説明

キッチン用水栓

【課題】シンクにおける多様な洗い動作に対して洗浄動作及び使用者に与える視覚効果の側面から使い勝手の良いものとしつつ、水跳ねの問題も併せて解決することが可能なキッチン用水栓を提供すること。
【解決手段】このキッチン用水栓20は、シャワー吐水口24とそれが設けられた起立部とを備え、起立部は、シャワー吐水口24がシンク30の中心35よりも奥側に位置し、シャワー吐水口24から吐出されたシャワー吐水がシンク30の中心35よりも手前側に着水するように起立しており、シャワー吐水の吐水方向回りの外形がシンク30の奥行方向に沿って縦長となるように吐出され、シンク底面34においてシンクの奥行方向に沿った縦長の領域に着水する。更に、高衝撃吐水口と低衝撃吐水口とを有しており、高衝撃吐水口は低衝撃吐水口の後方に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キッチンに設けられるシンクに対して吐水するためのキッチン用水栓に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、キッチンに設けられるシンクに対して吐水するためのキッチン用水栓として様々なものが提案されている。一例として、食器や調理器具、食材等の洗浄を素早く行うために、洗浄物に対して広範囲に吐水をかけるキッチン用水栓が提案されている(例えば、下記特許文献1及び下記特許文献2参照)。特許文献1,2に記載されたキッチン用水栓は、幅広の吐水部から広範囲の吐水が実現されるものであり、カウンター上面に対し略並行に配設された吐水管から略鉛直下方に吐水されていて、吐水管はシンクの上方部あるいは前方部に張り出しているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−27248号公報
【特許文献2】特開2000−96642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の技術では、手や洗浄物を洗う際に吐水管に遮られ、汚れ落ちやすすぎの状態が見にくくなり、洗い動作に時間がかかるといった課題があった。また、シンクの幅方向においてシンクの略中央付近に吐水部が延出して吐水部が配置されていることから、シンク脇の調理台の前に立った状態から手や洗浄物を差し出すと、吐水に届きにくいといった課題もあった。更には、フライパンや鍋など大物の調理器具を洗う際には、吐水管に遮られて吐水に差し出しにくくなったり、吐水部直下に差し出した後に調理器具を回転させながら洗い流す場合には、吐水管が邪魔になってしまい取り回しが難しくなったりといった課題もあった。
【0005】
このような従来技術の課題に鑑みて、本発明者らは真に使いやすいキッチン用水栓とはどのようなものかについて検討を重ねた。本発明者らは最初に、シンクの奥行き方向でどのような位置において洗浄するのが最も使いやすいのかについて検討を行った。その結果、使用者の身長の高低によって多少の差はあるけれども、シンクの奥行方向の略中央近傍が最も使いやすい領域であることが判明した。しかしながら、シンクの奥行方向の略中央近傍に対して、上述した従来の技術によって吐水を行おうとすれば、吐水管によって視界が遮られたり、被洗浄物を差し出しにくく取り回しし難かったりといった課題がある。また、洗浄動作の際にも吐水管を避けながら作業する必要があり、作業を完了するまでに要する手の移動距離が多くなっていた。またさらに、吐水管から吐水される水を用いて作業をしている際に、吐水管が視界の中に入ってきやすく、視点が吐水管と吐水との間、あるいは吐水管と被洗浄物との間を無意識のうちに行ったり来たりするため、比較的長い時間を要する食器洗い等では、使用者の目が疲れてしまうこともある。
【0006】
シンクの幅方向でどのような位置において洗浄するのかについては、シンク脇の調理台との関係を考慮する必要がある。シンク脇の調理台は、シンクの上縁とほぼ同じ高さに設けられることが多い。そのため、調理台で使用した調理器具等を洗浄する際には、調理台からそのままシンク側にスライドさせて洗浄するのが自然な動作となる。
【0007】
上述した多様な要素を満足する一つの手段として、本発明者らは「起立水栓」という新たな水栓形態を提案するものである。この「起立水栓」とは、水栓そのものが洗浄作業の邪魔にならないように、少なくともその先端部分が水平方向から鉛直方向に向けて起立した形状を成しているものである。また、水栓そのものの特にその先端部分が使用者の視界に入りにくいようにする意味合いからも、少なくともその先端部分が水平方向から鉛直方向に向けて起立した形状を成しているものである。そして、使用者が作業しやすいように、被洗浄物を洗浄するための水をシンク奥側からシンク手前方向に向かって斜めに吐水させるものである。
【0008】
本発明者らが提案する起立水栓は、洗浄動作やそれに伴う使用者の視界確保の側面から非常に便利で優れた水栓であるといえる。しかしながら、シンク奥側からシンク手前側に向けて斜めに吐水させるという構成を採用しているため、従来の技術に比べて吐水が使用者側に向うものであり、使用者側への水跳ねが多くなることが想定される。真に使いやすいキッチン用水栓を提供したいという目的からすれば、この水跳ねについても十分な配慮をすべきであると本発明者らは考えた。
【0009】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、キッチンに設けられるシンクに対して吐水するためのキッチン用水栓であって、シンクにおける多様な洗い動作に対して洗浄動作及び使用者に与える視覚効果の側面から使い勝手の良いものとしつつ、水跳ねの問題も併せて解決することが可能なキッチン用水栓を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明に係るキッチン用水栓は、キッチンに設けられるシンクに対して吐水するためのキッチン用水栓であって、シンクに対して水を吐出する吐水口と、その吐水口が設けられ、水平方向から鉛直方向に向って起立するように形成された起立部と、を備え、前記起立部は、前記吐水口が前記シンクの奥行方向中央よりも奥側に位置し、前記吐水口から吐出された水が前記シンクの奥行方向中央よりも手前側に着水するように起立しており、前記吐水口から吐出される水はシャワー状のシャワー吐水であって、その吐水方向回りの外形が前記シンクの奥行方向に沿って縦長となるように吐出され、前記シンクの底面において前記シンクの奥行方向に沿った縦長の領域に着水するものであって、前記吐水口は、着水時の衝撃力が大きなシャワー吐水を吐出するための高衝撃吐水口と、当該高衝撃吐水口からのシャワー吐水よりも着水時の衝撃力が小さなシャワー吐水を吐出するための低衝撃吐水口とを有しており、前記高衝撃吐水口は前記低衝撃吐水口の後方に配置されていることを特徴とする。
【0011】
本発明に係るキッチン用水栓は、起立部に吐水口が設けられ、吐水口がシンクの奥行方向中央よりも奥側に位置するように構成されているので、シンク内に被洗浄物を出し入れする際に吐水口周りが邪魔になることがなく、視覚的にも邪魔にならない。また、吐水口がシンクの奥行方向中央よりも奥側に位置しているので、シンクの奥行方向中央ではシンク上方の領域に障害物がなく、洗浄動作中に使用者が障害物を避ける動きをする必要がないため、洗浄動作中の手の移動距離を少なくすることができる。起立部に設けられた吐水口から吐出される水は、シンクの奥行方向中央よりも手前側に着水するように構成されているので、洗浄作業を無理なく自然な姿勢で行うことができる。標準的な身長の使用者が最も洗浄作業を自然な姿勢で行える領域を吐水が通過するように構成すれば、その吐水は奥側から手前側にかけて徐々に落下するように吐出されていることから、標準よりも高い身長の使用者にあっては奥側よりのやや高めの領域において洗浄作業をすることができ、標準よりも低い身長の使用者にあっては手前側よりのやや低めの領域において洗浄作業をすることができる。従って、標準的な身長の使用者はもとより、標準よりも高い身長の使用者や標準よりも低い身長の使用者にあっても、洗浄作業を自然な姿勢で行うことができる。更に本発明では、吐水口から吐出される水はシャワー状のシャワー吐水であって、その吐水方向回りの外形がシンクの奥行方向に沿って縦長となるように吐出され、シンクの底面においてシンクの奥行方向に沿った縦長の領域に着水するため、シンク底面においても、シンク上方において洗浄する場合の被洗浄物に吐水が当たる場合においても、縦長のシャワー吐水を提供することができる。そのため、シンクの底面においても被洗浄物においても、それらに当たった水が横方向に広がりやすい縦長のシャワー吐水を提供することができ、シンクの底面や被洗浄物に当たった吐水の水跳ねを抑制することができる。縦長のシャワー吐水は前方向に水跳ねしにくく横方向に広がりやすいものとなる一方で、広い洗浄面積を確保するために、個々の水流が弱くなってしまって結果として洗浄力が落ちてしまうおそれもある。そこで本発明では、着水時の衝撃力が大きなシャワー吐水を吐出するための高衝撃吐水口を有することで、高い洗浄力を確保することができる。また、高衝撃吐水口からのシャワー吐水よりも着水時の衝撃力が小さなシャワー吐水を吐出するための低衝撃吐水口を有し、高衝撃吐水口は低衝撃吐水口の後方に配置することで、高衝撃吐水による水跳ねを低衝撃吐水によって遮ることが可能となり、高い洗浄力と水跳ねの防止とを両立させることができる。
【0012】
また本発明に係るキッチン用水栓では、前記高衝撃吐水口を構成する第二吐水孔は、前記低衝撃吐水口を構成する第一吐水孔よりも大径であることも好ましい。
【0013】
本発明のこの好ましい態様では、高衝撃吐水口を構成する第二吐水孔の径を低衝撃吐水口を構成する第一吐水孔の径よりも大きくすることで、第二吐水孔から吐出される水の大粒なものとして着水時の衝撃力を簡易な手段で高めている。
【0014】
また本発明に係るキッチン用水栓では、前記高衝撃吐水口の少なくとも両側端に前記低衝撃吐水口が配置されていることも好ましい。
【0015】
本発明のこの好ましい態様では、大径の第二吐水孔によって構成される高衝撃吐水口の両側端に小径の第一吐水孔によって構成される低衝撃吐水口を配置しているので、大粒の吐水の周囲を小粒の吐水で囲むことができ、洗浄力の向上や水跳ねの防止と共に、繊細な吐水流で周囲を取り囲むことによる美観の向上を図ることができる。
【0016】
また本発明に係るキッチン用水栓では、前記第二吐水孔の単位面積当たりの数は、前記第一吐水孔の単位面積当たりの数よりも少ないことも好ましい。
【0017】
本発明のこの好ましい態様では、第一吐出孔よりも第二吐出孔は大径であるので、第一吐出孔の径を比較的小さくすることができ、第一吐水流の着水による衝撃力を確実に低減して水跳ねを抑制することができる。また、大径である第二吐出孔の単位面積当たりの数を小径である第一吐出孔の単位面積当たりの数よりも少なくすることで、第二吐水孔が形成されている領域の開孔面積率と、第一吐水孔が形成されている開孔面積率とを均衡させることができ、第二吐出孔が形成されている領域の単位面積当たりの総吐出流量と第一吐出孔が形成されている領域の単位面積当たりの総吐出流量とを違和感がない程度に均衡させることができる。そのため、洗浄力及び着水した際の洗浄感を、違和感を覚えない程度に均等なものとすることができる。
【0018】
また本発明に係るキッチン用水栓では、前記高衝撃吐水口と前記低衝撃吐水口とが手前側から交互に配置されていることも好ましい。
【0019】
本発明のこの好ましい態様では、洗浄力を確保するための吐水を行う高衝撃吐水口と、洗浄面積の確保のために水膜を広げる吐水を行う低衝撃吐水口とを手前側から交互に配置するので、洗浄力を確保する部分と洗浄面積を確保する部分とを交互に配置することで双方の役割の両立を図ることができ、前後方向における洗浄感のバラツキも低減することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、シンクにおける多様な洗い動作に対して洗浄動作及び使用者に与える視覚効果の側面から使い勝手の良いものとしつつ、水跳ねの問題も併せて解決することが可能なキッチン用水栓を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態にかかるシステムキッチンを表す模式図である。
【図2】本実施形態にかかるキッチン用水栓からシャワー水が吐水されている状態を表す側面模式図である。
【図3】体格差のある使用者の作業を表す模式図である。
【図4】成人女性の水平作業域を例示する模式図である。
【図5】本実施形態にかかるキッチン用水栓から整流水が吐水されている状態を表す側面模式図である。
【図6】本実施形態にかかるシステムキッチンのシンク上方の領域について説明するための模式図である。
【図7】本実施形態にかかるキッチン用水栓を表す模式図であり、図7(a)は、キッチン用水栓を正面から眺めた正面模式図であり、図7(b)は、キッチン用水栓のA−A断面を表す断面模式図であり、図7(c)は、キッチン用水栓のB−B断面を表す断面模式図である。
【図8】シャワー水用の散水板を例示する模式図であり、図8(a)は、散水板を正面から眺めた正面模式図であり、図8(b)は、散水孔群を例示する模式図である。
【図9】斜め吐水による洗浄効果の検討条件を表す模式図である。
【図10】整流水における洗浄効果の検討結果を表す模式図である。
【図11】シャワー水における洗浄効果の検討結果を表す模式図である。
【図12】斜め吐水による洗浄効果を説明するための模式図であり、図12(a)は、洗浄物に対して斜めに吐水した場合を表した模式図であり、図12(b)は、洗浄物に対して垂直に吐水した場合を表した模式図である。
【図13】整流水による洗浄効果を説明するための模式図であり、図13(a)は、整流水を正面から眺めた模式図であり、図13(b)は、整流水を上面から眺めた模式図である。
