説明

クリープ寿命評価方法

【課題】評価対象とする金属製部材の損傷を極力少なくするとともに、多数の金属製部材を簡便に評価することが可能なクリープ寿命評価方法を提供する。
【解決手段】クリープ寿命及び余寿命評価方法は、クリープ寿命に係るマスターカーブの基本形を決定する基本形決定ステップS100と、マスターカーブの基本形に基づいて、評価対象とするボイラ伝熱管のマスターカーブを決定するマスターカーブ決定ステップS200と、決定したマスターカーブを用いてクリープ寿命及び余寿命を判定する寿命判定ステップS300とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温下で荷重が作用する金属製部材のクリープ寿命評価方法に係り、特に、評価対象とする金属製部材の損傷を極力少なくするとともに、多数の金属製部材を簡便に評価できる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高温下で荷重が作用する金属製部材は、クリープ現象よりその材質が劣化し、所定時間経過後に破断する性質を有する。このクリープ現象よる破断までの時間をクリープ寿命というが、このような環境で使用される機器を多く保有する火力発電プラントや化学プラント等では、各金属製部材について、予め試験等により測定され設定されたクリープ寿命に基づいて定期的に取り替えや補修を行い、プラント全体の維持を図っている。
【0003】
しかしながら、近年、使用時間がクリープ寿命以内でも、熱や荷重が局所的に偏って作用することに起因する異常なクリープ劣化によって金属製部材が破断するケースが発生しており、金属製部材のクリープ寿命を的確に評価する技術開発の重要性が高まっている。
【0004】
金属のクリープによる材質劣化は、金属に作用する温度及び荷重、並びに使用時間により支配されるものであり、通常、評価対象部材についてこれら支配因子を測定し、当該支配因子条件おけるクリープ寿命を、クリープ寿命線図を用いて読み取ることにより求めている。
【0005】
例えば、火力発電所のボイラ等に設けられるボイラ伝熱管のクリープ寿命を求める場合には、図13のボイラ伝熱管の断面斜視図に示すように、ボイラ伝熱管10の周囲に溝切り加工を施し、その溝切り位置に輪状の熱電対12を圧着・溶接して、ボイラ伝熱管10のメタル温度を測定する。そして、このようにして測定したメタル温度と、管内に流通する蒸気圧力と、ボイラ伝熱管の使用時間とから、クリープ寿命線図を用いて破断時間(クリープ寿命)を求める。また、余寿命をクリープ寿命からボイラ伝熱管の使用時間を差引くことにより求める。
【0006】
なお、本発明者は、特許文献1において、金属製部材のクリープ寿命消費率を簡単に精度良く推定する指数として、金属の各結晶粒界上に発生したクリープボイドの粒界占有率のうち最大の値である最大ボイド粒界占有率を提案している。
【特許文献1】WO02/014835
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のようなクリープ寿命評価方法では、評価対象とするすべてのボイラ伝熱管に熱電対を設ける必要があり、その設置に際し、すべての管の表面に溝切り加工を行わなければならず、それらボイラ伝熱管の強度が低下するおそれがある。また、熱電対の数が評価対象となるボイラ伝熱管の数だけ必要となり、コストが嵩むとともに、設置作業に手間がかかる。
【0008】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、評価対象とする金属製部材の損傷を極力少なくするとともに、多数の金属製部材を簡便に評価することが可能なクリープ寿命評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明は、金属製部材のクリープ寿命を評価する方法であって、
クリープボイドの発生度合いを示すボイドパラメータの時間変化を表す関数であるマスターカーブの種類を決定する第1ステップと、
