説明

キュウリにおいてトバモウイルス抵抗性と遺伝学的に関連するマーカーおよびその使用

本発明は、トバモウイルス、特に、商業上重要な2つの病原性トバモウイルス、すなわち、キュウリ緑色斑点モザイクウイルス(CGMMV)およびキュウリ果実斑点モザイクウイルス(CFMMV)に対する一般的な抵抗性を与えるキュウリ植物(Cucumis sativus L.)のゲノム中の遺伝子座に遺伝学的に関連し、かつ、該遺伝子座を同定し得る分子マーカーに関する。本発明はさらに、トバモウイルス、特に、商業上重要な2つの病原性トバモウイルス、すなわち、キュウリ緑色斑点モザイクウイルス(CGMMV)およびキュウリ果実斑点モザイクウイルス(CFMMV)に対する抵抗性を有するキュウリ植物(Cucumis sativus L.)、植物の部分および果実を提供する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トバモウイルス、特に、商業上重要な2つの病原性トバモウイルス、すなわち、キュウリ緑色斑点モザイクウイルス(CGMMV)およびキュウリ果実斑点モザイクウイルス(CFMMV)に対する一般的な抵抗性を与えるキュウリ植物(Cucumis sativus L.)のゲノム中の遺伝子座に遺伝学的に関連し、かつ、該遺伝子座を同定し得る分子マーカーに関する。
【0002】
本発明はさらに、トバモウイルス、特に、商業上重要な2つの病原性トバモウイルス、すなわち、キュウリ緑色斑点モザイクウイルス(cucumber green mottle mosaic virus、CGMMV)およびキュウリ果実斑点モザイクウイルス(cucumber fruit mottle mosaic virus、CFMMV)に対する抵抗性を有するキュウリ植物(Cucumis sativus L.)、植物の部分および果実を提供する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
キュウリ植物(すなわち、植物の種Cucumis sativus L.の植物)は、メロンおよびカボチャのような科のメンバーを含むウリ科(Cucurbitaceae)に属する。
【0004】
植物の可食な果実は、一般にキュウリといわれる。キュウリは通常、円柱状で緑色の表面の果実であり、約96%の水を含む。以前から栽培されてきたキュウリ植物(Cucumis sativus L.)は、世界的に重要な園芸作物である。キュウリは、熟していないスタジアム(stadium)にて一般に収穫され、漬け物産業または生鮮市場のために使用され得る。
【0005】
ウリ科植物に感染するトバモウイルスは、2つのサブグループに分けられ得る:文献にて、キュウリ緑色斑点モザイクウイルス(CGMMV、CV3、CV4、CGMMV−W、CGMMV−SHおよびCGMMV−Is株を含む)といわれる株および単離物を含むサブグループI;および、キュウリ果実斑点モザイクウイルス(CFMMV)、キュリ緑色斑点モザイクウイルス(Kyuri green mottle mosaic virus、KGMMV)およびCGMMVのYodo株(KGMMVに密接に関連し、その株と考えられている)を含むサブグループII(Antigus, 2001)。
【0006】
キュウリ緑色斑点モザイクウイルス(CGMMV)は、ウリ科植物のいくつかの疾患を引き起こすトバモウイルス属のRNAウイルスである。
【0007】
CGMMVの株は、英国および欧州からまず報告された(Ainsworth, 1935)。ウイルスは全ての器官に存在し(Hollings, 1975)、ウイルスは労働者の手、衣類、ナイフ、および他の道具にすばやく伝染し、また、種子伝染性である。種子のウイルス汚染を制御するために、種子の加熱処理が一般に使用される(Kim, 2003)。CGMMVはまた、表面の水を介して拡散し得る(Drost, 1988)。
【0008】
葉の黄ばみ、斑点形成および下方への屈曲の症状が報告されているが、最も重要なものは、穏やか−重篤な果実の斑点形成および歪みであるだろう。果実のそのような斑点形成および歪みは、感染した作物を即座に商品にならないものにするだろう。
【0009】
キュウリ緑色斑点モザイクウイルス(CGMMV)は、おそらく、最も広範かつ有名な、キュウリ作物に感染するトバモウイルスである。CGMMVは、オランダ、スペイン(Celix, 1996)、ギリシャ(Varveri, 2002)およびインド(Rashmi, 2005)のようなキュウリ生産地域にて世界的な問題である。収穫高の減少は、15%であり得る(Fletcher, 1962)。CGMMVへのキュウリの抵抗性を見出す試みがなされており(Hsiao, 1993)、アジア起源の無症状の変種が見出されている(Kooistra, 1968)。
