説明

ガラス製造装置および製造方法

【課題】ガラス製造時の気泡の生成を防止し、製造されるガラス製品での気泡の残留を防止することができるガラス製造装置およびガラス製造方法の提供。
【解決手段】ガラスの製造装置であって、溶融ガラスと接する白金製もしくは白金合金製の部材を有し、該部材の溶融ガラスが接する面の裏面側に、アルミナ系セラミック粒子の全量に対しMnをMn23換算で0.1〜15質量%含有し、アルミナ系セラミック粒子から放出される酸素の量が上昇する変化点を溶融ガラス温度域に有するアルミナ系セラミック粒子を含む層が形成されていることを特徴とするガラス製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス製造装置、および該製造装置を用いたガラス製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス製造装置(溶解槽、清澄槽、攪拌槽およびこれらの連絡流路)の構成材料としては、白金、または白金と他の貴金属元素、例えば、ロジウム(Rh)、金(Au)、イリジウム(Ir)及びルテニウム(Ru)との合金が使用されている(以下、本明細書において、白金および白金合金を総称して白金材料という)。これらの構成材料として白金材料が用いられるのは、白金材料は融点が高く、大気中で酸化物層を形成しないため劣化せず、装置稼動時に変形、損傷のおそれが低いことに加え、化学的安定性にも優れ、溶融状態のガラスを汚染するおそれが低いことによる。
ガラス製造工程における装置温度は、その処理内容により異なるが、約900℃以上の高温環境下にある。白金材料は、上記特性からこのような高温環境下でも装置内部の溶融ガラスを汚染することなく、長期間十分な耐久性を維持することができる。
【0003】
しかしながら、白金材料を用いたガラス製造装置においては、ガラス製造時に、溶融ガラス中の水分に起因する気泡が、白金材料の界面で発生するという問題があった。これは、溶融ガラスに含まれる水分が、白金材料と接触して解離し、水素と酸素を生成することに起因する。水素は白金材料を透過して外部に放出されるが、酸素は白金材料を透過できず、溶融ガラスに残留する酸素の濃度が溶解度限界を超えると、白金材料の界面で気泡が発生すると考えられている(特許文献1〜4参照)。このようにして発生した気泡が製造されるガラス製品に残留すると、ガラス製品の品質を低下させる。
特に、液晶ディスプレイ(LCD)、有機エレクトロルミネッセンス・ディスプレイ(OLED)、無機エレクトロルミネッセンス・ディスプレイ等に使用されるアルカリ金属酸化物を実質的に含有しない無アルカリガラス基板の場合、無アルカリガラスが高融点であり、アルカリ含有ガラスと比較して高粘性であるため、溶融ガラス中の気泡が浮上しにくく、気泡の抑制が難しい。
【0004】
この問題を解決するため、白金材料の外側表面に緻密な水素不透過性の被膜を設けることが提案されている(特許文献1〜4参照)。緻密な水素不透過性の被膜の材料としては、ガラス、セラミック、金属等が挙げられている。
【0005】
【特許文献1】特表2004−523449号公報
【特許文献2】国際公開WO2006/030738号パンフレット
【特許文献3】国際公開WO2005/063634号パンフレット
【特許文献4】特表2006−522001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術が提案する水素不透過性の緻密な被膜は、水素の分子径やイオン径に着目して、水素不透過性材料でコーティング等により緻密な被膜を設けることにより、被膜を通して水素が外部に放出されるのを防止することを意図したものであるが、ガラス製造時における気泡の発生を十分に低減することができるものではなかった。白金材料の外側表面に設ける被膜が、必ずしも意図した緻密な膜とならないことや、高温環境下での使用による被膜の劣化や、白金材料と被膜との熱膨張係数の差による被膜剥離等が原因で、水素が被膜を透過して外部に放出されてしまっているものと考えられる。
【0007】