前記金属製部材について前記ボイドパラメータの時系列データを測定し、当該時系列データと、前記第1ステップで決定したマスターカーブの種類とに基づいて、前記金属製部材についての前記マスターカーブを求める第2ステップと、
前記第2ステップで求められたマスターカーブに基づいて、前記金属製部材のクリープ寿命を求める第3ステップと、を備えることを特徴とする(第1の発明)。
【0010】
本発明によるクリープ寿命評価方法によれば、金属製部材の金属の種類から定まるマスターカーブの種類を一旦決定すれば、評価対象とする金属製部材の温度を測定することなくクリープ寿命を求めることができる。したがって、金属製部材への熱電対の設置は必要なく、金属製部材に損傷を与えることがないので、金属製部材の強度低下を回避できる。
【0011】
また、金属製部材の温度を測定するための熱電対の設置作業も発生しないので手間がかかることはなく、熱電対自体のコストも削減できる。
【0012】
第2の発明は、第1の発明において、前記第1ステップでは、複数の種類の前記マスターカーブを予め設定し、前記金属製部材と同種の金属について測定された前記ボイドパラメータの時系列データに基づき、前記マスターカーブの近似式を前記複数の種類について夫々求め、前記求められた各種類のマスターカーブの近似式のうち、前記時系列データと最も適合する近似式の種類を、前記マスターカーブの種類として決定することを特徴とする。
【0013】
第3の発明は、第1の発明において、前記金属製部材と同種の金属について前記マスターカーブの種類が既知である場合には、前記第1ステップでは、当該既知であるマスターカーブの種類を、当該金属製部材についてのマスターカーブの種類として決定することを特徴とする。
【0014】
第4の発明は、第1〜3の何れかの発明において、前記マスターカーブの種類として、クリープが生じる時間領域において単調増加する関数を用いることを特徴とする。
【0015】
第5の発明は、第4の発明において、前記関数として、多項式関数を用いることを特徴とする。
【0016】
第6の発明は、第1〜5の何れかの発明において、前記金属製部材が粗粒化されてない場合に、前記第2ステップに先立って前記金属製部材を粗粒化するように加熱処理を行うことを特徴とする。
【0017】
本発明によるクリープ寿命評価方法によれば、金属製部材を加熱処理して粗粒化させることにより、ボイドパラメータを測定できるようになる。
【0018】
第7の発明は、第6の発明において、前記加熱処理では、前記金属製部材をA3変態点以上となるように加熱し、その後除冷することを特徴とする。
【0019】
第8の発明は、第1〜7の何れかの発明において、前記ボイドパラメータとして、金属の各結晶粒界上に発生したクリープボイドの粒界占有率のうち最大の値である最大ボイド粒界占有率を用いることを特徴とする。
【0020】
第9の発明は、第1〜8の何れかの発明において、前記クリープ寿命の評価対象の金属製部材として、ボイラ伝熱管を適用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、評価対象とする金属製部材の損傷を極力少なくするとともに、多数の金属製部材を簡便に評価することが可能なクリープ寿命評価方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面に基づき詳細に説明する。
本実施形態に係るクリープ寿命及び余寿命評価方法は、高温下で荷重が作用する金属製部材について、クリープが生じてから破断するまでの時間であるクリープ寿命と、評価時点からクリープ寿命までの時間(以下、余寿命という)との評価に適用するものである。なお、本実施形態では、特に火力発電所で使用されるボイラ伝熱管のクリープ寿命及び余寿命を評価する場合について説明する。
【0023】
図1は、本実施形態に係るクリープ寿命及び余寿命の評価方法の手順を示すフローである。
【0024】
図1に示すように、クリープ寿命及び余寿命評価方法は、クリープ寿命に係るマスターカーブの基本形を決定する基本形決定ステップS100と、マスターカーブの基本形に基づいて、評価対象とするボイラ伝熱管のマスターカーブを決定するマスターカーブ決定ステップS200と、決定したマスターカーブを用いてクリープ寿命及び余寿命を判定する寿命判定ステップS300とからなる。
