説明

キーパッドの製造方法

【課題】キートップ部材が最終工程まで一体的に保持させて作業性の向上を図る。
【解決手段】樹脂フィルムを複数のキートップの最終配置に合うように一体的に成形する工程(ステップS1)と、その成形された樹脂フィルムと複数のキートップコアとを一体化して、キートップ部材が連接した状態のキートップ部材体を作製する工程(ステップS2)と、キートップ部材の連接状態を保持したまま、隣接するキートップ部材の境界部分における樹脂フィルムを一部残すように切り込みを入れる工程(ステップS3)と、キートップ部材体とベース部材とを付着させる工程(ステップS4)と、その付着後、ベース部材の下に、各キートップ部材を下方に押圧可能とする治具を置き、各キートップ部材の上方から押圧して、各キートップ部材を完全に切り離す工程(ステップS5)とを有するキーパッドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体通信機器、デジタルカメラ、電子手帳、車載用パネルスイッチ類、リモコン、キーボード等に用いられるキーパッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話や自動車電話等の移動体通信機器、デジタルカメラ、家庭用電話機、ファクシミリ、電子手帳、計測機器類、車載用パネルスイッチ類、リモコン、コントローラ、キーボード等に、複数のキートップ部材を有するキーパッドが多用されている。従来から、キートップ部材を2部材以上に分けて製造し、外形をカットした後にベース部材に貼り合わせている。
【0003】
しかし、複数のキートップ部材を2部材以上に分けて作製するためには、当該作製用の金型を複数用意する必要がある。また、2部材以上のキートップ部材をベース部材に貼り付ける作業は極めて煩雑であり、かつ正確な配置が困難であるため、製品の歩留まりも低下する。
【0004】
かかる課題に鑑みて、キートップコアの表面を被覆している熱可塑性フィルムを、複数のキートップコアの最終配置に合う形態で複数のキートップ群の単位で成形し、最後に各キートップ部材を完全に切り離す技術が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
【特許文献1】特開2004−253290号公報(特許請求の範囲、要約書等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述の従来技術に対して、さらなる改善が要望されている。具体的には、一つあるいは複数のキートップ群の単位で成形された熱可塑性フィルムを用意して、最後にキートップ部材の完全な切り離しを行う際に、各キートップ部材を完全に切り離すことができたかどうかを確認してキーパッドの信頼性を高めることが要望されている。各キートップ部材単位で作製すれば、キートップ部材の完全分離を確認する必要はないが、前述のように、工程の煩雑さと歩留まりの低下を招く危険性がある。また、キートップ部材を連接して作製し、最後に目視検査にて各キートップ部材の完全分離を確認することも考えられるが、検査技術者によるばらつきが生じる他、キートップ部材の間隔がさらに狭くなってきている現状では、その検査手法による適切な対応は困難である。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであって、狭間配置のキートップ部材の位置精度を高めると共に、キートップ部材が最終工程まで一体的に保持させて作業性の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、ベース部材の上に、樹脂製のキートップコアの一部または全部を樹脂フィルムで被覆する複数のキートップ部材を配設してなるキーパッドの製造方法であって、樹脂フィルムを複数のキートップの最終配置に合うように一体的に成形する工程と、その成形された樹脂フィルムと複数のキートップコアとを一体化して、キートップ部材が連接した状態のキートップ部材体を作製する工程と、キートップ部材の連接状態を保持したまま、隣接するキートップ部材の境界部分における樹脂フィルムを一部残すように切り込みを入れる工程と、キートップ部材体とベース部材とを付着させる工程と、当該付着後、ベース部材の下に、各キートップ部材を下方に押圧可能とする治具を置き、各キートップ部材の上方から押圧して、各キートップ部材を完全に切り離す工程とを有するキーパッドの製造方法としている。
【0008】
ここで、「ベース部材」は、キートップ部材を固定配列する部材をいい、後述のELシート、押圧子を有するエラストマーシートも含むように広義に解釈される。また、「キートップ部材」は、少なくともキートップコアの表面が樹脂フィルムで被覆されている部材をいい、被覆領域がキートップコアの一部であるか全部であるかを問わない。