上記の問題を解決するため、本発明は、ガラス製造時において、気泡の発生を効果的にかつ安定して防止し、製造されるガラス製品での気泡の残留を防止することができるガラス製造装置およびガラス製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、ガラス製造装置であって、溶融ガラスと接する白金製もしくは白金合金製の部材を有し、
該部材の溶融ガラスが接する面の裏面側に、アルミナ系セラミック粒子の全量に対しMnをMn23換算で0.1〜15質量%含有し、アルミナ系セラミック粒子から放出される酸素の量が上昇する変化点を溶融ガラス温度域に有するアルミナ系セラミック粒子を含む層が形成されていることを特徴とするガラス製造装置を提供する。
【0009】
本発明のガラス製造装置において、前記溶融ガラス温度域が、1250〜1650℃であることが好ましい。
【0010】
本発明のガラス製造装置において、前記アルミナ系セラミック粒子が、ムライトを10質量%以上含有することが好ましい。
【0011】
また、本発明は、ガラスの製造装置であって、溶融ガラスと接する白金製もしくは白金合金製の部材を有し、
該部材の溶融ガラスが接する面の裏面側にアルミナ系セラミック粒子を含む層が形成されており、
該アルミナ系セラミック粒子がムライトを10質量%以上含有し、かつ、該ムライトに対する質量%でMnをMn23換算で0.1〜15%含有することを特徴とするガラス製造装置を提供する。
【0012】
本発明のガラス製造装置において、前記アルミナ系セラミック粒子の全量に対するFeの含有量が、Fe23換算で0.2質量%未満であることが好ましい。
【0013】
本発明のガラス製造装置において、前記白金製もしくは白金合金製の部材が、溶融ガラスを収容する容器であることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、本発明のガラス製造装置を用いたガラス製造方法を提供する。
【0015】
本発明のガラス製造方法において、製造されるガラスが、酸化物基準の質量百分率表示(SiO2、Al23、B23、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計を100%とする)で、
SiO2 50〜70%、
Al23 5〜25%、
23 1〜20%、
MgO 0〜10%、
CaO 0〜17%、
SrO 0〜17%、
BaO 0〜20%、
MgO+CaO+SrO+BaO 8〜30%
を含有する無アルカリガラスであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明のガラス製造装置およびガラス製造方法によれば、ガラス製造時において、溶融ガラスと接する白金界面または白金合金界面での気泡の発生を効果的かつ安定して防止することができる。この結果、気泡の残留が抑制された良好な品質のガラスを製造することができる。
特に、本発明のガラス製造装置およびガラス製造方法で製造される無アルカリガラスは、フラットパネルディスプレイ用の基板ガラス、特に、液晶ディスプレイ(LCD)、有機エレクトロルミネッセンス・ディスプレイ(OLED)、無機エレクトロルミネッセンス・ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ用の基板ガラスの用途に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明のガラス製造装置について説明する。
図1は、ガラス製造装置の一構成例を示した模式図である。図1に示すガラス製造装置1は、溶解槽2と、該溶解槽2の下流側に設けられた清澄槽3と、清澄槽3の下流側に設けられた攪拌槽4と、攪拌槽4の下流側に設けられた成形装置5と、を有し、溶解槽2、清澄槽3、攪拌槽4および成形装置5は、それぞれ、溶融ガラスを流通させるための導管(連絡流路)6,7,8によって接続されている。
溶解槽2は、バーナー、電極等が設けられ、ガラス原料を溶解することができる。溶解槽2の下流側には溶融ガラスの流出口が形成されており、該流出口を上流端とする導管6を介して溶解槽2と清澄槽3とが連通している。