【0025】
ここでいうマスターカーブとは、クリープの発生の開始時からの経過時間と、クリープボイドの発生度合いを示すパラメータ(以下、ボイドパラメータという)との関係を示す関数である。すなわち、マスターカーブは、時間の進行とともにボイドパラメータが増加していく単純増加の関数となる。また、マスターカーブの基本形とは、当該関数の種類(例えば、多項式関数や指数関数等)を示し、マスターカーブの基本形は、同種の金属であれば同一形を示す特徴を有する。
【0026】
図2は、基本形決定ステップS100の詳細な手順を示すフローである。
図2に示すように、基本形決定ステップS100では、具体的に、金属試料の選定(S102)、粗粒化処理(S104)、熱電対の設置(S106)、データ取得(S108)、金属試料の寿命導出(S110)を行うことによりマスターカーブの基本形を決定する(S112)。
【0027】
先ず、金属試料の選定(S102)では、マスターカーブの基本形を決定するための金属試料を選定する。金属試料としては、例えば、評価対象とするボイラ伝熱管の中から1又は複数のボイラ伝熱管を選定して用いる。なお、ボイラ伝熱管と同種の金属からなり、熱及び荷重の作用によりクリープが生じている部材であれば、ボイラ伝熱管とは別の部材を金属試料として選定してもよい。
【0028】
粗粒化処理(S104)では、S102で選定された金属試料を、クリープボイドが観察できるように加熱して粗粒化させる処理を行う。例えば、ボイラ伝熱管を金属試料として用いる場合には、加熱装置としてボイラ伝熱管の周囲に設置して加熱できる小型電気炉を用いる。一方、ボイラ伝熱管が、小型電気炉を設置できないような狭隘な箇所に設置されている場合には、ボイラ伝熱管の一部に肉盛溶接を行うことにより、その部位に溶接熱を与えて粗粒化させてもよい。これらボイラ伝熱管を粗粒化させるための温度の与え方は、粗粒化させる部位がA3変態点(1183K、910℃)以上となるように加熱し、その後徐々に除冷するものとする。このように加熱を行うことにより、金属に粗粒化されたマルテンサイト組織が形成され、クリープボイドが観察できるようになる。なお、金属試料に、溶接接合等による熱影響を受けた粗粒化部が予め形成されている場合には、その粗粒化部を次工程(S106)以降の工程に用いることとして、粗粒化処理(S104)を特に行わなくてもよい。
【0029】
次に、このように粗粒化させた金属試料に対し、金属試料の温度を測定するための熱電対を設置する(S106)。熱電対をボイラ伝熱管に設置する際には、上述の図13で説明したようにボイラ伝熱管10の周囲に溝切加工を施し、その溝切加工に輪状に熱電対12を設け、その上から圧着・溶接して固定させる。
【0030】
以上S102〜S106のような準備を行った後、実際にマスターカーブの基本形を決定するためのデータ取得(S108)を行う。
【0031】
具体的には、ボイドパラメータの時系列データを測定していく。ボイドパラメータとしては、例えば、金属の各結晶粒界上に発生したクリープボイドの粒界占有率のうち最大の値である最大ボイド粒界占有率(以下、Mパラメータという)を用いることができる。上述のようにMパラメータは、本発明者が、金属製部材のクリープ寿命消費率を簡単に精度良く推定できる指数として発明したものである(特許文献1参照)。
【0032】
図3は、Mパラメータの定義を説明するための、粗粒化した金属試料の表面の拡大模式図である。
【0033】
図3に示すように、例えば走査型電子顕微鏡や光学顕微鏡等を用いて粗粒化した金属試料の表面を拡大し、粒界上に位置するクリープボイド(図中には黒色領域で示す)を観察することにより、クリープボイドが存在する1粒界の全長Lα、クリープボイドが存在する1粒界の全長Lαの粒界上にあるクリープボイドの個数n、クリープボイドが存在する粒界数m、及び粒界とボイドの交点を平行に取ったボイドの長さlαを測定する。
【0034】
これらの測定値に基づきMパラメータMBは、次式(1)のように求められる。

【0035】
