説明

キノンメチド/アルキルヒドロキシルアミンの組み合わせを用いる、ビニル芳香族モノマーの重合阻害法

本発明は、物質の組成物、及び望まれない重合反応の防止における、その使用法を提供する。本組成物は、阻害剤及び遅延剤を含む。本阻害剤は高度に効果的である。本遅延剤は、極端かつ緊急的な状況において信頼できる。本阻害剤はアルキルヒドロキシアミンであることができる。本遅延剤は7−シアノ−キノンメチドであることができる。本阻害剤、及び遅延剤の組み合わせは予期したよりも更に効果的であることが見出された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質の組成物、及びビニル芳香族モノマーの重合の阻害におけるその使用法に関わる。
【関連出願の相互参照】
【0002】
なし。
【連邦政府より補助を受けた研究又は開発の言明】
【0003】
該当せず。
【背景技術】
【0004】
本発明は、物質の組成物、及びビニル芳香族モノマーの重合の阻害におけるその使用法に関わる。これらのモノマーの多くが、その製造、加工、取り扱い、保存、及び使用のさまざまな段階で、望まない重合を起こす。これらの望まれない重合反応は、価値ある試薬を消費し、望まれないポリマーの除去のために追加的な精製工程を要するため、製造効率における損失をもたらす。望まれない重合反応は、特にビニル芳香族モノマーにおいて問題であり、精製過程においても望まれないポリマーを形成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
望まれない重合反応を阻止するために、阻害剤及び遅延剤の2つのカテゴリーの化合物が開発されている。阻害剤は重合反応が生じることを阻止する。しかしながら、阻害剤は急速に消費される。機械的な理由又は他の理由により、より多くの阻害剤を加えることができない緊急の場合、すでに加えられている阻害剤は急速に消費され、前記の望まれない重合反応が急速に再発する。遅延剤は重合反応速度を減速させるが、阻害剤ほどは効果的ではない。しかしながら、遅延剤は阻害剤ほど急速には消費されないために、緊急の場合には、より信頼できる。まず、イオウ、及びジニトロフェノール類(DNP)(2,6−ジニトロフェノール、2,4−ジニトロクレゾール、及び2−sec−ブチル−4,6−ジニトロフェノール(DNBP)を含む)などの遅延剤のみが、望まれない重合反応を阻止するために用いられた。後に、2つのクラスの阻害剤である、ジアルキルヒドロキシルアミン(ヒドロキシプロピルヒドロキシアミン(HPHA))、及びニトロキシド(いわゆる安定自由ラジカル)が用いられた。プラントの故障などの事態での安全性の懸念から、阻害剤は単独では用いることができず、及びそれらはしばしば遅延剤と組み合わせて用いられる。
【0006】
しかしながら、DNP遅延剤には高度な毒性があり、それらを置換する重要な要求がある。DNPの代替物として期待される遅延剤は、キノンメチドである。キノンメチドは反応の定常状態においてポリマー生成速度を減少させ、しかも頻繁に再添加する必要がない。しかしながら、キノンメチドは、かなり高い用量で使用しなければならず、それ自体で使用することはあまり経済的ではない。キノンメチド化合物の例は、米国特許第4,003,800号に記載されている。しかしながら、これらの化合物は、工業的設定における持続した使用のためには、十分に安定ではない。キノンメチドの他の適用は、米国特許第5,583,247号及び7,045,647号に見出される。DNPを用いない、従来の阻害剤−遅延剤の組み合わせは、米国特許第5,446,220号及び6,024,894号である。これらの組み合わせは、DNP単独より効果的であることが見出されている。しかしながら、それらは、以前のDNP−ニトロキシド、又はDNP−ジアルキルヒドロキシルアミンの組み合わせよりは効果的ではない。したがって、スチレン、及びその他のビニル芳香族モノマーの未成熟重合を防止するための、無毒性の阻害剤−遅延剤の組み合わせに対する需要がいまだに存在する。
【0007】