清澄槽3は、主としてガラスの清澄が行われる部位であり、溶融ガラス中に含まれる微細な泡が清澄剤から放出される清澄ガスにより浮上され、溶融ガラスから除去される。清澄槽3の下流側には溶融ガラスの流出口が形成されており、該流出口を上流端とする導管7を介して清澄槽3と攪拌槽4とが連通している。
攪拌槽4は、主としてスターラー等により溶融ガラスを攪拌し、均質化する部位である。攪拌槽4の下流側には流出口が形成されており、流出口を上流端とする導管8を介して攪拌槽4と成形装置5とが連通している。
成形装置5は、主としてガラスを所望の形状に成形する部位であり、製造するガラス製品の形状に応じて適宜選択される。例えば、ガラス製品がフラットパネルディスプレイ用のガラス基板である場合、フロート成形装置、ダウンドロー成形装置等が使用される。
【0018】
図1に示すガラス製造装置1において、溶解槽2〜導管8の溶融ガラスと接する部分は、高温環境に耐えうる耐熱性、および溶融ガラスに対する耐食性が要求されるため、白金材料(すなわち、白金または白金合金)が用いられることが好ましい。
【0019】
本発明のガラス製造装置は、溶融ガラスと接する白金製もしくは白金合金製の部材を有し、該部材の溶融ガラスが接する面の裏面側に、アルミナ系セラミック粒子の全量に対しMnをMn23換算で0.1〜15質量%含有し、アルミナ系セラミック粒子から放出される酸素の量が上昇する変化点を溶融ガラス温度域に有するアルミナ系セラミック粒子を含む層が形成されていることを特徴とする。
ここで、溶融ガラスと接する白金製もしくは白金合金製の部材の具体例としては、溶融ガラスを収容する白金製もしくは白金合金製の容器が挙げられる。但し、これに限定されず、ガラス製造装置の使用時において、溶融ガラスと接する白金製もしくは白金合金製の部材を広く含む。以下、本明細書において、溶融ガラスと接する白金製もしくは白金合金製の部材の具体例として、溶融ガラスを収容する白金製もしくは白金合金製の容器を挙げて説明するが、溶融ガラスを収容する容器以外の白金製もしくは白金合金製の部材については、溶融ガラスを収容する容器と記載されている部分を白金製もしくは白金合金製の部材として解釈する。
溶融ガラスを収容する容器とは、ガラス製造工程において、溶融ガラスを一時的に保持または収容する容器を広く含み、図1に示すガラス製造装置1の一構成例では、溶解槽2、清澄槽3、攪拌槽4、および導管6,7,8が該当する。
したがって、本発明のガラス製造装置は、上記した溶融ガラスを収容する容器のうち、少なくとも1つは白金材料製であり、該白金材料製の容器の溶融ガラスと接する面の裏面側、すなわち、図1に示すガラス製造装置の一構成例では、白金材料製の容器壁面の外側に、上記のアルミナ系セラミック粒子層が形成される。
【0020】
従来は水素の分子径やイオン径に着目して、水素不透過材料でコーティング等により緻密な被膜を形成すればよいと考えられていた。しかしながら、本発明者が鋭意検討した結果、水素不透過材料で形成された緻密な被膜ではなく、アルミナ系セラミック粒子に含まれるMnの価数変化、具体的には、Mn3+→Mn2+、Mn4+→Mn2+等の低価数への価数変化、特にMn3+→Mn2+の価数変化が、溶融ガラスと接する白金界面または白金合金界面での気泡の発生(以下、本明細書において、単に「界面での気泡発生」という。)の抑制に有効であることを見出した。以下、本明細書において、Mnの価数変化と言った場合、Mn3+→Mn2+、Mn4+→Mn2+等の低価数への価数変化を指す。
Mnの価数変化の際(Mn3+→Mn2+、または、Mn4+→Mn2+の場合)には、下記式に示すようにMn酸化物から酸素が放出されるので、アルミナ系セラミック粒子から放出される酸素の量を測定することによって、Mnの価数変化を確認することができる。
Mn23 → 2MnO + 1/2O2
MnO2 → MnO + 1/2O2
【0021】