【図14】シャワー水による洗浄効果を説明するための模式図であり、図14(a)は、シャワー水を正面から眺めた模式図であり、図14(b)は、シャワー水を上面から眺めた模式図である。
【図15】洗浄物の傾斜による洗浄効果の影響を説明するための模式図であり、図15(a)は、シンク上面に対して斜めに吐水する場合の模式図であり、図15(b)は、シンク上面に対して垂直に吐水する場合の模式図である。
【図16】着水面に対し垂直に吐水がされた場合の水跳ねを例示するための模式図である。
【図17】着水面に対し垂直に吐水がされた場合の水跳ねを例示するための模式図である。
【図18】着水面に対し垂直に吐水がされた場合の水跳ねを例示するための模式図である。
【図19】着水面に対し斜め方向からに吐水がされた場合の水跳ねを例示するための模式図である。
【図20】着水面に対し斜め方向からに吐水がされた場合の水跳ねを例示するための模式図である。
【図21】着水面に対し斜め方向からに吐水がされた場合の水跳ねを例示するための模式図である。
【図22】水跳ね試験の概要を例示するための模式図である。
【図23】傾斜角度と水跳ねとの関係を例示するためのグラフ図である。
【図24】本実施形態にかかる洗浄領域を上面から眺めた模式図である。
【図25】比較例に係る体格差のある使用者の作業を表す模式図である。
【図26】散水板に散水孔を設ける変形例を示す模式的な断面図である。
【図27】複数の散水孔で形成された散水孔パターンの一例を示す図である。
【図28】複数の散水孔で形成された散水孔パターンの一例を示す図である。
【図29】複数の散水孔で形成された散水孔パターンの一例を示す図である。
【図30】複数の散水孔で形成された散水孔パターンの一例を示す図である。
【図31】図30の散水孔パターンを有する散水板から散水された場合の着水パターンを示す図である。
【図32】シャワー吐水部に設けられる散水板を例示するための模式図である。
【図33】散水板の変形例を例示するための模式図である。
【図34】散水板の変形例を例示するための模式図である。
【図35】散水板の変形例を例示するための模式図である。
【図36】散水板の変形例を例示するための模式図である。
【図37】散水板の変形例を例示するための模式図である。
【図38】吐水流と、着水後に形成される水膜を例示するための模式図である。
【図39】散水孔および散水孔群の配列、形成された水膜の形状、水膜の面積を示した表である。
【図40】散水板の変形例を例示するための模式図である。
【図41】散水板の変形例を例示するための模式図である。
【図42】散水板の変形例を例示するための模式図である。
【図43】散水板の変形例を例示するための模式図である。
【図44】散水板の変形例を例示するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0023】
図1は、本発明の実施の形態にかかるキッチン用水栓を備えるシステムキッチンを表す模式図である。システムキッチン10は、キッチン用水栓20と、シンク30と、を備えている。キッチン用水栓20は、整流吐水口22と、シャワー吐水口24と、を有している。シンク30は、シンク上面32と、シンク底面34と、を有している。なお、シンク30は、シンク上面32の左側方および右側方の少なくともいずれかに延在する調理台(図1においては明示せず)を有していてもよい。なおここで、「整流吐水」とは水流が略一本の吐水形態を意味し、「シャワー吐水」とは水流が複数本の吐水形態を意味するものとする。また、図1には明示しないが、整流吐水口22からの吐水と、シャワー吐水口24からの吐水とを切り替えるための吐水切替手段としての切替スイッチを設けている。
【0024】
キッチン用水栓20は、使用者から見てシンク30の奥側、すなわちシステムキッチン10の後方、且つカウンター上面62に設けられている。キッチン用水栓20の下方部、すなわちカウンター上面62に取り付けられている近傍の部分は、シンク上面32に対して略垂直に設けられているが、所定の寸法よりも上方部(起立部)は、シンク上面32に対して傾斜している。傾斜角度は、シンク上面32に対して例えば約60度程度である。但し、この傾斜角度は、適宜変更することができる。また、シンク上面32とシンク後面38との間(略稜線部分)に、ある一定の角度を持った図示しない設置面を設け、この設置面に対してキッチン用水栓20を垂直に搭載して斜めの吐水を供給する方法がある。さらに、斜めの設置面からシンク上面32に対して水平方向に一定距離の長さを有し、その後シンク上面32に対して垂直方向に所定の寸法を有し、所定寸法より上方部がシンク上面32に対して傾斜した形状を有するキッチン用水栓20によって、斜めの吐水を供給する方法がある。上記キッチン用水栓の形状は、キッチン用水栓をシンクに取り付ける面が異なる場合にも斜め吐水を供給できるものであり、どのようなシンクに対しても本発明の効果を供給可能とするものである。また、どの方法に対しても所定の範囲を斜め方向に吐水が通過するように設定することにより、本発明の効果を有するものである。
【0025】
これに伴い、整流吐水口22およびシャワー吐水口24は、シンク上面32およびシンク底面34に対して傾斜した状態でシンク30に向けて設けられている。そのため、整流吐水口22およびシャワー吐水口24から吐水された水は、シンク上面32およびシンク底面34に対して斜めに吐水される。なお、本願明細書において「水」という場合には、「湯」を含むものとする。
【0026】
図2は、本実施形態にかかるキッチン用水栓からシャワー水が吐水されている状態を表す側面模式図である。図2に表したように、シャワー水が吐水される場合、水40はシャワー吐水口24から吐水される。そして、水40がシャワー吐水口24から吐水される吐水方向の水平方向成分の長さL15は、垂直方向成分の長さL16より大きく設定されている。なお、吐水方向とは、吐水口から吐水された直後の水の進行方向のことを意味するものとし、吐水口に設けられた孔の中心軸方向と一致している。このような設定を行うことで、シャワー吐水口24から吐水された水40が着水するまでの水の軌跡(流線)が長くなり、使用者が吐水に触れる領域が大きくなる。すなわち、例えば、身長の高い使用者は、シンク後面38に近い洗浄領域に手を伸ばし、洗い作業を行えば、手や腕が窮屈になることがなく、洗い動作を行うことができ、また、例えば、身長の低い使用者は、シンク前面36に近い洗浄領域に手を伸ばし、洗い作業を行えば、手が届きにくくなるようなこともなく、腰や腕の負担なく、洗い動作を行うことができる。このように、体格差のある使用者に対して、同じ位置から洗い動作を行わせることができる。斜めの方向に吐水することで、洗い動作における水跳ねを低減する効果も見込める。
【0027】
前述したように、シャワー水は、カウンター上面62およびシンク底面34に対して斜め方向に吐水され、シャワー吐水口は、吐水方向と直交する方向に対し、複数の散水孔が設けられ、図2に表したように、側面視した場合、幅広のシャワー水が提供される。このため、洗浄物に対して、広範囲に水をかけることができるようになる他、体格差のある使用者に対して、一律に洗い動作が効率化される。つまり、図3に表したように、例えば、身長の高い使用者と、身長の低い使用者とでは、楽な姿勢を維持したまま吐水に手を伸ばしたときに吐水に触れる位置が異なるが、斜めでかつ幅広の吐水が行われるため、同じ位置に立って、かつ同じ姿勢で洗い動作を行わせることが可能となり、多くの使用者の洗い動作を効率化することができる。
【0028】
シャワー水が吐水され、シンク上面32を通過するときの前後方向の長さL1は、散水孔群の上下方向の幅と、水40の流速に依存するが、多くの使用者に対して、身体の負担のない姿勢で洗浄が行えるよう広い範囲であることが好ましいが、一方、洗浄動作を効率化するという観点では、調理器具や手、または洗浄物を持った手に対して全面に吐水が当たるように配慮し、設定することが好ましい。このような設定を行うことで、洗浄物の全面に対して吐水を一斉にかけることが可能となるため、洗浄物を移動させて全面に吐水をかける動作を低減させることが可能となる。そのため、使用者は洗浄物を差し出すだけで、前後方向へ細かく揺さぶる等の動作を低減することが可能となり、洗い作業が効率化される。前後方向の幅は、例えば、包丁の刃の長さの平均値、まな板の短辺側の長さの平均値、成人の手の大きさなどを考慮して、一度に全体に水を吐水可能な長さ、すなわち170mm程度の長さに設定すれば、素早く手や包丁を洗うことが可能となる。ただし、洗浄物の全長の略半分の長さに対して洗浄水を吐水し、洗浄物上を流れる流水によって残りの略半分の長さを洗い流すようにすれば、水の使用量を抑制しつつ洗浄効果を向上させることもできる。
【0029】
また、シャワー水が吐水され、シンク上面32を通過するときの左右方向の幅は、同様に広い方が、一度に広範囲に吐水することができ、洗い作業が効率化されるため好ましい。ただし、「簡単洗い」で最も頻繁に洗われるものとしては、使用者の手および包丁が挙げられ、身体の負荷なく、吐水に手を差し出すことを考慮すると、シンクの前後方向に対しては、洗浄物の長さは長くなるものの、左右方向の幅は、比較的短い。したがって、左右方向に幅広く吐水されると、手にかからずに直接シンク底面に着水してしまい、無駄に水を流してしまうことになるため、好ましくない。このため、左右方向の幅は、20mm程度の長さを有することが好ましい。
【0030】
シャワー吐水口から吐水された水の少なくとも上方側の水40aは、シンク前面36とシンク後面38との中心35よりもシンク前面36側のシンク底面34に着水させることが好ましい。シャワー吐水口から、シンク上面32に対して斜めに吐水され、使用者から見て手前側のシンク底面34に着水させることで、より多くの使用者に対して、手が届きやすく、身体の負担のない姿勢で洗浄動作を行わせることが可能となる。また、シンク底面34に対しても斜めに着水することで、着水の際に生じる水跳ねを低減することが可能となる。水40はシンク底面34に対して斜めに着水するため、水の持つ運動エネルギーは、シンク底面に対して平行方向と、垂直方向に分散される。垂直方向成分は、水跳ねの原動力となり得るが、分散されているため、垂直方向のエネルギー成分が少なくなり、水跳ねが減少する。また平行方向成分は、着水部からの水の排出を促進させることとなり、着水部に生じる水膜の水面を安定するように働くことから、水面の乱れが抑制され、水跳ねを減少させる。
【0031】
これに対して、一般的な水栓では、水はシンク上面32に対して略垂直方向から吐水される。すなわちシンク底面34に対して略垂直方向に着水するため、垂直方向の運動エネルギー成分が大きく、跳ねた水の運動エネルギーも大きくなるため、遠くまで飛散してしまう。また着水部の水面も排出しにくくなり、水面の乱れが大きくなることから水跳ねが発生しやすくなる。シャワー吐水口の傾斜角度と水跳ね量の関係は後述する。
【0032】
ここで、洗浄領域について図面を参照しつつ説明する。洗浄領域とは、使用者が吐水を触れる領域を意味するものとする。体格差のある使用者に対して、一律に身体の負担なく手が届く空間内に洗浄領域を設定すれば、使用者は身体の負担なく洗い作業を行うことができる。図4は、成人女性の水平作業域を例示する模式図である。本発明者は、システムキッチンを使用する頻度が多い成人女性の水平作業域を調査している。
【0033】
図4に表した水平作業域において、実線は手を延ばして届く範囲を表しており、点線は肘を曲げて楽に作業のできる範囲を表している。これによれば、カウンター上面62の前端64からシンク後面38の方向に向かって約30cmの範囲内であれば、成人女性は肘を曲げて楽に作業できることが分かる。また、シンク30の前端からシンク後面38の方向に向かって約30cmの範囲外であっても、約50cmの範囲内であれば、成人女性は手を延ばして届くことが分かる。これらの範囲は、上肢長、肘・指尖距離、肩峰高など体格から導かれるものであり、例えば成人男性では、これらの範囲が大きくなり、また高齢女性では、これらの範囲は狭くなる。
【0034】
そこで、図3に示したように、シンク30の中心35と、シンク上面32が交差する点が中心となるよう洗浄領域42を設定し、この洗浄領域42を吐水が斜めに通過するよう設定してやれば、体格差のある使用者に対して、身体の負担なく洗い作業を行わせることができる。すなわち、例えば成人男性の場合、肩の位置は成人女性に比べ高くなり、また上肢長も成人女性に比べ長くなるため、同じ位置に立って、同じ姿勢をとると、手の届く位置は、成人女性に比べ、上方かつ後方となる。一方、高齢女性では、肩の位置は、成人女性に比べ低くなり、また上肢長も成人女性に比べ短くなる。したがって、手の届く位置は、成人女性に比べ、下方かつ前方となる。水40を斜めに吐水させることで、体格差のある使用者に対し同じ位置に立ち同じ姿勢で洗い作業を行わせることができ、身体の負担のない空間に吐水させることで、多くの作業者に楽に洗い作業を行わせることが可能となる。
【0035】
図5は、本実施形態にかかるキッチン用水栓から整流水が吐水されている状態を表す側面模式図である。図5に表したように、整流水が吐水される場合、水40は整流吐水口22から吐水される。水40は、前述したように、シンク底面34に対して斜め方向に吐水される。また、整流吐水口22は、シャワー吐水口の場合と同様に、整流吐水口から吐水される吐水方向の水平方向成分の長さL17が、垂直方向成分の長さL18より大きくなるように設定されている。すなわち、整流水の場合においても、このように設定を行うことで、吐水されてからシンクに着水するまでの水40の軌跡(流線)を長くすることができるため、体格差のある使用者に対して、一律に洗い作業を効率化することができる。
【0036】
