キャリア流体内への分子の送達のための微細加工されたデバイス
【課題】キャリア流体中への分子の(例えば、静脈内送達される流体中への薬物の)正確かつ信頼性の高い送達のためのデバイスおよび方法を提供する。
【解決手段】キャリア流体内への分子の制御放出のための装置であって、以下:(i)放出のための該分子を収容する複数のリザーバを有する、マイクロチップデバイス10、および(ii)キャリア流体が流れ得る構造を備える混合チャンバであって、該混合チャンバは、該キャリア流体の流れに関して、該マイクロチップデバイスに隣接するかまたは該マイクロチップデバイスの下流に位置する、混合チャンバ、を備え、ここで、該分子が、該リザーバの1つ以上からの該分子の放出に続いて、該キャリア流体と混合される、構成とする。
【解決手段】キャリア流体内への分子の制御放出のための装置であって、以下:(i)放出のための該分子を収容する複数のリザーバを有する、マイクロチップデバイス10、および(ii)キャリア流体が流れ得る構造を備える混合チャンバであって、該混合チャンバは、該キャリア流体の流れに関して、該マイクロチップデバイスに隣接するかまたは該マイクロチップデバイスの下流に位置する、混合チャンバ、を備え、ここで、該分子が、該リザーバの1つ以上からの該分子の放出に続いて、該キャリア流体と混合される、構成とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
本発明は、一般に、キャリア流体中への化学分子の制御送達のための、小型化されたデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
正確な少ない量の1つ以上の化学物質をキャリア流体に正確に送達することは、化学および工業の多くの異なる分野において、非常に重要である。医学における例としては、静脈内か、肺または吸入方法によるか、あるいは脈管ステントデバイスからの薬物の放出による方法を使用する、患者への薬物の送達が挙げられる。診断における例としては、DNAまたは遺伝子の分析、コンビナトリアルケミストリー、あるいは環境サンプルにおける特定の分子の検出を実施するために、流体中に試薬を放出することが挙げられる。キャリア流体中への化学物質の送達を包含する他の適用としては、デバイスから空気への芳香性物質および治療芳香剤の放出、ならびに飲料を製造するための液体中への香味剤の放出が挙げられる。
【0003】
Johnsonらに対する特許文献1は、複数のポンピングチャネルが独立して薬物および流体を注入する、静脈内薬物送達のための自動化デバイスを開示する。これらのデバイスおよび送達方法は、薬物が注意深く予め混合され、そして液体形態で貯蔵されることを必要とする。しかし、液体形態は、いくらかの薬物の安定性を低下させ、従って、薬物濃度の所望でない変動を引き起こし得る。静脈内キャリア流体中に導入される薬物の量をより正確かつ信頼性高く測定すること、ならびに薬物をより安定な形態で(例えば、固体として)貯蔵することが、所望される。
【0004】
Johnsonに対する特許文献2は、脈管薬物送達デバイスとしての、多孔質金属ステントの使用を開示する。このデバイスは、報告によれば、薬物を多孔質構造のステントから周囲の組織へと送達する。しかし、このようなデバイスは、これらが送達し得る薬物の数を制限され、そして薬物送達の速度と時間との両方の制御において、厳しく制限される。なぜなら、送達速度は、多孔質構造によって支配される(すなわち、薬物が受動的に放出される)からである。ステントから、例えば移植されたステントを通る、血流への1つ以上の種々の薬物の送達の時間および速度の、能動的かつより正確な制御を提供することが、有利である。
Santiniらに対する特許文献3および特許文献4に記載される、マイクロチップ送達デバイスは、種々の分子(例えば、薬物)の放出の速度と時間との両方を、連続的な様式かまたはパルス化された様式かのいずれかで制御するための手段を提供する。このデバイスは、さらに、化学物質をその最も安定な形態で貯蔵するための手段を提供する。これらの特許は、例えば、薬物の送達のために、マイクロチップデバイスを単独で患者に移植することを記載する。しかし、これらのマイクロチップデバイスによって提供される分子放出の正確な制御を、他の種々の応用に適合させることが有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,547,470号明細書
【特許文献2】米国特許第5,972,027号明細書
【特許文献3】米国特許第5,797,898号明細書
【特許文献4】米国特許第6,123,861号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の課題は、キャリア流体中への分子の(例えば、静脈内送達される流体中への薬物の)正確かつ信頼性の高い送達のためのデバイスおよび方法を提供することである。
【0007】
本発明のさらなる課題は、キャリア流体中に放出するための分子を安定な形態で好都合に貯蔵するためのデバイスおよび方法を提供することである。
【0008】
本発明の別の課題は、薬物の送達の時間および速度に対する正確な制御を有する、ステント配置デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要旨)
キャリア流体を介する、ある部位への分子の送達のための装置および方法が提供される。この装置は、放出のための分子を収容するリザーバを有する、マイクロチップデバイスを備える。この装置および方法は、分子の能動的かまたは受動的な制御放出を提供する。このマイクロチップデバイスは、以下を備える:(1)基板、(2)放出のための分子を収容する、この基板における少なくとも2つのリザーバ、および(3)このリザーバの上かまたはこのリザーバの一部の内部に位置し、そして分子を覆うリザーバキャップであって、これによって、このリザーバキャップの崩壊または破裂によってかまたはその際に、拡散によってこのデバイスから分子が制御可能に放出される、リザーバキャップ。単一のマイクロチップのリザーバの各々は、異なる分子、ならびに/または異なる量および濃度を収容し得、独立して放出され得る。充填されたリザーバは、受動的にかまたは能動的に崩壊する材料でキャップされ得る。受動放出リザーバキャップは、分子を経時的にこのリザーバの外へと受動的に拡散させる材料を使用して、作製され得る。能動放出リザーバキャップは、電気エネルギー、機械的エネルギー、または熱エネルギーの適用の際に崩壊する材料を使用して、作製され得る。能動デバイスからの放出は、予めプログラムされたマイクロプロセッサ、遠隔操作、またはバイオセンサによって、制御され得る。
【0010】
分子が放出されるキャリア流体は、例えば、静脈内注入物、飲料混合物、脈管流体、および気相のような環境であり得る。好ましい実施形態において、マイクロチップデバイスは、リザーバに収容された分子を、患者に静脈内送達される流体中に放出する。
【0011】
別の実施形態において、マイクロチップデバイスは、薬物(例えば、抗再狭窄剤またはプラバスタチンもしくは他の高血圧薬剤)の送達のためのステントに組み込まれる。
【0012】
なお別の実施形態において、マイクロチップは、分子(これは、限定されないが、エアロゾル、蒸気、気体、またはその混合物の形態であり得る)を、治療的または審美的目的のいずれかの流れに送達する。
【0013】
一般に、マイクロチップは、分子種をその最も安定な形態(これは、固体、液体、ゲル、または気体であり得る)で貯蔵するための方法を提供する。受動的かまたは能動的かのいずれかのリザーバ開口の際に、1つ以上の型の分子が、パルス化された様式かまたは連続的な様式かのいずれかで、キャリア流体中に放出される。これらの方法は、送達される分子の量、ならびに送達が起こる時間および速度の、微細な制御を提供する。さらに、この分子送達デバイスは、分子の貯蔵寿命(すなわち、安定性)を延長させて、新たな潜在的用途を与える。
本発明は、さらに、以下の手段を提供する。
(項目1) 分子の制御放出のための装置であって、以下:
(i)放出のための該分子を収容する複数のリザーバを有する、マイクロチップデバイス、および
(ii)キャリア流体の容器、
を備え、ここで、該分子が、該リザーバの該分子の放出に続いて、該キャリア流体と混合される、装置。
(項目2) 前記容器と流体連絡する混合チャンバをさらに備え、前記分子は、該混合チャンバ内で前記キャリア流体と混合される、項目1に記載の装置。
(項目3) ミキサーをさらに備える、項目1に記載の装置。
(項目4) ポンプをさらに備える、項目1に記載の装置。
(項目5) 前記分子が、薬物分子であり、そして前記キャリア流体が、静脈内投与のために生理学的に受容可能な流体である、項目1に記載の装置。
(項目6) 前記マイクロチップデバイスの前記リザーバが、リザーバキャップによって覆われ、該リザーバキャップが、前記分子を前記キャリア流体中にエキソビボで放出するように、選択的に破裂または崩壊し得る、項目5に記載の装置。
(項目7) 前記キャリア流体が、水、生理食塩水、血漿、全血、および糖溶液からなる群より選択される、項目5に記載の装置。
(項目8) 前記容器がIVバッグまたは瓶である、項目5に記載の装置。
(項目9) 混合チャンバをさらに備える、項目5に記載の装置。
(項目10) 前記混合チャンバから延びる可撓性中空管をさらに備える、項目9に記載の装置。
(項目11) 前記リザーバ内の前記分子が、前記キャリア流体との接触の前には、安定な乾燥形態である、項目1に記載の装置。
(項目12) 患者への後の投与のためのキャリア流体への薬物の送達のための装置であって、以下:
(i)放出のための分子を収容する複数のリザーバを有する、マイクロチップデバイス、および
(ii)混合チャンバ、
を備え、ここで、該分子が、該リザーバからの該分子の放出に続いて、該混合チャンバ内の該キャリア流体と混合される、装置。
(項目13) IVバッグまたは瓶をさらに備える、項目12に記載の装置。
(項目14) 前記混合チャンバがIVバッグまたは瓶である、項目12に記載の装置。
(項目15) 前記キャリア流体が、水、生理食塩水、血漿、全血、および糖溶液からなる群より選択される、項目12に記載の装置。
(項目16) 前記混合チャンバが、出口を備え、該出口から、キャリア流体と薬物との混合物が流れ、そしてここで、中空管が、患者への静脈内接続のために、該出口に接続される、項目12に記載の装置。
(項目17) 2つ以上のマイクロチップデバイスを備える、項目12に記載の装置。
(項目18) 前記混合チャンバが、1つ以上の交換可能なカートリッジを受容するよう適合されたコンソール内に提供され、該カートリッジの各々が、少なくとも1つのマイクロチップデバイスを収容する、項目12に記載の装置。
(項目19) 前記マイクロチップデバイスと通信する電気制御システムをさらに備える、項目12に記載の装置。
(項目20) 前記通信が無線である、項目19に記載の装置。
(項目21) 前記マイクロチップデバイスに収容されている前記薬物を同定するラベルを有する、項目12に記載の装置。
(項目22) 前記ラベルが、電子的に読み取り可能な形態の情報を含む、項目21に記載の装置。
(項目23) 前記混合チャンバが、計量された用量の呼吸器に組み込まれる、項目12に記載の装置。
(項目24) インビボでの分子の放出のためのデバイスであって、以下:
医療ステント、および
放出のための該分子を収容する複数のリザーバを有する、マイクロチップデバイス、
を備え、ここで、該マイクロチップデバイスが、該医療ステントに組み込まれるか、または該医療ステントの表面に取り付けられる、デバイス。
(項目25) インビボで薬物分子を放出するためのデバイスであって、以下:
微細加工された複数のリザーバを有する医療ステントであって、該リザーバが、放出のための該分子を収容する、医療ステント、
を備える、デバイス。
(項目26) 前記ステントが心臓血管ステントである、項目25に記載のデバイス。
(項目27) 前記薬物が抗再狭窄剤である、項目25に記載のデバイス。
(項目28) 芳香性分子を放出するための装置であって、以下:
放出のための該芳香性分子を収容する複数のリザーバを有する、マイクロチップデバイス、および
キャリア流体の容器、
を備える、装置。
(項目29) 飲料に分子を添加するためのシステムであって、以下:
放出のための芳香性分子を収容する複数のリザーバを有するマイクロチップデバイス、および
飲料または飲料ベースの容器
を備える、システム。
(項目30) 分子の制御送達のためのデバイスであって、以下:
(i)複数のリザーバを有するマイクロチップデバイスであって、該リザーバが、該分子を収容し、そしてリザーバキャップによって密封される、マイクロチップデバイス、および
(ii)ポンプを備える移植された送達システム、
を備え、ここで、該マイクロチップデバイスの該リザーバが、インビボで、送達システムにおいて流体の流れに選択的に曝露され、そしてここで、該分子が、該送達システムにおいて流体が流れる間に、該リザーバキャップの崩壊の際に、該リザーバから放出される、デバイス。
(項目31) ある部位へと分子を送達するための方法であって、以下:
(a)項目1に記載の装置を提供する工程;
(b)前記マイクロチップデバイスの前記リザーバを、前記キャリア流体に選択的に曝露する工程であって、これによって、前記分子を該リザーバから放出させ、そして該キャリア流体と混合して、分子/キャリア流体混合物を形成する、工程、ならびに
(c)該分子/キャリア流体混合物を該部位に移送する工程、
を包含する、方法。
(項目32) 前記部位が、ヒトまたは動物であり、そしてここで、前記分子が、薬物分子である、項目31に記載の方法。
(項目33) 前記移送する工程が、静脈内投与による、項目32に記載の方法。
(項目34) 前記キャリア流体が、水、生理食塩水、血漿、全血、および糖溶液からなる群より選択される、項目33に記載の方法。
(項目35) ある部位へと分子を送達するための方法であって、以下:
(a)項目12に記載の装置を提供する工程;
(b)前記マイクロチップデバイスの前記リザーバを、前記キャリア流体に選択的に曝露する工程であって、これによって、前記分子を該リザーバから放出させ、そして該キャリア流体と混合して、分子/キャリア流体混合物を形成する、工程、ならびに
(c)該分子/キャリア流体混合物を該部位に移送する工程、
を包含する、方法。
(項目36) 前記部位が、ヒトまたは動物であり、そしてここで、前記分子が、薬物分子である、項目35に記載の方法。
(項目37) 前記移送する工程が、静脈内投与による、項目36に記載の方法。
(項目38) 前記キャリア流体が、水、生理食塩水、血漿、全血、および糖溶液からなる群より選択される、項目37に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、化学物質送達のための代表的なマイクロチップデバイスの斜視図である。
【図2】図2a〜eは、2つの加工された基板部分が一緒にされて形成された基板を有する、デバイスの種々の実施形態の断面概略図である。
【図3】図3a〜cは、マイクロチップデバイスからキャリア流体中への分子の能動的放出を示す、断面図である。
【図4】図4a〜cは、キャリアガス中への分子の能動的放出を示す断面図である。
【図5】図5a〜cは、機械的力の直接的な付与によって破裂する、マイクロチップデバイスのリザーバキャップを示す、断面図である。
【図6】図6a〜bは、超音波の適用によって破裂する、マイクロチップデバイスのリザーバキャップを示す、断面図である。
【図7】図7a〜cは、マイクロチップデバイスからキャリア流体中への分子の受動的放出を示す、断面図である。
【図8A】図8aは、静脈内送達される流体中に薬物を放出する薬物送達マイクロチップを組み込まれた、静脈内薬物送達システムの2つの実施形態の断面図である。
【図8B】図8bは、静脈内送達される流体中に薬物を放出する薬物送達マイクロチップを組み込まれた、静脈内薬物送達システムの2つの実施形態の断面図である。
【図8C】図8cは、マルチチャンバインターフェースコンソールを備え、そしてデジタル制御ステーションと通信する、静脈内薬物送達システムの斜視図である。
【図9】図9a〜cは、ステント−マイクロチップ薬物送達デバイスの1つの実施形態を示し、斜視図(図9a)および2つの断面図(図9bおよび9c)が示されている。
【図10】図10a〜cは、マイクロチップ薬物送達デバイスが組み込まれた、吸入デバイス(計量された用量の吸入器)の1つの実施形態を示す。
【図11】図11a〜dは、芳香性物質送達システムの1つの実施形態を示す。
【図12】図12は、飲料への添加物の導入のためのシステムの1つの実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(発明の詳細な説明)
(I.送達装置およびシステム)
この送達システムは、1つ以上のマイクロチップデバイス(例えば、本明細書中およびSantiniらに付与された米国特許第5,797,898号および米国特許第6,123,861号に記載のマイクロチップデバイス)。同特許の全体を参考のため援用する。)を含む。例えば、図1を参照されたい。図1は、典型的なマイクロチップデバイス10を示す。このマイクロチップデバイス10は、基板12と、リザーバ16と、リザーバキャップ14とを備える。このマイクロチップデバイスは、分子のキャリア流体中への能動的放出および受動的放出を提供する装置と一体化されている。この装置はある量のキャリア流体を含み得る。または、キャリア流体を装置の外部に設けても良い。
【0016】
(A.マイクロチップデバイス)
マイクロチップデバイスは典型的には、複数のリザーバを有する基板を含む。これらのリザーバは、放出される分子を含む放出システムを備える。いくつかの実施形態において、マイクロチップデバイスは、リザーバの開口部を被覆する1つ以上のリザーバキャップをさらに含む。これらのリザーバキャップの設計および形成に用いることが可能な材料としては、分子に対して選択的に透過性の材料、崩壊して分子を放出させる材料、破裂して分子を放出させる材料、またはこれらの組み合わせがある。能動的放出システムは、制御回路構成および電源をさらに含み得る。
【0017】
(1.基板)
基板は、エッチングされたリザーバ、成形されたリザーバまたは機械加工されたリザーバを含み、マイクロチップの支持部として機能する。基板として用いることが可能な材料としては、支持部として機能することができ、エッチング、成形または機械加工に適し、送達対象分子および周囲の流体(例えば、水、有機溶媒、血液、電解質または他の溶液)に対して不浸透性である材料であればよい。基板材料の例を挙げると、セラミック、半導体および分解性ポリマーおよび非分解性ポリマーがある。薬物を身体外部に送達する場合(例えば、吸入器中のガス状ストリームに薬物を放出する場合)、基板そのものに毒性が無いことが好ましいが、これは必須条件ではない。インビボ用途(例えば、ステントによる脈管流体中への薬物送達)の場合、殺菌済みの生体適合性材料を用いるのが好ましい。そうはいっても、用いる前に、毒性材料または別の場合において生体非適合性の材料を生体適合性材料(例えば、ポリ(エチレングリコール)またはテトラフルオロエチレンなどの材料)に封入してもよい。
【0018】
薬物送達以外の用途(例えば、診断または芳香物質の送達)の場合、基板の生体適合性はほとんど問題にならない場合があり得る。強靭で非分解性であり、また容易にエッチング可能でもありかつ送達対象分子および周囲の流体に対して不浸透性である基板の一例としてシリコンがある。ある種類の強靭な生体適合性材料の一例として、Uhrichらによる「Synthesis and characterization of degradable poly(anhydride−co−imides)」(Macromolecules、28:2184〜93(1995))に記載されているポリ(酸無水物−co−イミド)がある。
【0019】
