説明

クラッチ、モータ及び車両用ドア開閉装置

【課題】付勢部材の数を減少させることができるクラッチを提供する。
【解決手段】クラッチ50は、回転軸の非駆動時にはウォーム軸を回転軸から断絶する一方、回転軸側からの駆動時には回転軸とウォーム軸とを連結するように作動するものである。このクラッチ50は、案内部材55と駆動側回転体51との相対回転伴ってカム溝55dによりコロ部材52を非係合位置から係合位置へ案内するカム機構と、同復帰スプリング53は、駆動側回転体51に伴って回転することにより生じた遠心力により径方向外側に移動した案内部材55によってコロ部材52を係合位置に保持する保持機構とを備えている。そして、クラッチ50を構成する復帰スプリング53は、カム機構及び保持機構を初期状態に復帰させるようにコロ部材52を付勢している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ドア開閉装置の駆動源となるモータ等に備えられ駆動軸と従動軸との連結・断絶を行う機械式のクラッチ、またそのクラッチを備えたモータ及びそのクラッチ付きモータを備えた車両用ドア開閉装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車両ボディ側部に設けられた乗降口を開閉するスライドドアを備えた自動車には、そのスライドドアをモータの駆動力により自動開閉する車両用ドア開閉装置を搭載したものがある。そして、この車両用ドア開閉装置においては、スライドドアの手動開閉も可能であることが求められている。そこで、例えば、特許文献1に記載された車両用ドア開閉装置は、駆動源となるモータ内に自動開閉と手動開閉とを可能にする機械式のクラッチを備えている。
【0003】
特許文献1に記載された機械式のクラッチは、モータ本体の駆動軸と一体回転可能な駆動連結部と、該駆動連結部に対しスプリングを介して所定の相対回転位置に保持される中間プレートと、ドア側に連結される従動軸と一体回転可能な従動円筒部とを備えている。また、径方向における駆動連結部及び中間プレートと従動円筒部との間には、コロ部材が配置されている。このコロ部材は、引っ張りコイルスプリングによって径方向内側に付勢されている。
【0004】
このクラッチでは、モータ本体の停止時には、コロ部材は、駆動連結部と従動円筒部とを回転方向に係合しない非係合位置に配置されており、駆動軸と従動軸とを断絶する初期状態となっている。従って、駆動軸と従動軸とが断絶されて駆動軸が回転されないため、手動によるドアの開閉を容易に行うことができる。
【0005】
一方、モータ本体の駆動時には、駆動連結部の回転に伴って中間プレートが回転し、それと共にコロ部材が周回する。そして、コロ部材は、周回時の遠心力によって径方向外側に移動されて、中間プレートと従動円筒部とによって挟持される係合位置に配置される。即ち、コロ部材は、駆動軸と従動軸とを連結する連結状態となる。更に、スプリングの付勢力に抗して中間プレートに対して相対回転した駆動連結部と従動円筒部とによって、係合位置に配置されたコロ部材が挟持される。即ち、駆動連結部と従動円筒部とが、駆動軸と従動軸とを断絶する初期状態から駆動軸と従動軸とを連結する連結状態となる。すると、コロ部材を介して駆動連結部と従動円筒部とが回転方向に係合されるため、駆動連結部と共に従動円筒部が回転される。その結果、従動軸が回転されて、従動軸に連結されたスライドドアが自動開閉される。
【0006】
また、モータ本体の駆動が停止されると、スプリングの付勢力によって中間プレートに対して駆動連結部が相対回転され、駆動連結部及び従動円筒部によるコロ部材の挟持が解除される。即ち、スプリングの付勢力によって、駆動連結部と従動円筒部とが、連結状態から初期状態に復帰する。更に、引っ張りコイルスプリングの付勢力によって、コロ部材が径方向内側に移動されて非係合位置に配置される。即ち、引っ張りコイルスプリングの付勢力によって、コロ部材が連結状態から初期状態に復帰する。
【0007】
このような機械式のクラッチを用いると、例えば電磁クラッチを用いた場合のようにモータの内部において給電のための配線の取り回しを行わなくてもよいため、モータの内部の構造が複雑となることが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−133951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載されたクラッチでは、係合位置と非係合位置との間で移動するコロ部材からなる機構を連結状態から初期状態に復帰させるために、引っ張りコイルスプリング(付勢部材)が設けられている。また、係合位置に配置されたコロ部材を駆動連結部と従動円筒部とによって挟持する機構を連結状態から初期状態に復帰させるために、スプリング(付勢部材)が設けられている。このように、駆動軸の非駆動時に駆動軸と従動軸とを断絶する初期状態となる一方、駆動軸側からの駆動時に駆動軸と従動軸とを連結する連結状態となる複数の機構に対し、初期状態に復帰させるための付勢部材をそれぞれ1つずつ配置すると、部品点数が増大してしまうという問題があった。
【0010】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、付勢部材の数を減少させることができるクラッチ、該クラッチを備えたモータ及び車両用ドア開閉装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、駆動軸の非駆動時に前記駆動軸と従動軸とを断絶する初期状態となる一方、前記駆動軸側からの駆動時に前記駆動軸と前記従動軸とを連結する連結状態となる複数の機構を備え、前記駆動軸の非駆動時には前記従動軸を前記駆動軸から断絶する一方、前記駆動軸側からの駆動時には前記駆動軸と前記従動軸とを連結するように作動するクラッチであって、複数の前記機構のうち少なくとも2つの前記機構を前記初期状態に復帰させるように付勢力を発揮する付勢部材を備えたことをその要旨としている。
【0012】
同構成によれば、付勢部材は、少なくとも2つの機構を初期状態に復帰させるように付勢力を発揮するため、複数の機構に対してそれぞれ初期状態に復帰させるための付勢部材を設ける場合に比べて、付勢部材の数を減少させることができる。その結果、部品点数を減少させることができる。更に、クラッチの構造を簡単化できるとともに、組付け性を向上させることが可能となる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のクラッチにおいて、前記駆動軸と一体回転可能に設けられる駆動側回転体と、前記従動軸と一体回転可能に設けられる従動側回転体と、径方向における前記駆動側回転体と前記従動側回転体との間に配置されるとともに前記駆動側回転体と一体回転可能に設けられ、前記駆動側回転体と前記従動側回転体とを回転方向に係合しない非係合位置と、前記非係合位置よりも径方向外側で前記駆動側回転体と前記従動側回転体とを回転方向に係合する係合位置との間で移動される動力伝達部材と、前記動力伝達部材が係合され前記係合位置と前記非係合位置との間の前記動力伝達部材の移動を案内するカム部を有する案内部材と前記駆動側回転体との相対回転に伴って前記カム部により前記動力伝達部材を前記非係合位置から前記係合位置へ案内するカム機構、前記駆動側回転体に伴って回転することにより生じた遠心力により径方向外側に移動した前記案内部材によって前記動力伝達部材を係合位置に保持する保持機構、前記係合位置に配置された前記動力伝達部材を前記駆動側回転体と前記従動側回転体とによって挟持する挟持機構の3つの機構のうちの少なくとも2つの機構とを備え、前記付勢部材は、前記駆動側回転体の停止時に前記動力伝達部材を前記非係合位置に配置するように前記少なくとも2つの機構のうちの少なくとも2つの機構を付勢することをその要旨としている。
【0014】
同構成によれば、付勢部材は、カム機構、保持機構及び挟持機構のうち少なくとも2つの機構を、駆動側回転体の停止時に動力伝達部材を非係合位置に配置するように、即ち初期状態とするように付勢している。従って、カム機構、保持機構及び挟持機構のうち少なくとも2つの機構を初期状態に復帰させるための付勢部材の数を減少させることができる。また、クラッチがカム機構を備えた場合、駆動側回転体の回転駆動の開始時に駆動側回転体と案内部材とが相体回転されると、駆動側回転体にて保持された動力伝達部材と、案内部材のカム部とが相体回転される。そして、駆動側回転体と案内部材とが相体回転すると、動力伝達部材は、カム部に案内されて非係合位置から係合位置へ移動する。このように、動力伝達部材の移動は、カム部によって移動方向が規制された状態で行われるため、動力伝達部材は、カム部に案内されながら非係合位置から係合位置へ安定して移動される。従って、駆動側回転体と従動側回転体とを連結する動作の確実性を向上させることができる。また、クラッチが保持機構を備えた場合、駆動側回転体の回転駆動時には、動力伝達部材は、遠心力により径方向外側に移動した案内部材によって係合位置に保持される。従って、駆動側回転体と従動側回転体とが動力伝達部材を介して連結された状態が安定して維持されるため、動力伝達部材を介して駆動側回転体から従動側回転体へ安定して回転駆動力を伝達することができる。また、案内部材によって動力伝達部材が係合位置に保持されるため、駆動側回転体の回転駆動時に駆動側回転体と従動側回転体とを連結した状態を維持するために摩擦力等を発生させる手段を別途設けなくてもよい。よって、クラッチの構成や動作が複雑化されることが抑制される。また、クラッチが挟持機構を備えた場合、係合位置に配置された動力伝達部材が駆動側回転体と従動側回転体とによって挟持されるため、動力伝達部材を係合位置に配置した状態に維持しやすいとともに、駆動側回転体から従動側回転体へ回転駆動力を安定して伝達することができる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のクラッチにおいて、少なくとも前記カム機構と前記保持機構とを備え、前記付勢部材は、前記動力伝達部材が前記非係合位置側に移動されるように前記駆動側回転体と前記案内部材とを相体回転させるべく前記案内部材を付勢するとともに、前記案内部材を径方向内側に付勢することをその要旨としている。
【0016】
同構成によれば、付勢部材は、案内部材を付勢するだけで、カム機構と保持機構との両方を容易に初期状態に復帰させることができる。
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のクラッチにおいて、前記カム部は、前記動力伝達部材を前記非係合位置に配置するための第1案内部と、前記第1案内部よりも径方向外側に設けられ前記動力伝達部材を前記係合位置に案内するための第2案内部と、前記第1案内部から前記第2案内部まで延び前記動力伝達部材が摺接されるカム面とを備え、前記付勢部材は、前記カム面を径方向に付勢することをその要旨としている。
【0017】
同構成によれば、付勢部材は、動力伝達部材の非係合位置から係合位置への移動を案内するカム面を径方向に付勢することにより、案内部材を径方向に付勢することができるとともに、案内部材を回転方向に付勢することができる。従って、カム機構及び保持機構の2つの機構を初期状態に復帰させるために、当該2つの機構に付勢部材の付勢力を作用させるための構成を新たに追加しなくてもよい。その結果、クラッチの構成が複雑化されることが抑制される。
【0018】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のクラッチにおいて、前記付勢部材は、前記動力伝達部材を径方向内側に付勢することをその要旨としている。
同構成によれば、動力伝達部材は、カム機構、保持機構及び挟持機構の全ての機構に関わる部品であるため、この動力伝達部材を付勢部材にて付勢することにより、新たに部品を追加しなくとも、動力伝達部材を介して付勢部材の付勢力をカム機構、保持機構及び挟持機構に容易に作用させることができる。
【0019】
請求項6に記載の発明は、請求項3乃至請求項5の何れか1項に記載のクラッチにおいて、前記挟持機構と、前記駆動側回転体と前記従動側回転体とによる前記動力伝達部材の挟持が解除されるように前記駆動側回転体を付勢する補助付勢部材とを備えたことをその要旨としている。
【0020】
同構成によれば、挟持機構は、補助付勢部材の付勢力によって駆動側回転体と従動側回転体とによる動力伝達部材の挟持を解除する、即ち補助付勢部材の付勢力によって初期状態に復帰される。従って、付勢部材は、カム機構と保持機構とを初期状態に復帰させるだけの付勢力を備えたものであればよいため、付勢部材の付勢力を小さく抑えることができる。従って、付勢部材の小型化を図ることが可能となり、ひいてはクラッチの小型化を図ることが可能となる。
【0021】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載のクラッチにおいて、前記駆動側回転体は、前記駆動軸と一体回転可能に設けられ前記動力伝達部材に回転方向から当接可能な楔面を有する第1回転体と、前記第1回転体と相対回転可能に設けられ前記動力伝達部材を径方向に移動可能に保持し前記動力伝達部材と一体回転する第2回転体とを備え、前記従動側回転体は、前記楔面と共に前記動力伝達部材を挟持するための伝達面を備え、前記補助付勢部材は、前記第1回転体と前記第2回転体との間に介在され、前記第1回転体の回転駆動が停止されたときに前記楔面と前記伝達面とによる前記動力伝達部材の挟持を解除するように前記第2回転体に対して前記第1回転体を直前の回転方向と反対方向に回転させるように前記第1回転体を付勢することをその要旨としている。
【0022】
同構成によれば、第1回転体の回転駆動が停止されたときに、第2回転体に対して第1回転体を直前の回転方向と反対方向に回転させるように同第1回転体を補助付勢部材にて付勢することにより、伝達面に対して楔面を容易に離間させることができる。従って、補助付勢部材の付勢力によって挟持機構を容易に初期状態に復帰させることができる。
【0023】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載のクラッチにおいて、前記第1回転体及び前記第2回転体の何れか一方には、伸縮性を有する前記補助付勢部材を圧縮しつつ収容し前記第1回転体及び前記第2回転体の何れか他方によって開口部の少なくとも一部が閉塞される補助付勢部材収容部が形成され、前記第1回転体若しくは前記第2回転体には、前記補助付勢部材収容部に連通し互いに組み付けられた前記第1回転体及び前記第2回転体の外側から前記補助付勢部材を前記補助付勢部材収容部に挿入するための挿入路が形成されていることをその要旨としている。
【0024】
同構成によれば、第1回転体と第2回転体とが互いに組み付けられた状態で、挿入路を通して補助付勢部材を補助付勢部材収容部に挿入することができる。従って、第1回転体及び第2回転体の何れか他方によってその開口部の少なくとも一部が閉塞された状態の補助付勢部材収容部に、挿入路を通して補助付勢部材を組み付けることができるため、補助付勢部材収容部に組み付けられた補助付勢部材が同補助付勢部材収容部の開口部から同補助付勢部材収容部の外に出てしまうことが抑制される。その結果、補助付勢部材の組付け性を向上できる。また、補助付勢部材を補助付勢部材収容部に組み付けた後にクラッチの他の構成部品の組付けを行う時に、補助付勢部材が外れることが抑制されるため、クラッチの組付け性を向上できる。
【0025】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載のクラッチにおいて、前記挿入路は、クラッチの作動時に前記第1回転体と前記第2回転体との間で前記補助付勢部材が圧縮されても前記補助付勢部材における伸縮方向の端が前記挿入路に至らないように形成されていることをその要旨としている。
【0026】
同構成によれば、クラッチの作動中に第1回転体と第2回転体との間で補助付勢部材が圧縮されて同補助付勢部材が伸縮方向に短くなったとしても、補助付勢部材の伸縮方向の端は挿入路に至らないため、クラッチの作動中に補助付勢部材が挿入路に引っ掛かることが防止される。
【0027】
請求項10に記載の発明は、請求項8又は請求項9に記載のクラッチにおいて、前記挿入路の内周面には、前記補助付勢部材収容部内に配置された前記補助付勢部材の伸縮方向に対して傾斜した案内面が形成されていることをその要旨としている。
【0028】
同構成によれば、補助付勢部材を該補助付勢部材の伸縮方向の一端部から案内面に沿って挿入路に挿入すると、補助付勢部材は、該補助部制部材の伸縮方向の一端部が補助付勢部材収容部の内周面に当接するまで、補助付勢部材収容部内での補助付勢部材の伸縮方向に対して傾斜した状態で補助付勢部材収容部に挿入されていく。そのため、補助付勢部材の伸縮方向の一端部が補助付勢部材収容部の内周面に当接した後、補助付勢部材において挿入路から補助付勢部材収容部に挿入された部位は、補助付勢部材収容部の内周面に沿って補助付勢部材収容部の奥の方へ入っていくことが可能となる。従って、補助付勢部材を、予め圧縮した状態で挿入路に入れなくとも補助付勢部材収容部に組み付けることが可能となる。その結果、補助付勢部材の組付け性がより向上する。
【0029】
請求項11に記載の発明は、請求項10に記載のクラッチにおいて、前記挿入路の内周面には、前記挿入路における前記補助付勢部材収容部と反対側の外側開口部から前記挿入路における前記補助付勢部材収容部側の内側開口部の方へ向かうに連れて若しくは前記内側開口部から前記外側開口部の方へ向かうに連れて互いの間隔が狭くなるように、前記補助付勢部材収容部内に配置された前記補助付勢部材の伸縮方向に対して傾斜した一対の前記案内面が形成されていることをその要旨としている。
【0030】
同構成によれば、一対の案内面は、補助付勢部材収容部内での補助付勢部材の伸縮方向に対して互いに異なる方向に傾斜している。よって、各案内面に沿った2つの方向のうち何れかの方向に沿って挿入路を通して補助付勢部材を補助付勢部材収容部に挿入することができる。従って、補助付勢部材の組付け方向が1方向に限られないため、補助付勢部材の組付け性が更に向上する。
【0031】
請求項12に記載の発明は、請求項11に記載のクラッチにおいて、前記挿入路の内周面には、前記外側開口部から前記内側開口部の方へ向かうに連れて互いの間隔が狭くなるように前記補助付勢部材収容部内に配置された前記補助付勢部材の伸縮方向に対して傾斜した一対の前記案内面と、一対の前記案内面よりも前記内側開口部側で一対の前記案内面と並び前記内側開口部から前記外側開口部の方へ向かうに連れて互いの間隔が狭くなるように前記補助付勢部材収容部内に配置された前記補助付勢部材の伸縮方向に対して傾斜した一対の傾斜面とが形成されていることをその要旨としている。
【0032】
同構成によれば、一対の傾斜面は、一対の案内面と並ぶように、挿入路における内側開口部側の端部に形成されている。更に、一対の傾斜面は、内側開口部から外側開口部の方へ向かうに連れて互いの間隔が狭くなるように、補助付勢部材収容部内に配置された補助付勢部材の伸縮方向に対して傾斜している。従って、一対の案内面のうち何れか一方の案内面に沿って挿入路を通して補助付勢部材を補助付勢部材収容部に挿入するときに、同補助付勢部材が内側開口部に引っ掛かり難くなる。従って、より円滑に補助付勢部材を補助付勢部材収容部に挿入することができる。
【0033】
請求項13に記載の発明は、請求項12に記載のクラッチにおいて、一方の前記傾斜面は対向側の一方の前記案内面と略平行に形成されるとともに、他方の前記傾斜面は対向側の他方の前記案内面と略平行に形成されていることをその要旨としている。
【0034】
同構成によれば、一対の案内面のうち何れか一方の案内面に沿って挿入路を通して補助付勢部材を補助付勢部材収容部に挿入するときに、同補助付勢部材が内側開口部により引っ掛かり難くなる。従って、更に円滑に補助付勢部材を補助付勢部材収容部に挿入することができる。
【0035】
請求項14に記載の発明は、請求項8乃至請求項13の何れか1項に記載のクラッチにおいて、前記補助付勢部材収容部は、前記第1回転体及び前記第2回転体の回転方向に沿って延びる円弧状の溝状をなしており、前記挿入路は、前記補助付勢部材収容部の径方向外側に形成されていることをその要旨としている。
【0036】
同構成によれば、補助付勢部材収容部を、第1回転体及び第2回転体の回転方向に沿って延びる円弧状に形成すると、補助付勢部材収容部における径方向内側の端部よりも同補助付勢部材収容部における径方向外側の端部の方が周方向に長さが長くなりやすい。そのため、挿入路を補助付勢部材収容部の径方向外側に形成することで、挿入路を補助付勢部材収容部の径方向内側に形成する場合よりも、補助付勢部材収容部に連通する挿入路を形成可能な範囲が広くなる。
【0037】
請求項15に記載の発明は、請求項14に記載のクラッチにおいて、前記補助付勢部材は、圧縮コイルばねよりなり、前記第2回転体には、前記補助付勢部材収容部と、前記補助付勢部材収容部の周方向の両側に前記補助付勢部材収容部に繋がり且つ前記補助付勢部材収容部よりも径方向の幅が狭い復帰収容部とが形成され、前記第1回転体は、前記復帰収容部にそれぞれ挿入され前記補助付勢部材が間に介在される対の復帰凸部を有し、前記補助付勢部材収容部の周方向の両端には、前記復帰収容部よりも径方向外側で径方向に沿って延び前記補助付勢部材に押圧される第1押圧面と、前記復帰収容部よりも径方向内側で径方向に沿って延び前記補助付勢部材に押圧されるとともに前記第1押圧面よりも径方向に長い第2押圧面とが設けられていることをその要旨としている。
【0038】
同構成によれば、圧縮コイルばねよりなる補助付勢部材を、第1回転体及び第2回転体の回転方向に沿って延びる円弧状の補助付勢部材収容部に挿入すると、補助付勢部材は、外周側の部位に比べて内周側の部位の方が圧縮量が多くなる。従って、補助付勢部材は、外周側の部位に比べて内周側の部位の方が伸びようとする力が大きくなるため、補助付勢部材収容部内で、より周方向に長くなる径方向外側に移動しようとする。そこで、径方向内側に設けられた第2押圧面を、径方向外側に設けられた第1押圧面よりも径方向に長く形成することにより、補助付勢部材を補助付勢部材収容部内に安定して収容することができる。
【0039】
請求項16に記載の発明は、請求項3乃至請求項15の何れか1項に記載のクラッチにおいて、前記従動側回転体は、前記駆動側回転体の外周に配置され前記駆動側回転体と径方向に対向する円筒状の側壁部を有し、前記側壁部の内周面には、前記動力伝達部材よりも回転方向の幅が広く前記カム機構により径方向外側に移動された前記動力伝達部材が挿入されて回転方向に係合可能な第1係合凹部と、前記第1係合凹部の底面に形成され挿入された前記動力伝達部材を前記第1係合凹部よりも径方向外側に配置するとともに前記動力伝達部材と回転方向に相対移動不能に係合する第2係合凹部とが形成されていることをその要旨としている。
【0040】
同構成によれば、第1係合凹部は動力伝達部材よりも回転方向の幅が広いため、駆動側回転体の回転駆動の開始時にカム機構によって動力伝達部材が径方向外側へ移動されたときに、動力伝達部材は第1係合凹部に挿入されやすい。従って、駆動側回転体の回転駆動が開始されてから短時間で、駆動側回転体と従動側回転体とを動力伝達部材を介して回転方向に係合することができる。また、動力伝達部材が第2係合凹部に挿入された場合には、動力伝達部材と従動側回転体とが回転方向に相対移動不能となる。従って、従動側回転体に対して駆動側回転体の回転方向と同方向の負荷である逆負荷が加わった場合であっても、動力伝達部材を介して駆動側回転体と従動側回転体とを回転方向に係合した状態を維持できる。よって、駆動側回転体から従動側回転体へ安定して回転駆動力を伝達できる。
【0041】
請求項17に記載の発明は、請求項16に記載のクラッチにおいて、前記第2係合凹部は、前記第1係合凹部の底面における回転方向の両端部にそれぞれ形成されていることをその要旨としている。
【0042】
同構成によれば、駆動側回転体の回転方向に拘わらず、動力伝達部材を第2係合凹部に挿入することが可能となる。
請求項18に記載の発明は、請求項16又は請求項17に記載のクラッチにおいて、前記第2係合凹部は、前記第1係合凹部の底面における回転方向の中央部に形成されていることをその要旨としている。
【0043】
同構成によれば、動力伝達部材が第1係合凹部に挿入された後、同動力伝達部材が第2係合凹部に挿入されるまでに同動力伝達部材が従動側回転体に対して回転する量を小さくすることが可能となる。
【0044】
請求項19に記載の発明は、請求項3乃至請求項18の何れか1項に記載のクラッチにおいて、前記カム部は、前記動力伝達部材が挿入されるカム溝であることをその要旨としている。
【0045】
同構成によれば、付勢部材が動力伝達部材を径方向内側に付勢すると、動力伝達部材がカム溝の内周面を径方向内側に押圧することになる。従って、付勢部材の付勢力によって、案内部材を容易に径方向内側に移動させることができるため、保持機構を容易に初期状態に復帰させることができる。また、カム部はカム溝であるため、案内部材の構成が複雑化されることが抑制される。
【0046】
請求項20に記載の発明は、請求項19に記載のクラッチにおいて、前記カム溝には、前記駆動側回転体の回転駆動が停止された時に前記動力伝達部材と前記カム溝との相対回転を阻止する相対回転阻止手段が設けられていることをその要旨としている。
【0047】
同構成によれば、駆動側回転体の回転駆動が停止された時に、案内部材に作用する慣性力によって案内部材が動力伝達部材に対して相対回転しようとしても、相対回転阻止手段によって動力伝達部材とカム溝との相対回転が阻止される。従って、駆動側回転体の回転駆動の停止後に、動力伝達部材がカム溝内を相対的に移動することが阻止されるため、駆動側回転体と従動側回転体との回転方向の係合を素早く解除することができる。また、駆動側回転体の回転駆動の停止後に、動力伝達部材がカム溝内を相対的に移動してカム溝の内周面に衝突することを防止できるため、動力伝達部材とカム溝の内周面との衝突音の発生を防ぐことができるとともに、動力伝達部材及び案内部材に衝撃荷重が加わることを抑制することができる。