水40は、整流吐水口22からシンク上面32に対して斜めに吐水され、シンク前面36とシンク後面38との中心35よりも前記前面側のシンク底面34に着水させることが好ましい。すなわち、使用者から見て手前側のシンク底面34に着水させることで、シャワー吐水口から吐水した場合と同様に、より多くの使用者に対して、手が届きやすく、身体の負担のない姿勢で洗浄動作を行わせることが可能となる。またシンク底面34に対しても斜めに着水することで、着水の際に生じる水跳ねを低減することが可能となる。
【0037】
また、整流吐水口22は、シャワー吐水口24の上方かつ前方に配設されている。しかしながら、整流吐水口22は、洗浄領域42よりも後方に配設される。このため、洗浄領域42がキッチン用水栓20によって視界を遮られることがないため、洗浄物の洗浄状態を確認しやすくなり、洗い動作が効率化される。
【0038】
図6は、本実施形態にかかるシステムキッチンのシンク上方の領域について説明するための模式図である。本実施形態のキッチン用水栓20は、前述したように、整流吐水口22およびシャワー吐水口24がシンク30に向けて設置され、吐水口は、シンク上面より上方かつシンクの中心35(奥行方向中央)より後方に設置されている。このように設置されることで、使用者はシンク30内およびその上方の領域54を広く使用できる。すなわち、例えばフライパンや大きな両手鍋などを洗う場合においても、キッチン用水栓20に接触することなく、フライパンや鍋を取り回すことが可能となる。さらに、キッチン用水栓20によって、領域54の視界を遮られることもない。したがって使用者は調理器具や食材、手などの洗浄物を洗浄している際に、キッチン用水栓20を邪魔に感じることはない。
【0039】
図7は、本実施形態にかかるキッチン用水栓20の上方部201(起立部)を表す模式図であり、図7(a)は、キッチン用水栓の上方部201を正面から眺めた正面模式図であり、図7(b)は、キッチン用水栓の上方部201のA−A断面を表す断面模式図であり、図7(c)は、キッチン用水栓の上方部201のB−B断面を表す断面模式図である。
【0040】
キッチン用水栓20は、上方部201に整流吐水口22と、整流吐水口22の下方部にシャワー吐水口24と、を有している。また、キッチン用水栓20は、整流吐水口22へ水40を導くための整流用配水管23と、シャワー吐水口24へ水40を導くためのシャワー用配水管25と、をさらに有している。
【0041】
整流用配水管23は、キッチン用水栓20の左側方寄りを通って、整流吐水口22の左側方かつ下方部に接続されている。一方、シャワー用配水管25は、キッチン用水栓20の右側方寄りを通って、シャワー吐水口24の下端に接続されている。
【0042】
キッチン用水栓20の左右方向の幅は、洗浄物の大きさに応じた設定が好ましい。例えば、洗浄する対象は一般的に手、包丁や鍋等の調理器具、食材等であるが、左右方向を幅広く設定すると、小さなものを洗う際に余分な水を使用してしまう。一方、左右方向を幅狭く設定すると、大きなものを洗浄するために手を動かして洗浄を行う必要がある。そこで、本実施形態においては、簡単洗いにおいて、手や包丁等を簡単に洗うことに対して左右方向の幅を設定することで、簡単洗いでは洗浄物を差し出すだけで洗浄可能な状態とした。例えば約40mm程度とすることで、手や包丁の刃の部分を左右方向に手を移動させること無く洗浄することが可能となる。但し、これらの寸法はこれだけに限られるわけではなく、適宜変更することができる。
【0043】
図8は、シャワー吐水用の散水板を例示する模式図であり、図8(a)は、散水板を正面から眺めた正面模式図であり、図8(b)は、散水孔群を例示する模式図である。図8に表した散水板26は、キッチン用水栓20のシャワー吐水口24に固定される。散水板26は、散水孔群27を有し、この散水孔群27は、水40をシャワー水として吐水するための散水孔27aを有する。散水孔群27は、例えば5行×2列で配列されている。また、散水孔27aは、例えば同心円状に2列で配列されており、合計約30個程度の散水孔27aが設けられている。水40は、それぞれの散水孔27aから吐出され、シャワー水としてシンク底面34に着水する。
【0044】
上述したように本実施形態では、シャワー吐水においても、吐水通過領域である洗浄領域を通過して、シンク30前方に着水するような吐水軌跡での吐水を実現することによって、整流吐水と同様に、使用者近傍で吐水を使用することが可能となり、且つ水はねを低減することが可能な吐水を行うことが可能となる。そこで、シャワー吐水で洗浄領域を通過させて、且つシンク30前方に着水させるためには、シャワー吐水を吐水口から斜め下方に吐水することで実現することが可能となる。ここで、シャワー吐水を整流吐水と同様に略水平方向、又は斜め上方に吐水を行う場合、シャワー吐水は整流吐水に比べて吐水口からの水の流速が速い為、略水平、又は斜め上方に吐水すると、設置場所等による流量のばらつきや水圧の変動により水平方向の飛距離が確保されシンクからはみ出す恐れがある。そこで、キッチン用水栓20の設置場所等の外部環境に依存されず、洗浄領域を通過してシンク30前方に着水可能なように吐水を行うために、斜め下方に吐水することで、使用者が手を大きく伸ばすことなく整流吐水を使用することが可能となると共に、シンク底面34に対して斜めに着水するため、着水時における水はねを低減することが可能となる。
【0045】
なお、シャワー吐水を斜め下方に吐水する方法としては、散水板の開口方向が斜め下方になるように散水板又は散水板を搭載したキッチン用水栓20を傾けることにより、散水板からの吐水を斜め下方に対して向けることが可能となる。また、他の方法としては、散水板の開口方向を、散水板に対して傾けて加工することにより、キッチン用水栓20を大きく傾けることなくシャワー吐水を斜め下方に吐水することも可能である。上記のような方法により、整流吐水を略水平、又は斜め上方に吐水する構成を確保しつつ、シャワー吐水を斜め下方に吐水することが可能なキッチン用水栓20を実現することが可能となる。
【0046】
以上のような構成により、キッチン用水栓20からの吐水の一部が、洗浄領域を通過し、且つシンク30前方に着水するような吐水軌跡を描くことにより、使用者の水を使う動作量を大幅に低減しつつ、使用者やキッチン装置近傍に対する水はねを抑制することが可能となる。また、整流吐水やシャワー吐水の吐水方向を設定することにより、水汲み等の作業に適した吐水や、広範囲に適した洗浄を行う吐水を供給することが可能となる。
【0047】
上述したように本実施形態のキッチン用水栓20は、キッチンに設けられるシンク30に対して吐水するためのキッチン用水栓であって、シンク30に対して水を吐出するシャワー吐水口24と、そのシャワー吐水口24が設けられ、水平方向から鉛直方向に向って起立するように形成された上方部201(起立部)と、を備えている。その上方部201(起立部)は、シャワー吐水口24がシンク30の中心35(奥行方向中央)よりも奥側に位置し、シャワー吐水口24から吐出された水がシンク30の中心35(奥行方向中央)よりも手前側に着水するように起立している。また、シャワー吐水口24から吐出される水はシャワー状のシャワー吐水であって、その吐水方向回りの外形がシンク30の奥行方向に沿って縦長となるように吐出され、シンク30の底面においてシンク30の奥行方向に沿った縦長の領域に着水するものである。本実施形態においては、シャワー吐水口24から吐出される水は、その全てがシンク30の中心35(奥行方向中央)よりも手前側に着水するように構成されているけれども、少なくとも一部がシンク30の中心35よりも手前側に着水するように構成されていることが好ましく、半分程度がシンク30の中心35よりも手前側に着水するように構成されていることも好ましい。また、シャワー吐水口24から吐出される水の勢いは給水圧によって左右されるため、本実施形態のキッチン用水栓20は、所定の給水圧において上述したような吐水の軌跡を描くように構成されるものである。
【0048】
上述したキッチン用水栓20は、起立部である上方部201にシャワー吐水口24が設けられ、シャワー吐水口24がシンク30の中心35(奥行方向中央)よりも奥側に位置するように構成されているので、シンク30内に被洗浄物を出し入れする際にシャワー吐水口24周りが邪魔になることがなく、視覚的にも邪魔にならない。また、シャワー吐水口24がシンク30の中心35(奥行方向中央)よりも奥側に位置しているので、シンク30の中心35(奥行方向中央)近傍ではシンク30上方の領域に障害物がなく、洗浄動作中に使用者が障害物を避ける動きをする必要がないため、洗浄動作中の手の移動距離を少なくすることができる。上方部201(起立部)に設けられたシャワー吐水口24から吐出される水は、シンク30の中心35(奥行方向中央)よりも手前側に着水するように構成されているので、洗浄作業を無理なく自然な姿勢で行うことができる。標準的な身長の使用者が最も洗浄作業を自然な姿勢で行える領域を吐水が通過するように構成すれば、その吐水は奥側から手前側にかけて徐々に落下するように吐出されていることから、標準よりも高い身長の使用者にあっては奥側よりのやや高めの領域において洗浄作業をすることができ、標準よりも低い身長の使用者にあっては手前側よりのやや低めの領域において洗浄作業をすることができる。従って、標準的な身長の使用者はもとより、標準よりも高い身長の使用者や標準よりも低い身長の使用者にあっても、洗浄作業を自然な姿勢で行うことができる。更に、シャワー吐水口24から吐出される水はシャワー状のシャワー吐水であって、その吐水方向回りの外形がシンク30の奥行方向に沿って縦長となるように吐出され、シンク底面34においてシンク30の奥行方向に沿った縦長の領域に着水するため、シンク底面34においても、シンク上方の洗浄領域において洗浄する場合の被洗浄物に吐水が当たる場合においても、縦長のシャワー吐水を提供することができる。そのため、シンク底面34においても被洗浄物においても、それらに当たった水が横方向に広がりやすい縦長のシャワー吐水を提供することができ、シンク底面34や被洗浄物に当たった吐水の使用者側への水跳ねを抑制することができる。
【0049】
また、本実施形態のキッチン用水栓20における吐水口は、シャワー吐水を吐出するシャワー吐水口24と、整流水を吐出する整流吐水口22とによって構成され、シャワー吐水口24からの吐水と整流吐水口22からの吐水とを切り替える吐水切替手段としての切替スイッチ(図示しない)を備えている。
【0050】
このように、縦長のシャワー吐水とは別に整流水を吐水する整流吐水口22を設けると共に、シャワー吐水口24からの吐水と整流吐水口22からの吐水とを切り替える吐水切替手段としての替スイッチ(図示しない)を備えることで、整流吐水口22のみから整流を吐出させることができ、狭い領域へ集中した吐水をも提供することができる。従って、シャワー吐水のみでは対応し難い、小さな口径の容器への水汲みといった作業も快適に行うことができる。
【0051】
続いて、本発明者らが行った事前検討について図面を参照しつつ説明する。図9は、斜め吐水による洗浄効果の検討条件を表す模式図である。本発明者らは、斜めに吐水した場合の洗浄効果について、事前検討を行っている。まず、成人女性の平均的な掌と同じ程度の大きさの板100を、固定棒102の略先端に固定した試料を用意する。固定棒102に固定された側とは反対側の板100の表面には、包丁などに付着した汚れを想定して、疑似汚物が塗布されている。
【0052】
続いて、疑似汚物が塗布された板100の表面を上方に向けて、板100および固定棒102と、シンク上面32およびシンク底面34と、のなす角度L14が、約15〜45度程度となるように傾けた状態で固定棒102を固定する。これは、使用者の肩の位置よりも、キッチン用水栓20の位置の方が下方に存在するため、使用者が包丁などの洗いものをキッチン用水栓20に向けて差し出したときには、その洗いものは、シンク上面32およびシンク底面34に対して傾斜した状態となるためである。なお、本発明者の調査によれば、身長162±2cmの被験者6人がキッチン用水栓20に差し出した例えば包丁などの角度の平均値は、シンク上面32に対して約32度程度であることが分かっている。
【0053】
また、固定棒102は、板100の上下方向の位置がシンク上面32と略同じ高さとなるように固定されている。続いて、板100の中心100aに向けて吐水を行う。このとき、吐水口における吐水方向が、シンク上面32およびシンク底面34に対して、約90度程度と、約45度程度と、の2つ傾斜角度を持たせた状態で、それぞれ吐水を行う。また、吐水される水の流量は、2つの傾斜角度のそれぞれにおいて、約5.0L/min程度と、約3.0L/min程度と、に設定されている。すなわち、2つの傾斜角度と、2つの吐水流量と、からなる4つの組み合わせの条件において、洗浄効果の検討を行う。
【0054】
また、整流水の場合と、シャワー水の場合と、のそれぞれの場合において、前述の4つの組み合わせの検討を行う。評価方法は、板100の表面に塗布された疑似汚物の落ち具合を目視により判断する方法である。
【0055】
図10は、整流水における洗浄効果の検討結果を表す模式図である。また、図11は、シャワー水における洗浄効果の検討結果を表す模式図である。図10に表した整流水の場合の検討結果のように、吐水流量が約5.0L/min程度の場合には、吐水の傾斜角度が約45度程度のときと、約90度程度のときと、において、略全体の疑似汚物104を洗浄することができた。但し、略全体の疑似汚物104を洗浄することができるまでの時間については、傾斜角度が約45度程度のときには約3秒程度であるのに対して、約90度程度のときには約9秒程度となり、シンク上面32およびシンク底面34に対して斜めに吐水する方が、洗浄効果の良いことが分かった。
【0056】
