説明

クラフトパルプの製造方法

【課題】 無塩素漂白方式によって製造されるクラフトパルプ(特に、広葉樹クラフトパルプ)の退色性を改善することと、製造されたパルプの強度を改善すること。
【解決手段】 蒸解工程と酸素脱リグニン工程と、塩素を使用しない無塩素漂白方式による漂白工程とを有するクラフトパルプの製造方法において、酸素脱リグニン工程後のパルプ成分中のヘキセンウロン酸量を45mmol/絶乾パルプkg以上とする。 そしてまた、製造されたパルプの退色性を改善するための手段として、漂白工程後のパルプ成分中のヘキセンウロン酸量を5mmol/絶乾パルプkg以下とする。 本願発明の方法を実施するにあたっては、酸素脱リグニン工程後に、pH2.5〜3.5、反応温度80〜90℃、反応時間180分以上、好ましくは180〜480分、さらに好ましくは240〜420分の条件下でパルプ成分を酸処理することが推奨される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、塩素を使用しない無塩素漂白方式で漂白工程を行うクラフトパルプの製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、退色性及び強度の改善されたクラフトパルプの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無塩素漂白クラフトパルプの退色性改善について言及されている公知文献としては後記特許文献1があり、同特許文献1においては次のような内容が開示されている。
【0003】
すなわち、特許文献1によれば、高白色度のパルプ(通常ISOの白色度90%以上のパルプ)は、多量の電気エネルギーを使用して製造される二酸化塩素を多量に使用するため環境に優しいパルプとはいえず、そのため、特許文献1の発明ではISO白色度70〜89%を目標としたこと、そしてパルプの退色性を改善するために、広葉樹材を蒸解する工程において、カッパー価が18〜23でありかつヘキセンウロン酸量が35〜45mmol/絶乾パルプkgである未漂白パルプを得、その後、アルカリ酸素脱リグニン処理を行い、元素状塩素を使用しない多段漂白工程で漂白処理してISO白色度70〜89%、ヘキセンウロン酸含有量が10mmol/絶乾パルプkg未満の漂白パルプを得る、ということが開示されている(特許文献1の段落番号「0003」、「0011」)。
【0004】
【特許文献1】特開2003−96680
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明は、特許文献1記載の発明と同様、無塩素漂白方式によって製造されるクラフトパルプ(特に、広葉樹クラフトパルプ)の退色性を改善することを目的とするものであるが、それと同時に、製造されたパルプの強度を改善することをも目的としてなされたものである。
【0006】
すなわち、本願発明者は、蒸解後のパルプ成分中のヘキセンウロン酸量が、特許文献1の発明で規定する35〜45mmol/絶乾パルプkgでは、十分なパルプ強度が得られないことを知見し、また、本願発明者は、無塩素漂白方式で製造されるパルプの退色性を改善するためには、漂白工程後のヘキセンウロン酸量は可及的に低減された方がよいとの知見に至り、これらの知見にもとづいて以下に開示する本願発明に想到したものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本願発明では、強度のあるクラフトパルプを得るために、漂白前のカッパー価を高く維持することとし、具体的には、リグノセルロース物質からなるパルプ原料を蒸解薬品で蒸解してパルプ成分を生成する蒸解工程と、前記パルプ成分中のリグニン成分を除去又は低減させる酸素脱リグニン工程と、塩素を使用しない無塩素漂白方式による漂白工程とを有するクラフトパルプの製造方法において、先ず第1の特徴として、酸素脱リグニン工程後のパルプ成分中のヘキセンウロン酸量を45mmol/絶乾パルプkg以上とする。これは、酸素脱リグニン工程での過激な脱リグニンはクラフトパルプの強度を低下させることと、脱リグニンが少なすぎると、漂白工程での負荷が高くなり、多量の二酸化塩素を使用してしまうことによる。
【0008】
本願発明では、そしてまた、製造されたパルプの退色性を改善するための手段として、漂白工程後のパルプ成分中のヘキセンウロン酸量を5mmol/絶乾パルプkg以下とすることを第2の特徴とする。本願発明の方法は、針葉樹材にも広葉樹材にも適用可能であるが、広葉樹クラフトパルプの製造方法に適用すれば特に有利である。本願発明の方法において、酸素脱リグニン工程後のパルプ成分中のヘキセンウロン酸量を45mmol/絶乾パルプkg以上に維持するためには、蒸解工程における蒸解を過度に進めないことが推奨される。
【0009】
なお、本願発明の方法を実施するにあたっては、酸素脱リグニン工程後に、pH2.5〜3.5、反応温度80〜90℃、反応時間180分以上、好ましくは180〜480分、さらに好ましくは240〜420分の条件下でパルプ成分を酸処理することが推奨される。
【0010】
その理由は次の通りである。
【0011】
クラフトパルプ製造時、クラフト蒸解によってウロン酸からヘキセンウロン酸が生成する。ヘキセンウロン酸は硫酸処理によって容易に加水分解し、2−フロン酸と5−カルボキシ−2−フラルデヒドに分解する。これによって退色性が改善される。ヘキセンウロン酸が十分に存在する条件では硫酸加水分解によってヘキセンウロン酸が消費されるが、反応が進んでヘキセンウロン酸が少なくなってくるとセルロース、ヘミセルロースの分解が起こるようになる。これによってパルプ強度が低下する。したがって、反応PHが高かったり、反応温度が低かったり、あるいは反応時間が短かったりするとヘキセンウロン酸の分解が進まずに多く残って退色性が改善されず、また、反応PHが低すぎたり、反応温度が高すぎたり、あるいは反応時間が長すぎたりするとヘキセンウロン酸の分解が進み過ぎ、セルロ−ス、ヘミセルロースの分解が始まってパルプ強度が低下する。
【0012】
なお、酸素脱リグニン工程後に行われる酸処理工程及び漂白工程のシーケンスとしては、A−D−Eop−D−D、A−ZE−D−E(又はEo)−D−D、A−ZE−D−E(又はEo)−D、A−ZE−P−D等が応用可能である。
【0013】
但し、
A:酸処理段、ZE:オゾン漂白及びアルカリ抽出段、D:二酸化塩素漂白段、E:アルカリ抽出段、Eo:酸素アルカリ抽出段、Eop:酸素、過酸化水素アルカリ抽出段、P:過酸化水素漂白段、である。
【発明の効果】
【0014】
本願発明のクラフトパルプ製造方法では、上記のように、蒸解工程及び酸素脱リグニン工程では過度にカッパー価を低減しない、または脱リグニンを進めないことによりパルプの強度を維持することができ、さらにその後の酸処理工程及び漂白工程で高度のヘキセンウロン酸の除去を行うことにより、退色性の改善されたクラフトパルプを得ることができる効果がある。また、蒸解工程での蒸解を抑制することにより、強度が強く、歩留りの高いクラフトパルプを製造し得るとともに、蒸解薬品の低減にも寄与し得る効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
続いて本願発明のいくつかの実施例と、本願発明の技術的優位性を示すための比較例を表1に示す。
【0016】
【表1】

