のロール間の上面谷部の上方に回転自在に配置された巻き取り筒体とを備え、一対のロールのうち一方のロールの側から供給されるガラス繊維シート状物を、一対のロールの駆動回転と巻き取り筒体の従動回転により、巻き取り筒体の外周に巻き付けてガラス繊維シート状物回巻体を形成するガラス繊維シート状物の巻き取り装置であって、巻き取り筒体の外周に沿った曲率を有し、該外周と間隔を隔てて対向するガイド面を備えた誘導部材が移動可能に配設されており、ガラス繊維シート状物の先端部が巻き取り筒体の外周を周回し、その上層に巻き取られるガラス繊維シート状物と巻き取り筒体との間に挟持された後に、誘導部材を、ガイド面がガラス繊維シート状物の巻き取り完了時の外周位置よりも外側に位置するように退避移動させる退避手段を備えていることを特徴とする。
【0010】
本発明のガラス繊維シート状物巻き取り装置の動作の一例を、図1を参照しながら具体的に説明する。
【0011】
帯状になるように形成されたガラスチョップドストランドマットのようなガラス繊維シート状物Sをコンベヤローラ等の搬送手段を使用することにより所定速度で搬送し、図1(A)示すように、一対の同方向に駆動回転するローラ24の一方の側(同図で左側)から巻き取り装置20に供給する。一対のロール24間の上面谷部の上方には巻き取り筒体22が中心軸23回りに回転自在に配置されており、ガラス繊維シート状物Sの先端部がローラ24の外周と巻き取り筒体22の外周との間の隙間に入ると、巻き取り筒体22はローラ24の駆動回転に従動して、ローラ24を反対方向に回転する。これにより、ガラス繊維シート状物Sが巻き取り筒体22の外周に巻き取られてゆく。巻き取り筒体22の半径方向外側には、ガイド面21aを有する誘導部材21が配置されている。誘導部材21のガイド面21aは、巻き取り筒体22の外周に沿った曲率を有し、巻き取り筒体22の外周と所定の間隔を隔てて対向している。ローラ24と巻き取り筒体22との間の隙間に入ったガラス繊維シート状物Sの先端部S1は、ロール24の駆動回転と巻き取り筒体22の従動回転により送られて、巻き取り筒体22の外周と誘導部材21のガイド面21aとの間の間隔部に入る。そして、図1(B)に示すように、上記間隔部に入った先端部S1は誘導部材21のガイド面21aにそって誘導(ガイド)されながら進み、巻き取り筒体22の外周に巻き付けられてゆく。そして、図1(C)に示すように、先端部S1は巻き取り筒体22の外周を周回(一周)した後、その上層に巻き取られるガラス繊維シート状物Sと巻き取り筒体22との間に挟持される。その後、図1(D)に示すように、誘導部材21が、図示されていない退避手段によって駆動され、ガイド面21aがガラス繊維シート状物Sの巻き取り完了時の外周位置(満巻き時の回巻体の外周位置)Zよりも外側に位置するように、巻き取り筒体22の半径方向(M方向)に退避移動する。従って、ガラス繊維シート状物Sの巻き取り時に誘導部材21のガイド面21aが妨げになることはない。このような一連の動作によって、誘導部材21のガイド面21aは、巻き取り初期において、ガラス繊維状シート状物Sの先端部S1が確実に巻き取り筒体22の外周に積層した状態となるように円滑に巻き付けていくことを可能にする。このため、ガラス繊維状シート状物Sの先端部S1近傍を接着剤などで固定する必要もなく、また、ガラス繊維状シート状物Sの先端部S1の近傍を折り込むこともなくガラス繊維状シート状物Sの回巻体を得ることができる。
【0012】
誘導部材21の退避移動は、巻き取り筒体22の回転速度(巻き取り速度)を勘案して、所定時間経過後に行う構成としても良いし、あるいは、巻き取り筒体22の外周に巻き取られたガラス繊維シート状物Sの厚みをセンサー等で検出し、その検出値に基づいて行う構成としても良い。また、誘導部材21のガイド面21aの移動距離や移動速度は、ガラス繊維シート状物Sの巻き取り速度や巻き取り完了時(満巻き時)の回巻体の外径に応じた値とすればよく、誘導部材21のガイド面21aが巻き取り動作の妨げになることがなければよい。
【0013】
また、誘導部材21の退避移動後の位置は、巻き取り筒体22の外周からガイド面21aまでの半径方向距離Lが、巻き取り筒体22の外周から満巻き時の回巻体の外周位置Zまでの半径方向距離Tに10mmを加えた値よりも大きい値とすることが好ましく、より好ましくは20mmを加えた値よりも大きい値とすることである。これは、退避後のガイド面21aの位置が回巻体の外周位置Zに近すぎると、巻き密度の増減によって、ガイド面21aに擦れる等の問題が発生するからである。