基板は、1種類のみの材料で形成してもよいし、または、複合物または多層材料(例えば、数層に相互結合された状態の同じまたは異なる基板材料)であってもよい。複数の部分からなる基板は、セラミック、半導体、金属、ポリマーまたは他の基板材料からなる任意の数の層を含み得る。2つ以上の完全なマイクロチップデバイスを相互に結合させて、図2a〜図2eに例示的に示すような複数の部分からなる基板デバイスを形成してもよい。図2a〜図2eの比較のために、図2aは基板210を有する「単一の」基板のデバイス200を示し、この基板210において、リザーバ220は放出対象分子240で充填されている。リザーバ220はリザーバキャップ230で被覆され、バッキングプレート250または他の種類のシールによってシーリングされる。図2bは、基板を有するデバイス300を示し、この基板は、下部基板部310bに結合された上部基板部310aから形成される。上部基板部310a中のリザーバ320aは、下部基板部310b中のリザーバ320bと連絡している。リザーバ320a/320bは、放出対象分子340で充填され、リザーバキャップ330によって被覆され、バッキングプレート350または他の種類のシールでシーリングされる。図2cは、基板を有するデバイス400を示し、この基板は、下部基板部410bに結合された上部基板部410aから形成される。上部基板部410aには、下部基板部410b中のリザーバ420bと連絡するリザーバ420aがある。リザーバ420bはリザーバ420aよりもずっと大きく、リザーバ420a/420bは放出対象分子440を含む。リザーバ420a/420bは、放出対象分子440で充填され、リザーバキャップ430によって被覆され、バッキングプレート450または他の種類のシールでシーリングされる。図2dは、基板を有するデバイス500を示す。この基板は、下部基板部510bに結合された上部基板部510aから形成される。上部基板部510aには、第1の放出対象分子540aを含むリザーバ520aがある。下部基板部510bには、第2の放出対象分子540bを含むリザーバ520bがある。第1の放出対象分子540aは、第2の放出対象分子540bと同じであるかまたは異なる放出対象分子であり得る。リザーバ520aは、リザーバキャップ530aによって被覆され、(アノード材料から形成された)リザーバキャップ530bによってシーリングされ、下部基板部510bによって部分的にシーリングされる。リザーバ520bは、内部リザーバキャップ530bによって被覆され、バッキングプレート550または他の種類のシールによってシーリングされる。カソード560aおよび560bは、アノードリザーバキャップ530bと電位を形成するような位置に配置される。図2dに示すデバイスの一実施形態において、先ず、第2の放出対象分子540bは、リザーバキャップ530bの崩壊を通じてまたはリザーバキャップ530bの崩壊の後に、リザーバ520bからリザーバ520aに放出される。すると、第2の分子は第1の放出対象分子540aと混合され、その後、この分子混合物は、リザーバキャップ530aの崩壊を通じてまたはリザーバキャップ530aの崩壊の後に、リザーバ520aから放出される。図2eは、別のリザーバ形状構成を断面図として示したものである。基板部310a/410a/510aは、同じまたは異なる材料から形成され得、基板部310b/410b/510bの厚さと同じまたは異なる厚さを有し得る。これらの基板部を結合または取り付ける前に個別に処理(例えば、エッチング)してもよいし、または、(例えば、SOI基板の場合のように)これらの基板部を形成した後に、リザーバまたは他のフィーチャをこれらの基板部にエッチングまたは微細機械加工を行ってもよい。
【0020】
(2.放出システム)
送達される分子は、その純粋な形態で、液体の溶液またはゲルとして、リザーバに挿入され得るか、あるいはこれらは、放出システムの内部にかまたは放出システムによって、カプセル化され得る。本明細書中において使用される場合に、「放出システム」とは、固体もしくは液体として、分子が純粋な形態であるか、あるいは分解性材料、またはマトリックスからの拡散もしくはマトリックスの崩壊によって組み込まれた分子を放出する材料で形成されるマトリックス中にあるかの、両方の状況を包含する。分子は、時々、放出システムに収容され得る。なぜなら、放出システムの分解、溶解、または拡散の特性が、分子の放出速度を制御するための方法を提供するからである。分子は、放出システムに、相同にかまたは異種に分配され得る。放出システムの選択は、分子の放出の所望の速度に依存する。非分解性放出システムと分解性放出システムとの両方が、分子の送達のために使用され得る。適切な放出システムとしては、ポリマーおよびポリマーマトリックス、非ポリマーマトリックス、または無機物および有機物の賦形剤および希釈剤(例えば、炭酸カルシウムおよび糖であるが、これらに限定されない)を含む。放出システムは、天然物であっても合成物であってもよいが、合成放出システムは、放出プロフィールのより良好な特徴付けに起因して、代表的に好ましい。
【0021】
放出形は、放出が所望される期間に基づいて選択される。身体の外側への適用の場合には、放出時間は、数秒間から数ヶ月間の範囲であり得る。対照的に、インビボ適用(例えば、ステント薬物送達)に対する放出時間は、一般に、数分間から1年間の範囲内である。いくつかの場合において、リザーバからの連続的な(一定の)放出が、最も有用であり得る。別の場合において、リザーバからのパルス化された(バルク)放出が、より効果的な結果を提供し得る。複数のリザーバを使用することによって、1つのリザーバからの単一のパルスが、パルス化された放出に転換され得る。放出システムと他の材料とのいくつかの層を、単一のリザーバに組み込んで、単一のリザーバからのパルス化された送達を達成することもまた、可能である。連続的な放出は、分解するか、溶解するか、または延長した期間にわたって分子の拡散を可能にする放出システムを組み込むことによって、達成され得る。さらに、連続的な放出は、迅速な反復(succession)で分子のいくつかのパルスを放出することによって、シミュレートされ得る。
【0022】
これらの放出システム材料は、種々の分子量の分子が、リザーバから、拡散によってかまたは材料を通ってかまたは材料の分解によって、放出されるように、選択され得る。身体の外側の技術に関する1つの実施形態において、放出システムの分解または崩壊は、その平衡蒸気圧を増加させて、放出システムの蒸発を引き起こすことによって起こり得、これによって、分子を放出する。このことは、放出システムの温度を、薄層抵抗器を用いて直接的にかまたはキャリア液体および/もしくは気体との化学的相互作用によって受動的に、上昇させることによって、達成され得る。インビボ適用の場合には、生分解性ポリマー、生分解性ヒドロゲル、およびタンパク質の送達システムが、拡散、分解、または溶解によって分子を放出するために使用されることが、好ましくあり得る。一般に、これらの材料は、酵素化水分解または水への曝露によって、あるいは表面または内部の侵食によってかのいずれかで、分解する。代表的な、生分解性の合成ポリマーとしては、以下が挙げられる;ポリ(アミノ酸)およびポリ(ペプチド)のような、ポリ(アミド);ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸−co−グリコール酸)、およびポリ(カプロラクトン)のような、ポリ(エステル);ポリ(酸無水物);ポリ(オルトエステル);ポリ(カーボネート);およびこれらの化学的誘導体(例えば、アルキル、アルキレンのような化学基の置換、付加、ヒドロキシ化、酸化、および当業者によって慣用的になされる他の改変)、コポリマーならびにこれらの混合物。代表的な非生分解性の合成ポリマーとしては、以下が挙げられる:ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレングリコール)、およびポリ(テトラメチレンオキシド)のような、ポリ(エーテル);ビニルポリマー;メチル、エチル、他のアルキル、ヒドロキシエチルのメタクリル酸エステル、アクリル酸およびメタクリル酸のような、ポリ(アクリレート)およびポリ(メタクリレート);ならびにポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、およびポリ(酢酸ビニル)のような他のもの;ポリ(ウレタン);セルロースならびにそのアルキル、ヒドロキシアルキル、エーテル、エステル、ニトロセルロース、および種々の酢酸セルロースのような誘導体;ポリ(シロキサン);およびこれらの化学的誘導体(例えば、アルキル、アルキレンのような化学基の置換、付加、ヒドロキシ化、酸化、および当業者によって慣用的になされる他の改変)、コポリマーならびにこれらの混合物。
【0023】
(3.リザーバキャップ)
((i)崩壊または拡散による受動的放出)
受動的タイミングを利用した放出薬物送達デバイスにおいて、リザーバキャップを形成する材料は、経時的に分解もしくは溶解するかまたは分解も溶解もせず、かつ、送達対象分子に対して浸透性である材料である。これらの材料は好適にはポリマー材料である。リザーバキャップ用途として選択することが可能な材料としては、分子の放出を異なるリザーバから異なるタイミングで(時には)異なる速度で行うことを可能にするような、様々な分解速度、溶解速度または浸透性が得られる材料がある。異なる放出タイミング(放出タイミングを遅らせる時間の長さ)を得るために、キャップは、異なるポリマー、架橋度が異なる同じポリマーまたはUVによって重合可能なポリマーから形成され得る。後者の場合、このポリマーをUV光に露出させる時間を変えると、架橋度が変わり、キャップ材料の拡散特性または分解速度もしくは溶解速度も異なってくる。異なる放出タイミングを得るための別の方法として、1種類のポリマーを用いて、そのポリマーの厚さを変更する方法がある。いくつかのポリマーの肉厚の膜を用いると、放出タイミングは遅延する。ポリマー、架橋度またはポリマー厚さの任意の組み合わせを変更して、特定の放出タイミングまたは速度を得ることが可能である。一実施形態において、送達対象分子を含む放出システムを、分子に対してほぼ不浸透性である分解性キャップ材料で被覆する。リザーバから分子を放出するタイミングは、キャップ材料の分解所要時間または溶解所要時間によって限定される。別の実施形態において、キャップ材料は非分解性であり、送達対象分子に対して浸透性である。使用される材料の物理的特性、その架橋度およびその厚さによって、キャップ材料を通じて分子が拡散するために必要な時間が決定する。放射対象分子の放出システムからの拡散に制約がある場合、そのキャップ材料は、放出の開始を遅延させる。放射対象分子のキャップ材料を通過する拡散に制約がある場合、そのキャップ材料は、分子の放出速度および放出開始の遅延を決定する。
【0024】
((ii)崩壊による能動的放出)
能動的タイミングを利用した放出デバイスの一実施形態において、リザーバキャップは、導電性材料の薄膜からなる。この導電性薄膜は、リザーバ上に堆積され、所望のジオメトリにパターニングされ、アノードとして機能する。カソードも、デバイス上に作製される。これらのカソードのサイズおよび配置は、デバイスの用途および電位制御方法に依存する。アノードは、酸化を起こさせる電極として定義される。アノードおよびカソードを作製する際に用いることが可能な材料としては、電流または電位を受けると溶液に溶解するかまたは可溶性イオンもしくは酸化化合物を形成することができる(電気化学的溶解が可能な)導電性材料であれば任意の材料でよい。加えて、例えば、アノード近隣の局所のpHが変化することによって不溶性イオンまたは酸化生成物が可溶性になる場合、これらの酸化生成物を電位に応答して通常生成する材料を用いてもよい。リザーバキャップ材料として適切な材料を挙げると、金属(例えば、銅、金、銀、および亜鉛)、ならびに以下の文献に記載のいくつかのポリマーがある(例えば、Kwonらによる「Electrically erodible polymer gel for controlled release of drug」、Nature、354:291〜93(1991);およびBaeらによる「Pulsatile drug release by electric stimulus」、ACS Symposium Series、545:98〜110(1994)に記載の材料)。
【0025】
((iii)破裂による放出)
別の実施形態において、リザーバキャップは、分子を覆ってリザーバ上に配置される。デバイスまたはその一部が加熱または冷却されると、分子はリザーバから放出され、これにより、リザーバキャップが破裂する。本明細書において用いられるように、「破裂」という用語は、破断または何らかの他の形態の機械的破損と、温度変化に応答して発生する相変化(例えば、溶解)に起因する構造的完全性の損失とを指す(ただし、これらの機構のうち特定の機構について言及される場合は除く)。
【0026】
好適な実施形態において、加熱または冷却が生じると、リザーバ中の分子は熱膨張(すなわち、体積が増加)する。放出システムは、所与の温度(T1)になると、リザーバの体積を完全に充填する。温度T2まで加熱されると、放出システムは、膨張し始めて、リザーバキャップに力を加える。この力がキャップの破断強さを超えると、リザーバキャップは破断し、分子は放出される。この実施形態の別の例において、分子は気化または反応し得、これにより、リザーバ内の圧力は、リザーバキャップが機械的応力によって破裂するくらいに十分なレベルまで上昇する。リザーバに熱が加えられる前は、リザーバ中の圧力は、リザーバキャップを破裂させるのに必要な圧力よりも低い。熱が付加されると、リザーバ内の平衡圧力が上昇し、キャップ材料にかかる力は増加する。温度がさらに上昇すると、圧力も引き続き上昇して、内部圧力がリザーバキャップの破断強さよりも大きくなると、圧力上昇は止まる。リザーバ中の分子の加熱(例えば、雰囲気温度を超える温度までの加熱)によって引き起こされる現象としては典型的には、熱膨張、気化または反応がある。しかし、特定の用途においては、リザーバ中の分子の冷却によって熱膨張または反応が引き起こされる場合もある。例えば、凍結すると膨張するものとしては水がある。水性分子を覆うリザーバキャップの材料として冷却されると熱収縮を起こす材料を用いる場合、冷却を十分にすることによって機械的破損をさらに高レベルにするはずである。
【0027】
一実施形態において、リザーバキャップの破裂は、リザーバキャップ材料そのものの物理的(すなわち、構造的変化)または化学的変化(例えば、温度変化によって生じる変化)によって引き起こされる。例えば、加熱されると膨張を起こす材料でリザーバキャップを構成するかまたはそのような材料をリザーバキャップに添加することができる。リザーバキャップを固定位置に固定して加熱すると、そのリザーバキャップは膨張して、体積増加を生じることによって亀裂または破裂を起こす。この実施形態では、リザーバの内容物を最小に加熱または全く加熱せずに、リザーバキャップを加熱することが可能である。このような特徴は、過度に加熱されると変性を生じ得る感熱性分子(例えば、タンパク質薬物)を含むリザーバを用いる場合に特に重要である。
【0028】
能動的放出機構を用いた別の実施形態において、抵抗加熱を用いてリザーバキャップ材料を溶解させる(すなわち、相変化を起こさせる)。インビボ用途の場合、リザーバキャップは好適には、ある程度の範囲の選択可能な溶解温度(PCT WO98/26814を参照)を得ることができる生体適合性のコポリマー(例えば、有機ヒドロキシ酸の誘導体(例えば、ラクチドおよびラクトン)から構成される。出発モノマー比およびその結果得られるコポリマーの分子量を適切に選択することにより、リザーバキャップに対して、特定の溶解温度(例えば、通常の体温よりも約2℃〜約12℃高い温度を選択することができる。この種類のリザーバの開口機構を用いると、少なくとも2種類の送達スキームが得られる。第1のスキームは、様々な溶解温度を有する個々のリザーバキャップに基づく。デバイスまたはその一部を一定温度まで加熱することにより、特定のリザーバキャップのみが溶解して、その結果、リザーバが開口し、分子が露出される。したがって、異なる温度プロフィールを用いると、分子を選択的に放出させることが可能となる。図13に示す第2のスキームは、全てのキャップに一定の組成および均一の溶解温度を持たせる点に焦点を当てたものである。温度T1において、キャップは固相である。個々のリザーバキャップを局所的に温度T2まで加熱すると、リザーバキャップは溶融状態になる。この流体化したリザーバキャップは次いで移動性となり、その結果、リザーバの開口および分子の放出が容易化される。インビトロ用途の場合、組成および温度の面において要求が厳しくない同様の能動的スキームが可能である。
【0029】
受動的放出の実施形態において、リザーバキャップの破裂は、環境温度の変化(例えば、ヒトまたは他の動物の身体の表面または内部にデバイスを配置することによって引き起こされる温度変化)によってトリガされる。受動的機構が能動的機構と異なる点は、能動的デバイスのリザーバキャップの破裂をトリガするのは環境温度の変化ではなく直接的に付与される温度変化である点である。
【0030】
受動的デバイスの一実施形態において、リザーバキャップに熱刺激を与えて、分解を促進させる。例えば、リザーバキャップの分解の運動力学は室温では非常に緩慢であるため、リザーバキャップは化学的に安定しているとみなすことができる。しかし、(例えば、インビボでの移植によって)キャップ材料の温度を上昇させると、分解運動力学は著しく上昇する。分解の絶対速度は、リザーバキャップ材料の組成を制御することによって選択可能である。例えば、生体適合性コポリマー(例えば、ラクトンおよびラクチド)の分解速度は、主要な構造単位の特定のモル比に応じて、37℃において数時間〜数年(好適には2日〜1年)であり得る。それぞれが異なる組成を有するリザーバキャップのアレイを用いることにより、デバイスがデバイス周囲の温度によって規定される環境臨界に達すると、複雑な分子放出プロフィールを達成することが可能となる。
【0031】
受動的デバイスの別の実施形態において、全てのリザーバキャップは、一定崩壊速度(例えば、温度非依存性)を有し、放出プロフィールは、リザーバキャップ材料の物理的寸法を選択することによって制御される。崩壊速度を固定することにより、キャップ崩壊の所要時間は、リザーバキャップ材料の厚さから独立する。例えば、全てのリザーバキャップに同一の組成を持たせた実施形態において、キャップ厚さを変更することにより、分子放出を制御することができる。
【0032】
能動的デバイスおよび受動的デバイスのどちらの場合も、リザーバキャップは、降伏強さまたは引っ張り強さ(これを超えると、材料が疲労によって破断を生じる)を有する材料、あるいは温度を選択的に変化させることによって相変化(例えば、溶解)を起こす材料から形成される。材料は好適には、以下からから選択される:すなわち、金属(例えば、銅、金、銀、白金および亜鉛);ガラス;セラミック;半導体;および脆性ポリマー(例えば、半晶質ポリエステル)。リザーバキャップは好適には、薄膜(例えば、厚さが約0.1μm〜1μmの膜)の形態をとる。しかし、リザーバキャップの厚さは特定の材料および破裂機構(すなわち、電気化学的破壊であるかまたは機械的破壊であるか)によって異なるため、より肉厚のリザーバキャップ(例えば、厚さが1μm〜100μm以上のリザーバキャップ)の方が、特定の材料(例えば、特定の脆性材料)に関してはより良好に機能し得る。
【0033】
必要に応じて、リザーバキャップをオーバーコーティング材料でコーティングして、このオーバーコーティング材料が(溶解、腐食、生分解、酸化または別の場合に分解(例えば、インビボまたはインビトロでの水への露出による分解)によって)実質的に除去されるまでの間、破裂可能な材料層を構造的に補強してもよい。適切な分解性材料の代表例を挙げると、人工または天然の生分解性ポリマーがある。
【0034】