本項目に記載される技術は、本願において引用される、いかなる特許、刊行物、又は他の情報も、特に具体的に指定されていない限り、本発明との関連において「先行技術」と称されることを承諾することを意図していない。加えて、本項目は、検索が行われたか、又は情報開示義務(37CFR§1.56)に規定される該当する情報がないことを意味すると理解されるべきではない。本願において引用される、ありとあらゆる特許、特許出願、及び他の参照文献は、参照によりその全体が本願に組み込まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の少なくとも1つの実施形態は、モノマーに少なくとも1つの阻害剤、及び少なくとも1つの遅延剤を含む組成物の有効量を加えることによる、ビニル芳香族モノマーの未成熟重合を阻害するための方法を指向する。前記遅延剤は、置換キノンメチドである。
【0009】
本発明の少なくとも1つの実施形態は、前記遅延剤が、2,6−ジ−t−ブチル−7−シアノキノンメチド、2,6−ジ−t−ブチル−7−カルボキシキノンメチド、2,6−ジ−t−ブチル−7−メトキシカルボニルキノンメチド、及びそれらの任意の組み合わせよりなる群から選ばれる方法を指向する。前記阻害剤はアルキルヒドロキシアミンであることができる。前記遅延剤は無毒性であることができる。前記阻害剤は、モノマーの重量に基づき、1〜200ppmの用量であることができる。前記遅延剤は、モノマーの重量に基づき、1〜1200ppmの用量であることができる。
【0010】
本発明の少なくとも1つの実施形態は、前記阻害剤、及び前記遅延剤が、それぞれ別々にモノマーに加えられる方法を指向する。前記モノマー中に存在する阻害剤の量は、前記阻害剤量を、時間経過に従い徐々に加えることにより、比較的一定量に維持される。前記阻害剤は間歇的、又は継続的に加えることができ、及びモノマー全体中に連続的に分散させることができる。前記阻害剤は、ヒドロキシプロピルヒドロキシルアミン、ジエチルヒドロキシルアミン、及びそれらの任意の組み合わせなどの、アルキルヒドロキシルアミンよりなる群から選ばれ得る。
【発明を実施するための形態】
【0011】
少なくとも1つの実施形態では、スチレンの未成熟重合は、阻害剤−遅延剤の組み合わせの添加により防止される。
【0012】
本願の目的のために、「誘導時間(induction time)」とは、理想的閉鎖系において、所定の反応の間に、物質の組成物が完全に特定のポリマーの生成を防止する時間の期間と定義される。
【0013】
本願の目的のために、「阻害剤」とは、誘導時間の間、特定のポリマーの生成を阻害する物質の組成物であって、誘導時間が経過すると、特定のポリマーの生成が、この物質の組成物の不在の場合と実質的に同じ反応速度で生じる、物質の組成物と定義される。
【0014】
本願の目的のために、「遅延剤」とは、誘導時間を持たない物質の組成物であるが、そのかわり一旦所定の反応に添加されると、この物質の組成物は、この物質の組成物が不在の場合と比較して、特定のポリマーが生成される反応速度を低減させる、物質の組成物と定義される。
【0015】
少なくとも1つの実施形態では、本発明の阻害剤は、ヒドロキシプロピルヒドロキシルアミン及びジエチルヒドロキシルアミンよりなる群から選ばれるアルキルヒドロキシルアミンであり、及び本発明の遅延剤は、7−置換−キノンメチドである。この7−置換−キノンメチドは、2,6−ジ−t−ブチル−7−シアノキノンメチド、2,6−ジ−t−ブチル−7− カルボキシキノンメチド、及び2,6−ジ−t−ブチル−7−メトキシカルボニルキノンメチドよりなる群から選ばれる。
【0016】
本願の目的のために、「2,6−ジ−t−ブチル−7−シアノキノンメチド」とは、以下の式に従う分子と定義される:
【0017】
【化1】

【0018】
本願の目的のために、「2,6−ジ−t−ブチル−7−カルボキシキノンメチド」とは、以下の式に従う分子と定義される:
【0019】
【化2】

【0020】
本願の目的のために、「2,6−ジ−t−ブチル−7−メトキシカルボニルキノンメチド」とは、以下の式に従う分子と定義される:
【0021】
【化3】

【0022】
最大120℃までの温度では、アルキルヒドロキシルアミン化合物の組み合わせの有効量は、モノマー重量に基づいて、典型的には約1〜200ppmである。7−シアノ−キノンメチドの組み合わせの有効量は、モノマー重量に基づいて、典型的には約1〜400ppmである。この範囲外の量も、使用状態に応じては適正であり得る。より高い温度では、有効用量はより多くなる。
【0023】
