説明

ガラス製造用珪砂の製造方法及びその方法により製造されたガラス製造用珪砂

【課題】未溶解物が生じ難いガラス製造用珪砂を安価に製造することができる方法を提供する。
【解決手段】粒子径ヒストグラム曲線における粒子径分布に複数の極大値を有し、海砂である珪砂原鉱を、粒子径ヒストグラム曲線における粒子径分布の極大値が相互に異なる複数の粒子群に分級する。複数の粒子群のうちのひとつの粒子群を粉砕する。粉砕された粒子群を分級し、粉砕された粒子群から所定の粒子径範囲にある珪砂を取り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス製造用珪砂の製造方法及びその方法により製造されたガラス製造用珪砂に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高性能化に伴って、電子機器等に用いられるガラスに求められる品質に対する要求も高まってきている。例えば、液晶ディスプレイなどのフラットパネルディスプレイに用いられるガラス基板などに対しては、未溶解物や気泡などが存在しないことや、可視光域における可視光線の透過率が高いことが従来にも増して強く求められるようになってきている。
【0003】
ガラス製品の品質向上には、溶融条件の適正化や溶融装置の改良も重要であるが、それにも増して、ガラス製品の製造に用いられる原料に含まれる不純物濃度を低くすることが重要である。例えば、ガラス原料として最もよく使用される珪砂には、通常、鉄やチタンなどの不純物が含まれるが、これら不純物が多く含まれている珪砂を用いてガラスを製造すると、ガラスの可視光線の透過率が悪化するなどの避けがたい問題が生じるためである。
【0004】
このような問題に鑑み、例えば下記の特許文献1〜3には、高品位なガラスを得るためのガラス原料及びその製造方法が開示されている。具体的には、特許文献1には、複数種類の粉粒状ガラス原料のうちの湿潤原料の団塊を解砕して他の硝子原料と混合せしめることによって、複数の原料の粒子径差によって生じる不均一さを低減することが開示されている。
【0005】
特許文献2には、珪砂原鉱、微粒の強磁性物及び少なくとも一種の酸、アルカリ及び塩を混和した鉱液に直流電流を通電し、次いで磁選することが記載されている。これにより、煩雑な工程を経ずとも不純物の分離が行える旨が特許文献2に記載されている。
【0006】
特許文献3には、低温熔融環境でも均質なガラス物品を得ることができるガラス用混合原料として、ガラス熔融炉に投入されるガラス用の混合原料であって、混合後に粉砕された複数の異なる組成を有する無機原料の粒子が分散された状態にあり、粉粒体の粒子径ヒストグラム曲線における粒子径であるD90が50μm以下となっているガラス用混合原料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭52−92223号公報
【特許文献2】特開昭52−56115号公報
【特許文献3】特開2006−69881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、近年、電子機器の高性能化のみならず、電子機器の低コスト化も強く求められるようになってきている。これに伴い、電子機器などに使用されるガラスに対する低コスト化の要求も高まってきている。このため、ガラス原料にも、不純物が少ないのみならず、低コストであることが強く求められるようになってきている。なかでも、ガラス原料として最も多く使用されている珪砂に対しては、低コスト化の要求が非常に高まってきている。
【0009】
安価な珪砂としては、例えば、粒子径ヒストグラム(粒子径頻度分布ともいう)曲線における粒子径分布に複数の極大値を有する海砂からなる珪砂(以下、本明細書において「複数ピーク珪砂」と称呼することとする。)が挙げられる。この複数ピーク珪砂をガラス原料として用いることができれば、ガラスの低コスト化を大きく進めることが可能となる。
【0010】
しかしながら、複数ピーク珪砂をガラス原料としてガラス溶融を行ったところ、未溶解物が生じやすいという問題が生じた。ガラス溶融温度を高めると未溶解物が低減したものの、ガラスの可視光線の透過率が低下するという問題が生じることとなる。従って、複数ピーク珪砂をそのままガラス原料として用いた場合は、高品位なガラスを製造することが困難であった。
【0011】
