説明

キートップ表面部形成方法及びキートップ形成方法

【課題】絞り加工によって合成樹脂フイルムに形成されるキートップ表面部の高さを高くしても、合成樹脂フイルムが白濁等しないキートップ表面部形成方法及びキートップ形成方法を提供する。
【解決手段】第1,第2金型100,150によって合成樹脂フイルム10を挟持した際に凹部101に凸部155(ポンチ151)を挿入して合成樹脂フイルム10を絞り加工して所望のキートップ表面部17を形成する。絞り加工する前の合成樹脂フイルム10のキートップ表面部となる部分13の周囲に予めスリット15を設ける。第2金型150の凸部155の周囲の第1金型100側を向く面に凸部155の周囲から合成樹脂フイルム10のスリット15に対向する位置に至る凹状のフイルム非挟持部157を設ける。絞り加工の際にスリット15の面積を広げるように変形させてキートップ表面部17にその周囲の合成樹脂フイルムを引き込ませる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂フイルムに所望のキートップ形状のキートップ表面部を形成するキートップ表面部形成方法、及び前記キートップ表面部の裏面側の凹部に合成樹脂又はゴム状弾性材を充填することでフイルム付きのキートップを形成するキートップ形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、キートップとして、合成樹脂製の成形品等からなるキートップ本体の上面に合成樹脂フイルムを配置する構造のものがある(例えば特許文献1参照)。図17,図18はこの種のフイルム付きのキートップ500を示す図であり、図17は斜視図、図18は図17のG−G断面拡大図である。両図に示すようにフイルム付きのキートップ500は、合成樹脂フイルム501を絞り加工することによって所望の(この例では矩形状の)キートップ500の表面形状のキートップ表面部503を形成すると共に、このキートップ表面部503の裏面側の凹部内に成形樹脂等を充填することでキートップ本体505を取り付けて構成されている。合成樹脂フイルム501の絞り加工は、例えば図19に示すように、2つの金型600,650によって合成樹脂フイルム501を挟持し、その際金型600,650に設けた凹凸601,651によって合成樹脂フイルム501を引き延ばして絞り加工すること等によって行われる。
【0003】
ところで上記図17,図18に示すキートップ500で図示するように、キートップ500の面積(上から見た平面上での面積)Sに対して相対的にその高さLの高いものが望まれる場合がある。しかしながら合成樹脂フイルム501は延びに限界があり、合成樹脂フイルム501を前述のような絞り加工によって面積Sに比べて高さLの高いキートップ表面部503を絞り加工しようとすると、合成樹脂フイルム501が延びの限界を超え、図17に示すキートップ500の上端辺の各角部507(最も合成樹脂フイルム501が延びる箇所)において透明な合成樹脂フイルム501が白濁したり、破断したり、またその部分に印刷層がある場合はその部分の印刷層が他の部分に比べて特に薄くなってかすれてしまうという問題があった。
【特許文献1】特開2003−123582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものでありその目的は、絞り加工によって合成樹脂フイルムに形成されるキートップ表面部の高さを高くしても、合成樹脂フイルムが白濁したり、破断したりすることなく、これによって容易に高さの高いキートップ表面部及びこのキートップ表面部を用いたキートップを得ることができるキートップ表面部形成方法及びキートップ形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願請求項1に記載の発明は、第1,第2金型によって合成樹脂フイルムを挟持した際に第1金型に設けた凹部に第2金型に設けた凸部を挿入し、これによって前記合成樹脂フイルムを絞り加工して所望のキートップ表面部を形成するキートップ表面部形成方法において、前記絞り加工する前の合成樹脂フイルムの前記キートップ表面部となる部分の周囲に予めスリットを設けておき、一方前記第2金型の凸部の周囲の第1金型側を向く面に凸部の周囲から少なくとも前記合成樹脂フイルムのスリットに対向する位置に至る凹状のフイルム非挟持部を設け、前記絞り加工の際にスリットの面積を広げるように変形させてキートップ表面部にその周囲の合成樹脂フイルムを引き込ませることを特徴とするキートップ表面部形成方法にある。
【0006】
