説明

クラツチ試験装置

【目的】 駆動エンジンの出力トルクを加算して実際の車両状態を模擬できると共に、1つの装置によりドライブ条件及びコースティング条件の両方の条件の模擬試験を行うことができ、しかも、正確で効率的に模擬試験を行なうことができるクラッチ試験装置の開発。
【構成】 車両負荷を模擬した駆動モータ2と、駆動エンジンを模擬した低慣性駆動・吸収装置3と、クラッチ1を締結・解放するピストン4と、駆動モータ2を、回転数制御可能に形成され、一方、低慣性駆動・吸収装置3を、クラッチ解放状態では回転数制御し、クラッチ締結状態ではトルク制御するようピストン4の作動に連動制御可能に形成され、かつ、ピストン4を、クラッチ締結作動開始後クラッチ1が完全に締結されるのに必要な所定時間が経過したらピストン4を自動解放制御可能に形成されている駆動制御回路5とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、自動車の駆動系を等価模擬してクラッチの性能試験を行なうクラッチ試験装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、クラッチ試験装置として最も一般的に知られている装置は、図6に示すように、供試体としてのクラッチ01の入力軸02上に設けられて、フライホイール03を有し、実車に相当する負荷又はテスト上必要とする負荷に形成された駆動モータ04と、クラッチ01の出力側に固定された供試体ケース05と、クラッチ01を締結及び解放するピストン06とを備えたものである。そして、駆動モータ04を一定回転で運転しておき、ピストン06を駆動させて、クラッチ01の締結及び解放を繰り返し行うことにより試験を行う。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述のような従来装置にあっては、クラッチ締結時に、図7に示すようなトルク波形が生じるが、このトルク波形は、フライホイール03及び駆動モータ04による実車に相当する負荷又はテスト上必要とする負荷の慣性分だけしか生じないもので、駆動エンジンの出力トルク性分が含まれておらず、駆動エンジンを用いた状態を完全に模擬できないという問題があった。
【0004】また、クラッチ01の入力軸02のみを回転させるようになっているため、コースティング条件のみの模擬試験しか行えず、ドライブ条件の模擬試験を行うことができなかった。
【0005】さらに、クラッチの締結及び開放をスイッチ操作により行なっていたため、クラッチの開放時期が早すぎたり遅すぎたりすることがあり、前者の場合には、クラッチの締結が不完全であって正確な模擬試験を行なうことができないという問題が生じ、後者の場合には、模擬試験に要する時間が長くなってしまい、効率的な試験が成されないという問題が生じる。
【0006】本発明は、上述のような問題に着目してなされたもので、駆動エンジンの出力トルクを加算して実際の車両状態を模擬できると共に、1つの装置によりドライブ条件及びコースティング条件の両方の条件の模擬試験を行うことができ、しかも、正確で効率的に模擬試験を行なうことができるクラッチ試験装置の開発を課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】上述の課題を解決するために本発明のクラッチ試験装置では、回転慣性体を有して車両の慣性に応じた慣性に形成され、車両負荷を模擬して供試体としてのクラッチの入力側に設置される第1の駆動・吸収手段と、駆動エンジンと同等に回転慣性を低く形成され、駆動エンジンを模擬して前記クラッチの出力側に設置される第2の駆動・吸収手段と、前記クラッチを締結及び解放可能なクラッチ締結手段と、両駆動・吸収手段及びクラッチ締結手段の駆動を制御する駆動制御手段とを備え、該駆動制御手段は、第1駆動・吸収手段を、回転数制御可能に形成され、一方、第2駆動・吸収手段を、クラッチ解放状態では回転数制御し、クラッチ締結状態ではトルク制御するようクラッチ締結手段の作動に連動制御可能に形成され、かつ、クラッチ締結手段を、クラッチ締結作動開始後クラッチが完全に締結されるのに必要な所定時間が経過したらクラッチ締結手段を自動解放制御可能に形成されていることを特徴とする手段とした。
【0008】
【作用】クラッチの試験を行う時には、まず、クラッチ締結手段の作動に基づきクラッチを解放状態としておき、この状態で第1の駆動・吸収手段及び第2の駆動・吸収手段を試験目的に応じた所定の駆動(吸収)状態とする。
【0009】この時、両駆動・吸収手段は、駆動制御手段によりいずれも回転数制御されている。
