説明

キュポラによる溶銑の溶製方法

【課題】 キュポラを用いて鉄スクラップや銑鉄などの冷鉄源を溶解して溶銑を溶製するに当たり、特段の設備変更をすることなく、鋳物用コークスの一部を高炉用コークスに置き換えて使用しても、冷鉄源の溶解能率を従来と同等或いはそれ以上とすることのできる熱効率に優れたキュポラによる溶銑の溶製方法を提供する。
【解決手段】 キュポラの羽口部における炉体内壁面の直径をD0 とし、各羽口の先端をつないだ羽口面内径の直径をDとしたときに、下記の(1)式で定義される羽口先端面積比が32〜42%の範囲内となるように配置された羽口を備えたキュポラを用い、コークスを主燃料として冷鉄源を溶解して溶銑を溶製する。但し、(1)式におけるSは羽口先端面積比(%)である。 S=(D2 /D02)×100 …(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キュポラを用い、コークスを主燃料として鉄スクラップや銑鉄などの冷鉄源を溶解して溶銑を溶製する方法に関し、詳しくは、熱効率に優れ、鋳物用コークスの一部を高炉用コークスに置き換えることのできるキュポラによる溶銑の溶製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コークスを主燃料として鉄スクラップや銑鉄などの冷鉄源を溶解するキュポラでは、円筒状の炉内にコークスと冷鉄源とを一定の比率で装入し、この状態で羽口から空気或いは熱風を送ってコークスを燃焼させ、コークスの燃焼熱によって冷鉄源を溶解し、炉底部の出湯口から溶銑を取り出している。
【0003】
この場合、炉底から羽口の上方或る高さ位置までの範囲にはコークスだけを詰め、これを燃焼してコークスの上部に装入した冷鉄源を溶解している。炉底に詰めるコークスを「ベッドコークス」と呼び、ベッドコークスは燃焼して消耗するので、これを補いながら溶解を継続するために、炉体の上部からコークス(「追込コークス」という)と冷鉄源とを、層状に、或いは混合して装入している。冷鉄源が溶けて生成する溶鉄は過熱(「スーパーヒート」ともいう)されてベットコークスの間隙を流下し、コークスにより加炭されて銑鉄が生成される。尚、追込コークスと冷鉄源との装入量比をコークス比と称している。
【0004】
羽口の先端部は、例えば図5にキュポラ羽口部の概略平断面図を示すように、炉壁よりも突出しており、炉体の円周方向に配置された各羽口の先端をつなぐ円を「羽口面内径」と呼んでいる。羽口の突出量は、図5に示すように、この羽口面内径の直径をDとし、炉体内壁面の直径をD0 としたとき、炉体の断面積に対する羽口面内径面積の百分率((D2/D0 2 )×100;これを「羽口先端面積比」と定義する)で管理し、通常、羽口先端面積比が60〜70%程度となるように各羽口が配置されている。キュポラの溶解能力は、送風量、コークス比などの条件によって変化するが、基本的には羽口部の内壁面直径(D0)に依存し、内壁直径(D0 )が大きくなるほど、単位時間当たりの溶解量は増加することが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
ベットコークスを形成するためのコークスとしては、所謂「鋳物用コークス」と呼ばれる、粒度が120mm以上である、径の大きいコークスが使用されている。鋳物用コークスよりも小径の高炉用コークスを使用すると、小径であることから反応界面積が大きくなり、炉内の中段部において、コークスの燃焼により生成したCO2 ガスとコークスとの反応、即ちカーボンソルーション反応(C+CO2=2CO)が起こりやすくなる。カーボンソルーション反応は吸熱反応であることから、炉内における冷鉄源の加熱が阻害され、冷鉄源の溶解能率が低下するという問題が発生する。また、高炉用コークスを使用した場合には、小径であることから充填されやすく、ベットコークスの嵩密度が高くなり、空気或いは熱風の通り抜けが悪くなって溶解能率が低下するという問題も発生する。このような理由から、通常、キュポラでは鋳物用コークスが使用されている。
【0006】