本願請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のキートップ表面部形成方法において、前記合成樹脂フイルムに形成されるキートップ表面部は複数あり、前記合成樹脂フイルムの前記キートップ表面部となる部分の周囲に形成されるスリットの内、隣り合うキートップ表面部となる部分の間のスリットは共用され、さらに前記第2金型のフイルム非挟持部は、前記複数のキートップ表示部となる部分全体の周囲を囲むスリットの内側全体に対向する部分に設けられていることを特徴とするキートップ表面部形成方法にある。
【0007】
本願請求項3に記載の発明は、第1,第2金型によって合成樹脂フイルムを挟持した際に第1金型に設けた凹部に第2金型に設けた凸部を挿入し、これによって前記合成樹脂フイルムを絞り加工して所望のキートップ表面部を形成すると共に、このキートップ表面部の裏面側の凹部に合成樹脂又はゴム状弾性材を充填することでフイルム付きのキートップを形成するキートップ形成方法において、前記絞り加工する前の合成樹脂フイルムの前記キートップ表面部となる部分の周囲に予めスリットを設けておき、一方前記第2金型の凸部の周囲の第1金型側を向く面に凸部の周囲から少なくとも前記合成樹脂フイルムのスリットに対向する位置に至る凹状のフイルム非挟持部を設け、前記絞り加工の際にスリットの面積を広げるように変形させてキートップ表面部にその周囲の合成樹脂フイルムを引き込ませることを特徴とするキートップ形成方法にある。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、合成樹脂フイルムを絞り加工する際に、容易にキートップ表面部にその周囲の合成樹脂フイルムが引き込まれてキートップ表面部の一部となり、これによって絞り加工による合成樹脂フイルムの延びが緩和され、たとえキートップ表面部の高さを高くしても、キートップ表面部の部分に白濁や破断等が生じることはなく、またその部分に印刷層がある場合でもその部分の印刷層が薄くなってかすれる等の問題もなくなる(又はこれら問題が大きく緩和される)。従ってキートップ表面部の高さを容易に高くすることができる。特に本発明においては、第2金型に設けたフイルム非挟持部によって、合成樹脂フイルムのスリットに囲まれる内側部分が第1,第2金型によって挟持されないので、絞り加工の際にキートップ表面部となる部分の周囲のスリットは容易且つ均一に広がり、上記効果を確実に実現できる。
【0009】
請求項2に記載の発明によれば、スリットを隣り合うキートップ表面部となる部分の間で共用するので、同一の合成樹脂フイルムに小さいピッチで多数のキートップ表面部を形成することができる。またスリットを共用することで多数のキートップ表面部となる部分を同一の合成樹脂フイルムに小さいピッチで形成した場合であっても、各スリットを容易且つ均一に広げることができる。
【0010】
請求項3に記載の発明によれば、合成樹脂フイルムを絞り加工する際に、容易にキートップ表面部にその周囲の合成樹脂フイルムが引き込まれてキートップ表面部の一部となり、これによって絞り加工による合成樹脂フイルムの延びが緩和され、たとえキートップ表面部の高さを高くしても、キートップ表面部の部分に白濁や破断等が生じることはなく、またその部分に印刷層がある場合でもその部分の印刷層が薄くなってかすれる等の問題もなくなる(又はこれら問題が大きく緩和される)。従って高さの高いフイルム付きのキートップを容易に得ることができる。特に本発明においては、第2金型に設けたフイルム非挟持部によって、合成樹脂フイルムのスリットに囲まれる内側部分が第1,第2金型によって挟持されないので、絞り加工の際にキートップ表面部となる部分の周囲のスリットは容易且つ均一に広がり、上記効果を確実に実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明に用いる合成樹脂フイルム10の一例を示す要部斜視図である。図2は図1に示す合成樹脂フイルム10のA−A断面拡大図である(但し各層の厚みは実際の厚みよりもかなり厚く記載している)。図1に示すように、合成樹脂フイルム10は、可撓性を有する合成樹脂製のフイルムであって、この実施形態では厚さ50μmの透明又は半透明なポリカーボネートフイルム(PCフイルム)を用いている。そして合成樹脂フイルム10の所望の複数箇所(図1では二点鎖線で示す4ヶ所の領域)を、略矩形状のキートップ表面部となる部分13とし、これらキートップ表面部となる部分13の周囲を囲む位置に、複数のスリット15を設けている。
【0012】