【0010】
CFMMVは、キュウリ植物(Cucumis sativus L)への深刻な経済的損害を引き起こすトバモウイルスの別の科のメンバーである。キュウリ果実斑点モザイクウイルス(CFMMV)感染の症状は、一般にまず、それぞれの進んだ成長段階の果実およびアピカルリーフ(apical leaves)において認識される。葉の症状としては、重度のモザイク、葉脈バンド形成および黄色斑点が挙げられる。いくつかの場合、完全に成長した植物は、植物の虚脱を引き起こす重度の立ち枯れ症状を示す。温室内での急速なウイルスの広がりは、深刻な作物の減少を引き起こし得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】EP 0 534 858 A1
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Ainworth, G.C. 1935. Mosaic disease of cucumber. Ann Appl. Biol.22:55 67.
【非特許文献2】Antignus, Y. 2001. Biological and Molecular Characterization of a New Cucurbit Infecting Tobamovirus. Phytopathology Vol.91, No6, 2001 565 571.
【非特許文献3】Rashmi, C.M. 2005. Natural occurrence of Cucumber green mottle mosaic virus on gherkins (Cucumis anguria L.) Evironment and Ecology. 2005; 23S(special 4):781 784.
【非特許文献4】Varveri, V. 2002. Characterization and detection of Cucumber Green Mottle Mosaic Virus in Greece.
【非特許文献5】Dorst, H.J.M. van. 1988. Surface water as a source in the spread of cucumber green mottle mosaic virus. Netherlands Journal of Agricultural Science. 1988;36(3):291 299.
【非特許文献6】Hsiao, C.H. 1993. Screening and breeding for resistance to viruses in cucurbits. Plant Pathology Bulletin. 1993;2(4):241 248.
【非特許文献7】Fletcher. 1962; Plant Pathology 18;16.
【非特許文献8】Hollings, M. 1975. Cucumber green mottle mosaic virus. Description of Plant viruses No.154.
【非特許文献9】Celix, A. 1996. First report of cucumber green mottle mosaic tobamovirus infecting greenhouse grown cucumber in Spain. Plant Disease. 1996;80(11):1303.
【非特許文献10】Kim SangMin 2003. Destruction of green mottle mosaic virus by heat treatment and rapid detection of virus inactivation by TR PCR. Molecules and Cells. 2003;16(3):338 342.
【非特許文献11】Kooistra E. Significance of the non appearance of visible disease symptoms in cucumber (Cucumis sativus L.) after infection with Cucumis virus 2. Euphytica 17 (1968): 136 140.
【非特許文献12】Vos, P., Hogers, R, Bleeker, M., et al. 1995. AFLP: a new technique for DNA fingerprinting. Nucleic Acids Research 23(21): 4407 4414.
