キチンエリシター応答性を高めた植物及びその作出方法
【課題】広範囲の病原菌に存在する物質を認識して強い防御応答反応又は病害抵抗性反応を引き起こす植物及びその作出方法等を提供する。
【解決手段】 non−RDキナーゼタンパク質のキナーゼドメイン及び膜近傍(JM)ドメインを含む細胞内ドメインとイネCEBiP又はその機能上のホモログタンパク質の細胞外ドメインとを含む、細胞外ドメイン−膜貫通(TM)ドメイン−JMドメイン−キナーゼドメイン型のキメラ受容体をコードする遺伝子であって、植物細胞においてキチン特異的にHR細胞死等の防御応答反応をより強く誘導することができるキメラ遺伝子、この遺伝子を含む発現ベクター、これらを含む植物細胞、植物組織、植物体、及び種子。
【解決手段】 non−RDキナーゼタンパク質のキナーゼドメイン及び膜近傍(JM)ドメインを含む細胞内ドメインとイネCEBiP又はその機能上のホモログタンパク質の細胞外ドメインとを含む、細胞外ドメイン−膜貫通(TM)ドメイン−JMドメイン−キナーゼドメイン型のキメラ受容体をコードする遺伝子であって、植物細胞においてキチン特異的にHR細胞死等の防御応答反応をより強く誘導することができるキメラ遺伝子、この遺伝子を含む発現ベクター、これらを含む植物細胞、植物組織、植物体、及び種子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物のエリシター応答性又は耐病性を向上させるキメラ受容体タンパク質、これをコードするキメラ遺伝子、この遺伝子を導入した植物及びその作出方法等に関し、さらに具体的には、キメラ受容体遺伝子の導入によりエリシター応答性又は耐病性を高めた植物及びその作出方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の病害抵抗性を向上させる方法としては、これまでに、i)真性抵抗性遺伝子(True resistance genes)の導入、ii)病害応答経路のシグナル伝達に関与する遺伝子の過剰発現、iii)過敏感反応(Hypersensitive reaction:HR)性細胞死を引き起こすタンパク質の感染時特異的発現、iv)病害応答反応の結果生成される抗菌性タンパク質の過剰発現、等が報告されている(非特許文献1:西澤洋子「耐病性植物の分子育種」植物細胞工学シリーズ19『分子レベルから見た植物の耐病性』、p.136-146、2004年、秀潤社)。
【0003】
i)の真性抵抗性遺伝子の導入に基づく方法については、多くの場合、発病を完全に阻止する非常に強い抵抗性を発揮する反面、限られた病原菌に対してのみしか効果を示さない(抵抗性スペクトラムが狭い)ことや、病原菌側の遺伝子変異によって抵抗性が崩壊してしまうといった問題点がある。ii)の方法では、病害抵抗性が高まると同時に、矮化や収量の減少等を伴うことが多い。iii)の方法では、細胞死誘導タンパク質の発現を厳密に制御する必要があるが、感染時にのみ活性化するプロモーターの開発という課題が残る。また、iv)の方法では、十分な耐病性効果が得られないという問題がある。
【0004】
例えば、耐病性向上のために溶菌酵素(キチナーゼ)又はエリシタータンパク質(B1xA2−700、Pseudomonas syringae pv. syringaeのhrpZ)をコードする遺伝子を用いた遺伝子導入植物の作製例(特許文献1〜5)等が報告されている。
【0005】
植物の受容体遺伝子を改変してキメラ受容体を発現させることにより、あるリガンドに対して元の植物で見られない生理反応を誘導させた例がある。すなわち、構造的に同じファミリーに分類される、シロイヌナズナのブラシノライド(植物ステロイドホルモン)受容体の遺伝子BRI1とイネの白葉枯病抵抗性遺伝子Xa21とを融合し、イネ培養細胞で発現させたところ、ブラシノライド処理によってHR性の細胞死が誘導された(非特許文献2:He et al., Science, 288, 2360-2363, 2000)。
【0006】
しかし、この実験は、BRI1とXa21という、どちらもロイシン・リッチ・リピート(LRR)を細胞外ドメインとして持つ、構造的に極めて類似したタンパク質(LRR−RLKファミリー)の受容体同士を融合させたものであり、構造上異なるファミリーに属する細胞膜局在性の受容体同士を融合させた場合、細胞外のシグナルを期待どおりに細胞内に伝達することが可能であるかどうかは不明である。また、この報告は培養細胞を使った実験での結果であるから、植物体にした場合、期待どおりにブラシノライドでHR細胞死を誘導できるかどうかも不明である。さらに、本報告は植物ホルモンに対する応答性を改変したものであり、植物ホルモンへの細胞応答研究に資することは述べられているが、植物ホルモン未処理植物の耐病性付与効果については言及されていない。
【0007】
また、ダイズのグルカンエリシター受容体ERのエリシター結合部位(アミノ酸番号239〜442)を含むドメインと、シロイヌナズナの真性抵抗性タンパク質RPS2のN末端側ドメイン(ロイシンジッパー及び核酸結合部位の一部を含む)とを含むキメラ受容体の作製が報告されている(特許文献6)。グルカンエリシター受容体ERは、膜貫通ドメインを有さないため、このキメラ受容体の細胞内局在性やトポロジーは不明である。このキメラ受容体遺伝子で形質転換された植物体は、グルカンエリシターに対して過敏感反応を生じることが記載されているが、実際に病害抵抗性が付与されているかどうかは不明である。さらに、このキメラ受容体は、種々の枝分かれ構造体が存在するグルカンオリゴ糖のうち、フィトフトーラ(Phytophthora)属菌由来のベータ-D-グルコヘキサオシド(β-D-glucohexaoside)を最小構造として含むグルカンオリゴ糖以外には有効ではない可能性が高い。
【0008】
【特許文献1】特開2003−250370号公報
【特許文献2】特開平10−286034号公報
【特許文献3】特開2002−272291号公報
【特許文献4】特開2003−9690号公報
【特許文献5】特開2002−325519号公報
【特許文献6】再表WO98/58065号公報(国際公開WO98/58065号公報)
【非特許文献1】西澤洋子、「耐病性植物の分子育種」植物細胞工学シリーズ19、『分子レベルから見た植物の耐病性』、p.136-146、2004、秀潤社
【非特許文献2】He et al., Science, 288, 2360-2363, 2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のとおり、従来法では、強い病害抵抗性を与える真性抵抗性遺伝子を利用した場合は、効果を示す病原菌の特異性が高いため汎用性が低く、逆に、広範囲の病原菌に作用する自己防御関連遺伝子を利用した場合は、発病を防ぐほどの十分な抵抗性を付与することが困難であるという問題がある。したがって、広範囲の病原菌に対して強い抵抗性反応を示す植物体及びその作出方法等が求められている。
【0010】
本発明は、広範囲の病原菌に存在する物質を認識して強い防御応答反応又は病害抵抗性反応を引き起こす植物及びその作出方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
キチンは植物病原菌類を含む多くの菌類の細胞壁構成成分の一つであり、キチンから生成されるキチンオリゴ糖(キチンエリシター)は防御応答反応を誘起する。しかし、植物が感染を受ける際のキチンエリシターの生成量は少ないと予想され、また、キチンエリシターによって誘導される防御応答反応も細胞死を伴う程の強いHRではない。そのため、この防御機構のみで植物の発病を完全に防ぐことは困難である。
【0012】
そこで、本発明者らは、キチンエリシター受容体を改変し、キチンエリシターで強いHRを誘導させることによって病害抵抗性を付与しようと考え、構造的に全く異なるファミリーに分類される2種類の受容体を融合させることによってリガンドと細胞応答を組換えることに成功した。すなわち、非特異的エリシター(キチンオリゴ糖)受容体(キチンエリシター結合タンパク質;CEBiP)の細胞外ドメインと、特異的エリシター(avrXa21由来)に対し強い抵抗性反応を誘導する受容体(XA21)の細胞内ドメインとを融合させることによって、キチンエリシターに対し強い防御応答反応を起動するキメラ受容体遺伝子を構築し、このキメラ受容体遺伝子を導入した植物体を作製したところ、この植物体が広範囲の病原菌に共通するキチンエリシターに応答して強い病害抵抗性反応を引き起こすことを見い出し、本発明を完成した。本発明は、細胞膜上の受容体を改変することによる耐病性分子育種法によって実際に植物に菌類病抵抗性が付与されることが確認された初めての例である。
【0013】
すなわち、本発明は、
〔1〕 non−RDキナーゼタンパク質のキナーゼドメイン及び膜近傍(JM)ドメインを含む細胞内ドメインとイネCEBiP又はその機能上のホモログタンパク質の細胞外ドメインとを含む、細胞外ドメイン−膜貫通(TM)ドメイン−JMドメイン−キナーゼドメイン型のキメラ受容体をコードする遺伝子であって、植物細胞においてキチン特異的にHR細胞死等の防御応答反応をより強く誘導することができるキメラ遺伝子;
〔2〕 前記non−RDキナーゼタンパク質が、イネXA21タンパク質である、前記〔1〕記載のキメラ遺伝子;
〔3〕 (a)配列番号1と同一のアミノ酸配列からなるキメラ受容体、
(b)配列番号1のアミノ酸配列において、LysMモチーフ、TMドメイン、JMドメイン及びキナーゼドメイン部分が配列番号1と同一又は保存的置換されており、その他の部分において異なるアミノ酸配列からなるキメラ受容体、
(c)配列番号5と同一のアミノ酸配列からなるキメラ受容体、
(d)配列番号5のアミノ酸配列において、LysMモチーフ、TMドメイン、JMドメイン及びキナーゼドメイン部分が配列番号5と同一又は保存的置換されており、その他の部分において異なるアミノ酸配列からなるキメラ受容体
のいずれかのキメラ受容体をコードするキメラ遺伝子;
〔4〕 前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項記載の遺伝子を含む発現ベクター;
〔5〕 前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項記載の遺伝子又は前記〔4〕記載の発現ベクターを含む植物細胞;
〔6〕 前記〔5〕記載の植物細胞を含む植物組織;
〔7〕 前記〔5〕記載の植物細胞を含む植物体;
〔8〕 前記〔7〕記載の植物体から得られる種子;
〔9〕前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項記載のキメラ遺伝子によってコードされたキメラ受容体タンパク質;
〔10〕前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項記載のキメラ遺伝子を植物に導入することにより、植物のキチンエリシター応答性を高める方法。
〔11〕 前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項記載の遺伝子又は前記〔4〕記載の発現ベクターで植物細胞を形質転換する工程を含む、前記〔10〕記載の方法;
〔12〕 前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項記載のキメラ遺伝子を植物に導入することにより、植物に菌類病抵抗性を付与する方法;
〔13〕 前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項記載の遺伝子又は前記〔4〕記載の発現ベクターで植物細胞を形質転換する工程を含む、前記〔12〕記載の方法、
を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、キチンを有する菌類全般に対して耐病性効果の高い植物の分子育種法を提供する。すなわち、キチンオリゴ糖は常に直鎖構造であり、エリシター活性の有無はその長さだけに依存するため、キチンを持つ各種菌類は、感染時にキチンエリシターを産生することになる。本発明は、植物のキチンエリシター応答性を高める方法を提供するので、イネいもち病菌に対するイネの耐病性付与に限らず、他の種々の植物とキチンを含む他の病原菌類の組合せについても利用することができる。したがって、本発明の方法は、汎用性の高い耐病性分子育種法であり、難防除病害の問題を抱える作物への適用も可能であるうえ、本発明の方法及び植物を用いることにより、多くの一般的な作物の減農薬栽培が可能となる。
【0015】
さらに、本発明のキメラ受容体や、それを発現する植物細胞を利用して、キチンエリシター受容体の分子メカニズムや、リガンド認識後の細胞内シグナル伝達機構、真性抵抗性タンパク質の機能発現機構の解析等が可能である。
【0016】
したがって、本発明は、多くの作物の品種改良に寄与することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のキメラ遺伝子は、non−RDキナーゼタンパク質由来の細胞内ドメインと、CEBiP等のキチンエリシター受容タンパク質由来の細胞外ドメインとを含むキメラ受容体をコードする。
【0018】
「non−RDキナーゼ」は、細胞外ドメイン−膜貫通(TM)ドメイン−膜近傍(JM)ドメイン−Ser/Thrプロテインキナーゼドメインという構造を特徴とする受容体様キナーゼのうち、免疫に関係する可能性の高い一群の受容体キナーゼであり(Dardick and Ronald, PLoS Pathogens, 2, 14-28, 2006)、リガンド認識後細胞死を誘導するシグナル伝達系を起動するという点で同じ機能を有する。
【0019】
例えば、イネ白葉枯病に対する真性抵抗性遺伝子Xa21によってコードされるXA21タンパク質は、avrXa21遺伝子を持つ白葉枯病細菌を特異的に認識し、HR細胞死を起動する。Xa21遺伝子は、Xa21遺伝子を持つイネ系統(例えば、野生イネであるOryza longistaminata(国立遺伝学研究所から入手可能))からクローニングできる。
【0020】
non−RDキナーゼとしては、このXA21(LRR-RLKタイプ; Song et al., Science, 270, 1804-1806, 1995)のほか、FLS2(シロイヌナズナ、アクセッション番号:NM_124003)、PR5K(シロイヌナズナ、アクセッション番号:U48698)、LRK10(コムギ、アクセッション番号:U51330)、Xa26(イネ、アクセッション番号:DQ426646)、Pi−d2(Chen et al., Plant J., 46, 794-804, 2006)等の遺伝子によってコードされる受容体タンパク質が挙げられる。
【0021】
キチンエリシター受容体は、N−アセチルキトオリゴ糖(キチンエリシター)を認識して、植物細胞における様々な防御応答反応を活性化することが知られている。キチンエリシター受容体遺伝子としては、例えば、イネのCEBiPが知られている(LysMタイプ;Kaku et al., ProNAS, 103, 11086-11091, 2006)。CEBiPは、イネの原形質膜に存在するキチンエリシター受容体である。CEBiPをコードするDNA断片は、例えば、イネ(品種:日本晴)の核DNAからPCRクローニングしたり、イネ完全長cDNAクローンリソースセンター(http://www.rgrc.dna.affrc.go.jp/index.html.en、アクセッション番号:AK073032)から入手可能である。