【0014】
誘導部材を構成する材料としては、ガラス繊維シート状物の先端部を誘導するに足るだけの機械的な強度を実現することのできる材料であればどのような材料を用いてもよく、例えば各種プラスチックやFRP、金属や木材、さらにゴムやガラス等の材料を単独あるいは複合させたものであってもよい。この内でも特にプラスチックやFRPは、それなりの強度を有し軽量で成形性も高いためより好ましい。プラスチックとしては、例えばアクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、又は芳香族ポリエステルなどを使用すればよいが、他のプラスチック材料であっても問題はない。
【0015】
誘導部材は、鋳込み成形や押し出し成形等の成形方法により成形してもよいし、また切削加工によって形成してもよい。また予め複数の部材を成形しておき、それぞれの部材を組み合わせることによって形成したものであってもよい。組み合わせる方法としては、例えば接着剤を使用する接着や融着、またはボルト等による固定、さらに支柱に複数の部材を通して固定することで接合したものを得ることも可能である。
【0016】
また、巻き取り筒体は、経済性などを考慮するとダンボール紙製等の紙管とするのが好ましいが、機械的な強度を重視する場合にはプラスチックやFRPなどの材料によって構成されるものであってもよい。
【0017】
また、本発明のガラス繊維シート状物巻き取り装置は、上述に加え、巻き取り筒体の中心軸と垂直な断面において、誘導部材のガイド面が巻き取り筒体の外周と同心で、かつ、上記中心軸を中心とする120°から270°の角度範囲の円弧形状を有するものであれば、ガラス繊維シート状物の先端部を的確に誘導することが可能となり、上記した誘導部材の退避動作を行う場合に容易に誘導部材を移動させやすい構成とすることができる。
【0018】
誘導部材のガイド面の上記角度が120°に満たないと、ガラス繊維シート状物の柔軟性の度合いや巻き付け速度の条件によってはガラス繊維シート状物の先端部を巻き取り筒体に巻き付けることができなくなる場合がある。上記角度を120°以上とすることによって、巻き付け速度が高速になっても支障なく巻き付けができるようにすることができ、また、柔軟に乏しい、厚みのあるガラス繊維シート状物に対しても、効率的な巻き付け動作を行わせることができる。また、上記角度が270°を越えると、誘導部材の退避移動が困難になる場合がある。
【0019】
以上のような観点から、巻き取り動作や誘導部材の退避移動をより円滑に行うことのできるものとするには、ガイド面の上記角度は100°から250°の角度範囲内で設定するのが好ましい。
【0020】
また、本発明のガラス繊維シート状物巻き取り装置は、上述に加え、誘導部材のガイド面の端部と巻き取り筒体の外周との間の間隔が、ガラス繊維シート状物の厚み寸法に対して2倍以上であると、ガラス繊維シート状物の巻き取り時に、特にその表面に損傷などの欠陥を生じさせたりすることがなく、ガラス繊維シート状物を確実かつ的確に巻き取り筒体へと円滑に巻き取ることができるので好ましい。
【0021】
ここで、上記の間隔は、誘導部材のガイド面の端部と巻き取り筒体の外周との間の最短距離である。
【0022】
ガラス繊維シート状物の厚み寸法は、ガラス繊維の種類やその用途等によっても異なるが、0.05mmから10mmまでの厚みを有している。従って、上記の間隔は、0.1mm以上から20mm以上程度の大きさであることが好ましい。上記の間隔が過大であると、ガラス繊維シート状物に皺が生じ易くなる場合もあり、安定した品位の回巻体が得られにくくなる。一方、上記の間隔がガラス繊維シート状物の厚み寸法の5倍を超えると、ガイド面の誘導機能が得られなくなる場合がある。よって、上記の間隔は、ガラス繊維シート状物の厚み寸法の2倍から5倍の範囲内とするのが好ましい。具体的な寸法を例示すれば、0.1mmから50mmまでの範囲となる。
【0023】
また、本発明のガラス繊維シート状物巻き取り装置は、ガラス繊維シート状物としてのガラスチョップドストランドマットの巻き取りに好適である。
【0024】
ここで、ガラスチョップドストランドマットは、ガラス繊維のストランドを所定長さとなるように切断することによって得られるガラスチョップドストランドを敷き詰めて布形状の形態としたものである。
【0025】
