説明

キャビテーションしきい値の特性決定および制御のための方法および装置

【課題】音響エネルギーに曝露される流体中で発生するキャビテーションの特性を決定する装置を提供する。
【解決手段】流体を保持する容器34と、音響エネルギーを生成する音響エネルギー発生手段18と、容器内に保持された流体のキャビテーションを検出するキャビテーション検出手段22とを備える。キャビテーション検出手段22は、流体からの音ルミネセンス放出光を検出する、光電子倍型管などの光検出手段を備える。方法は、ある一定量の処理流体を特定出力レベルの音響エネルギーに曝露することと、一定期間にわたり流体からの光子出力を測定することと、光子出力が所望レベルから逸脱すると、光子出力を略所望レベルに戻す修正ステップを開始することとの各ステップを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリーニングまたは特定の他の目的のために流体中を伝搬する音響エネルギーを利用する技術に関し、さらに詳細には、流体が音響エネルギーに曝露されるときの流体からの光放出(ソノルミネセンス)を利用して、過渡的キャビテーションを回避するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
歴史的には、多くの工業クリーニング処理では、物体から粒子を除去するのに水性の化学的流体を利用していた。多くの場合、1KHz〜10MHzの周波数範囲の音響エネルギーを処理槽に加えることにより、より完全およびより短期間で粒子を除去することによってクリーニング処理を改善することが証明されている。メッキタンクへの音響エネルギーの導入もまた、化学物質と境界層の混合が増大することによって電気メッキ処理を改善し、メッキされる物体の表面に有効な新しい種を得る、ことが証明されている。加えて、音響エネルギーは、陰極および陽極を清浄に保つのに役立つことが証明されている。
【0003】
音響的に改善された処理は、誘導される音場の周波数範囲にしたがって、超音波またはメガソニックのいずれかとして一般に説明される。音響エネルギーは一般に、圧電結晶を正弦波AC電圧で駆動することにより生成される。結晶はAC電圧の周波数により決定される速度で寸法が変化する。これらの周期的な寸法変化は機械振動であり、機械振動からのエネルギーは共振器板を通して処理流体に結合され、これにより、音響エネルギー場を生成する。圧延結晶は通常、エネルギー場に接触する共振器と称される伝達部材に強固に接着される。
【0004】
超音波クリーニングは、中程度に複雑な表面形態を備える物体のクリーニングに必要な、強固な耐熱性の基板材料に最適である。超音波の周波数範囲はまた、これらの化学的に耐性のある表面から比較的大きな粒子を除去するのに適している。メガソニッククリーニングは、視線に依存するクリーニングに必要な、熱的および化学的に敏感な表面を備える物体に適する。メガソニッククリーニングはまた、粒子の大きさが約0.3μ未満の場合のクリーニングに対する選択方法である。
【0005】
音響キャビテーションは一般に、クリーニング処理における粒子の除去に対する原理メカニズムと考えられる。音場内では、気泡またはキャビティは、高圧が流体を分裂させ、気泡または空洞を発生させるときに生成される。これらの気泡または空洞はキャビティと称される。
【0006】
これらの圧力振動は、圧力波の山および谷によって膨張および収縮する気泡を発生させる。気泡が膨張および収縮すると、気泡を形成する気体の一部は収縮(圧縮サイクル)の間に流体に吸収され、膨張時(拡大サイクル)に気泡内部に戻り拡散される。気泡が、通過する音響波より生成される圧力差の力に対抗する流体の表面張力の力により耐えられない大きさに達すると、気泡は内破する。
【0007】
定常的および過渡的な、2種類の音響キャビテーションが存在する。定常キャビテーションでは、定常キャビティ(または気泡)は大部分が気体で満たされ、多くの音響サイクルにわたり極めて低速で成長する。定常キャビティの内破により解放されるこれらのエネルギーは、過渡キャビティのエネルギーより大幅に小さい。過渡キャビテーションでは、過渡キャビティ(または気泡)はアルゴンガスを含むが、極めて少量であるかまたは他のガスは含まない。2〜3サイクル内でのみ大きなサイズに成長し、崩壊時に大きな量のエネルギーを放出する。
【0008】
ソノルミネセンス(SL)は、気泡が崩壊する、より適切には内破するときに放出される光である。内破の圧力および速度は、気泡内部の気体を光子の放出を引き起こすのに十分な高温度に上昇させる。ソノルミネセンスからの光の放出は200nm〜600nmの周波数を有し、一般には紫外線スペクトル内にあると特徴付けられる。
【0009】