リザーバキャップは、受動的な実施形態においてもまたは能動的な実施形態においても、温度に応じて透過性のメンブレン半浸透性メンブレンとして機能する材料から形成され得る。
【0035】
能動的放出デバイスの好適な実施形態において、抵抗器をリザーバに一体化させるかまたはリザーバの近隣に取り付ける。リザーバは、抵抗器を通じて電流を受けると、リザーバ、キャップ材料またはリザーバおよびキャップ材料の両方の内容物を加熱する。典型的な実施形態において、抵抗器は、リザーバの下部にまたはリザーバの壁の内側に沿って配置されるか、または、小さなリザーバ開口部を被覆するリザーバキャップ上にまたはそのようなリザーバキャップの近隣に配置してもよい。抵抗器は概して、製造プロセスの間にリザーバと一体化させることが可能な薄膜抵抗器である。このような抵抗器は、金属(例えば、白金または金)、セラミック、半導体およびいくつかのポリマーから構成され得る。これらの抵抗器を製造する方法については、以下の文献に記載がある:すなわち、例えば、Wogersienらによる「Fabrication of Thin Film
Resistors and Silicon Microstructures Using a Frequency Doubled Nd:YAG Laser」、Proc.SPIE−Int.Soc.Opt.Eng.,3680:1105〜12(1999);Bhattacharya&Tummalaによる「Next Generation Integral Passives:Materials,Processes,and Integration of Resistors and Capacitors on PWB Substrates」J.Mater.Sci.−Mater.Electron.11(3):253−68(2000);およびVladimirskyらによる「Thin Metal Film Thermal Micro−Sensors」(Proc.SPIE−Int.Soc.Opt.Eng、2640:184〜92(1995))。あるいは、リザーバまたはリザーバキャップに近接するデバイスの表面に小型チップ抵抗器を取り付けても良い。
【0036】
(4.送達される分子)
天然物または合成物、有機物または無機物の、任意の分子またはその混合物が、送達され得る。1つの実施形態において、静脈内送達される流体に薬物を放出することによって、薬物を患者に全身的に送達するために、マイクロチップが使用される。本明細書中において使用される場合に、用語「薬物」とは、他に示さない限り、治療剤、予防薬、および診断薬を包含する。静脈内薬物送達適用の間に放出される薬物分子としては、抗生物質、化学療法剤、インビボ診断薬(例えば、造影剤)、糖類、ビタミン、毒素抗体、抗炎症薬、鎮痛剤(pain killer)、および透析のような腎臓手順のために有用な薬剤(例えば、ヘパリン)が挙げられるが、これらに限定されない。別の実施形態において、マイクロチップは、治療的または審美的な目的のために、流体流に分子を放出する。例えば、液体または気体の流体の放出される分子としては、アロマテラピーヒドロゾル、種々の芳香性物質、着色剤、ならびに人工甘味料および天然甘味料が挙げられるが、これらに限定されない。分析化学の分野は、少量(ミリグラム〜ナノグラム)の1つ以上の分子が必要とされる、なお別の実施形態を提示する。効果的な例示の分子は、pH緩衝剤、診断剤、および複合体反応(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応および他の核酸増幅手順)における試薬である。
【0037】
インビボでの分子放出のための1つの実施形態は、脈管流体内へのステント薬物送達である。放出される可能な分子としては、抗再狭窄化合物、タンパク質、核酸、多糖類および生物学的効果を有する合成有機分子(例えば、麻酔薬、ワクチン、化学療法剤、ホルモン、鎮痛剤、代謝産物、糖類、免疫調節剤、抗酸化剤、イオンチャンネル調節因子、および抗生物質)が挙げられる。薬物は、単一の薬物の形態または薬物混合物の形態であり得、そして薬学的に受容可能なキャリアを含み得る。
【0038】
(B.他のシステムまたは装置の構成要素)
キャリア流体中に分子を放出するための送達システムまたは装置は、さらに、特定の用途に依存して、種々の他の構成要素を備え得る。
【0039】
(1.混合チャンバ、ミキサーおよびポンプ)
いくつかの用途(例えば、以下に説明する静脈内の(IV)薬物管理システムの用途)に関する好適な実施形態において、本システムは、キャリア流体および放出対象薬物を組み合わせる場所である混合チャンバをさらに含む。本明細書において用いられるように、他に明記無き限り、「混合チャンバ」という用語は、マイクロチップデバイスからの分子がキャリア流体と接触することが可能である間にキャリア流体を一時的に保管することが可能な(例えば、キャリア流体を通過させることが可能な)任意の構造を指し得る。混合チャンバは、マイクロチップデバイス近隣に配置してもよいし、または、(キャリア流体が分子の放出元であるマイクロチップデバイスの表面を流れて通過する場所である)システムの下流の近隣に配置してもよい。キャリア流体および薬物は、濃度勾配または流体の化学的電位の低下に起因する拡散によって局所的に混合する。
【0040】
混合プロセスを高速化させるために、ミキサー(すなわち、混合デバイス)を必要に応じて装置の混合チャンバに組み込んで、乱流移動または対流移動を用いて、混合物を確実に均質にしてもよい。これらのデバイスの用途に適切な動的ミキサーおよび静的ミキサーは、当該分野において公知である。
【0041】
マイクロチップデバイスの1つ以上の面にキャリア流体を静的にまたは流動させながら提供することが可能である。流れの生成は、例えば、重力、毛管現象または1つ以上のポンプの使用を通じて行うことが可能である。ポンプを用いた実施形態の場合、ポンプは、装置から離れた場所に配置するか、または、装置もしくはシステム(例えば、混合チャンバ)内に配置することが可能である。これらのデバイスの用途に適切なポンプは、当該分野において公知である(例えば、O’Learyに付与された米国特許第5,709,534号およびSimonsに付与された米国特許第5,056,992号を参照されたい)。いくつかの実施形態において、ポンプは薬物およびキャリア流体を混合させるのに十分な乱流を生成することができるため、ミキサーを別に用いる必要はない。
【0042】
本明細書に記載のIVの用途の場合、重力送り法によって薬物溶液を患者に注入するか、あるいは、1つ以上のポンプを装置と一体化させて、溶液を患者にポンピングしてもよい。
【0043】
(2.ステント)
一実施形態において、マイクロチップデバイスはステントに一体化される。現在、ステントは、広範囲の医療用に用いられており、通常は血管の再閉鎖を防止するために用いられている。ステントの例を挙げると、心臓血管用途のステントおよび胃腸用途のステントがある。これらのステントは通常は非分解性である。尿管用ステントおよび尿道用ステントは、様々な良性条件、悪性条件および外傷後条件における閉鎖(例えば、石の存在および/もしくは小石の存在、または他の尿管の閉鎖(例えば、尿管狭窄、腹部臓器の腫瘍、腹膜後の繊維症もしくは尿管外傷に関連する尿管障害、または、体外衝撃波療法に関連する尿管閉鎖)を軽減するために用いられる。ステントは、内視鏡を用いた外科技術を用いてかまたは経皮的に配置することができる。最先端のステントの例を挙げると、ダブルピグテール(double pigtail)尿管ステント(C.R.Bard,Inc.,Covington,GA)、SpiraStent(Urosurge,Coralville,IA)、およびCook泌尿器用ステント、尿管用ステントおよび尿道用ステント(Cook Urological,Spencer,IN)がある。
【0044】
生体吸収性ステントを用いると、ステントを除去するための第2の手順が不要となるため、泌尿器用途などの用途には生体吸収性ステントが特に望ましい。さらに、金属性ステントを心臓血管用途に用いる際に生じる主な問題の1つは、ステントを取り付けた後、内皮壁が過剰に成長することによって再狭窄が発生する点である。このような再狭窄は、血管壁上の金属性ステントが原因となって生じる炎症に少なくとも部分的に起因すると考えられている(Behrend,American J.Cardiol.p.45、TCT Abstracts(1998年10月);Unverdorbenら、American J.Cardiol.p.46、TCT Abstracts(1998年10月)を参照されたい)。適切な材料で構成されているているかまたはコーティングされている生体吸収性のステントは、炎症発生を低レベルにまたはゼロにする必要がある。生体吸収性ステントは、当該分野において公知の方法(例えば、米国特許第5,792,106号;米国特許第5,769,883米国特許第;米国特許第5,766,710号;米国特許第5,670,161号;米国特許第5,629,077号;米国特許第5,551,954号;米国特許第5,500,013号;米国特許第5,464,450号;米国特許第5,443,458号;米国特許第5,306,286号;米国特許第5,059,21l号、および米国特許第5,085,629号に記載の方法および手順。Tanquay,Cardiology Clinics,23:699〜713(1994)、およびTalja,J.Endourology,11:391〜97(1997)も参照されたい)を用いて作製することが可能である。
【0045】
マイクロチップデバイスのステントへの一体化については、以下の「用途」についての節に詳しく説明する。
【0046】
(II.キャリア流体)
マイクロチップデバイスのリザーバに収容される分子は、特定の用途に依存して、種々のキャリア流体に送達され得る。キャリア流体は、本質的に、流体形態の任意の組成物であり得る。本明細書中において使用される場合に、用語「流体」とは、液体、気体、超臨界流体、溶液、懸濁液、ゲル、およびペーストを包含するが、これらに限定されない。
【0047】
医療用途のための適切なキャリア流体の代表的な例としては、天然の生物学的流体ならびに他の生理学的に受容可能な流体(例えば、水、生理食塩水、糖溶液、血漿、および全血、ならびに酸素、空気、窒素、および吸入プロペラント)が挙げられるが、これらに限定されない。キャリア流体の選択は、特定の医療用途(例えば、ステント適用、静脈内送達システム、移植可能な送達システム、または吸入(例えば、肺)投与のためのシステム)に依存する。
【0048】
芳香性物質の放出システムにおける使用に適切なキャリア流体の代表的な例としては、水、有機溶媒(例えば、エタノールまたはイソプロピルアルコール)、水溶液、およびこれらの任意の混合物が挙げられる。
【0049】
飲料添加物システムにおける使用に適切なキャリア流体の代表的な例としては、任意の型の飲料または飲料ベース(例えば、水(炭酸水と無炭酸水との両方)、糖溶液、ならびに人工甘味料の溶液)が挙げられる。
【0050】
分析される特定の流体に依存して、本質的に任意の化学流体が、分析システムまたは診断システムにおいて使用され得る。例としては、空気または水の環境サンプル、産業または実験室のプロセスサンプリング分析、食物、飲料、および薬物の製造のための品質管理評価においてスクリーニングされる流体サンプル、ならびにコンビナトリアルスクリーニング流体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
(III.動作および分子放出)
1つの好適な実施形態は、電気化学的刺激に応答して分子を放出するマイクロチップからの液状キャリアへの分子の能動的放出である。この様子を図3に示す。電位(図3aを参照)が与えられると、キャップ材料は溶解(図3bを参照)し、その結果、図3cに示すように、分子は、リザーバ開口部近隣を流れる液体中に放出される。好適な実施形態において、電流は、変調され、一定の値では維持されない。
【0052】
別の実施形態は、流動する気相中に分子種を放出する工程を含む(図4a〜図4cを参照)。放出システムに熱が付加されると、その放出システムは膨張して、圧力をキャップ材料に付加し得る(温度Tl<温度T2)。特定の臨界温度および圧力になると、キャップは破断して、デバイス周囲の流動ガス中に分子を吐出および放出させる(温度T2<温度T3)。
【0053】
能動的放出デバイスの別の実施形態では、放出機構として機械的力を用いて、メンブレンを破裂させる(例えば、Jacobsenらに付与された米国特許第5,167,625号を参照されたい)。同特許は、本明細書中に記載のデバイスとなるように改変または適合を行うことが可能な破裂手段について記載している。1つの非限定的な例として類似のMEMS技術または他の任意の機械加工技術を用いて作製されるカンチレバーのアレイによってキャップ面を強制的に接触させることによってキャップを破裂させる工程がある(図5を参照)。放出システムを露出させ、分子を放出させるためにキャップ材料を破裂させることが可能な別の方法として、超音波を用いた方法もある(図6を参照)。リザーバ上のまたはリザーバ近隣の圧電性素子を作動させると音波が発生し、その結果、キャップ材料が破裂する。これらの圧電性素子は、非中心対称の結晶構造を有する任意の材料から構成され得る。好適な圧電性材料としては、セラミック(例えば、BaTiO3、Li
NbO3およびZnO(Chiang,Y.による「Physical Ceramic
s」、John Wiley&Sons,Inc.,New York、37〜66ページ(1997))と、ポリマー(例えば、ポリビニリデン(Hunter&Lafontaineによる「A Comparison of Muscle with Artificial Actuators」、Technical Digest of the 1992 Solid State Sensor and Actuator Workshop、178〜85ページ(1992))とがある。これらのアクチュエータは、イオンスパッタリングなどの標準的技術を用いて薄膜の形態で作製することが可能である(Tjhenらの「Properties of Piezoelectric Thin Films for Micromechanical
Devices and Systems」(Proceedings−IEEE Micro Electro Mechanical Systems、114〜19ページ(1991))およびゾル−ゲル処理(例えば、Kleinによる「Sol−Gel Optics:Processing and Applications」(Kluwer Academic Publishers、1994)に記載のゾル−ゲル処理))。超音波エネルギーの供給は、送達デバイス上に配置された構成要素、キャリア流体中に配置された構成要素または送達デバイスの外部に配置された構成要素によって行うことが可能である。露出させるリザーバを選択する方法としては、例えば、第2の超音波を用いた波干渉がある。これらの第2の波は、第1の超音波と干渉して破壊する機能を行うことができ、これにより、エネルギー付加を選択された一連のリザーバのみに限定する。
【0054】
さらなる実施形態では、分子のキャリア流体への受動的放出が行われる。この用途の1つの一般的な例として、キャリア流体中に配置されるかまたはキャリア流体に曝されると分解する放出システムがある。流体の化学的性質(例えば、酸性であるかもしくは塩基性または極性であるかもしくは非極性であるか)によって、キャップ材料は分解または溶解し得る(図6bを参照)。キャップ材料が完全に溶解すると、分子は、リザーバ開口部近隣において流動している液体中に放出される(図6cを参照)。流体は、放出システムまたはキャップ材料を崩壊させるものであれば任意の液体またはガスでよい。
【0055】
(IV.製造または組み立て方法)
マイクロチップデバイスは、例えば、当該分野において公知の技術(特にSantiniらに付与された米国特許第6,123,861号に記載の方。同特許を参考のため援用する)を用いて作製可能である。同特許に記載の作製方法では微細加工技術および微細電子処理技術が用いられているが、能動的マイクロチップによる化学的送達デバイスおよび受動的マイクロチップによる化学的送達デバイスの作製は、半導体などの材料または微細電子機器製造において典型的に用いられるプロセスに限定されないことが理解される。例えば、他の材料(例えば、金属、セラミックおよびポリマー)をデバイス中において用いることが可能である。同様に、他の作製プロセス(例えば、めっき、キャスティングまたは成形)を用いてデバイスを作製してもよい。
【0056】
一実施形態において、絶縁体上シリコン(SOI)技術(例えば、S.Renardの「Industrial MEMS on SOI」(J.Micromech.Microeng.10:245〜249(2000))に記載の技術)を用いてリザーバを形成することも可能である。SOI法は、複雑なリザーバ形状(例えば、図2b、図2cおよび図2eに示すようなリザーバ形状)を有するリザーバを形成する際、有用に適合されることが可能である。SOIウェハは、実質的に2つの基板部として挙動する。これらの2つの基板部を原子スケールまたは分子スケールで結合した後、任意のリザーバをいずれかの基板部にエッチングさせている。SOI基板を用いると、絶縁体層のいずれかの側部上のリザーバ(またはリザーバ部位)を個々にエッチングすることが容易に可能となり、その結果、絶縁体層のいずれかの側部上のリザーバは異なる形状をとることができる。その後、(反応イオンエッチング、レーザ、超音波、または湿化学式エッチングなどの方法を用いて)2つのリザーバ間の絶縁体層を除去することにより絶縁体層のいずれかの側部上のリザーバ(複数のリザーバ部)を接続させて、複雑なジオメトリを有する単一のリザーバを形成することが可能となる。
【0057】
残りのシステム構成要素は、公知の供給源から提供され得るか、または、公知のデバイスおよび方法から作製され得るかもしくは適合され得る。
【0058】
マイクロチップデバイスは、当該分野において公知の技術を用いて(例えば、特定の用途に応じて接着剤手段および機械的手段(例えば、ファスナー)を用いることによって)、他のシステムまたはデバイス構成要素(すなわち、システムまたは装置のアセンブリ)に一体化させることが可能である。
【0059】
(IV.用途)
マイクロチップ送達システムを用いて、様々な形態の様々なキャリア流体中に分子を放出させることが可能である。分子放出の代表例を挙げると、患者(例えば、静脈系または呼吸系)に導入または投与するべき流体中への薬物送達;移植されたシステム(例えば、ステントまたは微細ポンプ)からの薬物送達;分析化学もしくは診断化学;芳香物放出システム;および飲料添加剤システムがある。
【0060】
各リザーバの内部または近隣にある各リザーバ、リザーバキャップまたは他の物体(例えば、抵抗器(ヒーター)、電極またはチャンネル)の数、ジオメトリおよび配置は、特定の用途に応じて変更することが可能であることが理解される。分かりやすくするため、いくつかの図ではリザーバを1つだけ図示している。しかし、マイクロチップ構成要素またはデバイスは、少なくとも2つの(好適にはより多くの)リザーバを含むことが理解される。以下、多くの有用な用途のうちいくつかについて詳細に説明する。
【0061】
(A.静脈内薬物送達システム)
1つ以上のマイクロチップ化学物質送達デバイスを備える、静脈内(IV)薬物送達システムが、提供される。このデバイスは、静脈内投与のための生理学的に受容可能なキャリア流体中に、分子を放出する。
【0062】
図8aに示すように、IVシステム100は、コンソール108を備え、これは、キャリア流体104の容器102(例えば、バッグまたは瓶)から延びるカテーテル106と連絡する。このキャリア流体は、容器102からカテーテル106(または他の可撓性中空チュービング)を通ってコンソール108へと流れる。コンソール108において、キャリア流体104は、マイクロチップデバイス112の1つ以上の表面を通過し、ミキサー114(任意)を使用して、混合チャンバ103内で、放出された分子と混合され、次いで、第二のカテーテル116(または他の可撓性中空チュービング)を通って、患者に流れ込む。