【非特許文献13】Zabeau, M and P. Vos. 1993. Selective restriction fragment amplification: a general method for DNA fingerprinting.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
キュウリ植物(Cucumis sativus L)におけるトバモウイルス、特に、その変種を含むCGMMVおよびCFMMVによって引き起こされる経済的な損害を考慮すると、トバモウイルスに対する抵抗性遺伝子座または質的形質遺伝子座(Qualitative Trait Locus、QTL)に遺伝学的に関連し、かつ同定し得る遺伝学的マーカーを提供すること、および、経済的に重要なCucumis sativus L変種にこのトバモウイルス抵抗性を移行させることは、かなり望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そのため、本発明の目的は、そのような遺伝学的マーカーを提供することにある。
【発明を実施するための形態】
【0015】
第1の態様によれば、本発明は、トバモウイルス抵抗性キュウリ植物(Cucumis sativus L.)を提供する方法であって、
(a)第1のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)にてトバモウイルス抵抗性遺伝子座を同定する工程;および
(b)同定したトバモウイルス抵抗性遺伝子座を第2のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)に移行させ、それによって、該第2のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)にトバモウイルス抵抗性を与える工程
を含み、トバモウイルス抵抗性遺伝子座は、分子増幅断片長多型(AFLP)アッセイにて、配列番号1および配列番号2の分子増幅断片長多型(AFLP)プライマーを使用した場合の241〜251bpの核酸増幅フラグメントの存在によって特徴付けられる、方法に関す。
【0016】
本発明によれば、配列番号1のプライマーは、ヌクレオチド配列5−GAC TGC GTA CCA ATT CGT−3’を含み、配列番号2のプライマーは、ヌクレオチド配列5’−GAT GAG TCC TGA GTA ACA C−3’を含む。
【0017】
本発明のトバモウイルス抵抗性遺伝子座に遺伝学的に関連し、かつ同定し得る分子増幅断片長多型(AFLP)のマーカーはまた、本願明細書にて、マーカーE22/M48−F−246(配列番号1および2のプライマーを使用する場合、核酸AFLP増幅フラグメントのサイズ:241〜251bp、好ましくは245〜247bp、最も好ましくは246bp)として示す。
【0018】
本発明による第1のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)は、上記の核酸増幅フラグメントの存在によって同定し得る遺伝子座(マーカーE22/M48−F−246)によって付与される、トバモウイルス、特に、CGMMVおよびCFMMVに対して抵抗性表現型を有する任意のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)であり得る。
【0019】
核酸増幅フラグメントまたは分子AFLPマーカーE22/M48−F−246の存在、およびそれによって本発明の抵抗性を付与する遺伝子座は、核酸増幅産物を分析するための任意で適切な分子生物学技術(例えば、ゲル電気泳動、ハイブリダイゼーション、アフィニティークロマトグラフィー、蛍光など)を使用して確立され得る。
【0020】
特に好ましい態様において、フラグメントは、当該分野にて分子増幅断片長多型(AFLP)と名付けられた核酸増幅および検出技術を使用して同定される(AFLP, Zabeau, 1993, and Vos, 1995)。
【0021】
増幅断片長多型(AFLP)は、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)ベースの遺伝学的フィンガープリンティング技術であり、1990年代にKeygeneによって開発された。AFLPは、ゲノムDNAを切断するために制限酵素を、続いて、制限フラグメントの末端への相補的な二本鎖アダプターのライゲーションを使用する。制限フラグメントのサブセットは、次いで、アダプターおよび制限部位フラグメントに相補的なプライマー対を使用して増幅される。フラグメントは、変性アクリルアミドゲルにて、オートラジオグラフィーまたは蛍光を使ったやり方によって可視化される。
【0022】