Mnの価数変化は、溶融ガラス温度の上昇による白金材料の温度上昇に伴って生じるものであるが(白金材料製の容器外側の温度を溶融ガラス温度でほぼ同じと仮定)、Mnが価数変化した後は、その後、白金材料の温度が一定に保たれている間は、界面での気泡発生抑制効果はほぼ一定に維持されるものと考えられる。
【0022】
本発明において、アルミナ系セラミック粒子層が界面での気泡発生抑制効果を発揮するためには、アルミナ系セラミック粒子は十分な量のMnを含む必要がある。具体的には、アルミナ系セラミック粒子は、アルミナ系セラミック粒子の全量に対しMnをMn23換算で0.1質量%以上含有する必要があり、0.5質量%以上含有することが好ましい。但し、Mnの含有量がMn23換算で15質量%超だと、アルミナ系セラミックの結晶構造中に組み込まれず、Mn酸化物のまま残存するため、後述する酸素放出量の変化点が低下するため、Mnの含有量はMn23換算で15質量%以下とする必要がある。Mnの含有量はMn23換算で13質量%以下であることが好ましい。
【0023】
さらに、アルミナ系セラミック粒子に含まれるMnは、ガラス製造装置の使用時において、価数変化が起こりやすい状態、すなわち、Mn3+→Mn2+、Mn4+→Mn2+等の低価数への価数変化が起こりやすい状態、特にMn3+→Mn2+への価数変化が起こりやすい状態であることが必要となる。このため、アルミナ系セラミック粒子に含まれるMnは、アルミナ系セラミック粒子から放出される酸素の量が上昇する変化点を溶融ガラス温度域に有することが必要となる。温度を横軸、酸素の放出量を縦軸にプロットした場合、ある温度で酸素の放出量が急激に上昇する。本明細書において、この温度をアルミナ系セラミック粒子から放出される酸素の量が上昇する変化点(以下、本明細書において、酸素放出量の変化点ともいう)。より具体的には、上述したプロットの近似曲線の一次微分値が温度上昇に伴って増加し始める点を酸素放出量の変化点という。
なお、アルミナ系セラミック粒子から放出される酸素の量は、TG−DTA−MS(示差熱分析熱天秤−質量分析法)やTPD(昇温脱ガス法)等により求めることができる。
酸素放出量の変化点が溶融ガラス温度域にあれば、ガラス製造装置の使用時、より具体的には、溶融ガラスを収容する容器の白金材料製の壁面が溶融ガラスと接している状態において、アルミナ系セラミック粒子に含まれるMnの価数変化が起こりやすい状態になるので、ガラス製造時において、界面での気泡発生抑制効果が安定して発揮される。
溶融ガラス温度域とは、溶解から成形前までのガラス製造工程において、溶融ガラスが経験する温度域を指す。図1に示すガラス製造装置1において、溶解槽2から導管8までで溶融ガラスが経験する温度域を指す。溶融ガラス温度域は、ガラスの種類やガラス製造装置の構成要素によっても異なるが、無アルカリガラスの場合、通常1250〜1650℃である。好ましくは、後述するガラス製造装置を構成する容器ごとの溶融ガラス温度域である。
図2は、このようなプロットの近似曲線の一例を示したグラフである。図2中、曲線Aは、酸素放出量の変化点が1250〜1650℃の範囲にあるので、本発明で使用するアルミナ系セラミック粒子である。一方、曲線Bは酸素放出量の変化点が1250℃未満であり、曲線Cは酸素放出量の変化点が1650℃超であるため、本発明で使用するアルミナ系セラミック粒子ではない。
【0024】
本発明で使用するアルミナ系セラミック粒子は、溶融ガラス温度域に酸素放出量の変化点を有するために、溶融ガラス温度域が1250〜1650℃の場合、ムライトを10質量%以上含有することが好ましい。ムライト含有量は、20質量%であることがより好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、ムライトのみを含有することが特に好ましい。
【0025】
上述したように、Mnの価数変化の中でもMn3+→Mn2+の価数変化が、界面での気泡発生抑制効果を発揮するうえで有効である。したがって、本発明で使用するアルミナ系セラミック粒子は、価数が3価のMnを多く含有することが好ましい。価数が3価のMnを多く含有するアルミナ系セラミック粒子の具体例としては、ムライトを構成するAlの一部がMnに置換されたものを挙げることができる。この場合、ムライトに対する質量%でMnをMn23換算で0.1〜15%含有することになる。
