説明

クランプアダプタ

【課題】従来のカムアロングを使用せず、電線に損傷を与えることなく緩線作業を行うことができ、作業者の負担も大幅に軽減することのできるクランプアダプタを提供する。
【解決手段】クランプアダプタ10は、楔式引留クランプの本体部に着脱可能に装着される把持部材11と、楔式引留クランプの引留方向への把持部材11の移動を阻止する係止手段(上部反力受け部12a,12b、下部反力受け部13a,13bおよび凹部12c)と、把持部材11に付与される引張力を受ける張力受け部15fと、を備えている。把持部材11は、楔式引留クランプの本体部を挟んで対向配置される二つの側面部材11a,11bを備え、これらの側面部材11a,11bを分離可能に連結する連結部材として、二本のボルト15b,16bおよびナット15n,16nを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架空送電線の緩線作業の際に楔式引留クランプに取り付けて使用するクランプアダプタに関する。
【背景技術】
【0002】
架線工事における緩線作業の際に、架空線を鉄塔の碍子連から取り外す間、架空線を仮留めする治具として、従来、図10に示すようなカムアロング90が使用されている。従来のカムアロング90は、電線を把持する二つ割りの楔部材92と、この楔部材92が挿入される二つ割りの本体部93と、本体部93から一体的に延設されたフック91a付きのアーム91と、を備えている。また、楔部材92の外周面および本体部93の内周面は互いに面接触するテーパ面状に形成されている。電線(図示せず)の外周を把持した楔部材92を本体部93内に挿入してアーム91をフック91a方向に引っ張ると、楔部材92がテーパ面に沿って本体部93内に引き込まれ、電線が強く締め付けられる。
【0003】
従来のカムアロング90は全体が鋼製であるため、強度的には問題がないものの、経年変化で劣化した電線に対して使用すると、楔部材92との接触によって電線が損傷することがある。また、カムアロング90自体が重いため、作業者の負担も大である。そこで、アームがアルミ合金で形成され、本体部がアルミ合金にセラミックスを分散させた複合材料で形成されたカムアロング(例えば、特許文献1参照。)あるいは本体部の内周部分がアルミ合金にセラミックス繊維などを混入させた複合材で形成されたカムアロング(例えば、特許文献2参照。)などが提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開平8−214429号公報
【特許文献2】特開平7−177626号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1,2に記載されたカムアロングを構成する楔部材は鋼製であるため、図10に示すカムアロング90と同様、古くなった電線に使用した場合の損傷発生を回避することができない。また、カムアロング自体の軽量化にも限界があるため、これを高所において取り扱う作業者の負担を無くすことはできない。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、従来のカムアロングを使用せず、電線に損傷を与えることなく緩線作業を行うことができ、作業者の負担も大幅に軽減することのできるクランプアダプタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のクランプアダプタは、楔式引留クランプの本体部に着脱可能に装着される把持部材と、少なくとも楔式引留クランプの引留方向への前記把持部材の移動を阻止する係止手段と、前記把持部材に付与される引張力を受ける張力受け部とを、備えたことを特徴とする。このような構成とすれば、既設の楔式引留クランプに対し把持部材を装着し、この把持部材に設けられた張力受け部にワイヤなどを係止して楔式引留クランプの引留方向に引っ張ることが可能となるため、カムアロング無しで、緩線作業を行うことができる。また、従来のカムアロングを使用する必要がないので、既設の電線に損傷を与えることがなく、重量の大きなカムアロングを高所で取り扱うこともなくなるので、作業者の負担を大幅に軽減することができる。
【0008】
ここで、前記係止手段として、前記把持部材に、前記楔式引留クランプの本体部の周縁部に当接する反力受け部を設けることが望ましい。このような構成とすれば、把持部材の張力受け部に付与された引張力によって把持部材に生じる反力を、楔式引留クランプの本体部の周縁部で保持可能となるため、楔式引留クランプの本体部に装着された把持部材を確実に保持することができる。