これは、一般的に、異なるサイズの複数の核酸増幅フラグメントをもたらす。例えば、感受性および抵抗性植物から得た核酸増幅フラグメントを比較することによって、両方の表現型の間で、識別のための核酸増幅フラグメントを同定し、また、マーカーとして指定することができる。
【0023】
本願発明の場合、AFLPマーカーE22/M48−F−246として指定され、本発明の抵抗性遺伝子座に関連し、かつ同定し得る特定のAFLPマーカーが、241〜251bp、好ましくは245〜247bp、最も好ましくは246bpの核酸増幅フラグメントの存在によって同定された。このマーカーは、多数の非判別性の他のAFLP増幅フラグメントのうち、抵抗性の個体において存在し、感受性の個体では存在していない。
【0024】
配列番号1および2のAFLPプライマーを使用するキュウリ植物(Cucumis sativus L.)のAFLP分析は、第1のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)でトバモウイルス抵抗性遺伝子座を同定するために、2bpのAFLPマーカーE22/M48−F−246を用いて、異なるサイズを有する第2の核酸増幅フラグメントを生じ得る。本発明によれば、このより大きな(2bp)核酸増幅フラグメントは、本発明のトバモウイルス抵抗性遺伝子座に遺伝学的に関連しておらず、同定し得ない。
【0025】
すなわち、本発明の第1のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)は、AFLPおよび配列番号1および2のAFLPプライマーを使用して分析される場合、意図したサイズのAFLPマーカーE22/M48−F−246を生じなければならないが、さらに、大きなサイズ(2bp)の第2の核酸増幅フラグメントをも生じ得る。
【0026】
第1のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)、すなわち、AFLPマーカーE22/M48−F−246のみを生じるか、または、AFLPマーカーE22/M48−F−246に加えて第2のやや大きな(2bp)フラグメントをも生じるもの両方が本発明に含まれる。しかしながら、第2のやや大きな(2bp)フラグメントのみを生じる第1のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)は、本発明に含まれない。
【0027】
以上を考慮すると、第1のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)の選択は、本質的に、分子生物学技術を使用する、この植物におけるトバモウイルス抵抗性遺伝子座の検出を含む。本発明のトバモウイルス抵抗性遺伝子座が遺伝学的にAFLPマーカーE22/M48−F−246に関連していることから、このことは、従来の育種技術に共通する表現型ベースの選択のみを使用しても、確立され得ない。
【0028】
すなわち、第1のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)においてトバモウイルス抵抗性遺伝子座を同定することは、従来の選択プロセスを使用することのみに関連するわけではない。
【0029】
第1のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)における、本発明によるトバモウイルス抵抗性遺伝子座の同定の後、遺伝子座は第2のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)に移行し、それによって、当該第2のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)にトバモウイルス抵抗性が付与される。
【0030】
好ましくは、本発明のトバモウイルス抵抗性遺伝子座を移行させることは、第1のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)の第2のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)との従来の交配および続く第2のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)との1回または複数回の戻し交配といった従来の育種方法を含む。しかしながら、そのような従来の育種方法は、好ましくは、分子生物学技術で支援され、第2のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)における抵抗性遺伝子座の維持が確立される。
【0031】
