説明

クモヘリカメムシの忌避剤

【課題】クモヘリカメムシを防除するために有効な手段等が求められていた。
【解決手段】忌避活性成分である(E)−2−オクテニル・アセテートを含有し、本活性成分をクモヘリカメムシの忌避効果を示す量で、気温20℃以上の気象条件下にて施用するためのクモヘリカメムシに対する忌避剤。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、クモヘリカメムシの忌避剤に関する。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】
本発明は、半翅目ホソヘリカメムシ科に属するクモヘリカメムシ(学名Leptocorisa chinensis)の忌避剤に関するものである。
【0003】
半翅目ホソヘリカメムシ科に属するクモヘリカメムシの成・幼虫は、日本をはじめ東アジア一帯で発生してイネ、ミカン類等に大きな被害を与えている。このクモヘリカメムシによる被害を軽減することは、従来型の殺虫剤を用いる手段では必ずしも充分に満足できるものではなく、当該害虫を効果的に防除するために、従来型の殺虫剤とは異なる新しいタイプの防除手段が強く望まれている。
【0004】
一方、これまで、多くの害虫については、忌避活性物質の存在等が明らかにされている。しかしながら、その忌避活性発現には複数条件の複雑な組み合わせが存在しており、未だその解明が不十分なために実用場面での利用に至るものは極めて少ない。
【0005】
【特許文献1】
特開2002−315494号公報
【特許文献2】
特開2002−320436号公報
【0006】
【課題を解決するための手段】
このような条件下、本発明者等は、クモヘリカメムシを防除するために有効な手段を開発すべく鋭意検討した結果、(E)−2−オクテニル・アセテートがクモヘリカメムシの忌避効果を示す量で気温20℃以上の気象条件下において高い忌避活性を示すことを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は、忌避活性成分である(E)−2−オクテニル・アセテートを含有し、本活性成分をクモヘリカメムシの忌避効果を示す量で、気温20℃以上の気象条件下にて施用するためのクモヘリカメムシに対する忌避剤を提供するものである。
【0007】
本発明忌避剤は、本化合物単独であっても良いが、通常はさらに固体坦体、液体坦体、ガス状担体等、必要により界面活性剤、その他の製剤用補助剤を含有し、ディスペンサー、油剤、乳剤、水和剤、顆粒水和剤、水中懸濁剤・水中乳濁剤等のフロアブル剤、粉剤、粒剤、エアゾール、マイクロカプセル剤、加熱燻蒸剤等に製剤化されたものである。これらの製剤は本化合物を通常0.01〜99重量%含有する。
上記製剤化において、ディスペンサーとは、本化合物を含浸させた濾紙、綿、高分子材料や、本化合物を充填させた噴霧器、一部が開放された容器を用いて、本化合物を継続的に大気中に放散させることのできる担体である。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンやエチレン−酢酸ビニル共重合体で例示されるようなポリエチレンを90%以上含む共重合体膜により包み込んでなるチューブ、カプセル、アンプル及び袋状の形状を有し、その肉厚は0.2〜1.0mmの範囲にある高分子製の容器が用いられる。
【0008】
製剤化の際に用いられる固体坦体としては、例えば、粘土類(カオリンクレー、珪藻土、ベントナイト、フバサミクレー、酸性白土等)、合成含水酸化珪素、タルク類、セラミック類、その他の無機鉱物(セリサイト、石英、硫黄、活性炭、炭酸カルシウム、水和シリカ等)、化学肥料(硫安、燐安、硝安、尿素、塩安等)等の微粉末や粒状物、高分子材料(ポリエステル、ナイロン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル鹸化物、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、エチレン・ビニルアルコール共重合体エチレン・酢酸ビニル共重合体鹸化物、塩化ビニリデン(PDVC)コートフィルム又はシート、アルミ蒸着フィルム又はシート等)が挙げられる。
【0009】
液体坦体としては、例えば、水、アルコール類(メタノール、エタノール等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メチルナフタレン等)、非芳香族炭化水素類(ヘキサン、シクロヘキサン、灯油、軽油等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、ニトリル類(アセトニトリル、イソブチロニトリル等)、エーテル類(ジイソプロピルエーテル、ジオキサン等)、酸アミド類(N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド類)、ハロゲン化炭化水素類(ジクロロメタン、トリクロロエタン、四塩化炭素等)、ジメチルスルホキシド、植物油(大豆油、綿実油等)等があげられる。
【0010】
また、ガス状担体すなわち噴射剤としては、例えば、フロンガス、ブタンガス、液化石油ガス、ジメチルエーテル、炭酸ガス等があげられる。
【0011】
界面活性剤としては、例えばアルキル硫酸エステル類、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルアリールエーテル類、アルキルアリールエーテル類のポリオキシエチレン化合物、ポリエチレングリコールエーテル類、多価アルコールエステル類、糖アルコール誘導体があげられる。
【0012】
その他の製剤用補助剤としては、例えばカゼイン、ゼラチン、糖類(澱粉、アラビアガム、セルロース誘導体、アルギン酸等)、リグニン誘導体、ベントナイト、合成水溶性高分子(ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸類等)、PAP(酸性リン酸イソプロピル)、BHT(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール)、BHA(2−tert−ブチル−4−メトキシフェノールおよび3−tert−ブチル−4−メトキシフェノール)、植物油、鉱物油、脂肪酸、脂肪酸エステルが挙げられる。