また、安価な複数ピーク珪砂から高品位な珪砂を得るべく、複数ピーク珪砂を上記の特許文献2に記載の方法で処理することも考えられるが、その場合であっても未溶解物が生じやすいという問題を解決することはできない。
【0012】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、未溶解物が生じ難いガラス製造用珪砂を安価に製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、粒子径ヒストグラム曲線における粒子径分布に複数の極大値(ピーク)を有し、海砂である珪砂原鉱(複数ピーク珪砂)をガラス原料としてガラス溶融を行ったときに未溶解物が生じやすい原因が、粒子径ヒストグラム曲線における粒子径分布の極大値が異なる粒子群では、粒子の組成が異なることにあることを見出した。
【0014】
すなわち、粒子径ヒストグラム曲線における粒子径分布に2以上の極大値を有する粒子径分布の珪砂原鉱は、例えば、異なる起源を有する天然岩石等が地殻変動に伴って層状に堆積した地殻から採取されたもの、あるいは異なる海岸線に析出した堆積砂が海流等の作用によって一カ所に蓄積されたものなどである。このため、粒子径ヒストグラム曲線における粒子径分布の極大値が異なる粒子群では、粒子の組成が異なる。よって、複数ピーク珪砂をガラス原料として用いた場合、ガラス溶融時において、溶融しやすい粒子が先に融解し、溶融しにくい粒子が未溶解物として残存する傾向にあることを見出した。また、複数ピーク珪砂から分離された、粒子径ヒストグラム曲線における粒子径分布の極大値をひとつのみ有する粒子群は、ほぼ同一の組成を有することを見出した。その結果、複数ピーク珪砂から未溶解物が残りにくい珪砂を得るためには、粉砕前に、複数ピーク珪砂を、粒子径ヒストグラム曲線における粒子径分布の極大値が相互に異なる複数の粒子群に分級しておき、複数の粒子群のうちのひとつの粒子群のみからガラス原料となる珪砂を製造することが有効であることに想到し、本発明を成すに至った。
【0015】
すなわち、本発明に係る第1のガラス製造用珪砂の製造方法は、粒子径ヒストグラム曲線における粒子径分布に複数の極大値を有し、海砂である珪砂原鉱を、粒子径ヒストグラム曲線における粒子径分布の極大値が相互に異なる複数の粒子群に分級する第1の分級工程と、複数の粒子群のうちのひとつの粒子群を粉砕する粉砕工程と、粉砕された粒子群を分級し、粉砕された粒子群から所定の粒子径範囲にある珪砂を取り出す第2の分級工程とを備えていることを特徴としている。
【0016】
また、本発明に係る第2のガラス製造用珪砂の製造方法は、粒子径ヒストグラム曲線における粒子径分布に複数の極大値を有し、海砂である珪砂原鉱を、粒子径ヒストグラム曲線における粒子径分布の極大値が相互に異なる複数の粒子群に分級して得られた粒子径ヒストグラム曲線における粒子径分布の極大値をひとつのみ有する粒子群を用いてガラス製造用珪砂を製造する方法であって、粒子径分布の極大値をひとつのみ有する粒子群を粉砕する工程と、粉砕された粒子群を分級し、粉砕された粒子群から所定の粒子径範囲にある珪砂を取り出す工程とを備えていることを特徴としている。
【0017】
本発明では、複数ピーク珪砂を粉砕する前に、第1の分級工程において、粒子径ヒストグラム曲線における粒子径分布の極大値が相互に異なる複数の粒子群に分級する。これら複数の粒子群のそれぞれは、粒子径ヒストグラム曲線における粒子径分布の極大値をひとつのみ有しており、ほぼ同一の組成を有している。このため、これら複数の粒子群のうちのひとつのみからガラス製造用珪砂を得ることにより、粒子間における組成ムラの少ないガラス製造用珪砂を得ることができる。よって、本発明により製造されたガラス製造用珪砂は、粒子間において溶融しやすさに大きな差がなく、本発明により製造されたガラス製造用珪砂には、溶融しにくい粒子がほとんど含まれていない。従って、本発明により製造されたガラス製造用珪砂を用いた場合、ガラスに未溶解物が残りにくい。
【0018】
また、本発明においては、第1の分級工程の後に、粉砕工程及び第2の分級工程が行われるため、粒子径が小さく、かつ粒子径分布幅の小さなガラス製造用珪砂を得ることができる。本発明に従い、粉砕工程を行って粒子径を小さくすることによって、ガラス溶融時に他のガラス原料との共融反応が進行しやすくなる。また、第2の分級工程を行い、粒子径分布幅を小さくすることによって、粒子の溶融しやすさの均一化を図ることができる。従って、未溶解物が生じにくくなる。
【0019】
