説明

クリープ寿命評価方法及びクリープ寿命評価装置

【課題】Ni基単結晶超合金のクリープ寿命評価方法において、迅速に高精度で評価することである。
【解決手段】Ni基単結晶超合金のクリープ寿命を評価するクリープ寿命評価方法は、Ni基単結晶超合金で形成され、クリープ変形した被測定物を電子顕微鏡観察して得られたラフト組織を含む金属組織画像を形成する工程と、金属組織画像を2次元フーリエ変換し、水平方向と垂直方向とが空間周波数からなる直交座標で表されたフーリエ変換画像を形成する工程と、直交座標の原点に対して点対称に形成されたラフト組織のスポット像と、予め求めておいた被測定物と同一組成で既知のクリープ変形を受けた材料のラフト組織のスポット像と、を比較して、被測定物のクリープ寿命を評価する工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリープ寿命評価方法及びクリープ寿命評価装置に係り、特に、Ni基単結晶超合金のクリープ寿命を評価するクリープ寿命評価方法及びクリープ寿命評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高温環境で使用されているジェットエンジンやガスタービンの動翼等は、長期間の使用によりクリープ損傷するので、これらを安全に使用するためにクリープ寿命を評価する必要がある。これらの動翼等には、耐熱性に優れたNi基単結晶超合金が使用されている。Ni基単結晶超合金は、母相であるニッケル固溶体のγ相に金属間化合物(NiAl型等)のγ´相を析出させることにより析出強化された合金である。Ni基単結晶超合金は、高温領域(例えば、900℃以上)においてクリープ変形とともにγ相とγ´相とからなる金属組織が筏状に変化して、いわゆるラフト化することが知られている。
【0003】
Ni基単結晶超合金は、クリープ変形前の状態では、立方体状の析出物であるγ´相が母相であるγ相に整合に析出した組織を有している。母相であるγ相は、高温クリープ変形中にお互いに連結して筏状にラフト化しラフト組織を形成する。ラフト組織が形成されると、γ相とγ´相との界面で転位の移動が妨げられるため高温クリープ特性が向上する。ラフト組織は、クリープ変形ともに変化するため、ラフト組織の変化を利用してNi基単結晶超合金のクリープ寿命を評価することが行われている。
【0004】
特許文献1には、Ni基耐熱合金から成るガスタービン翼のクリープ余寿命を評価する方法において、ガスタービン翼の特定箇所から試料を採取してその箇所におけるγ´相の形態変化を観察し、そのγ´相の変化組織の平均アスペクト比L/Tと同組織の平均幅Tとを測定し、ガスタービン翼と同一の材料について予め求めたγ´相のアスペクト比L/Tと応力との関係および平均幅Tと温度との関係に基づいて、ガスタービン翼の使用応力および温度を推定し、これら推定した応力および温度の値を、破断時間との関係を示すクリープマスター曲線に対応させることにより、ガスタービン翼のクリープ寿命を評価することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−248605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述したような方法によりジェットエンジンやガスタービンの動翼等のクリープ寿命を評価する場合には、ラフト組織におけるγ´相の長さLと幅Tとを測定する必要があるので、例えば、広範囲のデータを測定するためには多大な時間を要する。また、ラフト組織におけるγ´相とγ相との境界を特定することが難しいために、γ´相の幅の測定値にばらつきが生じる。そのため、このような評価方法で動翼等に用いられるNi基単結晶超合金のクリープ寿命を評価する場合には、評価に多大な時間を要するとともに予測されたクリープ寿命の精度が低下する可能性がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、Ni基単結晶超合金のクリープ寿命を高精度で迅速に評価することができるクリープ寿命評価方法及びクリープ寿命評価装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るクリープ寿命評価方法は、Ni基単結晶超合金のクリープ寿命評価方法であって、前記Ni基単結晶超合金で形成され、クリープ変形した被測定物を電子顕微鏡観察して得られたラフト組織を含む金属組織画像を形成する工程と、前記金属組織画像を2次元フーリエ変換し、水平方向と垂直方向とが空間周波数からなる直交座標で表されたフーリエ変換画像を形成する工程と、前記直交座標の原点に対して点対称に形成されたラフト組織のスポット像と、予め求めておいた前記被測定物と同一組成で既知のクリープ変形を受けた材料のラフト組織のスポット像と、を比較して、前記被測定物のクリープ寿命を評価する工程と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明に係るクリープ寿命評価方法は、前記直交座標の原点に対する前記ラフト組織のスポット像の開き度合いを求める工程を備え、前記クリープ寿命を評価する工程は、前記開き度合いと、予め求めておいた前記被測定物と同一組成で既知のクリープ変形を受けた材料におけるラフト組織のスポット像の開き度合いと、を比較することが好ましい。
【0010】
本発明に係るクリープ寿命評価方法において、前記開き度合いは、前記フーリエ変換画像において前記ラフト組織のスポット像内の最大強度を示す最大強度位置を求め、前記直交座標の原点から最大強度位置までの距離を算出し、前記フーリエ変換画像を極座標に変換し、前記極座標の原点から前記距離の長さを動径として偏角に対する強度分布を求め、前記強度分布にガウス関数をフィッティングした曲線における最大ピークの半値幅で求められ、前記クリープ寿命を評価する工程は、前記最大ピークの半値幅と、予め求めておいた前記被測定物と同一組成で既知のクリープ変形を受けた材料の最大ピークの半値幅と、を比較することが好ましい。
【0011】