合成樹脂フイルム10の下面(下記するキートップ表面部17を突出する反対側の面)全体には、スクリーン印刷等によって第1装飾層(第1加飾層)21が形成されており、第1装飾層21の各キートップ表面部となる部分13の一部(中央)には第1装飾層21を設けない抜き部分23が設けられている。また第一装飾層21下面の前記抜き部分23を覆う面部分(各スリット15によって区画された各面内)には、前記第1装飾層21とは異なる色彩からなる第2装飾層(第2加飾層)25が形成され、また第2装飾層25の下面にはこれを覆うように第1装飾層21と同一の色彩からなる第3層27が形成され、さらに第3層27の下面にはこれを覆うように透明な塗料からなる第4層29が形成され、これら各層21,25,27,29によって所望の加飾層が構成されている。各層21,25,27,29全体の厚みは例えば10μm程度である。
【0013】
なお合成樹脂フイルム10としてこの実施形態ではPCフイルムを用いたが、本発明に用いる可撓性のある合成樹脂フイルムとしては、他の各種熱可塑性、熱硬化性、光硬化性の合成樹脂フイルムであれば良く、例えばポリフェニレンスルフイド(PPS)フイルム、ポリイミド(PI)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フイルム、ポリエーテルイミド(PEI)フイルム、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)フイルム、ポリエーテルケトン(PEK)フイルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フイルム、ポリブチレンナフタレート(PBN)フイルム、ポリブチレンテレフタレート(PBT)フイルム等を用いても良い。
【0014】
またこの実施形態の各層21,25,27,29は、何れも塗料(インキ)をスクリーン印刷等によって塗布することで形成しているが、例えば金属蒸着やその他の各種方法によって各層21,25,27,29を形成しても良い。形成する層の形状・構造なども種々の変更が可能であり、1層でも良いし、2層以上の複数層でも良いし、場合によってはこれら各層はなくても良い。
【0015】
キートップ表面部となる部分13は、図1に二点鎖線で囲まれる範囲であり、前述のようにこの実施形態においては略矩形状である。そしてスリット15は、前記キートップ表面部となる部分13を矩形状に囲む4辺にそれぞれ設けられており、その形状は各辺に沿うように直線状となっている。またこの実施形態においては、合成樹脂フイルム10の複数あるキートップ表面部となる部分13の周囲に形成されるスリット15の内、隣り合うキートップ表面部となる部分13の間のスリット15は、これら隣り合うキートップ表面部となる部分13同士に共用された共用スリットとなっている。
【0016】
図3乃至図11は、前記合成樹脂フイルム10を用いて、この合成樹脂フイルム10にキートップ表面部17を形成する方法及びさらにキートップ30を形成する方法を示す図である。なお図3,4,5は図2と同一部分の概略断面図である。即ち合成樹脂フイルム10にキートップ表面部17を形成するには、まず図3に示すように、合成樹脂フイルム10を絞り加工(プレス加工)するための第1,第2金型100,150を用意する。第1金型100には凹部101が設けられており、第2金型150には開口153内を上下動するパンチ151が設置されている。凹部101は第1金型100が挟持する前記合成樹脂フイルム10の各キートップ表面部となる部分13に対向する位置に設けられており、その内面形状は下記するキートップ表示部17の外面形状と同一形状である。一方パンチ151は第2金型150から第1金型100側に向けて所定寸法突出する構造であって第1金型100の各凹部101に対向する位置に設置されており、突出して凸部155(図5参照)となる部分の上部の外面形状は下記するキートップ表示部17の内面形状と同一形状である。
【0017】
また第2金型150の凸部155(パンチ151)の周囲の第1金型100側を向く面には、凸部155(パンチ151)の周囲から少なくとも前記合成樹脂フイルム10のスリット15に対向する位置に至る凹状のフイルム非挟持部157が設けられている。フイルム非挟持部157は第2金型150の上面を凹状にすることで、第1,第2金型100,150によって合成樹脂フイルム10を挟持した際に合成樹脂フイルム10が挟持されない部分を設けるために形成されている。そしてフイルム非挟持部157の外側周囲の部分が第1金型100と共に合成樹脂フイルム10を挟持するフイルム挟持部159となっている。図6は第1、第2金型100,150によって合成樹脂フイルム10を挟持した際の挟持部分(斜線の部分)A1を示す図である。挟持部分A1は第2金型150の前記フイルム挟持部159が当接する部分であり、従って挟持部分A1の内側全体の面が第2金型150のフイルム非挟持部157に対向する面ということになる。すなわちこの実施形態の場合は、第2金型150のフイルム非挟持部157は、複数(4つ)のキートップ表示部17全体の周囲を囲むスリット15の内側全体に対向する部分に設けられている。