【0010】次に、クラッチ締結手段を作動させてクラッチを締結させる。このクラッチ締結作動に連動して第2の駆動・吸収手段は、回転数制御からトルク制御に切り換えられる。
【0011】このようなクラッチ締結時にあっては、車両負荷を模擬した第1の駆動手段の慣性分のトルクに、駆動エンジンを模擬した第2の駆動手段の慣性分のトルクが加算されることになる。
【0012】そして、締結が完全に終了した時点で、入力側と出力側の回転数が一致し、このように締結が完全に成されるのに必要な所定時間が経過したら、駆動手段の自動解放制御に基づき、クラッチが解放され、それに連動して第2の駆動・吸収手段は回転数制御に戻る。
【0013】以上により、クラッチ締結・解放の1回のサイクルが終了するもので、これを繰り返して模擬試験を行う。
【0014】尚、上述の試験に際し、ドライブ条件の試験を行う場合には、出力側の回転数を入力側の回転数よりも高く設定しておく、一方、コースティング条件で試験を行う時には、その逆に、入力側の回転数を出力側よりも高く設定しておく。
【0015】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【0016】まず、構成を説明する。
【0017】実施例のクラッチ試験装置は、図1に示すように、供試体としてのクラッチ1の入力軸1a上に車両負荷に対応した所定の回転慣性のフライホイール(回転慣性体)2aを有した駆動モータ(第1の駆動・吸収手段)2と、駆動エンジンと同等に回転慣性を低く抑えられ、クラッチ1の出力軸1b上に設置された低慣性駆動・吸収装置(第2の駆動・吸収手段)3と、前記クラッチ1を締結・解放可能なクラッチ締結手段としてのピストン4と、前記駆動モータ2,低慣性駆動・吸収装置3及びピストン4の駆動制御を行う駆動制御手段5とを備えている。
【0018】尚、前記クラッチ1は、図示のように入力軸1aの外周と出力軸1bに連結されたケース1cの内周とに複数のプレート1dが設けられた多板クラッチ構造となっている。
【0019】前記低慣性駆動・吸収装置3は、図2に示すように、増速機構3aによりモータ3b,3cの回転増速を行うもので、その増速比は、回転慣性をエンジンと同等にするため10程度に設定している。尚、増速比は、小さ過ぎると回転慣性の十分な低下を望めず、また、大き過ぎるとモータ3b,3cの体格が大きくなるので、実用上適正な増速比範囲としては6〜20程度である。
【0020】また、前記増速機構3aの一例を示すのが図3であり、この増速機構3aは、複数の歯車gを組み合わせて構成されている。尚、図中bは軸受を示している。
【0021】次に、図4は、前記駆動制御手段5において前記低慣性駆動・吸収装置3のモータ3b,3cの駆動制御を行う部分を示している。この部分は、回転速度センサ5aと、回転設定器5bと、エンジン出力模擬装置5cと、締結スイッチ5dと、切換制御回路5eと、モータ制御部5fと、締結制御部5gとによって構成されていて、即ち、モータ3b,3cは、回転設定器5bもしくはエンジン出力模擬装置5cから出力される制御信号に基づいてモータ制御部5fから出力される駆動信号により駆動制御される。
【0022】前記回転設定器5b及び回転速度センサ5aは、前記クラッチ1の出力軸1bの回転数を所定の回転数に設定すべくモータ3b,3cの駆動制御を行うもので、回転設定器5bは、任意の回転数を選択できるようになっている。
【0023】前記エンジン出力模擬装置5cは、低慣性駆動・吸収装置3がエンジンの出力を模擬したトルクを発生させるようなモータ3b,3cの駆動制御(トルク制御)を行うもので、例えば、エンジン特性シミュレーション制御プログラムを持ち、回転速度センサ5aや図外のトルクセンサ等からの入力信号によりトルク目標値を決めるつマイクロコンピュータを主体とする電子制御回路により構成することができる。
【0024】前記回転設定器5bからの制御信号とエンジン出力模擬装置5cからの制御信号とは常時出力されていて、前記切換制御回路5eの切換作動に基づき、両制御信号のうちのいずれか一方のみがモータ制御部5fに入力されるようになっている。
【0025】この切換制御回路5eの切換作動は、前記ピストン4をクラッチ締結側に操作する締結スイッチ5dの投入及び内蔵されたタイマに連動して成される。
【0026】即ち、前記締結スイッチ5dは、締結制御部5gの作動を切り換えるもので、この締結スイッチ5dの非投入時には、締結制御部5gがピストン4に対しクラッチ解放側に油圧を供給するように作動し、一方、締結スイッチ5dの投入時には、締結制御部5gがピストン4に対しクラッチ締結側に油圧を供給するよう作動する。尚、この締結スイッチ5dは、投入時に投入信号を1回出力した後、非投入状態となる構造である。