【0009】
このため、切り込みを入れる工程では、各キートップ部材は樹脂フィルムの一部で連接されており、各キートップ部材は、1つのキートップ部材体として次の工程に移行する。このため、工程の煩雑化を解消し、歩留まりも高まる。また、その後の工程で、各キートップ部材を押圧して完全に切り離すようにしている。この切り離しは、キートップ部材の正常な押圧によって確認できる。具体的には、押圧感、完全分離時の分離音、下方に発光手段を配置した場合には発光によって確認できる。なお、切り込みを入れる工程と、キートップ部材体とベース部材とを付着させる工程とは、いずれを先に行っても良い。
【0010】
樹脂フィルムは、汎用性、透明性、成形性、表面硬度およびコストを考慮すると、熱可塑性樹脂の一例であるアクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、非結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂等が望ましく、特にアクリル系樹脂がより好ましい。なお、これらの樹脂は、アロイも含まれるように広義に解釈されるものとする。また、熱可塑性樹脂以外の樹脂からなるフィルムを採用しても良い。
【0011】
また、キートップコアの材料としては、紫外線硬化型樹脂が好ましい。紫外線硬化型樹脂を用いる場合には、予備成形された樹脂フィルムの凹部にキートップコアとなる当該樹脂を注入してから、紫外線を照射して硬化させる。紫外線硬化型樹脂の注入に際しては高圧をかけずに行うことができるので、樹脂フィルムへのダメージが少ない。紫外線硬化型樹脂としては、ジアゾ樹脂とポリマーとからなる樹脂が挙げられる。ジアゾ樹脂としては、芳香族ジアゾニウム塩と活性カルボニル化合物またはエーテルとの縮合物が用いられる。また、ポリマーは、酸性基を有するものが好ましい。酸性基としては、カルボキシル基またはフェノール性ヒドロキシル基が好ましい。カルボキシルを有するポリマーとしては、不飽和脂肪酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸)のポリマーまたはコポリマーが挙げられる。
【0012】
また、キートップコアの材料として、熱可塑性樹脂を用いても良く、その場合、キートップコアは、通常、射出成形で形成される。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合樹脂、アクリロニトリルスチレン共重合樹脂、メタクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、GF強化ポリエチレンテレフタレート、超高分子量ポリエチレン、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、フッ素樹脂、液晶性ポリマー、ポリアミノビスマレイミド、ポリビスアミドトリアゾール等が挙げられる。
【0013】
また、別の本発明は、先の発明において、切り込みを入れる工程では、各キートップ部材の1つまたは複数の角を残すように切り込みを入れるキーパッドの製造方法としている。熱可塑性フィルムにおいて残される一部は、キートップ部材の周囲のいずれであっても良いが、キートップ部材の角とすることにより、その後の完全分離が容易になる。また、切り込みされない部分の数は、キートップ部材の形状にも依存する。例えば、略長方形のキートップ部材であれば、4つ角の内の1つのみとしたり、対向する2つの角としたりできる。また、三角形あるいは五角形以上のキートップ部材であれば、1からその総角数より1つ以上少ない数(三角形であれば1つ若しくは2つ、五角形であれば1〜4つ)の角を残すように切り込みを入れることができる。切り込みは、彫刻刀やビク刀等の刃物を用いて形成したり、レーザ等によって形成しても良い。
【0014】
また、別の本発明は、先の各発明において、切り込みを入れる工程では、レーザを用いて切り込みを入れるキーパッドの製造方法としている。このようにレーザを用いて切り込みを入れるようにしているので、切り込みの幅を極めて狭く、かつ均一の幅および深さで切り込むことができる。さらに、レーザの出力、ビーム径あるいはビームスキャンスピード等の条件を変えることにより、切り込みの幅と深さを正確に変えることもできる。レーザ加工装置の好適な例としては、炭酸ガスレーザ加工装置、YAGレーザ加工装置、エキシマレーザ加工装置が挙げられる。
【0015】
