説明

キメラ抗CD44抗体およびそれらの使用

本発明は、ガン治療、より詳細には、急性骨髄性白血病治療における病理学上の幹細胞を根絶するための薬品の調製での、特定のアミノ酸配列、そのF(ab’)2、Fab、Fab’、scFv、FvまたはCDRフラグメントを含む2種のキメラ抗CD44抗体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガン、より詳細には、白血病に対するキメラ抗体治療に関する。
【背景技術】
【0002】
種々のタイプの白血病が識別され得る;リンパ芽球白血病(これは、特に、急性リンパ芽球白血病(acute lymphoblastic leukaemias:ALL)またはリンパ腫を含む)および骨髄芽球白血病(これは、特に、急性骨髄芽球白血病(acute myeloblastic leukaemias:AML)を含む)。AMLは、白血病の事例のほぼ半分を示し(すなわち、1年にフランスでは約1000の新しい事例、米国では6000の新しい事例がある)、発生率は、40年にわたり指数関数的に増えてきている。AMLは、未成熟段階での骨髄細胞の分化の阻害に対応し、骨髄の浸潤および芽細胞の血液循環によって伝達され、その細胞学的特徴は、M1からM7に分類される異なるAMLサブタイプを規定し(仏−米−英(FAB)の分類)、最も頻度が高いのは、タイプM1からM5である。
【0003】
急性骨髄性白血病(AML)では、白血病クローンは、大きな自己再生能を有する希少な白血病幹細胞(leukaemic stem cell:LSC)から生じる階層性として体系化され、LSCは、相異なるAMLサブタイプを規定する、骨髄分化の種々の段階で抑止された白血病芽球を生じさせる。
【0004】
1978年に、Leo Sachsは、非特許文献1において、マウスの白血病細胞は、生理学的な生育および分化の因子の存在下に分化するように誘導され得ることを公表した。この結果は、ヒト白血病細胞において確認され、首尾良く、インビボで、骨髄造血の2つの分化誘導物質であるレチノイン酸およびG−CSFにより置き換えられた。残念なことに、広範な研究にも拘わらず、完全な緩解は、2つのAMLサブタイプ(t(8;21)の転座を有するAML3およびAML2)においてのみ得られる。本発明者らは、以前に、CD44のライゲーションが、骨髄分化妨害の種々のレベル(AML1〜AML5)を逆転させることを示した(非特許文献2)。AML芽球の分化は、以下によって明示された:
− 酸化的破壊のような酸化還元機能を生む能力、
− 系統の抗原(lineage antigen)の発現増加、および
− 細胞学的改変(分化された骨髄細胞の全特徴)。
【0005】
また、特定のモノクローナル抗体(mAbs)とのCD44のライゲーションも、THP−1、NB4およびHL60細胞系の終端の分化を誘導し得、これは、それぞれ、AML5(単芽球のサブタイプ)、AML3(前骨髄サブタイプ)およびAML2(骨髄芽球サブタイプ)の興味深いモデルである。次いで、大規模なアポトーシス細胞死がNB4細胞において誘導され得るが、THP−1およびHL60細胞では非常に穏やかなアポトーシス細胞死が誘導されるだけである。
【0006】
白血病幹細胞(LSC)は、自己再生能、すなわち、母細胞に類似する娘細胞を生じさせる能力によって全ての他のAML細胞から区別される。大きな自己再生能は、LSCの固有の特性であり、白血病の進行に必須として示される。
【0007】
実験的には、ヒトLSCは、NOD/SCID免疫不全マウス(提供者のAML型を忠実に繰り返す疾患を発症する)への移植によって確認される。それらは、移植の際に白血病クローンを開始する能力を有するので、それらは、SL−IC(SCID-Leukaemia Initiating Cell)と呼ばれる。これらのSLCは、AML細胞母集団の0.1〜1%を示しながらCD34+cd38−細胞フラクション内に排他的に存在するので、それらは、他の白血病細胞から明確に区別される。そして、このことは、全てのAMLサブタイプにおいて真である。
【0008】
要約すると、新しい治療によりAMLを治癒させるために、LSCが、効果的にターゲット化され、根絶されなければならない。
【0009】
AMLの従来の治療法は化学療法であるが、それは、60〜85%の患者において最初の完全な緩解を誘導することに成功するものの、依然として、大部分のAML患者を治癒させることができず(5年生存率:37%)、AML患者の長期生存において進歩はほとんどなされていない(特に、55〜60歳を超える成人では、5年生存率は15%である)。この状況は、アポトーシス促進剤(三酸化ヒ素)、アンチセンス戦略(抗BCL2)および抗転写誘導物質(anti-inducer of transcription)(DNAメチラーゼ、ヒストン・アセチル化剤)を用いる新しいターゲット化された治療アプローチを開発する努力を促した。しかしながら、現在利用されている大部分の治療戦略は、循環している細胞(cycling cell)をターゲットとし、SL−ICは静止状態である。これは、新しいアプローチが見出されなければならないことを示している。