しかし、鋳物用コークスは高炉用コークスに比較して高価格であることから、製造コストの削減を目的として、鋳物用コークスの代わりに高炉用コークスを使用して鉄スクラップなどの冷鉄源を溶解する方法が提案されている。
【0007】
例えば、特許文献1には、炉の高さ方向に複数段に配置した2次羽口を有するキュポラ型溶融炉において、2次羽口レベル面より上方に装入されたコークスのカーボンソルーション反応を抑制するために、各々の2次羽口の前面にコークス層が存在するときには、各々の2次羽口から不活性ガスを搬送用ガスとして粉状の石灰石または鉄鉱石を吹き込み、各々の2次羽口の前面に鉄スクラップ層が存在するときには、各々の2次羽口から酸素含有ガスを吹き込む操業方法が提案されている。特許文献1によれば、高炉用コークスを使用しても、不活性ガスの吹き込みによってカーボンソルーション反応が抑制され、熱効率が向上するとしているが、2次羽口を複数段に配置する必要がある上に、各々の2次羽口から吹き込むガス種を装入物の降下に合わせて変更するという繁雑さがあり、必ずしも効率的とはいえない。
【0008】
また、特許文献2には、上下2段の羽口を有するキュポラと前炉とから構成される溶融炉を用い、2段羽口の下段から微粉炭を吹き込むことによって追込コークスの使用量を低減するとともに、2段羽口の上段から吹き込む熱風による二次燃焼を促進させることにより、コークスのカーボンソルーション反応を抑制した溶解方法が提案されている。つまり、追込コークスの装入量を少なくすることによって、コークスとCO2 ガスとが接触する機会を低減させ、カーボンソルーション反応を抑制するという方法である。しかしながら、微粉炭はベッドコークスを形成するわけではなく、従ってこの方法では、ベッドコークスが安定して形成されないという問題がある。また、前炉が必要であり、設備コストが極めて高くなるという問題もある。
【特許文献1】特開平3−111505号公報
【特許文献2】特開平7−146072号公報
【非特許文献1】改訂4版鋳物便覧,日本鋳物協会編,昭和61年1月20日発行、P.225−226
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、キュポラを用いて鉄スクラップや銑鉄などの冷鉄源を溶解して溶銑を溶製するに当たり、特段の設備変更をすることなく、鋳物用コークスの一部を高炉用コークスに置き換えて使用しても、冷鉄源の溶解能率を従来と同等或いはそれ以上とすることのできる熱効率に優れた、キュポラによる溶銑の溶製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究・検討を行った。以下に、研究・検討結果を説明する。
【0011】
キュポラの炉底部側壁には、複数の羽口が円周方向にほぼ等間隔で設置されており、この羽口から空気或いは熱風がキュポラの内部に吹き込まれる。キュポラに装入されたコークスは羽口から吹き込まれる空気或いは熱風によって燃焼することから、未燃の酸素ガスを大量に含んでいる新鮮な空気或いは新鮮な熱風が吹き込まれる範囲で、コークスの燃焼が活発化する。つまり、羽口の先端部から或る所定の範囲でコークスの燃焼が活発化し、その部位の温度が最も高くなる。
【0012】
従来、この燃焼の活発化する範囲を拡大させる観点から、前述した図5に示す羽口面内径で囲まれる面積が炉体の断面積に対して60〜70%になるように、換言すれば羽口先端面積比が60〜70%になるように、羽口の突出量を設定していた。つまり、従来、羽口先端面積比を60〜70%とすることで、コークスの燃焼が活発化する範囲が最も広くなり、溶解能率が向上すると考えられてきた。
【0013】
確かに、羽口先端面積を60〜70%とすることで、幾何学的に判断しても隣り合う羽口との干渉が少なくなり、コークスの燃焼が活発化する範囲は大きくなる。従って、コークスの燃焼によって発生する高温のCO2 ガスも、コークスの燃焼が活発化する範囲の面積に応じて炉内の広い範囲を上昇していく。炉体の上部から装入された冷鉄源は、このガスにより加熱され、やがては溶解する。しかし、高温のCO2ガスは炉内の広い範囲を上昇することから、炉壁とも接触しながら上昇し、炉壁と接触することで高温のCO2 ガスの熱は炉壁からも奪われる。通常、炉壁の最外面は鉄皮で形成され、しかも、鉄皮はシャワー水などで水冷されている。
