説明

キラル3−トリアゾリルスルホキシド誘導体を調製する方法

本発明は、エナンチオマー的に純粋なまたはエナンチオマー的に富化された形態の3−トリアゾリルスルホキシド誘導体を調製する触媒方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エナンチオマー的に純粋なまたはエナンチオマー的に富化された形態の3−トリアゾリルスルホキシド誘導体を調製する触媒方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3−トリアゾリルスルホキシドの化学合成は、文献に記載されているが、ラセミ混合物をもたらす(WO1999/055668)。
【0003】
エナンチオマー的に純粋なキラルスルホキシドおよび対応する誘導体は、医薬および農薬産業で非常に重要である。このような化合物は、薬剤または化学的作物保護剤のもっぱら生物学的に活性なエナンチオマーを提供するためにさらに処理され得る。これらにより、調製工程における無駄が排除されるだけでなく、望ましくないエナンチオマーから生じ得る潜在的に有害な副作用が回避される(Nugentら、Science 1993年、259、479頁;Noyoriら、CHEMTECH 1992年、22、360頁)。
【0004】
キラルスルホキシドのエナンチオ選択的合成は、文献に記載されている。この方法論を記載する総説は、例えば、H.B.Kagan、「Catalytic Asymmetric Synthesis」;I.Ed.VCH:New York 1993年、203−226頁;Ojima N.Khiar、Chem.Rev.2003、103、3651−3705頁;K.P.Bryliakov、Currenet Organic Chemistry 2008年、12、386−404頁に見出すことができる。キラルスルホキシドを合成する従来の金属触媒方法に加えて、文献には、酵素処理およびクロマトグラフ処理も記載されている(K.Kaber、「Biotransformations in Organic Synthesis」、Springer編、第3版、1997年;H.L.Holland、Nat.Prod.Rep.、2001年、18、171−181頁)。酵素的方法は、主に基質特異的であり、さらに、産業的実施には、非常に費用がかかり、不都合である。例えば、モノオキシゲナーゼおよびペルオキシダーゼは、多数のスルフィドのスルホキシドへの触媒作用をすることができる重要な酵素のクラスである(S.Colonnaら、Tetrahedron Asymmetry 1993年、4、1981頁)。しかし、酵素的酸化の立体化学の結果は、スルフィド構造に大きく依存していることが見出されている。
【0005】
チオエーテルのエナンチオ選択的酸化にしばしば用いられる方法は、キラルチタン錯体によるシャープレスエポキシ化(sharpless epoxidation)の公知の方法のKagan修飾である(J.Am.Chem.Soc.1984年、106、8188−8193頁)。これは、Ti(OPrおよび(+)−または(−)−酒石酸ジエチル(DET)からなるキラルチタン錯体を1当量の水で「不活性化」すること、およびアリールアルキルスルフィドのエナンチオ選択的スルフィド酸化を触媒することを含む。しかし、良好な結果は、Ti(OPr/DET/HOの混合比=1:2:1のKagan試薬および有機過酸化物(例えば、tert−ブチルヒドロペルオキシド)によって得られた。記載されたチタン錯体の良好なエナンチオ選択性は、低い触媒活性を伴い、このことは、基質と触媒との間の必要な比を説明している。この方法によって、単純なアリールアルキルスルフィド、例えば、アリールメチルスルフィドの光学的に活性なスルホキシドへの直接酸化が達成され得る。例えば、官能基化アルキルスルフィドの不斉酸化は、これらの条件下で適度のエナンチオ選択性を有して進行することが見出されている。
【0006】
Pasiniらは、少量のキラルオキソチタン(IV)シッフ塩基および過酸化水素によってフェニルメチルスルフィドを酸化することができたが、エナンチオマー過剰率は不良であった(ee値<20%)(Gaz.Chim.Ital.1986年、116、35−40頁)。N−サリチル−L−アミノ酸のキラルチタン錯体による同様の経験が、Colonaらによって記載されている(Org.Bioorg.Chem.1987年、71−71頁)。さらに、チタン触媒方法は、非常に複雑な後処理をもたらし、この後処理は、工業規模での経済的方法にとって非常に不利点である。