本発明に係るクリープ寿命評価装置は、Ni基単結晶超合金のクリープ寿命評価装置であって、前記Ni基単結晶超合金で形成され、クリープ変形した被測定物を電子顕微鏡観察して得られたラフト組織を含む金属組織画像を形成する手段と、前記金属組織画像を2次元フーリエ変換し、水平方向と垂直方向とが空間周波数からなる直交座標で表されたフーリエ変換画像を形成する手段と、前記直交座標の原点に対して点対称に形成されたラフト組織のスポット像と、予め求めておいた前記被測定物と同一組成で既知のクリープ変形を受けた材料のラフト組織のスポット像と、を比較して、前記被測定物のクリープ寿命を評価する手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明に係るクリープ寿命評価装置は、前記直交座標の原点に対する前記ラフト組織のスポット像の開き度合いを求める手段を備え、前記クリープ寿命を評価する手段は、前記開き度合いと、予め求めておいた前記被測定物と同一組成で既知のクリープ変形を受けた材料におけるラフト組織のスポット像の開き度合いと、を比較することが好ましい。
【0013】
本発明に係るクリープ寿命評価装置において、前記開き度合いは、前記フーリエ変換画像において前記ラフト組織のスポット像内の最大強度を示す最大強度位置を求め、前記直交座標の原点から最大強度位置までの距離を算出し、前記フーリエ変換画像を極座標に変換し、前記極座標の原点から前記距離の長さを動径として偏角に対する強度分布を求め、前記強度分布にガウス関数をフィッティングした曲線における最大ピークの半値幅で求められ、前記クリープ寿命を評価する手段は、前記最大ピークの半値幅と、予め求めておいた前記被測定物と同一組成で既知のクリープ変形を受けた材料の最大ピークの半値幅と、を比較することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
上記構成のクリープ寿命評価方法及びクリープ寿命評価装置によれば、ラフト組織の変化を2次元フーリエ変換画像で評価することにより、Ni基単結晶超合金のクリープ寿命を迅速に高精度で評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態において、クリープ寿命評価装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態において、クリープ寿命評価方法の手順を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態において、Ni基単結晶超合金にクリープ変形が生じたときの金属組織の変化を示す模式図である。
【図4】本発明の実施の形態において、図3に示す金属組織画像を2次元フーリエ変換したときのフーリエ変換画像(パワースペクトル図)を示す模式図である。
【図5】本発明の実施の形態において、座標原点に対するスポット像の開き度合いや座標原点に対するスポット像の位置を定量化する計算処理方法を示す図である。
【図6A】本発明の実施の形態において、クリープ寿命消費率0(未クリープ材)の金属組織画像とフーリエ変換画像を示す図である。
【図6B】本発明の実施の形態において、クリープ寿命消費率0.005の金属組織画像とフーリエ変換画像を示す図である。
【図6C】本発明の実施の形態において、クリープ寿命消費率0.027の金属組織画像とフーリエ変換画像を示す図である。
【図6D】本発明の実施の形態において、クリープ寿命消費率0.109の金属組織画像とフーリエ変換画像を示す図である。
【図6E】本発明の実施の形態において、クリープ寿命消費率0.273の金属組織画像とフーリエ変換画像を示す図である。
【図6F】本発明の実施の形態において、クリープ寿命消費率0.546の金属組織画像とフーリエ変換画像を示す図である。
【図6G】本発明の実施の形態において、クリープ寿命消費率0.942の金属組織画像とフーリエ変換画像を示す図である。
【図6H】本発明の実施の形態において、クリープ寿命消費率1(破断時)の金属組織画像とフーリエ変換画像を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態において、クリープ寿命消費率に対する半値幅とクリープ歪との関係を示すグラフである。
【図8】本発明の実施の形態において、クリープ寿命消費率に対する1/Rmaxとクリープ歪との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は、クリープ寿命評価装置10の構成を示すブロック図である。クリープ寿命評価装置10は、例えば、ジェットエンジンやガスタービンに用いられ、Ni基単結晶超合金で形成された動翼等のクリープ寿命を評価する装置であり、画像形成手段12、画像処理手段14等を備えている。
【0017】
画像形成手段12は、Ni基単結晶超合金で形成された動翼等の被測定物から採取された試料について、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡等の電子顕微鏡で観察された金属組織画像を形成する機能を有している。
【0018】
画像形成手段12は、例えば、走査型電子顕微鏡等にCCDカメラを備えることにより、走査型電子顕微鏡等で観察された金属組織像を直接に付属のコンピュータ等でデジタル画像として形成することができる。また、画像形成手段12は、イメージスキャナを備えることにより、走査型電子顕微鏡等で観察された金属組織写真をイメージスキャナで読み込み金属組織画像をデジタル画像で形成してもよい。金属組織画像は、例えば、SEM像、組成像(COMPO像)または凹凸(TOPO)像等で形成される。画像形成手段12は、例えば、金属組織画像を階調画像(グレースケール画像)や2値化画像で形成することができる。
【0019】
画像処理手段14は、フーリエ変換部16と、計算処理部18と、クリープ寿命評価部20と、を備えており、画像形成手段12で形成した金属組織画像を処理する機能を有している。
【0020】