【0022】
また、イネのCEBiP遺伝子ホモログとしてはアクセッション番号:AK060664等がある。イネ以外の種々の植物の培養細胞におけるキチンエリシター結合活性を調べた結果、オオムギ、ニンジン等の培養細胞の原形質膜にもキチンエリシター結合タンパク質が見出されている(Okada et al., Plant Cell Physiol., 43, 505-512, 2002)。したがって、キチンエリシター受容体はイネ以外の植物からも調製できる。実際、ジャガイモ(Erwinia induced protein 1;アクセション番号:AAO32065)、ブドウ(unnamed protein product;アクセッション番号:CAO47463、unnamed protein product;アクセッション番号:CAO47464、及びhypothetical protein;アクセッション番号:CAN62195)、シロイヌナズナ(peptidoglycan-binding LysM domain-containing protein;アクセッション番号:NP_565406、及びunknown protein;アクセッション番号:AAM65912)、コムギ(Sequence 142035 from patent US 7214786;アクセッション番号:ABT54565)等において、CEBiP遺伝子の1次構造上のホモログが知られている。それらは、CEBiPと同様、細胞外ドメイン内に、ペプチドグリカンやキチン結合活性があると考えられているLysMと呼ばれるモチーフを持つ。これらはCEBiPと同様の機能を有し、CEBiPの機能上のホモログ、すなわち、キチンエリシター受容体であると考えられるが、たとえCEBiPと1次構造があまり似ていなくても、キチンエリシター受容体として機能するタンパク質であるなら、本発明において細胞外ドメインのソースとして利用することができる。
【0023】
本発明のキメラ遺伝子は、細胞外ドメイン−膜貫通(TM)ドメイン−細胞内ドメイン(JMドメイン−キナーゼドメイン)の基本構造を有する。本発明のキメラ遺伝子の構築においては、目的の植物に応じて、その植物において細胞死を誘導し得るいずれかのnon−RDキナーゼタンパク質由来の細胞内ドメインと、CEBiP又はその機能上のホモログタンパク質由来の細胞外ドメインとが選択される。例えば、細胞外ドメイン側としてはイネCEBiP遺伝子、細胞内ドメイン側としてはFLS2(シロイヌナズナ)、PR5K(シロイヌナズナ)、Pi−d2(イネ)、Xa26(イネ)、LRK10(コムギ)を選択する等の組合せが可能である。
【0024】
non−RDキナーゼタンパク質由来の細胞内ドメインには、少なくともキナーゼドメインと共にJMドメインが含まれる。JMドメインは、TMドメインのそばにある膜近傍配列で、non−RDキナーゼの場合、細胞内ドメインの一部であって、セリン/スレオニンプロテインキナーゼの自己リン酸化のターゲットであるセリン、スレオニン残基を含む領域である(Xu et al., Plant Journal, 45, 740-751, 2006)。
【0025】
また、細胞外ドメインと細胞内ドメインを結ぶ膜貫通(TM)ドメインは、CEBiP由来のものでも、non−RDキナーゼ由来のものでもよいが、より強いキチンエリシターによる防御応答反応をもたらすには、CEBiP由来のものが好ましい。
【0026】
本発明の遺伝子は、それによってコードされるキメラ受容体タンパク質が植物細胞においてキチン特異的にHR細胞死等の防御応答反応をより強く誘導することができる限りにおいて、例えば遺伝子コドンの縮重やアミノ酸の保存的置換などのために、細胞内ドメインが由来するnon−RDキナーゼタンパク質及び細胞外ドメインが由来するCEBiP又はその機能上のホモログタンパク質をコードする遺伝子とは異なる塩基配列であってもよい。
【0027】
例えば、イネXa21遺伝子の細胞内ドメイン及びイネCEBiP遺伝子の細胞外ドメインを有する本発明の遺伝子の好ましい具体例は、以下の実施例において詳細に説明されている、CRXa1(配列番号2)及びCRXa3(配列番号6)である。これらによってコードされるキメラタンパク質はCRXA1(配列番号1)及びCRXA3(配列番号5)であり、本発明の遺伝子は、これらと同じアミノ酸配列のタンパク質をコードする限りにおいてCRXa1(配列番号2)及びCRXa3(配列番号6)と異なる塩基配列を有していてもよい。さらに、本発明の遺伝子は、それがコードするキメラ受容体タンパク質が植物細胞においてキチン特異的に防御応答反応をより強く誘導することができる限りにおいて、CRXA1(配列番号1)及びCRXA3(配列番号5)と異なるアミノ酸配列をコードする塩基配列、例えばこれらのうちLysMモチーフ、TMドメイン、JMドメイン、キナーゼドメインのような重要部分が同一又は保存的置換されており、その他の部分において異なるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有していてもよい。
【0028】
上記のような各遺伝子におけるドメインの特定及び選択は、公知の遺伝子及びタンパク質データベース、及び配列解析ソフトウェア等を用いて行うことができる。また、遺伝子クローニング、核酸の合成、キメラ遺伝子の構築及びキメラ遺伝子を含む発現ベクターの作製等は、当業者に一般的な遺伝子工学的手法によって容易に行うことができる。
【0029】
本発明の発現ベクターは、例えば植物に導入した後、本発明の遺伝子が植物体中で発現するように、発現プロモーターを含む。一般に、該プロモーターの下流には本発明の遺伝子が位置し、さらに該遺伝子の下流にはターミネーターが位置する。この目的に用いられるベクターは、植物への導入方法や植物の種類に応じて、当業者によって適宜選択される。上記プロモーターとしては、例えばカリフラワーモザイクウイルス(CaMV)由来の35Sプロモーターや、トウモロコシのユビキチンプロモーター等を挙げることができる。また、上記ターミネーターとしては、カリフラワーモザイクウイルス由来のターミネーターや、ノパリン合成酵素遺伝子由来のターミネーター等を挙げることができる。しかし、植物細胞中で機能するプロモーターやターミネーターであれば、これらに限定されない。
【0030】
また、本発明の遺伝子を導入された形質転換植物細胞を効率的に選択するために、上記発現ベクターは、適当な選抜マーカー遺伝子カセットを含むか、あるいは、選抜マーカー遺伝子カセットを含むDNAと共に植物細胞へ導入するのが好ましい。この目的に使用する選抜マーカー遺伝子としては、例えば、抗生物質ハイグロマイシン耐性をもたらすハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、カナマイシン耐性をもたらすネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
本発明の遺伝子DNA断片あるいは本発明の遺伝子を含む発現ベクターの植物細胞への導入は、当業者においては公知の方法、例えば、アグロバクテリウム法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法、ポリエチレングリコール法等により実施することができる。また、本発明の遺伝子を導入した植物細胞は、導入された選抜マーカー遺伝子の種類に従って適当な条件で培養することによって得られる。
【0032】
本発明の遺伝子を導入した形質転換細胞から、植物体を再生することができる。植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて、また、用いた遺伝子導入法に応じて当業者に公知の方法で行うことができる。例えば、アグロバクテリウム法でカルスに遺伝子を導入した場合は、カルスから植物体を再生させる方法(Toki, et al., Plant Journal, 47, 969-976, 2006)、エレクトロポレーション法を用いた場合は、プロトプラストから植物体を再生させる方法(Toki, et al., Plant Physiol., 100, 1503-1507, 1992)等を用いることができる。一旦、ゲノム中に本発明の遺伝子が導入された形質転換植物細胞や種子が得られれば、それを基に、該植物培養組織や植物体を量産することも可能である。
【0033】
本発明のキメラ受容体遺伝子は、細胞内で発現されると、キチンエリシター受容体の細胞外ドメインによってキチンエリシターを認識し、細胞内ドメインを介してHR細胞死を誘導することができるキメラ受容体タンパク質が生成される。その結果、本発明のキメラ受容体遺伝子及びキメラ受容体は、植物細胞又は植物体に、増強されたキチンエリシター応答性、又は、増強されたキチンエリシター応答性及び菌類全般に対する強い抵抗性を付与することができる。
【0034】
「増強された」又は「より強い」防御応答反応又はキチンエリシター応答性とは、本発明の遺伝子を導入した細胞又は植物体と、本発明の遺伝子を導入していない宿主細胞又は植物体とを比較した場合に、本発明の遺伝子を導入した細胞又は植物体がキチンエリシターに対し防御応答反応の有意な向上を示すこと(具体的には、HR細胞死、活性酸素生成量、活性窒素生成量のいずれか一以上において有意に高い量を示すこと、又はいずれかの防御関連遺伝子の有意に早い又は強い発現誘導を示すこと等)をいう。このような防御応答反応又は防御関連遺伝子発現の確認のための試験は、公知の方法により行うことができる。例えば、細胞死の測定は、エバンスブルー染色法(Baker and Mock, Plant Cell, Tissue and Organ Culture, 39, 7-12, 1994)、ニュートラルレッド染色法(Borenfreund and Puerner, Toxicology Letters, 24, 119-124, 1985);活性酸素生成の測定は、ルミノール発光法(過酸化水素検出;Schwacke and Hager, Planta, 187, 136-141, 1992)、ジヒドロエチジウム(DHE)染色法(スーパーオキシド検出;Yamamoto et al., Plant Physiol., 128, 63-72, 2002);活性窒素生成の測定は、DAF-2DA法(一酸化窒素検出;Yamamoto et al., J. General Plant Pathology, 70, 85-92, 2004)、APF(アミノフェニルフルオレセイン)法(過酸化亜硝酸イオン検出;Saito et al., Plant Cell Physiol., 47, 689-697, 2006);遺伝子発現の測定は、RT-PCR法、マイクロアレイ法等によって行うことができる。
【0035】
本発明によって罹患を防止又は軽減することができる植物の菌類病としては、イネについては、イネいもち病に加えて、イネの苗立枯病(Fusarium属菌、Trichoderma属菌、Rhizoctonia属菌等による)、ごま葉枯病(Cochliobolus miyabeanus)、褐色葉枯病(Metasphaeria albescens)、紋枯病(Thanatephorus cucumeris)等の菌類病が挙げられるが、これらに限らず細胞壁にキチンを有する菌類全般に起因する障害・疾患である。イネ以外の植物についても同様である。
【0036】
本発明において用いられる植物としては、イネ、コムギ等の単子葉植物、タバコ、ジャガイモ、ブドウ等の双子葉植物が例示されるが、本発明は、これらに限らず、各種の作物、植物等に応用することができる。
【0037】
本発明のキメラ受容体タンパク質は、それ自体を得ることもできる。本発明のキメラタンパク質は、それが植物細胞においてキチン特異的にHR細胞死等の防御応答反応をより強く誘導することができる限りにおいて、例えば遺伝子コドンの縮重やアミノ酸の保存的置換などのために、細胞内ドメインが由来するnon−RDキナーゼタンパク質及び細胞外ドメインが由来するCEBiP又はその機能上のホモログタンパク質とは異なるアミノ酸配列であってもよい。例えば、イネXa21遺伝子の細胞内ドメイン及びイネCEBiP遺伝子の細胞外ドメインを有する本発明のキメラタンパク質は、それが植物細胞においてキチン特異的にHR細胞死等の防御応答反応をより強く誘導することができる限りにおいて、CRXA1(配列番号1)及びCRXA3(配列番号5)と異なるアミノ酸配列、例えばこれらのうちLysMモチーフ、TMドメイン、JMドメイン、キナーゼドメインのような重要部分が同一又は保存的置換されており、その他の部分において異なるアミノ酸配列を有していてもよい。
【0038】
本発明のタンパク質の生産は、通常のタンパク質精製技術により、例えば、大腸菌、酵母、昆虫細胞、植物細胞、動物細胞等を宿主としてキメラ受容体遺伝子を導入し、これらの宿主で発現させ、可溶化後、1)キチンカラムへの吸着能を利用した精製法、2)発現時にヒスチジンタグ等を付加しておき、タグに応じた方法(ヒスチジンタグならばニッケルカラム)等を行うことによって、精製タンパク質として得ることができる。このような精製された本発明のキメラ受容体タンパク質は、1)3次元構造解析(X線解析法、NMR解析法等)、2)相互作用するタンパク質の単離(アフィニティークロマトグラフィー等)、3)再構築系におけるシグナル伝達機構解析、等の研究目的等での利用も可能である。
【実施例】
【0039】
1.キメラ受容体遺伝子及びベクターの構築
CEBiP遺伝子及びXa21遺伝子のキメラ受容体をコードする遺伝子及びそれを含むベクターは、以下のようにして作製した。
【0040】
CEBiP遺伝子(Kaku et al., ProNAS, 103, 11086-11091, 2006)領域を増幅するために、イネ完全長cDNAクローンデータベース(http://cdna01.dna.affrc.go.jp/cDNA/)内のクローン(アクセッション番号:AK073032)を鋳型に、C1-Spe(gaactagtCTTTCCCCACCATGGCGTCGCT:配列番号9)とC2R-Nh(cagctagcAAGGAAACAGATAATGATCAA:配列番号10)とのプライマー対を用いてPCRを行った。増幅された、CEBiP遺伝子のほぼ全体を含む約1.1kbのDNA断片(CR12)を、pGEM-Tベクター(登録商標;プロメガ株式会社)のTAクローニング部位に挿入し、pGEM-T-CR12を作製した。また、同様にしてC1-SpeとC3R-Nh(gtgctagcAGTTGCAAGGCTGGTTTGTAT:配列番号11)とのプライマー対を用いてPCRを行った後、増幅された、CEBiPの細胞外ドメイン領域を含む約1kbのDNA断片(CR13)を、pGEM−TベクターのTAクローニング部位に挿入し、pGEM−T−CR13を作製した。
【0041】