【0007】
さらなる方法は、スルフィド酸化の効率的な触媒としてのバナジウム(IV)シッフ塩基に基づく。キラル触媒は、キラルアミノアルコールのシッフ塩基によってVO(acac)からインサイチュで調製される(Synlett 1998年、12、1327−1328頁;Euro.J.Chem.2009年、2607−2610頁)。しかし、この方法は、単純な非フッ素化のアリールアルキルチオエーテル、例えば、p−トリルメチルスルフィドに限られる。
【0008】
今まで、文献の方法によりラセミ形態で得られた3−トリアゾリルスルホキシドのエナンチオマーは、キラル相上でHPLCを用いて複雑な分離によって得られた。しかし、キラル固定相上のエナンチオマーのクロマトグラフによる分離は一般に、比較的多量の活性成分に適しておらず、比較的少量の提供にのみ役立つ。さらに、キラル相上のHPLCの利用は、これらの材料の高コストおよびかなりの時間投資のために、特に分取規模で非常に費用がかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第1999/055668号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Nugentら、Science 1993年、259、479頁
【非特許文献2】Noyoriら、CHEMTECH 1992年、22、360頁
【非特許文献3】H.B.Kagan、「Catalytic Asymmetric Synthesis」;I.Ed.VCH:New York 1993年、203−226頁
【非特許文献4】Ojima N.Khiar、Chem.Rev.2003、103、3651−3705頁
【非特許文献5】K.P.Bryliakov、Currenet Organic Chemistry 2008年、12、386−404頁
【非特許文献6】K.Kaber、「Biotransformations in Organic Synthesis」、Springer編、第3版、1997年
【非特許文献7】H.L.Holland、Nat.Prod.Rep.、2001年、18、171−181頁
【非特許文献8】S.Colonnaら、Tetrahedron Asymmetry 1993年、4、1981頁
【非特許文献9】J.Am.Chem.Soc.1984年、106、8188−8193頁
【非特許文献10】Gaz.Chim.Ital.1986年、116、35−40頁
【非特許文献11】Org.Bioorg.Chem.1987年、71−71頁
【非特許文献12】Synlett 1998年、12、1327−1328頁
【非特許文献13】Euro.J.Chem.2009年、2607−2610頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、特に工業規模で実行できる触媒方法に対する緊急の必要性があった。したがって、本発明の目的は、工業的な実行可能性に加えて、安価さ、良好な収率およびエナンチオマー比の変化を確実にするような触媒方法を提供することである。
【0012】
上に概略した不利点および問題を考慮すると、置換されたフッ素化3−トリアゾリルスルホキシド誘導体のエナンチオ選択的スルフィド酸化のための、簡易化され、工業的および経済的に実行可能な触媒方法に対する緊急の必要性がある。この所望の方法で得ることができる3−トリアゾリルスルホキシド誘導体は、好ましくは高収率および高純度で得られるべきである。より詳細には、この所望の方法は、所望の標的化合物が、キラルクロマトグラフィーなどの複雑な精製方法の必要なしに得られることを可能にすべきである。
【0013】
エナンチオマーの分離、およびまたエナンチオマー的に純粋な形態でまたはエナンチオマー的に富化された形態でキラルスルホキシド基を有する3−トリアゾリルスルホキシド誘導体の合成は、今まで記載されたことがなかった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、この目的は、一般式(I)
【0015】
【化1】

(式中、
およびXは、それぞれ独立して、フッ素、塩素、臭素、水素、(C−C12)アルキル、(C−C12)ハロアルキルであり、
およびYは、それぞれ独立して、フッ素、塩素、臭素、水素、(C−C12)アルキル、(C−C12)ハロアルキルであり、
およびRは、それぞれ独立して、水素、(C−C12)アルキル、(C−C12)ハロアルキル、シアノ、ハロゲン、ニトロであり、