【0010】
本発明者らの過去の研究により、抗CD44抗体を必要とする、白血病細胞を特異的にターゲットにし、これらの細胞の分化を誘導する新しい治療処置が生まれた(Charrad et al.Nature Medicine,1999年)。「分化療法(differentiation therpy)」と呼ばれるこのような治療は、従来の治療(化学療法)と組み合わせてレチノイン酸を分化誘導分子として用い、AML3サブタイプを有する患者を治療するために用いられた。
【0011】
さらなる実験により、本発明者らは、特定の抗CD44抗体、H90(P245とも呼ばれる)を選択するに至った。これは、白血病細胞を分化することができるだけではなく、白血病幹細胞を根絶することもできる。事実、この抗CD44抗体は、ヒト白血病NOD/SCIDマウスを完全に治癒させた(Jin L. et al. 2003)。化学療法は痛みを伴う治療であるので、この抗体は、単剤療法において単独で用いられることによって化学療法と置き換わる可能性がある。
【0012】
しかしながら、この抗体はマウスの抗CD44抗体であり、人間におけるその使用は制限されるだろう。実際に、注入されるマウスの抗体は、患者による、HAMA(Human Anti-Mouse Antibodies:ヒトの抗マウス抗体)として知られているこの外来タンパク質に対する応答を結果として生じ得る。このHAMAの進展は、抗体毎に可変であり得るが、一旦、HAMAが現れると、マウス抗体の投与は全ての効果を喪失する。
【非特許文献1】レオ・サハ(Leo Sachs)著,「Nature」,1978年,8月10日,第274巻,第5671号,p.535−539
【非特許文献2】「Nat Med.」,1999年6月,第5巻,第6号,p.669−676
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者らは、改善された活性、特には改善された分化活性を有するキメラ抗CD44抗体を開発した。
【0014】
したがって、本発明は、ガン、より詳細には白血病に対する単剤療法に有用な2種のキメラ抗CD44抗体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明による2種のキメラ抗CD44抗体は、ヌクレオチド配列番号1、3および5または配列番号1、3および7によってそれぞれコードされるアミノ酸配列を含む(対応するアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号2、4および6および配列番号2、4および8である)。本発明はまた、それらのF(ab’)2、Fab、Fab’、scFv、FvまたはCDRs(Complementary Determining Regions)フラグメントおよびヌクレオチド配列番号1、配列番号3、配列番号5、アミノ酸配列番号2、配列番号4、配列番号6および前記ヌクレオチド配列の少なくとも1つを含む転移構造物(transfer construct)に及ぶ。
【0016】
第1のキメラ抗CD44抗体またはそのフラグメントは、ガンマ1によりキメラ化された抗CD44抗体に関連する。このガンマ1構造物は、初期活性に加えて、強いADCC(antibody dependent cell-mediated cytotoxicity:抗体依存性細胞障害活性)およびCDC(Complement-Dependent Cytotoxicity:補体依存性細胞障害活性)の成分を提供し得る。
【0017】
逆に、第2のキメラ抗CD44抗体またはそのフラグメントは、ADCCおよびCDCをほとんどまたは全く有しないガンマ4構造物に対応する。さらに、この後者の構造物は、弱い炭水化物成分を有するという利点も有する(所定の反応、特には、異種免疫化(heteroimmunization)反応または非特異的バインディングを回避することを可能にする)。さらに、免疫毒性に関するこの特定の中立性に起因して、かつ、それ自体の分化治療活性に加えて、ガンマ4構造物は、あらゆる補足的な治療薬または粒子(放射性同位体、細胞毒性化合物...)と連結され得るターゲット分子としての利点によって用いられ得た。
【0018】
さらに、ガンマ4キメラ抗体の半減期は、20〜25日程度であり、これは、完全に安全である。
【0019】
有利には、組換えバキュロウイルスを用いるこのような抗体の発現は、糖の組成に関して完全に制御される。
【0020】