【0063】
このシステムの別の実施形態を、図8bに示す。このIVシステム120は、キャリア流体104の容器126の内部に提供される、マイクロチップデバイス122aおよび122bを備える。混合チャンバ130内のキャリア流体104は、ミキサー124(任意)を使用して、放出された薬物分子と混合される。得られる混合物は、容器126からチュービング128を通って患者へと流れる。能動マイクロチップデバイスがこの様式で使用される場合には、制御電極および電源が、好ましくは、マイクロチップデバイス自体に組み込まれる。
【0064】
図8cに示す、好ましい実施形態において、IVシステム150は、「差込」カートリッジ152を収容するコンソール156を備え、このカートリッジは、1つ以上の役部収容マイクロチップデバイス、制御電極154、およびIVキャリア流体容器158を備える。
【0065】
1つの実施形態において、IVシステムは、1つ以上の薬物をマイクロチップデバイスの1つ以上のリザーバから放出するようマイクロチップデバイスに信号を送るようプログラムされ得る、電子制御システムを備え、これによって、流体がマイクロチップデバイスを通過する際にキャリア流体に放出して、薬物溶液を作製し、これが、患者に送達される。電子制御システムは、コンソールまたはマイクロチップデバイスに、ケーブルによって接続され得るか、あるいはコンソールまたはマイクロチップデバイスに、当該分野において公知の無線通信手段によって信号を伝達し得る。このようなIVシステムはまた、デジタル読み取りを備え得、これは、薬物の名称、放出頻度、放出速度、マイクロチップに残った薬物の量、およびマイクロチップが充填されたものと交換されることが必要な時点のような、重要な薬物送達パラメータを表示する。電子機器はまた、外科医が、所望の放出パターンの型(パルス化された放出または連続的な放出のいずれか)でプログラムすることを可能にする。
【0066】
マイクロプロセッサ、メモリ、およびタイマーを、電子制御システムに含めることもまた、薬物の過剰投与または患者への誤った薬物の投与の可能性を低下させる際に役立ち得る。安全性のプロトコルは、メモリに格納され得、そしてマイクロプロセッサによって連続的にチェックされて、以下を禁制し得る:(i)特定の時間間隔にわたる、患者への多すぎる薬物の放出、および/または(ii)2つ以上の不適合薬物の同時の放出。さらに、マイクロチップは、メモリに、送達される薬物の正確な量、その送達時間、およびマイクロチップに残っている薬物の量を格納し得る。この情報は、無線技術(例えば、移植物に対して)を使用してか、または標準的なコンピュータ接続(例えば、外部システム、インラインシステム、またはIVシステムに対して)を使用して、外科医または中枢モニタリングシステムに、実時間ベースで伝達され得る。このことは、外科医が患者の状態を遠隔的にモニタリングすることを可能にする。
【0067】
これらの実施形態によって提供される1つの利点は、薬物をその最も安定な形態(例えば、液体、ゲル、または結晶性もしくは粉末状の固体)で、マイクロチップ内に、溶液中に放出されて患者に送達されることが所望されるまで、格納する能力である。このことは、一旦溶液中に溶解されるとその安定性が制限される、多くの薬物(特に、タンパク質または生物薬物)の貯蔵寿命(すなわち、安定性)を劇的に増加させ得る。
【0068】
別の利点は、医療の誤りの低下である。例えば、多数の医療の誤りが、不注意で間違った量の薬物で満たされた伝統的なIVバッグ、または誤ってラベルを貼られたバッグにおいて生じ得る。本明細書中に記載されるようなマイクロチップ「カートリッジ」は、そのマクロチップ中の薬物の型および量を示すバーコードで標識され得る。一旦、マイクロチップカートリッジがIVシステムまたはコンソールに差し込まれると、そのIVシステムは、薬物の型および量を検出し得、そしてそれをデジタル読み取りに表示し得、これは、外科医または看護婦が、正しい医薬および投薬量が患者に送達されることを容易に確認することを可能にする。マイクロチップはまた、キャリア流体容器の患者との間の他の位置に配置され得ることが、理解される。
【0069】
コンソールの本体は、好ましくは、成形プラスチックで作製される。キャリア流体および/または薬物と接触する全ての部品は、好ましくは、生体適合性材料、好ましくは、ポリ(テトラフルオロエチレン)または類似の材料のような、流体をも放出される薬物をも妨害しない材料で、形成または被覆される。混合チャンバおよび流体接続は、耐漏出性であるべきである。
【0070】
(B.薬物送達ステント)
キャリア流体中への分子の放出のためのマイクロチップデバイスの1つの実施形態は、1つ以上の薬物送達マイクロチップを、ステント(例えば、脈管ステント)の内部/表面に組み込むことを包含する。薬物収容マイクロチップは、好ましくは、このステントの1つ以上の表面に提供される(例えば、図9a〜cに示すように)。マイクロチップデバイスは、移植およびステント拡張の間に、ステント内に存在し得るか、またはマイクロチップデバイスは、ステントの移植および拡張の直後に、別の手順においてステントの内部に取り付けられ得る。マイクロチップが十分に小さい場合には、マイクロチップのステントへの移植および取り付けは、ステントの移植において使用したものと同じカテーテル送達技術を使用して、完了され得る。好ましい実施形態において、ステント−マイクロチップデバイスのマイクロチップは、遠隔手段または無線手段によって、そのステントから薬物を直接送達するように、プログラムまたは作動される。
【0071】
ステント−マイクロチップデバイスの1つの好ましい用途は、血管形成手順を経験したばかりの動脈への、抗再狭窄剤の局所送達である。別の実施形態において、ステント−マイクロチップデバイスは、1つ以上の薬物を、ステントを通って流れる血液を介して患者に全身的に送達するために、使用される。別の実施形態において、ステントは、薬物リザーバおよびキャップを、ステントの一部として、すなわち、別個のマイクロチップデバイスとしてではなく、モノリシックステントデバイスの一部として有するように、設計および作製され得る。任意の薬物の全身送達と局所送達との両方が、ステントと組み合わせたマイクロチップ技術を使用して可能であることが、理解される。
【0072】
マイクロチップ−ステント薬物送達デバイスは、動脈および脈管の用途に限定されない。ステント配置技術と統合されたマイクロチップは、ヒトおよび動物の身体内の種々の他のチャネル内に、薬物を送達するよう働き得る。代表的な例としては、胃腸路、呼吸経路、生殖系路および尿路、腎臓脈管、脳脊髄液通路、および洞が挙げられる。
【0073】
(C.薬物吸入デバイス)
別の実施形態において、マイクロチップデバイスは、患者による引き続く吸入のための気体状キャリア流体(例えば、空気)に分子を放出するために使用される。1つのシステムにおいて、例えば、薬物を収容しているマイクロチップデバイスは、計量された用量の吸入器(MDI)に組み込まれて、送達される分子の用量を正確に制御するための簡単な方法を提供する。マイクロチップデバイスはまた、制御された環境(リザーバ内)を提供し、これは、貯蔵された薬物の安定性を延長するよう機能し得る。
【0074】
薬物を充填されたマイクロチップとともに使用するために適した、計量された用量の用途の多くの異なる様式が、例えば、Genovaらに対する米国特許第6,116,234号のように、当該分野において記載されている。図10a〜cは、マイクロチップで計量される用量吸入器における、薬物送達機構の概略流れ図の1つの実施形態を示す。薬物を充填されたマイクロチップが、アプリケータの開口端部上の交換可能なカートリッジの内壁に配置される。電源回路構造からの電気信号を、マイクロチップに、スイッチまたはタイマーを介してトリガすると、種々の放出技術(例えば、図4〜6に記載した方法)を使用して、用量が気体流れに放出され得る。一旦、リザーバキャップが崩壊または破裂すると、開口リザーバ上を流れる気体の流れが、薬物分子をそのリザーバから患者へと送達する。キャリアガスは、圧縮ガスの放出または患者による吸入の際に、マイクロチップデバイスに適用され得る。薬物分子は、いくつかの機構(蒸発、エアロゾルの形成、噴霧化が挙げられる)のいずれか、またはベルヌーイの原理によって、MDIにおけるリザーバから出得る。代替の実施形態において、分子は、拡散または蒸発によって、開口リザーバから静止した気体内に放出され、これは引き続いて、第二工程において、患者によって吸入される。
【0075】
薬物の投薬量は、正確な量の薬物を有する選択数のリザーバからの放出をトリガすることによって、正確に計量され得る。各投薬量は、1つ以上のリザーバによって放出される分子から構成され得る。
【0076】
好ましい実施形態において、マイクロチップ−吸入デバイスは、必要な分子用量を患者が活性化するまで密封されたリザーバを、有利に提供する。従って、パッケージング、使用、または貯蔵の間の潜在的に厳しい環境は、リザーバ内の各用量の安定性および濃度に影響を及ぼさない。マイクロチップデバイスは、例えば、キャリアガスの流路内に位置する、交換可能なカートリッジ内に収容され得る。
【0077】
(D.芳香性物質の送達システム)
別の実施形態において、気体状のキャリア流体(代表的には、空気)内への芳香性分子の送達のためのシステムが提供される。これらのシステムは、芳香性物質を収容するマイクロチップデバイスを備え、このデバイスは、1つ以上の芳香性物質の送達のための種々の装置に組み込まれ得る。芳香性分子は、例えば、芳香剤、アロマテラピー剤、室内の脱臭または臭気マスキングのための化学物質、ならびに任意の目的で香気および芳香の送達を発生または刺激するための分子であり得る。芳香性分子は、図4〜6において先に記載した方法を使用して、周囲の環境に放出され得る。
【0078】
1つの用途において、マイクロチップデバイスは、香料分子を放出するために、宝飾品または他の個人用装飾品に組み込まれる。この芳香性物質の放出は、使用者によって手動で開始され得るか、または装飾品の内部に位置する通信および制御システムを介して、連続的かもしくはパルス化された放出のために、プログラムされ得る。リザーバの作動のための信号は、装飾品の内部に直接位置し得るかまたは別の装飾品(例えば、時計)制御回路構造によって発生され得る。遠隔通信システムは、1つ以上のリザーバを作動させるよう働く無線周波数信号を発生させ得る。図11aを参照のこと、図11aは、首飾り192に組み込まれた芳香性物質収容マイクロチップデバイス190からの、芳香性物質のパルス化された放出を示す。ここで、この放出は、組み込まれた信号送信機を有する時計194から送信される信号によってトリガされる。このマイクロチップデバイスは、例えば接着剤を使用して、首飾りの表面に設置され得、そして首飾りの周囲の種々の位置に配置され得る。図11b〜11dは、局所的抵抗加熱による作動プロセスの詳細を示す。これは、放出システムを蒸発させる。温度の上昇は、放出システムの蒸発を引き起こし、従って、芳香を発生させる。放出システムを分解するかまたは周囲環境に曝露する任意の方法(例えば、本明細書中に記載される放出機構)を使用して、芳香性分子が周囲環境に放出され得ることもまた、理解される。
【0079】
別の用途において、マイクロチップデバイスは、娯楽目的で、遊戯または他の新規物品に組み込まれる。例えば、芳香性物質を収容するマイクロチップデバイスは、娯楽コンソール(例えば、音響システムまたは画像システム(例えば、テレビ))に挿入されるカートリッジに収容され得る。特定の場面(例えば、映画において)に達すると、その場面または状況に関連する芳香を含む特定のリザーバを作動させるための、電気信号が送られる。あるいは、芳香性物質を収容するマイクロチップデバイスは、コンソールと通信する別個のユニットに組み込まれ得る。この別個のユニットは、必要に応じて、キャリアガスの供給源(例えば、交換可能な圧縮ガスのキャニスター)を備える。
【0080】
(E.飲料添加剤システム)
さらなる実施形態において、1つ以上の添加剤をキャリアに送達して、1つ以上の消費者用飲料を形成するためのシステムが、提供される。添加剤分子を収容するマイクロチップデバイスは、この添加剤分子を、液体のキャリア流体(これは、代表的に、1つ以上の添加剤のみを欠く飲料であるか、または最終的に飲料が形成される水もしくは別のベースである)に選択的に放出する。代表的な添加剤としては、天然または人工の香味剤、甘味料、調味料、および着色料が挙げられる。分子の放出は、能動的または受動的であり得る。
【0081】
好ましい実施形態において、分子は、飲料が消費される直前に放出される。このことは、これらの分子を、飲料に含まれる液体への曝露を最小にし、従って、香味増強のために使用される広範な化学物質の安定性および有効性を、延長する。
【0082】
1つの実施形態において、1つ以上の添加剤(例えば、人工甘味料および香味剤)を収容するマイクロチップデバイスが、飲料分配システム(例えば、ソーダファウンテン)の一体的構成要素であるチャンバに装填される。この実施形態において、マイクロチップデバイスは、水溶液に可溶性の能動放出システムを備える。キャリア流体(これは、代表的には(ソーダ用の)炭酸水である)は、混合チャンバに流入し、ここで、人工甘味料および香味剤が、放出システムの溶解によって、放出される。マイクロチップデバイスは、例えば、使い捨てカートリッジまたは再充填可能なカートリッジ(すなわち、マガジン)に組み込まれ得、これは、例えば、マイクロチップデバイスが空になった場合に、交換され得る。カートリッジの交換は、新たな芳香性分子が新たなバッチの飲料混合物に添加されることを可能にし、そして香味付けが飲料製造の最後に起こる場合には、予め混合された種々の飲料の在庫を減少させ得る。
【0083】
この実施形態の別の改変を、図11に示す。この場合には、マイクロチップデバイス(これは、香味材を収容する)を収容する複数(ここでは3つ)のマガジンが、チャンバ内に提供され、このチャンバは、炭酸水のような飲料ベース(すなわち、投入液体)の流れとインラインの、不連続な構成要素である。マイクロチップデバイスは、受動的放出または能動的放出であり得る。図11はまた、任意の二次的な容器を示し、これは、消費前に内部で溶液が均一に混合される、混合チャンバとして働き得る。マイクロチップデバイスは、流路に沿った本質的に任意の位置に提供され得ることが、理解される。マイクロチップマガジンの設計は、好都合に、自動販売機に、消耗時に香味付けシステムを補充する能力、または1つの香味付けされた飲料から別の飲料への容易な交換の能力を与える。これは、予め混合された種々の飲料の在庫を減少させるよう働き得る。
【0084】
(F.診断システム)
液体および気体状のキャリア流体中に放出するための分子を収容するマイクロチップは、診断および分析化学において、広範な潜在的な用途を有する。診断システムの1つの実施形態において、本明細書中に記載されるマイクロチップ技術は、DNA試験、血液分析、または環境サンプルの試験において使用される微小流体アレイに統合され得る。好ましい実施形態において、生理食塩水溶液のようなキャリア流体が、微小流体アレイにおける極小のチャネルを通して電気泳動的にポンピングされる。試薬分子を収容し、そして能動リザーバキャップを有するリザーバが、微小流体チャネルの底部に沿って配置される。生理食塩水溶液が、試薬で満たされたリザーバをを収容するチャネル内にポンピングされるにつれて、信号(例えば、電流)がリザーバキャップに送られて、これらの分解を引き起こし、リザーバの内部の試薬をチャネル内の生理食塩水溶液中に拡散させる。試薬の放出は、流体がリザーバの上で止まっている間か、またはキャリア流体がリザーバのそばを流れれている間に起こり得る。試薬を含有する生理食塩水溶液が、ここで混合チャンバにポンピングされ、このチャンバで、試薬が目的のサンプル(例えば、血液サンプル)と混合されて、所望の相互作用が起こる。
【0085】
診断システムの別の例は、コンビナトリアルケミストリーから生じる。コロイド粒子(例えば、塗料および塗装工業)は、しばしば、懸濁液の安定化を必要とし、これは、最適な化学物質の検索において、大きなアレイの実験を必要とする。表面活性触媒、巨大分子およびイオン性の塩のような化学物質は、適切なコロイド組成を決定するために使用される試薬の、ほんの少数である。1つ以上のこれらのコロイド添加剤を満たされたマイクロチップデバイスが、粒子を含む撹拌された液体媒体に入れられ得る。例えば熱活性化技術を使用して、特定のリザーバキャップを崩壊することによって、特定の化学種が、制御された様式で、経時的に放出され得る。これは、大規模なコンビナトリアル実験を正確かつ自動的に実施する方法を与える。
【0086】
マイクロチップデバイスはまた、コロイドの安定性を特徴付けるための手段を提供する、組み込まれた電極および回路構造を備え得る。超音波振動ポテンシャル(UVP)および動電学的音響増幅(ESA)のような特徴付け技術が周知であり、そしてM.Rahamanによって「Ceramics Processing and Sintering」(New York 1995)に詳細に記載されている。従って、マイクロチップデバイスは、安定化のために必要とされる化学と安定化動力学との両方に関する情報を提供し得る。マイクロチップデバイスは、他の多くの診断およびコンビナトリアル用途(例えば、DNAまたは遺伝子の分析、薬物送達、および環境試験)において、働き得ることが理解される。
【0087】
(G.移植可能なポンプを備えるマイクロチップデバイス)
別の実施形態において、マイクロチップデバイスは、例えば延長した期間にわたる薬物の送達(糖尿病患者へのインスリンの送達および特定の種類の重篤な慢性的疼痛の処置が必要である場合など)のために、移植可能な微小ポンピングシステムに組み込まれる。これらのデバイスにおいて使用するために適切なマイクロポンプ装置は、当該分野において公知である(例えば、Rosenbergに対する米国特許第4,596,575号を参照のこと)。マイクロポンプは、キャリア流体を、マイクロチップデバイスの1つ以上の表面を横切ってポンピングする。種々のキャリア流体が、ポンピングされる流体として作用し得、濾過された細胞外流体、生理食塩水溶液、または水が挙げられるが、これらに限定されない。
【0088】
好ましい実施形態において、用量の送達は、例えば、Santiniに対する米国特許第5,797,898号および同第6,123,861号に記載されるように、電気化学的解離を介するリザーバキャップの崩壊によって、能動的に制御される。放出システムは、好ましくは、キャリア流体に可溶性の固体の形態である。流体が、活性化されて開いたリザーバの上または周囲を通過するにつれて、固体の薬物がこのキャリア流体中に溶解して溶液を形成し、これが、細胞外環境にポンピングされる。
【0089】
(H.腎臓での適用)
腎臓透析手順において、患者の血液は、エキソビボで、透析器を通って流れ、ここで、毒性の分子が選択的に血液から除去され、そして「洗浄された」血液が、患者の身体に戻される。これらの毒性分子(これらは通常、腎臓によって血液から除去される)は、腎臓の減少した機能または受適切な機能に起因して、経時的に蓄積する。毒性分子は、血液が透析器を通過するにつれて患者の血液から除去され、同時に治療分子および薬物が、血液に容易に添加され得る。これは、複数の薬物または他の分子を、エキソビボに配置されたマイクロチップデバイスを使用して、患者に全身送達するための、潜在的な方法を導く。好ましい実施形態において、薬物分子で満たされたマイクロチップデバイスは、透析手順の間に血液が流れるチュービング内に配置される。マイクロチップは、血液がこのチュービングを通過するにつれて、患者の血液に1つ以上の型の分子を、能動的にかまたは受動的に送達し得る。この方法は、送達デバイスを患者の身体に移植する必要なく、複数の薬物が正確かつ直接的に患者の血液中に送達されることを可能にする。