一方、イネ白葉枯真性抵抗性遺伝子Xa21の部分クローニングのために、Xa21遺伝子を持つイネ系統IRBB21の種子(独立行政法人農業生物資源研究所 加来久敏博士より譲渡)を播種し、3葉期の幼苗の地上部から「RNeasy Plant Mini kit」(商品名;QIAGEN社)を使って全RNAを抽出した。それを鋳型として用いて、Xa4−Nh(gagctagcGATCTACATCTGCCTCGATGT:配列番号12)とXa7R−Sa(atgagctcTCAGAATTCAAGGCTCCCACCT:配列番号13)とのプライマー対でRT−PCRを行った。増幅された、Xa21の膜貫通ドメインからC末端までを含む約1.2kbのバンド(Xa47)を、アガロースゲルから精製し、プラスミドベクターpGEM−TのTAクローニング部位に挿入し、pGEM−T−Xa47を作製した。次いで、pGEM−T−Xa47を鋳型に、Xa5−Nh(tagctagccacaagagaactaaaaaggga:配列番号14)とXa7R−Sa(atgagctcTCAGAATTCAAGGCTCCCACCT:配列番号13)とのプライマー対でPCRした後、得られた、Xa21のJMドメインからC末端までを含む約1.1kbの増幅産物(Xa57)を、pGEM−TのTAクローニング部位に挿入し、pGEM−T−Xa57を作製した。また、pGEM−T−Xa47を鋳型に、Xa6−Nh(cagctagcttcgcgccgaccaatttgttg:配列番号15)とXa7R−Sa(atgagctcTCAGAATTCAAGGCTCCCACCT:配列番号13)とのプライマー対でPCRした。得られた、Xa21のプロテインキナーゼドメインからC末端までを含む約1kbの増幅産物(Xa67)を、pGEM−TのTAクローニング部位に挿入し、pGEM−T−Xa67を作製した。
【0042】
次に、pGEM−T−CR12をNheIとSacIで処理して開環し、pGEM−T−Xa57をNheIとSacIで切断して得られるDNA断片を挿入し、pGEM−T−CRXa1を作製した。また、pGEM−T−CR12をNheIとSacIで処理して開環し、pGEM−T−Xa67をNheIとSacIで切断して得られるDNA断片を挿入し、pGEM−T−CRXa2を作製した。
【0043】
また、pGEM−T−CR13をNheIとSacIで処理して開環し、pGEM−T−Xa47をNheIとSacIで切断して得られるDNA断片を挿入し、pGEM−T−CRXa3を作製した。さらに、pGEM−T−CR13をNheIとSacIで処理して開環し、pGEM−T−Xa67をNheIとSacIで切断して得られるDNA断片を挿入し、pGEM−T−CRXa4を作製した。
【0044】
これらのベクター、及び各ベクターに含まれるキメラタンパク質遺伝子がコードするキメラタンパク質の模式図を、図1A及び1Bに表す。図1Bにおいて、「LysM」は推定キチン吸着ドメイン(ChBD)、「TM」は膜貫通ドメイン、「JM」は膜近傍ドメイン、「kinase」はプロテインキナーゼ、「LRR」はロイシン・リッチ・リピートをそれぞれ表す。斜線部分はCEBiP由来、白抜き部分はXA21由来である。比較のため、CEBiP及びXA21も示す。
【0045】
こうして得られた各キメラ受容体遺伝子をイネで発現するために、カリフラワーモザイクウィルス(CaMV)の35Sプロモーターのエンハンサー領域を4反復させた人工プロモーターEN4(独立行政法人農業生物資源研究所 廣近洋彦博士より譲渡;配列番号16)を用いて、発現ベクターを作製した。
【0046】
pBI333−EN4−RCC2(Nishizawa et al., Theor. Appl. Genet., 99, 383-390, 1999)は、バイナリーベクターpBI121(Clontech社)のT−DNA領域内に、選抜マーカーカセットとして、CaMV 35Sプロモーター::ハイグロマイシンリン酸転移酵素(HPT)::CaMVターミネーターを持つ他、上記EN4と、その下流に、RCC2(イネキチナーゼ遺伝子Cht−2;アクセッション番号:X56787)とノパリン合成酵素のターミネーター(NOS3’)を持つ。このpBI333−EN4−RCC2を、SpeI及びSacIで切断することによってRCC2を除き、そこに先にクローン化したpGEM−T−CRXa1、2、3又は4由来のSpeI−SacI断片を連結し、それぞれpBI333−EN4−CRXa1、2、3又は4を完成させた。
【0047】
発現ベクターpBI333−EN4−CRXa1、2、3及び4の構造を、図1Cに表す。これらによってコードされるキメラタンパク質の遺伝子をそれぞれ「CRXa1」、「CRXa2」、「CRXa3」及び「CRXa4」と呼び、その塩基配列を配列番号2、4、6及び8にそれぞれ示す。また、それらによってコードされるキメラ受容体タンパク質のアミノ酸配列を、配列番号1、3、5及び7にそれぞれ示す。
【0048】
CRXa1(配列番号2)において、ヌクレオチド番号1〜6は制限酵素SpeI部位、ヌクレオチド番号1086〜1091は制限酵素NheI部位、ヌクレオチド番号2142〜2147は制限酵素SacI部位であり、これらはキメラ遺伝子の構築の際に付加されたものである。同様に、CRXa2、CRXa3及びCRXa4は、以下のように付加された配列を含む:
CRXa2(配列番号4):ヌクレオチド番号1〜6(制限酵素SpeI部位)、ヌクレオチド番号1086〜1091(制限酵素NheI部位)、ヌクレオチド番号2049〜2054(制限酵素SacI部位);
CRXa3(配列番号6):ヌクレオチド番号1〜6(制限酵素SpeI部位)、ヌクレオチド番号972〜977(制限酵素NheI部位)、ヌクレオチド番号2154〜2159(制限酵素SacI部位);及び
CRXa4(配列番号8):ヌクレオチド番号1〜6(制限酵素SpeI部位)、ヌクレオチド番号972〜977(制限酵素NheI部位)、ヌクレオチド番号1935〜1940(制限酵素SacI部位)。
【0049】
CRXA1(配列番号1)において、アミノ酸番号1〜356はCEBiP由来であり、アミノ酸番号1〜28はシグナル配列、アミノ酸番号113〜159は1つ目のLysMモチーフ、アミノ酸番号177〜220は2つ目のLysMモチーフ、アミノ酸番号335〜356はTMドメインに相当する。アミノ酸番号357〜358(Ala-Ser)はNheI部位由来である。アミノ酸番号359〜707はXa21由来であり、アミノ酸番号365〜389はJMドメイン、アミノ酸番号390〜686はSer/Thrプロテインキナーゼドメインに相当する。
【0050】
CRXA2(配列番号3)において、アミノ酸番号1〜356はCEBiP由来であり、アミノ酸番号1〜28はシグナル配列、アミノ酸番号113〜159は1つ目のLysMモチーフ、アミノ酸番号177〜220は2つ目のLysMモチーフ、アミノ酸番号335〜356はTMドメインに相当する。アミノ酸番号357〜358(Ala-Ser)はNheI部位由来である。アミノ酸番号359〜676はXa21由来であり、アミノ酸番号359〜655はSer/Thrプロテインキナーゼドメインに相当する。
【0051】
CRXA3(配列番号5)において、アミノ酸番号1〜318はCEBiP由来であり、アミノ酸番号1〜28はシグナル配列、アミノ酸番号113〜159は1つ目のLysMモチーフ、アミノ酸番号177〜220は2つ目のLysMモチーフに相当する。アミノ酸番号319〜320(Ala-Ser)はNheI部位由来である。アミノ酸番号321〜711はXa21由来であり、アミノ酸番号337〜362はTMドメイン、アミノ酸番号369〜393はJMドメイン、アミノ酸番号394〜690はSer/Thrプロテインキナーゼドメインに相当する。
【0052】
CRXA4(配列番号7)において、アミノ酸番号1〜318はCEBiP由来であり、アミノ酸番号1〜28はシグナル配列、アミノ酸番号113〜159は1つ目のLysMモチーフ、アミノ酸番号177〜220は2つ目のLysMモチーフに相当する。アミノ酸番号319〜320(Ala-Ser)はNheI部位由来である。アミノ酸番号321〜638はXa21由来であり、アミノ酸番号321〜617はSer/Thrプロテインキナーゼドメインに相当する。
【0053】
2.形質転換イネの作出
(1)アグロバクテリウムへの遺伝子導入法
Nagelらの方法(Microbiol. Lett., 67, 325, 1990)にしたがってpBI333−EN4−CRXa1、pBI333−EN4−CRXa2、pBI333−EN4−CRXa3、pBI333−EN4−CRXa4を、それぞれエレクトロポーレーション法によりAgrobacterium tumefacience(EHA105株)に導入した。その後、50μg/mLのカナマイシン及び50μg/mLのハイグロマイシンを含むLB培地上で28℃で2日間培養することによって形質転換アグロバクテリウムを得た。
【0054】
(2)イネへの遺伝子導入法
イネの形質転換は、超迅速形質転換法(特許第3141084号公報、又は、Toki et al., Plant Journal, 47, 969-976, 2006)にしたがって行った。ただし、アグロバクテリウムの除菌にはメロペン(大日本住友製薬)を用いた。具体的には以下のようにして行った。
【0055】
上記(1)で調製した形質転換されたアグロバクテリウムの懸濁液と、超迅速形質転換法にしたがって前培養したイネ(Oryza sativa 品種:日本晴)の種子を、2N6−AS培地(30g/L スクロース、10g/L グルコース、0.3g/L カザミノ酸、2mg/L 2,4−D、10mg/L アセトシリンゴン、4g/L ゲルライト、pH5.2)上で、暗黒下で3日間、28℃で共存培養した。その後、25mg/Lのメロペンを含有する滅菌水を用いて種子からアグロバクテリウムを洗浄後、種子を12.5mg/Lのメロペン及び選抜マーカーとして50mg/Lのハイグロマイシン、さらに4g/L ゲルライトを加えたN6培地(選抜培地)に置床して、28℃、暗所で約10日間培養し、ハイグロマイシン耐性細胞を増殖し、カルスを得た。
【0056】
選抜されたハイグロマイシン耐性カルスを再分化培地(6.25mg/L メロぺン及び50mg/L ハイグロマイシンを補充したMS培地:30g/L スクロース、30g/L ソルビトール、2g/L カザミノ酸、2mg/L カイネチン、0.002mg/L NAA、4g/L ゲルライト、pH5.8)に移植して、再分化するまで、28℃、明所で培養を続けた。
【0057】
再分化個体を、発根培地(6.25mg/L メロぺン及び25mg/L ハイグロマイシンを補充した、ホルモンを含まないMS培地)に置床した。約10日後、新しい発根培地に移植し、さらに約1週間後、形質転換植物が大きくなったところで、2〜3日の馴化を経て「呉羽粒培土−D」(商品名;呉羽化学)を詰めたポットに移植し、温室内で生育させ、次世代の自殖種子(R1世代)を得た。
【0058】
当初得られるハイグロマイシン耐性カルスは、外来遺伝子がイネゲノム中の異なる部位に挿入された不均一な細胞の集団であると考えられる。そこで、形質転換カルスを用いる実験用に、導入カルス細胞を均一化する(単カルス化)ために、同一種子由来のハイグロマイシン耐性カルスを選抜培地に1カルスずつ離して置床し、28℃で培養し、増殖してきた1カルス由来のハイグロマイシン耐性カルスを再び1カルスずつ離して新しい選抜培地に置床した。これをさらに4回繰り返すことによって、カルス細胞を均一化し、それぞれCRXa1、CRXa2、CRXa3、CRXa4カルスとした。
【0059】
3.形質転換イネにおける導入遺伝子の発現解析
イネカルス(Oryza sativa L.品種:日本晴)を、2mg/Lの2,4−D、30g/Lのショ糖、4g/Lのゲルライトを含むpH5.8のN6培地に移植し、28℃、暗所で20日間培養した後、実験に供試した。CRXa1、CRXa2、CRXa3又はCRXa4カルス、及びベクターコントロールカルス(CRXaの代わりにβ−グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子を持つベクターで形質転換したイネカルス)の培養には、上記N6培地に50mg/Lのハイグロマイシンンを加えたものを用いた。
【0060】
(1)CRXa遺伝子転写産物量の解析
各CRXa遺伝子(CRXa1、CRXa2、CRXa3、CRXa4)の転写産物量は、以下の方法で解析した。
【0061】
前述した方法で単カルス化したカルス又は上記の温室で生育中のイネ植物葉から、「セパゾール」(商品名;ナカライテスク株式会社)を用いて全RNAを抽出した。全RNAから、「River Tra Ace」(商品名;東洋紡)及びoligo(dT)20を用いて、40℃、20分のRT−PCRを行うことによってcDNAを合成し、以下のPCRに供試した。100 ngのcDNA、1.25単位のExTaqポリメラーゼ(タカラバイオ)、1×ExTaq Mg2+フリーバッファー、各125μMのdNTPs、1 mM MgCl2、0.5μM フォワードプライマー、0.5μM リバースプライマーを含む25μLのPCR反応液を、94℃で2分反応させた後、98℃で10秒、55℃で30秒、72℃で90秒の反応を25サイクル行い、最後に72℃で4分間反応させた。各CRXa遺伝子の検出にはCEBiPの塩基配列に相補的なCR−QFプライマー(5’-atggaacgctgaagcttggtgaga-3’:配列番号17)及びXa21の塩基配列に相補的なXa7R−Sa(atgagctcTCAGAATTCAAGGCTCCCACCT:配列番号13)を、ユビキチン遺伝子(Os06g0681400)の検出にはUbi5プライマー(5'-ccagtaagtcctcagccatgga-3':配列番号18)及びUbi3プライマー(5'-ggacacaatgattagggatcac-3':配列番号19)を、それぞれ使用した。
【0062】
5μLのPCR産物をアガロースゲル上で電気泳動し、エチジウムブロマイド染色により増幅産物を検出し、導入遺伝子が同程度発現している系統を以後の実験に用いるために選択した。
【0063】
結果を図2A及び2Bに示す。CR−QF/Xa7R−Saプライマーで増幅された1.2kb前後のバンドの濃さがほぼ同じカルス系統(CRXa1−2、−6、CRXa2−7、−8、CRXa3−1、−4、CRXa4−4、−6)、及びイネ系統(CRXa1−15以外)を、以降の実験に供試した。
【0064】
(2)CRXAタンパク質の検出
CRXAタンパク質(CRXA1、CRXA2、CRXA3、CRXA4)は、以下の方法で検出した。
【0065】
10%グリセロール、5mM ジチオスレイトールを含むリン酸緩衝生理食塩水(Phosphate Buffered Saline;PBS)中でイネカルスを破砕し、破砕液を、100,000×gで1時間遠心分離し、上清を可溶性画分(水溶性画分)、沈殿をミクロソーム画分(膜画分)とした。各画分に10%のSDSを加え、100℃で熱変性させた後、全タンパク質を20μgに調整して、10%ポリアクリルアミドゲル中で電気泳動した。泳動後、タンパク質をメンブレン上にブロッティングし、抗CEBiP/ウサギ抗体(Kaku et al., ProNAS, 103, 11086-11091, 2006)、アルカリフォスファターゼ標識した抗ウサギ/ヤギ抗体(Whole Molecule、 Aurora、Ohio、米国)を用い、小岩井ら(Koiwai et al., Plant Journal, 51, 92-104, 2007)の方法にしたがってウェスタン解析を行った。
【0066】
結果を図3に示す。CRXA1〜3はCRXa1〜3カルスの膜画分(パネルB)から、CRXA4はCRXa4カルスの水溶性画分(パネルA)から、それぞれ抗CEBiP抗体と反応するバンドとして検出された。したがって、CRXA1〜3はCEBiPやXA21と同じ細胞膜に、CRXA4は細胞質に、それぞれ局在していると考えられる。
【0067】
4.形質転換カルス細胞のキチンエリシター応答性