好ましくは、キメラ抗体全体が用いられる。実際に、治療用の抗体は、通常、F(ab’)2、FabまたはFab’フラグメント化された抗体または小構造物(scFv等)の形態よりも抗体全体として用いられる場合により効果的である。
【0021】
別の好ましい実施形態では、キメラ抗体は、モノクローナル抗体である。
【0022】
さらに、本発明は、ガン治療において病理学上の幹細胞を根絶するための薬品の調製における本発明によるキメラ抗CD44抗体の使用に関する。
【0023】
さらに、本発明は、ガン治療において、エキスビボで、病理学上の幹細胞を特異的に根絶し、正常な幹細胞を保存するための薬品の調製における本発明によるキメラ抗CD44抗体の使用に関する。
【0024】
別の態様では、本発明は、患者の病理学上の幹細胞を根絶する方法であって、病理学上の幹細胞のみが根絶されるように抗原−抗体反応を可能にする条件下に本発明によるキメラ抗CD44抗体を該患者に投与する工程を包含する、方法に関する。
【0025】
さらに、本発明は、エキスビボで、白血病またはガンの患者の組織サンプルからの病理学上の幹細胞を特異的に根絶し、正常な幹細胞を保存する方法であって、抗原−抗体反応を可能にする条件下に、該組織サンプルを、本発明による少なくとも1種のキメラ抗CD44抗体と接触させる工程を包含する、方法に関する。このような方法は、骨髄細胞の母集団を浄化するために適応させられる。
【0026】
前記薬品/方法は、病理学上の幹細胞、特に白血病細胞およびガン細胞から出される病理学上の細胞の発生を回避する。
【0027】
上記のように、分化療法は、白血病幹細胞を根絶するために化学療法の使用を必要とする。本発明によるキメラ抗CD44抗体の使用は、あらゆる化学療法を必要とすることなく改善された効率で白血病細胞の分化を誘導するだけではなく白血病幹細胞の根絶をも誘導する。
【0028】
本発明による薬品は、治療あたり約10mg〜1000mg、好ましくは100〜400mg程度の用量で投与されてよい。治療の回数は、薬品の効果を高めるために増加または減少し、かつ/または(長期にわたり)繰り返され得る。
【0029】
キメラ・ガンマ4抗体は毒性ではないので、その用量は、容易に増加させられ、患者に適合させられてよい。
【0030】
薬品の製造は、あらゆる適切な医薬製剤、特に、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、粉末体、懸濁液、経口溶液、注射用溶液の形態であってよい。投与は、好ましくは、低速注入(slow infusion)によって行われてよい。
【0031】
本発明に従って用いられる薬品は、所望の製剤に適合するあらゆる適切な化合物または賦形剤、特には、薬学的に不活性なあらゆる賦形剤をさらに含んでもよい。
【0032】
有利には、適切な製剤は、注射(好ましくは静脈内注射)用の生理食塩水溶液である。
【0033】
本発明による薬品によって治療され得る病理学上の細胞は、白血病細胞、病理学上の幹細胞、より詳細には、白血病幹細胞および乳ガンまたは大腸ガンの幹細胞である。
【0034】
実際、他のガンでは、AMLのように、腫瘍クローンも、希少なガン細胞の大規模な増殖および自己再生によって維持されるという証拠が増えている。大抵のガン細胞中にCD44も存在するので、CD44のライゲーションは、このような腫瘍幹細胞を根絶するのにも効果的であり得、これにより、それは、AML以外のいくつかのガンにも治療効果を有し得る。
【0035】
本発明は、純粋に例示の目的のために与えられた、以下の実施例によって、図面を参照しながら例示される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明は、過度の実験を行うことなく、本出願によって与えられた開示(開示、実施例、請求の範囲および図面を含む)および従来技術による手段から当業者によって実現され得るあらゆる代替の実施形態も含む。
【0037】
(実施例1:抗CD44モノクローナル抗体は、白血病(腫瘍)幹細胞を根絶する)
NOD/SCIDマウス白血病モデルおよび移植されたPML−RARマウスが用いられる。NOD/SCIDマウス白血病モデルは、独特のモデルであり、ヒトAMLの全サブタイプ(AML3を除く)の病状を忠実に繰り返し、最も重要には、大規模な増殖および自己再生能により与えられ、白血病クローンの維持の原因となるヒト白血病幹細胞の非常に小さい部分母集団の運命をモニタリングすることを可能にする。
【0038】
(材料および方法)
(AML細胞)
新しいまたは凍結されたAML末梢血細胞が、フィコール密度勾配遠心分離によって濃厚にされ、5%のウシ胎仔血清を含有するIscove’s Modified Dulbecco’s medium(IMDM)で洗浄された。
【0039】
(AML細胞のNOD/SCIDマウスへの移植)