ソノルミネセンスのスペクトルは可視光のスペクトルの略中間点で開始し、紫外線の範囲にまで広がる。これは主に、水に溶解している自然発生アルゴンの存在のために発生する。プラズマ中の主成分はアルゴンであり、内破時の光子の放出には重要である。キャビティ大きさが振動すると、大部分が気体の窒素および酸素の分子が、各圧力アイクルの変化に伴って気泡の内外に自由に移動する。ただしアルゴンは移動せず、結果として気泡の内部のアルゴン濃度は、地表の大気中に見られる、約1%の自然発生レベルを超えて大幅に増加する。したがって、気泡が崩壊するとき、気泡内の大部分の気体はアルゴンであり、ソノルミネセンスの特性を主に示すのはアルゴン(および他の希ガス)である。歴史的に、ソノルミネセンスは過渡キャビテーションに関連付けされてきており、定常キャビテーションでは発生するとは考えられていなかった。
【0010】
キャビテーションのしきい値は、キャビテーションの大部分が過渡キャビテーションになり、およびキャビティが崩壊を開始して光子の形で高レベルのエネルギーを激しく放出する点である。過去においては、ハイドロフォンとして既知の音圧を検出するセンサが、過渡キャビテーションを検出するのに使用されてきた。この理由は、過渡キャビテーションの内破がセンサの固有の検出しきい値を超える十分な音響エネルギーを放出するためである。しかし、定常キャビテーションの内破は大幅に少ないエネルギーしか放出しないため、実際には、ハイドロフォンにより検出できない。
【0011】
キャビテーションを測定する別の方法は、例えば、PCTWO02/05465 A1に記載された方法などの、キャビテーションセルを使用する方法である。キャビテーションセルは、クリーニング槽中の流体のキャビテーション出力を直接検出するのに使用され、クリーニング槽がどのようの良好に作動しているか、または1つのクリーニング槽と別のクリーニング槽とをどのように比較するか、に関する全体情報を収集するための有用なツールである。
【0012】
しかし、キャビテーションセルにはいくつかの問題がある。例えば、キャビテーションセルは、プローブがこの測定を実行するために音場内に存在する必要があり、クリーニングされる物体もまた音場内に存在する必要があるため、作動中に処理槽内に残すことができない。加えて、セルの形状は、セル内部の流体の特性がタンクの流体特性と同一であると保証されず、セル内部で増加する気体はデータ再現性に影響を与える。
【0013】
1990年代の初期、科学者は流体中に浮遊する単一の気泡に関する試験を実行し、振動する気泡がすべての負圧力サイクルにおいて光子を放出しないことを確認した。これは、シングルバブルソノルミネセンスに対するSBSLと称される。多くの気泡の音場は、負の圧力サイクルに対して単一気泡と同一の光同期応答を有すると理論化され、確認された。この現象は、MBSL(マルチバブルソノルミネセンス)として既知であり、大部分の音響的に改善されたクリーニングシステムのタンク内に見られる主要状態である。MBSLの光子放出スペクトルは、同様の流体特性および状態については、SBSLのものと同様であると測定され、見出されている。
【0014】
繊細な基板の表面に密接した気泡の崩壊は、極めて高い局所的圧力および温度を発生させて、基板に構造上の損傷をもたらす。キャビテーションの内破は、50〜150気圧および5,500K(ケルビン)の温度のエネルギーを有することが証明されている。キャビテーションの内破により放出されるエネルギーの曝露は、繊細なデバイスおよび精巧に構成されたデバイスの表面への侵食損傷に対する主要メカニズムであることが既知である。許容できる低い損傷率で、適度に高い歩留り率を達成するクリーニング処理が開発されてきた。しかし、これらの処理は、キャビテーションレベルに基づくクリーニングタンク内の状態の閉ループ制御を可能にするリアルタイムフィードバックが欠如している。
【0015】
最近のクリーニング処理は、クリーニング装置の製品製造業者がキャビテーションを生じないと宣伝する、低出力または高周波数を有するように開発されている。これらの低出力クリーニング処理の特性を実現し、この処理方法を利用して過渡キャビテーションにより生じる損傷を防止または緩和することができる技術が必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】WO02/05465 A1
【特許文献2】米国特許第6,431,908号
【特許文献3】米国特許第6,722,379号
【特許文献4】米国特許第6,188,162号
【特許文献5】米国特許第6,222,305号
【特許文献6】米国特許第4,804,007号
【発明の概要】
【0017】