通常、Mパラメータは、金属試料を新材の段階から粗粒化させてクリープボイドを観察可能にしておき、クリープ開始時から測定される。そして、クリープ開始時からの経過時間(以下、クリープ時間という)を、クリープ寿命で除算したクリープ寿命消費率(クリープ時間/クリープ寿命)に変換し、クリープ寿命消費率とMパラメータとの関係からクリープ寿命及び余寿命の評価を行っている。
【0036】
これに対し、金属試料として実機に設けられるボイラ伝熱管を用いる場合には、既にクリープが発生している状態にある金属試料を粗粒化させ、その時点からのMパラメータを測定していく。
【0037】
図4は、粗粒化以降におけるMパラメータの測定結果の一例を示すグラフである。
【0038】
図4に示すように、粗粒化した時点tでは、まだクリープボイドは発生していないのでMパラメータMBは0となり、それ以降クリープボイドの増加にともなって、時点t、t、・・・、tに対応するMパラメータMB、MB、・・・、MBも徐々に増加していく。ここで時点t(i=0,1,2,・・・)は、金属試料のクリープ時間(例えば、ボイラ伝熱管を金属試料とする場合には、ボイラ伝熱管の使用時間)を示す。
【0039】
また、時系列データの終局点となる金属試料のクリープ寿命を導出する(S110)。金属試料のクリープ寿命tを求めるために、金属試料のメタル温度、及び金属試料に作用する荷重について測定する。例えば、金属試料としてボイラ伝熱管を用いた場合には、S106で設置した熱電対によりボイラ伝熱管のメタル温度を測定し、また、ボイラ伝熱管内に流れる流体の圧力を測定する。なお、ボイラ伝熱管とは別の部位を用いた場合にも、同様にその部位のメタル温度と、その部位に作用する荷重とを測定する。
【0040】
そして、測定されたメタル温度及び管内の圧力に基づき、図5のようなクリープ寿命線図を用いて、これら条件下における金属試料の寿命を導出する。図5は、ボイラ伝熱管内の圧力と、管寿命t(破断時間)との関係を、ボイラ伝熱管のおかれる温度ごとにグラフ線図で示したものであり、金属の種類が0.5Cr―0.5Mo鋼の場合を示す。クリープ寿命線図は、NIMS(独立行政法人物質材料研究機構)により頒布される物質・材料データベースから入手することができる。図5に示すクリープ寿命線図によれば、管のメタル温度が上昇するほど、また管内を流れる流体の圧力が上昇するほど管寿命tが短くなる傾向を示すことが判る。
【0041】
金属試料の寿命導出(S110)では、先ず熱電対により測定したメタル温度によりクリープ寿命線を選定し、その選定したクリープ寿命線における管内圧力に対応する寿命tを読み取る。例えば、管温度が500℃で管内圧力が300MPaである場合には、それに対応する寿命tは約2000時間となる。
【0042】
また、寿命tに対応するMパラメータMBは、通常0.9を用いるので、この結果を図4のMパラメータMBの測定結果に追加する。これにより最終的にクリープ時間tとMパラメータMBとは、図6に示すような関係になる。
【0043】
そして、以上のようにして求められた金属試料のクリープ時間t及びMパラメータMBの実データに基づいて、マスターカーブの基本形を決定する(S112)。
【0044】
図6に示すように、クリープ時間tとMパラメータMBとは、単純増加の関係にある。マスターカーブの基本形の決定(S112)では、例えば、このような単純増加を示す何種類かのマスターカーブの基本形を予め選定しておき、各基本形について上記時系列データの近似式を求めるとともに、各近似式と時系列データとの適合性を判断し、これらの基本形からなる近似式のうち、最も時系列データと適合する近似式を選定し、その近似式の基本形を、本金属試料のマスターカーブの基本形とする。なお上述したように、マスターカーブとは、クリープ時間tとMパラメータMBとの関係を示す関数であり、マスターカーブの基本形とは、当該関数の種類(例えば、1次関数、2次関数といった各次数の多項式関数又は指数関数等)である。具体的には、例えば選定に用いるマスターカーブの基本形を1〜3次の多項式関数として設定し、1〜3次の多項式関数について時系列データの近似式を夫々求めるとともに、これら近似式のうち、最も時系列データの分布と適合する近似式を最小二乗法により求める。