【0018】
そして図4に示すように、合成樹脂フイルム10を第1,第2金型100,150によって挟持する。このとき前述のように合成樹脂フイルム10は図6に示す挟持部分A1が挟持される。つまり複数(4つ)のキートップ表示部となる部分13全体の周囲を囲むスリット15の周囲の部分が挟持される。
【0019】
そして図5に示すように、第2金型150に収納していたパンチ151を矢印S方向、即ち第1金型100側に突出させて凸部155とし、合成樹脂フイルム10の各キートップ表面部となる部分13に対向する位置に設けた第1金型100の各凹部101に挿入する。これによって合成樹脂フイルム10の各キートップ表面部となる部分13は略矩形状に上方向(第1金型100側)に凸となる形状に絞り加工され、この絞り加工された部分がキートップ表面部17(図8参照)となる。そして前記パンチ151の凸部155を第2金型150内に戻して第1,第2金型100,150を合成樹脂フイルム10から取り外す。
【0020】
前記絞り加工の際、合成樹脂フイルム10の絞り加工される部分は引き延ばされるが、前記背景技術の欄でも説明したように、引き延ばし量には限界がある。ところが本実施形態においては、合成樹脂フイルム10の各キートップ表面部となる部分13の周囲にスリット15を設けているので、図7,図8に示すように、前記絞り加工の際にキートップ表面部17にその周囲の合成樹脂フイルム10が引き込まれてスリット15の面積はその分広がるように変形する。これによって合成樹脂フイルム10の絞り加工される部分は、その伸びる量が緩和される。このため従来、絞り加工によって合成樹脂フイルム10の引き延ばし量が限界を超えてキートップ表面部17の上端辺の各角部19(最も合成樹脂フイルム10が延びる箇所)において透明な合成樹脂フイルム10が白濁したり、破断したり、第1,第2装飾層21,25が特に薄くなってかすれたりしていた寸法形状のキートップ表面部17であっても、本実施形態によればそのような問題は生じなくなる(又はこれら問題が大きく緩和される。)。なお隣り合うキートップ表面部となる部分13に共用されるスリット15は、絞り加工の際にその幅方向両側に広がり、両隣り合うキートップ表面部17にそれぞれ引き込まれる。
【0021】
さらに本実施形態においては、第2金型150に設けたフイルム非挟持部157によって、合成樹脂フイルム10のスリット15に囲まれる内側部分が第1,第2金型100,150によって挟持されないので、絞り加工の際にキートップ表面部となる部分13の周囲のスリット15は容易且つ均一に広がり、上記効果が確実に実現できる。更に説明すれば、例えば合成樹脂フイルム10として伸びにくい材質(例えばPET製)のフイルムを用いた場合は、たとえ前記第2金型150にフイルム非挟持部157を設けなくても、即ちスリット15に囲まれる内側部分まで合成樹脂フイルム10を第1,第2金型100,150で挟持していても、合成樹脂フイルム10自体はほとんど延びないので各スリット15に囲まれる内側部分の合成樹脂フイルム10はほぼ均等にキートップ表面部17に引き込まれてスリット15の面積はその分均等に広がるように変形し、前述のような各種効果を生じる。しかしながら合成樹脂フイルム10として容易に延びる材質(例えばPC製)のフイルムを用いた場合において前記フイルム非挟持部157を設けない場合、即ちスリット15に囲まれる内側部分まで合成樹脂フイルム10を第1,第2金型100,150で挟持した場合は、絞り加工の際に前記挟持した部分がキートップ表面部17に引き込まれないでその内側の第1金型100の凹部101に面する部分の合成樹脂フイルム10のみが延びてしまう部分と、挟持した部分がキートップ表面部17に引き込まれる部分とが生じ、つまりキートップ表面部17の周囲を囲むスリット15の内で十分広がるものや全く広がらないものが生じ、各スリット15に囲まれる内側部分の合成樹脂フイルム10が不均等にキートップ表面部17に引き込まれて、上述した従来の問題点が生じ、さらに印刷した層21,25,27,29の歪み、色むらなどが生じる恐れがある。これに対して本発明によれば、合成樹脂フイルム10の材質が容易に伸びる材質であっても、各スリット15に囲まれる内側部分の合成樹脂フイルム10を挟持していないので、その部分の合成樹脂フイルム10が容易に均等にキートップ表面部17に引き込まれて各スリット15の面積はその分均等に広がるように変形し、前述のような各種効果を生じる。つまり本発明によれば、合成樹脂フイルム10の材質が延び易くても延び難くても前述のような各種効果を確実に生じるのである。