フーリエ変換部16は、画像形成手段12で形成した金属組織画像を2次元フーリエ変換してフーリエ変換画像を形成する機能を有している。2次元フーリエ変換には、公知のアルゴリズムを使用したプログラムを用いることができる。フーリエ変換部16は、変換処理時間を短縮するため、高速フーリエ変換機能を有していることが好ましい。フーリエ変換画像(パワースペクトル図)は、水平方向と垂直方向とが空間周波数からなる直交座標で形成され、空間周波数に対応する強度がグレースケール等の濃淡で表示される。また、フーリエ変換画像の座標原点には直流成分が示される。フーリエ変換部16は、フーリエ変換画像の縦と横の画素数(pixel)を、例えば、128×128、256×256、512×512、1024×1024等で形成することができる。
【0021】
計算処理部18は、フーリエ変換画像について計算処理を実行し、フーリエ変換画像に形成された金属組織画像の周期性を示すスポット像について定量化する機能を有している。計算処理部18は、後述するように、スポット像内の最大強度を示す最大強度位置の算出、フーリエ変換画像の極座標変換処理、偏角に対する強度分布の算出、強度分布をガウス関数等でフィッティングしたフィッティング曲線における半値幅の算出等の計算処理を行うことができる。
【0022】
クリープ寿命評価部20は、計算処理部18で算出されたデータと、予め求めておいた被測定物と同一組成で既知のクリープ変形を受けた材料のデータと、を比較して、被測定物のクリープ寿命を評価する機能を有している。クリープ寿命評価部20は、被測定物と同一組成で既知のクリープ変形を受けた材料について、予め求めておいたフーリエ変換画像から計算処理されたデータとクリープ寿命消費率との関係と、計算処理部18で算出されたデータとを比較して、被測定物のクリープ寿命消費率を評価することができる。なお、クリープ寿命消費率は、クリープ破壊までの総時間に対する使用時間の比で求められる。例えば、クリープ破断までの総時間が100時間であり、使用時間が50時間である場合には、クリープ寿命消費率は0.5である。
【0023】
記憶手段22は、画像形成手段12で形成した金属組織画像、フーリエ変換部16で形成したフーリエ変換画像、計算処理部18で算出されたデータ等を格納する機能を有しており、CD−ROMやDVD等で構成される。また、記憶手段22には、クリープ寿命評価部20での比較等に用いるため、各種Ni基単結晶超合金、例えば、PWA1480、CMSX−4、CMSX−10、TMS−138(いずれも登録商標)等について、予め求めておいたフーリエ変換画像から計算処理されたデータとクリープ寿命消費率との関係等の情報が各種Ni基単結晶超合金に関連付けして蓄積されている。そのため、クリープ寿命評価部20は、Ni基単結晶超合金の種類を検索キーとして記憶手段22から比較対象のNi基単結晶超合金の比較データを呼び出すことができる。
【0024】
出力手段24は、画像形成手段12で形成した金属組織画像、フーリエ変換部16で形成したフーリエ変換画像、計算処理部18で算出されたデータ、クリープ寿命評価部20で評価されたクリープ寿命消費率を出力する機能を有している。出力手段24は、例えば、ディスプレーやプリンタ等で構成される。
【0025】
なお、クリープ寿命評価装置10は、一般的なコンピュータシステムで構成することができる。
【0026】
次に、クリープ寿命評価方法について説明する。図2は、クリープ寿命評価方法の手順を示すフローチャートである。
【0027】
試料準備工程(S10)は、Ni基単結晶超合金で形成された動翼等の被測定物から金属組織観察用の試料を採取して準備する工程である。試料は、ラフト組織の周期性が観察可能なように被測定物から採取される。例えば、被測定物が引張荷重を受けている引張クリープの場合には、試料は、応力軸方向に沿って採取される。採取された試料は、例えば、樹脂埋め等されて、アルミナ、コロイダルシリカ等の研磨材で研摩仕上げされる。
【0028】
画像形成工程(S12)は、試料を電子顕微鏡で金属組織観察し、金属組織画像を形成する工程である。研磨仕上げして準備された試料を走査型電子顕微鏡で金属組織観察し、ラフト組織を含む金属組織の金属組織画像を形成する。金属組織画像は、γ相とγ´相とのコントラストをより明確にするため、金属組織のコントラスト差がより大きい組成像(COMPO像)のデジタル画像として形成されることが好ましい。また、金属組織画像は、例えば、白から黒の濃淡による階調画像(グレースケール画像)や2値化画像で形成される。
【0029】
図3は、Ni基単結晶超合金にクリープ変形が生じたときの金属組織の変化を示す模式図である、図3(a)は、クリープ前段階(未クリープ材)における金属組織の模式図であり、図3(b)から図3(d)は、クリープ変形した金属組織の模式図であり、図3(b)から図3(d)の順にクリープ変形が大きくなる(クリープ時間が長くなる)場合を表している。
【0030】
ラフト組織の形成は、一般的に、引張クリープによって応力軸に対して垂直方向に生じ、圧縮クリープによって応力軸に対して平行方向に生じる。したがって、引張クリープの場合には、図3(a)から図3(d)においてY軸方向が応力軸方向を示しており、圧縮クリープの場合には、X軸方向が応力軸方向を示している。
【0031】
クリープ前段階である未クリープ材では、図3(a)に示すように、立方体状の析出物であるγ´相が母相であるγ相に整合に析出した金属組織を有している。そして、Ni基単結晶超合金の金属組織は、クリープ時間の経過とともに図3(b)から図(d)に変化する。
【0032】
図3(b)では、γ相がお互いに連結し、γ´相とγ相とが交互に周期的に並んだ筏状のラフト組織が形成される。例えば、引張クリープ変形を受けたNi基単結晶超合金の場合には、応力軸方向(Y軸方向)に対して略直交方向にγ´相とγ相とが略平行に配列してラフト組織が形成される。また、γ´相の幅(Y軸方向の幅)は、小さい幅で形成されている。
【0033】
クリープが進行すると、図3(c)に示すように、γ´相とγ相との配列の周期性に多少の乱れが生じたラフト組織が形成される。γ´相とγ相とは、波を打った組織で形成されている。また、図3(c)に示されるラフト組織では、γ´相は粗大化し、γ´相の幅(Y軸方向の幅)が図3(b)より大きくなる。