8〜12週齢のNOD/SCIDマウスが、AML細胞を尾部静脈注射する直前に、137Cs源からの375または400cGyにより亜致死的に放射線照射される。マウスは、ヒト幹細胞成長因子(stem cell factor:SCF)およびhuIL3/hu GM−CSF(PIXY321)の融合タンパク質を一日おきに腹腔内注射としてマウス当たり10μgおよび7μgの濃度でそれぞれ受け入れる。
【0040】
(白血病幹細胞(LSC)のアッセイ)
AMLのNOD/SCIDマウスへの移植は、CD34++ CD38陰性の免疫表現型を表示する、白血病幹細胞(LSC)の希少な母集団(白血病クローン内に存在し、これを支持する)の増殖および制限された分化によるものであることが証明された(Bonnet and Dick, Nature Medicine 3:730-737, 1997)。したがって、AMLの移植の成功は、LSCの存在を証明する。示された時点(4〜8週)において、移植されたNOD/SCIDマウスの骨髄における白血病浸潤の百分率は、種々の時間点での膝関節からの吸引(吸引液あたり平均10)によって評価される。白血病の母集団は、mAbsのパネルを用いて造血特異抗原(CD45)および分化抗原(CD33、CD14、CD15、CD11b)にラベリングされる。CD19の欠如は、分化された細胞が、移植されたAMLサンプルに含まれる正常な造血幹細胞に由来しない指標と考えられる。
【0041】
(結果)
【0042】
【表1】

【0043】
これまでに行われた4つの別個の実験は、非常に再現性のある方法で、P245が、一次被移植者において大部分のAML細胞を根絶するために非常に効率的であることを明瞭に示す(表1)。これは、表2に示されるように、部分的には、終端の分化の誘導に起因し得る。しかしながら、さらにおよびおそらく主として、それは、二次的な移植アッセイに示されるように(表1)、大部分の白血病幹細胞の根絶に起因する。これらの結果は、インビボでAML幹細胞を根絶することが可能であることを示しており、毒性も他の所望でない副作用も観察されないことが指摘されるべきである。長期生存についてのP245の効果がさらに調査された。さらに、正常な幹細胞についてのP245の効果も研究された。最も興味深いことに、予備実験では、正常なCD34+臍帯血細胞の移植についてのP245の阻害効果は観察されなかった。これは、P245がインビボで選択的にAML幹細胞を根絶したことを示す。
【0044】
【表2】

【0045】
移植されたPML−RARマウスにより、本発明者らは、AML3サブタイプ(NOD/SCIDマウスに移植され得ない唯一のもの)のモデル上での、CD44をターゲットとする分子のインビボでの効果を調査することができた。マウスCD44へのmAbsは処理できなかったので、HAの治療効果が調査され、レチノイン酸の治療効果(これは、AML芽球の完全な終端分化および移植されたPML−RARマウスの完全な緩解を誘導する)と比較された。得られた結果(表3に要約される)は、投与の4日後に、HAは、疾患に特有の脾腫を排除するためにレチノイン酸と同程度の効果を有し、それはまた、骨髄における白血病芽球の浸潤を減少させることに成功したことを明瞭に示す。この効果は、HA用量依存性である。分化された顆粒球前駆体の出現は、インビトロで行うように、かつレチノイン酸と同様に、HAがAML芽球の終端分化を誘導することを強く示唆する。集約すると、これらの結果は、第1の期間において、CD44のライゲーションは、インビボでAML細胞を根絶するために同様の効率的な手段であり、AMLにおいてCD44をターゲットとする治療法を開発するための新しい基礎を提供することを示す。
【0046】
【表3】

【0047】
(実施例2:バキュロウイルス−Sf9細胞系でのマウス抗体H90のキメラ化および発現−IgG1の発現)
(出発材料)
H90ハイブリドーマの5×10個の細胞の2種のペレット(ドライアイス上)が用いられた。H90モノクローナル抗体は、IgG1カッパである。
【0048】
WO95/20672およびLiebyらによる論文(Blood, 15 june 2001, vol. 97, n°12, p.3820-3828)に記載された《Baculomab》技術が用いられた。
【0049】
(1.重および軽可変領域の単離)
(全RNAの単離)
Qiagenの抽出キット(Ref.74 104)が、供給者によって記載されたプロトコールに従って用いられた。
【0050】
(相補DNAの合成)
上記のように抽出された全RNAについて逆転写が行われた。用いられた転写酵素は、QiagenからのOmniscriptである(Ref.205 111)。
【0051】
(VHおよびVLの増幅)