【0022】
またこの実施形態においては、第2金型150に設けるフイルム非挟持部157が、複数(この実施形態では4つ)のキートップ表面部となる部分13全体の周囲を囲むスリット15の内側全体に対向する部分に設けられている。このように構成したので、スリット15を共用することで多数のキートップ表面部となる部分13を同一の合成樹脂フイルム10に小さいピッチで形成した場合であっても、各スリット15を容易且つ均一に広げることができる。
【0023】
次に図9に示すように、前記各キートップ表面部17を形成した合成樹脂フイルム10を、樹脂成形用の第3,第4金型200,250によって挟持する。このとき、接合した第3,第4金型200,250の間には、下記するキートップ30の形状と同一形状のキャビティーC1が形成される。従って前記合成樹脂フイルム10に形成された各キートップ表面部17は、キャビティーC1の内周上面及び内周側面部分に当接する。そして前記キャビティーC1に面する第4金型250の中央に設けた樹脂注入口251からキャビティーC1内(即ちキートップ表面部17下面の凹部18内)に溶融した合成樹脂を注入(この実施形態の場合は射出成形)し、前記注入した合成樹脂が固化した後に、前記第3,第4金型200,250を取り外す。注入する合成樹脂材料としては、例えば熱可塑性の合成樹脂であるABS樹脂やPC樹脂やPET樹脂やポリメチルメタアクリレート樹脂等を用いる。これによって図10に示すように、合成樹脂フイルム10のキートップ表面部17の裏面側の凹部18に合成樹脂からなるキートップ本体40を取り付けてなるフイルム付きのキートップ30が形成される。そして図10に示す各キートップ30の周囲の合成樹脂フイルム10をカットして取り除けば、図11に示すように個品化された複数の独立したキートップ30が得られる。
【0024】
図12,図13は前記キートップ30を用いて構成されるキートップ板50を示す図であり、図12はキートップ板50の一部を示す斜視図、図13は図12のC−C断面拡大図である。図12,図13に示すように、前記方法によって得られたキートップ30は、板状のシリコンゴム等からなるゴム状弾性板60上に、所定の間隔(ピッチ)で接着材等によって取り付けられる。ゴム状弾性板60の各キートップ30を取り付けた部分の下面には、それぞれ下方向に向かって突出する突状の押圧部61が設けられており、ゴム状弾性板60の下面側に設置される図示しないスイッチ基板に設置したスイッチ接点を押圧する。
【0025】
図14は本発明の他の実施形態に用いる合成樹脂フイルム10−2を示す要部斜視図であり、図1に示す合成樹脂フイルム10と同一部分を示している。また図15はこの合成樹脂フイルム10−2を用いてこの合成樹脂フイルム10−2にキートップ表面部17を形成する方法を示す図であり、図7に示すものと同一部分を示している。これらの図において、前記図1〜図13に示す実施形態と同一又は相当部分には同一符号を付す。なお以下で説明する事項以外の事項については、前記図1〜図13に示す実施形態と同じである。
【0026】
図14に示す合成樹脂フイルム10−2において、図1に示す合成樹脂フイルム10と相違する点は、スリット15−2の形状及びその設置位置のみである。即ち図14に示す合成樹脂フイルム10−2の場合は、スリット15−2は、キートップ表面部となる部分13の周囲を略矩形状に囲む4辺の各角部の位置にそれぞれ設けられており、その形状は各角部に合わせて直線を略直角に屈曲する形状に形成されている。従ってスリット15−2は、その位置に応じて、L字状の形状であったり、T字状の形状であったり、十字状の形状であったりする。このスリット15−2の場合も、合成樹脂フイルム10−2の複数あるキートップ表面部となる部分13の周囲に形成されるスリット15−2の内、隣り合うキートップ表面部となる部分13の間のスリット15−2は、これら隣り合うキートップ表面部となる部分13同士に共用された共用スリットとなっている。
【0027】