簡単に言えば、本発明は、ソノルミネセンスにおける光子放出の強度を観測することによって流体のキャビテーション特性を決定する方法および装置である。本発明においては、光子放出が低出力音響エネルギークリーニング処理において発生することが示される。この光子放出は定常キャビテーションから生じ、定常キャビテーションはマルチバブルソノルミネセンス(MBSL)であると考えられる。
【0018】
好ましい実施形態では、本発明の方法および装置は定常キャビテーションが存在する状態における光子放出を測定する。光子の放出情報をフィードバックループ内で用いて、生産タンク中の音響変換器に印加される交流電圧信号の出力レベルを制御することにより、繊細な基板の表面損傷を緩和する。流体中の圧力変化はまたキャビテーションの評価基準として使用される。
【0019】
この方法の利用を可能にする装置は、処理流体が流れる容器と、音響エネルギーを生成し、および流体が容器を通して流れる間に音響エネルギーを流体中に伝達する音響エネルギー発生手段と、音響エネルギーにより発生する容器内の流体のキャビテーションを検出するための、光電子増倍管またはハイドロフォンといったキャビテーション検出手段とを備える。
【0020】
本発明の方法は、ある一定量の処理流体を特定出力レベルの音響エネルギーに曝露することと、一定期間にわたり特定出力レベルの流体からの光子出力を測定することと、光子出力の所望レベルを決定することと、光子出力が所望レベルから逸脱すると、光子出力を所望レベルに戻すために処理パラメータを調整することとの各ステップを備える。
【0021】
研究用途においては、本発明を利用して、ソノケミカル場のキャビテーション特性に関して、例えば温度、化学成分または濃度、溶解された気体の濃度、大気圧および音響エネルギー場の強度といった物理パラメータの影響を研究する。キャビテーション特性は、表面損傷、メッキ効率または他のソノケミカル処理の全般的有効性と相互に関連している。
【0022】
商業用途においては、本発明は音響的に改善された化学クリーニング、またはメッキなどの他のソノケミカル処理において利用される。クリーニングの場合においては、この情報を用いて、早すぎる槽の変化を排除することにより化学物質の消費を低減し、遅れた槽の変化が低下したPRE(粒子除去の効率)を引き起こすことを防止し、粒子の欠陥構造に起因する生成物の結果として損失を防止する。本発明はまた、過渡キャビテーションによる損傷の影響を回避する調整を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明によるキャビテーション特性決定システムの概略図である。
【図2】本発明によるキャビテーションセルの断面図である。
【図3】本発明による3つの異なる処理流体についての出力密度に対する光子数のグラフである。
【図4】本発明によるキャビテーションセルの代替の実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、キャビテーションセル14、音響変換器18およびセンサ22を備えるキャビテーション特性決定システム10である。無線周波数(RF)発生器といった電源26は変換器18に電力を供給する。マイクロコンピュータ30は電源26を制御し、センサ22からデータを収集する。流体タンク34はセル14に処理流体を供給する。
【0025】
キャビテーションセル14は小さい遮光チャンバであって、このチャンバを通して処理流体を通常矢印38の方向に流す。この結果、セル14の内部は、変換器18により印加される音場によりキャビテーションを生じる、処理流体の典型的なサンプルを含む。処理流体は、研究用途においては流体タンク34といった近傍タンクから供給されるか、または生産処理装置におけるタンクからの処理流体サンプルである。セル14は、毎秒数十の光子数と同程度に低い光子放出レベルの検出を可能にするように十分に遮光されなければならない。さらに、セルは使用されないときにも暗さを維持して、センサ22の損傷またはセンサ22のバックグラウンドノイズの増加を避けなければならない。
【0026】
セル14は、特定の用途または試験方式の要望に応じて流体の試験パラメータの管理または制御を可能にするために、複数のポートを有する。これらのポートには、これらに限定されないが、セル14を通して処理流体サンプルを流すことができる入口ポート42および出口ポート44と、処理流体の表面上の大気圧(気圧)を制御する圧力制御ポート48と、セル14の上部に蓄積する気体を除去する排出制御ポート52とを含む。追加ポートを用いて、例えば、セル14内の流体レベルの制御を可能にするか、または様々な他の処理流体の特性を測定するセンサを収容することができる。流体特性の測定値と光子の放出レベルとの相関関係を求める必要性は、本発明の目的に対して必然的に含まれる。
【0027】
