説明

キャスター用車輪

【課題】サスペンション機能を有したキャスター用車輪において、本来のサスペンション性の向上のほか、さらにサスペンション部の経年劣化を減少させる。
【解決手段】中心部に車軸部を有したサスペンション部および該サスペンション部の外周側に取り付けたベアリングとを介して環状の接地部を有するキャスター用車輪において、サスペンション部内にクリープ現象を防止するためのバネを取り付けた。これによりキャスターを取り付けた台車等の走行に際し、上下方向の衝撃を吸収するほか、特に水平(前後)方向の衝撃をも十分に吸収することができることに加え、クリープ現象を防止するためのバネにより台車等移動用具類の非積載時においても、移動用具自体の自重による荷重(質量)を、取り付けたキャスターの全個数により常時分担して担うことができ、衝撃吸収機能の経時的な劣化を大幅に改善して耐久性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばストレッチャーなど病院内外での使用に供される各種の移動用具に使用されるサスペンション機能を有したキャスター用車輪に関し、走行に際して垂直(上下)方向のみならず水平(前後)方向からの路面ならびに段差乗り越え時の衝撃吸収性を著しく向上させて静粛性と路面衝撃吸収性を向上させるとともに、サスペンション部の経年劣化を減少させて耐久性を大きく向上させることを目的とする。
【背景技術】
【0002】
路面からの衝撃を吸収する構造を備えたキャスターとしては、これまでにいくつか提案がなされているが、一例として例えば、対向する一対のホイール板により車輪のリム部分を挟圧することによりタイヤ内部のスポンジ材が圧迫されるようにし、このスポンジ材の圧迫の度合いによりタイヤの硬さを任意に調整して走行路面の状況に合わせてクッション性を可変可能にしたものが知られている(特開2004−97420号公報参照)。
【特許文献1】特開2004−97420号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、路面からの衝撃を吸収することができる構造のキャスターにあっては、移動用具の非積載時においても、少なくとも移動用具自体の自重による荷重を担っているために、キャスターの衝撃吸収機能が次第に劣化する。またそればかりでなく該キャスターを取り付けた台車などの不使用時においても、キャスター周面における床面に接した同一箇所にのみ荷重が集中する結果、いわゆる「クリープ現象」が発生し、経時的に衝撃吸収機能が劣化しやすい難点がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで本発明は上記の課題を解決し、台車走行時における垂直(上下)方向の路面衝撃のみならず走行する水平(前後)方向の路面衝撃をも十分に吸収することができ、しかも台車の使用時・不使用時を問わず台車の自重による衝撃吸収機能の経時的劣化を防止して耐久性を大きく向上させるようにしたものであって、具体的には請求項1に記載の発明は、中心部に車軸部を有したサスペンション部および該サスペンション部の外周側に取り付けたベアリングとを介して環状の接地部を有するキャスター用車輪において、サスペンション部内にクリープ現象を防止するためのバネを取り付けたことを特徴とするキャスター用車輪に関する。
【0005】
さらに請求項2に記載の発明は、サスペンション部は車軸部に固定され、相互に一定の間隔を介して対設された一対のディスクと、該ディスク間における少なくとも上部および下部にそれぞれ挟持された弾性体と、上下部の各弾性体に内周側中心から軸芯方向に伸びる支柱の一端を固定させた車輪用リムと、左右ディスク間に一体に架け渡された台座部と上部または下部に位置する支柱間に介在させたところの、圧縮方向に対して反発力を有する、クリープ現象を防止するためのバネとからなるものであるところの請求項1に記載のキャスター用車輪に関する。
【0006】
さらに請求項3の発明は、サスペンション部の周りにベアリングを介して取り付けられる環状の接地部が、内部中空のタイヤであるところの請求項1又は請求項2に記載のキャスター用車輪に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明は上記した通り、中心部に車軸部を有し、しかも該車軸部の周りに車軸部の軸方向に平行な台座を介して保持され、相互に一定の間隔を介して対設された一対のドーナツ状のディスクと、該ディスク間における外周側端部に弾性体を挟持させたサスペンション部により、キャスターを取り付けた台車等の走行に際し、垂直(上下)方向の衝撃を吸収するほか、特に水平(前後)方向の衝撃をも十分に吸収することができることに加え、さらに上記したサスペンション部内にクリープ現象を防止するためのバネを介在させたために、より一層衝撃吸収特性が向上するのみならず、台車等移動用具類の非積載時においても、移動用具自体の自重による荷重(質量)を、取り付けたキャスターの全個数により常時分担して担うことができ、衝撃吸収機能の経時的な劣化を大幅に改善して耐久性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下において本発明の具体的な内容を図の実施例に基づいて説明する。なお各図において同一又は相当部分には同一符号を付して説明する。図1および図2には本発明の第1実施例に係るキャスター用車輪の構造があらわされており、図1には本発明に係るキャスター用の車輪1の半裁側面図(A)およびその中央縦断面図(B)が示されている。同図において車輪1は中心部に車軸部3を有したサスペンション部2と、ベアリング12、および環状のリム13に支承された接地部14とから構成される。