また、別の本発明は、先の各発明において、切り込みを入れる工程において、同じルートに対して複数回行うキーパッドの製造方法としている。このため、一回の切り込みを行う場合と比べて、熱可塑性フィルムの下方にまで切り込みを入れすぎる危険性を低減できる。すなわち、一度の切り込み操作だけを行う場合には、深さを正確に制御しないと、切り込みが不十分であったり、あるいは切り込みが深すぎたりする危険性がある。しかし、複数回で所定の深さの切り込みを行う場合には、そのような危険性を低減できる。また、一部を残して切り込みを行うので、複数回、同じルートを切り込むようにすれば、残す部分まで切り込みを入れてしまっても、完全に当該残す一部を分断してしまうことはない。
【0016】
また、別の本発明は、先の各発明において、切り込みを入れる工程を、境界部分の一部に対して凹部を形成し、当該一部以外の境界部分に対して、上記一部に対して入れる凹部よりも深く切り込みを入れる工程とするキーパッドの製造方法としている。このように、境界部分の一部に、切り込みには至らない凹部を形成すると、当該一部の厚さがより薄くなるので、各キートップ部材を切り離す工程において、より容易に、各キートップ部材を切り離すことができる。例えば、レーザを用いて切り込みを入れる場合、当該一部だけを残すように同じ経路をN−1回走査し、N回目は当該一部も含めた各キートップ部材同士の境界部分を走査すると良い。すると、N回走査した経路では貫通した切り込みが入り、N−1回しか走査しなかった当該一部では、切り込みには至らない凹部だけが形成される。なお、当該一部とそれ以外の境界部分とのレーザ走査回数の差は、1ではなく、2以上としても良い。
【0017】
また、別の本発明は、先の各発明のベース部材とキートップ部材体とを付着する工程において、ベース部材とキートップ部材体との間に、あるいはベース部材として発光手段を配置するキーパッドの製造方法としている。このため、各キートップ部材の押圧により当該キートップ部材が発光する機能を持たせることができる。ここで、発光手段には、発光ダイオード(Light Emitting Diode: LED), エレクトロルミネセンス(Electroluminescence: EL)素子を含むあらゆる発光体が含まれる。
【0018】
また、別の本発明は、先の各発明において、発光手段をエレクトロルミネセンス素子としたキーパッドの製造方法としている。EL素子は、薄膜のフィルム等からなるベース基材に、ITOや導電性ポリマーからなる透明電極、硫化亜鉛等の無機蛍光体粉をバインダー中に分散させた発光層、チタン酸バリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム等の誘電率の高いフィラーをバインダー中に分散させた誘電体層、カーボンや銀からなる対向電極の順に積層され、ELシートとして形成される。このように形成されたEL素子は、透明電極と対向電極の間に交流電圧を印加することにより、蛍光体が励起され発光層から発光する。このように、エレクトロルミネセンス(Electroluminescence: EL)素子は、薄膜状のEL発光体に電圧をかけて発光させるものなので、極めて薄い構成部材にできる。このため、キートップ部材の直下に発光手段として配置できる。したがって、キートップ部材の完全分離を発光をもって確認することも可能となる。EL素子は、無機EL素子の他、ジアミン類等の有機物を薄い基板等に蒸着させ、電圧をかけて発光させる有機EL素子でも良い。
【0019】
また、別の本発明は、先の各発明において、押圧可能とする治具を、発光手段の点灯を確認するための装置とし、切り離す工程を、各キートップ部材の完全な切り離しと同時に点灯の確認を行う工程とするキーパッドの製造方法としている。このため、各キートップ部材の完全な切り離しを、発光手段の点灯をもって確認できる。したがって、切り離しの確認がより容易となる。しかも、各キートップ部材の押圧による点灯検査も兼ねることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のキーパッドの製造方法によれば、狭間配置のキートップ部材の位置精度を高めると共に、キートップ部材が最終工程まで一体的に保持させて作業性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係るキーパッドの製造方法の実施の形態について詳述する。
【0022】
図1は、キーパッド1の平面図である。また、図2は、図1に示すキーパッド1をA−A線で切ったときの断面図である。
【0023】
図1および図2に示すように、キーパッド1は、複数のキートップ部材2と、当該キートップ部材2の下方に配置されるベース部材3と、キートップ部材2とベース部材3との間に配置される発光手段の一形態であるEL素子5とから、主に構成されている。キートップ部材2とEL素子5との間、あるいはEL素子5とベース部材3との間は、図示されない接着剤または粘着材等を用いて固定されている。EL素子5は、フィルム等の薄い可撓性を有する材料上に構成されている。