以上の点から、本発明で使用するアルミナ系セラミック粒子は、ムライトを10質量%以上含有し、かつ、ムライトに対する質量%でMnをMn23換算で0.1〜15%含有することが好ましいこととなる。この場合、ムライトの含有量の好適範囲は上記した通りである。また、Mnの含有量は、ムライトに対する質量%でMn23換算で13質量%以下であることがより好ましい。
【0026】
アルミナ系セラミック粒子は、結晶相としてムライトのみを含有するものであってもよいが、ムライト含有量が上記範囲を満足する限り、他の結晶相、具体的には、バデレアイト、コランダムを含有してもよい。また、他の成分として、ジルコン、シリマナイト等を含有してもよい。
アルミナ系セラミック粒子中のガラス相の含有量は、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。ガラス相の含有量が50質量%超だと、ムライト相表面がガラス相で覆われてしまい、Mnの価数変化による界面での気泡発生抑制効果が十分発揮できない傾向にある。
【0027】
本発明で使用するアルミナ系セラミック粒子は、Feの含有量がFe23換算で0.2質量%未満であることが好ましく、不可避不純物以外にFeを含有しないことがより好ましい。
【0028】
本発明のガラス製造装置において、白金材料製の容器の溶融ガラスと接する面に対し裏面側、すなわち、容器の壁面(例えば、るつぼ状容器の場合、側面及び底面)外側にアルミナ系セラミック粒子層を形成するには、容器の壁面外側にアルミナ系セラミック粒子を所望の厚さになるように充填する。厚さは、Mnの価数変化による界面での気泡発生抑制効果を発揮させることを考慮すると1mm以上が好ましく2mm以上がより好ましい。また、厚すぎると必要以上にセラミック粒子が必要になるため40mm以下が好ましい。
具体的には、容器の壁面外側に、容器と所定の間隔をもって耐火性ブロックを設け、容器と該耐火性ブロックとの隙間にアルミナ系セラミック粒子を充填する。耐火性ブロックは、耐火性であって、アルミナ系セラミック粒子を保持できるものであれば特に限定されず、例えば、焼成耐火物、具体的には、アルミナジルコン質、ジルコン質、シリマナイト質、シャモット質、アルミナ質、マグネシア質のレンガ等が例示される。但し、耐火性ブロックの製造容易性(成形性、加工性等)及びコストの点を考慮すると、アルミナ質レンガが好ましい。
なお、本発明で粒子のアルミナ系セラミックを用いるのは、白金材料製の容器の壁面外側に充填するのに好都合だからである。したがって、粒径2mm以下程度に粉砕されたものであればよく、特定の粒度分布となるように調整したものを意図したものではない。本明細書において粒径とは、その大きさの目開きのふるいを通る粒子の大きさをいう。例えば粒径2mm以下の場合には、2mmの目開きのふるいを通る粒子のことをいう。したがって、セラミック粒子の形状は、特に限定されず、球形、角型、不定形等であってよい。容器周囲に、該容器に対して十分な接触点をもってセラミック粒子を充填させることを考慮すると、粒径は2mm以下が好ましい。また充填する際の飛散防止を考慮すると粒径は10μm以上が好ましい。
【0029】
本発明において、白金材料製の容器の壁面外側に充填するセラミック粒子は、容器に収容される溶融ガラスの温度に応じて適宜選択することができる。ガラス製造装置における溶融ガラスの温度は、白金材料製の容器ごと、すなわち、白金材料製のガラス製造装置の構成要素(溶融ガラスを収容する容器)ごとに異なっている。例えば、無アルカリガラスの場合、図1に示すガラス製造装置1において、溶解槽2における溶融ガラスの温度は1400〜1650℃程度であり、清澄槽3における溶融ガラスの温度は1300〜1550℃程度であり、攪拌槽4における溶融ガラスの温度は1250〜1400℃程度であり、導管6における溶融ガラスの温度は1400〜1600℃程度であり、導管7における溶融ガラスの温度は1300〜1500℃程度であり、導管8における溶融ガラスの温度は1250〜1350℃程度である。