は、水素、(C−C12)アルキル、アミノ、ニトロ、NH(CO)(C−C12)アルキル、N=CR’Rであり、
R、R’は、それぞれ独立して、水素、(C−C12)アルキル、アリールである。)
の3−トリアゾリルスルホキシド誘導体を調製する方法であって、
式(II)
【0016】
【化2】

(式中、X、X、Y、Y、R、RおよびRは、それぞれ上に定義された通りである。)
のスルフィドをキラル触媒および酸化剤の存在下で変換させることを特徴とする方法によって達成された。
【0017】
上記の一般式(I)で示されるX、X、Y、Y、R、RおよびR基の好ましい、特に好ましいおよび非常に特に好ましい定義は、以下で明らかにされる。
【0018】
、X、YおよびYは、好ましくは、それぞれ独立して、フッ素、塩素、水素、(C−C12)アルキル、(C−C12)ハロアロキルであり、
およびRは、好ましくは、それぞれ独立して、フッ素、塩素、水素、(C−C12)アルキルであり、
は、好ましくは、水素、(C−C12)アルキル、アミノであり、
およびX、YおよびYは、より好ましくは、それぞれ独立して、フッ素、塩素、水素、(C−C12)ハロアルキルであり、
およびRは、より好ましくは、それぞれ独立して、フッ素、水素、(C−C)アルキルであり、
は、より好ましくは、水素、アミノであり、
およびX、YおよびYは、最も好ましくは、それぞれ独立して、フッ素、水素、(C−C)ハロアルキルであり、
およびRは、最も好ましくは、それぞれ独立して、フッ素、メチルであり、
は、最も好ましくは水素である。
【0019】
意外なことに、式(I)のキラル3−トリアゾリルスルホキシド誘導体は、本発明の条件下で、高純度で良好な収率で調製することができ、これは、本発明による方法が、従来技術に関連して記載された不利点を有さないことを意味する。
【0020】
式(I)の化合物は、本発明による方法によって、この調製条件に従って、50.5:49.5から99.5:0.5の(+):(−)−エナンチオマーまたは(−):(+)−エナンチオマーのエナンチオマー比で形成する。
【0021】
必要であれば、エナンチオマー純度は、種々の方法で増大させることができる。このような方法は、当業者に公知であり、特に、有機溶媒または有機溶媒と水との混合物からの選択的結晶化を含む。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明による方法は、以下のスキーム(I):
【0023】
【化3】

(式中、X、X、Y、Y、R、R、Rは、それぞれ上に定義された通りである。)
によって示され得る。
【0024】
一般的な定義
本発明の文脈において、異なって定義されない限り、「ハロゲン」(Hal)という用語は、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素からなる群から選択される元素を包含し、フッ素、塩素および臭素を用いることが好ましく、フッ素および塩素を用いることが特に好ましい。
【0025】
場合によって、置換基は、一置換または多置換されていてもよく、置換基は、多置換の場合に同じであってもよくまたは異なってもよい。
【0026】
1個以上のハロゲン原子(−Hal)で置換されたアルキル基は、例えば、トリフルオロメチル(CF)、ジフルオロメチル(CHF)、CFCH、ClCH、CFCClから選択される。
【0027】
本発明の文脈において、異なって定義されない限り、アルキル基は、直鎖、分岐または環式の飽和炭化水素基である。
【0028】
「C−C12−アルキル」の定義は、アルキル基について本明細書で定義される最も広い範囲を包含する。具体的には、この定義は、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチルおよびt−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、1,3−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチル、n−ヘプチル、n−ノニル、n−デシル、n−ウンデシル、n−ドデシルの意味を包含する。
【0029】
本発明の文脈において、異なって定義されない限り、アリール基は、O、N、PおよびSから選択される1個、2個またはそれを超えるヘテロ原子を有し得る芳香族炭化水素基である。
【0030】