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
本発明は、一般に、キャリア流体中への化学分子の制御送達のための、小型化されたデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
正確な少ない量の1つ以上の化学物質をキャリア流体に正確に送達することは、化学および工業の多くの異なる分野において、非常に重要である。医学における例としては、静脈内か、肺または吸入方法によるか、あるいは脈管ステントデバイスからの薬物の放出による方法を使用する、患者への薬物の送達が挙げられる。診断における例としては、DNAまたは遺伝子の分析、コンビナトリアルケミストリー、あるいは環境サンプルにおける特定の分子の検出を実施するために、流体中に試薬を放出することが挙げられる。キャリア流体中への化学物質の送達を包含する他の適用としては、デバイスから空気への芳香性物質および治療芳香剤の放出、ならびに飲料を製造するための液体中への香味剤の放出が挙げられる。
【0003】
Johnsonらに対する特許文献1は、複数のポンピングチャネルが独立して薬物および流体を注入する、静脈内薬物送達のための自動化デバイスを開示する。これらのデバイスおよび送達方法は、薬物が注意深く予め混合され、そして液体形態で貯蔵されることを必要とする。しかし、液体形態は、いくらかの薬物の安定性を低下させ、従って、薬物濃度の所望でない変動を引き起こし得る。静脈内キャリア流体中に導入される薬物の量をより正確かつ信頼性高く測定すること、ならびに薬物をより安定な形態で(例えば、固体として)貯蔵することが、所望される。
【0004】
Johnsonに対する特許文献2は、脈管薬物送達デバイスとしての、多孔質金属ステントの使用を開示する。このデバイスは、報告によれば、薬物を多孔質構造のステントから周囲の組織へと送達する。しかし、このようなデバイスは、これらが送達し得る薬物の数を制限され、そして薬物送達の速度と時間との両方の制御において、厳しく制限される。なぜなら、送達速度は、多孔質構造によって支配される(すなわち、薬物が受動的に放出される)からである。ステントから、例えば移植されたステントを通る、血流への1つ以上の種々の薬物の送達の時間および速度の、能動的かつより正確な制御を提供することが、有利である。
Santiniらに対する特許文献3および特許文献4に記載される、マイクロチップ送達デバイスは、種々の分子(例えば、薬物)の放出の速度と時間との両方を、連続的な様式かまたはパルス化された様式かのいずれかで制御するための手段を提供する。このデバイスは、さらに、化学物質をその最も安定な形態で貯蔵するための手段を提供する。これらの特許は、例えば、薬物の送達のために、マイクロチップデバイスを単独で患者に移植することを記載する。しかし、これらのマイクロチップデバイスによって提供される分子放出の正確な制御を、他の種々の応用に適合させることが有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,547,470号明細書
【特許文献2】米国特許第5,972,027号明細書
【特許文献3】米国特許第5,797,898号明細書
【特許文献4】米国特許第6,123,861号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の課題は、キャリア流体中への分子の(例えば、静脈内送達される流体中への薬物の)正確かつ信頼性の高い送達のためのデバイスおよび方法を提供することである。
【0007】
本発明のさらなる課題は、キャリア流体中に放出するための分子を安定な形態で好都合に貯蔵するためのデバイスおよび方法を提供することである。
【0008】
本発明の別の課題は、薬物の送達の時間および速度に対する正確な制御を有する、ステント配置デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要旨)
キャリア流体を介する、ある部位への分子の送達のための装置および方法が提供される。この装置は、放出のための分子を収容するリザーバを有する、マイクロチップデバイスを備える。この装置および方法は、分子の能動的かまたは受動的な制御放出を提供する。このマイクロチップデバイスは、以下を備える:(1)基板、(2)放出のための分子を収容する、この基板における少なくとも2つのリザーバ、および(3)このリザーバの上かまたはこのリザーバの一部の内部に位置し、そして分子を覆うリザーバキャップであって、これによって、このリザーバキャップの崩壊または破裂によってかまたはその際に、拡散によってこのデバイスから分子が制御可能に放出される、リザーバキャップ。単一のマイクロチップのリザーバの各々は、異なる分子、ならびに/または異なる量および濃度を収容し得、独立して放出され得る。充填されたリザーバは、受動的にかまたは能動的に崩壊する材料でキャップされ得る。受動放出リザーバキャップは、分子を経時的にこのリザーバの外へと受動的に拡散させる材料を使用して、作製され得る。能動放出リザーバキャップは、電気エネルギー、機械的エネルギー、または熱エネルギーの適用の際に崩壊する材料を使用して、作製され得る。能動デバイスからの放出は、予めプログラムされたマイクロプロセッサ、遠隔操作、またはバイオセンサによって、制御され得る。
【0010】
分子が放出されるキャリア流体は、例えば、静脈内注入物、飲料混合物、脈管流体、および気相のような環境であり得る。好ましい実施形態において、マイクロチップデバイスは、リザーバに収容された分子を、患者に静脈内送達される流体中に放出する。
【0011】
別の実施形態において、マイクロチップデバイスは、薬物(例えば、抗再狭窄剤またはプラバスタチンもしくは他の高血圧薬剤)の送達のためのステントに組み込まれる。
【0012】
なお別の実施形態において、マイクロチップは、分子(これは、限定されないが、エアロゾル、蒸気、気体、またはその混合物の形態であり得る)を、治療的または審美的目的のいずれかの流れに送達する。
【0013】
一般に、マイクロチップは、分子種をその最も安定な形態(これは、固体、液体、ゲル、または気体であり得る)で貯蔵するための方法を提供する。受動的かまたは能動的かのいずれかのリザーバ開口の際に、1つ以上の型の分子が、パルス化された様式かまたは連続的な様式かのいずれかで、キャリア流体中に放出される。これらの方法は、送達される分子の量、ならびに送達が起こる時間および速度の、微細な制御を提供する。さらに、この分子送達デバイスは、分子の貯蔵寿命(すなわち、安定性)を延長させて、新たな潜在的用途を与える。
本発明は、さらに、以下の手段を提供する。
(項目1) 分子の制御放出のための装置であって、以下:
(i)放出のための該分子を収容する複数のリザーバを有する、マイクロチップデバイス、および
(ii)キャリア流体の容器、
を備え、ここで、該分子が、該リザーバの該分子の放出に続いて、該キャリア流体と混合される、装置。
(項目2) 前記容器と流体連絡する混合チャンバをさらに備え、前記分子は、該混合チャンバ内で前記キャリア流体と混合される、項目1に記載の装置。
(項目3) ミキサーをさらに備える、項目1に記載の装置。
(項目4) ポンプをさらに備える、項目1に記載の装置。
(項目5) 前記分子が、薬物分子であり、そして前記キャリア流体が、静脈内投与のために生理学的に受容可能な流体である、項目1に記載の装置。
(項目6) 前記マイクロチップデバイスの前記リザーバが、リザーバキャップによって覆われ、該リザーバキャップが、前記分子を前記キャリア流体中にエキソビボで放出するように、選択的に破裂または崩壊し得る、項目5に記載の装置。
(項目7) 前記キャリア流体が、水、生理食塩水、血漿、全血、および糖溶液からなる群より選択される、項目5に記載の装置。
(項目8) 前記容器がIVバッグまたは瓶である、項目5に記載の装置。
(項目9) 混合チャンバをさらに備える、項目5に記載の装置。
(項目10) 前記混合チャンバから延びる可撓性中空管をさらに備える、項目9に記載の装置。
(項目11) 前記リザーバ内の前記分子が、前記キャリア流体との接触の前には、安定な乾燥形態である、項目1に記載の装置。
(項目12) 患者への後の投与のためのキャリア流体への薬物の送達のための装置であって、以下:
(i)放出のための分子を収容する複数のリザーバを有する、マイクロチップデバイス、および
(ii)混合チャンバ、
を備え、ここで、該分子が、該リザーバからの該分子の放出に続いて、該混合チャンバ内の該キャリア流体と混合される、装置。
(項目13) IVバッグまたは瓶をさらに備える、項目12に記載の装置。
(項目14) 前記混合チャンバがIVバッグまたは瓶である、項目12に記載の装置。
(項目15) 前記キャリア流体が、水、生理食塩水、血漿、全血、および糖溶液からなる群より選択される、項目12に記載の装置。
(項目16) 前記混合チャンバが、出口を備え、該出口から、キャリア流体と薬物との混合物が流れ、そしてここで、中空管が、患者への静脈内接続のために、該出口に接続される、項目12に記載の装置。
(項目17) 2つ以上のマイクロチップデバイスを備える、項目12に記載の装置。
(項目18) 前記混合チャンバが、1つ以上の交換可能なカートリッジを受容するよう適合されたコンソール内に提供され、該カートリッジの各々が、少なくとも1つのマイクロチップデバイスを収容する、項目12に記載の装置。
(項目19) 前記マイクロチップデバイスと通信する電気制御システムをさらに備える、項目12に記載の装置。
(項目20) 前記通信が無線である、項目19に記載の装置。
(項目21) 前記マイクロチップデバイスに収容されている前記薬物を同定するラベルを有する、項目12に記載の装置。
(項目22) 前記ラベルが、電子的に読み取り可能な形態の情報を含む、項目21に記載の装置。
(項目23) 前記混合チャンバが、計量された用量の呼吸器に組み込まれる、項目12に記載の装置。
(項目24) インビボでの分子の放出のためのデバイスであって、以下:
医療ステント、および
放出のための該分子を収容する複数のリザーバを有する、マイクロチップデバイス、
を備え、ここで、該マイクロチップデバイスが、該医療ステントに組み込まれるか、または該医療ステントの表面に取り付けられる、デバイス。
(項目25) インビボで薬物分子を放出するためのデバイスであって、以下:
微細加工された複数のリザーバを有する医療ステントであって、該リザーバが、放出のための該分子を収容する、医療ステント、
を備える、デバイス。
(項目26) 前記ステントが心臓血管ステントである、項目25に記載のデバイス。
(項目27) 前記薬物が抗再狭窄剤である、項目25に記載のデバイス。
(項目28) 芳香性分子を放出するための装置であって、以下:
放出のための該芳香性分子を収容する複数のリザーバを有する、マイクロチップデバイス、および
キャリア流体の容器、
を備える、装置。
(項目29) 飲料に分子を添加するためのシステムであって、以下:
放出のための芳香性分子を収容する複数のリザーバを有するマイクロチップデバイス、および
飲料または飲料ベースの容器
を備える、システム。
(項目30) 分子の制御送達のためのデバイスであって、以下:
(i)複数のリザーバを有するマイクロチップデバイスであって、該リザーバが、該分子を収容し、そしてリザーバキャップによって密封される、マイクロチップデバイス、および
(ii)ポンプを備える移植された送達システム、
を備え、ここで、該マイクロチップデバイスの該リザーバが、インビボで、送達システムにおいて流体の流れに選択的に曝露され、そしてここで、該分子が、該送達システムにおいて流体が流れる間に、該リザーバキャップの崩壊の際に、該リザーバから放出される、デバイス。
(項目31) ある部位へと分子を送達するための方法であって、以下:
(a)項目1に記載の装置を提供する工程;
(b)前記マイクロチップデバイスの前記リザーバを、前記キャリア流体に選択的に曝露する工程であって、これによって、前記分子を該リザーバから放出させ、そして該キャリア流体と混合して、分子/キャリア流体混合物を形成する、工程、ならびに
(c)該分子/キャリア流体混合物を該部位に移送する工程、
を包含する、方法。
(項目32) 前記部位が、ヒトまたは動物であり、そしてここで、前記分子が、薬物分子である、項目31に記載の方法。
(項目33) 前記移送する工程が、静脈内投与による、項目32に記載の方法。
(項目34) 前記キャリア流体が、水、生理食塩水、血漿、全血、および糖溶液からなる群より選択される、項目33に記載の方法。
(項目35) ある部位へと分子を送達するための方法であって、以下:
(a)項目12に記載の装置を提供する工程;
(b)前記マイクロチップデバイスの前記リザーバを、前記キャリア流体に選択的に曝露する工程であって、これによって、前記分子を該リザーバから放出させ、そして該キャリア流体と混合して、分子/キャリア流体混合物を形成する、工程、ならびに
(c)該分子/キャリア流体混合物を該部位に移送する工程、
を包含する、方法。
(項目36) 前記部位が、ヒトまたは動物であり、そしてここで、前記分子が、薬物分子である、項目35に記載の方法。
(項目37) 前記移送する工程が、静脈内投与による、項目36に記載の方法。
(項目38) 前記キャリア流体が、水、生理食塩水、血漿、全血、および糖溶液からなる群より選択される、項目37に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、化学物質送達のための代表的なマイクロチップデバイスの斜視図である。
【図2】図2a〜eは、2つの加工された基板部分が一緒にされて形成された基板を有する、デバイスの種々の実施形態の断面概略図である。
【図3】図3a〜cは、マイクロチップデバイスからキャリア流体中への分子の能動的放出を示す、断面図である。
【図4】図4a〜cは、キャリアガス中への分子の能動的放出を示す断面図である。
【図5】図5a〜cは、機械的力の直接的な付与によって破裂する、マイクロチップデバイスのリザーバキャップを示す、断面図である。
【図6】図6a〜bは、超音波の適用によって破裂する、マイクロチップデバイスのリザーバキャップを示す、断面図である。
【図7】図7a〜cは、マイクロチップデバイスからキャリア流体中への分子の受動的放出を示す、断面図である。
【図8A】図8aは、静脈内送達される流体中に薬物を放出する薬物送達マイクロチップを組み込まれた、静脈内薬物送達システムの2つの実施形態の断面図である。
【図8B】図8bは、静脈内送達される流体中に薬物を放出する薬物送達マイクロチップを組み込まれた、静脈内薬物送達システムの2つの実施形態の断面図である。
【図8C】図8cは、マルチチャンバインターフェースコンソールを備え、そしてデジタル制御ステーションと通信する、静脈内薬物送達システムの斜視図である。
【図9】図9a〜cは、ステント−マイクロチップ薬物送達デバイスの1つの実施形態を示し、斜視図(図9a)および2つの断面図(図9bおよび9c)が示されている。
【図10】図10a〜cは、マイクロチップ薬物送達デバイスが組み込まれた、吸入デバイス(計量された用量の吸入器)の1つの実施形態を示す。
【図11】図11a〜dは、芳香性物質送達システムの1つの実施形態を示す。
【図12】図12は、飲料への添加物の導入のためのシステムの1つの実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(発明の詳細な説明)
(I.送達装置およびシステム)
この送達システムは、1つ以上のマイクロチップデバイス(例えば、本明細書中およびSantiniらに付与された米国特許第5,797,898号および米国特許第6,123,861号に記載のマイクロチップデバイス)。同特許の全体を参考のため援用する。)を含む。例えば、図1を参照されたい。図1は、典型的なマイクロチップデバイス10を示す。このマイクロチップデバイス10は、基板12と、リザーバ16と、リザーバキャップ14とを備える。このマイクロチップデバイスは、分子のキャリア流体中への能動的放出および受動的放出を提供する装置と一体化されている。この装置はある量のキャリア流体を含み得る。または、キャリア流体を装置の外部に設けても良い。
【0016】
(A.マイクロチップデバイス)
マイクロチップデバイスは典型的には、複数のリザーバを有する基板を含む。これらのリザーバは、放出される分子を含む放出システムを備える。いくつかの実施形態において、マイクロチップデバイスは、リザーバの開口部を被覆する1つ以上のリザーバキャップをさらに含む。これらのリザーバキャップの設計および形成に用いることが可能な材料としては、分子に対して選択的に透過性の材料、崩壊して分子を放出させる材料、破裂して分子を放出させる材料、またはこれらの組み合わせがある。能動的放出システムは、制御回路構成および電源をさらに含み得る。
【0017】
(1.基板)
基板は、エッチングされたリザーバ、成形されたリザーバまたは機械加工されたリザーバを含み、マイクロチップの支持部として機能する。基板として用いることが可能な材料としては、支持部として機能することができ、エッチング、成形または機械加工に適し、送達対象分子および周囲の流体(例えば、水、有機溶媒、血液、電解質または他の溶液)に対して不浸透性である材料であればよい。基板材料の例を挙げると、セラミック、半導体および分解性ポリマーおよび非分解性ポリマーがある。薬物を身体外部に送達する場合(例えば、吸入器中のガス状ストリームに薬物を放出する場合)、基板そのものに毒性が無いことが好ましいが、これは必須条件ではない。インビボ用途(例えば、ステントによる脈管流体中への薬物送達)の場合、殺菌済みの生体適合性材料を用いるのが好ましい。そうはいっても、用いる前に、毒性材料または別の場合において生体非適合性の材料を生体適合性材料(例えば、ポリ(エチレングリコール)またはテトラフルオロエチレンなどの材料)に封入してもよい。
【0018】
薬物送達以外の用途(例えば、診断または芳香物質の送達)の場合、基板の生体適合性はほとんど問題にならない場合があり得る。強靭で非分解性であり、また容易にエッチング可能でもありかつ送達対象分子および周囲の流体に対して不浸透性である基板の一例としてシリコンがある。ある種類の強靭な生体適合性材料の一例として、Uhrichらによる「Synthesis and characterization of degradable poly(anhydride−co−imides)」(Macromolecules、28:2184〜93(1995))に記載されているポリ(酸無水物−co−イミド)がある。
【0019】