したがって、本発明では、ガラス製造装置を構成する白金材料製の容器の壁面外側に、該容器に収容される溶融ガラス温度域に変化点を有するアルミナ系セラミック粒子を充填する。
【0030】
本発明のガラスの製造方法では、上記で説明した本発明のガラス製造装置を使用する点以外は従来と同様である。したがって、図1に示すガラス製造装置の溶解槽2に所望のガラス組成になるよう調合した原料を投入し、加熱溶解して得られた溶融ガラスを導管6、清澄槽3、導管7、攪拌槽4、導管8および成形装置5の順に通過させて所望の形状のガラス製品を得る。
【0031】
本発明では、各種ガラスを製造することができる。本発明で製造するのに好適なガラスとして、無アルカリガラスの一例を以下に示す。以下に示す無アルカリガラスは、液晶ディスプレイ(LCD)用の基板ガラスとして好適である。
この無アルカリガラスは、酸化物基準の質量百分率表示で、
SiO2 50〜70%、
Al23 5〜25%、
23 1〜20%、
MgO 0〜10%、
CaO 0〜17%、
SrO 0〜17%、
BaO 0〜20%、
MgO+CaO+SrO+BaO 8〜30%
を含有する。
なお、上記の質量百分率表示は、SiO2、Al23、B23、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計を100%としたものである。
【0032】
SiO2は必須成分であり、70%超ではガラスの溶解性が低下し、また失透しやすくなる。好ましくは64%以下である。50%未満では比重増加、歪点低下、熱膨張係数増加、耐薬品性の低下が起こる。好ましくは55%以上である。
【0033】
Al23はガラスの分相を抑制し、また歪点を高くする成分であり必須である。25%超では失透しやすくなり、耐薬品性の低下が起こる。好ましくは22%以下である。5%未満ではガラスが分相しやすくなる、または歪点が低下する。好ましくは10%以上である。
【0034】
23は比重を小さくし、ガラスの溶解性を高くし、失透しにくくする成分であり、必須である。20%超では歪点が低下する、耐薬品性が低下する、またはガラス溶解時の揮散が顕著になりガラスの不均質性が増加する。好ましくは12%以下である。1%未満では比重が増加し、ガラスの溶解性が低下し、また失透しやすくなる。好ましくは6%以上である。
【0035】
MgOは比重を小さくしガラスの溶解性を向上させる成分である。10%超ではガラスが分相しやすくなる、失透しやすくなる、または耐薬品性が低下する。好ましくは7%以下である。MgOは1%以上含有することが好ましい。
【0036】
CaOはガラスの溶解性を高め、失透しにくくするため17%まで含有することができる。17%超では比重が増加し、熱膨張係数を大きくなり、また、かえって失透しやすくなる。好ましくは14%以下である。CaOは2%以上含有させることが好ましい。
【0037】
SrOはガラスの分相を抑制し、失透しにくくするため17%まで含有することができる。17%超では比重が増加し、熱膨張係数が大きくなり、また、かえって失透しやすくなる。好ましくは14%以下である。SrOは3%以上含有させることが好ましい。
【0038】
BaOはガラスの分相を抑制し、失透しにくくするため20%まで含有することができる。20%超では比重が増加し、また、熱膨張係数が大きくなる。好ましくは1%以下であり、実質的に含有しないことがより好ましい。
【0039】
アルカリ土類金属酸化物(RO)の含有量の合量、すなわち(MgO+CaO+SrO+BaO)が少なすぎると、ガラスの溶解を困難にさせるので、8%以上である。逆に多すぎるとガラスの密度が大きくなるので、30%以下である。好ましくは10〜30%である。
【0040】
したがって、無アルカリガラスは、酸化物基準の質量百分率表示で、
SiO2 55〜64%、
Al23 10〜22%、
23 6〜12%、