従来の育種技術と比べると、本発明によるAFLPマーカーE22/M48−F−246の提供は、各戻し交配後の適切なトバモウイルス耐性子孫の迅速な選択を可能にし、それによって、各世代にて、ウイルス感染などの労力を要し、かつ高価なスクリーニング法を避け、耐性の表現型を確立して、適切なトバモウイルス耐性子孫を同定することができる。
【0032】
好ましい実施態様において、第2のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)は、トバモウイルスに感受性の商業的な変種である。本発明のトバモウイルス抵抗性遺伝子座を当該植物に移行させることで、商業上有益な他の高い品質の遺伝子型および表現型特徴を維持する一方で、経済的価値が高められたキュウリ植物(Cucumis sativus L.)が提供される。
【0033】
最も好ましい実施態様において、本発明の方法は、第1のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)のトバモウイルス抵抗性遺伝子座が補充された第2のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)の遺伝子型を有するキュウリ植物(Cucumis sativus L.)を提供する。
【0034】
そのため、本発明はまた、第2の態様によれば、トバモウイルス抵抗性遺伝子座を補充したトバモウイルス感受性のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)変種の遺伝子型を含むキュウリ植物(Cucumis sativus L.)であって、トバモウイルス抵抗性遺伝子座は、分子増幅断片長多型(AFLP)アッセイにて、配列番号1および配列番号2の分子増幅断片長多型(AFLP)プライマーを使用した場合の241〜251bp、好ましくは245〜247bp、最も好ましくは246bpの核酸増幅フラグメントの存在によって特徴付けられるキュウリ植物に関する。
【0035】
トバモウイルス抵抗性、本発明によるトバモウイルス抵抗性遺伝子座は、好ましい実施態様において、少なくともキュウリ緑色斑点モザイクウイルス(CGMMV)およびキュウリ果実斑点モザイクウイルス(CFMMV)に対する抵抗性を付与する。
【0036】
第3の態様によれば、本発明は、トバモウイルス抵抗性キュウリ植物(Cucumis sativus L.)を提供するためのトバモウイルス抵抗性遺伝子座の使用に関し、トバモウイルス抵抗性遺伝子座は上記のとおり特徴付けられる。
【0037】
本発明の第3の態様によれば、トバモウイルス抵抗性は、キュウリ緑色斑点モザイクウイルス(CGMMV)およびキュウリ果実斑点モザイクウイルス(CFMMV)抵抗性を含む。
【0038】
第4の態様によれば、本発明は、分子増幅断片長多型(AFLP)アッセイにて配列番号1および配列番号2の分子増幅断片長多型(AFLP)プライマーを使用した場合の241〜251bpの核酸増幅フラグメントの存在によって特徴付けられるトバモウイルス抵抗性遺伝子座に関する。
【0039】
好ましくは、本発明のトバモウイルス抵抗性遺伝子座は、245〜247bpのAFLP核酸増幅物によって特徴付けられる。
【0040】
最も好ましくは、本発明のトバモウイルス抵抗性遺伝子座は、246bpのAFLP核酸増幅物によって特徴付けられる。
【0041】
配列番号1および2の増幅断片長多型(AFLP)プライマーを使用して、AFLP核酸増幅フラグメントによってのみ示される遺伝子座(上記フラグメントの比較において、やや大きい(2bp))は、本発明に含まれない。
【0042】
本発明の第4の態様によれば、トバモウイルス抵抗性は、好ましくは、キュウリ緑色斑点モザイクウイルス(CGMMV)およびキュウリ果実斑点モザイクウイルス(CFMMV)抵抗性を含む。
【0043】
以下の実施例において、本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0044】
実施例I:感受性および抵抗性植物(Cucumis sativus L.)の同定
序論
以下のプロトコルを使用して、キュウリ植物(Cucumis sativus L.)をキュウリ緑色斑点モザイクウイルス(CGMMV)およびキュウリ果実斑点モザイクウイルス(CFMMV)感染に対して感受性または抵抗性に分類した。少なくともオランダでは分析を実施する最も良い期間は、9月〜4月である。
【0045】
植物材料
試験する植物(Cucumis sativus L.)(抵抗性および感受性両方)を中型のバーミキュライトに植え付け、24℃で育て、小型のバーミキュライトで覆った。(ちょうど子葉が広がった)4〜5日後、苗をロックウールブロックに移し、2日後、植物を隔離温室に移した。
【0046】