一方、吐水流量が約3.0L/min程度の場合には、吐水の傾斜角度が約45度程度のときには略全体の疑似汚物104を洗浄することができたが、吐水の傾斜角度が約90度程度のときには略全体の疑似汚物104を洗浄することができなかった。したがって、吐水流量が少ない場合にも、吐水流量が多い場合と同様に、シンク上面32およびシンク底面34に対して斜めに吐水する方が、洗浄効果の良いことが分かった。
【0057】
また、傾斜角度が約45度程度である場合には、吐水流量が約3.0L/min程度という少量の吐水であっても、略全体の疑似汚物104を洗浄することができている。但し、吐水流量が多い方が、略全体の疑似汚物104を洗浄することができるまでの時間が短く、より洗浄効果の良いことが分かった。
【0058】
図11に表したシャワー水の場合の検討結果のように、吐水流量が約5.0L/min程度の場合には、吐水の傾斜角度が約45度程度のときには略全体の疑似汚物104を洗浄することができたが、吐水の傾斜角度が約90度程度のときには略全体の疑似汚物104を洗浄することができなかった。一方、吐水流量が約3.0L/min程度の場合においても、吐水の傾斜角度が約45度程度のときには略全体の疑似汚物104を洗浄することができたが、吐水の傾斜角度が約90度程度のときには略全体の疑似汚物104を洗浄することができなかった。したがって、シャワー水の場合にも、整流水の場合と同様に、シンク上面32およびシンク底面34に対して斜めに吐水する方が、洗浄効果の良いことが分かった。
【0059】
また、略全体の疑似汚物104を洗浄することができるまでの時間については、吐水流量が約5.0L/min程度のときには約9秒であるのに対して、吐水流量が約3.0L/min程度のときには約20秒となり、吐水流量の多い方がより洗浄効果の良いことが分かった。
【0060】
さらに、傾斜角度が約45度程度であり、且つ吐水流量が約5.0L/minである場合において、整流水のときと、シャワー水のときと、の略全体の疑似汚物104を洗浄することができるまでの時間を比較すると、それぞれ約3秒程度と、約9秒程度と、であるため、整流水の方がより洗浄効果の良いことが分かった。
【0061】
図12は、斜め吐水による洗浄効果を説明するための模式図であり、図12(a)は、洗浄物に対して斜めに吐水した場合を表した模式図であり、図12(b)は、洗浄物に対して垂直に吐水した場合を表した模式図である。図12(a)に表したように、板100に対して水40を斜めに吐水させた場合には、水40が板100に着水したときに、板100と水40との衝突面が広くなるため、水40は板100の表面の広い範囲に広がる。
【0062】
これに対して、図12(b)に表したように、板100に対して水40を垂直に吐水させた場合には、板100と水40との衝突面は、斜めに吐水させた場合よりも広くなることはなく、水40は板100の表面のより狭い範囲にしか広がらない。
【0063】
したがって、板100に対して水40を斜めに吐水させた場合の方が、より広い範囲の汚れ104を洗浄することができる。これにより、斜めからの吐水は、洗浄時間を短縮できるという効果と、少量の吐水流量でも洗浄ができるという効果と、を有することになる。すなわち、洗浄効果を向上させることができるため、使用者は洗い動作中の手の動作量を低減させることができる。
【0064】
図13は、整流水による洗浄効果を説明するための模式図であり、図13(a)は、整流水を正面から眺めた模式図であり、図13(b)は、整流水を上面から眺めた模式図である。また、図14は、シャワー水による洗浄効果を説明するための模式図であり、図14(a)は、シャワー水を正面から眺めた模式図であり、図14(b)は、シャワー水を上面から眺めた模式図である。なお、図13および図14は、板100に対して水40を垂直に吐水させた場合を例示している。
【0065】
整流水は一粒あたり流量が多いため、水40の粒が板100に衝突したときの力は、より大きい。そのため、図12(b)に表したように、整流水の粒は板100および汚れ104の広い範囲に広がる。したがって、整流水の汚れ104への衝突力と、広範囲への広がり方と、によって汚れ104を流し落とす力は、より大きいと考えられる。
【0066】
一方、シャワー水は一粒あたりの流量が、整流水と比較すると少ないため、水40の粒が板100に衝突したときの力は、より小さい。また、一粒一粒の間に間隔があり、また、一粒一粒がそれぞれ広い範囲に広がろうとしても、互いの粒同士が干渉するため、整流水と比較すると、より狭い範囲にしか広がらない。したがって、シャワー水の汚れ104への衝突力と、広がり方と、を考慮すると、汚れ104を流し落とす力は、整流水の方がより大きいと考えられる。これらのことにより、整流水と、シャワー水と、を比較すると、整流水の方が、より洗浄効果が良いと考えられる。
【0067】
図15は、洗浄物の傾斜による洗浄効果の影響を説明するための模式図であり、図15(a)は、シンク上面に対して斜めに吐水する場合の模式図であり、図15(b)は、シンク上面に対して垂直に吐水する場合の模式図である。
【0068】
図15(a)に表したように、シンク上面32に対して斜めに吐水させた水が傾斜した板100に衝突すると、領域110にある水40は、重力に逆らって板100および汚れ104の上方へ上がろうとする。これは、板100および汚れ104の上方に向かう慣性力が、水40に働いているためである。
【0069】
一方、図15(b)に表したように、シンク上面32に対して垂直に吐水させた水が傾斜した板100に衝突すると、領域112にある水40は、重力に逆らって板100および汚れ104の上方へ上がろうとするが、シンク上面32に対して斜めに吐水させた場合と比較すると、上方へ上がる水40の流量は少ない。これは、水40に働く慣性力を考慮すると、板100および汚れ104の上方に向かう慣性力よりも、下方に向かう慣性力の方が大きいためである。
【0070】
これらのことにより、板100が傾斜している場合には、水40が板100および汚れ104の広い範囲に広がるため、より洗浄効果が良くなると考えられる。したがって、使用者の肩の高さとキッチン用水栓20の高さとを考慮すると、使用者が洗い動作を行う場合には、洗浄物は傾斜していることが多いため、実使用上の状況を考慮すると、シンク上面32およびシンク底面34に対して斜めに吐水する方が、より洗浄効果が良くなると考えられる。なお、図10および11に表した検討結果において、板100の上方側に疑似汚物104が残った原因は、図15を参照しつつ説明したメカニズムによるものと考えられる。
【0071】
「簡単洗い」や「丁寧洗い」などのいずれの洗い動作であっても、キッチン用水栓から吐水された水が、洗浄物に当たって跳ね返る現象、いわゆる「水跳ね」を減少させることが好ましい。尚、「簡単洗い」とは、汚れの少ないものを洗う動作であり、「丁寧洗い」とは、汚れの落ち難いものを洗う動作である。「簡単洗い」は、主にすすぎ洗いを行う動作であり、具体的には、包丁、まな板、あるいは汚れの少ない野菜などを洗う動作である。洗浄時間は短く、例えば約2秒程度である。また、簡略的な洗い動作であるため、シンク30の側方に設けられた調理台(図示しない)の前に立ちつつ、キッチン用水栓20の方向に向かって野菜などを差し出して洗うものである。「丁寧洗い」は、主にこすり洗いを行う動作であり、具体的には泥汚れ、油汚れ、あるいは肉や魚の「ヌメリ」などを洗う動作である。洗浄時間は、「簡単洗い」よりも長く、例えば約10秒以上である。また、汚れの落ち難いものを洗う動作であるため、シンク30およびキッチン用水栓20の正面に立って魚を切った後のまな板などを差し出して洗うことが多い。
【0072】
本発明者らは、上述した水跳ねについて、事前に検討を行っている。図16〜図18は、着水面に対し垂直に吐水がされた場合の水跳ねを例示するための模式図である。また、図19〜図21は、着水面に対し斜め方向から吐水がされた場合の水跳ねを例示するための模式図である。尚、図17(a)、図20(a)は一本の水流を例示するための模式図であり、その他の図は複数の水流を例示するための模式図である。
【0073】
図16〜図18に示すように、キッチン用水栓20から吐水された水40が着水面101に対して垂直に着水すると、水40は、あらゆる方向に対して略同等に流れようとする。すなわち、水40は着水面101の全体に広がろうとする。一本の水流しか存在せず、かつ着水部に障害物が存在しない場合、水40は着水部から遅延なく排出される。着水部とは、水40が着水する場所のことである。しかしながら、シャワー吐水のように複数の水流の吐水が行われた場合には、図16や図17(b)に示すように隣り合う水流との間の領域44において、互いの進行方向を打ち消し合うように水40が流れようとする。その結果、水40は流れを失い、その場に滞留しようとするか、もしくは上方にその方向を変えられ、滞留する水が分裂し、水滴として、飛び散ろうとする。水滴として飛び散るほどのエネルギーを有さない場合においても、領域44の水面は著しく乱れ、乱れは近傍に伝播される。そして、図18に示すように、乱れが伝播され、波のように大きく変動している水40bの水面に略垂直方向から水40が着水すると、さらに乱れが増幅され、波が大きくなり、ある曲率以上に変形された水面は、水膜がちぎれ、水滴として周囲に放出される。
【0074】
この場合、隣り合う水流との間の領域48においては、跳ねた水滴どうしが合体し、大きな水滴となることもあれば、水滴どうしが衝突によりさらに細かな水滴に分裂することもあり、その態様はさらに複雑となる。さらに、滞留した水40bに対して垂直に着水した水40は、一方向に水跳ねを生じさせるわけではなく、あらゆる方向に水跳ねを生じさせる。そのため、例えば、領域50や領域52において生じた水跳ねは打ち消されることはない。
【0075】
これに対し、図19〜図21に示すように、キッチン用水栓20から吐水された水40が着水面101に対して斜め方向から着水すると、水40は略進行方向である矢印C、矢印D、矢印Eの方向に流れようとする。すなわち、着水面に略一方向に流れる水の流れを有する水膜が形成されることになる。
【0076】
また、この場合、略進行方向に向かうエネルギーが大きいため、着水した大部分の水40が略進行方向に流れようとする。この場合、同一の方向に向かう流れとなり、水面の乱れが軽減されるため、水滴として放出される確率が低くなる。また、図21に示したように、水の流れができ、安定している水面が形成されている水40bに、斜め方向から水40が着水すると、流れと同一方向であることから、衝突の衝撃が緩和され、水面の乱れが抑制されるため、水跳ねが軽減される。また、図20(b)に示したように、水40は略一方向(略進行方向)に合流するようにして流れる。すなわち、吐水口から着水面101(例えば、シンク底面34)に対して傾斜した方向に吐水流を放出することで、着水面101を略一方向に流れる水の流れを形成させることができる。尚、この場合においても、図21に示すように、隣り合う水流との間の領域46においては、干渉し合い、水面が乱れ、水跳ねが生じることもあるが、進行方向に向かうエネルギーの方が大きいため、干渉する方向に向かうエネルギー量は小さくなる。そのため、水面の乱れも小さくなり、水跳ね量は少なくなる。
【0077】
ここで、本発明者の得た知見によれば、着水面101に対し斜め方向から水40を着水させることで生じさせた水40の流れの上に次の水40を着水させるようにすれば、水跳ねを抑制することができる。この原因は、必ずしも明らかではないが以下のことが考えられる。すなわち、斜め方向から水40を着水させることで着水時の衝撃を緩和することができる。また、すでに着水している水40の上に着水する場合においても、進行方向が一致するため、水面の乱れが生じにくい。尚、水跳ねを抑制することができるとともに、着水音をも抑制することができる。また、斜め方向から水40を着水させることで一方向の水の流れを強制的に作り出すことができる。そのため、水勢を高めることができるので滞留する水40の量が少なく、すでに着水している水40が水跳ねを起こすことを抑制することができる。
【0078】
このように本実施形態では、シャワー吐水がシンク30の底面に着水すると水膜が形成され、その底面に形成された水膜上に、更に続くシャワー吐水が着水する。シャワー吐水が手前方向に向いて吐出されているため、シャワー吐水がシンク30の底面に着水すると水膜が手前方向に形成される。このようにシンク30の底面に形成された水膜上に更に続くシャワー吐水が着水するので、手前側に指向するシャワー吐水を水膜上に着水させることで、水膜によって確実に着水の衝撃力を吸収することができ、シャワー吐水の水流の乱れを生じさせないので水跳ねを抑制することができる。
【0079】
また、シャワー吐水のシンク30の奥行方向における手前側の吐水流(第一吐水流)は、それよりも後方側の吐水流(第二吐水流)がシンク30の底面に着水することによって形成される水膜上に着水するように構成されている。このように、後方側の吐水流(第二吐水流)がシンク30の底面に着水することで前方に向けて形成される水膜上に、手前側の吐水流(第一吐水流)を着水させるので、手前側の吐水流(第一吐水流)を確実に水膜上に着水させることができ、シャワー吐水の水流の乱れを生じさせないので水跳ねを抑制することができる。
【0080】
次に、傾斜角度θと水跳ねとの関係を説明する。図22は、水跳ね試験の概要を例示するための模式図である。尚、図22(a)は、水跳ね試験の様子を例示するための模式断面図、図22(b)は、図22(a)における矢視方向から見た模式平面図である。図22(a)に示すように、カウンター上面62に対して15°傾斜させたアクリル板(縦500mm×横500mm)をシンク30内に挿入し、カウンター上面62の高さを横切る水40を受けるようにした。そして、図22(b)に示すように、水膜(滞留する水)が形成されていない領域116に水跳ねした水滴量を測定した。この場合、吐出時間は150秒としている。また、傾斜角度θを0°〜90°の範囲で変化させて、水跳ねした水滴量を測定している。尚、アクリル板の傾斜角度15°は、洗浄物を差し出す角度を想定したものである。発明者らが得た知見によれば、「簡単洗い」で、手や洗浄物を洗う動作では、先端側を低くして洗っていることが多い。これは腕に水が伝うのを嫌うことや、関節にかかる負担を減らすなどの心理が働いているものと思われる。15°は身長162±2cmの被験者6人がキッチン用水栓20に差し出した例えば包丁などの角度の最も低い角度である。