キチンエリシターとして、7量体のキチンオリゴ糖(N−アセチルキトヘプタオース、GN7)を用いた。これは、甲殻類由来の7量体のキトサンオリゴ糖(焼津水産化学工業より譲渡)を伊藤らの方法(Ito et al., Plant Journal, 12, 347-356, 1997)で再アセチル化することにより調製した。
【0068】
各実験結果について、各時間のベクターコントロールの値に対して有意差検定(ダネット検定(Dunnett's test)、P<0.05)を行った。
【0069】
(1)細胞死の測定
イネカルスの細胞死は、白須ら(Shirasu et al., Plant Cell, 9, 261-270, 1997)のエバンスブルー染色法を参考にして、以下のように検出した。
【0070】
N6培地中で1日間馴化させたイネカルスを、0.1μg/mLのGN7で処理した。このエリシター処理後、カルスを経時的に採取し、pH7.2の50mM N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)バッファーで洗浄後、0.05%エバンスブルーで15分間染色した。カルスを再び50mM HEPESバッファーでよく洗浄し、ジメチルホルムアミドで50分間脱染した。ジメチルホルムアミド中に溶出されたエバンスブルー量を反映したOD 595値を、分光光度計を用いて測定した。Delledonneら(Delledonne, et al., ProNAS, 98, 13454-13459, 2001)の方法にしたがい、エタノール処理で完全に死滅させたカルスのOD 595値を100%に、また、無処理のコントロールカルスのOD 595nm値を0%に、それぞれ設定し、各カルスの細胞死の割合を相対的に評価した。
【0071】
結果を図4に示す。CRXa1カルス及びCRXa3カルスでは、キチンエリシター処理によってベクターコントロールと比較して有意にHR細胞死が引き起こされたが、JMドメインを持たないCRXA2や、細胞膜に局在しないCRXA4は、キチンエリシターシグナルを細胞死誘導シグナルに変換できないことが示された。
【0072】
(2)活性酸素の測定
活性酸素は、HRに伴って生成が増大するセカンドメッセンジャーとして知られている。そこで、イネカルスから発生するH2O2量を、ルミノール法(Schwacke and Hager, Planta, 187, 136-141, 1992)により測定した。
【0073】
N6培地中で1日間馴化させたイネカルスを、0.1μg/mLのGN7で処理して、経時的に培地を採取した。培地をpH7.9の50mMカリウム−リン酸バッファー内に17倍希釈し、触媒として1.4mMのフェリシアン化カリウム、基質として55μMのルミノールを加え、溶液中のH2O2が触媒するルミノール発光(460nm)をルミノメーター(製品名:TD-20/20 Luminometer、メーカー名:Turner Designs(サニーベル、米国))により10秒間積算した。培地中のH2O2濃度は、市販のH2O2溶液(和光純薬)を培地中に希釈した同解析から作製した検量線をもとに算出した。
【0074】
結果を図5に示す。CRXa1カルス及びCRXa3カルスでは、キチンエリシター処理による活性酸素の生成量がベクターコントロールと比較して有意に増大した。したがって、これらのカルス系統においてキチンエリシター処理によってHRがより強く誘導されることが明らかになった。
【0075】
(3)活性窒素の測定
活性窒素(一酸化窒素)もまた、HRに伴って生成が増大するセカンドメッセンジャーとして知られている。イネカルス内のNO量は、山本ら(Yamamoto et al., J. General Plant Pathology, 70, 85-92, 2004)の方法を参考に以下のようにして検出した。
【0076】
N6培地中で1日間馴化させたイネカルスを、500μMの塩化カルシウムと500μMの硫酸カリウムを含む5mM 2−モルフォリノエタンスルホン酸(MES)バッファー中に移した。1時間後、10μMのジアミノフルオレセイン 2−ジアセテート(DAF−2DA)(第一化学薬品)及び0.1μg/mLのGN7で処理し、経時的にカルスを採取した。カルスを5mM MESバッファー中で破砕し、カルス内のエステラーゼとNOの二段階の触媒によってDAF−2DAから生じたDAF−2Tを、バッファー内に溶出させた。16,000×gの遠心分離により残渣を除いた後、蛍光分光光度計で485nmで励起し、535nmの蛍光を測定した。各サンプルのNO量は、蛍光分光光度計によって検出された蛍光強度を相対的に比較することで評価した。すなわち、キチンエリシター添加直前(0時間)のベクターコントロールの蛍光量を1としたときの相対値で表した。
【0077】
結果を図6に示す。CRXa1カルス及びCRXa3カルスでは、キチンエリシター処理による一酸化窒素の蓄積量がベクターコントロールと比較して有意に増大した。したがって、このことからも、これらのカルス系統においてキチンエリシター処理によってHRがより強く誘導されることが確認された。
【0078】
5.形質転換カルス細胞のリポ多糖応答性
キチンを含まないエリシターとして、細菌性のリポ多糖(LPS)を用いて、上記4.に記載したのと同様に細胞死の検出及び活性酸素の検出を行った。LPSとしては、Sigma-Aldrich(St. Louis, MO, 米国)から市販されている「Lipopolysaccharides from Pseudomonas aeruginosa serotype 10」を使用し、50μg/mLで処理した。実験結果について、各時間のベクターコントロールの値に対して有意差検定(ダネット検定(Dunnett's test)、P<0.05)を行なった。
【0079】
結果を図7に示す。CRXa1〜CRXa4のいずれについても、LPS処理による細胞死(パネルA)及び活性酸素の生成量(パネルB)にベクターコントロールとの間に有意差はなく、キチン以外のエリシター処理では、キメラ受容体の効果は認められなかった。したがって、キメラ受容体は、キチンエリシターを特異的に認識してHR細胞死を引き起こすことが確認された。
【0080】
6.形質転換イネ葉のキチンエリシター応答性
エリシター処理によるイネ葉の細胞死は、以下の方法により検出した。
【0081】
自殖種子(R1世代)、及びコントロールとして、ハイグロマイシン耐性遺伝子とGUS遺伝子とを持つバイナリーベクター(pBI333)で形質転換したイネ種子を、籾殻の除去後、次亜塩素酸ナトリウムで滅菌し、25mg/Lハイグロマイシンを含む寒天プレート上で約10日間栽培し、ハイグロマイシン耐性個体を各系統10個体ずつ「呉羽粒培土−D」(商品名;呉羽化学)に鉢上げした。28℃、自然光下で生育させた、播種後約1ヶ月のイネ苗を実験に供試した。エリシター処理1週間前のイネ苗を、2.5mMの硫酸アンモニウムで処理した。
【0082】
イネの切葉を、直径2mmの菌移植パンチで軽くつぶして、シャーレ内の湿らせたろ紙上に置床した。パンチでつぶした部位に100μg/mLのGN7(20μL)又は0.5mg/mLのLPS(20μL)を滴下し、シャーレに蓋をした。処理葉は、室温26℃、150μmolm-2s-1の光条件下で維持した。処理から2日後、処理葉を0.05%のエバンスブルーで1時間染色後、水で洗浄し、エバンスブルーで染色された壊死部の面積を画像解析ソフト「Image J」(http://rsb.info.nih.gov/ij/)を用いた岸本らの方法(Kishimoto et al., Phytochemistry, 67, 1520-1529, 2006)にしたがって解析した。実験結果について、3グループそれぞれ毎にチューキー・クラマー(Tukey-Kramer)のHSD検定(P<0.05)で統計的に解析した。
【0083】
結果を図8に示す。GN7又はLPSの代わりに水を滴下した場合(水処理)ではいずれの形質転換イネも細胞死は低レベルしか起きなかった。また、LPS処理ではいずれの形質転換イネも同程度レベルの細胞死が誘導された。一方、キチンエリシター(GN7)処理では、CRXA1イネおよびCRXA3イネで有意に細胞死が誘導された。したがって、植物体においても、CRXa1あるいはCRXa3遺伝子を発現する系統特異的にキチンエリシター処理で細胞死がより強く誘導されることが確認された。
【0084】
7.形質転換イネ葉のいもち病抵抗性検定法
接種試験は以下の方法で行った。
自殖種子(R1世代)、及びコントロールとして、ハイグロマイシン耐性遺伝子とGUS遺伝子とを持つバイナリーベクター(pBI333)で形質転換したイネ種子を、籾殻の除去後、次亜塩素酸ナトリウムで滅菌し、25mg/Lハイグロマイシンを含む寒天プレート上で約10日間栽培し、ハイグロマイシン耐性個体を各系統10個体ずつ「呉羽粒培土−D」(商品名;呉羽化学)に鉢上げした。
【0085】
昼間28℃、夜間23℃の閉鎖系温室内で約1ヶ月栽培した苗を実験に供試した。接種試験1週間前には、感染効率を上げるために、2.5mMの硫酸アンモニウムを施肥した。
【0086】
イネいもち病菌(Magnaporthe grisea Ai79-142株、レース037.3)をオートミール寒天培地上で25℃、約2週間生育させた後、ブラックライトランプを4日間照射することにより胞子を形成させた。この胞子を滅菌した絵筆でかき取り、1×106conidia/mLに調整して、いもち病菌胞子懸濁液を調製した。
【0087】
イネの切葉を、湿らせたろ紙上に置床し、胞子懸濁液を10μlずつ滴下接種した。接種葉は、遮光した25℃インキュベーター内に1日間置いた後、26℃、150μmolm-2s-1の光条件下で維持し、接種から7日後、葉面上の壊死斑の長径を測定し、コントロールと比較した。実験結果をチューキー・クラマー(Tukey-Kramer)のHSD検定(P<0.05)で統計的に解析した。
【0088】
結果を図9、パネルA及びパネルBに示す。CRXa1発現イネ及びCRXa3発現イネでは、いもち病抵抗性が有意に向上していた。特に、CRXa1発現イネでは、いもち病菌胞子懸濁液の滴下部位に壊死が認められただけで、ほとんど病斑が伸展しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1A】図1Aは、作製した各中間ベクターの構造を示す模式図である。矢印は挿入されたDNA断片、実線はpGEM−Tベクターを表す。
【図1B】図1Bは、実施例において作製されたキメラタンパク質をコードするキメラ遺伝子(CRXa1、CRXa2、CRXa3及びCRXa4)、及びもとのCEBiP及びXa21遺伝子にコードされるタンパク質の模式図である。
【図1C】図1Cは、イネの形質転換に用いた発現ベクター、pBI333−EN4−CRXa1、2、3及び4の構造を示す模式図である。
【図2A】図2Aは、形質転換イネカルスにおけるCRXa遺伝子(CRXa1、CRXa2、CRXa3、CRXa4)の転写産物量をRT−PCR法で調べた結果を表す図である。
【図2B】図2Bは、形質転換イネ葉におけるCRXa遺伝子の転写産物量をRT−PCR法で調べた結果を表す図である。
【図3】図3は、形質転換イネカルスにおけるCRXAタンパク質の発現を水溶性画分(パネルA)及び膜画分(パネルB)の各々についてウェスタンブロット法で調べた結果を表す図である。
【図4】図4は、キチンエリシター処理によるCRXa発現カルスにおける細胞死誘導を表す図である。 図4〜7において、「v.cont」(点線と斜線のシンボルで表したグラフ)はベクターコントロールを表す。実線と黒の4種のシンボルで表したグラフは、CRXa1、CRXa2、CRXa3及びCRXa4をそれぞれ表す。「*」は、ダネット検定(Dunnett's test)において有意差(P<0.05)があることを表す。
【図5】図5は、キチンエリシター処理後の形質転換カルスにおける活性酸素(H2O2)生成量を示す図である。
【図6】図6は、キチンエリシター処理後の形質転換カルスにおける活性窒素(一酸化窒素)蓄積の相対値を示す図である。
【図7】図7は、LPSエリシター処理による形質転換カルスにおける細胞死(パネルA)及び活性酸素(H2O2)生成量(パネルB)の経時変化を表す図である。
【図8】図8は、キメラ受容体を発現する形質転換イネ葉における細胞死を壊死部の面積によって表す図である。パネルAは、イネ葉の写真を表す。パネルBは、壊死斑面積を表す。パネルBにおいて、グラフ内のアルファベットa, bは統計解析結果(チューキー・クラマー(Tukey-Kramer)のHSD検定、P<0.05)を表し、異なるアルファベットが付いた数値は、グループ内の他の数値と有意に異なることを示す。
【図9】図9は、キメラ受容体を発現する形質転換イネ葉におけるいもち病抵抗性検定の結果を表す図である。パネルAは、病斑長径の長さを示す。パネルAにおいて、グラフ内のアルファベットa〜cは統計解析結果(チューキー・クラマー(Tukey-Kramer)のHSD検定、P<0.05)を表し、アルファベットが付いた数値は他の数値と有意に異なることを示す。パネルBは、イネ葉の写真を表す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物のエリシター応答性又は耐病性を向上させるキメラ受容体タンパク質、これをコードするキメラ遺伝子、この遺伝子を導入した植物及びその作出方法等に関し、さらに具体的には、キメラ受容体遺伝子の導入によりエリシター応答性又は耐病性を高めた植物及びその作出方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の病害抵抗性を向上させる方法としては、これまでに、i)真性抵抗性遺伝子(True resistance genes)の導入、ii)病害応答経路のシグナル伝達に関与する遺伝子の過剰発現、iii)過敏感反応(Hypersensitive reaction:HR)性細胞死を引き起こすタンパク質の感染時特異的発現、iv)病害応答反応の結果生成される抗菌性タンパク質の過剰発現、等が報告されている(非特許文献1:西澤洋子「耐病性植物の分子育種」植物細胞工学シリーズ19『分子レベルから見た植物の耐病性』、p.136-146、2004年、秀潤社)。
【0003】
i)の真性抵抗性遺伝子の導入に基づく方法については、多くの場合、発病を完全に阻止する非常に強い抵抗性を発揮する反面、限られた病原菌に対してのみしか効果を示さない(抵抗性スペクトラムが狭い)ことや、病原菌側の遺伝子変異によって抵抗性が崩壊してしまうといった問題点がある。ii)の方法では、病害抵抗性が高まると同時に、矮化や収量の減少等を伴うことが多い。iii)の方法では、細胞死誘導タンパク質の発現を厳密に制御する必要があるが、感染時にのみ活性化するプロモーターの開発という課題が残る。また、iv)の方法では、十分な耐病性効果が得られないという問題がある。
【0004】
例えば、耐病性向上のために溶菌酵素(キチナーゼ)又はエリシタータンパク質(B1xA2−700、Pseudomonas syringae pv. syringaeのhrpZ)をコードする遺伝子を用いた遺伝子導入植物の作製例(特許文献1〜5)等が報告されている。
【0005】
植物の受容体遺伝子を改変してキメラ受容体を発現させることにより、あるリガンドに対して元の植物で見られない生理反応を誘導させた例がある。すなわち、構造的に同じファミリーに分類される、シロイヌナズナのブラシノライド(植物ステロイドホルモン)受容体の遺伝子BRI1とイネの白葉枯病抵抗性遺伝子Xa21とを融合し、イネ培養細胞で発現させたところ、ブラシノライド処理によってHR性の細胞死が誘導された(非特許文献2:He et al., Science, 288, 2360-2363, 2000)。