好ましい実施形態においては、図1に示される電源26は、観測される特定の処理に適する出力レベルおよび周波数の正弦波電力エネルギーを送出できる、電力発生器である。このように、電源26および音響変換器18は観測される処理に適合するように設計される。典型的な例では、電源26の動作周波数は約1メガヘルツ(1MHz)である。0.4〜2.0メガヘルツの周波数範囲の無線周波数電圧を発生する1000ワット無線周波数発生器は電源26として機能できる。しかし、システム10は、流体中で音響キャビテーションが観測または監視される、2.0〜5.0またはより高いメガヘルツ範囲を含む任意の周波数または出力レベルで使用できるため、多くの種類の電源26が使用可能である。
【0028】
動作中は、結晶116(図2に示されている)は、電源26からの正弦波交流電圧により駆動され、駆動交流電圧と同調して膨張および収縮する。これらの寸法変化は共振器118によってキャビティ84内の処理流体に結合される機械的エネルギーである。この結合は処理流体中に音響的な音場を発生させる。処理流体に音響エネルギーを供給するために、他の音響エネルギー発生デバイスおよび設計を用いることもできる。他の実施形態では、音場を作成するために、電磁場および/または他の機械的な手段といった異なる手段を利用することもできる。さらに、複数の変換器を独立にまたは協調して使用し、作動させることもできる。
【0029】
マイクロコンピュータ30は、流体から放出される光データをセンサ22から収集するコンピュータ手段として機能する。さらに、マイクロコンピュータ30を利用して、電源26から変換器18または他のエネルギー結合機構に供給されるエネルギー(電気または別のエネルギー)を制御することにより、セル14内部の音場強度を制御する。通常、光子の放出レベルは音響エネルギーの様々なレベルでセンサ22により測定され、このデータはマイクロコンピュータ30により収集される。マイクロコンピュータ30によるデータ分析により、例えば、図3に示されているグラフ形式の定量および定性的情報をマイクロコンピュータ30から出力できる。原型システムでは、Pentium(登録商標)マイクロプロセッサを備える市販のラップトップコンピュータがマイクロコンピュータ30として使用されたが、この目的のためには、組込型マイクロプロセッサを含む多くの他の種類のコンピュータ装置も使用できる。
【0030】
流体タンク34は観測される処理流体を収容する容器である。流体タンク34は物理的および化学的パラメータの大部分が制御される場所である。化学物質(固相、液相または気相の)は所望どおりに槽内に計量して供給される。研究用途では、流体タンク34は単に、キャビテーション作用を研究する流体の貯蔵および状態を調整するための場所である。生産用途では、流体タンク34は、処理パラメータが本発明からフィードバックされる情報により能動的に監視および調整される、実際のクリーニングタンクである。この容器は開放型または密閉型のいずれでもよい。セルは1気圧以外の圧力で流体を研究するために使用される場合、タンクは密閉され、さらに加圧される必要がある。
【0031】
実際には、様々な処理作業に対して様々な処理流体が使用される。多くの処理流体の正確な組成は、流体を製造する企業に独自のものである。しかし、通常の処理流体は脱イオン水および/または蒸留水、水酸化アンモニウムの水溶液、過酸化水素、塩酸、硝酸、酢酸、フッ化水素酸およびこれらの試薬の組み合わせを含む。一般に使用される処理流体の組成はSC−1およびSC−2で示される。
【0032】
化学物質注入ブロック64は、処理流体の指示された化学組成を維持するのに使用される随意の化学物質供給システムを示す。例えば、処理流体中の水酸化アンモニウムまたは過酸化水素の濃度は、ブロック64を通して補充される。同様に気体注入ブロック66は、処理流体中の溶解気体のレベルを増加させる随意の気体注入システムを示す。例えば、処理流体中の酸素濃度はブロック66を通して補充される。
【0033】
温度制御ブロック68は、タンク34内の処理流体の温度を制御する随意の温度制御システムを示す。ポンプ72は、処理流体をシステム10のセル14および他の構成要素を通して流すための、適切に選択されたポンプである。脱気装置74は、外気などのような溶解気体を処理流体から除去できる随意の装置である。溶解気体の監視装置76は、サンプリングステーション78において処理流体中の酸素またはアルゴンなどのような溶解気体のレベルを測定できる、随意の装置である。
【0034】