【0045】
図7は、図6に対して各関数の近似式のグラフを追加した図である。図7中には、1次関数の近似式を破線、2次関数の近似式を実線、3次関数の近似式を一点鎖線で示している。これら各関数の近似式と実データとの残差の二乗和Sを、次式(2)により求める。

ここで、fは各関数の近似式、nは時系列データの個数を示す。
【0046】
こうして各関数について式(2)により求められた残差の二乗和Sが最小である近似式をマスターカーブとして選定し、その基本形をマスターカーブの基本形とする。なお、本実施形態では2次関数がマスターカーブの基本形であるとして、後述のマスターカーブ決定ステップS200を説明する。
【0047】
図8は、マスターカーブ決定ステップS200の詳細な手順を示すフローである。
図8に示すように、マスターカーブ決定ステップS200では、評価対象とするボイラ伝熱管のボイドパラメータの時系列データの測定(S202)を行うことにより、ボイドパラメータ等に基づくマスターカーブの導出(S204)を行う。
【0048】
ボイドパラメータの測定(S202)では、評価対象とするボイラ伝熱管について、基本形決定ステップS100で測定したボイドパラメータと同じボイドパラメータ(本実施形態ではMパラメータ)を測定する。測定に際しては、基本形決定ステップS100の粗粒化処理(S104)と同様に、必要に応じて評価対象のボイラ伝熱管を粗粒化させ、その粗粒化させた部位についてMパラメータを測定する。測定では、基本形決定ステップS100のデータ取得(S108)と同様に、粗粒化以降のクリープ時間tと、そのクリープ時間の対応するMBを求め、これらを記録していく。
【0049】
マスターカーブの導出(S204)では、S202で測定したMパラメータに基づき評価対象おけるマスターカーブを求める。
【0050】
図9は、評価対象のボイラ伝熱管につき、粗粒化以降におけるMパラメータの時系列データ及びそのマスターカーブを示す図である。
【0051】
図9に示すように、マスターカーブの基本形が2次関数である場合、少なくとも3つの時点(例えば、t、t、t)におけるMパラメータ(0、MB、MB)を測定すれば、クリープ時間とMパラメータとの関係を示すマスターカーブが一義的に定まる。ここで、tは評価対象のボイラ伝熱管を粗粒化させた時点、t及びtは時点t以降でクリープ寿命以前の時点を示し(なお、t<t)、これら各時点はボイラ伝熱管のクリープ開始時からの経過時間(つまり、総稼働時間)に相当し、既知である。
【0052】
具体的には、2次関数を次式(3)のように定義し、
f(x)=ax+bx+c ・・・(3)
3つの時点(t、t、t)と各時点に対応するMパラメータ(0、MB、MB)を次式(4)〜(6)のように代入し、
0=at+bt+c ・・・(4)
MB=at+bt+c ・・・(5)
MB=at+bt+c ・・・(6)
a、b、cを未知数として連立方程式を解く。
この時のa、b、cは、次式(7)により求めることができる。

そして、寿命判定ステップS300(図1参照)では、マスターカーブ決定ステップS200で決定したマスターカーブを用いてクリープ寿命及び余寿命を判定する。
【0053】
図10は、マスターカーブを用いてクリープ寿命t及び余寿命trlを判定する手順を説明するための図である。
【0054】
図10に示すように、クリープ寿命tに相当するMパラメータ値(=0.9)を、マスターカーブ決定ステップS200で決定したマスターカーブに代入することで、次式(9)に示すようにクリープ寿命tを求める。
=f−1(0.9) ・・・(9)
ただしt>0、f−1はS200で決定したマスターカーブfの逆関数を示す。
【0055】
また、任意の時点tおけるボイラ伝熱管の余寿命trlは、次式(10)に示すようにクリープ寿命tから時点tを差引くことにより求められる。
rl=t―t ・・・(10)
【0056】
そして、このように本実施形態の方法により求められたボイラ伝熱管のクリープ寿命及び余寿命は、ボイラ伝熱管の取り替えや補修の時期の判定に用いられる。