本発明の阻害剤−遅延剤の組み合わせは、広範囲の温度での使用において好適であるが、本発明により安定化されるモノマーに適用される温度は、典型的には60〜180℃である。この阻害剤−遅延剤の組み合わせは、任意の従来法により、保護されるべきモノマー中に導入することができる。それらは適切な溶媒中の高濃度溶液として、任意の適切な様式により、適用を望む点のちょうど上流に添加することができる。たとえば、個々の阻害剤及び遅延剤成分を、別々に、又は組み合わせて、タンクに含まれるモノマー中に注入することができる。効率的な阻害剤−遅延剤の組み合わせの分布が得られるという前提で、個々の阻害成分を別々に流入する供給口から注入するか、又は別々の入り口を介して注入することもできる。阻害剤は徐々に枯渇するので、時間経過に従い徐々に阻害剤混合物を添加し、適切な量をタンク中に維持することが一般的に有利である。阻害剤混合物の濃度が最小要求濃度を越えるように維持するために、阻害剤の添加は、概ね継続的か、又は間歇的かの、どちらかにより行うことができる。
【0024】
以上の記述は、説明の目的のためのみに提供され、本発明の範囲を制限する意図のない、以下の実施例を参照することにより、よりよく理解され得るであろう。
【実施例】
【0025】
実施例1
第一の実施例では、従来技術の遅延剤−阻害剤の組み合わせであるHPHA阻害剤及びDNBP遅延剤のサンプルと、7−置換−キノンメチド遅延剤及びHPHA阻害剤を含む、本発明の遅延剤−阻害剤の組み合わせとの比較を行った。前記遅延剤は、各サンプルに対して、モノマー重量に比較して、350ppmの用量で加え、及び前記阻害剤は、連続的に撹拌されたタンク反応器に、モノマー重量に比較して、150ppmの用量で加えた。2つのサンプルは120℃まで加熱され、及び1時間その温度に保たれた。従来技術のサンプルは、539ppmの望まれないポリマーをもたらした一方、本発明の遅延剤−阻害剤の組み合わせは、単に38.5ppmの望まれないポリマーをもたらしただけであった。このことは、本発明の遅延剤−阻害剤の組み合わせが、単に従来技術の組み合わせによる結果を毒性なしで実現するのみでなく、実際に予期しないほどの、非常に優れた成績をもたらすことを実証した。
【0026】
実施例2
第二の実施例では、従来技術の遅延剤−阻害剤の組み合わせである、HPHA阻害剤及びDNBP遅延剤を含むサンプルと、本発明の遅延剤−阻害剤の組み合わせである、7−置換−キノンメチド遅延剤及びHPHA阻害剤を含むサンプルの比較が行われた。前記遅延剤は、各サンプルに対して、モノマー重量に比較して、350ppmの用量で加え、及び前記阻害剤は、連続的に撹拌されたタンク反応器に、モノマー重量に比較して、22.5ppmの用量で加えた。2つのサンプルは120℃まで加熱され、及び1時間その温度に保たれた。従来技術のサンプルは、573ppmの望まれないポリマーをもたらした一方、本発明の遅延剤−阻害剤の組み合わせは、単に62ppmの望まれないポリマーをもたらしただけであった。このことは、本発明の遅延剤−阻害剤の組み合わせが、追加の阻害剤を加えることのできない、緊急的な状況において、更に望まれないポリマーの生成を徹底的に防止する能力があることを実証した。
【0027】
請求範囲において定義される、本発明の概念及び範囲を逸脱することなく、本明細書において記載された本発明の方法の、組成物、操作、及び配列の変更を行うことが可能である。本発明は、多くの異なる形態において実施可能であるが、その詳細は、本発明の具体的な好適な実施形態において、示されかつ記載されている。本開示は本発明の原理の例示であり、本発明を説明された特定の実施形態に限定することを意図するものではない。更に、本発明は、本明細書において記載されたさまざまな実施形態のいくつか、又は全ての可能な組み合わせを包含するものである。本明細書において言及された、全ての特許、特許出願、及び参考文献は、参照によりその全体が本願に組み込まれる。
【0028】