【0014】
本発明者等は、炉壁に奪われる熱を極力少なくする観点から、コークス燃焼の活発化する範囲は狭くなる可能性はあるものの、羽口の突出量を拡大し、つまり羽口先端面積比を減少させて高温の溶解帯を炉心に近づかせ、高温のCO2 ガスが主に炉内の中心部を上昇するようにして試験操業を実施した。そして、そのときの炉体冷却水による抜熱量並びに溶解能率を調査した。
【0015】
図1に、羽口先端面積比が60%の場合と羽口先端面積比が38%の場合とで、羽口、炉体下部、炉体上部の3つの部位の冷却水の抜熱量について調査した結果を示す。図1に示すように、羽口の突出量を多くした場合(羽口先端面積比=38%)には、羽口の冷却水による抜熱量は多くなるが、炉体下部の抜熱量が大幅に低減し、従来の羽口先端面積比が60%の場合に比べて、羽口及び側壁部への抜熱量の全体はおよそ0.3Gcal/hr、比率にして約10%低減することが確認された。
【0016】
図2に、試験操業により得られた羽口先端面積比と単位時間当たりの溶解量との関係を示す。図2では、羽口先端面積比が60%のときの溶解量を基準(1.0)として、指数化して表示している。図2に示すように、羽口先端面積比を32〜42%とすることで、従来の羽口面積比が60〜70%の場合に比べて単位時間当たりの溶解量を1.05〜1.10倍に高めることができることが分かった。これは、高温のCO2 ガスが主に炉体の中心部を上昇することで、炉壁に伝達するCO2ガスの熱が減少して、CO2 ガスの有する熱が有効に冷鉄源に伝達され、冷鉄源の加熱が促進したためである。羽口先端面積比を32%未満にすると、溶解能率が低下する理由は、コークス燃焼の活発化する範囲が狭くなりすぎ、発生するCO2ガスが少なくなるためと思われる。
【0017】
また、炉内における熱効率が向上することから、使用するコークスの30〜40%程度を鋳物用コークスから高炉用コークスに切り替えても、高炉用コークスによるカーボンソルーション反応による吸熱量の増加分を十分に補うことができることが分かった。つまり、使用するコークスの30〜40%程度を鋳物用コークスから高炉用コークスに切り替えても、高炉用コークスによるカーボンソルーション反応による吸熱量の増加分を補うのみならず、それ以上の熱効率の向上が得られ、溶解能率を向上させることができるとの知見が得られた。
【0018】
また更に、音速以上の流速でガスを噴射することのできる吹き込みランスを羽口の内部に配置し、この吹き込みランスから音速以上の流速で酸素ガスを炉内に吹き込むことにより、炉体の中心部を上昇するCO2 ガスの温度がより一層高くなり、使用するコークスの60%程度を鋳物用コークスから高炉用コークスに切り替えても、高炉用コークスによるカーボンソルーション反応による吸熱量の増加分を十分に補うことができるとの知見が得られた。
【0019】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、第1の発明に係るキュポラによる溶銑の溶製方法は、キュポラの羽口部における炉体内壁面の直径をD0 とし、各羽口の先端をつないだ羽口面内径の直径をDとしたときに、下記の(1)式で定義される羽口先端面積比が32〜42%の範囲内となるように配置された羽口を備えたキュポラを用い、コークスを主燃料として冷鉄源を溶解して溶銑を溶製することを特徴とするものである。但し、(1)式におけるSは羽口先端面積比(%)である。
【0020】
【数1】

【0021】
第2の発明に係るキュポラによる溶銑の溶製方法は、第1の発明において、音速以上の流速でガスを噴射することのできる吹き込みランスを羽口の内部に配置し、該吹き込みランスから音速以上の流速で酸素ガスを炉内に吹き込むことを特徴とするものである。
【0022】