【0057】
以上説明した本実施形態に係るクリープ寿命及び余寿命評価方法によれば、Mパラメータの時間変化を表す関数であるマスターカーブにつき、当該マスターカーブの種類を、金属製部材の金属の種類により決定する基本形決定ステップS100と、金属製部材についてMパラメータの時系列データを測定し、当該時系列データと、基本形決定ステップS100で決定したマスターカーブの基本形とに基づいて、金属製部材についてのマスターカーブを求めるマスターカーブ決定ステップS200と、マスターカーブ決定ステップS200で求められたマスターカーブに基づいて、金属製部材のクリープ寿命及び余寿命を求める寿命判定ステップS300と、を実施することにより、金属製部材の金属の種類から定まるマスターカーブの種類を一旦決定すれば、評価対象とする金属製部材の温度を測定することなくクリープ寿命及び余寿命を求めることができる。したがって、金属製部材への熱電対の設置は必要なく、金属製部材に損傷を与えることがないので、金属製部材の強度低下を回避できる。
【0058】
また、ボイラ伝熱管の温度を測定するための熱電対の設置作業も発生しないので手間がかかることはなく、熱電対自体のコストも削減できる。
【0059】
なお、本実施形態に係るクリープ寿命及び余寿命評価方法では、ボイドパラメータとしてMパラメータ法を用いたが、これに限らず、ボイド面積率法、Aパラメータ、粒界線上ボイド占有率法等のその他クリープボイドの発生度合いを示すパラメータを用いても良い。
【0060】
また、本実施形態に係るクリープ寿命及び余寿命評価方法では、基本形決定ステップS100におけるS102〜S112までの工程を実施することによりマスターカーブの基本形を決定することとしているが、これに限らず、評価対象とする金属製部材と同種の金属についてマスターカーブの基本形を予め得ている場合には、そのマスターカーブの基本形を、基本形決定ステップS100で決定するマスターカーブの基本形として、基本形決定ステップS100内におけるS102〜S112までの工程を省略してもよい。
【0061】
また、本実施形態に係るクリープ寿命及び余寿命評価方法では、マスターカーブの基本形に時系列データを代入することにより一義的にマスターカーブを決定したが、これに限らず、時系列データの分布に近似する近似式を求めることによりマスターカーブを決定してもよい。
【0062】
また、本実施形態に係るクリープ寿命及び余寿命評価方法の評価対象は、ボイラ伝熱管に限ることなく、クリープが生じている金属製部材であればどのようなものでも適用可能である。
【0063】
また、本実施形態では、評価対象とするボイラ伝熱管のメタル温度が定常であることを前提としてクリープ寿命及び余寿命を求めているが、実際の実機運用では、これら寿命を求めた後に、管内に酸化スケールが生成付着したり、燃焼ガスが温度変化したりすることにより、ボイラ伝熱管のメタル温度が変化する場合があり、求められた寿命と実際の寿命とに相違が生じてしまうことがある。
【0064】
例えば、クリープ寿命評価後に、メタル温度が低下する場合には、実際の寿命が、求めた寿命よりも延長して安全側の評価となるが、メタル温度が上昇する場合には、実際の寿命が、求めた寿命よりも短縮することになり危険側の評価となる。
【0065】
そこで、ボイラ伝熱管の取り替えや補修の時期(以下、交換補修時期という)を、より精度良く判定するために、交換補修時期の判定材料として、本実施形態による方法で求めたクリープ寿命及び余寿命のみならず、ボイラ伝熱管の外径を測定して用いてもよい。
【0066】
これは、低合金鋼(STBAやSTPA系)やステンレス鋼(SUS系)が素材として使用されるボイラ伝熱管は、クリープの進行とともにクリープひずみが累積していくと、クリープ寿命の約8割を経過したあたりから急激に膨張する特性を有することから、これを判定に利用するものである。
【0067】
図11は、Mパラメータとボイラ伝熱管の外径との時間変化を比較したグラフである。