【0081】
図23は、傾斜角度θと水跳ねとの関係を例示するためのグラフ図である。尚、横軸は傾斜角度θを表し、縦軸は図22に例示をした水跳ね試験により測定した水滴量を水跳ね量として表したものである。
【0082】
図23に示すように、図22に例示をした水跳ね試験によれば、傾斜角度θが30°以下では、水跳ね量は略一定で多いことが分かる。これは図16〜図18に関して前述したように、水が洗浄物に対して、略垂直に着水するため、着水面で水の滞留が起こり、水面が乱れるためである。これに対し、傾斜角度θが40°以上では、水跳ねが単調的に減少していることが分かる。これは図19〜図21に関して前述したように、水が洗浄物に対して、傾斜して着水した場合は、着水した水は、遅延なく排出され、水面の乱れが抑制されるためである。なお、傾斜角度θが80°以上では、水面の乱れの抑制が頭打ちとなるため、水跳ね量の減少効果も、飽和し始める。これにより、40°以上の場合には、水跳ねの減少効果が大きくなることが分かる。また、傾斜角度を大きくしていくと、水の流速、流量を変えた場合の、吐水の軌跡の変動が大きくなり、作業効率が悪くなる恐れがあるのに加え、吐水がより遠くまで到達することからシンク30の前後方向の寸法が大きくなりすぎる恐れがあることから、80°以下が好ましい。
【0083】
図24は、本実施形態にかかるシステムキッチン10を上面から眺めた模式図である。
本実施形態にかかるシステムキッチン10は、図1を参照しつつ説明したように、キッチン用水栓20と、シンク30と、を備えている。また、キッチン用水栓20は、使用者から見てシンク30の奥側、すなわちシステムキッチン10の後方、且つカウンター上面62に設けられており、シンク上面32に対して斜めに吐水される。また、シャワー吐水口24から吐水された水40が、シンク上面32を通過するときの吐水のかかる領域47は、前後方向を長手方向とする偏平形状をしている。領域47の左右方向の長さL3は、前述した通り、例えば20mm程度である。また領域47の前後方向の長さL1は、前述した通り85mm程度である。吐水された水40がシステムキッチン10の前後方向を長手方向とした形状を有すると、水40が洗浄物に広くかかるため、手や包丁などを洗いやすくなる。これは、掌や包丁などは長手方向を有する形状をしており、これらを洗うときには、その長手方向をシステムキッチン10の前後方向に差し出して洗うことが多いためである。
【0084】
なお、整流水よりもシャワー水の方が洗浄物に広くかかるため、シャワー水の方がより洗いやすくなる。したがって、吐水された水40が、シンク上面32およびシンク底面34に対して斜めに吐水されることによって洗浄できる範囲が広くなるため、洗浄効果が向上する。すなわち、洗い動作中における使用者の手の動作量を低減させることができる。
【0085】
またキッチン用水栓20は、シンク左側面37と、シンク右側面39の中央よりシンク左側面37よりに設置されている。調理台がシンク30の左側に設置される場合、このようにキッチン用水栓20がシンク左側面37の近くに設置されることで、調理台の前に立って、吐水に手を挿入した場合においても、届きやすくなり、「簡単洗い」における洗い動作を効率化することができる。なお、調理台がシンク30の右側に設置される場合、キッチン用水栓20を、シンク左側面37と、シンク右側面39と、の中央よりシンク右側面39よりに設置すればよい。
【0086】
以上説明したように、本実施形態によれば、キッチン用水栓20から吐水された水40は、シンク上面32およびシンク底面34に対して斜めに吐水されるよう吐水口が構成され、吐水口から吐水される水の吐水方向の水平方向成分は、垂直方向成分より大きくなるよう設定されている。これにより洗浄効果が向上して、洗い動作中の手の動作量を低減させることができ、体格差のある使用者に対しても使い易いキッチン用水栓を提供することができる。また、水跳ねを低減させることができる。
【0087】
図25は、比較例に係る体格差のある使用者の作業を表す模式図である。図25に表したシステムキッチンは、従来のグースネック水栓20aおよびシンクを用いて、使用者が洗い作業を行うことを想定した模式図である。図25に表したように、吐水口は、シンクの中心35より前方側、すなわち使用者側に配置されている。また斜め下方に吐水されているものの、傾斜角度が小さいため体格差の異なる使用者が同じ姿勢で作業しようとすると、使用者の立つ位置が変わってしまう。このように、水の軌跡(流線)が短く、略鉛直に吐水されると、楽な姿勢で洗い動作を行うことのできる使用者が限られてしまう。すなわち、ごく一部の体格の使用者は、楽な姿勢で洗い作業を行うことができるが、例えば、身長の高い使用者に対しては、手や腕が窮屈になってしまう、もしくはシンクから離れて作業しなければならなくなり、また例えば、身長の低い使用者に対しては、吐水に手が届きづらくなり、身体が前かがみになり、腰に負担のかかる姿勢になる、もしくは、肘を伸ばして作業を行わなければならなくなる等の不具合が生じるため好ましくない。
【0088】
続いて、散水板に散水孔を設置する態様についてのバリエーションを図26に記載する。図26の(a),(b),(c),(d)は、散水板に散水孔を設置するバリエーションを示す模式的な断面図である。図26の(a)では、散水板66aを水平面に対して上方に傾けて配置し、更に散水板66aが傾斜した方向が長手方向となるように、複数の散水孔67aの中心軸を配置するものである。この複数の散水孔67aからシャワー吐水68aが吐出される。この配置態様も好適なものであるけれども、キッチン用水栓20をより小型化するため、図26の(b)、(c)、(d)のように、散水板と直交する方向に対して所定の角度を持ち、且つ散水板が傾斜した方向にシャワー吐水が広がるように上方又は下方方向に吐水可能とすることができる。このように構成すれば、例えば散水板を小型にした場合においても、シャワー吐水は広がりを持って吐水可能となるため、小型で且つ洗浄効果を得ることが可能な吐水を実現するキッチン用水栓を供給できる。
【0089】
より具体的には、図26の(b)では、シンク30に配置した場合のシンク手前側に位置する図中上方部分の散水孔67b1は、散水板66bに対して略直交するように形成されている。その散水孔67b1よりも図中下方にある散水孔67b2は、シンク30に配置された場合に散水孔67b1よりも奧側に位置するものであって、散水孔67b1よりも奥側に傾斜するように形成されている。また、その散水孔67b2よりも図中下方にある散水孔67b3は、散水孔67b2よりも更に奥側に傾斜するように形成されている。そのため、散水板66bを用いると、シャワー吐水68bは、吐出孔として吐水口を構成する散水孔67b1,67b2,67b3から吐出された直後の吐出方向周りの外形よりも、シンク底面34に着水する際の領域が、シンク30の奥行方向に沿って更に縦長になるように吐出されている。
【0090】
図26の(b)のように散水板66bを構成すれば、シャワー吐水を、吐水口を構成する散水孔67b1,67b2,67b3から吐出された直後の外形よりもシンク底面34に着水する際の領域が更に縦長になるように吐出するので、吐水口を構成する散水孔67b1,67b2,67b3から吐出された直後の吐出方向周りの外形を小さくすることができる。従って、キッチン用水栓30を小型化することができる。また、図26の(b)に示すよりも更に散水孔67b1,67b2,67b3が形成されている領域を狭めれば、
シャワー吐水のみでは対応し難い、小さな口径の容器への水汲みといった作業も吐水の切り替えを行わずに快適に行うことができる。
【0091】
図26の(c)では、シンク30に配置した場合のシンク手前側に位置する図中上方部分の散水孔67c1は、散水板66cに対して略直交する方向から前方に傾斜するように形成されている。その散水孔67c1よりも図中下方にある散水孔67c2は、シンク30に配置された場合に散水孔67c1よりも奧側に位置するものであって、散水孔67c1よりも緩やかな傾斜で前方に傾斜するように形成されている。また、その散水孔67c2よりも図中下方にある散水孔67c3は、散水板66cに対して略直交するように形成されている。そのため、散水板66cを用いると、シャワー吐水68cは、吐出孔としての散水孔67c1,67c2,67c3から吐出された直後の吐出方向周りの外形よりも、シンク底面34に着水する際の領域が、シンク30の奥行方向に沿って更に縦長になるように吐出されている。
【0092】
図26の(c)のように散水板66cを構成すれば、第二吐出孔として機能する散水孔67c2から吐出される第二吐水流としてのシャワー吐水68cがシンク底面34に着水することによって発生する水跳ねが、第一吐出孔として機能する散水孔67c1から吐出される第一吐出流としてのシャワー吐水68cを構成する各吐水流へと向うように構成することができる。このように、第二吐出孔としての散水孔67c2を第一吐水流側に傾斜させるという簡単な構成で、第二吐水流による水跳ねを第一吐水流を構成する各水流に向わせることができ、第二吐水流による水跳ねを確実に受け止めることができる。また、第二吐水流による水跳ねが、第一吐水流を構成する各水流に向うので、第一吐水流の幅を広げなくても第二吐水流による水跳ねを確実に受け止めることができる。また、第二吐水流による水跳ねを第一吐水流に確実に衝突させることができるので、第一吐水流の流量を必要以上に増やすことがなく、第一吐水流による水跳ねも抑制できる。このように、シャワー吐水の手前側の第一吐水流は、それよりも後方側の第二吐水流がシンクの底面に着水することによって発生する水跳ねを受け止めるように形成されているので、シンク底面34や被洗浄物に当たった吐水が使用者側に水跳ねを起こしたとしても、少なくとも後方の第二吐水流による水跳ねは第一吐水流が受け止めることで低減することができる。
【0093】
また、第一吐水流は第二吐水流に比較して密な水流として構成されていることも好ましいものである。このように構成すれば、第二吐水流による水跳ねを受け止める第一吐水流の間隔を、第二吐水流に比較して密になるように構成するので、第二吐水流による水跳ねが第一吐水流の間をすり抜けて行くことを防止することができ、第二吐水流による水跳ねを第一吐水流が確実に受け止めることができる。
【0094】
また、第一吐水流を吐出する第一吐出孔としての散水孔67c1の間隔は、第二吐水流を吐出する第二吐出孔としての散水孔67c2,67c3の間隔よりも狭くなるように構成されていることも好ましいものである。このように構成すれば、第一吐水流を吐出する第一吐出孔としての散水孔67c1の間隔を、第二吐水流を吐出する第二吐出孔としての散水孔67c2,67c3の間隔よりも狭くなるように構成するので、例えば第一吐出流の流量が少ないような場合であっても、第一吐水流を第二吐水流に対して確実に密な状態とすることができる。具体的な配置例を図27に示す。図27に示すように、散水板66cには、第一吐出孔としての散水孔67c1と、第二吐出孔としての散水孔67c2,67c3とが形成されている。散水孔67c1は、最前列の散水孔67c1aと、それよりも後列の散水孔67c1bとによって構成されている。最前列の散水孔67c1aは、9個の孔が一列に配置されている。後列の散水孔67c1bは、4行×4列となるように配置されている。また、散水孔67c2は、4行×4列となるように、散水孔67c3は、5行×4列となるように、それぞれ配置されている。従って、最前列の散水孔67c1aの設置間隔t1は、後列の散水孔67c1b,67c2,67c3の設置間隔t2よりも狭くなるように配置されている。このように構成することで第一吐水流を第二吐水流に対して確実に密な状態とすることができる。
【0095】
図26の(d)では、シンク30に配置した場合のシンク手前側に位置する図中上方部分の散水孔67d1は、散水板66dに対して略直交する方向から前方に傾斜するように形成されている。その散水孔67d1よりも図中下方にある散水孔67d2は、シンク30に配置された場合に散水孔67d1よりも奧側に位置するものであって、散水板66dに対して略直交するように形成されている。また、その散水孔67d2よりも図中下方にある散水孔67d3は、奥側に傾斜するように形成されている。そのため、散水板66dを用いると、シャワー吐水68dは、吐出孔としての散水孔67d1,67d2,67d3から吐出された直後の吐出方向周りの外形よりも、シンク底面34に着水する際の領域が、シンク30の奥行方向に沿って更に縦長になるように吐出されている。
【0096】
また、第一吐水流がシンク底面34に着水することによって発生する水跳ねを抑制する跳ね抑制手段を備えることも好ましいものである。第一吐水流による水跳ねを抑制する跳ね抑制手段を備えれば、第二吐水流による水跳ねの抑制と併せて第一吐水流による水跳ねも抑制することができ、シャワー吐水全体による水跳ねを抑制することができる。
【0097】
具体的には、跳ね抑制手段は、第一吐水流の流量を第二吐水流の流量よりも減じるものであることが好ましい。第一吐水流は、第二吐水流による水跳ねを受け止めればよく、いわば第二吐水流による水跳ねを受け止めるカーテンとしての役割を果たすものである。そこで、第一吐水流の流量を第二吐水流の流用よりも減じることで、第二吐水流による水跳ねを受け止めるカーテンとしての役割を果たすことは達成しつつ、第一吐水流の着水による衝撃力を低減して水跳ねを抑制することができるものとしている。
【0098】