基板は、1種類のみの材料で形成してもよいし、または、複合物または多層材料(例えば、数層に相互結合された状態の同じまたは異なる基板材料)であってもよい。複数の部分からなる基板は、セラミック、半導体、金属、ポリマーまたは他の基板材料からなる任意の数の層を含み得る。2つ以上の完全なマイクロチップデバイスを相互に結合させて、図2a〜図2eに例示的に示すような複数の部分からなる基板デバイスを形成してもよい。図2a〜図2eの比較のために、図2aは基板210を有する「単一の」基板のデバイス200を示し、この基板210において、リザーバ220は放出対象分子240で充填されている。リザーバ220はリザーバキャップ230で被覆され、バッキングプレート250または他の種類のシールによってシーリングされる。図2bは、基板を有するデバイス300を示し、この基板は、下部基板部310bに結合された上部基板部310aから形成される。上部基板部310a中のリザーバ320aは、下部基板部310b中のリザーバ320bと連絡している。リザーバ320a/320bは、放出対象分子340で充填され、リザーバキャップ330によって被覆され、バッキングプレート350または他の種類のシールでシーリングされる。図2cは、基板を有するデバイス400を示し、この基板は、下部基板部410bに結合された上部基板部410aから形成される。上部基板部410aには、下部基板部410b中のリザーバ420bと連絡するリザーバ420aがある。リザーバ420bはリザーバ420aよりもずっと大きく、リザーバ420a/420bは放出対象分子440を含む。リザーバ420a/420bは、放出対象分子440で充填され、リザーバキャップ430によって被覆され、バッキングプレート450または他の種類のシールでシーリングされる。図2dは、基板を有するデバイス500を示す。この基板は、下部基板部510bに結合された上部基板部510aから形成される。上部基板部510aには、第1の放出対象分子540aを含むリザーバ520aがある。下部基板部510bには、第2の放出対象分子540bを含むリザーバ520bがある。第1の放出対象分子540aは、第2の放出対象分子540bと同じであるかまたは異なる放出対象分子であり得る。リザーバ520aは、リザーバキャップ530aによって被覆され、(アノード材料から形成された)リザーバキャップ530bによってシーリングされ、下部基板部510bによって部分的にシーリングされる。リザーバ520bは、内部リザーバキャップ530bによって被覆され、バッキングプレート550または他の種類のシールによってシーリングされる。カソード560aおよび560bは、アノードリザーバキャップ530bと電位を形成するような位置に配置される。図2dに示すデバイスの一実施形態において、先ず、第2の放出対象分子540bは、リザーバキャップ530bの崩壊を通じてまたはリザーバキャップ530bの崩壊の後に、リザーバ520bからリザーバ520aに放出される。すると、第2の分子は第1の放出対象分子540aと混合され、その後、この分子混合物は、リザーバキャップ530aの崩壊を通じてまたはリザーバキャップ530aの崩壊の後に、リザーバ520aから放出される。図2eは、別のリザーバ形状構成を断面図として示したものである。基板部310a/410a/510aは、同じまたは異なる材料から形成され得、基板部310b/410b/510bの厚さと同じまたは異なる厚さを有し得る。これらの基板部を結合または取り付ける前に個別に処理(例えば、エッチング)してもよいし、または、(例えば、SOI基板の場合のように)これらの基板部を形成した後に、リザーバまたは他のフィーチャをこれらの基板部にエッチングまたは微細機械加工を行ってもよい。
【0020】
(2.放出システム)
送達される分子は、その純粋な形態で、液体の溶液またはゲルとして、リザーバに挿入され得るか、あるいはこれらは、放出システムの内部にかまたは放出システムによって、カプセル化され得る。本明細書中において使用される場合に、「放出システム」とは、固体もしくは液体として、分子が純粋な形態であるか、あるいは分解性材料、またはマトリックスからの拡散もしくはマトリックスの崩壊によって組み込まれた分子を放出する材料で形成されるマトリックス中にあるかの、両方の状況を包含する。分子は、時々、放出システムに収容され得る。なぜなら、放出システムの分解、溶解、または拡散の特性が、分子の放出速度を制御するための方法を提供するからである。分子は、放出システムに、相同にかまたは異種に分配され得る。放出システムの選択は、分子の放出の所望の速度に依存する。非分解性放出システムと分解性放出システムとの両方が、分子の送達のために使用され得る。適切な放出システムとしては、ポリマーおよびポリマーマトリックス、非ポリマーマトリックス、または無機物および有機物の賦形剤および希釈剤(例えば、炭酸カルシウムおよび糖であるが、これらに限定されない)を含む。放出システムは、天然物であっても合成物であってもよいが、合成放出システムは、放出プロフィールのより良好な特徴付けに起因して、代表的に好ましい。
【0021】
放出形は、放出が所望される期間に基づいて選択される。身体の外側への適用の場合には、放出時間は、数秒間から数ヶ月間の範囲であり得る。対照的に、インビボ適用(例えば、ステント薬物送達)に対する放出時間は、一般に、数分間から1年間の範囲内である。いくつかの場合において、リザーバからの連続的な(一定の)放出が、最も有用であり得る。別の場合において、リザーバからのパルス化された(バルク)放出が、より効果的な結果を提供し得る。複数のリザーバを使用することによって、1つのリザーバからの単一のパルスが、パルス化された放出に転換され得る。放出システムと他の材料とのいくつかの層を、単一のリザーバに組み込んで、単一のリザーバからのパルス化された送達を達成することもまた、可能である。連続的な放出は、分解するか、溶解するか、または延長した期間にわたって分子の拡散を可能にする放出システムを組み込むことによって、達成され得る。さらに、連続的な放出は、迅速な反復(succession)で分子のいくつかのパルスを放出することによって、シミュレートされ得る。
【0022】
これらの放出システム材料は、種々の分子量の分子が、リザーバから、拡散によってかまたは材料を通ってかまたは材料の分解によって、放出されるように、選択され得る。身体の外側の技術に関する1つの実施形態において、放出システムの分解または崩壊は、その平衡蒸気圧を増加させて、放出システムの蒸発を引き起こすことによって起こり得、これによって、分子を放出する。このことは、放出システムの温度を、薄層抵抗器を用いて直接的にかまたはキャリア液体および/もしくは気体との化学的相互作用によって受動的に、上昇させることによって、達成され得る。インビボ適用の場合には、生分解性ポリマー、生分解性ヒドロゲル、およびタンパク質の送達システムが、拡散、分解、または溶解によって分子を放出するために使用されることが、好ましくあり得る。一般に、これらの材料は、酵素化水分解または水への曝露によって、あるいは表面または内部の侵食によってかのいずれかで、分解する。代表的な、生分解性の合成ポリマーとしては、以下が挙げられる;ポリ(アミノ酸)およびポリ(ペプチド)のような、ポリ(アミド);ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸−co−グリコール酸)、およびポリ(カプロラクトン)のような、ポリ(エステル);ポリ(酸無水物);ポリ(オルトエステル);ポリ(カーボネート);およびこれらの化学的誘導体(例えば、アルキル、アルキレンのような化学基の置換、付加、ヒドロキシ化、酸化、および当業者によって慣用的になされる他の改変)、コポリマーならびにこれらの混合物。代表的な非生分解性の合成ポリマーとしては、以下が挙げられる:ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレングリコール)、およびポリ(テトラメチレンオキシド)のような、ポリ(エーテル);ビニルポリマー;メチル、エチル、他のアルキル、ヒドロキシエチルのメタクリル酸エステル、アクリル酸およびメタクリル酸のような、ポリ(アクリレート)およびポリ(メタクリレート);ならびにポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、およびポリ(酢酸ビニル)のような他のもの;ポリ(ウレタン);セルロースならびにそのアルキル、ヒドロキシアルキル、エーテル、エステル、ニトロセルロース、および種々の酢酸セルロースのような誘導体;ポリ(シロキサン);およびこれらの化学的誘導体(例えば、アルキル、アルキレンのような化学基の置換、付加、ヒドロキシ化、酸化、および当業者によって慣用的になされる他の改変)、コポリマーならびにこれらの混合物。
【0023】
(3.リザーバキャップ)
((i)崩壊または拡散による受動的放出)
受動的タイミングを利用した放出薬物送達デバイスにおいて、リザーバキャップを形成する材料は、経時的に分解もしくは溶解するかまたは分解も溶解もせず、かつ、送達対象分子に対して浸透性である材料である。これらの材料は好適にはポリマー材料である。リザーバキャップ用途として選択することが可能な材料としては、分子の放出を異なるリザーバから異なるタイミングで(時には)異なる速度で行うことを可能にするような、様々な分解速度、溶解速度または浸透性が得られる材料がある。異なる放出タイミング(放出タイミングを遅らせる時間の長さ)を得るために、キャップは、異なるポリマー、架橋度が異なる同じポリマーまたはUVによって重合可能なポリマーから形成され得る。後者の場合、このポリマーをUV光に露出させる時間を変えると、架橋度が変わり、キャップ材料の拡散特性または分解速度もしくは溶解速度も異なってくる。異なる放出タイミングを得るための別の方法として、1種類のポリマーを用いて、そのポリマーの厚さを変更する方法がある。いくつかのポリマーの肉厚の膜を用いると、放出タイミングは遅延する。ポリマー、架橋度またはポリマー厚さの任意の組み合わせを変更して、特定の放出タイミングまたは速度を得ることが可能である。一実施形態において、送達対象分子を含む放出システムを、分子に対してほぼ不浸透性である分解性キャップ材料で被覆する。リザーバから分子を放出するタイミングは、キャップ材料の分解所要時間または溶解所要時間によって限定される。別の実施形態において、キャップ材料は非分解性であり、送達対象分子に対して浸透性である。使用される材料の物理的特性、その架橋度およびその厚さによって、キャップ材料を通じて分子が拡散するために必要な時間が決定する。放射対象分子の放出システムからの拡散に制約がある場合、そのキャップ材料は、放出の開始を遅延させる。放射対象分子のキャップ材料を通過する拡散に制約がある場合、そのキャップ材料は、分子の放出速度および放出開始の遅延を決定する。
【0024】
((ii)崩壊による能動的放出)
能動的タイミングを利用した放出デバイスの一実施形態において、リザーバキャップは、導電性材料の薄膜からなる。この導電性薄膜は、リザーバ上に堆積され、所望のジオメトリにパターニングされ、アノードとして機能する。カソードも、デバイス上に作製される。これらのカソードのサイズおよび配置は、デバイスの用途および電位制御方法に依存する。アノードは、酸化を起こさせる電極として定義される。アノードおよびカソードを作製する際に用いることが可能な材料としては、電流または電位を受けると溶液に溶解するかまたは可溶性イオンもしくは酸化化合物を形成することができる(電気化学的溶解が可能な)導電性材料であれば任意の材料でよい。加えて、例えば、アノード近隣の局所のpHが変化することによって不溶性イオンまたは酸化生成物が可溶性になる場合、これらの酸化生成物を電位に応答して通常生成する材料を用いてもよい。リザーバキャップ材料として適切な材料を挙げると、金属(例えば、銅、金、銀、および亜鉛)、ならびに以下の文献に記載のいくつかのポリマーがある(例えば、Kwonらによる「Electrically erodible polymer gel for controlled release of drug」、Nature、354:291〜93(1991);およびBaeらによる「Pulsatile drug release by electric stimulus」、ACS Symposium Series、545:98〜110(1994)に記載の材料)。
【0025】
((iii)破裂による放出)
別の実施形態において、リザーバキャップは、分子を覆ってリザーバ上に配置される。デバイスまたはその一部が加熱または冷却されると、分子はリザーバから放出され、これにより、リザーバキャップが破裂する。本明細書において用いられるように、「破裂」という用語は、破断または何らかの他の形態の機械的破損と、温度変化に応答して発生する相変化(例えば、溶解)に起因する構造的完全性の損失とを指す(ただし、これらの機構のうち特定の機構について言及される場合は除く)。
【0026】
好適な実施形態において、加熱または冷却が生じると、リザーバ中の分子は熱膨張(すなわち、体積が増加)する。放出システムは、所与の温度(T1)になると、リザーバの体積を完全に充填する。温度T2まで加熱されると、放出システムは、膨張し始めて、リザーバキャップに力を加える。この力がキャップの破断強さを超えると、リザーバキャップは破断し、分子は放出される。この実施形態の別の例において、分子は気化または反応し得、これにより、リザーバ内の圧力は、リザーバキャップが機械的応力によって破裂するくらいに十分なレベルまで上昇する。リザーバに熱が加えられる前は、リザーバ中の圧力は、リザーバキャップを破裂させるのに必要な圧力よりも低い。熱が付加されると、リザーバ内の平衡圧力が上昇し、キャップ材料にかかる力は増加する。温度がさらに上昇すると、圧力も引き続き上昇して、内部圧力がリザーバキャップの破断強さよりも大きくなると、圧力上昇は止まる。リザーバ中の分子の加熱(例えば、雰囲気温度を超える温度までの加熱)によって引き起こされる現象としては典型的には、熱膨張、気化または反応がある。しかし、特定の用途においては、リザーバ中の分子の冷却によって熱膨張または反応が引き起こされる場合もある。例えば、凍結すると膨張するものとしては水がある。水性分子を覆うリザーバキャップの材料として冷却されると熱収縮を起こす材料を用いる場合、冷却を十分にすることによって機械的破損をさらに高レベルにするはずである。
【0027】
一実施形態において、リザーバキャップの破裂は、リザーバキャップ材料そのものの物理的(すなわち、構造的変化)または化学的変化(例えば、温度変化によって生じる変化)によって引き起こされる。例えば、加熱されると膨張を起こす材料でリザーバキャップを構成するかまたはそのような材料をリザーバキャップに添加することができる。リザーバキャップを固定位置に固定して加熱すると、そのリザーバキャップは膨張して、体積増加を生じることによって亀裂または破裂を起こす。この実施形態では、リザーバの内容物を最小に加熱または全く加熱せずに、リザーバキャップを加熱することが可能である。このような特徴は、過度に加熱されると変性を生じ得る感熱性分子(例えば、タンパク質薬物)を含むリザーバを用いる場合に特に重要である。
【0028】
能動的放出機構を用いた別の実施形態において、抵抗加熱を用いてリザーバキャップ材料を溶解させる(すなわち、相変化を起こさせる)。インビボ用途の場合、リザーバキャップは好適には、ある程度の範囲の選択可能な溶解温度(PCT WO98/26814を参照)を得ることができる生体適合性のコポリマー(例えば、有機ヒドロキシ酸の誘導体(例えば、ラクチドおよびラクトン)から構成される。出発モノマー比およびその結果得られるコポリマーの分子量を適切に選択することにより、リザーバキャップに対して、特定の溶解温度(例えば、通常の体温よりも約2℃〜約12℃高い温度を選択することができる。この種類のリザーバの開口機構を用いると、少なくとも2種類の送達スキームが得られる。第1のスキームは、様々な溶解温度を有する個々のリザーバキャップに基づく。デバイスまたはその一部を一定温度まで加熱することにより、特定のリザーバキャップのみが溶解して、その結果、リザーバが開口し、分子が露出される。したがって、異なる温度プロフィールを用いると、分子を選択的に放出させることが可能となる。図13に示す第2のスキームは、全てのキャップに一定の組成および均一の溶解温度を持たせる点に焦点を当てたものである。温度T1において、キャップは固相である。個々のリザーバキャップを局所的に温度T2まで加熱すると、リザーバキャップは溶融状態になる。この流体化したリザーバキャップは次いで移動性となり、その結果、リザーバの開口および分子の放出が容易化される。インビトロ用途の場合、組成および温度の面において要求が厳しくない同様の能動的スキームが可能である。
【0029】
受動的放出の実施形態において、リザーバキャップの破裂は、環境温度の変化(例えば、ヒトまたは他の動物の身体の表面または内部にデバイスを配置することによって引き起こされる温度変化)によってトリガされる。受動的機構が能動的機構と異なる点は、能動的デバイスのリザーバキャップの破裂をトリガするのは環境温度の変化ではなく直接的に付与される温度変化である点である。
【0030】
受動的デバイスの一実施形態において、リザーバキャップに熱刺激を与えて、分解を促進させる。例えば、リザーバキャップの分解の運動力学は室温では非常に緩慢であるため、リザーバキャップは化学的に安定しているとみなすことができる。しかし、(例えば、インビボでの移植によって)キャップ材料の温度を上昇させると、分解運動力学は著しく上昇する。分解の絶対速度は、リザーバキャップ材料の組成を制御することによって選択可能である。例えば、生体適合性コポリマー(例えば、ラクトンおよびラクチド)の分解速度は、主要な構造単位の特定のモル比に応じて、37℃において数時間〜数年(好適には2日〜1年)であり得る。それぞれが異なる組成を有するリザーバキャップのアレイを用いることにより、デバイスがデバイス周囲の温度によって規定される環境臨界に達すると、複雑な分子放出プロフィールを達成することが可能となる。
【0031】
受動的デバイスの別の実施形態において、全てのリザーバキャップは、一定崩壊速度(例えば、温度非依存性)を有し、放出プロフィールは、リザーバキャップ材料の物理的寸法を選択することによって制御される。崩壊速度を固定することにより、キャップ崩壊の所要時間は、リザーバキャップ材料の厚さから独立する。例えば、全てのリザーバキャップに同一の組成を持たせた実施形態において、キャップ厚さを変更することにより、分子放出を制御することができる。
【0032】
能動的デバイスおよび受動的デバイスのどちらの場合も、リザーバキャップは、降伏強さまたは引っ張り強さ(これを超えると、材料が疲労によって破断を生じる)を有する材料、あるいは温度を選択的に変化させることによって相変化(例えば、溶解)を起こす材料から形成される。材料は好適には、以下からから選択される:すなわち、金属(例えば、銅、金、銀、白金および亜鉛);ガラス;セラミック;半導体;および脆性ポリマー(例えば、半晶質ポリエステル)。リザーバキャップは好適には、薄膜(例えば、厚さが約0.1μm〜1μmの膜)の形態をとる。しかし、リザーバキャップの厚さは特定の材料および破裂機構(すなわち、電気化学的破壊であるかまたは機械的破壊であるか)によって異なるため、より肉厚のリザーバキャップ(例えば、厚さが1μm〜100μm以上のリザーバキャップ)の方が、特定の材料(例えば、特定の脆性材料)に関してはより良好に機能し得る。
【0033】
必要に応じて、リザーバキャップをオーバーコーティング材料でコーティングして、このオーバーコーティング材料が(溶解、腐食、生分解、酸化または別の場合に分解(例えば、インビボまたはインビトロでの水への露出による分解)によって)実質的に除去されるまでの間、破裂可能な材料層を構造的に補強してもよい。適切な分解性材料の代表例を挙げると、人工または天然の生分解性ポリマーがある。
【0034】
リザーバキャップは、受動的な実施形態においてもまたは能動的な実施形態においても、温度に応じて透過性のメンブレン半浸透性メンブレンとして機能する材料から形成され得る。
【0035】
能動的放出デバイスの好適な実施形態において、抵抗器をリザーバに一体化させるかまたはリザーバの近隣に取り付ける。リザーバは、抵抗器を通じて電流を受けると、リザーバ、キャップ材料またはリザーバおよびキャップ材料の両方の内容物を加熱する。典型的な実施形態において、抵抗器は、リザーバの下部にまたはリザーバの壁の内側に沿って配置されるか、または、小さなリザーバ開口部を被覆するリザーバキャップ上にまたはそのようなリザーバキャップの近隣に配置してもよい。抵抗器は概して、製造プロセスの間にリザーバと一体化させることが可能な薄膜抵抗器である。このような抵抗器は、金属(例えば、白金または金)、セラミック、半導体およびいくつかのポリマーから構成され得る。これらの抵抗器を製造する方法については、以下の文献に記載がある:すなわち、例えば、Wogersienらによる「Fabrication of Thin Film