【0006】
しかし、この実験は、BRI1とXa21という、どちらもロイシン・リッチ・リピート(LRR)を細胞外ドメインとして持つ、構造的に極めて類似したタンパク質(LRR−RLKファミリー)の受容体同士を融合させたものであり、構造上異なるファミリーに属する細胞膜局在性の受容体同士を融合させた場合、細胞外のシグナルを期待どおりに細胞内に伝達することが可能であるかどうかは不明である。また、この報告は培養細胞を使った実験での結果であるから、植物体にした場合、期待どおりにブラシノライドでHR細胞死を誘導できるかどうかも不明である。さらに、本報告は植物ホルモンに対する応答性を改変したものであり、植物ホルモンへの細胞応答研究に資することは述べられているが、植物ホルモン未処理植物の耐病性付与効果については言及されていない。
【0007】
また、ダイズのグルカンエリシター受容体ERのエリシター結合部位(アミノ酸番号239〜442)を含むドメインと、シロイヌナズナの真性抵抗性タンパク質RPS2のN末端側ドメイン(ロイシンジッパー及び核酸結合部位の一部を含む)とを含むキメラ受容体の作製が報告されている(特許文献6)。グルカンエリシター受容体ERは、膜貫通ドメインを有さないため、このキメラ受容体の細胞内局在性やトポロジーは不明である。このキメラ受容体遺伝子で形質転換された植物体は、グルカンエリシターに対して過敏感反応を生じることが記載されているが、実際に病害抵抗性が付与されているかどうかは不明である。さらに、このキメラ受容体は、種々の枝分かれ構造体が存在するグルカンオリゴ糖のうち、フィトフトーラ(Phytophthora)属菌由来のベータ-D-グルコヘキサオシド(β-D-glucohexaoside)を最小構造として含むグルカンオリゴ糖以外には有効ではない可能性が高い。
【0008】
【特許文献1】特開2003−250370号公報
【特許文献2】特開平10−286034号公報
【特許文献3】特開2002−272291号公報
【特許文献4】特開2003−9690号公報
【特許文献5】特開2002−325519号公報
【特許文献6】再表WO98/58065号公報(国際公開WO98/58065号公報)
【非特許文献1】西澤洋子、「耐病性植物の分子育種」植物細胞工学シリーズ19、『分子レベルから見た植物の耐病性』、p.136-146、2004、秀潤社
【非特許文献2】He et al., Science, 288, 2360-2363, 2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のとおり、従来法では、強い病害抵抗性を与える真性抵抗性遺伝子を利用した場合は、効果を示す病原菌の特異性が高いため汎用性が低く、逆に、広範囲の病原菌に作用する自己防御関連遺伝子を利用した場合は、発病を防ぐほどの十分な抵抗性を付与することが困難であるという問題がある。したがって、広範囲の病原菌に対して強い抵抗性反応を示す植物体及びその作出方法等が求められている。
【0010】
本発明は、広範囲の病原菌に存在する物質を認識して強い防御応答反応又は病害抵抗性反応を引き起こす植物及びその作出方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
キチンは植物病原菌類を含む多くの菌類の細胞壁構成成分の一つであり、キチンから生成されるキチンオリゴ糖(キチンエリシター)は防御応答反応を誘起する。しかし、植物が感染を受ける際のキチンエリシターの生成量は少ないと予想され、また、キチンエリシターによって誘導される防御応答反応も細胞死を伴う程の強いHRではない。そのため、この防御機構のみで植物の発病を完全に防ぐことは困難である。
【0012】
そこで、本発明者らは、キチンエリシター受容体を改変し、キチンエリシターで強いHRを誘導させることによって病害抵抗性を付与しようと考え、構造的に全く異なるファミリーに分類される2種類の受容体を融合させることによってリガンドと細胞応答を組換えることに成功した。すなわち、非特異的エリシター(キチンオリゴ糖)受容体(キチンエリシター結合タンパク質;CEBiP)の細胞外ドメインと、特異的エリシター(avrXa21由来)に対し強い抵抗性反応を誘導する受容体(XA21)の細胞内ドメインとを融合させることによって、キチンエリシターに対し強い防御応答反応を起動するキメラ受容体遺伝子を構築し、このキメラ受容体遺伝子を導入した植物体を作製したところ、この植物体が広範囲の病原菌に共通するキチンエリシターに応答して強い病害抵抗性反応を引き起こすことを見い出し、本発明を完成した。本発明は、細胞膜上の受容体を改変することによる耐病性分子育種法によって実際に植物に菌類病抵抗性が付与されることが確認された初めての例である。
【0013】
すなわち、本発明は、
〔1〕 non−RDキナーゼタンパク質のキナーゼドメイン及び膜近傍(JM)ドメインを含む細胞内ドメインとイネCEBiP又はその機能上のホモログタンパク質の細胞外ドメインとを含む、細胞外ドメイン−膜貫通(TM)ドメイン−JMドメイン−キナーゼドメイン型のキメラ受容体をコードする遺伝子であって、植物細胞においてキチン特異的にHR細胞死等の防御応答反応をより強く誘導することができるキメラ遺伝子;
〔2〕 前記non−RDキナーゼタンパク質が、イネXA21タンパク質である、前記〔1〕記載のキメラ遺伝子;
〔3〕 (a)配列番号1と同一のアミノ酸配列からなるキメラ受容体、
(b)配列番号1のアミノ酸配列において、LysMモチーフ、TMドメイン、JMドメイン及びキナーゼドメイン部分が配列番号1と同一又は保存的置換されており、その他の部分において異なるアミノ酸配列からなるキメラ受容体、
(c)配列番号5と同一のアミノ酸配列からなるキメラ受容体、
(d)配列番号5のアミノ酸配列において、LysMモチーフ、TMドメイン、JMドメイン及びキナーゼドメイン部分が配列番号5と同一又は保存的置換されており、その他の部分において異なるアミノ酸配列からなるキメラ受容体
のいずれかのキメラ受容体をコードするキメラ遺伝子;
〔4〕 前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項記載の遺伝子を含む発現ベクター;
〔5〕 前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項記載の遺伝子又は前記〔4〕記載の発現ベクターを含む植物細胞;
〔6〕 前記〔5〕記載の植物細胞を含む植物組織;
〔7〕 前記〔5〕記載の植物細胞を含む植物体;
〔8〕 前記〔7〕記載の植物体から得られる種子;
〔9〕前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項記載のキメラ遺伝子によってコードされたキメラ受容体タンパク質;
〔10〕前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項記載のキメラ遺伝子を植物に導入することにより、植物のキチンエリシター応答性を高める方法。
〔11〕 前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項記載の遺伝子又は前記〔4〕記載の発現ベクターで植物細胞を形質転換する工程を含む、前記〔10〕記載の方法;
〔12〕 前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項記載のキメラ遺伝子を植物に導入することにより、植物に菌類病抵抗性を付与する方法;
〔13〕 前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項記載の遺伝子又は前記〔4〕記載の発現ベクターで植物細胞を形質転換する工程を含む、前記〔12〕記載の方法、
を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、キチンを有する菌類全般に対して耐病性効果の高い植物の分子育種法を提供する。すなわち、キチンオリゴ糖は常に直鎖構造であり、エリシター活性の有無はその長さだけに依存するため、キチンを持つ各種菌類は、感染時にキチンエリシターを産生することになる。本発明は、植物のキチンエリシター応答性を高める方法を提供するので、イネいもち病菌に対するイネの耐病性付与に限らず、他の種々の植物とキチンを含む他の病原菌類の組合せについても利用することができる。したがって、本発明の方法は、汎用性の高い耐病性分子育種法であり、難防除病害の問題を抱える作物への適用も可能であるうえ、本発明の方法及び植物を用いることにより、多くの一般的な作物の減農薬栽培が可能となる。
【0015】
さらに、本発明のキメラ受容体や、それを発現する植物細胞を利用して、キチンエリシター受容体の分子メカニズムや、リガンド認識後の細胞内シグナル伝達機構、真性抵抗性タンパク質の機能発現機構の解析等が可能である。
【0016】
したがって、本発明は、多くの作物の品種改良に寄与することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のキメラ遺伝子は、non−RDキナーゼタンパク質由来の細胞内ドメインと、CEBiP等のキチンエリシター受容タンパク質由来の細胞外ドメインとを含むキメラ受容体をコードする。
【0018】
「non−RDキナーゼ」は、細胞外ドメイン−膜貫通(TM)ドメイン−膜近傍(JM)ドメイン−Ser/Thrプロテインキナーゼドメインという構造を特徴とする受容体様キナーゼのうち、免疫に関係する可能性の高い一群の受容体キナーゼであり(Dardick and Ronald, PLoS Pathogens, 2, 14-28, 2006)、リガンド認識後細胞死を誘導するシグナル伝達系を起動するという点で同じ機能を有する。
【0019】
例えば、イネ白葉枯病に対する真性抵抗性遺伝子Xa21によってコードされるXA21タンパク質は、avrXa21遺伝子を持つ白葉枯病細菌を特異的に認識し、HR細胞死を起動する。Xa21遺伝子は、Xa21遺伝子を持つイネ系統(例えば、野生イネであるOryza longistaminata(国立遺伝学研究所から入手可能))からクローニングできる。
【0020】
non−RDキナーゼとしては、このXA21(LRR-RLKタイプ; Song et al., Science, 270, 1804-1806, 1995)のほか、FLS2(シロイヌナズナ、アクセッション番号:NM_124003)、PR5K(シロイヌナズナ、アクセッション番号:U48698)、LRK10(コムギ、アクセッション番号:U51330)、Xa26(イネ、アクセッション番号:DQ426646)、Pi−d2(Chen et al., Plant J., 46, 794-804, 2006)等の遺伝子によってコードされる受容体タンパク質が挙げられる。
【0021】
キチンエリシター受容体は、N−アセチルキトオリゴ糖(キチンエリシター)を認識して、植物細胞における様々な防御応答反応を活性化することが知られている。キチンエリシター受容体遺伝子としては、例えば、イネのCEBiPが知られている(LysMタイプ;Kaku et al., ProNAS, 103, 11086-11091, 2006)。CEBiPは、イネの原形質膜に存在するキチンエリシター受容体である。CEBiPをコードするDNA断片は、例えば、イネ(品種:日本晴)の核DNAからPCRクローニングしたり、イネ完全長cDNAクローンリソースセンター(http://www.rgrc.dna.affrc.go.jp/index.html.en、アクセッション番号:AK073032)から入手可能である。
【0022】
また、イネのCEBiP遺伝子ホモログとしてはアクセッション番号:AK060664等がある。イネ以外の種々の植物の培養細胞におけるキチンエリシター結合活性を調べた結果、オオムギ、ニンジン等の培養細胞の原形質膜にもキチンエリシター結合タンパク質が見出されている(Okada et al., Plant Cell Physiol., 43, 505-512, 2002)。したがって、キチンエリシター受容体はイネ以外の植物からも調製できる。実際、ジャガイモ(Erwinia induced protein 1;アクセション番号:AAO32065)、ブドウ(unnamed protein product;アクセッション番号:CAO47463、unnamed protein product;アクセッション番号:CAO47464、及びhypothetical protein;アクセッション番号:CAN62195)、シロイヌナズナ(peptidoglycan-binding LysM domain-containing protein;アクセッション番号:NP_565406、及びunknown protein;アクセッション番号:AAM65912)、コムギ(Sequence 142035 from patent US 7214786;アクセッション番号:ABT54565)等において、CEBiP遺伝子の1次構造上のホモログが知られている。それらは、CEBiPと同様、細胞外ドメイン内に、ペプチドグリカンやキチン結合活性があると考えられているLysMと呼ばれるモチーフを持つ。これらはCEBiPと同様の機能を有し、CEBiPの機能上のホモログ、すなわち、キチンエリシター受容体であると考えられるが、たとえCEBiPと1次構造があまり似ていなくても、キチンエリシター受容体として機能するタンパク質であるなら、本発明において細胞外ドメインのソースとして利用することができる。
【0023】
本発明のキメラ遺伝子は、細胞外ドメイン−膜貫通(TM)ドメイン−細胞内ドメイン(JMドメイン−キナーゼドメイン)の基本構造を有する。本発明のキメラ遺伝子の構築においては、目的の植物に応じて、その植物において細胞死を誘導し得るいずれかのnon−RDキナーゼタンパク質由来の細胞内ドメインと、CEBiP又はその機能上のホモログタンパク質由来の細胞外ドメインとが選択される。例えば、細胞外ドメイン側としてはイネCEBiP遺伝子、細胞内ドメイン側としてはFLS2(シロイヌナズナ)、PR5K(シロイヌナズナ)、Pi−d2(イネ)、Xa26(イネ)、LRK10(コムギ)を選択する等の組合せが可能である。
【0024】
non−RDキナーゼタンパク質由来の細胞内ドメインには、少なくともキナーゼドメインと共にJMドメインが含まれる。JMドメインは、TMドメインのそばにある膜近傍配列で、non−RDキナーゼの場合、細胞内ドメインの一部であって、セリン/スレオニンプロテインキナーゼの自己リン酸化のターゲットであるセリン、スレオニン残基を含む領域である(Xu et al., Plant Journal, 45, 740-751, 2006)。
【0025】
また、細胞外ドメインと細胞内ドメインを結ぶ膜貫通(TM)ドメインは、CEBiP由来のものでも、non−RDキナーゼ由来のものでもよいが、より強いキチンエリシターによる防御応答反応をもたらすには、CEBiP由来のものが好ましい。
【0026】
本発明の遺伝子は、それによってコードされるキメラ受容体タンパク質が植物細胞においてキチン特異的にHR細胞死等の防御応答反応をより強く誘導することができる限りにおいて、例えば遺伝子コドンの縮重やアミノ酸の保存的置換などのために、細胞内ドメインが由来するnon−RDキナーゼタンパク質及び細胞外ドメインが由来するCEBiP又はその機能上のホモログタンパク質をコードする遺伝子とは異なる塩基配列であってもよい。