用いられた技術は、「Chardes, T., Villard, S., Ferrieres, G., Piechaczyk, M., Cerutti, M., Devauchelle, G., B. Pau. 1999 Efficient and direct sequencing of mouse variable regions from any immunoglobulin gene family. FEBS Lett. 452, 386-394」に記載された技術に由来する。
【0052】
軽または重可変領域を確認およびクローニングするために、18のPCRが並行して行われる。次いで、約400bpのフラグメントがプラスミドpGEMTeasyにクローニングされ、その後に配列が決定される。この配列決定は、MWGBiotech社によって行われる。
【0053】
(a.VL領域の増幅)
(結果)
1回目の試行:2種のクローンが研究された:
− H90 32LS C1 15
− H90 32LS C1 18
配列の分析は、クローン15および18が免疫グロブリン可変領域をエンコードしないことを示す。したがって、相補DNAのさらなる調製が行われ(改変プロトコール)、PCR産物がクローニングされ、分析された。
【0054】
2回目の試行:4種のクローンが得られた:
− H90 3LS C1 5
− H90 3LS C1 7
− H90 22LS C1 12
− H90 22LS C1 16
クローン12および16は、カッパ偽遺伝子(マウス(Mus musculus)免疫グロブリンを異常位置に再配置したカッパ鎖mRNA)に対応する。
【0055】
誘導されたクローンH80 3LS C1 7は、機能性のVL−カッパ可変領域(配列番号1および2)に対応する。したがって、このクローンが、バキュロウイルス転移ベクターpBHUCk47に挿入されることになる。
【0056】
(b.VH領域の増幅)
重可変領域を単離するために同一の技術が用いられる。18回のPCRが行われた。
【0057】
(結果)
1回目の試行:1種のクローンが分析された:
− H90 19HS C1 9。
【0058】
このクローンの配列の分析は、それがマウス偽遺伝子(フレームシフトを読む)に対応することを示す。
【0059】
2回目の試行:新しい相補DNAが合成され、PCR分析のために用いられた。
【0060】
2種のクローンは、分析された:
− H90 17HS C1 23
− H90 17HS C1 28。
【0061】
これら2種のクローンは、確かに、マウス・ガンマ1の可変領域に対応する;不運なことに、N末端配列の約1/3は見あたらなかった。しかしながら、IMGTについての配列の分析によって、複製起点の最も見込みのある胚系(germinal line)を確認することができ、したがって、他のPCRプライマーを設計することができた。
【0062】
最新のアプローチに基づいて、本発明者らは、新しいクローン:H90 3HS クローン15を単離した。
【0063】
配列の分析は、正しいマウスVH領域を示す(配列番号3および4)。これは、バキュロウイルスの転移ベクターに導入されたクローンである。
【0064】
(2.重および軽可変領域の転移ベクターへの挿入)
PCRプライマーは、これらのVHおよびVLを増幅し、上流に位置するシグナル配列および下流に位置するカッパまたはガンマ1構造物領域を有する相(phase)でのそれらの挿入を可能にするように設計された。
【0065】
得られた構造物は、再度、配列決定により検査された。
【0066】
(3.IgG1の形態のH90抗体を発現する組み換え型ウイルスの構成)
H90抗体の重領域は、プラスミド構造物H90 3HS クローン15から単離され、次いで、ヒトγ1重鎖の発現を可能にする転移ベクターp119Cg1に挿入された。ガンマ1構造物領域の配列が与えられた(配列番号5および6)。
【0067】
(4.組み換えウイルスの取得)
Sf9細胞が、(i)精製されたウイルスDNAおよび(ii)上記のVHおよびVL領域(配列番号1および3)を含有する2種の転移ベクターのDNAにより同時遺伝子導入(cotransfect)された。
【0068】
5日にわたる28℃でのインキュベーション後に生成されたウイルスは、溶解プラーク(lysis plaque)技術によってクローニングされた。9種の単離されたクローンが増幅され、抗体発現は、ELISAによって検証された。全てのクローンが陽性であることが分かった。相補分析のためにクローンB2954、B2955、B2957およびB2958が選ばれた。
【0069】
(5.製造された抗体の特異性の検証)
抗体を発現する4種のウイルスクローンが再増幅され、組み換え型抗体のヒトCD44に対する特異性を検証するために約5mLの培養液上清が分析された。
【0070】
(6.組み換え型ウイルスのゲノムの検証)