【0009】
サスペンション部2は、相互に一定の間隔を介して対設されたところの、中心に側方に向けた凹部を形成してこれを車軸部3とした左右一対のディスク4・4と、該ディスク4・4間における少なくとも上部および下部にアウターパッド5a・5bを介して挟持され、しかもその中間にインナーパッド6a・6bを保持させた弾性体5・5と、上下部の各弾性体5・5間に保持させたインナーパッド6a・6bに、内周側中心から軸芯方向に伸びる支柱7aの一端を固定させた車輪用リム7と、左右のディスク4・4間に一体に架け渡された台座部8と、該台座部8と下部に位置する支柱7a間に上下のバネフランジ9・10を介して取り付け介在させたところの圧縮方向に対して反発するクリープ現象を防止するためのバネ11とから構成される。
【0010】
なお、ここで使用される弾性体5はゴムあるいはウレタンなどの弾性のある材質のものが用いられ、アウターパッド5a・5bおよびインナーパッド6a・6bに対して加硫接着又は接着剤を用いて接着されている。なおこの弾性体5は支柱7aにかかる荷重を十分に支えることが可能なある程度の厚みと弾性力を有するものが用いられる。またクリープ現象を防止するためのバネ11については鋼などから成るのコイル状の圧縮バネが用いられる。
【0011】
なおここでクリープ現象を防止するためのバネ、すなわち「クリープ防止バネ」とは、本発明に係る車輪1が取り付けられる台車等の全体質量による負荷重をうけてサスペンション部2の弾性体5に永久歪を生じるのを防止するべく介在させたバネを意味しており、台車等の全体質量が30kgと仮定した場合に、4箇所の車輪1にそれぞれかかる負荷重は7.5kgfとなる。したがってそれぞれのキャスター用車輪1に備えられるクリープ防止バネ11の弾性力としては7.5kgfの負荷に釣り合うだけの反発力を常時有するものであることが理想的である。
【0012】
上記の構成において、車輪1をキャスター用とし、これをストレッチャー等の搬送用台車に対し、左右の車軸部3内に支承アーム(図1では省略、図2では15)の突起部16・16を嵌め込んで支承させた本発明の車輪1を取り付けた場合における弾性体5およびクリープ防止バネ11の具体的な作用について図2をもとに説明をすると、同図(A)は空車時(積載物なし)の状態をあらわし、ここでは搬送用台車の自重を等分して支承する車輪1の負荷を、これに略釣り合う反発力を有した各車輪1のクリープ防止バネ11が常時上方に押し上げているために各弾性体5には格別負荷がかからないから変形がみられない。
【0013】
さらに同図(B)は標準重量積載時をあらわしており、支承アーム15を介して搬送用台車およびこれに積載した患者などの積載物の全重量が車輪1のサスペンション部2にかかった場合に、この全荷重は左右一対のディスク4・4および各弾性体5、車輪用リム7、およびベアリング12を介して路面に接する接地部14にかかる。
【0014】
路面から受ける反力は、中空の接地部14自体の撓み力のほか、サスペンション部2の各弾性材5の撓み変形による弾性力がこれを支えるのみならず、既述したクリープ防止バネ11による上方押し上げ力が補助的にこれら弾性体5の撓みを軽減させる。さらに同図(C)は最大積載時をあらわしており、搬送用台車およびこれに積載した患者などの積載物の全重量が積載限界に達した場合の各弾性体5およびこれを補助するクリープ防止バネ11の最大歪状態をあらあわしている。
【0015】
なお、上記は搬送用台車の重量およびその積載量によるサスペンション部2の機能について説明したものであるが、かかる搬送用台車を空車で、あるいは積載状態にて路面走行する場合において、路面の起伏や段差等により受ける垂直(上下)方向あるいは走行する水平(前後)方向の衝撃を受けた場合についてもサスペンション部2は同様に機能する。
【0016】
すなわち、搬送用台車の走行時に接地部14が路面からの衝撃を受けると、これに伴って環状の車輪用リム7が上方に跳ね上げられ、下側に位置する支柱7aの先端がインナーパッド6bを上方に押し上げるとともにインナーパッド6aを上方に引き上げる。一方アウターパッド5a・5b側には搬送用台車あるいは積載物の全重量が常時かかっているために、車輪用リム7とサスペンション部2との間に瞬間的な位置ずれを生じ、この位置ずれの程度に応じて各弾性材体およびクリープ防止バネ11が変形して衝撃応力を吸収緩和することができる。
【0017】
さらに図3には本発明の第2実施例の構造があらわされている。同図において(A)はキャスター用の車輪1の半裁側面図、(B)はその中央縦断面図を示す。この実施例ではサスペンション部2におけるクリープ防止バネ11の取り付け方向を第1実施例の場合と逆方向に取り付けるようにしたものであって、具体的にはサスペンション部2を構成する左右一対のディスク4・4間に一体に架け渡される台座部17をディスク4・4の下部寄りに設けるとともに、この台座部17の上面に上方に向けた下部バネフランジ18を取り付け、さらに上方のインナーパッド6aに保持させた車輪用リム7の上部支柱7a先端をサスペンション部2の内方に突出させて突出部7cとし、この突出部7cの先端に上部バネフランジ19を取り付け、かかる上下のバネフランジ19・18間にクリープ防止バネ11を介在させるようにしたものである。なおその他の構成については既述した第1実施例のものと同一である。