【0009】
この場合、前記係止手段として、前記把持部材に、前記楔式引留クランプの中心支軸に軸支された連結板に当接する凹部を設けることが望ましい。このような構成とすれば、把持部材の張力受け部に付与された引張力によって把持部材に生じる反力を、さらに楔式引留クランプの中心支軸に軸支された連結板で保持できるため、楔式引留クランプの本体部に装着された把持部材をより確実に保持することができる。
【0010】
一方、前記把持部材が、前記楔式引留クランプの本体部を挟んで対向配置される複数の側面部材を備えることが望ましい。このような構成とすれば、把持部材は、楔式引留クランプの本体部の両側を複数の側面部材で挟むような状態で装着されるため、安定した装着状態を得ることができる。
【0011】
この場合、複数の前記側面部材を分離可能に連結する連結部材を備えることが望ましい。このような構成とすれば、複数の連結部材が互いに分離、連結可能となるため、楔式引留クランプの本体部に対する把持部材の装着、離脱が容易となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、従来のカムアロングを使用せず、電線に損傷を与えることなく緩線作業を行うことができ、作業者の負担も大幅に軽減することのできるクランプアダプタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。図1は本発明の実施の形態であるクランプアダプタを示す斜視図、図2(a)は図1に示すクランプアダプタの正面図であり、同図(b)は前記クランプアダプタの側面図であり、同図(c)は前記クランプアダプタの底面図、図3は図1に示すクランプアダプタの分解図である。
【0014】
図1〜図3に示すように、本実施形態のクランプアダプタ10は、後述する図4に示す楔式引留クランプ30の本体部31に着脱可能に装着される把持部材11と、楔式引留クランプ30の引留方向Pへの把持部材11の移動を阻止する係止手段(上部反力受け部12a,12b、下部反力受け部13a,13bおよび凹部12c)と、把持部材11に付与される引張力を受ける張力受け部として機能するボルト15bの露出部15fと、を備えている。
【0015】
把持部材11は、後述する図9に示すように、楔式引留クランプ30の本体部31を挟んで対向配置される二つの側面部材11a,11bを備え、これらの側面部材11a,11bを分離可能に連結する連結部材として、二本のボルト15b,16bおよびナット15n,16nを備えている。側面部材11a,11bは両端を丸めた板状体であり、上端寄りの部分に板状の上部反力受け部12a,12bが固着され、下端寄りの部分に板状の下部反力受け部13a,13bが固着されている。上部反力受け部12a,12bの下縁には側面部材11a,11bの背面側に向かって傾斜した当接面12dが設けられ、下部反力受け部13a,13bの上端側には側面部材11a,11bに向かって下り勾配をなす当接面13cが設けられている。
【0016】
側面部材11a,11b正面の上方寄りの部分には、それぞれ突出部12eが設けられ、各突出部12eの正面に凹部12cが設けられている。また、側面部材11a,11bの下端側には、落下防止用のロープなどを係止するための係止孔14aおよび貫通孔14hを有する板状の落下防止フック14が取り付けられる。
【0017】
側面部材11a,11bの下端側に固着された下部反力受け部13a,13bの間に落下防止フック14を挟んだ状態で側面部材11a,11bを対向させ、連通する貫通孔13h,14h(図3参照)にボルト16bを挿通させてナット16nを螺着し、ボルト16b先端部のクリップ孔16hに弛み防止用のクリップ16pを取り付けた後、同様に、側面部材11a,11bの上端側の貫通孔12h(図3参照)にボルト15bを挿通させてナット15nを螺着し、ボルト15b先端部のクリップ孔15hに弛み防止用のクリップ15pを取り付ければ、図1,図2に示すクランプアダプタ10が形成される。
【0018】
ここで、図4〜図6に基づいて、クランプアダプタ10を装着する楔式引留クランプ30について説明する。図4は図1に示すクランプアダプタを装着する前の楔式引留クランプの側面図、図5は図4における矢線A方向から見た図、図6は図4におけるB−B線断面図である。
【0019】