【0024】
図2に示すように、キートップ部材2は、樹脂製のキートップコア21と、当該キートップコア21の下面を残すように覆う熱可塑性フィルム(樹脂フィルムの一形態)22とから、主に構成されている。熱可塑性フィルム22は、キートップコア21と一体化される前には、キートップ部材2の最終配置形態に合うように一体的に成形されていたフィルムである。キーパッド1の工程の後期に、各熱可塑性フィルム22は、隣接するキートップ部材2の隙間がd(mm)となるように完全に切り離される。この切り離しにより、キートップ部材2の周囲にフランジ22aが形成される。フランジ22aは、キーパッド1の上から被せるケース体の穴から各キートップ部材2が飛び出さないようにするための、いわゆるストッパの機能を有する。キートップ部材2の完全な切り離しに先立ち、キートップ部材2の隙間は、一部を残すように切り込みが入れられる。その状態では、キートップ部材2は一体のまま工程を流れる。なお、キートップコア21の下面まで樹脂フィルムで被覆するようにしても良い。
【0025】
ベース部材3は、キートップ部材2を載置する凸部31と、当該凸部31と反対の面にあるボス32とを備えている。ボス32は、キートップ部材2の押し込みによって、ベース部材3の下方に配置される電気スイッチをオンあるいはオフにするための構成部である。ベース部材3は、その上方から各キートップ部材2の押圧によって対応するボス32を下方に移動させることができる程度に軟らかい材料、例えばゴムを基材とする材料でできている。
【0026】
図3は、キーパッド1の製造工程の主な流れを示すフローチャートである。また、図4〜図14は、各工程の状況およびレーザ加工装置を模式的に示す図である。
【0027】
キーパッド1の製造工程は、熱可塑性フィルム22を一体的に成形する工程(ステップS1)と、キートップコア21と熱可塑性フィルム22の一体化の工程(ステップS2)と、キートップ部材2の周囲に、一部を残すように切り込みを入れる工程(ステップS3)と、キートップ部材2の連接を保持した状態のキートップ部材体とベース部材3とを接着する工程(ステップS4)と、キートップ部材体から各キートップ部材2を完全に切り離す工程(ステップS5)とを有する。図4はステップS1の工程を示し、図5〜図7はステップS2の工程を示し、図8〜図11はステップS3の工程を示し、図12および図13はステップS4およびステップS5の工程を示す。なお、ステップS3とステップS4とを逆順にしても良い。以下、図4〜図14に基づいて、キーパッド1の製造工程を詳述する。
【0028】
ステップS1では、図4に示すように、金型40を用いて熱可塑性フィルム22の一体的な成形が行われる。各キートップ部材2の最終配置状態に合った形態に熱可塑性フィルム22を一体的に成形するには、キートップ形状に合った凹凸を有する金型40が用いられる。本実施の形態では、熱可塑性フィルム22としてアクリル系樹脂を用いている。当該アクリル系樹脂には、アクリル成分が含まれているアロイも含まれる。また、成形には圧空成形を採用している。具体的には、熱可塑性フィルム22を一度、加熱軟化させて、圧縮空気により金型40に密着させて、所定の形状に延伸して成形している。
【0029】
成形後の熱可塑性フィルム22の厚さとしては50〜350ミクロンの範囲とするのが好ましい。50ミクロン以上の厚さとすると、フィルム表面に絵柄を形成したりハンドリングしやすくなり、350ミクロン以下とすると微細な凹凸に対応した成形がしやすくなる。なお、圧空成形以外に、真空成形あるいは圧空真空成形といった他の成形方法も採用できる。真空成形は、熱可塑性フィルム22を、一度、加熱軟化させて、金型40側からの真空吸引による圧力差により金型40に密着させて、所定の形状に延伸して成形する方法である。また、圧空真空成形とは、上述の圧空と真空とを併用して熱可塑性フィルム22を金型40に沿わせて延伸して成形する方法である。
【0030】
ステップS1の工程により熱可塑性フィルム22の成形が完了すると、ステップS2に移行する。ステップS2では、キートップコア21と熱可塑性フィルム22との一体化が行われる。成形後の熱可塑性フィルム22の凸部22bを治具51の凹部51aに合うようにセットし、熱可塑性フィルム22の凸部22bの裏側に形成された凹部に紫外線硬化型樹脂を入れる。
【0031】