40個の感受性コントロールTyria F1(Enza Zadenの商業F1キュウリ変種、オランダ)の各ブロックを感受性コントロールとして置いた後で、好ましくは、隔離温室へ植物を入れてから4日後に、苗を子葉に接種した。
【0047】
病原体
CGMMVおよびCFMMVの単離物を調製した。すなわち、接種材料を調製するために、新たなリン酸緩衝液(0.1M リン酸溶液、pH7.7)を調製した。感染したキュウリ植物(Cucumis sativus L.)(症状が最近発展したもの)由来の葉材料を採取した。茎を含まず、明らかな症状を有する若い葉組織を採取した。約1gの葉材料を、5mlの緩衝液について使用した。葉材料を破砕し、それによって、ウイルス単離物を得た。
【0048】
感染のために、晴天時、感染1日前に上記栽培した植物を覆いで遮光した。感染1日後、覆いを除去してもよい。しかしながら、光量が高い場合、覆いはもう一日そのままにしておくべきである。湿度が低い場合、感染後に灰色のトレイを直接湿らせることで、湿度を上げて、感染のダメージに起因する子葉の萎縮を予防してもよい。温度管理体制は、夜間で18〜20℃であり、日中で22〜25℃であった。
【0049】
二重のチーズクロスで植物にカーボランダムをわずかに振りかけた。スポンジを接種材料に浸し、両方の子葉の表面全体を2度拭き取った。ウイルスは安定していたが、感染時間は1時間より短くあるべきである。
【0050】
評価
キュウリ植物の最初の2つの葉は(感受性植物および抵抗性植物において)症状を示さなかった。3〜4番目の葉の段階から、感受性または抵抗性を記録しやすくなるだろう。
【0051】
実施例2:トバモウイルス抵抗性QTLを同定するためのAFLPマーカーの同定
序論
この実施例において、質的形質遺伝子座(QTL)を、バルクQTL分析(BQA)の使用によって、抵抗性キュウリ植物(Cucumis sativus L.)にて同定した(Keygene N.V.(ワーゲニンゲン、オランダ)が実施した)。トバモウイルス抵抗性のためのマーカー開発のために、98個の個体の集団を選択した。96個のAFLPプライマーの組合せ全てを、トバモウイルス抵抗性について「極端な表現型」を示す個体を含む2つのプールにてスクリーニングした。続いて、5つのマーカー候補を、12個の抵抗性および12個の感受性個体にて検証した。
【0052】
マーカーの同定および検証
130個の植物の葉材料を得た:処理すべき集団を提供するための98個の個体のCuc1879 01xOK561集団、ドナー親Cuc1879 01の30個の自殖株および集団の親株。DNAを単離し、EcoRI/MseIテンプレートを得た。130個の植物の試験フィンガープリントを、プライマーの組合せE14/M59を使用して得た。
【0053】
BSAおよび個体での検証
96個のAFLPプライマーの組合せ全てを、10個の「極端な抵抗性」の個体を含むプール、および10個の「極端な感受性」の個体を含むプールにてスクリーニングすることによって、BQAを実施した。このスクリーニングによって、以下のマーカー候補の同定がもたらされた:
−E14/M58 F 169 P2
−E22/M48 F 248/246(両アレル)
続いて、これらのマーカーを24個の個体(12個の抵抗性の個体および12個の感受性の個体)にて検証した。この検証に基づいて、同定したマーカー候補がトバモウイルス抵抗性と関連していることが判明した。
【0054】
集団でのマーカー候補の検証
96個のプライマーの組合せのスクリーニングおよび続くマーカーの検証の後で、1つの推定QTLを得るだろう。同定したQTLが離れたQTLであるかどうか決定するために、関連の分析を実施した。
【0055】
マーカー(E14/M58 F 169 P2および両アレルマーカーE22/M48 F 248/246)を、98個の個体集団由来の46個のさらなる個体にてスクリーニングした。
【0056】
マーカーデータセットを得て、24個の個体での検証のマーカーデータセットと組み合わせた。この分析に基づいて、4つのマーカーが1つのQTLに関連しているとの結論を得ることができた。
【0057】
WinQTLCartographerを使用したマーカーの分析
表現型および遺伝子型との間の相関関係を決定するために、ソフトウェアパッケージWinQTLCartographerを使用して、マーカーデータセットを分析した。単一マーカー分析(SMA)のために、LOD値12を算出した。インターバルマッピング(Interval Mapping)について、表現型に対して1000回の並べ替え(permutation)を実施することによって、95%の信頼性のある閾値を算出し、LOD0.9として決定した。LOD値およびパーセンテージで説明された分散を、このQTLのために算出した(LOD:9;Exp.Var.:49.5)。