また、第一吐水流を吐出する第一吐出孔として機能する散水孔67c1よりも第二吐水流を吐出する第二吐出孔として機能する散水孔67c2,67c3は大径であって、第二吐出孔として機能する散水孔67c2,67c3の数は、第一吐出孔として機能する散水孔67c1の数よりも少なくなるように構成されていることも好ましい。このように構成すれば、第一吐出孔として機能する散水孔67c1よりも第二吐出孔として機能する散水孔67c2,67c3は大径であるので、散水孔67c1の径を比較的小さくすることができ、第一吐水流の着水による衝撃力を確実に低減して水跳ねを抑制することができる。また、大径である散水孔67c2,67c3の数を小径である散水孔67c1の数よりも少なくすることで、散水孔67c2,67c3が形成されている領域の単位面積当たりの総吐出流量と散水孔67c1が形成されている領域の単位面積当たりの総吐出流量とを違和感がない程度に均衡させることができ、着水した際の洗浄感を、違和感を覚えない程度に均等なものとすることができる。
【0099】
図26を参照しながら説明した散水板66a,66b,66c,66dは、後述する散水孔の配置バリエーションのいずれとも組み合わせることが可能なものである。
【0100】
続いて、散水板に設けた複数の散水孔69について説明する。複数の散水孔69は、供給するシャワー吐水の形状や発生する効果によって、複数の散水孔69をまとめた散水孔群70を形成し、散水孔群70の中の散水孔69の配置や、散水板上での散水孔群70の配置を変更している。本実施形態における複数の散水孔69は、最も近接する散水孔69間の距離を略同一の距離としている。これは、上述した散水孔群70の中の散水孔69配置によるもので、散水孔群70の中の散水孔69で、最も近接する散水孔69間の距離を略同一にすることで、散水孔群70で形成されたシャワー吐水が散水孔群70の中で均一な洗浄効果を得ることが可能となるため、被洗浄物を差し出すだけで洗浄可能な吐水を供給することが可能となる。図28に示すように、円状をした散水孔群70において、円周上に散水孔69を配置した形状で、且つ近接する散水孔間の距離を一定とすることで、円周上の吐水を供給することが可能となると共に、被洗浄物に着水した際においても、均一な孔配置のため着水後の水膜が大きく変形することなく形成されるため、水膜による洗浄面の広がりを維持することが可能となり、洗浄効果を向上させることも可能となる。
【0101】
また、図29に示すように、への字型に散水孔71を配置した散水孔群72の場合、近接する散水孔71間の距離を略同一にすることで、被洗浄物に洗浄水が衝突した際に発生する水膜を図面の左右方向に対して広く形成することが可能となり、且つ散水孔71からの吐水流が均一に被洗浄体に衝突することで、被洗浄体に衝突した際の洗浄力を散水孔群72内で安定して確保することが可能となると共に、左右方向に広がる水膜の形成において大きく形を乱すことなく水膜形成することが可能となるため、高い洗浄力を維持することが可能となる。
【0102】
図30に、散水孔の配置を変更した例を示す。図30の(a)は散水板73の平面図であり、図30の(b)は図30の(a)におけるA−A断面図である。図30の(a)に示すように、散水孔は横方向に列状配置されている。最前列の散水孔(第一吐出孔)は、中央側に配置されている散水孔73aと、その散水孔73aの両側(側端側)に配置されている73b,73bとを有している。散水孔73b,73bは、散水孔73aに対して後退するように配置されており、第一吐出孔としての最前列の散水孔73a,73b,73bは、中央側に対して側端側が後退するように配置されている。
【0103】
最前列の散水孔(第一吐出孔)を構成する各散水孔73a,73b,73bの後方には、同様の配置態様で、第二吐出孔としての、散水孔73a,73b,73bが配置されている。二列目以降の散水孔73a,73b,73bも一列目と同様に中央側に対して側端側が後退するように配置されている。
【0104】
図30の(b)に示すように、散水孔73a,73b,73bの各孔が形成されている方向は、既に説明した図26の(d)の孔方向と同様に、前後方向中央付近が散水板73に対して略直交するように形成され、前後方向前方(図中上方)が前方に傾斜し、前後方向後方(図中下方)が後方に傾斜し、全体として吐出される水が拡散するように形成されている。従って、図30に示す散水孔73a,73b,73bの配置パターンから吐出される水が着水するパターンを図31に示すと、図30に示す散水孔73a,73b,73bに示す孔の前後長さLaよりも、着水の前後長さLbが長くなるように形成されている。
【0105】
上述したように、第一吐水流を吐出する第一吐出孔としての散水孔73a,73b,73bは最前列において横方向に列状配置されており、第二吐水流を吐出する第二吐出孔としての散水孔73a,73b,73bは、列状配置された第一吐出孔としての散水孔73a,73b,73bの後方に列状配置されている。列状配置された第一吐出孔としての散水孔73a,73b,73b及び列状配置された第二吐出孔としての散水孔73a,73b,73bは、各列の中央側に対して側端側が後退するように配置されている。
【0106】
シャワー吐水の個々の水流に着目すると、それぞれの水流を構成する水滴は着水した後に広がるため、隣接した水流が存在すると互いに干渉し、結果として隣接した水流のない方向へ水膜が広がりやすくなる。この態様では、列状配置された第一吐出孔としての散水孔73a,73b,73b及び列状配置された第二吐出孔としての散水孔73a,73b,73bは、各列の中央側に対して側端側が後退するように構成されているので、中央側は吐出孔同士が横方向に隣接して並んでおり、側端側は吐出孔同士が斜め後方に向って隣接して並んでいる。従って、列状配置された第一吐出孔及としての散水孔73a,73b,73bび列状配置された第二吐出孔としての散水孔73a,73b,73bの中央側の吐出孔から吐出される水は、着水した後に手前側に水膜を広げ、側端側の吐出孔から吐出される水は横方向に水膜を広げるように作用する。これによって、水跳ねを防止するために手前側に広がる水膜と、洗浄力を高めるための横方向に広がる水膜とをそれぞれの機能及び位置に応じて確実に形成することができる。
【0107】
このように、第二吐水流の中央側の水流は手前側に水膜を広げ、第二吐水流の側端側の水流は横方向に水膜を広げるので、第一吐水流の水跳ねを防止するために手前側に広がる水膜と、洗浄力を高めるための横方向に広がる水膜とをそれぞれの機能及び位置に応じて確実に形成することができる。
【0108】
また、上述したように、図30に示す散水孔73a,73b,73bの配置パターンでは、列状配置された第一吐出孔としての散水孔73a,73b,73bそれぞれからの吐水方向は略同一方向となるように構成される一方で、列状配置された第一吐出孔より後方の第二吐出孔としての散水孔73a,73b,73bそれぞれからの吐水方向は各列ごとに略同一方向となるように構成されている。従って、第一吐出孔としての散水孔73a,73b,73bから吐水される水は第一吐水流として最適な方向を指向し、第二吐出孔としての散水孔73a,73b,73bから吐水される水は第二吐水流として最適な方向を指向するように構成することができる。そのため、水跳ねを防止するために手前側に広がる水膜と、洗浄力を高めるための横方向に広がる水膜とをそれぞれの機能及び位置に応じて確実に形成することができる。
【0109】
図32は、シャワー吐水部に設けられる散水板を例示するための模式図であり、正面から眺めた場合の模式図である。なお、図32の(a)は、散水板全体を正面から眺めた場合の模式図であり、図32の(b)は、散水孔群を例示するための模式図である。図32の(a)に例示をする散水板74は、キッチン用水栓20のシャワー吐水口24に固定されるものである。散水板74には、複数の散水孔群75が設けられている。図32の(a)に示すように、例えば、散水孔群を2群に配列することができる。なお、散水孔群については、後述する。
【0110】
散水孔が設けられる領域は、上下方向を長手方向とする偏平形状で、かつ凸状となっている。偏平形状とは、この場合、一方の幅よりもそれと直交する方向の幅が長いことを意味するものとする。幅とは、上下方向もしくは、左右方向の最外端に位置する散水孔どうしの垂直もしくは、水平方向に投影された距離のことである。また凸状とは、この場合、左端の散水孔と、右端の散水孔との距離、すなわち横幅において、下方より上方の横幅が狭い形状のことを意味するものとする。下方より上方の幅が狭い形状は、上方に向かって漸次、幅が狭くなる形状でも、単に上方が下方より狭い形状でもよい。上方に向かって、漸次、幅が狭くなる形状としては、例えば、V字状、円弧状、放物線状、台形状等があげられる。単に上方が下方より狭い形状としては、例えば、下方に正方形を横にして3つ並べ、上方に正方形を1つ並べた形状当をあげることができる。必ずしも左右の形状が対照的である必要はなく、例えば左右に偏った三角形でもよい。また、例えば、V字状のように、下方の中央部に、孔のない空間を有していてもよく、三角形のように、孔のない空間を有さなくてもよい。
【0111】
デザイン性その他の理由により、最外郭に、水膜の形成に影響を与えない程度の散水孔が施される場合においては、水膜形成に有効な散水孔の左右方向もしくは上下方向の幅寸法を用いて、偏平形状および凸状を規定すればよい。水膜形成に影響を与えない程度とは、その散水孔の合計面積が、全散水孔の総面積に比べ、1割未満程度である。
【0112】
図32の(b)に示す散水孔群75において、例えば、散水孔75aの数を120個程度とすることができる。散水孔75aから水を放出させることができ、放出された水は、シャワー吐水流となってシンク底面34に着水するようになっている。
【0113】
ここで、散水孔75aが設けられる領域の横幅寸法L5と縦幅寸法L6とについて説明をする。なお、図32に示すように、横幅寸法L5は、配設された散水孔75aのうち、最左端と最右端に設けられたものの外縁の最も外側に位置する部分間の寸法である。また、縦幅寸法L6は、配設された散水孔75aのうち、最上端と最下端に設けられたものの外縁の最も外側に位置する部分間の寸法である。
【0114】
システムキッチンに設けられるシャワー吐水口としては、包丁などの調理器具や使用者の手に対して水を広範囲に放出できることが好ましい。
【0115】
その中でも幅寸法が短い包丁に対して、水が包丁の幅の略全体わたって放出され、かつ包丁に当たらずにシンクに直接着水することを抑制することが好ましい。これは、洗浄物に当たらず無駄になる水を抑制するためである。本発明者らの得た知見によれば、一般的な包丁の刃の幅寸法(30mm程度)に対して横幅寸法L5を20mm程度とすれば、放出された水が包丁に当たらずにシンク30に直接着水することを抑制することができる。これにより、放出された水を洗浄のための水として有効に利用することができ、洗浄に使われない無駄な水を削減することができる。
【0116】
また、調理器具や手などの洗浄物は170mm程度の長さを有するものが多い。しかしながら、これらの洗浄物の略全長に一度に水を放出すると、大流量の水を消費してしまう。本発明者らの得た知見によれば、洗浄物の全長の略半分の長さに対して水を放出し、洗浄物上を流れる水によって残りの略半分の長さを洗い流すようにすれば、水の使用量を抑制しつつ洗浄効果を向上させることができる。
【0117】
ここで、使用者が「簡単洗い」を行う場合、洗浄物をシャワー吐水口24(散水孔75a)から放出された水に差し出し、洗浄を行うと同時に、洗浄の状態を目で確認したいため、洗浄物の差し出される角度は、自然とカウンター上面に対し、略並行となり、水の進行方向に対し、斜めに差し出されるため、縦幅寸法L6を洗浄物の全長の略半分の長さよりも短くしても、洗浄物上においては洗浄物の全長の略半分の長さ程度に水があたるようになる。本発明者らの得た知見によれば、例えば、縦幅寸法L6を65mm程度とすれば、70mm程度から75mm程度の長さに相当する水を洗浄物にあてることができる。その結果、洗浄物の広範囲に水を当てることができるとともに、水の使用量を抑制することができる。また、例えば、散水孔群75の縦幅寸法L60を、33mm、横幅寸法L50を20mmとすることができ、散水孔群の間隔L7を、14mmとすることができる。この場合、散水孔が設けられる領域の縦幅寸法L6は、65mmとすることができる。
【0118】
ただし、散水孔75aが設けられる領域の横幅寸法L5と縦幅寸法L6は例示をした寸法に限定されるわけではない。この場合、縦幅寸法L6が横幅寸法L5よりも大きくなるようにすれば、洗浄物の大きさなどに応じて適宜変更することができる。
【0119】
続いて、シャワー吐水部24に固定される散水板の更なる変形例について例示をする。図33〜図37は、シャワー吐水口24に固定される散水板の変形例を例示するための模式図である。
【0120】
図33に示すように、散水板74cには、図32に例示をした散水孔群75に換えて、散水孔群75cが、設けられている。この場合、散水孔群は、複数ではなく、1つのみであり、散水孔の数は、例えば250個程度とすることができる。散水孔群とは、最隣接の散水孔間隔が、散水孔の直径の6倍の長さ以内である散水孔の集合のことを意味するものとする。散水孔より水が吐出されると、せん断応力により粒化され、水滴の状態で、固体表面もしくは、固体表面上に形成された液膜、に衝突し、その衝撃で変形する。水滴の変形量は、水滴径、衝突速度、衝突角度、粘性、密度、固体の表面状態、液膜厚等により異なるが、キッチンでの一般的な使用条件では、概ね3倍以内と見積もれる。よって異なる散水孔より吐出された水滴どうしの相互作用を考えると、孔径の6倍以内では、着水後、一体化し、水膜を形成できる確率が高くなるが、6倍を超えると、水膜を形成する可能性が低くなる他、互いの影響が小さくなると考えられる。
【0121】