次に、紫外線ランプ52等を用いて紫外線硬化型樹脂に紫外線を照射すると、当該樹脂の架橋が生じて硬化する。治具51内は、図6に示すような状態となる。次に、治具51から成形物を分離すると、図7に示すように、熱可塑性フィルム22と、紫外線硬化型樹脂製のキートップコア21とが一体となったキートップ部材体10ができる。この状態では、キートップ部材2が連接している。このように、紫外線硬化型樹脂をキートップコア21の材料に用いることにより、次のような効果が得られる。すなわち、熱可塑性フィルム22とキートップコア21とをほぼ無加圧で一体化できるので、熱可塑性フィルム22が極薄の場合でも、破れる危険性が低い。また、キートップコア21の下面に凹凸が形成されないので、EL素子5上、あるいはEL素子5とキートップコア21との間に樹脂製のフィルムが存在する場合には当該樹脂製のフィルム上に、キートップコア21を平らに配置できる。さらに、紫外線硬化型樹脂の硬化速度が比較的速いので、キートップ部材体10の作製時間を短縮できる。
【0032】
なお、ステップS2の工程は、次のような工程であっても良い。一体的に成形された熱可塑性フィルム22の凸部22bの裏側に形成された凹部に熱可塑性樹脂を射出し、冷却して当該樹脂を硬化させる。また、熱可塑性フィルム22の前記凹部に、予め成形しておいた各キートップコア21を接着することもできる。
【0033】
さらに、熱可塑性フィルム22とキートップコア21との間に、別の熱可塑性フィルムを介在させることもできる。熱可塑性フィルム22に絵柄などを形成した場合、そこに直接、キートップコア21となる樹脂が接触すると絵柄等が壊れる危険性がある。かかる危険性がある場合には、絵柄等を保護するための熱可塑性フィルムを介在させるのが好ましい。
【0034】
ステップS2の工程により熱可塑性フィルム22とキートップコア21との一体化が完了すると、ステップS3へと移行する。ステップS3では、図8に示すキートップ部材体10の各キートップ部材2の周囲に、一部分を残して切り込み60が入れられる。図8では、キートップ部材体10の下半分の領域にあるキートップ部材2(すなわち、数字の「1」〜「9」、「*」、数字の「0」および「#」の合計12個のキートップ部材2)にのみ切り込み60を入れた状態が示されている。
【0035】
図8においてA(A1〜A12)で示される各キートップ部材2の角の所定部分だけを残して切り込み60が入れられているので、キートップ部材体10は、各キートップ部材2を連接した状態を維持している。したがって、その後の工程において、キートップ部材体10の単位で作業できる。
【0036】
図8に示すような切り込み60を入れると、数字の「1」から「9」、「*」、数字の「0」、「#」の順にキートップ部材2を下方に押すと、1個のキートップ部材2について1個の連接点だけを切り離しながら、キートップ部材2を順に切り離していくことができる。最初に、数字の「1」のキートップ部材2は、点A1の連接部でのみキートップ部材体10に連接されている。数字の「1」のキートップ部材2を押すと、点A1の連接部が切れて、当該キートップ部材2は完全に切り離される。次に、数字の「2」のキートップ部材2は、点A2の連接部でのみキートップ部材体10に連接されている。数字の「2」のキートップ部材2を押すと、点A2の連接部が切れて、当該キートップ部材2は完全に切り離される。続いて、数字の「3」のキートップ部材2は、点A2の連接部が既に切れているので、点A3の連接部でのみキートップ部材体10に連接されている。数字の「3」のキートップ部材2を押すと、点A3の連接部が切れて、当該キートップ部材2は完全に切り離される。
【0037】
このように、順にキートップ部材2を押していくと、1個の連接部を切りながら、各キートップ部材2を完全に切り離すことができる。連接部の幅Wは、キートップ部材2の押し下げの深さ、材質等によって適宜選択できるが、この実施の形態では、1.0mm以下となるようにしている。連接部が少ない場合には、キートップ部材2の押し下げの抵抗が小さいので、幅Wを大きくしても良い。一方、連接部が多い場合には、キートップ部材2の押し下げの抵抗が大きいので、幅Wを小さくすると良い。
【0038】
切り込み60は、図8に示す経路のみならず、種々変更可能である。図9に、図8に示す経路の切り込み60(A)の他、別の経路の例(B)および(C)を示す。
【0039】
図9(B)に示す切り込み60は、図8で説明した順にキートップ部材2を押し込んでいくと2つまたは1つの連接部を切って各キートップ部材2を完全分離できる形態となっている。最初に、数字の「1」のキートップ部材2は、点B1および点B2の両連接部でキートップ部材体10に連接されている。数字の「1」のキートップ部材2を押すと、点B1および点B2の両連接部が切れて、当該キートップ部材2は完全に切り離される。次に、数字の「2」のキートップ部材2は、点B3および点B4の両連接部でキートップ部材体10に連接されている。数字の「2」のキートップ部材2を押すと、点B3および点B4の両連接部が切れて、当該キートップ部材2は完全に切り離される。続いて、数字の「3」のキートップ部材2は、点B4の連接部が既に切れているので、点B5および点B6の両連接部でキートップ部材体10に連接されている。数字の「3」のキートップ部材2を押すと、点B5および点B6の両連接部が切れて、当該キートップ部材2は完全に切り離される。以後、数字の「4」以降のキートップ部材2は、それぞれ、点B7、点B8、点B9、点B10、点B11、点B12、点B13、点B14、点B15の各1個の連接部でのみキートップ部材体10に連接されている。したがって、1個ずつ連接部を切りながら各キートップ部材2を完全分離することができる。