【0034】
更にクリープが進行すると、図3(d)に示すように、γ´相とγ相との配列の周期性に更に乱れが生じたラフト組織が形成される。γ´相とγ相とは、図3(c)に示す組織よりも更に波打ち度合いが大きい組織で形成されている。また、図3(d)に示されるラフト組織では、γ´相が更に粗大化し、γ´相の幅(Y軸方向の幅)が図3(c)より更に大きくなる。
【0035】
このように、Ni基単結晶超合金のラフト組織は、クリープの進行とともに変化し、Ni基単結晶超合金のクリープ寿命とラフト組織の変化とは密接に関連している。
【0036】
フーリエ変換処理工程(S14)は、金属組織画像をフーリエ変換部16で2次元フーリエ変換し、フーリエ変換画像を形成する工程である。フーリエ変換画像(パワースペクトル図)は、水平方向と垂直方向とが空間周波数からなる直交座標で形成される。直交座標の原点は、直流成分を示している。フーリエ変換画像において、各空間周波数に対応する強度は、例えば、輝点で表され、強度の大小は、輝点の濃淡で表される。フーリエ変換画像の原点の周囲には、金属組織画像の周期性を示す輝点が濃淡で表わされる。2次元フーリエ変換には、変換処理時間の短縮等から高速フーリエ変換処理(FFT)を用いることが好ましい。
【0037】
図4は、図3に示す金属組織画像を2次元フーリエ変換したときのフーリエ変換画像(パワースペクトル図)を示す模式図であり、図4(a)は、図3(a)に示す金属組織画像のフーリエ変換画像であり、図4(b)は、図3(b)に示す金属組織画像のフーリエ変換画像であり、図4(c)は、図3(c)に示す金属組織画像のフーリエ変換画像であり、図4(d)は、図3(d)に示す金属組織画像のフーリエ変換画像である。また、図4(a)に示すフーリエ変換画像において、横軸は、図3(a)の金属組織画像におけるX軸方向の空間周波数Sを表しており、縦軸は、図3(a)の金属組織画像におけるY軸方向の空間周波数Tを表している。なお、図4(b)から図4(d)のフーリエ変換画像についても図4(a)と同様にして、各金属組織画像におけるX軸方向の空間周波数Sと、Y軸方向の空間周波数Tとが表わされている。
【0038】
図4(a)に示すフーリエ変換画像では、スポット像30a、30b、32a、32bが4つ形成されている。このうち、スポット像30aとスポット像30bとは、座標原点に対して点対称に形成され、スポット像32aとスポット像32bとは、座標原点に対して点対称に形成されている。これらスポット像30a、30b、32a、32bは、図3(a)に示される金属組織画像における立方体状組織の周期性を示している。
【0039】
図4(b)に示すフーリエ変換画像では、スポット像34a、34bが2つ座標原点に対して点対称に形成される。スポット像34a、34bは、図3(b)に示される金属組織画像におけるラフト組織の周期性を示している。
【0040】
図4(c)に示すフーリエ変換画像では、スポット像36a、36bが2つ座標原点に対して点対称に形成される。スポット像36a、36bは、図3(c)に示される金属組織画像におけるラフト組織の周期性を示している。また、図4(c)のスポット像36a、36bは、図4(b)のスポット像34a、34bよりも、座標原点に対する開き度合いが大きくなり、座標原点により近い位置に形成される。
【0041】
図4(d)に示すフーリエ変換画像では、スポット像38a、38bが2つ座標原点に対して点対称に形成される。スポット像38a、38bは、図3(d)に示される金属組織画像におけるラフト組織の周期性を示している。また、図4(d)のスポット像38a、38bは、図4(c)のスポット像36a、36bよりも、座標原点に対する開き度合いが大きくなり、座標原点により近い位置に形成される。
【0042】
ここで、図4(b)から図4(d)に示すフーリエ変換画像において、座標原点に対するラフト組織のスポット像の開き度合いは、図4(b)から図4(d)の順に大きくなる。ラフト組織のスポット像の開き度合いは、図3(b)から図3(d)の金属組織画像において、主にラフト組織であるγ´相とγ相との波打ち度合いに関連している。すなわち、γ´相とγ相との波打ち度合いが大きくなるにしたがって、座標原点に対するラフト組織のスポット像の開き度合いは大きくなる。
【0043】
また、座標原点に対するラフト組織のスポット像の位置は、図4(b)から図4(d)の順に座標原点に近くなる。ラフト組織のスポット像の位置は、図3(b)から図3(d)の金属組織画像において、主にγ´相の幅(Y軸方向の幅)と関連している。すなわち、γ´相が粗大化してγ´相の幅(Y軸方向の幅)が大きくなるにしたがって、ラフト組織のスポット像は、フーリエ変換画像のT軸方向において、座標原点から遠い高周波領域から座標原点に近い低周波数領域に向けて形成される。
【0044】
このように、フーリエ変換画像に形成されたラフト組織のスポット像は、ラフト組織の変化に伴って変化する。したがって、座標原点に対するラフト組織のスポット像の開き度合いや座標原点に対するスポット像の位置から、ラフト組織の変化パターンを求めることができるので、スポット像の開き度合いやスポット像の位置からNi基単結晶超合金のクリープ寿命の評価を行うことができる。
【0045】
計算処理工程(S16)は、フーリエ変換画像に基づいて計算処理し、座標原点に対するスポット像の開き度合いや座標原点に対するスポット像の位置を定量化する工程である。座標原点に対するスポット像の開き度合いや座標原点に対するスポット像の位置を定量化することにより、ラフト組織の変化パターンを精度よく求めることができる。
【0046】
図5は、座標原点に対するスポット像の開き度合いや座標原点に対するスポット像の位置を定量化する計算処理方法を示す図である。まず、フーリエ変換画像の座標原点に対するスポット像の開き度合いを定量化する計算処理方法について説明する。
【0047】