散水孔群が設けられている領域の横方向(図の左右方向)の寸法L5cは、例えば、20mm程度とすることができ、縦方向(図の上下方向)の寸法L6cは、例えば65mm程度とすることができる。また、上方の横方向(図の左右方向)の寸法L30cは、例えば7mm程度とすることができ、下方の縦方向(図の上下方向)の寸法L20cは、例えば16mm程度とすることができる。なお、図5に例示したものの場合には、寸法L5cが前述した横幅寸法L5に該当し、寸法L6cが縦幅寸法L6に該当することになる。
【0122】
図33に例示をしたもののように、1つの散水孔群75cを備えた散水板74cを用いれば、より密集した領域に、水滴が着水することになるため、着水後、広い水膜が形成できるようになる。すなわち、フライパンや平皿のような、平面的な形状を有する調理器具、食器等に対して、効率よく水ですすぐことができるため、水の使用量を抑制することができる。
【0123】
図34に示すように、散水板74dには、図32で例示した散水孔群75に換えて、散水孔群75dが、設けられている。この場合、散水孔群は、複数ではなく、1つのみであり、散水孔の数は、例えば250個程度、散水孔の直径を0.4mm程度とすることができる。
【0124】
散水孔群が設けられている領域の横方向(図の左右方向)の寸法L5dは、例えば、20mm程度とすることができ、縦方向(図の上下方向)の寸法L6dは、例えば、65mm程度とすることができる。また、上方の横方向(図の左右方向)の寸法L30dは、例えば3mm程度とすることができ、下方の孔の空いていない空間の高さL21dは、例えば30mm程度とすることができる。
【0125】
散水孔群27dを備えた散水板26dを用いれば、長手方向に、広い範囲に吐水をかけることができる。散水孔群が設けられる領域は、図33に例示をした散水板74cと比べ、漸次幅が狭くなる形状になっているため、より着水後の水膜が広がるようになるため、効率よく洗浄を行うことができ、水の使用量を抑制することができる。
【0126】
図35は、シャワー吐水部に設けられる散水板の変形例を例示するための模式図である。
なお、図35の(a)は、散水板全体を正面から眺めた場合の模式図であり、図35の(b)は、散水孔群を例示するための模式図である。図35の(a)に示すように、散水板26eには、散水孔群27eが設けられている。この場合、散水孔群は、複数であり、例えば、1行×12列に配列することができる。散水孔群が設けられている領域の横方向(図の左右方向)の寸法L5eは、例えば、20mm程度とすることができ、縦方向(図の上下方向)の寸法L6dは、例えば、65mm程度とすることができる。また、散水孔群27eの縦方向(図の上下方向)の間隔の寸法L7eは、例えば、5mmとすることができる。
【0127】
また、図35の(b)に示すように、例えば、散水孔群を横方向(図の左右方向)が長手方向とする偏平形状にし、図の上方に向かって凸状形状にすることができる。散水孔群75eの横方向(図の左右方向)の寸法L50eは、例えば、20mm程度とすることができ、縦方向(図の上下方向)の寸法L60eは、例えば、9mm程度とすることができる。
【0128】
この場合、散水孔群は、横方向を長手方向とする偏平形状であるが、散水孔群が、縦方向に配列されているため、図34に示したように、縦方向を長手方向とする偏平形状の散水孔群と同様の効果が得られる。同じ散水孔群の複数の散水孔から放出された水は、着水後一体化して水膜となり、さらに別の散水孔群から生じた水膜と一体化する。このため、散水孔群が縦に配列されている場合は、直径の大きい散水孔が縦方向を長手方向とする偏平形状に配置されている場合と同様の効果が得られる。すなわち、後述するように、凸状の効果に加えて、吐出する方向を長手方向とする偏平形状の効果も加わるため、着水後も広い水膜を形成させることが可能となり、洗いの作業を効率化することができる。ただし、散水孔群の間隔が極端に大きい場合、互いの散水孔群の散水孔から吐出され、着水し、形成された水膜どうしの影響が弱まる。
【0129】
図36は、シャワー吐水部に設けられる散水板の変形例を例示するための模式図である。
なお、図36の(a)は、散水板全体を正面から眺めた場合の模式図であり、図36の(b)は、散水孔群を例示するための模式図である。図36の(a)に示すように、散水板74fには、散水孔群75fが設けられている。この場合、散水孔群は、複数であり、2行に配列され、上方1行目は1列、下方2行目は2列に配列することができる。
【0130】
散水孔群が設けられている領域の横方向(図の左右方向)の寸法L5fは、例えば、20mm程度とすることができ、縦方向(図の上下方向)の寸法L6fは、例えば、30mm程度とすることができ、散水孔群75fの縦方向(図の上下方向)の間隔の寸法L7fは、例えば12mmとすることができる。この場合、散水板75fに、設けられた散水孔群は、縦方向(図の上下方向)を長手方向とする偏平形状に配置されている。
【0131】
また、図36の(b)に示すように、例えば、散水孔を、同心円上に2列配列することができる。例えば、散水孔の数を合計30個程度とすることができる。
【0132】
前述したように、散水孔群は、直径の大きい散水孔とみなせることから、直径の大きい散水孔が、縦方向を長手方向とする偏平形状に、且つ上方に向かって凸状に配置されている場合と同様の効果が得られる。すなわち、縦方向に広範囲に吐水されるとともに、着水後も広い水膜が形成される。散水孔群の、上下方向と左右方向の寸法を等しく、例えば、円状とした場合においても、散水孔群が、凸状で、かつ縦方向を長手方向とする偏平形状に配列することで、図34に示したように、縦方向を長手方向とする偏平形状の散水孔群と同様の効果が得られる。
【0133】
図37は、シャワー吐水部に設けられる散水板の変形例を例示するための模式図である。なお、図37の(a)は、散水板全体を正面から眺めた場合の模式図であり、図37の(b)は、散水孔群を例示するための模式図である。図37の(a)に示すように、散水板74gには、散水孔群75gが設けられている。この場合、散水孔群は、複数であり、例えば、1行×12列に配列することができ、上から7列の散水群の散水孔直径を、例えば、0.4mm程度とすることができ、下から5列の散水孔群の散水孔直径を、例えば、0.5mm程度とすることができる。
【0134】
散水孔群が設けられている領域の横方向(図の左右方向)の寸法L5gは、例えば、20mm程度とすることができ、縦方向(図の上下方向)の寸法L6gは、例えば、65mm程度とすることができる。また、散水孔群75gの縦方向(図の上下方向)の間隔の寸法L7gは、例えば、5mmとすることができる。
【0135】
また、図37の(b)に示すように、例えば、散水孔群を横方向(図の左右方向)が長手方向とする偏平形状にし、図の上方に向かって凸状形状にすることができる。散水孔群75gの横方向(図の左右方向)の寸法L50gは、例えば、20mm程度とすることができ、縦方向(図の上下方向)の寸法L60gは、例えば、9mm程度とすることができる。この場合、散水孔群は、横方向を長手方向とする偏平形状であるが、散水孔群が、縦方向に配列されているため、図34に示したように、縦方向を長手方向とする偏平形状の散水孔群と同様の効果が得られる。また、下方向の散水孔群の散水孔直径は、大きくなっており、より大きな水滴が衝突するため、衝撃力が大きくなり、さらに洗い易くなる。大きな水滴の場合、水跳ねが生じるおそれがあるが、上方向に小さい散水孔直径の散水孔が配列されているため、上方向の散水孔から吐出されるシャワー吐水流に遮られ、調理者側に飛び散ることもなくなる。
【0136】
ただし、図33〜37に例示をした寸法に限定されるわけではなく、洗浄物の大きさなどに応じて適宜変更することができる。また、散水孔群の配設数や配設ピッチなども図示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、任意の曲線、傾斜や屈折した直線などに沿って散水孔を設けるようにすることもできる。また、散水孔の形状も図36に例示をした円形に限定されるわけではなく任意の形状とすることができる。
また散水孔の孔の角度を中心から外側に向けて形成させることで、L5dまたはL6dの寸法を小さくしながらも、広い吐水範囲の吐水を得ることもでき、その場合、散水板の寸法を小さくできるため、デザイン性が向上する。
【0137】
次に、散水孔および散水孔群の配列と、着水後に形成される水膜の関係について、説明する。なお、便宜上、水膜が形成される表面が平面の場合のみ行うが、湾曲した表面においても、同様の効果を示す。図38は、吐水流と、着水後に形成される水膜を例示するための模式図である。図38の(a)は、散水孔が設けられる領域の横幅寸法が、縦幅寸法より大きい場合の水膜を例示する模式図であり、図38の(b)は、散水孔が設けられる領域の縦幅寸法が、横幅寸法より大きい場合の水膜を例示する模式図であり、図38の(c)は、散水孔が設けられる領域の縦幅寸法が、横幅寸法より大きく、さらに縦方向の上方に向かって凸状である場合の水膜を例示するための模式図である。
【0138】
散水孔の中心軸方向が一致している場合、散水孔から吐出された水が着水する着水部の形状は、散水孔が設けられる領域の形状が反映される。着水部とは、水が着水する場所である。したがって、図38の(a)に示すように、散水孔が設けられる領域の横幅寸法が、縦幅寸法より広い場合、着水部77aの形状も横幅寸法が大きくなる。着水面に対し、斜め方向に吐水しているため、着水後、水は略進行方向(図の上方向)に流れようとする。水の表面張力により、進行方向と直交する方向(図の左右方向)にも、流れの向きを変えようとするが、直交方向(図の左右方向)には、密に水が着水しているため、直交方向(図の左右方向)へ向かおうとする流れが抑制され、結果として、直交方向(図の左右方向)への拡がりは少ない。
【0139】
図38の(b)に示すように、散水孔が設けられる領域の縦幅寸法が、横幅寸法より広い場合、着水部77bの形状も、縦幅寸法が大きくなる。着水後、水は略進行方向(図の上方向)に流れようとするが、着水後に、着水面上を流れる速さは、散水孔から吐出され、着水する前の水の流れる速さに比べ遅いため、略進行方向(図の上方向)に、水が密集することになる。着水部が、略進行方向を長手方向とする偏平形状の場合、特に水の密集が激しいため、進行方向の向きが、図の左右方向に変えられ、結果として、図の左右方向への拡がりが大きくなる。
【0140】
図38の(c)に示すように、散水孔が設けられる領域の縦幅寸法が、横幅寸法より広く、かつ縦方向の上方に向かって凸状である場合、着水部77cの形状も、進行方向(図の上方向)を長手方向とする偏平形状で、かつ凸状となる。この場合、略進行方向を長手方向とする偏平形状であるため、図38の(b)に示したのと同様に、進行方向の向きが左右方向に変えられるが、横幅が段階的に拡がっているため、左右方向への流れの向きの変換がより顕著となるため、さらに左右方向に拡がることとなる。
【0141】
尚、水膜の面積を調べる試験は、図22を参照しながら説明したものと略同様であるが、再度説明する。図22の(a)に示すように、カウンター上面62に対して15°傾斜させたアクリル板(縦500mm×横500mm)をシンク30内に挿入し、カウンター上面62の高さを横切る水40を受けるようにした。そして、図22の(b)に示すように、形成された水膜の形状を測定し、その面積を求めた。また、散水孔および散水孔群の配列を替えて、形成される水膜の形状および面積を、それぞれ求めた。なお、吐水量は、5.0L/minで、吐水し、散水孔の合計面積は、それぞれの散水板で等しい。
【0142】
図39は、散水孔および散水孔群の配列、形成された水膜の形状、水膜の面積を示した表である。図39の(a)、(b)、(c)、(d)は、それぞれ、図34、図33、図35、図37に示した散水板74d、74c、74e、74gを用いて吐水した場合の、水膜の形状および面積を示している。図39の(a)〜(e)に示した水膜の形状は、進行方向と直交する方向(図の左右方向)の拡がりが大きく、水膜の面積も大きい。これは図38の(c)に関して前述したように、進行方向と直交する方向(図の左右方向)への水の流れが、顕著に促進されたためである。
【0143】
これに対し、図39の(f)は、図34に示した散水板26dを上下方向を逆にして取付けた散水板を用いて、吐水した場合に、形成された水膜の形状および面積を示している。左右方向の拡がりが抑制されたため、水膜の面積は小さい。
【0144】
また、図39の(g)、(h)は、散水孔群の間隔の広い散水板を用いて吐水した場合に、形成された水膜の形状および面積を示している。散水孔群の間隔が大きすぎるため、着水した水滴どうしの影響が弱まるため、水膜の面積は小さい。
【0145】
図39の(i)は、散水孔が設けられる領域の横幅寸法が、縦幅寸法より大きい散水板を用いて、吐水した場合の水膜の形状および面積を示している。図38の(a)に関して前述したように、進行方向と直交する方向(図の左右方向)への水の流れが抑制されるため、水膜の面積は小さい。
【0146】
図39の(j)は、散水孔が設けられる領域の縦幅寸法が、横幅寸法より大きい散水板を用いて、吐水した場合の水膜の形状および面積を示している。図38の(b)に関して前述したように、進行方向と直交する方向(図の左右方向)への水の流れは促進されているものの、散水孔が設けられる領域の横幅寸法が、上下方向に等しいため、凸状ほど広い面積を形成することはできない。
【0147】
上述したように、シャワー吐水がシンク底面34に着水すると横方向により広がるように形成し、縦方向のみならず横方向にも広い着水面積を確保して、広い洗浄面積を確保することができる。そのため、まな板といった広い面積の被洗浄物であっても、被洗浄物の移動距離を小さくし、被洗浄物を動かすための使用者の手の動きを小さいものとすることができる。また作業時間を短縮することができる。