【0018】
さらに図4には本発明の第3実施例があらわされている。同図において(A)はキャスター用の車輪1の半裁側面図、(B)はその中央縦断面図を示す。この実施例ではサスペンション部2と接地部14を支承する車輪用リムとの間に介在させるベアリングの径を小径化してコストの著しい低減をはかるようにしたものである。ベアリングは、その径が大きくなるほど極端に高価となるために、可能な限り小径のベアリングを用いるようにすることは、キャスター用の車輪1のコストの著しい低減に繋がる。
【0019】
具体的にはサスペンション部2を構成するところの、上・下部その他外周端寄りに位置して中間にインナーパッド6a・6bを挟んで弾性体5を介在させた左右一対のディスク4・4の中心に軸20を貫通させて車軸部を構成するとともに、軸20の中心には下側に向けてバネフランジ21を、また前記インナーパッド6a・6bに一体に取り付けた環状のディスク23の下方部内周側に取り付けたバネフランジ22を、それぞれ取り付け、上部バネフランジ21と下部バネフランジ22との間にクリープ防止バネ11を介在させてサスペンション部2を構成している。
【0020】
さらに、該サスペンション部2の外周側には前記したディスク23を介して断面凹状のインナーリム24が一体に取り付けられる。このインナーリム24は左右両側部がサスペンション部2の側面方向に沿わせて折り曲げられ、しかもその折り曲げた先端部分を外側水平方向に曲げてベアリング支承部25・25を形成してある。
【0021】
一方接地部14の内周側には、該接地部14を支承するフランジ26aを有した環状のアウターリム26を有し、しかも該アウターリム26は上記したインナーリム24の外周側に位置し、しかもインナーリム24の外側に沿って左右両側をサスペンション部2の側面方向に沿わせて折り曲げられているとともに、その折り曲げ端部には外側に向けてベアリング支承部27・27が設けられ、ベアリング支承部25・25と27・27間に環状のベアリング28・28を介在させることによりサスペンション部2に対して接地部14が自在に回転することができるように構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施例をあらわしたキャスター用車輪部分の半裁側面図(A)およびその中央縦断面図(B)。
【図2】図1のキャスター用車輪の使用時におけるサスペンション部の変形状態をあらわした縦断面図。
【図3】本発明の第2実施例をあらわしたキャスター用車輪部分の半裁側面図(A)およびその中央縦断面図(B)。
【図4】本発明の第3実施例をあらわしたキャスター用車輪部分の半裁側面図(A)およびその中央縦断面図(B)。
【符号の説明】
【0023】
1 車輪
2 サスペンション部2
3 車軸部
4 ディスク
5 弾性体
5a アウターパッド
5b アウターパッド
6a インナーパッド
6b インナーパッド
7 車輪用リム
7a 支柱
8 台座部
9 バネフランジ
10 バネフランジ
11 クリープ防止バネ
12 ベアリング
13 環状リム
14 接地部
15 支承アーム
16 突起部
17 台座部
18 下部バネフランジ
19 上部バネフランジ
20 軸
21 上部バネフランジ
22 下部バネフランジ
23 ディスク
24 インナーリム
25 ベアリング支承部
26 アウターリム
26a フランジ
27 ベアリング支承部
28 環状のベアリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心部に車軸部を有したサスペンション部および該サスペンション部の外周側に取り付けたベアリングとを介して環状の接地部を有するキャスター用車輪において、サスペンション部内にクリープ現象を防止するためのバネを取り付けたことを特徴とするキャスター用車輪。
【請求項2】
サスペンション部は車軸部に固定され、相互に一定の間隔を介して対設された一対のディスクと、該ディスク間における少なくとも上部および下部に挟持された弾性体と、上下部の各弾性体に内周側中心から軸芯方向に伸びる支柱の一端を固定させた車輪用リムと、左右ディスク間に一体に架け渡された台座部と、該台座部と上部または下部に位置する支柱間に介在させたところの、圧縮方向に対して反発力を有するクリープ現象を防止するためのバネとからなるものであるところの請求項1に記載のキャスター用車輪。
【請求項3】
サスペンション部の周りにベアリングを介して取り付けられる環状の接地部が、内部中空のタイヤであるところの請求項1又は請求項2に記載のキャスター用車輪。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−38742(P2007−38742A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−223101(P2005−223101)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【出願人】(000110251)トピー工業株式会社 (255)
【出願人】(591159055)トヨタテクノクラフト株式会社 (19)