4種のウイルスクローンのDNAが抽出され、HindIII制限エンドヌクレアーゼにより消化され、次いで、サザンブロットによって分析された。重および軽鎖に特異的な2種のプローブ:Cγ1プローブおよびカッパプローブが連続して用いられた(図1)。
【0071】
(実施例3:バキュロウイルス−Sf9細胞系でのマウス抗体H90のキメラ化および発現−IgG4の発現)
マウス抗CD44抗体のVHおよびVL可変領域は、実施例2に記載されたようにしてH90ハイブリドーマから単離された。
【0072】
(1.IgG4の形態でH90抗体を発現する組み換え型ウイルスの構成)
H90抗体の重領域は、プラスミド構造物H90 3HS クローン15から単離され、次いで、ヒトγ4重鎖の発現を可能にする転移ベクターp119Cg4に挿入された。ガンマ4構造物領域の配列が与えられる(配列番号7および8)。
【0073】
(2.組み換えウイルスの取得)
Sf9細胞は、上記のVH(p119Cg4)およびVL(pBHUCk47)可変領域をそれぞれ含有する2種の転移ベクター(組み換えバキュロウイルス)およびウイルスDNAにより同時遺伝子導入された。5日にわたる28℃でのインキュベーションの後、生じたウイルは、溶解プラーク技術によってクローニングされた。10種の単離されたウイルスクローンが増幅された。抗体産生は、ELISAによって検証された(捕捉抗体:抗Fdγ1、バインディングサイト、ペルオキシダーゼ・ラベリングされたヒト抗カッパ抗体(Sigma)による視覚化)
(ELISAの結果)
単離されたウイルスクローンの全てが抗体を生じさせた。
【0074】
【表4A】

【0075】
(3.組み換え型ウイルスのゲノムの検証)
抗体を発現する4種のウイルスクローンのゲノムが検証された(クローン B3667、B3668、B3669およびB3670)。増幅の後、培養液上清中に含まれるウイルスは、30分にわたり35000rpmで沈降させられた(TLA100、Beckmann)。続いて、これらのウイルスのDNAが抽出され、精製され、次いで、HindIII制限エンドヌクレアーゼにより消化された。消化産物は、アガロースゲル上で分離され、次いで、ヒト重および軽鎖に特異的な2種のプローブとハイブリッドを形成させられた(図2)。
【0076】
これらクローンのうちの2つ(B3668およびB3669)は、期待されたゲノム組成に対応する制限およびハイブリッド形成プロファイルを示す。組み換えH90γ4抗体の製造および精製のために単一の組み換え(B3669)が増幅され、次いで、滴定された。
【0077】
抗体のCD44に関する特異性が検証された。
【0078】
(4.抗体産生および精製)
Sf9細胞が、血清不含有培地(SB5/6培地、Dr.Gerard Devauchelle(Saint Christol Les Ales、フランス)によって供給された)での培養に適合させられた。
【0079】
産生のために、Sf9細胞は、約500000細胞/mlの密度で、400mLの最終容積の回転瓶内に播種された。細胞は、直ちに、2PFU/細胞の感染多重度でB3669ウイルスにより感染させられ、次いで、28℃でインキュベートされた。
【0080】
感染の4日後、培養液は、3000rpmで遠心分離にかけられた。上清が除かれ、使用まで−80℃で収容された。
【0081】
培養液上清中に含まれる抗体は、タンパク質Aの精製の従来の技術に従って精製される。簡単には、培地のpHは、8.5に調整され、次いで、この培地は、0.5μmのミリ孔のカートリッジによりろ過され、その後に、タンパク質Aのカラム(High Trap ProtA FF,Amersham)上に装填された。カラムが100mMのTrisバッファー(pH8.5)により洗浄された後、抗体は、100mMのクエン酸ナトリウム(pH3.0)により溶出された。集められたフラクションは、2MのTris(pH8.8)により中和される(溶出液3容積当たりTris1容積)。
【0082】
抗体は、Macrosep 30K(Pall)上に濃縮された。調製物は、ELISAによってアッセイされ、10%ポリアクリルアミドゲル上の移動および銀染色によって分析された。
【0083】
(実施例4:キメラ抗CD44抗体の分化活性)
(ヒト・ガンマ1/ガンマ4によりキメラ化されたH90)
ヒト・ガンマ1によりキメラ化されたH90の分化活性の研究が、骨髄性白血病細胞系THP−1およびNB4について行われた。この研究は、Florence Smadja-Joffeによる刊行物(Blood January 2002, vol 99, number 1 - Blood August 2000, vol 96, number 3)において既に記載されている分化基準を用いて行われた。この従前の研究は、最も信頼性の高い分化パラメータは、骨髄分化特異抗原、例えば、CD11b(顆粒球およびマクロファージの両方の分化の間に増加する)、CD14(単球分化特異的)および/またはCD15(顆粒分化の途中において大部分増加するが、より低い頻度ではあるが、単球分化の途中でも増加する)のレベルの増加であることを示した。