ガラスチョップドストランドマットを構成するガラスチョップドストランドの長さや太さは用途に応じて様々な寸法を採用することが可能であり、特に限定されるものではない。各々のガラスチョップドストランドは、有機樹脂により強固に結合された状態となっている。
【0026】
また、本発明のガラス繊維シート状物回巻体の製造方法は、上述したガラス繊維シート状物巻き取り装置を使用し、巻き取り筒体に10m/分〜300m/分の巻き取り速度でガラス繊維シート状物を巻き取ってガラス繊維シート状物回巻体を製造することを特徴とする。
【0027】
ガラス繊維シート状物の巻き取り速度が10m/分未満であると、大量生産を行う上で製造効率が向上せず、経済的ではない。一方、巻き取り速度が300m/分を越えると、ガラス繊維シート状物にわずかな撓み等があっても、それが巻き取り時の欠陥を生じる原因となる可能性があり、製造管理が難しくなるので好ましくない。以上の観点から、より高い品位で、しかも高い安定度を有する巻き取りを行うために、巻き取り速度は、20m/分〜250m/分の範囲とするのが好ましく、さらに好ましくは30m/分〜200m/分の範囲とすることであり、一層好ましくは40m/分〜180m/分とすることである。
【0028】
本発明の製造方法によって製造されたガラス繊維シート状物回巻体は、巻き取られたガラス繊維シート状物の先端位置近傍に接着剤の塗布や織り込みが施されていない構成とすることができる。ここで、ガラス繊維シート状物の先端位置近傍とは、例えばガラス繊維シート状物の先端から1000mmまでの寸法の部位である。
【0029】
上記のガラス繊維シート状物回巻体を構成するガラス繊維の材質は、所望の性能を発揮するものであれば特に限定されることはなく、様々な材質のガラス繊維を使用することが可能である。例えば、Eガラス、Dガラス、Cガラス、ARガラス、Hガラス、又はSガラス等の代表的な組成のガラス繊維であってもよく、他の組成を有するものであってもよい。
【0030】
また、上記のガラス繊維シート状物回巻体を構成するガラス繊維の表面には様々な有機樹脂を適量だけ付着させることができ、単数あるいは複数種の樹脂を用途に応じて混合して使用することが可能である。
【0031】
また、上記のガラス繊維シート状物回巻体は、回巻体を解除したガラス繊維シート状物を使用して各種の用途で、樹脂材などの機械的性能を強化する場合に使用することができ、例えば電子機器関連用途では、電子機器ハウジング材、ギアテープリール、各種収納ケース、光部品用パッケージ、電子部品用パッケージ、スイッチボックス、絶縁支持体などがあり、車載関連用途では、車体屋根材(ルーフ材)、窓枠材、車体フロント、カーボディ、ランプハウス、エアスポイラー、フェンダーグリル、タンクトロリー、ベンチレーター、水タンク、汚物タンク、座席、ノーズコーン、フェンダーグリル、カーテン、フィルター、エアコンダクト、マフラーフィルター、ダッシュパネル、ファンブレード、ラジエータータイヤ、タイミングベルトなどがあり、航空機関連用途ではエンジンカバー、エアダクト、シートフレーム、コンテナ、カーテン、内装材、サービストレイ、タイヤ、防振材、タイミングベルトなどがあり、造船、陸運海運関連用途ではモーターボート、ヨット、漁船、ドーム、ブイ、海上コンテナ、フローター、タンク、信号機、道路標識、カーブミラー、コンテナ、パレット、ガードレール、照明灯カバー、火花保護シートなどがあり、農業関連用途ではビニールハウス、サイロタンク、スプレーノズル、支柱、ライニング、土壌改良剤などがあり、建設・土木・建材関連ではバスタブ、バストイレユニット、便槽、浄化槽、水タンク、内装パネル、カプセル、バルブ、ノブ、壁補強材、プレキャストコンクリートボード、平板、波板、テント、シャッター、外装パネル、サッシ、配管パイプ、貯水池、プール、道路、構造物側壁、コンクリート型枠、ターポリン、防水ライニング、養生シート、防虫網などがあり、工業施設関連用途では、バグフィルター、下水道パイプ、浄水関連装置、防振コンクリート補強材(GRC)、貯水槽、ベルト、薬品槽、反応槽、容器、ファン、ダクト、耐蝕ライニング、バルブ、冷蔵庫、トレー、冷凍庫、トラフ、機器部品、電動機カバー、絶縁ワイヤ、変圧器絶縁、ケーブルコード、作業服、カーテン、蒸発パネル、機器ハウジングなどがあり、レジャースポーツ関連用途では、釣竿、スキー、アーチェリー、ゴルフクラブ、プール、カヌー、サーフボード、カメラ筐体、ヘルメット、衝撃保護防具、植木鉢、表示ボードなどがあり、日用品関連用途では、テーブル、椅子、ベッド、ベンチ、マネキン、ゴミ箱、携帯端末保護材などがある。
