説明

クラッチ装置

【目的】 フライホイールに対するクラッチカバー及びリングギアの取り付け工程を簡略化する。
【構成】 このクラッチ装置は、入力側部材に連結されるフライホイール1と、クラッチカバー10及びプレッシャープレート12を含むクラッチカバー組立体2と、プレッシャープレート12とフライホイール1との間に配置されたクラッチディスク組立体3と、クラッチカバー10の外周面に嵌合し、フライホイール1に固定されるリングギア6とを備えている。クラッチカバー10は、フライホイール1の外周面に外周端部10aが嵌合し、プレッシャープレート12は、フライホイール1に対向する位置配置されている。

【考案の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、クラッチ装置に関し、特にクラッチカバーの外周部がフライホイールの外周面に嵌合するクラッチ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
クラッチ装置は、フライホイールと、このフライホイールに固定されるクラッチカバー組立体と、フライホイールとクラッチカバー組立体の間に配置されたクラッチディスク組立体とから構成されている。
クラッチカバー組立体をフライホイールに取り付けるとき、クラッチカバーの外周部にフランジ部を設け、このフランジ部をボルト等によりフライホイール側面に固定している。この場合、クラッチディスク組立体の外径寸法に比較して、クラッチカバーのフランジ部の分だけフライホイール外径寸法が大きくなる。
【0003】
またフライホイールの小型化を目的として、実開昭50−1762号公報に示されるようなクラッチカバー取り付け構造が示されている。この構造においては、クラッチカバーの外周部がフライホイールの外周面に固定されている。このため、従来構造におけるクラッチカバーのフランジ部が不要となり、フライホイールの外径寸法をクラッチディスク組立体の外径寸法に近づけることができる。
【0004】
【考案が解決しようとする課題】
前記従来公報に示された構造では、クラッチカバー外周部をボルトによりフライホイール外周面に固定している。しかし、フライホイール外周面は曲面であるために、ボルトの座面が十分確保できず、長期の使用によってはボルトが緩んだり、またクラッチカバーによるせん断力が直接ボルトに作用して、ボルトが破断されてしまう場合がある。
【0005】
ところで、通常フライホイール外周面には、セルモータのピニオンが噛み合うリングギヤが焼き嵌めによって固定されている。したがって、このリングギヤの固定を利用すれば、容易にかつ確実にクラッチカバー外周部をフライホイール外周面に固定できると考えられる。
本考案の目的は、リングギヤを利用して容易にかつ確実にクラッチカバー外周部をフライホイール外周面に固定することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本考案に係るクラッチ装置は、入力部材に連結されるフライホイールと、フライホイールの外周面に外周部が嵌合するクラッチカバー及びフライホイールに対向するプレッシャープレートを含むクラッチカバー組立体と、プレッシャープレートとフライホイールとの間に配置されたクラッチディスク組立体と、クラッチカバーの外周面に嵌合し、フライホイール外周部に固定されるリングギアとを備えている。
【0007】
【作用】
本考案のクラッチ装置では、フライホイールの外周面にクラッチカバーの外周部が嵌合されており、さらにこのクラッチカバーの外周面にリングギアが嵌合されている。このため、フライホイールの外周壁面におけるリングギアの固定と、クラッチカバーの固定とを同時に行うことができ、組立工程が簡略できるとともに、クラッチカバーを確実にフライホイール外周部に固定できる。
【0008】
【実施例】
図1に本考案の一実施例が採用されたクラッチ装置を示す。
図において、このクラッチ装置は、主として、フライホイール1と、クラッチカバー組立体2と、クラッチディスク組立体3とから構成されている。エンジン側には、クラッチ装置を取り付けるためのフレックスプレート4が固定されており、クラッチ装置は、フレックスプレート4と、トランスミッションのフロントハウジンク5との間に配置される。
【0009】
フライホイール1は、ほぼ円環状の部材であり、一側面がフレックスプレート4に固定されるようになっている。また他側面は、クラッチディスクが圧接される摩擦面となっている。
クラッチカバー組立体2は、クラッチカバー10と、それぞれクラッチカバー10内に配置されたダイヤフラムスプリング11及び円環状のプレッシャープレート12とを有している。
【0010】
クラッチカバー10は皿状に形成され、中央部に大径の孔を有している。クラッチカバー10の外周壁10aは軸方向に延びており、その端部はフライホイール1の外周面1aに嵌合している。また、このクラッチカバー10の外周壁10a端部には、図3に示すように、所定の間隔で複数のスリット10bが形成されている。
【0011】
一方、クラッチカバー10のさらに外周部には、リングギヤ6が焼き嵌めされている。リングギヤ6は、その外周部にセルモータのピニオンに噛み合うギヤ部6aを有している。また、クラッチカバー10の外周壁10a及びフライホイール1の外周面1aのそれぞれには、クラッチカバー10を軸方向で位置決めするための孔10c,1cが形成されており、これらの孔10c,1cにそれぞれ廻り止め用のピン20が挿入されている。
【0012】
ダイヤフラムスプリング11は、クラッチカバー10と同心に配置された円板状の部材であり、半径方向のほぼ中間部がワイヤリング13等を介してクラッチカバー10に支持されている。また、その外周端部がプレッシャープレート12の複数の突出部12bに当接し、プレッシャープレート12をフライホイール1側に弾性的に押圧している。ダイヤフラムスプリング11の内周端はレリーズ装置14に当接しており、この内周端をエンジン側(図示左方)に押すことにより、クラッチディスク組立体3の連結が解除されるようになっている。