【0084】
(結果)
THP−1およびNB4細胞は、確立された細胞系であり、AML5およびAML3サブタイプのそれぞれのモデルである(Charrad et al Blood 2002)。これらの細胞系は、3日にわたり種々の形態の分化誘導抗CD44抗体H90により処理された:マウスのもの、またはヒト・ガンマ1鎖によりキメラ化されたもの、または、ヒト・ガンマ4鎖によりキメラ化されたもの(ch−humanガンマ1鎖およびch−humanガンマ1鎖H90としてそれぞれ設計された)。これら形態の各1つが、50μg/mLの最終濃度で用いられた。分化抗原CD11b、CD15およびCD14のレベルは、FITC(fluorocein isothiocyanate:フルオレセインイソチオシアネート)接合型特異的モノクローナル抗体およびフローサイトメトリー分析を用いることによって評価された。それは、陽性細胞の百分率および平均蛍光強度(全て、FITC接合型イソタイプ適合型IgGによりラベリングされた細胞の値に対する相対値)によって表される。H90の相異なる形態は、それらが、少なくとも1または2の分化抗原、陽性細胞の百分率または平均蛍光強度のいずれかの増加された表現を引き起こすならば、分化を誘導することができると考えられた。
【0085】
表4に示される結果は、ヒト・ガンマ1およびヒト・ガンマ1をキメラ化したH90分子の両方がマウスのものより、THP−1およびNB4細胞の両方の分化を誘導することに対して効果的であることを示す。実際に、THP−1細胞では、それらは、のCD15陽性細胞の百分率、CD15蛍光強度により多い増加およびCD14陽性細胞の百分率のより多い増加を引き起こす。同様に、NB4細胞では、それらは、マウスH90体よりCD15の発現を増加させ、それらは、CD11bのレベルを増加させるのにマウスH90と同程度に効果的であった;ヒト・ガンマ4によりキメラ化されたH90は、この点で、ヒト・ガンマ1によりキメラ化されたH90より効果的であった。
【0086】
【表4B】

【0087】
これに加えられるのは、ガンマ1構造物のFC部によって誘導されるCDC細胞毒性活性および特にはADCC細胞毒性活性である。
【0088】
キメラP245(H90)の細胞毒性活性が「インビトロ」で、以前に記載された2種のAML系について研究され、P245、A3D8およびHermes3を含む他の抗CD44抗体と比較された。
【0089】
THP1およびNB4について、キメラ化されたガンマ1抗体の強い細胞毒性能が観察された。第4日に、細胞毒性は80%を超える。この活性は、キメラ化された抗体によってのみ現れる;マウス抗体はいずれもこの特性を持たない。これは、AML5に苦しむ患者からの細胞によっても観察される。
【0090】
単芽球タイプのAML5細胞は、ターゲット細胞およびエフェクター細胞の両方である。このAML5細胞がターゲット細胞であるのは、それらがCD44レセプターを発現するからである。AML5細胞がエフェクター細胞であるのは、単球として、それらが、ADCC現象を生じさせるガンマ・グロブリン、特にはガンマ1ためのFcレセプターを有するからである。ADCC現象は、前骨髄球AML3細胞の場合にはなく、AML3細胞は、ターゲット細胞であるのみである。
【0091】
このADCC活性はまた、「インビトロ」で、NK細胞を用いて細胞毒性について研究された(従来のアッセイ)。
【0092】
ガンマ4構造物については、分化活性のみが観察され、細胞毒性はなかった。
【0093】
(実施例5:生薬仲介物(vector)の製剤−乳剤)
LIPOID E-80、Vit Eおよびステアリルアミンは、直接的に油相に溶解する。これに対して、ポロキサマー(poloxamer)およびグリセロールは、直接的に水相に溶解する。油相および水相は、マグネチックスターラを用いて別々に調製され、ろ過され、70℃の温度に加熱される。2相は、マグネチックスターラを用いて混合される。温度は、85℃に上げられる。混合物は、PolytronまたはUltraturraxにより3〜5分にわたり均質にされる。温度は、急速に20℃に下げられる。乳液は、5分にわたり高圧ホモジナイザー(microfluidizer)に通される。温度は、急速に20℃にされる。pHは、0.1Mの塩酸により所望の値に調整される。乳液は、0.45μmのフィルタによりろ過され、窒素雰囲気下に、シリコン化ガラスのボトル収容され、オートクレーブ内で滅菌される。
【0094】
40分子までのIgGが一つの単独油カチオン液滴に接合され得ることが示された。
【0095】
結論として、この生薬仲介物は、AML細胞上の抗体部位の数を増加させ、抗CD44抗体の半減期を改善することが示された。
