説明

クリップ

【課題】フランジ部と被取付部材との当接部におけるシール性を向上することのできるクリップを提供する。
【解決手段】鍔部とフランジ部とから成る頭部と、前記頭部の下面に垂設され、被取付部材に形成された取付孔内に押し込まれて前記被取付部材を前記フランジ部との間で係止する係止部を備えた弾性係合脚を有する脚部とを有するクリップであって、前記フランジ部は、先端の周縁部を肉厚に形成したので、フランジ部と被取付部材との間のシール性を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、取付孔を有する被取付部材に使用するクリップに関し、特に自動車のインナーパネルにトリムボード等を係止するとともに、止水効果(シール性)も有するクリップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、従来のクリップは、図8に示すように鍔部1とそれに続く軸部2と皿形スカート3及び弾性プレート4、弾性係合部5を備えた脚部6等から構成されている。このように構成されたクリップは、鍔部1にトリムボード等を取付た後、車体のインナーパネルに形成された取付孔に脚部6を挿入して固定する。このようにして、被取付部材と皿形スカートとの間のシールを行っていた。
また、他の従来例として、被取付部材とフランジ部との間に別部材であるシール部材を設置し、止水性を向上する例が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭63−27567号公報
【特許文献2】特開2006−226368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、図8に示ような従来のクリップは、皿形スカート3(フランジ部)の肉厚が薄く、低い剛性を有するものであった。特に、皿形スカート3のインナーパネル等と当接する先端部が薄く、止水性の低いものであった。したがって、自動車ドアのベルトライン等から雨水等が浸入した場合の防水性に問題が存在した。また、鍔部(頭部)に外力が加わった場合にも、フランジ部が変形し易、溢水の虞が存在した。更に、皿形スカート(フランジ部)の肉厚が薄いために、クリップを成型する際に変形し易いと云う欠点が存在した。
更にまた、フランジ部の剛性を高めるために、肉厚を厚くしようとしても、金型の構造上フランジ部の無理抜きが必要となり、必要とする肉厚まで厚くできないのが現状である。
また、特許文献2に示す例にあっては、成型に際して金型の構造上、フランジ部の離型時に無理抜きが必要となり、ヨタリが発生する可能性が高かった。更に、経年劣化した際、シール部材とフランジ部の中心がズレて止水効果が低下する虞が存在した。また、別部材のシール部材を使用することは、コストの増加を招くものであった。
【0005】
この発明は、上記したような不都合を解消するためになされたもので、鍔部とフランジ部とから成る頭部と、頭部の下面に垂設され、被取付部材をフランジ部との間で係止する係止部を備えた弾性係合脚を有する脚部とを有するクリップであって、フランジ部の先端の周縁部を肉厚に形成し、成型時の変形を防止するとともに、先端の周縁部の剛性を増して、止水性(シール性)を向上することのできるクリップを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、以下のような内容である。
(1)本発明のクリップは、鍔部とフランジ部とから成る頭部と、前記頭部の下面に垂設され、被取付部材に形成された取付孔内に押し込まれて前記被取付部材を前記フランジ部との間で係止する係止部を備えた弾性係合脚を有する脚部とを有するクリップであって、前記フランジ部は、先端の周縁部を肉厚に形成したことを特徴とする。
(2)(1)に記載のクリップにおいて、前記フランジ部の周縁部は、被取付部材と当接する当接面の中心に向かう延長線とフランジ部先端の内接線とが鋭角を成していることを特徴とする。
(3)(1)または(2)に記載のクリップにおいて、前記フランジ部の周縁部は、被取付部材と当接する当接面から略垂直に立ち上がって形成されたことを特徴とする。
(4)(1)〜(3)に記載のクリップにおいて、前記フランジ部は、球面状に湾曲形成されたことを特徴とする。
(5)(1)〜(4)に記載のクリップにおいて、前記脚部は、前記係止部を有する径方向に縮径可能な弾性係合脚と、中心柱から放射状に周方向に延設された突片が前記弾性係合脚の間にそれぞれ位置する横断面が十字型の軸部とを備えたことを特徴とする。
(6)(1)〜(5)に記載のクリップにおいて、前記頭部は、間隔を有して配設された複数の鍔部を備え、鍔部と鍔部とを連結する軸部にトリムボード等を係止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、鍔部とフランジ部とから成る頭部と、前記頭部の下面に垂設され、被取付部材に形成された取付孔内に押し込まれて前記被取付部材を前記フランジ部との間で係止する係止部を備えた弾性係合脚を有する脚部とを有するクリップであって、前記フランジ部は、先端の周縁部を肉厚に形成したので、フランジ部先端の剛性が増加して、被取付部材との間のシール性が向上する。また、成型時にフランジ部が反り返る等の変形を防止することができる。