図11に示すように、Mパラメータはクリープ寿命の前半から後半までその値が徐々に増加する傾向を示すのに対し、外径は寿命の末期で急激に増加する傾向を示す。すなわち、Mパラメータは、ステップS100でマスターカーブの基本形を、増加が緩やかである次数の低い多項式関数に決定することができることから、ステップS200でマスターカーブを少ない測定データ数で求めることができるので、クリープ寿命及び余寿命を求めるのに有利である。一方、外径は、寿命の末期で急激に増加する傾向を示すので、寿命末期を判定するのに有利である。
【0068】
ボイラ伝熱管の外径の測定については、例えば、評価対象とするボイラ伝熱管のボイドパラメータが測定される際に同時に行う。そして、外径が所定の基準値以上になった時を、交換補修時期として判定する。この基準値は、管の膨張が顕著になるときに設定され、ボイラ伝熱管の材質、径、肉厚等により異なることから、例えば実験データや文献を参照して決定する。なお、判定のための物理量として外径に限らず、外径の拡大する速度(以下、拡径速度という)を用いて、拡径速度が所定速度以上になった時を交換補修時期として判定してもよい。外径の拡径速度は、例えば、評価時における外径と、評価時以前に測定した外径とに基づき、既存の近似手法(例えば、線形近似や非線形近似等)により求める。
【0069】
図12は、交換補修時期の判定手順を示すフローである。
図12に示すように、交換補修時期の判定は、クリープ寿命及び余寿命に基づく判定S10と、外径に基づく判定S20とから構成される。
【0070】
クリープ寿命及び余寿命に基づく判定S10では、本実施形態に係るクリープ寿命及び余寿命評価方法により求められたクリープ寿命t及び余寿命trlに基づき、評価時点が、クリープ寿命近傍の所定時間に達しているか否かを判定する。この所定時間は、例えばクリープ寿命tの90%程度(0.9t)に設定する(図11参照)。そして、所定時間に達してする場合には、「交換補修時期である」と判定する(S30)。一方、所定時間に達していない場合には、外径に基づく判定S20がなされる。
【0071】
外径に基づく判定S20では、測定されたボイラ伝熱管の外径に基づき、外径又は拡径速度が、交換補修時期に相当する所定の基準値又は所定速度以上に達しているか否かを判定する。そして、外径又は拡径速度が、所定の基準値又は所定速度以上に達している場合には、「交換補修時期である」と判定する(S30)。
【0072】
例えば、外径により判定する場合には、外径が、クリープ寿命tの90%程度(0.9t)に対応する外径の値φ以上に達した場合に、「交換補修時期である」と判定する(S30)。
一方、外径又は拡径速度が、所定の基準値以上に達していない場合には、「交換補修時期でない」と判定する(S40)。
【0073】
以上説明した一連の判定手順を、ボイドパラメータ及び外径の測定ごとに行うことにより、交換補修時期を判定する。
【0074】
このように、ボイラ伝熱管の交換補修時期の判定に、本実施形態による方法で求めたクリープ寿命だけでなく、ボイラ伝熱管の膨張を考慮に入れることにより、例えば、クリープ寿命評価後に、ボイラ伝熱管のメタル温度が変化して、実際の寿命と、求めたクリープ寿命とに相違が生じるような場合であっても、クリープ現象によるボイラ伝熱管の破断の前兆を精度良く検出して、ボイラ伝熱管を交換又は補修することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本実施形態に係るクリープ寿命及び余寿命評価方法の手順を示すフローである。
【図2】基本形決定ステップS100の詳細な手順を示すフローである。
【図3】Mパラメータ(最大ボイド粒界占有率)の定義を説明するための、粗粒化した金属試料の表面の拡大模式図である。
【図4】粗粒化以降におけるMパラメータの測定結果の一例を示すグラフである。
【図5】ボイラ伝熱管内の圧力と、管寿命t(破断時間)との関係を、ボイラ伝熱管のおかれる温度ごとに示したグラフ線図である。
【図6】最終的なクリープ時間tとMパラメータMBとの関係を示す図である。
【図7】図6に対して各関数の近似式のグラフを追加した図である。
【図8】マスターカーブ決定ステップS200の詳細な手順を示すフローである。