圧力制御ブロック54は処理流体の表面に加えられる気圧を制御する随意の装置である。これは、正の圧力を加える圧力調節器または負の圧力を加える真空ポンプまたは調節器を含むことができる。1気圧以外の圧力での使用動作は、本発明の範囲外のポンピングまたは他の流体の取扱い問題における影響を与えることが認識されている。セル14およびセンサ22の設計は、大気圧ではない圧力が存在する場合、特別の対応を必要とすること言うまでもない。排出ポート58および付随装置は、必要に応じて、任意の排出ガス生成物に対して使用される。このポートはまたレベルの検出および制御のために利用できる。
【0035】
図2はセル14をより詳細に示している。図2は中空の円筒形セル14の断面図である。セル14は遮光されおよび液密でなければならない。キャビティ84は中空セル14の内部空間であり、処理流体はキャビティ84を通って流れる。下部の開口86は、処理流体がキャビティ84に流入する入口ポート42を形成する継手を受け入れる穴である。上部の開口88は、処理流体がキャビティ84およびセル14を出る出口ポート44を形成する継手を受け入れる穴である。最上部のカバー90は1対のネジ92および94により所定の位置に保持され、Oリング98はカバー90が流体密封シールを形成することを保証する。
【0036】
センサ22は、キャビテーション(すなわちソノルミネセンス)が発生するとき、セル14内に保持される流体から放出される光を検出する光検出手段である。好ましい実施形態では、センサ22は極めて低レベルの光子放出(毎秒約100の光子数の)を感知できる光電子増倍管(PMT)である。例えば、New Jersey州RockawayのElectron Tubes Inc.から入手できる光電子増倍管の型番P25232がセンサ22として使用できる。光電子増倍管は、光が光電子増倍管に入る窓100を有する。好ましくは、紫外線(UV)放射が光電子増倍管に入射できる材料で構成される窓100を有する光電子増倍管が購入される。
【0037】
光電子増倍管(センサ22)はセル14の開口部に配置され、1対のネジ102および104および取付リング106により所定の位置に保持される。Oリング108は、センサ22が流体密封シールを形成することを保証する。レンズカバー112は窓100を覆うように配置され、処理流体との化学的相互作用から窓100を保護する。好ましい実施形態では、レンズカバー112は、紫外線放射が光電子増倍管に入射できる、光学グレードの人造サファイアを備えるが、他の材料も使用できる。
【0038】
センサ22に加えて、他のセンサをシステム10に含むこともできる。例えば、レーザーを付け加えて、光子放出がない場合であっても、キャビテーションの気泡が存在するときに光散乱を観測することができる。さらに、ハイドロフォンなどの他の検出デバイスをセル14に付け加えて、複数のセンサからデータの相関関係を得ることを可能にできる。さらに、CCDアレイは、ソノルミネセンス効果を画像化するために使用でき、およびレーザーと共に使用して、キャビテーションの気泡による光散乱を検出できる。
【0039】
音響変換器18は音響エネルギーを生成する音響エネルギー生成手段である。好ましい実施形態では、これは、セル14内に収容された処理流体中で電気エネルギーを音波に変換する音響変換器である。好ましい実施形態では、変換器18は、共振器118に接着された、PZT(ジルコン酸チタン酸鉛)などの材料からなる圧電結晶116を備える。1対のバネ電気接続子120およびプリント回路基板122は、例えば、米国特許第6,431,908号に開示されているとおり、RF電力接続ケーブル124を介して電源26との電気接続を提供する。グラウンド接触/締付リング125は共振器118を支持する。
【0040】
好ましい実施形態では、結晶116は、米国特許第6722,379号、6,188,162号および6,222,305号に開示されているとおり、インジウムを使用して共振器118に取り付けられ、共振器118は、フッ化ポリマーパーフロロアルコキシ(PFA)で被覆されたアルミニウムまたはステンレス鋼といった、化学的に不活性な材料を備える。しかし、例えば米国特許第4,804,007号に開示されているエポキシ接着された結晶といった、共振器118および結晶116への取付の他の手段も使用できる。
【0041】
センサ18は底端部カバー128に取り付けられ、このカバー128は、セル14に嵌合するが、サービスのために、セル14から着脱可能である。Oリング130は、カバー128が流体密封シールを形成することを保証する。カバー128が所定の位置に取り付けられると、共振器118は処理流体と直接接触する。代替の実施形態では、結晶116はセル14の側壁に接着できる。
【0042】