第3の発明に係るキュポラによる溶銑の溶製方法は、第2の発明において、前記吹き込みランスを複数の羽口に設置し、各吹き込みランスから交互に酸素ガスを噴射することを特徴とするものである。
【0023】
第4の発明に係るキュポラによる溶銑の溶製方法は、第1ないし第3の発明の何れかにおいて、使用するコークスとして、高炉用コークスを鋳物用コークスと併用することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、キュポラを用いて冷鉄源を溶解して溶銑を溶製するに当たり、羽口先端面積比が32〜42%の範囲内となるように羽口を配置するので、コークスの燃焼によって生成する高温のCO2 ガスが主に炉内の中心部を上昇し、CO2 ガスの有する熱のうちの炉体側壁へ奪われる熱量が低減し、その分、炉内に装入された冷鉄源への着熱量が上昇し、冷鉄源を効率的に溶解することが可能となる。また、炉内の熱効率が上昇するので、高炉用コークスを使用した場合のカーボンソルーション反応による吸熱量の増加分を十分に補うことができ、使用するコークスの30〜40%を安価な高炉用コークスとしても、高い溶解能率を維持することができる。特に、音速以上の流速で噴射することのできる吹き込みランスから音速以上の流速で酸素ガスを吹き込んだ場合には、炉内の熱効率が更に上昇し、使用するコークスの60%程度を安価な高炉用コークスとすることができる。その結果、キュポラによる溶銑の製造コストを大幅に削減することが達成され、工業上有益な効果がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、添付図面を参照して本発明を具体的に説明する。図3は、本発明を実施する際に用いたキュポラの概略側断面図、図4は、図3に示す羽口部の概略拡大側断面図、図5は、図3に示すキュポラの羽口部における概略平断面図である。
【0026】
図3に示すように、キュポラ1は、円筒状の鋼板で外殻を構成される炉本体2を備え、炉本体2の底部(炉底部)には、鋼板の内側に耐火煉瓦が施工された耐火煉瓦層3が形成され、また、炉本体2の上部には、開閉自在の上蓋5を有する原料装入口4が形成されている。原料装入口4の下部には、排ガスを排出するための排気孔6が設置されている。排気孔6は、排気ダクト13と連結しており、炉本体2の内部で生成する排ガスは、排気ダクト13に接続する集塵機(図示せず)によって、排気孔6及び排気ダクト13を介して吸引されるようになっている。また、炉本体2の底部には、耐火煉瓦層3を貫通して、水冷構造の羽口9が炉本体2の円周方向に複数基配置されている。羽口9は羽口導管8と接続し、羽口導管8は炉本体2の円周に配置される風箱7と接続している。風箱7は、熱風炉(図示せず)或いは送風機(図示せず)と連結しており、熱風炉或いは送風機から供給される熱風或いは空気が、風箱7、羽口導管8、羽口9を介して炉本体2の内部に吹き込まれるようになっている。炉本体2の底面の耐火煉瓦層3は傾斜しており、傾斜した下流側は、出湯樋11となっている。出湯樋11に至る途中に溶銑とスラグとを分離するためのスキンマ10が設置されている。炉本体2を構成する鋼板の外表面は、冷却水(シャワー水)によって冷却されている。尚、図3に示すキュポラ1では、炉本体2の側壁部は、底部を除いて鋼板のみで構成されているが、鋼板の内面側に、底部と同様に耐火煉瓦を施工しても構わない。
【0027】
羽口9の内部には、図4に示すように、酸素ガスを超音速で噴射するための吹き込みランス12が設置されている。吹き込みランス12の先端部には、酸素ガスなどの気体を超音速で噴射することのできるラバールノズル12Aが設置されている。尚、ラバールノズル12Aとは、その断面が縮小する部分と拡大する部分の2つの円錐体で構成された形状のノズルであり、縮小部分は絞り部、拡大部分はスカート部、絞り部からスカート部に遷移する部位であって最も狭くなった部位はスロートと呼ばれていて、吹き込みランス12に供給された酸素ガスは、絞り部、スロート、スカート部を順に通り、絞り部で圧縮され、スカート部で膨張し、吹き込みランス12の先端から超音速の酸素ジェットとして炉本体2の内部に噴射される。但し、超音速を得るためには、スロート径、スカート部の出口径、供給する酸素ガスの圧力をそれぞれ所定の値にする必要がある。