また、前記フランジ部の周縁部は、被取付部材と当接する当接面の中心に向かう延長線とフランジ部先端の内接線とが鋭角を成しているので、フランジ部の当接面と被取付部材との間に水が浸入した際に、水の表面張力で形成される水膜による止水効果が得られる。
また、前記フランジ部の周縁部は、被取付部材と当接する当接面から略垂直に立ち上がって形成されたので、フランジ部先端の肉厚を確保することができ、剛性を増すことができる。
また、前記フランジ部は、球面状に湾曲形成されたので、フランジ部の反力が増し、止水性能を向上することができる。また、クリップ本体にこじり荷重が加わった場合にも、耐力を増すことができる。
また、前記脚部は、前記係止部を有する径方向に縮径可能な弾性係合脚と、中心柱から放射状に周方向に延設された突片が前記弾性係合脚の間にそれぞれ位置する横断面が十字型の軸部とを備えたので、十字型空間の存在により弾性係合脚を撓み易くすることができる。したがって、被取付部材への挿入力を小さくすることができる。
また、前記頭部は、間隔を有して配設された複数の鍔部を備え、鍔部と鍔部とを連結する軸部にトリムボード等を係止するので、取付部材に予めクリップを取り付けた後に組み立て作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明の一実施の形態であるクリップの全体構成を示す斜視図である。
【図2】図2は、同クリップの正面図である。
【図3】図3は、同クリップの縦断面図である。
【図4】図4は、同クリップのフランジ部先端を示す要部拡大断面図である。
【図5】図5は、同クリップの図2におけるA−A線断面図である。
【図6】図6は、同クリップの一使用状態を示す説明図である。
【図7】図7は、同クリップの水漏れ試験を示す説明図である。
【図8】図8は、従来のクリップの一例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、鍔部とフランジ部とから成る頭部と、頭部の下面に垂設され脚部を有するクリップであって、フランジ部の先端の周縁部を肉厚に形成したので、成型時の変形を防止するとともに、先端の周縁部の剛性を増して、シール性を向上することができる。
【実施例1】
【0010】
以下、一実施の形態を示す図面に基づいて本発明を詳細に説明する。図1は本発明の一実施の形態であるクリップの全体構成を示す斜視図、図2は本発明のクリップの正面図、図3は本発明のクリップの縦断面図である。ここで、本発明のクリップ10は、第1の鍔部11と第2の鍔部12とフランジ部13とから成る頭部14と、前記頭部14の下面に垂設され、被取付部材に形成された取付孔内に押し込まれて前記被取付部材を前記フランジ部13との間で係止する係止部15を備えた弾性係合脚16を有する脚部17とから構成されており、フランジ部13は、先端の周縁部18が肉厚に形成されている。
【0011】
頭部14は、図1〜図3に示すように、所定の外径を有した中央の開口した円板状の第1の鍔部11と、この第1の鍔部11の下側の中心に連設され、第1の鍔部11の外径よりも小径の頸部19と、この頸部19の下端外周に頸部19を中心にして連設され、第1の鍔部11よりも大径の第2の鍔部12と、この第2の鍔部12の下側に第2の鍔部12の中心を中心として連設され、第2の鍔部12よりも大径で略半球状のフランジ部13とで構成されている。
【0012】
図4は、本発明のクリップ10のフランジ部先端を示す要部拡大断面図である。フランジ部13の先端の周縁部18は、それ以外の部位より肉厚に形成され、被取付部材20と当接する当接面21の中心に向かう延長線Rとフランジ部先端の内接線Lとが鋭角θを成している。また、フランジ部13の周縁部18の先端18aは、被取付部材20と当接する当接面21から略垂直に立ち上がって形成されている。したがって、フランジ部13の先端部は、断面2次モーメントが大きく、剛性が高く構成されている。
【0013】
このように構成された周縁部18において、フランジ部13と被取付部材20との間に水分が浸入した場合、被取付部材20と当接する当接面21の中心に向かう延長線Rとフランジ部先端の内接線Lとが鋭角θに形成されている為に、水分Aqが表面張力で丸くなり、当接面21から漏れる虞がない。したがって、当接面21に於けるシール性を向上することができる。また、クリップの製造時、射出成型する際の変形を防止できる。
【0014】