具体的には、この定義は、例えば、シクロペンタジエニル、フェニル、シクロヘプタトリエニル、シクロオクタテトラエニル、ナフチルおよびアントラセニル;2−フリル、3−フリル、2−チエニル、3−チエニル、2−ピロリル、3−ピロリル、3−イソオキサゾリル、4−イソオキサゾリル、5−イソオキサゾリル、3−イソチアゾリル、4−イソチアゾリル、5−イソチアゾリル、3−ピラゾリル、4−ピラゾリル、5−ピラゾリル、2−オキサゾリル、4−オキサゾリル、5−オキサゾリル、2−チアゾリル、4−チアゾリル、5−チアゾリル、2−イミダゾリル、4−イミダゾリル、1,2,4−オキサジアゾール−3−イル、1,2,4−オキサジアゾール−5−イル、1,2,4−チアジアゾール−3−イル、1,2,4−チアジアゾール−5−イル、1,2,4−トリアゾール−3−イル、1,3,4−オキサジアゾール−2−イル、1,3,4−チアジアゾール−2−イルおよび1,3,4−トリアゾール−2−イル;1−ピロリル、1−ピラゾリル、1,2,4−トリアゾール−1−イル、1−イミダゾリル、1,2,3−トリアゾール−1−イル、1,3,4−トリアゾール−1−イル;3−ピリダジニル、4−ピリダジニル、2−ピリミジニル、4−ピリミジニル、5−ピリミジニル、2−ピラジニル、1,3,5−トリアジン−2−イルおよび1,2,4−トリアジン−3−イルの意味を包含する。
【0031】
本発明の文脈において、異なって定義されない限り、アルキルアリール基は、アルキル基によって置換されておりアルキレン鎖を有するアリール基であり、アリール骨格に、O、N、PおよびSから選択される1個以上のヘテロ原子を有していてもよい。
【0032】
この反応に用いることができる酸化剤は、いずれの特定の規定も受けない。対応する硫黄化合物をスルホキシド化合物に酸化することができる酸化剤を用いることができる。スルホキシドを調製するための適切な酸化剤は、例えば、無機過酸化物、例えば、過酸化水素、または有機過酸化物、例えば、アルキルヒドロペルオキシドおよびアリールアルキルヒドロペルオキシドである。好ましい酸化剤は、過酸化水素である。酸化剤のスルフィドに対するモル比は、0.9:1から4:1、好ましく1.2:1から2.5:1の間の範囲である。
【0033】
キラル金属−配位子錯体は、キラル配位子および遷移金属化合物から調製される。
【0034】
遷移金属誘導体は、好ましくはバナジウム誘導体、モリブデン誘導体、ジルコニウム誘導体、鉄誘導体、マンガン誘導体およびチタン誘導体、非常に好ましくはバナジウム誘導体である。これらの誘導体は、例えば、遷移金属(IV)ハロゲン化物、遷移金属(IV)アルコキシドまたは遷移金属(IV)アセチルアセトネートの形態で用いられ得る。
【0035】
キラル配位子は、例えば、バナジウム誘導体と反応することができるキラル化合物である。このような化合物は、好ましくはキラルアルコールから選択される。同様に好ましいキラル配位子は、式(III)および式(IV):
【0036】
【化4】

(式(III)中、
およびRは、それぞれ独立して、水素、(C−C)アルキル、(C−C)アルキルフェニル、フェニル、ハロゲン、シアノ、ニトロ、シアノ(C−C)アルキル、ヒドロキシ(C−C)アルキル、(C−C)アルコキシカルボニル(C−C)アルキル、(C−C)アルコキシ(C−C)アルキルであり、
は、(C−C)アルキル、ハロゲン−、シアノ−、ニトロ−、アミノ−、ヒドロキシル−またはフェニル−置換(C−C)アルキル、カルボキシル、カルボニル(C−C)アルキル、(C−C)アルコキシカルボニル(C−C)アルキル、(C−C)アルコキシ(C−C)アルキル、(C−C)アルコキシ、ジ(C−C)アルコキシ(C−C)アルキルであり、
は、水素、(C−C)アルキル、(C−C)アルキルフェニル、アリール、アリール(C−C)アルキル、好ましくはtert−ブチル、ベンジル、フェニルであり、
キラル炭素原子は、に指定されており、
式(IV)中、
は、水素、(C−C)アルキル、(C−C)アルキルフェニル、フェニル、ハロゲン、シアノ、ニトロ、シアノ(C−C)アルキル、ヒドロキシ(C−C)アルキル、(C−C)アルコキシカルボニル(C−C)アルキル、(C−C)アルコキシ(C−C)アルキルであり、
およびR10は、それぞれ、水素、(C−C)アルキル、フェニルであり、RおよびR10は、架橋を形成してもよく、
キラル炭素原子は、と指定されている。)
のシッフ塩基を含む。
【0037】
これらのシッフ塩基は、キラル(サレン)−金属錯体として知られている、キラル金属−配位子錯体を形成し得る。キラル錯体の化学量論は、変化してもよく、本発明に対して決定的ではない。
【0038】