未溶解物の残存をより効果的に抑制する観点からは、粉砕工程において粉砕された粒子群の粒子径ヒストグラム曲線における粒子のメジアン径であるD50が200μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましい。このようにすることによって、ガラス溶融時に他のガラス原料との共融反応が進行しやすくなる。従って、未溶解物が生じにくくなる。但し、粒子のメジアン径D50が20μm以下ないしは10μm以下のように小さすぎると粒子が凝集する傾向にあるため、粒子のメジアン径D50は20μm以上、好ましくは30μm以上であることが好ましい。
【0020】
さらに、本発明では、ガラス製造用珪砂の原料として、安価な複数ピーク珪砂を用いるため、ガラス製造用珪砂を安価に製造することができる。従って、本発明によれば、ガラス溶融温度を低くした場合であっても未溶解物が生じ難いガラス製造用珪砂を安価に製造することができる。
【0021】
本発明においては、粉砕工程は、複数の粒子群のうち、不純物濃度が最も低い粒子群を粉砕する工程であることが好ましい。通常、粒子径ヒストグラム曲線における粒子径分布の極大値が大きい粒子群の方が不純物濃度が低いため、粉砕工程は、複数の粒子群のうち、粒子径ヒストグラム曲線における粒子径分布の極大値が最も大きい粒子群を粉砕する工程であることが好ましい。このようにすることにより、不純物濃度が低いガラス製造用珪砂を製造することができる。不純物濃度をより低くする観点からは、粉砕工程において粉砕される粒子群の粒子径ヒストグラム曲線における粒子のメジアン径(D50)は、300μm以上であることが好ましい。
【0022】
なお、一般的には、鉄や酸化チタンなどの不純物は、粒子中に均一に分散しておらず、粒子には、不純物濃度が高い部分と低い部分とが存在している。そして、珪砂の場合、不純物濃度が高い部分よりも不純物濃度が低い部分の方が高粒子径である。従って、珪砂原鉱を粉砕した場合、粒子径の大きな粉砕物の方が不純物濃度が低く、粒子径が小さくなるに従って不純物濃度が高くなる傾向にある。このことに鑑み、例えば、第1の分級工程を行わず、複数ピーク珪砂を粉砕した後に、粒子径の大きな珪砂のみを選別することによりガラス製造用珪砂を製造することも考えられる。この場合、分級工程が一度で済むため、製造工程を簡略化することができ、ガラス製造用珪砂の製造コストを低減することができる。
【0023】
しかしながら、第1の分級工程を行わず、複数ピーク珪砂を粉砕した後に、粒子径の大きな珪砂のみを選別した場合は、得られた珪砂に組成の異なる粒子が含まれる場合がある。従って、未溶解物の残存を十分に抑制することが困難となる。
【0024】
また、第1の分級工程を行わず、複数ピーク珪砂を粉砕した後に、粒子径の大きな珪砂のみを選別した場合は、不純物濃度を十分に低くすることができない。
【0025】
粉砕工程の前に第1の分級工程を行い、粒子径ヒストグラム曲線における粒子径分布の極大値が大きい粒子群のみを取り出して粉砕工程を行い、粉砕された粒子群をさらに分級することによって初めて、粒子間の組成ムラが少なく、且つ不純物濃度が十分に低いガラス製造用珪砂を製造することができる。
【0026】
本発明の製造方法により製造されたガラス製造用珪砂は、例えば、電子部品用ガラス、窓板ガラス及び光部材用ガラスなどの種々のガラス製品の製造に用いられるものである。窓板ガラスとは、例えば積層板ガラス、複層板ガラス、強化板ガラス等の空間を2つに区分する用途で用いられる板ガラスである。電子部品用ガラスの具体例としては、例えばプリント配線基板やFRPに用いられるガラス繊維、フラッシュランプやキセノンランプ、バックライト、あるいは蛍光灯等に用いられる管ガラス等が挙げられる。また、光部材用ガラスの具体例としては、例えばレンズ、光ファイバー接続用部材などが挙げられる。
【0027】
なかでも、本発明は、SiO成分の含有量が多く、SiO成分を含む未溶解物が生じやすいガラス製品に特に好適である。SiO成分の含有量が多く、SiO成分を含む未溶解物が生じやすいガラス製品としては、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板などが挙げられる。フラットパネルディスプレイ用ガラス基板の具体例としては、例えば、液晶ディスプレイ用ガラス基板、プラズマディスプレイ用ガラス基板、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ用ガラス基板などが挙げられる。
【0028】
