説明

キクラゲ類に属するきのこの瓶容器栽培方法

【課題】瓶容器を使用した栽培方法において大幅な省力化を計って極めて短期間に安定かつ効率的に高収量のきのこを収穫できる、キクラゲ類きのこの栽培方法を提供する。
【解決手段】栽培瓶を使用したキクラゲ類に属するきのこの栽培において、発菌後であって菌糸蔓延前に除蓋した状態で菌糸培養と平行して原基形成の誘導を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キクラゲ類きのこの瓶容器栽培方法を提供するものであり、詳しくは、従来の袋容器や瓶容器による栽培方法と比較して、省力化を図りながら飛躍的に栽培期間を短縮することを可能とし、同一施設における単位面積当りの生産量を高めることを可能とする周年栽培を可能にする栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キクラゲ類に属するきのこの菌床栽培においては、耐熱性のポリプロピレン製などの袋容器を使用した栽培方法が採用されている。袋容器による栽培方法においては、発生操作の方法として菌糸蔓延後の菌床袋上部を切り開く方法(非特許文献1)、又は菌床の側面や底部に長短の切れ込みを入れてきのこを発生させる方法(非特許文献2、非特許文献3)が知られているのみで、瓶容器での栽培方法はこれまで知られていない。
【0003】
しかしながら、袋容器による栽培に比べて省力化が可能な瓶容器での栽培においては、培養後半に原基を形成させるための工程が必要となり、栽培期間がこれまでのエノキタケやナメコなどと同等程度の日数を要する状態となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】キノコの辞典;中村克哉編;朝倉書店;429−430頁
【非特許文献2】図解よくわかるきのこ栽培;日本きのこセンター編;家の光協会;91−95頁、
【非特許文献3】2010年度版きのこ年鑑別冊最新きのこ栽培技術;プランツワールド;212−216頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の実情に鑑みなされたものであり、その目的は、瓶容器を使用した栽培方法において大幅な省力化を計って極めて短期間に安定かつ効率的に高収量のきのこを収穫できる、キクラゲ類きのこの栽培方法を提供することにある。
【0006】
本発明者等は、キクラゲ類きのこの栽培において、前述の問題点を解決すべく、瓶容器を使用した栽培方法について鋭意検討した結果、菌糸蔓延前で接種した種菌が菌床表面全体を覆い尽くす接種後5日目以降に培養容器を生育室に移動し、発生棚に収納する時点で除蓋操作を行うことによって害菌類が付着することなく、菌糸蔓延完了以前に原基が形成され、短期間に安定して高収量が得られることを見出し、省力的で効率の良い、しかも栽培総日数の短縮が可能な新たなキクラゲ類きのこの瓶容器を使用した栽培方法を見出し、本発明を完成した。因みに、きのこの瓶容器を使用した施設空調型栽培において、菌糸蔓延前に除蓋操作を行うことは、害菌類の汚染原因となることから、忌避すべき行為とされており、通常は全く行われることのない栽培方法である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の要旨は、栽培瓶を使用したキクラゲ類に属するきのこの栽培において、発菌後であって菌糸蔓延前に除蓋した状態で菌糸培養と平行して原基形成の誘導を行うことを特徴とするキクラゲ類のきのこの瓶容器栽培方法に存する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るキクラゲ類に属するきのこの瓶容器栽培方法によれば、キクラゲ類きのこの瓶容器を使用した施設空調型栽培において、菌糸蔓延完了前に生育室へ搬入して除蓋した状態で培養を継続することにより、菌糸培養と平行して原基形成の誘導管理を行うことで、省力かつ40%程度の飛躍的な栽培期間の短縮化を図ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をアラゲキクラゲ栽培の場合を例にして詳細に説明する。
【0010】
本発明において、瓶容器を使用したアラゲキクラゲの培地調整は、常法に従って実施することができる。具体的には、オガコに米ヌカ、フスマ、オカラ等の穀類ヌカの栄養源を混合し、更に水を加えて60〜63%の含水率となるように調整した培養基を調製し、400〜1000mlの瓶容器に充填する。この際、一般的には網目型のコンテナを用い、これに多数の瓶容器を直立させて並べ、その各瓶容器内に培養基を充填する。また、瓶容器への培地充填においては、施蓋後の培地表面に空隙ができるように充填の高さを調整する。そして、所定の殺菌、放冷を行った後、アラゲキクラゲの種菌を接種し、キャップ内面で種菌を押圧するように施蓋を行う。放冷は、放冷時における戻り空気による再汚染を防止するため、クリーンルーム内で実施される。
【0011】
接種の終了した培養基は、温度23℃前後、湿度60〜70%の培養環境下で通常5〜20日間、好ましくは10〜15日間の培養を行った後に生育室へコンテナごと移動する。そして、瓶培養基が収容されたコンテナを瓶口表面に水が溜まらないように斜めにした状態で発生棚に収納する。本発明においては、この段階、すなわち、発菌後であって菌糸蔓延前の段階で除蓋操作を実施することが重要であり、これにより、菌糸培養と平行して原基形成の誘導を行うことが出来る。
【0012】
生育室の温度管理は、通常15〜25℃、好ましくは16〜20℃、環境湿度は、通常70%以上、好ましくは90〜98%、炭酸ガス濃度は、通常600〜3,000ppm、好ましくは800〜1,000ppm、照度は、通常100Lx以上、好ましくは200〜500Lxである。そして、照度に関しては、連続照射または昼間のみの連続または断続照射が可能である。
【0013】
一般的には、除蓋管理に移行した後、種菌接種日から20日間程度で菌糸が培地全体に蔓延を完了するが、菌糸完了前の状態(除蓋後7日間程度)で菌糸伸長と平行して原基が形成されるようになる。本発明においては、そのままの状態で生育管理を継続する。その結果、除蓋操作日より20日目頃から収穫が可能となる。収穫は、発生きのこの全体の8割が傘直径5cm以上の大きさとなった時点で、一括で根元から株ごとに行うことが出来る。一般的には、栽培総日数は35日間程度で、1瓶(850ml容量)当りの収量は140〜180g(生重量)の収穫が可能である。
【実施例】
【0014】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その趣旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0015】
実施例1:
広葉樹オガコに栄養源として培養基総重量当たり10重量%となるようにフレッシュフスマとネオビタスHMを重量比で8:2の割合(1瓶当たりフレッシュフスマ44g、ネオビタスHM11gの合計55g)で混合した後、更に水を加えて63%の含水率となるように調整して培養基を調製した。そして、網目型のコンテナ内に直立させて並べた複数の瓶容器(口径が58mmで容量が850mlのブナシメジ用ポリプロピレン製ブロー瓶)に正味重量が570g/1瓶容器となるように充填した。
【0016】
瓶に充填した培養基は一般的な充填の高さとなる瓶口の上部より5mm以内の空間となるように通常よりも高く填圧した後、中央部に直径が約15mmの底部にまで到達する接種孔を設け、ポリプロピレン製のキャップで施蓋した。その後、常法に従って高圧殺菌釜中で所定の殺菌処理を行い、殺菌終了後に培地の冷却処理を行った。冷却は、クリーンルーム内で実施した。
【0017】
その後、同クリーンルーム内で無菌的にアラゲキクラゲ種菌を瓶口全面に接種し、接種した種菌がキャップ底部に密着する状態で施蓋して培養を開始した。培養の管理温度は23℃の一定温度で、湿度は60〜70%、照度は点検時の点灯(500Lx程度)以外は暗黒状態を維持するように14日間実施した。
【0018】
14日間培養後の菌糸が瓶肩部まで伸長した菌床の状態で生育室へ搬入し、コンテナごと斜めの状態で棚に収納し、直ちに除蓋操作を実施した。通常、アラゲキクラゲの場合、菌糸が完全に蔓延するまで培養管理を継続した場合には20〜25日間を要するが、菌糸蔓延途中で発生(除蓋)操作を行って生育室で管理を継続してもほぼ同様の20日間程度で菌糸蔓延が完了した。また、菌糸蔓延が未完了な状況であっても、除蓋後7日間程度で原基が形成されるようになり、菌糸の伸長と平行して原基が形成されることが確認できた。生育条件は環境温度18〜20℃、環境湿度70〜98%、炭酸ガス濃度が800〜2,000ppm、昼間の時間帯のみ500Lx程度の光を照射する管理を実施した。
【0019】
結果は表1に示すとおり、菌糸蔓延前に除蓋操作を実施しても害菌の発生は認められず、収穫ピーク日数が20日間程度で、栽培に要した総日数が約35日間と短いにも拘らず1瓶当たり150g以上の安定した収量を確保することができた。
【0020】
比較例1:
実施例1において、培養管理を前記培養と後期培養とに分けて次のように行った以外は、実施例1と同様の生育管理でアラゲキクラゲの栽培を行った。すなわち、前期培養は、温度が23℃の一定温度で、湿度60〜70%、照度は点検時の点灯(500Lx程度)以外は暗黒状態を維持するように14日間実施し、後期培養は、同一温度帯で湿度80%前後、照度が500Lx程度となるように17日間の昼間のみの点灯培養管理を継続して総培養日数が31日となった時点で、菌掻き操作を実施せずにキャップを取り外して発生操作を行う。発生結果は表1に示したように、完全に菌糸蔓延が完了した段階で除蓋操作を行うことで、栽培に要する総日数が約55日間と20日間以上も長くなってしまうことが判明した。
【0021】
【表1−1】