【0028】
羽口9は、図5に示すように、炉本体2の円周方向にほぼ等間隔で複数基(図5では6基)設置されていて、吹き込みランス12は全ての羽口9には設置されておらず、炉本体2の円周方向に略等間隔となるように、羽口9のうちの幾つかに(図5では3基)設置されている。羽口9の設置数は、通常、炉本体2の容量に応じて決められている。尚、図5では、吹き込みランス12が全ての羽口9に設置されていないが、全ての羽口9に設置しても全く問題ない。また、吹き込みランス12を炉本体2の円周方向で1箇所のみに設置しても構わないが、炉本体2の内部の溶解状況を均一化するために、少なくとも2箇所、望ましくは3箇所以上に設置することが好ましい。
【0029】
また、羽口9は、図4及び図5に示すように、耐火煉瓦層3の内壁面3aよりも炉本体2の内側に突出して配置されている。本発明で使用するキュポラ1においては、各羽口9は、耐火煉瓦層3の内壁面3aの直径(D0 )と、各羽口9の先端をつないだ羽口面内径の直径(D)とから、前述した(1)式によって算出される羽口先端面積比が32〜42%の範囲内となるように配置されている。
【0030】
このように構成されるキュポラ1を使用して、以下のようにして本発明を実施する。
【0031】
先ず、炉底から羽口9の上方所定位置までの範囲の炉本体2の内部に、原料装入口4からコークスを装入してベットコークスを形成し、このベットコークスの上に、コークスと、鉄スクラップ、銑鉄(冷銑)、発生屑などの冷鉄源とを所定の比率で装入する。ベットコークスの上に装入するコークスと冷鉄源とは、予め混合して装入しても、また、層状に装入しても、炉本体2に装入されるコークスと冷鉄源との比率が所定の範囲内である限り、どちらでも構わない。また、必要に応じて、生成するスラグの塩基度を調整するための石灰石、生石灰などの造滓剤や、溶製される溶銑の成分、特にSi分を調整するためのFe−Si合金などの合金鉄を原料装入口4から装入する。
【0032】
使用するコークスとしては、当然ながら、粒径が120mm以上の鋳物用コークスを使用することができるが、鋳物用コークスは高価であることから、鋳物用コークスに比べて安価である高炉用コークスを併用することが好ましい。但し、高炉用コークスにも種々のサイズがあり、そのなかでは比較的粒径の大きな、粒径が50〜70mm程度の高炉用コークスを使用することが好ましい。上記構成のキュポラ1を使用する限り、使用するコークスの40〜60%を高炉用コークスに切り替えることが可能であることを経験上確認しており、従って、少なくとも20%以上、望ましくは40%以上を高炉用コークスとすることが好ましい。
【0033】
次いで、炉底部のコークスを着火させ、羽口9から空気或いは熱風を送ってコークスを燃焼させる。コークスの燃焼によって生成したCO2 ガスは炉本体2の内部を上昇し、排気孔6及び排気ダクト13を経由して炉外に排出される。生成したCO2ガスの有する熱によって冷鉄源は加熱され、やがては溶解し、生成した溶鉄はベットコークスの間隙を流下し、炉底部に到達する。溶鉄はベットコークスの間隙を流下する間に過熱(スーパーヒート)され、コークス中の炭素が溶鉄に移行して溶銑が溶製される。溶製された溶銑は、スキンマ10によってスラグと分離された後、出湯樋11を通って溶銑収容容器または保持炉などに注入される。溶製される溶銑の成分は、例えば、C:3〜4質量%、Si:1〜3質量%、Mn:0.2〜0.5質量%程度である。尚、保持炉とは、溶製された溶銑を鋳造される前に一旦収容する容器であり、内壁が耐火物で構成され、低周波誘導などによって収容された溶銑を加熱することが可能な炉である。
【0034】
溶銑が溶製され始めると、ベットコークスは消耗し、また、炉本体2の内部の冷鉄源が減少するので、これを補うために、所定のコークス比となる条件のもとで、原料装入口4からコークス及び冷鉄源、更に必要に応じて石灰石などの造滓剤並びにFe−Si合金などを装入し、炉本体2の内部の装入物の高さ位置をほぼ一定の位置に保持しながら操業を継続する。