図5(a)に示すようにフーリエ変換画像において、点対称のスポット像から1つを選択する。そして、図5(b)に示すように、選択されたスポット像内の最大強度を示す最大強度位置を求め、座標原点から最大強度位置までの距離(Rmax)を算出する。次に、図5(c)に示すように、フーリエ変換画像を極座標変換し、極座標の原点から上記で求めた距離(Rmax)を動径としたときの偏角に対応する強度分布を求める。そして、求めた強度分布にガウス関数をフィッティングしたフィッティング曲線における最大ピークの半値幅を求める。座標原点に対するスポット像の開き度合いが大きくなると上記により算出された半値幅は大きい値となるため、上記のように半値幅を求めることにより座標原点に対するスポット像の開き度合いを定量化することができる。なお、図5(c)では、半値幅として半値半幅(HWHM)を用いているが、半値全幅(FWHM)を用いてもよい。
【0048】
次に、フーリエ変換画像に基づいて計算処理し、座標原点に対するスポット像の位置を定量化する方法について説明する。座標原点に対するスポット像の位置を定量化する場合には、上述した図5(a)と図5(b)と同様の方法により、フーリエ変換画像において、点対称に形成されたスポット像から1つを選択し、選択されたスポット像内の最大強度を示す最大強度位置を求め、直交座標原点から最大強度位置までの距離(Rmax)を算出してスポット像の位置とすればよい。なお、距離(Rmax)は、クリープの進行とともに短くなるため、クリープ寿命消費率と関係づける場合には、距離(Rmax)の逆数(1/Rmax)を用いることが好ましい。
【0049】
クリープ寿命評価工程(S18)は、直交座標の原点に対して点対称に形成されたラフト組織のスポット像と、予め求めておいた前記被測定物と同一組成で既知のクリープ変形を受けた材料のラフト組織のスポット像と、を比較して、被測定物のクリープ寿命を評価する工程である。
【0050】
直交座標の原点に対して点対称に形成されたラフト組織のスポット像と、予め求めておいた前記被測定物と同一組成で既知のクリープ変形を受けた材料のラフト組織のスポット像と、を比較することにより、被測定物のクリープ寿命消費率を求めてクリープ寿命を評価することができる。ラフト組織のスポット像を比較する場合には、座標原点に対してラフト組織のスポット像の開き度合いを比較することが好ましく、ラフト組織のスポット像から算出された半値幅で比較することがより好ましい。
【0051】
記憶手段22には、予めクリープ試験等を行って、予め求めておいた被測定物と同一組成の既知のクリープ変形を受けた材料のクリープ歪とクリープ寿命消費率との関係を示すデータ、ラフト組織のスポット像とクリープ寿命消費率との関係を示すデータ、座標原点に対するラフト組織のスポット像の開き度合いとクリープ寿命消費率との関係を示すデータ、半値幅とクリープ寿命消費率との関係を示すデータ、座標原点から最大強度位置までの距離の逆数(1/Rmax)とクリープ寿命消費率との関係を示すデータ等がNi単結晶合金の種類、環境条件(温度、応力等)に関連付けて蓄積されている。
【0052】
例えば、計算処理部18で求めた半値幅からクリープ寿命を評価する場合には、クリープ寿命評価部20は、記憶手段22から呼び出された予め求めておいた被測定物と同一組成の半値幅とクリープ寿命消費率との関係を示すデータと、計算処理部18で求めた半値幅と比較して被測定物のクリープ寿命消費率を求めることができる。
【0053】
また、計算処理部18で求めた座標原点から最大強度位置までの距離の逆数(1/Rmax)からクリープ寿命を評価する場合には、クリープ寿命評価部20は、記憶手段22から呼び出された予め求めておいた被測定物と同一組成の座標原点から最大強度位置までの距離の逆数(1/Rmax)とクリープ寿命消費率との関係を示すデータと、計算処理部18で求めた直交座標原点から最大強度位置までの距離の逆数(1/Rmax)と比較してクリープ寿命消費率を求めることができる。
【0054】
出力工程(S20)は、被測定物のクリープ寿命消費率等のデータを出力する工程である。ディスプレーやプリンタ等の出力手段24により、クリープ寿命評価部20で求めた被測定物のクリープ寿命消費率、計算処理部18で求めた半値幅、座標原点から最大強度位置までの距離の逆数(1/Rmax)等のデータが出力される。
【0055】
なお、上述した計算処理方法では、スポット像の開き度合いを最大ピーク強度に対して半分の強度に対応するピーク幅である半値幅としたが、最大ピーク強度の1/2の強度に限定されることなく、最大ピーク強度に対して所定の強度を基準強度として、基準強度に対応するピーク幅をスポット像の開き度合としてもよい。また、上述した計算処理方法では、座標原点からスポット像までの距離を算出する際に、スポット像の位置をスポット像内の最大強度位置として算出したが、最大強度位置に限定されることなく、スポット像内の所定の強度を示す位置を基準位置として座標原点から基準位置までの距離を算出してもよい。
【0056】
以上、上記構成によれば、Ni基単結晶超合金で形成され、クリープ変形した被測定物から試料を採取して電子顕微鏡観察し、ラフト組織を含む金属組織画像を形成し、金属組織画像を2次元フーリエ変換し、水平方向と垂直方向とが空間周波数からなる直交座標で表されたフーリエ変換画像を形成し、直交座標の原点に対して点対称に形成されたラフト組織のスポット像と、予め求めておいた被測定物と同一組成で既知のクリープ変形を受けた材料のラフト組織のスポット像と、を比較して、被測定物のクリープ寿命を評価することにより、広範囲のラフト組織の変化からクリープ寿命を評価することができるので、Ni基単結晶超合金のクリープ寿命を高精度で迅速に評価することができる。
【0057】
上記構成によれば、直交座標の原点に対するラフト組織のスポット像の開き度合いを求め、予め求めておいた被測定物と同一組成で既知のクリープ変形を受けた材料におけるラフト組織のスポット像の開き度合いとを比較することで、より高精度で迅速な評価が可能である。
【0058】
