説明

キャップ付きねじ

【課題】ワークの押さえ機能が高くてしかも防錆機能に優れたキャップ付きねじを提供する。
【手段】ねじは軸1と皿タイプの頭2とを備えており、頭2にはステンレス板製のキャップ8がかしめ付けられている。キャップ8のかしめ部8aは座面の全体を覆っておらず、座面は露出部11と被覆部12とに区分されている。被覆部12は露出部11に対してキャップ8の板厚分だけ段落ちしており、このため、キャップ8のかしめ部8aと座面の露出部11とは同一面を成すように連続している。かしめ部8aが座面の全体を覆っていないため、かしめ部8aに皺がよることを防止又は抑制できる。かしめ部8aと露出部11とがワークに重なるため、ワークの押さえ機能が高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、頭に防錆用のキャップを被せているキャップ付きねじに関するものである(なお、本願発明は、ねじとキャップとから成る「ねじ装置」と呼ぶことも可能である。)。
【背景技術】
【0002】
ボルトやビス類のように軸にねじ山が形成されているねじにおいて、頭に防錆用のキャップを被せることが行われている(例えば特許文献1,2)。キャップの材料には一般にステンレス板が使用されており、薄いステンレス板を素材として筒部に天板が一体に連続したコップ状の中間体を製造し、この中間体をねじの頭に被せてから筒部を頭の座面にかしめ付けている。
【0003】
また、特許文献1,2のねじは軸にゴム製パッキンを嵌め込んでシール性を確保するようになっており、そこで、頭の座面のうち軸に連続した一部はキャップが被さっていない露出部と成して、この露出部をキャップが重なっている部分よりも深い溝に形成しており、溝状の露出部にパッキンを食い込ませることによってパッキンと頭との密着性を高めている。
【特許文献1】実公昭50−23708号公報
【特許文献2】特公昭63−11528号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ねじの頭にキャップを被せるのは耐食性を向上させるためであるが、ゴムパッキンを使用しない場合もある。しかして、特許文献1,2のように座面の露出部を溝状に形成したものをパッキン無しの状態で使用すると、キャップの先端縁とねじの座面との間に段差が生じるため、座とワークとの接触面積が小さくなって締結強度が低くなる虞がある。
【0005】
これに対しては、キャップのかしめ部で座面の全体を覆えば良いと考えられるが、かくすると、かしめ工程でのキャップの皺が大きくなってワークとの密着性が低くなる虞がある。
【0006】
つまり、キャップは中間体の状態では筒部がストレート状になっており、この筒部を内向きに折り返すことでねじの頭にかしめ付けるのであるが、座の外径は軸に近づくほど小さくなるため、筒部の直径と座面の外径との差は軸に近づくほど大きくなり、この寸法の差によってキャップに皺がよる虞があるが、筒部の長さが長いほど寸法の差は大きくなるため皺がよりやすくなっており、従って、頭の全体をキャップで覆うと筒部の長さが長くなるためかしめ後に皺がより易くなり、その結果、ワークとの密着性が低くなることが懸念されるのである。
【0007】
本願発明はこのような現状に鑑み成されたものであり、ワークとの密着性が高いキャップ付きねじを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明の対象であるキャップねじは、ねじ山が形成された軸の一端に頭を一体に設けており、前記頭には、非錆性金属板から成るキャップが頂面の側から嵌め込まれており、前記キャップは座面に重なるようにかしめ付けられている、という基本構成であり、請求項1の発明では、上記基本構成に加えて、前記頭の座面のうち軸に連続した一部はキャップが被さっていない環状の露出部になっており、頭の座面のうちキャップが被さっている被覆部が露出部からキャップの板厚寸法と略同じ程度の寸法だけ段落ちしている、という特徴を有している。
【0009】
請求項2の発明は皿頭又は丸皿頭のねじに適用したものである。すなわち請求項2では、請求項1において、前記頭の座面はテーパ状になっている一方、頭の頂面にはドライバビットが嵌まる係合穴が空いており、前記キャップには係合穴にきっちり嵌まり込むポケット部が形成されている。
【0010】
請求項3の発明は請求項2の発明を更に具体化したものであり、この発明は、請求項2において、前記頭の係合穴とキャップのポケット部とは平面視で角形になっており、少なくとも頭の係合穴のコーナー部に外側に抉られた盗み部を形成している。
【発明の効果】
【0011】
本願発明では、頭の座面のうち軸に連続した部分は露出部になっているため、キャップは座面の全体を覆っている場合に比べて筒部の長さが短かくなっており、このため、かしめ工程での皺の発生を防止又は抑制できる。そして、座面のうちキャップで覆われている部分は露出部から段落ちしているが、段差はキャップの板厚寸法と同じ程度であるため、キャップのうち座面に重なっている部分の外面と座の露出部とは同一面をなす状態で連なることになり、このため、頭とワークとの密着面積を大きく確保することができる。