上述の開示は、説明的であり、包括的なものではない。本明細書は、多くの変形物、及び代替物を当業者に示唆するであろう。全てのこれらの代替物及び変形物は、その中において、「含む」(comprising)が、「含むが、それに限定されない」(including, but not limited to)を意味している、請求範囲の中に含まれることが意図される。当技術分野に精通している者は、本明細書に記載される特定の実施形態の他の等価物を認識し得るであろうが、そのような等価物も本発明の請求範囲に包含されることが意図される。このことは、本発明の、好適な及び代替的な実施形態の記述を完成させる。当業者は、本明細書に記載される特定の実施形態に対する他の等価物を認識し得るであろうが、それらは本明細書に添付された請求項に包含されることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノマーに、少なくとも1つの阻害剤、及び少なくとも1つの遅延剤組成物を含む組成物の有効量を加えることによる、前記モノマーの未成熟重合を阻害する方法であって、前記阻害剤がアルキルヒドロキシルアミンであり、並びに前記遅延剤が、2,6−ジ−t−ブチル−7−シアノキノンメチド、2,6−ジ−t−ブチル−7−カルボキシキノンメチド、2,6−ジ−t−ブチル−7−メトキシカルボニルキノンメチド、及びそれらの任意の組み合わせよりなる群れより選ばれる7−置換−キノンメチドである方法。
【請求項2】
前記モノマーがビニル芳香族モノマーである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ヒドロキシプロピルヒドロキシルアミン、ジエチルヒドロキシルアミン、及びそれらの任意の組み合わせよりなる群から選ばれる、追加的な阻害剤を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記遅延剤が無毒性である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記阻害剤が、前記モノマーの重量に基づき、1〜200ppmの用量である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記遅延剤が、前記モノマーの重量に基づき、1〜1200ppmの用量である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記阻害剤、及び前記遅延剤が、それぞれ別々に前記モノマーに添加される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記阻害剤量を、時間経過に従い徐々に加えることにより、前記モノマー中に存在する前記阻害剤の量を、比較的一定量に維持する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記モノマーが調製段階にある、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記阻害剤が、継続的に加えられる、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記阻害剤が、溶液全体中に継続的に分散される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記モノマーが60〜180℃の間の温度である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記モノマーが製造段階にある、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
三級ブチルカテコールを加える工程を更に含み、前記三級ブチルカテコールが保存及び輸送の間に阻害剤として機能する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記三級ブチルカテコールを除去する工程、及び前記モノマーからポリスチレンを製造する工程を更に含む、請求項14に記載の方法。

【公表番号】特表2012−516933(P2012−516933A)
【公表日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−549218(P2011−549218)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【国際出願番号】PCT/US2010/022977
【国際公開番号】WO2010/091040
【国際公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(507248837)ナルコ カンパニー (91)
【Fターム(参考)】