用いられるキラル金属−配位子錯体の量は、スルフィドと比較して、0.001から10モル%、好ましくは0.1から5モル%、最も好ましくは1から4モル%の範囲である。キラル金属−配位子錯体のより高い使用が可能であるが、経済的に実行可能でない。
【0039】
キラル遷移金属錯体は、単独またはスルフィドの存在下で、遷移金属誘導体とキラル錯体配位子との反応によって得られる。
【0040】
式(II)のスルフィドの式(I)の化合物への変換は、溶媒の存在下で行われ得る。適切な溶媒には、特に:THF、ジオキサン、ジエチルエーテル、ジグリム、メチルtert−ブチルエーテル(MTBE)、tert−アミルメチルエーテル(TAME)、ジメチルエーテル(DME)、2−メチル−THF、アセトニトリル、ブチロニトリル、トルエン、キシレン、メシチレン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールなど)、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ハロ炭化水素および芳香族炭化水素、特に、クロロ炭化水素(テトラクロロエチレン、テトラクロロエタン、ジクロロプロパン、塩化メチレン、ジクロロブタン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、ペンタクロロエタン、ジフルオロベンゼン、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロトルエン、トリクロロベンゼンなど);4−メトキシベンゼン、フッ素化脂肪族および芳香族(トリクロロトリフルオロエタン、ベンゾトリフルオリド、4−クロロベンゾトリフルオリドなど)、ならびに水が含まれる。溶媒混合物を用いることも可能である。
【0041】
エナンチオマー比は、触媒系によってだけでなく、溶媒によっても調節され得ることがさらに観察された。
【0042】
酸化剤のみならず、エナンチオマー比に影響するさらなる要因には、温度も含まれる。
【0043】
エナンチオマー過剰率を決定するための適切な方法は、当業者によく知られている。例には、キラル固定相上のHPLCおよびキラルシフト試薬を用いたNMR試験が含まれる。
【0044】
反応は一般に、−80℃から200℃の間、好ましくは0℃から140℃の間、最も好ましくは10℃から60℃の間の温度、および最大100バールの圧力、好ましくは標準圧から40バールの間の圧力で行われる。
【0045】
一般式(II)のチオエーテルの調製は、例えば、WO1999/055668に記載されているまたは同じように行われ得る。
【0046】
配位子は、公知の方法で調製される(Adv.Synth.Catal.2005年、347、1933−1936頁)。
【0047】
所望の一般式(I)の化合物は、例えば、その後の抽出および結晶化によって単離され得る。
【0048】
本発明は、以下に続く実施例によって詳細に説明されるが、実施例は、本発明を限定するような仕方で解釈されるべきではない。
【0049】
本発明による方法によって得られた生成物は、50.5:49.5から99.5:0.5、好ましくは60:40から95:5、より好ましくは75:25から90:10の(+):(−)−エナンチオマーまたは(−):(+)−エナンチオマー、最も好ましくは(+):(−)−エナンチオマーのエナンチオマー比を有する。したがって、過剰の(+)−エナンチオマーを有する特定された範囲内のエナンチオマー比が、本発明によれば好ましい。
【0050】
したがって、エナンチオマー過剰率は、0%eeから99%eeの間であることができる。エナンチオマー過剰率は、化合物のエナンチオマー純度の直接の尺度であり、混合物中の純粋なエナンチオマーの比率を示し、この残りの部分は化合物のラセミ体である。
【0051】
必要に応じて、その後の溶媒を用いるまたはそれを用いない結晶化は、エナンチオマー過剰率をかなり増大させる。このような方法は、当業者に公知であり、特に、有機溶媒または有機溶媒と水との混合物からの好ましい結晶化を含む。
【実施例】
【0052】
調製実施例:
【0053】
[実施例1]
(+)−1−{2,4−ジメチル−5−[(2,2,2−トリフルオロエチル)スルフィニル]フェニル}−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾールの合成