【0022】
【表1−2】

【0023】
表1−1及び表1−2の結果から明らかなように、菌糸蔓延未完了の培養開始14日目で生育室に移動して除蓋操作を行い、菌糸伸長と平行して原基形成の誘導管理を行うことで、害菌類の感染を受けることもなく40%程度の飛躍的な栽培総日数の短縮が可能となり、収量的にも安定した発生結果の得られることが判明した。
【0024】
実施例2〜4:
実施例1と同様の管理において、除蓋する日数を接種後3日目(実施例2)、5日目(実施例3)、10日目(実施例4)のそれぞれ3水準の試験区に変更した以外は、実施例1と同様の管理でアラゲキクラゲの栽培を行った。
【0025】
比較例2:
実施例1と同様の管理において、除蓋する日数を接種直後(発菌前)に変更した以外は、実施例1と同様の管理でアラゲキクラゲの栽培を行った。本例においては、害菌発生のために収穫が出来なかった。
【0026】
【表2−1】

【0027】
【表2−2】

【0028】
表2−1及び表2−2の結果から明らかなように、除蓋日数が早くなるにつれて害菌発生率が高くなる傾向が見られ、除蓋適期としては接種後10日目以降であることが判明した。また、早期に除蓋操作を行っても特に収量が増加する傾向は認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
栽培瓶を使用したキクラゲ類に属するきのこの栽培において、発菌後であって菌糸蔓延前に除蓋した状態で菌糸培養と平行して原基形成の誘導を行うことを特徴とするキクラゲ類のきのこの瓶容器栽培方法。

【公開番号】特開2013−106596(P2013−106596A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256589(P2011−256589)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【特許番号】特許第4941612号(P4941612)
【特許公報発行日】平成24年5月30日(2012.5.30)
【出願人】(591225039)株式会社キノックス (5)
【Fターム(参考)】