【0027】
例えば、イネXa21遺伝子の細胞内ドメイン及びイネCEBiP遺伝子の細胞外ドメインを有する本発明の遺伝子の好ましい具体例は、以下の実施例において詳細に説明されている、CRXa1(配列番号2)及びCRXa3(配列番号6)である。これらによってコードされるキメラタンパク質はCRXA1(配列番号1)及びCRXA3(配列番号5)であり、本発明の遺伝子は、これらと同じアミノ酸配列のタンパク質をコードする限りにおいてCRXa1(配列番号2)及びCRXa3(配列番号6)と異なる塩基配列を有していてもよい。さらに、本発明の遺伝子は、それがコードするキメラ受容体タンパク質が植物細胞においてキチン特異的に防御応答反応をより強く誘導することができる限りにおいて、CRXA1(配列番号1)及びCRXA3(配列番号5)と異なるアミノ酸配列をコードする塩基配列、例えばこれらのうちLysMモチーフ、TMドメイン、JMドメイン、キナーゼドメインのような重要部分が同一又は保存的置換されており、その他の部分において異なるアミノ酸配列をコードする塩基配列を有していてもよい。
【0028】
上記のような各遺伝子におけるドメインの特定及び選択は、公知の遺伝子及びタンパク質データベース、及び配列解析ソフトウェア等を用いて行うことができる。また、遺伝子クローニング、核酸の合成、キメラ遺伝子の構築及びキメラ遺伝子を含む発現ベクターの作製等は、当業者に一般的な遺伝子工学的手法によって容易に行うことができる。
【0029】
本発明の発現ベクターは、例えば植物に導入した後、本発明の遺伝子が植物体中で発現するように、発現プロモーターを含む。一般に、該プロモーターの下流には本発明の遺伝子が位置し、さらに該遺伝子の下流にはターミネーターが位置する。この目的に用いられるベクターは、植物への導入方法や植物の種類に応じて、当業者によって適宜選択される。上記プロモーターとしては、例えばカリフラワーモザイクウイルス(CaMV)由来の35Sプロモーターや、トウモロコシのユビキチンプロモーター等を挙げることができる。また、上記ターミネーターとしては、カリフラワーモザイクウイルス由来のターミネーターや、ノパリン合成酵素遺伝子由来のターミネーター等を挙げることができる。しかし、植物細胞中で機能するプロモーターやターミネーターであれば、これらに限定されない。
【0030】
また、本発明の遺伝子を導入された形質転換植物細胞を効率的に選択するために、上記発現ベクターは、適当な選抜マーカー遺伝子カセットを含むか、あるいは、選抜マーカー遺伝子カセットを含むDNAと共に植物細胞へ導入するのが好ましい。この目的に使用する選抜マーカー遺伝子としては、例えば、抗生物質ハイグロマイシン耐性をもたらすハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、カナマイシン耐性をもたらすネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
本発明の遺伝子DNA断片あるいは本発明の遺伝子を含む発現ベクターの植物細胞への導入は、当業者においては公知の方法、例えば、アグロバクテリウム法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法、ポリエチレングリコール法等により実施することができる。また、本発明の遺伝子を導入した植物細胞は、導入された選抜マーカー遺伝子の種類に従って適当な条件で培養することによって得られる。
【0032】
本発明の遺伝子を導入した形質転換細胞から、植物体を再生することができる。植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて、また、用いた遺伝子導入法に応じて当業者に公知の方法で行うことができる。例えば、アグロバクテリウム法でカルスに遺伝子を導入した場合は、カルスから植物体を再生させる方法(Toki, et al., Plant Journal, 47, 969-976, 2006)、エレクトロポレーション法を用いた場合は、プロトプラストから植物体を再生させる方法(Toki, et al., Plant Physiol., 100, 1503-1507, 1992)等を用いることができる。一旦、ゲノム中に本発明の遺伝子が導入された形質転換植物細胞や種子が得られれば、それを基に、該植物培養組織や植物体を量産することも可能である。
【0033】
本発明のキメラ受容体遺伝子は、細胞内で発現されると、キチンエリシター受容体の細胞外ドメインによってキチンエリシターを認識し、細胞内ドメインを介してHR細胞死を誘導することができるキメラ受容体タンパク質が生成される。その結果、本発明のキメラ受容体遺伝子及びキメラ受容体は、植物細胞又は植物体に、増強されたキチンエリシター応答性、又は、増強されたキチンエリシター応答性及び菌類全般に対する強い抵抗性を付与することができる。
【0034】
「増強された」又は「より強い」防御応答反応又はキチンエリシター応答性とは、本発明の遺伝子を導入した細胞又は植物体と、本発明の遺伝子を導入していない宿主細胞又は植物体とを比較した場合に、本発明の遺伝子を導入した細胞又は植物体がキチンエリシターに対し防御応答反応の有意な向上を示すこと(具体的には、HR細胞死、活性酸素生成量、活性窒素生成量のいずれか一以上において有意に高い量を示すこと、又はいずれかの防御関連遺伝子の有意に早い又は強い発現誘導を示すこと等)をいう。このような防御応答反応又は防御関連遺伝子発現の確認のための試験は、公知の方法により行うことができる。例えば、細胞死の測定は、エバンスブルー染色法(Baker and Mock, Plant Cell, Tissue and Organ Culture, 39, 7-12, 1994)、ニュートラルレッド染色法(Borenfreund and Puerner, Toxicology Letters, 24, 119-124, 1985);活性酸素生成の測定は、ルミノール発光法(過酸化水素検出;Schwacke and Hager, Planta, 187, 136-141, 1992)、ジヒドロエチジウム(DHE)染色法(スーパーオキシド検出;Yamamoto et al., Plant Physiol., 128, 63-72, 2002);活性窒素生成の測定は、DAF-2DA法(一酸化窒素検出;Yamamoto et al., J. General Plant Pathology, 70, 85-92, 2004)、APF(アミノフェニルフルオレセイン)法(過酸化亜硝酸イオン検出;Saito et al., Plant Cell Physiol., 47, 689-697, 2006);遺伝子発現の測定は、RT-PCR法、マイクロアレイ法等によって行うことができる。
【0035】
本発明によって罹患を防止又は軽減することができる植物の菌類病としては、イネについては、イネいもち病に加えて、イネの苗立枯病(Fusarium属菌、Trichoderma属菌、Rhizoctonia属菌等による)、ごま葉枯病(Cochliobolus miyabeanus)、褐色葉枯病(Metasphaeria albescens)、紋枯病(Thanatephorus cucumeris)等の菌類病が挙げられるが、これらに限らず細胞壁にキチンを有する菌類全般に起因する障害・疾患である。イネ以外の植物についても同様である。
【0036】
本発明において用いられる植物としては、イネ、コムギ等の単子葉植物、タバコ、ジャガイモ、ブドウ等の双子葉植物が例示されるが、本発明は、これらに限らず、各種の作物、植物等に応用することができる。
【0037】
本発明のキメラ受容体タンパク質は、それ自体を得ることもできる。本発明のキメラタンパク質は、それが植物細胞においてキチン特異的にHR細胞死等の防御応答反応をより強く誘導することができる限りにおいて、例えば遺伝子コドンの縮重やアミノ酸の保存的置換などのために、細胞内ドメインが由来するnon−RDキナーゼタンパク質及び細胞外ドメインが由来するCEBiP又はその機能上のホモログタンパク質とは異なるアミノ酸配列であってもよい。例えば、イネXa21遺伝子の細胞内ドメイン及びイネCEBiP遺伝子の細胞外ドメインを有する本発明のキメラタンパク質は、それが植物細胞においてキチン特異的にHR細胞死等の防御応答反応をより強く誘導することができる限りにおいて、CRXA1(配列番号1)及びCRXA3(配列番号5)と異なるアミノ酸配列、例えばこれらのうちLysMモチーフ、TMドメイン、JMドメイン、キナーゼドメインのような重要部分が同一又は保存的置換されており、その他の部分において異なるアミノ酸配列を有していてもよい。
【0038】
本発明のタンパク質の生産は、通常のタンパク質精製技術により、例えば、大腸菌、酵母、昆虫細胞、植物細胞、動物細胞等を宿主としてキメラ受容体遺伝子を導入し、これらの宿主で発現させ、可溶化後、1)キチンカラムへの吸着能を利用した精製法、2)発現時にヒスチジンタグ等を付加しておき、タグに応じた方法(ヒスチジンタグならばニッケルカラム)等を行うことによって、精製タンパク質として得ることができる。このような精製された本発明のキメラ受容体タンパク質は、1)3次元構造解析(X線解析法、NMR解析法等)、2)相互作用するタンパク質の単離(アフィニティークロマトグラフィー等)、3)再構築系におけるシグナル伝達機構解析、等の研究目的等での利用も可能である。
【実施例】
【0039】
1.キメラ受容体遺伝子及びベクターの構築
CEBiP遺伝子及びXa21遺伝子のキメラ受容体をコードする遺伝子及びそれを含むベクターは、以下のようにして作製した。
【0040】
CEBiP遺伝子(Kaku et al., ProNAS, 103, 11086-11091, 2006)領域を増幅するために、イネ完全長cDNAクローンデータベース(http://cdna01.dna.affrc.go.jp/cDNA/)内のクローン(アクセッション番号:AK073032)を鋳型に、C1-Spe(gaactagtCTTTCCCCACCATGGCGTCGCT:配列番号9)とC2R-Nh(cagctagcAAGGAAACAGATAATGATCAA:配列番号10)とのプライマー対を用いてPCRを行った。増幅された、CEBiP遺伝子のほぼ全体を含む約1.1kbのDNA断片(CR12)を、pGEM-Tベクター(登録商標;プロメガ株式会社)のTAクローニング部位に挿入し、pGEM-T-CR12を作製した。また、同様にしてC1-SpeとC3R-Nh(gtgctagcAGTTGCAAGGCTGGTTTGTAT:配列番号11)とのプライマー対を用いてPCRを行った後、増幅された、CEBiPの細胞外ドメイン領域を含む約1kbのDNA断片(CR13)を、pGEM−TベクターのTAクローニング部位に挿入し、pGEM−T−CR13を作製した。
【0041】
一方、イネ白葉枯真性抵抗性遺伝子Xa21の部分クローニングのために、Xa21遺伝子を持つイネ系統IRBB21の種子(独立行政法人農業生物資源研究所 加来久敏博士より譲渡)を播種し、3葉期の幼苗の地上部から「RNeasy Plant Mini kit」(商品名;QIAGEN社)を使って全RNAを抽出した。それを鋳型として用いて、Xa4−Nh(gagctagcGATCTACATCTGCCTCGATGT:配列番号12)とXa7R−Sa(atgagctcTCAGAATTCAAGGCTCCCACCT:配列番号13)とのプライマー対でRT−PCRを行った。増幅された、Xa21の膜貫通ドメインからC末端までを含む約1.2kbのバンド(Xa47)を、アガロースゲルから精製し、プラスミドベクターpGEM−TのTAクローニング部位に挿入し、pGEM−T−Xa47を作製した。次いで、pGEM−T−Xa47を鋳型に、Xa5−Nh(tagctagccacaagagaactaaaaaggga:配列番号14)とXa7R−Sa(atgagctcTCAGAATTCAAGGCTCCCACCT:配列番号13)とのプライマー対でPCRした後、得られた、Xa21のJMドメインからC末端までを含む約1.1kbの増幅産物(Xa57)を、pGEM−TのTAクローニング部位に挿入し、pGEM−T−Xa57を作製した。また、pGEM−T−Xa47を鋳型に、Xa6−Nh(cagctagcttcgcgccgaccaatttgttg:配列番号15)とXa7R−Sa(atgagctcTCAGAATTCAAGGCTCCCACCT:配列番号13)とのプライマー対でPCRした。得られた、Xa21のプロテインキナーゼドメインからC末端までを含む約1kbの増幅産物(Xa67)を、pGEM−TのTAクローニング部位に挿入し、pGEM−T−Xa67を作製した。
【0042】
次に、pGEM−T−CR12をNheIとSacIで処理して開環し、pGEM−T−Xa57をNheIとSacIで切断して得られるDNA断片を挿入し、pGEM−T−CRXa1を作製した。また、pGEM−T−CR12をNheIとSacIで処理して開環し、pGEM−T−Xa67をNheIとSacIで切断して得られるDNA断片を挿入し、pGEM−T−CRXa2を作製した。
【0043】
また、pGEM−T−CR13をNheIとSacIで処理して開環し、pGEM−T−Xa47をNheIとSacIで切断して得られるDNA断片を挿入し、pGEM−T−CRXa3を作製した。さらに、pGEM−T−CR13をNheIとSacIで処理して開環し、pGEM−T−Xa67をNheIとSacIで切断して得られるDNA断片を挿入し、pGEM−T−CRXa4を作製した。
【0044】
これらのベクター、及び各ベクターに含まれるキメラタンパク質遺伝子がコードするキメラタンパク質の模式図を、図1A及び1Bに表す。図1Bにおいて、「LysM」は推定キチン吸着ドメイン(ChBD)、「TM」は膜貫通ドメイン、「JM」は膜近傍ドメイン、「kinase」はプロテインキナーゼ、「LRR」はロイシン・リッチ・リピートをそれぞれ表す。斜線部分はCEBiP由来、白抜き部分はXA21由来である。比較のため、CEBiP及びXA21も示す。
【0045】
こうして得られた各キメラ受容体遺伝子をイネで発現するために、カリフラワーモザイクウィルス(CaMV)の35Sプロモーターのエンハンサー領域を4反復させた人工プロモーターEN4(独立行政法人農業生物資源研究所 廣近洋彦博士より譲渡;配列番号16)を用いて、発現ベクターを作製した。
【0046】
pBI333−EN4−RCC2(Nishizawa et al., Theor. Appl. Genet., 99, 383-390, 1999)は、バイナリーベクターpBI121(Clontech社)のT−DNA領域内に、選抜マーカーカセットとして、CaMV 35Sプロモーター::ハイグロマイシンリン酸転移酵素(HPT)::CaMVターミネーターを持つ他、上記EN4と、その下流に、RCC2(イネキチナーゼ遺伝子Cht−2;アクセッション番号:X56787)とノパリン合成酵素のターミネーター(NOS3’)を持つ。このpBI333−EN4−RCC2を、SpeI及びSacIで切断することによってRCC2を除き、そこに先にクローン化したpGEM−T−CRXa1、2、3又は4由来のSpeI−SacI断片を連結し、それぞれpBI333−EN4−CRXa1、2、3又は4を完成させた。
【0047】