三つ口フラスコ中で、10.3g(27.54mmol、純度95%)の1−{2,4−ジメチル−5−[(2,2,2−トリフルオロエチル)スルファニル]フェニル}−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾールおよび145.8mg(0.55mmol)のバナジウムアセチルアセトネートを36mlのクロロホルム中に溶解させ、10分間撹拌した。その後、275.8mg(0.825mmol)の(S)−(2,4−ジ−tert−ブチル−6−{(E)−[(1−ヒドロキシ−3,3−ジメチルブタン−2−イル)イミノ]メチル}フェノールを添加した。10分後、5.66g(50mmol)の30%Hを6時間かけて計量して入れた。変換の進行を、HPLCを用いてモニターした。反応時間4時間後、4mlのクロロホルム中さらなる145.8mg(0.55mmol)のバナジウムアセチルアセトネートおよび275.8mgの(2,4−ジ−tert−ブチル−6−{(E)−[(1−ヒドロキシ−3,3−ジメチルブタン−2−イル)イミノ]メチル}フェノールを計量して入れた。その後、40mlのクロロホルム、20mlの水および20mlのチオ硫酸塩溶液を連続的に添加した。水相を除去した後、有機相を水で洗浄し、NaSO上で脱水し、溶媒を減圧下で蒸発させた。これにより、2.81%スルホン含有量の10.84gの灰色がかった茶色の結晶(+)−1−{2,4−ジメチル−5−[(2,2,2−トリフルオロエチル)スルフィニル]フェニル}−3−(トリフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾール(収率98%、93.1%HPLC純度)を得た。エナンチオマー過剰率は、キラル相(Daicel Chiracel OJ−RH 150)上でHPLCを用いて決定し、比は、16.34:83.66であった。
【0054】
エナンチオマー比は、例えば、CHClからの結晶化によって、3.39:96.61に改善した。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
[実施例2]
3−(ジフルオロメチル)−1−{2,4−ジメチル−5−[(2,2,2−トリフルオロエチル)スルフィニル]フェニル}−1H−1,2,4−トリアゾール
実施例1と同様にして、
3−(ジフルオロメチル)−1−{2,4−ジメチル−5−[(2,2,2−トリフルオロエチル)スルファニル]フェニル}−1H−1,2,4−トリアゾールを用いて、
3−(ジフルオロメチル)−1−{2,4−ジメチル−5−[(2,2,2−トリフルオロエチル)スルフィニル]フェニル}−1H−1,2,4−トリアゾールを得た。エナンチオマー過剰率は、キラル相(Daicel Chiracel OJ−RH 150)上でHPLCを用いて決定し、比は、7.37:92.63であった。
【0058】
[実施例3]
1−{5−[(2,2−ジフルオロエチル)スルフィニル]−2,4−ジメチルフェニル}−3−(ジフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾール
実施例1と同様にして、1−{5−[(2,2−ジフルオロエチル)スルファニル]−2,4−ジメチルフェニル}−3−(ジフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾール
を用いて、
1−{5−[(2,2−ジフルオロエチル)スルフィニル]−2,4−ジメチエルフェニル}−3−(ジフルオロメチル)−1H−1,2,4−トリアゾールを得た。エナンチオマー過剰率は、キラル相(Daicel Chiracel OJ−RH 150)上でHPLCを用いて決定し、比は、19.97:80.03であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エナンチオマー的に純粋なまたはエナンチオマー的に富化された形態の式(I)
【化1】

(式中、
およびXは、それぞれ独立して、フッ素、塩素、臭素、水素、(C−C12)アルキル、(C−C12)ハロアルキルであり、
およびYは、それぞれ独立して、フッ素、塩素、臭素、水素、(C−C12)アルキル、(C−C12)ハロアルキルであり、
およびRは、それぞれ独立して、水素、(C−C12)アルキル、(C−C12)ハロアルキル、シアノ、ハロゲン、ニトロであり、
は、水素、(C−C12)アルキル、アミノ、ニトロ、NH(CO)(C−C12)アルキル、N=CR’Rであり、
R、R’は、それぞれ独立して、水素、(C−C12)アルキル、アリールである。)
の3−トリアゾリルスルホキシド誘導体を調製する方法であって、
(A)式(II)
【化2】