【0040】
また、図9(C)は、さらに多くの連接部(点C1〜点C26)を残した切り込み60の例を示す。各キートップ部材2の押し込みにより切り離す箇所は、図9(A)および図9(B)に示す各切り込み60の例に比べて多いが、工程の途中でキートップ部材体10からキートップ部材2を確実に脱離させないようにするために、図9(C)に示すような切り込み60を採用しても良い。
【0041】
図10は、キートップ部材体10の側面拡大図である。
【0042】
隣接するキートップ部材2を連接している熱可塑性フィルム22の部分の厚さは、約0.3mm(約300ミクロン)である。このため、切り込み60の入っていない連接部も約300ミクロンの厚さとなる。このように、切り込み60の入っていない連接部を薄くしているので、各キートップ部材2の上方から押圧するだけで、連接部を切り離すことができる。
【0043】
本実施の形態では、連接部には一切、切り込み60を入れていない。しかし、連接部に凹部を形成しても良い。例えば、本実施の形態では、レーザビームを同じ経路上で3回走査して、切り込み60を形成しているが、かかる走査方法を採用せずに、連接部だけを残すように同じ経路を2回走査し、残りの1回は連接部も含めた各キートップ部材の周囲を走査することもできる。すると、3回走査した経路では貫通した切り込み60が入り、1回しか走査しなかった連接部では、切り込みには至らない凹部だけが形成される。すると、連接部の厚さがより薄くなるので、各キートップ部材2を切り離す工程において、より容易に、各キートップ部材2を切り離すことができる。
【0044】
図11は、一部の連接部を残して切り込み60を形成するために用いられる炭酸ガスレーザ加工装置70の構成を示す図である。
【0045】
炭酸ガスレーザ加工装置70は、管71に枝管72,73をジョイントした構造を有している。管71の内部には、炭酸ガスと窒素ガスとヘリウムガスの混合気体が導入される。枝管72および枝管73の各内部には、それぞれ冷陰極74および電極75が配置されている。冷陰極74および電極75には、電源76が接続されている。一方、管71の両端には、全反射ミラー77および反射ミラー78が配置されている。さらに、反射ミラー78の外側には、出力窓79があけられている。
【0046】
冷陰極74から電子が放出されると、当該電子は、陽極である電極75に引かれて管71の内部に入る。すると、電子は、管71に予め導入されていた混合ガスに衝突する。混合ガス中の炭酸ガス分子は、1個の炭素と2個の炭素から構成されている。各元素同士の結合は、安定点を中心に3つのモードで振動しており、そのレベル間でレーザ発振を起こす。すなわち、炭酸ガスレーザの場合には、原子自体は基底状態のままで結合エネルギーのレベル差を利用して振動励起され、レーザが発振される。したがって、エネルギー差は小さく、発振波長10.6ミクロンを主とする遠赤外線が発振される。
【0047】
なお、窒素の励起レベルは炭酸ガスのレーザを発振する上位レベルよりわずかに高く、効率の良いエネルギー交換が行われる。また、ヘリウムは、炭酸ガスの010準位をこわし、下位レベルを減らす作用がある。このため、窒素ガスとヘリウムガスは、共に、レーザの変換効率を上げる作用がある。
【0048】
発振されたレーザは、図11の両矢印で示すように、管71の両端に配置された全反射ミラー77と反射ミラー78との間で往復し増幅される。そして、その一部が反射ミラー78側に開けられた出力窓79から出力される。出力窓79の外方向には、レーザを反射する反射鏡80が配置されている。反射鏡80は、その角度を可変に構成されている。このため、出力窓79から出力された赤外線レーザは、反射鏡80で反射されて、キートップ部材体10に照射される。
【0049】
反射鏡80は、所定の立体角の範囲で動作可能であるため、赤外線レーザはキートップ部材体10を構成する熱可塑性フィルム22の表面でX−Y方向自在に焦点を合わせることができる。炭酸ガスレーザ加工装置70とパーソナルコンピュータ(不図示)を接続することによって、CADデータに基づいて反射鏡80の傾斜を制御しながら切り込み60を形成することができる。このように、反射鏡80の傾斜を制御してレーザの焦点を移動自在とする方式を、「ガルバノ方式」という。ガルバノ方式で切り込み60を形成すると、曲線の切り込み60を容易に形成することができる。