【0017】
(注)
※1 HexA量:ヘキセンウロン酸量は図1に示すグラフに基づいて酸素脱リグニン後カッパー価から換算した。
※2 酸処理Δカッパー価:(酸素脱リグニン後カッパー価)−(酸処理後カッパー価)
<評価>
酸素脱リグニン工程後のパルプ成分中のヘキセンウロン酸量、漂白工程後のパルプ成分中のヘキセンウロン酸量がともに本願発明で規定する数値内にあり、酸処理時におけるパルプ成分のpH、反応温度、滞留時間が本願発明の実施例の範囲内にある実施例1〜13は退色性が少なく、かつパルプ強度がすぐれている。特に、酸処理時のPHが2.5〜3.5、反応温度が80〜90℃、滞留時間が240〜420分のいずれかの範囲で処理する場合は、退色性・パルプ強度の双方とも比較的に良好な結果となっている。これに対して酸素脱リグニン工程後のヘキセンウロン酸量が本願発明の範囲を下回る比較例1はパルプ強度の点で劣り、さらに漂白後ヘキセンウロン酸量が本願発明の範囲をこえる比較例2は、パルプ強度が優れているが、漂白後のヘキセンウロンサン量が多いので退色性の点で問題がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】酸素脱リグニン後カッパー価とヘキセンウロン酸量との換算関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグノセルロース物質からなるパルプ原料を蒸解薬品で蒸解してパルプ成分を生成する蒸解工程と、前記パルプ成分中のリグニン成分を除去又は低減させる酸素脱リグニン工程と、塩素を使用しない無塩素漂白方式による漂白工程とを有するクラフトパルプの製造方法であって、前記酸素脱リグニン工程後のパルプ成分中のヘキセンウロン酸量が45mmol/絶乾パルプkg以上であり、且つ前記漂白工程後のパルプ成分のヘキセンウロン酸量が5mmol/絶乾パルプkg以下であることを特徴とするクラフトパルプの製造方法。
【請求項2】
酸素脱リグニン工程と漂白工程との間において、pH2.5〜3.5、反応温度80〜90℃、反応時間180分以上の条件下でパルプ成分を酸処理することを特徴とする請求項1記載のクラフトパルプの製造方法。
【請求項3】
酸素脱リグニン工程と漂白工程との間において、pH2.5〜3.5、反応温度80〜90℃、反応時間180〜480分の条件下でパルプ成分を酸処理することを特徴とする請求項1記載のクラフトパルプの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−342462(P2006−342462A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−169426(P2005−169426)
【出願日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】