【発明の効果】
【0032】
(1)本発明のガラス繊維シート状物巻き取り装置によれば、巻き取られたガラス繊維シート状物回巻体から解除されたガラスチョップドストランドマットのようなガラス繊維シート状物に巻き取り時に起因するガラス繊維の割れや傷などの損傷がないため、機械的な強度面で問題のある損傷部分を廃棄する必要がなく、無駄なくガラス繊維シート状物を使用できるので経済的である。
【0033】
(2)また、誘導部材のガイド面が、120°から270°の角度範囲の円弧形状であるならば、ガラス繊維シート状物の巻き取り時に効率良い巻き取りが行え、しかも、ガイド面を満巻き状態になる前に邪魔にならない位置まで退避させることが円滑に行える形態をコンパクトな構成で実現できる。
【0034】
(3)また、誘導部材のガイド面の端部と巻き取り筒体の外周との間の間隔がガラス繊維シート状物の厚み寸法に対して2倍以上であると、巻き取り時にガラス繊維シート状物のうねり等に起因する擦れによって発生する欠陥を防止することができるので、安定した品位を有するガラス繊維シート状物を得ることができる。
【0035】
(4)本発明のガラス繊維シート状回巻体の製造方法によれば、従来の20m/分未満の低速で製造される場合と比較して高い製造効率で優れた品位のガラス繊維シート状物を得ることができる、安価でしかも高性能なガラスチョップドストランドマットのようなガラス繊維シート状物を市場に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下に本発明のガラス繊維シート状物巻き取り装置とこの装置を使用するガラス繊維シート状物回巻体の製造方法について、実施例に基づいて具体的に説明する。
【実施例1】
【0037】
図1及び3に本発明のガラス繊維シート状物巻き取り装置の部分断面図を示す。図中で20はガラス繊維シート状物巻き取り装置、21は誘導部材、21aはガイド面、22は巻き取り筒体(紙管)、23は巻き取り筒体22の中心軸、24はローラ、25は誘導部材21のガイド面21aの端部、Hはガラス繊維シート状物Sが供給される方向、Mは誘導部材21の退避動作方向、S1はガラス繊維シート状物Sの先端部、Tは巻き取り筒体22の外周からガラス繊維シート状物Sの巻き取り完了時の外周位置(満巻き時の回巻体の外周位置)Zまでの半径方向距離、Lは巻き取り筒体22の外周から誘導部材21のガイド面21aまでの半径方向距離、αは誘導部材21のガイド面21aの巻き取り筒体22の中心軸23を中心とした角度をそれぞれ表している。
【0038】
この実施例のガラス繊維シート状物巻き取り装置20は、例えばガラス繊維シート状物としてのEガラス材質のガラスチョップドストランドマットSを回巻体として巻き取るためのものであり、同方向に連動して駆動回転する一対のローラ24と、一対のローラ24間の上面谷部の上方に回転自在に配置された巻き取り筒体としての紙管22とを備えている。紙管22の外周を図面で右斜め上方向から覆うように誘導部材21が配置されている。誘導部材21のガイド面21aと紙管22の外周との間の間隔は、例えば5mmの等間隔に設定されている。この誘導部材21は、例えば日本ポリペンコ株式会社製のMCナイロン(登録商標)(一般名称は6ナイロン)により構成されたものであって、予め作成した複数の部材を接合することによって長手方向(図面紙面と直交する方向)が3000mmで一辺が100mmの長尺柱状体としている。この誘導部材21の長手方向に垂直な断面形状は矩形から部分的な円形が取除かれた形状をなしており、その円形が取除かれた部分がガイド面21aになっている。従って、ガイド面21aは円弧形状断面を呈しており、このガイド面21aと紙管22の外周との間隔部をガラス繊維シート状物Sの先端部S1が誘導されていき、紙管22の外周を周回して巻き付くこととなる。この円弧形状のガイド面21aは、巻き取り筒体22の外周と同心であり、紙管22の中心軸23を中心とする角度αが190°まで拡がっている。この角度αの範囲では、ガラス繊維シート状物Sの先端部S1を的確にガイドすることができるため、従来のように、先端部S1の粘着あるいは接着による固定や、折り込み等の固定処置を行わなくとも円滑に巻き取りを行うことができる。
【0039】