【0048】
請求項21に記載の発明は、請求項20に記載のクラッチにおいて、前記カム溝は、前記動力伝達部材を前記非係合位置に配置するための第1案内部と、前記第1案内部に対して回転方向にずれた位置且つ前記第1案内部よりも径方向外側に設けられ前記動力伝達部材を前記係合位置に案内する第2案内部と、前記第1案内部から前記第2案内部まで延び前記動力伝達部材が摺接されるカム面とを備え、前記相対回転阻止手段は、前記カム面に凹設され少なくとも前記駆動側回転体の回転駆動の停止時に前記動力伝達部材が嵌って相対回転不能に係合する阻止凹部であることをその要旨としている。
【0049】
同構成によれば、カム面を凹設して形成された阻止凹部は、簡単な形状をなしている。従って、相対回転阻止手段をカム溝に容易に設けることができる。
請求項22に記載の発明は、請求項21に記載のクラッチにおいて、前記付勢部材は、前記動力伝達部材を径方向内側に付勢しており、前記駆動側回転体の回転に伴って回転することにより生じた遠心力により前記案内部材が径方向外側へ移動する時に、前記動力伝達部材は、前記案内部材によって前記係合位置に保持されたまま前記カム溝内を前記第2案内部から前記第1案内部へ相対的に移動し、前記阻止凹部は、前記案内部材の径方向の移動範囲内で最も径方向内側に配置された前記案内部材の前記カム溝における前記第1案内部に挿入されて前記非係合位置に配置された前記動力伝達部材が前記阻止凹部に係合しない深さとなるように、前記カム面における前記第1案内部と径方向に隣り合う部分を径方向に凹設して形成されていることをその要旨としている。
【0050】
同構成によれば、動力伝達部材は、非係合位置に配置されているときには、阻止凹部に係合しないため、駆動側回転体の回転駆動の開始時には、第1案内部から第2案内部へカム溝内を容易に移動することができる。また、駆動側回転体の回転に伴って回転することにより生じた遠心力により案内部材が径方向外側へ移動する時に、動力伝達部材は、案内部材によって係合位置に保持されたままカム溝内を第2案内部から第1案内部へ相対的に移動する。従って、駆動側回転体の回転中に、第1案内部と径方向に隣り合う阻止凹部に動力伝達部材を係合することが可能である。
【0051】
請求項23に記載の発明は、請求項3乃至請求項22の何れか1項に記載のクラッチにおいて、前記駆動側回転体と相体回転可能に設けられ、前記案内部材を該案内部材の径方向の移動を案内可能に保持するとともに前記案内部材と一体回転可能な保持ケースを備えたことをその要旨としている。
【0052】
同構成によれば、案内部材の径方向の移動が保持ケースによって案内されるため、保持機構が良好に機能する。また、案内部材は、駆動側回転体の停止時には、付勢部材の付勢力を受けて、保持ケースによって案内されながら径方向内側に移動するため、保持機構の初期状態への復帰が円滑に行われる。
【0053】
請求項24に記載の発明は、請求項2乃至請求項23の何れか1項に記載のクラッチにおいて、前記駆動側回転体の回転駆動の開始時には、前記案内部材に作用する慣性力によって前記案内部材が前記駆動側回転体よりも遅れて回転することにより前記駆動側回転体と前記案内部材とが相対回転されることをその要旨としている。
【0054】
同構成によれば、駆動側回転体の回転駆動の開始時には、案内部材に作用する慣性力を利用して駆動側回転体と案内部材とを相体回転させる。そのため、動力伝達部材を非係合位置から係合位置へ移動させるために駆動側回転体と案内部材とを相体回転させるための手段を別途備えなくてもよい。
【0055】
請求項25に記載の発明は、回転駆動される前記駆動軸を有するモータ本体と、前記駆動軸と同軸上に配置され前記駆動軸の回転駆動力により回転される前記従動軸を有し前記駆動軸の回転を減速して出力する減速機構と、前記駆動軸と前記従動軸との間に配置された請求項1乃至請求項24の何れか1項に記載のクラッチとを備えたモータとしたことをその要旨としている。
【0056】
同構成によれば、付勢部材の数が減少されたクラッチをモータに備えている。従って、このモータを構成する部品の数が減少されるため、製造コストが低減される。また、クラッチは、モータ本体の駆動軸と、減速機構を構成する従動軸との間に設けられているため、モータにおいて駆動軸の回転駆動力が減速される前のところに設けられている。従って、クラッチを構成する各部品に加わる荷重を小さく抑えられることから、クラッチを小型化することが可能となる。よって、このクラッチを備えたモータの小型化が可能となる。そして、小型化されたモータは、スライドドアの内部等、配置スペースの狭いところへ容易に設置することができる。また、モータにおいて減速される前のところにクラッチを設けることで、案内部材に作用する遠心力が発生しやすくなる。従って、クラッチを、請求項2に記載のクラッチの如く案内部材を遠心力によって径方向外側に移動させる構成とした場合に有利となる。
【0057】
請求項26に記載の発明は、車両に設けられる開口を開閉するドアを請求項25に記載のモータの駆動力によって開閉作動させるように構成される車両用ドア開閉装置であって、前記ドアを自動開閉させる旨の指令が生じると、前記モータ本体の駆動と共に前記クラッチにより前記駆動軸を前記従動軸と連結して前記ドアを自動開閉させる一方、前記モータ本体の停止時には、前記クラッチにより前記従動軸を前記駆動軸から断絶して前記ドアの手動開閉時の作動負荷を軽減させた状態とする車両用ドア開閉装置としたことをその要旨としている。
【0058】
同構成によれば、駆動源として用いられるモータには、付勢部材の数が減少されたクラッチが備えられている。従って、この車両用ドア開閉装置を構成する部品の数が減少されるため、製造コストが低減される。
【発明の効果】
【0059】
本発明によれば、付勢部材の数を減少させることができるクラッチ、該クラッチを備えたモータ及び車両用ドア開閉装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】クラッチ付きモータの断面図。
【図2】スライドドア開閉装置の概略構成図。
【図3】第1実施形態のクラッチの断面図(図6におけるC−C断面図)。
【図4】第1実施形態のクラッチの分解斜視図。
【図5】第1実施形態のクラッチの分解斜視図。
【図6】第1実施形態のクラッチの断面図(図3におけるA−A断面図)。
【図7】第1実施形態のクラッチの断面図(図3におけるB−B断面図)。
【図8】第1実施形態のクラッチの断面図。
【図9】第1実施形態のクラッチの断面図。
【図10】第1実施形態のクラッチの断面図。
【図11】(a)及び(b)は第1実施形態のクラッチの断面図。
【図12】(a)及び(b)は第1実施形態のクラッチの断面図。
【図13】(a)及び(b)は第1実施形態のクラッチの断面図。
【図14】(a)及び(b)は第1実施形態のクラッチの断面図。
【図15】第2実施形態のクラッチの分解斜視図。
【図16】第2実施形態のクラッチの断面図(図17におけるE−E断面図)。
【図17】第2実施形態のクラッチの断面図(図16におけるD−D断面図)。
【図18】第2実施形態のクラッチの断面図。
【図19】(a)は第2実施形態のクラッチの断面図、(b)は第2実施形態のクラッチの断面図(図17におけるF−F断面図)。
【図20】(a)及び(b)は第2実施形態のクラッチの断面図。
【図21】(a)及び(b)は第2実施形態のクラッチの断面図。
【図22】第3実施形態のクラッチの分解斜視図。
【図23】(a)及び(b)は第3実施形態のクラッチの断面図。
【図24】第3実施形態のクラッチの断面図(図23(a)におけるG−G断面図)。
【図25】第3実施形態のクラッチの断面図。
【図26】第3実施形態のクラッチの断面図。
【図27】第4実施形態のクラッチの断面図。
【図28】第5実施形態のクラッチの断面図。
【図29】(a)及び(b)は第5実施形態のクラッチの断面図。
【図30】第5実施形態のクラッチの断面図。
【図31】第5実施形態のクラッチの断面図。
【図32】(a)及び(b)は第5実施形態のクラッチの断面図。
【図33】第6実施形態のクラッチの断面図。
【図34】第6実施形態のクラッチの断面図。
【図35】別の形態のクラッチの断面図。
【図36】別の形態のクラッチの断面図。
【図37】従動側回転体を除いた別の形態のクラッチの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0061】
(第1実施形態)
以下、本発明を具体化した第1実施形態を図面に従って説明する。
図1に示す本実施形態のモータ11は、図2に示すように、自動車に搭載されるスライドドア開閉装置1の駆動源として用いられるものである。スライドドア開閉装置1は、車両ボディ2の側面に沿ってスライド開閉可能に配設されたスライドドア3内に配設されている。スライドドア3は、車両ボディ2に設けられたガイドレール4に連結された連結具5にて支持されている。連結具5は、モータ11の駆動によるワイヤケーブル6の巻き取り及び送り出しが行われることによりガイドレール4に沿って移動する。そして、この連結具5の移動によりスライドドア3が車両ボディ2に形成された乗降口2aを開閉するようになっている。
【0062】
図1に示すように、モータ11は、モータ本体12と減速部13とからなる所謂ギヤードモータである。モータ本体12は、ヨークハウジング14、一対のマグネット15、電機子16、ブラシホルダ17及び一対のブラシ18を備えている。
【0063】
ヨークハウジング14は、有底筒状をなすとともに、その内周面には一対のマグネット15が固着されている。そして、ヨークハウジング14の底部中央には軸受19が設けられるとともに、該軸受19は、ヨークハウジング14の内部に配置された電機子16の回転軸20(駆動軸)の基端部を軸支している。
【0064】
ヨークハウジング14の開口部14aには、径方向外側に延設されたフランジ部14bが形成されるとともに、該フランジ部14bは、後述する減速部13のギヤハウジング31に連結固定されている。尚、この固定の際には、フランジ部14bは、ギヤハウジング31の開口部31aとの間にブラシホルダ17が介在された状態で同ギヤハウジング31に螺子21にて固定される。
【0065】
ブラシホルダ17は、ヨークハウジング14内において、前記回転軸20の先端側の部位を軸支する軸受22と、同回転軸20に固着された整流子23に摺接する一対のブラシ18とを保持している。また、ブラシホルダ17において、ヨークハウジング14及びギヤハウジング31の外部に突出する部位は、車体側から延びる車体側コネクタ(図示略)が接続されるコネクタ部17aであるとともに、該コネクタ部17aの接続凹部17b内には複数本のターミナル24が露出している。これらターミナル24は、ブラシホルダ17にインサートされるとともに、モータ11内に備えられる回転センサ(後述のホール素子42)及び前記ブラシ18等と電気的に接続されている。そして、コネクタ部17aに車体側コネクタが接続されると、車体側に備えられるコントローラ25とモータ11とが電気的に接続される。これにより、モータ11とコントローラ25との間で、電源供給やセンサ信号等の出力が可能となる。
【0066】
前記減速部13は、ギヤハウジング31と、ウォーム軸32(従動軸)及びウォームホイール33から構成される減速機構34と、出力軸35と、クラッチ50とを有する。
ギヤハウジング31は、前記ヨークハウジング14の開口部14aと対向する開口部31aを備え、両開口部14a,31a間に前記ブラシホルダ17が介装されている。また、ギヤハウジング31には、該ギヤハウジング31の開口部31aから軸方向に凹設されたクラッチ収容部31bが形成されている。更に、同ギヤハウジング31には、クラッチ収容部31bの底部から軸方向に延びウォーム軸32を収容する略円筒状の軸収容筒部31cと、該軸収容筒部31cと繋がりウォームホイール33を収容する略円形状のホイール収容部31dとが形成されている。
【0067】
軸収容筒部31cの軸方向の両端部には、軸受36,37がそれぞれ配置されている。そして、前記ウォーム軸32は、その先端部が軸受37にて軸支された状態で、前記回転軸20と同軸上となるように(即ち回転軸20とウォーム軸32との中心軸線が一致するように)軸収容筒部31c内に配置されている。このウォーム軸32の軸方向の略中央部には、螺子歯状をなすウォーム部32aが形成されている。また、軸収容筒部31cにおけるウォーム軸32の先端側の端部には、該ウォーム軸32のスラスト荷重を受けるためのスラスト受けボール38及びスラスト受けプレート39が配置されている。
【0068】
ウォーム軸32においてウォーム部32aと軸受37にて軸支される部位との間には、周方向に多極着磁されたリング状のセンサマグネット41が同ウォーム軸32と一体回転するように着装されている。そして、軸収容筒部31cにおいてセンサマグネット41の外周面と対向する部位には、該センサマグネット41の回転に伴う磁界の変化を検出するホール素子42が配設されている。ホール素子42は、ウォーム軸32の回転数や回転速度等の回転情報を検出するための信号であって、センサマグネット41の回転に伴う磁界の変化に応じた信号である回転検出信号を出力する。そして、コントローラ25では、この回転検出信号に基づいてスライドドア3の開閉位置や開閉速度が検出される。
【0069】
前記ホイール収容部31dには、ウォーム軸32のウォーム部32aと噛合する円板状のウォームホイール33が回転可能に収容されている。このウォームホイール33の径方向の中央部には、該ウォームホイール33と一体回転するように出力軸35が固定されている。出力軸35には、図2に示すように、スライドドア3を開閉作動させるための前記ワイヤケーブル6が掛装される駆動プーリ(図示略)が一体回転するように連結されている。
【0070】
図1に示すように、前記クラッチ収容部31bには、ウォーム軸32と回転軸20との間に配置されてウォーム軸32と回転軸20との連結・断絶を行う機械式のクラッチ50が収容されている。図4に示すように、クラッチ50は、駆動側回転体51、2つのコロ部材52、2つの復帰スプリング53、保持ケース54、2つの案内部材55及び従動側回転体56を備えている。
【0071】
駆動側回転体51は、第1駆動プレート61と、該第1駆動プレート61に重ねて配置される第2駆動プレート62と、2つの連結スプリング63とから構成されている。
第1駆動プレート61は、略円板状をなすとともに、その径方向の中央部に軸方向に突出した円柱状の駆動側軸連結部61aを有する。駆動側軸連結部61aの径方向の中央部(即ち第1駆動プレート61の径方向の中央部)には、軸連結凹部61bが形成されている。軸連結凹部61bは、駆動側軸連結部61aにおける第2駆動プレート62側の軸方向の端面から、第1駆動プレート61における従動側回転体56側の軸方向の端面に向かって軸方向に沿って凹設されるとともに、軸方向から見た形状が二面幅形状をなしている。そして、図3に示すように、回転軸20の先端部が当該軸連結凹部61bに対応した二面幅形状をなしており、回転軸20の先端部が軸連結凹部61bに挿入されると、第1駆動プレート61は回転軸20の先端部に回転方向に係合され、該回転軸20と一体回転可能となる。尚、連結された回転軸20及び第1駆動プレート61は、同軸上となる(互いの中心軸線が一致する)。また、軸連結凹部61bの底部には、ボール収容孔61cが形成されている。このボール収容孔61cには、回転軸20と従動側回転体56との間のスラスト荷重を受ける球体状のスラスト受けボール71が収容されている。
【0072】
図4及び図6に示すように、第1駆動プレート61の外周縁部には、2つの制御溝61dが形成されている。2つの制御溝61dは、第1駆動プレート61において、周方向に等角度間隔(本実施形態では180°間隔)となる2箇所に形成されている。各制御溝61dは、第1駆動プレート61の外周縁から径方向内側に向かって凹設されることにより、径方向外側に開口している。また、各制御溝61dは、第1駆動プレート61を軸方向に貫通しており、軸方向の両側に開口している。
【0073】
各制御溝61dの周方向の中央部は、径方向に深く凹設された非係合凹部61eとなっている。この非係合凹部61eの内周面は、軸方向と平行をなすとともに、円弧状に湾曲している。そして、この非係合凹部61eが形成されることにより、各制御溝61dにおける非係合凹部61eの周方向の両側には、該非係合凹部61eよりも径方向に浅い一対の係合凹部61fが形成されている。各係合凹部61fの内周面は、軸方向と平行をなすとともに円弧状に湾曲した楔面61gとなっている。各楔面61gの曲率は、非係合凹部61eの内周面の曲率と等しいとともに、各楔面61gの曲率中心は、非係合凹部61eの内周面の曲率中心よりも第1駆動プレート61の径方向外側に位置する。また、各制御溝61dは、第1駆動プレート61の軸方向から見ると、各制御溝61dの周方向の中央を通り径方向に延びる直線(図示略)を対称軸として線対称となっている。
【0074】
また、第1駆動プレート61における第2駆動プレート62側の軸方向の端面には、2対の復帰凸部61hが突出形成されている。対をなす復帰凸部61hは、第1駆動プレート61において、周方向に等角度間隔(本実施形態では180°間隔)となる2箇所であって、周方向に隣り合う制御溝61d間となる位置にそれぞれ形成されている。対をなす復帰凸部61hは、第1駆動プレート61の周方向に間隔を空けて形成されるとともに、軸方向に突出する略直方体形状をなしている。
【0075】
図3及び図5に示すように、前記第2駆動プレート62は円板状をなしている。第2駆動プレート62は、円板状の案内部62aと、該案内部62aから軸方向に沿って第1駆動プレート61側に突出した略円板状の収容部62bとから構成されている。これらの案内部62a及び収容部62bは同軸上に形成されている。また、案内部62aの外径は、第1駆動プレート61の外径よりも大きく形成されるとともに、収容部62bの外径は、第1駆動プレート61の外径と等しく形成されている。この第2駆動プレート62の径方向の中央部には、軸方向に貫通した挿通孔62cが形成されている。挿通孔62cは、軸方向から見た形状が円形状をなすとともに、その内径は、駆動側軸連結部61aの外径と略等しい値とされている。
【0076】
図5及び図6に示すように、収容部62bにおける挿通孔62cの外周側には、一対のばね収容凹部62dが形成されている。2つのばね収容凹部62dは、収容部62bにおける第1駆動プレート61側の軸方向の端面から該収容部62bを軸方向に凹設して形成されている。そして、2つのばね収容凹部62dは、挿通孔62cを囲繞するような円弧状をなすとともに、挿通孔62cを挟んで対称な形状をなしている。これらばね収容凹部62dには、連結スプリング63がそれぞれ収容されている。各連結スプリング63は、圧縮コイルばねである。
【0077】
また、各ばね収容凹部62dの周方向の両側には、対をなす復帰凹部62eがそれぞれ形成されている。即ち、収容部62bには、2対の復帰凹部62eが形成されている。各ばね収容凹部62dの周方向の両側で対をなす復帰凹部62eは、収容部62bにおける第1駆動プレート61側の軸方向の端面から該収容部62bを軸方向に凹設して形成されている。そして、各復帰凹部62eの径方向の幅は、ばね収容凹部62dの径方向の幅よりも狭く、且つ、前記復帰凸部61hの径方向の幅と略等しく形成されている。また、各復帰凹部62eの周方向の幅は、前記復帰凸部61hの周方向の幅よりも長く形成されている。更に、各復帰凹部62eの軸方向の深さは、ばね収容凹部62dの軸方向の深さと等しく、且つ、前記復帰凸部61hの軸方向の長さと略等しく形成されている。また、ばね収容凹部62dの内部空間とその周方向の両側の復帰凹部62eの内部空間とは繋がっている。
【0078】
収容部62bには、周方向に隣り合う復帰凹部62eの間となる2箇所であって、同収容部62bにおいて周方向に等角度間隔(本実施形態では180°間隔)となる2箇所に、案内凹部62fがそれぞれ形成されている。各案内凹部62fは、収容部62bの外周縁から同収容部62bを径方向に沿って凹設して形成されている。そして、各案内凹部62fは、径方向外側に開口するとともに、収容部62bを軸方向に貫通している。本実施形態では、各案内凹部62fは、軸方向から見た形状が径方向外側に開口するU字状をなしている。また、各案内凹部62fの周方向の幅は、前記非係合凹部61eの周方向の幅と略等しく形成されている。
【0079】
前記案内部62aには、2つの案内凹部62fとそれぞれ軸方向に隣り合う2箇所に、挿通係合部62gが形成されている。2つの挿通係合部62gは、周方向に等角度間隔(本実施形態では180°間隔)に形成されている。そして、各挿通係合部62gは、案内部62aにおける収容部62bと反対側の軸方向の端面から該案内部62aを軸方向に凹設して形成されている。また、図3及び図6に示すように、各挿通係合部62gは、案内凹部62fの径方向内側の端と軸方向に隣り合う位置から、案内凹部62fよりも径方向外側(収容部62bの外周縁よりも径方向外側)となる位置まで径方向に沿って延びる溝状をなしている。そして、各挿通係合部62gの周方向の幅は、前記案内凹部62fの周方向の幅よりも狭く形成されている。また、各挿通係合部62gにおける案内凹部62fと軸方向に隣り合う部位は、案内部62aを軸方向に貫通しており、案内凹部62fと連通している。そして、各挿通係合部62gにおける案内凹部62fよりも径方向外側の部位は、案内部62aを軸方向に貫通せず凹部状になっている。
【0080】
上記のような第1駆動プレート61と第2駆動プレート62とは、対をなす復帰凹部62e内に対をなす復帰凸部61hがそれぞれ挿入されるとともに、駆動側軸連結部61aが挿通孔62cに挿入されるように軸方向に重ね合わされている。そして、駆動側回転体51においては、第1駆動プレート61と第2駆動プレート62とは、同軸上に(互いの中心軸線が一致するように)配置されている。また、対をなす復帰凸部61hの間にそれぞれ連結スプリング63が配置されることにより、第1駆動プレート61と第2駆動プレート62とは、連結スプリング63を介して回転方向に連結されている。そして、第1駆動プレート61と第2駆動プレート62とは、互いの中心軸線を回転中心として連結スプリング63の付勢力に抗しつつ相体回転可能である。また、第1駆動プレート61と第2駆動プレート62とは、連結スプリング63の付勢力によって、所定の相対回転位置に保持されている。本実施形態では、連結スプリング63は、第1駆動プレート61と第2駆動プレート62との相対回転位置を、制御溝61d(非係合凹部61e)の周方向位置と、案内凹部62fの周方向位置とが一致する中立位置に保持するように、第1駆動プレート61(復帰凸部61h)を付勢している。従って、図6に示すように、回転軸20の非駆動時には、駆動側回転体51を軸方向から見ると、2つの制御溝61dの周方向の中央と、2つの案内凹部62fの周方向の中央とが一致している。
【0081】
図3、図5及び図6に示すように、各前記コロ部材52は、連結部52aと、該連結部52aに一体に形成された動力伝達部52bと、同じく連結部52aに一体に形成されたカム係合部52cとから構成されている。
【0082】
連結部52aは、軸方向から見た形状がトラック形状をなす板状をなしている。連結部52aの短手方向の幅は、前記案内凹部62fの周方向の幅と略等しく形成されている。また、連結部52aの長手方向の幅は、前記案内凹部62fの径方向の長さと略等しく形成されている。そして、連結部52aの長手方向の両端面は、前記非係合凹部61eの内周面と同じ曲率の円弧状をなしている。更に、連結部52aの厚さは、前記案内凹部62fの軸方向の幅(即ち収容部62bの軸方向の厚さ)と略等しく形成されている。
【0083】
前記動力伝達部52bは、連結部52aの厚さ方向(軸方向)の一端面であって、連結部52aの長手方向の一端部(クラッチ50として組み付けられたときの径方向外側の端部)となる部位から連結部52aの厚さ方向(軸方向)に沿って延びている。動力伝達部52bは、円柱状をなすとともに、その軸方向の長さは、前記制御溝61dの軸方向の長さと略等しく形成されている。また、動力伝達部52bの円筒状の外周面の曲率は、前記非係合凹部61eの内周面及び前記楔面61gの曲率と等しくなっている。
【0084】
前記カム係合部52cは、連結部52aの厚さ方向(軸方向)の他端面であって、連結部52aの長手方向の他端部(クラッチ50として組み付けられたときの径方向内側の端部)となる部位から連結部52aの厚さ方向(軸方向)に沿って延びている。カム係合部52cは、動力伝達部52bよりも小径の円柱状をなすとともに、その軸方向の長さは、前記案内部62aの軸方向の厚さよりも長く形成されている。またカム係合部52cの基端部には、平面状の付勢面52dが形成されている。付勢面52dは、軸方向と平行をなすとともに、連結部52aの長手方向の一端側(即ち、連結部52aにおける動力伝達部52bが形成された側の長手方向の端部側)を向いている。
【0085】
そして、上記のような2つのコロ部材52は、前記第1駆動プレート61の2つの制御溝61dに動力伝達部52bがそれぞれ挿入されるとともに、前記第2駆動プレート62の2つの案内凹部62fに連結部52aがそれぞれ挿入されるように、駆動側回転体51に対して組付けられている。更に、2つのコロ部材52は、前記第2駆動プレート62の2つの挿通係合部62gにカム係合部52cがそれぞれ挿通されるように、駆動側回転体51に対して配置されている。尚、案内凹部62fに挿入された連結部52aは、その長手方向が径方向と一致するとともに、その厚さ方向が軸方向と一致している。更に、各コロ部材52においては、動力伝達部52bよりも径方向内側にカム係合部52cが位置し、付勢面52dが径方向外側を向いている。そして、各コロ部材52は、案内凹部62fの内周面に連結部52aの外周面を摺接させると同時に、挿通係合部62gの内周面にカム係合部52cの外周面を摺接させつつ、駆動側回転体51に対して径方向に移動可能である。そのため、コロ部材52は、案内凹部62f及び挿通係合部62gによって径方向の移動が案内される一方、これら案内凹部62f及び挿通係合部62gによって第2駆動プレート62に対する周方向の移動が規制される。更に、コロ部材52は、案内凹部62f内に連結部52aが配置されるとともに挿通係合部62gにカム係合部52cが挿通されたことにより、第2駆動プレート62と回転方向に係合し同第2駆動プレート62と一体回転可能である。