そして前記実施形態と同様にして、この合成樹脂フイルム10−2の各キートップ表面部となる部分13を前記図3に示す第1,第2金型100,150によって挟持して絞り加工(プレス加工)を行い、その後第1,第2金型100,150を取り外せば、図15に示すように、絞り加工された部分にキートップ表面部17が形成される。
【0028】
この絞り加工の際も、合成樹脂フイルム10−2の絞り加工される部分は引き延ばされるが、本実施形態においては、合成樹脂フイルム10−2の各キートップ表面部となる部分13の周囲にスリット15−2を設けているので、図15に示すように、前記絞り加工の際にスリット15−2はその面積が広がるように変形し、その分、キートップ表面部17にその周囲の合成樹脂フイルム10−2が引き込まれる。これによって合成樹脂フイルム10−2の絞り加工される部分は、その伸びる量が緩和され、このため従来、絞り加工によって合成樹脂フイルム10−2の引き延ばし量が限界を超えて合成樹脂フイルム10−2の上端辺の各角部19(最も合成樹脂フイルム10−2が延びる箇所)において透明な合成樹脂フイルム10−2が白濁したり、破断したりしていた寸法形状のキートップ表面部17であっても、本実施形態によればそのような問題は生じなくなる(又はこれら問題が大きく緩和される。)。なお隣り合うキートップ表面部となる部分13に共用されるスリット15−2は、絞り加工の際にその幅方向両側に広がり、両隣り合うキートップ表面部17にそれぞれ引き込まれる。
【0029】
さらにこの実施形態の場合も、第2金型150に設けたフイルム非挟持部157によって、合成樹脂フイルム10−2のスリット15−2に囲まれる内側部分が第1,第2金型100,150によって挟持されないので、合成樹脂フイルム10−2の材質が延び易くても延び難くても、絞り加工の際にキートップ表面部となる部分13の周囲のスリット15−2は容易且つ均一に広がり、上記効果が確実に実現できる。またこの実施形態においても、第2金型150に設けるフイルム非挟持部157を、複数(この実施形態では4つ)のキートップ表面部となる部分13全体の周囲を囲むスリット15−2の内側全体に対向する部分に設けたので、スリット15−2を共用することで多数のキートップ表面部となる部分13を同一の合成樹脂フイルム10−2に小さいピッチで形成した場合であっても、各スリット15−2を容易且つ均一に広げることができる。
【0030】
そして前記実施形態と同様にして、各キートップ表面部17を形成した合成樹脂フイルム10−2のキートップ表面部17の裏面側の凹部18内に合成樹脂を充填してなるキートップ本体40を取り付け、各キートップ30の周囲の合成樹脂フイルム10−2をカットして取り除けば、図11に示すと同一の個品化された複数の独立したキートップ30が得られる。このキートップ30を用いて前記図12,図13に示すキートップ板50を構成できることはいうまでもない。
【0031】
なお上記各実施形態においては、第1,第2金型100,150(図3参照)によって合成樹脂フイルム10のキートップ表面部17を、最終的なキートップ30の表面形状と同一形状(即ち100%)となるように絞り加工したが、前記絞り加工によるキートップ表面部17は必ずしも100%変形しておく必要はなく、場合によっては図16に示すように、100%に至らない形状まで絞り加工しても良い(図16の場合は70%程度)。この場合、図16に示すように、合成樹脂フイルム10を樹脂成形用の第3,第4金型200,250によって挟持した際、キートップ表面部17の上面が第3,第4金型200,250によって形成されるキャビティーC1の内周上面に当接しないで、両者間に隙間S1が生じる。しかしながらこの隙間S1は、樹脂注入口251からキャビティーC1内に注入される溶融した合成樹脂の熱と圧力によってキートップ表面部17が引き延ばされることによって、結局なくなってキートップ表面部17の上面はキャビティーC1の内周上面に当接する。この引き延ばし工程においても、さらにスリット15が広がるように変形することで、その分、キートップ表面部17にその周囲の合成樹脂フイルム10が引き込まれ、この絞り加工によって合成樹脂フイルム10が白濁したり、破断したりする等の問題は生じない(又はこれら問題が大きく緩和される。)。溶融成形樹脂が固化した後に第3,第4金型200,250を取り外せば、図10に示すと同じキートップ30が形成される。
【0032】