【0035】
コークスを主燃料として、このようにして冷鉄源を溶解することで、羽口9が炉本体2の内部に突出しているので、コークスの燃焼によって生成する高温のCO2 ガスが主に炉本体2の中心部を上昇し、CO2 ガスの有する熱のうちで炉本体2の側壁へ奪われる熱量が低減し、その分、炉本体2に装入された冷鉄源への着熱量が上昇し、冷鉄源を効率的に溶解することが可能となる。また、炉内の熱効率が上昇するので、高炉用コークスを使用した場合のカーボンソルーション反応による吸熱量の増加分を十分に補うことができ、使用するコークスの30〜40%を安価な高炉用コークスとしても、高い溶解能率を維持することができる。
【0036】
この操業において、吹き込みランス12を介して酸素ガスを超音速で炉本体2に吹き込むことが好ましい。酸素ガスを超音速で吹き込むことにより、炉本体2の中心部に存在するコークスの位置まで酸素ガスが到達し、中心部に存在するコークスの燃焼が促進され、炉本体2の中心部の温度がより一層高くなり、つまり、炉本体2の中心部を上昇するCO2 ガスの温度がより一層高くなり、冷鉄源の溶解が促進されるからである。これにより、高炉用コークスの使用を更に増加させることが可能となり、使用するコークスの60%程度を高炉用コークスとしても、高い溶解能率を維持することが可能となる。
【0037】
但し、吹き込みランス12から酸素ガスを吹き込むことで、キュポラ1における冷鉄源の溶解能率が向上し、下工程の鋳造設備などの生産能力以上の溶解能力が得られる場合も発生する。この場合には、保持時間(リードタイム)の延長による溶銑の温度低下の増大、並びにそのための対策などから、却って製造コストが増加することになる。従って、キュポラ1の溶銑溶製能力を下工程の生産能力に合致させることが好ましい。
【0038】
吹き込みランス12から酸素ガスを吹き込みながらキュポラ1の溶解能力を可変させる方法の1つとして、吹き込みランス12からの酸素ガス供給量を増減させる方法がある。即ち、酸素ガス供給量を減少させれば、冷鉄源の溶解能力はそれに応じて減少する。但し、吹き込みランス12から吹き込む酸素量を、ラバールノズルのスロート径及びスカート部の出口径によって定まる値から限度以上に減少させると、超音速の酸素ジェットが得られなくなる。超音速の酸素ジェットが得られなくなれば、中心部コークスの燃焼を促進させることができなくなり、高炉用コークスの安定使用も阻害される。
【0039】
そこで、このような場合には、1つの吹き込みランス12からの吹き込み量は変化させずに、つまり、超音速で吹き込む酸素ジェットを確保した上で、複数の吹き込みランス12のうちの幾つかから交互に吹き込むことが好ましい。例えば、3基の吹き込みランス12のうちの1基のみから吹き込み、吹き込んでいる吹き込みランス12を順次切り替える、或いは、3基のうちの2基から吹き込み、吹き込んでいる吹き込みランス12を順次切り替えることで、円周方向でのコークス燃焼ゾーンの不均一を防止しつつ、中心部コークスの燃焼を促進させながら、溶解能力を調整することができる。受注量が変化した場合も、このようにすることで、対応することが可能となる。尚、複数の吹き込みランス12のうちから幾つかを選択し、選択した吹き込みランス12のみから酸素ジェットを吹き込んでもよいが、この場合には、炉内の溶解状況が不均一になり、装入物の円滑な降下を妨げ、棚つりなどが発生する恐れもあり、好ましくない。
【0040】
キュポラ1を用いてこのようにして溶銑を溶製することで、溶銑の製造コストを大幅に削減することが達成される。
【実施例1】
【0041】
図3〜5に示す、公称能力が20トン/hrのキュポラを用いて本発明を実施した。用いたキュポラの耐火煉瓦層内壁面の直径(D0)は2100mmであり、各羽口の先端をつないだ羽口面内径の直径(D)を1300mmとした。つまり、前述した(1)式で算出される羽口先端面積比を38%とした。このように配置した羽口から約600℃に加熱した熱風を180〜240Nm3/分の流量で吹き込んだ。