【0012】
従って本願発明によると、キャップの皺の発生を防止又は抑制しつつワークの押さえ力を向上でき、このため、頭をキャップで覆ったことによる防錆機能を確保しつつ、ワークをしっかりと押さえて高い締結強度を確保できる。
【0013】
皿頭ねじ又は丸皿頭のねじは、ワークの表面から頭が大きく突出することを嫌う場所に広く使用されているが、従来、この皿ねじの頭にキャップを被せることは行われていなかった。これに対して本願の請求項2の発明は、キャップに頭の係合穴にきっちり嵌まるポケット部が形成されていることを特徴の一つにするもので、このポケット部の存在により、ドライバビットでの回転操作を阻害することなく皿ねじの頭に高い耐食性を付与することができる。このため、請求項2の発明は皿ねじの用途拡大に貢献できる。
【0014】
キャップのポケット部は頭の係合穴と相似形になっているが、通常の係合穴はコーナー部に若干の丸み(隅肉)がついており、すると、キャップのポケット部のコーナー部も若干の丸みを付けねばならない。他方、ドライバビットの回転トルクをねじにしっかりと伝えるには、ドライバビットがポケット部にしっかりと係合している必要があるが、ドライバビットとポケット部との接触面積が小さいと「穴が潰れる」という現象が生じて、ねじの回転操作をできなくなる虞がある。
【0015】
これに対して請求項3のように構成すると、少なくとも頭における係合穴のコーナー部を盗んでいることにより、キャップにおけるポケット部のコーナー部は角張った状態に形成することができ、このため、ドライバビットをポケット部の各内面にしっかりと密着させることができ、その結果、「穴が潰れる」という現象を無くしてねじをしっかりと回転させることができる。ポケット部のコーナー部に盗み部を形成するとより好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1,2では第1実施形態を示し、図3では第2〜3実施形態を示し、図4では第4〜7実施形態を示している。以下、第1実施形態から順次説明する。
【0017】
(1).第1実施形態
第1実施形態は皿頭タイプのドリルねじに適用したものであり、図1(A)の全体正面図に示すように、ねじは、外周にねじ山3が形成された軸1と、軸1の一端に設けた頭2とを備えており、軸1の他端にはドリル部4が形成されている。ドリル部4は2条の縦溝5や一対の切刃6を備えている。縦溝5はねじ部まで入り込んでいる。また、ねじ部には、ねじ山3を分断して頭2の近傍まで延びる2条のノッチ群7が形成されており、ノッチ群7はドリル部4の縦溝5の終端から上向きに延びている。
【0018】
ねじの頭2は、座面がテーパ形(台錐形)であり、かつ、頂面は上向き凸状に湾曲したオーバル式になっている。すなわち、頭2は丸皿頭になっている。そして、頭2には、その大部分を覆うキャップ8がかしめ付けられている。
【0019】
図1のうち(B)はねじの平面図、(C)は分離正面図、(D)はキャップ8を取り外した状態でのねじの頭2の平面図、(E)は頭2の縦断正面図であり、これらの図に示すように、頭2の頂面には平面視四角形(正方形)の係合穴9が形成されている一方、キャップ8には、係合穴9にきっちり嵌まるポケット部10が形成されている。頭2の係合穴9のコーナー部には外側に抉られた盗み部9aが形成されている。キャップ8のポケット部10にも盗み部を形成することが可能であり、この場合は、係合穴9の盗み部9aの溝幅はキャップ8の板厚の2倍以上の大きさになる。
【0020】
頭2の座面は基本的にはテーパ状であるが、軸1に近い側の一部はキャップ8が被さっていない環状の露出部11になっている。そして、座面のうちキャップ8が被さっている被覆部12は露出部11から段落ちしている。露出部11と被覆部12との段差寸法はキャップ8の板厚寸法とおおよそ同じに設定している。このため、キャップ8のかしめ部8aと座面の露出部11とは同一面を成すように連続している。座面において、露出部11の幅寸法W1と被覆部12の幅寸法W2とは略同じ程度に設定しているが、両者には任意に設定できる。
【0021】
キャップ8は、ねじに取り付ける前には、図1(C)に示すようにかしめ部8aが筒状に形成されると共にポケット部10を有する中間体に形成されており、この中間体を頭2に頂面の側から嵌め込み(この場合、ポケット部10が係合穴9に嵌まるように姿勢合わせされている)、次いで、かしめ部8aを半径内側に押圧して窄める(かしめ付ける。)。なお、かしめ付けは専用の治具を使用して行われる。本実施形態では頭2の外周には僅かの幅のストレート部2aが存在しており、このため、キャップ8にも僅かの細幅のストレート部が残っている。
【0022】