また、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板には、未溶解物が存在しないことのみならず、透過率の高いことも求められるため、透過率を高めることもできる本発明は、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板製造用の珪砂の製造に特に有用である。
【0029】
なお、本発明において用いる珪砂原鉱は、粒子径ヒストグラム曲線における粒子径分布に複数の極大値を有する海砂である限りにおいて特に限定されないが、複数の極大値のうちの最も大きな極大値と最も小さな極大値との差が10μm以上離れている海砂であることが好ましい。特に、本発明においては、10μm以上離れた極大値を2つ有する海砂を珪砂原鉱として用いることが好ましい。
【0030】
ここで、海砂とは、原石が地中で受ける様々な物理化学的な作用、特に水流によって表面が丸みを帯びた外観形状の珪砂をいう。
【0031】
また、珪砂原鉱とは、SiOを主成分とする原鉱を意味し、珪砂原鉱は、SiOのみからなる原鉱に限定されない。珪砂原鉱には、鉄や酸化チタンに加え、コバルト、クロム、カドミウム、マンガン等の重金属元素が含まれていてもよいが、可視光線の透過率の高いガラスを製造する観点からは、着色原因となるコバルトやクロム等の重金属元素及び鉄の含有量が少ない珪砂原鉱を用いることが好ましい。具体的には、用いる珪砂原鉱において、酸化物換算の質量百分率表示でFeが100ppm以下であることが好ましく、さらに好ましくは70ppm以下であり、酸化物換算の質量百分率表示でCrが3ppm以下であることが好ましく、さらに好ましくは1ppm以下であり、酸化物換算の質量百分率表示でTiOが300ppm以下であることが好ましく、さらに好ましくは250ppm以下であり、カドミウム及びマンガンのそれぞれは、質量百分率表示で10ppm以下であることが好ましい。
【0032】
また、珪砂原鉱には、ナトリウム及びカリウムなどのアルカリ金属元素が含まれていてもよいが、ナトリウム及びカリウムの酸化物換算の含有量は、100ppm以下であることが好ましい。
【0033】
本発明において、第1及び第2の分級工程における分級方法は、効率よく分級することができる方法であれば特に限定されず、乾式の分級方法を用いてもよいし、湿式の分級方法を用いてもよい。ここで、乾式の分級方法とは、分級対象物を気流中に投入して重量差によって分級する方法である。乾式の分級方法を行う際の雰囲気は、例えば、空気、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトンキセノン、フッ素、塩素、臭素、ノックス(NOx)、ソックス(SOx)、窒素、一酸化炭素、二酸化炭素、水素、塩素、水蒸気あるいはこれらのガスの混合雰囲気とすることができる。雰囲気圧力は、特に限定されず、分級工程は、例えば、大気圧下で行ってもよいし、減圧雰囲気下で行ってもよいし、高圧雰囲気下で行ってもよい。
【0034】
一方、湿式の分級方法とは、分級対象物を液流中に投入して分級する方法である。使用する液体としては、例えば、水、過酸化水素水、界面活性剤を添加した水溶液、イオンなどの反応性成分を含む水溶液、酸溶液、アルカリ性溶液、イオン活性水、プラズマ照射水、炭酸ガス飽和水等の各種ガス飽和水、非極性有機溶媒、あるいは極性有機溶媒などが挙げられる。
【0035】
粒子径分布の計測方法は、どのような原理によるものであってもよいが、原石の粒子を分散した状態で測定可能な方法であって、測定結果の再現性が5%以内に収まる方法であり、ハンドリング等による個人差が出にくい方法が好適に用いられる。このような方法としては、例えば、縮分操作した試料によるJIS Z8801−1(2008)「試験用篩−第1部:金属製ふるい」に規定された篩を用いて原砂の粒子径の計測する方法が挙げられる。また、レーザー回折計測装置による計測や、焼結した原料の計測の場合には、電子顕微鏡や各種微細構造の観測装置と得られた画像の解析装置等を併用することによって、粒子径分布を計測することも可能である。
【0036】
本発明では、縮分操作によって原鉱石から得られた同一の採取原料について、上記のような方法により粒子径分布の計測を3回行い、その結果を採用するものである。
【0037】