図4〜図6に示すように、楔式引留クランプ30は、鉄塔(図示せず)などの支持体に連結するための連結板32と、電線Wを保持するため中心支軸33を介して連結板32に取り付けられた断面U字状の本体部31と、中心支軸33を介して本体部31内に軸支された楔押さえ35と、電線Wを固定するため楔押さえ35と本体部31との間に配置された楔部材36と、中心支軸33を介して本体部31の外側に取り付けられた断面略U字状の補強部材34と、を備えている。楔部材36の基端部と、ジャンパ金具37の先端部との間に挟持された電線WがUボルト38aを有する把持金具38で固定され、ジャンパ金具37の基端部はUボルト39aを有する把持金具39によって電線Wに固定されている。
【0020】
次に、図1および図7〜図9に基づいて、クランプアダプタ10の使用方法について説明する。図7は図1に示すクランプアダプタを楔式引留クランプに装着した状態を示す図、図8は図7におけるクランプアダプタを一部切欠した状態で示す図、図9は図7における矢線C方向から見た図である。
【0021】
既設の楔式引留クランプ30は、図7に示すように、連結板32に開設された係止孔32aに係止されたワイヤR1を鉄塔(図示せず)などの支持体に連結することによって電線Wが張設されている。クランプアダプタ10は、このような電線Wの緩線作業を行う際に、楔式引留クランプ30に装着して使用するものである。
【0022】
クランプアダプタ10を楔式引留クランプ30に装着する場合、作業開始に当たり、クランプアダプタ10の落下防止フック14の係止孔14aにロープ(図示せず)などを係止して鉄塔(図示せず)などの支持体に連結する。そして、図1に示す状態にあるクランプアダプタ10の上方のナット15nを緩めてボルト15bを貫通孔12hから取り外した後、図7に示すように、楔式引留クランプ30の本体部31を二つの側面部材11a,11bの間に挟むようにして、本体部31の先端側から取り付ける。次に、側面部材11a,11bの貫通孔11hにボルト15bを挿入してナット15nを螺着した後、クランプアダプタ10全体を楔式引留クランプ30の中心支軸33に向かって移動させ、側面部材11a,11bの突出部12eをそれぞれ本体部31と補強部材34との隙間に差し込み、それぞれの凹部12cを連結板32の軸支部分に当接させる。これにより、図8,図9に示すように、上部反力受け部12a,12bの当接面12dが本体部31の上縁部31aに当接し、下部反力受け部13a,13bの当接面13cが本体部31の下縁部31bに当接した状態となる。
【0023】
この後、図9に示す、側面部材11a,11b上方の上部反力受け部12a,12bの間にあるボルト15bの露出部15fに係止したワイヤR2(図8参照)を鉄塔(図示せず)などの支持体に連結すると、電線Wは、ワイヤR2、クランプアダプタ10および楔式引留クランプ30によって張設された状態となる。このとき、ボルト15bの露出部15fが張力受け部として機能する。従って、楔式引留クランプ30に係止されたワイヤR1を緩めても電線Wは張設状態に保持され、この後、緩線作業などを行うことができる。
【0024】
このように、クランプアダプタ10は、既設の楔式引留クランプ30に対して把持部材11を装着し、把持部材11に設けられた張力受け部(ボルト15bの露出部15f)にワイヤR2などを係止すれば、楔式引留クランプ30の引留方向Pに引っ張ることが可能となるため、カムアロング無しで、緩線作業を行うことができる。また、カムアロングを使用する必要がないので、既設の電線Wに損傷を与えることがなく、重量の大きなカムアロングを高所で取り扱うこともなくなるので、作業者の負担を大幅に軽減することができる。
【0025】
また、把持部材11が引留方向Pへ移動するのを阻止する手段として、本体部31の上縁部31aに当接する当接面12dを有する上部反力受け部12a,12bと、本体部31の下縁部31bに当接する当接面13cを有する下部反力受け部13a,13bと、を設けている。このため、把持部材11の張力受け部(ボルト15bの露出部15f)に付与された引張力によって把持部材11に生じる反力は、楔式引留クランプ30の本体部11の上縁部31aおよび下縁部31bで保持され、把持部材11を確実に保持することができる。
【0026】
さらに、前述の構成としたことにより、把持部材11の張力受け部(ボルト15bの露出部15f)に付与される引張力の方向が引留方向Pから多少ずれることがあっても、把持部材11を確実に保持することができるため、作業現場の状況に対応した方向に引っ張ることができる。
【0027】