【0013】
本発明忌避剤は、さらに他の殺虫剤、殺線虫剤、殺菌剤、除草剤、植物成長調節剤、共力剤等を含有することもできる。
【0014】
本発明忌避剤は、クモヘリカメムシの加害から保護すべき植物又は保護すべき植物の周辺に施用(設置若しくは処理)される。その際、本発明忌避剤が乳剤、水和剤、顆粒水和剤、フロアブル剤等に製剤化されたものである場合には、通常、水等で希釈して施用される。
【0015】
本発明忌避剤を使用する場合、その施用量はクモヘリカメムシの誘引効果を示す量より多いことが必要であるが、施用時の各種条件に応じて、例えば、クモヘリカメムシの忌避行動状態を観察しながら適宜決定すればよい。通常、1000mあたり本化合物の量で0.3g〜3000000gである。乳剤、水和剤、顆粒水和剤、フロアブル剤等を水で希釈して用いる場合には、本化合物の濃度は、通常、1ppm〜10000ppmであり、ディスペンサー、粒剤、粉剤、油剤等は、通常何ら希釈することなく製剤のままで施用する。
尚、本発明忌避剤を施用後にクモヘリカメムシの忌避行動が十分に見られない場合には適宜追加施用すればよい。
【0016】
【実施例】
以下、本発明を製剤例及び試験例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0017】
製剤例1
本化合物をヘキサンで1.0mg/mlに希釈した後、濾紙49mm(7mm角)あたり前述の本化合物ヘキサン希釈液10μlを含浸、風乾させて10μgai/ディスペンサーの割合で本化合物を含浸させたディスペンサーを得る。
【0018】
製剤例2
本化合物100mgを、内径1.07mm、外径1.73mm、長さ200mmのポリエチレンチューブに含浸させ、ディスペンサーを得る。
【0019】
製剤例3
本化合物20部、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル8部、アルキルアリールスルホン酸ナトリウム2部およびキシレン70部を均一に混合して乳剤を得る。
【0020】
製剤例4
本化合物15部、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム3部、リグニンスルホン酸ナトリウム3部および硅藻土79部をジェットエアーミルで均一に混合粉砕して水和剤を得る。
【0021】
製剤例5
本化合物4部、タルク46部およびクレー50部を均一に混合粉砕して粉剤を得る。
【0022】
製剤例6 マイクロカプセル剤
本化合物10部、フェニルキシリルエタン10部およびスミジュールL−75(住友バイエルウレタン株式会社社製トリレンジイソシアネート)0.5部を混合した後、アラビアガムの10%水溶液20部中に加え、ホモミキサーで攪拌して、平均粒径20μmのエマルションを得る。次に、これにエチレングリコール2部を加え、さらに60℃の温浴中で24時間反応させてマイクロカプセルスラリーを得る。一方、ザンサンガム0.2部、ビーガムR(三洋化成株式会社製アルミニウムマグネシウムシリケート)1.0部をイオン交換水56.3部に分散させて増粘剤溶液を得る。
上記マイクロカプセルスラリー42.5部および増粘剤溶液57.5部を混合して、10%マイクロカプセル剤を得る。
【0023】
製剤例7 油剤
本化合物0.6部をキシレン5部およびトリクロロエタン5部に溶解し、これを脱臭灯油89.4部に混合して油剤を得る。
【0024】
試験例1
製剤例1記載の10μgの活性成分を含んだディスペンサー1枚を、10℃、15℃、20℃、23℃、25℃の各温度に飼育管理された平静状態のクモヘリカメムシ成虫1頭を飼育している飼育ケージ内(容積79cm、上面直径約60mm、底面直径47mm、高さ35mm)に投入(6gの活性成分/1000m処理相当)し、各試験温度でのクモヘリカメムシ成虫の行動を3分間観察した。尚、飼育ケージの側面には直径約17mmの脱出穴を1箇所設置し、ディスペンサー投入後3分間以内に当該脱出穴から外へ出たクモヘリカメムシ成虫を、忌避脱出行動を示した個体と判断した。また、無処理区では、上記ディスペンサーの代わりにヘキサン10μlのみを7mm角の濾紙に処理、風乾したディスペンサーを用いること以外は上記と同様な方法により試験した。
結果を表1に示す。
【表1】



【0025】
その結果、無処理区では忌避行動を示した個体は全く認められなかったのに対して、本発明のディスペンサー投入区では、20℃以上の試験温度の場合において明らかな忌避行動を示した個体の数、及び、忌避行動割合(%)が顕著に増加した。
【0026】
【発明の効果】
本発明忌避剤によりクモヘリカメムシを効果的に防除することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
忌避活性成分である(E)−2−オクテニル・アセテートを含有し、本活性成分をクモヘリカメムシの忌避効果を示す量で、気温20℃以上の気象条件下にて施用するためのクモヘリカメムシに対する忌避剤。

【公開番号】特開2005−68022(P2005−68022A)
【公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−208794(P2003−208794)
【出願日】平成15年8月26日(2003.8.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2003年3月26日 日本応用動物昆虫学会開催の「第47回日本応用動物昆虫学会大会」において文書をもって発表
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【Fターム(参考)】