【0058】
結論
トバモウイルス抵抗性についてのQTLを同定するために、BQAを実施した。96個のプライマーの組合せ全てを、10個の「極端な抵抗性」の個体を含むバルク、および10個の「極端な感受性」の個体を含むバルクにてスクリーニングした。マーカー候補(そのうち1つは両アレル)を、12個の「極端な抵抗性」および12個の「極端な感受性」個体および集団の48個の他の個体において検証した。QTL領域を、BQAアプローチを使用することによって同定した。このQTLは、〜50%の分散を説明した。TestPC(〜5つのマーカー)に基づいて、抵抗性ドナー親Cuc1879 01の30個の自殖株では不均一性は同定されなかった。
【0059】
実施例3:分子マーカーにより支援された、トバモウイルス抵抗性キュウリ植物(Cucumis sativus L.)の同定
分子分析
感受性、すなわち、ウイルス感染の1つまたはそれ以上の上記症状を示すウイルス抵抗性キュウリ植物(Cucumis sativus L.)、およびウイルス抵抗性キュウリ植物(Cucumis sativus L.)両方から、標準的なプロトコルを使用してゲノム材料を単離した。
【0060】
続いて、適切な制限酵素(EcoRI/MseI)を使用して、このゲノム材料を消化し、アダプターのライゲーションの後で、プライマー対配列番号1 5−GAC TGC GTA CCA ATT CGT−3’および配列番号2 5’−GAT GAG TCC TGA GTA ACA C−3’またはプライマー対配列番号3 5’−GAC TGC GTA CCA ATT CAT−3’および配列番号4 5’−GAT GAG TCC TGA GTA ACG T−3’を使用して、AFLP核酸増幅に供した。
【0061】
サイズ決定のために、得られた増幅産物をゲル電気泳動によって分離した。各キュウリ植物(Cucumis sativus L.)のゲノム中のAFLPマーカーの存在を、欠如(−)または存在(+)として検出した。
【0062】
詳細には、AFLPマーカーE14/M58−F−169(本発明に含まれない、配列番号3および4)が存在する場合、約169bpのバンドが観察され;AFLPマーカーE22/M48−F−248(本発明に含まれない、配列番号3および4)が存在する場合、約248bpのバンドが観察された。約248bpの予測されたサイズを有するAFLPマーカーE22/M48−F−248(本発明に含まれない、配列番号3および4)は、抵抗性表現型と相関した。
【0063】
結果を表1にまとめる。
【0064】
【表1−1】

【0065】
【表1−2】

【0066】
表1では、CGMMVおよびCFMMVに対する抵抗性が、分子AFLPマーカーE22/M48−F−246の存在と遺伝学的に関連している試験した全てのキュウリ植物(Cucumis sativus L.)にあることを示している。そのため、このマーカーを検出することは、トバモウイルス抵抗性遺伝子座またはQTLの存在を示している。
【0067】
引用文献
Ainworth, G.C. 1935. Mosaic disease of cucumber. Ann Appl. Biol.22:55 67.
Antignus, Y. 2001. Biological and Molecular Characterization of a New Cucurbit Infecting Tobamovirus. Phytopathology Vol.91, No6, 2001 565 571.
Rashmi, C.M. 2005. Natural occurrence of Cucumber green mottle mosaic virus on gherkins (Cucumis anguria L.) Evironment and Ecology. 2005; 23S(special 4):781 784.
Varveri, V. 2002. Characterization and detection of Cucumber Green Mottle Mosaic Virus in Greece.
Dorst, H.J.M. van. 1988. Surface water as a source in the spread of cucumber green mottle mosaic virus. Netherlands Journal of Agricultural Science. 1988;36(3):291 299.
Hsiao, C.H. 1993. Screening and breeding for resistance to viruses in cucurbits. Plant Pathology Bulletin. 1993;2(4):241 248.