【0148】
また、シャワー吐水は、シンク底面34に着水する際に、手前側における中央側には着水する一方で、手前側における側端側には着水しないように吐水されることも好ましい。具体的には、例えば図31において、散水孔73aから吐出される水が着水する手前側の中央側にはシャワー吐水が着水しており、散水孔73bから吐出される水が着水する場所よりも前方の手前側における側端側にはシャワー吐水が着水していないものである。
【0149】
シンク底面34に着水したシャワー吐水は、手前方向に広がりつつ、横方向にも広がろうとするものである。そこで、シャワー吐水がシンク底面34に着水する際に、手前側における中央側には着水する一方で、手前側における側端側には着水しないように構成することで、図38を参照しながら説明したように、手前の中央側に着水した水が邪魔されずきれいに横方向に広がり、より広い洗浄面積を確保することができる。
【0150】
また、図30等に示したように、シャワー吐水を吐出するための吐水孔としての散水孔を、手前の中央側に設ける一方で、手前の側端側には設けないので、シャワー吐水がシンク底面34に着水する際に、手前側における中央側には着水する一方で、手前側における側端側には着水しない状態を簡易かつ確実に実現することができる。従って、手前の中央側に着水した水が邪魔されずきれいに横方向に広がり、より広い洗浄面積を確保することができる。
【0151】
更に、キッチン用水栓20では、シャワー吐水の中央側の吐水量よりも側端側の吐水量が多くなるように吐水することも好ましいものである。中央側の吐水量よりも側端側の吐水量が多くなるように吐水することで、シャワー吐水が着水した際の外側の流量を十分確保することができ、着水後に外側に広がる成分となる水の量を確保して、低流量時であっても、シャワー吐水をきれいに横方向へと広げて十分な洗浄面積を確保することができる。
【0152】
図40は、シャワー吐水部に設けられる散水板の変形例を例示するための模式図である。図40の(a)は、散水板を正面から眺めた場合の模式図であり、図40の(b)は、図40の(a)におけるA−A矢視断面を表す模式断面図である。
【0153】
図40の(a)に示すように、散水板74hには、散水孔75hが設けられている。この場合、散水孔は、21行×8列に配列されている。散水孔75hが設けられている領域の横方向(図の左右方向)の寸法L5hは、例えば20mm程度とすることができ、縦方向(図の上下方向)の寸法L6hは、例えば、65mm程度とすることができる。散水板の上方部は、孔径の等しい散水孔85(散水孔75hの一部である)が10行配列されており、例えば、散水孔の孔径を0.4mm程度とすることができる。また、散水板の下方部には、孔径の大きい散水孔86(散水孔75hの一部である)が11行配列されており、例えば、散水孔の孔径を0.6mm程度とすることができる。
【0154】
この場合、散水孔に水膜が形成されると、下端の散水孔86の水膜に働く表面張力は、上端の散水孔の水膜に働く表面張力の2/3となる。したがって、下端の散水孔86は、水膜を保持しにくくなるため、水が排出されやすくなる。また、排出される場合には、孔面積が大きいため、排出速度も速くなる。さらに、吐水されている場合、より大きな水滴が洗浄物に衝突するため、衝撃力が大きくなり、洗浄性が向上する効果も見込める。大きな水滴の場合、水跳ねが生じるおそれがあるが、散水板74hの上方部に孔径の小さな散水孔85が配列されており、この小さな散水孔から吐出されたシャワー吐水に遮られるため、調理者側に飛び散ることもない。
【0155】
また、図40の(b)に示すように、散水板74hに設けられた散水孔75h(散水孔85,86)の軸線方向は、散水板の法線方向に対して、下方向に、ω傾いている。このようにすることで、散水板を傾け、斜めに吐水する場合において、散水孔下端の水膜に働く水圧を増加させることができる。すなわち、散水孔の軸線方向が傾いているため、散水孔の軸線方向が、散水板に対して垂直方向に向いている場合に比べ、水面と、散水孔下端の水膜と、の鉛直方向の高低差を大きくし、同じ角度で吐水させることができる。これによって、散水孔下端の水膜に働く水圧が増加するため、水の排出が促進される。なお、下方部の散水孔の孔径を大きくすることと、散水孔の軸線方向を下方向に傾けること、とは、異なる技術思想を持った工夫であり、図40に示す散水板74hのように、同時に行ってもよいし、また別々に行ってもよい。
【0156】
上述したように、着水時の衝撃力が大きなシャワー吐水を吐出するための高衝撃吐水口としての散水孔86と、高衝撃吐水口としての散水孔86からのシャワー吐水よりも着水時の衝撃力が小さなシャワー吐水を吐出するための低衝撃吐水口としての散水孔85とを有しており、高衝撃吐水口としての散水孔86は低衝撃吐水口としての散水孔85の後方に配置されている。このように、高衝撃吐水口としての散水孔86は低衝撃吐水口としての散水孔85の後方に配置することで、高衝撃吐水による水跳ねを低衝撃吐水によって遮ることが可能となり、高い洗浄力と水跳ねの防止とを両立させることができる。また、高衝撃吐水口を構成する第二吐水孔としての散水孔86の径を低衝撃吐水口を構成する第一吐水孔としての散水孔85の径よりも大きくすることで、第二吐水孔としての散水孔86から吐出される水の大粒なものとして着水時の衝撃力を簡易な手段で高めている。
【0157】
高衝撃吐水口及び低衝撃吐水口を設ける散水板の変形例について、図41〜図44を参照しながら説明する。図41に示す散水板80aは、散水孔85,86に加えて、散水孔86よりも更に大径の散水孔87を備えている。散水板80aにおいては、散水孔85は3行×4列に12個配置されており、散水孔86は3行×3列に9個配置されており、散水孔87は2行2列に4個配置されている。散水孔85が設けられている第一領域801と、散水孔86が設けられている第二領域802と、散水孔87が設けられている第三領域803とは、それぞれ同じ面積の領域である。
【0158】
第一吐出孔である散水孔85よりも第二吐出孔である散水孔86,87は大径であるので、第一吐出孔85の径を比較的小さくすることができ、第一吐水流の着水による衝撃力を確実に低減して水跳ねを抑制することができる。また、大径である散水孔86,87(第二吐出孔)それぞれの単位面積当たりの数を小径である散水孔85(第一吐出孔)の単位面積当たりの数よりも少なくすることで、散水孔86,87(第二吐水孔)が形成されている領域(第二領域802、第三領域803)の開孔面積率と、散水孔85(第一吐水孔)が形成されている領域(第一領域801)の開孔面積率とを均衡させることができ、第二吐出孔としての散水孔86,87が形成されている第二領域802及び第三領域803の単位面積当たりの総吐出流量と第一吐出孔としての散水孔85が形成されている第一領域801の単位面積当たりの総吐出流量とを違和感がない程度に均衡させることができる。そのため、着水した際の洗浄感を、違和感を覚えない程度に均等なものとすることができる。
【0159】
図42に示す散水板80bは、上方に散水孔85が5行×4列に配置されており、下方の中央には散水孔87が4行×2列に配置され、その左側方及び右側方のそれぞれに散水孔85が1列(4個)配置されている。従って、下方(奥側)においては、高衝撃吐水口としての散水孔87の少なくとも両側端に低衝撃吐水口としての散水孔85が配置されている。このように、大径の散水孔87(第二吐水孔)によって構成される高衝撃吐水口の両側端に小径の散水孔85(第一吐水孔)によって構成される低衝撃吐水口を配置しているので、大粒の吐水の周囲を小粒の吐水で囲むことができ、洗浄力の向上や水跳ねの防止と共に、繊細な吐水流で周囲を取り囲むことによる美観の向上を図ることができる。
【0160】
図43に示す散水板80cは、最前列(上方)に4個の散水孔85が配置されており、その後列に3個の散水孔87が配置されており、その後、散水孔85と散水孔87とが交互に配置されている。従って、高衝撃吐水口としての散水孔87と低衝撃吐水口としての散水孔85とが手前側から交互に配置されている。このように、洗浄力を確保するための吐水を行う高衝撃吐水口としての散水孔87と、洗浄面積の確保のために水膜を広げる吐水を行う低衝撃吐水口としての散水孔85とを手前側から交互に配置するので、洗浄力を確保する部分と洗浄面積を確保する部分とを交互に配置することで双方の役割の両立を図ることができ、前後方向に高衝撃吐水口と低衝撃吐水口が規則的に配列されるため前後方向における洗浄感のバラツキも低減することができる。
【0161】
上述の説明では、散水孔87を高衝撃吐水口を構成するものとして捉えると共に、散水孔85を低衝撃吐水口を構成するものとして捉えたけれども、散水孔87を水量の多いシャワー吐水を吐出するための大水量吐水口を構成するものとして捉えると共に、散水孔85を大水量吐水口からのシャワー吐水よりも水量の少ないシャワー吐水を吐出するための低水量吐水口を構成するものとして捉えることもできる。このように、大水量吐水口としての散水孔87を有することで、高い洗浄力を確保することができる。大水量吐水口としての散水孔87と小水量吐水口としての散水孔85とを手前側から交互に配置することで、洗浄力を確保する部分と洗浄面積を確保する部分とを交互に配置することで双方の役割の両立を図ることができ、前後方向における洗浄感のバラツキも低減することができる。また、大水量吐水の間の隙間を小水量吐水で埋めるようにすることで、高い洗浄力と綺麗な外観とを両立させることができる。
【0162】
図44に示す散水板80dは、内側に散水孔87が8行×3列配置されており、その外側を囲むように散水孔85が配置されている。散水孔87を水量の多いシャワー吐水を吐出するための大水量吐水口を構成するものとして捉えると共に、散水孔85を大水量吐水口からのシャワー吐水よりも水量の少ないシャワー吐水を吐出するための低水量吐水口を構成するものとして捉えれば、大水量吐水口としての散水孔87の少なくとも両側端に小水量吐水口としての散水孔85が配置されている。このように、大水量吐水口としての散水孔87の少なくとも両側端に小水量吐水口としての散水孔85を配置することで、洗浄力は高いものの断続的に水の軌跡が波打って見えるような大水量吐水を、連続した繊細な水の軌跡である小水量吐水で囲むことで、高い洗浄力と綺麗な外観とを両立させることができる。
【0163】
以上、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、システムキッチン10およびキッチン用水栓20などが備える各要素の形状、寸法、材質、配置などや、キッチン用水栓20および散水板26等の設置形態などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。またシステムキッチンとは、少なくとも吐水口を有するキッチン用水栓と、シンクを備えた調理作業を行うための設備機器を意味するものとする。
【0164】
また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0165】
10:システムキッチン
20:キッチン用水栓
22:整流吐水口
23:整流用配水管
24:シャワー吐水口
25:シャワー用配水管
26:散水板
26a:散水板
27:散水孔群
27a:散水孔
30:シンク
32:シンク上面
34:シンク底面
35:中心
36:シンク前面
37:シンク左側面
38:シンク後面
39:シンク右側面
40:水
40a:水
40b:水
42:洗浄領域
44:領域
46:領域
47:領域
48:領域
50:領域
52:領域
54:領域
62:カウンター上面
100:板
100a:中心
101:着水面
102:固定棒
104:疑似汚物
110:領域
112:領域
116:領域
C:矢印
D:矢印
E:矢印
θ:傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キッチンに設けられるシンクに対して吐水するためのキッチン用水栓であって、
シンクに対して水を吐出する吐水口と、その吐水口が設けられ、水平方向から鉛直方向に向って起立するように形成された起立部と、を備え、
前記起立部は、前記吐水口が前記シンクの奥行方向中央よりも奥側に位置し、前記吐水口から吐出された水が前記シンクの奥行方向中央よりも手前側に着水するように起立しており、
前記吐水口から吐出される水はシャワー状のシャワー吐水であって、その吐水方向回りの外形が前記シンクの奥行方向に沿って縦長となるように吐出され、前記シンクの底面において前記シンクの奥行方向に沿った縦長の領域に着水するものであって、
前記吐水口は、着水時の衝撃力が大きなシャワー吐水を吐出するための高衝撃吐水口と、当該高衝撃吐水口からのシャワー吐水よりも着水時の衝撃力が小さなシャワー吐水を吐出するための低衝撃吐水口とを有しており、前記高衝撃吐水口は前記低衝撃吐水口の後方に配置されていることを特徴とするキッチン水栓。
【請求項2】
前記高衝撃吐水口を構成する第二吐水孔は、前記低衝撃吐水口を構成する第一吐水孔よりも大径であることを特徴とする請求項1に記載のキッチン水栓。
【請求項3】
前記高衝撃吐水口の少なくとも両側端に前記低衝撃吐水口が配置されていることを特徴とする請求項2に記載のキッチン水栓。
【請求項4】
前記第二吐水孔の単位面積当たりの数は、前記第一吐水孔の単位面積当たりの数よりも少ないことを特徴とする請求項1に記載のキッチン水栓。
【請求項5】
前記高衝撃吐水口と前記低衝撃吐水口とが手前側から交互に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のキッチン水栓。

【図1】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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