上記構成によれば、開き度合いは、フーリエ変換画像においてラフト組織のスポット像内の最大強度を示す最大強度位置を求め、直交座標の原点から最大強度位置までの距離を算出し、フーリエ変換画像を極座標に変換し、極座標の原点から距離の長さを動径として偏角に対する強度分布を求め、強度分布にガウス関数をフィッティングした曲線における最大ピークの半値幅で求められ、予め求めておいた被測定物と同一組成で既知のクリープ変形を受けた材料の最大ピークの半値幅と比較してクリープ寿命を評価することにより、例えば、コンピュータを上述した各手段として機能させるプログラム用いてクリープ寿命を評価することができるので、更に高精度で迅速に評価することができる。
【実施例】
【0059】
Ni基単結晶超合金のクリープ試験を行って、上述したクリープ寿命評価方法について検討した。
【0060】
クリープ試験用の供試体には、TMS−138材を使用した。TMS−138材は、5.8wt%のCoと、3.2wt%のCrと、2.8wt%のMoと、5.9wt%のWと、5.9wt%のAlと、5.6wt%のTaと、0.1wt%のHfと、5wt%のReと、2wt%のRuとを含むγ´相析出強化型のNi基単結晶超合金である。TMS−138材の熱処理条件は、TMS−138材で一般的に行われている溶体化処理条件1340℃×5h、時効処理条件1100℃×4h+870℃×20hとした。
【0061】
クリープ試験は、ASTM E139のクリープ試験方法に準拠して実施した。クリープ試験条件は、試験温度1100℃、引張応力137MPaとした。まず、クリープ試験を行ってクリープ破断時間を求めた後、求めたクリープ破断時間に対するクリープ寿命消費率0.005、0.027、0.109、0.273、0.546、0.942に対応する各クリープ時間でクリープ試験を中断して評価用供試体とした。
【0062】
そして、各評価用供試体から試料を切り出し、アルミナバフ研摩(粒径0.3μm)でバフ研摩した後、コロイダルシリカ研磨(丸本ストルアス社 コロイダルシリカOP−S液を使用)で仕上げ研磨を行った後、カリング液(40mlHCl−60mlエタノール−2g第2塩化銅)によりエッチィングを施して試料を準備した。なお、クリープ寿命消費率0から0.546までの評価用供試体では、供試体の略中央部から試料を採取し、クリープ寿命消費率0.942の評価用供試体では、クリープ変形した供試体のネック部から試料を採取し、クリープ寿命消費率1の評価用供試体では、供試体のクリープ破断箇所の近傍から試料を採取した。
【0063】
次に、作製した各試料について走査型電子顕微鏡により1000倍で金属組織観察を行って、金属組織画像(SEM像)を形成した。金属組織の観察は、{110}結晶面で行った。金属組織画像は、白から黒の諧調画像(グレースケール)とし、縦横を1000画素×1000画素のデジタル画像で形成した。そして、金属組織画像について2次元高速フーリエ変換処理し、水平方向と垂直方向とが空間周波数からなる直交座標で表され、座標原点が直流成分となるフーリエ変換画像を形成した。フーリエ変換画像は、縦横を1024画素×1024画素のグレースケールで形成した。
【0064】
図6Aは、クリープ寿命消費率0(未クリープ材)の金属組織画像とフーリエ変換画像を示す図であり、図6Bは、クリープ寿命消費率0.005の金属組織画像とフーリエ変換画像を示す図であり、図6Cは、クリープ寿命消費率0.027の金属組織画像とフーリエ変換画像を示す図であり、図6Dは、クリープ寿命消費率0.109の金属組織画像とフーリエ変換画像を示す図であり、図6Eは、クリープ寿命消費率0.273の金属組織画像とフーリエ変換画像を示す図であり、図6Fは、クリープ寿命消費率0.546の金属組織画像とフーリエ変換画像を示す図であり、図6Gは、クリープ寿命消費率0.942の金属組織画像とフーリエ変換画像を示す図であり、図6Hは、クリープ寿命消費率1(破断時)の金属組織画像とフーリエ変換画像を示す図である。
【0065】
図6Aから図6Hの各図において、金属組織画像のY軸方向は、引張応力軸方向を示している。図6A(a)の金属組織画像を拡大したものが上述した図3(a)に示す金属組織の模式図に対応し、図6D(a)の金属組織画像を拡大したものが上述した図3(b)に示す金属組織の模式図に対応し、図6F(a)の金属組織画像を拡大したものが上述した図3(c)に示す金属組織の模式図に対応し、図6G(a)の金属組織画像を拡大したものが、上述した図3(d)に示す金属組織の模式図に対応している。また、各金属組織画像において、γ相は、グレースケールの白色側で表わされ、γ´相は、グレースケールの黒色側で表わされている。
【0066】
図6Aから図6Hの各図において、フーリエ変換画像のS軸方向は、各金属組織画像のX軸方向における空間周波数を示し、フーリエ変換画像のT軸方向は、各金属組織画像のY軸方向における空間周波数を示している。なお、直交座標の原点(0,0)は、直流成分を示している。また、フーリエ変換画像において、強度がグレースケールで表示されており、強度が大きいほど白色側で表示され、強度が小さいほど黒色側で表示されている。
【0067】
次に、図6Aから図6Hに示す各フーリエ変換画像において、直交座標の原点に対して点対称に形成されたスポット像(白色で表示された部分)において、いずれか一方の選択されたスポット像内の最大強度を示す最大強度位置を求め、直交座標の原点から最大強度位置までの距離を算出し、フーリエ変換画像を極座標に変換し、極座標の原点から前記距離の長さを動径として偏角に対する強度分布を求め、強度分布にガウス関数をフィッティングした曲線における最大ピークの半値幅を求めた。なお、半値幅は、半値半幅(HWHM)とした。以下に各評価用供試体の半値幅を示す。
【0068】
(各評価用供試体の半値幅)
クリープ寿命消費率0(未クリープ材)の半値幅 15.9度
クリープ寿命消費率0.005の半値幅 11.22度
クリープ寿命消費率0.027の半値幅 13.04度
クリープ寿命消費率0.109の半値幅 19.96度
クリープ寿命消費率0.273の半値幅 25.04度
クリープ寿命消費率0.546の半値幅 29.32度
クリープ寿命消費率0.942の半値幅 41.04度
クリープ寿命消費率1(クリープ破断材)の半値幅 61.82度
【0069】