【0050】
本実施の形態では、レーザ出力21W、レーザスキャンスピード220mm/sec、レーザビーム径φ0.1mmの加工条件を採用している。レーザビーム径をφ0.1mmとすることにより、約0.2〜0.3mm幅の切り込み60を形成することができる。切り込み60を入れるための望ましい出力は21Wであり、レーザスキャンスピード(レーザの走査速度)は220mm/secである。
【0051】
ステップS3が終わると、次に、ステップS4およびステップS5へと移行する。図12に示すように、キートップ部材体10は、EL素子5を挟んで、ベース部材3の凸部31に接着される。EL素子5は薄くかつ加撓性を有し、ベース部材3もゴムを基材としているので、各キートップ部材2毎に下方に押し込み可能となる。図12の点線Aで示すように、キートップ部材体10は、押し込み動作によって、一部の連接部を切断して各キートップ部材2の単位に完全に切り離される。
【0052】
図13は、キートップ部材2の切り離しをEL素子5の発光によって確認する方法を説明するための図である。なお、用いたキートップ部材体10は、EL素子5がベース部材3を兼ねているタイプのものである。
【0053】
各キートップ部材2の押し込み動作は、好適には、EL素子5の下方に、図13に示すようなEL点灯試験用治具90を配置して行われる。EL点灯試験用治具90は、各キートップ部材2の下方に、押圧を鉛直下方に伝える凸部91を備えている。凸部91の下方には、バネ部材92が配置されている。バネ部材92の下方には、EL素子5に電圧をかけるためのスイッチ(不図示)が配置されている。当該スイッチは、EL素子5の両電極と電気的に接続される。かかる構成の下、各キートップ部材2を押すと、連接部を切り離すと同時に、EL素子5を発光させることができるので、各キートップ部材2自体の発光をもって、当該キートップ部材2の完全分離を確認できる。
【0054】
図14は、キーパッド1におけるキートップ部材2の1つを完全に切り離した直後に、そのキートップ部材2の周囲が光る様子を示す図である。
【0055】
図14に示すように、「1」のキートップ部材2を押し込むと連接部が切れて、その押圧によってスイッチがオンとなり、当該押圧の時のみEL素子5が発光する。この結果、各キートップ部材2同士の隙間95が光って見える。したがって、「1」のキートップ部材2の連接部が切れて全周に隙間が存在する状態になったか否かを容易に確認することができる。
【0056】
なお、本発明は、上述の実施の形態に限定されることなく、種々の実施の形態にて実施可能である。
【0057】
例えば、切り込み60の幅は、0.2〜0.3mmに限定されず、キーパッド1の仕様に応じて幅を、0.2mm未満まで狭くしたり、あるいは0.3mmより広くしたりすることができる。また、切り込み60の形成は、レーザ加工によらず、工作機械を用いた切削加工によるものでも良い。
【0058】
また、各キートップ部材2の切り離しに際して、EL素子5の下方にEL点灯試験用治具90を配置せずに、各キートップ部材2毎に押圧可能とするだけの治具を用いるようにしても良い。さらに、EL素子5を各キートップ部材2毎の大きさと数だけ用意して、それらEL素子5をベース部材3上に固定してから、上方からキートップ部材体10を配置するようにしても良い。また、各キートップ部材2とベース部材3との間に、EL素子5を配置しなくても良い。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、移動体通信機器、デジタルカメラ、電子手帳、車載用パネルスイッチ類、リモコン、キーボード等に用いられるキーパッドとして利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1の実施の形態にかかるキーパッドの平面図である。
【図2】図1に示すキーパッドをA−A線で切ったときの断面図である。
【図3】図1に示すキーパッドの製造工程の主な流れを示すフローチャートである。
【図4】図3に示すステップS1の工程を説明するための図である。
【図5】図3に示すステップS2の工程を説明するための図であり、治具に一体成形された熱可塑性フィルムをセットする状況を示す図である。
【図6】図3に示すステップS2の工程を説明するための図であり、図5に示す状況からすすんで、紫外線硬化型樹脂に紫外線を照射してキートップコアを硬化させている状況を示す図である。
【図7】図3に示すステップS2の工程を説明するための図であり、図6に示す状況からすすんで、治具をはずして、熱可塑性フィルムとキートップコアとが一体化したキートップ部材体を作製した状況を示す図である。