【0086】
また、各挿通係合部62gには、カム係合部52cの径方向外側となる位置に復帰スプリング53が収容されている。本実施形態の復帰スプリング53は、圧縮コイルばねである。各復帰スプリング53は、カム係合部52cに形成された付勢面52dに当接し、コロ部材52を径方向に沿って径方向内側に付勢している。
【0087】
図3、図5及び図7に示すように、保持ケース54は、円板状のカバー部54aと、該カバー部54aと一体に形成された挿通部54bと、該カバー部54a及び挿通部54bと一体に形成された一対の案内保持部54cとから構成されている。
【0088】
カバー部54aは、第2駆動プレート62の案内部62aの外径と等しい外径を有する。そして、このカバー部54aの径方向の中央部に、円筒状の挿通部54bが形成されている。挿通部54bは、カバー部54aにおける第2駆動プレート62側の軸方向の端面から軸方向に沿って延びるとともに、カバー部54aと同軸上に形成されている。そして、挿通部54bの外径は、前記駆動側軸連結部61aの外径と等しく形成されている。また、挿通部54bの径方向の中央部に形成された挿通孔54dは、挿通部54b及びカバー部54aを軸方向に貫通するとともに、該挿通孔54dの内径は、回転軸20の外径と略等しく形成されている。そして、保持ケース54は、挿通部54bの先端部が、案内部62a側から第2駆動プレート62の挿通孔62cに挿入されることにより、駆動側回転体51に対して互いの中心軸線を回転中心として相体回転可能に組付けられている。また、保持ケース54は、駆動側回転体51と同軸上となっている(互いの中心軸線が一致している)。尚、前記回転軸20は、保持ケース54の挿通孔54dを通って第1駆動プレート61の軸連結凹部61bに挿入されている。
【0089】
一対の前記案内保持部54cは、カバー部54aにおける第2駆動プレート62側の軸方向の端面上で、挿通孔54dの外周面における周方向に等角度間隔(本実施形態では180°間隔)となる2箇所からそれぞれ径方向に沿って径方向外側に延びた後に、カバー部54aの外周縁に沿ってそれぞれ周方向の両側に延びている。そして、各案内保持部54cは、軸方向から見た形状が略T字状をなしている。このような案内保持部54cが形成されることにより、保持ケース54には、2つの案内保持部54c間であって挿通部54bの直径方向の両側となる2箇所にそれぞれ保持凹部54eが形成されている。各保持凹部54eは、径方向外側及び軸方向の一方側(第2駆動プレート62側)に開口している。
【0090】
各保持凹部54eの径方向外側に開口する開口部54fには、一対の規制凸部54gが形成されている。各保持凹部54eにおいて、対をなす規制凸部54gは、保持凹部54eの周方向の幅を狭めるように案内凹部62fの内側に向かって突出している。そして、対をなす規制凸部54gの先端面は、周方向に互いに対向するとともに、互いに平行をなす案内面54hとなっている。各案内面54hは、軸方向と平行をなすとともに、保持ケース54の中央を通り且つ案内凹部62fの周方向の中央を通る直線(図示略)と平行に形成されている。
【0091】
2つの保持凹部54eには、それぞれ前記案内部材55が収容されている。各案内部材55は、慣性力が作用する重量を有するウェイトである。各案内部材55の軸方向の厚さは、保持凹部54eの軸方向の幅と等しく形成されている。そして、各案内部材55の径方向内側の端面は、保持凹部54eの径方向内側の底面54k(即ち、挿通部54bの外周面及び案内保持部54cの側面から構成される面)に対応した形状をなしている。また、各案内部材55の周方向の両端面には、それぞれ係止凸部55aが突出形成されている。各係止凸部55aは、各案内部材55の周方向の両端面における保持凹部54eの底面54k側の端部に形成されるとともに、前記規制凸部54gと対向している。また、各案内部材55の周方向の両端面であって、係止凸部55aよりも径方向外側(保持凹部54eの開口部54f側)の部位は、平面状の被案内面55bとなっている。各案内部材55に形成された2つずつの被案内面55bは、軸方向と平行をなすとともに、互いに平行をなしている。また、各案内部材55においては、2つの被案内面55b間の間隔が、各保持凹部54eにおける対をなす前記案内面54h間の間隔と略等しく形成されている。また、各案内部材55の径方向外側の端面55cは、カバー部54aの外周面と同じ曲率の円弧状をなしている。
【0092】
このような案内部材55は、保持凹部54e内で、対をなす案内面54h間に配置され、保持ケース54にて保持されている。そして、各案内部材55は、被案内面55bを案内面54hに摺接させながら径方向に移動可能である。従って、案内部材55は、案内面54hによって径方向の移動が案内される一方、当該案内面54hによって保持ケース54に対する周方向の移動が規制される。更に、案内部材55は、保持ケース54と共に保持ケース54の中心軸線を中心として一体回転可能である。また、各案内部材55は、径方向内側の端面が保持凹部54eの底面54kに当接した状態のときに、案内部材55の移動範囲内で最も径方向内側に配置される。そして、各案内部材55は、係止凸部55aが規制凸部54gに当接するまで径方向外側に移動可能である。各案内部材55は、係止凸部55aが規制凸部54gに当接した状態のときに、その移動範囲内で最も径方向外側に配置される。尚、各案内部材55は、係止凸部55aが規制凸部54gに当接したときに、その径方向外側の端面55cの曲率中心が保持ケース54の中心と一致する。
【0093】
また、各案内部材55には、カム溝55dが形成されている。図7に示すように、カム溝55dは、保持ケース54(若しくは第2駆動プレート62)の周方向に略沿うように延びる溝状をなすとともに、各案内部材55を軸方向に貫通している。更に、カム溝55dは、周方向(カム溝55dの長手方向に略同じ)の中央部から周方向の両端部に向かうに連れて径方向外側に向かうように延びている、また、カム溝55dの幅(短手方向の幅)は、前記コロ部材52のカム係合部52cの外径と略等しく形成されている。そして、各案内部材55のカム溝55dにおいて、周方向(長手方向)の中央が第1案内部P1とされるとともに、周方向(長手方向)の両端部が第2案内部P2とされている。尚、第1案内部P1は、案内部材55の周方向の中央に位置している。そして、各案内部材55が保持凹部54eに収容された状態では、第1案内部P1はカム溝55dにおいて最も径方向内側に位置する一方、第2案内部P2はカム溝55dにおいて最も径方向外側に位置する。
【0094】
また、本実施形態のカム溝55dは、軸方向から見ると、第1案内部P1を通り径方向に延びる直線(図示略)を対称軸として線対称に形成されている。また、各カム溝55dにおいては、第1案内部P1から第2案内部P2にかけて、径方向外側に膨らむ円弧状をなしている。そして、カム溝55dを軸方向から見た形状は、径方向外側に開口する略V字状をなしている。更に、カム溝55dは、径方向(カム溝55dの短手方向)に対向する一対のカム面Sを備えている。このカム面Sは、カム溝55dの内周面であって、第1案内部P1から周方向(長手方向)の両側の第2案内部P2まで延びている。
【0095】
図3及び図7に示すように、2つの保持凹部54eにそれぞれ収容された2つの案内部材55のカム溝55dには、2つのコロ部材52のカム係合部52cの先端側の部位がそれぞれ挿入されている。カム係合部52cがカム溝55d内に挿入されることにより、コロ部材52は、カム溝55dに係合され、案内部材55に対するカム溝55dの長手方向に沿った移動が案内される一方、カム溝55dの幅方向の移動が規制される。そして、保持ケース54にて保持された案内部材55と駆動側回転体51とが駆動側回転体51の中心軸線を回転中心として相対回転されると、コロ部材52と案内部材55(カム溝55d)とが相対回転される。すると、カム溝55dとカム係合部52cとからなるカム機構によって、コロ部材52は、案内部材55の径方向位置に応じて挿通係合部62gに案内されながら駆動側回転体51の径方向に沿って移動される。この時、コロ部材52は、カム係合部52cの外周面がカム面Sに摺接することにより、径方向の移動が案内される。
【0096】
このように、クラッチ50は、案内部材55に形成されたカム溝55dと該カム溝55dに係合するコロ部材52とから構成され、案内部材55と駆動側回転体51との相対回転に伴ってカム溝55dによりコロ部材52の径方向の移動を案内するカム機構を備えている。図6及び図7に示すように、案内部材55がその径方向の移動範囲内で最も径方向内側に配置された状態で、駆動側回転体51と案内部材55との相対回転によってカム係合部52cがカム溝55dの第1案内部P1に配置された場合には、動力伝達部52bは、非係合凹部61e内に配置されるとともに、その径方向の移動範囲内で最も径方向内側に配置される。この時のコロ部材52の配置位置は、駆動側回転体51と後述の従動側回転体56とを回転方向に係合しない非係合位置に該当する。そして、カム機構においては、このように、最も径方向内側に配置された案内部材55のカム溝55dの第1案内部P1にカム係合部52cを配置することにより、コロ部材52を非係合位置に配置した状態が、回転軸20とウォーム軸32とを断絶する初期状態である。
【0097】
一方、図8に示すように、案内部材55がその径方向の移動範囲内で最も径方向内側に配置された状態で、駆動側回転体51と案内部材55との相対回転によってカム係合部52cがカム溝55dの第2案内部P2に配置されると、図11(a)に示すように、動力伝達部52bは、その径方向の移動範囲内で最も径方向外側に配置される。この時、動力伝達部52bは、その一部が第1駆動プレート61の外周面よりも径方向外側に突出するとともに、この時のコロ部材52の配置位置は、駆動側回転体51と後述の従動側回転体56とを回転方向に係合する係合位置に該当する。尚、カム係合部52cは、第1案内部P1から第2案内部P2へと移動するときには、径方向外側へ移動することになる。従って、カム係合部52cは、復帰スプリング53の付勢力に抗して同復帰スプリング53を径方向に縮めながら、第1案内部P1から第2案内部P2へと移動する。そして、カム機構においては、このように、最も径方向内側に配置された案内部材55のカム溝55dの第2案内部P2にカム係合部52cを配置することにより、コロ部材52を係合位置に配置した状態が、回転軸20とウォーム軸32とを連結する連結状態である。
【0098】
また、クラッチ50は、コロ部材52が係合された案内部材55から構成され、駆動側回転体51に伴って回転することにより生じた遠心力により径方向外側に移動した案内部材55によってコロ部材52を係合位置に保持する保持機構を備えている。この保持機構においては、図8に示すように、案内部材55がその移動範囲内で最も径方向内側に配置された状態が、回転軸20とウォーム軸32とを断絶する初期状態である。そして、カム機構によってコロ部材52が第2案内部P2に移動されることにより係合位置に配置された後に、案内部材55が遠心力によって径方向外側に移動されつつ駆動側回転体51と案内部材55とが相対回転されると、コロ部材52に対して案内部材55が周方向に回転される。この時、カム係合部52cが第2案内部P2から第1案内部P1へ移動するものの案内部材55の径方向外側への移動に伴ってカム溝55dが径方向外側へ移動されるため、コロ部材52は、係合位置に配置された状態に維持される。そして、保持機構においては、このように、案内部材55をその移動範囲内で最も径方向外側に配置することにより、カム係合部52cをカム溝55dの第1案内部P1に配置しつつ案内部材55によってコロ部材52を係合位置に保持した状態が、回転軸20とウォーム軸32とを連結する連結状態である。
【0099】
図3に示すように、前記従動側回転体56は、有底円筒状の従動円筒部56aと、該従動円筒部56aと一体に形成された従動側軸連結部56bとから構成されている。図1に示すように、従動側回転体56は、従動円筒部56aの開口部がモータ本体12側を向くようにクラッチ収容部31bに収容されている。
【0100】
図3に示すように、従動円筒部56aの外径は、前記第2駆動プレート62及び前記保持ケース54の外径と等しい。また、従動側回転体56の内側の深さは、前記第1駆動プレート61の軸方向の長さと略等しい。図6に示すように、従動円筒部56aの円筒状の側壁部56cの内周面には、周方向に等角度間隔(本実施形態では180°間隔)となる2箇所に、径方向内側に突出した制御凸部56dが形成されている。従動側回転体56において、制御凸部56dが形成された部位の内径は第1駆動プレート61の外径よりも若干大きい。そして、図3に示すように、従動円筒部56aの内部には、第1駆動プレート61及び収容部62bが収容されている。従動円筒部56aの内部に収容された第1駆動プレート61は、その外周縁が制御凸部56dと径方向に対向する。更に、コロ部材52の動力伝達部52bは、径方向に対向する第1駆動プレート61と従動側回転体56の側壁部56cとの間に配置されている。そして、駆動側回転体51及び保持ケース54は、同軸上に(中心軸線が一致するように)配置されている。また、側壁部56cにおける従動円筒部56aの開口部側の端部が、第2駆動プレート62の案内部62aの外周縁部と軸方向に対向する。
【0101】
図6に示すように、側壁部56cの内周面に制御凸部56dが形成されることにより、従動側回転体56の内部には周方向に隣り合う制御凸部56d間に制御凹部56eが形成されている。2つの制御凹部56eは、周方向に等角度間隔(本実施形態では180°間隔)に形成されている。また、制御凹部56eの周方向の幅は、前記動力伝達部52bの外径よりも広く形成されている。そして、制御凹部56eの周方向の両側の内側面(制御凸部56dの周方向の端面)は、径方向内側に向かうに連れて周方向の間隔が広くなる一対の伝達面56fを形成している。各伝達面56fは、軸方向と平行をなすとともに、動力伝達部52bの外周面の曲率と略等しい曲率の円弧状をなしている。
【0102】
また、図3に示すように、従動円筒部56aの底部中央には、該従動円筒部56aの内側に開口するプレート凹部56gが凹設されるとともに、該プレート凹部56gには、円板状のスラスト受けプレート72が収容されている。このスラスト受けプレート72には、前記第1駆動プレート61のボール収容孔61c内に収容された前記スラスト受けボール71が当接している。そして、スラスト受けプレート72は、スラスト受けボール71と共に回転軸20のスラスト荷重を受ける。
【0103】
前記従動側軸連結部56bは、従動円筒部56aの底部中央から軸方向に沿って延びるとともに、従動円筒部56aの外側に突出している。また、図1に示すように、従動側軸連結部56bは、円柱状をなすとともに、その外径は、ウォーム軸32の基端部に設けられたウォーム側軸連結部32bの外径と等しい大きさとされている。尚、ウォーム側軸連結部32bの基端面(図1において上側の端面)には、周方向に等角度間隔(120°間隔)となる2箇所に軸連結凹部32cが形成されている。図1には、軸連結凹部32cのうち1つのみを図示している。各軸連結凹部32cは、ウォーム側軸連結部32bの基端面からウォーム軸32の軸方向に沿って凹設されるとともに、ウォーム軸32の基端側(図1において上側)及び径方向外側に開口している。
【0104】
図5に示すように、従動側軸連結部56bの先端には、前記軸連結凹部32c(図1参照)に対応した軸連結凸部56hが突出形成されている。軸連結凸部56hは、従動側軸連結部56bの先端の外周縁であって、周方向に等角度間隔(本実施形態では120°間隔)となる3箇所から軸方向に突出している。また、各軸連結凸部56hは、周方向の幅、径方向の幅及び軸方向の長さが、前記軸連結凹部32c(図1参照)の周方向の幅、径方向の幅及び軸方向の深さとそれぞれ等しく形成されている。そして、図1及び図3に示すように、ウォーム軸32の3つの軸連結凹部32c内に3つの軸連結凸部56hがそれぞれ挿入されることにより、従動側回転体56とウォーム軸32とが回転方向に係合されて一体回転可能となる。尚、従動側軸連結部56bは、クラッチ収容部31bの底部から軸収容筒部31c内に突出するとともに、軸収容筒部31cの一端側に配置された軸受36によって軸支されている。
【0105】
また、従動側回転体56は、駆動側回転体51と共に、係合位置に配置されたコロ部材52を挟持する挟持機構を構成している。この挟持機構においては、図6若しくは図11(a)に示すように、駆動側回転体51の楔面61gと、従動側回転体56の伝達面56fとによってコロ部材52の動力伝達部52bを挟持していない状態(即ち挟持が解除された状態)が、回転軸20とウォーム軸32とを断絶する初期状態となっている。一方、図10に示すように、挟持機構においては、係合位置に配置されたコロ部材52の動力伝達部52bを、楔面61gと伝達面56fとによって挟持した状態が、回転軸20とウォーム軸32とを連結する連結状態となっている。この連結状態においては、第1駆動プレート61が、連結スプリング63の付勢力に抗して該連結スプリング63を縮めながら第2駆動プレート62に対して相体回転されている。
【0106】
次に、本実施形態のクラッチ50の作用を説明する。
クラッチ50においては、カム機構の連結状態から初期状態への復帰、並びに、保持機構の連結状態から初期状態への復帰は、コロ部材52を付勢する復帰スプリング53の付勢力によって行われる。
【0107】
図8に示すように、連結状態にあるカム機構は、復帰スプリング53が、コロ部材52のカム係合部52cを介して径方向内側のカム面Sを径方向に沿って径方向内側に付勢することにより、初期状態に復帰される。ここで、復帰スプリング53の付勢力をF1、この付勢力F1の分力をF1a,F1bとする。復帰スプリング53の付勢力F1は、コロ部材52を径方向に沿って径方向内側に付勢する力である。また、分力F1aは、第2案内部P2に配置されたカム係合部52cとカム面Sとの接点における接線Lと平行な方向の付勢力F1の分力であるとともに、分力F1bは、当該接線と垂直な方向の付勢力F1の分力であって第2案内部P2に配置されたカム係合部52cがカム面Sを垂直に付勢する力である。分力F1bは、第2案内部P2に配置されたカム係合部52cを介してカム溝55dの内周面を付勢する。そして、分力F1bの作用によってカム係合部52cがカム溝55dの内周面を付勢することにより、保持ケース54と共に案内部材55が、カム係合部52cを第2案内部P2から第1案内部P1に移動させる方向に回転される。その結果、カム機構は、カム係合部52cを第1案内部P1に配置する初期状態に復帰される。尚、分力F1aは、カム係合部52cを、カム溝55dの長手方向に略沿って第1案内部P1の方へ付勢する。
【0108】
また、図9に示すように、連結状態にある保持機構は、復帰スプリング53の付勢力が、第1案内部P1に配置されたカム係合部52cからカム溝55dの内周面に伝達されることにより、初期状態に復帰される。詳述すると、復帰スプリング53の付勢力F1の作用によって、カム溝55dの第1案内部P1に配置されたカム係合部52cが、カム溝55dの内周面を径方向内側に向けて付勢する。その結果、案内部材55が径方向内側に移動され、保持機構は初期状態に復帰する。保持機構の初期状態への復帰に伴って、コロ部材52も径方向内側の非係合位置に復帰する。
【0109】
また、図10に示すように、連結状態にある挟持機構は、連結スプリング63の付勢力によって初期状態に復帰される。詳述すると、復帰凸部61hを付勢する連結スプリング63の付勢力によって第1駆動プレート61が第2駆動プレート62に対して相対回転されて(図10において矢印α参照)、第1駆動プレート61と第2駆動プレート62とが中立位置に復帰される。すると、伝達面56fに対して楔面61gが離間して、楔面61gと伝達面56fとによる挟持が解除される。即ち、挟持機構が初期状態に復帰される。
【0110】
次に、本実施形態のモータ11の動作を、クラッチ50の動作を中心に説明する。
モータ本体12の停止時のように回転軸20が回転駆動されていない場合には、図6及び図7に示すように、第1駆動プレート61と第2駆動プレート62との相対回転位置は、復帰凸部61hを付勢する連結スプリング63の付勢力によって、2つの制御溝61dの周方向位置と2つの案内凹部62fの周方向位置とが一致する中立位置に維持されている。また、各案内部材55は、遠心力が作用していないため、カム係合部52cを介して伝達される復帰スプリング53の付勢力によって該案内部材55の径方向の移動範囲内で最も径方向内側に配置されている。更に、カム係合部52cは、復帰スプリング53の付勢力によって第1案内部P1に配置された状態に維持されるとともに、動力伝達部52bは、復帰スプリング53の付勢力によって非係合凹部61e内に配置された状態に維持されている。従って、コロ部材52は、その径方向の移動範囲内において最も径方向内側となる位置であって、従動側回転体56と回転方向に係合しない非係合位置に配置されている。そのため、カム機構、保持機構及び挟持機構は初期状態となっており、クラッチ50は回転軸20とウォーム軸32とを断絶している。
【0111】
この状態から、図1及び図2に示すように、手動によりスライドドア3を開作動又は閉作動させるべく、スライドドア3側から出力軸35が回転されると、該出力軸35の回転に伴ってウォーム軸32が回転される。そして、図6に示すように、回転軸20が回転駆動されない場合は、コロ部材52は非係合位置に配置されているため、従動側回転体56は、コロ部材52と回転方向に係合せず、回転軸20とウォーム軸32とは断絶状態にある。従って、従動側回転体56は、ウォーム軸32の回転に伴って、駆動側回転体51に対して空転する。よって、出力軸35側からの回転が容易となる。従って、大きな操作力を必要としない容易なスライドドア3の手動による開閉動作が可能となっている。
【0112】
そして、図1乃至図3に示すように、スライドドア3を自動で開作動又は閉作動する旨の指令が生じると、コントローラ25によってモータ本体12が駆動され、回転軸20が回転駆動されて該回転軸20に連結された駆動側回転体51の回転駆動が開始される。図6に示すように、駆動側回転体51の回転駆動の開始時には、第1駆動プレート61と第2駆動プレート62とは、ほぼ一体的に(殆ど相対回転することなく)回転する。そして、コロ部材52も、挿通係合部62gの内周面からカム係合部52cに第2駆動プレート62の回転駆動力が伝達されるため、駆動側回転体51の中心軸線を回転中心として同駆動側回転体51と一体回転する。一方、案内部材55及び該案内部材55を保持した保持ケース54は、駆動側回転体51の回転駆動の開始時には、案内部材55に作用する慣性力によってその回転位置が維持される。その結果、図11(a)及び図11(b)に示すように、駆動側回転体51は、その回転駆動の開始時には、案内部材55及び保持ケース54に対して相対回転する。そして、駆動側回転体51と保持ケース54にて保持された案内部材55との間に回転角度の差が生じる。すると、カム溝55dに対してカム係合部52cが保持ケース54の周方向に回転されるため、カム機構が作動して、カム係合部52cは、カム溝55dのカム面Sに案内されながら第1案内部P1から駆動側回転体51の回転方向の前方側の第2案内部P2に向かって移動される。この時、カム係合部52cは、復帰スプリング53の付勢力に抗して該復帰スプリング53を径方向に縮めながら、第1案内部P1から第2案内部P2へと移動される。そして、カム溝55dの作用により、コロ部材52は、径方向内側の非係合位置から、径方向外側の係合位置に移動される。尚、駆動側回転体51の回転駆動の開始時には、保持ケース54にて保持された案内部材55は、慣性力によってその回転位置が維持されているため、同案内部材55には遠心力が作用していない。従って、駆動側回転体51の回転駆動の開始時にカム係合部52cが第1案内部P1から第2案内部P2に相対的に移動する際には、案内部材55は、その径方向の移動範囲内で最も径方向内側に配置されている。
【0113】
そして、図12(a)及び図12(b)に示すように、駆動側回転体51の回転に伴って、係合位置に配置されたコロ部材52の動力伝達部52bが、制御凹部56e内で駆動側回転体51の回転方向の前方側の伝達面56fに当接する。これにより、回転軸20の回転駆動力は、第1駆動プレート61、連結スプリング63、第2駆動プレート62、コロ部材52の順に伝達され、更に、コロ部材52の動力伝達部52bから従動側回転体56に伝達可能となる。
【0114】
また、駆動側回転体51の回転駆動の開始時には、従動側回転体56に連結されたスライドドア3は停止されているため、従動側回転体56には大きな負荷が作用している。そのため、係合位置に配置されたコロ部材52の動力伝達部52bが駆動側回転体51の回転方向の前方側の伝達面56fに当接すると、従動側回転体56から受ける反力によってコロ部材52が減速される。そして、カム係合部52cにてコロ部材52と係合された第2駆動プレート62も減速される。一方、図13(a)に示すように、第1駆動プレート61は、連結スプリング63の付勢力に抗して該連結スプリング63を縮めながら第2駆動プレート62に対して先行して回転する。即ち、第1駆動プレート61は、第2駆動プレート62に対して相対回転する。従って、第2駆動プレート62と一体回転するコロ部材52の動力伝達部52bに対して第1駆動プレート61が相対回転し、各制御溝61dの一対の係合凹部61fのうち第1駆動プレート61の回転方向の後方側の係合凹部61f内に動力伝達部52bが配置されるとともに、該係合凹部61fの楔面61gが動力伝達部52bに回転方向から当接する。そして、楔面61gと伝達面56fとによって動力伝達部52bが挟持される。その結果、回転軸20の回転駆動力は、連結スプリング63及び第2駆動プレート62を介することなく、第1駆動プレート61からコロ部材52の動力伝達部52bを介して従動側回転体56に伝達され、従動側回転体56が回転され始める。