【0013】
クラッチディスク組立体3は摩擦材3aを有しており、この摩擦材3aをフライホイール1の押圧面1aとプレッシャープレート12の押圧面12aとの間に挟んでクラッチの連結を行う。
次に本クラッチ装置の組立順序を説明する。
まず、クラッチカバー10にダイヤフラムスプリング11及びプレッシャープレート12等を組み込み、クラッチカバー組立体2を組み立てる。また、クラッチディスク組立体3を組み立てる。そして、クラッチカバー組立体2内にクラッチディスク組立体3を配置し、さらにクラッチカバー組立体2内にフライホイール1を挿入する。このとき、クラッチカバー10の孔10cとフライホイール1の孔1cとの位置を合わせ、これらの孔10c及び1cにピン20を挿入して、クラッチカバー組立体2にフライホイール1を固定する。
【0014】
このような状態で、リングギヤ6を加熱する。また、必要に応じてクラッチカバー10及びフライホイール1を冷却する。次に、加熱によりその内径が膨張したリングギヤ6をクラッチカバー10外周部に嵌合し、焼き嵌めを行う。ここで、焼き嵌め後にリングギヤ6の内径が縮小するが、クラッチカバー10の外周壁10aには複数のスリット10cが形成されているので、クラッチカバー10の内径寸法が加工誤差によってフライホイール1の外形よりも大きい場合でも、リングギヤ6の縮小に応じて内側に撓み、リングギヤ6及びクラッチカバー10とフライホイール1は強固に固定される。
【0015】
このようにしてクラッチ装置を組み立てた後、フライホイール1をフレックスプレート4に当て、ボルト21によって両者を連結する。トランスミッションのハンジングには、その一部に作業用の窓孔が設けられており、この窓孔を利用して、ボルト21を締めつける。なお、フレックスプレート4は、ボルト20によって予めエンジン側のクランクシャフトに固定されている。
【0016】
このように、リングギヤ6をフライホイール1に焼き嵌めする際に、クラッチカバー10も同時にフライホイール1の外周面に固定するようにしたので、従来、リングギヤ6をフライホイール1に固定し、さらにクラッチカバー10をフライホイール1に取り付けるという2つの工程を1つの工程で済ませることができる。また、クラッチカバー10とフライホイール1とは、そのほぼ外周全面にわたって嵌合されるので、従来の複数のボルトによって固定する構造に比較して、長期にわたって、より強固に固定することができる。
【0017】
さらに、ボルト等の締結部材が不要となり、安価になるとともに、全体としての重量を軽減することができる。
〔他の実施例〕
(a) 前記実施例では、クラッチカバー10にフライホイール1を嵌合する際に、クラッチカバー10とフライホイール1に予め孔10c及び1cを設け、これらの孔にピン20を挿入して両者の軸方向の位置決めを行ったが、図4に示すような構成としてもよい。すなわち、この例では、クラッチカバー30の外周壁30aの内周側において、大径部から内径が小さくなる段部に、当接面30bが形成されている。この当接面30bは切削加工されており、クラッチカバー30にフライホイール1を嵌合したとき、フライホイール1の図示右側面が当接面30bに当接して、フライホイール1とクラッチカバー30の軸方向の位置決めがなされるようになっている。
【0018】
この場合には、前記実施例におけるピン20が不要となる。
(b) 前記実施例では、クラッチカバー10の外周壁10aの内周面に特に加工を施していないが、クラッチカバー10とフライホイール1外周面との板間摩擦力を増大させるために、クラッチカバー10内周面あるいはフライホイール1外周面のいずれか又は双方にローレット加工等を施してもよい。
【0019】
この場合には、ピン22は不要となる。
(c) 前記実施例では、プッシュタイプクラッチ装置に本考案を適用したが、プルタイプクラッチにも同様に本考案を適用することかできる。
【0020】
【考案の効果】
以上のように本考案では、フライホイール外周面にクラッチカバーの外周端部を嵌合するとともに、その外周部にリングギヤを嵌合する構成としたので、リングギヤをフライホイールに焼き嵌めする際に、クラッチカバーを同時にフライホイールに固定でき、工程を簡略化することができる。また、ボルトによってクラッチカバーをフライホイールに固定する場合に比較して、より強固に固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本考案の一実施例によるクラッチ装置の縦断面図。
【図2】図1の断面部分図。
【図3】図2の平面部分図。
【図4】別の実施例における図2に相当する図。
【符号の説明】
1 フライホイール
2 クラッチカバー組立体
3 クラッチディスク組立体
6 リングギア
10 クラッチカバー
12 プレッシャープレート

【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】入力部材に連結されるフライホイールと、前記フライホイールの外周面に外周部が嵌合するクラッチカバー及びフライホイールに対向するプレッシャープレートを含むクラッチカバー組立体と、前記プレッシャープレートとフライホイールとの間に配置されたクラッチディスク組立体と、前記クラッチカバーの外周面に嵌合し、前記フライホイール外周部に固定されるリングギアと、を備えたクラッチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】実開平5−77648
【公開日】平成5年(1993)10月22日
【考案の名称】クラッチ装置
【国際特許分類】
【出願番号】実願平4−15427
【出願日】平成4年(1992)3月24日
【出願人】(000149033)株式会社大金製作所 (270)