誘導部材21は、巻き取り動作の最初期には、上述のように、ガイド面21aが巻き取り筒体22の外周と5mmの間隔を隔てた位置に維持される。そして、ガラスチョップドストランドマットSの先端部S1が紙管22の外周を周回(一周)し、その上層に巻き取られるガラスチョップドストランドマットSと紙管22の外周との間に挟持された後に、図示されていない退避手段によって、ガイド面21aがガラスチョップドストランドマットSの巻き取り完了時の外周位置よりも外側の位置まで退避移動する。例えば、ガラスチョップドストランドマットSの巻き取り完了時(満巻き状態の回巻体)の外周が半径135mm、紙管22の半径が54mmであるとき、紙管22の外周から回巻体の外周までの距離TはT=135mm−54mm=81mmであるので、誘導部材21は、ガイド面21aが81mm−5mm(初期位置)=75mmよりも大きい距離、初期位置から紙管22の半径方向外側に退避移動する。退避後における誘導部材21のガイド面21aの位置は、例えば紙管22の外周から120mmだけ半径方向に離れた位置である。
【0040】
この誘導部材21の退避動作は、例えば、時間設定を予め行い、巻き取り開始後10秒で退避動作が行われるように、油圧シリンダ(図示省略)等のアクチュエータを作動させて行わせることができる。むろん退避動作の機構は、これ以外の機構を採用してもよいが、いずれにせよ正確な動作が可能なものであればよい。
【0041】
次いで、本発明のガラス繊維シート状物巻き取り装置20を使用するガラス繊維シート状物回巻体の製造方法について、ガラス繊維シート状物としてガラスチョップドストランドマットSを例として説明する。
【0042】
図2に本発明の製造方法について説明するため、製造工程の一部を示し、本発明のガラス繊維シート状物巻き取り装置20がどこに配置されるかを配置図として示す。この図2において、41はケーキ、42はガラスストランド、43は繊維切断刃、44はガラスチョップドストランド、45はベルトコンベヤ、46は2次バインダー、47は加熱加圧装置をそれぞれ表している。
【0043】
まず、最初に予めEガラスとなるように調合された複数のガラス原料を混合した上で、ガラス熔融炉内へ投入し、高温状態で各種均質化操作を行って均質なガラス状態とし、この熔融ガラスを成形域に配設された耐熱性ブッシングへと導く。そして、4000ホールのノズルを付設したブッシングから連続したガラスフィラメントを引き出し、アプリケーターにより予め調整した集束剤を塗布した後にストランドの状態で紙管に巻き取ってケーキ41とする。このケーキ41の状態で保管、乾燥後に、複数のケーキ41から解除したガラスストランド42をガラス繊維切断装置へと導き、回転ロールに取り付けた切断刃43によって約50mm長のチョップドストランド44に切断加工する。
【0044】
こうして得られたガラスチョップドストランド44は、ベルトコンベヤ45上にランダムに散布されて堆積し、所定の密度で重なり合った状態となる。この上から2次バインダー46を散布した上で加熱、加圧装置で処理を行い、2次バインダー46によってそれぞれのガラスチョップドストランドを固結、接合した状態とすることによってガラスチョップドストランドマットSとなる。そして、ガラスチョップドストランドマットSを載せたベルトコンベヤの速度を40mm/分の速度とすることによって、高速な状態でガラス繊維シート状物巻き取り装置20へとガラスチョップドストランドマットSを導く。ガラスチョップドストランドマットSを載せたベルトコンベヤの速度は、ガラスチョップドストランドマットSの種類によっては10mm/分から100mm/分まで、種々の設定速度によって製造される。
【0045】
ガラス繊維シート状物巻き取り装置20は、上述したような構成であるため、人力に頼ることなく円滑にガラスチョップドストランドマットSを85mm/分の巻き取り速度で紙管22の外周上に巻き取ることができ、直径270mmのガラスチョップドストランドマットSの回巻体30を得ることができる。得られたガラスチョップドストランドマットSの回巻体30については、その説明図を図4(A)、(B)に示す。このチョップドストランドマットSは、図4(B)に示すように、巻き取りの最初の先端部S1に粘着剤や接着剤の塗布を行うこともなく、また折り込みも行うことがなく形成されたものであるため、ガラスチョップドストランドマットSに余分な付着物もなく、また折り込み時に生じたガラス繊維のクラックや傷も認められず、この回巻体30から解除されたガラスチョップドストランドマットSは最後の先端までも完全に使い切ることができる、優れた品位を有している。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明のガラス繊維シート状物巻き取り装置の動作説明図であって、(A)巻き取り初期、(B)はガラス繊維シート状物が誘導部材に沿って巻き取られつつある状態、(C)はガラス繊維シート状物が巻き取り筒体を一周した状態、(D)は誘導部材が満巻き時の回巻体の外周位置よりも巻き取り筒体からの距離が大きくなる方向へと退避した後の状態を表している。