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
トバモウイルス抵抗性キュウリ植物(Cucumis sativus L.)を提供する方法であって、
(a)第1のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)にてトバモウイルス抵抗性遺伝子座を同定する工程;および
(b)同定したトバモウイルス抵抗性遺伝子座を第2のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)に移行させ、それによって、該第2のキュウリ植物(Cucumis sativus L.)にトバモウイルス抵抗性を与える工程
を含み、トバモウイルス抵抗性遺伝子座は、分子増幅断片長多型(AFLP)アッセイにて、配列番号1および配列番号2の分子増幅断片長多型(AFLP)プライマーを使用した場合の241〜251bpの核酸増幅フラグメントの存在によって特徴付けられる、方法。
【請求項2】
核酸増幅フラグメントが245〜247bpである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
核酸増幅フラグメントが246bpである、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
トバモウイルス抵抗性が、キュウリ緑色斑点モザイクウイルス(CGMMV)およびキュウリ果実斑点モザイクウイルス(CFMMV)抵抗性を含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
トバモウイルス抵抗性が、トバモウイルス抵抗性サブグループ1および2の1つまたはそれ以上を含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
トバモウイルス抵抗性キュウリ植物(Cucumis sativus L.)を提供するためのトバモウイルス抵抗性遺伝子座の使用であって、トバモウイルス抵抗性遺伝子座は、分子増幅断片長多型(AFLP)アッセイにて、配列番号1および配列番号2の分子増幅断片長多型(AFLP)プライマーを使用した場合の241〜251bpの核酸増幅フラグメントの存在によって特徴付けられる、使用。
【請求項7】
核酸増幅フラグメントが245〜247bpである、請求項6記載の使用。
【請求項8】
核酸増幅フラグメントが246bpである、請求項6または7記載の使用。
【請求項9】
トバモウイルス抵抗性が、キュウリ緑色斑点モザイクウイルス(CGMMV)およびキュウリ果実斑点モザイクウイルス(CFMMV)抵抗性を含む、請求項6〜8のいずれか1項記載の使用。
【請求項10】
トバモウイルス抵抗性が、トバモウイルス抵抗性サブグループ1および2の1つまたはそれ以上を含む、請求項6〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
分子増幅断片長多型(AFLP)アッセイにて、配列番号1および配列番号2の分子増幅断片長多型(AFLP)プライマーを使用した場合の241〜251bpの核酸増幅フラグメントの存在によって特徴付けられるトバモウイルス抵抗性遺伝子座。
【請求項12】
核酸増幅フラグメントが245〜247bpである、請求項11記載のトバモウイルス抵抗性遺伝子座。
【請求項13】
核酸増幅フラグメントが246bpである、請求項11または12記載のトバモウイルス抵抗性遺伝子座。
【請求項14】
トバモウイルス抵抗性が、キュウリ緑色斑点モザイクウイルス(CGMMV)およびキュウリ果実斑点モザイクウイルス(CFMMV)抵抗性を含む、請求項11〜13のいずれか1項記載のトバモウイルス抵抗性遺伝子座。
【請求項15】
トバモウイルス抵抗性が、トバモウイルス抵抗性サブグループ1および2の1つまたはそれ以上を含む、請求項11〜13のいずれか1項記載のトバモウイルス抵抗性遺伝子座。
【請求項16】
トバモウイルス抵抗性遺伝子座を補充したトバモウイルス感受性キュウリ植物(Cucumis sativus L.)変種の遺伝子型を含むキュウリ植物(Cucumis sativus L.)であって、トバモウイルス抵抗性遺伝子座は、分子増幅断片長多型(AFLP)アッセイにて、配列番号1および配列番号2の分子増幅断片長多型(AFLP)プライマーを使用した場合の241〜251bpの核酸増幅フラグメントの存在によって特徴付けられる、キュウリ植物。
【請求項17】
核酸増幅フラグメントが245〜247bpである、請求項16記載のキュウリ植物。
【請求項18】
核酸増幅フラグメントが246bpである、請求項16または17記載のキュウリ植物。
【請求項19】
トバモウイルス抵抗性が、キュウリ緑色斑点モザイクウイルス(CGMMV)およびキュウリ果実斑点モザイクウイルス(CFMMV)抵抗性を含む、請求項16〜18のいずれか1項記載のキュウリ植物。
【請求項20】
トバモウイルス抵抗性が、トバモウイルス抵抗性サブグループ1および2の1つまたはそれ以上を含む、請求項16〜18のいずれか1項記載のキュウリ植物。
【請求項21】
請求項16〜20のいずれか1項記載の植物の種子、植物の部分または果実。

【公表番号】特表2011−509087(P2011−509087A)
【公表日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−541701(P2010−541701)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際出願番号】PCT/EP2008/000145
【国際公開番号】WO2009/086850
【国際公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(508088753)エンザ・ザーデン・ベヘール・ベスローテン・フェンノートシャップ (6)
【Fターム(参考)】