図7は、クリープ寿命消費率に対する半値幅とクリープ歪との関係を示すグラフである。図7では、横軸にクリープ寿命消費率を取り、左縦軸に半値幅(度)を取り、右縦軸にクリープ歪(%)を取り、半値幅とクリープ寿命消費率との関係を実線で示し、クリープ歪とクリープ寿命消費率との関係を破線で示した。以下に各供試体のクリープ歪を示す。
【0070】
(各供試体のクリープ歪)
クリープ寿命消費率0(未クリープ材)のクリープ歪 0%
クリープ寿命消費率0.005のクリープ歪 0.05%
クリープ寿命消費率0.027のクリープ歪 0.08%
クリープ寿命消費率0.109のクリープ歪 0.46%
クリープ寿命消費率0.273のクリープ歪 0.74%
クリープ寿命消費率0.546のクリープ歪 0.90%
クリープ寿命消費率0.942のクリープ歪 3.8%
クリープ寿命消費率1(クリープ破断材)のクリープ歪 10.6%
【0071】
図7のグラフから明らかなように、半値幅とクリープ寿命消費率との関係を示すクリープ曲線と、クリープ歪とクリープ寿命消費率との関係を示すクリープ曲線とは、いずれもクリープ寿命消費率が増加すると半値幅とクリープ歪が大きくなる傾向にあり、これらのクリープ曲線は相関性を有していることが明らかになった。また、クリープ寿命消費率0.005以上1以下の範囲では、クリープ寿命消費率が増加すると半値幅とクリープ歪が大きくなるので、半値幅からクリープ歪を精度よく推定することができる。更に、クリープ寿命消費率0.109以上0.942以下の範囲では、半値幅とクリープ寿命消費率との関係を示すクリープ曲線と、クリープ歪とクリープ寿命消費率との関係を示すクリープ曲線との直線性が向上することにより、より精度よく半値幅からクリープ歪を推定することができる。なお、図7に示す半値幅とクリープ寿命消費率との関係を示すクリープ曲線データと、クリープ歪とクリープ寿命消費率との関係を示すクリープ曲線データとは、マスター曲線としてTMS−138材、試験温度、引張クリープ応力等に関連付けして記憶手段22に蓄積される。
【0072】
次に、各評価用供試体におけるフーリエ変換画像を用いて座標原点から最大強度位置までの距離と、その逆数とを算出した。以下に、各評価用供試体における座標原点から最大強度位置までの距離(Rmax)と、その逆数(1/Rmax)とを示す。
【0073】
(各評価用供試体のRmax)
クリープ寿命消費率0(未クリープ材)のRmax 72.8(pixel)
クリープ寿命消費率0.005のRmax 82.6(pixel)
クリープ寿命消費率0.027のRmax 59.2(pixel)
クリープ寿命消費率0.109のRmax 54.0(pixel)
クリープ寿命消費率0.273のRmax 41.0(pixel)
クリープ寿命消費率0.546のRmax 36.4(pixel)
クリープ寿命消費率0.942のRmax 28.0(pixel)
クリープ寿命消費率1(クリープ破断材)のRmax 13.6(pixel)
【0074】
(各評価用供試体の1/Rmax)
クリープ寿命消費率0(未クリープ材)の1/Rmax 0.0137(1/pixel)
クリープ寿命消費率0.005の1/Rmax 0.0121(1/pixel)
クリープ寿命消費率0.027の1/Rmax 0.0169(1/pixel)
クリープ寿命消費率0.109の1/Rmax 0.0185(1/pixel)
クリープ寿命消費率0.273の1/Rmax 0.0244(1/pixel)
クリープ寿命消費率0.546の1/Rmax 0.0275(1/pixel)
クリープ寿命消費率0.942の1/Rmax 0.0357(1/pixel)
クリープ寿命消費率1(クリープ破断材)の1/Rmax 0.0735(1/pixel)
【0075】
図8は、クリープ寿命消費率に対する1/Rmaxとクリープ歪との関係を示すグラフである。図8では、横軸にクリープ寿命消費率を取り、左縦軸に1/Rmax(1/pixel)を取り、右縦軸にクリープ歪(%)を取り、1/Rmaxとクリープ寿命消費率との関係を実線で示し、クリープ歪とクリープ寿命消費率との関係を破線で示した。
【0076】
図8のグラフから明らかなように、1/Rmaxとクリープ寿命消費率との関係を示すクリープ曲線と、クリープ歪とクリープ寿命消費率との関係を示すクリープ曲線とは、いずれもクリープ寿命消費率が増加すると1/Rmaxとクリープ歪が大きくなる傾向にあり、これらのクリープ曲線は相関性を有していることが明らかになった。また、クリープ寿命消費率0.005以上1以下の範囲では、クリープ寿命消費率が増加すると1/Rmaxとクリープ歪が大きくなるので、1/Rmaxからクリープ歪を精度よく推定することができる。更に、クリープ寿命消費率0.109以上0.942以下の範囲では、1/Rmaxとクリープ寿命消費率との関係を示すクリープ曲線と、クリープ歪とクリープ寿命消費率との関係を示すクリープ曲線との直線性により、より精度よく1/Rmaxからクリープ歪を推定することができる。なお、図8に示す1/Rmaxとクリープ寿命消費率との関係を示すクリープ曲線データと、クリープ歪とクリープ寿命消費率との関係を示すクリープ曲線データとは、マスター曲線としてTMS−138材、試験温度、引張クリープ応力等に関連付けして記憶手段22に蓄積される。
【0077】
ここで、所定時間使用したジェットエンジンのTMS−138材で形成された複数のタービン動翼から1枚の動翼をサンプリングしてクリープ寿命を評価する場合には、サンプリングした動翼から試料を採取して走査型電子顕微鏡でラフト組織を含む金属組織画像を取得し、金属組織画像について2次元高速フーリエ変換してフーリエ変換画像を形成し、フーリエ変換画像から上述した方法で半値幅を算出する。
【0078】
そして、クリープ寿命評価部20は、TMS−138材を検索キーとして記憶手段22に蓄積されたTMS−138材における半値幅とクリープ寿命消費率との関係を示すマスター曲線データ(図7の実線で示されたクリープ曲線)を呼び出し、算出した半値幅に対応するクリープ寿命消費率を求める。例えば、算出された半値幅が35度である場合には、予め求められた図7の半値幅とクリープ寿命消費率との関係を示すクリープ曲線からクリープ寿命消費率0.78と推定することができる。