【0096】
(実施例6:本発明による治療)
薬品の製剤(20mLのフラスコ、凍結乾燥):
− 有効成分:100mgの凍結乾燥されたP245
− 賦形剤:サッカロース、ポリソルベート、リン酸モノナトリウム(monosodic phosphate)、リン酸ジナトリウム(disodic phosphate)。
【0097】
この製剤は、+2〜+8℃に、パッケージングした状態で18ヶ月にわたり維持され得る。凍結はさせない。
【0098】
一旦調製されると、薬品は、3時間だけ保存され得る。
【0099】
(治療)
5mg/kgが低速注入により(例えば、2時間)注入される。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】図1は、4種のウイルスクローン:B2954、B2955、B2957、B2958のDNAのサザンブロットに関連する。第1、第2および第3のスライドは、それぞれ、BET着色、Cγ1プローブおよびカッパプローブとのハイブリッド形成に対応する。
【図2】図2は、別の4種のウイルスクローン:B3667、B3668、B3669、B3670のDNAのサザンブロットに関連する。第1、第2および第3のスライドは、それぞれ、BET着色、カッパプローブおよびガンマプローブとのハイブリッド形成に対応する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1および配列番号3からなる群から選択されるヌクレオチド配列。
【請求項2】
配列番号2および4からなる群から選択されるアミノ酸配列。
【請求項3】
請求項1による少なくとも1種のヌクレオチド配列を含む転移構造物。
【請求項4】
配列番号1、3および5によってコードされるアミノ酸配列およびそのF(ab’)2、Fab、Fab’、scFv、FvまたはCDRフラグメントを含むキメラ抗CD44抗体。
【請求項5】
配列番号2、4および6およびそのF(ab’)2、Fab、Fab’、scFv、FvまたはCDRフラグメントを含むキメラ抗CD44抗体。
【請求項6】
配列番号1、3および7によってコードされるアミノ酸配列およびそのF(ab’)2、Fab、Fab’、scFv、FvまたはCDRフラグメントを含むキメラ抗CD44抗体。
【請求項7】
配列番号2、4および8およびそのF(ab’)2、Fab、Fab’、scFv、FvまたはCDRフラグメントを含むキメラ抗CD44抗体。
【請求項8】
抗CD44抗体は、モノクローナル抗体である、請求項3〜7のいずれか1つによるキメラ抗体。
【請求項9】
キメラ抗CD44抗体は、生薬仲介物と結合される、請求項3〜8のいずれか1つによるキメラ抗体。
【請求項10】
ガン治療において病理学上の幹細胞を根絶するための薬品の調製における、請求項3〜9のいずれか1つによるキメラ抗CD44抗体の使用。
【請求項11】
ガン治療においてエクスビボで病理学上の幹細胞を特定的に根絶し、正常な幹細胞を保存するための薬品の調製における、請求項10による使用。
【請求項12】
前記幹細胞は、白血病幹細胞である、請求項10または11による使用。
【請求項13】
白血病細胞を分化させ、白血病幹細胞を根絶するための薬品の調製における、請求項3〜9のいずれか1つによるキメラ抗CD44抗体の使用。
【請求項14】
前記幹細胞は、乳ガンまたは大腸ガンの幹細胞である、請求項10または11による使用。
【請求項15】
前記キメラ抗CD44抗体は、治療当たり10〜1000mgの用量での低速注入によって投与される、請求項10〜14のいずれか1つによる使用。


【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−513610(P2007−513610A)
【公表日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−540415(P2006−540415)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【国際出願番号】PCT/EP2004/014157
【国際公開番号】WO2005/049082
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(506171071)アンスティテュ ナシオナル ドゥ ラ サーント エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル (3)
【出願人】(503020529)ユニヴァーシティー ヘルス ネットワーク (3)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY HEALTH NETWORK
【Fターム(参考)】