【図9】評価対象のボイラ伝熱管につき、粗粒化以降におけるMパラメータの時系列データ及びそのマスターカーブを示す図である。
【図10】マスターカーブを用いてクリープ寿命t及び余寿命trlを判定する手順を説明するための図である。
【図11】Mパラメータとボイラ伝熱管の外径との時間変化を比較したグラフである。
【図12】交換補修時期の判定手順を示すフローである。
【図13】ボイラ伝熱管の断面斜視図である。
【符号の説明】
【0076】
10 ボイラ伝熱管
12 熱電対
S100 基本形決定ステップ
S102 金属試料の選定
S104 粗粒化処理
S106 熱電対の設置
S108 データ取得
S110 金属試料の寿命導出
S112 マスターカーブの基本形の決定
S200 マスターカーブ決定ステップ
S202 ボイドパラメータの時系列データの測定
S204 マスターカーブの導出
S300 寿命判定ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製部材のクリープ寿命を評価する方法であって、
クリープボイドの発生度合いを示すボイドパラメータの時間変化を表す関数であるマスターカーブの種類を決定する第1ステップと、
前記金属製部材について前記ボイドパラメータの時系列データを測定し、当該時系列データと、前記第1ステップで決定したマスターカーブの種類とに基づいて、前記金属製部材についての前記マスターカーブを求める第2ステップと、
前記第2ステップで求められたマスターカーブに基づいて、前記金属製部材のクリープ寿命を求める第3ステップと、を備えることを特徴とするクリープ寿命評価方法。
【請求項2】
前記第1ステップでは、複数の種類の前記マスターカーブを予め設定し、
前記金属製部材と同種の金属について測定された前記ボイドパラメータの時系列データに基づき、前記マスターカーブの近似式を前記複数の種類について夫々求め、
前記求められた各種類のマスターカーブの近似式のうち、前記時系列データと最も適合する近似式の種類を、前記マスターカーブの種類として決定することを特徴とする請求項1に記載のクリープ寿命評価方法。
【請求項3】
前記金属製部材と同種の金属について前記マスターカーブの種類が既知である場合には、前記第1ステップでは、当該既知であるマスターカーブの種類を、当該金属製部材についてのマスターカーブの種類として決定することを特徴とする請求項1に記載のクリープ寿命評価方法。
【請求項4】
前記マスターカーブの種類として、クリープが生じる時間領域において単調増加する関数を用いることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のクリープ寿命評価方法。
【請求項5】
前記関数として、多項式関数を用いることを特徴とする請求項4に記載のクリープ寿命評価方法。
【請求項6】
前記金属製部材が粗粒化されてない場合に、前記第2ステップに先立って前記金属製部材を粗粒化するように加熱処理を行うことを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のクリープ寿命評価方法。
【請求項7】
前記加熱処理では、前記金属製部材をA3変態点以上となるように加熱し、その後除冷することを特徴とする請求項6に記載のクリープ寿命評価方法。
【請求項8】
前記ボイドパラメータとして、金属の各結晶粒界上に発生したクリープボイドの粒界占有率のうち最大の値である最大ボイド粒界占有率を用いることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載のクリープ寿命評価方法。
【請求項9】
前記クリープ寿命の評価対象の金属製部材として、ボイラ伝熱管を適用することを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載のクリープ寿命評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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