【0115】
また、図12(b)及び図13(b)に示すように、カム係合部52cが第2案内部P2に配置された後、回転駆動が開始された駆動側回転体51と共に回転するコロ部材52から復帰スプリング53の付勢力が伝達される案内部材55も、駆動側回転体51に伴って回転し始める。そして、案内部材55の回転速度が上昇すると、その回転速度の上昇に伴って、該案内部材55に作用する慣性力が小さくなる。案内部材55は、該案内部材55に作用する慣性力が小さくなるに連れて、カム係合部52cを介して伝達される復帰スプリング53の付勢力F1の分力F1b(図8参照)の作用により、保持ケース54と共に、駆動側回転体51に対して同駆動側回転体51と同方向に相対回転していく。この駆動側回転体51に対する案内部材55の相対回転に伴って、保持ケース54にて保持された案内部材55のカム溝55dが、カム係合部52cに対して保持ケース54の周方向に回転されるため、カム係合部52cは、第2案内部P2から第1案内部P1へ相対的に移動される。この時、同時に、案内部材55の回転速度の増大に伴って、案内部材55に作用する遠心力が徐々に大きくなるため、案内部材55は、案内面54hに案内されながら径方向外側に移動される。従って、カム係合部52cの径方向位置は径方向に変化することなく維持されるため、コロ部材52は案内部材55によって係合位置に保持される(即ち、保持機構が連結状態となる)。
【0116】
そして、従動側回転体56が回転し始めた後、図13(a)に示すように、従動側回転体56に作用する負荷が連結スプリング63の付勢力よりも大きい場合には、第1駆動プレート61が連結スプリング63の付勢力に抗して該連結スプリング63を縮めながら第2駆動プレート62に対して第1駆動プレート61の回転方向に回転される。その結果、各制御溝61dの一対の楔面61gのうち第1駆動プレート61の回転方向の後方側の楔面61gが、動力伝達部52bの外周面に回転方向から当接し、当該楔面61gと伝達面56fとによって動力伝達部52bが挟持される(即ち、挟持機構が連結状態となる)。そして、回転軸20の回転駆動力は、第1駆動プレート61からコロ部材52を介して従動側回転体56に伝達される。その結果、従動側回転体56が回転されるため、該従動側回転体56に連結されたウォーム軸32が回転される。そして、ウォーム部32aとウォームホイール33とによって減速された回転力が出力軸35から出力され、スライドドア3が自動で開作動又は閉作動される。
【0117】
一方、図14(a)及び図14(b)に示すように、従動側回転体56に作用する負荷が連結スプリング63の付勢力以下である場合には、第1駆動プレート61と第2駆動プレート62とは、連結スプリング63の付勢力によって中立位置に保持された状態で一体的に回転する。従って、回転軸20の回転駆動力は、第1駆動プレート61、連結スプリング63、第2駆動プレート62、コロ部材52、従動側回転体56の順に伝達される。その結果、従動側回転体56が回転されるため、該従動側回転体56に連結されたウォーム軸32が回転される。そして、ウォーム部32aとウォームホイール33とによって減速された回転力が出力軸35から出力され、スライドドア3が自動で開作動又は閉作動される。
【0118】
モータ本体12が停止されると、回転軸20の回転速度が低下する。そして、図13(a)に示すように、モータ本体12が停止された時の状態が、従動側回転体56に作用する負荷が連結スプリング63の付勢力より大きい状態であった場合には、復帰凸部61hを付勢する連結スプリング63が、第1駆動プレート61を直前の回転方向と反対方向に回転させる。これにより、第1駆動プレート61が第2駆動プレート62に対して相対回転されるため、伝達面56fと楔面61gとによる動力伝達部52bの挟持が解除される(即ち、挟持機構が初期状態に復帰される)。更に、連結スプリング63の付勢力によって、第1駆動プレート61と第2駆動プレート62との相対回転位置が、2つの制御溝61dの周方向位置と2つの案内凹部62fの周方向位置とが一致する中立位置に復帰される。
【0119】
また、駆動側回転体51の回転速度が低下すると、駆動側回転体51からコロ部材52を介して回転駆動力が伝達されて回転していた案内部材55及び従動側回転体56の回転速度も低下する。すると、案内部材55に作用する遠心力が小さくなるため、復帰スプリング53の付勢力によって、案内部材55は径方向内側に移動される(即ち、保持機構が初期状態に復帰する)。そして、図6及び図7に示すように、案内部材55のカム溝55dにカム係合部52cが挿入されたコロ部材52は、案内部材55と共に径方向内側に移動される。この時、カム係合部52cは、カム溝55dにおいて第1案内部P1に位置している。従って、コロ部材52は、係合位置から非係合位置に移動される。その結果、駆動側回転体51と従動側回転体56との回転方向の係合が解除されて、回転軸20とウォーム軸32とが断絶された状態となる。
【0120】
また、図14(a)及び図14(b)に示すように、モータ本体12が停止された時の状態が、従動側回転体56に作用する負荷が連結スプリング63の付勢力より小さい状態であった場合には、駆動側回転体51の回転速度の低下に伴って案内部材55に作用する遠心力が小さくなると、復帰スプリング53の付勢力によって案内部材55が径方向内側に移動される(即ち、保持機構が初期状態に復帰される)。そして、図6及び図7に示すように、案内部材55と共にコロ部材52が径方向内側に移動される。この時、カム係合部52cは、カム溝55dにおいて第1案内部P1に位置しているため、コロ部材52は、係合位置から非係合位置に移動される。その結果、駆動側回転体51と従動側回転体56との回転方向の係合が解除されて、回転軸20とウォーム軸32とが断絶された状態となる。
【0121】
尚、図11(a)乃至図14(a)では、駆動側回転体51(回転軸20)が図において時計方向に回転された場合のクラッチ50を図示している。しかし、クラッチ50は、回転軸20が図11(a)乃至図14(a)において反時計方向に回転された場合も同様に回転軸20とウォーム軸32とを連結するものである。
【0122】
上記したように、本第1実施形態によれば、以下の効果を有する。
(1)復帰スプリング53は、カム機構及び保持機構の2つの機構を初期状態に復帰させるように付勢力を発揮するため、複数の機構に対してそれぞれ初期状態に復帰させるための復帰スプリング53を設ける場合に比べて、復帰スプリング53の数を減少させることができる。その結果、部品点数を減少させることができる。更に、クラッチ50の構造を簡単化できるとともに、組付け性を向上させることが可能となる。
【0123】
(2)復帰スプリング53は、カム機構、保持機構及び挟持機構のうちカム機構及び保持機構の2つの機構を、駆動側回転体51の停止時にコロ部材52を非係合位置に配置するように、即ち初期状態とするように付勢している。従って、カム機構及び保持機構の2つの機構を初期状態に復帰させるための復帰スプリング53の数を減少させることができる。
【0124】
(3)カム機構を備えたクラッチ50においては、駆動側回転体51の回転駆動の開始時に駆動側回転体51と案内部材55とが相体回転されると、駆動側回転体51にて保持されたコロ部材52と、案内部材55のカム溝55dとが相体回転される。そして、駆動側回転体51と案内部材55とが相体回転すると、コロ部材52は、カム溝55dに案内されて非係合位置から係合位置へ移動する。このように、コロ部材52の移動は、カム溝55dによって移動方向が規制された状態で行われるため、コロ部材52は、カム溝55dに案内されながら非係合位置から係合位置へ安定して移動される。従来のクラッチでは、コロ部材に作用する遠心力によって該コロ部材を非係合位置から係合位置へ移動させるため、モータ本体の駆動時に、遠心力で勢いよくコロ部材が径方向外側に飛び出すと、従動円筒部に弾かれてコロ部材が内側に戻ってしまうことがあった。そのため、コロ部材が係合位置に安定して配置されるまでに、遠心力で径方向外側に飛び出したコロ部材が従動円筒部に弾かれて内側に戻るという動作を複数回繰り返すこともあった。しかし、本実施形態のクラッチ50のように、カム機構の作動によってコロ部材52を非係合位置から係合位置に案内することにより、駆動側回転体51の回転駆動の開始時に速やかにコロ部材52を係合位置に安定して配置することができる。従って、駆動側回転体51と従動側回転体56とを連結する動作の確実性を向上させることができる。
【0125】
(4)保持機構を備えたクラッチ50においては、駆動側回転体51の回転駆動時には、コロ部材52は、遠心力により径方向外側に移動した案内部材55によって係合位置に保持される。従って、駆動側回転体51と従動側回転体56とがコロ部材52を介して連結された状態が安定して維持されるため、コロ部材52を介して駆動側回転体51から従動側回転体56へ安定して回転駆動力を伝達することができる。また、案内部材55によってコロ部材52が係合位置に保持されるため、駆動側回転体51の回転駆動時に駆動側回転体51と従動側回転体56とを連結した状態を維持するために摩擦力等を発生させる手段を別途設けなくてもよい。よって、クラッチ50の構成や動作が複雑化されることが抑制される。
【0126】
(5)挟持機構を備えたクラッチ50においては、係合位置に配置されたコロ部材52が駆動側回転体51と従動側回転体56とによって挟持されるため、コロ部材52を係合位置に配置した状態に維持しやすいとともに、駆動側回転体51から従動側回転体56へ回転駆動力を安定して伝達することができる。
【0127】
(6)復帰スプリング53は、コロ部材52が非係合位置側に移動されるように駆動側回転体51と案内部材55とを相体回転させるべく案内部材55を付勢するとともに、案内部材55を径方向内側に付勢している。従って、復帰スプリング53は、案内部材55を付勢するだけで、カム機構と保持機構との両方を容易に初期状態に復帰させることができる。
【0128】
(7)復帰スプリング53は、コロ部材52の非係合位置から係合位置への移動を案内するカム面Sを、コロ部材52を介して径方向に沿って径方向内側に付勢することにより、案内部材55を径方向に付勢することができるとともに、案内部材55を回転方向に付勢することができる。従って、カム機構及び保持機構の2つの機構を初期状態に復帰させるために、当該2つの機構に復帰スプリング53の付勢力を作用させるための構成を新たに追加しなくてもよい。その結果、クラッチ50の構成が複雑化されることが抑制される。
【0129】
(8)コロ部材52は、カム機構、保持機構及び挟持機構の全ての機構に関わる部品であるため、このコロ部材52を復帰スプリング53にて付勢することにより、復帰スプリング53と機構との間に新たな部品を追加しなくとも、コロ部材52を介してコロ部材52の付勢力をカム機構及び保持機構に容易に作用させることができる。
【0130】
(9)挟持機構は、連結スプリング63の付勢力によって駆動側回転体51と従動側回転体56とによるコロ部材52の挟持を解除する、即ち連結スプリング63の付勢力によって初期状態に復帰される。従って、復帰スプリング53は、カム機構と保持機構とを初期状態に復帰させるだけの付勢力を備えたものであればよいため、復帰スプリング53の付勢力を小さく抑えることができる。従って、復帰スプリング53の小型化を図ることが可能となり、ひいてはクラッチ50の小型化を図ることが可能となる。また、復帰スプリング53の付勢力が小さく抑えられると、該復帰スプリング53の付勢力に抗して遠心力によって径方向外側に移動する案内部材55の重量を小さく抑えることができる。その結果、クラッチ50の軽量化を図ることができる。
【0131】
(10)回転軸20の回転駆動が停止されて第1駆動プレート61の回転駆動が停止されたときに、第2駆動プレート62に対して第1駆動プレート61を直前の回転方向と反対方向に回転させるように同第1駆動プレート61を連結スプリング63にて付勢することにより、伝達面56fに対して楔面61gを容易に離間させることができる。従って、連結スプリング63の付勢力によって挟持機構を容易に初期状態に復帰させることができる。
【0132】
(11)コロ部材52は、カム係合部52cが挿入される溝状のカム溝55dによって非係合位置と係合位置との間の移動が案内される。従って、復帰スプリング53がコロ部材52を径方向内側に付勢すると、コロ部材52がカム溝55dの内周面を径方向内側に押圧することになる。従って、復帰スプリング53の付勢力によって、案内部材55を容易に径方向内側に移動させることができるため、保持機構を容易に初期状態に復帰させることができる。また、カム溝55dは溝状という簡単な形状であるため、案内部材の構成が複雑化されることが抑制される。
【0133】
(12)案内部材55の径方向の移動が保持ケース54によって案内されるため、保持機構が良好に機能する。また、案内部材55は、駆動側回転体51の停止時には、復帰スプリング53の付勢力を受けて、保持ケース54によって案内されながら径方向内側に移動するため、保持機構の初期状態への復帰が円滑に行われる。
【0134】
(13)駆動側回転体51の回転駆動の開始時には、案内部材55に作用する慣性力を利用して駆動側回転体51と案内部材55とを相体回転させる。そのため、コロ部材52を非係合位置から係合位置へ移動させるために駆動側回転体51と案内部材55とを相体回転させるための手段を別途備えなくてもよい。
【0135】
(14)モータ11は、復帰スプリング53の数が減少されたクラッチ50を備えている。従って、このモータ11を構成する部品の数が減少されるため、製造コストが低減される。また、クラッチ50は、モータ本体12の回転軸20と、減速機構34を構成するウォーム軸32との間に設けられているため、モータ11において回転軸20の回転駆動力が減速される前のところに設けられている。従って、クラッチ50を構成する各部品に加わる荷重を小さく抑えられることから、クラッチ50を小型化することが可能となる。よって、このクラッチ50を備えたモータの小型化が可能となる。そして、小型化されたモータ11は、スライドドア3の内部等、配置スペースの狭いところへ容易に設置することができる。また、モータ11において減速される前のところにクラッチ50を設けることで、案内部材55に作用する遠心力が発生しやすくなる。従って、本実施形態のクラッチ50のように、案内部材55を遠心力によって径方向外側に移動させる構成とした場合に有利となる。
【0136】
(15)スライドドア開閉装置1の駆動源として用いられるモータ11には、復帰スプリング53の数が減少されたクラッチ50が備えられている。従って、このスライドドア開閉装置1を構成する部品の数が減少されるため、製造コストが低減される。
【0137】
(第2実施形態)
以下、本発明を具体化した第2実施形態を図面に従って説明する。尚、本第2実施形態では、上記第1実施形態と同一の構成に同一の符号を付してその説明を省略する。
【0138】
図15に示す本第2実施形態のクラッチ80は、上記第1実施形態のクラッチ50に代えてモータ11に備えられるものである。クラッチ80は、駆動側回転体81、2つのコロ部材52、2つの復帰スプリング82、保持ケース54、2つの案内部材55及び従動側回転体56を備えている。
【0139】
駆動側回転体81は、第1駆動プレート91と、該第1駆動プレート91に重ねて配置される第2駆動プレート92とから構成されている。
図17に示すように、第1駆動プレート91は、略円板状をなすとともに、同第1駆動プレート91の外径は、従動側回転体56における制御凸部56dが形成された部位の内径よりも若干小さく形成されている。そして、第1駆動プレート91の径方向の中央部には、駆動側軸連結部61a、軸連結凹部61b及びボール収容孔61cが形成されている。尚、ボール収容孔61cには、スラスト受けボール71が収容されている。
【0140】
図15及び図16に示すように、第1駆動プレート91の外周縁部には、2つの制御溝91aが形成されている。2つの制御溝91aは、第1駆動プレート91において、周方向に等角度間隔(本実施形態では180°間隔)となる2箇所に形成されている。各制御溝91aは、第1駆動プレート91の外周縁から径方向内側に向かって凹設されることにより、径方向外側に開口している。また、各制御溝91aは、軸方向には従動側回転体56の底部と反対側(即ち第2駆動プレート92側)にのみ開口している。
【0141】
各制御溝91aの内周面には、一対の楔面91bが形成されている。一対の楔面91bは、それぞれ軸方向と平行な平面状をなすとともに、径方向内側から径方向外側に向かうに連れて互いの間隔が広くなるように第1駆動プレート91の径方向に対して傾斜している。また、各楔面91bは、径方向外側を向いている。
【0142】
図17に示すように、前記第2駆動プレート92は、案内部62aと収容部62bとから構成され、円板状をなしている。この第2駆動プレート92の径方向の中央部には、挿通孔62cが形成されている。また、収容部62bの径方向の中央部には、第1駆動プレート91側に開口する挿入凹部92aが軸方向に凹設されている。挿入凹部92aの内径は、駆動側軸連結部61aの外径と略等しく形成されている。また、収容部62bには、周方向に等角度間隔(本実施形態では180°間隔)となる2箇所に案内凹部62fが形成されている。更に、案内部62aには、2つの案内凹部62fとそれぞれ軸方向に隣り合う2箇所に、挿通係合部62gが形成されている。
【0143】
図16及び図17に示すように、上記のような第1駆動プレート91と第2駆動プレート92とは、駆動側軸連結部61aが挿入凹部92aに挿入されるように、且つ、2つの制御溝91aと2つの案内凹部62fとがそれぞれ軸方向に重なるように軸方向に重ね合わされている。そして、駆動側回転体81においては、第1駆動プレート91と第2駆動プレート92とは、同軸上に(互いの中心軸線が一致するように)配置されている。また、駆動側回転体81は、第1駆動プレート91及び収容部62bが従動円筒部56aの内部に収容されるように従動側回転体56に対して配置されるとともに、従動側回転体56と同軸上に(互いの中心軸線が一致するように)配置されている。更に、一対の案内部材55を保持した保持ケース54が、案内部62a側から挿通部54bが挿通孔62cに挿通されるように、駆動側回転体81に対して軸方向に重ね合わされている。この保持ケース54も、駆動側回転体81及び従動側回転体56と同軸上となっている(互いの中心軸線が一致している)。
【0144】
また、一対のコロ部材52は、第1駆動プレート91の2つの制御溝91aに動力伝達部52bがそれぞれ挿入されるとともに、前記第2駆動プレート92の2つの案内凹部62fに連結部52aがそれぞれ挿入されるように、駆動側回転体81に対して組付けられている。各コロ部材52においては、動力伝達部52bよりも径方向内側にカム係合部52cが位置し、付勢面52dが径方向外側を向いている。更に、各コロ部材52においては、径方向に対向する第1駆動プレート91と従動側回転体56の側壁部56cとの間に配置されている。また、2つのコロ部材52のカム係合部52cの先端側の部位は、2つの案内部材55のカム溝55dにそれぞれ挿入されている。そして、各コロ部材52は、挿通係合部62g内に収容された復帰スプリング82によって、径方向内側に付勢されている。復帰スプリング82は、挿通係合部62g内で、カム係合部52cの径方向外側に配置されるとともに、付勢面52dを径方向内側に付勢している。尚、本実施形態の復帰スプリング82は、圧縮コイルばねである。
【0145】
また、上記第1実施形態のクラッチ50と同様に、本第2実施形態のクラッチ80も、カム溝55dとカム係合部52cとからなるカム機構、案内部材55からなる保持機構、及び駆動側回転体81及び従動側回転体56からなる挟持機構を備えている。
【0146】
次に、本実施形態のクラッチ80の作用を説明する。
クラッチ80においては、カム機構の連結状態から初期状態への復帰、保持機構の連結状態から初期状態への復帰、及び挟持機構の連結状態から初期状態への復帰は、復帰スプリング82の付勢力によって行われる。
【0147】
復帰スプリング82は、上記第1実施形態の復帰スプリング53と同様に、コロ部材52を径方向に沿って径方向内側に付勢するものである。そして、カム機構の連結状態から初期状態への復帰、並びに、保持機構の連結状態から初期状態への復帰は、上記第1実施形態と同様に行われる。
【0148】
挟持機構においては、図16に示すように、駆動側回転体81の楔面91bと、従動側回転体56の伝達面56fとによってコロ部材52の動力伝達部52bを挟持していない状態(即ち挟持が解除された状態)が、回転軸20とウォーム軸32とを断絶する初期状態となっている。一方、図18に示すように、挟持機構においては、係合位置に配置されたコロ部材52の動力伝達部52bを、楔面91bと伝達面56fとによって挟持した状態が、回転軸20とウォーム軸32とを連結する連結状態となっている。ここで、コロ部材52を径方向に沿って径方向内側に付勢する復帰スプリング82の付勢力をF2、楔面91bと平行な方向の付勢力F2の分力をF2a、楔面91bと垂直な方向の付勢力F2の分力をF2bとする。伝達面56fと共に動力伝達部52bを挟持した楔面91bは、動力伝達部52bを介して伝達される分力F2bによって伝達面56fから離間する方向に押圧される。その結果、分力F2bによって、第1駆動プレート91が第2駆動プレート92及び従動側回転体56に対して相対回転され、伝達面56fに対して楔面91bが離間して楔面91bと伝達面56fとによる挟持が解除される。即ち、挟持機構が初期状態に復帰する。
【0149】
次に、本実施形態のモータ11の動作を、クラッチ80の動作を中心に説明する。
モータ本体12の停止時のように回転軸20が回転駆動されていない場合、図16に示すように、第1駆動プレート91と第2駆動プレート92との相対回転位置は、復帰スプリング82によってコロ部材52が径方向内側に付勢されることにより、2つの制御溝91aの周方向位置と2つの案内凹部62fの周方向位置とが一致する中立位置に維持されている。また、各案内部材55は、遠心力が作用していないため、カム係合部52cを介して伝達される復帰スプリング82の付勢力によって該案内部材55の径方向の移動範囲内で最も径方向内側に配置されている。更に、カム係合部52cは、復帰スプリング82の付勢力によって第1案内部P1に配置された状態に維持されるとともに、動力伝達部52bは、復帰スプリング82の付勢力によって非係合凹部61e内に配置された状態に維持されている。従って、コロ部材52は、その径方向の移動範囲内において最も径方向内側となる位置であって、従動側回転体56と回転方向に係合しない非係合位置に配置されている。そのため、カム機構、保持機構及び挟持機構は初期状態となっており、クラッチ80は回転軸20とウォーム軸32とを断絶している。
【0150】
この状態から、図1及び図2に示すように、手動によりスライドドア3を開作動又は閉作動させるべく、スライドドア3側から出力軸35が回転されると、該出力軸35の回転に伴ってウォーム軸32が回転される。そして、回転軸20が回転駆動されない場合は、クラッチ80によって回転軸20とウォーム軸32とが断絶されているため、図16に示すように、従動側回転体56は、ウォーム軸32の回転に伴って、駆動側回転体81に対して空転する。よって、出力軸35側からの回転が容易となる。従って、大きな操作力を必要としない容易なスライドドア3の手動による開閉動作が可能となっている。
【0151】
そして、図1乃至図3に示すように、スライドドア3を自動で開作動又は閉作動する旨の指令が生じると、コントローラ25によってモータ本体12が駆動され、回転軸20が回転駆動されて該回転軸20に連結された駆動側回転体81の回転駆動が開始される。駆動側回転体81の回転駆動の開始時には、図16に示すように、第1駆動プレート91と第2駆動プレート92とは、復帰スプリング82によって径方向内側に付勢されたコロ部材52が制御溝91aの径方向内側の底面及び案内凹部62fの径方向内側の底面を径方向内側に付勢しているため、ほぼ一体的に(殆ど相対回転することなく)回転する。更に、コロ部材52も、挿通係合部62gの内周面からカム係合部52cに第2駆動プレート62の回転駆動力が伝達されるため、駆動側回転体81の中心軸線を回転中心として同駆動側回転体81と一体回転する。一方、図19(a)及び図19(b)に示すように、案内部材55及び該案内部材55を保持した保持ケース54は、駆動側回転体81の回転駆動の開始時には、案内部材55に作用する慣性力によってその回転位置が維持される。その結果、駆動側回転体81は、その回転駆動の開始時には、案内部材55及び保持ケース54に対して相対回転する。そして、駆動側回転体81と保持ケース54にて保持された案内部材55との間に回転角度の差が生じる。すると、カム溝55dに対してカム係合部52cが保持ケース54の周方向に回転されるため、カム機構が作動して、カム係合部52cは、カム溝55dに案内されながら第1案内部P1から駆動側回転体81の回転方向の前方側の第2案内部P2に向かって移動される。尚、この時、カム係合部52cは、復帰スプリング82の付勢力に抗して該復帰スプリング53を径方向に縮めながら、第1案内部P1から第2案内部P2へと移動される。そして、カム溝55dの作用により、コロ部材52は、径方向内側の非係合位置から、径方向外側の係合位置に移動される。尚、駆動側回転体81の回転駆動の開始時には、保持ケース54にて保持された案内部材55は、慣性力によってその回転位置が維持されているため、同案内部材55には遠心力が作用していない。従って、駆動側回転体81の回転駆動の開始時にカム係合部52cが第1案内部P1から第2案内部P2に相対的に移動する際には、案内部材55は、その径方向の移動範囲内で最も径方向内側に配置されている。