【0042】
また、吹き込みランスからは、音速の1.8倍の流速で酸素ガスを吹き込んだ。3基の吹き込みランスから同時に酸素ガスを吹き込む場合と、3基の吹き込みランスのうちの2基から吹き込む場合と、3基の吹き込みランスのうちの1基から吹き込む場合と、何れの吹き込みランスからも吹き込まない場合を実施した。3基の吹き込みランスのうちの1基から吹き込む場合には、それぞれの吹き込みランスから1分間吹き込み、吹き込みランスを円周方向に順序切り替えた。3基の吹き込みランスのうちの2基から吹き込む場合にも、これと同様に行ったが、常時2基の吹き込みランスから吹き込んでおり、1つの吹き込みランスでは2分間連続して吹き込んだ。使用するコークスとしては、粒径が50〜70mmの高炉用コークスと、粒径が120mm以上の鋳物用コークスとを併用し、吹き込みランスから酸素ガスを吹き込む場合には、使用するコークスの60%を高炉用コークスとし、吹き込みランスから酸素ガスを吹き込まない場合には、使用するコークスの40%を高炉用コークスとした。
【0043】
このキュポラを用いて冷鉄源を溶解して溶銑を溶製した結果、吹き込みランスから酸素ガスを吹き込まない場合には、公称能力と同等の20トン/hrの溶解能力であったが、3基の吹き込みランス全てから酸素ガスを吹き込んだ場合には、28トン/hrの溶解能力を得ることができた。また、吹き込みランスから酸素ガスを吹き込んだ場合もまた吹き込まない場合も、高炉用コークスを使用することによる弊害は何ら発生しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】羽口先端面積比が60%の場合と38%の場合とで、冷却水の抜熱量について調査した結果を示す図である。
【図2】試験操業により得られた羽口先端面積比と単位時間当たりの溶解量との関係を示す図である。
【図3】本発明を実施する際に用いたキュポラの概略側断面図である。
【図4】図3に示す羽口部の概略拡大側断面図である。
【図5】図3に示すキュポラの羽口部における概略平断面図である。
【符号の説明】
【0045】
1 キュポラ
2 炉本体
3 耐火煉瓦層
4 原料装入口
5 上蓋
6 排気孔
7 風箱
8 羽口導管
9 羽口
10 スキンマ
11 出湯樋
12 吹き込みランス
13 排気ダクト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キュポラの羽口部における炉体内壁面の直径をD0 とし、各羽口の先端をつないだ羽口面内径の直径をDとしたときに、下記の(1)式で定義される羽口先端面積比が32〜42%の範囲内となるように配置された羽口を備えたキュポラを用い、コークスを主燃料として冷鉄源を溶解して溶銑を溶製することを特徴とする、キュポラによる溶銑の溶製方法。
S=(D2 /D02)×100 …(1)
但し、(1)式におけるSは羽口先端面積比(%)である。
【請求項2】
音速以上の流速でガスを噴射することのできる吹き込みランスを羽口の内部に配置し、該吹き込みランスから音速以上の流速で酸素ガスを炉内に吹き込むことを特徴とする、請求項1に記載のキュポラによる溶銑の溶製方法。
【請求項3】
前記吹き込みランスを複数の羽口に設置し、各吹き込みランスから交互に酸素ガスを噴射することを特徴とする、請求項2に記載のキュポラによる溶銑の溶製方法。
【請求項4】
使用するコークスとして、高炉用コークスを鋳物用コークスと併用することを特徴とする、請求項1ないし請求項3の何れか1つに記載のキュポラによる溶銑の溶製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−2305(P2007−2305A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−184446(P2005−184446)
【出願日】平成17年6月24日(2005.6.24)
【出願人】(000231877)日本鋳鉄管株式会社 (48)
【Fターム(参考)】