【図2】本発明のガラス繊維シート状物巻き取り装置の配置図。
【図3】本発明のガラス繊維シート状物巻き取り装置の説明図であって、(A)は斜視図、(B)は巻き取り軸に垂直な(A)のX方向の断面図を表している。
【図4】本発明のガラス繊維シート状物回巻体の説明図であって、(A)は斜視図、(B)はY部の拡大図を表している。
【符号の説明】
【0047】
10、20 ガラス繊維シート状物巻き取り装置
11、21 誘導部材
11a、21a ガイド面
12、22 紙管(巻き取り筒体)
13、23 巻き取り軸
14、24 ローラ
25 誘導部材のガイド面の端部
30 ガラス繊維シート状物回巻体
41 ケーキ
42 ガラスストランド
43 繊維切断刃
44 ガラスチョップドストランド
45 ベルトコンベヤ
46 2次バインダー
47 加熱加圧装置
H ガラス繊維シート状物の供給方向
M 誘導部材の退避動作方向
S ガラス繊維シート状物
1 ガラス繊維シート状物の先端部
T 巻き取り筒体の外周と満巻き時の回巻体の外周位置との間の半径方向距離
L 巻き取り筒体の外周と誘導部材のガイド面との間の半径方向距離
Z 満巻き時の回巻体の外周位置
α 巻き取り筒体の中心軸を中心としたガイド面の角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同方向に駆動回転する一対のロールと、該一対のロール間の上面谷部の上方に回転自在に配置された巻き取り筒体とを備え、前記一対のロールのうち一方のロールの側から供給されるガラス繊維シート状物を、前記一対のロールの駆動回転と前記巻き取り筒体の従動回転により、前記巻き取り筒体の外周に巻き付けてガラス繊維シート状物回巻体を形成するガラス繊維シート状物の巻き取り装置であって、
前記巻き取り筒体の外周に沿った曲率を有し、該外周と間隔を隔てて対向するガイド面を備えた誘導部材が移動可能に配設されており、
前記ガラス繊維シート状物の先端部が前記巻き取り筒体の外周を周回し、その上層に巻き取られるガラス繊維シート状物と前記巻き取り筒体との間に挟持された後に、前記誘導部材を、前記ガイド面が前記ガラス繊維シート状物の巻き取り完了時の外周位置よりも外側に位置するように退避移動させる退避手段を備えていることを特徴とするガラス繊維シート状物巻き取り装置。
【請求項2】
前記巻き取り筒体の中心軸と垂直な断面において、前記誘導部材のガイド面は前記巻き取り筒体の外周と同心で、かつ、前記中心軸を中心とする120°から270°の角度範囲の円弧形状を有することを特徴とする請求項1に記載のガラス繊維シート状物巻き取り装置。
【請求項3】
前記誘導部材のガイド面の端部と前記巻き取り筒体の外周との間の間隔が、前記ガラス繊維シート状物の厚み寸法に対して2倍以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記戴のガラス繊維シート状物巻き取り装置。
【請求項4】
前記ガラス繊維シート状物が、ガラスチョップドストランドマットであることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載のガラス繊維シート状物巻き取り装置。
【請求項5】
請求項1から請求項3の何れかに記載のガラス繊維シート状物巻き取り装置を使用し、前記巻き取り取り筒体に10m/分〜300m/分の巻き取り速度で前記ガラス繊維シート状物を巻き取ってガラス繊維シート状物回巻体を製造することを特徴とするガラス繊維シート状物回巻体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−154996(P2009−154996A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−332614(P2007−332614)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【出願人】(507420732)電気硝子ファイバー加工株式会社 (7)
【Fターム(参考)】