【0152】
そして、駆動側回転体81の回転に伴って、係合位置に配置されたコロ部材52の動力伝達部52bは、制御凹部56e内で駆動側回転体81の回転方向の前方側の伝達面56fに当接する。また、図20(a)及び図20(b)に示すように、非係合位置から係合位置へのコロ部材52の移動に伴って、第1駆動プレート91が第2駆動プレート92に対して、該第1駆動プレート91の回転方向に相対回転する。すると、各制御溝91aの一対の楔面91bのうち第1駆動プレート91の回転方向の後方側の楔面91bと、伝達面56fとによって動力伝達部52bが挟持される(即ち、挟持機構が連結状態となる)。その結果、回転軸20の回転駆動力は、第2駆動プレート92を介することなく、第1駆動プレート91からコロ部材52の動力伝達部52bを介して従動側回転体56に伝達され、従動側回転体56が回転され始める。
【0153】
また、図20(b)及び図21(b)に示すように、カム係合部52cが第2案内部P2に配置された後、回転駆動が開始された駆動側回転体81と共に回転するコロ部材52から復帰スプリング82の付勢力が伝達される案内部材55も、駆動側回転体51に伴って回転し始める。そして、案内部材55の回転速度が上昇すると、その回転速度の上昇に伴って、該案内部材55に作用する慣性力が小さくなる。案内部材55は、該案内部材55に作用する慣性力が小さくなるに連れて、カム係合部52cを介して伝達される復帰スプリング53の付勢力の作用により、保持ケース54と共に、駆動側回転体81に対して同駆動側回転体81と同方向に相対回転していく。この駆動側回転体81に対する案内部材55の相対回転に伴って、保持ケース54にて保持された案内部材55のカム溝55dが、カム係合部52cに対して保持ケース54の周方向に回転されるため、カム係合部52cは、第2案内部P2から第1案内部P1へ相対的に移動される。この時、同時に、案内部材55の回転速度の増大に伴って、案内部材55に作用する遠心力が徐々に大きくなるため、案内部材55は、案内面54hに案内されながら径方向外側に移動される。従って、カム係合部52cの径方向位置は径方向に変化することなく維持されるため、コロ部材52は案内部材55によって係合位置に保持される。
【0154】
そして、回転軸20の回転駆動力が、図21(a)に示すように、第1駆動プレート91からコロ部材52を介して従動側回転体56に伝達されると、従動側回転体56が回転されるため、該従動側回転体56に連結されたウォーム軸32が回転される。そして、ウォーム部32aとウォームホイール33とによって減速された回転力が出力軸35から出力され、スライドドア3が自動で開作動又は閉作動される。
【0155】
また、モータ本体12が停止されると、回転軸20の回転速度が低下する。そして、図18に示すように、復帰スプリング82が、コロ部材52を介して第1駆動プレート91を直前の回転方向と反対方向に回転させる。これにより、図16に示すように、第1駆動プレート91が第2駆動プレート92に対して相対回転されるため、伝達面56fと楔面91bとによる動力伝達部52bの挟持が解除される(即ち、挟持機構が初期状態に復帰される)。更に、復帰スプリング82の付勢力によって、第1駆動プレート91と第2駆動プレート92との相対回転位置が、2つの制御溝91aの周方向位置と2つの案内凹部62fの周方向位置とが一致する中立位置に復帰される。
【0156】
また、駆動側回転体81の回転速度が低下すると、駆動側回転体81からコロ部材52を介して回転駆動力が伝達されて回転していた案内部材55及び従動側回転体56の回転速度も低下する。すると、案内部材55に作用する遠心力が小さくなるため、復帰スプリング82の付勢力によって、案内部材55は径方向内側に移動される(即ち、保持機構が初期状態に復帰する)。そして、案内部材55のカム溝55dにカム係合部52cが挿入されたコロ部材52は、案内部材55と共に径方向内側に移動される。この時、カム係合部52cは、カム溝55dにおいて第1案内部P1に位置している。従って、コロ部材52は、係合位置から非係合位置に移動される。その結果、駆動側回転体81と従動側回転体56との回転方向の係合が解除されて、回転軸20とウォーム軸32とが断絶された状態となる。
【0157】
尚、図19(a)乃至図21(a)では、駆動側回転体81(回転軸20)が図において時計方向に回転された場合のクラッチ80を図示している。しかし、クラッチ80は、回転軸20が図19(a)乃至図21(a)において反時計方向に回転された場合も同様に回転軸20とウォーム軸32とを連結するものである。
【0158】
上記したように、本第2実施形態によれば、上記第1実施形態の(1),(3)〜(7),(11)〜(15)と同様の効果に加えて、以下の効果を有する。
(16)復帰スプリング82は、カム機構、保持機構及び挟持機構の3つの機構を、駆動側回転体51の停止時にコロ部材52を非係合位置に配置するように、即ち初期状態とするように付勢している。従って、カム機構、保持機構及び挟持機構の3つの機構を初期状態に復帰させるための復帰スプリング82の数を最小とすることができる。
【0159】
(17)伝達面56fと共にコロ部材52を挟持する楔面91bは、径方向に対して傾斜している。従って、復帰スプリング82は、この楔面91bをコロ部材52を介して径方向に沿って径方向内側に付勢することにより、楔面91bと伝達面56fとが離間するように第1駆動プレート91を回転方向に付勢することができる。従って、挟持機構を初期状態に復帰させるために、当該挟持機構に復帰スプリング82の付勢力を作用させるための構成を新たに追加しなくてもよい。その結果、クラッチ80の構成が複雑化されることがより抑制される。また、復帰スプリング82がコロ部材52を径方向に沿って径方向内側に付勢することで、カム面Sをも径方向に付勢することができるため、カム機構、保持機構及び挟持機構の3つの機構に復帰スプリング82の付勢力を作用させるための構成を別途設けなくてもよい。従って、クラッチ80の構成が複雑化されることが一層抑制される。
【0160】
(18)コロ部材52は、カム機構、保持機構及び挟持機構の全ての機構に関わる部品であるため、このコロ部材52を復帰スプリング82にて付勢することにより、コロ部材52を介してコロ部材52の付勢力をカム機構、保持機構及び挟持機構の全ての機構に容易に作用させることができる。
【0161】
(第3実施形態)
以下、本発明を具体化した第3実施形態を図面に従って説明する。尚、本第3実施形態では、上記第1実施形態と同一の構成に同一の符号を付してその説明を省略する。
【0162】
図22に示す本第3実施形態のクラッチ100は、上記第1実施形態のクラッチ50に代えてモータ11に備えられるものである。そして、クラッチ100は、クラッチ50と比較すると、第2駆動プレート62に代えて、第2駆動プレート102を備えている。この第2駆動プレート102は、第1駆動プレート61及び連結スプリング63と共に駆動側回転体51を構成するものである。また、図22、図23(a)及び図23(b)に示すように、第2駆動プレート102は、上記第1実施形態の第2駆動プレート62に挿入路103を追加した形状をなしている。
【0163】
図22及び図24に示すように、第2駆動プレート102に形成された一対のばね収容凹部62dは、クラッチ100の周方向(第1駆動プレート61及び第2駆動プレート102の回転方向に同じ)に沿って延びる円弧状をなしている。また、図23(a)に示すように、各ばね収容凹部62dは、収容部62bにおける第1駆動プレート61側の軸方向の端面から、収容部62bを貫通して案内部62aにおける収容部62b側の軸方向の端部まで軸方向に凹設されている。
【0164】
また、図24に示すように、各ばね収容凹部62dの周方向の両端の内側面には、第1押圧面62m及び第2押圧面62nがそれぞれ形成されている。各ばね収容凹部62dの周方向の両端において、第1押圧面62mは、復帰凹部62eよりも径方向外側に位置する面であり、第2押圧面62nは、復帰凹部62eよりも径方向内側に位置する面である。そして、第1押圧面62m及び第2押圧面62nは、径方向に沿って延び、軸方向と平行をなすとともに、周方向と直交する平面状をなしている。また、各ばね収容凹部62dの周方向の両端で径方向に隣り合う第1押圧面62mと第2押圧面62nとは、同一平面内に形成されている。更に、第2押圧面62nは、第1押圧面62mよりも径方向に長く形成されている。即ち、第2押圧面62nの径方向の長さL2は、第1押圧面62mの径方向の長さL1よりも長い値に設定されている。言い換えると、各ばね収容凹部62dと該ばね収容凹部62dの周方向の両側に設けられた一対の復帰凹部62eとは、第1押圧面62mよりも第2押圧面62nの方が径方向に長くなるように、第2駆動プレート102における径方向の形成位置が設定されている。そして、第1押圧面62m及び第2押圧面62nは、ばね収容凹部62dに圧縮された状態で収容される連結スプリング63によって周方向に押圧(付勢)される。
【0165】
図22及び図24に示すように、第2駆動プレート102において、各ばね収容凹部62dの径方向外側に前記挿入路103がそれぞれ形成されている。各挿入路103は、各ばね収容凹部62dの周方向の中央部から第2駆動プレート102の外周面(即ち収容部62bの外周面及び案内部62aの外周面)まで径方向に沿って直線的に延びている。そして、各挿入路103は、ばね収容凹部62d内に配置された連結スプリング63の伸縮方向(図24において矢印βにて図示)に対して直交するように延びている。尚、連結スプリング63の伸縮方向は、本実施形態では、クラッチ100の作動時における第2駆動プレート102の回転方向と同じ方向である。また、図23(a)及び図23(b)に示すように、各挿入路103は、軸方向には第1駆動プレート61側に開口するとともに、径方向にはばね収容凹部62dの内部及び第2駆動プレート102の外周側に開口している。そして、各挿入路103は、それぞれその径方向内側に位置するばね収容凹部62dに連通している。更に、各挿入路103の底面は、軸方向と直交する平面状をなすとともに、ばね収容凹部62dの底面と面一に形成されている。
【0166】
図24に示すように、各挿入路103の周方向の両端の側面103a,103bは、挿入路103の周方向の中央を通り径方向に延びる挿入路103の中心線X1とそれぞれ平行に形成されている。また、側面103a,103bは、軸方向と平行に形成されている。そして、各挿入路103は、クラッチ100の作動時に第1駆動プレート61と第2駆動プレート102との間で連結スプリング63が圧縮されても該連結スプリング63における伸縮方向の端が挿入路103に至らないように形成されている。詳述すると、図25に示すように、周方向の一方の側面103a(図25において時計方向側の側面)の位置Y1は、第2駆動プレート102に対して第1駆動プレート61が図25において反時計方向に最大限相対回転したときの連結スプリング63の伸縮方向の一端(図25において時計方向側の端)の位置Y2よりも、他方の側面103a側に位置する。同様に、周方向の他方の側面103b(図25において反時計方向側の側面)は、第2駆動プレート102に対して第1駆動プレート61が図25において時計方向に最大限相対回転したときの連結スプリング63の伸縮方向の他端(図25において反時計方向側の端)の位置よりも、一方の側面103a側に位置するように形成されている。従って、クラッチ100の作動中に連結スプリング63が圧縮されたとしても、連結スプリング63の伸縮方向の端が挿入路103の周方向の両側面103a,103bに引っ掛かることが無いようになっている。
【0167】
また、図26に示すように、各挿入路103の周方向の長さL3は、最大限圧縮された連結スプリング63の長さL4よりも長く形成されている。
尚、上記した本第3実施形態のクラッチ100は、モータ11の駆動時・停止時には、上記第1実施形態のクラッチ50と同様に作動する。
【0168】
次に、クラッチ100の組付け手順と合わせて、本第3実施形態のクラッチ100の作用を説明する。
図22、図23(a)及び図23(b)に示すように、クラッチ100を組み付けるには、まず、2つの連結スプリング63及び従動側回転体56以外のクラッチ100の構成部品、即ち、第1駆動プレート61、第2駆動プレート102、2つのコロ部材52、2つの復帰スプリング53、保持ケース54及び2つの案内部材55を組み付ける。尚、スラスト受けボール71及びスラスト受けプレート72は、この時点で組み付けてもよいし、従動側回転体56を組み付ける直前に組み付けてもよい。スラスト受けボール71及びスラスト受けプレート72をこの時点で組み付ける場合には、スラスト受けボール71を第1駆動プレート61のボール収容孔61c内に挿入する一方、スラスト受けプレート72を従動側回転体56のプレート凹部56g内に配置する。
【0169】
そして、第1駆動プレート61、第2駆動プレート102、2つのコロ部材52、2つの復帰スプリング53、保持ケース54及び2つの案内部材55が組み付けられると、第2駆動プレート102に対して収容部62b側で第1駆動プレート61が軸方向に重なるように配置される。従って、第1駆動プレート61によって一対のばね収容凹部62dの開口部が軸方向から閉塞される。
【0170】
次いで、図26に示すように、連結スプリング63を、互いに組付けられた第1駆動プレート61及び第2駆動プレート102の外側から、挿入路103を通してばね収容凹部62dに挿入する。このとき、連結スプリング63は、予め圧縮されて挿入路103の周方向の長さL3よりも短く縮められている。この連結スプリング63を、第2駆動プレート102の径方向外側から挿入路103に挿入する。そして、挿入路103を径方向に沿って通り抜けるまで、連結スプリング63を径方向内側に押し込む。挿入路103を通り抜けた連結スプリング63は、図24に示すように、ばね収容凹部62d内に入り同ばね収容凹部62d内で周方向に延びて、該連結スプリング63の伸縮方向の両端がそれぞれ第2押圧面62n及び第1押圧面62mに当接する。こうして、連結スプリング63が組み付けられる。その後、従動側回転体56が組付けられてクラッチ100が完成する。
【0171】
このように、第2駆動プレート102に挿入路103が形成されたことにより、ばね収容凹部62dの開口部を第1駆動プレート61にて閉塞した状態で、連結スプリング63をばね収容凹部62dに組付けることができる。
【0172】
上記したように、本第3実施形態によれば、上記第1実施形態の(1)〜(15)と同様の効果に加えて、以下の効果を有する。
(19)第1駆動プレート61と第2駆動プレート102とが互いに組み付けられた状態で、挿入路103を通して連結スプリング63をばね収容凹部62dに挿入することができる。一般的に、圧縮された状態でばね収容凹部62d内に収容された連結スプリング63は、圧縮により発生する応力(内力)によってばね収容凹部62dの開口部からばね収容凹部62dの外部に飛び出る虞がある。そして、本実施形態のように、連結スプリング63が円弧状に圧縮された場合には、連結スプリング63は、径方向内側の部分と径方向外側の部分とで異なる応力が発生するため、ばね収容凹部62dの開口部からばね収容凹部62dの外部により飛び出やすくなる虞がある。従って、本実施形態のように、第1駆動プレート61によってその開口部が閉塞された状態のばね収容凹部62dに、挿入路103を通して連結スプリング63を組み付けることができると、ばね収容凹部62dに組み付けられた連結スプリング63が同ばね収容凹部62dの開口部から同ばね収容凹部62dの外に出てしまうことが抑制される。その結果、連結スプリング63の組付け性を向上できる。また、連結スプリング63をばね収容凹部62dに組み付けた後にクラッチ100の他の構成部品の組付けを行う時に、連結スプリング63が外れることが抑制されるため、クラッチ100の組付け性を向上できる。
【0173】
(20)クラッチ100の作動中に第1駆動プレート61と第2駆動プレート102との間で連結スプリング63が圧縮されて同連結スプリング63が伸縮方向に短くなったとしても、連結スプリング63の伸縮方向の端は挿入路103に至らない。そのため、クラッチ100の作動中に連結スプリング63が挿入路103に引っ掛かることが防止される。
【0174】
(21)圧縮コイルばねよりなる連結スプリング63を、第2駆動プレート102の回転方向(周方向に同じ)に延びる円弧状のばね収容凹部62dに挿入すると、連結スプリング63は、外周側の部位に比べて内周側の部位の方が圧縮量が多くなる。従って、連結スプリング63は、外周側の部位に比べて内周側の部位の方が伸びようとする力が大きくなるため、ばね収容凹部62d内で、より周方向に長くなる径方向外側に移動しようとする。そこで、径方向内側に設けられた第2押圧面62nを、径方向外側に設けられた第1押圧面62mよりも径方向に長く形成することにより、連結スプリング63をばね収容凹部62d内に安定して収容することができる。
【0175】
(22)ばね収容凹部62dを、第1駆動プレート61及び第2駆動プレート102の回転方向(クラッチ100の周方向に同じ)に沿って延びる円弧状に形成すると、ばね収容凹部62dにおける径方向内側の端部よりも同ばね収容凹部62dにおける径方向外側の端部の方が周方向に長さが長くなりやすい。本実施形態のように、ばね収容凹部62dの周方向端に形成された第1押圧面62m及び第2押圧面62nが径方向に沿って延びている場合には、ばね収容凹部62dにおける径方向内側の端部よりも同ばね収容凹部62dにおける径方向外側の端部の方が周方向に長さが長くなる。そのため、挿入路103を、ばね収容凹部62dの径方向外側に形成することで、挿入路103をばね収容凹部62dの径方向内側に形成する場合よりも、ばね収容凹部62dに連通する挿入路103を形成可能な範囲が周方向に広くなる。従って、挿入路103を第2駆動プレート102に形成するときの制約が少なくなるため、挿入路103を容易に第2駆動プレート102に形成することができる。
【0176】
(第4実施形態)
以下、本発明を具体化した第4実施形態を図面に従って説明する。尚、本第4実施形態では、上記第1実施形態及び上記第3実施形態と同一の構成に同一の符号を付してその説明を省略する。
【0177】
図27に示す本第4実施形態のクラッチ110は、上記第1実施形態のクラッチ50に代えてモータ11に備えられるものである。そして、クラッチ110は、上記第3実施形態のクラッチ100と比較すると、挿入路103を有する第2駆動プレート102に代えて、挿入路113を有する第2駆動プレート112を備えている。
【0178】
挿入路113は、第2駆動プレート112において、各ばね収容凹部62dの径方向外側にそれぞれ形成されている。各挿入路113は、各ばね収容凹部62dの周方向の中央部から第2駆動プレート112の外周面(即ち収容部62bの外周面及び案内部62aの外周面)まで直線的に延びている。そして、各挿入路113は、軸方向には第1駆動プレート61側に開口するとともに、径方向にはばね収容凹部62dの内部及び第2駆動プレート112の外周側に開口している。また、各挿入路113は、それぞれその径方向内側に位置するばね収容凹部62dに連通している。更に、各挿入路113の底面は、軸方向と直交する平面状をなすとともに、ばね収容凹部62dの底面と面一に形成されている。
【0179】
また、各挿入路113は、第2駆動プレート112の径方向(クラッチ110の径方向に同じ)に傾斜するように延びており、ばね収容凹部62d内に配置された連結スプリング63(図27においては二点鎖線で図示)の伸縮方向(図27において矢印βにて図示)に対して傾斜している。そのため、各挿入路113において、ばね収容凹部62dと反対側の外側開口部113aは、ばね収容凹部62d側の内側開口部113bに対して周方向にずれた位置に形成されている。
【0180】
また、各挿入路113の内周面には、周方向に対向する一対の案内面113c,113dが形成されている。一対の案内面113c,113dは、挿入路113の周方向の両側面であり、それぞれ外側開口部113aから内側開口部113bに亘って形成されている。また、一対の案内面113c,113dは、それぞれ軸方向と平行な平面状をなすとともに、互いに平行をなすように形成されている。更に、一対の案内面113c,113dは、ばね収容凹部62d内に配置された連結スプリング63の伸縮方向に対して直交することなく傾斜している。従って、案内面113cにおける外側開口部113a側の端部は同案内面113cにおける内側開口部113b側の端部に対して周方向にずれた位置に位置するとともに、案内面113dにおける外側開口部113a側の端部は同案内面113cにおける内側開口部113b側の端部に対して周方向にずれた位置に位置している。また、各挿入路113の幅D1(即ち一対の案内面113c,113d間の間隔)は、外側開口部113aから内側開口部113bまで一定に形成されるとともに、連結スプリング63の外径D2と略等しく(若干広く)形成されている。
【0181】
また、各挿入路113は、クラッチ110の作動時に第1駆動プレート61と第2駆動プレート112との間で連結スプリング63が圧縮されても該連結スプリング63における伸縮方向の端が挿入路113に至らないように形成されている。即ち、挿入路113の内側開口部113bは、クラッチ110の作動時に第1駆動プレート61と第2駆動プレート112との間で連結スプリング63が圧縮されても該連結スプリング63における伸縮方向の端が内側開口部113bの内側に入らない範囲に形成されている。従って、クラッチ110の作動中に連結スプリング63が圧縮されたとしても、連結スプリング63の伸縮方向の端が挿入路113の周方向の両側面である一対の案内面113c,113dに引っ掛かることが無いようになっている。
【0182】
尚、本第4実施形態のクラッチ110は、モータ11の駆動時・停止時には、上記第1実施形態のクラッチ50と同様に作動する。
次に、クラッチ110の組付け手順と合わせて、本第4実施形態のクラッチ110の作用を説明する。
【0183】
クラッチ110を組み付けるには、まず、2つの連結スプリング63及び従動側回転体56以外のクラッチ110の構成部品、即ち、第1駆動プレート61、第2駆動プレート112、2つのコロ部材52、2つの復帰スプリング53、保持ケース54及び2つの案内部材55を組み付ける。尚、スラスト受けボール71及びスラスト受けプレート72は、この時点で組み付けてもよいし、従動側回転体56を組み付ける前に組み付けてもよい。スラスト受けボール71及びスラスト受けプレート72をこの時点で組み付ける場合には、スラスト受けボール71を第1駆動プレート61のボール収容孔61c内に挿入する一方、スラスト受けプレート72を従動側回転体56のプレート凹部56g内に配置する。
【0184】
そして、第1駆動プレート61、第2駆動プレート112、2つのコロ部材52、2つの復帰スプリング53、保持ケース54及び2つの案内部材55が組み付けられると、第2駆動プレート112に対して収容部62b側で第1駆動プレート61が軸方向に重なるように配置される。従って、第1駆動プレート61によって一対のばね収容凹部62dの開口部が軸方向から閉塞される。
【0185】
次いで、連結スプリング63を、互いに組付けられた第1駆動プレート61及び第2駆動プレート112の外側から挿入路113を通してばね収容凹部62dに挿入する。このとき、予め連結スプリング63を圧縮することなく、一対の案内面113c,113dに沿って連結スプリング63を該連結スプリング63の伸縮方向(長手方向)の一端部から挿入路113に挿入していく。すると、連結スプリング63が一対の案内面113c,113dによって案内されることにより、連結スプリング63の挿入方向(図27において一点鎖線の矢印参照)が、ばね収容凹部62d内での連結スプリング63の伸縮方向に対して傾斜する。
【0186】
そして、連結スプリング63の伸縮方向の一端部が挿入路113を通り抜けてばね収容凹部62dに入った後に、案内面113c,113dに沿って連結スプリング63を更に挿入すると、連結スプリング63の伸縮方向の一端部は、ばね収容凹部62dの内周面において内側開口部113bと対向する径方向内側の内側面62sに当接する。内側面62sは、ばね収容凹部62d内での連結スプリング63の伸縮方向に沿って延びているため、案内面113c,113dにて案内された連結スプリング63の挿入方向は、内側面62sに対して傾斜している。従って、連結スプリング63の伸縮方向の一端部が内側面62sに当接した後、連結スプリング63を案内面113c,113dに沿ってばね収容凹部62dの方へ更に押し込むと、連結スプリング63においてばね収容凹部62dに挿入された部位が、ばね収容凹部62d内での連結スプリング63の伸縮方向に沿うように撓みながらばね収容凹部62dの周方向の一端(外側開口部113aから遠い方の端)の方へ挿入されていく。そして、連結スプリング63の伸縮方向の一端が、ばね収容凹部62dの周方向の一端に設けられた第2押圧面62n及び第1押圧面62mに当接した後、連結スプリング63を圧縮しながら、同連結スプリング63の他端が挿入路113を通り抜けてばね収容凹部62d内に挿入されるまで同連結スプリング63を更に押し込む。連結スプリング63の他端がばね収容凹部62d内に挿入されると、連結スプリング63は、ばね収容凹部62d内で伸びて、該連結スプリング63の他端が、ばね収容凹部62dの周方向の他端に設けられた第2押圧面62n及び第1押圧面62mに当接する。こうして、連結スプリング63が組み付けられる。その後、従動側回転体56が組付けられてクラッチ110が完成する。