MgO 1〜7%、
CaO 2〜14%、
SrO 3〜14%、
BaO 0〜1%、
MgO+CaO+SrO+BaO 10〜30%
を含有することがより好ましい。
なお、上記の質量百分率表示は、SiO2、Al23、B23、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計を100%としたものである。
【0041】
さらに、溶融ガラス中の気泡をさらに抑えるために清澄剤としてF、Cl、SO3、SnO2、Fe23等をガラス原料100質量%に対して総量で5質量%以下添加することができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を用いて本発明をさらに説明する。
本実施例では、図3(a)に示す白金合金製(白金ロジウム合金、ロジウム10質量%)のルツボ(JIS H6201(1986.11.1)準拠)と、図3(b)に示すジルコニアレンガ製の基台(耐火性ブロック)を用いて白金合金界面での気泡の発生状況を評価した。図3(a)に示すルツボ、および図3(b)に示す基台の寸法はそれぞれ以下の通りである。
ルツボ
高さ:27mm
上部径:25mm
底部径:15mm
容量:10cc
質量:8.0g
基台
外部寸法:48mm×48mm×48mm
凹部深さ:26mm
凹部径:35mm
また、実施例で使用したアルミナ系セラミック粒子を表1に示す。表1の組成になるように原料を秤量した後、ボールミルで湿式混合し、乾燥後、アルミナルツボで、大気中1350℃で1日予備焼成し、アルミナ乳鉢で粉砕、混合した後、大気中1670℃、14日間、その後、1350℃、10日間焼成して粒径10〜300μmのアルミナ系セラミック粒子を作製した。表1中、アルミナ系セラミック粒子中の結晶相とガラス相との割合は、粉末X線回折(XRD)法により各結晶相の割合を測定して求めた。具体的には、各結晶相の純物質(ムライト、バデレアイト、コランダム、Mn酸化物)と試料とのXRD強度比から結晶相の割合を求め、試料と各結晶相の割合の合計との差からガラス相の割合を求めた。また、アルミナ系セラミック粒子における組成比は蛍光X線分析により求めた。なお、例1〜例3は、ムライト中のAlの一部をMnで置換したものである。例4は原料にZr酸化物を含めた結果、ムライト以外に、バデレアイトおよびコランダムを結晶相として含有するものである。例5は、Mnの含有量がMn23換算で15%超であったため、Mnの一部がアルミナ系セラミックの結晶構造中に組み込まれず、Mn酸化物のまま残存したものである。例6〜例8は、ムライト中のAlの一部をそれぞれCo、SnおよびTiで置換したものである。例9は、Mnの含有量がMn23換算で0.1%未満の例である。
【表1】

【0043】
図3(a)のルツボを図3(b)の基台の凹部に設置し、図3(c)に示すように間隙A(基台の凹部とルツボの底面との間隙は3〜5mm)に表1に示すアルミナ系セラミック粒子を充填したものを加熱炉内に設置し、1400℃まで加熱した。次に1400℃に保持した状態で図3のルツボ内に無アルカリガラスを投入し、溶解させた。無アルカリガラスの組成は、酸化物基準の質量百分率表示で、SiO2 59.4%、Al23 17.6%、B237.9%、MgO 3.3%、CaO 3.8%、SrO 8.0%、MgO+CaO+SrO 15.1%である。
無アルカリガラスが溶解した後、さらに1400℃で1時間保持し、白金合金界面、すなわち、ルツボ壁面での気泡の発生を観察した。結果を表1に示す。表1において、例1〜4は実施例、例5〜9は比較例を示す。表1中、気泡占有率は図3(a)のルツボ底面において、気泡が占める面積の割合である。なお、括弧書は実際の測定値である。気泡占有率が2%未満の場合、実際のガラス製造装置に適用して無アルカリガラスを製造した際に気泡が少ないガラスが得られると考えられる。なお、0%は測定限界以下であったことを示している。