好ましい実施形態では、セル14は円筒形であって、遮光性であり、処理流体との化学反応で損傷を受けない材料から成る。例えば、処理流体と接触する全表面がフッ化ポリマーパーフロロアルコキシ(PFA)などの化学的に不活性の材料で被膜された、ステンレス鋼またはアルミニウムといった金属がセル14として使用される。被覆として機能できる他の化学的に不活性の材料には、フッ化ポリマーポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ化エチレンエチレン−プロピレン(FEP)、または商標Teflon(登録商標)の下に販売されている材料を含むテトラフルオロエチレン(TFE)および他の配合物、商標Halar(商標)の下に販売されている材料を含むフッ化ポリマーエチレンクロロトリフルオロエチレン(ECTFE)、またはKynar(商標)の下に販売される材料を含むフッ化ポリマーポリフッ化ビニリデン(PVDF)を挙げることができる。同様に、共振器118はこれらの化学的に不活性の材料で被覆される。
【0043】
特定の用途では、セル14内の音響エネルギーの流れを管理するために、セル14内部のキャビティ84の別の物理的形状および/またはセルキャビティ内の別の内部構造を必要とする可能性がある。これには、セル14を傾斜させて処理流体の表面が変換器18の表面と平行にならないようにし、それにより、流体の表面からの音響反射を変換器に直接戻るように反射させないことを含む。特定の状態の下では、音波吸収材料物質を用いて、定在波を減衰または無くすることが望ましい。他の実施形態では、定在音波を生成する内部形状および構造を必要とする。
【0044】
代替の構成では、セル14は基本的に、図1で示されている構成を反転させることができる。重力および流体圧力に対抗して音場を下方に駆動することにより、別の状態における気泡の観測を可能にする。横方向に向けられた構成もまた可能である。
【0045】
図3はシステム10から得られるデータの1つの種類を示している。図3は、3つの異なる処理流体の状態における出力密度に対する光子数の対数−対数用紙上のグラフである。線120は、電源26が周波数1メガヘルツの交流電圧を印加する場合の脱イオン水のソノルミネセンス作用を示している。線122は、電源26が周波数2メガヘルツの交流電圧を印加する場合の脱イオン水のソノルミネセンス作用を示している。線124は、電源26が周波数1メガヘルツの交流電圧を印加する場合のSCI処理流体(割合は脱イオン水:過酸化水素:水酸化アンモニウム=100:2:1)のソノルミネセンス作用を示している。
【0046】
図3は流体中のキャビテーションの特性決定に関していくつかの重要な特徴を示している。第1に、線124上に、略2.0ワット/cmの出力密度付近を中心とする領域は処理流体からの光出力の急激な増加を示している。光出力の急激な増加領域の略底の点128(約1.9ワット/cm)は、処理流体中のキャビテーションが大部分は過渡キャビテーションになる点を示すためのものである(すなわち、点128はキャビテーションのしきい値を表す)。上述のとおり、これは、過渡キャビテーションの間における処理流体中のキャビティの激しい崩壊が光子の形で高レベルのエネルギーを放出するためであることが既知である。したがって、点128の右の領域は、過渡キャビテーションの領域を表していると考えられ、点128の左の領域は定常キャビテーションの領域を表していると考えられる。測定可能な光子量が定常キャビテーション(少なくともマルチバブルキャビテーションで)の間に流体により放出されることの観測結果は以前には報告されておらず、本発明はこの現象の最初の商業に有用な利用であると思われる。また、定常キャビテーションがこの出力領域で発生することの観測も新規であると思われる。
【0047】
図4は図2に示されているセル14の代替の実施形態を示している。図2の対応する要素と同一である図4の要素は同一参照符号により示される。図4では、ハイドロフォン140および音響バッフル144がセル14に加えられている。
【0048】
ハイドロフォン140は、出力が段階的に増加するときのキャビティ84内に収容された流体中の圧力を測定する手段を提供する。ハイドロフォン140からの圧力値を用いて、極めて低入力で測定される紫外線出力が流体中の極めて低い圧力の期間中に発生し、これにより定常キャビテーションが存在することを表していることを確認できる。
【0049】
バッフル144は、セル13の上部で音響エネルギー(音)を吸収するために使用され、これにより、音波の反射を防止または低減する。通常の音響エネルギークリーニングシステムでは、音響エネルギーは1.5km/秒で伝搬し、そのため極めて速くタンク近くで反射する。このようなタンクの大部分の領域は、音響変換器で発生する元の音響エネルギーおよび音波の反射の両方に曝される。3つの状態における流体のSL光出力を理解し、これにより、バッフル144(図2)を備えていないセルの動作がこれに類似していることを理解する必要がある。
【0050】