【0187】
このように、第2駆動プレート112に挿入路113が形成されたことにより、ばね収容凹部62dの開口部を第1駆動プレート61にて閉塞した状態で、連結スプリング63をばね収容凹部62dに組み付けることができる。また、挿入路113の内周面に形成された一対の案内面113c,113dは、ばね収容凹部62d内での連結スプリング63の伸縮方向に対して傾斜している。そのため、この案内面113c,113dに沿って連結スプリング63を挿入路113に挿入することで、挿入路113に連結スプリング63を挿入する前に予め同連結スプリング63を圧縮しなくてもよい。
【0188】
上記したように、本第4実施形態によれば、上記第1実施形態の(1)〜(15)及び上記第3実施形態の(19)〜(22)と同様の効果に加えて、以下の効果を有する。
(23)連結スプリング63を該連結スプリング63の伸縮方向の一端部から案内面113c,113dに沿って挿入路113に挿入すると、連結スプリング63は、ばね収容凹部62dの内側面62sに当接するまで、ばね収容凹部62d内での連結スプリング63の伸縮方向に対して傾斜した状態でばね収容凹部62dに挿入されていく。そして、連結スプリング63の伸縮方向の一端部が内側面62sに当接した後は、連結スプリング63において挿入路113からばね収容凹部62dに挿入された部位は、内側面62sに沿ってばね収容凹部62dの奥の方へ入っていく。従って、連結スプリング63を、予め圧縮した状態で挿入路113に入れなくともばね収容凹部62dに組み付けることができる。その結果、連結スプリング63の組付け性がより向上する。
【0189】
(第5実施形態)
以下、本発明を具体化した第5実施形態を図面に従って説明する。尚、本第5実施形態では、上記第1実施形態と同一の構成に同一の符号を付してその説明を省略する。
【0190】
図28に示す本第5実施形態のクラッチ150は、上記第1実施形態のクラッチ50に代えてモータ11に備えられるものである。尚、図28に示すクラッチ150の断面図は、クラッチ150を、図3に示す上記第1実施形態のクラッチ50における断面指示線A−Aと同様の場所で切断した断面図である。このクラッチ150は、上記第1実施形態のクラッチ50と比較すると、制御凹部56eを有する従動側回転体56(図6参照)に代えて、制御凹部151aを有する従動側回転体151を備えている。また、クラッチ150は、上記第1実施形態の第1駆動プレート61に代えて、第1駆動プレート152を備えている。そして、クラッチ150は、従動側回転体151及び第1駆動プレート152以外の構成は、上記第1実施形態のクラッチ50と同じ構成である。
【0191】
従動側回転体151が備える側壁部56cの内周面には、2つの制御凹部151aが凹設されている。制御凹部151aは、側壁部56cの内周面において周方向に180°間隔となる2箇所を径方向外側に凹設して形成されている。各制御凹部151aは、第1係合凹部151bと、該第1係合凹部151bの底面に凹設された一対の第2係合凹部151cとから構成されている。第1係合凹部151bの径方向の深さは、コロ部材52の動力伝達部52bの半径よりも深く、且つ、動力伝達部52bの径方向の幅(即ち動力伝達部52bの直径)よりも浅い。また、第1係合凹部151bの周方向の幅は、動力伝達部52bの周方向の幅(即ち動力伝達部52bの直径)よりも広い。本実施形態では、第1係合凹部151bは、側壁部56cの内周面において、約150°の範囲に亘って形成されており、その周方向の幅は、動力伝達部52bの直径の約9倍の幅となっている。更に、第1係合凹部151bは、軸方向には、側壁部56cにおける従動円筒部56aの開口部側(図28においては紙面奥側)の軸方向の端面から従動円筒部56aの底面まで連続的に形成されている。そして、第1係合凹部151bは、径方向内側及び軸方向の一方側(従動円筒部56aの開口部側)に開口している。
【0192】
各制御凹部151aにおいて、前記一対の第2係合凹部151cは、第1係合凹部151bの底面の周方向の両端部にそれぞれ形成されている。そして、各第2係合凹部151cは、第1係合凹部151bの底面を径方向外側に円弧状に凹設して形成されている。各第2係合凹部151cの径方向の深さ(第1係合凹部151bの底面からの深さ)は、動力伝達部52bの半径よりも若干浅い。また、各第2係合凹部151cは、軸方向には、側壁部56cにおける従動円筒部56aの開口部側の軸方向の端面から従動円筒部56aの底面まで連続的に形成されている。そして、各第2係合凹部151cは、径方向内側及び軸方向の一方側(従動円筒部56aの開口部側)に開口している。更に、各第2係合凹部151cの内周面は、動力伝達部52bの外周面と同じ曲率の円弧状をなすとともに、軸方向に沿って断面形状が一定に形成されている。そして、図32(a)に示すように、この第2係合凹部151cに動力伝達部52bが径方向内側から挿入されると、動力伝達部52bは、該第2係合凹部151cに嵌って係合する。動力伝達部52bは、第2係合凹部151cに嵌ると、その外周面が第2係合凹部151cの内周面に当接するとともに、側壁部56cに対して周方向(回転方向)に相対移動不能となる。
【0193】
また、図28に示すように、上記のような2つの制御凹部151aが形成されることにより、側壁部56cには、第1係合凹部151bの底面よりも径方向内側に突出した2つの制御凸部56dが形成されている。制御凸部56dは、周方向に180°間隔となる2箇所に形成されている。側壁部56cの内周面においては、2つの制御凸部56dが占める割合よりも、2つの制御凹部151aが占める割合の方が大きい。そして、各制御凹部151aの周方向の両側の内側面(制御凸部56dの周方向の端面)は、径方向内側に向かうに連れて周方向の間隔が広くなる一対の伝達面56fを形成している。第1係合凹部151b内に位置する動力伝達部52bは、周方向(回転方向)から伝達面56fに当接可能である。
【0194】
駆動側回転体51を構成する前記第1駆動プレート152は、上記第1実施形態の第1駆動プレート61と比較すると、制御溝61dに代えて制御溝152aを備えている。制御溝152aは、第1駆動プレート152の外周縁部において周方向に180°間隔となる2箇所に形成されている。各制御溝152aは、第1駆動プレート152の外周縁部を径方向内側に凹設して形成されており、径方向外側に開口している。また、各制御溝152aは、軸方向から見た形状が、径方向外側に向かうに連れて周方向の幅が広くなる略扇形状をなしている。更に、各制御溝152aは、軸方向から見ると、その周方向の中央を通り径方向に延びる直線(図示略)を対称軸として線対称に形成されている。
【0195】
また、各制御溝152aの内周面には、略平面状をなす一対の楔面152bが形成されている。一対の楔面152bは軸方向と平行をなしている。また、一対の楔面152bは、制御溝152aの周方向の中央部に位置する該制御溝152aの底部(最も径方向内側に位置する部分)の周方向の両側にそれぞれ形成されるとともに、制御溝152aの底部から同制御溝152aの径方向外側の開口部に向かうに連れて互いの間隔が周方向に広くなるように径方向に対して傾斜している。そして、図30に示すように、各楔面152bは、第1係合凹部151b内に位置する動力伝達部52bに回転方向から当接して伝達面56fと共に動力伝達部52bを挟持可能である。また、図31に示すように、各楔面152bは、第2係合凹部151c内に位置する動力伝達部52bに回転方向から当接して第2係合凹部151cの内周面及び伝達面56fと共に動力伝達部52bを挟持可能である。
【0196】
尚、本実施形態のクラッチ150において、図29(a)に示すように、動力伝達部52bが第1係合凹部151b内に位置するときのコロ部材52の配置位置は、駆動側回転体51と従動側回転体151とを回転方向に係合する第1係合位置である。また、図32(a)に示すように、動力伝達部52bが第2係合凹部151c内に位置するときのコロ部材52の配置位置は、第1係合位置よりも径方向外側で駆動側回転体51と従動側回転体151とを回転方向に係合する第2係合位置である。更に、図28及び図29(b)に示すように、カム係合部52cがカム溝55dの第1案内部P1に配置されてコロ部材52が非係合位置に配置されているときには、動力伝達部52bは、制御溝152aの底部に位置し、制御凸部56dの先端面よりも径方向内側に位置する。また、図29(a)及び図29(b)に示すように、その径方向の移動範囲内で最も径方向内側に配置された案内部材55のカム溝55dの第2案内部P2にカム係合部52cが位置するときには、動力伝達部52bは、第1係合凹部151b内に位置する。
【0197】
次に、クラッチ150の動作と合わせて、クラッチ150の作用を説明する。
図28に示すように、モータ本体12の停止時のように回転軸20が回転駆動されていない場合には、第1駆動プレート152及と第2駆動プレート62との相対回転位置が、連結スプリング63の付勢力によって、2つの制御溝152aの周方向位置と2つの案内凹部62fの周方向位置とが一致する中立位置に維持されている。更に、復帰スプリング53の付勢力によってコロ部材52が非係合位置に配置されるとともに、同復帰スプリング53の付勢力によって案内部材55(図29(b)参照)がその径方向の移動範囲内で最も径方向内側に配置されている。そのため、上記第1実施形態のクラッチ50と同様に、カム機構、保持機構及び挟持機構は初期状態となっており、クラッチ150は回転軸20とウォーム軸32とを断絶している。従って、スライドドア3側から出力軸35が回転されると、従動側回転体151がウォーム軸32の回転に伴って、駆動側回転体51に対して空転する(図1参照)。
【0198】
図29(a)及び図29(b)に示すように、モータ本体12が駆動されると、回転軸20が回転駆動されて該回転軸20に連結された駆動側回転体51の回転駆動が開始される。尚、図29(b)及び図32(b)に示すクラッチ150の断面図は、クラッチ150を、図3に示す上記第1実施形態のクラッチ50における断面指示線B−Bと同様の場所で切断した断面図である。駆動側回転体51の回転駆動の開始時には、第1駆動プレート152と第2駆動プレート62とは、ほぼ一体的に(殆ど相対回転することなく)回転する。そして、コロ部材52も、挿通係合部62gの内周面からカム係合部52cに第2駆動プレート62の回転駆動力が伝達されるため、駆動側回転体51の中心軸線を回転中心として同駆動側回転体51と一体回転する。一方、案内部材55及び該案内部材55を保持した保持ケース54は、駆動側回転体51の回転駆動の開始時には、案内部材55に作用する慣性力によってその回転位置が維持される。その結果、駆動側回転体51は、その回転駆動の開始時には、案内部材55及び保持ケース54に対して相対回転する。そして、駆動側回転体51と保持ケース54にて保持された案内部材55との間に回転角度の差が生じる。すると、カム溝55dに対してカム係合部52cが保持ケース54の周方向に回転されるため、カム機構が作動して、カム係合部52cは、カム溝55dのカム面Sに案内されながら第1案内部P1から駆動側回転体51の回転方向の前方側の第2案内部P2に向かって移動される。この時、カム係合部52cは、復帰スプリング53の付勢力に抗して該復帰スプリング53を径方向に縮めながら、第1案内部P1から第2案内部P2へと移動される。従って、カム溝55dの作用により、動力伝達部52bが制御溝152aの底部から第1係合凹部151b内に移動されるとともに、コロ部材52は、径方向内側の非係合位置から、径方向外側の第1係合位置に移動される。尚、駆動側回転体51の回転駆動の開始時には、保持ケース54にて保持された案内部材55は、慣性力によってその回転位置が維持されているため、同案内部材55には遠心力が作用していない。従って、駆動側回転体51の回転駆動の開始時にカム係合部52cが第1案内部P1から第2案内部P2に相対的に移動する際には、案内部材55は、その径方向の移動範囲内で最も径方向内側に配置されている。
【0199】
そして、駆動側回転体51の回転に伴って第1係合位置に配置されたコロ部材52の動力伝達部52bが、制御凹部151aの第1係合凹部151b内で駆動側回転体51の回転方向の前方側の伝達面56fに当接する。これにより、回転軸20の回転駆動力は、第1駆動プレート152、連結スプリング63、第2駆動プレート62、コロ部材52の順に伝達され、更に、コロ部材52の動力伝達部52bから従動側回転体151に伝達可能となる。
【0200】
また、駆動側回転体51の回転駆動の開始時には、従動側回転体151に連結されたスライドドア3は停止しているため、従動側回転体151には大きな負荷が作用している。そのため、第1係合位置に配置されたコロ部材52の動力伝達部52bが駆動側回転体51の回転方向の前方側の伝達面56fに当接すると、従動側回転体151から受ける反力によってコロ部材52が減速される。そして、カム係合部52cにてコロ部材52と係合された第2駆動プレート62も減速される。一方、図30に示すように、回転軸20と一体回転する第1駆動プレート152は、復帰凸部61hとばね収容凹部62dの内周面との間で連結スプリング63を縮めながら第2駆動プレート62に対して先行して相対回転する。従って、第2駆動プレート62と一体回転するコロ部材52の動力伝達部52bに対して第1駆動プレート152が相対回転し、各制御溝152aの一対の楔面152bのうち第1駆動プレート152の回転方向の後方側の楔面152bが動力伝達部52bに回転方向から当接する。そして、第1係合凹部151b内に位置する動力伝達部52bが、楔面152bと伝達面56fとによって挟持される。その結果、回転軸20の回転駆動力は、連結スプリング63及び第2駆動プレート62を介することなく、第1駆動プレート152からコロ部材52の動力伝達部52bを介して従動側回転体151に伝達され、該従動側回転体151が回転され始める。
【0201】
また、図29(a)及び図29(b)に示すように、カム係合部52cが第2案内部P2に配置されると同時に動力伝達部52bが第1係合凹部151b内に配置された後、回転駆動が開始された駆動側回転体51と共に回転するコロ部材52から復帰スプリング53の付勢力が伝達される案内部材55も、駆動側回転体51に伴って回転し始める。そして、案内部材55の回転速度が上昇すると、その回転速度の上昇に伴って、該案内部材55に作用する慣性力が小さくなる。案内部材55は、該案内部材55に作用する慣性力が小さくなるに連れて、カム係合部52cを介して伝達される復帰スプリング53の付勢力の作用により、保持ケース54と共に、駆動側回転体51に対して同駆動側回転体51と同方向に相対回転していく。この駆動側回転体51に対する案内部材55の相対回転に伴って、案内部材55のカム溝55dが、カム係合部52cに対して保持ケース54の周方向に回転されるため、カム係合部52cは、第2案内部P2から第1案内部P1へ相対的に移動される。この時、同時に、案内部材55の回転速度の増大に伴って、案内部材55に作用する遠心力が徐々に大きくなるため、案内部材55は、案内面54hに案内されながら、径方向外側に移動される。従って、カム係合部52cの径方向位置は径方向に変化することなく維持されるため、コロ部材52は案内部材55によって第1係合位置に保持される(即ち、保持機構が連結状態となる)。
【0202】
そして、回転軸20の回転駆動に基づく従動側回転体56の回転中には、駆動側回転体51の回転速度は、案内部材55に作用する遠心力によってコロ部材52を第1係合位置に保持する位置に同案内部材55を配置する大きさとなる場合がある。この場合において、従動側回転体56に作用する負荷が連結スプリング63の付勢力よりも大きい場合には、図30に示すように、第1駆動プレート152が連結スプリング63を縮めながら第2駆動プレート62に対して第1駆動プレート61の回転方向に回転される。その結果、各制御溝152aの一対の楔面152bのうち第1駆動プレート152の回転方向の後方側の楔面152bが、第1係合凹部151b内に位置する動力伝達部52bに回転方向から当接し、当該楔面152bと伝達面56fとによって動力伝達部52bが挟持される(即ち、楔機構が連結状態となる)。そして、回転軸20の回転駆動力は、第1駆動プレート152からコロ部材52を介して従動側回転体151に伝達され、従動側回転体151が回転される。
【0203】
また、駆動側回転体51の回転速度が、案内部材55に作用する遠心力によってコロ部材52を第1係合位置に保持する位置に同案内部材55を配置する大きさとなる同場合において、従動側回転体56に作用する負荷が連結スプリング63の付勢力以下である場合には、第1駆動プレート152と第2駆動プレート62とは、連結スプリング63によって中立位置に保持された状態で一体的に回転する。従って、回転軸20の回転駆動力は、第1駆動プレート152、連結スプリング63、第2駆動プレート62、コロ部材52、従動側回転体151の順に伝達され、従動側回転体151が回転される。
【0204】
また、図32(a)及び図32(b)に示すように、回転軸20の回転駆動に基づく従動側回転体56の回転中には、駆動側回転体51の回転速度は、案内部材55に作用する遠心力によってコロ部材52を第1係合位置から第2係合位置に配置する大きさとなる場合がある。即ち、駆動側回転体51の回転速度は、案内部材55に作用する遠心力によって動力伝達部52bを第2係合凹部151cに嵌める大きさとなる場合がある。この場合において、従動側回転体56に作用する負荷が連結スプリング63の付勢力よりも大きい場合には、図31に示すように、第1駆動プレート152が連結スプリング63を縮めながら第2駆動プレート62に対して第1駆動プレート61の回転方向に回転される。その結果、各制御溝152aの一対の楔面152bのうち第1駆動プレート152の回転方向の後方側の楔面152bが、第2係合凹部151c内に位置する動力伝達部52bに回転方向から当接し、当該楔面152bと従動側回転体151とによって動力伝達部52bが挟持される(即ち、楔機構が連結状態となる)。そして、回転軸20の回転駆動力は、第1駆動プレート152からコロ部材52を介して従動側回転体151に伝達され、従動側回転体151が回転される。
【0205】
また、駆動側回転体51の回転速度が、案内部材55に作用する遠心力によってコロ部材52を第1係合位置から第2係合位置に配置する大きさとなる同場合において、従動側回転体56に作用する負荷が連結スプリング63の付勢力以下である場合には、図32(a)に示すように、第1駆動プレート152と第2駆動プレート62とは、連結スプリング63によって中立位置に保持された状態で一体的に回転する。従って、回転軸20の回転駆動力は、第1駆動プレート152、連結スプリング63、第2駆動プレート62、コロ部材52、従動側回転体151の順に伝達され、従動側回転体151が回転される。
【0206】
また、駆動側回転体51の回転速度が、案内部材55に作用する遠心力によってコロ部材52を第1係合位置から第2係合位置に配置する大きさとなる同場合において、従動側回転体56に逆負荷(即ち、駆動側回転体51の回転方向と同方向の負荷(図31及び図32(a)において白抜きの矢印参照))が加わることがある。そして、従動側回転体56に逆負荷が加わった場合には、駆動側回転体51に対して従動側回転体151が先行して回転しようとする。しかしながら、動力伝達部52bは、第2係合凹部151cに嵌って係合することで従動側回転体151に対して回転方向に相対移動不能となっている。従って、動力伝達部52bと一体回転する駆動側回転体51と、従動側回転体151との相対回転が阻止されて、駆動側回転体51と従動側回転体151とのコロ部材52を介した連結が解除されることが阻止される。よって、回転軸20の回転駆動に基づく駆動側回転体51の回転中に、駆動側回転体51と従動側回転体151とのコロ部材52を介した連結が解除されることが阻止される。
【0207】
そして、モータ本体12が停止されると、クラッチ150は、上記第1実施形態のクラッチ50と同様の動作で停止する。即ち、図28に示すように、連結スプリング63の付勢力によって、第1駆動プレート152と第2駆動プレート62とが中立位置に復帰される。これにより、動力伝達部52bが楔面152bと従動側回転体151とによって挟持されていた場合には、その挟持が解除される。また、駆動側回転体51の回転速度の低下に伴って、案内部材55に作用する遠心力が小さくなるため、復帰スプリング53の付勢力によって、案内部材55が径方向内側に移動される。そして、案内部材55の径方向内側への移動に伴って、コロ部材52が係合位置から非係合位置に移動される。これにより、動力伝達部52bは、制御凹部151a内から制御溝152aの底部へ移動される。その結果、駆動側回転体51と従動側回転体151との回転方向の係合が解除されて、回転軸20とウォーム軸32とが断絶された状態となる。
【0208】
尚、図29(a)、図30、図31及び図32(a)では、駆動側回転体51(回転軸20)が図において時計方向に回転された場合のクラッチ150を図示している。しかし、クラッチ150は、回転軸20が図29(a)、図30、図31及び図32(a)において反時計方向に回転された場合も同様に回転軸20とウォーム軸32とを連結するものである。
【0209】
上記したように、本第5実施形態によれば、上記第1実施形態の(1)〜(15)と同様の効果に加えて、以下の効果を有する。
(24)第1係合凹部151bはコロ部材52の動力伝達部52bよりも回転方向(駆動側回転体51の回転方向)の幅が広いため、駆動側回転体51の回転駆動の開始時にカム機構によってコロ部材52が径方向外側へ移動されたときに、動力伝達部52bは第1係合凹部151bに挿入されやすい。即ち、駆動側回転体51の回転駆動が開始されてから第1係合凹部に動力伝達部52bが入るまでの駆動側回転体51の回転量が少なくてすむ。従って、駆動側回転体51の回転駆動が開始されてから短時間で、駆動側回転体51と従動側回転体151とをコロ部材52を介して回転方向に係合することができる。また、動力伝達部52bが第2係合凹部151cに挿入された場合には、動力伝達部52bと従動側回転体151とが回転方向に相対移動不能となる。例えば、制御凹部151aが第2係合凹部151cを備えない場合には、従動側回転体151に対して駆動側回転体51の回転方向と同方向の負荷である逆負荷が加わると、動力伝達部52bが伝達面56fから離間してコロ部材52による駆動側回転体51と従動側回転体151との係合が解除される虞がある。これに対し、本実施形態のクラッチ150では、動力伝達部52bが第2係合凹部151cに係合している場合には、従動側回転体151に対して駆動側回転体51の回転方向と同方向の負荷である逆負荷が加わったとしても、コロ部材52を介して駆動側回転体51と従動側回転体151とを回転方向に係合した状態を維持できる。その結果、駆動側回転体51から従動側回転体151への回転駆動力の伝達が途切れることが防止される。よって、駆動側回転体51から従動側回転体151へ安定して回転駆動力を伝達できる。
【0210】
(25)第2係合凹部151cは、第1係合凹部151bの底面における回転方向の両端部にそれぞれ形成されている。従って、駆動側回転体51の回転方向に拘わらず、動力伝達部52bを第2係合凹部151cに挿入することができる。よって、駆動側回転体51の回転方向に拘わらず、駆動側回転体51から従動側回転体151へ安定して回転駆動力を伝達することが可能となる。
【0211】
(26)動力伝達部52bは、第1係合凹部151bに挿入された後、案内部材55に作用する遠心力によって第2係合凹部151cに挿入される。従って、動力伝達部52bを第2係合凹部151cに挿入するための力を発生させる手段を別途設けなくてもよい。よって、クラッチ150の構成が複雑化されることを抑制できる。
【0212】
(第6実施形態)
以下、本発明を具体化した第6実施形態を図面に従って説明する。尚、本第6実施形態では、上記第1実施形態と同一の構成に同一の符号を付してその説明を省略する。
【0213】
図33に示す本第5実施形態のクラッチ160は、上記第1実施形態のクラッチ50に代えてモータ11に備えられるものである。そして、クラッチ160は、上記第1実施形態のクラッチ50と比較すると、各案内部材55のカム溝55dに阻止凹部55eを備えている。
【0214】
各案内部材55の阻止凹部55eは、カム溝55dの内周面を構成するカム面Sを凹設して形成されている。詳しくは、阻止凹部55eは、カム溝55dの内周面を構成する一対のカム面Sのうち径方向内側のカム面Sの周方向(回転方向)の中央部、即ち第1案内部P1の径方向内側となる部分(第1案内部P1と径方向に隣り合う部分)を径方向内側に凹設して形成されている。尚、カム溝55dの一対のカム面Sうち径方向内側のカム面Sは、コロ部材52を介して復帰スプリング53によって径方向内側に付勢される面である。そして、阻止凹部55eは、カム溝55dと同様に案内部材55を軸方向に貫通するとともに、軸方向から見た形状が円弧状をなしている。また、阻止凹部55eの円弧の曲率は、カム係合部52cの外周面の曲率と等しい。そして、阻止凹部55eには、カム係合部52cが径方向から挿入可能であるとともに、阻止凹部55eに挿入されたカム係合部52cは、その外周面が阻止凹部55eの外周面に当接して阻止凹部55eに回転方向(保持ケース54の周方向に同じ)に係合される。また、阻止凹部55eの深さは、阻止凹部55eにカム係合部52cが嵌って係合した状態でコロ部材52が保持ケース54の周方向に回転しようとした場合に、阻止凹部55eへのカム係合部52cの係合によってコロ部材52のカム溝55dに対する回転(保持ケース54の周方向の回転)が阻止される深さになっている。本実施形態では、阻止凹部55eの径方向の深さは、カム係合部52cの半径よりも若干浅い深さとなっている。