【0027】そして、前記切換制御回路5eは、この締結スイッチ5dの非投入時(投入信号の出力がない時)は、回転設定器5bの制御信号をモータ制御部5fへ出力させる状態となっており、一方、締結スイッチ5dの投入時には、エンジン出力模擬装置5cからの制御信号をモータ制御部5fに出力する状態に切り換わる。また、この切換制御回路5eには、締結スイッチ5dの投入信号を受けて作動を開始するタイマが内蔵されていて、所定時間が経過してタイマの作動が終了したら、エンジン出力模擬装置5cからの制御信号を出力する状態から、前述の回転設定器5bの制御信号を出力した状態に自動的に切り換わると共に、締結制御部5gの作動をクラッチ解放側に切り換えるよう作動する。
【0028】尚、このタイマの作動時間は、クラッチ1が締結作動を開始して完全に締結した状態となるまでに必要な時間に設定されている。
【0029】また、図4において、5h,5jは増幅器、5kは付合せ回路である。
【0030】ところで、前記駆動制御回路5には、駆動モータ2の回転数を常時所定の回転数に制御する部分が設けられているが、この部分は、前記回転速度センサ5aと回転設定器5bとを組み合わせた構成であるので、図示及び説明を省略する。
【0031】次に、図5のタイムチャートに基づき、実施例の作用を説明する。
【0032】尚、このタイムチャートは、クラッチ1を解放状態から締結状態とし再び解放状態とした場合を示している。
【0033】図において範囲Aはクラッチ解放状態を示しており、この場合、締結スイッチ5dが、投入信号を出力しない非投入状態となっていて、それにより、締結制御部5gがクラッチ1を解放するように作動し、また、切換制御回路5eが、図示のようにモータ制御部5fに対し回転設定器5bからの制御信号を出力している状態となっていて、これにより、モータ3b,3cは所定の回転数に制御される。
【0034】よって、出力軸1bは所定の回転数に制御されている。
【0035】一方、入力軸1aも、駆動制御手段5の制御による駆動モータ2の駆動により所定の回転数に制御されている。尚、この入力軸1aは、試験中は常時一定の回転数で回転している。
【0036】従って、図5に示すように、範囲Aのクラッチ解放状態では、出力軸1bと入力軸1aとは異なる回転数で回転しており、出力軸1bのトルクは一定となっている。
【0037】次に、図においてCは、締結スイッチ5dを投入した時を示している。
【0038】この締結スイッチ5dからの投入信号により、締結制御部5gが、ピストン4に対しクラッチ締結側に油圧供給させるように作動すると共に、切換制御回路5eが、エンジン出力模擬装置5cからの制御信号をモータ制御部5fに出力する側に切り換り、クラッチ1は範囲Bに示す締結状態となる。またこの時、切換制御回路5eに内蔵されたタイマが作動を開始する。
【0039】上述の作動に基づき、低慣性駆動・吸収装置3のモータ3b,3cが、エンジン出力模擬装置5cからの信号に基づくトルク制御に切り換えられ、出力軸1bの回転数が徐々に入力軸1aの回転数に近づく。
【0040】また、この時、出力軸1bのトルクが図示のように上昇する。
【0041】このトルク上昇時におけるトルク特性は、フライホイール2a及び駆動モータ2による車両負荷を模擬した慣性分のトルク(2点鎖線で示す)に、低慣性駆動・吸収装置3のエンジンを模擬した出力トルク及び慣性分のトルクを加算した状態となっている。
【0042】そして、クラッチ1が完全に締結されると出力軸1bと入力軸1aとの回転数が一致し、また、出力軸1bのトルクの変化率が小さくなる。
【0043】次に、図中Dは、切換制御回路5eのタイマの作動が終了した時点、即ち、クラッチ1が完全に締結されるだけの時間が経過した時点を示し、このタイマの作動時間が経過すると、切換制御回路5eは自動的に図示の回転設定器5bの制御信号をモータ制御部5fに出力する状態に切り換わると共に、締結制御部5gがクラッチ1を解放するよう作動する。
【0044】よって、再び、範囲Aに示すクラッチ解放状態へと変化し、モータ3b,3cは、回転設定器5bによる回転数制御に戻り、図示のように、元の回転数に急速に復帰し、トルクも一定となる。
【0045】以上説明してきたように、実施例のクラッチ試験装置にあっては、下記に列挙する効果が得られる。