また、把持部材11を構成する側面部材11a,11bにはそれぞれ、楔式引留クランプ30の中心支軸33に軸支された連結板32に当接する凹部12cを設けたことにより、把持部材11の張力受け部(ボルト15bの露出部15f)に付与された引張力によって把持部材11に生じる反力を連結板32で保持できるため、把持部材11をより確実に保持することができる。
【0028】
一方、把持部材11は、楔式引留クランプ30の本体部31を挟んで対向配置される二つの側面部材11a,11bで構成されているため、クランプアダプタ10をクランプ10に装着したとき、本体部31は一対の側面部材11a,11bで挟持された状態となり、極めて安定した装着状態を得ることができる。
【0029】
さらに、二つの側面部材11a,11bは、複数のボルト15b,16bおよびナット15n,16nによって分離可能に連結されているため、一方のボルト15bおよびナット15nを取り外せば、楔式引留クランプ30に対して容易に着脱作業が可能である。また、必要に応じて図3に示す状態に分解することができるので、搬送性、保管性も良好であり、破損した部品のみの交換も容易である。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、既設の架空送電線の緩線作業などにおいて広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の形態であるクランプアダプタを示す斜視図である。
【図2】(a)は図1に示すクランプアダプタの正面図であり、(b)は前記クランプアダプタの側面図であり、(c)は前記クランプアダプタの底面図である。
【図3】図1に示すクランプアダプタの分解図である。
【図4】図1に示すクランプアダプタを装着する前の楔式引留クランプの側面図である。
【図5】図4における矢線A方向から見た図である。
【図6】図4におけるB−B線断面図である。
【図7】図1に示すクランプアダプタを楔式引留クランプに装着した状態を示す図である。
【図8】図7におけるクランプアダプタを一部切欠した状態で示す図である。
【図9】図7における矢線C方向から見た図である。
【図10】従来のカムアロングを示す側面図である。
【符号の説明】
【0032】
10 クランプアダプタ
11 把持部材
11a,11b 側面部材
12a,12b 上部反力受け部
12c 凹部
12d,13c 当接面
12e 突出部
12h,13h 貫通孔
13a,13b 下部反力受け部
14 落下防止フック
14a 係止孔
14h 貫通孔
15b,16b ボルト
15f 露出部
15n,16n ナット
15h,16h クリップ孔
15p,16p クリップ
30 楔式引留クランプ
31 本体部
31a 上縁部
31b 下縁部
32 連結板
32a 係止孔
33 中心支軸
34 補強部材
35 楔押さえ
36 楔部材
37 ジャンパ金具
38,39 把持金具
38a,39a Uボルト
P 引留方向
R1,R2 ワイヤ
W 電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
楔式引留クランプの本体部に着脱可能に装着される把持部材と、少なくとも楔式引留クランプの引留方向への前記把持部材の移動を阻止する係止手段と、前記把持部材に付与される引張力を受ける張力受け部とを、備えたことを特徴とするクランプアダプタ。
【請求項2】
前記係止手段として、前記把持部材に、前記楔式引留クランプの本体部の周縁部に当接する反力受け部を設けた請求項1記載のクランプアダプタ。
【請求項3】
前記係止手段として、前記把持部材に、前記楔式引留クランプの中心支軸に軸支された連結板に当接する凹部を設けたことを特徴とする請求項2記載のクランプアダプタ。
【請求項4】
前記把持部材が、前記楔式引留クランプの本体部を挟んで対向配置される複数の側面部材を備えたことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のクランプアダプタ。
【請求項5】
複数の前記側面部材を分離可能に連結する連結部材を備えたことを特徴とする請求項4記載のクランプアダプタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−236836(P2008−236836A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−69120(P2007−69120)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(505268677)株式会社九建 (11)
【Fターム(参考)】