【0215】
また、案内部材55がその径方向の移動範囲内で最も径方向内側に位置し(即ち底面54kに当接し)且つコロ部材52が非係合位置に位置するときには、阻止凹部55eの内周面は、第1案内部P1に配置されたカム係合部52cの外周面よりも径方向内側に位置し、同カム係合部52cの外周面と非接触となっている。従って、その径方向の移動範囲内で最も径方向内側に配置された案内部材55のカム溝55dの第1案内部P1に位置するカム係合部52cは、阻止凹部55eに挿入されず、阻止凹部55eに係合されない。
【0216】
次に、本実施形態のクラッチ160の動作を同クラッチ160の作用と合わせて説明する。クラッチ160は、上記第1実施形態のクラッチ50と同様に回転軸20とウォーム軸32との連結・断絶を行う。ここでは、主に、案内部材55及びコロ部材52の動作を説明する。
【0217】
モータ本体12の停止時のように回転軸20が回転駆動されていない場合には、各案内部材55は、遠心力が作用していないため、カム係合部52cを介して伝達される復帰スプリング53の付勢力によって該案内部材55の径方向の移動範囲内で最も径方向内側に配置されている。また、復帰スプリング53の付勢力によって、コロ部材52は、非係合位置に配置されている。従って、カム係合部52cは、第1案内部P1に配置された状態に維持されるとともに、阻止凹部55eの内周面よりも径方向外側に位置し阻止凹部55eに係合していない。更に、動力伝達部52bは、非係合凹部61e内に配置された状態に維持されている。よって、コロ部材52は、クラッチ160は回転軸20とウォーム軸32とを断絶している。
【0218】
回転軸20の回転駆動が開始されて該回転軸20に連結された駆動側回転体51の回転駆動が開始されると、駆動側回転体51と共にコロ部材52が回転される一方、案内部材55及び該案内部材55を保持した保持ケース54は、該案内部材55に作用する慣性力によってその回転位置が維持される。従って、コロ部材52と一体回転する駆動側回転体51が、案内部材55及び保持ケース54に対して相対回転するため、カム溝55dに対してカム係合部52cが保持ケース54の周方向に回転される。その結果、カム機構が作動して、カム係合部52cは、カム溝55dのカム面Sに案内されながら、第1案内部P1から第2案内部P2へと移動される。この時、カム係合部52cは阻止凹部55eに係合していないため、カム溝55dに対して容易に相対回転される。そして、カム溝55dの作用により、コロ部材52は、非係合位置から係合位置に移動される。係合位置に配置されたコロ部材52の動力伝達部52bは、駆動側回転体51の回転に伴って、第1実施形態のクラッチ50と同様に、制御凹部56e内で駆動側回転体51の回転方向の前方側の伝達面56fに当接する(図12(a)参照)。これにより、回転軸20の回転駆動力を、コロ部材52を介して従動側回転体56に伝達可能となる。
【0219】
カム係合部52cが第2案内部P2に配置された後、回転駆動が開始された駆動側回転体51と共に回転するコロ部材52から復帰スプリング53の付勢力が伝達される案内部材55も、駆動側回転体51に伴って回転し始める。そして、案内部材55の回転速度が上昇すると、その回転速度の上昇に伴って、該案内部材55に作用する慣性力が小さくなる。案内部材55は、該案内部材55に作用する慣性力が小さくなるに連れて、カム係合部52cを介して伝達される復帰スプリング53の付勢力の作用により、保持ケース54と共に、駆動側回転体51に対して同駆動側回転体51と同方向に相対回転していく。この駆動側回転体51に対する案内部材55の相対回転に伴って、保持ケース54にて保持された案内部材55のカム溝55dが、カム係合部52cに対して保持ケース54の周方向に回転されるため、図34に示すように、カム係合部52cは、第2案内部P2から第1案内部P1へ相対的に移動される。この時、同時に、案内部材55の回転速度の増大に伴って、案内部材55に作用する遠心力が徐々に大きくなるため、案内部材55は、案内面54hに案内されながら径方向外側に移動される。従って、カム係合部52cの径方向位置は径方向に変化することなく維持されるため、コロ部材52は案内部材55によって係合位置に保持される(即ち、保持機構が連結状態となる)。また、案内部材55は、カム係合部52cが第1案内部P1に配置されるまで径方向外側に移動した後、カム係合部52cが阻止凹部55eに嵌るまで(即ちカム係合部52cの外周面が阻止凹部55eの内周面に当接するまで)、遠心力によって更に径方向外側に移動する。そして、駆動側回転体51の回転駆動中には、案内部材55は、阻止凹部55eにカム係合部52cが嵌って係合した状態でコロ部材52と一体回転する。
【0220】
モータ本体12が停止されて駆動側回転体51の回転駆動が停止されると、駆動側回転体51の回転速度の低下に伴って、駆動側回転体51からコロ部材52を介して回転駆動力が伝達されていた案内部材55及び従動側回転体56の回転速度も低下する。すると、案内部材55に作用する遠心力が小さくなるため、復帰スプリング53の付勢力によって、案内部材55は径方向内側に移動されていく(即ち、保持機構が初期状態に復帰する)。その一方で、案内部材55は、慣性力によってそれまで回転していた方向と同方向に回転し続けようとする。しかしながら、阻止凹部55eにカム係合部52cが嵌って係合しているため、案内部材55は、コロ部材52と異なる回転速度で回転することが阻止されて、コロ部材52とカム溝55dとの相対回転が阻止される。即ち、案内部材55は、コロ部材52と一体で減速する。そして、図33に示すように、復帰スプリング53の付勢力によって、案内部材55及びコロ部材52は共に径方向内側に移動される。この時、カム係合部52cは、カム溝55dにおいて第1案内部P1に位置しているため、コロ部材52は、係合位置から非係合位置に移動される。その結果、駆動側回転体51と従動側回転体56との回転方向の係合が解除されて、回転軸20とウォーム軸32とが断絶された状態となる。
【0221】
上記したように、本第6実施形態によれば、上記第1実施形態の(1)〜(15)と同様の効果に加えて、以下の効果を有する。
(27)カム溝55dに阻止凹部55eを備えないクラッチにおいては、駆動側回転体51の回転駆動が停止された時に、案内部材55に作用する慣性力によって案内部材55がコロ部材52に対して相対回転することがある。すると、コロ部材52が係合位置と非係合位置との間で無駄に動いてしまう。これに対し、本実施形態のクラッチ160では、駆動側回転体51の回転駆動が停止された時に、案内部材55に作用する慣性力によって案内部材55がコロ部材52に対して相対回転しようとしても、カム係合部52cが係合した阻止凹部55eによってコロ部材52とカム溝55dとの相対回転が阻止される。従って、駆動側回転体51の回転駆動の停止後に、コロ部材52のカム係合部52cがカム溝55d内を相対的に移動することが阻止されるため、駆動側回転体51と従動側回転体56との回転方向の係合を素早く解除することができる。また、駆動側回転体51の回転駆動の停止後に、コロ部材52のカム係合部52cがカム溝55d内を相対的に移動してカム溝55dの内周面に衝突することを防止できるため、コロ部材52とカム溝55dの内周面との衝突音の発生を防ぐことができるとともに、コロ部材52及び案内部材55に衝撃荷重が加わることを抑制することができる。
【0222】
(28)カム面Sを凹設して形成された阻止凹部55eは、簡単な形状をなしている。従って、駆動側回転体51の回転駆動が停止された時にコロ部材52とカム溝55dとの相対回転を阻止する手段をカム溝55dに容易に設けることができる。
【0223】
(29)コロ部材52が非係合位置に配置されているときには、該コロ部材52のカム係合部52cは阻止凹部55eに係合しない。従って、カム係合部52cは、駆動側回転体51の回転駆動の開始時には、第1案内部P1から第2案内部P2へカム溝55d内を容易に移動することができる。また、駆動側回転体51の回転に伴って回転することにより生じた遠心力により案内部材55が径方向外側へ移動する時に、コロ部材52は、案内部材55によって係合位置に保持されたままカム溝55d内を第2案内部P2から第1案内部P1へ相対的に移動する。従って、駆動側回転体51の回転中に、第1案内部P1と径方向に隣り合う阻止凹部55eにコロ部材52のカム係合部52cを係合することができる。そして、駆動側回転体51の回転駆動が停止された時には、復帰スプリング53の付勢力によって、相対回転不能に係合されたコロ部材52と案内部材55とが径方向内側に移動される。従って、復帰スプリング53は、駆動側回転体51の回転駆動が停止された時にコロ部材52と案内部材55とを径方向内側に移動させるだけの付勢力を備えていればよい。即ち、復帰スプリング53は、上記第1実施形態のようにコロ部材52が非係合位置側に移動されるように駆動側回転体51と案内部材55とを相対回転させるように構成されなくてもよい。よって、復帰スプリング53にかかるコストを低減することができる。
【0224】
(30)阻止凹部55eは、第1案内部P1の径方向内側に設けられている。従って、駆動側回転体51の回転駆動が停止された後に、復帰スプリング53の付勢力によって、カム係合部52cを容易に阻止凹部55eに係合させることができる。
【0225】
(31)コロ部材52は径方向に移動するため、阻止凹部55eを径方向に凹設することにより、該阻止凹部55eにカム係合部52cを容易に係合させることができる。
尚、本発明の各実施形態は、以下のように変更してもよい。
【0226】
・上記各実施形態では、車両ボディ2の側部に設けられた乗降口2aを開閉するスライドドア3を自動で開閉作動させるためのスライドドア開閉装置1を例に本発明を説明した。しかしながら、モータ11を駆動源として用いてドアを自動で開閉作動させるドア開閉装置であれば、スライドドア3以外のドアを開閉作動させるものに本発明を適用してもよい。例えば、車両後部に設けられた開口を開閉するバックドアをモータ11の駆動力により自動で開閉作動させるバックドア開閉装置に本発明を適用してもよい。また、上記各実施形態のモータ11は、ドア開閉装置に限らず、出力軸35に連結された負荷に回転軸20の回転駆動力を伝達する一方、負荷側からの出力軸35の回転を許容する装置に使用されてもよい。
【0227】
・上記各実施形態では、クラッチ50,80,100,110,150,160は、モータ11に備えられている。しかしながら、クラッチ50,80,100,110,150,160は、モータ11以外に、同軸上に配置された駆動軸と従動軸とを連結・断絶するように作動するものに使用されてもよい。
【0228】
・上記各実施形態では、駆動側回転体51,81の回転駆動の開始時には、案内部材55に作用する慣性力によって同案内部材55が駆動側回転体51,81よりも遅れて回転することにより、駆動側回転体51,81と案内部材55とが相体回転される。しかしながら、案内部材55に作用する慣性力を利用する以外に、駆動側回転体51,81の回転駆動の開始時に駆動側回転体51,81と案内部材55とを相体回転させるための手段をクラッチ50,80,100,110,150,160に備えてもよい。例えば、駆動側回転体51,81の回転駆動の開始時に、案内部材55と回転軸20との間に摩擦力を発生させる手段をクラッチ50,80,100,110,150,160に設け、当該摩擦力の作用によって案内部材55が駆動側回転体51,81よりも遅れて回転するようにしてもよい。
【0229】
・上記第6実施形態では、阻止凹部55eは、カム溝55dの一対のカム面Sのうち径方向内側のカム面Sに形成されているが、径方向外側のカム面Sに形成されてもよい。この場合、例えば、コロ部材52に作用する遠心力によって、カム係合部52cが阻止凹部55eに挿入される。また、阻止凹部55eは、カム面Sにおいて、第1案内部P1から回転方向にずれた位置に形成されてもよい。但し、阻止凹部55eは、駆動側回転体51の回転駆動の停止時にカム係合部52cが係合してカム溝55dとカム係合部52cとの相対回転が阻止されるように形成される。
【0230】
・上記第6実施形態では、駆動側回転体51の回転駆動が停止された時にコロ部材52とカム溝55dとの相対回転を阻止する相対回転阻止手段として、カム溝55dに阻止凹部55eを設けた。しかしながら、相対回転阻止手段は、カム面Sに形成される阻止凹部55eに限らない。例えば、相対回転阻止手段は、カム溝55dの一対のカム面Sのうち径方向外側のカム面Sから径方向に突出した凸部であってもよい。この場合、カム溝55dの径方向の幅は、カム係合部52cの直径に凸部の径方向の突出量を加えた幅とされる。更に、カム係合部52cに、凸部が係合する凹部が形成される。そして、駆動側回転体51の停止時には、復帰スプリング53によってコロ部材52が径方向内側に付勢されているため、カム係合部52cは凸部に係合しない。また、駆動側回転体51の回転時には、遠心力によってコロ部材52が径方向外側に移動することによりカム係合部52cが凸部に係合する。このようにしても、上記第6実施形態の(27)と同様の効果を得ることができる。また、第5実施形態のクラッチ150に相対回転阻止手段を設けてもよい。
【0231】
・上記第6実施形態のクラッチ160に、案内部材55を径方向内側に付勢する付勢手段を設けてもよい。
・カム溝55dの形状は、上記各実施形態の形状に限らない。カム溝は、駆動側回転体51,81と案内部材55との相体回転に伴って、コロ部材52を非係合位置から係合位置へ案内可能な形状であればよい。例えば、カム溝は、軸方向から見た形状が径方向内側に突き出た円弧状となるように形成されてもよい。また、カム溝は、第1案内部P1から第2案内部P2に向かって直線的に延びるように形成されてもよい。
【0232】
・案内部材55において非係合位置と係合位置との間のコロ部材52の移動を案内する部位(カム部)は、溝状のカム溝55dに限らない。例えば、案内部材55から軸方向に突出するように形成されコロ部材52のカム係合部52cが係合されるカム突出部によって、非係合位置と係合位置との間のコロ部材52の移動を案内するようにしてもよい。このようにしても、上記第1実施形態の(3)と同様の効果を得ることができる。
【0233】
・上記第5実施形態では、第2係合凹部151cは、第1係合凹部151bの底面の回転方向の両端部にそれぞれ形成されている。しかしながら、第2係合凹部151cは、第1係合凹部151bの底面に形成されるのであれば、第1係合凹部151bの底面の回転方向の両端部以外の場所に形成されてもよい。例えば、第2係合凹部151cは、第1係合凹部151bの底面における回転方向の中央部に形成されてもよい。このようにすると、動力伝達部52bが第1係合凹部151bに挿入された後、同動力伝達部52bが第2係合凹部151cに挿入されるまでに同動力伝達部52bが従動側回転体151に対して回転する量を小さくすることが可能となる。
【0234】
・上記第5実施形態では、動力伝達部52bは、遠心力により径方向外側に移動される案内部材55によって第2係合凹部151cに挿入される。しかしながら、動力伝達部52bは、駆動側回転体51の回転駆動の開始時に、案内部材55と駆動側回転体51との相対回転に伴ってカム溝55dに案内されて第2係合凹部151cに挿入されてもよい。このようにしても、動力伝達部52bを第2係合凹部151cに挿入するための力を発生させる手段を別途設けなくてもよいため、クラッチ150の構成が複雑化されることを抑制できる。
【0235】
・上記第3実施形態及び上記第4実施形態では、第1押圧面62mに比べて第2押圧面62nの方が径方向に長く形成されている。しかしながら、第2押圧面62nの径方向の長さは、第1押圧面62mの径方向の長さ以下の長さであってもよい。
【0236】
・上記各実施形態では、連結スプリング63は圧縮コイルばねよりなる。しかしながら、連結スプリング63は、駆動側回転体51と従動側回転体56とによるコロ部材52の挟持を解除するように駆動側回転体51(第1駆動プレート61,152)を付勢するものであれば、圧縮コイルばね以外のばね(ねじりコイルばね等)であってもよい。
【0237】
・上記第3実施形態では、挿入路103は、第2駆動プレート102において、ばね収容凹部62dの径方向外側に形成されている。しかしながら、挿入路103は、該挿入路103を通してばね収容凹部62dに連結スプリング63を挿入可能であれば、ばね収容凹部62dの径方向内側に形成されてもよい。このことは、上記第4実施形態の挿入路113についても同様である。
【0238】
・上記各実施形態では、ばね収容凹部62dは、軸方向に凹設され第1駆動プレート61,152側に開口する凹部である。更に、ばね収容凹部62dは、周方向に延びる円弧状をなしている。しかしながら、ばね収容凹部62dの形状はこれに限らず、連結スプリング63を圧縮した状態で収容可能な溝状であればよい。尚、「溝状」は、凹部状だけでなく孔状も含む。例えば、ばね収容凹部62dは、第2駆動プレート62,102,112の径方向と直交するように延びる直線状の凹部であってもよい。また、連結スプリング63を収容するための補助付勢部材収容部は、ばね収容凹部62dのような凹部状に限らず、第2駆動プレート62,102,112を軸方向に貫通した孔状であってもよい。この場合、補助付勢部材収容部の軸方向の両端開口部のうち第1駆動プレート61,152側の開口部は第1駆動プレート61,152によって軸方向から閉塞される一方、第1駆動プレート61,152と反対側の開口部は保持ケース54及び案内部材55によって軸方向から閉塞される。
【0239】
・上記各実施形態では、対の復帰凸部61hが挿入される復帰収容部として、ばね収容凹部62dの周方向の両側に軸方向に凹設された凹状の復帰凹部62eを形成している。しかしながら、復帰収容部は、対の復帰凸部61hを挿入可能であれば、第2駆動プレート62,102,112を軸方向に貫通する孔状に形成されてもよい。
【0240】
・上記第4実施形態では、一対の案内面113c,113dは、ばね収容凹部62d内に配置された連結スプリング63の伸縮方向に対して傾斜するとともに、互いに平行をなしている。しかしながら、挿入路113に代えて、図35に示す挿入路121を第2駆動プレート112に形成してもよい。挿入路121は、第2駆動プレート112において各ばね収容凹部62dの径方向外側にそれぞれ形成されている。各挿入路121は、第1駆動プレート61側に開口し、各ばね収容凹部62dの周方向の中央部から第2駆動プレート112の外周面(即ち収容部62bの外周面及び案内部62aの外周面)まで延びる凹状をなしている。そして、挿入路121におけるばね収容凹部62dと反対側の外側開口部121aは、挿入路121におけるばね収容凹部62d側の内側開口部121bよりも周方向に長く形成されている。
【0241】
また、挿入路121の内周面には、外側開口部121aから内側開口部121bの方へ向かうに連れて互いの間隔が狭くなるように、ばね収容凹部62d内に配置された連結スプリング63の伸縮方向に対して傾斜した一対の案内面121c,121dが形成されている。図35に示す例では、一対の案内面121c,121dは、挿入路121の周方向の両側の側面を構成するとともに、各案内面121c,121dは、外側開口部121aから内側開口部121bに亘る平面状をなしている。更に、一対の案内面121c,121dは、周方向に対向するとともに、外側開口部121aから内側開口部121bの方へ向かうに連れて周方向に近接するように形成されている。従って、一方の案内面121cにおける外側開口部121a側の端部は同案内面121cにおける内側開口部121b側の端部に対して周方向にずれた位置に位置するとともに、他方の案内面121dにおける外側開口部121a側の端部は同案内面121dにおける内側開口部121b側の端部に対して周方向にずれた位置に位置している。また、一対の案内面121c,121dは、ばね収容凹部62d内に配置された連結スプリング63の伸縮方向に対して直交することなく傾斜するように形成されることで、それぞれ径方向に対して傾斜している。更に、一対の案内面121c,121dは、軸方向と平行をなしている。また、各挿入路121は、クラッチ110の作動時に第1駆動プレート61と第2駆動プレート112との間で連結スプリング63が圧縮されても該連結スプリング63における伸縮方向の端が挿入路121に至らないように形成されている。
【0242】
このような挿入路121を通して連結スプリング63をばね収容凹部62dに挿入する場合、連結スプリング63をその伸縮方向の一端部から一方の案内面121cに沿って挿入路121に挿入すると、連結スプリング63の挿入方向(図35中、一点鎖線の矢印参照)が、ばね収容凹部62d内での連結スプリング63の伸縮方向に対して傾斜することになる。また、図35において二点鎖線で図示した連結スプリング63のように、連結スプリング63をその伸縮方向の一端部から他方の案内面121dに沿って挿入路121に挿入した場合においても、連結スプリング63の挿入方向(図35中、二点鎖線の矢印参照)が、ばね収容凹部62d内での連結スプリング63の伸縮方向に対して傾斜することになる。従って、何れの場合においても、連結スプリング63の挿入方向が、ばね収容凹部62d内での連結スプリング63の伸縮方向に対して傾斜することになる。そのため、案内面121c若しくは案内面121dに沿って連結スプリング63を挿入路121からばね収容凹部62dに挿入することで、予め連結スプリング63を圧縮しなくとも連結スプリング63をばね収容凹部62dに組み付けることができる。
【0243】
このようにすると、上記第4実施形態の(23)と同様の効果に加えて、次に述べる効果を得ることができる。一対の案内面121c、121dは、ばね収容凹部62d内での連結スプリング63の伸縮方向に対して互いに異なる方向に傾斜している。よって、各案内面121c、121dに沿った2つの方向のうち何れかの方向に沿って挿入路121を通して連結スプリング63をばね収容凹部62dに挿入することができる。従って、連結スプリング63の組付け方向が1方向に限られないため、連結スプリング63の組付け性が更に向上する。尚、一対の案内面121c、121dは、内側開口部121bから外側開口部121aの方へ向かうに連れて互いの間隔が狭くなるように、ばね収容凹部62d内に配置された連結スプリング63の伸縮方向に対して傾斜するものであってもよい。このようにしても、同様の効果を得ることができる。
【0244】
また、挿入路113に代えて、図36に示す挿入路122を第2駆動プレート112に形成してもよい。挿入路122は、第2駆動プレート112において各ばね収容凹部62dの径方向外側にそれぞれ形成されている。そして、各挿入路122は、第1駆動プレート61側に開口し、各ばね収容凹部62dの周方向の中央部から第2駆動プレート112の外周面(即ち収容部62bの外周面及び案内部62aの外周面)まで延びる凹状をなしている。
【0245】
各挿入路122の内周面には、周方向に対向する一対の案内面122c,122dが形成されている。一対の案内面122c,122dは、挿入路122におけるばね収容凹部62dと反対側の外側開口部122aから挿入路122におけるばね収容凹部62d側の内側開口部122bの方へ向かうに連れて互いの間隔が狭くなるように、ばね収容凹部62d内に配置された連結スプリング63の伸縮方向に対して傾斜している。また、挿入路122の内周面には、一対の案内面122c,122dよりも内側開口部122b側で周方向に対向するとともに、一対の案内面122c,122dと並ぶ一対の傾斜面122e,122fが形成されている。一対の傾斜面122e,122fは、内側開口部122bから外側開口部122aの方へ向かうに連れて互いの間隔が狭くなるように、ばね収容凹部62d内に配置された連結スプリング63の伸縮方向に対して傾斜している。また、一対の案内面122c,122d及び一対の傾斜面122e,122fは、それぞれ径方向に対して傾斜するとともに軸方向と平行をなす平面状をなしている。更に、一方の傾斜面122eは対向側の一方の案内面122dと略平行に形成されるとともに、他方の傾斜面122fは対向側の他方の案内面122cと略平行に形成されている。図36に示す例では、一方の傾斜面122eは対向側の一方の案内面122dと平行に形成されるとともに、他方の傾斜面122fは対向側の他方の案内面122cと平行に形成されている。更に、一方の傾斜面122eと対向側の一方の案内面122dとの間の間隔は、連結スプリング63の外径と略等しい値となっており、他方の傾斜面122fと対向側の他方の案内面122cとの間の間隔も、連結スプリング63の外径と略等しい値となっている。
【0246】
このようにすると、上記第4実施形態の(23)と同様の効果及び図35に示す例と同様の効果に加えて、次に述べる効果を得ることができる。一対の傾斜面122e,122fは、一対の案内面122c,122dと並ぶように、挿入路122における内側開口部122b側の端部に形成されている。更に、一対の傾斜面122e,122fは、内側開口部122bから外側開口部122aの方へ向かうに連れて互いの間隔が狭くなるように、ばね収容凹部62d内に配置された連結スプリング63の伸縮方向に対して傾斜している。従って、一対の案内面122c,122dのうち何れか一方の案内面に沿って挿入路122を通して連結スプリング63をばね収容凹部62dに挿入するときに、同連結スプリング63が内側開口部122bに引っ掛かり難くなる。従って、より円滑に連結スプリング63をばね収容凹部62dに挿入することができる。更に、一方の傾斜面122eは対向側の一方の案内面122dと平行に形成されるとともに、他方の傾斜面122fは対向側の他方の案内面122cと平行に形成されている。そのため、一対の案内面122c,122dのうち何れか一方の案内面に沿って挿入路122を通して連結スプリング63をばね収容凹部62dに挿入するときに、同連結スプリング63が内側開口部122bにより引っ掛かり難くなる。従って、更に円滑に連結スプリング63をばね収容凹部62dに挿入することができる。また、図36に示す例では、一方の傾斜面122eと対向側の一方の案内面122dとの間の間隔、並びに他方の傾斜面122fと対向側の他方の案内面122cとの間の間隔が、連結スプリング63の外径と略等しい値となっている。そのため、連結スプリング63は、挿入路122からばね収容凹部62dに挿入されるときに、案内面122c若しくは案内面122dだけでなく、傾斜面122f若しくは傾斜面122eによっても、挿入方向に案内される。従って、連結スプリング63の組付け性が一層向上する。