【0046】■ 供試体としてのクラッチ1の出力軸1b上に、駆動エンジンと同等に回転慣性を低く抑えた低慣性駆動・吸収装置3を設け、クラッチ締結時には、この低慣性駆動・吸収装置3をトルク制御するようにしているため、クラッチ締結時に、入力軸1a上の車両負荷を模擬した駆動モータ2の慣性分のトルクに、出力軸1b側の駆動エンジンを模擬した低駆動・吸収装置3の慣性分のトルクが加算されるもので、このため、実際の車両状態と同等のトルク特性が得られ、また、このように出力軸1bにトルクを与えることができるため、1つの装置によりドライブ条件及びコースティング条件の両方の条件の模擬試験を行うことができる。
【0047】■ クラッチ1の締結開始後、クラッチ1の締結が成されるのに十分な時間が経過したら自動的にクラッチ1を解放するようにしたため、クラッチ1の解放を的確に行え、これにより、クラッチ1の締結を確実に成しながら、効率の良い実験が可能となる。
【0048】以上、実施例を図面に基づいて説明してきたが、具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても本発明に含まれる。
【0049】例えば、実施例では低慣性駆動・吸収手段として、増速機構3aとモータ3b,3cとの組合わせ手段の例を示したが、エンジンと同等の回転慣性が得られる手段であれば他の手段を用いても良い。
【0050】
【発明の効果】以上説明してきたように、本発明のクラッチ試験装置にあっては、車両負荷を模擬してクラッチの入力側に設置される第1の駆動・吸収手段に加えて、駆動エンジンと同等に回転慣性を低く抑えられた駆動エンジンを模擬する第2の駆動・吸収をクラッチの出力側に設置した手段としたため、クラッチ締結時に、入力側の車両負荷に相当する慣性分のトルクに、出力側の駆動エンジンを模擬した第2の駆動・吸収手段の慣性分のトルクが加算されるもので、このため、実際の車両状態と同等のトルク特性が得られるという効果が得られ、加えて、1つの装置によりドライブ条件及びコースティング条件の両方の条件の模擬試験を行うことができるという効果が得られる。
【0051】また、駆動制御手段は、クラッチ締結作動開始後に、クラッチが完全に締結されるのに必要な所定時間が経過したらクラッチ締結手段を自動解放制御可能に形成した手段としたため、クラッチの解放を的確に行え、これにより、クラッチの締結を確実に成しながら、効率の良い模擬実験が可能となるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明実施例のクラッチ試験装置を示す全体図である。
【図2】図2は実施例装置の要部である低慣性駆動・吸収装置を示す構造説明図である。
【図3】図3は実施例装置の要部である増速機構を示す説明図である。
【図4】図4は実施例装置の駆動制御回路の要部を示す回路図である。
【図5】図5は実施例装置の作動特性を示すタイムチャートである。
【図6】図6は従来装置を示す全体図である。
【図7】図7は従来装置により実験を行った際の作動特性を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
1 クラッチ
1a 入力軸(入力側)
1b 出力軸(出力側)
2 駆動モータ(第1の駆動・吸収手段)
2a フライホイール(回転慣性体)
3 低慣性駆動・吸収装置
(第2の駆動・吸収手段)
4 ピストン(クラッチ締結手段)
5 駆動制御回路(駆動制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】 回転慣性体を有して車両の慣性に応じた慣性に形成され、車両負荷を模擬して供試体としてのクラッチの入力側に設置される第1の駆動・吸収手段と、駆動エンジンと同等に回転慣性を低く抑えて形成され、駆動エンジンを模擬して前記クラッチの出力側に設置される第2の駆動・吸収手段と、前記クラッチを締結及び解放可能なクラッチ締結手段と、両駆動・吸収手段及びクラッチ締結手段の駆動を制御する駆動制御手段とを備え、該駆動制御手段は、第1駆動・吸収手段を、回転数制御可能に形成され、一方、第2駆動・吸収手段を、クラッチ解放状態では回転数制御し、クラッチ締結状態ではトルク制御するようクラッチ締結手段の作動に連動制御可能に形成され、かつ、クラッチ締結手段を、クラッチ締結作動開始後クラッチが完全に締結されるのに必要な所定時間が経過したらクラッチ締結手段を自動解放制御可能に形成されていることを特徴とするクラッチ試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開平5−87689
【公開日】平成5年(1993)4月6日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−117450
【出願日】平成3年(1991)5月22日
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)