【図8】図3に示すステップS3の工程を説明するための図であり、キートップ部材間に一部の連接部を残して切り込みを入れた状況を示す。
【図9】図8に示す切り込みの経路(A)に加え、別の経路の例((B)および(C))を示す図である。
【図10】図7に示すキートップ部材体の側面拡大図である。
【図11】図8に示す切り込みを形成するために用いられるレーザ加工装置の一形態を示す図である。
【図12】図3に示すステップS4およびステップS5の両工程を説明するための図である。
【図13】キートップ部材の切り離しをEL素子の発光によって確認する方法を説明するための図である。
【図14】図13に示す方法によって、キーパッドにおけるキートップ部材の1つを完全に切り離した直後に、そのキートップ部材の周囲が光る様子を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
1 キーパッド
2 キートップ部材
3 ベース部材
5 EL素子(発光手段の一形態)
10 キートップ部材体
21 キートップコア
22 熱可塑性フィルム(樹脂フィルムの一形態)
22a フランジ
31 凸部
32 ボス
40 金型
51 治具
52 コア側金型
60 切り込み
70 炭酸ガスレーザ加工装置(レーザ加工装置)
71 管
72 枝管
73 枝管
74 冷陰極
75 電極
76 電源
77 全反射ミラー
78 反射ミラー
79 出力窓
80 反射鏡
90 EL点灯試験用治具(治具)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース部材の上に、樹脂製のキートップコアの一部または全部を樹脂フィルムで被覆する複数のキートップ部材を配設してなるキーパッドの製造方法であって、
上記樹脂フィルムを上記複数のキートップの最終配置に合うように一体的に成形する工程と、
その成形された樹脂フィルムと複数の上記キートップコアとを一体化して、キートップ部材が連接した状態のキートップ部材体を作製する工程と、
上記キートップ部材の連接状態を保持したまま、隣接する上記キートップ部材の境界部分における上記樹脂フィルムを一部残すように切り込みを入れる工程と、
上記キートップ部材体と上記ベース部材とを付着させる工程と、
上記付着後、上記ベース部材の下に、上記各キートップ部材を下方に押圧可能とする治具を置き、上記各キートップ部材の上方から押圧して、各キートップ部材を完全に切り離す工程と、
を有することを特徴とするキーパッドの製造方法。
【請求項2】
前記切り込みを入れる工程では、前記各キートップ部材の1つまたは複数の角を残すように切り込みを入れることを特徴とする請求項1に記載のキーパッドの製造方法。
【請求項3】
前記切り込みを入れる工程では、レーザを用いて切り込みを入れることを特徴とする請求項1または2に記載のキーパッドの製造方法。
【請求項4】
前記切り込みを入れる工程は、同じルートに対して複数回行うことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のキーパッドの製造方法。
【請求項5】
前記切り込みを入れる工程は、前記境界部分の前記一部に対して凹部を形成し、前記一部以外の前記境界部分に対して、前記一部に対して入れる凹部よりも深く切り込みを入れる工程とすることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のキーパッドの製造方法。
【請求項6】
前記ベース部材と前記キートップ部材体とを付着する工程において、前記ベース部材と前記キートップ部材体との間に、あるいは前記ベース部材として発光手段を配置することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のキーパッドの製造方法。
【請求項7】
前記発光手段は、エレクトロルミネセンス素子であることを特徴とする請求項6に記載のキーパッドの製造方法。
【請求項8】
前記押圧可能とする治具を、前記発光手段の点灯を確認するための装置とし、
前記切り離す工程は、前記各キートップの完全な切り離しと同時に点灯の確認を行う工程であることを特徴とする請求項6または7に記載のキーパッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−5080(P2007−5080A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−182147(P2005−182147)
【出願日】平成17年6月22日(2005.6.22)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】