表1の結果から明らかなように、例1〜4のアルミナ系セラミック粒子は、効果的にかつ安定して、界面での気泡発生を抑制することができた。一方、例5〜8のアルミナ系セラミック粒子は、酸素放出量の変化点が1250〜1650℃の範囲にないため、実施例の溶融ガラス温度(1400℃)ではMnの価数変化による気泡発生抑制効果を発揮できないものと考えられる。また、例9のアルミナ系セラミック粒子は、酸素放出量の変化点が1250〜1400℃であるが、Mn23含有量が0.1質量%未満であるため、Mnの価数変化による気泡発生抑制効果を十分発揮できないものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、ガラス製造装置の一構成例を示した模式図である。
【図2】図2は、アルミナ系セラミック粒子からの酸素放出量と温度との関係の近似曲線の一例を示したグラフである。
【図3】図3(a)は、実施例で用いた白金合金製のルツボを示した図であり、図3(b)は、実施例で用いたジルコニアレンガ製の基台を示した図であり、図3(c)は、図3(a)のルツボを図3(b)の基台の凹部に設置した状態を示した図である。
【符号の説明】
【0045】
1:ガラス製造装置
2:溶解槽
3:清澄槽
4:攪拌槽
5:成形装置
6,7,8:導管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスの製造装置であって、溶融ガラスと接する白金製もしくは白金合金製の部材を有し、
該部材の溶融ガラスが接する面の裏面側に、アルミナ系セラミック粒子の全量に対しMnをMn23換算で0.1〜15質量%含有し、アルミナ系セラミック粒子から放出される酸素の量が上昇する変化点を溶融ガラス温度域に有するアルミナ系セラミック粒子を含む層が形成されていることを特徴とするガラス製造装置。
【請求項2】
前記溶融ガラス温度域が、1250〜1650℃であることを特徴とする請求項1に記載のガラス製造装置。
【請求項3】
前記アルミナ系セラミック粒子が、ムライトを10質量%以上含有することを特徴とする請求項1または2に記載のガラス製造装置。
【請求項4】
ガラスの製造装置であって、溶融ガラスと接する白金製もしくは白金合金製の部材を有し、
該部材の溶融ガラスが接する面の裏面側にアルミナ系セラミック粒子を含む層が形成されており、
該アルミナ系セラミック粒子がムライトを10質量%以上含有し、かつ、該ムライトに対する質量%でMnをMn23換算で0.1〜15%含有することを特徴とするガラス製造装置。
【請求項5】
前記アルミナ系セラミック粒子の全量に対するFeの含有量が、Fe23換算で0.2質量%未満であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のガラス製造装置。
【請求項6】
前記白金製もしくは白金合金製の部材が、溶融ガラスを収容する容器であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のガラス製造装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のガラス製造装置を用いたガラス製造方法。
【請求項8】
製造されるガラスが、酸化物基準の質量百分率表示(SiO2、Al23、B23、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計を100%とする)で、
SiO2 50〜70%、
Al23 5〜25%、
23 1〜20%、
MgO 0〜10%、
CaO 0〜17%、
SrO 0〜17%、
BaO 0〜20%、
MgO+CaO+SrO+BaO 8〜30%
を含有する無アルカリガラスであることを特徴とする請求項7に記載のガラス製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−95427(P2010−95427A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269595(P2008−269595)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)