また実験によれば、前記合成樹脂フイルム10に絞り加工によって形成するキートップ表面部17の形状を最終的なキートップ30の表面形状と同一形状以上(100%以上)の高さの形状に絞る実験を行ったが、このとき絞った後の形状は少し戻り(低くなり)、100%になった。その理由は絞り加工の際に広がったスリット15,15−2の弾力によって前記絞られた合成樹脂フイルム10が底面側に少し戻される自由度が生じているのが原因と考えられる。従ってこのようにしてキートップ表面部17を絞り加工しても良い。
【0033】
なお上記実施形態のように、合成樹脂フイルム10に形成するキートップ表面部17を略矩形状に形成する場合は、上記図1に示す実施形態のように、スリット15は、キートップ表面部となる部分13を矩形状に囲む4辺にそれぞれ設けることが好ましい。これは本願発明者が行った実験において、図1に示す合成樹脂フイルム10と、図14に示す合成樹脂フイルム10−2とを用いて、同一条件で図7,図15に示すような矩形状のキートップ表面部17を形成し、その際のキートップ表面部17の高さを変えていった際に、図1に示す合成樹脂フイルム10の方が、より高い高さまでキートップ表面部17に白濁や破断等が生じなかったからである。即ち図1に示す構造のスリット15の方が、よりキートップ表面部17に周囲の部分を引き込み易いことが分かった。
【0034】
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。なお直接明細書及び図面に記載のない何れの形状・構造・材質であっても、本願発明の作用・効果を奏する以上、本願発明の技術的思想の範囲内である。例えば上記実施形態ではキートップ30の形状を矩形状としたが、小判形や楕円形や円形や菱形等、他の各種形状であってもよい。またスリット15,15−2の形状も直線や直線を直角に屈曲した形状に限定されず、他の種々の形状(例えば円形、楕円形、台形、その他の各種多角形等)であっても良く、要は絞り加工の際にスリットの面積を広げるように変形する形状であれば、どのような形状であっても良い。またスリットは必ずしもキートップ表面部となる部分13の周囲全体にわたって設けなくても良く、場合によってはキートップ表面部となる部分13の周囲の一部分のみに設けても良い。また上記実施形態では複数(4つ)のキートップ表示部となる部分13全体の周囲を囲むスリット15の内側全体に対向する部分に第2金型150のフイルム非挟持部157を設けたが、フイルム非挟持部157は1つずつのキートップ表示部となる部分13の周囲を囲むスリット15の内側に対向する部分毎に設けても良い。
【0035】
また上記実施形態では合成樹脂フイルム10に絞り加工によって形成したキートップ表面部17の裏面の凹部18に合成樹脂を充填してフイルム付きのキートップ30を構成したが、さらに前記充填した合成樹脂(キートップ本体40)の下面側にも別の合成樹脂フイルムを取り付けることで、合成樹脂を上下の合成樹脂フイルムで覆うような構成のフイルム付きのキートップとしても良い。また上記実施形態では合成樹脂フイルム10に形成した複数のキートップ表面部17(キートップ30)をそれぞれ切断により独立させて個品化したが、場合によっては合成樹脂フイルムにこれら複数のキートップ表面部17(キートップ30)を取り付けたまま使用しても良い。また上記実施形態では絞り加工によって形成したキートップ表面部17の裏面の凹部18に合成樹脂を充填したが、その代りにシリコンゴムや天然ゴムや合成ゴム等からなる各種のゴム状弾性材を充填しても良い。また充填する合成樹脂としては、熱可塑性合成樹脂の他に、熱硬化性合成樹脂でも良く、また光硬化性合成樹脂でも良い。
【0036】
また上記実施形態では合成樹脂フイルム10にキートップ表面部17を形成する絞り加工方法の一例として、第1,第2金型100,150にそれぞれキートップ表面部17と同一形状の凹部101及びパンチ151を設けて加工する方法を示したが、その代りの絞り加工方法として、第2金型150自体に固定された凸部(図19の凸部651と同様の構成)を設け、第1,第2金型100,150で合成樹脂フイルム10を挟持した際に同時に凸部を第1金型100の凹部101に挿入してキートップ表面部17を形成する方法や、真空成形用の金型に予め加熱軟化させた合成樹脂フイルム10をセットしこの金型に設けた排気孔から排気を行い軟化している合成樹脂フイルム10を金型の表面に押し付けて成形する真空成形方法や、圧空成形用の金型に予め加熱軟化させた合成樹脂フイルム10をセットしこの金型に設けた空気孔から成形用の圧空を印加し軟化している合成樹脂フイルム10を金型の表面に押し付けて成形する圧空成形方法や、1つの金型で圧空成形と真空成形とを同時に行う圧空真空成形方法等を用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】合成樹脂フイルム10の一例を示す要部斜視図である。