しかし、場合によっては、流体が音にどのように反応するかを正確に研究することが望ましい。このような場合には、セル14はまた、研究される音響エネルギー波の純粋な単一通過(すなわち音響反射がない)を可能にする環境を提供しなければならない。バッフル144(図4)はセルの端部で音を吸収し、反響を生じさせない。流体に対してこの単一通過音を曝露することにより、SL光の異なる出力結果が得られる。
【0051】
図3に戻ると、図3を使用することにより、SCI処理流体に対して選択される状態を、処理流体中のキャビテーションがキャビテーションのしきい値未満になるように、維持することができる。例えば、出力密度を約1.9ワット/cm未満に維持することにより、キャビテーションを定常キャビテーションの領域に維持する。これが望ましいのは、例えば、過渡キャビテーションの間に放出されるエネルギーが、処理流体によりクリーニングされる物品または別に処理される物品に損傷を与えることが既知である場合、または過渡キャビテーションがいくつかの他の理由のために好ましくない場合である。線120および122は、線124に類似する形状を有するが、所定の条件の下では、これらの2つの流体における光出力の急激な増加領域は僅かに移動する。線122と線120とを比較すると、電源の周波数が流体のキャビテーション特性に影響を与えることを示している。
【0052】
図3に示されている処理流体のソノルミネセンスの挙動は、流体中のキャビテーションを制御する方法、詳細には、処理流体が、過渡キャビテーションの状態ではなく、定常キャビテーションの状態に留まることを保証する方法が提供される。この方法は、
a)ある一定量の処理流体を特定の出力レベルの音響エネルギーに曝露することと、
b)一定期間にわたり流体からの光子出力を測定することと、
c)光子出力が所望のレベルから逸脱すると、略所望のレベルに光子出力に戻す修正ステップを開始することと、
の各ステップを備える。
【0053】
この処理は図1および2に示されているセル14を使用して実行できる。初期手順では、図3のようなグラフは特定の処理流体に対して求められ、所望レベルの定常キャビテーションを生じる状態が記録される。例えば、図3では、1ワット/cmの出力密度の状態がSCI処理流体に対して選択される。この点で、光子数は約1500カウント/秒であり、したがって、これがこの方法に対する所望の光子出力である。
【0054】
SCI処理流体を使用する生産ラインにおける音響エネルギー処理タンクの状態は、以前に決定されたレベル(例えば、半導体ウェーハクリーニングタンクの音響変換器は1ワット/cmで駆動される)に設定される。その後、音響エネルギー処理タンクからのSCI処理流体の連続的な流れを、ポート42を通してセル14に入れることができる。処理流体はキャビティ84を通って流れ、変換器18が流れる処理流体に音響エネルギーを伝達する間にポート44から出る。処理流体から結果として生じる光放出はセンサ22により観測される。光の出力が略1500カウント/秒のレベルから変化すると、警告が発生し、修正ステップが取られる。
【0055】
修正ステップでは、単に処理を停止することもできる。代替として、処理パラメータは、キャビテーションの状態(光子数により示される)を所望のレベルに強制的に戻す試みにおいて変えることができる。処理パラメータは、図1に対して以前に説明されたパラメータを含む、任意の該当する処理パラメータであってもよい。これらは、処理流体中の気体濃度の変更(気体注入ブロック66を使用した)、処理流体の温度の変更(温度制御68を使用した)、または処理流体の化学的補償の変更(化学物質注入ブロック64を使用した)である。代替として、電源26の周波数または出力を変えることも可能である。
【0056】
この方法の利用を可能にする装置は、流体を保持する遮光容器などの容器(セル14)と、音響エネルギーを生成する音響エネルギー生成手段(変換器18)(音響エネルギー生成手段は流体が容器内に保持される間に流体に音響エネルギーを伝達するように配置される)と、音響エネルギーにより流体中にキャビテーションが発生するときに、容器内に保持された流体中のキャビテーションを検出および/または定量化するキャビテーション検出手段(センサ22)とを備える。好ましい実施形態では、キャビテーション検出手段は、光電子増倍管などの光検出手段を備える。しかし、他の実施形態では、流体中の圧力変化を利用して流体のキャビテーションを検出および/または定量化することができ、したがって、ハイドロフォン140はキャビテーション検出手段として機能できる。
【0057】