Resistors and Silicon Microstructures Using a Frequency Doubled Nd:YAG Laser」、Proc.SPIE−Int.Soc.Opt.Eng.,3680:1105〜12(1999);Bhattacharya&Tummalaによる「Next Generation Integral Passives:Materials,Processes,and Integration of Resistors and Capacitors on PWB Substrates」J.Mater.Sci.−Mater.Electron.11(3):253−68(2000);およびVladimirskyらによる「Thin Metal Film Thermal Micro−Sensors」(Proc.SPIE−Int.Soc.Opt.Eng、2640:184〜92(1995))。あるいは、リザーバまたはリザーバキャップに近接するデバイスの表面に小型チップ抵抗器を取り付けても良い。
【0036】
(4.送達される分子)
天然物または合成物、有機物または無機物の、任意の分子またはその混合物が、送達され得る。1つの実施形態において、静脈内送達される流体に薬物を放出することによって、薬物を患者に全身的に送達するために、マイクロチップが使用される。本明細書中において使用される場合に、用語「薬物」とは、他に示さない限り、治療剤、予防薬、および診断薬を包含する。静脈内薬物送達適用の間に放出される薬物分子としては、抗生物質、化学療法剤、インビボ診断薬(例えば、造影剤)、糖類、ビタミン、毒素抗体、抗炎症薬、鎮痛剤(pain killer)、および透析のような腎臓手順のために有用な薬剤(例えば、ヘパリン)が挙げられるが、これらに限定されない。別の実施形態において、マイクロチップは、治療的または審美的な目的のために、流体流に分子を放出する。例えば、液体または気体の流体の放出される分子としては、アロマテラピーヒドロゾル、種々の芳香性物質、着色剤、ならびに人工甘味料および天然甘味料が挙げられるが、これらに限定されない。分析化学の分野は、少量(ミリグラム〜ナノグラム)の1つ以上の分子が必要とされる、なお別の実施形態を提示する。効果的な例示の分子は、pH緩衝剤、診断剤、および複合体反応(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応および他の核酸増幅手順)における試薬である。
【0037】
インビボでの分子放出のための1つの実施形態は、脈管流体内へのステント薬物送達である。放出される可能な分子としては、抗再狭窄化合物、タンパク質、核酸、多糖類および生物学的効果を有する合成有機分子(例えば、麻酔薬、ワクチン、化学療法剤、ホルモン、鎮痛剤、代謝産物、糖類、免疫調節剤、抗酸化剤、イオンチャンネル調節因子、および抗生物質)が挙げられる。薬物は、単一の薬物の形態または薬物混合物の形態であり得、そして薬学的に受容可能なキャリアを含み得る。
【0038】
(B.他のシステムまたは装置の構成要素)
キャリア流体中に分子を放出するための送達システムまたは装置は、さらに、特定の用途に依存して、種々の他の構成要素を備え得る。
【0039】
(1.混合チャンバ、ミキサーおよびポンプ)
いくつかの用途(例えば、以下に説明する静脈内の(IV)薬物管理システムの用途)に関する好適な実施形態において、本システムは、キャリア流体および放出対象薬物を組み合わせる場所である混合チャンバをさらに含む。本明細書において用いられるように、他に明記無き限り、「混合チャンバ」という用語は、マイクロチップデバイスからの分子がキャリア流体と接触することが可能である間にキャリア流体を一時的に保管することが可能な(例えば、キャリア流体を通過させることが可能な)任意の構造を指し得る。混合チャンバは、マイクロチップデバイス近隣に配置してもよいし、または、(キャリア流体が分子の放出元であるマイクロチップデバイスの表面を流れて通過する場所である)システムの下流の近隣に配置してもよい。キャリア流体および薬物は、濃度勾配または流体の化学的電位の低下に起因する拡散によって局所的に混合する。
【0040】
混合プロセスを高速化させるために、ミキサー(すなわち、混合デバイス)を必要に応じて装置の混合チャンバに組み込んで、乱流移動または対流移動を用いて、混合物を確実に均質にしてもよい。これらのデバイスの用途に適切な動的ミキサーおよび静的ミキサーは、当該分野において公知である。
【0041】
マイクロチップデバイスの1つ以上の面にキャリア流体を静的にまたは流動させながら提供することが可能である。流れの生成は、例えば、重力、毛管現象または1つ以上のポンプの使用を通じて行うことが可能である。ポンプを用いた実施形態の場合、ポンプは、装置から離れた場所に配置するか、または、装置もしくはシステム(例えば、混合チャンバ)内に配置することが可能である。これらのデバイスの用途に適切なポンプは、当該分野において公知である(例えば、O’Learyに付与された米国特許第5,709,534号およびSimonsに付与された米国特許第5,056,992号を参照されたい)。いくつかの実施形態において、ポンプは薬物およびキャリア流体を混合させるのに十分な乱流を生成することができるため、ミキサーを別に用いる必要はない。
【0042】
本明細書に記載のIVの用途の場合、重力送り法によって薬物溶液を患者に注入するか、あるいは、1つ以上のポンプを装置と一体化させて、溶液を患者にポンピングしてもよい。
【0043】
(2.ステント)
一実施形態において、マイクロチップデバイスはステントに一体化される。現在、ステントは、広範囲の医療用に用いられており、通常は血管の再閉鎖を防止するために用いられている。ステントの例を挙げると、心臓血管用途のステントおよび胃腸用途のステントがある。これらのステントは通常は非分解性である。尿管用ステントおよび尿道用ステントは、様々な良性条件、悪性条件および外傷後条件における閉鎖(例えば、石の存在および/もしくは小石の存在、または他の尿管の閉鎖(例えば、尿管狭窄、腹部臓器の腫瘍、腹膜後の繊維症もしくは尿管外傷に関連する尿管障害、または、体外衝撃波療法に関連する尿管閉鎖)を軽減するために用いられる。ステントは、内視鏡を用いた外科技術を用いてかまたは経皮的に配置することができる。最先端のステントの例を挙げると、ダブルピグテール(double pigtail)尿管ステント(C.R.Bard,Inc.,Covington,GA)、SpiraStent(Urosurge,Coralville,IA)、およびCook泌尿器用ステント、尿管用ステントおよび尿道用ステント(Cook Urological,Spencer,IN)がある。
【0044】
生体吸収性ステントを用いると、ステントを除去するための第2の手順が不要となるため、泌尿器用途などの用途には生体吸収性ステントが特に望ましい。さらに、金属性ステントを心臓血管用途に用いる際に生じる主な問題の1つは、ステントを取り付けた後、内皮壁が過剰に成長することによって再狭窄が発生する点である。このような再狭窄は、血管壁上の金属性ステントが原因となって生じる炎症に少なくとも部分的に起因すると考えられている(Behrend,American J.Cardiol.p.45、TCT Abstracts(1998年10月);Unverdorbenら、American J.Cardiol.p.46、TCT Abstracts(1998年10月)を参照されたい)。適切な材料で構成されているているかまたはコーティングされている生体吸収性のステントは、炎症発生を低レベルにまたはゼロにする必要がある。生体吸収性ステントは、当該分野において公知の方法(例えば、米国特許第5,792,106号;米国特許第5,769,883米国特許第;米国特許第5,766,710号;米国特許第5,670,161号;米国特許第5,629,077号;米国特許第5,551,954号;米国特許第5,500,013号;米国特許第5,464,450号;米国特許第5,443,458号;米国特許第5,306,286号;米国特許第5,059,21l号、および米国特許第5,085,629号に記載の方法および手順。Tanquay,Cardiology Clinics,23:699〜713(1994)、およびTalja,J.Endourology,11:391〜97(1997)も参照されたい)を用いて作製することが可能である。
【0045】
マイクロチップデバイスのステントへの一体化については、以下の「用途」についての節に詳しく説明する。
【0046】
(II.キャリア流体)
マイクロチップデバイスのリザーバに収容される分子は、特定の用途に依存して、種々のキャリア流体に送達され得る。キャリア流体は、本質的に、流体形態の任意の組成物であり得る。本明細書中において使用される場合に、用語「流体」とは、液体、気体、超臨界流体、溶液、懸濁液、ゲル、およびペーストを包含するが、これらに限定されない。
【0047】
医療用途のための適切なキャリア流体の代表的な例としては、天然の生物学的流体ならびに他の生理学的に受容可能な流体(例えば、水、生理食塩水、糖溶液、血漿、および全血、ならびに酸素、空気、窒素、および吸入プロペラント)が挙げられるが、これらに限定されない。キャリア流体の選択は、特定の医療用途(例えば、ステント適用、静脈内送達システム、移植可能な送達システム、または吸入(例えば、肺)投与のためのシステム)に依存する。
【0048】
芳香性物質の放出システムにおける使用に適切なキャリア流体の代表的な例としては、水、有機溶媒(例えば、エタノールまたはイソプロピルアルコール)、水溶液、およびこれらの任意の混合物が挙げられる。
【0049】
飲料添加物システムにおける使用に適切なキャリア流体の代表的な例としては、任意の型の飲料または飲料ベース(例えば、水(炭酸水と無炭酸水との両方)、糖溶液、ならびに人工甘味料の溶液)が挙げられる。
【0050】
分析される特定の流体に依存して、本質的に任意の化学流体が、分析システムまたは診断システムにおいて使用され得る。例としては、空気または水の環境サンプル、産業または実験室のプロセスサンプリング分析、食物、飲料、および薬物の製造のための品質管理評価においてスクリーニングされる流体サンプル、ならびにコンビナトリアルスクリーニング流体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
(III.動作および分子放出)
1つの好適な実施形態は、電気化学的刺激に応答して分子を放出するマイクロチップからの液状キャリアへの分子の能動的放出である。この様子を図3に示す。電位(図3aを参照)が与えられると、キャップ材料は溶解(図3bを参照)し、その結果、図3cに示すように、分子は、リザーバ開口部近隣を流れる液体中に放出される。好適な実施形態において、電流は、変調され、一定の値では維持されない。
【0052】
別の実施形態は、流動する気相中に分子種を放出する工程を含む(図4a〜図4cを参照)。放出システムに熱が付加されると、その放出システムは膨張して、圧力をキャップ材料に付加し得る(温度Tl<温度T2)。特定の臨界温度および圧力になると、キャップは破断して、デバイス周囲の流動ガス中に分子を吐出および放出させる(温度T2<温度T3)。
【0053】
能動的放出デバイスの別の実施形態では、放出機構として機械的力を用いて、メンブレンを破裂させる(例えば、Jacobsenらに付与された米国特許第5,167,625号を参照されたい)。同特許は、本明細書中に記載のデバイスとなるように改変または適合を行うことが可能な破裂手段について記載している。1つの非限定的な例として類似のMEMS技術または他の任意の機械加工技術を用いて作製されるカンチレバーのアレイによってキャップ面を強制的に接触させることによってキャップを破裂させる工程がある(図5を参照)。放出システムを露出させ、分子を放出させるためにキャップ材料を破裂させることが可能な別の方法として、超音波を用いた方法もある(図6を参照)。リザーバ上のまたはリザーバ近隣の圧電性素子を作動させると音波が発生し、その結果、キャップ材料が破裂する。これらの圧電性素子は、非中心対称の結晶構造を有する任意の材料から構成され得る。好適な圧電性材料としては、セラミック(例えば、BaTiO3、Li
NbO3およびZnO(Chiang,Y.による「Physical Ceramic
s」、John Wiley&Sons,Inc.,New York、37〜66ページ(1997))と、ポリマー(例えば、ポリビニリデン(Hunter&Lafontaineによる「A Comparison of Muscle with Artificial Actuators」、Technical Digest of the 1992 Solid State Sensor and Actuator Workshop、178〜85ページ(1992))とがある。これらのアクチュエータは、イオンスパッタリングなどの標準的技術を用いて薄膜の形態で作製することが可能である(Tjhenらの「Properties of Piezoelectric Thin Films for Micromechanical
Devices and Systems」(Proceedings−IEEE Micro Electro Mechanical Systems、114〜19ページ(1991))およびゾル−ゲル処理(例えば、Kleinによる「Sol−Gel Optics:Processing and Applications」(Kluwer Academic Publishers、1994)に記載のゾル−ゲル処理))。超音波エネルギーの供給は、送達デバイス上に配置された構成要素、キャリア流体中に配置された構成要素または送達デバイスの外部に配置された構成要素によって行うことが可能である。露出させるリザーバを選択する方法としては、例えば、第2の超音波を用いた波干渉がある。これらの第2の波は、第1の超音波と干渉して破壊する機能を行うことができ、これにより、エネルギー付加を選択された一連のリザーバのみに限定する。
【0054】
さらなる実施形態では、分子のキャリア流体への受動的放出が行われる。この用途の1つの一般的な例として、キャリア流体中に配置されるかまたはキャリア流体に曝されると分解する放出システムがある。流体の化学的性質(例えば、酸性であるかもしくは塩基性または極性であるかもしくは非極性であるか)によって、キャップ材料は分解または溶解し得る(図6bを参照)。キャップ材料が完全に溶解すると、分子は、リザーバ開口部近隣において流動している液体中に放出される(図6cを参照)。流体は、放出システムまたはキャップ材料を崩壊させるものであれば任意の液体またはガスでよい。
【0055】
(IV.製造または組み立て方法)
マイクロチップデバイスは、例えば、当該分野において公知の技術(特にSantiniらに付与された米国特許第6,123,861号に記載の方。同特許を参考のため援用する)を用いて作製可能である。同特許に記載の作製方法では微細加工技術および微細電子処理技術が用いられているが、能動的マイクロチップによる化学的送達デバイスおよび受動的マイクロチップによる化学的送達デバイスの作製は、半導体などの材料または微細電子機器製造において典型的に用いられるプロセスに限定されないことが理解される。例えば、他の材料(例えば、金属、セラミックおよびポリマー)をデバイス中において用いることが可能である。同様に、他の作製プロセス(例えば、めっき、キャスティングまたは成形)を用いてデバイスを作製してもよい。
【0056】
一実施形態において、絶縁体上シリコン(SOI)技術(例えば、S.Renardの「Industrial MEMS on SOI」(J.Micromech.Microeng.10:245〜249(2000))に記載の技術)を用いてリザーバを形成することも可能である。SOI法は、複雑なリザーバ形状(例えば、図2b、図2cおよび図2eに示すようなリザーバ形状)を有するリザーバを形成する際、有用に適合されることが可能である。SOIウェハは、実質的に2つの基板部として挙動する。これらの2つの基板部を原子スケールまたは分子スケールで結合した後、任意のリザーバをいずれかの基板部にエッチングさせている。SOI基板を用いると、絶縁体層のいずれかの側部上のリザーバ(またはリザーバ部位)を個々にエッチングすることが容易に可能となり、その結果、絶縁体層のいずれかの側部上のリザーバは異なる形状をとることができる。その後、(反応イオンエッチング、レーザ、超音波、または湿化学式エッチングなどの方法を用いて)2つのリザーバ間の絶縁体層を除去することにより絶縁体層のいずれかの側部上のリザーバ(複数のリザーバ部)を接続させて、複雑なジオメトリを有する単一のリザーバを形成することが可能となる。
【0057】
残りのシステム構成要素は、公知の供給源から提供され得るか、または、公知のデバイスおよび方法から作製され得るかもしくは適合され得る。
【0058】
マイクロチップデバイスは、当該分野において公知の技術を用いて(例えば、特定の用途に応じて接着剤手段および機械的手段(例えば、ファスナー)を用いることによって)、他のシステムまたはデバイス構成要素(すなわち、システムまたは装置のアセンブリ)に一体化させることが可能である。
【0059】
(IV.用途)
マイクロチップ送達システムを用いて、様々な形態の様々なキャリア流体中に分子を放出させることが可能である。分子放出の代表例を挙げると、患者(例えば、静脈系または呼吸系)に導入または投与するべき流体中への薬物送達;移植されたシステム(例えば、ステントまたは微細ポンプ)からの薬物送達;分析化学もしくは診断化学;芳香物放出システム;および飲料添加剤システムがある。
【0060】
各リザーバの内部または近隣にある各リザーバ、リザーバキャップまたは他の物体(例えば、抵抗器(ヒーター)、電極またはチャンネル)の数、ジオメトリおよび配置は、特定の用途に応じて変更することが可能であることが理解される。分かりやすくするため、いくつかの図ではリザーバを1つだけ図示している。しかし、マイクロチップ構成要素またはデバイスは、少なくとも2つの(好適にはより多くの)リザーバを含むことが理解される。以下、多くの有用な用途のうちいくつかについて詳細に説明する。
【0061】
(A.静脈内薬物送達システム)
1つ以上のマイクロチップ化学物質送達デバイスを備える、静脈内(IV)薬物送達システムが、提供される。このデバイスは、静脈内投与のための生理学的に受容可能なキャリア流体中に、分子を放出する。
【0062】
図8aに示すように、IVシステム100は、コンソール108を備え、これは、キャリア流体104の容器102(例えば、バッグまたは瓶)から延びるカテーテル106と連絡する。このキャリア流体は、容器102からカテーテル106(または他の可撓性中空チュービング)を通ってコンソール108へと流れる。コンソール108において、キャリア流体104は、マイクロチップデバイス112の1つ以上の表面を通過し、ミキサー114(任意)を使用して、混合チャンバ103内で、放出された分子と混合され、次いで、第二のカテーテル116(または他の可撓性中空チュービング)を通って、患者に流れ込む。
【0063】
このシステムの別の実施形態を、図8bに示す。このIVシステム120は、キャリア流体104の容器126の内部に提供される、マイクロチップデバイス122aおよび122bを備える。混合チャンバ130内のキャリア流体104は、ミキサー124(任意)を使用して、放出された薬物分子と混合される。得られる混合物は、容器126からチュービング128を通って患者へと流れる。能動マイクロチップデバイスがこの様式で使用される場合には、制御電極および電源が、好ましくは、マイクロチップデバイス自体に組み込まれる。
【0064】
図8cに示す、好ましい実施形態において、IVシステム150は、「差込」カートリッジ152を収容するコンソール156を備え、このカートリッジは、1つ以上の役部収容マイクロチップデバイス、制御電極154、およびIVキャリア流体容器158を備える。
【0065】