発現ベクターpBI333−EN4−CRXa1、2、3及び4の構造を、図1Cに表す。これらによってコードされるキメラタンパク質の遺伝子をそれぞれ「CRXa1」、「CRXa2」、「CRXa3」及び「CRXa4」と呼び、その塩基配列を配列番号2、4、6及び8にそれぞれ示す。また、それらによってコードされるキメラ受容体タンパク質のアミノ酸配列を、配列番号1、3、5及び7にそれぞれ示す。
【0048】
CRXa1(配列番号2)において、ヌクレオチド番号1〜6は制限酵素SpeI部位、ヌクレオチド番号1086〜1091は制限酵素NheI部位、ヌクレオチド番号2142〜2147は制限酵素SacI部位であり、これらはキメラ遺伝子の構築の際に付加されたものである。同様に、CRXa2、CRXa3及びCRXa4は、以下のように付加された配列を含む:
CRXa2(配列番号4):ヌクレオチド番号1〜6(制限酵素SpeI部位)、ヌクレオチド番号1086〜1091(制限酵素NheI部位)、ヌクレオチド番号2049〜2054(制限酵素SacI部位);
CRXa3(配列番号6):ヌクレオチド番号1〜6(制限酵素SpeI部位)、ヌクレオチド番号972〜977(制限酵素NheI部位)、ヌクレオチド番号2154〜2159(制限酵素SacI部位);及び
CRXa4(配列番号8):ヌクレオチド番号1〜6(制限酵素SpeI部位)、ヌクレオチド番号972〜977(制限酵素NheI部位)、ヌクレオチド番号1935〜1940(制限酵素SacI部位)。
【0049】
CRXA1(配列番号1)において、アミノ酸番号1〜356はCEBiP由来であり、アミノ酸番号1〜28はシグナル配列、アミノ酸番号113〜159は1つ目のLysMモチーフ、アミノ酸番号177〜220は2つ目のLysMモチーフ、アミノ酸番号335〜356はTMドメインに相当する。アミノ酸番号357〜358(Ala-Ser)はNheI部位由来である。アミノ酸番号359〜707はXa21由来であり、アミノ酸番号365〜389はJMドメイン、アミノ酸番号390〜686はSer/Thrプロテインキナーゼドメインに相当する。
【0050】
CRXA2(配列番号3)において、アミノ酸番号1〜356はCEBiP由来であり、アミノ酸番号1〜28はシグナル配列、アミノ酸番号113〜159は1つ目のLysMモチーフ、アミノ酸番号177〜220は2つ目のLysMモチーフ、アミノ酸番号335〜356はTMドメインに相当する。アミノ酸番号357〜358(Ala-Ser)はNheI部位由来である。アミノ酸番号359〜676はXa21由来であり、アミノ酸番号359〜655はSer/Thrプロテインキナーゼドメインに相当する。
【0051】
CRXA3(配列番号5)において、アミノ酸番号1〜318はCEBiP由来であり、アミノ酸番号1〜28はシグナル配列、アミノ酸番号113〜159は1つ目のLysMモチーフ、アミノ酸番号177〜220は2つ目のLysMモチーフに相当する。アミノ酸番号319〜320(Ala-Ser)はNheI部位由来である。アミノ酸番号321〜711はXa21由来であり、アミノ酸番号337〜362はTMドメイン、アミノ酸番号369〜393はJMドメイン、アミノ酸番号394〜690はSer/Thrプロテインキナーゼドメインに相当する。
【0052】
CRXA4(配列番号7)において、アミノ酸番号1〜318はCEBiP由来であり、アミノ酸番号1〜28はシグナル配列、アミノ酸番号113〜159は1つ目のLysMモチーフ、アミノ酸番号177〜220は2つ目のLysMモチーフに相当する。アミノ酸番号319〜320(Ala-Ser)はNheI部位由来である。アミノ酸番号321〜638はXa21由来であり、アミノ酸番号321〜617はSer/Thrプロテインキナーゼドメインに相当する。
【0053】
2.形質転換イネの作出
(1)アグロバクテリウムへの遺伝子導入法
Nagelらの方法(Microbiol. Lett., 67, 325, 1990)にしたがってpBI333−EN4−CRXa1、pBI333−EN4−CRXa2、pBI333−EN4−CRXa3、pBI333−EN4−CRXa4を、それぞれエレクトロポーレーション法によりAgrobacterium tumefacience(EHA105株)に導入した。その後、50μg/mLのカナマイシン及び50μg/mLのハイグロマイシンを含むLB培地上で28℃で2日間培養することによって形質転換アグロバクテリウムを得た。
【0054】
(2)イネへの遺伝子導入法
イネの形質転換は、超迅速形質転換法(特許第3141084号公報、又は、Toki et al., Plant Journal, 47, 969-976, 2006)にしたがって行った。ただし、アグロバクテリウムの除菌にはメロペン(大日本住友製薬)を用いた。具体的には以下のようにして行った。
【0055】
上記(1)で調製した形質転換されたアグロバクテリウムの懸濁液と、超迅速形質転換法にしたがって前培養したイネ(Oryza sativa 品種:日本晴)の種子を、2N6−AS培地(30g/L スクロース、10g/L グルコース、0.3g/L カザミノ酸、2mg/L 2,4−D、10mg/L アセトシリンゴン、4g/L ゲルライト、pH5.2)上で、暗黒下で3日間、28℃で共存培養した。その後、25mg/Lのメロペンを含有する滅菌水を用いて種子からアグロバクテリウムを洗浄後、種子を12.5mg/Lのメロペン及び選抜マーカーとして50mg/Lのハイグロマイシン、さらに4g/L ゲルライトを加えたN6培地(選抜培地)に置床して、28℃、暗所で約10日間培養し、ハイグロマイシン耐性細胞を増殖し、カルスを得た。
【0056】
選抜されたハイグロマイシン耐性カルスを再分化培地(6.25mg/L メロぺン及び50mg/L ハイグロマイシンを補充したMS培地:30g/L スクロース、30g/L ソルビトール、2g/L カザミノ酸、2mg/L カイネチン、0.002mg/L NAA、4g/L ゲルライト、pH5.8)に移植して、再分化するまで、28℃、明所で培養を続けた。
【0057】
再分化個体を、発根培地(6.25mg/L メロぺン及び25mg/L ハイグロマイシンを補充した、ホルモンを含まないMS培地)に置床した。約10日後、新しい発根培地に移植し、さらに約1週間後、形質転換植物が大きくなったところで、2〜3日の馴化を経て「呉羽粒培土−D」(商品名;呉羽化学)を詰めたポットに移植し、温室内で生育させ、次世代の自殖種子(R1世代)を得た。
【0058】
当初得られるハイグロマイシン耐性カルスは、外来遺伝子がイネゲノム中の異なる部位に挿入された不均一な細胞の集団であると考えられる。そこで、形質転換カルスを用いる実験用に、導入カルス細胞を均一化する(単カルス化)ために、同一種子由来のハイグロマイシン耐性カルスを選抜培地に1カルスずつ離して置床し、28℃で培養し、増殖してきた1カルス由来のハイグロマイシン耐性カルスを再び1カルスずつ離して新しい選抜培地に置床した。これをさらに4回繰り返すことによって、カルス細胞を均一化し、それぞれCRXa1、CRXa2、CRXa3、CRXa4カルスとした。
【0059】
3.形質転換イネにおける導入遺伝子の発現解析
イネカルス(Oryza sativa L.品種:日本晴)を、2mg/Lの2,4−D、30g/Lのショ糖、4g/Lのゲルライトを含むpH5.8のN6培地に移植し、28℃、暗所で20日間培養した後、実験に供試した。CRXa1、CRXa2、CRXa3又はCRXa4カルス、及びベクターコントロールカルス(CRXaの代わりにβ−グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子を持つベクターで形質転換したイネカルス)の培養には、上記N6培地に50mg/Lのハイグロマイシンンを加えたものを用いた。
【0060】
(1)CRXa遺伝子転写産物量の解析
各CRXa遺伝子(CRXa1、CRXa2、CRXa3、CRXa4)の転写産物量は、以下の方法で解析した。
【0061】
前述した方法で単カルス化したカルス又は上記の温室で生育中のイネ植物葉から、「セパゾール」(商品名;ナカライテスク株式会社)を用いて全RNAを抽出した。全RNAから、「River Tra Ace」(商品名;東洋紡)及びoligo(dT)20を用いて、40℃、20分のRT−PCRを行うことによってcDNAを合成し、以下のPCRに供試した。100 ngのcDNA、1.25単位のExTaqポリメラーゼ(タカラバイオ)、1×ExTaq Mg2+フリーバッファー、各125μMのdNTPs、1 mM MgCl2、0.5μM フォワードプライマー、0.5μM リバースプライマーを含む25μLのPCR反応液を、94℃で2分反応させた後、98℃で10秒、55℃で30秒、72℃で90秒の反応を25サイクル行い、最後に72℃で4分間反応させた。各CRXa遺伝子の検出にはCEBiPの塩基配列に相補的なCR−QFプライマー(5’-atggaacgctgaagcttggtgaga-3’:配列番号17)及びXa21の塩基配列に相補的なXa7R−Sa(atgagctcTCAGAATTCAAGGCTCCCACCT:配列番号13)を、ユビキチン遺伝子(Os06g0681400)の検出にはUbi5プライマー(5'-ccagtaagtcctcagccatgga-3':配列番号18)及びUbi3プライマー(5'-ggacacaatgattagggatcac-3':配列番号19)を、それぞれ使用した。
【0062】
5μLのPCR産物をアガロースゲル上で電気泳動し、エチジウムブロマイド染色により増幅産物を検出し、導入遺伝子が同程度発現している系統を以後の実験に用いるために選択した。
【0063】
結果を図2A及び2Bに示す。CR−QF/Xa7R−Saプライマーで増幅された1.2kb前後のバンドの濃さがほぼ同じカルス系統(CRXa1−2、−6、CRXa2−7、−8、CRXa3−1、−4、CRXa4−4、−6)、及びイネ系統(CRXa1−15以外)を、以降の実験に供試した。
【0064】
(2)CRXAタンパク質の検出
CRXAタンパク質(CRXA1、CRXA2、CRXA3、CRXA4)は、以下の方法で検出した。
【0065】
10%グリセロール、5mM ジチオスレイトールを含むリン酸緩衝生理食塩水(Phosphate Buffered Saline;PBS)中でイネカルスを破砕し、破砕液を、100,000×gで1時間遠心分離し、上清を可溶性画分(水溶性画分)、沈殿をミクロソーム画分(膜画分)とした。各画分に10%のSDSを加え、100℃で熱変性させた後、全タンパク質を20μgに調整して、10%ポリアクリルアミドゲル中で電気泳動した。泳動後、タンパク質をメンブレン上にブロッティングし、抗CEBiP/ウサギ抗体(Kaku et al., ProNAS, 103, 11086-11091, 2006)、アルカリフォスファターゼ標識した抗ウサギ/ヤギ抗体(Whole Molecule、 Aurora、Ohio、米国)を用い、小岩井ら(Koiwai et al., Plant Journal, 51, 92-104, 2007)の方法にしたがってウェスタン解析を行った。
【0066】
結果を図3に示す。CRXA1〜3はCRXa1〜3カルスの膜画分(パネルB)から、CRXA4はCRXa4カルスの水溶性画分(パネルA)から、それぞれ抗CEBiP抗体と反応するバンドとして検出された。したがって、CRXA1〜3はCEBiPやXA21と同じ細胞膜に、CRXA4は細胞質に、それぞれ局在していると考えられる。
【0067】
4.形質転換カルス細胞のキチンエリシター応答性
キチンエリシターとして、7量体のキチンオリゴ糖(N−アセチルキトヘプタオース、GN7)を用いた。これは、甲殻類由来の7量体のキトサンオリゴ糖(焼津水産化学工業より譲渡)を伊藤らの方法(Ito et al., Plant Journal, 12, 347-356, 1997)で再アセチル化することにより調製した。
【0068】
各実験結果について、各時間のベクターコントロールの値に対して有意差検定(ダネット検定(Dunnett's test)、P<0.05)を行った。
【0069】
(1)細胞死の測定
イネカルスの細胞死は、白須ら(Shirasu et al., Plant Cell, 9, 261-270, 1997)のエバンスブルー染色法を参考にして、以下のように検出した。
【0070】
N6培地中で1日間馴化させたイネカルスを、0.1μg/mLのGN7で処理した。このエリシター処理後、カルスを経時的に採取し、pH7.2の50mM N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)バッファーで洗浄後、0.05%エバンスブルーで15分間染色した。カルスを再び50mM HEPESバッファーでよく洗浄し、ジメチルホルムアミドで50分間脱染した。ジメチルホルムアミド中に溶出されたエバンスブルー量を反映したOD 595値を、分光光度計を用いて測定した。Delledonneら(Delledonne, et al., ProNAS, 98, 13454-13459, 2001)の方法にしたがい、エタノール処理で完全に死滅させたカルスのOD 595値を100%に、また、無処理のコントロールカルスのOD 595nm値を0%に、それぞれ設定し、各カルスの細胞死の割合を相対的に評価した。
【0071】
結果を図4に示す。CRXa1カルス及びCRXa3カルスでは、キチンエリシター処理によってベクターコントロールと比較して有意にHR細胞死が引き起こされたが、JMドメインを持たないCRXA2や、細胞膜に局在しないCRXA4は、キチンエリシターシグナルを細胞死誘導シグナルに変換できないことが示された。
【0072】
(2)活性酸素の測定
活性酸素は、HRに伴って生成が増大するセカンドメッセンジャーとして知られている。そこで、イネカルスから発生するH2O2量を、ルミノール法(Schwacke and Hager, Planta, 187, 136-141, 1992)により測定した。
【0073】
N6培地中で1日間馴化させたイネカルスを、0.1μg/mLのGN7で処理して、経時的に培地を採取した。培地をpH7.9の50mMカリウム−リン酸バッファー内に17倍希釈し、触媒として1.4mMのフェリシアン化カリウム、基質として55μMのルミノールを加え、溶液中のH2O2が触媒するルミノール発光(460nm)をルミノメーター(製品名:TD-20/20 Luminometer、メーカー名:Turner Designs(サニーベル、米国))により10秒間積算した。培地中のH2O2濃度は、市販のH2O2溶液(和光純薬)を培地中に希釈した同解析から作製した検量線をもとに算出した。
【0074】
結果を図5に示す。CRXa1カルス及びCRXa3カルスでは、キチンエリシター処理による活性酸素の生成量がベクターコントロールと比較して有意に増大した。したがって、これらのカルス系統においてキチンエリシター処理によってHRがより強く誘導されることが明らかになった。
【0075】
(3)活性窒素の測定
活性窒素(一酸化窒素)もまた、HRに伴って生成が増大するセカンドメッセンジャーとして知られている。イネカルス内のNO量は、山本ら(Yamamoto et al., J. General Plant Pathology, 70, 85-92, 2004)の方法を参考に以下のようにして検出した。
【0076】