本発明の粉砕工程において用いられる粒子群の粉砕方法は、粒子群を効率的に粉砕でき、粒子群に異物が混入しにくい方法であれば特に限定されず、例えば、ボールミル法などにより粒子群の粉砕を行うことができる。ボールミル法において用いるボールは、ガラス製造用珪砂に微量混入した場合であってもガラス溶融に大きな影響を及ぼさない材料により形成されたものであることが好ましく、例えば、アルミナボールなどが好適に用いられる。
【0038】
ボールミル法を行う際のボールの使用量は、特に限定されないが、例えば、粒子群とボールミルとの質量比率が1対1.5程度となるようにすることが好ましい。ボールの直径は、特に限定されないが、例えば、5mm〜50mm、好ましくは10mm〜30mm程度とすることができる。また、粉砕時間は、得ようとする粒子径に応じて適宜設定できるが、例えば、1時間程度とすることができる。
【0039】
なお、本発明において、上記の第1及び第2の分級工程並びに粉砕工程以外の工程、例えば、乾燥工程や、さらなる分級工程を、ガラス製造用珪砂に要求される特性に応じて適宜行ってもよい。例えば、第1の分級工程の前に、有機物などの異物を除去するため、例えば800μm以上の粗目スクリーンを用いて、分級工程を行ってもよい。
【0040】
また、粉砕工程の後、または第2の分級工程の後に重金属を除去する工程を行ってもよい。この工程は、例えば、スパイラル選鉱法により行うことができる。スパイラル選鉱法とは、原砂を、例えば、内面傾斜40〜45°で、外直径が約0.6mの螺旋桶中を5回旋回させながら水流により流下させることにより、重金属を含む重い粒子を桶の径方向内側に集め、除去することにより重金属を除去する方法である。このスパイラル選鉱法は、1回のみ行ってもよいし、複数回繰り返して行ってもよい。また、スパイラル選鉱法を行った後に、重金属が除去された粒子群を天日干しするなどして乾燥させることが好ましい。
【発明の効果】
【0041】
本発明では、安価な複数ピーク珪砂を用い、複数ピーク珪砂を粉砕する前に、第1の分級工程において、粒子径ヒストグラム曲線における粒子径分布の極大値が相互に異なる複数の粒子群に分級し、粉砕後において再度分級するため、粒子径分布を小さくできると共に粒子間における組成ムラを小さくできる。従って、未溶解物が生じ難いガラス製造用珪砂を安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】ガラス製造用珪砂の製造方法を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【実施例1】
【0044】
図1に示すフローチャートに基づいてガラス製造用珪砂を製造した。
【0045】
まず、図1に示すステップS1において、0次分級を行った。具体的には、珪砂原鉱を800μmを超える粗目スクリーンを通過させることにより、珪砂原鉱から有機物などの異物を除去した。ここで、用いた珪砂原鉱は、JIS Z8801−1(2008)「試験用篩−第1部:金属製ふるい」に規定された篩を用いて計測された粒子径ヒストグラム曲線における粒子径分布に、粒子径が約460μm近傍の第1の極大値と、粒子径が約170μm近傍の第2の極大値との2つの極大値を有するものであった。
【0046】
次に、ステップS2の第1の分級工程において、水流分級を用いて、珪砂原鉱を粒子径ヒストグラム曲線における粒子径分布の極大値が相互に異なる複数の粒子群に分級した。具体的には、珪砂原鉱を、粒子径が約460μm近傍の極大値のみを有する第1の粒子群と、粒子径が約170μm近傍の極大値のみを有する第2の粒子群とに分級した。
【0047】
第1の粒子群と、第2の粒子群とのそれぞれについて、不純物濃度を測定したところ、粒子径の大きな第1の粒子群の方が、粒子径の小さな第2の粒子群よりも不純物濃度が低かった。このため、本実施例においては、不純物濃度の低い第1の粒子群を選択した。
【0048】
次に、ステップS3において、スパイラル選鉱を行った。具体的には、第1の粒子群を、内面傾斜40〜45°で、外直径が約0.6mの螺旋桶中を5回旋回させながら水流により流下させることにより、重金属を含む重い粒子を径方向内側に集め、除去した。本実施例では、このスパイラル選鉱を2回繰り返して行った。
【0049】
次に、ステップS4において、第1の粒子群を天日干しし、乾燥させた。
【0050】
次に、ステップS5の粉砕工程において、アルミナボールを使用し、第1の粒子群のボールミルによる粉砕を行った。この粉砕工程において第1の粒子群とボールミルとの質量比率は、1:1.5とした。粉砕時間は1時間とした。
【0051】