1つの実施形態において、IVシステムは、1つ以上の薬物をマイクロチップデバイスの1つ以上のリザーバから放出するようマイクロチップデバイスに信号を送るようプログラムされ得る、電子制御システムを備え、これによって、流体がマイクロチップデバイスを通過する際にキャリア流体に放出して、薬物溶液を作製し、これが、患者に送達される。電子制御システムは、コンソールまたはマイクロチップデバイスに、ケーブルによって接続され得るか、あるいはコンソールまたはマイクロチップデバイスに、当該分野において公知の無線通信手段によって信号を伝達し得る。このようなIVシステムはまた、デジタル読み取りを備え得、これは、薬物の名称、放出頻度、放出速度、マイクロチップに残った薬物の量、およびマイクロチップが充填されたものと交換されることが必要な時点のような、重要な薬物送達パラメータを表示する。電子機器はまた、外科医が、所望の放出パターンの型(パルス化された放出または連続的な放出のいずれか)でプログラムすることを可能にする。
【0066】
マイクロプロセッサ、メモリ、およびタイマーを、電子制御システムに含めることもまた、薬物の過剰投与または患者への誤った薬物の投与の可能性を低下させる際に役立ち得る。安全性のプロトコルは、メモリに格納され得、そしてマイクロプロセッサによって連続的にチェックされて、以下を禁制し得る:(i)特定の時間間隔にわたる、患者への多すぎる薬物の放出、および/または(ii)2つ以上の不適合薬物の同時の放出。さらに、マイクロチップは、メモリに、送達される薬物の正確な量、その送達時間、およびマイクロチップに残っている薬物の量を格納し得る。この情報は、無線技術(例えば、移植物に対して)を使用してか、または標準的なコンピュータ接続(例えば、外部システム、インラインシステム、またはIVシステムに対して)を使用して、外科医または中枢モニタリングシステムに、実時間ベースで伝達され得る。このことは、外科医が患者の状態を遠隔的にモニタリングすることを可能にする。
【0067】
これらの実施形態によって提供される1つの利点は、薬物をその最も安定な形態(例えば、液体、ゲル、または結晶性もしくは粉末状の固体)で、マイクロチップ内に、溶液中に放出されて患者に送達されることが所望されるまで、格納する能力である。このことは、一旦溶液中に溶解されるとその安定性が制限される、多くの薬物(特に、タンパク質または生物薬物)の貯蔵寿命(すなわち、安定性)を劇的に増加させ得る。
【0068】
別の利点は、医療の誤りの低下である。例えば、多数の医療の誤りが、不注意で間違った量の薬物で満たされた伝統的なIVバッグ、または誤ってラベルを貼られたバッグにおいて生じ得る。本明細書中に記載されるようなマイクロチップ「カートリッジ」は、そのマクロチップ中の薬物の型および量を示すバーコードで標識され得る。一旦、マイクロチップカートリッジがIVシステムまたはコンソールに差し込まれると、そのIVシステムは、薬物の型および量を検出し得、そしてそれをデジタル読み取りに表示し得、これは、外科医または看護婦が、正しい医薬および投薬量が患者に送達されることを容易に確認することを可能にする。マイクロチップはまた、キャリア流体容器の患者との間の他の位置に配置され得ることが、理解される。
【0069】
コンソールの本体は、好ましくは、成形プラスチックで作製される。キャリア流体および/または薬物と接触する全ての部品は、好ましくは、生体適合性材料、好ましくは、ポリ(テトラフルオロエチレン)または類似の材料のような、流体をも放出される薬物をも妨害しない材料で、形成または被覆される。混合チャンバおよび流体接続は、耐漏出性であるべきである。
【0070】
(B.薬物送達ステント)
キャリア流体中への分子の放出のためのマイクロチップデバイスの1つの実施形態は、1つ以上の薬物送達マイクロチップを、ステント(例えば、脈管ステント)の内部/表面に組み込むことを包含する。薬物収容マイクロチップは、好ましくは、このステントの1つ以上の表面に提供される(例えば、図9a〜cに示すように)。マイクロチップデバイスは、移植およびステント拡張の間に、ステント内に存在し得るか、またはマイクロチップデバイスは、ステントの移植および拡張の直後に、別の手順においてステントの内部に取り付けられ得る。マイクロチップが十分に小さい場合には、マイクロチップのステントへの移植および取り付けは、ステントの移植において使用したものと同じカテーテル送達技術を使用して、完了され得る。好ましい実施形態において、ステント−マイクロチップデバイスのマイクロチップは、遠隔手段または無線手段によって、そのステントから薬物を直接送達するように、プログラムまたは作動される。
【0071】
ステント−マイクロチップデバイスの1つの好ましい用途は、血管形成手順を経験したばかりの動脈への、抗再狭窄剤の局所送達である。別の実施形態において、ステント−マイクロチップデバイスは、1つ以上の薬物を、ステントを通って流れる血液を介して患者に全身的に送達するために、使用される。別の実施形態において、ステントは、薬物リザーバおよびキャップを、ステントの一部として、すなわち、別個のマイクロチップデバイスとしてではなく、モノリシックステントデバイスの一部として有するように、設計および作製され得る。任意の薬物の全身送達と局所送達との両方が、ステントと組み合わせたマイクロチップ技術を使用して可能であることが、理解される。
【0072】
マイクロチップ−ステント薬物送達デバイスは、動脈および脈管の用途に限定されない。ステント配置技術と統合されたマイクロチップは、ヒトおよび動物の身体内の種々の他のチャネル内に、薬物を送達するよう働き得る。代表的な例としては、胃腸路、呼吸経路、生殖系路および尿路、腎臓脈管、脳脊髄液通路、および洞が挙げられる。
【0073】
(C.薬物吸入デバイス)
別の実施形態において、マイクロチップデバイスは、患者による引き続く吸入のための気体状キャリア流体(例えば、空気)に分子を放出するために使用される。1つのシステムにおいて、例えば、薬物を収容しているマイクロチップデバイスは、計量された用量の吸入器(MDI)に組み込まれて、送達される分子の用量を正確に制御するための簡単な方法を提供する。マイクロチップデバイスはまた、制御された環境(リザーバ内)を提供し、これは、貯蔵された薬物の安定性を延長するよう機能し得る。
【0074】
薬物を充填されたマイクロチップとともに使用するために適した、計量された用量の用途の多くの異なる様式が、例えば、Genovaらに対する米国特許第6,116,234号のように、当該分野において記載されている。図10a〜cは、マイクロチップで計量される用量吸入器における、薬物送達機構の概略流れ図の1つの実施形態を示す。薬物を充填されたマイクロチップが、アプリケータの開口端部上の交換可能なカートリッジの内壁に配置される。電源回路構造からの電気信号を、マイクロチップに、スイッチまたはタイマーを介してトリガすると、種々の放出技術(例えば、図4〜6に記載した方法)を使用して、用量が気体流れに放出され得る。一旦、リザーバキャップが崩壊または破裂すると、開口リザーバ上を流れる気体の流れが、薬物分子をそのリザーバから患者へと送達する。キャリアガスは、圧縮ガスの放出または患者による吸入の際に、マイクロチップデバイスに適用され得る。薬物分子は、いくつかの機構(蒸発、エアロゾルの形成、噴霧化が挙げられる)のいずれか、またはベルヌーイの原理によって、MDIにおけるリザーバから出得る。代替の実施形態において、分子は、拡散または蒸発によって、開口リザーバから静止した気体内に放出され、これは引き続いて、第二工程において、患者によって吸入される。
【0075】
薬物の投薬量は、正確な量の薬物を有する選択数のリザーバからの放出をトリガすることによって、正確に計量され得る。各投薬量は、1つ以上のリザーバによって放出される分子から構成され得る。
【0076】
好ましい実施形態において、マイクロチップ−吸入デバイスは、必要な分子用量を患者が活性化するまで密封されたリザーバを、有利に提供する。従って、パッケージング、使用、または貯蔵の間の潜在的に厳しい環境は、リザーバ内の各用量の安定性および濃度に影響を及ぼさない。マイクロチップデバイスは、例えば、キャリアガスの流路内に位置する、交換可能なカートリッジ内に収容され得る。
【0077】
(D.芳香性物質の送達システム)
別の実施形態において、気体状のキャリア流体(代表的には、空気)内への芳香性分子の送達のためのシステムが提供される。これらのシステムは、芳香性物質を収容するマイクロチップデバイスを備え、このデバイスは、1つ以上の芳香性物質の送達のための種々の装置に組み込まれ得る。芳香性分子は、例えば、芳香剤、アロマテラピー剤、室内の脱臭または臭気マスキングのための化学物質、ならびに任意の目的で香気および芳香の送達を発生または刺激するための分子であり得る。芳香性分子は、図4〜6において先に記載した方法を使用して、周囲の環境に放出され得る。
【0078】
1つの用途において、マイクロチップデバイスは、香料分子を放出するために、宝飾品または他の個人用装飾品に組み込まれる。この芳香性物質の放出は、使用者によって手動で開始され得るか、または装飾品の内部に位置する通信および制御システムを介して、連続的かもしくはパルス化された放出のために、プログラムされ得る。リザーバの作動のための信号は、装飾品の内部に直接位置し得るかまたは別の装飾品(例えば、時計)制御回路構造によって発生され得る。遠隔通信システムは、1つ以上のリザーバを作動させるよう働く無線周波数信号を発生させ得る。図11aを参照のこと、図11aは、首飾り192に組み込まれた芳香性物質収容マイクロチップデバイス190からの、芳香性物質のパルス化された放出を示す。ここで、この放出は、組み込まれた信号送信機を有する時計194から送信される信号によってトリガされる。このマイクロチップデバイスは、例えば接着剤を使用して、首飾りの表面に設置され得、そして首飾りの周囲の種々の位置に配置され得る。図11b〜11dは、局所的抵抗加熱による作動プロセスの詳細を示す。これは、放出システムを蒸発させる。温度の上昇は、放出システムの蒸発を引き起こし、従って、芳香を発生させる。放出システムを分解するかまたは周囲環境に曝露する任意の方法(例えば、本明細書中に記載される放出機構)を使用して、芳香性分子が周囲環境に放出され得ることもまた、理解される。
【0079】
別の用途において、マイクロチップデバイスは、娯楽目的で、遊戯または他の新規物品に組み込まれる。例えば、芳香性物質を収容するマイクロチップデバイスは、娯楽コンソール(例えば、音響システムまたは画像システム(例えば、テレビ))に挿入されるカートリッジに収容され得る。特定の場面(例えば、映画において)に達すると、その場面または状況に関連する芳香を含む特定のリザーバを作動させるための、電気信号が送られる。あるいは、芳香性物質を収容するマイクロチップデバイスは、コンソールと通信する別個のユニットに組み込まれ得る。この別個のユニットは、必要に応じて、キャリアガスの供給源(例えば、交換可能な圧縮ガスのキャニスター)を備える。
【0080】
(E.飲料添加剤システム)
さらなる実施形態において、1つ以上の添加剤をキャリアに送達して、1つ以上の消費者用飲料を形成するためのシステムが、提供される。添加剤分子を収容するマイクロチップデバイスは、この添加剤分子を、液体のキャリア流体(これは、代表的に、1つ以上の添加剤のみを欠く飲料であるか、または最終的に飲料が形成される水もしくは別のベースである)に選択的に放出する。代表的な添加剤としては、天然または人工の香味剤、甘味料、調味料、および着色料が挙げられる。分子の放出は、能動的または受動的であり得る。
【0081】
好ましい実施形態において、分子は、飲料が消費される直前に放出される。このことは、これらの分子を、飲料に含まれる液体への曝露を最小にし、従って、香味増強のために使用される広範な化学物質の安定性および有効性を、延長する。
【0082】
1つの実施形態において、1つ以上の添加剤(例えば、人工甘味料および香味剤)を収容するマイクロチップデバイスが、飲料分配システム(例えば、ソーダファウンテン)の一体的構成要素であるチャンバに装填される。この実施形態において、マイクロチップデバイスは、水溶液に可溶性の能動放出システムを備える。キャリア流体(これは、代表的には(ソーダ用の)炭酸水である)は、混合チャンバに流入し、ここで、人工甘味料および香味剤が、放出システムの溶解によって、放出される。マイクロチップデバイスは、例えば、使い捨てカートリッジまたは再充填可能なカートリッジ(すなわち、マガジン)に組み込まれ得、これは、例えば、マイクロチップデバイスが空になった場合に、交換され得る。カートリッジの交換は、新たな芳香性分子が新たなバッチの飲料混合物に添加されることを可能にし、そして香味付けが飲料製造の最後に起こる場合には、予め混合された種々の飲料の在庫を減少させ得る。
【0083】
この実施形態の別の改変を、図11に示す。この場合には、マイクロチップデバイス(これは、香味材を収容する)を収容する複数(ここでは3つ)のマガジンが、チャンバ内に提供され、このチャンバは、炭酸水のような飲料ベース(すなわち、投入液体)の流れとインラインの、不連続な構成要素である。マイクロチップデバイスは、受動的放出または能動的放出であり得る。図11はまた、任意の二次的な容器を示し、これは、消費前に内部で溶液が均一に混合される、混合チャンバとして働き得る。マイクロチップデバイスは、流路に沿った本質的に任意の位置に提供され得ることが、理解される。マイクロチップマガジンの設計は、好都合に、自動販売機に、消耗時に香味付けシステムを補充する能力、または1つの香味付けされた飲料から別の飲料への容易な交換の能力を与える。これは、予め混合された種々の飲料の在庫を減少させるよう働き得る。
【0084】
(F.診断システム)
液体および気体状のキャリア流体中に放出するための分子を収容するマイクロチップは、診断および分析化学において、広範な潜在的な用途を有する。診断システムの1つの実施形態において、本明細書中に記載されるマイクロチップ技術は、DNA試験、血液分析、または環境サンプルの試験において使用される微小流体アレイに統合され得る。好ましい実施形態において、生理食塩水溶液のようなキャリア流体が、微小流体アレイにおける極小のチャネルを通して電気泳動的にポンピングされる。試薬分子を収容し、そして能動リザーバキャップを有するリザーバが、微小流体チャネルの底部に沿って配置される。生理食塩水溶液が、試薬で満たされたリザーバをを収容するチャネル内にポンピングされるにつれて、信号(例えば、電流)がリザーバキャップに送られて、これらの分解を引き起こし、リザーバの内部の試薬をチャネル内の生理食塩水溶液中に拡散させる。試薬の放出は、流体がリザーバの上で止まっている間か、またはキャリア流体がリザーバのそばを流れれている間に起こり得る。試薬を含有する生理食塩水溶液が、ここで混合チャンバにポンピングされ、このチャンバで、試薬が目的のサンプル(例えば、血液サンプル)と混合されて、所望の相互作用が起こる。
【0085】
診断システムの別の例は、コンビナトリアルケミストリーから生じる。コロイド粒子(例えば、塗料および塗装工業)は、しばしば、懸濁液の安定化を必要とし、これは、最適な化学物質の検索において、大きなアレイの実験を必要とする。表面活性触媒、巨大分子およびイオン性の塩のような化学物質は、適切なコロイド組成を決定するために使用される試薬の、ほんの少数である。1つ以上のこれらのコロイド添加剤を満たされたマイクロチップデバイスが、粒子を含む撹拌された液体媒体に入れられ得る。例えば熱活性化技術を使用して、特定のリザーバキャップを崩壊することによって、特定の化学種が、制御された様式で、経時的に放出され得る。これは、大規模なコンビナトリアル実験を正確かつ自動的に実施する方法を与える。
【0086】
マイクロチップデバイスはまた、コロイドの安定性を特徴付けるための手段を提供する、組み込まれた電極および回路構造を備え得る。超音波振動ポテンシャル(UVP)および動電学的音響増幅(ESA)のような特徴付け技術が周知であり、そしてM.Rahamanによって「Ceramics Processing and Sintering」(New York 1995)に詳細に記載されている。従って、マイクロチップデバイスは、安定化のために必要とされる化学と安定化動力学との両方に関する情報を提供し得る。マイクロチップデバイスは、他の多くの診断およびコンビナトリアル用途(例えば、DNAまたは遺伝子の分析、薬物送達、および環境試験)において、働き得ることが理解される。
【0087】
(G.移植可能なポンプを備えるマイクロチップデバイス)
別の実施形態において、マイクロチップデバイスは、例えば延長した期間にわたる薬物の送達(糖尿病患者へのインスリンの送達および特定の種類の重篤な慢性的疼痛の処置が必要である場合など)のために、移植可能な微小ポンピングシステムに組み込まれる。これらのデバイスにおいて使用するために適切なマイクロポンプ装置は、当該分野において公知である(例えば、Rosenbergに対する米国特許第4,596,575号を参照のこと)。マイクロポンプは、キャリア流体を、マイクロチップデバイスの1つ以上の表面を横切ってポンピングする。種々のキャリア流体が、ポンピングされる流体として作用し得、濾過された細胞外流体、生理食塩水溶液、または水が挙げられるが、これらに限定されない。
【0088】
好ましい実施形態において、用量の送達は、例えば、Santiniに対する米国特許第5,797,898号および同第6,123,861号に記載されるように、電気化学的解離を介するリザーバキャップの崩壊によって、能動的に制御される。放出システムは、好ましくは、キャリア流体に可溶性の固体の形態である。流体が、活性化されて開いたリザーバの上または周囲を通過するにつれて、固体の薬物がこのキャリア流体中に溶解して溶液を形成し、これが、細胞外環境にポンピングされる。
【0089】
(H.腎臓での適用)
腎臓透析手順において、患者の血液は、エキソビボで、透析器を通って流れ、ここで、毒性の分子が選択的に血液から除去され、そして「洗浄された」血液が、患者の身体に戻される。これらの毒性分子(これらは通常、腎臓によって血液から除去される)は、腎臓の減少した機能または受適切な機能に起因して、経時的に蓄積する。毒性分子は、血液が透析器を通過するにつれて患者の血液から除去され、同時に治療分子および薬物が、血液に容易に添加され得る。これは、複数の薬物または他の分子を、エキソビボに配置されたマイクロチップデバイスを使用して、患者に全身送達するための、潜在的な方法を導く。好ましい実施形態において、薬物分子で満たされたマイクロチップデバイスは、透析手順の間に血液が流れるチュービング内に配置される。マイクロチップは、血液がこのチュービングを通過するにつれて、患者の血液に1つ以上の型の分子を、能動的にかまたは受動的に送達し得る。この方法は、送達デバイスを患者の身体に移植する必要なく、複数の薬物が正確かつ直接的に患者の血液中に送達されることを可能にする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−71142(P2012−71142A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233643(P2011−233643)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【分割の表示】特願2009−147079(P2009−147079)の分割
【原出願日】平成12年11月17日(2000.11.17)
【出願人】(506275450)ボストン サイエンティフィック サイムド, インコーポレイテッド (11)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【分割の表示】特願2009−147079(P2009−147079)の分割
【原出願日】平成12年11月17日(2000.11.17)
【出願人】(506275450)ボストン サイエンティフィック サイムド, インコーポレイテッド (11)
【Fターム(参考)】
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