装置に追加できる追加形態には、音響エネルギー生成手段に様々な量の電力を供給する出力発生手段(電源26)と、光検出手段からの流体から放出される光データを収集するコンピュータ手段(コンピュータ30)と、化学物質注入ブロック64と、気体注入ブロック66と、温度制御68と、溶解された気体監視装置76とを含む。さらに別の形態には、容器に流体を注入する流体注入手段(ポンプ72)と、流体に溶解される1つまたは複数の気体の濃度を測定する流体流入手段に結合された気体監視手段(気体監視装置76)と、流体の温度を制御する温度制御手段(温度制御68)とを含む。
【0058】
本発明は現在の好ましい実施形態の観点から説明されているが、このような開示内容は限定を意味するものと解釈されるべきではない。様々な変更および修正は、上述の開示内容を読んだ後の当業者には明らかである。したがって、添付の特許請求の範囲は、本発明の真の範囲内に含まれるすべて変更および修正を範囲に含むと解釈されるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体中のキャビテーションの特性を決定する装置であって、
流体を保持する容器と、
音響エネルギーを生成する音響エネルギー発生手段であって、前記音響エネルギー発生手段は前記流体が前記容器に保持される間に、前記流体に前記音響エネルギーを伝達するように配置されている、音響エネルギー発生手段と、
キャビテーションが前記音響エネルギーにより前記流体中に発生すると、前記容器内に保持される前記流体中のキャビテーションを検出するキャビテーション検出手段と、
を備える、装置。
【請求項2】
前記キャビテーション検出手段は光検出手段を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記光検出手段は光電子増倍電管を備える、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記キャビテーション検出手段は圧力測定手段を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記圧力測定手段はハイドロフォンを備える、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記音響エネルギー発生手段は圧電性結晶を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
音響エネルギーを吸収するバッフル手段をさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記音響エネルギー発生手段に可変量の電力を供給する電力発生手段と、
前記光検出手段からの前記流体から放出される前記光のデータを収集するコンピュータ手段と、
をさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
流体中の前記キャビテーションを制御する方法であって
a)ある一定量の流体が音響エネルギーを生成する音響エネルギー発生手段を備える容器内に保持される間に、前記ある一定量の流体を特定の出力レベルおよび周波数で音響エネルギーに曝露することであって、前記音響エネルギー発生手段は前記流体が前記容器に保持される間に前記流体に前記音響エネルギーを伝達するように配置され、前記容器はさらに、キャビテーションが前記音響エネルギーにより前記流体に発生するときに、前記容器内に保持される流体からの光子出力を測定する光検出手段を備えることと、
b)一定期間にわたり前記流体からの前記光子出力を測定することと、
c)前記光子出力が所望のレベルから逸脱すると、前記光子出力を略前記所望のレベルに戻す修正ステップを開始することと、
を備える方法。
【請求項10】
前記修正ステップは、
前記流体の前記温度を変化させることと、
前記流体中の気体または他の化学物質の前記濃度を変化させることと、
前記処理を停止すること、
前記特定の出力レベルを変更すること、
前記出力レベルの前記周波数を変更すること、
からなる群から選択される、請求項9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−255791(P2012−255791A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−156337(P2012−156337)
【出願日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【分割の表示】特願2007−532503(P2007−532503)の分割
【原出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(504172016)プロダクト・システムズ・インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】