【0079】
また、クリープ歪を求める場合には、クリープ寿命評価部20は、TMS−138材を検索キーとして記憶手段22に蓄積されたTMS−138材におけるクリープ歪とクリープ寿命消費率との関係を示すマスター曲線データ(図7の破線で示されたクリープ曲線)を呼び出し、クリープ寿命消費率0.78に対応するクリープ歪を求める。予め求められた図7のクリープ歪とクリープ寿命消費率との関係を示すクリープ曲線から、クリープ歪1.5%と推定することができる。
【0080】
次に、フーリエ変換画像から求めた1/Rmaxを算出してクリープ寿命を評価する場合には、クリープ寿命評価部20は、TMS−138材を検索キーとして記憶手段22に蓄積されたTMS−138材における1/Rmaxとクリープ寿命消費率との関係を示すマスター曲線データ(図8の実線で示されたクリープ曲線)を呼び出し、算出された1/Rmaxに対応するクリープ寿命消費率を求める。例えば、算出された1/Rmaxが0.03(1/pixel)である場合には、クリープ寿命消費率0.78と推定される。このようにして、所定時間使用した動翼のクリープ寿命を評価することができる。
【符号の説明】
【0081】
10 クリープ寿命評価装置
12 画像形成手段
14 画像処理手段
16 フーリエ変換部
18 計算処理部
20 クリープ寿命評価部
22 記憶手段
24 出力手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni基単結晶超合金のクリープ寿命評価方法であって、
前記Ni基単結晶超合金で形成され、クリープ変形した被測定物を電子顕微鏡観察して得られたラフト組織を含む金属組織画像を形成する工程と、
前記金属組織画像を2次元フーリエ変換し、水平方向と垂直方向とが空間周波数からなる直交座標で表されたフーリエ変換画像を形成する工程と、
前記直交座標の原点に対して点対称に形成されたラフト組織のスポット像と、予め求めておいた前記被測定物と同一組成で既知のクリープ変形を受けた材料のラフト組織のスポット像と、を比較して、前記被測定物のクリープ寿命を評価する工程と、
を備えることを特徴とするクリープ寿命評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載のクリープ寿命評価方法であって、
前記直交座標の原点に対する前記ラフト組織のスポット像の開き度合いを求める工程を備え、
前記クリープ寿命を評価する工程は、前記開き度合いと、予め求めておいた前記被測定物と同一組成で既知のクリープ変形を受けた材料におけるラフト組織のスポット像の開き度合いと、を比較することを特徴とするクリープ寿命評価方法。
【請求項3】
請求項2に記載のクリープ寿命評価方法であって、
前記開き度合いは、前記フーリエ変換画像において前記ラフト組織のスポット像内の最大強度を示す最大強度位置を求め、前記直交座標の原点から最大強度位置までの距離を算出し、前記フーリエ変換画像を極座標に変換し、前記極座標の原点から前記距離の長さを動径として偏角に対する強度分布を求め、前記強度分布にガウス関数をフィッティングした曲線における最大ピークの半値幅で求められ、
前記クリープ寿命を評価する工程は、前記最大ピークの半値幅と、予め求めておいた前記被測定物と同一組成で既知のクリープ変形を受けた材料の最大ピークの半値幅と、を比較することを特徴とするクリープ寿命評価方法。
【請求項4】
Ni基単結晶超合金のクリープ寿命評価装置であって、
前記Ni基単結晶超合金で形成され、クリープ変形した被測定物を電子顕微鏡観察して得られたラフト組織を含む金属組織画像を形成する手段と、
前記金属組織画像を2次元フーリエ変換し、水平方向と垂直方向とが空間周波数からなる直交座標で表されたフーリエ変換画像を形成する手段と、
前記直交座標の原点に対して点対称に形成されたラフト組織のスポット像と、予め求めておいた前記被測定物と同一組成で既知のクリープ変形を受けた材料のラフト組織のスポット像と、を比較して、前記被測定物のクリープ寿命を評価する手段と、
を備えることを特徴とするクリープ寿命評価装置。
【請求項5】
請求項4に記載のクリープ寿命評価装置であって、
前記直交座標の原点に対する前記ラフト組織のスポット像の開き度合いを求める手段を備え、
前記クリープ寿命を評価する手段は、前記開き度合いと、予め求めておいた前記被測定物と同一組成で既知のクリープ変形を受けた材料におけるラフト組織のスポット像の開き度合いと、を比較することを特徴とするクリープ寿命評価装置。
【請求項6】
請求項5に記載のクリープ寿命評価装置であって、
前記開き度合いは、前記フーリエ変換画像において前記ラフト組織のスポット像内の最大強度を示す最大強度位置を求め、前記直交座標の原点から最大強度位置までの距離を算出し、前記フーリエ変換画像を極座標に変換し、前記極座標の原点から前記距離の長さを動径として偏角に対する強度分布を求め、前記強度分布にガウス関数をフィッティングした曲線における最大ピークの半値幅で求められ、
前記クリープ寿命を評価する手段は、前記最大ピークの半値幅と、予め求めておいた前記被測定物と同一組成で既知のクリープ変形を受けた材料の最大ピークの半値幅と、を比較することを特徴とするクリープ寿命評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図6F】
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【図6G】
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【図6H】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−196925(P2011−196925A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66249(P2010−66249)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】