次に、ステップS6の第2の分級工程において、粉砕された第1の粒子群を分級した。分級された珪砂のJIS Z8801−1(2008)の篩を用いて計測された粒子のメジアン径D50は90μmであった。また、分級された珪砂は、粒子径ヒストグラム曲線における粒子径分布の極大値をひとつのみ有しており、その極大値は、75〜106μmの範囲内にあった。また、分級された珪砂には、粒子径が250μmを超える粗粒が認められなかった。
【0052】
得られた珪砂について、化学分析を行った結果、酸化物換算の質量百分率表示でFeが45ppm、TiOが240ppm、Crが1ppm以下であり、カドミウムあるいはコバルト等の他の重金属元素も10ppm以下であった。
【0053】
次に、以上の工程によって得られた珪砂の溶融性を評価した。具体的には、珪砂を、液晶ディスプレイ用ガラス基板として好適な無アルカリガラス(日本電気硝子製 OA−10)の組成となるように、他のアルカリ土類金属元素の炭酸塩等の化成原料と混合して均一なバッチ原料を作製した。このバッチ原料を300ccの白金坩堝中に投入して1550℃で3時間熔融し、カーボン枠内にキャストした。得られたガラス塊を顕微鏡観察した結果、未溶解物は観察されなかった。この結果から、本発明に従って製造された珪砂を用いることにより未溶解物の発生を抑制できることが分かる。
【0054】
また上記組成と同組成のバッチ原料を同様な手順で1550℃10時間熔融して得られた熔融ガラスを上記同様にカーボン枠内に鋳込み、徐冷炉中で冷却した。その後、得られたガラスプレートから1mm厚のサンプルを切り指し、両表面を酸化セリウムを用いて鏡面研磨した。そして、得られたサンプルの分光透過率の計測をダブルビームスキャン型の分光光度計で計測したところ、不純物等の吸収に起因する透過率の低下は、可視光域には認められなかった。この結果から、本発明に従って製造された珪砂は、不純物濃度が低く、この珪砂を用いることにより可視光線の透過率が高いガラスを製造できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子径ヒストグラム曲線における粒子径分布に複数の極大値を有し、海砂である珪砂原鉱を、粒子径ヒストグラム曲線における粒子径分布の極大値が相互に異なる複数の粒子群に分級する第1の分級工程と、
前記複数の粒子群のうちのひとつの粒子群を粉砕する粉砕工程と、
前記粉砕された粒子群を分級し、前記粉砕された粒子群から所定の粒子径範囲にある珪砂を取り出す第2の分級工程とを備えるガラス製造用珪砂の製造方法。
【請求項2】
粒子径ヒストグラム曲線における粒子径分布に複数の極大値を有し、海砂である珪砂原鉱を、粒子径ヒストグラム曲線における粒子径分布の極大値が相互に異なる複数の粒子群に分級して得られた粒子径ヒストグラム曲線における粒子径分布の極大値をひとつのみ有する粒子群を用いてガラス製造用珪砂を製造する方法であって、
前記粒子径分布の極大値をひとつのみ有する粒子群を粉砕する粉砕工程と、
前記粉砕された粒子群を分級し、前記粉砕された粒子群から所定の粒子径範囲にある珪砂を取り出す工程とを備えるガラス製造用珪砂の製造方法。
【請求項3】
前記粉砕工程は、前記複数の粒子群のうち、不純物濃度が最も低い粒子群を粉砕する工程である請求項1または2に記載のガラス製造用珪砂の製造方法。
【請求項4】
前記粉砕工程は、前記複数の粒子群のうち、粒子径ヒストグラム曲線における粒子径分布の極大値が最も大きい粒子群を粉砕する工程である請求項1または2に記載のガラス製造用珪砂の製造方法。
【請求項5】
前記粉砕工程において粉砕される粒子群の粒子径ヒストグラム曲線における粒子のメジアン径(D50)が300μm以上である請求項1〜4のいずれか一項に記載のガラス製造用珪砂の製造方法。
【請求項6】
電子部品用ガラス、窓板ガラス及び光部材用ガラスのうちのいずれかの製造に用いられるものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のガラス製造用珪砂の製造方法。
【請求項7】
フラットパネルディスプレイ用ガラス基板の製造に用いられるものであることを特徴とする請求項6に記載のガラス製造用珪砂の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のガラス製造用珪砂の製造方法により製造されたガラス製造用珪砂。

【図1】
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