(式中、X、X、Y、Y、R、RおよびRは、それぞれ上に定義された通りである。)
のスルフィドをキラル触媒および酸化剤の存在下で変換させることを特徴とする方法。
【請求項2】
エナンチオマー比が、50.5:49.5から99.5:0.5の(+):(−)または(−):(+)−エナンチオマーであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
エナンチオマー比が、50.5:49.5から99.5:0.5の(+):(−)エナンチオマーであることを特徴とする、請求項1および2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
およびX、YおよびYが、それぞれ独立して、フッ素、塩素、水素、(C−C12)ハロアロキルであり、
およびRが、それぞれ独立して、フッ素、水素、(C−C)アルキルであり、
が、水素、アミノである
ことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
およびX、YおよびYが、それぞれ独立して、フッ素、水素、(C−C)ハロアルキルであり、
およびRが、それぞれ独立して、フッ素、メチルであり、
が、水素である
ことを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
用いられる酸化剤が、有機または無機過酸化物であることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
用いられるキラル触媒が、キラル金属−配位子錯体であり、金属は遷移金属であり、ならびに配位子は、式(III)または式(IV)
【化3】

(式(III)中、
およびRは、それぞれ独立して、水素、(C−C)アルキル、(C−C)アルキルフェニル、フェニル、ハロゲン、シアノ、ニトロ、シアノ(C−C)アルキル、ヒドロキシ(C−C)アルキル、(C−C)アルコキシカルボニル(C−C)アルキル、(C−C)アルコキシ(C−C)アルキルであり、
は、(C−C)アルキル、ハロゲン−、シアノ−、ニトロ−、アミノ−、ヒドロキシル−またはフェニル−置換(C−C)アルキル、カルボキシル、カルボニル(C−C)アルキル、(C−C)アルコキシカルボニル(C−C)アルキル、(C−C)アルコキシ(C−C)アルキル、(C−C)アルコキシ、ジ(C−C)アルコキシ(C−C)アルキルであり、
は、水素、(C−C)アルキル、(C−C)アルキルフェニル、アリール、アリール(C−C)アルキル、好ましくはtert−ブチル、ベンジル、フェニルであり、
ならびにキラル炭素原子は、と指定されており、
式(IV)中、
は、水素、(C−C)アルキル、(C−C)アルキルフェニル、フェニル、ハロゲン、シアノ、ニトロ、シアノ(C−C)アルキル、ヒドロキシ(C−C)アルキル、(C−C)アルコキシカルボニル(C−C)アルキル、(C−C)アルコキシ(C−C)アルキルであり、
およびR10は、それぞれ、水素、(C−C)アルキル、フェニルであり、RおよびR10は、架橋を形成してもよく、ならびに
キラル炭素原子は、と指定されている。)
の化合物であることを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
工程(A)の後に、有機溶媒または有機溶媒と水との混合物からの結晶化の実施が続くことを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の方法によって調製され得る、エナンチオマー比が、50.5:49.5から99.5:0.5の(+):(−)エナンチオマーである、式(I)のエナンチオマー的に純粋なまたはエナンチオマー的に富化された3−トリアゾリルスルホキシド誘導体。

【公表番号】特表2012−532906(P2012−532906A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−519925(P2012−519925)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【国際出願番号】PCT/EP2010/004288
【国際公開番号】WO2011/006646
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(507203353)バイエル・クロップサイエンス・アーゲー (172)
【氏名又は名称原語表記】BAYER CROPSCIENCE AG
【Fターム(参考)】