【0247】
・上記第3実施形態及び上記第4実施形態では、ばね収容凹部62dに連結スプリング63を挿入するための挿入路103,113は、何れもばね収容凹部62dと径方向に隣り合う位置に形成されている。しかしながら、図37に示すクラッチ130のように、ばね収容凹部62dと軸方向に隣り合う挿入路133を形成してもよい。クラッチ130は、上記第1実施形態のクラッチ50と比較すると、第1駆動プレート61に代えて、第1駆動プレート131を備えている。第1駆動プレート131は、上記第1実施形態の第1駆動プレート61に挿入路133を追加した形状をなしている。挿入路133は、周方向に180°間隔となる2箇所であって、対をなす復帰凸部61h間(図4参照)にそれぞれ形成されている。また、各挿入路133は、第1駆動プレート131においてそれぞればね収容凹部62dと軸方向に隣り合う位置に形成されている。これらの挿入路133は、第1駆動プレート131を軸方向に貫通した孔状をなすとともに、各挿入路133の内部空間はそれぞればね収容凹部62dに連通している。また、各挿入路133は、第1駆動プレート131の回転方向(クラッチ130の周方向に同じ)に沿って円弧状に延びるとともに、その径方向の幅は、ばね収容凹部62dの径方向の幅と略等しく形成されている。更に、各挿入路133の周方向の長さは、ばね収容凹部62dの周方向の長さよりも短く形成されている。そのため、第1駆動プレート131における挿入路133の周方向の両側の部位によって、ばね収容凹部62dの周方向の両端部が軸方向から閉塞されている。
【0248】
そして、クラッチ130を組み付けるには、まず、2つの連結スプリング63及び従動側回転体56以外のクラッチ130の構成部品、即ち、第1駆動プレート131、第2駆動プレート62、2つのコロ部材52、2つの復帰スプリング53、保持ケース54及び2つの案内部材55を組み付ける。尚、スラスト受けボール71及びスラスト受けプレート72は、この時点で組み付けてもよいし、従動側回転体56を組み付ける前に組み付けてもよい。第1駆動プレート131、第2駆動プレート62、2つのコロ部材52、2つの復帰スプリング53、保持ケース54及び2つの案内部材55が組み付けられると、第2駆動プレート62に対して収容部62b側で第1駆動プレート131が軸方向に重なるように配置される。これにより、各ばね収容凹部62dと各挿入路133とが軸方向に隣り合うとともに、各ばね収容凹部62dの開口部における周方向の両端部が第1駆動プレート131によって軸方向から閉塞される。次いで、圧縮して挿入路133の周方向の長さよりも短く縮めた連結スプリング63を、軸方向から挿入路133に挿入する。そして、挿入路133を通り抜けるまで、連結スプリング63をばね収容凹部62dに向けて軸方向に押し込む。挿入路133を通り抜けた連結スプリング63は、ばね収容凹部62d内に入り同ばね収容凹部62d内で周方向に伸びて、該連結スプリング63の両端がそれぞれ第2押圧面62n及び第1押圧面62mに当接する。こうして、連結スプリング63が組み付けられる。その後、従動側回転体56が組付けられてクラッチ130が完成する。このようにしても、上記第3実施形態の(19)と同様の効果を得ることができる。
【0249】
尚、連結スプリング63は、予め縮めて挿入路133に入れるのではなく、連結スプリング63の伸縮方向(長手方向)の一端部から挿入路133に挿入してもよい。この場合、ばね収容凹部62d内での連結スプリング63の伸縮方向に対して同連結スプリング63を傾斜させた状態で、同連結スプリング63を挿入路133に挿入していく。そして、挿入路133を通ってばね収容凹部62dに収容されるまで連結スプリング63を押し込む。
【0250】
また、図37に示すクラッチ130において、挿入路133の内周面に、連結スプリング63の挿入路133への挿入時に、連結スプリング63の挿入方向がばね収容凹部62d内での連結スプリング63の伸縮方向に対して傾斜するように連結スプリング63の挿入を案内する案内面を形成してもよい。この案内面は、ばね収容凹部62d内での連結スプリング63の伸縮方向に対して傾斜した平面状をなすものである。
【0251】
・上記第3実施形態では、クラッチ100を組み付ける際、2つの連結スプリング63及び従動側回転体56以外のクラッチ100の構成部品を組み付けた後に、挿入路103を通してばね収容凹部62dに連結スプリング63を組み付ける。しかしながら、連結スプリング63の組付け順序はこれに限らない。ばね収容凹部62dの開口部が第1駆動プレート61によって閉塞された後であれば、連結スプリング63はいつ挿入路103を通してばね収容凹部62dに組み付けられてもよい。このようにしても上記第3実施形態の(19)と同様の効果を得ることができる。尚、このことは、上記第4実施形態のクラッチ110についても同様である。
【0252】
・上記第3実施形態及び上記第4実施形態の挿入路103,113は、何れも軸方向に凹設された凹部状をなしている。しかしながら、挿入路103,113は、ばね収容凹部62dに連通するとともに、ばね収容凹部62dの開口部の少なくとも一部がクラッチ100,110の構成部品によって閉塞された状態で挿入路103,113を通して連結スプリング63をばね収容凹部62dに組み付け可能な形状であればよい。例えば、挿入路は、ばね収容凹部62dの径方向外側の内側面から第2駆動プレート102の外周面まで延びるとともに第2駆動プレート102を軸方向に貫通したスリット状に形成されてもよい。
【0253】
・上記第1実施形態では、第1駆動プレート61に復帰凸部61hが形成される一方、第2駆動プレート62にばね収容凹部62d及び復帰凹部62eが形成されている。しかしながら、第1駆動プレートにばね収容凹部62d及び復帰凹部62eを形成し、その一方で第2駆動プレート62に復帰凸部61hを形成してもよい。このことは、上記第3実施形態のクラッチ100、上記第4実施形態のクラッチ110、上記第5実施形態のクラッチ150及び上記第6実施形態のクラッチ160についても同様である。
【0254】
・上記各実施形態では、復帰スプリング53,82は、コロ部材52を径方向内側に付勢するように配置されている。しかしながら、復帰スプリング53,82は、コロ部材52を径方向以外の方向(例えば、周方向)に付勢するように配置されてもよい。この場合、復帰スプリング53,82の付勢力によって、カム機構、保持機構及び挟持機構が初期状態に復帰されるように、付勢力の方向を変換したり、分力を発生させたりするための構成を設けることもある。
【0255】
・上記第1実施形態では、復帰スプリング53は、カム機構及び保持機構の2つの機構を初期状態に復帰するように付勢している。しかしながら、復帰スプリング53は、カム機構と挟持機構の2つの機構、若しくは、保持機構と挟持機構との2つの機構を初期状態に復帰させるものであってもよい。また、上記第1実施形態のクラッチ50は、必ずしも挟持機構を備えなくてもよい。このことは、上記第3実施形態乃至上記第6実施形態においても同様である。
【0256】
・上記各実施形態のカム機構、保持機構及び挟持機構は、回転軸20の非駆動時にはウォーム軸32を回転軸20から断絶する一方、回転軸20側からの駆動時には回転軸20とウォーム軸32とを連結するようにクラッチ50,80,100,110,150,160を作動させるための機構である。上記各実施形態のクラッチ50,80,100,110,150,160は、カム機構、保持機構及び挟持機構以外に、回転軸20の非駆動時に回転軸20とウォーム軸32とを断絶する初期状態となる一方、回転軸20側からの駆動時に回転軸20とウォーム軸32とを連結する連結状態となる機構を備えてもよい。この場合、複数の機構のうち少なくとも2つの機構は、同じ付勢部材によって初期状態に復帰するように構成される。
【0257】
・上記各実施形態では、復帰スプリング53、連結スプリング63及び復帰スプリング82には、圧縮コイルばねが用いられているが、引っ張りコイルばねを用いてもよい。また、復帰スプリング53、連結スプリング63及び復帰スプリング82には、コイルばね以外の付勢力を発生する付勢部材を用いてもよい。
【0258】
・上記第1実施形態のクラッチ50において、コロ部材52、制御溝61d、案内凹部62f、挿通係合部62g、連結スプリング63、カム溝55dを有する案内部材55の数は適宜変更してもよい。これらの部品は、クラッチ50に少なくとも1つ備えられていればよい。このことは、上記第3実施形態のクラッチ100、上記第4実施形態のクラッチ110、上記第5実施形態のクラッチ150及び上記第6実施形態のクラッチ160についても同様である。また、上記第2実施形態のクラッチ80において、コロ部材52、制御溝91a、案内凹部62f、挿通係合部62g、カム溝55dを有する案内部材55の数は適宜変更してもよい。これらの部品は、クラッチ80に少なくとも1つ備えられていればよい。
【0259】
・上記各実施形態では、第1駆動プレート61,91,152は、回転軸20と別体に形成されているが、一体に形成されてもよい。また、上記各実施形態では、従動側回転体56,151は、ウォーム軸32と別体に形成されているが、一体に形成されてもよい。
【0260】
上記各実施形態及び上記各変更例から把握できる技術的思想を以下に記載する。
(イ)請求項2乃至請求項5の何れか1項に記載のクラッチにおいて、前記カム機構、前記保持機構及び前記楔機構を備え、前記付勢部材は、前記駆動側回転体の停止時に前記動力伝達部材を前記非係合位置に配置するように前記カム機構、前記保持機構及び前記楔機構を付勢することを特徴とするクラッチ。同構成によれば、付勢部材は、カム機構、保持機構及び挟持機構の3つの機構を、駆動側回転体の停止時に動力伝達部材を非係合位置に配置するように、即ち初期状態とするように付勢している。従って、カム機構、保持機構及び挟持機構の3つの機構を初期状態に復帰させるための付勢部材の数を最小とすることができる。
【0261】
(ロ)前記(イ)に記載のクラッチにおいて、前記駆動側回転体は、径方向に対して傾斜し前記動力伝達部材に回転方向から当接可能な楔面を備え、前記従動側回転体は、前記楔面と共に前記動力伝達部材を挟持するための伝達面を備え、前記付勢部材は、前記楔面を径方向に付勢していることを特徴とするクラッチ。同構成によれば、伝達面と共に動力伝達部材を挟持する楔面は、径方向に対して傾斜している。従って、付勢部材は、この楔面を径方向に付勢することにより、楔面と伝達面とが離間するように駆動側回転体を回転方向に付勢することができる。従って、挟持機構を初期状態に復帰させるために、当該挟持機構に付勢部材の付勢力を作用させるための構成を新たに追加しなくてもよい。その結果、クラッチの構成が複雑化されることがより抑制される。
【0262】
(ハ)請求項16乃至請求項18の何れか1項に記載のクラッチにおいて、前記動力伝達部材は、前記駆動側回転体の回転に伴って回転することにより生じた遠心力により径方向外側へ移動する前記案内部材によって、前記第2係合凹部に挿入されることを特徴とするクラッチ。同構成によれば、動力伝達部材を第2係合凹部に挿入するための力を発生させる手段を別途設けなくてもよいため、クラッチの構成が複雑化されることを抑制できる。
【0263】
(ニ)請求項16乃至請求項18の何れか1項に記載のクラッチにおいて、前記動力伝達部材は、前記案内部材と前記駆動側回転体との相対回転に伴って前記カム部に案内されて前記第2係合凹部に挿入されることを特徴とするクラッチ。同構成によれば、動力伝達部材を第2係合凹部に挿入するための力を発生させる手段を別途設けなくてもよいため、クラッチの構成が複雑化されることを抑制できる。
【符号の説明】
【0264】
1…車両用ドア開閉装置としてのスライドドア開閉装置、2…車両としての車両ボディ、2a…開口としての乗降口、3…ドアとしてのスライドドア、11…モータ、12…モータ本体、20…駆動軸としての回転軸、32…従動軸としてのウォーム軸、34…減速機構、50,80,100,110,130,150,160…クラッチ、51,81…挟持機構を構成する駆動側回転体、52…カム機構を構成する動力伝達部材としてのコロ部材、53,82…付勢部材としての復帰スプリング、54…保持ケース、55…保持機構を構成する案内部材、55d…カム機構を構成するカム部としてのカム溝、55e…相対回転阻止手段としての阻止凹部、56,151…挟持機構を構成する従動側回転体、56c…側壁部、56f…伝達面、61,131,152…第1回転体としての第1駆動プレート、61g,152b…楔面、61h…復帰凸部、62,102,112…第2回転体としての第2駆動プレート、62d…補助付勢部材収容部としてのばね収容凹部、62e…復帰収容部としての復帰凹部、62m…第1押圧面、62n…第2押圧面、63…補助付勢部材としての連結スプリング、103,113,121,122,133…挿入路、113a,121a,122a…外側開口部、113b,121b,122b…内側開口部、113c,113d,121c,121d,122c,122d…案内面、122e,122f…傾斜面、151b…第1係合凹部、151c…第2係合凹部、F1,F2…付勢力、P1…第1案内部、P2…第2案内部、S…カム面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸の非駆動時に前記駆動軸と従動軸とを断絶する初期状態となる一方、前記駆動軸側からの駆動時に前記駆動軸と前記従動軸とを連結する連結状態となる複数の機構を備え、前記駆動軸の非駆動時には前記従動軸を前記駆動軸から断絶する一方、前記駆動軸側からの駆動時には前記駆動軸と前記従動軸とを連結するように作動するクラッチであって、
複数の前記機構のうち少なくとも2つの前記機構を前記初期状態に復帰させるように付勢力を発揮する付勢部材を備えたことを特徴とするクラッチ。
【請求項2】
請求項1に記載のクラッチにおいて、
前記駆動軸と一体回転可能に設けられる駆動側回転体と、
前記従動軸と一体回転可能に設けられる従動側回転体と、
径方向における前記駆動側回転体と前記従動側回転体との間に配置されるとともに前記駆動側回転体と一体回転可能に設けられ、前記駆動側回転体と前記従動側回転体とを回転方向に係合しない非係合位置と、前記非係合位置よりも径方向外側で前記駆動側回転体と前記従動側回転体とを回転方向に係合する係合位置との間で移動される動力伝達部材と、
前記動力伝達部材が係合され前記係合位置と前記非係合位置との間の前記動力伝達部材の移動を案内するカム部を有する案内部材と前記駆動側回転体との相対回転に伴って前記カム部により前記動力伝達部材を前記非係合位置から前記係合位置へ案内するカム機構、前記駆動側回転体に伴って回転することにより生じた遠心力により径方向外側に移動した前記案内部材によって前記動力伝達部材を係合位置に保持する保持機構、前記係合位置に配置された前記動力伝達部材を前記駆動側回転体と前記従動側回転体とによって挟持する挟持機構の3つの機構のうちの少なくとも2つの機構とを備え、
前記付勢部材は、前記駆動側回転体の停止時に前記動力伝達部材を前記非係合位置に配置するように前記少なくとも2つの機構のうちの少なくとも2つの機構を付勢することを特徴とするクラッチ。
【請求項3】
請求項2に記載のクラッチにおいて、
少なくとも前記カム機構と前記保持機構とを備え、
前記付勢部材は、前記動力伝達部材が前記非係合位置側に移動されるように前記駆動側回転体と前記案内部材とを相体回転させるように前記案内部材を付勢するとともに、前記案内部材を径方向内側に付勢することを特徴とするクラッチ。
【請求項4】
請求項3に記載のクラッチにおいて、
前記カム部は、前記動力伝達部材を前記非係合位置に配置するための第1案内部と、前記第1案内部よりも径方向外側に設けられ前記動力伝達部材を前記係合位置に案内するための第2案内部と、前記第1案内部から前記第2案内部まで延び前記動力伝達部材が摺接されるカム面とを備え、
前記付勢部材は、前記カム面を径方向に付勢することを特徴とするクラッチ。
【請求項5】
請求項4に記載のクラッチにおいて、
前記付勢部材は、前記動力伝達部材を径方向内側に付勢することを特徴とするクラッチ。
【請求項6】
請求項3乃至請求項5の何れか1項に記載のクラッチにおいて、
前記挟持機構と、
前記駆動側回転体と前記従動側回転体とによる前記動力伝達部材の挟持が解除されるように前記駆動側回転体を付勢する補助付勢部材と
を備えたことを特徴とするクラッチ。
【請求項7】
請求項6に記載のクラッチにおいて、
前記駆動側回転体は、前記駆動軸と一体回転可能に設けられ前記動力伝達部材に回転方向から当接可能な楔面を有する第1回転体と、前記第1回転体と相対回転可能に設けられ前記動力伝達部材を径方向に移動可能に保持し前記動力伝達部材と一体回転する第2回転体とを備え、
前記従動側回転体は、前記楔面と共に前記動力伝達部材を挟持するための伝達面を備え、
前記補助付勢部材は、前記第1回転体と前記第2回転体との間に介在され、前記第1回転体の回転駆動が停止されたときに前記楔面と前記伝達面とによる前記動力伝達部材の挟持を解除するように前記第2回転体に対して前記第1回転体を直前の回転方向と反対方向に回転させるように前記第1回転体を付勢することを特徴とするクラッチ。
【請求項8】
請求項7に記載のクラッチにおいて、
前記第1回転体及び前記第2回転体の何れか一方には、伸縮性を有する前記補助付勢部材を圧縮しつつ収容し前記第1回転体及び前記第2回転体の何れか他方によって開口部の少なくとも一部が閉塞される補助付勢部材収容部が形成され、
前記第1回転体若しくは前記第2回転体には、前記補助付勢部材収容部に連通し互いに組み付けられた前記第1回転体及び前記第2回転体の外側から前記補助付勢部材を前記補助付勢部材収容部に挿入するための挿入路が形成されていることを特徴とするクラッチ。
【請求項9】
請求項8に記載のクラッチにおいて、
前記挿入路は、クラッチの作動時に前記第1回転体と前記第2回転体との間で前記補助付勢部材が圧縮されても前記補助付勢部材における伸縮方向の端が前記挿入路に至らないように形成されていることを特徴とするクラッチ。
【請求項10】
請求項8又は請求項9に記載のクラッチにおいて、
前記挿入路の内周面には、前記補助付勢部材収容部内に配置された前記補助付勢部材の伸縮方向に対して傾斜した案内面が形成されていることを特徴とするクラッチ。
【請求項11】
請求項10に記載のクラッチにおいて、
前記挿入路の内周面には、前記挿入路における前記補助付勢部材収容部と反対側の外側開口部から前記挿入路における前記補助付勢部材収容部側の内側開口部の方へ向かうに連れて若しくは前記内側開口部から前記外側開口部の方へ向かうに連れて互いの間隔が狭くなるように、前記補助付勢部材収容部内に配置された前記補助付勢部材の伸縮方向に対して傾斜した一対の前記案内面が形成されていることを特徴とするクラッチ。
【請求項12】
請求項11に記載のクラッチにおいて、
前記挿入路の内周面には、前記外側開口部から前記内側開口部の方へ向かうに連れて互いの間隔が狭くなるように前記補助付勢部材収容部内に配置された前記補助付勢部材の伸縮方向に対して傾斜した一対の前記案内面と、一対の前記案内面よりも前記内側開口部側で一対の前記案内面と並び前記内側開口部から前記外側開口部の方へ向かうに連れて互いの間隔が狭くなるように前記補助付勢部材収容部内に配置された前記補助付勢部材の伸縮方向に対して傾斜した一対の傾斜面とが形成されていることを特徴とするクラッチ。
【請求項13】
請求項12に記載のクラッチにおいて、
一方の前記傾斜面は対向側の一方の前記案内面と略平行に形成されるとともに、他方の前記傾斜面は対向側の他方の前記案内面と略平行に形成されていることを特徴とするクラッチ。
【請求項14】
請求項8乃至請求項13の何れか1項に記載のクラッチにおいて、
前記補助付勢部材収容部は、前記第1回転体及び前記第2回転体の回転方向に沿って延びる円弧状の溝状をなしており、
前記挿入路は、前記補助付勢部材収容部の径方向外側に形成されていることを特徴とするクラッチ。
【請求項15】
請求項14に記載のクラッチにおいて、
前記補助付勢部材は、圧縮コイルばねよりなり、
前記第2回転体には、前記補助付勢部材収容部と、前記補助付勢部材収容部の周方向の両側に前記補助付勢部材収容部に繋がり且つ前記補助付勢部材収容部よりも径方向の幅が狭い復帰収容部とが形成され、
前記第1回転体は、前記復帰収容部にそれぞれ挿入され前記補助付勢部材が間に介在される対の復帰凸部を有し、
前記補助付勢部材収容部の周方向の両端には、前記復帰収容部よりも径方向外側で径方向に沿って延び前記補助付勢部材に押圧される第1押圧面と、前記復帰収容部よりも径方向内側で径方向に沿って延び前記補助付勢部材に押圧されるとともに前記第1押圧面よりも径方向に長い第2押圧面とが設けられていることを特徴とするクラッチ。
【請求項16】
請求項3乃至請求項15の何れか1項に記載のクラッチにおいて、
前記従動側回転体は、前記駆動側回転体の外周に配置され前記駆動側回転体と径方向に対向する円筒状の側壁部を有し、
前記側壁部の内周面には、前記動力伝達部材よりも回転方向の幅が広く前記カム機構により径方向外側に移動された前記動力伝達部材が挿入されて回転方向に係合可能な第1係合凹部と、前記第1係合凹部の底面に形成され挿入された前記動力伝達部材を前記第1係合凹部よりも径方向外側に配置するとともに前記動力伝達部材と回転方向に相対移動不能に係合する第2係合凹部とが形成されていることを特徴とするクラッチ。
【請求項17】
請求項16に記載のクラッチにおいて、
前記第2係合凹部は、前記第1係合凹部の底面における回転方向の両端部にそれぞれ形成されていることを特徴とするクラッチ。
【請求項18】
請求項16又は請求項17に記載のクラッチにおいて、
前記第2係合凹部は、前記第1係合凹部の底面における回転方向の中央部に形成されていることを特徴とするクラッチ。
【請求項19】
請求項3乃至請求項18の何れか1項に記載のクラッチにおいて、
前記カム部は、前記動力伝達部材が挿入されるカム溝であることを特徴とするクラッチ。
【請求項20】
請求項19に記載のクラッチにおいて、
前記カム溝には、前記駆動側回転体の回転駆動が停止された時に前記動力伝達部材と前記カム溝との相対回転を阻止する相対回転阻止手段が設けられていることを特徴とするクラッチ。
【請求項21】
請求項20に記載のクラッチにおいて、
前記カム溝は、前記動力伝達部材を前記非係合位置に配置するための第1案内部と、前記第1案内部に対して回転方向にずれた位置且つ前記第1案内部よりも径方向外側に設けられ前記動力伝達部材を前記係合位置に案内する第2案内部と、前記第1案内部から前記第2案内部まで延び前記動力伝達部材が摺接されるカム面とを備え、
前記相対回転阻止手段は、前記カム面に凹設され少なくとも前記駆動側回転体の回転駆動の停止時に前記動力伝達部材が嵌って相対回転不能に係合する阻止凹部であることを特徴とするクラッチ。
【請求項22】
請求項21に記載のクラッチにおいて、
前記付勢部材は、前記動力伝達部材を径方向内側に付勢しており、
前記駆動側回転体の回転に伴って回転することにより生じた遠心力により前記案内部材が径方向外側へ移動する時に、前記動力伝達部材は、前記案内部材によって前記係合位置に保持されたまま前記カム溝内を前記第2案内部から前記第1案内部へ相対的に移動し、
前記阻止凹部は、前記案内部材の径方向の移動範囲内で最も径方向内側に配置された前記案内部材の前記カム溝における前記第1案内部に挿入されて前記非係合位置に配置された前記動力伝達部材が前記阻止凹部に係合しない深さとなるように、前記カム面における前記第1案内部と径方向に隣り合う部分を径方向に凹設して形成されていることを特徴とするクラッチ。
【請求項23】
請求項3乃至請求項22の何れか1項に記載のクラッチにおいて、
前記駆動側回転体と相体回転可能に設けられ、前記案内部材を該案内部材の径方向の移動を案内可能に保持するとともに前記案内部材と一体回転可能な保持ケースを備えたことを特徴とするクラッチ。
【請求項24】
請求項2乃至請求項23の何れか1項に記載のクラッチにおいて、
前記駆動側回転体の回転駆動の開始時には、前記案内部材に作用する慣性力によって前記案内部材が前記駆動側回転体よりも遅れて回転することにより前記駆動側回転体と前記案内部材とが相対回転されることを特徴とするクラッチ。
【請求項25】
回転駆動される前記駆動軸を有するモータ本体と、
前記駆動軸と同軸上に配置され前記駆動軸の回転駆動力により回転される前記従動軸を有し前記駆動軸の回転を減速して出力する減速機構と、
前記駆動軸と前記従動軸との間に配置された請求項1乃至請求項24の何れか1項に記載のクラッチと
を備えたことを特徴とするモータ。
【請求項26】
車両に設けられる開口を開閉するドアを請求項25に記載のモータの駆動力によって開閉作動させるように構成される車両用ドア開閉装置であって、
前記ドアを自動開閉させる旨の指令が生じると、前記モータ本体の駆動と共に前記クラッチにより前記駆動軸を前記従動軸と連結して前記ドアを自動開閉させる一方、前記モータ本体の停止時には、前記クラッチにより前記従動軸を前記駆動軸から断絶して前記ドアの手動開閉時の作動負荷を軽減させた状態とすることを特徴とする車両用ドア開閉装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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