N6培地中で1日間馴化させたイネカルスを、500μMの塩化カルシウムと500μMの硫酸カリウムを含む5mM 2−モルフォリノエタンスルホン酸(MES)バッファー中に移した。1時間後、10μMのジアミノフルオレセイン 2−ジアセテート(DAF−2DA)(第一化学薬品)及び0.1μg/mLのGN7で処理し、経時的にカルスを採取した。カルスを5mM MESバッファー中で破砕し、カルス内のエステラーゼとNOの二段階の触媒によってDAF−2DAから生じたDAF−2Tを、バッファー内に溶出させた。16,000×gの遠心分離により残渣を除いた後、蛍光分光光度計で485nmで励起し、535nmの蛍光を測定した。各サンプルのNO量は、蛍光分光光度計によって検出された蛍光強度を相対的に比較することで評価した。すなわち、キチンエリシター添加直前(0時間)のベクターコントロールの蛍光量を1としたときの相対値で表した。
【0077】
結果を図6に示す。CRXa1カルス及びCRXa3カルスでは、キチンエリシター処理による一酸化窒素の蓄積量がベクターコントロールと比較して有意に増大した。したがって、このことからも、これらのカルス系統においてキチンエリシター処理によってHRがより強く誘導されることが確認された。
【0078】
5.形質転換カルス細胞のリポ多糖応答性
キチンを含まないエリシターとして、細菌性のリポ多糖(LPS)を用いて、上記4.に記載したのと同様に細胞死の検出及び活性酸素の検出を行った。LPSとしては、Sigma-Aldrich(St. Louis, MO, 米国)から市販されている「Lipopolysaccharides from Pseudomonas aeruginosa serotype 10」を使用し、50μg/mLで処理した。実験結果について、各時間のベクターコントロールの値に対して有意差検定(ダネット検定(Dunnett's test)、P<0.05)を行なった。
【0079】
結果を図7に示す。CRXa1〜CRXa4のいずれについても、LPS処理による細胞死(パネルA)及び活性酸素の生成量(パネルB)にベクターコントロールとの間に有意差はなく、キチン以外のエリシター処理では、キメラ受容体の効果は認められなかった。したがって、キメラ受容体は、キチンエリシターを特異的に認識してHR細胞死を引き起こすことが確認された。
【0080】
6.形質転換イネ葉のキチンエリシター応答性
エリシター処理によるイネ葉の細胞死は、以下の方法により検出した。
【0081】
自殖種子(R1世代)、及びコントロールとして、ハイグロマイシン耐性遺伝子とGUS遺伝子とを持つバイナリーベクター(pBI333)で形質転換したイネ種子を、籾殻の除去後、次亜塩素酸ナトリウムで滅菌し、25mg/Lハイグロマイシンを含む寒天プレート上で約10日間栽培し、ハイグロマイシン耐性個体を各系統10個体ずつ「呉羽粒培土−D」(商品名;呉羽化学)に鉢上げした。28℃、自然光下で生育させた、播種後約1ヶ月のイネ苗を実験に供試した。エリシター処理1週間前のイネ苗を、2.5mMの硫酸アンモニウムで処理した。
【0082】
イネの切葉を、直径2mmの菌移植パンチで軽くつぶして、シャーレ内の湿らせたろ紙上に置床した。パンチでつぶした部位に100μg/mLのGN7(20μL)又は0.5mg/mLのLPS(20μL)を滴下し、シャーレに蓋をした。処理葉は、室温26℃、150μmolm-2s-1の光条件下で維持した。処理から2日後、処理葉を0.05%のエバンスブルーで1時間染色後、水で洗浄し、エバンスブルーで染色された壊死部の面積を画像解析ソフト「Image J」(http://rsb.info.nih.gov/ij/)を用いた岸本らの方法(Kishimoto et al., Phytochemistry, 67, 1520-1529, 2006)にしたがって解析した。実験結果について、3グループそれぞれ毎にチューキー・クラマー(Tukey-Kramer)のHSD検定(P<0.05)で統計的に解析した。
【0083】
結果を図8に示す。GN7又はLPSの代わりに水を滴下した場合(水処理)ではいずれの形質転換イネも細胞死は低レベルしか起きなかった。また、LPS処理ではいずれの形質転換イネも同程度レベルの細胞死が誘導された。一方、キチンエリシター(GN7)処理では、CRXA1イネおよびCRXA3イネで有意に細胞死が誘導された。したがって、植物体においても、CRXa1あるいはCRXa3遺伝子を発現する系統特異的にキチンエリシター処理で細胞死がより強く誘導されることが確認された。
【0084】
7.形質転換イネ葉のいもち病抵抗性検定法
接種試験は以下の方法で行った。
自殖種子(R1世代)、及びコントロールとして、ハイグロマイシン耐性遺伝子とGUS遺伝子とを持つバイナリーベクター(pBI333)で形質転換したイネ種子を、籾殻の除去後、次亜塩素酸ナトリウムで滅菌し、25mg/Lハイグロマイシンを含む寒天プレート上で約10日間栽培し、ハイグロマイシン耐性個体を各系統10個体ずつ「呉羽粒培土−D」(商品名;呉羽化学)に鉢上げした。
【0085】
昼間28℃、夜間23℃の閉鎖系温室内で約1ヶ月栽培した苗を実験に供試した。接種試験1週間前には、感染効率を上げるために、2.5mMの硫酸アンモニウムを施肥した。
【0086】
イネいもち病菌(Magnaporthe grisea Ai79-142株、レース037.3)をオートミール寒天培地上で25℃、約2週間生育させた後、ブラックライトランプを4日間照射することにより胞子を形成させた。この胞子を滅菌した絵筆でかき取り、1×106conidia/mLに調整して、いもち病菌胞子懸濁液を調製した。
【0087】
イネの切葉を、湿らせたろ紙上に置床し、胞子懸濁液を10μlずつ滴下接種した。接種葉は、遮光した25℃インキュベーター内に1日間置いた後、26℃、150μmolm-2s-1の光条件下で維持し、接種から7日後、葉面上の壊死斑の長径を測定し、コントロールと比較した。実験結果をチューキー・クラマー(Tukey-Kramer)のHSD検定(P<0.05)で統計的に解析した。
【0088】
結果を図9、パネルA及びパネルBに示す。CRXa1発現イネ及びCRXa3発現イネでは、いもち病抵抗性が有意に向上していた。特に、CRXa1発現イネでは、いもち病菌胞子懸濁液の滴下部位に壊死が認められただけで、ほとんど病斑が伸展しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1A】図1Aは、作製した各中間ベクターの構造を示す模式図である。矢印は挿入されたDNA断片、実線はpGEM−Tベクターを表す。
【図1B】図1Bは、実施例において作製されたキメラタンパク質をコードするキメラ遺伝子(CRXa1、CRXa2、CRXa3及びCRXa4)、及びもとのCEBiP及びXa21遺伝子にコードされるタンパク質の模式図である。
【図1C】図1Cは、イネの形質転換に用いた発現ベクター、pBI333−EN4−CRXa1、2、3及び4の構造を示す模式図である。
【図2A】図2Aは、形質転換イネカルスにおけるCRXa遺伝子(CRXa1、CRXa2、CRXa3、CRXa4)の転写産物量をRT−PCR法で調べた結果を表す図である。
【図2B】図2Bは、形質転換イネ葉におけるCRXa遺伝子の転写産物量をRT−PCR法で調べた結果を表す図である。
【図3】図3は、形質転換イネカルスにおけるCRXAタンパク質の発現を水溶性画分(パネルA)及び膜画分(パネルB)の各々についてウェスタンブロット法で調べた結果を表す図である。
【図4】図4は、キチンエリシター処理によるCRXa発現カルスにおける細胞死誘導を表す図である。 図4〜7において、「v.cont」(点線と斜線のシンボルで表したグラフ)はベクターコントロールを表す。実線と黒の4種のシンボルで表したグラフは、CRXa1、CRXa2、CRXa3及びCRXa4をそれぞれ表す。「*」は、ダネット検定(Dunnett's test)において有意差(P<0.05)があることを表す。
【図5】図5は、キチンエリシター処理後の形質転換カルスにおける活性酸素(H2O2)生成量を示す図である。
【図6】図6は、キチンエリシター処理後の形質転換カルスにおける活性窒素(一酸化窒素)蓄積の相対値を示す図である。
【図7】図7は、LPSエリシター処理による形質転換カルスにおける細胞死(パネルA)及び活性酸素(H2O2)生成量(パネルB)の経時変化を表す図である。
【図8】図8は、キメラ受容体を発現する形質転換イネ葉における細胞死を壊死部の面積によって表す図である。パネルAは、イネ葉の写真を表す。パネルBは、壊死斑面積を表す。パネルBにおいて、グラフ内のアルファベットa, bは統計解析結果(チューキー・クラマー(Tukey-Kramer)のHSD検定、P<0.05)を表し、異なるアルファベットが付いた数値は、グループ内の他の数値と有意に異なることを示す。
【図9】図9は、キメラ受容体を発現する形質転換イネ葉におけるいもち病抵抗性検定の結果を表す図である。パネルAは、病斑長径の長さを示す。パネルAにおいて、グラフ内のアルファベットa〜cは統計解析結果(チューキー・クラマー(Tukey-Kramer)のHSD検定、P<0.05)を表し、アルファベットが付いた数値は他の数値と有意に異なることを示す。パネルBは、イネ葉の写真を表す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
non−RDキナーゼタンパク質のキナーゼドメイン及び膜近傍(JM)ドメインを含む細胞内ドメインとイネCEBiP又はその機能上のホモログタンパク質の細胞外ドメインとを含む、細胞外ドメイン−膜貫通(TM)ドメイン−JMドメイン−キナーゼドメイン型のキメラ受容体をコードする遺伝子であって、植物細胞においてキチン特異的にHR細胞死等の防御応答反応をより強く誘導することができるキメラ遺伝子。
【請求項2】
前記non−RDキナーゼタンパク質が、イネXA21タンパク質である、請求項1記載のキメラ遺伝子。
【請求項3】
(a)配列番号1と同一のアミノ酸配列からなるキメラ受容体、
(b)配列番号1のアミノ酸配列において、LysMモチーフ、TMドメイン、JMドメイン及びキナーゼドメイン部分が配列番号1と同一又は保存的置換されており、その他の部分において異なるアミノ酸配列からなるキメラ受容体、
(c)配列番号5と同一のアミノ酸配列からなるキメラ受容体、
(d)配列番号5のアミノ酸配列において、LysMモチーフ、TMドメイン、JMドメイン及びキナーゼドメイン部分が配列番号5と同一又は保存的置換されており、その他の部分において異なるアミノ酸配列からなるキメラ受容体
のいずれかのキメラ受容体をコードするキメラ遺伝子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の遺伝子を含む発現ベクター。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項記載の遺伝子又は請求項4記載の発現ベクターを含む植物細胞。
【請求項6】
請求項5記載の植物細胞を含む植物組織。
【請求項7】
請求項5記載の植物細胞を含む植物体。
【請求項8】
請求項7記載の植物体から得られる種子。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれか1項記載のキメラ遺伝子によってコードされたキメラ受容体タンパク質。
【請求項10】
請求項1〜3のいずれか1項記載のキメラ遺伝子を植物に導入することにより、植物のキチンエリシター応答性を高める方法。
【請求項11】
請求項1〜3のいずれか1項記載の遺伝子又は請求項4記載の発現ベクターで植物細胞を形質転換する工程を含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜3のいずれか1項記載のキメラ遺伝子を植物に導入することにより、植物に菌類病抵抗性を付与する方法。
【請求項13】
請求項1〜3のいずれか1項記載の遺伝子又は請求項4記載の発現ベクターで植物細胞を形質転換する工程を含む、請求項12記載の方法。
【請求項1】
non−RDキナーゼタンパク質のキナーゼドメイン及び膜近傍(JM)ドメインを含む細胞内ドメインとイネCEBiP又はその機能上のホモログタンパク質の細胞外ドメインとを含む、細胞外ドメイン−膜貫通(TM)ドメイン−JMドメイン−キナーゼドメイン型のキメラ受容体をコードする遺伝子であって、植物細胞においてキチン特異的にHR細胞死等の防御応答反応をより強く誘導することができるキメラ遺伝子。
【請求項2】
前記non−RDキナーゼタンパク質が、イネXA21タンパク質である、請求項1記載のキメラ遺伝子。
【請求項3】
(a)配列番号1と同一のアミノ酸配列からなるキメラ受容体、
(b)配列番号1のアミノ酸配列において、LysMモチーフ、TMドメイン、JMドメイン及びキナーゼドメイン部分が配列番号1と同一又は保存的置換されており、その他の部分において異なるアミノ酸配列からなるキメラ受容体、
(c)配列番号5と同一のアミノ酸配列からなるキメラ受容体、
(d)配列番号5のアミノ酸配列において、LysMモチーフ、TMドメイン、JMドメイン及びキナーゼドメイン部分が配列番号5と同一又は保存的置換されており、その他の部分において異なるアミノ酸配列からなるキメラ受容体
のいずれかのキメラ受容体をコードするキメラ遺伝子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の遺伝子を含む発現ベクター。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項記載の遺伝子又は請求項4記載の発現ベクターを含む植物細胞。
【請求項6】
請求項5記載の植物細胞を含む植物組織。
【請求項7】
請求項5記載の植物細胞を含む植物体。
【請求項8】
請求項7記載の植物体から得られる種子。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれか1項記載のキメラ遺伝子によってコードされたキメラ受容体タンパク質。
【請求項10】
請求項1〜3のいずれか1項記載のキメラ遺伝子を植物に導入することにより、植物のキチンエリシター応答性を高める方法。
【請求項11】
請求項1〜3のいずれか1項記載の遺伝子又は請求項4記載の発現ベクターで植物細胞を形質転換する工程を含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜3のいずれか1項記載のキメラ遺伝子を植物に導入することにより、植物に菌類病抵抗性を付与する方法。
【請求項13】
請求項1〜3のいずれか1項記載の遺伝子又は請求項4記載の発現ベクターで植物細胞を形質転換する工程を含む、請求項12記載の方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2009−118828(P2009−118828A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−299266(P2007−299266)
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501167644)独立行政法人農業生物資源研究所 (200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年11月19日(2007.11.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501167644)独立行政法人農業生物資源研究所 (200)
【Fターム(参考)】
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