次に、脚部17は、図1〜図3および図5に示すように、フランジ部13(頭部14)の下側に、フランジ部13の中心を中心にして周方向に所定の等間隔を有して複数、例えば、4つ連設(垂設)され、径方向に弾性的に縮径可能な水平断面形状が扇型をした弾性係合脚16と、フランジ部13(頭部14)の下側の中心に連設(垂設)され、中心柱22から放射状に周方向に等間隔で延びる4つの突片23が弾性係合脚16の間にそれぞれ位置し、各突片23の最外縁を連ねた仮想軸の直径が被取付部材20に設けた係止孔24の直径に満たない平断面形状が十字形状の支柱25とで構成されている。また、各弾性係合脚16は、図1〜図3および図5に示すように、突片23(支柱25)に連結されている。
【0015】
次に、以上のように構成されたクリップ10の使用状態を図6に従って説明する。図6において、被取付部材20としてのドアインナーパネルには、クリップ10を係合させるための係止孔24が設けられている。この係止孔24の直径は、4つの突片23の最外側(最外縁)が形成する直径よりも僅かに大きな直径で、4つの弾性係合脚16の最外側(最外縁)が形成する直径よりも僅かに小さな直径とされている。また、取付部材26としてのトリムボードには、クリップ10に取り付けるための取付孔としての鍵孔27が設けられており、この鍵孔27を介して、トリムボードをクリップ10に取り付けた後、ドアインナーパネルに取り付ける。
【0016】
本発明のクリップにおいて、フランジ部13の先端の周縁部18は、それ以外の部位より肉厚に形成されているので、フランジ部の先端の剛性が増加して、被取付部材20とより強固に圧接される。したがって、外力が加わった場合にも、被取付部材20との間に隙間が生じる虞がなく、シール性の向上が可能である。
【0017】
図7は、本発明のクリップの水漏れ試験を示す説明図である。水漏れ試験は、水槽28の側壁に係止孔24を形成し、クリップ10を取り付けた後に、係止孔24から上に100mmの水を充填し、且つ頸部19に負荷Wを加えた。この様な水漏れ試験を行っても、水が漏れることはなかった。つまり、フランジ部13の先端の周縁部18は、それ以外の部位より肉厚に形成されたので、剛性が増し、頸部19に負荷を加えてもフランジ部13の変形を殆どなくすことができる。また、被取付部材20と当接する当接面21の中心に向かう延長線Rとフランジ部先端の内接線Lとが鋭角θに形成されている為に、水分Aqが表面張力で丸くなり、当接面21から漏れる虞がない。したがって、フランジ部13に於ける充分なシール効果を達成することができた。
【0018】
本発明は上述の実施例に限定されることなく、特許請求の範囲の記載に基づいて種々の設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0019】
10 クリップ
11 第1の鍔部
12 第2の鍔部
13 フランジ部
14 頭部
15 係止部
16 弾性係合脚
17 脚部
18 周縁部
19 頸部
20 被取付部材
21 当接面
22 中心柱
23 突片
24 係止孔
25 支柱
26 取付部材
27 鍵孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍔部とフランジ部とから成る頭部と、前記頭部の下面に垂設され、被取付部材に形成された取付孔内に押し込まれて前記被取付部材を前記フランジ部との間で係止する係止部を備えた弾性係合脚を有する脚部とを有するクリップであって、
前記フランジ部は、先端の周縁部を肉厚に形成したことを特徴とするクリップ。
【請求項2】
前記フランジ部の周縁部は、被取付部材と当接する当接面の中心に向かう延長線とフランジ部先端の内接線とが鋭角を成していることを特徴とする請求項1に記載のクリップ。
【請求項3】
前記フランジ部の周縁部は、被取付部材と当接する当接面から略垂直に立ち上がって形成されたことを特徴とする請求項1または2に記載のクリップ。
【請求項4】
前記フランジ部は、球面状に湾曲形成されたことを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1項に記載のクリップ。
【請求項5】
前記脚部は、前記係止部を有する径方向に縮径可能な弾性係合脚と、
中心柱から放射状に周方向に延設された突片が前記弾性係合脚の間にそれぞれ位置する横断面が十字型の軸部とを備えたことを特徴とする請求項1から請求項4の何れか1項に記載のクリップ。
【請求項6】
前記頭部は、間隔を有して配設された複数の鍔部を備え、鍔部と鍔部とを連結する軸部にトリムボード等を係止することを特徴とする請求項1から請求項5の何れか1項に記載のクリップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−177388(P2012−177388A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39358(P2011−39358)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000135209)株式会社ニフコ (972)
【Fターム(参考)】