キャップ8のかしめ部8aは先端に行くほど窄まり変形量が多くなる。そこで、図1(E)に一点鎖線で示すように、座面の被覆部12が露出部11に対して段落ちする寸法(段差寸法)を、露出部11に近い部分はキャップ8の板厚寸法よりも多少大きくて、被覆部11の終端ではキャップ8の板厚寸法と同じになるように徐々に変えることも可能である。
【0023】
図2では第1実施形態に係るねじの使用例を示している。このうち(A)の例では、ワークWは軟質材13と金属製座金14とから成る押さえ具15を介してねじで基材Bに締結されている。また、(B)に示す使用例では、ワークWにはねじの頭2に対応して台錐穴W1が空いており、頭2及びキャップ8でワークWを直接に押さえている。
【0024】
本実施形態のねじは、頭がワークから突出せずにしかも高い防錆性能が要求される場所に広く使用できる。その例としては、バスや鉄道車両の乗り降り口の床部にステップ材を締結すること、屋外の鉄製階段に滑り止め材を締結すること、建物の壁材や屋根材を基材に締結すること、屋外に設置される手摺りや柵材を支柱等に締結すること等が挙げられる。雨風に晒されたり人の足で踏まれたりという過酷な条件下での使用でも、高い防錆機能を発揮することができる。
【0025】
(2).他の実施形態
図3では頭2の係合穴9の別形態を示している。このうち(A)の第2実施形態では係合穴9及びポケット部10は十字形に形成されており、(B)に示す第3実施形態では花びら形(平面視で外向き溝と内向き突起とが連続している形態)に形成されている。
【0026】
図4では頭2の別形態を示している。このうち(A)の第4実施形態では、頭2はフランジ部2bを有していて頂面はフラットになっており、キャップ8もフランジ部8cを有している。(B)に示す第5実施形態では頭2は六角でかつフランジ2bを有している。(C)に示す第6実施形態は単純な頭2は単純な皿形になっている。
【0027】
(3).その他
本願発明は上記の実施形態の他にも様々に具体化できる。例えば適用対象はドリルねじに限定されるものではなく、軸の他端面がフラットになっている単なるねじやボルト類、軟質材への自己進入性を備えている木ねじ、ねじ山が下穴に食い込んでいくタッピンねじなど、様々のタイプのねじに適用できる。ねじ山は軸の一部のみに形成しても良いことは言うまでもない。ALCに食い込むねじ(一種のアンカー)にも適用できる。
【0028】
頭の形態も必要に応じて任意に選択できるのであり、例えば座面がフラットな鍋頭や、座面が外向き凹状に凹んでいるラッパ頭、座面がフラットで頂面に六角等の角形係合穴が形成されているソケット頭などにも適用できる。キャップの素材は現在ではステンレスが好適であるが、所望の防錆機能が発揮されたら他の素材(例えばチタン)を使用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】第1実施形態に係るねじの構造を表示した図である。
【図2】第1実施形態の使用例を示す断面図である。
【図3】第2実施形態及び第3実施形態を示す図である。
【図4】第4〜第6実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
1 軸
2 頭
3 ねじ山
4 ドリル部
8 キャップ
8a かしめ部
9 係合穴
9a 盗み部
10 ポケット部
11 座面の露出部
12 座面の被覆部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ山が形成された軸の一端に頭を一体に設けており、前記頭には、非錆性金属板から成るキャップが頂面の側から嵌め込まれており、前記キャップは座面に重なるようにかしめ付けられている、
という基本構成であり、これに加えて、
前記頭の座面のうち軸に連続した一部はキャップが被さっていない環状の露出部になっており、頭の座面のうちキャップが被さっている被覆部が露出部からキャップの板厚寸法と略同じ程度の寸法だけ段落ちしている、
キャップ付きねじ。
【請求項2】
前記頭の座面はテーパ状になっている一方、頭の頂面にはドライバビット工具が嵌まる係合穴が空いており、前記キャップには係合穴にきっちり嵌まり込むポケット部が形成されている、
請求項1に記載したキャップ付きねじ。
【請求項3】
前記頭の係合穴とキャップのポケット部とは平面視で角形になっており、少なくとも頭の係合穴のコーナー部に外側に抉られた盗み部を形成している、
請求項2に記載したキャップ付きねじ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−298086(P2008−298086A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−141201(P2007−141201)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(000110789)日本パワーファスニング株式会社 (30)