【図2】図1のA−A断面拡大図である。
【図3】キートップ表面部17を形成する方法を示す図である。
【図4】キートップ表面部17を形成する方法を示す図である。
【図5】キートップ表面部17を形成する方法を示す図である。
【図6】キートップ表面部17を形成する方法を示す図である。
【図7】キートップ表面部17を形成する方法を示す図である。
【図8】キートップ表面部17を形成する方法を示す図である。
【図9】キートップ30を形成する方法を示す図である。
【図10】キートップ30を形成する方法を示す図である。
【図11】キートップ3の概略断面拡大図である。
【図12】キートップ30を用いたキートップ板50の一部を示す斜視図である。
【図13】図12のC−C断面拡大図である。
【図14】合成樹脂フイルム10−2の要部斜視図である。
【図15】キートップ表面部17を形成する方法を示す図である。
【図16】キートップ30の他の形成方法を示す図である。
【図17】フイルム付きのキートップ500を示す斜視図である。
【図18】図17のG−G断面拡大図である。
【図19】合成樹脂フイルム501の絞り加工の方法を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
10 合成樹脂フイルム
13 キートップ表面部となる部分
15 スリット
17 キートップ表面部
18 凹部
30 キートップ(フイルム付きのキートップ)
40 キートップ本体
50 キートップ板
60 ゴム状弾性板
100 第1金型
101 凹部
150 第2金型
151 パンチ
155 凸部
157 フイルム非挟持部
159 フイルム挟持部
10−2 合成樹脂フイルム
15−2 スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1,第2金型によって合成樹脂フイルムを挟持した際に第1金型に設けた凹部に第2金型に設けた凸部を挿入し、これによって前記合成樹脂フイルムを絞り加工して所望のキートップ表面部を形成するキートップ表面部形成方法において、
前記絞り加工する前の合成樹脂フイルムの前記キートップ表面部となる部分の周囲に予めスリットを設けておき、
一方前記第2金型の凸部の周囲の第1金型側を向く面に凸部の周囲から少なくとも前記合成樹脂フイルムのスリットに対向する位置に至る凹状のフイルム非挟持部を設け、
前記絞り加工の際にスリットの面積を広げるように変形させてキートップ表面部にその周囲の合成樹脂フイルムを引き込ませることを特徴とするキートップ表面部形成方法。
【請求項2】
請求項1に記載のキートップ表面部形成方法において、
前記合成樹脂フイルムに形成されるキートップ表面部は複数あり、
前記合成樹脂フイルムの前記キートップ表面部となる部分の周囲に形成されるスリットの内、隣り合うキートップ表面部となる部分の間のスリットは共用され、
さらに前記第2金型のフイルム非挟持部は、前記複数のキートップ表示部となる部分全体の周囲を囲むスリットの内側全体に対向する部分に設けられていることを特徴とするキートップ表面部形成方法。
【請求項3】
第1,第2金型によって合成樹脂フイルムを挟持した際に第1金型に設けた凹部に第2金型に設けた凸部を挿入し、これによって前記合成樹脂フイルムを絞り加工して所望のキートップ表面部を形成すると共に、このキートップ表面部の裏面側の凹部に合成樹脂又はゴム状弾性材を充填することでフイルム付きのキートップを形成するキートップ形成方法において、
前記絞り加工する前の合成樹脂フイルムの前記キートップ表面部となる部分の周囲に予めスリットを設けておき、
一方前記第2金型の凸部の周囲の第1金型側を向く面に凸部の周囲から少なくとも前記合成樹脂フイルムのスリットに対向する位置に至る凹状のフイルム非挟持部を設け、
前記絞り加工の際にスリットの面積を広げるように変形させてキートップ表面部にその周囲の合成樹脂フイルムを引き込ませることを特徴とするキートップ形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2010−146935(P2010−146935A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−325266(P2008−325266)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000215833)帝国通信工業株式会社 (262)
【Fターム(参考)】